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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1343810
審判番号 不服2017-12179  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-16 
確定日 2018-09-19 
事件の表示 特願2013-108736「ロキソプロフェンナトリウム含有経口カプセル剤」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 8日出願公開、特開2014-227381、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年5月23日の出願であって、平成29年1月24日(発送日)付けで拒絶理由が通知され、同年3月22日(受付日)に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月16日(発送日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月16日(受付日)に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、「この出願の請求項1及び2に係る発明は、下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、刊行物として下記1?6(以下、それぞれ、「引用文献1」、「引用文献2」・・「引用文献6」という。)を引用するものである。

1 特開2001-31565号公報
2 特開2012-1487号公報
3 特開2011-84521号公報
4 特開2011-140486号公報
5 特開2012-180287号公報
6 特開2003-55254号公報


第3 本願発明
本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」、またはこれらをまとめて「本願発明」ともいう。)は、平成29年3月22日受付の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ロキソプロフェンナトリウム(A)、ポリエチレングリコール(D)及びプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる室温で澄明な溶液であり、任意にクエン酸トリエチル(C)を含み、このとき、溶液の重量基準による組成比が
A ≦ D/2 + C/4
を満たし、且つ、(D)が溶液の38.9%以下となる組成物を充填して成る軟カプセル剤。
【請求項2】
軟カプセル剤が、ロータリーダイ法または滴下法で製造され、カプセル剤皮の主構成成分がゼラチン、コハク化ゼラチン及び/又は植物由来多糖類から選択される請求項1に記載の軟カプセル剤。」


第4 引用文献に記載の事項
1. 引用文献1について
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1-i)
「【0013】基剤が油脂である場合、ロキソプロフェンナトリウムに対してその0.5?8倍量(w/w)、好ましくは1?6倍量(w/w)、さらに好ましくは2?5倍量(w/w)の油脂が使用される。基剤が多価アルコールである場合、ロキソプロフェンナトリウムに対してその0.5?8倍量(w/w)、好ましくは1?6倍量(w/w)、さらに好ましくは2?5倍量(w/w)で用いられる。基剤が界面活性剤である場合、ロキソプロフェンナトリウムに対してその0.5?8倍量(w/w)、好ましくは1?6倍量(w/w)、さらに好ましくは2?5倍量(w/w)で用いられる。そしてこれらの基剤が二つ以上混合して用いられる場合には、ロキソプロフェンナトリウムに対して、0.5?8倍量(w/w)、好ましくは1?6倍量(w/w)、さらに好ましくは2?5倍量(w/w)の混合基剤が使用される。」

(1-ii)
「【0021】実施例1
ロキソプロフェンナトリウムの溶液または分散体における安定性試験
次に示す処方により、ロキソプロフェンナトリウムの溶液または分散体を調製した。
処方1:
ロキソプロフェンナトリウム 68.1mg
ポリエチレングリコール 182.0mg
合 計 250.1mg
・・・
【0022】上記した処方1および2では、ガラス容器にロキソプロフェンナトリウムを計量して入れ、これに基剤を所定量で加えて約60℃で撹拌溶解し、その後室温で徐々に液温を下げてロキソプロフェンナトリウムの溶液を得た。上記した処方3から9では、ガラス容器に基剤(例えば処方3ではココナードMTおよびMGG-B)を入れ、約60℃に加温して均一に溶解し、均一性を確認した後約40℃付近まで冷却し、ロキソプロフェンナトリウムを入れて撹拌し、その後室温で徐々に液温を下げてロキソプロフェンナトリウムの分散体を得た。
【0023】これらの溶液または分散体を40℃、75%相対湿度(RH)の条件下で透明ガラスビンに入れ保存し、溶液または分散体中のロキソプロフェンナトリウムの安定性を調べた。安定性の測定は、液体クロマトグラフ装置を用いて行った。
HPLC条件
カラム YMC-Pack,AM;312
移動相 メタノール/酢酸/トリエチルアミン=600:400:1:1
温 度 40℃
検 出 UV222nm,注入量10μL
結果は次の表2に示される。
【0024】
【表2】



(1-iii)
「【0026】実施例 2
軟カプセル充填後のロキソプロフェンナトリウムの安定性試験
次に示す処方で調製したそれぞれの薬剤を、別に調製したカプセル基剤を用いて、常法により軟カプセルを作成し、1カプセル中にロキソプロフェンナトリウム60mgを含有する軟カプセル剤を得た。
処方1:
ロキソプロフェンナトリウム 68.1mg
ポリエチレングリコール 182.0mg
合 計 250.1mg
・・・
【0027】ここで用いたカプセル基剤の組成は、ゼラチン105.0mg、濃グリセリン31.5mg、精製水(適量)からなるものであった。それぞれの軟カプセル剤を40℃、75%RHの条件下に保存し、軟カプセル中のロキソプロフェンナトリウムの安定性を調べた。測定法は、液体クロマトグラフ装置を用いて行い、実施例1と同1条件で行った。結果は次の表3に示される。
【0028】
【表3】



2. 引用文献2について
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2-i)
「【0008】
本発明により前記課題は、(1)タクロリムス、(2)プロピレングリコール、(3)プロピレングリコール脂肪酸エステル、及び(4)ポリオキシエチレンヒマシ油からなるカプセル充てん用組成物の提供によって解決される。
タクロリムスは、その水和物を使用することも出来る。
タクロリムスは、プロピレングリコールに良く溶ける。しかしながら、プロピレングリコールは、カプセル剤皮を溶解又は膨潤するため、配合できる量には制限がある。本発明においては、種々の検討から、カプセル充てん用組成物に対して30%まで添加することが可能であった。さらに本発明の目的であるバイオアベイラビリティの改善、更に血中濃度のばらつき軽減を考慮した場合、水に難溶性であるタクロリムスが消化管内で容易に可溶化することが望ましい。
本発明において鋭意検討した結果、溶解剤であるプロピレングリコールと共に、プロピレングリコール脂肪酸エステルとポリオキシエチレンヒマシ油を配合することによって、タクロリムスの可溶化が可能となった。」

(2-ii)
「【0010】
〔実施例〕
以下に実施例としてカプセル充てん用組成物の例を挙げる。各成分を混合して液状とし、常法に従ってカプセル充てんし、軟カプセル剤を製造した。なお、実施例において、プロピレングリコール脂肪酸エステルとして日本サーファクタント工業(株)製SEFSOL-218を使用し、ポリオキシエチレンヒマシ油として、BASFジャパン(株)製クレモホールELを使用した。」

3. 引用文献3について
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(3-i)
「【請求項3】
抗酸化剤がプロピレングリコール脂肪酸エステルに可溶である請求項2のカプセル剤。
【請求項4】
抗酸化剤はジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、またはトコフェノールもしくはそのエステルである請求項3のカプセル剤。
【請求項5】
プロピレングリコールと、クエン酸トリエチルと、中鎖脂肪酸トリグリセリドと、非イオン界面活性剤の混合液へアゼラスチン塩酸塩を溶解し、抗酸化剤を添加した溶液を充填してなるカプセル剤。」

(3-ii)
「【0010】
アゼラスチン塩酸塩は水およびプロピレングリコールには良く溶ける。しかしながらこれらはカプセル剤皮を溶解または膨潤させるため単独ではカプセル充填用アゼラスチン塩酸塩の溶媒として使用することはできない。アゼラスチン塩酸塩が良く溶ける医薬品添加用に許容される他の溶媒としては、ポリエチレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタンおよびプロピレングリコール脂肪酸エステルがある。このうちプロピレングリコール脂肪酸エステルは親水性が低く、単独では水分散性が求められるカプセル充填用アゼラスチン塩酸塩の溶媒としては不適切である。しかしながら非イオン界面活性剤と組合せて使用すれば水分散性を付与することが可能になる。好ましい非イオン界面活性剤の例は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシル35ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよびポリソルベート80を含む。溶媒としての役割も兼ねてセスキオレイン酸ソルビタンでもよい。」

(3-iii)
「【実施例】
【0027】
以下に実施例として処方例を挙げる。各処方においてアゼラスチンと溶解剤及び抗酸化剤は常法に従って溶解混合し溶液状医薬組成物得た。さらに該医薬組成物を常法により充填して、軟カプセル剤を製造した。
・・・
【0030】

【0031】



4. 引用文献4について
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
(4-i)
「【0081】
実施例5 軟カプセル剤の製造
ゼラチン9.0kgに精製水10.0リットルを加え、約2時間自然放置して吸水膨潤させた。ゼラチンが十分に膨潤した後、60℃に加温し、撹拌してゼラチンを均一に溶解させ、更にこのゼラチン溶液中に濃グリセリン2.25kg加えて撹拌し、粘度を調整した後、脱泡処理してカプセル成形用ジェリーを得た。このジェリーを用いてロータリー式カプセル充填機にて、澄明な実施例1の試料を、1カプセルあたりロキソプロフェンナトリウム水和物を34.05mg(ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で30mg)含有するように充填し、液体が充填された軟カプセル剤を製造した。
【0082】
実施例6 硬カプセル剤の製造
ロキソプロフェンナトリウム水和物(20.43g)、無水カフェイン(4g)、dl-メチルエフェドリン塩酸塩(6g)、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩(0.35g)、ジヒドロコデインリン酸塩(2.4g)、グアイフェネシン(25g)、ポビドン(10g)、マクロゴール400(172.6g)、乳酸(5g)、安息香酸(8g)及び精製水(28.2g)を混合し、カプセル充填用の液体を調製した。斯かる液体は澄明であった。
得られた澄明な液体を、実施例4と同様にして、実施例4で得たカプセル1つにつき470mgずつ充填し、1カプセルあたりロキソプロフェンナトリウム水和物を34.05mg(ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で30mg)含有する液体を充填した硬カプセル剤を製造した。
【0083】
実施例7 軟カプセル剤の製造
実施例6で得た澄明な液体を、実施例5と同様にして、ロータリー式カプセル充填機にて、470mgずつ充填し、1カプセルあたりロキソプロフェンナトリウム水和物を34.05mg(ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で30mg)含有する液体を充填した軟カプセル剤を製造した。
【0084】
実施例8 硬カプセル剤の製造
ロキソプロフェンナトリウム水和物(20.43g)、無水カフェイン(4g)、dl-メチルエフェドリン塩酸塩(6g)、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩(0.35g)、ジヒドロコデインリン酸塩(2.4g)、グアイフェネシン(25g)、ポビドン(10g)、マクロゴール400(168.1g)、乳酸(2.5g)、安息香酸(8g)及び精製水(35.3g)を混合し、カプセル充填用の液体を調製した。斯かる液体は澄明であった。
得られた澄明な液体を、実施例4と同様にして、実施例4で得たカプセル1つにつき470mgずつ充填し、1カプセルあたりロキソプロフェンナトリウム水和物を34.05mg(ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で30mg)含有する液体を充填した硬カプセル剤を製造した。
【0085】
実施例9 軟カプセル剤の製造
実施例8で得た澄明な液体を、実施例5と同様にして、ロータリー式カプセル充填機にて、470mgずつ充填し、1カプセルあたりロキソプロフェンナトリウム水和物を34.05mg(ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で30mg)含有する液体を充填した軟カプセル剤を製造した。」

5. 引用文献5について
引用文献5には、以下の事項が記載されている。
(5-i)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で液体のポリエチレングリコールに溶解したカンデサルタンシレキセチルおよび抗酸化剤の溶液よりなるカプセル充填用組成物。
・・・
【請求項7】
常温で液体のポリエチレングリコールと混和性の薬学的に許容し得る補助剤をさらに含んでいる請求項1ないし6のいずれかのカプセル充填用組成物。
【請求項8】
補助剤は、常温で固体のポリエチレングリコール、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、中鎖脂肪酸トリグタセリド、飽和ポリグリコール化グリセリド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、またはポリオキシエチレンヒマシ油から選ばれる請求項7のカプセル充填用組成物。」

(5-ii)
「【0017】
カプセルの充填に適した液量は、補助剤の添加によって調節することができる。補助剤は、PEGと混和性で、薬学的に許容し得る成分でなければならない。また、補助剤は、薬物の溶解補助、粘度の調節、薬物の安定化、薬物溶出率の制御などの他の機能を兼ね備えることができる。使用可能な補助剤の例は以下のものを含む。
【0018】
PEG6000のような常温で固体のPEG;プロレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルなどの多価アルコール脂肪酸エステル;中鎖脂肪酸トリグリセリド、飽和ポリグリコール化グリセリドなどのグリセリド(水素添加植物油とPEGとのエステル交換反応生成物);ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油などのポリオキシエチレン鎖を含む非イオン界面活性剤。
【0019】
補助剤は、重量で液体PEGの5%から150%まで、好ましくは100%まで添加することができ、他の成分と同様に加温前にPEGとあらかじめ混合しておくことができる。」

(5-iii)
「【0022】
本発明の医薬組成物をシームレスカプセルとする場合、皮膜と内容物との間に水と混和しにくい中間層が介在することも可能である。本発明に用いられるポリエチレングリコールは親水性物質であるため、カプセル充てん時の皮膜との相溶やカプセル充てん後の水分移行によるカプセルの軟化が生じ、安定な状態でカプセル化できないことがある。」

(5-iv)
「【実施例】
【0034】
以下に限定の意図しない実施例により本発明を説明する。なお処方例中の各種成分の数値は重量部を意味する。
・・・
【0036】
〔処方例2〕
軟カプセル充填用組成物
下記に示す組成の成分を混合し、40?50℃の温度で溶解するまで撹拌し、15?25℃に攪拌冷却することによりカプセル充填用組成物を製造した。

【0037】
〔処方例3〕
軟カプセル充填用組成物
下記に示す組成の成分を混合し、40?50℃の温度で溶解するまで撹拌し、15?25℃に攪拌冷却することによりカプセル充填用組成物を製造した。



6. 引用文献6について
引用文献6には、以下の事項が記載されている。
(6-i)
「【0015】
【実施例】以下の実施例は、1カプセルあたりシクロスポリン50mgを含む製剤の処方例である。
・・・
【0018】
実施例3
シクロスポリン 50mg
プロピレングリコール 50mg
プロピレングリコール脂肪酸エステル 25mg
ポリエチレングリコール400 50mg
モノラウリン酸デカグリセリル 25mg
ポリソルベート80 100mg
中鎖脂肪酸トリグリセライド 100mg
─────────────────────────────
合計 400mg
【0019】
実施例4
シクロスポリン 50mg
プロピレングリコール 25mg
プロピレングリコール脂肪酸エステル 25mg
ポリビニルピロリドン 50mg
モノラウリン酸デカグリセリル 50mg
ポリエチレングリコール400 200mg
─────────────────────────────
合計 400mg」


第5 本願発明1について
1 引用文献1を主引用例とする拒絶理由について
(1)引用発明1
引用文献1の記載事項(1-ii)及び(1-iii)(特に、処方1)からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明1>
「ロキソプロフェンナトリウム68.1mgをポリエチレングリコール182.0mgに溶解した溶液をカプセルに充填した、ロキソプロフェンナトリウム含有軟カプセル剤。」

(2) 対比・判断
ア 対比
本願発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1は、ロキソプロフェンナトリウム(A)の重量が68.1mgであり、ポリエチレングリコール(D)の重量が182.0mgであり、クエン酸トリエチル(C)を含まないものであるから、その「溶液の重量基準による組成比」は、「A ≦ D/2 + C/4」の関係を満たすものである。
また、引用発明1の「ロキソプロフェンナトリウム68.1mgをポリエチレングリコール182.0mgに溶解した溶液」におけるポリエチレングリコールの含量は、72.8%である。

したがって、本願発明1と引用発明1は、「ロキソプロフェンナトリウム(A)、ポリエチレングリコール(D)を含む溶液であり、このとき、溶液の重量基準による組成比が
A ≦ D/2 + C/4(Cはクエン酸トリエチル)
を満たす組成物を充填して成る軟カプセル剤。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
軟カプセルの充填物について、本願発明1は、「プロピレングリコール脂肪酸エステル」をさらに含有するものであるのに対し、引用発明1は、そのような特定を有していない点。

<相違点2>
軟カプセルの充填物について、本願発明1は、「室温で澄明な溶液」であることが特定されているのに対し、引用発明1は、そのような特定を有していない点。

<相違点3>
軟カプセルの充填物について、本願発明1は、「任意にクエン酸トリエチルを含」むものであるのに対し、引用発明1は、そのような特定を有していない点。

<相違点4>
ポリエチレングリコールについて、本願発明1は、「溶液の38.9%以下」であると特定されているのに対し、引用発明1は、72.8%である点。

イ 相違点についての判断
まず、相違点1について検討する。
引用文献5(記載事項(5-iii))には、ポリエチレングリコールは親水性物質であるため、カプセル充填時の皮膜との相溶やカプセル充填後の水分移行によるカプセルの軟化が生じ、安定な状態でカプセル化できないことがあることが記載されているが、この記載に基づき、ポリエチレングリコールを使用する場合には、カプセル充填時の皮膜との相溶やカプセル充填後の水分移行によるカプセルの軟化が生じ、安定な状態でカプセル化できないという課題が必ず存在するとまではいえない。
そして、引用文献1(記載事項(1-iii)の表3参照。)には、ポリエチレングリコールが溶液の72.8%に調製した軟カプセル剤について、安定性試験(ガラス瓶に密閉した状態で40℃75%RH環境下に2ヶ月保存)後の軟カプセル中のロキソプロフェンナトリウムの残存率が98.9%以上であることが記載されていることから、当該安定性試験に用いた軟カプセルについては、カプセル充填時の皮膜との相溶やカプセル充填後の水分移行によるカプセルの軟化が生じ、安定な状態でカプセル化できないという問題が生じなかったと解される。

加えて、引用文献2(記載事項(2-i)及び(2-ii))には、(1)カプセル充填物として、カプセル剤皮を溶解又は膨潤する成分であるプロピレングリコールを用いる際には、プロピレングリコールのカプセルの充填物全体に対する配合量を制限する必要があり、そのような成分の配合量を調節するためにプロピレングリコール脂肪酸エステルとポリオキシエチレンヒマシ油の組み合わせを用いること、(2)プロピレングリコール、プロピレングリコール脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンヒマシ油の組み合わせはタクロリムスの可溶化において好適な組み合わせであること、が記載されている。
しかし、これらの記載は、プロピレングリコールに関するものであり、ポリエチレングリコールを用いる場合について、カプセル充填時の皮膜との相溶やカプセル充填後の水分移行によるカプセルの軟化が生じ、安定な状態でカプセル化できないという課題が生じた場合には、カプセルの充填物全体に対する配合量を制限することによってカプセル剤皮の溶解・膨潤といった問題を解決できることを示唆するものではない。

また、引用文献3(記載事項(3-i)?(3-iii))には、(1)カプセル剤皮を溶解又は膨潤する成分であるプロピレングリコールを用いる際には、そのような成分は単独で用いることができないこと、(2)プロピレングリコール脂肪酸エステルはアゼラスチン塩酸塩がよく溶ける医薬品添加用として許容される溶媒であるが、親水性が低いため、単独では水分散性が求められる製剤の溶媒としては不適切であるため、非イオン界面活性剤と組み合わせて用いることによって分散性を付与できること、が記載されている。
しかし、これらの記載も、プロピレングリコールに関するものであり、ポリエチレングリコールを用いる場合について、カプセル充填時の皮膜との相溶やカプセル充填後の水分移行によるカプセルの軟化が生じ、安定な状態でカプセル化できないという課題が生じた場合に、追加の添加剤としてどのような成分をどの程度の組成になるように添加すればカプセル剤皮の溶解・膨潤を防止できるかのに関して、示唆を与えるものではない。

また、引用文献5(記載事項(5-i)、(5-ii)及び(5-iv))には、軟カプセルに用いる充填物について、プロピレングリコール脂肪酸エステルがポリエチレングリコールと組み合わせて用いられうるものであること、プロピレングリコール脂肪酸エステルは、重量で液体ポリエチレングリコールに対して5%?150%まで添加されるものであること、が記載されており、引用文献6(記載事項(6-i))には、軟カプセルに用いる溶液において、プロピレングリコール脂肪酸エステルがポリエチレングリコールと組み合わせて用いられうるものであることが記載されている。
しかし、これらの記載も、ポリエチレングリコールを用いる場合について、カプセル充填時の皮膜との相溶やカプセル充填後の水分移行によるカプセルの軟化が生じ、安定な状態でカプセル化できないという課題が生じた場合に、該課題を解決するための手段について、示唆を与えるものではない。

また、引用文献4にも、引用発明1において、プロピレングリコール脂肪酸エステルをさらに含有するものとすることに関する記載や示唆はない。

そうすると、引用発明1において、「プロピレングリコール脂肪酸エステル」をさらに含有するものとすることを、引用文献1?6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に着想しえたものであるとはいえない。
また、本願発明1は、「カプセル剤皮が継時的に割れや軟化を生じず、主薬の安定性も良好である医薬品製剤を提供すること」ができるという効果を奏するものであるところ、この効果は、引用文献1?6に記載された技術的事項から当業者が、予測できたものであるとはいえない。

以上のとおりであるから、相違点2?4について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1と引用文献1?6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


2 引用文献4を主引用例とする拒絶理由について
(1)引用発明4
記載事項(4-i)(特に、実施例7)からみて、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明4>
「ロキソプロフェンナトリウム水和物(20.43g)、無水カフェイン(4g)、dl-メチルエフェドリン塩酸塩(6g)、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩(0.35g)、ジヒドロコデインリン酸塩(2.4g)、グアイフェネシン(25g)、ポビドン(10g)、マクロゴール400(172.6g)、乳酸(5g)、安息香酸(8g)及び精製水(28.2g)を混合して調整した、カプセル充填用の澄明な液体を、ロータリー式カプセル充填機にて、470mgずつ充填し、1カプセルあたりロキソプロフェンナトリウム水和物を34.05mg(ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で30mg)含有する液体を充填した軟カプセル剤」

(2).対比・判断
ア 対比
本願発明1と引用発明4を対比する。
「医薬品添加物事典 2007」(薬事日報社 日本医薬品添加剤協会編集 279?280頁参照。)によれば、マクロゴール400は、ポリエチレングリコールであるから、引用発明4の「マクロゴール400」は、本願発明の「ポリエチレングリコール」に相当する。そして、軟カプセル剤に充填された「ロキソプロフェンナトリウム水和物を34.05mg(ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で30mg)含有する液体」について、470mg中にポリエチレングリコールの配合量は、軟カプセル剤に充填される前の液体におけるマクロゴール400の配合比率より287.7mgであり、ロキソプロフェンナトリウム量(30mg)≦ポリエチレングリコール量/2(=143.9mg)の関係を満たすものである。
また、引用発明4の軟カプセル剤に充填された「ロキソプロフェンナトリウム水和物を34.05mg(ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で30mg)含有する液体」にしめるポリエチレングリコールの含量は、61.2%である。

したがって、本願発明1と引用発明4は、「ロキソプロフェンナトリウム(A)、ポリエチレングリコール(D)を含む澄明な液体であり、このとき、液体の重量基準による組成比が
A ≦ D/2 + C/4(Cはクエン酸トリエチル)
を満たす組成物を充填して成る軟カプセル剤。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点5>
軟カプセルの充填物について、本願発明1は「プロピレングリコール脂肪酸エステル」を含有するものであるのに対し、引用発明4は「プロピレングリコール脂肪酸エステル」を含有しない点

<相違点6>
軟カプセルの充填物について、本願発明1は「溶液」が「室温で澄明」であることが特定されているのに対し、引用発明4は「液体」が澄明であることは記載されているものの、「室温で澄明」であるかについて、明示的な記載がない点

<相違点7>
軟カプセルの充填物について、本願発明1は任意にクエン酸トリエチルを含有するものであるのに対し、引用発明4にはそのような記載はない点

<相違点8>
軟カプセルの充填物について、本願発明は「組成物」に占めるポリエチレングリコールの含量が38.9%以下であるのに対し、引用発明4の軟カプセルの充填物はポリエチレングリコールを61.2%含有する点

<相違点9>
軟カプセルの充填物について、本願発明1は「ロキソプロフェンナトリウム、ポリエチレングリコール及びプロピレングリコール脂肪酸エステル(任意にクエン酸トリエチル)からなる」組成物であるのに対し、引用発明4の軟カプセルの充填物は無水カフェインなどの他の成分も含有する点

イ 相違点についての判断
相違点5は、相違点1と同じであるから、「1 引用文献1を主引用例とする拒絶理由について (2) 対比・判断 イ 相違点についての判断」に説示したとおり、引用文献1?6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に着想しえたものであるとはいえないものである。
したがって、相違点6?9について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明4と引用文献1?6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6.本願発明2について
本願発明2は本願発明1をさらに「軟カプセル剤が、ロータリーダイ法または滴下法で製造され、カプセル剤皮の主構成成分がゼラチン、コハク化ゼラチン及び/又は植物由来多糖類から選択される」という事項によって特定したものであるが、第5で説示したとおり、本願発明1は、引用発明1または4と、引用文献1?6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本願発明2も引用発明1または4と、引用文献1?6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


第7 むすび
以上のとおり、本願請求項1及び2に係る発明は、引用文献1?6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-08-27 
出願番号 特願2013-108736(P2013-108736)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 前田 佳与子
淺野 美奈
発明の名称 ロキソプロフェンナトリウム含有経口カプセル剤  
代理人 赤岡 迪夫  
代理人 吉岡 亜紀子  
代理人 赤岡 和夫  

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