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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1343891
異議申立番号 異議2017-700557  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-05 
確定日 2018-08-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6039258号発明「高電圧の充電式マグネシウム電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6039258号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕,〔8?20〕について訂正することを認める。 特許第6039258号の請求項1?14,16?20に係る特許を維持する。 特許第6039258号の請求項15に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6039258号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?20に係る特許についての出願は、平成24年6月20日に特許出願され、平成28年11月11日に特許権の設定登録がされ、同年12月7日に特許掲載公報が発行され、その後、平成29年6月5日付けで請求項1?20に対し、特許異議申立人である松川毅(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされ、同年8月4日付けで当審から取消理由が通知され、同年10月10日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求がされ、同年10月19日付けで当審から特許権者に対し審尋がされ、同年12月22日付けで特許権者から回答書が提出され、平成30年1月5日付けで当審から申立人に対し訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をするとともに期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人から意見書は提出されず、同年3月30日付けで当審から取消理由(決定の予告)が通知され、同年6月4日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年6月13日付けで当審から申立人に対し訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をするとともに期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人から意見書は提出されなかったものである。
なお、本件訂正請求がされたため、平成29年10月10日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?3のとおりである。なお、下線は特許権者が訂正箇所を示すために付したものである。

(1)訂正事項1

請求項1の「前記カソードが、イオン安定化二酸化マンガン、イオン安定化酸化チタン、及びイオン安定化酸化バナジウムから選択される金属酸化物を含む」という記載を「前記カソードが、カリウム安定化α-二酸化マンガンを含む」という記載に訂正する。

(2)訂正事項2

請求項8の「前記カソードが、イオン安定化二酸化マンガン、イオン安定化酸化チタン、及びイオン安定化酸化バナジウムから選択される金属酸化物を含む」という記載を「前記カソードが、カリウム安定化α-二酸化マンガンを含む」という記載に訂正する。

(3)訂正事項3

請求項15を削除する。

2 一群の請求項

本件訂正前の請求項1?7は、請求項2?7が請求項1を引用する関係にあるから、本件訂正前において一群の請求項に該当する。
本件訂正前の請求項8?20は、請求項9?20が請求項8を引用する関係にあるから、本件訂正前において一群の請求項に該当する。
また、本件訂正前の請求項15を引用する請求項はない。
したがって、本件訂正は、これら一群の請求項に対して請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

3 訂正要件の検討

(1)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,新規事項追加の有無

ア 訂正事項1について

(ア)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1に係る本件訂正のうち、カソードに含まれる金属酸化物から「イオン安定化酸化チタン、及びイオン安定化酸化バナジウム」を削除する訂正は、択一的に記載されていた要素を削除する訂正であり、カソードに含まれる金属酸化物である「イオン安定化二酸化マンガン」を「カリウム安定化α-二酸化マンガン」とする訂正は、「イオン安定化二酸化マンガン」の安定化イオンをカリウムに限定するとともに、結晶構造をα型に限定する訂正であるから、訂正事項1に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(イ)新規事項追加の有無

願書に添付した明細書及び図面には、「カソード活物質は・・・金属酸化物、例えばMnO_(2)(カリウムで安定化されたα-二酸化マンガン)・・・のイオン安定化酸化物・・・を利用することができる。」(【0012】)(なお、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)と記載され、【0024】?【0029】,図4,6?8には、「カリウム安定化α-MnO_(2)」を含む「正極10」を用いた「Mg/カリウム安定化α-MnO_(2)の充電式マグネシウム電池5」が記載され、【図面の簡単な説明】には、図5が「カリウム安定化α-二酸化マンガンの結晶構造の略図である。」と記載されている。
したがって、訂正事項1に係る本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

イ 訂正事項2について

訂正事項2に係る本件訂正の内容は、訂正事項1に係る本件訂正の内容と実質的に同一である。
したがって、前記アで検討したのと同様の理由により、訂正事項2に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 訂正事項3について

訂正事項3に係る本件訂正は、本件訂正前の請求項15を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。


(2)独立特許要件

特許異議の申立ては、本件訂正前の全ての請求項1?20に対してされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

4 小括

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

本件訂正が認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?20に係る発明(以下、「本件発明1?20」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
アノード缶、
該アノード缶に近接して配置されたマグネシウム金属のアノード、
該アノードに近接して配置された高電圧電解質、
該高電圧電解質に近接して配置された金属酸化物のカソード、
該カソードに近接して配置されたカソード集電体、
該カソード集電体に近接して配置され、不活性材料層を含むカソード缶、
を含み、少なくとも3.0ボルトのマルチサイクル充電電圧を含み、可逆的放電容量を含み、かつ前記カソードが、カリウム安定化α-二酸化マンガンを含む、高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項2】
前記カソード集電体が、炭素、カーボン紙、炭素布、金属又は貴金属の金属メッシュ又は箔から形成される、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項3】
前記カソード缶が、炭素又は貴金属の不活性層を含む、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項4】
前記高電圧電解質が、THF中のHMDSMgCl+AlCl_(3)、THF中のPhMgCl+AlCl_(3)又はTHF中のMg_(2)Cl_(3)-HMDSAlCl_(3)を含む、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項5】
前記アノードの電極が、バインダー、導電性材料、及び活物質を含む、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項6】
前記カソードの電極が、バインダー、導電性材料、及び活物質を含む、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項7】
前記高電圧電解質がセパレータを含む、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項8】
アノード及びカソードハウジング、
該ハウジングの内部に配置されたマグネシウム金属のアノード、
該アノードに近接して配置された高電圧電解質、
該高電圧電解質に近接して配置された金属酸化物のカソード、
を含み、少なくとも3.0ボルトのマルチサイクル充電電圧を含み、可逆的放電容量を含み、かつ前記カソードが、カリウム安定化α-二酸化マンガンを含む、高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項9】
前記カソードハウジングが、前記電解質及び前記金属酸化物のカソードと直接接していない、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項10】
前記電解質が酸化に対して安定である、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項11】
前記カソードに近接して配置されたカソード集電体を含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項12】
前記カソード集電体が、炭素、カーボン紙、炭素布、金属又は貴金属の金属メッシュ又は箔から形成される、請求項11に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項13】
前記カソードハウジングが不活性材料層を含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項14】
前記カソードハウジングが、炭素又は貴金属の不活性層を含む、請求項13に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項15】
(削除)
【請求項16】
前記高電圧電解質が、THF中のHMDSMgCl+AlCl_(3)、THF中のMg_(2)Cl_(3)-HMDSAlCl_(3)又はTHF中のPhMgCl+AlCl_(3)を含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項17】
前記マルチサイクル充電電圧が少なくとも3ボルトである、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項18】
前記アノードの電極が、バインダー、導電性材料、及び活物質を含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項19】
前記カソードの電極が、バインダー、導電性材料、及び活物質を含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項20】
前記高電圧電解質がセパレータを含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。」

2 取消理由の概要

本件訂正前の請求項1?20に対し、平成29年8月4日付けで当審から特許権者に通知した取消理由の内容は以下のとおりである。
また、平成30年3月30日付けで当審から特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、平成29年10月10日付けの訂正請求に係る訂正によっても、下記の理由2(サポート要件違反)が依然として解消していないことを通知したものである。

「理由1(明確性要件違反)

請求項1及び8における『イオン安定化二酸化マンガン、イオン安定化酸化チタン、及びイオン安定化バナジウム』という記載は不明確である。
その理由は、特許異議申立書第31頁下から第4行?第32頁第9行に記載のとおりである。
よって、請求項1及び8、並びに、請求項1又は8を引用する請求項2?7及び9?20に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由2(サポート要件違反)

請求項1及び8に係る発明は、カソードが『カリウム安定化α-MnO_(2)』以外の金属酸化物を含むから、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
その理由は、特許異議申立書第32頁第10行?第34頁第8行に記載のとおりである。
よって、請求項1及び8、並びに、請求項1又は8を引用する請求項2?7及び9?20に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」

3 当審の判断

(1)取消理由通知に記載した取消理由について

ア 取消理由通知において引用した申立理由の概要

(ア)明確性要件違反について(特許異議申立書第31頁下から第4行?第32頁第9行)

本件訂正前の請求項1,8には、カソードに含まれる金属酸化物について「イオン安定化二酸化マンガン、イオン安定化酸化チタン、及びイオン安定化バナジウム」と記載されている。
しかし、上記各金属酸化物における「イオン安定化」の意味について、明細書中に定義や説明はなく、その意味は本件特許の出願時の技術常識を参酌しても明らかにはならないから、本件訂正前の請求項1,8における「イオン安定化二酸化マンガン、イオン安定化酸化チタン、及びイオン安定化バナジウム」という記載は、明確であるとはいえない。

(イ)サポート要件違反について(特許異議申立書第32頁第10行?第34頁第8行)

a 本件訂正前の請求項1,8には、カソードに含まれる金属酸化物について「イオン安定化二酸化マンガン、イオン安定化酸化チタン、及びイオン安定化バナジウム」と記載されている。
しかし、実施例で効果(動作)を確認しているのは、カソードにカリウム安定化二酸化マンガンを用いた場合のみであり、明細書には、カソードにイオン安定化酸化チタンやイオン安定化酸化バナジウムを用いた場合の実験結果は記載されていない。
そして、福井大学工学部研究報告「ケミカル二酸化マンガンの物性と放電特性(I)」,昭和60年3月発行,第33巻,第1号,33?41頁(甲第7号証。以下、「甲7」という。)の第37頁第14?17行,第39頁第3?6行等に記載されるように、カリウム安定化二酸化マンガンは特殊なα型の結晶構造を有するから、カソードにカリウム安定化二酸化マンガンを用いた場合に3V以上のマルチサイクル充電電圧が確認できたとしても、同様の結果がカソードにイオン安定化酸化チタンやイオン安定化酸化バナジウムを用いた場合にも得られるか否かは、当業者であっても予測できない。

b 本件訂正前の請求項1,8にカソードに含まれる金属酸化物のうちの「イオン安定化二酸化マンガン」について、実施例で効果(動作)を確認しているのは、カリウム安定化二酸化マンガンを用いた場合のみである。
ここで、甲7のTable.2(第36頁)にあるとおり、二酸化マンガンは、安定化イオンがカリウムイオンである場合にはα型の結晶構造となるが、安定化イオンがナトリウムである場合にはγ・αの混在型となることが知られているから、カソードにカリウム安定化二酸化マンガンを用いた場合に3V以上のマルチサイクル充電電圧が確認できたとしても、同様の結果が安定化イオンをナトリウムイオン等の他のイオンとした場合にも得られるか否かは、当業者であっても予測できない。

c 甲7には、二酸化マンガンにはα型、β型及びγ型等の結晶構造が存在し(第37頁第2段落)、それぞれの構造は大きく異なる(Fig.1)ところ、カリウムイオンが存在するとα型の結晶構造として安定化すること(第39頁第3?7行)が記載されている。
そうすると、カソードにα型の結晶構造となるカリウム安定化二酸化マンガンを用いた場合に3V以上のマルチサイクル充電電圧が確認できたとしても、同様の結果がカソードにβ型やγ型等の二酸化マンガンを用いた場合にも得られるか否かは、当業者であっても予測できない。

イ 当審の判断

(ア)明確性要件違反について

本件訂正によって、カソードに含まれる金属酸化物が「カリウム安定化α-二酸化マンガン」に特定され、「カリウム安定化α-二酸化マンガン」は本件特許の願書に添付した図面の図5や甲7のFig.1のdに記載された「〔MnO_(6)〕八面体のエッヂを共有しダブル・チェーンを形成する2個の〔MnO_(6)〕の結合が1個の酸素原子を共有する形で結合して環状構造を形成し,そこにK^(+)・・・を包含する」(甲7,第37頁第15?17行)結晶構造を有し、MnO_(6)の環状構造の内部には構造安定化のためのイオンが存在するものであるから、「イオン安定化」の意味が不明であるとの前記ア(ア)の明確性要件違反の取消理由は、本件訂正によって解消した。

(イ)サポート要件違反について

a 前記ア(イ)のaの理由について

本件訂正によって、カソードに含まれる金属酸化物が「カリウム安定化α-二酸化マンガン」に特定されるとともに、「イオン安定化酸化チタン、及びイオン安定化バナジウム」は、カソードに含まれる金属酸化物から除外されたから、本件訂正によって、前記ア(イ)のaの理由は解消した。

b 前記ア(イ)のb,cの理由について

本件訂正によって、カソードに含まれる金属酸化物が「カリウム安定化α-二酸化マンガン」に特定され、カソードにカリウム安定化α-二酸化マンガンを用いた場合に、3V以上のマルチサイクル充電電圧が確認できたことは、「Mg/カリウム安定化α-MnO_(2)の充電式マグネシウム電池5」の実施例として、発明の詳細な説明の【0024】?【0028】及び図4?8に記載されているから、前記ア(イ)のb,cの理由は解消した。

(2)取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について

ア 証拠方法

甲第1号証:特開2001-76721号公報
甲第2号証:特開昭58-225577号公報
甲第3号証:特開平2-181365号公報
甲第4号証:特開2002-25555号公報
甲第5号証:特開2001-332256号公報
甲第6号証:米国特許出願公開第2008/0182176号明細書

イ 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要

申立人は、本件特許の出願の出願日前に頒布された刊行物である前記アの甲第1号証?甲第6号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲6」と略記する。)を提出し、特許異議申立書の第10頁第15行?第21頁第11行,第23頁第5行?第31頁第22において、本件訂正前の本件発明1?3,5?15,17,18は、甲1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正前の本件発明4,16は、甲1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨、主張する。

ウ 当審の判断

前記イの主張について検討すると、本件訂正後の本件発明1?14,16?20は、いずれも「少なくとも3.0ボルトのマルチサイクル充電電圧を含み、可逆的放電容量を含み、かつ」「カソードが、イオン安定化α-二酸化マンガンを含む、高電圧の充電式マグネシウム電池。」という発明特定事項を有しているところ、甲1?6のいずれにも当該発明特定事項に相当する事項は記載も示唆もされていない。
したがって、訂正後の本件発明1?14,16?20は、甲1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。

第4 むすび

以上のとおり、請求項1?14,16?20に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことはできず、他に、請求項1?14,16?20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項15に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項15に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード缶、
該アノード缶に近接して配置されたマグネシウム金属のアノード、
該アノードに近接して配置された高電圧電解質、
該高電圧電解質に近接して配置された金属酸化物のカソード、
該カソードに近接して配置されたカソード集電体、
該カソード集電体に近接して配置され、不活性材料層を含むカソード缶、
を含み、少なくとも3.0ボルトのマルチサイクル充電電圧を含み、可逆的放電容量を含み、かつ前記カソードが、カリウム安定化α-二酸化マンガンを含む、高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項2】
前記カソード集電体が、炭素、カーボン紙、炭素布、金属又は貴金属の金属メッシュ又は箔から形成される、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項3】
前記カソード缶が、炭素又は貴金属の不活性層を含む、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項4】
前記高電圧電解質が、THF中のHMDSMgCl+AlCl_(3)、THF中のPhMgCl+AlCl_(3)又はTHF中のMg_(2)Cl_(3)-HMDSAlCl_(3)を含む、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項5】
前記アノードの電極が、バインダー、導電性材料、及び活物質を含む、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項6】
前記カソードの電極が、バインダー、導電性材料、及び活物質を含む、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項7】
前記高電圧電解質がセパレータを含む、請求項1に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項8】
アノード及びカソードハウジング、
該ハウジングの内部に配置されたマグネシウム金属のアノード、
該アノードに近接して配置された高電圧電解質、
該高電圧電解質に近接して配置された金属酸化物のカソード、
を含み、少なくとも3.0ボルトのマルチサイクル充電電圧を含み、可逆的放電容量を含み、かつ前記カソードが、カリウム安定化α-二酸化マンガンを含む、高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項9】
前記カソードハウジングが、前記電解質及び前記金属酸化物のカソードと直接接していない、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項10】
前記電解質が酸化に対して安定である、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項11】
前記カソードに近接して配置されたカソード集電体を含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項12】
前記カソード集電体が、炭素、カーボン紙、炭素布、金属又は貴金属の金属メッシュ又は箔から形成される、請求項11に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項13】
前記カソードハウジングが不活性材料層を含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項14】
前記カソードハウジングが、炭素又は貴金属の不活性層を含む、請求項13に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項15】
(削除)
【請求項16】
前記高電圧電解質が、THF中のHMDSMgCl+AlCl_(3)、THF中のMg_(2)Cl_(3)-HMDSAlCl_(3)又はTHF中のPhMgCl+AlCl_(3)を含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項17】
前記マルチサイクル充電電圧が少なくとも3ボルトである、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項18】
前記アノードの電極が、バインダー、導電性材料、及び活物質を含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項19】
前記カソードの電極が、バインダー、導電性材料、及び活物質を含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
【請求項20】
前記高電圧電解質がセパレータを含む、請求項8に記載の高電圧の充電式マグネシウム電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-08-03 
出願番号 特願2012-138359(P2012-138359)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 結城 佐織
長谷山 健
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6039258号(P6039258)
権利者 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 高電圧の充電式マグネシウム電池  
代理人 石田 敬  
代理人 鶴田 準一  
代理人 石田 敬  
代理人 鶴田 準一  
代理人 青木 篤  
代理人 青木 篤  

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