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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  A41B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A41B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A41B
管理番号 1343844
異議申立番号 異議2017-700328  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-03 
確定日 2018-07-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6007423号発明「フットカバー及びフットカバーの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6007423号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6007423号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6007423号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年4月15日を出願日とする出願であって、平成28年9月23日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年4月3日に、特許異議申立人北田保雄より請求項1?5に対して特許異議の申立てがされ、平成29年6月5日付けで取消理由が通知され、平成29年8月7日に、特許権者から意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年9月12日に特許異議申立人北田保雄から意見書が提出され、平成29年11月7日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成30年1月12日に特許権者から意見書の提出がされたものである。

第2 訂正請求について

1.訂正の内容
上記平成29年8月7日付け訂正請求書を、「本件訂正請求書」といい、訂正自体を、「本件訂正」という。本件訂正の内容は、以下の訂正事項1及び2からなり、訂正箇所に下線を引いて示すと以下のとおりである。

(1)訂正事項1
本件訂正前の本件特許の請求項1に「前記底部の周縁を取り囲んで前記底部と接合されていると共に、」とあるのを、「前記底部の周縁を取り囲んだ状態で前記底部との間で縫合部が形成されていると共に、」と訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の本件特許の請求項1に「前記履き口部の周縁から前記底部にわたって接合部以外の厚みが略同等であり、」とあるのを、「前記履き口部の周縁から前記底部にわたって当該被覆部同士の縫合部以外の厚みが略同等であり、」と訂正する。

2.訂正の適否

(1)訂正事項1について
請求項1に係る発明は、「フットカバー」という物の発明であるところ、訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1の「底部の周縁を取り囲んで底部と接合されている」と、製造方法により特定する記載であったものを、「接合」を、接合の一形態である「縫合」に限定し、かつ、「底部の周縁を取り囲んだ状態で前記底部との間で縫合部が形成されている」と、製造方法によって得られた状態に特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
訂正事項1に係る訂正は、本件特許明細書の段落【0022】及び【図1】の記載から、本件特許明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項1記載の「前記履き口部の周縁から前記底部」にわたる領域のうち、被覆部の「厚みが略同等」であるところを、「接合部以外」と特定していたのを、本件訂正によって、「接合部」の下位概念である「縫合部」により、「当該被覆部同士の縫合部以外」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書の段落【0026】及び【図1】の記載から、本件特許明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項
本件訂正は、本件訂正前の請求項1と請求項1を引用する請求項2?4を訂正するものであるから(なお、請求項5は、他の請求項を引用しない請求項である。)、一群の請求項に対して請求されたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1.本件発明

(1)上記第2のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された以下の事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
足のつま先部から踵部までを覆うフットカバーであって、
底部と、
伸縮性を有する生地からなり、前記底部の周縁を取り囲んだ状態で前記底部との間で縫合部が形成されていると共に、前記足が入れられる履き口部を有する被覆部と、を備え、
前記被覆部は、前記履き口部を画成する端面が無縫製で且つ当該端面の糸が解れない構造を有しており、前記履き口部の周縁から前記底部にわたって当該被覆部同士の縫合部以外の厚みが略同等であり、
前記履き口部は、前記つま先部側から前記踵部側に向かって幅が狭くなっていることを特徴とするフットカバー。
【請求項2】
前記底部の底面には、前記つま先部側に、当該底面よりも摩擦係数の高い滑り止め部材が設けられており、
前記底部の内側面には、前記つま先部側に、衝撃吸収部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載のフットカバー。
【請求項3】
前記被覆部の内側面には、前記踵部に対応する位置に、当該内側面よりも摩擦係数の高い滑り止め部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のフットカバー。
【請求項4】
前記つま先部側に開口部が設けられていることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項記載のフットカバー。
【請求項5】
足のつま先部から踵部までを覆い、底部及び被覆部からなるフットカバーの製造方法であって、
前記底部を準備する工程と、
伸縮性を有する生地からなり、略U字形状を呈すると共に、全体にわたって厚みが略同等であり、且つ前記足が入れられる履き口部を画成する端面が無縫製で且つ当該端面の糸が解れない構造を有し、前記履き口部が前記つま先部側から前記踵部側に向かって幅が狭くなる前記被覆部を準備する工程と、
前記底部と前記被覆部とを縫合する工程と、を含むことを特徴とするフットカバーの製造方法。」

2.取消理由通知に記載した取消理由について
平成29年6月5日付け取消理由通知における取消理由の要旨は、以下のとおりである。なお、特許異議の申立ての全ての申立理由が通知された。

【理由1】
本件特許に係る出願は、平成27年12月21日付け手続補正書により、特許請求の範囲の請求項1に記載された「縫合」が「接合」と補正された。しかし、「接合」は当該出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内のものではなく、本件発明1?5に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第1号の規定に該当する。
【理由2】
本件発明1は「フットカバー」という物の発明であって、本件発明1の「底部の周縁を取り囲んで前記底部と接合されている」は、その物の製造方法が記載されているから、本件発明1は明確ではない。よって本件発明の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合しないから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2?4に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当する。
【理由3】
上記当審が通知した取消理由に記載した以下の刊行物1?8のそれぞれに記載された発明あるいは事項を、以下、刊行物1発明1あるいは刊行物2事項等という。
本件発明1?4は、刊行物1発明1、刊行物2事項?刊行物8事項、及び、従来周知の事項に基いて、並びに、本件発明5は、刊行物1発明2、刊行物2事項?刊行物8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当する。

<刊 行 物 一 覧>
以下、本件特許異議申立書を「申立書」という。
刊行物1:特開2013-53383号公報(申立書添付の甲第1号証)
刊行物2:実用新案登録第3074206号公報(申立書添付の甲第2号証)
刊行物3:国際公開第2012/063316号(申立書添付の甲第3号証)
刊行物4:特開2007-154347号公報(申立書添付の甲第4号証)
刊行物5:特開2011-179134号公報 (申立書添付の甲第5号証)
刊行物6:実用新案登録第3165733号公報(申立書添付の甲第6号証)
刊行物7:特開平10-292206号公報(申立書添付の甲第7号証)
刊行物8:米国特許出願公開第2011/0119809号明細書(申立書添付の甲第8号証)

【理由4】
本件発明1及び本件発明5の「略同等」、及び、本件発明5の「略U字形状」の、それぞれにおける「略」は不明確であるから、本件発明1及び5は明確ではない。よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合しないから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2?4、並びに本件発明5に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当する。

3.当審の判断

(1)【理由1】について
本件訂正が認められたから、本件特許の請求項1に記載された「接合」は、「縫合」と訂正された。そして、「縫合」は本件特許に係る出願の当初の明細書等(例えば、段落【0022】の「上記構成を有する被覆部5と底部3とを縫合することにより」、及び、段落【0023】の「縫合部S」との記載)に記載した事項の範囲内のものであるから、理由1は理由のないものとなった。

(2)【理由2】について
本件訂正が認められることによって、上記2.の【理由2】に示した「底部の周縁を取り囲んで前記底部と接合されている」との記載は、「前記底部の周縁を取り囲んだ状態で前記底部との間で縫合部が形成されていると共に、」と、本件発明1の「フットカバー」が製造された後の状態を特定する記載に訂正された。よって、理由2は理由のないものとなった。

(3)【理由4】について
事案に鑑み、【理由3】の検討の前に【理由4】を検討する。

ア.本件発明1の「略同等」について
本件発明1の「前記被覆部は、・・・前記履き口部の周縁から前記底部にわたって当該被覆部同士の縫合部以外の厚みが略同等であり、」との記載から、本件発明1の「略同等」とは、被覆部において、履き口部の周縁から底部にわたる、被覆部同士の縫合部以外の厚みが略同等であることを意味し、本件発明5の「伸縮性を有する生地からなり、略U字形状を呈すると共に、全体にわたって厚みが略同等であり、・・・前記被覆部を準備する工程と、」との記載から、本件発明5の「略同等」とは、被覆部となる生地の全体の厚みが略同等の意味である。
ここで、本件特許明細書には、「略同等」に関連して、以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のフットカバーの構成は、フットカバーが脱落することを抑制するといった観点からは有効である。しかしながら、従来のフットカバーでは、開口部の周縁に設けられたゴムの厚みにより、どうしても段差が生じる。そのため、従来のフットカバーでは、ゴムが設けられた部分に違和感を覚えるといった問題がある。
【0005】
本発明は、着用中の脱落を抑制しつつ、着用性の向上を図ることができるフットカバー及びフットカバーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフットカバーは、足のつま先部から踵部までを覆うフットカバーであって、底部と、伸縮性を有する生地からなり、底部の周縁を取り囲んで底部と縫合されていると共に、足が入れられる履き口部を有する被覆部と、を備え、被覆部は、履き口部の周縁から底部にわたって縫合部以外の厚みが略同等であることを特徴とする。
【0007】
このフットカバーでは、被覆部は、履き口部の周縁から底部にわたって縫合部以外の厚みが略同等である。これにより、フットカバーでは、被覆部に段差が生じないため、着用中に違和感を覚えない。・・・」

上記摘記から、本件発明1?5は、従来のフットカバーでは、開口部の周縁に設けられたゴムの厚みにより生じた段差により、着用者が違和感を覚えるとの課題(【0004】)があり、それを解決するために、底部の周縁を取り囲んで底部と縫合され、そして、足が入れられる履き口部を有する被覆部の、履き口部の周縁から底部にわたって縫合部以外の厚みが略同等としたものである(【0006】)。当該構成によって、フットカバーの、被覆部に段差が生じないから、着用中に違和感を覚えない(【0007】)、との作用・効果を奏するものである。
ここで、一般的に「略」とは、「おおかた。およそ。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)との意味である。さらに、本件発明1及び5のフットカバーの被覆部が「生地」からなるから、それを構成する糸等によって、生地表面に微小な凹凸が存在すること、そして、被覆部の段差あるいは凹凸が非常に小さい場合には、着用者が違和感を覚えることはないであろうことは、当業者にとって明らかである。
以上のとおりであるから、本件発明1及び5の「略同等」とは、フットカバーの当該被覆部同士の縫合部以外の被覆部の、履き口部の周縁から底部にわたる部分の厚み(本件発明1)、あるいは、被覆部の生地の全体にわたる厚み(本件発明5)が、ほとんど同じ厚さであって、仮に厚さに相違があったとしても、その差は、着用者が違和感を覚えない程度のものであると理解でき、そのように解して矛盾は生じない。
したがって、「略同等」との記載によって、本件発明1及び5が第三者に不測の不利益を及ぼすほど明確ではない、とまでいうことはできない。

イ.本件発明5の「略U字形状」について
本件発明5の「伸縮性を有する生地からなり、略U字形状を呈すると共に、」との記載から、「略U字形状」は、被覆部を構成する生地の形状である。
そして、本件特許明細書及び図面には、上記ア.に摘記した事項に加えて、「略U字形状」に関連して、以下の記載及び図示がある。

「【0022】
被覆部5は、底部3の周縁に縫合されている。図5に示すように、被覆部5は、縫合前の状態では、略U字形状を呈している。具体的には、被覆部5は、蹄鉄のような形状とされている。すなわち、被覆部5は、平置きしたときに、両端部が内側に入り込んだ形状を成し、両端部が近接している。このような被覆部5を底部3に縫合すると、図1及び図2(a)に示すように、被覆部5により、足が入れられる履き口部13が画成される。上記構成を有する被覆部5と底部3とを縫合することにより、履き口部13は、つま先部側から踵部側に向かって幅が狭くなっている。・・・」
「【0026】
上記構成を有するフットカバー1の製造方法について説明する。最初に、図4に示す底部3と、図5に示す被覆部5とを準備する。滑り止め部材7及びクッション部材9は、底部3に予め設けていてもよいし、底部3と被覆部5との縫合の後に設けてもよい。続いて、底部3と被覆部5とを縫合する。詳細には、例えば被覆部5の両端部を縫合した後、底部3の周縁に沿って被覆部5を縫合する。そして、被覆部5に滑り止め部材11を設ける。以上のようにして、フットカバー1が製造される。」
「【0029】
これに対して、本実施形態のフットカバー1では、縫合前の状態において略U字形状を呈する被覆部5を用いている。この被覆部5を底部3と縫合することにより、履き口部13は、つま先部側から踵部側に向かって幅が狭くなっている。これにより、フットカバー1では、足との密着性を確保できる。したがって、フットカバー1では、着用中の脱落を抑制できる。以上のように、フットカバー1では、着用中の脱落を抑制しつつ、着用性の向上を図ることができる。」

【図5】


そうすると、本件発明5の方法により製造されるフットカバーは、着用者が違和感を覚える原因であった、履き口部の段差をなくするために、従来の履き口部に設けられていたゴム等の伸縮性を有する部材を設けずとも(【0007】)、足との密着性を確保するために、フットカバーの縫合前の被覆部の形状を、略U字形状、具体的には蹄鉄のような形状、すなわち、平置きしたときに両端部が内側に入り込んだ形状を成し、両端部が近接した形状としたものである(【0022】)。そのような形状の被覆部とし、底部と縫合すると、被覆部により画成された当該履き口部は、つま先部側から踵部側に向かって幅が狭くなるから、フットカバーと足との密着性が確保できる(【0022】、【0029】)。
ここで「U字」を含む語句の意味として、「U字管」が「U字形をしたガラスなどの管」、「U字溝」が「(断面がUの字の形であることからいう)道路脇などに設ける、成型したコンクリートを連ねた側溝。」、そして、「U字谷」が「横断面の形がU字をなす谷。谷氷河の浸食によって作られる。」とそれぞれ意味(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)するから、「U字形状」とは、形状が「U」の字と同じ形状であるとの意味であり、上記ア.に示したように、「略」とは、「おおかた。およそ。」との意味であったから、「略U字形状」とは、おおよそ「U」の字と同じ形状であることを意味するといえる。してみれば、本件発明5の「略U字形状」とは、具体的には上記【図5】に示されたような「蹄鉄のような形状、すなわち、平置きしたときに、両端部が内側に入り込んだ形状を成し、両端部が近接した形状」が、おおよその形状として、「U」の字と類似しているから、端的に「略U字形状」と表現したものであると理解できる。
したがって、「略U字形状」との記載によって、第三者に不測の不利益を及ぼすほど本件発明5が明確ではない、とまでいうことはできない。

ウ.小括
上記ア.及びイ.に示したとおり、【理由4】によって、本件発明1?5は明確ではないとはいえないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合しないとはいえない。よって、取消理由通知に記載した【理由4】によって、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。

(4)【理由3】について

ア.刊行物記載の事項・発明

(ア)刊行物1(特開2013-53383号公報、甲第1号証)
刊行物1には、図面とともに以下の記載がある。
「【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、汗蒸れを抑制するとともに、履き心地を向上する靴下を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の靴下は、足裏全体を覆う底部を備え、底部は、弾性部材と、この弾性部材の全体を被覆すると共に弾性部材よりも高い吸水性を有する布とを有し、弾性部材と布とが接着されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の靴下によれば、底部は弾性部材よりも高い吸水性を有する布を有するため、汗蒸れを抑制できる。
また、足裏全体を覆う底部は弾性部材を有しているので、足裏全体において弾性部材があり、かつ、布と弾性部材とが接着されているので、本発明の靴下を履いて歩く等の動作時に弾性部材が移動することを防止できる。このため、履き心地を向上できる。
よって、本発明によれば、汗蒸れを抑制するとともに、履き心地を向上する靴下を提供することができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1?図5を参照して、本発明の一実施の形態における靴下について説明する。なお、図1?図5は、右足用の靴下を図示している。
【0019】
図1?図3に示すように、本実施の形態における靴下100は、底部110と、この底部110と接続された側部120と、底部110と側部120とが縫合された縫合部130と、側部120と縫合された履き口部140とを備えている。
【0020】
底部110は、足裏全体を覆う。なお、底部110は、足裏の全面を覆っていてもよく、足裏の略全面を覆っていてもよい(図5参照)。
【0021】
図4に示すように、底部110は、弾性部材110aと、この弾性部材110aの全体を被覆する布110bとを有している。底部110において、弾性部材110aと布110bとは接着されている。つまり、弾性部材110aと布110bとは、接着剤により接着されており、弾性部材110aと布110bとの間には接着層が形成されている。弾性部材110aの表面及び裏面全体に接着層は形成されていてもよく、弾性部材110aの表面及び裏面の少なくとも一部に接着層は形成されていてもよい。弾性部材110aが布110b内で移動することを十分に抑制する観点から、弾性部材110aの表面及び裏面全体に接着層が形成されていることが好ましい。
【0022】
さらに本実施の形態では、弾性部材110aと布110bとは、それぞれの外周側で縫合されている。図1?図4に示すように、弾性部材110aと布110bとが縫合される領域は、縫合部130を形成している。このように、本実施の形態では、弾性部材110aと布110bとは接着・縫合されている。」
「【0024】
図3及び図4に示すように、足指付け根(母指球)に位置する底部111を構成する弾性部材の厚み及び/または土踏まずに位置する底部112を構成する弾性部材の厚みは、他の領域に位置する弾性部材の厚みよりも大きい。言い換えると、足指付け根に沿うように形成された弾性部材の厚み及び/または土踏まずに沿うように形成された弾性部材の厚みは、他の領域に位置する弾性部材の厚みよりも大きい。
【0025】
具体的には、図3に示すように、足指付け根に位置する底部111を構成する弾性部材の厚みは、指先に位置する底部111を構成する弾性部材の厚みよりも大きい。・・・
【0026】
底部110と接続された側部120は、足の甲の少なくとも一部を覆う。底部110と側部120との接続手段は特に限定されないが、例えば縫合により接続されている。
側部120の下端は、弾性部材110a及び布110bを含む底部110の外周縁と縫合されている。つまり、側部120と、弾性部材110aと、布110bとで、縫合部130を構成している。
側部120は、例えば、連続した布で形成され、この布が背面側で縫合された接続領域121を有している。
【0027】
側部120は、底部110の厚みよりも薄い。
側部120は、薄手の布であることが好ましく、例えば、綿、アクリル、ナイロン、及びウレタンの内の少なくとも1種を含む布である。
【0028】
側部120と縫合された履き口部140は、足を挿入する入り口である。履き口部140は、例えばゴムと、このゴムを被覆したレース等の布とを有している。」
「【0033】
本実施の形態では、図5に示すように、足指付け根に位置する弾性部材の厚み及び/または土踏まずに位置する弾性部材の厚みは、他の領域に位置する弾性部材110aの厚みよりも大きい。このように、底部110は、パンプス等の靴を履いたときに、着用者が痛みを感じやすい箇所に位置する弾性部材110aの厚みが大きい、立体的な構造を有しているので、履き心地をより向上することができる。
また、足指付け根に位置する弾性部材の厚みが他の領域に位置する弾性部材の厚みよりも大きい場合、靴下100を装着して靴を履いて歩く等の動作時には、足が靴の中ですべることを抑制できるので、靴擦れをより抑制できる。
【0034】
また、本実施の形態の靴下100は、弾性部材110a、布110b、及び側部120が縫合された縫合部130を備えている。これにより、底部110が足裏全体を被覆でき、かつ側部120が足の甲を安定して保持できる。このため、靴下100を着用して歩く等の動作時に、靴下100が脱げにくくなる。
【0035】
ここで、本実施の形態では、靴下として、足の甲側が多く露出するフットカバーを例に挙げて説明した・・・」



【図5】には、刊行物1記載の靴下100を着用した状態を図示するものであって、足のつま先部から踵部までを靴下100が覆っていることの図示がある。
「図1?3に示すように、本実施の形態における靴下100は、底部110と、この底部110と接続された側部120と、底部110と側部120とが縫合された縫合部130と、側部120と縫合された履き口部140とを備えている。」(【0019】)との記載及び側部120と履き口部140とが縫合されたものが足の一部を被覆していることの【図5】の図示から、刊行物1には、側部120と履き口部140とからなる被覆部が記載されている。そして、靴下100を製造するにあたっては、底部110を準備する工程と側部120及び履き口部140を準備する工程と、両者を縫合する工程が含まれることは、明らかである。

以上の摘記事項、認定事項、並びに【図1】?【図5】の図示を整理すると、刊行物1には、以下の刊行物1発明1及び刊行物1発明2が記載されている。

[刊行物1発明1]
「足のつま先部から踵部までを覆う靴下100であって、
底部110と、
布で形成された側部120と、ゴムと、このゴムを被覆したレース等の布を有する履き口部140からなり、前記底部110の周縁を取り囲んだ状態で前記底部110との間で縫合部130が形成されていると共に、前記足が入れられる履き口部140を有する被覆部と、を備え、
前記被覆部は、前記履き口部140を画成する端面がゴムと、このゴムを被覆したレース等の布を有しており、側部120同士が縫合された接続領域121を有し、
前記履き口部140は、前記つま先部側から前記踵部側に向かっている、靴下100。」

[刊行物1発明2]
「足のつま先部から踵部までを覆い、底部110及び側部120と履き口部140を含む被覆部からなる靴下100の製造方法であって、
前記底部110を準備する工程と、
布で形成された側部120と、ゴムと、このゴムを被覆するレース等の布を有する履き口部140からなり、且つ前記足が入れられる履き口部140を有し、前記履き口部140が前記つま先部側から前記踵部側に向かうようになる前記被覆部を準備する工程と、
前記底部110と前記被覆部とを縫合する工程を含む靴下100の製造方法。」

(イ)刊行物2(実用新案登録第3074206号公報、甲第2号証)
刊行物2には、図面とともに以下の記載がある。
「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案はソックスに関する考案であり、さらに詳しくは、繰り返し吸収底を有するソックスに関するものである。」
「【0006】
図3及び図4において被甲部を形成する甲被4は、例えば伸縮の優れた体積弾性組織によるスパンデックス系のしなやかで腰があるニットの素材を用いて略V字形に形成し、二股に分かれた腰部の後尾先端5、5は図4に示す如く左右より重ね合わせてまとめ縫い6を行ない、重ね合わせ部の上から非伸縮性の生地を用いた略台形状の短辺側を折曲げて表裏二層に形成した飾り布7を挿入して縫着し、甲被3の後部のまとめ縫いをする。」



(ウ)刊行物3(国際公開第2012/063316号、甲第3号証)
刊行物3には、以下の記載がある。
「[0008]
・・・パイル編み領域の周囲に、端始末不要な編み組織からなる周囲領域が形成され、当該周囲領域が裁断されて周縁部分が形成されているため、裁断後の端始末が不要であり、加工の手間を省くことができる。」
「[0092]
・・・なお、周縁部分41a,42aには裁断後の端始末を施す必要はないが、商品の仕様に応じてレース材等取り付けるために、縫製を施すといったことも考えられる。」
「[0118]
・・・以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、本発明の股付衣類をショーツとして説明しているが、本発明の股付衣類は、ショーツに限定されず、例えば、ガードル、ボディスーツ、水着、レオタード、レギンス、スパッツ、パンティストッキング、スポーツ用タイツとして実現しても良い。また、本発明の股付き衣類を、上記以外のボトム衣類、例えば、パンツ等のアウターウェアとして実現するものとしても良い。」

(エ)刊行物4(特開2007-154347号公報、甲第4号証)
刊行物4には、以下の記載がある。
「【0112】
上記製法によって得られるポリウレタン弾性繊維は、SCY編地法において120℃で20秒間、特には115℃20秒間湿熱処理したときの熱融着力が0.15cN/dtex以上、好ましくは0.30cN/dtex以上であるため、この熱融着性ポリウレタン弾性繊維を含む編地を湿熱処理することで、伝線、ほつれ等の発生を抑えた足回り成型編地製品を得ることができる。
【0113】
本発明の足回り編地製品とは、足部分に着用するものであり、例えばトゥクッション、フットカバー、アンクレット、ソックス、クルーソックス、ブーツソックス、スリーコーター、ハイソックス、オーバーザニー、ストッキング、パンティストッキング、タイツ、スパッツ、トレンカー、レッグウォーマー等、特には薄地の足回り編地製品として使用することができる。」
「【0126】
・・・さらに、着用前に大きさが約3cmの丸、ダイヤ、ハート、星型等、任意の形の穴を開け、前記した着用と洗濯を繰り返してもラン、ほつれが発生することなく、開けた穴を保持した。」
「【0135】
・・・また、部分的に穴が発生しても伝線(ラン)が生じないため、それ以上に損傷が広がることがない。本発明の編地は、切断部からほつれ等が広がることがないため、任意の形状にカットして使用することもできる。」

(オ)刊行物5(特開2011-179134号公報、甲第5号証)
刊行物5には、図面とともに以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は下肢用衣類およびその製造方法に関し、詳しくは、踵を露出させる開口部周縁のごろつき感をなくし、快適で丈夫なトレンカを容易に製造可能とするものである。」
「【0003】
・・・このようなトレンカ110においてもフット部113の踵開口部114の周縁に力がかかるため当該領域の強度を高めておく必要はあるが、前記特許文献1のように編地を踵開口部114の周縁で折り返して縫着すると、ごろつき感が生じ快適な着用感が得られにくいという問題がある。・・・」
「【0006】
前記課題を解決するため、第1の発明は、熱融着弾性糸を含む糸で編成され該熱融弾性糸を熱融着させてほつれ止め機能を付与した伸縮性編地、又は熱合着弾性糸を含む糸で編成され該熱合着弾性糸を熱合着させてほつれ止め機能を付与した伸縮性編地からなる下肢用衣類を提供している。
【0007】
第2の発明は、第1の発明に係る下肢用衣類が、足先と踵を露出させて着用するトレンカであって、足先を露出させる足先開口部および踵を露出させる踵開口部のうち、少なくとも前記踵開口部の周縁が縫着されずに切りっぱなしの状態とされ、非着用時における前記踵開口部の形状は編地の縦方向を短軸方向、編地の横方向を長軸方向とする楕円または長円形状であることを特徴とする下肢用衣類を提供している。」
「【0011】
前記のように、本発明の下肢用衣類(トレンカ、レギンス等)は熱融着弾性糸を熱融着させてほつれ止め機能を付与した編地又は熱合着弾性糸を熱合着させてほつれ止め機能を付与した編地からなるため、足先開口部や踵開口部の周縁が縫着されずに切りっぱなし状態であっても端末からほつれが生じず強度低下を防止できる。・・・」
「【0020】
・・・
本実施形態のトレンカ1は、図1に示すように、履き口部2に連続するパンティ部3と、該パンティ部3に連続し足首から脚の付け根までを覆う一対のレッグ部4と、該レッグ部4に連続し足首から先端側を覆うフット部5からなる。フット部5には、踵を露出させる踵開口部6と、土踏まずから先端側の足先を露出させる足先開口部7とを設けている。」
「【0026】
前記のように、本実施形態のトレンカ1はシングルカバリング糸を形成するポリウレタン糸を熱融着させてほつれ止め機能を付与した編地からなるため、踵開口部6の周縁が縫着されずに切りっぱなし状態であっても端末からほつれが生じず強度低下を防止できる。したがって、踵開口部6の周縁で編地を折り返して縫着する等の作業が不要となり製造が容易となると共に、縫着によるごろつき感もないため快適な着用感を得ることができる。・・・」



(カ)刊行物6(実用新案登録第3165733号公報、甲第6号証)
刊行物6には、図面とともに以下の記載がある。
「【0018】
後部内面の滑り止め5は、図2に示したように、帯状伸縮部4の上に重ねて接着された略半円形の生地7の上に設けられており、着用者の踵に当接して、フットカバーが脱げるのを防止するようにしている。この後部内面の滑り止め5は、図示したように、帯状伸縮部4と重なるように横長に延びた形状とし、その表面全体で着用者の踵に当接することにより、着用者に違和感を与えないようにしている。
【0019】
前部外面の滑り止め6は、図2に示したように、生地1の着用者の足の裏側を覆う部分に設けられており、靴の底部内面に当接して、フットカバーの位置がずれるのを防止するようにしている。この前部外面の滑り止め6は、図示したように幅を広くとり、また、適宜の模様を付したものとするとよい。」


(キ)刊行物7(特開平10-292206号公報、甲第7号証)
刊行物7には、図面とともに以下の記載がある。
「【0013】
・・・また、踵当接部3内面に突起状弾性体5が取り付けられているので、この突起状弾性体5が滑り止めの役割をし、フットカバー10が素足から脱げにくくなっている。よって、歩行時にフットカバー10の履き位置がずれてしまったり、脱げてしまったりするのを防止することができ、特にパンプスの脱ぎ履き時においてもフットカバー10がいっしょに脱げてしまうといったことを防止することができる。」


(ク)刊行物8(米国特許出願公開第2011/0119809号明細書、甲第8号証)
刊行物8には、図面とともに以下の記載がある。なお、括弧内の和訳は、当審が付した。
「【0022】
Another embodiment of the hosiery of the present invention is wherein the interior of the heel portion contains a patch of material that should contact the back of the heel of the foot and the patch of material provides either protection to the skin of the heel of the foot, or helps the heel portion stay in position, or both. More specific is an embodiment wherein the patch of material is made of Molskin or a rubbery non-slip material, such as, for example silicone.」(本発明に係る靴下の別の実施の形態は、靴下における踵部の内側に、足の踵の後部に接触すべき当て布部材を含み、その当て布部材が、足の踵の皮膚を保護したり、踵部が所定の位置に留まるように補助したり、または、その両方を行う。より具体的には、その当て布部材が、Molskin、または、たとえばシリコンなどのゴム状の滑り止め材料で構成される実施形態がある。)
「【0028】
Illustrated in FIG. 3A is a view of a foot 1 wearing the hosiery of the present invention 2, wherein the toes are uncovered, showing the bottom of the foot and the side of the foot and ankle. The sole portion of the hosiery is completely under the foot. Thus, it will not be visible when wearing open side shoes. Similarly, if wearing open toed shoes, the toe portion of the hosiery will not be visible.」(図3Aは本発明に係る靴下2を着用した足部1の図であり、足の底部と足および足首の側部とに靴下が現れており、つま先が覆われていない。靴下の足底部分は完全に足の下にある。したがって、側部が開いた靴を履いても靴下は見えない。同様に、つま先が開いた靴を履いても、靴下のつま先部分は見えない。)
「【0029】
Illustrated in FIG. 3B is a view of the bottom of a foot 1 wearing hosiery of the present invention 2 , wherein the toes are uncovered. The sole portion is completely under foot and even removed from the sides of the foot. Thus, it cannot seen when wearing shoes without sides. Similarly, if wearing open toed shoes, the toe portion of the hosiery will not be visible.」(図3Bは本発明に係る靴下2を着用した足部1の低面図であり、つま先が覆われていない。靴下の足底部分は完全に足の下にあり、足の側部からも除去されている。したがって、側部のない靴を履いても靴下は見えない。同様に、つま先が開いた靴を履いても、靴下のつま先部分は見えない。)


イ.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と刊行物1発明1とを対比する。
刊行物1発明1の「足のつま先部から踵部までを覆う靴下100」、「底部110」、「布」、「縫合部130」、「履き口部140」、「接続領域121」は、それぞれ、本件発明1の「足のつま先部から踵部までを覆うフットカバー」、「底部」、「生地」、「縫合部」、「履き口部」、「被覆部同士の縫合部」に相当する。

そうすると、本件発明1と刊行物1発明1の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「足のつま先部から踵部までを覆うフットカバーであって、
底部と、
生地からなり、前記底部の周縁を取り囲んだ状態で前記底部との間で縫合部が形成されていると共に、前記足が入れられる履き口部を有する被覆部と、を備え、
前記被覆部は、前記履き口部を画成する端面を有しており、当該被覆部同士の縫合部を有していて、
前記履き口部は前記つま先部側から前記踵部側に向かっている、
フットカバー。」
<相違点1>
本件発明1は、「生地」が「伸縮性を有する生地」であって、「被覆部」が「履き口部を画成する端面」は、「無縫製で且つ当該端面の糸が解れない構造を有して」いるのに対し、刊行物1発明1は、「布」が伸縮性を有するか否か不明であり、「被覆部」の「履き口部140を画成する端面」が、「ゴムと、このゴムを被覆したレース等の布を有して」いるものである点。
<相違点2>
本件発明1の「被覆部」は、履き口部の周縁から底部にわたって被覆部同士の縫合部以外の厚みが「略同等」であるのに対し、刊行物1発明1の「被覆部」は、履き口部140の周縁から底部110にわたって接続領域121以外の厚みが不明である点。
<相違点3>
本件発明1では、「履き口部」は、「つま先部側から踵部側に向かって幅が狭くなっている」のに対し、刊行物1発明1では、「履き口部140」は、「つま先部側から踵部側に向かっている」ものの、幅が狭くなっているのか不明である点。

(イ)相違点についての検討

a.<相違点1>について
上記ア.(オ)に示した刊行物5の摘記事項には、下肢用衣類(トレンカ、レギンス)の足先開口部や踵開口部の周縁を折り返して縫着すると、ごろつき感が生じ快適な着用感が得られにくい(【0001】、【0003】)との課題があるところ、当該課題を解決するために、下肢用衣服を構成する伸縮性編地にほつれ止め機能を付与した上で、開口部を切りっぱなしとする技術(【0006】、【0026】)が示されている。
刊行物1発明1においても、履き口部を画成する端面がゴムと、このゴムを被覆したレース等の布を有しているから、ゴムによる若干の圧迫感は感じることもあり得るものの、刊行物1発明1のゴムは一般に靴下100が着用中に脱落するのを防止するために必要なものであり、その機能を果たす程度の締付力が求められるものである。一方、刊行物5のトレンカやレギンスの足先開口部や踵開口部は、その構造上、当該開口部の締付力が弱くてもトレンカやレギンスが身体から脱落することはないから、当該開口部の伸縮性編地の締付力は快適な着用感が得られる程度のものにすぎない。よって、刊行物1発明1のゴムについて刊行物5に記載された事項を適用する動機は生じないし、靴下を脱落させかねないような締付力の構成に変更することには阻害事由があるといえる。
また、刊行物3には、裁断後の端始末が不要であり、加工の手間を省くことができる編地が記載されてはいるものの、刊行物3の編地はもっぱらショーツ等の股付衣類のためのものであって、フットカバーの履き口のゴムに代えることの記載はないし、示唆する記載もない。同様に、刊行物4には、熱融着性ポリウレタン弾性繊維を含む編地を湿熱処理することで、伝線、ほつれ等の発生を抑えた足周り編地が記載されており、当該足回りの編地の用途としてフットカバーが記載されてはいるものの(【0113】)、履き口のゴムに代える記載はないし示唆する記載もない。そうすると、刊行物1発明1のゴムについて刊行物3、4に記載された事項を適用する動機は生じないし、例え刊行物5を参照して、刊行物1発明1に刊行物3、4に記載された事項を適用しても、靴下を脱落させかねないような構成を得ることは、当業者が容易に想到することができない。
そして、刊行物2にも、フットカバーの履き口のゴムに代えて、ほつれ止め機能を付された切りっぱなしとすることは、記載されていない。また、刊行物6?8には、滑り止め部材を備える事項が例示されるが、当該事項が従来周知の事項であったとしても、上記相違点1についての判断を左右するものではない。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る構成を有することで、フットカバーにおいて、着用中の脱落を抑制しつつ、履き口部にゴムが備えられることによる違和感が解消し着用感の向上を図ることができるという効果を奏するものであり、当該効果は刊行物1発明1、刊行物2?8事項、及び、上記従来周知の事項から当業者が予測し得るものとはいえない。
以上のとおりであるから、刊行物1発明1について、上記相違点1における本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

b.<相違点2>について
刊行物1発明1の「被覆部」は、履き口部140にゴムとこのゴムを被覆したレース等の布を有しており、ゴムや当該ゴムを被覆するレース等の布には厚さがあるから、被覆部の厚みを履き口部140の周縁から底部110にわたって接続領域121以外で略同等とするためには、当該ゴムやレース等の布を刊行物1発明1から取り去らなくてはならないことは、当業者にとって自明である。しかし、刊行物1には、そうすることの記載はないし示唆する記載もない。
刊行物2には、「甲被4」を伸縮性のある素材とすることが記載されているものの、履き口部について具体的な構成の記載はないから、「甲被4」を伸縮性のある素材とすることで、その伸縮性に起因する締付力のみで着用中のソックスの脱落を抑制し、もって、履き口部のゴムを省略可能とする技術までを読み取ることはできない。したがって、刊行物1発明1において、刊行物2に記載された事項を参照しても、履き口部のゴムやレース等の布を取り去ることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
そして、本件発明1は、上記相違点2に係る構成を有することで、フットカバーにおいて、段差による違和感が解消し着用感の向上を図ることができるという効果を奏するものであり、当該効果は刊行物1発明1、刊行物2事項から当業者が予測し得るものとはいえない。
以上のとおりであるから、刊行物1発明1において、履き口部140のゴムとこのゴムを被覆したレース等の布を取り去ることで、被覆部について、履き口部140の周縁から底部110にわたって接続領域121以外の厚みを略同等とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

c.<相違点3>について
本件発明は、本件特許明細書の【0029】によれば、「履き口部13は、つま先部側から踵部側に向かって幅が狭くなっている。したがって、フットカバー1では、着用中の脱落を抑制できる。」という技術的意義を有するものである。
一方、刊行物1の【図1】には、靴下100の履き口部140について上記ア.(ア)に示したとおりの図示がある。しかしながら、刊行物1の明細書中には履き口部140の形状について具体的な記載はなく、示唆する記載もない。よって、当業者は、【図1】を参照しても、当該【図1】に足との密着性を確保するために、履き口部140がつま先部側から踵部側に向かって幅を狭くしているという技術的思想を見出すことはなく、そのようにする動機が生じるものとは認められない。
さらに、刊行物2?8事項、及び、上記従来周知の事項を参照しても、履き口部をつま先部側から踵部側に向かって幅が狭くなるように構成する技術的思想は示されていないし、示唆する記載もない。
したがって、刊行物1発明1について、上記相違点3における本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、刊行物1発明1、刊行物2?8事項、及び、上記従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。よって、取消理由通知に記載した【理由3】によって、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

ウ.本件発明2?4について

本件発明2?4は、上記本件発明1を引用することにより、上記本件発明1の発明特定事項を全て有し、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている。そうすると、本件発明2?4は、上記イで示した理由と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。よって、取消理由通知に記載した【理由3】によって、本件発明2?4に係る特許を取り消すことはできない。

エ.本件発明5について

(ア)対比
本件発明5と刊行物1発明2とを対比する。上記イ.(ア)を参照して、両者の構造に対する相当関係を考慮すると、本件発明5と刊行物1発明2の一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「足のつま先部から踵部までを覆い、底部及び被覆部からなるフットカバーの製造方法であって、
前記底部を準備する工程と、
生地からなり、前記足が入れられる履き口部を画成する構造を有し、前記履き口部が前記つま先部側から前記踵部側に向かうようになる前記被覆部を準備する工程と、
前記底部と前記被覆部とを縫合する工程と、を含むことを特徴とするフットカバーの製造方法。」
<相違点4>
本件発明5は、「生地」が「伸縮性を有する生地」であって、「被覆部」が「履き口部を画成する端面」は、「無縫製で且つ当該端面の糸が解れない構造を有し」ているのに対し、刊行物1発明2は、「布」が伸縮性を有するか否か不明であり、「被覆部」の「履き口部140を画成する端面」は、ゴムと、このゴムを被覆したレース等の布を有するものである点。
<相違点5>
本件発明5の「被覆部」は、「全体にわたって厚みが略同等」であるのに対し、刊行物1発明2の「側部120」と「履き口部140」からなる「被覆部」は、厚みが不明である点。
<相違点6>
本件発明5では、「履き口部」は、「つま先部側から踵部側に向かって幅が狭くなる」のに対し、刊行物1発明2では、「履き口部」は、つま先部側から踵部側に向かって幅が狭くなるのか、不明である点。
<相違点7>
本件発明5では、「生地」が「略U字形状を呈する」のに対し、刊行物1発明2は、「布」が略U字形状を呈するのか不明である点。

(イ)相違点についての検討
a.<相違点4>について
刊行物1発明2において、履き口部140を画成する端面はゴムを有するから、刊行物2発明2の製造方法により製造される靴下は、ゴムにより着用中の脱落を抑制するものである。そうすると、上記イ.(イ)a.で検討した<相違点1>のように、刊行物1発明2の製造方法の靴下100について、刊行物2?8事項及び上記従来周知の事項を参照しても、履き口部のゴムに代えて、履き口部を画成する端面をほつれ止め機能が付与された切りっぱなしとした上で、被覆部を伸縮性を有する生地から構成することは、当業者であっても容易であるとはいえない。
また、本件発明5は、上記相違点4にかかる構成を有することで、着用中の脱落を抑制しつつ、履き口部にゴムが備えられることによる違和感が解消し着用感の向上を図ることができるフットカバーを製造することができるという効果を奏するものであり、当該効果は刊行物1発明2、刊行物2?8事項及び上記従来周知の事項から当業者が予測し得るものとはいえない。
以上のとおり、刊行物1発明2について、上記相違点4における本件発明5に係る構成を備えたものとすることは、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。

b.<相違点5>について
刊行物1発明2では、被覆部は、布で形成された側部120と、ゴムと、ごのゴムを被覆するレース等の布を有する履き口部140からなるものであるが、このような被覆部を全体にわたって厚みを略同等とすることは、当業者にとって自明ではなく、刊行物1にそうすることの記載はないし示唆する記載もない。
また、上記イ.(イ)b.で検討した<相違点2>のように、刊行物1、2を参照しても、上記ゴムと、このゴムを被覆するレース等の布を取り去ることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
そして、本件発明5は、上記相違点5に係る構成を有することで、段差による違和感が解消し着用感の向上を図ることができるフットカバーを製造することができるという効果を有するものであり、当該効果は刊行物1発明2、刊行物2事項から当業者が予測し得るものとはいえない。
以上のとおりであるから、刊行物1発明2において、被覆部を全体にわたって厚みを略同等とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

c.<相違点6>について
上記イ.(イ)c.で検討した<相違点3>のように、刊行物1において、履き口部がつま先部側から踵部側に向かって幅が狭くなるとの技術的思想が示されているとはいえず、当該構成とする動機も示されていない。また、刊行物2?8事項、及び、上記従来周知の事項を参照しても、履き口部をつま先部側から踵部側に向かって幅が狭くなるように構成する技術的思想が記載ないし示唆されていない。
よって、刊行物1発明2について、上記相違点6における本件発明5に係る構成を備えたものとすることは、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。

d.<相違点7>について
刊行物1に記載された【図1】及び【図2】は、刊行物1発明2の製造方法で製造された靴下を概略的に示す平面図及び側面図である。両図から、側部120となる布を平置きした際の形状を考えると、当該形状は、靴下のつま先部となる部分で、足のそれぞれの側部に位置し図上下方へ伸びる部分を構成する生地が接続される形状を有している。このような形状は、おおよそ「U」の字と同じ形状であるといえる。
したがって、刊行物1発明2の「布」の形状も、略U字形状を呈するから、上記相違点7における本件発明5に係る構成は、実質的な相違点ではない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明5は、刊行物1発明2、刊行物2?8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、取消理由通知に記載した【理由3】によって、本件発明5に係る特許を取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足のつま先部から踵部までを覆うフットカバーであって、
底部と、
伸縮性を有する生地からなり、前記底部の周縁を取り囲んだ状態で前記底部との間で縫合部が形成されていると共に、前記足が入れられる履き口部を有する被覆部と、を備え、
前記被覆部は、前記履き口部を画成する端面が無縫製で且つ当該端面の糸が解れない構造を有しており、前記履き口部の周縁から前記底部にわたって当該被覆部同士の縫合部以外の厚みが略同等であり、
前記履き口部は、前記つま先部側から前記踵部側に向かって幅が狭くなっていることを特徴とするフットカバー。
【請求項2】
前記底部の底面には、前記つま先部側に、当該底面よりも摩擦係数の高い滑り止め部材が設けられており、
前記底部の内側面には、前記つま先部側に、衝撃吸収部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載のフットカバー。
【請求項3】
前記被覆部の内側面には、前記踵部に対応する位置に、当該内側面よりも摩擦係数の高い滑り止め部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のフットカバー。
【請求項4】
前記つま先部側に開口部が設けられていることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項記載のフットカバー。
【請求項5】
足のつま先部から踵部までを覆い、底部及び被覆部からなるフットカバーの製造方法であって、
前記底部を準備する工程と、
伸縮性を有する生地からなり、略U字形状を呈すると共に、全体にわたって厚みが略同等であり、且つ前記足が入れられる履き口部を画成する端面が無縫製で且つ当該端面の糸が解れない構造を有し、前記履き口部が前記つま先部側から前記踵部側に向かって幅が狭くなる前記被覆部を準備する工程と、
前記底部と前記被覆部とを縫合する工程と、を含むことを特徴とするフットカバーの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-07-05 
出願番号 特願2013-84867(P2013-84867)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A41B)
P 1 651・ 121- YAA (A41B)
P 1 651・ 55- YAA (A41B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 一ノ瀬 薫  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 久保 克彦
西藤 直人
登録日 2016-09-23 
登録番号 特許第6007423号(P6007423)
権利者 ブロンドール株式会社
発明の名称 フットカバー及びフットカバーの製造方法  
代理人 野田 雅一  
代理人 山口 和弘  
代理人 野田 雅一  
代理人 池田 成人  
代理人 山口 和弘  
代理人 池田 成人  

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