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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1343878
異議申立番号 異議2017-700802  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-21 
確定日 2018-08-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6084159号発明「粘性を有する栄養組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6084159号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-8]、9、10について訂正することを認める。 特許第6084159号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6084159号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2012年5月11日(優先権主張 2011年5月13日 日本国,2011年5月13日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月3日に特許権の設定登録がなされ、平成29年2月22日に特許掲載公報が発行されたところ、平成29年8月21日に特許異議申立人大塚裕子(以下、「申立人」という。)により全請求項について特許異議の申立てがなされた。
そして、当審において、平成29年10月16日付けで取消理由を通知したところ、その指定期間内である、平成29年12月15日付けで特許権者より意見書が提出された。
その後、当審において、平成30年3月8日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、その指定期間内である、平成30年5月11日付けで特許権者より意見書と訂正請求書が提出され、申立人より平成30年6月20日付けで意見書が提出された。
以下、平成30年5月11日付け訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、これに係る訂正を「本件訂正」という。

第2 本件訂正の可否
1.本件訂正の内容
本件訂正の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正を求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「加熱処理することにより粘度が上昇する性質を有する」との記載を、「加熱処理及び常温以下の温度で7日保存することにより粘度が上昇する性質、すなわち加熱処理前の組成物の粘度を20℃で測定した場合と、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存した後の組成物の粘度を20℃で測定した場合とを比較すると粘度が上昇している性質を有する」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3?8も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1における「ここで加熱処理前の組成物の粘度は5?300mPa・sであり、前記加熱処理前の組成物の粘度はB型粘度計を用いて45?85℃、12rpmにて測定を行ったときのものであり、」との記載を、「ここで前記栄養組成物の粘度を加熱処理前にB型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定したときに、該加熱処理前の組成物の粘度は5?300mPa・sであり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3?8も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1における「加熱処理し、さらに常温以下の温度で1?90日保存することにより組成物の粘度が300?2170mPa・sとなったものであり、該加熱処理しさらに常温以下の温度で1?90日保存後の組成物の粘度はB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときのものである」との記載を、「かつ、前記栄養組成物を加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後にB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて前記栄養組成物の粘度を測定したときに、前記加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後の該栄養組成物の粘度は300?2170mPa・sとなったものである」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3?8も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2における「加熱処理することにより粘度が上昇する性質を有する」との記載を、「加熱処理及び常温以下の温度で7日保存することにより粘度が上昇する性質、すなわち加熱処理前の組成物の粘度を20℃で測定した場合と、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存した後の組成物の粘度を20℃で測定した場合とを比較すると粘度が上昇している性質を有する」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3?8も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2における「ここで加熱処理前の組成物の粘度は5?300mPa・sであり、前記加熱処理前の組成物の粘度はB型粘度計を用いて45?85℃、12rpmにて測定を行ったときのものであり、」との記載を、「ここで前記栄養組成物の粘度を加熱処理前にB型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定したときに、該加熱処理前の組成物の粘度は5?300mPa・sであり、」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3?8も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2における「加熱処理し、さらに常温以下の温度で1?90日保存することにより組成物の粘度が300?2170mPa・sとなったものであり、該加熱処理しさらに常温以下の温度で1?90日保存後の組成物の粘度はB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときのものである」との記載を、「かつ、前記栄養組成物を加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後にB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて前記栄養組成物の粘度を測定したときに、前記加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後の該栄養組成物の粘度は300?6700mPa・sとなったものである」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3?8も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9における「加熱処理前の組成物の粘度が5?300mPa・sであり、該加熱処理前の組成物の粘度はB型粘度計を用いて45?85℃、12rpmにて測定を行ったときのものであり、」との記載を、「加熱処理前の組成物の粘度が、B型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定を行ったときに、5?300mPa・sであり、」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9における「加熱処理および常温以下の温度による1?90日の保存の後の組成物の粘度が300?6700mPa・sであり、該加熱処理および常温以下の温度による1?90日の保存の後の組成物の粘度はB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときのものである、粘性を有する液状の栄養組成物の製造方法。」との記載を、「加熱処理及び常温以下の温度による7?90日の保存の後の組成物の粘度が、B型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときに300?6700mPa・sである、粘性を有する液状の栄養組成物の製造方法。」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10における「加熱処理前の組成物の粘度が5?300mPa・sであり、該加熱処理前の組成物の粘度はB型粘度計を用いて45?85℃、12rpmにて測定を行ったときのものであり、」との記載を、「加熱処理前の組成物の粘度が、B型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定を行ったときに、5?300mPa・sであり、」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10における「加熱処理および常温以下の温度による1?90日の保存の後の組成物の粘度(20℃)が300?6700mPa・sであり、該加熱処理および常温以下の温度による1?90日の保存の後の組成物の粘度はB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときのものである、粘性を有する液状の栄養組成物の製造方法。」との記載を、「加熱処理及び常温以下の温度による7?90日の保存の後の組成物の粘度(20℃)がB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときに300?6700mPa・sである、粘性を有する液状の栄養組成物の製造方法。」に訂正する。

2.本件訂正の適否
(1)訂正事項1及び4について
訂正事項1及び4は、請求項1及び2記載の「加熱処理することにより粘度が上昇する性質」について、「加熱処理及び常温以下の温度で7日保存することにより粘度が上昇する性質、すなわち加熱処理前の組成物の粘度を20℃で測定した場合と、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存した後の組成物の粘度を20℃で測定した場合とを比較すると粘度が上昇している性質」と訂正することにより、「加熱処理することにより粘度が上昇する性質」について具体的内容が不明確であったのを、明確化したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び4に係る訂正は、本件明細書の段落【0072】?【0075】において、本件発明の栄養組成物の粘度は、加熱処理後に常温以下の温度で所定期間保存し粘度が安定してから測定した場合に上昇するとされており、また、段落【0087】?【0088】及び図2に記載の実施例2(特許請求の範囲の要件を満たす実施例)にも、加熱処理前の組成物と加熱処理後常温以下の温度で7日保存した後の組成物の粘度を、20℃で測定したものが記載されているから、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。

(2)訂正事項2,5,7及び9について
訂正事項2,5,7及び9は、請求項1,2,9及び10の、加熱処理前の組成物の粘度を測定する条件についての表現が不明確であったのを明確にすると共に、訂正前の「45?85℃」であった測定温度を「50℃」と明確化したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、本件明細書の段落【0072】の、「本発明の栄養組成物は、好ましくは、吸水性食物繊維及び/又は予めα化処理されていないデンプン、増粘剤、乳化剤、および食品タンパク質等を混合して加熱処理を行う前の粘度が5?810mPa・s、好ましくは5?300mPa・s、好ましくは10?200mPa・s、より好ましくは20?100mPa・sであり、原材料の調合から容器に充填するまでの工程は製造が容易な粘度を維持することができる。前記粘度は、B型粘度計を用い、12rpm の条件で、45?85℃、好ましくは45?70℃、より好ましくは50?60℃における粘度を測定した値である。」「加熱処理前の混合液の粘度が5mPa・s未満の場合には、混合液中の成分の沈降等の不都合が生じうる。逆に加熱処理前の混合液の粘度(B型粘度計、45?85℃、12rpm)が300mPa・sを超えると、均質化工程の溶液操作が困難になる等の不都合を生じる。」、段落【0090】の「また、実施例1,実施例2のレトルト殺菌前の粘度(50℃)は、それぞれ300mPa・s(50℃)、160mPa・s(50℃)であった。」の記載からすれば、本件発明は加熱処理前の特定の温度における粘度を5?300mPa・sとすることを意図したものであり、具体的な粘度の測定温度を50℃とすることも記載されていたから、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。
なお、申立人は平成30年6月20日付け意見書において、「測定温度のみを50℃に限定し、粘度の範囲を「5?300mPa・s」のままとするのは、特許請求の範囲の減縮ではなく、むしろ権利範囲の拡大に相当する」と主張している。
しかし、上記のとおり段落【0072】の記載からすれば、「45?85℃」との記載は、その温度範囲のいずれか特定の温度において粘度が5?300mPa・sの範囲になることを意図していたというべきであるから、測定温度を50℃に特定し、粘度の範囲を「5?300mPa・s」のままとしても権利範囲の拡大にはならない。

(3)訂正事項3,6,8及び10について
訂正事項3,6,8及び10は、請求項1,2,9及び10の、加熱処理しさらに常温以下の温度で一定の期間保存した後の粘度を測定する条件についての表現を明確にすると共に、訂正前の「1?90日」であった保存期間を「7?90日」と限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正前の「1?90日」であった保存期間を「7?90日」と限定することは、本件明細書の段落【0074】に、加熱処理後の保存期間として7日、10日・・・80日、90日が示されており、また、段落【0087】の実施例2(特許請求の範囲の要件を満たす実施例)においても、加熱処理(レトルト殺菌)後の保存期間は1週間(すなわち、7日間)とされているから、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。

(4)一群の請求項に係る訂正か否かについて
訂正事項1ないし3に係る訂正前の請求項1及び3ないし8について、請求項3ないし8は、それぞれ請求項1を直接又は間接に引用するものであって、訂正事項4ないし6に係る訂正前の請求項2ないし8について、請求項3ないし8は、それぞれ請求項2を直接又は間接に引用するものであるから、訂正事項1ないし6によって訂正される請求項1?8は一群の請求項である。
そして、訂正事項7及び8は請求項9を、また訂正事項9及び10は請求項10を、それぞれ訂正するものである。
よって、本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?8],9,10についての訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許請求の範囲の請求項1ないし10の記載は、以下のとおりのものである。

【請求項1】
栄養組成物に対して0.1?1.0重量%の吸水性食物繊維を含み、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存することにより粘度が上昇する性質、すなわち加熱処理前の組成物の粘度を20℃で測定した場合と、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存した後の組成物の粘度を20℃で測定した場合とを比較すると粘度が上昇している性質を有する、粘性を有する液状の栄養組成物、
ここで前記栄養組成物の粘度を加熱処理前にB型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定したときに、該加熱処理前の組成物の粘度は5?300mPa・sであり、
かつ、前記栄養組成物を加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後にB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて前記栄養組成物の粘度を測定したときに、前記加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後の該栄養組成物の粘度は300?2170mPa・sとなったものである、前記液状の栄養組成物。

【請求項2】
栄養組成物に対して0.1?1.0重量%の吸水性食物繊維を含み、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存することにより粘度が上昇する性質、すなわち加熱処理前の組成物の粘度を20℃で測定した場合と、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存した後の組成物の粘度を20℃で測定した場合とを比較すると粘度が上昇している性質を有する、粘性を有する液状の栄養組成物、
ここで前記栄養組成物の粘度を加熱処理前にB型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定したときに、該加熱処理前の組成物の粘度は5?300mPa・sであり、
均質処理圧を10?100MPaに調整して均質化処理を行ったものであり、
かつ、前記栄養組成物を加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後にB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて前記栄養組成物の粘度を測定したときに、前記加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後の該栄養組成物の粘度は300?6700mPa・sとなったものである、前記液状の栄養組成物。

【請求項3】
吸水性食物繊維が、加熱処理することにより吸水性が高まる性質を有するものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の栄養組成物。

【請求項4】
吸水性食物繊維が、不溶性食物繊維であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の栄養組成物。

【請求項5】
吸水性食物繊維が、大豆食物繊維の不溶性繊維および/又は大豆ふすまであることを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の栄養組成物。

【請求項6】
タンパク質、脂質、又は糖質からなる群のうちの1つ又は複数を含有し、組成物の比重が1.06?1.5である、請求項1?5のいずれか1項に記載の栄養組成物。

【請求項7】
増粘剤、および乳化剤からなる群のうちの1つ又は複数を含有するものであることを特徴とする、請求項1?6のいずれか1項に記載の栄養組成物。

【請求項8】
均質処理圧を10?100MPaに調整して均質化処理を行った、請求項1?7のいずれか1項に記載の栄養組成物。

【請求項9】
i)栄養組成物に対し0.1?1.0重量%の吸水性食物繊維を用意する工程、
ii) 均質化のための圧処理工程、及び
iii) 加熱処理工程、
を含み、加熱処理前の組成物の粘度が、B型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定を行ったときに、5?300mPa・sであり、加熱処理および常温以下の温度による7?90日の保存の後の組成物の粘度が、B型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときに300?6700mPa・sである、粘性を有する液状の栄養組成物の製造方法。

【請求項10】
i)栄養組成物に対して0.1?1.0重量%の吸水性食物繊維を用意する工程、
ii) 均質化のための圧処理工程、及び
iii) 加熱処理工程、
を含み、加熱処理前の組成物の粘度が、B型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定を行ったときに、5?300mPa・sであり、均質化のための圧処理工程における均質処理圧が10?100MPaであり、加熱処理および常温以下の温度による7?90日の保存の後の組成物の粘度(20℃)がB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときに300?6700mPa・sである、粘性を有する液状の栄養組成物の製造方法。

第4 取消理由通知(決定の予告)の概要
本件特許に対する平成30年3月8日付け取消理由通知(決定の予告)(以下、単に「取消理由通知」という。)には、概ね次の取消理由が記載されている。

1.取消理由1(サポート要件)
本件の請求項1?10の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
すなわち、特許請求の範囲と発明の詳細な説明で粘度を測定する温度が異なっていること、実施例における保存期間は1週間(7日間)のみであること、及び、実施例における加熱処理前の組成物の粘度は300mPa・s及び160mPa・sのみであり、加熱処理し保存後の組成物の粘度は700?2170mPa・sであるから、請求項1記載の「加熱処理することにより粘度が上昇する性質」を有する点及び「加熱処理前の組成物の粘度は5?300mPa・s」であり、「加熱処理し、さらに常温以下の温度で1?90日保存することにより組成物の粘度が300?2170mPa・s」となる点について、発明の詳細な説明においてサポートされていない。

2.取消理由2(明確性要件)
本件の請求項1?10の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
すなわち、請求項1記載の「加熱処理することにより粘度が上昇する性質」が不明確であると共に、加熱処理前の粘度の測定温度が特定されておらず、不明確である。

3.取消理由3(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
すなわち、本件発明1の「加熱処理することにより粘度が上昇する性質を有する」栄養組成物について、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に記載されていない。

第5 当審の判断
以下、事案に鑑み、取消理由2(明確性要件)から検討する。

1.取消理由2について
(1)「加熱することにより粘度が上昇する性質」について
請求項1及び2の「加熱処理することにより粘度が上昇する性質」は、本件訂正により、「加熱処理及び常温以下の温度で7日保存することにより粘度が上昇する性質、すなわち加熱処理前の組成物の粘度を20℃で測定した場合と、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存した後の組成物の粘度を20℃で測定した場合とを比較すると粘度が上昇している性質」と訂正された(上記、訂正事項1及び4参照。)。
当該訂正により、栄養組成物が、加熱処理前の粘度と、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存した後の粘度を、共に20℃において測定した場合に、粘度が上昇する性質を有することが特定されたから、請求項1及び2記載の栄養組成物の性質が不明確であるということはない。
なお、申立人は平成30年6月20日付け意見書で、請求項1の第1パラグラフでは、同じ温度(20℃)において測定した場合に粘度が上昇する旨を規定しておきながら、同請求項の後半(第2?第3パラグラフ)では、異なる温度(50℃と20℃)で行った場合の粘度の具体的数値を示しており、記載内容が非常に不明確である旨主張しているが、第1パラグラフでは20℃で測定した粘度に基づき栄養組成物の性質を特定し、第2?第3パラグラフでは加熱処理前と加熱処理後一定期間保存後の粘度をそれぞれ50℃と20℃で測定した結果を特定しているのであり、それぞれ粘度を測定した温度が異なっているからといって不明確であるとはいえない。

(2)加熱処理前の粘度の測定温度について
訂正前の請求項1,2,9及び10では、加熱処理前の粘度は45?85℃という幅のある温度で測定されており、当該幅は上限値と下限値で40℃もの温度差があり、当該温度差によっても粘度は変化するから、請求項1,2,9及び10の「加熱処理前の組成物の粘度は5?300mPa・sであり、」の記載は不明確であった。
しかし、本件訂正により、加熱処理前の粘度の測定温度は50℃に限定された(上記、訂正事項2,5,7及び9参照。)から、上記不備は解消した。
よって、請求項1ないし10に係る発明が明確でないということはできない。

2.取消理由1について
(1)加熱処理前の粘度について
本件明細書の段落【0072】には、加熱処理前の粘度を50?60℃で測定したときに5?300mPa・sにすることが記載され、5mPa・s未満の場合は混合液中の成分の沈殿等の不都合があり、300mPa・sを超えると均質化工程の溶液操作が困難になる等の不都合がある旨の記載があるから、加熱処理前の50℃で測定した粘度を5?300mPa・sにすることは、発明の詳細な説明に記載されている。
そして、乙第11号証によれば、本件明細書の実施例2の加熱処理前の粘度を50℃で測定すれば、5?300mPa・sになるのであるから、50℃で測定した加熱処理前の組成物の粘度が5?300mPa・sであることは、発明の詳細な説明に記載されてないとはいえない。

(2)加熱処理後の粘度について
請求項1ないし10に係る発明は、加熱処理前の粘度が低く、かつ加熱処理後の粘度が顕著に高い性質を有する栄養組成物を提供することを課題とするものである(本件明細書段落【0011】等参照。)ことからすれば、加熱処理後の粘度は少なくとも加熱処理前より高いことが示されていれば足り、具体的に加熱処理後の粘度の下限値を300mPa・sとすることについては、本件明細書の段落【0075】に記載されていることも踏まえると、加熱処理後の組成物の粘度の下限値を300mPa・sとすることが、発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

(3)「1?90日保存」について
本件訂正により保存期間の下限値は、実施例で確認されている7日とされた。
また、上限値の90日については本件明細書の段落【0074】に記載された値である。

以上のとおりであるから、請求項1ないし10に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。

3.取消理由3について
本件明細書の段落【0072】には、加熱処理前の粘度を50?60℃で測定したときに5?300mPa・sにすることが記載され、5mPa・s未満の場合は混合液中の成分の沈殿等の不都合があり、300mPa・sを超えると均質化工程の溶液操作が困難になる等の不都合がある旨の記載があるから、加熱処理前の50℃で測定した粘度を5?300mPa・sにすることは、発明の詳細な説明に記載されている。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明には、加熱処理前にB型粘度計で50℃、12rpmで計った粘度が、5?300mPa・sとなる栄養組成物を製造することの示唆がある。
また、本件明細書の実施例2の記載を参照すると、加熱処理前の20℃での粘度が200mPa・sくらい(図2参照。)であるから、50℃での粘度は5?300mPa・sであることが推認でき、乙第11号証により、実施例2の加熱処理前の50℃での粘度が5?300mPa・sになることが確認されているから、請求項1?10に係る発明の具体的な製造例が実施例として記載されているといえる。。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に請求項1?10に係る発明が記載されているといえる。

4.取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)吸水性食物繊維について
申立人は、「吸水性食物繊維」の用語は、一般的な名称ないし技術用語ではなく不明確である旨主張している。
しかし、本件明細書の段落【0040】に「吸水性のある食物繊維を指し、」と記載されており、「吸水性食物繊維」の用語は明確である。
また、申立人は、実施例として「大豆の不溶性食物繊維」の例示しかない点を主張して多種の不溶性食物繊維まで請求項1の発明の範囲を広げることはできない旨主張する。
しかし、本件明細書の段落【0042】?【0044】には、吸水性食物繊維の具体例が記載されており、段落【0040】には、吸水性食物繊維の機能が記載されているから、各種の吸水性食物繊維を用いることは、発明の詳細な説明に記載にされた範囲内のものといえる。

(2)均質処理圧について
申立人は、請求項2の均質処理圧について、本件明細書の発明の詳細な説明では、均質処理圧を20MPa、40MPa、60MPaで均質化処理したことは記載されているが、下限である10MPa及び上限である100MPaまで拡張ないし一般化できない旨主張する。
しかし、図2の記載によれば均質処理圧を高めると、加熱処理後の組成物の粘度が低下することが理解でき、また、本件明細書の段落【0069】には、均質処理圧10?100MPaの均質化処理により、300?6700mPa・sに調整することができる旨の記載があるから、これら記載に基づき均質処理圧を10?100MPaの範囲で調整して、課題を解決できるものと認められる。
よって、均質処理圧を10?100MPaとすることは発明の詳細な説明に記載された範囲内のものといえる。

(3)大豆ふすまについて
申立人は、請求項5記載の「大豆ふすま」については、具体例がないから特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。
しかし、本件明細書の段落【0047】には、本発明に用いることができるふすまとして大豆ふすまが記載されており、大豆ふすまが吸水性のある食物繊維(すなわち、吸水性食物繊維)であることは技術常識であり、吸水性食物繊維を用いれば加熱処理後の栄養組成物の粘度を増大させ、課題を解決できるものと認められるから、請求項5に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(4)その他の栄養素について
申立人は、請求項6に「タンパク質、脂質、又は糖質からなる群のうちの1つ又は複数を含有し」と記載されているが、実施例では、タンパク質、脂質、及び糖質を全て含有するものしか記載されていないから、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。
しかし、タンパク質、脂質、又は糖質が、組成物の粘度に大きな影響を及ぼすとは認められないから、具体例の記載がなくても、請求項6に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(5)B型粘度計を用いる粘度の測定について
申立人は、B型粘度計のスピンドルの種類が特定されていないので、本件特許請求の範囲の記載の発明特定事項には技術的な不備があり不明確である。また、スピンドルの特定がない以上、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度の記載があるとは認められないと主張する。
しかし、スピンドルの種類の開示がなければ粘度を測定することができないとはいえないから、スピンドルの特定がなかったからといって技術的な不備があるとは認められない。そして、当業者であれば、スピンドルを適宜選択することにより、本件発明を実施できるものと認められる。

(6)「常温以下」について
申立人は、「常温以下」について、下限がなく不明確であると主張する。
しかし、常温以下といった場合に特記がなければ冷凍保存は行わないことが技術常識であると認められ、常温以下の下限を凍結しない温度(通常
0℃)とすることは当業者にとって技術常識であるから、「常温以下」の記載が不明確であるとはいえない。

なお、申立人は、平成30年6月20日付け意見書において、吸水性食物繊維の含有量の上限値を1.0重量%としたことについて臨界的意義がないから、出願時の引用文献3により取り消されるべきものである旨主張しているが、当該主張は、特許異議申立書に記載がなく、特許異議の申立ての理由に実質的に新たな内容を付加するものであるから、審理の対象としない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲及び明細書の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号並びに同条第4項第1号の要件を満たすから、本件請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第4号に該当しない。
したがって、本件請求項1ないし10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び異議申立書に記載された理由によっては、取り消すことができない。
また、他に、本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養組成物に対して0.1?1.0重量%の吸水性食物繊維を含み、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存することにより粘度が上昇する性質、すなわち加熱処理前の組成物の粘度を20℃で測定した場合と、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存した後の組成物の粘度を20℃で測定した場合とを比較すると粘度が上昇している性質を有する、粘性を有する液状の栄養組成物、
ここで前記栄養組成物の粘度を加熱処理前にB型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定したときに、該加熱処理前の組成物の粘度は5?300mPa・sであり、
かつ、前記栄養組成物を加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後にB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて前記栄養組成物の粘度を測定したときに、前記加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後の該栄養組成物の粘度は300?2170mPa・sとなったものである、前記液状の栄養組成物。
【請求項2】
栄養組成物に対して0.1?1.0重量%の吸水性食物繊維を含み、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存することにより粘度が上昇する性質、すなわち加熱処理前の組成物の粘度を20℃で測定した場合と、加熱処理及び常温以下の温度で7日保存した後の組成物の粘度を20℃で測定した場合とを比較すると粘度が上昇している性質を有する、粘性を有する液状の栄養組成物、
ここで前記栄養組成物の粘度を加熱処理前にB型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定したときに、該加熱処理前の組成物の粘度は5?300mPa・sであり、
均質処理圧を10?100MPaに調整して均質化処理を行ったものであり、
かつ、前記栄養組成物を加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後にB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて前記栄養組成物の粘度を測定したときに、前記加熱処理し、さらに常温以下の温度で7?90日保存した後の該栄養組成物の粘度は300?6700mPa・sとなったものである、前記液状の栄養組成物。
【請求項3】
吸水性食物繊維が、加熱処理することにより吸水性が高まる性質を有するものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の栄養組成物。
【請求項4】
吸水性食物繊維が、不溶性食物繊維であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項5】
吸水性食物繊維が、大豆食物繊維の不溶性繊維および/又は大豆ふすまであることを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項6】
タンパク質、脂質、又は糖質からなる群のうちの1つ又は複数を含有し、組成物の比重が1.06?1.5である、請求項1?5のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項7】
増粘剤、および乳化剤からなる群のうちの1つ又は複数を含有するものであることを特徴とする、請求項1?6のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項8】
均質処理圧を10?100MPaに調整して均質化処理を行った、請求項1?7のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項9】
i)栄養組成物に対し0.1?1.0重量%の吸水性食物繊維を用意する工程、
ii) 均質化のための圧処理工程、及び
iii) 加熱処理工程、
を含み、加熱処理前の組成物の粘度が、B型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定を行ったときに、5?300mPa・sであり、加熱処理および常温以下の温度による7?90日の保存の後の組成物の粘度が、B型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときに300?6700mPa・sである、粘性を有する液状の栄養組成物の製造方法。
【請求項10】
i)栄養組成物に対して0.1?1.0重量%の吸水性食物繊維を用意する工程、
ii) 均質化のための圧処理工程、及び
iii) 加熱処理工程、
を含み、加熱処理前の組成物の粘度が、B型粘度計を用いて50℃、12rpmにて測定を行ったときに、5?300mPa・sであり、均質化のための圧処理工程における均質処理圧が10?100MPaであり、加熱処理および常温以下の温度による7?90日の保存の後の組成物の粘度(20℃)がB型粘度計を用いて20℃、12rpmにて測定を行ったときに300?6700mPa・sである、粘性を有する液状の栄養組成物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-07-26 
出願番号 特願2013-515130(P2013-515130)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小石 真弓  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 佐々木 正章
井上 哲男
登録日 2017-02-03 
登録番号 特許第6084159号(P6084159)
権利者 株式会社明治
発明の名称 粘性を有する栄養組成物  
代理人 藤田 節  
代理人 江島 孝毅  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  
代理人 平木 祐輔  
代理人 田中 夏夫  
代理人 田中 夏夫  
代理人 江島 孝毅  
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