• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1343875
異議申立番号 異議2017-701131  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-30 
確定日 2018-08-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6137516号発明「ポリカーボネート樹脂組成物および光学用成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6137516号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6137516号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6137516号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2016-233009号。以下、「本願」という。)は、平成27年3月26日出願の特願2015-64120号、平成27年9月15日出願の特願2015-181805号を優先基礎出願とする優先権主張を伴って、出願人住化ポリカーボネート株式会社(合議体注;出願時の名称は、住化スタイロンポリカーボネート株式会社)によりなされた、平成28年3月24日を国際出願日とする特許出願(特願2016-547118号)の一部を、平成28年11月30日に新たな特許出願としたものであって、平成29年5月12日に特許権の設定登録がされ、同年5月31日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人出光興産株式会社(以下、「申立人」という。)により、請求項1?7に係る本件特許について、特許異議の申立てがされ、平成30年2月5日付けで取消理由が通知され、特許権者より同年4月10日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年6月5日に申立人から意見書が提出された。

第2 訂正の適否についての判断
1.請求の趣旨
平成30年4月10日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6137516号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲の通り、訂正後の請求項1?7について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1に、
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、」と記載されているのを、
「ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?7も同様に訂正されることになる。)

(2)訂正事項2
請求項1に、
「前記一般式(1)で表される溶融粘度調整剤(B)」と記載されているのを、
「前記溶融粘度調整剤(B)」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?7も同様に訂正されることになる。)

(3)訂正事項3
請求項2に、
「前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、下記一般式(5)、(6)及び(7)で表される化合物から選択された1種以上の化合物である、請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.78を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であり、
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、下記一般式(5)及び(6)で表される化合物から選択された1種以上の化合物である、ポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
また、請求項2の一般式(7)についての記載を削除する。
(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正されることになる。)

(4)訂正事項4
請求項2に、
「一般式(6):
【化2】


と記載されているのを、
「一般式(6):
【化2】


に訂正する。
(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正されることになる。)

(5)訂正事項5
請求項3に、
「前記一般式(5)で表される化合物が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトである、請求項2記載のポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエ-テル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であり、
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトである、ポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正されることになる。)

(6)訂正事項6
請求項4に、
「前記一般式(6)で表される化合物が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンである、請求項2記載のポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であり、
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)(式中、m及びnは、それぞれ独立に、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンである、ポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正されることになる。)

(7)訂正事項7
請求項5に、
「前記一般式(7)で表される化合物が、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンであることを特徴とする、請求項2記載のポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正されることになる。)

(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0010】に、
「すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、」と記載されているのを、「すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、」に訂正する。

(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0010】に、「一般式(1)で表される溶融粘度調整剤(B)」と記載されているのを、「溶融粘度調整剤(B)」に訂正する。

3.一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)一群の請求項について
訂正事項1?7による本件訂正は、訂正前の請求項1?7を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?7は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?7は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であって、訂正事項1?7による本件訂正は、同規定による一群の請求項ごとにされたものである。

(2)訂正事項1による訂正について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明において、ポリカーボネート樹脂組成物が、「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなる」と特定されており、該組成物中に(A)?(C)以外の成分を含有し得るものであったのを、「ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、」との特定を付加して、組成物が、(A)?(C)からなるもの(つまり、他の成分を含有しないもの)に限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1に関し、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書」という。)の【0087】及び表2の実施例17、18には、(A)?(C)からなるポリカーボネート樹脂組成物が記載されていたから、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項5?7についての訂正も同様である。)

(3)訂正事項2による訂正について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に、「前記一般式(1)で表される溶融粘度調整剤(B)」と記載されている一方で、請求項1には一般式(1)が記載されていない点で、請求項1の記載に不整合があったのを、「前記一般式(1)で表される」を削除して、不整合を是正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の請求項1には、「前記一般式(1)で表される溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり」と記載され、溶融粘度調整剤(B)は、請求項1に記載の式(4)で表されるポリエーテル誘導体を意味するものであったところ、訂正事項2による訂正によりその点は何ら変わっていない。
よって、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正前の請求項2を引用する請求項5?7についての訂正も同様である。)

(4)訂正事項3による訂正について
訂正事項3は、(i)訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めると共に、(ii)訂正前の請求項2が引用する請求項1では、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2の範囲が「0.45≦η1/η2≦0.95」とされていたのを、本件特許明細書の表2の実施例17におけるη1/η2の値0.78に基づいて上限を縮小して、「0.45≦η1/η2≦0.78」に限定すると共に、(iii)訂正前の請求項2に択一的に記載されていた一般式(7)で表される化合物を削除し、(vi)請求項1について訂正事項2でしたと同様の訂正をするものであるから、訂正事項3は、請求項間の引用関係の解消、及び、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正前の請求項2を引用する請求項6?7についての訂正も同様である。)

(5)訂正事項4による訂正について
訂正事項4は、訂正前の請求項2に記載された一般式(6)と、同式(6)の定義の説明の記載とが不整合であったのを、一般式(6)を、本件特許明細書の【0039】に、訂正前の請求項2に対応する式(6)の定義の説明と共に記載されていた一般式(6))に変更することで、記載を一致させるものであるから、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正前の請求項2を引用する請求項6?7についての訂正も同様である。)

(6)訂正事項5による訂正について
訂正事項5は、(i)訂正前の請求項3が、訂正前の請求項1を引用する請求項2を更に引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めると共に、(ii)訂正前の請求項3が引用する訂正前の請求項2に択一的に記載されていた一般式(5)及び(6)に相当する部分の選択肢を削除し、訂正前の請求項3に一般式(5)で表される化合物として特定されていた具体的な化合物に限定し、(iii)請求項1について訂正事項2でしたのと同様の訂正をするものであるから、訂正事項5は、請求項間の引用関係の解消、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項5は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正前の請求項3を引用する請求項6?7についての訂正も同様である。)

(7)訂正事項6による訂正について
訂正事項6は、(i)訂正前の請求項4が訂正前の請求項1を引用する請求項2を更に引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めると共に、(ii)訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項2に択一的に記載されていた一般式(5)及び(7)に相当する部分の選択肢を削除し、訂正前の請求項4に一般式(6)で表される化合物として特定されていた具体的な化合物に限定し、(iii)請求項1について訂正事項2でしたのと同様の訂正をするものであるから、訂正事項6は、請求項間の引用関係の解消、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項6は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正前の請求項4を引用する請求項6?7についての訂正も同様である。)

(8)訂正事項7による訂正について
訂正事項7は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の請求項1及び2の記載を引用する記載であったものを、請求項1のみを引用するものとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、訂正事項7は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正前の請求項5を引用する請求項6?7についての訂正も同様である。)

(9)訂正事項8及び9による訂正について
訂正事項8及び9は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、上記(2)において、訂正事項1について記載したと同様に、訂正事項8及び9は新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(10)まとめ
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項ごとにされたものであるし、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項ないし第6項に適合するものであるから、本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)。

「【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であることを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.78を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であり、
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、下記一般式(5)及び(6)で表される化合物から選択された1種以上の化合物である、ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(5):
【化1】


(式中、R^(1)は、炭素数1?20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、aは、0?3の整数を示す。)
一般式(6):
【化2】

(式中、R^(2)、R^(3)、R^(5)及びR^(6)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?8のアルキル基、炭素数5?8のシクロアルキル基、炭素数6?12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7?12のアラルキル基又はフェニル基を示す。R^(4)は、水素原子又は炭素数1?8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR^(7)-(ここで、R^(7)は、水素原子、炭素数1?8のアルキル基又は炭素数5?8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1?8のアルキレン基又は式:*-COR^(8)-(ここで、R^(8)は、単結合又は炭素数1?8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1?8のアルコキシ基又は炭素数7?12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1?8のアルキル基を示す。)
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であり、
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトである、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であり、
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンである、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む、光学用成形品。
【請求項7】
前記成形品が導光板である、請求項6に記載の光学用成形品。」


第4 特許異議の申立て及び取消理由通知の概要

1.特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
訂正前の請求項1?7に係る特許に対し、申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、本件訂正前の請求項1?7に係る発明についての優先権主張の効果は認められず、これらの請求項に係る発明についての本件特許は、次の(1)?(2)のとおりの取消理由により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、下記(3)の甲第1号証?甲第7号証を提出した。(以下、それぞれ「甲1」?「甲7」ともいう。)

(1)取消理由1(先願明細書に記載された発明(拡大先願))
本件特許の請求項1、2、5?7に係る発明は、本件特許の原出願の出願前の特許出願であって、本件特許の原出願の出願後に国際公開された下記の甲第1号証に係る国際出願の国際出願日における明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、その出願人又は発明者が同一ではないから、特許法第184条の13で読み替える同法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1、2、5?7に係る本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(甲第3号証を主たる引用文献とする進歩性)
請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載の技術的事項に基いて、また、請求項2?7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証?甲第5号証に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1?7に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)証拠方法
甲1:PCT/JP2015/079239号の国際出願日における明細書、請求の範囲及び図面(国際出願日は、2015年10月15日、優先権主張 2014年10月17日(特願2014-212778号)、国際公開第2016/060220号参照。)
以下、甲1に係る国際出願の国際出願日における明細書、特許請求の範囲又は図面を、「先願明細書」という。
甲2:出光興産株式会社の社員である鳥居孝洋及び山崎康宣が作成した平成29年11月29日付の「実験成績証明書」
甲3:特開2015-93913号公報
甲4:特開2013-231899号公報
甲5:国際公開第2015/087526号
甲6:特願2015-64120号の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲
甲7:特願2015-181805号の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲

2.当審合議体が通知した取消理由
本件訂正前の請求項1?7に係る発明に対して、当審合議体は、平成30年2月5日付け取消理由通知書において、本件訂正前の請求項1?7に係る発明についての優先権主張の効果は認められないとした上で、概略以下の取消理由を通知した。

<取消理由A(明確性):当審合議体が職権で通知したもの>
請求項1?7に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるために特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

<取消理由B(先願明細書に記載された発明(拡大先願)):申立人の主張する取消理由1と同旨>
本件特許の請求項1、2、5?7に係る発明は、本件特許の原出願の出願前の特許出願であって、本件特許の原出願の出願後に国際公開された甲1に係る先願明細書に記載された発明と同一であり、その出願人又は発明者が同一ではないから、特許法第184条の13で読み替える同法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1、2、5?7に係る本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。


第5 当審の判断
以下に述べるように、平成30年2月5日付け取消理由通知書に記載した取消理由及び申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、訂正後の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
以下、事案に鑑み、まず、本件特許の優先権主張の効果の有効性について検討した後、取消理由については、取消理由通知書に採用した取消理由(取消理由A及びB)、取消理由通知書において採用しなかった特許異議の申立ての理由(取消理由2)の順で検討する。

1.本件特許の優先権主張の効果の有効性について
本件発明1?7に関し、請求項1に記載の溶融粘度調整剤である一般式(4)の化合物は、本件特許に係る出願の優先権の基礎となる出願(特願2015-064120号(申立人の提出した甲6である。)及び特願2015-181805号(申立人の提出した甲7である。)、以下、これらをまとめて「優先権基礎出願」という。)の出願書類には記載されていない事項である。
優先権基礎出願には、溶融粘度調整剤として、本件特許明細書の【0022】に記載の一般式(1)の化合物は記載されていたが、当該一般式を満たす具体的な化合物である本件請求項1に記載される一般式(4)、一般式(4)に該当する具体的化合物である化合物B5、及び、化合物B5を使用した実施例17、18及び比較例5、6は記載されておらず、かかる技術的事項は、本件特許に係る原出願の現実の出願日である平成28年3月24日出願の国際出願(PCT/JP2016/001711号)の明細書等において初めて記載されたものである。

したがって、本件発明1?7については、優先基礎出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないから、本件発明1?7についての、優先権の主張の効果は認められない。


2.取消理由A(明確性)について
当審合議体が取消理由Aに関して、具体的に指摘した記載不備は以下のとおりである。
(1)請求項1には、「前記一般式(1)」と記載されているが、請求項1には一般式(1)が記載されていないから、本件発明1は不明確である。請求項1を引用する本件発明2?7も不明確である。
(2)請求項2に記載される一般式(6)は、式(6)自体と、同式(6)の定義の説明の記載とが整合していないから本件発明2は不明確である。請求項2を引用する本件発明3?7も同様である。
(3)請求項2において、一般式(7)の定義として記載される「a、b」は、「b、c」の誤記と認める。

そこで、検討すると、まず(1)の記載不備については、本件訂正により、訂正前の請求項1に記載されていた「一般式(1)で表される」との記載は削除されたから、本件発明1では、上記の記載不備は解消している。また、本件訂正により、請求項1を引用しない形式に訂正された本件発明2?4についても同様の訂正がされ、(1)の記載不備は解消している。訂正後の請求項1を引用する請求項5、及び、訂正後の請求項1?5を直接的あるいは間接的に引用する請求項6?7についても同様である。
次に、(2)の記載不備については、本件訂正により、訂正前の請求項2に記載されていた一般式(6)が、願書に添付した明細書の【0039】に記載の一般式(6)に訂正され、訂正後の請求項2の一般式(6)と同式の定義の説明の記載に不整合があった点の記載不備は解消した。(訂正後の請求項2を引用する訂正後の請求項6及び7に係る発明についての記載不備も同様に解消した。)また、訂正後の請求項3?5から記載不備のあった一般式(6)は削除されたから、この点の記載不備はもはや存在しない。
(3)の記載不備については、本件訂正により、訂正前の請求項2に記載されていた一般式(7)及びその定義の記載は削除されたから、(3)の記載不備はもはや存在しない。

以上のとおり、本件訂正後の本件発明1?7では、上記(1)?(3)の記載不備は解消しており、本件発明1?7は明確である。
よって、取消理由Aによって、本件発明1?7についての特許を取り消すことはできない。


3.取消理由B(先願明細書に記載された発明)について
1.で記載したとおり、本件発明1?7については優先権主張の効果が及ばないから、取消理由Bについての検討における、本件発明1、2、5?7についての判断の基準日は、本件特許に係る原出願の現実の出願日である平成28年3月24日となる。

(1)先願明細書に記載の発明
先願明細書の請求項1及び実施例5、6、8及び12によれば、先願明細書には、次の発明(以下、「先願実施例発明」という。)が記載されていると認められる。

「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1)「タフロンFN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=14500)あるいは(A2)「タフロンFN1200」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=11500) 100質量部に対して、
アリール基を有するリン系化合物である(B1)「Doverphos S-9228PC」(Dover Chemical社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05?0.1質量部、
ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテル化合物である、(C4)「ユニルーブ 50DE-25」(日油(株)製、ポリオキシエチレングリコール-ポリオキシプロピレングリコール) 0.2?0.6質量部、
「KR-511」(信越化学工業(株)製、ポリオルガノシロキサン化合物) 0.05質量部、及び、
「セロキサイド 2021P」(ダイセル化学工業(株)製、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート) 0.02質量部
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」

また、先願明細書の比較例5?8によれば、先願明細書には、次の発明(以下、「先願比較例発明」という。)が記載されていると認められる。

「芳香族ポリカーボネート樹脂である(A1)「タフロンFN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=14500)、あるいは、(A2)「タフロンFN1200」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=11500) 100質量部に対して、
リン系化合物である(B3)「アデカスタブPEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05?0.1質量部、
ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテル化合物(C)である、(C4)「ユニルーブ 50DE-25」(日油(株)製、ポリオキシエチレングリコール-ポリオキシプロピレングリコール) 0.2?0.4質量部、
「KR-511」(信越化学工業(株)製、ポリオルガノシロキサン化合物) 0.05質量部、及び、
「セロキサイド 2021P」(ダイセル化学工業(株)製、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート) 0.02質量部
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」

(2)本件発明1について
本件発明1は、第3で記載したとおりのものである。

本件発明1と、先願実施例発明あるいは先願比較例発明(以下、これらの発明をまとめて、「先願発明」ともいう。)を対比すると、先願発明の「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1)『タフロンFN1500』(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=14500)、及び、(A2)『タフロンFN1200』(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=11500)」は、いずれも、本件発明1の、「ポリカーボネート樹脂(A)」に相当する。
また、先願発明の「ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテル化合物である、(C4)「ユニルーブ 50DE-25」(日油(株)製、ポリオキシエチレングリコール-ポリオキシプロピレングリコール)」は、本件発明1の「(B)」成分である、「一般式(4)(当審合議体注;一般式(4)の記載は省略する。)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000」であるものに相当するし、先願発明の「アリール基を有するリン系化合物である(B1)『Doverphos S-9228PC』(Dover Chemical社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)」、及び、「リン系化合物である(B3)「アデカスタブPEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト」は、いずれも、本件発明1の「亜リン酸エステル系化合物(C)」に相当する。
さらに、先願発明における、(A1)あるいは(A2)100質量部に対する、(B1)あるいは(B3)、及び、(C4)の配合量範囲は、本件発明1の配合量範囲に含まれる。

そうすると、本件発明1と先願発明は、
<一致点>
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であるポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)」
で一致する。

そして、本件発明1と先願発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。

<相違点1>
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物について、本件発明1では、「ポリカーボネート樹脂(A)と、・・・(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり」と、(A)?(C)の成分からなり、他の成分は含まれないものとして特定されているのに対して、先願発明では、(A)?(C)の他に、「「KR-511」(信越化学工業(株)製、ポリオルガノシロキサン化合物) 0.05質量部」、(以下、「ポリオルガノシロキサン(D)」という。)及び、「「セロキサイド 2021P」(ダイセル化学工業(株)製、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート) 0.02質量部」(以下、「脂環式エポキシ(E)」という。)を含有するものとして特定されている点。

そうすると、本件発明1と先願発明1とは、少なくとも相違点1で相違するのであるから、本件発明1について先願発明と同一であるということはできない。

これに関し、申立人は、平成30年6月5日提出の意見書の4-1.(2)において、上記の相違点は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)にすぎないから、本件発明1と先願発明は、実質同一である旨主張している。
そこで、まず、先願発明が先願比較例発明である場合について検討すると、当業者は、比較例発明に更なる変更を加える動機付けがあるとはいえないから、本件発明1は先願発明と実質同一にはなりえない。

次に、先願発明が先願実施例発明である場合について検討する。
先願明細書の[0007]の記載によれば、近年、導光板の更なる薄肉化が進んでおり、340℃を超える温度、特に360℃を超える温度で成形を行う場合があり、更なる改良が求められている一方、薄肉化が不要な一部の小型導光板は、280℃前後の低温で成形されているため、より幅広い温度域で黄変することなく成形可能な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が求められている。
そして、従来技術である特許文献3(国際公開第2013/088796号)の方法(これは、[0005]によれば、高温成形での熱安定性に優れ、また、光線透過率及び輝度に優れ、耐湿熱試験後に変色や内部クラックが発生しない成形品を得ることができる樹脂組成物を提供することを目的として、芳香族ポリカーボネート樹脂に特定のジフォスファイト化合物及び脂環式エポキシ化合物を含有させた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関するものであり、340℃を超える温度にて黄変せずに成形可能である。)では、高温成形での熱安定性には優れるものの、300℃未満の成形温度域では十分な性能を発現できないという問題があった。
そして、先願明細書の[0007]によれば、先願明細書の請求項1に係る発明が解決しようとする課題は、「幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下のないポリカーボネート樹脂組成物を提供すること」であるところ、先願明細書の請求項1に係る発明(これは、先願実施例発明をその具体的態様として含む。)は、この問題を解決するものであって、[0008]によれば、「芳香族ポリカーボネート樹脂に、耐熱性と耐加水分解性に優れた特定のリン系化合物とポリエーテル化合物とを特定量配合することで、幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下のないポリカーボネート樹脂組成物を得ることができることを見出し」て、先願明細書の請求項1に係る発明を完成したとされている。
また、先願明細書の[0023]には、「国際公開第2013/088796号には、耐熱性及び耐加水分解性の両要求特性を満足できる酸化防止剤として、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトに代表される特定のジフォスファイト系酸化防止剤が有効であることが開示されている。しかし、国際公開第2013/088796号の方法では、耐湿熱性の観点から脂環式エポキシ化合物を必要とする。また、この方法では、高温成形での熱安定性には優れるものの、300℃未満の成形温度域では十分な性能を発現できない。」と記載されており、先願実施例発明の「脂環式エポキシ(E)」は、耐湿熱性の観点から必要とされている。

ここで、先願明細書の実施例においては、光学特性の色調を、280℃の低温成形条件及び360℃の高温成形条件で製造した試験片のYI値、及び、高温成形で色調を低下させる黄変原因物とされる、ポリカーボネート樹脂由来のo-ヒドロキシアセトフェノンの生成量で評価し([0037])、また、360℃の高温成形条件で製造した試験片の、温度85℃、相対湿度95%環境下での500時間暴露による耐湿熱試験におけるYI値で評価されている([0057]及び[0059]の表1)。
すなわち、先願明細書の実施例においては、先願明細書に従来技術として記載されていた特許文献3(国際公開第2013/088796号)において、耐湿熱性の観点から必要とされていた「脂環式エポキシ(E)」が配合され、耐湿熱試験におけるYI値の評価もされている。
そうすると、耐湿熱性の観点から「脂環式エポキシ(E)」が配合され、耐湿熱性が評価されている先願実施例発明において、組成物中の成分から、「脂環式エポキシ(E)」を除外することが、先願実施例発明における課題解決のための具体化手段における微差にすぎないとすることはできない。
よって、本件発明1は先願実施例発明と実質同一であるとはいえず、申立人の主張は採用できない。

以上のとおり、本件発明1は先願発明と実質同一であるとはいえない。

(3)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の亜リン酸エステル系化合物(C)を、「3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン」に限定するものである。
そして、この化合物は、先願比較例発明のリン系化合物(B3)(「アデカスタブPEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)と同じ化合物である。
そうすると、本件発明5と先願比較例発明とに新たな相違点はなく、両発明の一致点は、(2)で記載した一致点であるし、両発明は、少なくとも(2)で記載した相違点1で相違している。

そして、相違点1についての判断は、(2)で本件発明1について説示したと同様であり、本件発明5は、先願明細書に記載された発明であるとはいえない。

(4)本件発明2について
(2)における本件発明1と先願比較例発明との対比を踏まえて、本件発明2と先願比較例発明を対比すると、訂正前の請求項2に係る発明においては、亜リン酸エステル系化合物(C)として、先願比較例発明のリン系化合物(B3)(「アデカスタブPEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)に相当する化合物が、「一般式(7)」として包含されていたが、訂正により、本件発明2は「一般式(7)」の化合物を含まなくなった。そうすると、本件発明2と先願比較例発明は、以下の点で一致し、少なくとも以下の相違点2で相違する。

<一致点>
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であるポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)」

<相違点2>
ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる亜リン酸エステル系化合物(C)について、本件発明1では、「下記一般式(5)及び(6)で表される化合物から選択された1種以上の化合物」(合議体注:一般式(5)及び(6)の記載は省略する。)と特定されているのに対して、先願比較例発明では、(一般式(7)の化合物に相当する)「(B3)「アデカスタブPEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)と特定されている点。

そうすると、本件発明2と先願比較例発明とは、相違点2で相違するのであるから、本件発明2が先願比較例発明と同一であるということはできない。

(5)本件発明6及び7について
取消理由通知の対象となっている本件発明6は、請求項1、2または5に記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む光学用成形品の発明であり、また、取消理由通知の対象となっている本件発明7は、本件発明6を更に限定した発明であって、いずれも、本件発明1、2又は5の発明特定事項を発明特定事項として包含している。
そうすると、本件発明6及び7と先願発明とは、少なくとも、(2)で記載した相違点1で相違しており、上記(2)?(4)で記載したと同様の理由によって、本件発明6及び7は、先願発明と同一とはいえない。

なお、本件発明2、4、5について、申立人は、意見書の4-2.?4-4.において、新たに特許法第36条第6項第1号に基づく取消理由を主張しているが、この取消理由は、申立書には記載されていなかった理由であり、採用できない。


(6)まとめ
以上のとおり、本件発明1、2、5?7はいずれも、先願発明(先願明細書に記載された発明)であるとはいえない。
よって、取消理由Bによって、本件発明1、2、5?7についての特許を取り消すことはできない。


4.取消理由2(甲第3号証を主たる引用文献とする進歩性)について
1.で記載したとおり、本件発明1?7については優先権主張の効果が及ばないから、本件発明1?7についての進歩性の判断の基準日は、本件特許に係る原出願の現実の出願日である平成28年3月24日となり、甲3は、本件特許の原出願の出願時に公知の刊行物となる。

(1)甲3に記載の発明
甲3の実施例1?3及び5によれば、以下の発明が記載されている。

「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1):「タフロンFN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:14,500) 100質量部、
ポリエーテル化合物である、(b1-1):「ポリセリンDC1100」(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール) 0.2質量部 、
酸化防止剤である、(C1):「Doverphos S-9228PC」(ドーバーケミカル社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05質量部、
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」(以下、「甲3実施例1発明」という。)

「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1):「タフロンFN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:14,500) 100質量部、
ポリエーテル化合物である、(b1-2):「ポリセリンDC3000E」(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール) 0.2質量部 、
酸化防止剤である、(C1):「Doverphos S-9228PC」(ドーバーケミカル社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05質量部、
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」(以下、「甲3実施例2発明」という。)

「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1):「タフロンFN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:14,500) 100質量部、
ポリエーテル化合物である、(b1-1):「ポリセリンDC1100」(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール) 0.4質量部 、
酸化防止剤である、(C1):「Doverphos S-9228PC」(ドーバーケミカル社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05質量部、
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」(以下、「甲3実施例3発明」という。)

「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A2):「タフロンFN1200」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:11,500) 100質量部、
ポリエーテル化合物である、(b1-4):「ユニルーブ 50DB-22」(日油(株)製、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ビスフェノールAエーテル) 0.2質量部、
酸化防止剤である、(C1):「Doverphos S-9228PC」(ドーバーケミカル社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05質量部
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」(以下、「甲3実施例5発明」という。)」

また、甲3実施例1発明?甲3実施例3発明、甲3実施例5発明をあわせて「甲3発明」ともいう。

(2)本件発明1について
本件発明1と、甲3発明を対比すると、甲3発明の「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1)『タフロンFN1500』(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=14,500)、及び、(A2)『タフロンFN1200』(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=11,500)」は、いずれも、本件発明1の、「ポリカーボネート樹脂(A)」に相当する。
また、甲3発明の「ポリエーテル化合物である、「(b1-1):『ポリセリンDC1100』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、(b1-2):『ポリセリンDC3000E』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、「(b1-4):『ユニルーブ 50DB-22』(日油(株)製、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ビスフェノールAエーテル)」は、本件発明1の「(B)」成分である、「ポリエーテル誘導体」に相当するし、酸化防止剤である、「(C1):『Doverphos S-9228PC』(ドーバーケミカル社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)」は、本件発明1の「亜リン酸エステル系化合物(C)」に相当する。
さらに、甲3発明における、(A1)あるいは(A2)100質量部に対する、(b1-1)、(b1-2)、(b1-4)、及び、(C1)の配合量は、本件発明1の配合量範囲に含まれる。

そうすると、本件発明1と甲3発明は、
<一致点>
「ポリカーボネート樹脂(A)と、(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記(B)が、ポリエーテル誘導体である、ポリカーボネート樹脂組成物。」
で一致する。

そして、本件発明1と甲3発明とは、少なくとも、以下の2つの点で相違する。

<相違点3>
ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる(B)のポリエーテル誘導体について、本件発明1では、「一般式(4): HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)」、「重量平均分子量が1000?4000」と特定されているのに対して、甲3発明では、「(b1-1):『ポリセリンDC1100』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、「(b1-2):『ポリセリンDC3000E』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、「(b1-4):『ユニルーブ 50DB-22』(日油(株)製、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ビスフェノールAエーテル)」のいずれかであり、その重量平均分子量も不明である点。
<相違点4>
本件発明1では、「測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たす」と特定されているのに対し、甲3発明ではこのような特定はない点。

そこで、まず、相違点3について検討すると、甲3には、本件発明1の(B)のポリエーテル誘導体に相当する「ポリエーテル化合物」に関し、【0031】に、一般式(II)として、本件発明1の一般式(4)の化合物を概念上包含し得る化合物は記載されているが、【0037】に一般式(II)で表される化合物(b1-1)の具体例として多数列記される中にも、実施例にも、本件発明1の化合物に相当するものは記載されていない。

そして、申立人は、相違点3に関連して、甲4を提示し、甲3発明において、ポリエーテル化合物を、甲4の【0033】に記載されるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合物に変更して、本件発明1に係る発明の構成を備えたものとすることは当業者にとって容易である旨主張する。
しかしながら、甲4において実施例で具体的に使用されているポリエーテル化合物は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールの両末端ステアレートであって、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合物は使用されておらず、【0033】に一般記載として記載されているのみであるし、甲4には、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合物の重量平均分子量を1000?4000とすることも、本件発明1で特定される一般式(4)を満足する化学構造のものとすることも具体的には記載されていない。
そうすると、甲4の記載に接した当業者が、甲3のポリエーテル化合物を変更する際に、甲3に多数列記される例にも記載されておらず、甲4の実施例においても使用されていない、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合物であって、重量平均分子量が1000?4000で、かつ、一般式(4)を満足する化学構造であるものを採用する動機付けはない。申立人が提示した他の証拠を参酌しても同様である。

ところで、本件発明1(?7)の課題は、本件特許明細書の【0008】によれば、「ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性に優れ、光線透過率が高く、しかも高温で成形加工した場合でも光線透過率に優れるポリカーボネート樹脂組成物を提供する」ことであるところ、本件特許明細書の【0009】には、当該課題の解決手段に関し、「ポリカーボネート樹脂(A)に溶融粘度調整剤(B)及び亜リン酸エステル系化合物(C)を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物において、当該ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度とそれに含まれるポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度の比が特定範囲の値を満たすようにすることにより高温で成形した場合でも光線透過率の低下が無く色相ならびに輝度の良好なポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。」と記載されており、本件発明1(?7)の課題解決に、上記相違点4に係る本件発明1の構成とすること(溶融粘度η2の比η1/η2を特定の範囲とすること)が重要な意義を有する。
そして、この相違点4に係る本件発明1の構成(溶融粘度η2の比η1/η2を特定の範囲とすること)に寄与するために、本件発明1では、ポリエーテル誘導体の粘度調整剤としての機能に着目して、特定のポリエーテル誘導体を特定量配合するものとしている。
一方、甲3や甲4をはじめ申立人が提示した他の証拠にも、測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たすものとすることにより、「ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性に優れ、光線透過率が高く、しかも高温で成形加工した場合でも光線透過率に優れるポリカーボネート樹脂組成物を提供する」という本件発明1の課題が解決できることは記載も示唆もされていないし、そのような特定の範囲の溶融粘度η2の比η1/η2のポリカーボネート樹脂組成物とするために、一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体を採用することを示唆する記載もない。

そうすると、甲4に記載の技術的事項(、及び、申立人が提示した他の証拠)を参酌しても、甲3発明について、相違点3及び相違点4に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

よって、本件発明1は、甲3に記載された発明(甲3発明)に甲4(さらには申立人が提示した他の証拠)に記載の技術的事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明3?7について
本件発明3?5及び請求項1、3?5を引用する本件発明6、7は、いずれも、本件発明1と同様に、
「測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし」(上記相違点4に係る本件発明1の構成と同じ。)、
「前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000」で、
「一般式(4)が、「HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)」
(上記相違点3に係る本件発明1の構成と同じ。)との発明特定事項を含んでおり、これらの本件発明は、甲3発明と、少なくとも上記相違点3及び4の点で相違している。

そして、相違点3及び4についての判断は、本件発明1について上記(2)で記載したとおりであるから、本件発明3?7についても、本件発明1について検討したと同様の理由によって、甲3に記載された発明(甲3発明)に甲4(さらには申立人が提示した他の証拠)に記載の技術的事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明2及び請求項2を引用する本件発明6、7について
(2)での本件発明1と甲3発明との対比を踏まえて本件発明2と甲3発明を対比すると、両者は、(2)で記載した一致点で一致し、少なくとも、以下の相違点3’及び相違点5で相違する。
<相違点3’>
ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる(B)のポリエーテル誘導体について、本件発明2では、「一般式(4): HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)」、「重量平均分子量が1000?4000」と特定されているのに対して、甲3発明では、「(b1-1):『ポリセリンDC1100』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、「(b1-2):『ポリセリンDC3000E』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、「(b1-4):『ユニルーブ 50DB-22』(日油(株)製、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ビスフェノールAエーテル)」のいずれかであり、その重量平均分子量も不明である点。
<相違点5>
本件発明2では、「測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.78を満たす」と特定されているのに対し、甲3発明ではこのような特定はない点。

そして、相違点3’は、本件発明1について上記(2)で記載した相違点3に対応するものであり、相違点3’についての判断は、上記(2)で相違点3についてした判断と同様であるし、また、相違点5についての判断も、η1/η2の範囲の上限が「0.95」ではなく、「0.78」と、よりη1/η2の範囲が狭くなっている点の違いに関わらず、上記(2)で記載したのと同様であるから、甲4に記載の技術的事項(、及び、申立人が提示した他の証拠)を参酌しても、甲3発明を、相違点3’及び相違点5に係る本件発明2の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

よって、本件発明2及び請求項2を引用する本件発明6、7は、甲3に記載された発明(甲3発明)に甲4(さらには申立人が提示した他の証拠)に記載の技術的事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり、申立人の取消理由2の主張には理由がなく、取消理由2によっては、本件発明1?7についての特許を取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリカーボネート樹脂組成物および光学用成形品
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物および光学用成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、透明性等に優れていることから、従来、導光板、各種レンズ、銘板等の成形品に利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、重量平均分子量と数平均分子量との比が特定範囲に規定された芳香族ポリカーボネート樹脂に、安定剤及び離型剤が配合された導光板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリカーボネート樹脂に、ポリスチレン及び1種のリン系酸化防止剤が配合された光学用成形品用ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【0005】
その他、例えば、特許文献3?6に開示されているように、優れた光線透過率を得て、光学部材の輝度を向上させるべくポリカーボネート樹脂と他の材料とを併用した樹脂組成物が各種提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献3?6に開示のポリカーボネート樹脂組成物は、近年の導光板の材料としての要求(特に、薄肉成形を行うため高温で成形加工した場合でも光線透過率の低下が無い等の要求)を充分に満足し得るものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-204737号公報
【特許文献2】特開平09-020860号公報
【特許文献3】特開2011-133647号公報
【特許文献4】特開平11-158364号公報
【特許文献5】特開2001-215336号公報
【特許文献6】特開2004-051700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性に優れ、光線透過率が高く、しかも高温で成形加工した場合でも光線透過率に優れるポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂(A)に溶融粘度調整剤(B)及び亜リン酸エステル系化合物(C)を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物において、当該ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度とそれに含まれるポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度の比が特定範囲の値を満たすようにすることにより、高温で成形した場合でも光線透過率の低下が無く色相ならびに輝度の良好なポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であることを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物およびそれを成形してなる光学用成形品を提供するものである。
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性及び耐候性に優れ、しかも高温で成形加工した場合でも光線透過率に優れたものである。よって、例えば厚さ0.3mm程度の薄型の導光板であっても、色相が変化して外観が低下することや、高温成形を経て樹脂そのものが劣化することが少なく、工業的利用価値が極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0013】
なお、発明者らは当業者が本発明を充分に理解するために以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0014】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とを配合したものである。なお、本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じてその他の成分を配合してもよい。
【0015】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体である。代表例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0016】
前記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3、5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4´-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4´-ジヒドロキシ-3,3´-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4´-ジヒドロキシジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4´-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4´-ジヒドロキシ-3,3´-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4´-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4´-ジヒドロキシ-3,3´-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類が挙げられ、これらは単独で又は2種類以上を混合して使用される。これらの他にも、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4´-ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0017】
さらに、前記ジヒドロキシジアリール化合物と、例えば以下に示す3価以上のフェノール化合物とを混合して使用してもよい。
【0018】
前記3価以上のフェノール化合物としては、例えば、フロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタン及び2,2-ビス-[4,4-(4,4´-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル]-プロパン等が挙げられる。
【0019】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、10000?100000であることが好ましく、12000?30000であることがより好ましい。なお、このようなポリカーボネート樹脂(A)を製造する際には分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0020】
本発明にて使用される溶融粘度調整剤(B)は、ポリカーボネート樹脂組成物を成形加工する際に、ある種滑剤のように振る舞ってポリカーボネート樹脂の剪断粘度(せん断粘度)を低下させることにより、剪断発熱が必要以上に発生するのを抑制し、ひいてはポリカーボネート樹脂中の発熱を低減乃至抑制することができる作用を備えるものを意味する。
【0021】
溶融粘度調整剤(B)としては、測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たすように調整することができるものであれば、特に限定されるものではないが、代表的には、下記一般式(1)で表されるポリエーテル誘導体等が挙げられる。その他、シリコーン系化合物、グリセリン系化合物、ペンタエリスリトール系化合物等も挙げられる。
【0022】
一般式(1):
RO-(X-O)m(Y-O)n-R’ (1)
(式中、RおよびR’は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1?30のアルキル基を示し、Xは、炭素数2?4のアルキレン基を、Yは、炭素数3?5の分岐アルキレン基を、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
【0023】
一般式(1)で表されるポリエーテル誘導体としては、テトラメチレングリコールユニットと1-エチルエチレングリコールユニットからなる変性グリコール(例えば、HO-(CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)O)_(24)(CH_(2)CH(C_(2)H_(5))O)_(13)-H等)、例えば、日油(株)製のDCD-2000(重量平均分子量2000)等として商業的に入手可能である。一般式(1)で表されるポリエーテル誘導体の重量平均分子量は、1000?4000であるのが好ましい。
【0024】
また、ポリエーテル誘導体としては、一般式(1)で表されるポリエーテル誘導体のうち、下記一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体が好適である。
一般式(2):
HO-(CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH_(2)CH(CH_(3))CH_(2)O)n-H (2)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
【0025】
一般式(2)で表されるポリエーテル誘導体としては、テトラメチレングリコールユニットと2-メチルテトラメチレングリコールユニットからなる変性グリコール(例えば、HO-(CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)O)_(22)(CH_(2)CH_(2)CH(CH_(3))CH_(2)O)_(5)-H等)が挙げられ、例えば、保土谷化学工業(株)製のPTG-L1000(重量平均分子量1000)、PTG-L2000(重量平均分子量2000)、又はPTG-L3000(重量平均分子量3000)等として商業的に入手可能である。一般式(2)で表されるポリエーテル誘導体の重量平均分子量は、1000?4000であるのが好ましい。
【0026】
一般式(3):
C_(4)H_(9)O-(CH_(2)CH_(2))m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (3)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
【0027】
一般式(3)で表されるポリエーテル誘導体としては、エチレングリコールユニットとプロピレングリコールユニットからなる変性グリコール(例えば、C_(4)H_(9)O-(CH_(2)CH_(2)O)_(21)(CH_(2)CH(CH_(3))O)_(14)-HやC_(4)H_(9)O-(CH_(2)CH_(2)O)_(30)(CH_(2)CH(CH_(3))O)_(30)-H等)が好適であり、例えば、ユニルーブ60MB-26I(重量平均分子量1700)やユニルーブ50MB-72(重量平均分子量3000)等が商業的に入手可能である。一般式(3)で表されるポリエーテル誘導体の重量平均分子量は、1000?4000であるのが好ましい。
【0028】
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
【0029】
一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体としては、エチレングリコールユニットとプロピレングリコールユニットからなる変性グリコール(例えば、HO-(CH_(2)CH_(2)O)_(17)(CH_(2)CH(CH_(3))O)_(17)-Hが好適であり、例えば、ユニルーブ50DE-25(重量平均分子量1750)等が商業的に入手可能である。一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体の重量平均分子量は、1000?4000であるのが好ましい。
【0030】
これまで、直鎖のポリオキシアルキレングリコールを添加してポリカーボネート樹脂の光線透過率を向上させることが試みられてきたが、該ポリオキシアルキレングリコールは、耐熱性が不充分であるので、該ポリオキシアルキレングリコールを配合したポリカーボネート樹脂組成物を高温で成形すると、成形品の輝度や光線透過率が低下する。これに対して、前記一般式(1)で表されるポリエーテル誘導体のような溶融粘度調整剤は、2官能性のランダム共重合体であり、耐熱性が高く、該一般式(1)で表される特定のポリエーテル誘導体を配合したポリカーボネート樹脂組成物を高温で成形した成形品は、輝度や光線透過率が高い。
【0031】
また、本発明にて使用される溶融粘度調整剤(B)は、適度な親油性を有することから、ポリカーボネート樹脂(A)との相溶性にも優れるので、該溶融粘度調整剤(B)を配合したポリカーボネート樹脂組成物から得られる成形品の透明性も向上する。このような溶融粘度調整剤(B)に用いられるポリエーテル誘導体の重量平均分子量は、1000?4000、さらには2000?3000であることが好ましい。ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000の場合は、光線透過率の充分な向上効果が望め、かつ曇化率が上昇することなく光線透過率が低下する恐れもない。
【0032】
ポリエーテル誘導体の量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.005?3.0重量部であり、0.1?1.5重量部が好ましく、さらに0.3?1.2重量部であることが好ましい。ポリエーテル誘導体の量が0.005重量部未満の場合は、光線透過率及び色相の向上効果が不充分である。逆にポリエーテル誘導体の量が3.0重量部を超える場合は、曇化率が上昇して光線透過率が低下してしまう。
【0033】
本発明におけるポリカーボネート樹脂組成物には、特定のポリエーテル誘導体等の溶融粘度調整剤(B)と共に、亜リン酸エステル系化合物(C)が配合されている。このように、溶融粘度調整剤(B)と亜リン酸エステル系化合物(C)とを同時に配合することにより、ポリカーボネート樹脂組成物の剪断熱を極力発生させることを防止でき、ポリカーボネート樹脂(A)が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、高温成形した場合であっても光線透過率が向上したポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0034】
本発明にて使用される亜リン酸エステル系化合物(C)としては、例えば、下記一般式(5)で表される化合物が特に好適である。
【0035】
【化1】

(式中、R^(1)は、炭素数1?20のアルキル基を示し、aは、0?3の整数を示す)
【0036】
前記一般式(5)において、R^(1)は、炭素数1?20のアルキル基であるが、さらには、炭素数1?10のアルキル基であることが好ましい。
【0037】
一般式(5)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好適であり、例えば、BASF社製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)として商業的に入手可能である。
【0038】
前記亜リン酸エステル系化合物としては、前記一般式(5)で表される化合物の他にも、例えば、下記一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化2】

(式中、R^(2)、R^(3)、R^(5)及びR^(6)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?8のアルキル基、炭素数5?8のシクロアルキル基、炭素数6?12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7?12のアラルキル基又はフェニル基を示す。R^(4)は、水素原子又は炭素数1?8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR^(7)-(ここで、R^(7)は、水素原子、炭素数1?8のアルキル基又は炭素数5?8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1?8のアルキレン基又は式:*-COR^(8)-(ここで、R^(8)は、単結合又は炭素数1?8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1?8のアルコキシ基又は炭素数7?12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1?8のアルキル基を示す。)
【0040】
一般式(6)において、R^(2)、R^(3)、R^(5)及びR^(6)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?8のアルキル基、炭素数5?8のシクロアルキル基、炭素数6?12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7?12のアラルキル基又はフェニル基を示す。
【0041】
ここで、炭素数1?8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5?8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6?12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-メチル-4-i-プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7?12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0042】
前記R^(2)、R^(3)及びR^(5)は、それぞれ独立して、炭素数1?8のアルキル基、炭素数5?8のシクロアルキル基又は炭素数6?12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R^(2)及びR^(5)は、それぞれ独立して、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-オクチル基等のt-アルキル基、シクロヘキシル基又は1-メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、R^(3)は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1?5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t-ブチル基又はt-ペンチル基であることがさらに好ましい。
【0043】
前記R^(6)は、水素原子、炭素数1?8のアルキル基又は炭素数5?8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1?5のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0044】
一般式(6)において、R^(4)は、水素原子又は炭素数1?8のアルキル基を示す。炭素数1?8のアルキル基としては、例えば、前記R^(2)、R^(3)、R^(5)及びR^(6)の説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、R^(4)は、水素原子又は炭素数1?5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましい。
【0045】
一般式(6)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR^(7)-で表される基を示す。ここで、式:-CHR^(7)-中のR^(7)は、水素原子、炭素数1?8のアルキル基又は炭素数5?8のシクロアルキル基を示す。炭素数1?8のアルキル基及び炭素数5?8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれ前記R^(2)、R^(3)、R^(5)及びR^(6)の説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
【0046】
一般式(6)において、Aは、炭素数1?8のアルキレン基又は式:*-COR^(8)-で表される基を示す。炭素数1?8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*-COR^(8)-におけるR^(8)は、単結合又は炭素数1?8のアルキレン基を示す。R^(8)を示す炭素数1?8のアルキレン基としては、例えば、前記Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。R^(8)は、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*-COR^(8)-における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0047】
一般式(6)において、Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1?8のアルコキシ基又は炭素数7?12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1?8のアルキル基を示す。炭素数1?8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7?12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α-メチルベンジルオキシ基、α,α-ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1?8のアルキル基としては、例えば、前記R^(2)、R^(3)、R^(5)及びR^(6)の説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0048】
一般式(6)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、特に光学特性が求められる分野に、得られるポリカーボネート樹脂組成物を用いる場合には、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適であり、例えば、住友化学(株)製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)として商業的に入手可能である。
【0049】
前記亜リン酸エステル系化合物(C)としては、前記一般式(5)で表される化合物及び前記一般式(6)で表される化合物の他にも、例えば、一般式(7)で表される化合物が好適に使用され得る。
【0050】
【化3】

(式中、R^(9)及びR^(10)は、それぞれ独立して、炭素数1?20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0?3の整数を示す。)
【0051】
一般式(7)で表される化合物としては、例えば、(株)ADEKA製のアデカスタブPEP-36(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0052】
亜リン酸エステル系化合物(C)の量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.005?1.0重量部であり、0.01?0.5重量部が好ましく、さらに0.02?0.1重量部であることが好ましい。亜リン酸エステル系化合物(C)の量が0.005重量部未満の場合は、光線透過率及び色相の向上効果が不充分である。逆に亜リン酸エステル系化合物(C)の量が1.0重量部を超える場合も、光線透過率及び色相の向上効果が不充分である。
【0053】
以上の成分に加えて、実施の形態に係るポリカーボネート樹脂組成物へは、例えば、得られるポリカーボネート樹脂組成物の耐候性をより向上させる成分である紫外線吸収剤をポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形品の用途に応じて適宜用いることができる。
【0054】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シュウ酸アニリド系化合物等の、ポリカーボネート樹脂に通常配合される紫外線吸収剤を、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物としては、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-butyl-2-hydroxy-5-methylphenyl)-5-chloro-2H-benzotriazole、2-(3,5-di-tert-pentyl-2-hydroxyphenyl)-2H-benzotriazole、2-(2H-benzotriazole-2-yl)-4-methyl-6-(3,4,5,6-tetrahydrophthalimidylmethyl)phenol、2-(2-hydroxy-4-octyloxyphenyl)-2H-benzotriazole、2-(2-hydroxy-5-tert-octylphenyl)-2H-benzotriazole、2-[2’-hydroxy-3,5-di(1,1-dimethylbenzyl)phenyl]-2H-benzotriazole、2,2’-Methylenbis[6-(2H-benzotriazol-2-yl)4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol]などが挙げられる。なかでも、特に、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等が好適であり、例えば、BASF社製のTINUVIN 329(TINUVINは登録商標)、シプロ化成(株)製のシーソーブ709、ケミプロ化成(株)製のケミソーブ79等が商業的に入手可能である。
【0056】
トリアジン系化合物としては、例えば、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシフェニル-4-ヘキシルオキシフェニル)1,3,5-トリアジン、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノール等が挙げられ、例えば、BASF社製のTINUVIN 1577等が商業的に入手可能である。
【0057】
シュウ酸アニリド系化合物としては、例えば、クラリアントジャパン(株)製のSanduvor VSU等が商業的に入手可能である。
【0058】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2、4-dihydroxybenzophenone、2-hydroxy-4-n-octoxybenzophenoneなどが挙げられる。
【0059】
紫外線吸収剤の量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して0?1.0重量部であり、0?0.5重量部であることが好ましい。紫外線吸収剤(D)の量が1.0重量部を超える場合は、得られるポリカーボネート樹脂組成物の初期の色相が低下するおそれがある。また、紫外線吸収剤(D)の量が0.1重量部以上の場合は特に、ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性をより向上させる効果が大きく奏される。
【0060】
さらに、実施の形態に係るポリカーボネート樹脂組成物には、本発明における効果を損なわない範囲で、例えば、他の酸化防止剤、着色剤、離型剤、軟化剤、帯電防止剤、衝撃性改良剤等の各種添加剤、ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリマー等が適宜配合されていてもよい。
【0061】
ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法には特に限定がなく、ポリカーボネート樹脂(A)、溶融粘度調整剤(B)、および亜リン酸エステル系化合物(C)、必要に応じて前記各種添加剤やポリカーボネート樹脂(A)以外のポリマー等について、各成分の種類及び量を適宜調整し、これらを、例えばタンブラー、リボンブレンダー等の公知の混合機にて混合する方法や、押出機にて溶融混練する方法が挙げられる。これらの方法により、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを容易に得ることができる。
【0062】
前記のごとく得られるポリカーボネート樹脂組成物のペレットの形状及び大きさには特に限定がなく、一般的な樹脂ペレットが有する形状及び大きさであればよい。例えば、ペレットの形状としては、楕円柱状、円柱状等が挙げられる。ペレットの大きさとしては、長さが2?8mm程度であることが好適であり、楕円柱状の場合、断面楕円の長径が2?8mm程度、短径が1?4mm程度であることが好適であり、円柱状の場合、断面円の直径が1?6mm程度であることが好適である。なお、得られたペレット1つずつがこのような大きさであってもよく、ペレット集合体を形成する全てのペレットがこのような大きさであってもよく、ペレット集合体の平均値がこのような大きさであってもよく、特に限定はない。
【0063】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記のごとく得られるポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるものである。
【0064】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法には特に限定がなく、例えば公知の射出成形法、圧縮成形法等によりポリカーボネート樹脂組成物を成形する方法が挙げられる。
【0065】
以上のように、本発明の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本発明における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特にことわりがない限り、「部」及び「%」はそれぞれ重量基準である。
【0067】
原料として以下のものを使用した。
1.ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAと塩化カルボニルとから合成されたポリカーボネート樹脂
カリバー200-80
(商品名、住化スタイロンポリカーボネート(株)製、「カリバー」はスタイロン ユーロップ ゲーエムベーハーの登録商標、粘度平均分子量:15000、以下「PC」という)
【0068】
2.溶融粘度調整剤(B)(下式のポリエーテル誘導体):
2-1.テトラメチレングリコールユニットと2-メチルテトラメチレングリコールユニットからなる変性グリコール(ポリエーテル誘導体):
HO-(CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)O)_(22)(CH_(2)CH_(2)CH(CH_(3))CH_(2)O)_(5)-H
PTG-L2000
(商品名、保土谷化学工業(株)製、重量平均分子量:2000、以下「化合物B1」という)
【0069】
2-2.テトラメチレングリコールユニットと1-エチルエチレングリコールユニットからなる変性グリコール(ポリエーテル誘導体):
HO-(CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)O)_(24)(CH_(2)CH(C_(2)H_(5))O)_(13)-H
DCD-2000
(商品名、日油(株)製、重量平均分子量:2000、以下「化合物B2」という)
【0070】
2-3.エチレングリコールユニットとプロピレングリコールユニットからなる変性グリコール(ポリエーテル誘導体):
C_(4)H_(9)O-(CH_(2)CH_(2)O)_(30)(CH_(2)CH(CH_(3))O)_(30)-H
ユニルーブ50MB-72
(商品名、日油(株)製、重量平均分子量:3000、以下「化合物B3」という)
【0071】
2-4.エチレングリコールユニットとプロピレングリコールユニットからなる変性グリコール(ポリエーテル誘導体):
C_(4)H_(9)O-(CH_(2)CH_(2)O)_(21)(CH_(2)CH(CH_(3))O)_(14)-H
ユニルーブ60MB-26I
(商品名、日油(株)製、重量平均分子量:1700、以下「化合物B4」という)
【0072】
2-5.エチレングリコールユニットとプロピレングリコールユニットからなる変性グリコール(ポリエーテル誘導体):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)_(17)(CH_(2)CH(CH_(3))O)_(17)-H
ユニルーブ50DE-25
(商品名、日油((株)製、重量平均分子量:1750、以下「化合物B5」という)
【0073】
3.亜リン酸エステル系化合物(C):
3-1.以下の式で表される、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト
【0074】
【化4】

イルガフォス168
(商品名、BASF社製、以下「化合物C1」という)
3-2.以下の式で表される、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン
【0075】
【化5】

スミライザーGP
(商品名、住友化学(株)製、以下「化合物C2」という)
【0076】
3-3.以下の式で表される、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカ
【0077】
【化6】

アデカスタブPEP-36
(商品名、(株)ADEKA製、以下「化合物C3」という)
【0078】
(実施例1?17及び比較例1?6)
前記各原料を、表1および表2に示す割合にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)を用いて、溶融温度220℃にて溶融混練し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。なお、実施例及び比較例で得られたペレットは、ほぼ楕円柱状であり、ペレット100個からなる集合体は、各々、長さの平均値が約5.1mm?約5.4mm、断面楕円の長径の平均値が約4.1mm?約4.3mm、短径の平均値が約2.2mm?約2.3mmであった。
【0079】
得られたペレットを用い、以下の方法にしたがって、各評価用試験片を作製して評価に供した。その結果を表1および表2に示す。
【0080】
(溶融粘度の測定方法)
得られたペレット及びポリカーボネート樹脂(A)のペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、キャピラリレオメータ((株)島津製作所製、フローテスタCFT-500)を用い、測定温度220℃、せん断速度1sec^(-1)?100sec^(-1)の範囲で溶融粘度を測定した。せん断速度10sec^(-1)におけるポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度をη1、ポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度をη2とした。
【0081】
(試験片の作製方法)
得られたペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S2000i100A)を用い、成形温度360℃、金型温度80℃にて、JIS K 7139「プラスチック-試験片」にて規定の多目的試験片A型(全長168mm×厚さ4mm)を作製した。この試験片の端面を切削し、切削端面について、樹脂板端面鏡面機(メガロテクニカ(株)製、プラビューティーPB-500)を用いて鏡面加工した。
【0082】
(積算透過率の評価方法)
分光光度計((株)日立製作所製、UH4150)に長光路測定付属装置を設置し、光源として50Wハロゲンランプを用いて、光源前マスク5.6mm×2.8mm、試料前マスク6.0mm×2.8mmを使用した状態で、波長380?780nmの領域で1nm毎の試験片各々の分光透過率を、試験片の全長方向について測定した。測定した分光透過率を積算し、十の位を四捨五入することにより、各々の積算透過率を求めた。なお、積算透過率が30000以上を良好(表中、○で示す)、30000未満を不良(表中、×で示す)とした。
【0083】
(黄色度の評価方法)
前記積算透過率の評価方法において測定した分光透過率に基づき、標準光源D65を用い、10度視野にて各々の黄色度を求めた。なお、黄色度が20以下を良好(表中、○で示す)、20を超えると不良(表中、×で示す)とした。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
実施例1?18のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)に、特定のポリエーテル誘導体等の溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とが、各々特定の割合で配合されたものである。したがって、該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された試験片は、積算透過率が高く、かつ、黄色度が小さい。
【0088】
このように、実施例1?18のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)が本来有する耐熱性が損なわれることがなく、可視領域での光線透過率が高く、しかも高温で成形加工した場合でも光線透過率に優れている。そして、このようなポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、黄色度が小さく色相に優れ、しかも高温で成形加工した場合でも色相に優れている。
【0089】
これに対して、比較例1のポリカーボネート樹脂組成物は、特定のポリエーテル誘導体等の溶融粘度調整剤(化合物B1)の量が少ないので、積算透過率が低く、かつ黄色度が大きい。このように、比較例1のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、輝度および色相に劣る。
【0090】
比較例2のポリカーボネート樹脂組成物は、特定の溶融粘度調整剤(化合物B1)の量が多いので、積算透過率が低く、かつ黄色度が大きい。このように、比較例2のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、輝度および色相に劣る。
【0091】
比較例3のポリカーボネート樹脂組成物は、亜リン酸エステル系化合物(C)の量が少ないので、試験片は黄色度が大きい。このように、比較例3のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、色相に劣る。
【0092】
比較例4のポリカーボネート樹脂組成物は、亜リン酸エステル系化合物(C)の量が多ので、積算透過率が低く、かつ黄色度が大きい。このように、比較例4のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、輝度および色相に劣る。
【0093】
比較例5のポリカーボネート樹脂組成物は、特定の溶融粘度調整剤(化合物B5)の量が少ないので、積算透過率が低く、かつ黄色度が大きい。このように、比較例5のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、輝度および色相に劣る。
【0094】
比較例6のポリカーボネート樹脂組成物は、特定の溶融粘度調整剤(化合物B5)の量が多いので、積算透過率が低く、かつ黄色度が大きい。このように、比較例5のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、輝度および色相に劣る。
【0095】
以上のように、本発明における技術の例示として実施の形態を説明した。そのために、詳細な説明を提供した。
【0096】
したがって、詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0097】
また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性及び耐候性に優れ、しかも高温で成形加工した場合でも光線透過率に優れたものである。よって、例えば厚さ0.3mm程度の薄型の導光板であっても、色相が変化して外観が低下することや、高温成形を経て樹脂そのものが劣化することが少なく、工業的利用価値が極めて高い。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であることを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.78を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であり、
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、下記一般式(5)及び(6)で表される化合物から選択された1種以上の化合物である、ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(5):
【化1】

(式中、R^(1)は、炭素数1?20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、aは、0?3の整数を示す。)
一般式(6):
【化2】

(式中、R^(2)、R^(3)、R^(5)及びR^(6)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?8のアルキル基、炭素数5?8のシクロアルキル基、炭素数6?12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7?12のアラルキル基又はフェニル基を示す。R^(4)は、水素原子又は炭素数1?8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR^(7)-(ここで、R^(7)は、水素原子、炭素数1?8のアルキル基又は炭素数5?8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1?8のアルキレン基又は式:*-COR^(8)-(ここで、R^(8)は、単結合又は炭素数1?8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1?8のアルコキシ基又は炭素数7?12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1?8のアルキル基を示す。)
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であり、
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトである、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005?3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005?1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec^(-1)における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000?4000であり、
一般式(4):
HO-(CH_(2)CH_(2)O)m(CH_(2)CH(CH_(3))O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3?60の整数を示し、m+nは、8?90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンである、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む、光学用成形品。
【請求項7】
前記成形品が導光板である、請求項6に記載の光学用成形品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-07-23 
出願番号 特願2016-233009(P2016-233009)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 161- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 近野 光知
渕野 留香
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6137516号(P6137516)
権利者 住化ポリカーボネート株式会社
発明の名称 ポリカーボネート樹脂組成物および光学用成形品  
代理人 特許業務法人小笠原特許事務所  
代理人 平澤 賢一  
代理人 特許業務法人 小笠原特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ