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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1343781
審判番号 不服2017-6638  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-09 
確定日 2018-09-05 
事件の表示 特願2014-523389「押出成形ハニカム触媒」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 7日国際公開、WO2013/017873、平成26年10月 2日国内公表、特表2014-525833〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年(2012年) 7月31日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年 8月 3日(以下、この最先の優先権主張の日を「優先日」という。) (DE)ドイツ連邦共和国、2012年 2月 8日 (GB)英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)、 2012年 2月 15日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成28年 3月18日付け 拒絶理由の通知
平成28年 9月29日 意見書、手続補正書の提出
平成28年12月26日付け 拒絶査定
平成29年 5月 9日 審判請求書の提出


第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?29に係る発明は、平成28年 9月29日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?29に記載されたとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の通りである。

【請求項1】
第1のSCR触媒活性成分を含むハニカム型で、運転中に排気ガスが流れる複数のチャネルを有する押出成形活性触媒担体と、前記押出成形体に塗布される、第2のSCR触媒活性成分を含むウォッシュコートコーティングとを含む、自動車からの排気ガスにおいて選択触媒還元(SCR)法により窒素酸化物を還元するための押出成形ハニカム触媒であって、前記第1のSCR触媒活性成分および前記第2のSCR触媒活性成分はそれぞれ独立に、
(i)触媒活性成分としてバナジウムを含むバナジウム触媒;
(ii)触媒活性成分として酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化タングステンのうち1種または複数を含む混合型酸化物触媒;並びに
(iii)Fe-またはCu-ゼオライト触媒
からなる群から選択される押出成形ハニカム触媒であって、
前記押出成形活性触媒担体中の前記触媒活性成分の割合が10?60体積%の間の範囲にある、ハニカム触媒。


第3 原査定の理由
平成28年12月26日付けの拒絶査定は、
「この出願については、平成28年 3月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、
平成28年 3月18日付け拒絶理由通知書によれば、理由2は、
「2(進歩性)この出願の請求項1?29に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。

そして、引用文献として、文献1?7が引用されているところ、文献1?3は、下記のとおりである。

文献1:国際公開第2010/099395号
(以下、「引用文献1」という。)
文献2:米国特許出願公開第2010/0077738号明細書
(以下、「引用文献2」という。)
文献3:特表2011-509826号公報
(以下、「引用文献3」という。)

第4 当審の判断
当審は、上記拒絶の理由のとおり、本願発明は、引用文献1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1の記載事項
原査定で引用され本願優先日前に公知となった引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、(「 」)内 は、当審による仮訳である。

1a「[0020] The first and second oxides and zeolite are stable at automobile exhaust temperatures, exhibit selective catalytic reduction ("SCR"), and can be used with urea injection. ・・・ Adsorbed NH_(3) on the surface interacts with adjacent adsorbed NO_(X) . The NO_(X) is accordingly reduced to nitrogen and H_(2)O. The zeolite and the first and second oxides exhibit SCR activity of NO_(X) , however, in different temperature ranges. The zeolite (e.g. H-ZSM-5) converts a substantial percentage of NOx at a higher temperature region (e.g. above 400℃, or 500℃, or even 600 ℃) while the first and second oxides convert a substantial percentage of NO_(X) at a lower temperature region (e.g. below 350 ℃, or 300℃, or even 250℃). ・・・」
(「[0020] 第1及び第2の酸化物並びにゼオライトは、自動車の排ガス温度で安定であり、選択触媒還元(”SCR”)を示し、尿素噴霧に使用することができる。 ・・・表面上に吸着されたNH_(3)は、隣接する吸着されたNO_(X)と相互作用する。それによってNO_(X)は窒素とH_(2)Oに還元される。ゼオライト並びに第1及び第2酸化物は、異なる温度範囲において、NO_(X)のSCR活性を示す。ゼオライト(例えば、H-ZSM-5)は、高温領域(例えば400℃より上で、500℃より上で、又は600℃で)において 実質的なNO_(X)の割合を変換する一方、第1及び2の酸化物は、より低い温度領域(例えば350℃より下で、300℃より下で、又は250℃で) において実質的なNO_(X)の割合を変換する。 ・・・ 」)

1b「[0025] In some embodiments, at least part of the catalyst is in the form of a honeycomb body comprising a matrix of walls. 」
(「 [0025] 一部の実施形態において、触媒の少なくとも一部は、壁マトリックスを有するハニカム体の形態である。」 )

1c「[0030] In some embodiments, the walls of the body are substantially comprised of the zeolite. In some of these embodiments, the walls of the core are coated with a layer of a mixture of a cerium oxide, a zirconium oxide, and a tungsten oxide.」
(「[0030] 一部の実施形態において、基材の壁は、実質的にゼオライトで構成される。これらの実施形態では、コアの壁は、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化タングステンの混合物の層で被覆される。」 )

1d「[0047] The catalyst bodies are produced by mixing batch materials, blending the mixture, forming a green body, and subsequently sintering or firing the green body to a hard porous structure. A batch mixture suitable for extrusion can be prepared by mixing the components described above with a suitable liquid vehicle.・・・ Various lubricants, binders, surfactants, and viscosity modifiers can be added to the batch during the mixing step to provide viscosity control, plasticity, and strength prior to firing, to the fired structure.
[0048] The binder component holds the body together to achieve strong mechanical structure for the body. Suitable binder materials include silica or silica forming materials. ・・・ In some embodiments, the binder is incorporated in the batch mixtures such that the fired ceramic contains silica binder in an amount ranging from about 5% to about 30% by weight, preferably 15%-30%, and more preferably about 20%. The amounts of the binders are based on the expected weight after heat-treatment which will be the weight of the binder in the product body. ・・・ 」
(「[0047] 触媒基材は、バッチ材料を混合し、混合物をブレンドし、未焼成体を形成し、続いて、未焼成体を堅い多孔質構造体に焼結または焼成することで製造される。押出成形に適したバッチ混合物は、上記の成分を適切な液体媒体と混合するにより調製することができる。・・・ 焼成体のために、粘度、可塑性、及び焼成前の強度を調整するために、種々の潤滑剤、結合剤、界面活性剤、粘度調整剤を、混合工程中にバッチに添加することができる。
[0048] バインダー成分は、基材の強い機械的構造を達成するために基材を結合する。好適なバインダー材料としては、シリカまたはシリカ形成材料が挙げられる。 ・・・ 一部の実施形態では、焼成したセラミックがシリカバインダーを約5重量%?約30重量%、好ましくは15重量%?30重量%、より好ましくは約20重量%の範囲の量となるように、バインダーをバッチ混合物に添加する。バインダーの量は、製造した基材中のバインダーの重量であって、熱処理後の予測される重量に基づく。 ・・・ 」)

1e「14. A catalytic structure comprising a first oxide selected from the group consisting of tungsten oxides, vanadium oxides, and combinations thereof, a second oxide selected from the group consisting of cerium oxides, lanthanum oxides, zirconium oxides, and combinations thereof, and a zeolite.
・・・
16. The catalytic structure of Claim 14 wherein the structure comprises a body having a plurality of walls defining a plurality of parallel channels
・・・
21. The catalytic structure of Claim 16 wherein the walls of the body are substantially comprised of the zeolite.
22. The catalytic structure of Claim 21 wherein the walls of the core are coated with a layer of a mixture of a cerium oxide, a zirconium oxide, and a tungsten oxide.
・・・
39. The use of the catalytic structure of claim 14 comprising contacting an exhaust stream containing NO_(X) gas.
・・・
42. The use of claim 39 wherein the exhaust stream comprises a reductant and the reductant is catalytically activated by contact with the structure. 」(特許請求の範囲)
(「【請求項14】酸化タングステン、酸化バナジウム、及びこれらの組合せからなる群から選択される第1の酸化物、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ジルコニウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される第2の酸化物、並びにゼオライトを含む、触媒構造体。
・・・
【請求項16】複数の平行なチャネルを画成する複数の壁を備えた基材を含む、請求項14に記載の触媒構造体。
・・・
【請求項21】基材の壁は、実質的にゼオライトで構成されている、請求項16に記載の触媒構造体。
【請求項22】コアの壁は、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化タングステンの混合物の層で被覆されている、請求項21に記載の触媒構造体。
・・・
【請求項39】NO_(X)ガスを含む排気流を接触させることを含む、請求項14に記載の触媒構造体の使用。
・・・
【請求項42】排気流が還元剤を含み、還元剤は、構造体との接触により触媒的に活性化される、請求項39に記載の使用。」)

(2)引用文献2の記載事項
原査定で引用され本願優先日前に公知となった引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、(「 」)内 は、当審による仮訳である。

2a「[0029] FIG. 5 shows a cross-sectional diagram of another embodiment 500 of a NO_(X) reducing system including a first layer with a first pore size and a second layer with a second pore size. The embodiment 500 further comprises a substrate support 502 including at least one base metal zeolite within the support. Specifically, embodiment 500 has a substrate support 502 that is first coated with a base metal zeolite catalyst to form an inner layer 504, and then coated with the micro-porous advanced zeolite to form an outer layer 506. However, substrate support 502 herein may be of a high porosity variety, such as high porosity metallic foils, cordierite, or silicon carbide. The high porosity substrate support may have a porosity of 30 to 95%. Use of such a high porosity substrate support may enable an additional active base metal zeolite catalyst to be incorporated within the substrate support. As one example, outer layer 506 may be coated with the smaller pore zeolite, inner layer 504 may be coated with an Fe-based zeolite catalyst designed to work optimally at higher temperatures, and high porosity substrate support layer 502 may include a Cu-based zeolite catalyst designed to work optimally at low temperatures. In this example, use of base metal zeolite catalysts of differing optimal operating temperature ranges allows the temperature range of the NO_(X) reducing system to be broadened, while use of the advanced HC tolerant zeolite protects the catalysts from the deleterious effects of HC storage. In another example, the Fe-based catalyst may be included in both the inner layer 504 and the high porosity substrate support 502. It will be appreciated that the high porosity substrate support 502 may be extruded. Further, the extruded support may be catalytically active or non-active for the desired SCR chemical reaction.」
( 「[0029] 図5は、第1の孔径を有する第1層と、第2の孔径を有する第2層とを含むNO_(X)還元システムにおける他の実施形態500の断面図を示している。さらに、実施の形態500は、支持体内に少なくとも1つの卑金属ゼオライトを含む支持基材502を備えている。具体的には、実施の形態500では、第1の内層504を形成する卑金属ゼオライト触媒を塗布した後、外層506を形成する、ミクロ細孔を有する高度ゼオライトを塗布した支持基材502を備えている。しかし、支持基材502は、本明細書では、多孔質金属箔、コージェライト、炭化ケイ素などの、様々の多孔質のものであってもよい。多孔質の支持体は、30?95%の気孔率を有してもよい。多孔度の大きい支持基材を使用することにより、追加の活性卑金属ゼオライト触媒は、支持基材中に含有させることができる。1つの例として、外層506は、小細孔のゼオライトを被覆し、内層504は、より高い温度で最適に動作するFeゼオライト触媒を塗布したものでもよく、多孔質の支持基材502は、低温で最適に動作するように設計したCuゼオライト触媒を含んでもよい。本実施例では、最適動作温度範囲が異なる卑金属ゼオライト触媒を用いることにより、NO_(X)還元システムの温度範囲を広げることができる一方で、高度HC耐久ゼオライトを使用することにより、HC吸蔵による有害な影響から触媒を保護する。別の例では、Fe系触媒は、内層504及び多孔質の支持基材502の両方に含まれてもよい。多孔質の支持基材502は、押出し成形されてもよいことが理解できる。さらに、押出された支持体は、所望のSCR反応としての触媒活性があってもよく、又は不活性であってもよい。」 )

2b「1. A system for a vehicle including an engine having an exhaust, the system comprising: a NO_(X ) reducing system coupled to the engine exhaust including a base metal zeolite, said NO_(X) reducing system including a first layer with a first pore size and a second layer with a second pore size, the first pore size being smaller than the second pore size.
2. The system of claim 1 wherein the first and second layers are supported by a substrate support.
・・・
4. The system of claim 2 wherein the second layer is coated on the substrate support to form an inner layer and the first layer is coated on the second layer to form an outer layer.
5. The system of claim 4 wherein the first layer includes a zeolite with pores at or less than about 5 Angstroms and the second layer includes the base metal zeolite.
6. The system of claim 5 wherein the base metal zeolite is a copper-based zeolite catalyst.
7. The system of claim 5 wherein the base metal zeolite is an iron-based zeolite catalyst.
8. The system of claim 5 wherein the substrate support has a high porosity of 30 to 95%.
9. The system of claim 8 wherein the substrate support includes at least one base metal zeolite within the support. 」(特許請求の範囲)
( 「【請求項1】エンジン排気を有する車両のためのシステムであって、
システムは、卑金属ゼオライトを含むエンジン排気を有するNO_(X)還元システムであり、前記NO_(X)還元システムは、第1の孔径を有する第1層と第2の孔径を有する第2層を含み、第1の孔径は第2の孔径より小さい。
【請求項2】第1層と第2層は、支持基材に担持されている、請求項1に記載のシステム。
・・・
【請求項4】第2層は、支持基材上に被覆されて内層を形成し、第1層は、第2層上に塗布されて外層を形成する、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】第1層は、約5Å以下の細孔を有するゼオライトを含み、第2層は、卑金属ゼオライトを含んでいる、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】卑金属ゼオライトは、銅ゼオライト触媒である、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】卑金属ゼオライトは、鉄ゼオライト触媒である、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】支持基材は、空孔率30?95%である、請求項5に記載のシステム。
【請求項9】支持基材は、支持体内に少なくとも1つの卑金属ゼオライトを含んでいる、請求項8記載のシステム。」 )

2c「

」 ( 図5 )

(3)引用文献3の記載事項
原査定で引用され本願優先日前に公知となった引用文献3には、以下の事項が記載されている。
3a「【請求項1】
少なくとも40%の多孔率を有してなり、
押出しタイプの選択式触媒還元(SCR)触媒から形成されてなる、ウォールフローフィルターモノリス基材。
【請求項2】
押出し組成物における活性SCR物質が、少なくとも一つの遷移金属を含んでなるゼオライトを備えてなる、請求項1に記載されたフィルターモノリス基材。
・・・
【請求項5】
前記少なくとも一つの遷移金属が、Cu、Fe、Hf、La、Au、In、V、ランタニド元素、及び、VIII群の遷移金属から成る群から選択されてなる、請求項2?4の何れか一項に記載されたフィルターモノリス基材。」

3b「【0009】
SCR触媒は、基材モノリスの上にウォッシュコートされた触媒組成物又は押し出しにおける成分として使用可能である。後者の選択に関して、EP0219854は、アナターゼ(5重量%?40重量%)、ゼオライト(50%?90%)、結合材(0%?30%)、及び、任意に、少なくとも0.1重量%の量でヴァナディウム、モリブデン、又は、銅の酸化物の助触媒の混合物から形成された複合体・・・において、アンモニアの存在下で、窒素酸化物を窒素へ選択的に還元するための触媒を開示している。 ・・・ 」

3c「【0026】
他の実施態様において、押出しSCR触媒が形成される押出し組成物の活性SCR物質は、少なくとも一つの遷移金属を含有するゼオライトを含んでなる。・・・ ゼオライト・・・における少なくとも一つの遷移金属は、Cu、Fe、Hf、La、Au、In、V、ランタニド、及び、VIII群からなる群から選択される。
【0027】
好ましい実施態様において、遷移金属はセリウム、鉄、銅、又はこれらの組合せである。」

2 引用文献1及び2に記載された発明
(1) 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、記載事項1aによると、第1及び第2の酸化物並びにゼオライト(例えば、H-ZSM-5)からなる、自動車の排気ガスに含まれる窒素酸化物を還元処理するための選択接触還元(SCR)触媒に関して記載されていると認められる。
記載事項1bによると、触媒の一部(ゼオライト)はハニカム体の形態にされ、記載事項1c及び記載事項1eの請求項21、22によると、ハニカム体はゼオライトを含み、コアの壁は、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化タングステンの混合物の層で被覆される。
ここで、前記ゼオライトはSCRゼオライト触媒であり、また、前記混合物は、SCR酸化物触媒であるといえる。
記載事項1dによると、ハニカム体からなる触媒基材は、触媒とバインダーを含み、押出成形により製造され、また、記載事項1eの請求項16によると、ハニカム体は、複数のチャネルを有する基材を含む。

これらのことを踏まえ、記載事項1a?1eを参照して、本願発明の記載ぶりに即して整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「ゼオライト触媒を含むハニカム体であって、複数のチャネルを有する押出成形基材と、前記押出成形基材に被覆されるSCR酸化物触媒の層とを含む、自動車の排気ガスを選択接触還元(SCR)法により窒素酸化物を還元するための押出成形ハニカム触媒であって、
前記SCR酸化物触媒の層は、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化タングステンの混合物からなる、
ハニカム触媒。」

(2) 引用文献2に記載された発明
引用文献2には、記載事項2a、2bによると、鉄ゼオライト触媒と、銅ゼオライト触媒を含む自動車排ガス用のSCR触媒について記載されていると認められる。
記載事項2aによれば、基材上の内層として鉄ゼオライト触媒が塗布され、基材は銅ゼオライト触媒を含み、また、押出成形により作成される。
そして、記載事項2a?2cによれば、基材として、ハニカム基材が含まれているといえる。

これらのことを踏まえ、記載事項2a?2cを参照して、本願発明の記載ぶりに即して整理すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる

「銅ゼオライト触媒を含むハニカム基材である押出成形体と、前記押出成形体に塗布される、鉄ゼオライト触媒の層とを含み、自動車の排気ガスにおいてSCR法により窒素酸化物を還元するための押出成形ハニカム触媒である、ハニカム触媒。」

3 対比・判断
(1)本願発明と引用発明1との対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ハニカム体」は、本願発明の「ハニカム型」に相当し、引用発明1の「押出成形基材」は、本願発明の「押出成形活性触媒担体」及び「押出成形体」に相当する。
引用発明1の押出成形基材の複数のチャネルは、自動車の運転中に排気ガスが流れるところであることは明らかである。
引用発明1のゼオライト触媒は、ハニカム体に含まれるから、本願発明の第1のSCR触媒活性成分に相当する。
また、基材に酸化物層を被覆する際、通常はウォッシュコートにより行われるから、引用発明1の「押出成形基材に被覆されるSCR酸化物触媒の層」は、本願発明の「押出成形体に塗布される、第2のSCR触媒活性成分を含むウォッシュコートコーティング」に相当するといえる。
そうすると、引用発明1は、第1のSCR触媒活性成分として、ゼオライト触媒を、第2のSCR触媒活性成分として、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化タングステンからなる混合酸化物触媒を、それぞれ独立に選択しているといえる。

以上のことから、本願発明と引用発明1とは、
「第1のSCR触媒活性成分を含むハニカム型で、運転中に排気ガスが流れる複数のチャネルを有する押出成形活性触媒担体と、前記押出成形体に塗布される、第2のSCR触媒活性成分を含むウォッシュコートコーティングとを含む、自動車からの排気ガスにおいて選択触媒還元(SCR)法により窒素酸化物を還元するための押出成形ハニカム触媒であって、前記第1のSCR触媒活性成分および前記第2のSCR触媒活性成分はそれぞれ独立に、
(i)触媒活性成分としてバナジウムを含むバナジウム触媒;
(ii)触媒活性成分として酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化タングステンのうち1種または複数を含む混合型酸化物触媒;並びに
(iii)ゼオライト触媒
からなる群から選択される押出成形ハニカム触媒である、ハニカム触媒。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1
本願発明は、第1のSCR触媒活性成分は、「Fe-またはCu-ゼオライト触媒」であるのに対して、引用発明1は、ゼオライト触媒にFe又はCuを含むものではない点。

・相違点2
本願発明は、第1のSCR触媒活性成分を含むハニカム型について、前記触媒活性成分の割合が10?60体積%の間の範囲にあるのに対して、引用発明1は、ハニカム体に占める触媒活性成分の割合が明らかでない点。

イ 判断
上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
SCR触媒(NO_(X)還元触媒)として、Fe又はCuを含むゼオライト触媒は、周知のものである(例えば、引用文献3の記載事項3a、3c 参照)。
ここで、記載事項1aによれば、引用発明1のゼオライト触媒は高温領域でのSCR活性が要求されるものであるところ、引用文献2の記載事項2aにあるように、周知のSCR触媒であるFeを含むゼオライトにも、高温活性があることは周知である。
そうすると、引用発明1において、第1の触媒活性成分のSCRゼオライト触媒として、Feを含むゼオライト触媒を用いることは、当業者であれば容易になし得るものである。

(イ)相違点2について
例えば、本願明細書には、本願の実施例1A(【0032】)は、「固体触媒体の活性材料が70.32重量%のゼオライト、鉄および鉄化合物と;2.76重量%のカオリンと;15.94重量%のγ-Al_(2)O_(3)と;4.84重量%のガラス繊維とを含有する」こと、及び同じく実施例1C(【0034】)は、「最終固体触媒体の活性材料が75重量%の鉄および鉄化合物含有ゼオライトと;11.8重量%のγ-Al_(2)O_(3)と;8重量%のガラス繊維とを含有する」ことが記載されている。
そうすると、本願発明の第1のSCR触媒活性成分が「押出成形活性触媒担体中の前記触媒活性成分の割合が10?60体積%の間の範囲にある」とは、上記実施例1A及び1Cの記載からみてハニカム担体中にゼオライト成分を70?75重量%程度、及び他の成分(バインダー、充填剤等)を25?30重量%含有することを意味すると認められる。
一方、記載事項1dによると、引用文献1には、焼成した基材は、シリカ結合剤を5?30重量%の範囲で含んで良いことが記載されているから、引用発明1のハニカム体は、ゼオライト触媒を70重量%?95重量%の範囲で含み、これは、本願発明の触媒活性成分の重量%と重なるものであり、また、本願発明の触媒活性成分の体積分率は、10?60体積%で広範であることからして、引用文献1におけるゼオライト触媒(触媒活性成分)の体積%も前記範囲レベルのものであるとみるのが妥当である。
よって、引用発明1のハニカム体において「第1の触媒活性成分」であるゼオライト触媒を「10?60体積%の間の範囲」に設定することは、当業者であれば適宜決定する設計事項にすぎない。
また、そうでないとしても、すなわち、上記本願明細書に記載の実施例、及び引用文献1に記載された「ハニカム担体中にゼオライト成分を70?75重量%程度、及び他の成分(バインダー、充填剤等)を25?30重量%含有すること」が、「押出成形活性触媒担体中の前記触媒活性成分の割合が10?60体積%の間の範囲にある」ものに対応していないものであるとしても、ハニカム体の触媒成分の含有量は、所望のSCR触媒活性、ハニカム体の強度、及び基材の成形性等などの諸条件を検討してハニカム体に含まれる触媒量及びバインダー等の量を設定することは技術常識であり、また、「10?60体積%の範囲」に臨界的意義もないから、引用発明1において、押出成形基材中の「触媒活性成分の割合が10?60体積%の間の範囲」に設定することは何ら困難性は見出せず、当業者であれば適宜決定する設計事項にすぎない。

ウ 小括
したがって、本願発明は、引用発明1、引用文献1?3の記載事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明と引用発明2との対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明2とを対比する。
自動車の排気ガスについて、SCR法により窒素酸化物を還元するための引用発明2の「押出成形体」は、ハニカム支持基材であるから、排気ガスの流れる複数のチャネルを有するといえる。
引用発明2の銅ゼオライト触媒は、ハニカム支持基材に含まれるから、本願発明の第1のSCR触媒活性成分に相当する。
また、支持基材にゼオライト層を被覆する際、通常はウォッシュコートにより行われることから、引用発明2の「押出成形体に塗布される、鉄ゼオライト触媒の層」は、「押出成形体に塗布される、第2のSCR触媒活性成分を含むウォッシュコートコーティング」に相当するといえる。
そうすると、引用発明2は、第1のSCR触媒活性成分として、銅ゼオライト触媒を、第2のSCR触媒活性成分として、鉄ゼオライト触媒を、それぞれ独立に選択しているといえる。

以上のことから、本願発明と引用発明2とは、
「第1のSCR触媒活性成分を含むハニカムで、運転中に排気ガスが流れる複数のチャネルを有する押出成形活性触媒担体と、前記押出成形体に塗布される、第2のSCR触媒活性成分を含むウォッシュコートコーティングとを含む、自動車からの排気ガスにおいて選択触媒還元(SCR)法により窒素酸化物を還元するための押出成形ハニカム触媒であって、前記第1のSCR触媒活性成分および前記第2のSCR触媒活性成分はそれぞれ独立に、
(i)触媒活性成分としてバナジウムを含むバナジウム触媒;
(ii)触媒活性成分として酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化タングステンのうち1種または複数を含む混合型酸化物触媒;並びに
(iii)Fe-またはCu-ゼオライト触媒
からなる群から選択される押出成形ハニカム触媒である、ハニカム触媒。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明は、押出成形活性触媒担体中の触媒活性成分の割合が10?60体積%の間の範囲にあるのに対して、引用発明2は、押出成形基材に含まれる触媒活性成分の割合が明らかでない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
引用文献2には、押出成形体中にバインダー等を含むことについて記載されていないが、引用文献1の記載事項1d、引用文献3の記載事項3bなどによれば、ゼオライト触媒を含む押出成形体に、必要に応じて30重量%程度までのバインダーを含ませることは周知慣用の技術である。
また、上記「(1)イ(イ)」で検討したとおり、押出成形体の触媒活性、強度等を考慮してバインダー等の含有量を設定することも周知慣用の技術である。
そうすると、上記「(1)イ(イ)」の検討と同様な理由により、引用発明2において、押出成形基材中の「触媒活性成分の割合が10?60体積%の間の範囲」に設定することに何ら困難性は見出せず、当業者であれば適宜決定する設計事項にすぎない。

ウ 小括
したがって、本願発明は、引用発明2、引用文献1?3の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、引用文献の記載に基づき、本願発明の第1のSCR触媒活性成分及び第2のSCR触媒活性成分の選択を容易にすることはできなかったと主張するが、上記(1)及び(2)に記載のとおりであるから、この主張は採用できない。
また、本願明細書の実施例において、第1のSCR触媒活性成分と第2のSCR触媒活性成分を組み合わせることでウォッシュコートを減少しても、SCR触媒として十分なNOx変換性能を示しているから、このような効果は引用文献から予測できないとも主張している。
しかし、本願発明の特徴であるウォッシュコートとハニカム型に含まれるSCR触媒活性成分を独立に選択するという触媒構造は、引用文献1及び2に開示されているものであるから、本願発明が、引用発明1及び2に比較して有意な効果を奏するとはいえない。また、本願明細書に記載の実施例触媒は、不活性ハニカム基材にSCR触媒をウォッシュコートしたハニカム触媒、及び、ウォッシュコートのないSCR触媒を含むハニカム基材からなるハニカム触媒と比較としたものであるから、本願発明の実施例触媒が、ウォッシュコートとハニカム基材のそれぞれにSCR触媒を含むものであり、ウォッシュコートの触媒量を減らしても、ウォッシュコートのSCR触媒の減少による触媒活性を、ハニカム基材中のSCR触媒に代替させ、ハニカム触媒全体として、比較例の触媒よりも触媒活性を向上させることが可能であることは明らかであるから、本願発明が引用発明1及び2から予期し得ない効果を奏するともいえず、この点でも請求人の主張は採用できない。


第5 結び
以上のとおりであるから、本願発明は、本願の優先日前に公知となった引用文献1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明についてさらに検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-27 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-16 
出願番号 特願2014-523389(P2014-523389)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増山 淳子  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 後藤 政博
山本 雄一
発明の名称 押出成形ハニカム触媒  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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