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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1343906
異議申立番号 異議2017-700150  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-17 
確定日 2018-07-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5981135号発明「トマト含有調味料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5981135号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第5981135号の請求項1?5に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5981135号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成23年12月28日 出願
平成28年 8月 5日 設定登録
同年 8月31日 特許掲載公報発行
平成29年 2月17日 特許異議の申立て(請求項1?5に対し)
同年 5月10日 取消理由通知
同年 7月11日 意見書、訂正請求書
同年 8月17日 意見書(申立人)
同年11月29日 訂正拒絶理由通知
平成30年 1月 4日 意見書(特許権者)
同年 3月23日 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月15日 意見書、訂正請求書
なお、平成30年5月15日付けで訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、平成29年7月11日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正について
1 訂正の内容
平成30年5月15日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものであり、具体的な訂正事項は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「トマト又はトマト加工品」を、「トマトペースト」に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項1の「とアスパラギン酸又はその塩とを含む原料」を、「にアスパラギン酸又はその塩を配合した原料」に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項1の「100℃以下で120分を超えない時間開放系で加熱処理する」を、「60?90℃で10秒間?5分間開放系で加熱処理する」に訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項1の「アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し」を、「前記アスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し」に訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の請求項1の「且つ可溶性固形分(Brix値)が」を、「トマトペーストを15?55質量%含有し、且つ可溶性固形分(Brix値)が」に訂正する。
(6)訂正事項6
訂正前の請求項2の「トマト又はトマト加工品」を、「トマトペースト」に訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の請求項2の「とアスパラギン酸又はその塩とを含む原料」を、「にアスパラギン酸又はその塩を配合した原料」に訂正する。
(8)訂正事項8
訂正前の請求項2の「100?130℃で10秒間?20分間密封系で加熱処理する」を、「100?120℃で10秒間?5分間密封系で加熱処理する」に訂正する。
(9)訂正事項9
訂正前の請求項2の「アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し」を、「前記アスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し」に訂正する。
(10)訂正事項10
訂正前の請求項2の「且つ可溶性固形分(Brix値)が」を、「トマトペーストを15?55質量%含有し、且つ可溶性固形分(Brix値)が」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1は、請求項1の「トマト又はトマト加工品」を、具体的に「トマトペースト」と限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項3?5についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「トマトは・・・生鮮トマトの他、生鮮トマトを破砕して搾汁し、又は裏ごしし、皮、種子等を除去した後に濃縮した濃縮トマト、ホールトマト、ダイストマト、トマトピューレ、トマトペースト、及びトマトジュース等を用いることができる。」(【0010】、「・・・」は記載の省略を意味する。以下同じ。)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2は、請求項1の「原料」について、「・・・とアスパラギン酸又はその塩とを含む」ものと特定されていたところを、「・・・にアスパラギン酸又はその塩を配合した」ものと特定することで、アスパラギン酸又はその塩を含む態様を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項3?5についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「トマトペースト(カゴメ(株)製)、アスパラギン酸ナトリウム((株)キリン協和フーズ製)、・・・を下記表1?5に記載の配合組成で配合し」(【0031】)、「トマトペースト(カゴメ(株)製)、アスパラギン酸ナトリウム((株)キリン協和フーズ製)、・・・を下記表6?8に記載の配合組成で配合し」(【0039】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3は、請求項1の、開放系で加熱処理する条件について「100℃以下で120分を超えない時間」から「60?90℃で10秒間?5分間」へと温度と時間の範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項3?5についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「この際の加熱条件は、開放系で加熱する場合、100℃以下で120分を超えない時間の加熱処理であることが好ましく、60?100℃で10秒間?120分間の加熱処理であることがより好ましい。より好ましくは75?100℃で20秒間?90分間、さらに好ましくは80?100℃で30秒間?60分間加熱処理することが、風味、殺菌性の観点から好ましい。」(【0024】)、「開放系で60℃、80℃、90℃のそれぞれの温度に達してから5分間加熱処理を実施する」(【0031】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4は、請求項1に係る発明のトマト含有既加熱調味料が、「アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有」するものと特定されていたところ、当該記載では、「アスパラギン酸又はその塩」との記載が、それ以前に特定される「トマト又はトマト加工品とアスパラギン酸又はその塩とを含む原料」における「アスパラギン酸又はその塩」を指すのか、トマト含有既加熱調味料が含有する「アスパラギン酸又はその塩」を意味するのかが明らかでなかったところを、「前記アスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有」するものと特定して、前者の意味であることを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正前の請求項1の記載の意味を明らかにするために、本件明細書の記載を参酌すると、実施例について、以下の記載がある。
「【0031】
実施例1?35及び比較例1?15
〔トマトケチャップの調製〕
トマトペースト(カゴメ(株)製)、アスパラギン酸ナトリウム((株)キリン協和フーズ製)、・・・を下記表1?5に記載の配合組成で配合し、・・・トマトケチャップ(可溶性固形分31%)を得た。
【0032】
〔官能評価〕
サンプルを20℃で保存した後、専門パネル5名により、以下の評価基準に従って「フレッシュ感」について評価を行い、協議により評点を決定した。結果を表1?5に示す。」
「【0044】
表1?8より明らかなように、本発明品は、比較品に比べ加熱による風味変化が抑えられ、トマト本来のフレッシュ感が保持されていた。」
そして、表1?8には「配合(質量%)」の項目の1つに「アスパラギン酸ナトリウム」が記載され、配合とは別に「アスパラギン酸換算量(質量%)」の記載があるところ、上記「アスパラギン酸ナトリウム」の欄の数値と、「アスパラギン酸換算量(質量%)」の欄の数値が1対1に対応していて、その比が、アスパラギン酸ナトリウムとアスパラギン酸の分子量の比に一致していること、及び、原料として配合されたトマトペーストがアスパラギン酸を含むことは技術常識であって、上記「アスパラギン酸換算量(質量%)」の欄の数値は、トマトペースト由来のアスパラギン酸を含めた数値とかけ離れたものであることから、後者の数値が、前者の数値から演算により算出された値であることが理解できる。
加えて、表1?8によれば、「アスパラギン酸換算量(質量%)」が0.14?1.13の実施例はフレッシュ感の評価が3?5であるのに対し、「アスパラギン酸換算量(質量%)」が0.08や1.35の比較例はフレッシュ感の評価が1又は2であるから、請求項1の「アスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%」との数値は、フレッシュ感の評価が3?5であることが確認された実施例の「アスパラギン酸換算量(質量%)」の数値に基づいて決定されたことも理解できる。
そうすると、訂正前の請求項1の「アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有」するとの特定は、実施例において配合されたアスパラギン酸ナトリウムからの演算値に基づいて決定された数値範囲を特定したものと理解できるから、当該「アスパラギン酸又はその塩」は、原料として配合されたアスパラギン酸又はその塩に由来するものを意味していると理解できる。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5は、請求項1の「トマト含有既加熱調味料」について、「トマトペーストを15?55質量%含有し」との限定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項3?5についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「また、トマトペーストを用いる場合は、11?60質量%がより好ましく、15?55質量%が更に好ましい。」(【0011】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項6は、訂正事項1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項7は、訂正事項2と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(8)訂正事項8は、請求項2の、密封系で加熱処理する条件について「100?130℃で10秒間?20分間」から「100?120℃で10秒間?5分間」へと温度と時間の範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書に、「密封系で(レトルト)加熱の場合は、100?130℃が好ましく、加熱時間は10秒間?20分間が好ましい。より好ましくは100?120℃で加熱時間は20秒間?10分間、更に好ましくは101?110℃で加熱時間は30秒間?8分間が好ましい。」(【0024】)、「密閉系で101℃又は120℃に達してから5分間加熱処理を実施する」(【0031】、【0039】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(9)訂正事項9は、訂正事項4と同様に、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(10)訂正事項10は、訂正事項5と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(11)そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。
(12)したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、各発明を「本件発明1」?「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、上記訂正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
トマトペーストにアスパラギン酸又はその塩を配合した原料を、60?90℃で10秒間?5分間開放系で加熱処理することを特徴とする、前記アスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し、トマトペーストを15?55質量%含有し、且つ可溶性固形分(Brix値)が5?40%であるトマト含有既加熱調味料を製造する方法。
【請求項2】
トマトペーストにアスパラギン酸又はその塩を配合した原料を、100?120℃で10秒間?5分間密封系で加熱処理することを特徴とする、前記アスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し、トマトペーストを15?55質量%含有し、且つ可溶性固形分(Brix値)が5?40%であるトマト含有既加熱調味料を製造する方法。
【請求項3】
トマト含有既加熱調味料が、ナトリウムの含有量が0.05?3質量%のトマト含有既加熱調味料である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
トマト含有既加熱調味料が、カリウムの含有量が0.3?1.9質量%のトマト含有既加熱調味料である請求項1?3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
トマト含有既加熱調味料が、トマトケチャップ、トマトソース、又はチリソースである請求項1?4のいずれか1項に記載の製造方法。

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して平成29年5月10日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。なお、当該取消理由は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由を全て含んでいる。
(理由1)特許法第36条第4項第1号
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、以下の点で、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(a)「フレッシュ感」の評価結果及び評価基準が理解できない。
(b)「トマトの風味の変化」(【0040】)は理解できない。
(c)「アスパラギン酸換算量」の技術上の意義が理解できない。加熱がアスパラギン酸の含有量に影響するのに測定時期が不明であり、表1?5によれば、加熱温度が違っても、アスパラギン酸換算量が同一であって不自然である。仮に演算値とすれば、トマトペースト由来のものを考慮していない。

(理由2)特許法第36条第6項第1号
本件特許の請求項1?5に係る発明は、以下の点で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(a)可溶性固形分(Brix値)は、31%と10%の場合しか効果を確認していない。また、Brix値は還元水飴の配合でも調整され、トマトペーストの配合量を意味するとは限らないから、Brix値の調整によりトマト本来のフレッシュな香気が得られると認識できない。
(b)加熱条件について、実施例で確認しているのは、開放系について、60℃又は80℃又は90℃で達温5分、密封系について、101℃又は120℃で達温5分にすぎず、数値範囲の裏付けが不足している。
(c)「フレッシュ感」及び「トマトの風味の変化」が理解できず、「アスパラギン酸換算量」も理解できず、トマト原料由来のアスパラギン酸と添加したアスパラギン酸とで効果が異なることも理解できないことから、「アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し」での奏功は裏付けられていない。

(理由3)特許法第36条第6項第2号
「アスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し」の意味が明確でないから、本件特許の請求項1?5に係る発明は明確でなく、請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 取消理由についての判断
(1)事案に鑑み、まず、「(理由2)特許法第36条第6項第1号」について検討する。
本件明細書には、本件発明の課題について、「本発明の課題は、加熱による風味変化を抑制し、トマト本来のフレッシュな香気が感じられるトマト含有調味料を提供することにある。」(【0005】)と記載されている。
そして、課題解決手段について、「本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、アスパラギン酸又はその塩を一定範囲で含有させれば、加熱による風味変化を抑えることができ、トマト本来のフレッシュな香気を有するトマト含有調味料とすることができることを見出した。」(【0006】)と記載されている。
しかしながら、アスパラギン酸又はその塩を含有させれば、加熱による風味変化を抑えることができ、トマト本来のフレッシュな香気を有するトマト含有調味料とすることができるという事項は、その機序についての説明はなく、技術常識ともいえないから、具体的な実施例によって確認された事項であると解される。
そして、アスパラギン酸又はその塩を含有させる「一定範囲」についても実施例によって確認し、その範囲を本件発明において、「アスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し」と特定したものといえる。

(2)ところで、本件発明に係るトマト含有既加熱調味料は、トマトペーストにアスパラギン酸又はその塩を配合したものを原料としているところ、トマトペーストもアスパラギン酸を含むことは技術常識であって、甲第4号証によれば、その含有量は、例えば、トマトペースト100g当たり580mgであるから、原料とするトマトペーストの含有量は、トマト含有既加熱調味料におけるアスパラギン酸の総量に大きく影響するといえる。
そして、原料として配合したアスパラギン酸又はその塩と、原料であるトマトペーストに含まれるアスパラギン酸とで、その機能ないし作用が相違することは、本件明細書に記載されていないし、技術常識に照らしてもそのような相違があるとは考えられないから、本件明細書に記載されたとおり、「アスパラギン酸又はその塩を一定範囲で含有させれば、加熱による風味変化を抑えることができ、トマト本来のフレッシュな香気を有するトマト含有調味料とすることができる」(【0006】)というのであれば、課題解決手段としてのトマト含有既加熱調味料におけるアスパラギン酸含有量としては、トマトペーストに由来するアスパラギン酸も含めたアスパラギン酸の総量を特定する必要があるといえる。
しかるに、本件発明においては、「前記アスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し」と特定し、原料として配合したアスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩のアスパラギン酸換算量のみを特定していることから、本件発明に係るトマト含有既加熱調味料に含まれるアスパラギン酸の総量については何ら特定していないこととなる。
そうすると、本件発明は、課題解決手段としてのトマト含有既加熱調味料におけるアスパラギン酸含有量として、その総量を特定する必要があるのに、特許請求の範囲においては、総量が特定されていないから、明らかに課題を解決するために必須の構成を欠いている。

(3)一方、本件明細書に記載された実施例についてみれば、いずれも、トマトペースト35質量%を配合したものであって、上記第2の2(4)で検討したように、本件発明の「アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有」するとの特定は、上記実施例において配合されたアスパラギン酸ナトリウムからの演算値に基づいて決定された数値範囲を特定したものと理解される。当該数値は、トマトペースト由来のアスパラギン酸を考慮したものではないところ、トマトペーストの含有量が実施例に含まれるアスパラギン酸の総量に大きく影響することは前述のとおりである。
具体的に検討すると、本件発明は、トマトペーストを15?55質量%含有するものであるところ、トマトペースト100g当たりのアスパラギン酸含有量を580mgとすると(甲第4号証)、トマトペーストを15質量%含有する場合のトマトペーストに由来するアスパラギン酸は、0.087質量%(=0.580×0.15)であり、トマトペーストを55質量%含有する場合のトマトペーストに由来するアスパラギン酸は、0.319質量%(=0.580×0.55)であるから、その差は0.232質量%である。この数値は、本件発明の「アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し」として特定される数値に対して十分に大きく、無視できない数値である。
例えば、アスパラギン酸換算量で1.13質量%のアスパラギン酸ナトリウムを配合した実施例7において、トマトペーストの配合を35質量%から55質量%に変更すると、トマトペーストに由来するアスパラギン酸は、0.116質量%(=0.580×(0.55-0.35))増加するから、これは、トマトペーストの配合は35質量%のままで、アスパラギン酸換算量で1.246質量%(=1.13+0.116)のアスパラギン酸ナトリウムを配合したのと等価である。しかしながら、実施例5?7及び比較例2、3を参照すると、アスパラギン酸ナトリウムの配合割合が所定値よりも増加するとフレッシュ感の評価は低下しているから、上記、アスパラギン酸換算量で1.246質量%のアスパラギン酸ナトリウムを配合したものについて良好な評価が得られるかは不明といわざるを得ない。
なお、上記においては、甲第4号証を参照して、トマトペースト100g当たりのアスパラギン酸含有量を580mgとしたが、当該数値は、推計値にすぎず、トマトペーストの種類によってアスパラギン酸含有量が異なる可能性もある。
そうすると、トマトペーストの種類や配合量に応じて、別途配合するアスパラギン酸又はその塩の配合量を調節しなければならないことは明らかであるから、結局、本件発明の「アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%」という含有量は、特定のトマトペースト35質量%を配合した実施例を前提とする場合にのみ意味のある数値範囲であるというほかなく、それ以外の場合には、上記数値範囲で効果があるかは不明である。
よって、配合したアスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有すれば、本件発明の課題を解決できるということはできない。

(4)したがって、本件発明1?5は、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らし、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできず、請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第6 むすび
以上のとおり、請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマトペーストにアスパラギン酸又はその塩を配合した原料を、60?90℃で10秒間?5分間開放系で加熱処理することを特徴とする、前記アスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し、トマトペーストを15?55質量%含有し、且つ可溶性固形分(Brix値)が5?40%であるトマト含有既加熱調味料を製造する方法。
【請求項2】
トマトペーストにアスパラギン酸又はその塩を配合した原料を、100?120℃で10秒間?5分間密封系で加熱処理することを特徴とする、前記アスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し、トマトペーストを15?55質量%含有し、且つ可溶性固形分(Brix値)が5?40%であるトマト含有既加熱調味料を製造する方法。
【請求項3】
トマト含有既加熱調味料が、ナトリウムの含有量が0.05?3質量%のトマト含有既加熱調味料である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
トマト含有既加熱調味料が、カリウムの含有量が0.3?1.9質量%のトマト含有既加熱調味料である請求項1?3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
トマト含有既加熱調味料が、トマトケチャップ、トマトソース、又はチリソースである請求項1?4のいずれか1項に記載の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-18 
出願番号 特願2011-288851(P2011-288851)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (A23L)
P 1 651・ 536- ZAA (A23L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 田中 晴絵  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 紀本 孝
山崎 勝司
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5981135号(P5981135)
権利者 花王株式会社
発明の名称 トマト含有調味料  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 山本 博人  
代理人 高野 登志雄  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 村田 正樹  
代理人 桐山 大  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 山本 博人  
代理人 村田 正樹  

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