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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B64D
管理番号 1343788
審判番号 不服2017-7942  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-02 
確定日 2018-09-05 
事件の表示 特願2014-205427号「補助パワーユニットの障害を予測する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年6月11日出願公開、特開2015-107791号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月6日(パリ条約による優先権主張 2013年10月7日 (GB)英国)の出願であって、平成27年8月31日付けで拒絶理由が通知され、同年12月2日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月1日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年1月31日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して、同年6月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?13に係る発明は、平成28年9月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「補助パワーユニット、前記補助パワーユニット、そのコンポーネント、およびそれに関連するシステムに関連する複数のセンサを有する航空機内で補助パワーユニット障害を予測する方法であって、
飛行前または飛行後の間に、前記複数のセンサの少なくとも1つのセンサから、センサ出力を規定するセンサ信号を受信すること、
コントローラによって、前記センサ出力を、前記センサ出力用の基準値と比較すること、
コントローラによって、前記比較に基づいて前記補助パワーユニットの障害の内容を予測すること、および、
コントローラによって、前記予測された障害の指示を提供すること
を含み、
前記比較することは、さらに前記センサ出力から、前記補助パワーユニットが始動するのにかかった時間を決定し、前記決定された時間を前記基準値と比較すること、を含み、
前記障害の内容は、温度センサの障害、弁障害、負荷圧縮機障害、入口温度障害、スタータモータ障害および発電機障害のうちの少なくとも1つを含む、
方法。」

第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?5に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基いて、また、この出願の請求項6?13に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2013-19413号公報
引用文献2:米国特許出願公開第2007/0260374号明細書
引用文献3:特表2009-541756号公報

第4 引用文献
1 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され本願の優先日前に頒布された、上記引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(1a)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の設備稼働状態の検出の方法に関し、特に、空中補助動力装置の性能検出方法に関する。」
(1b)
「【背景技術】
【0002】
空中補助動力装置(Airborne Auxiliary Power Unit)とは、補助動力装置APUと簡単に呼ばれているが、機体後部に取り付けられる小型タービンエンジンのことである。APUの主要な機能は、電源および空気を供給することであり、また、一部のAPUは、航空機に付加的な推力を与えることも可能である。具体的には、航空機は、地上で離陸する前に、APUより電力供給されて主エンジンを駆動することにより、地上の電力、空気供給車に頼ることなく、航空機を発動する。地上では、APUはさらに、電力および圧縮空気を提供して、客室およびコックピット内の照明、空調を保証している。航空機が離陸する際には、APUがバックアップ電源として使用可能である。航空機着陸後も、APUにより照明、空調に電力が供給される。」
(1c)
「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
APUの機能によって、その稼働の安定性が決まるが、これは、航空機の運航コストおよびサービスの質に直接関係するものである。さらに、地上電源および空気供給源が確保できない場合、APUに故障が生じると、航空機の運航不能に直結してしまう。現在、APUの故障の排除およびメンテナンスは、ほとんど事後処理である。しかしながら、航空機設備において、APUは、メンテナンス費用が高い設備である。また、APU全体の部材の価格が高く、予備の部材を保持するコストも高く、故障後の修理に、4?5ヶ月を要する。事後処理のメンテナンス方式では、APUの安定的な稼働は保証できない。さらに、APUを修理に出した後時間がかかることから、航空機の遅延ひいては欠航に直結する。
【課題を解決するための手段】
・・・
【0005】
本発明の別の面によれば、APU稼働排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度からなる群より選ばれたAPU稼働パラメータを取得するステップと、前記パラメータに顕著な変化が生じたか否かを判断するステップと、前記パラメータに顕著な変化が生じたか否かに基づき、前記APUの性能を確定するステップとを含むAPUの性能検出方法を提供する。」
(1d)
「【0009】
図1は、本発明の一実施形態による航空機APUの構造模式図である。図に示すとおり、APU100は、発電機102と、ギヤボックス104と、空気圧縮機部106と、高温端部108とを備える。空気圧縮機部106は、高圧気体を発生させ、抽気を外部に提供する前端軸流遠心空気圧縮機105を備える。高温端部108は、後端軸流遠心空気圧縮機107を備える。後端軸流遠心空気圧縮機107は、高温端部108の燃焼室120に高圧気体を供給し、燃焼室120の燃焼で使用させる。APUの燃料システム(図示せず)は、燃焼室120にガソリン燃料を供給する。燃焼室120は、燃焼ガソリン燃料が高温高圧気体を発生することで、高温端部108のタービン140に仕事をし、タービン140を回転させる。タービン140は、軸103によって、前端軸流遠心空気圧縮機105に高圧気体を発生させ、同時にギヤボックス104を介して伝動し、発電機102を動かす。発電機102は、発電して外部に電力を供給する。
・・・
【0011】
抽気負荷の電力需要が大きいほど、前端軸流遠心空気圧縮機105が回転をする際の抵抗が大きくなる。一定の回転数を維持するためには、高温端部108がより大きいトルクを供給する必要がある。APUのガソリン燃料制御システムは、より多くのガソリン燃料を燃焼室120に輸送して燃焼させることにより、タービン140により多くの内部エネルギーを供給して、前端部分を定速で回転させるようにする。APUはさらに、APU排出気体の排気温度(Exhaust Gas Temperature,EGT)を測定する温度測定センサと、入口ガイド羽根(Inlet Guide Vane,IGV)アセンブリとを備える。
【0012】
図2は、本発明の一実施形態による入口ガイド羽根アセンブリの構造模式図である。図に示すように、入口ガイド羽根アセンブリ200は、基本的に円盤形である。円盤底部寄りの側面には、複数の入口ガイド羽根(IGV)が設置されている。複数の入口ガイド羽根は、制御されて、異なる角度に開く。入口ガイド羽根の角度の範囲は、15度から115度である。入口ガイド羽根は、完全に閉じることがなく、羽根は、15度の位置において前端軸流遠心空気圧縮機105を冷却する。
【0013】
図3は、本発明の一実施形態の入口ガイド羽根制御構造の模式図である。図に示すように、入口ガイド羽根制御構造300は、入口ガイド羽根アクチュエータ(Inlet Guide Vane Actuator,IGVA)301と、それに接続されたライン可変作動変圧器(Line Variable Differential Transformer,LVDT)302とを備える。入口ガイド羽根アセンブリ200は、前端軸流遠心空気圧縮機105の入気通路上に取り付けられる。LVDTは、入口ガイド羽根アセンブリ200上のIGVに接続される。航空機の圧縮空気に対する要求に基づき、IGVAは、LVDTによってIGVが適切な角度に開くように制御する。
【0014】
APUのEGT温度測定器は、APUの排気温度EGTを測定する。APU自身の製造材料に制限があることから、EGTには、制限値、すなわちレッドライン値EGTRedLineがある。APU制御システムは、APUが温度逸脱時にバーンアウトしないように、一般的には、実際のEGTがレッドライン値EGTRedLine内になるよう制御する。したがって、温度が、温度逸脱レッドライン値に近づくと、APUの燃料システムは、ガソリン燃料供給を減らして、排気温度を下げる。同時に、ガソリン燃料供給が少なくなるために、今までの大きい負荷を動かそうとすれば、必然的に回転数が減少する。しかしながら、APUは、一定の回転数を維持しなければならないので、前端空気圧縮機の負荷を低下させるために、APUは、IGVAでIGVの角度を調整して、入気口を小さくし、気体が前端空気圧縮機に進入する量を減らして前端空気圧縮機の負担を減らす。これにより、前端空気圧縮機が出力する抽気圧力が小さくなり、流量が小さくなる。
【0015】
図4は、本発明の一実施形態によるAPU性能変化曲線の模式図である。使用時間が長くなるにつれて、全てのAPU性能が次第に劣化し、衰退指数が次第に増加している。APU性能の衰退指数が安定している場合、APU性能は穏定期にある。APUの性能の衰退が次第に加速すると、APUの性能は、衰退期に入る。ある閾値を超えると、APUの性能は故障期に入り、いつでも故障が生じる可能性がある。APUが故障期に入った後は、APUの使用に影響が生じて、サービルの質および運航の安全に悪い結果をもたらす。また、計画外のメンテナンスが容易に発生して、フライトの遅延や欠航を引き起こす。従来技術において、APUの性能が衰退期に入ったか否かを検出できる手段はまだ存在しない。これに対し、本発明の実施形態では、こうした検出が可能である。」
(1e)
「【0022】
ACARSシステムは、ACARS管理ユニット(MU)と呼ばれる航空電子コンピュータおよび制御表示ユニット Control Display Unit (CDU)により構成される。MUは、地上からの超短波無線デジタルメッセージを送受信するためのものである。地上において、ACARSシステムは、無線送受信機構を備える地上ワークステーションにより構成されるネットワークからなり、メッセージ(データリンクメッセージ)を送受信可能である。これら地上ワークステーションは一般に、各サービスプロバイダが所有しており、送受信したメッセージは、ネットワーク上の異なる航空公司のサーバに分配される。本発明の一実施形態によれば、取得したAPUの稼働データを利用してAPUメッセージを生成し、APUメッセージをACARSによって地上のサーバに送信する。」
(1f)
「【0025】
例えば、エアバス社のA13メッセージすなわち(APU MES/IDLE REPORT)、またはボーイング社のAPUメッセージは、このようなAPUメッセージの実例である。
・・・
【0029】
A13メッセージには、APU稼働状況と関連する複数のパラメータが含まれる。エンジン駆動の稼働パラメータには、EGT温度と、IGV開口角度と、空気圧縮機入口圧力と、負荷空気圧縮機入口温度と、抽気流量と、抽気圧力と、潤滑油温度と、APU発電機負荷とが含まれる。APU駆動時のパラメータには、駆動時間と、EGTピークと、EGTピーク時の回転数と、負荷空気圧縮機入口温度とが含まれる。」
(1g)
「【0032】
本発明の一実施形態によれば、ステップ6100で必要な情報は、例えばA13メッセージのAPUメッセージから取得することが可能である。例えば、シータSITAネットワークコントロールセンターおよび中国民航データ通信社ADCCネットワークコントロールセンターから、リモートで、リアルタイムに航空機APU稼働のA13メッセージを取得可能であり、メッセージデコーダにより、この航空機APU稼働状態A13メッセージを復号し、航空機APU稼働情報を取得、保持する。
【0033】
航空機データシステムにおいて、APU稼働状態メッセージを自動生成しない場合、対応するセンサおよびトリガー条件を増やして、必要なAPUメッセージを生成する。航空機データシステムにおいてすでに存在するAPUメッセージが、排気温度EGT、空気圧縮機入口温度LCIT、駆動時間STA、使用時間TSRおよび抽気圧力PTのうちの1つまたは複数を完全には含まないのであれば、APUメッセージの生成条件を校正して、足りない1つまたは複数の測定パラメータを増やすようにする。APUメッセージは、ACARSまたはATNシステムによりリアルタイムに航空会社のデータサーバに伝送可能であるため、APU性能のリアルタイム監視が実現可能となる。当然のことながら、メッセージ伝送の方法は、手動方式による高コストや人為的なミスを避けることが可能である。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、ステップ6100で必要な情報は、航空機データシステムから直接取得することができ、APUメッセージの生成は不要である。」
(1h)
「【0044】
SITAネットワークコントロールセンター、またはADCCネットワークコントロールセンターより、リモートでリアルタイムに航空機APUメッセージを取得し、ACARSメッセージデコーダで前記航空機APUメッセージを復号し、航空機APU稼働情報を取得、保持する。航空機APU稼働情報には、排気温度EGTが544、空気圧縮機入口温度LCITが31、駆動時間STAが48、機上時間TSRが2642、抽気圧力PTが3.76であることが含まれる。
・・・
【0046】
従来技術と比べ、本発明の上述の実施形態は、リアルタイムにAPUの排気温度EGTと、空気圧縮機入口温度LCITと、駆動時間STAと、機上時間TSRと、抽気圧力PTとを取得し、式(1)に基づき、PDI値を算出して取得し、PDI値と所定値との比較に基づき、正確にAPU性能を検出する。また、リモートでリアルタイムに航空機APU稼働状態ACARSメッセージを取得することで、手動で取得する作業上の負担を減らすとともに、作業効率を高める。」
(1i)
「【0055】
図7は、本発明の別の一実施形態のAPU性能の検出方法のフローチャートである。図に示すように、当該APU性能の検出方法700においては、ステップ710で航空機APU稼働排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数を取得する。図6の実施形態において記載されたAPU性能パラメータの取得方法を本実施形態に応用可能である。
【0056】
APU稼働の原理に基づき、APU性能を反映する一つの重要なパラメータはEGTすなわちAPU排気温度である。APUが一定の回転数で稼働する場合、EGTは、APU全体の熱エネルギー変換効率を直接反映するからである。APUの熱エネルギー変換効率が低いほど、EGTの値は高くなる。APUの制御システムは、ガソリン燃料流量バルブおよびIGV入口角度の大きさを操作して、温度逸脱が起きないようにするが、APUが温度逸脱状態に近づき温度逸脱を防止する必要がある場合、APUパラメータにおいてPTおよびIGV角度がこの変化を反映する。STAは、APUの全体性能を反映するパラメータであり、モーター駆動の性能、ギヤボックス性能、ならびに空気圧縮機ユニットおよび動力ユニット(すなわち一つの空気圧縮機および二段タービン)の効率が含まれる。これら四つの鍵となるパラメータ、EGT、IGV、STAおよびPTをモニタリングすることにより、APUの現在の性能およびその変化の傾向を反映することが可能である。さらに、パラメータを個別に検出することも、APUの故障原因の判定および隠れた故障の発見の一助となる。
【0057】
ステップ720において、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数に顕著な変化が生じたかどうかを確定する。排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つのパラメータに顕著な変化が生じた場合、当該パラメータが悪化していると判断する。」
(1j)
「【0059】
使用時間が長くなるにつれて、APU性能も次第に劣化する。APU性能パラメータのこれらの属性は、以下の式により反映される。
【数11】
X=β0+β1t_(0)
ここで、Xは排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちのいずれか一つのパラメータ、t_(0)はAPUの取り付け時間、β_(0)およびβ_(1)はフィットパラメータである。ここで、β1は傾斜項であり、パラメータの変化傾向を反映する。
【0060】
本発明の一実施形態によれば、一定時間内に取得したEGT、STA、PTおよびIGVのうちの一つの、複数の値をフィットして、傾斜項β1を得る。β1と基準である傾斜項とを比較し、傾斜項が明らかに異なる場合は、EGT、STA、PTおよびIGVのうちの当該一つに顕著な変化が生じたと判断する。基準となる傾斜項は動作状態が良好であるAPUのデータを用いて算出し、同一APUが最初に取り付けられた後のデータでもよいし、同一型番のほかの、動作状態が良好なAPUのデータであってもよい。
【0061】
本発明の一実施形態によれば、APU搭載機およびAPUのパラメータを初期化し、初期の複数の記録のパラメータを平均化して、各パラメータの初期値を得てそれぞれの基凖値とする。複数の記録の数量は一般に、10個以上の記録である。
【0062】
後続のパラメータおよび基凖値を比較して、自身の変化値を得る。これら変化値も式(8)に適合する。これらの傾斜項も同様に、APUパラメータの変化の傾向を反映可能である。したがって、本実施形態では、EGT、STA、PTおよびIGVのうちの一つの、基凖値に対する変化値の傾斜項と、基準となる変化値の傾斜項とを比較し、傾斜項が明らかに異なれば、EGT、STA、PTおよびIGVのうちの当該一つに顕著な変化が生じたと判断する。当該パラメータは悪化したことになる。」
(1k)
「【0065】
ステップ730において、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数のパラメータに顕著な変化が生じたか否かを総合的に考慮し、APUの性能が劣化したか否かを確定する。
【0066】
本発明の一実施形態によれば、EGT、PT,STAおよびIGVのうちの何れか1つが悪化した場合、APUの性能が劣化し、衰退期に入ったと判断する。本発明の別の一実施形態によれば,STAが悪化すれば、APUの性能が劣化し、衰退期に入ったと判断する。本発明の別の一実施形態によれば,EGT、PT、STAおよびIGVのうちの何れか二つが悪化した場合、APUの性能が劣化し衰退期に入ったと判断する。本発明の別の一実施形態によれば、EGTおよびPTの2つが悪化した場合、APUの性能が劣化し、衰退期に入ったと判断する。
【0067】
図6および図7の実施形態を同時に使用してより正確にAPUの性能を検出することが可能である。」
(1l)
「【0076】
従来技術と比べ、本発明の実施形態による方法は、リアルタイムにAPUの排気温度EGT、空気圧縮機入口温度LCIT、始動時間STA、機上時間TSR、抽気圧力PTおよび入口ガイド羽根IGVの角度等パラメータを取得し、これらパラメータに対する処理により、APUの性能検出を行い、かつAPUの性能がすでに衰退期に入ったか否かを判断可能であり、エンジニアによるAPUのメンテナンスを効果的にサポートすることによりAPUの使用を保証し、APUによる航空機遅延、欠航を防止する。同時に、APU性能に対する評価により、焦点を絞ったメンテナンスや稼働制御を実施することができ、メンテナンスコストを大幅に引き下げる。」

2 引用文献1に記載された発明
(1)
図7に係る実施形態に関しては、「図6の実施形態において記載されたAPU性能パラメータの取得方法を本実施形態に応用可能である」(摘記(1i)段落【0055】)との記載から、その具体的な取得方法(摘記(1g)段落【0032】及び【0033】、摘記(1h)段落【0044】及び【00046】)を、図7に係る実施形態において採用することができるものと認められる。
(2)
上記(1)、摘記(1a)?(1l)及び図1?7を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「航空機APU100は、発電機102と、ギヤボックス104と、空気圧縮機部106と、高温端部108とを備え、
空気圧縮機部106は、高圧気体を発生させ、抽気を外部に提供する前端軸流遠心空気圧縮機105を備え、
高温端部108は、後端軸流遠心空気圧縮機107を備え、後端軸流遠心空気圧縮機107は、高温端部108の燃焼室120に高圧気体を供給し、燃焼室120の燃焼で使用させ、APUの燃料システムは、燃焼室120にガソリン燃料を供給し、燃焼室120は、燃焼ガソリン燃料が高温高圧気体を発生することで、高温端部108のタービン140に仕事をし、タービン140を回転させ、
タービン140は、軸103によって、前端軸流遠心空気圧縮機105に高圧気体を発生させ、同時にギヤボックス104を介して伝動し、発電機102を動かし、発電機102は、発電して外部に電力を供給し、
航空機APU100はさらに、APU排出気体の排気温度EGTを測定する温度測定センサと、入口ガイド羽根IGVアセンブリ200とを備え、
入口ガイド羽根IGVアセンブリ200は、前端軸流遠心空気圧縮機105の入気通路上に取り付けられ、入口ガイド羽根アクチュエータIGVA301は、入口ガイド羽根IGVが適切な角度に開くように制御する、
航空機の航空機APU100の性能検出方法であって、
SITAネットワークコントロールセンターより、リモートでリアルタイムに航空機APUメッセージを取得し、ACARSメッセージデコーダで前記航空機APUメッセージを復号し、航空機APU稼働情報である、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数を取得し、
排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数に顕著な変化が生じたかどうかを確定し、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数のパラメータに顕著な変化が生じたか否かを総合的に考慮し、APUの性能が劣化したか否かを確定する、
APU性能のリアルタイム監視が実現可能となる、
航空機の航空機APU100の性能検出方法。」

第5 対比
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)

引用発明の「航空機APU100」は、航空機用の空中補助動力装置であり(摘記(1a)段落【0001】、(1b)段落【0002】及び摘記(1d)段落【0009】)、本願発明の「補助パワーユニット」に相当する。

引用発明の「発電機102と、ギヤボックス104と、空気圧縮機部106と、高温端部108」は、「航空機APU100」が「備え」ている装置であり、「航空機APU100」は、これらの装置により構成されているから、本願発明の「補助パワーユニット、そのコンポーネント」に相当するといえる。

引用発明の「APUの燃料システム」は、「高温端部108」の「燃焼室120にガソリン燃料を供給」するから、「高温端部108」に関連するシステムであり、上記イを踏まえると、本願発明の「それに関連するシステム」に相当するといえる。

引用発明では、「航空機APU100」の「発電機102」は、「発電して外部に電力を供給し」ており、その電力は、種々のシステムに供給されているから(摘記(1b))、引用発明は、当該「電力を供給」することに関しても、本願発明の「それに関連するシステム」に相当する構成を備えているといえる。

引用発明では、「入口ガイド羽根アクチュエータIGVA301は、入口ガイド羽根IGVが適切な角度に開くように制御し」ていること、「排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数を取得し」ていることから、「IGV角度」を検出する装置(例えばセンサ)を備えていることが明らかであり、上記ア?エを踏まえると、引用発明の前記「IGV角度」を検出するセンサ、及び、「APU排出気体の排気温度EGTを測定する温度測定センサ」は、本願発明の「関連する複数のセンサ」に相当するといえる。
さらに、引用発明の「駆動時間STA」及び「抽気圧力PT」も、検出する装置(例えばセンサ)によって検出される、又は、その検出から求められていることが明らかであり、これらも、本願発明の「関連する複数のセンサ」に相当するといえる。

引用発明の「航空機APU100は、発電機102と、ギヤボックス104と、空気圧縮機部106と、高温端部108とを備え、空気圧縮機部106は、高圧気体を発生させ、抽気を外部に提供する前端軸流遠心空気圧縮機105を備え、高温端部108は、後端軸流遠心空気圧縮機107を備え、後端軸流遠心空気圧縮機107は、高温端部108の燃焼室120に高圧気体を供給し、燃焼室120の燃焼で使用させ、APUの燃料システムは、燃焼室120にガソリン燃料を供給し、燃焼室120は、燃焼ガソリン燃料が高温高圧気体を発生することで、高温端部108のタービン140に仕事をし、タービン140を回転させ、タービン140は、軸103によって、前端軸流遠心空気圧縮機105に高圧気体を発生させ、同時にギヤボックス104を介して伝動し、発電機102を動かし、発電機102は、発電して外部に電力を供給し、航空機APU100はさらに、APU排出気体の排気温度EGTを測定する温度測定センサと、入口ガイド羽根IGVアセンブリ200とを備え、入口ガイド羽根IGVアセンブリ200は、前端軸流遠心空気圧縮機105の入気通路上に取り付けられ、入口ガイド羽根アクチュエータIGVA301は、入口ガイド羽根IGVが適切な角度に開くように制御する」構成は、「航空機の航空機APU100の性能検出方法」に係る構成であり、航空機の構成といえるから、上記ア?オを踏まえると、上記構成は、本願発明の「補助パワーユニット、前記補助パワーユニット、そのコンポーネント、およびそれに関連するシステムに関連する複数のセンサを有する航空機」に相当する。
(2)

上記(1)オを踏まえると、引用発明の「リモートでリアルタイムに航空機APUメッセージを取得」することで得られる「排気温度EGT」、「抽気圧力PT」および「IGV角度」は、実質的に、それらに対応している各センサのセンサ出力といえる。
したがって、引用発明の「SITAネットワークコントロールセンターより、リモートでリアルタイムに航空機APUメッセージを取得し、ACARSメッセージデコーダで前記航空機APUメッセージを復号し、航空機APU稼働情報である、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数を取得」することと、本願発明の「飛行前または飛行後の間に、前記複数のセンサの少なくとも1つのセンサから、センサ出力を規定するセンサ信号を受信すること」とは、「前記複数のセンサの少なくとも1つのセンサから、センサ出力を規定するセンサ信号を受信すること」の限りで共通する。

上記アを踏まえると、引用発明の「排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数に顕著な変化が生じたかどうかを確定」することは、センサ出力に基づいているといえる。
また、本願発明の「コントローラによって、前記センサ出力を、前記センサ出力用の基準値と比較すること」は、センサ出力に基づいて比較しているといえる。

引用発明は、「ITAネットワークコントロールセンターより」、「・・・航空機APUメッセージを取得し、・・・復号し、・・・排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数を取得し、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数に顕著な変化が生じたかどうかを確定し、・・・総合的に考慮し、・・・を確定する」という一連の情報処理を行っており、引用発明の「ITAネットワークコントロールセンター」は、この一連の情報処理を行う施設であり、情報処理を行う施設がコントローラを備えることは、技術常識である。
したがって、上記の一連の情報処理は、「ITAネットワークコントロールセンター」に備えられた「コントローラ」によって実施されるといえる。

引用文献1には、「APUの性能の衰退が次第に加速すると、APUの性能は、衰退期に入る。ある閾値を超えると、APUの性能は故障期に入り、いつでも故障が生じる可能性がある。」(摘記(1d)段落【0015】及び図4)と記載されていることから、衰退期の後には障害(故障)が発生する蓋然性が高いといえるところ、引用文献1では、「APUの性能が劣化し、衰退期に入ったと判断する」(摘記(1k)段落【0066】)から、引用発明の「APUの性能が劣化したか否かを確定する」ことは、障害(故障)になる前の衰退期に入ったか否かを確定することであり、将来的に障害(故障)が発生することを予測しているといえる。
このことを踏まえると、引用発明の「APUの性能が劣化したか否かを確定する」ことと、本願発明の「補助パワーユニットの障害の内容を予測」することとは、「補助パワーユニットの障害を予測」することの限りで共通するといえる。

本願の発明の詳細な説明には、「APU障害が予測されると、指示が、航空機50上でおよび/または地上システム82において提供され得る。」(段落【0018】)及び「108にて、コントローラ64および/またはコンピュータ80は、106にて予測されたようなAPU10内の障害の指示を提供し得る。その指示は、任意の適した方法で、コックピット56内のプライマリフライトディスプレイ(primary flight display)(PFD)上などコックピット内で、および、地上システム82においてを含む任意の適した場所で提供され得る。」(段落【0025】)と記載されていることから、本願発明の「障害の指示を提供すること」は、障害の内容を提供、すなわち、単に知らせることを意味しているといえる。
引用発明は、「APU性能のリアルタイム監視が実現可能となる」から、その監視のために、APU性能が提供されて知らされ、APU性能に関連する障害の内容を知らせることができるといえる。
このことをを踏まえると、引用発明の「APU性能のリアルタイム監視が実行可能となる」ことと、本願発明の「前記予測された障害の指示を提供すること」とは、「前記予測された障害の指示を提供すること」の限りで共通する。

上記ア?オを踏まえると、以下のことがいえる(なお、記号A?Dは、本願発明と引用発明の対比関係を整理するために、当審が付したものである。)。
A:引用発明の「SITAネットワークコントロールセンターより、リモートでリアルタイムに航空機APUメッセージを取得し、ACARSメッセージデコーダで前記航空機APUメッセージを復号し、航空機APU稼働情報である、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数を取得」することと、本願発明の「飛行前または飛行後の間に、前記複数のセンサの少なくとも1つのセンサから、センサ出力を規定するセンサ信号を受信すること」とは、「前記複数のセンサの少なくとも1つのセンサから、センサ出力を規定するセンサ信号を受信すること」の限りで共通する(上記ア)。
B:引用発明の「排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数に顕著な変化が生じたかどうかを確定」することは、センサ出力に基づき、また、本願発明の「コントローラによって、前記センサ出力を、前記センサ出力用の基準値と比較すること」は、センサ出力に基づいて比較し(上記イ)、引用発明の「APUの性能が劣化したか否かを確定する」ことと、本願発明の「補助パワーユニットの障害の内容を予測」することとは、「補助パワーユニットの障害を予測」することの限りで共通し(上記エ)、そして、これらの一連の情報処理は、「ITAネットワークコントロールセンター」に備えられた「コントローラ」によって実施される(上記ウ)。
C:引用発明の「APU性能のリアルタイム監視が実行可能となる」ことと、本願発明の「前記予測された障害の指示を提供すること」とは、「前記予測された障害の指示を提供すること」の限りで共通し(上記オ)、この情報処理も、「ITAネットワークコントロールセンター」に備えられた「コントローラ」によって実施される(上記ウ)。
したがって、引用発明の、
A:「SITAネットワークコントロールセンターより、リモートでリアルタイムに航空機APUメッセージを取得し、ACARSメッセージデコーダで前記航空機APUメッセージを復号し、航空機APU稼働情報である、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数を取得し」、
B:「排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数に顕著な変化が生じたかどうかを確定し、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数のパラメータに顕著な変化が生じたか否かを総合的に考慮し、APUの性能が劣化したか否かを確定する」、
C:「APU性能のリアルタイム監視が実現可能となる」、
D:「航空機の航空機APU100の性能検出方法」と、
本願発明の、
A:「前記複数のセンサの少なくとも1つのセンサから、センサ出力を規定するセンサ信号を受信すること」、
B:「コントローラによって、前記センサ出力を、前記センサ出力用の基準値と比較すること、コントローラによって、前記比較に基づいて前記補助パワーユニットの障害の内容を予測すること」、および、
C:「コントローラによって、前記予測された障害の指示を提供すること」を含み、
前記比較することは、さらに前記センサ出力から、前記補助パワーユニットが始動するのにかかった時間を決定し、前記決定された時間を前記基準値と比較すること、を含み、前記障害の内容は、温度センサの障害、弁障害、負荷圧縮機障害、入口温度障害、スタータモータ障害および発電機障害のうちの少なくとも1つを含む、
D:「方法」とは、
A:「前記複数のセンサの少なくとも1つのセンサから、センサ出力を規定するセンサ信号を受信すること」、
B:「コントローラによって、前記センサ出力に基づいて前記補助パワーユニットの障害を予測すること」、および、
C:「コントローラによって、前記予測された障害の指示を提供すること」、を含む、
D:「方法」の限りで共通する。

2 一致点及び相違点
以上から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「補助パワーユニット、前記補助パワーユニット、そのコンポーネント、およびそれに関連するシステムに関連する複数のセンサを有する航空機の補助パワーユニット障害を予測する方法であって、
前記複数のセンサの少なくとも1つのセンサから、センサ出力を規定するセンサ信号を受信すること、
コントローラによって、前記センサ出力に基づいて前記補助パワーユニットの障害を予測すること、および、
コントローラによって、前記予測された障害の指示を提供すること、を含む、
方法。」
<相違点1>
「航空機の補助パワーユニット障害を予測する」ことが、本願発明は、「航空機内」で予測するのに対して、引用発明は、「SITAネットワークコントロールセンター」で予測する点。
<相違点2>
「前記複数のセンサの少なくとも1つのセンサから、センサ出力を規定するセンサ信号を受信すること」が、本願発明では、「飛行前または飛行後の間に」受信するのに対して、引用発明では、「SITAネットワークコントロールセンターより、リモートでリアルタイムに」受信する点。
<相違点3>
「前記センサ出力に基づいて前記補助パワーユニットの障害を予測すること」が、本願発明は、「前記センサ出力を、前記センサ出力用の基準値と比較すること」、「前記比較に基づいて前記補助パワーユニットの障害の内容を予測すること」「を含み」、「前記比較することは、さらに前記センサ出力から、前記補助パワーユニットが始動するのにかかった時間を決定し、前記決定された時間を前記基準値と比較すること、を含み」、「前記障害の内容は、温度センサの障害、弁障害、負荷圧縮機障害、入口温度障害、スタータモータ障害および発電機障害のうちの少なくとも1つを含む」のに対して、引用発明は、「排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数に顕著な変化が生じたかどうかを確定し、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数のパラメータに顕著な変化が生じたか否かを総合的に考慮し、APUの性能が劣化したか否かを確定する」点。

第6 判断
以下、相違点について検討する。
1 相違点1について
航空機は外部からの情報が遮断された状態となっても、安全確保のために自立して離着陸及び飛行ができるように設計されていることが技術常識であり、少なくとも主エンジンやそれに関連する周辺機器の障害などの情報は、コックピット内、すなわち、航空機内において、外部からの情報が得られない場合であっても自立して把握する必要がある。
ここで、航空機APU100は主エンジンに関連する機器であるから(摘記(1b)段落【0002】)、その障害などの情報は、航空機内において自立して把握する必要があり、引用発明において、航空機APU100の障害を予測する機能を、航空機内のコントローラに持たせることは、格別に創意工夫を必要とするものではないといえる。
したがって、引用発明における、「SITAネットワークコントロールセンター」に備えられた「コントローラ」(上記第5 1(2)ウ)に加えて、航空機内のコントローラにより、航空機内でも補助パワーユニット障害を予測して、上記相違点1に係る本願発明の構成に至ることは、当業者にとって格別に困難なことではない。

2 相違点2について
(1)
「SITA」は、世界中の国家と地域の空港、管制期間および航空会社を結び、航空機の運航上不可欠なデータ通信技術を通じて、空の安全に寄与する団体であり、引用発明の「SITAネットワークコントロールセンター」は、飛行機の安全性を担う施設であるといえるから、飛行機の運行中は、離陸前及び着陸後も含め常に稼働しているといえる。
したがって、引用発明の「SITAネットワークコントロールセンターより、リモートでリアルタイムに航空機APUメッセージを取得し、ACARSメッセージデコーダで前記航空機APUメッセージを復号し、航空機APU稼働情報である、排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数を取得」することは、飛行前または飛行後の間も含め、常に行われているといえるので、相違点2は、実質的な相違点であるとはいえない。
(2)
仮に、相違点2が実質的な相違点であったとしても、「APUに故障が生じると、航空機の運航不能に直結してしまう」(摘記(1c)段落【0003】)という問題や安全な飛行という常識的な課題に鑑みれば、少なくとも離陸前に航空機の障害を予め予測することは当然考慮すべき事項であり、それに対応するために、引用発明の上記「リアルタイムに」「取得」することを、航空機が着陸し離陸するまでの間、すなわち、飛行前または飛行後の間に行うことで、上記相違点2に係る本願発明の構成に至ることは、当業者にとって格別に困難なことではない。

3 相違点3について
(1)
引用発明の「排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つまたは複数に顕著な変化が生じたかどうかを確定」すること(以下、「事項A」という。)は、具体的には、取得したそれらのセンサ出力から傾斜項を求め、その傾斜項と基準となる傾斜項とを比較して行われていると理解できる(摘記(1j)段落【0060】及び【0062】)。
このように、傾斜項は、センサ出力から求められるものであるから、実質的には「センサ出力」であるということができ、それと比較する、基準となる傾斜項も、実質的には「基準値」であるということができるから、上記事項Aは、実質的には、センサ出力を、センサ出力用の基準値と比較することを意味しており、この意味で、本願発明と実質的に相違するものではない。
また、このことが仮に実質的に相違するとしても、他の実施例(例えば、図8の実施例)にも示されるように、センサ出力を、センサ出力用の基準値と直接比較することは、技術常識といえるから、上記事項Aに関しても、センサ出力を、センサ出力用の基準値と比較することで行うことは、当業者にとって格別に困難なことではない。
(2)
引用発明では、「入口ガイド羽根IGVアセンブリ200は、前端軸流遠心空気圧縮機105の入気通路上に取り付けられ、入口ガイド羽根アクチュエータIGVA301は、入口ガイド羽根IGVが適切な角度に開くように制御する」から、IGVは、APUの圧縮機に関連する弁装置であるといえるところ、引用発明の「IGV角度」に着目すると、引用発明は、「IGV角度」の「パラメータに顕著な変化が生じたか否かを総合的に考慮し、APUの性能が劣化したか否かを確定する」ものであるが、「排気温度EGT、駆動時間STA、抽気圧力PTおよびIGV角度のうちの一つのパラメータに顕著な変化が生じた場合、当該パラメータが悪化していると判断する」こと(摘記(1i)段落【0057】)、及び、「パラメータを個別に検出することも」、「隠れた故障の発見の一助となる」こと(摘記(1i)段落【0056】)を参照すると、IGV自体の障害をも予測すること、すなわち、弁障害を予測することは、当業者にとって格別に困難なことではない。
また、さらに「抽気圧力PT」にも着目することで(摘記(1d)段落【0014】)、例えば、「IGV角度」が正常値であるのに「抽気圧力PT」が正常値でない場合などのように、負荷圧縮機障害を予測することも、当業者にとって格別に困難なことではない。
そして、「IGV角度」「抽気圧力PT」は、上記(1)の比較が行われているから、この比較に基づいて、弁障害や負荷圧縮機障害、すなわち、補助パワーユニットの障害の内容を予測することは、当業者にとって格別に困難なことではない。
(3)
引用発明の「駆動時間STA」は、「始動時間STA」(摘記(1l)段落【0076】)、すなわち、本願発明の「補助パワーユニットが始動するのにかかった時間」を意味すると解される。
引用発明の「・・・駆動時間STA・・・に顕著な変化が生じたかどうかを確定」することは、上記(1)で述べたとおり、事項Aに含まれており、実質的には、センサ出力を、センサ出力用の基準値と比較することで行っているといえるし、少なくとも、引用発明の「駆動時間STA」を、センサ出力用の基準値と比較することは、当業者にとって格別に困難なことではない。
(4)
したがって、「前記センサ出力に基づいて前記補助パワーユニットの障害を予測すること」に関して、引用発明において、「センサ出力を、センサ出力用の基準値と比較すること」(上記(1))、「前記比較に基づいて前記補助パワーユニットの障害の内容を予測すること」及び「前記障害の内容は、温度センサの障害、弁障害、負荷圧縮機障害、入口温度障害、スタータモータ障害および発電機障害のうちの少なくとも1つを含」むこと(上記(2))、「前記比較することは、さらに前記センサ出力から、前記補助パワーユニットが始動するのにかかった時間を決定し、前記決定された時間を前記基準値と比較すること、を含」むこと(上記(3))を行うことで、上記相違点3に係る本願発明の構成に至ることは、当業者にとって格別に困難なことではない。

4 本願発明の効果について
「保守コスト、再スケジューリングコストを低減すること、および、航空機が着陸している時間を最小にすることを含む運用影響を最小にすることによってコスト節約を可能にする。さらに、こうした障害の記録を自動化することによって、人為的エラーが減少し、所与の航空機の履歴がより正確になり、そのことが、将来の保守において役立ち得る。」(本願の発明の詳細な説明の段落【0027】)等の本願発明の効果は、引用発明が備えている効果であるか、上記各相違点に係る構成を想到することで予測できる効果であって、格別に顕著な効果とはいえない。

5 まとめ
以上から、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載された技術事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-23 
結審通知日 2018-03-27 
審決日 2018-04-16 
出願番号 特願2014-205427(P2014-205427)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B64D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 志水 裕司  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 尾崎 和寛
出口 昌哉
発明の名称 補助パワーユニットの障害を予測する方法  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  
代理人 田中 拓人  
代理人 荒川 聡志  

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