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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C12C |
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管理番号 | 1343916 |
異議申立番号 | 異議2018-700053 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-01-22 |
確定日 | 2018-09-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6170206号発明「ビールテイスト飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6170206号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6170206号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成28年5月26日に特許出願され、平成29年7月7日にその特許権の設定登録がされ、平成29年7月26日に特許掲載公報が発行された。 その後、その特許について、平成30年1月22日に特許異議申立人田中眞喜子(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、当審において平成30年4月23日付けで取消理由を通知し、特許権者より平成30年6月25日に意見書が提出されたものである。 2.本件発明 特許第6170206号の請求項1ないし5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 穀物由来成分を含有するビールテイスト飲料であって、 外観最終発酵度が95%?105%であり、 アミノ酸濃度が、アミノ態窒素(A-N)として、5?8mg/100mLであり、 麦芽使用比率が50%以上であり、 糖質含量が3.0g/100mL以下である、 ビールテイスト飲料。 【請求項2】 コクキレ感を体感するための飲料である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。 【請求項3】 アルコール度数が1?10容量%である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。 【請求項4】 更に、ホップ抽出物を含有する、請求項1?3のいずれかに記載のビールテイスト飲料。 【請求項5】 麦芽使用比率50%以上で、炭素源又は窒素源を含有する穀物由来成分の水溶液を調製する工程と、 前記水溶液に酵母を添加し、発酵させる工程と、 を有するビールテイスト飲料の製造方法であって、 前記発酵させる工程は、飲料中のアミノ酸濃度が、アミノ態窒素(A-N)として、5?8mg/100mLとなるように、前記水溶液を発酵させる工程を有し、 前記ビールテイスト飲料の外観最終発酵度が95%?105%であり、糖質含量が3.0g/100mL以下である、ビールテイスト飲料の製造方法。 3.取消理由の概要 当審において請求項1ないし5に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。なお、上記取消理由通知は、本件特許異議の申立てにおいて申立てられたすべての申立理由を含んでいる。 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 甲第1号証:特許第5313327号公報 甲第2号証:”改訂 BCOJビール分析法”、財団法人日本醸造協会、2004年11月1日、8.1.3?8.5,9.2 甲第3号証: 宮地秀夫、”ビール醸造技術”、1999年12月28日、株式会社食品産業新聞社,p.144、145、292、293、426、427 甲第4号証: Dr H J Manger、”TECHNOLOGY Brewing & Malting”、2010、VLB BERLIN、p.826-829 甲第5号証:”Preparation of a Low Carbohydrate Beer by Mashing at High Temperature with Glucoamylase ”、Journal of The Institute of Brewing、2001、 Volume 107、 No.3、p.185-194 甲第6号証:”新版 醸造成分一覧”、財団法人日本醸造協会、昭和52年6月10日、p.216、217 甲第7号証:Daniel G.Abernathy、外2名、”Analysis of Protein and Total Usable Nitogen in Beer and Wine Using a Microwell Ninhydrin Assay”、JOURNAL OF THE INSTITUTE OF BREWING、Institute of Brewing & Distilling、2009、Volume 115 No.2、p.122-127 4.引用発明 (1)甲第1号証の記載事項 甲第1号証(以下「甲1」という。)には、以下の記載がある。 「【0001】 本発明は低糖質発酵麦芽飲料およびその製造方法に関する。」 「【0007】 本発明は、麦芽を原料として用いることによりビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減された発酵麦芽飲料とその製造方法を提供することを目的とする。」 「【0012】 定義 本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。 ・・・「発酵麦芽飲料」は、好ましくは、ビールまたは発泡酒であり、より好ましくは、ビールであり、さらに好ましくは、オールモルトビール(醸造用水を除く全原料の重量に対する麦芽原料の重量の割合が100%であるビール)である。 【0013】 本発明において「糖質が低減された発酵麦芽飲料」とは、常法により製造された発酵麦芽飲料の糖質の量と比較して、糖質が低減されている発酵麦芽飲料を意味する。「糖質が低減された発酵麦芽飲料」としては、例えば、糖質が1.4g/100ml以下の発酵麦芽飲料とすることができる。 【0014】 本発明において「ビールとしての味わい」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、ビール酵母による発酵に基づいて麦芽や大麦等の使用比率が高いビールを製造した場合に得られるビール特有の味わいや飲み応えをいう。 【0015】 本発明の発酵麦芽飲料の製造方法 本発明の製造方法では、糖化工程中で麦汁濾過を行う。糖化工程中で麦汁濾過を行うことにより、ビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減された発酵麦芽飲料を製造する ことができる。」 「【0039】 [本発明の発酵麦芽飲料] 本発明によれば、本発明の製造方法によって製造された発酵麦芽飲料が提供される。本発明の発酵麦芽飲料は、ビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減されている。 【0040】 本発明において、糖質が低減されたか否かは、外観最終発酵度(AAL)を用いて確認することができる。 外観最終発酵度は次式で算出することができる。 [数1] 外観最終発酵度(%)=((E?e)/E)×100 E:初糖度(゜P) e:最終糖度(゜P)」 「【0049】 実施例2:糖化工程中で麦汁濾過を行うことによる糖質低減効果の確認(1) 北米産2条大麦麦芽を常法にて粉砕し、これに水を加え、重量比が麦芽原料:水=1:4となるように仕込み液を調整した。実験区は、仕込み液に、表2に示すとおりにグルコアミラーゼを添加し、64℃にて糖化を行った。その後、同温度にて、濾紙濾過法を使用して麦汁濾過を行った後、麦芽原料:水=1:6(麦汁濾過前の麦芽原料の重量に基づいて算出)となるよう同温度の湯で濾過麦汁の希釈を行った。さらに同温度にて糖化を継続し、合計で2または5時間糖化を行った。対照区は、表2に示すとおりにグルコアミラーゼを添加し、64℃にて2または5時間糖化を行った後に、同温度で麦汁濾過したものとした。なお、プルラナーゼはいずれの試験区も麦下ろし時のみ2.0g/kg原料で添加した。このようにして得られた糖化液(実験区および対照区)を10分間煮沸し、7℃に冷却して、濾過を行い、糖度を6.0重量%に調整した後、常法に従い、ビール醸造用酵母3%(w/v)加え、20℃にて2日間発酵させた。発酵前後で糖度を測定し、AALを算出した。 【表2】 その結果、麦芽原料:水=1:4で糖化を開始し、1時間または30分後に濾過を行った後、麦芽原料:水=1:6となるよう水で希釈して再度糖化を行った場合(実験区)、糖化工程中に麦汁濾過を行わない対照区と比較して、AALが0.9?2.1%向上することが確認された(図2)。また、糖化開始から1時間後に濾過を行うよりも30分後に濾過を行なった方がよりAALが高いことが確認された(図2)。」 「【0052】 実施例5:発酵後の非資化性糖の分析 実施例2における酵母発酵液について、ダイオネクス社製のイオンクロマト装置(カラム:CarboPac PA1 4×250mm)を用いて、2糖および3糖の非資化性糖の分析を行った。α1,6結合を持つ非資化性糖の標準品としてイソマルトース、イソマルトトリオース、パノース、ニゲロースを用いた。分析値は、発酵前の糖度として12.0重量%の場合に換算して求めた。 【表5】 その結果、実験区においては、糖化工程中に麦汁濾過を行わない対照区と比較して、2糖および3糖の非資化性糖の合計含量が低くなっていることが確認された(表5、図5)。また、非資化性糖の合計含量とAAL値との間に強い負の相関が示されることが確認された(表5、図6)。従って、糖化工程中で麦汁濾過を行うことによる糖質低減効果は、非資化性糖の合計含量の低下によるものであることが示唆された。」 甲1の実施例は、糖質が低減された発酵麦芽飲料とその製造方法を提供することを目的とするものであり(【0007】)、「『糖質が低減された発酵麦芽飲料』としては、例えば、糖質が1.4g/100ml以下の発酵麦芽飲料とすることができる」(【0013】)との記載及び表5から、甲1の実施例である「実験区I-1」、「実験区II-1」、「実験区I-2」、「実験区II-2」は、糖質が1.4g/100ml以下の発酵麦芽飲料であり、外観最終発酵度が、102.3%から103.1%であるといえる。 「発酵麦芽飲料」は、好ましくは、「醸造用水を除く全原料の重量に対する麦芽原料の重量の割合が100%であるビール」であるとの記載(【0012】)及び「北米産2条大麦麦芽を常法にて粉砕し、これに水を加え、重量比が麦芽原料:水=1:4となるように仕込み液を調整した。」(【0049】)との記載から、「発酵麦芽飲料」は、麦芽使用比率が100%であるといえる。 (2)引用発明 上記記載事項より、甲1には、以下の発明が記載されていると認める(以下「引用発明1」という。)。 「麦芽原料を含有する発酵麦芽飲料であって、外観最終発酵度が102.3%から103.1%であり、麦芽使用比率が100%であり、糖質1.4g/100ml以下である発酵麦芽飲料。」 また、甲1には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認める。 「麦芽使用比率100%であって、北米産2条大麦麦芽を常法にて粉砕し、これに水を加え、重量比が麦芽原料:水=1:4となるように仕込み液を調整し、仕込み液に、グルコアミラーゼを添加し、64℃にて糖化を行い、その後、同温度にて、濾紙濾過法を使用して麦汁濾過を行い、その後、麦芽原料:水=1:6となるよう同温度の湯で濾過麦汁の希釈を行い、その後、さらに同温度にて糖化を継続し、合計で2または5時間糖化を行う仕込み液を発酵する工程とを有する麦芽原料を含有する発酵麦芽飲料の製造方法であって、外観最終発酵度が102.3%から103.1%であり、糖質1.4g/100ml以下である発酵麦芽飲料の製造方法。」 5.取消理由についての判断 (1)請求項1に係る発明について 請求項1に係る発明と引用発明1とを対比すると、請求項1に係る発明は、「アミノ酸濃度が、アミノ態窒素(A-N)として、5?8mg/100mL」であるのに対して、引用発明はアミノ酸濃度が不明な点で少なくとも相違する(以下「相違点1」という。)。 前記相違点1について検討すると、甲第5号証には、麦汁の製造において、アミノ態窒素を5.3mg/100ml及び6.2ml/100mlとすること(p.193 TABLE VI)、甲第6号証には、ビールのアミノ酸含量として6.7mg/100mlとすること(216ページ 第3表 欧大陸諸国)、甲第7号証には、ビールの遊離アミノ酸含量を5.7mg/100ml、6.8mg/100ml、5.6mg/100ml、5.2mg/100mlとすることが記載されているものの、引用発明1は糖質1.4g/100ml以下である低糖質発酵麦芽飲料であり、また、コクとキレのバランスに優れたものとするためにアミノ酸濃度を調整することについて記載も示唆もされていない。また、甲第2号証ないし甲第4号証の記載を参酌しても、甲1に記載された飲料において、アミノ酸濃度を前記相違点に係る請求項1の構成となるように調整することが技術常識であるとも、動機付けがあったともいえない。 したがって、請求項1に係る発明は、前記引用発明1及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 (2)請求項2ないし4に係る発明について 請求項2ないし4に係る発明は請求項1に係る発明を減縮したものであるから、請求項1に係る発明と同様の理由で請求項2ないし4に係る発明は、前記引用発明1及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 (3)請求項5に係る発明について 請求項5に係る発明と引用発明2とを対比すると、請求項5に係る発明は「飲料中のアミノ酸濃度が、アミノ態窒素(A-N)として、5?8mg/100mLとなるように、前記水溶液を発酵させる工程」を有しているのに対して、引用発明2は、そのような工程を有しているか不明な点で少なくとも相違する(以下「相違点2」という。)。 前記相違点2については、前記相違点1の検討で示したとおり、甲1に記載された発酵麦芽飲料は、飲料中のアミノ酸濃度が、アミノ態窒素(A-N)として、5?8mg/100mLとなるようにするものではないから、引用発明2において、前記相違点2に係る請求項5の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるといえない。 したがって、請求項5に係る発明は、前記引用発明2及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 6.むすび したがって、請求項1ないし5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-08-24 |
出願番号 | 特願2016-105368(P2016-105368) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C12C)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 厚田 一拓 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
窪田 治彦 莊司 英史 |
登録日 | 2017-07-07 |
登録番号 | 特許第6170206号(P6170206) |
権利者 | アサヒビール株式会社 |
発明の名称 | ビールテイスト飲料及びその製造方法 |
代理人 | 田中 伸一郎 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 服部 博信 |
代理人 | ▲吉▼田 和彦 |
代理人 | 藤原 健史 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 市川 さつき |
代理人 | 弟子丸 健 |