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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1343918
異議申立番号 異議2018-700483  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-12 
確定日 2018-08-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6247373号発明「メタクリル系樹脂組成物、光学フィルム、光学部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6247373号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6247373号の請求項1ないし10に係る発明についての出願は、平成28年11月24日(優先権主張 平成28年6月22日)に特許出願され、平成29年11月24日にその特許権の設定登録がされ、同年12月13日に特許公報が発行され、その後異議申立人 三上 早織(以下、「申立人」という。)により、平成30年6月12日(同年6月14日受付)に特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許について
特許第6247373号の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認められる。

【請求項1】
主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂を含み、且つ、芳香族基を有する構造単位(Y)を含む、2種以上の樹脂を含み、
ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、
GPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、以下の関係を満たし、
1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0
(式中、Mw_(RI)は、示差屈折率検出器を用いて求めた重量平均分子量であり、Mw_(UV)は、紫外可視吸光度検出器を検出波長254nmで用いて求めた重量平均分子量を意味する。)
メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下である、
ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂は、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂50?95質量部と、芳香族ビニル系樹脂5?50質量部とを含み、
ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、
GPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、以下の関係を満たし、
1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0
(式中、MwRIは、示差屈折率検出器を用いて求めた重量平均分子量であり、MwUVは、紫外可視吸光度検出器を検出波長254nmで用いて求めた重量平均分子量を意味する。)
メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下である、
ことを特徴とする、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、
前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、
前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
光弾性係数の絶対値が、2.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
光弾性係数の絶対値が、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項5に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物で構成されていることを特徴とする、光学フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の光学フィルムの表裏面の少なくとも一面に機能層が積層されていることを特徴とする、光学部品。
【請求項9】
前記機能層が、ハードコート層、防眩(ノングレア)層、反射防止層、光拡散層、帯電防止層、及び紫外線遮蔽層からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載の光学部品。
【請求項10】
前記光学フィルムが、位相差フィルムである、請求項7に記載の光学フィルム及び請求項8又は9に記載の光学部品。

第3 異議申立理由の概要
申立人の異議申立の理由は、概略以下のとおりである。

1 申立理由1
本件請求項1ないし10に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

2 申立理由2
本件請求項1ないし10に係る発明は、甲第1号証ないし甲第16号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていないから、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

3 申立理由3
本件請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

4 申立理由4
本件請求項1ないし10に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

5 申立理由5
本件請求項1ないし10に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2010-262253号公報
甲第2号証:国際公開第2013/005634号
甲第3号証:特開2010-13613号公報
甲第4号証:特開2008-276208号公報
甲第5号証:2014-185196号公報
甲第6号証:国際公開第2015/064576号
甲第7号証:特開2014-98117号公報
甲第8号証:特開平6-1808号公報
甲第9号証:特開2009-52021号公報
甲第10号証:特開2015-108161号公報
甲第11号証:特開平7-276569号公報
甲第12号証:特開平4-224928号公報
甲第13号証:特開2000-43210号公報
甲第14号証:特開昭61-141715号公報
甲第15号証:特開2008-308565号公報
甲第16号証:特開2014-28956号公報

以下、上記甲第1号証ないし甲第16号証を、それぞれ、「甲1」ないし「甲16」という。

第4 当審の判断
1 申立理由1及び2について
(1)甲1?16の記載と甲1?4に記載された発明

甲1には、請求項1、2、【0021】、【0022】から、以下の発明が記載されていると認められる。
「正の固有複屈折を有する、構成単位に(メタ)アクリル酸エステル単位を有する重合体であって、主鎖にラクトン環構造である環構造を有するアクリル系重合体と、負の固有複屈折を有するスチレン系重合体とを含む負の固有複屈折を有する、ガラス転移温度が110℃以上である、熱可塑性樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。)

甲2には、請求項1及び請求項12から、以下の発明が記載されていると認められる。
「下記式(1)で表される第一の構造単位及び下記式(2)で表される第二の構造単位を有する第一のアクリル系樹脂と、下記式(1)で表される第一の構造単位及び下記式(3)で表される第三の構造単位を有する第二のアクリル系樹脂と、を含有し、前記第一のアクリル系樹脂及び前記第二のアクリル系樹脂の総量基準で、前記第一の単位の総含有量が50?95質量%であり、前記第二の構造単位及び前記第三の構造単位の総含有量が5?50質量%であり、ガラス転移温度Tgが120℃以上である、アクリル系熱可塑性樹脂組成物。


[式中、R^(1)は、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数5?12のシクロアルキル基、炭素数7?14のアリールアルキル基、炭素数6?14のアリール基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6?14のアリール基、を示す。
A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1?12のアルコキシ基及び炭素数1?12のアルキル基。]


[式中、R^(2)は、炭素数7?14のアリールアルキル基、炭素数6?14のアリール基、又は、下記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6?14のアリール基、を示し、R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基又は炭素数6?14のアリール基を示す。
B群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数1?12のアルキル基及び炭素数7?14のアリールアルキル基。]


[式中、R^(5)は、水素原子、炭素数3?12のシクロアルキル基、炭素数1?12のアルキル基、又は、下記C群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数1?12のアルキル基、を示し、R^(6)及びR^(7)はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基又は炭素数6?14のアリール基を示す。
C群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1?12のアルコキシ基。]」(以下、「甲2発明」という。)

甲3には、請求項1及び請求項9から、以下の発明が記載されていると認められる。
「(i)下記一般式(1)で表される環構造単位、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位、および(iii)その他共重合可能なビニル単量体単位を有する重合体ブロック(a)とアクリル酸エステル単量体単位を有する重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)および(i)上記一般式(1)で表される重合体ブロック(a)と同じ環構造単位を有するガラス転移温度120℃以上のアクリル系共重合体(B)を配合してなる熱可塑性共重合体組成物であって、アクリル系ブロック共重合体(A)が、下記(I)?(III)を満足する、熱可塑性共重合体組成物。(I)アクリル系ブロック共重合体(A)の(i)下記一般式(1)で表される環構造単位を100重量%として、(iii)その他共重合可能なビニル単量体単位が0.1?20重量%。
(II)重量平均分子量が、5万?30万。


(ただし、R^(1)、R^(2)は、同一または相異なるものであり、水素原子、炭素数1?20のアルキル基およびアルキルエステル基から選ばれるいずれかを表し、R^(3)は、ケトン基および炭素数1?20のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R^(4)は、酸素原子またはNR^(5)を表し、R^(5)は水素原子および炭素数1?20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)」(以下、「甲3発明」という。)

甲4には、請求項1から、以下の発明が記載されていると認められる。
「重量平均分子量が5万を超えるスチレン系樹脂(A)と、重量平均分子量が5万を超えるアクリル系樹脂(B)とを含む樹脂組成物。」(以下、「甲4発明」という。)

甲5の、【0108】及び【0109】には、紫外線吸収剤の分子量が600未満の場合、紫外線吸収剤がブリードアウトしたりすることがあることが記載されている。また、【0140】及び【0163】には、アクリル系重合体の環化縮合反応において、脱揮工程により、溶媒、残存単量体などの揮発分と、環化工程により複製したアルコールとを除去処理することが記載されている。

甲6の、請求項1及び【0040】には、重合性単量体をラジカル塊状重合させて、メタクリル酸メチルに由来する構造単位60?90質量%、メタクリル酸脂環式炭化水素エステルに由来する構造単位10?40質量%、およびアクリル酸エステルに由来する構造単位0?10質量%を有するメタクリル樹脂と、未反応の重合性単量体と、重合性単量体から成る二量体若しくは三量体とを含有する樹脂混合物を得、該樹脂混合物を、ベントを備えた二軸押出機に連続的に移送し、二軸押出機にて、樹脂混合物から未反応の重合性単量体と重合性単量体から成る二量体若しくは三量体とを除去することが記載されている。

甲7の、【0048】及び【0049】には、メタクリル系樹脂のフィルムにおいて、残存モノマーは、フィルム中0.1質量%?1.5質量%であることが好ましいことが記載されている。また、【0055】及び【0058】には、懸濁重合によりメタクリル系樹脂を製造するにあたり、残存モノマーの低減化の観点から、重合工程後に、重合温度よりも高い温度に昇温し、一定時間保持することが好ましいことが記載されている。

甲8の、請求項1、【0020】及び【0027】には、マレイミド系共重合体と、たとえば、溶剤、未反応単量体、揮発性の副生物または不純物の様な揮発性を有するものである揮発性成分とを有する重合体組成物を、ベントタイプスクリュー押出機で処理して揮発性成分を除去することが記載されており、水蒸気や水の不活性液体を圧入して重合体組成物と混合したのち、ベント部分で減圧分離することにより残留揮発成分をさらに低減することができることについて記載されている。

甲9の請求項1、3、4及び【0087】には、主鎖にラクトン環構造等の環構造を有する熱可塑性アクリル樹脂と、紫外線吸収剤を含む熱可塑性樹脂組成物において、Tg以下の沸点を有する成分の総含有量が5000ppm以下であることが好ましく、3000ppm以下であることがより好ましいこと、上記成分の総含有量が5000ppmを超えると、成形時に着色が生じたり、シルバーストリークなどの成形不良が生じることがあることが記載されている。

甲10の請求項2、【0025】には、メタクリル酸エステル単量体単位及び少なくとも1種のメタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体単位を含むアクリル系樹脂において、分子量500以下のアクリル系樹脂は、成形時にシルバーストリークスと呼ばれる発泡様の外観不良を発生させやすくなるため、可能な限り、少ない方がよいことが記載されている。

甲11の請求項1には、加熱加圧時にブリードする成分を含む樹脂フィルムの表面に凹凸形状を設け、そのフィルムの裏面に該ブリード成分を阻止するコーティング層を設けた賦型シートが記載され、【0010】には、該樹脂フィルムが、オリゴマー、単量体、可塑剤、安定剤等の流動性成分が浸出乃至は溶出する樹脂から成るフィルムであることが記載されている。

甲12の【0005】には、低分子量ポリオレフィンや機能付与剤は、高分子量ポリオレフィンマトリックス中から表面にブリードする傾向があり、微量の場合は高分子量ポリオレフィン同士の界面に存在しても溶融した高分子量ポリオレフィン同士の熱融着を妨害しないが、多量となると高分子量ポリオレフィン同士の熱融着を阻害することが記載されている。

甲13の【0006】には、化粧シートにおいて、紫外線吸収剤がブリードすると、表面シートと基材シート、表面シートと絵柄インキ層との層間にブリードした紫外線吸収剤が離型剤として作用するため、層間の剥離が生じる場合もあることが記載されている。

甲14の6頁左下欄17行?右下欄12行には、ポリマービーズの残存単量体除去は、ポリマービーズ100重量部に対し100重量部以上のポリマービーズ非溶解性溶媒で洗浄することにより達成されること、溶媒の例としてはメタノール、エタノール、ヘキサン等が挙げられ、特にメタノールを用いることが好ましいことが記載されている。

甲15の請求項1、【0066】ないし【0068】には、グルタル酸無水物単位を含む熱可塑性共重合体のポリマー溶液を、メタノール等の貧溶媒で再沈し、乾燥することによって、目的とする高度に精製された熱可塑性共重合体を得ることができること、樹脂中に含有する重量平均分子量2000以下の低分子量オリゴマーを除去することにより、樹脂の熱安定性やそれに伴って成形性と力学特性が向上し、かつ光学特性も安定化した樹脂を得ることができること、該分子量2000以下のオリゴマーの含有量は1%以下が好ましいことが記載されている。

甲16の【0069】には、アクリル系熱可塑性樹脂中に残存する(共重合体の繰り返し単位を構成する)単量体の合計は、アクリル系熱可塑性樹脂(共重合体)100質量部に対して好ましくは0.5質量%以下であること、残存単量体の合計が0.5質量%を超えると、成形加工時に熱時着色したり、成形品の耐熱性及び耐候性が低下したりするなど実用に適さない成形体が得られるという問題があることが記載されている。また、【0088】には、脱揮工程とは、重合溶剤、残存単量体、水分などの揮発分を、必要に応じて減圧加熱条件下で除去処理する工程を意味すること、残存揮発分量は、アクリル系熱可塑性樹脂100質量部に対して好ましくは0.5質量%以下であることが記載されている。

(2)対比・判断
ア 甲1を主引例とする場合の検討
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「(メタ)アクリル酸エステル単位」は、メタクリル酸エステル単位及びアクリル酸エステル単位の両者を意味するものと解される。してみると、甲1発明の「構成単位に(メタ)アクリル酸エステル単位を有する重合体であって、主鎖にラクトン環構造である環構造を有するアクリル系重合体」は、本件発明1の「主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が」「ラクトン環構造単位」「であるメタクリル系樹脂」に相当し、甲1発明の「熱可塑性樹脂組成物」は、本件発明1の「メタクリル系樹脂組成物」に、「メタクリル系樹脂組成物」の限りで相当する。
また、甲1発明の「スチレン系重合体」は芳香族基を有する構造単位を含むから、甲1発明の、「熱可塑性樹脂組成物」が、「アクリル系重合体」と、「スチレン系重合体」の2種の樹脂を含むことは、本件発明1の、「メタクリル系樹脂組成物」が、「芳香族基を有する構造単位(Y)を含む、2種以上の樹脂を含」むことに相当する。
さらに、「110℃以上」とのガラス転移温度は、本件発明1の「ガラス転移温度」の範囲である「120℃超160℃以下」の範囲と重複する。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位であるメタクリル系樹脂を含み、且つ、芳香族基を有する構造単位(Y)を含む、2種以上の樹脂を含み、ガラス転移温度が120℃超160℃以下である、メタクリル系樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1では、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下であるのに対して、甲1発明ではこの点についての特定がない点。

(相違点2)
本件発明1では、GPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0の関係を満たすのに対して、甲1発明では、この点についての特定がない点。

上記相違点について検討する。
相違点1について
本件明細書には以下の記載がある。
「これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
本実施形態では、反応系内に残存する未反応モノマー総量に対する重合開始剤より発生するラジカル総量の割合が、常時一定値以下となるように、開始剤の種類、開始剤量、及び重合温度等を適宜選択することが好ましい。
特に、本実施形態では、特に重合開始剤の添加開始から添加終了までの時間(重合開始剤添加時間)の前半に、少なくとも一度、重合開始剤の単位時間当たりの添加量を、添加開始時の単位時間当たりの添加量よりも小さくすることが好ましい。
この方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成量を抑制したり、重合時の過熱を抑制して重合の安定性を図ったりすることできる。」(【0047】)
「メタノール可溶分の割合を、上記範囲を満たすように調整する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、重合における単量体の添加方法や重合開始剤の添加方法を制御することにより、オリゴマーや低分子量体の生成を抑制する方法が挙げられる。
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物のメタノール可溶分には、例えば、未反応の単量体成分に加えて、その二量体や三量体等のオリゴマー成分、さらには重量平均分子量として1,000?15,000程度の低分子量成分で常温のメタノールに可溶な組成を有する成分等が含まれる。」(【0136】)
そして、実施例1ないし8をみると、重合開始剤の添加速度を、時間の経過とともに減少させるという特定の添加方法にて製造されたメタクリル系樹脂を含む、二種以上の樹脂を含む組成物が、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下であるとの規定を満たすことが見てとれ、また、製造例3及び比較例1をみると、重合開始剤溶液を1kg/時間の速度で追添する方法で製造されたメタクリル系樹脂は、製造過程で脱揮が行われても、当該樹脂を含む樹脂組成物のメタノール可溶分の量は、上記規定を満たさないことが見てとれる。
そうすると、本件発明1においては、メタクリル系樹脂を重合する際の重合開始剤溶液の添加速度を調整すること、特に、重合開始剤の添加速度を、時間の経過とともに減少させるという特定の添加方法にて行うことにより、メタノール可溶分の量を、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下にしているものと解される。
これに対して、甲1の【0066】ないし【0069】の製造例1には、反応釜に、40部のメタクリル酸メチル、10部の2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、重合溶媒として50部のトルエン、および0.025部の酸化防止剤を仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させ、昇温に伴う還流が始まったところで重合開始剤として0.05部のt-アミルパーオキシイソノナノエートを添加するとともに、0.10部のt-アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下したことが記載されており、重合開始剤は、その添加速度が時間の経過とともに減少するものではない。また、甲1には、重合開始剤溶液の添加速度を調整することについても記載がない。
また、甲1ないし甲16のいずれの記載事項をみても、甲1発明のメタクリル樹脂組成物において、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下であるとする根拠は何ら見出せない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではない。
次に、相違点1に係る事項が当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
甲5ないし甲16の記載事項をみると、樹脂組成物において、残存モノマー、低分子量成分等が好ましくなく、これらの含有量を低減することが好ましいことは周知であるといえる。
しかしながら、甲1ないし甲16のいずれをみても、主鎖にラクトン環構造である環構造を有するアクリル系共重合体と、スチレン系共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物において、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下とすることについては何ら記載がなく、甲1発明において、メタノール可溶分の量を上記特定の値とすることの動機付けは見出せない。
ここで、本件明細書の【0015】及び実施例、比較例の記載をみれば、本件発明1は、「メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下」であることにより、高温・高温高湿といった過酷な使用環境下においても、その表面上に積層させる各種機能層に対して良好な密着性を備えるという効果を奏するものである。
これに対して、甲12には、低分子量ポリオレフィンや機能付与剤は、高分子量ポリオレフィンマトリックス中から表面にブリードする傾向があり、多量となると高分子量ポリオレフィン同士の熱融着を阻害することが記載されていることや、甲13には、化粧シートにおいて、紫外線吸収剤がブリードすると、表面シートと基材シート、表面シートと絵柄インキ層との層間にブリードした紫外線吸収剤が離型剤として作用するため、層間の剥離が生じる場合もあることが記載されていることは上記(1)に述べたとおりであるが、これらの記載をみても、また、甲1ないし甲16のいずれの記載をみても、本件発明1に係る効果である、高温・高温高湿といった過酷な使用環境下においても、その表面上に積層させる各種機能層に対して良好な密着性を備えるという効果については何ら記載がなく、当該効果は、甲1ないし甲16の記載から当業者が予測をすることができたものであるとはいえない。
してみると、相違点1に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は本件発明1を引用するものであり、上記(ア)で述べたものと同様の理由により、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2ないし甲16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲2を主引例とする場合の検討
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「第一のアクリル系樹脂」、「第二のアクリル系樹脂」は、式(1)及び式(2)の構造から、また、式(1)及び式(3)の構造から、いずれも、本件発明1の、「主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位」「であるメタクリル系樹脂」に相当し、甲2発明の「アクリル系熱可塑性樹脂組成物」はこれらの樹脂を含むから、「メタクリル系樹脂組成物」の限りで、本件発明1の「メタクリル系樹脂組成物」に相当する。
そして、甲2発明の「第一のアクリル系樹脂」は、式(2)の構造から芳香族基を有する構造単位を有するものであるから、甲2発明の「アクリル系熱可塑性樹脂組成物」が、「第一のアクリル系樹脂」と「第二のアクリル系樹脂」を含有することは、本件発明1の、「メタクリル系樹脂組成物」が、「芳香族基を有する構造単位(Y)を含む、2種以上の樹脂を含」むことに相当する。
さらに、甲2発明の、「120℃以上」とのガラス転移温度は、本件発明1の「120℃超160℃以下」とのガラス転移温度の範囲と重複する。
してみると、本件発明1と甲2発明とは、
「主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位であるメタクリル系樹脂を含み、且つ、芳香族基を有する構造単位(Y)を含む、2種以上の樹脂を含む、ガラス転移温度が120℃超160℃以下である、メタクリル系樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
本件発明1においては、GPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0の関係を満たすのに対して、甲2発明にはこの点についての特定がない点。

(相違点4)
本件発明1においては、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下であるのに対して、甲2発明にはこの点についての特定がない点。

上記相違点について検討する。
相違点3について
本件明細書の段落には、以下の記載がある。
「ここで、GPC測定においては、示差屈折率検出器と可視紫外吸収検出器とを併用して用いることにより、各分子量の樹脂ごとにおける芳香族基を有する化学構造を備える構造単位の含有量のばらつきを評価することができることに鑑みて、本実施形態では、メタクリル系樹脂組成物においては、紫外可視吸収のある芳香族基を有する構造単位の組成分布を制御することにより、比較的過酷な使用条件下でも安定した密着性を維持することができる、機能層を備える光学フィルムを提供することができることを見出したのである。
具体的には、測定波長254nmの紫外可視吸光度検出器を用いれば、その構造単位として波長254nmに吸収を有する芳香族基を備える構造単位を含む樹脂の重量平均分子量(Mw_(UV))を決定することができる。
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物では、該組成物中に含まれるメタクリル系樹脂、及び、必要に応じて添加される他の熱可塑性樹脂のうちの少なくとも一つの樹脂において、上述の紫外可視吸収のある特定の官能基を含むことが好ましく、特に、上述の芳香族基を含むことがさらに好ましい。」(【0132】、【0133】)
当該記載に鑑みると、「Mw_(UV)」の値は、芳香環を有する樹脂の重量平均分子量であるといえる。
しかるに、甲2の実施例1ないし実施例15をみると、例えば実施例1には、メタクリル酸メチルとN-フェニルマレイミドの共重合体(A-1、重量平均分子量20.4×10^(4))75質量%と、メタクリル酸メチルとN-シクロヘキシルマレイミドの共重合体(B-3、重量平均分子量19.4×10^(4))25質量%とを混合したものであり、A-1は芳香環を有し、B-3は芳香環を有さないことから、当該組成物のMw_(UV)は20.4×10^(4)の近傍の値をとり、Mw_(RI)は、20.4×10^(4)と19.4×10^(4)とを配合比率にしたがって平均した値の近傍の値をとるとみるのが自然であるところ、仮に、Mw_(RI)が19.4×10^(4)であるとしても「Mw_(UV)/Mw_(RI)」の値は「20.4×10^(4)と19.4×10^(4)=1.05」となり、1.1以上の値とはならない。そうすると、当該実施例において、1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0となる蓋然性が高いとはいえない。
また、甲2のその他の実施例やその他の部分をみても、GPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0である蓋然性が高いとする記載は何ら見当たらない。
してみると、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明ではない。
次に、相違点3に係る事項が当業者に容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
甲1ないし甲16のいずれをみても、甲2発明で特定される第一のアクリル系樹脂と第二のアクリル系樹脂とを含有する熱可塑性樹脂組成物において、1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0とすることについては、何ら記載も示唆もされていない。
また、本件明細書【0129】及び実施例、比較例の記載をみれば、本件発明1は「1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0」との規定を満たすことにより、「基材フィルムの光学特性を悪化させることなく、より密着性を向上させることが可能になり、特に、比較的過酷な環境下での使用においても安定した密着性を維持できる」との効果を奏するものと解されるところ、甲1ないし甲16のいずれの記載をみても、当該効果についての記載はなく、当該効果は、甲1ないし甲6の記載から当業者が予測をすることができたものではない。
よって、相違点3に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
してみると、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲1、甲3?甲16に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は本件発明1を引用するものであり、上記(ア)に述べたものと同様の理由により、甲2発明ではなく、また、甲2発明及び甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲3を主引例とする場合の検討
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の熱可塑性重合体組成物は、アクリル系ブロック共重合体(A)及び、アクリル系共重合体(B)を有するから、2種の樹脂を含む。
してみると、本件発明1と甲3発明とは、
「2種以上の樹脂を含む樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点5)
本件発明1においては、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下であるのに対して、甲3発明にはこの点についての特定がない点。

(相違点6)
本件発明1においては、GPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0の関係を満たすのに対して、甲3発明にはこの点についての特定がない点。

(相違点7)
本件発明1においては、樹脂組成物のガラス転移温度が120℃超160℃以下であるのに対して、甲3発明にはこの点についての特定がない点。

(相違点8)
本件発明1においては、樹脂組成物は、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂を含み、且つ、芳香族基を有する構造単位(Y)を含むメタクリル系樹脂組成物であるのに対して、甲3発明には、この点についての特定がない点。

上記相違点について検討する。
相違点5について、
甲3の【0090】には、重合温度を60℃?160℃の範囲にすることにより高温重合時に生成する二量体生成を抑制できることが記載されており、【0097】には、アクリル系共重合体を製造するにあたり、ベントを有する加熱した押出機に通す方法や不活性ガス雰囲気または真空下で加熱脱揮する方法が好ましいことが記載されているものの、甲3発明において、樹脂組成物における、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下であることについては何らの記載がない。
また、本件発明1においては、メタクリル系樹脂を重合する際の重合開始剤溶液の添加速度を調整すること、特に、重合開始剤の添加速度を、時間の経過とともに減少させるという特定の添加方法にて行うことにより、メタノール可溶分の量を、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下にしているものと解されることは、上記ア(ア)に述べたとおりであるが、甲3において、アクリル系ブロック共重合体(A)、アクリル系共重合体(B)の重合の際、重合開始剤溶液の添加速度を調整すること、特に、重合開始剤の添加速度を、時間の経過とともに減少させるという特定の添加方法にて行うことについては何ら記載がない。
また、甲1ないし16のいずれの記載をみても、甲3発明の熱可塑性共重合体組成物における、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下であるとの根拠は何ら見出せない。
よって、相違点6ないし8について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明ではない。
次に、相違点5に係る事項が当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
甲5?甲16の上記記載事項をみると、樹脂組成物において、残存モノマー、低分子量成分等が好ましくなく、これらの含有量を低減することが好ましいことは周知であるといえることはア(ア)で述べたとおりである。
しかしながら、甲1ないし16のいずれをみても、アクリル系ブロック共重合体(A)およびアクリル系共重合体(B)とを配合してなる熱可塑性共重合体組成物において、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下とすることについては何ら記載がなく、甲3発明において、メタノール可溶分の量を上記特定の値とすることの動機付けは見出せない。
そして、本件発明1は、「メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下」であることにより、高温・高温高湿といった過酷な使用環境下においても、その表面上に積層させる各種機能層に対して良好な密着性を備えるという効果を奏するものであること、当該効果は、甲1ないし甲16の記載から当業者が予測をすることができたものであるとはいえないことは上記ア(ア)に記載した通りである。
してみると、上記相違点5に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点6ないし8について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲1、2、4ないし16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は本件発明1を引用するものであり、上記(ア)に述べたものと同様の理由により、甲3発明ではなく、また、甲3発明及び甲1、2、甲4ないし甲16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 甲4を主引例とする場合の検討
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲4発明とを対比すると、両者は、
「2種以上の樹脂を含む樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点9)
本件発明1においては、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下であるのに対して、甲4発明にはこの点についての特定がない点。

(相違点10)
本件発明1においては、GPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0の関係を満たすのに対して、甲4発明にはこの点についての特定がない点。

(相違点11)
本件発明1においては、樹脂組成物のガラス転移温度が120℃超160℃以下であるのに対して、甲4発明では、この点についての特定がない点

(相違点12)
本件発明1においては、樹脂組成物は、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂を含み、且つ、芳香族基を有する構造単位(Y)を含むメタクリル系樹脂組成物であるのに対して、甲4発明については、この点についての特定がない点。

上記相違点について検討する。
相違点9について、
本件発明1においては、メタクリル系樹脂を重合する際の重合開始剤溶液の添加速度を調整すること、特に、重合開始剤の添加速度を、時間の経過とともに減少させるという特定の添加方法にて行うことにより、メタノール可溶分の量を、メタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下にしているものと解されることは、上記ア(ア)に述べたとおりであるが、重合の際、重合開始剤溶液の添加速度を調整すること、特に、重合開始剤の添加速度を、時間の経過とともに減少させるという特定の添加方法にて行うことについては、甲4には何ら記載がない。
一方、甲5?甲16の上記記載事項をみると、樹脂組成物において、残存モノマー、低分子量成分等が好ましくなく、これらの含有量を低減することが好ましいことは周知であるといえることはア(ア)で述べたとおりである。
しかしながら、甲1ないし16のいずれをみても、重量平均分子量が5万を超えるスチレン系樹脂(A)と、重量平均分子量が5万を超えるアクリル系樹脂(B)を含む樹脂組成物において、メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下とすることについては何ら記載がなく、甲4発明において、メタノール可溶分の量を上記特定の値とすることの動機付けは見出せない。
そして、本件発明1は、「メタノール可溶分の量がメタノール可溶分の量とメタノール不溶分の量との合計量100質量%に対して5質量%以下」であることにより、高温・高温高湿といった過酷な使用環境下においても、その表面上に積層させる各種機能層に対して良好な密着性を備えるという効果を奏するものであること、当該効果は、甲1ないし甲16の記載から当業者が予測をすることができたものであるとはいえないことは上記ア(ア)に記載した通りである。
してみると、上記相違点9に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点10ないし12について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲1ないし3、5ないし16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は本件発明1を引用するものであり、上記(ア)で述べたものと同様の理由により、甲4発明、及び甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし10に係る発明は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、これらの請求項に係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものではない。
また、本件請求項1ないし10に係る発明は、甲1ないし甲16に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしており、これらの請求項に係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものではない。

2 申立理由3について
本件発明1の「メタクリル系樹脂組成物」について、明細書【0021】ないし【0090】には、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂における各構造単位、および、当該構造単位を有するメタクリル系樹脂及びその製造方法について記載され、【0092】には、「メタクリル系樹脂組成物」として、主鎖に同種の環構造を有する構造単位(X)及び芳香族基を有する構造単位(Y)をそれぞれ異なる割合で含み、且つ、異なる重量平均分子量を有するメタクリル系樹脂を2種以上含むメタクリル系樹脂組成物(以下、「樹脂組成物1」という。)と、互いに異なる重量平均分子量を有する、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂と、該メタクリル系樹脂と相溶性を有する芳香族基を有する構造単位(Y)を含む熱可塑性樹脂とを含む樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物(以下、「樹脂組成物2」という。)とが挙げられ、【0138】?【0147】には、「メタクリル樹脂組成物」の製造方法が記載されている。そして、【0155】ないし【0192】には、請求項1に特定される、Mw_(UV)/Mw_(RI)、ガラス転移温度、メタノール可溶分率についての規定を満たす、上記樹脂組成物1(実施例1ないし5、7)、及び樹脂組成物2(実施例6及び8)を製造したことが記載されている。
してみると、本件明細書には、本件発明1の「メタクリル系樹脂組成物」を製造することが具体的に記載されているし、また具体的に記載されたもの以外の組成物についても、これを製造する方法が記載されている。
そして、本件発明1の「メタクリル系樹脂組成物」を、本件明細書の記載及び技術常識に基づき、当業者が製造することができなかったとする格別の理由もない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ充分に記載したものであり、また、同様に、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明2ないし10について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ充分に記載したものである。
ここで、申立人は、異議申立書62頁「(B)実施可能要件について」において、特許権者は、芳香族環を有しない場合でも、UV吸収がある点を主張しているところ、カルボニル基を有するポリマーには、通常のアクリル系樹脂を含め、多種多様なものが含まれること、実施例で具体的に使用した特定の2種の樹脂を混合することで構成要件Cを充足することはわかるとしても、本件特許発明のように、幅広い2種以上の樹脂の組み合わせにおいて、構成要件Cを充足する樹脂組成物を得ることは、当業者といえども過度の試行錯誤を要するものであることを主張する。
(合議体注:構成要件Cは、申立書41頁の記載より、「GPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、以下の関係を満たし、1.1≦Mw_(UV)/Mw_(RI)≦2.0(式中、Mw_(RI)は、示差屈折率検出器を用いて求めた重量平均分子量であり、Mw_(UV)は、紫外可視吸光度検出器を検出波長254nmで用いて求めた重量平均分子量を意味する。)」との要件である。)
しかしながら、本件明細書【0133】によれば、「測定波長254nmの紫外可視吸光度検出器を用いれば、その構造単位として254nmに吸収を有する芳香族基を備える構造単位を含む樹脂の重量平均分子量(Mw_(UV))を決定することができる」のであるから、芳香環を有さずカルボニル基を有するポリマーが、254nmにおけるUV吸収を有するか否かに関わらず、Mw_(UV)は、「芳香族基を備える構造単位を含む樹脂の重量平均分子量」であるということができ、本件明細書には、そのような芳香族基を備える構造単位を含む樹脂を用いて、構成要件Cを満たすメタクリル系樹脂組成物を製造することが記載されているのであるから、構成要件Cを充足する樹脂組成物を得ることが当業者に過度の試行錯誤を有するものであるとはいえず、上記申立人の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものではない。

3 申立理由4について
本件発明1は、明細書の【0011】の記載からみて、高温又は高温高湿下においても積層された機能層に対して良好な密着性を備える光学フィルムを調製することを可能にするという課題を有するものと認められる。
ここで【0092】の記載から、本件発明1のメタクリル系樹脂組成物は、主鎖に同種の環構造を有する構造単位(X)及び芳香族基を有する構造単位(Y)をそれぞれ異なる割合で含み、且つ、異なる重量平均分子量を有するメタクリル系樹脂を2種以上含むメタクリル系樹脂組成物(以下、「樹脂組成物1」という。)と、互いに異なる重量平均分子量を有する、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂と、該メタクリル系樹脂と相溶性を有する芳香族基を有する構造単位(Y)を含む熱可塑性樹脂とを含む樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物(以下、「樹脂組成物2」という。)を包含するものといえる。
そして、実施例をみるに、樹脂組成物1(実施例1ないし5、7)あるいは、樹脂組成物2(実施例6及び8)であって、請求項1に規定される、Mw_(UV)/Mw_(RI)、ガラス転移温度、メタノール可溶分率を満たす組成物が、初期密着性、高温耐久性、高温・高湿耐久性に優れていることが見てとれる。
これらの記載からみれば、本件発明1により、上記課題が解決されているとみることができ、本件発明1が、上記課題を解決しないものも包含するという格別の根拠も見出せない。
したがって、本件発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲内のものであり、請求項2ないし10についても同様である。
ここで、申立人は、異議申立書62ないし63頁において、構成要件Cを課題解決手段とする理由が不明であること、どのような課題が解決されたのかも不明であることから、本件明細書により、本件発明の課題を解決できるものであるか認識できない旨主張する。(合議体注:構成要件Cについては、2 参照)
しかしながら、本件明細書に、本件発明1ないし10の課題が記載され、構成要件Cを備えた本件発明1ないし10により当該課題が解決されているとみることができることは上記したとおりであり、このことは、構成要件Cを課題解決手段とする理由が不明であるか否かに何ら左右されない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし10に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものではない。

4 申立理由5について
請求項1-10に、格別の不明確な記載はない。
申立人は、異議申立書63頁ないし66頁の「(D)明確性要件について」において、本件請求項1の「2種以上」が意味するところが不明確であること、すなわち、請求項1の「2種」とは、別途ポリマーを混合したもののみを意味し、同一反応系で得られ、組成や分布が異なるポリマーの混合物を含まない概念であることは明らかであるところ、同一の反応系において2種のポリマーを合成して得られた樹脂(混合物)を2種と考えることの妥当性はいうまでもなく、本件発明1では、文言上は、単に、同一反応系で得られたポリマー混合物も包含する「2種以上」と表現されているため、請求項の範囲が不明確となっている旨主張する。
しかしながら、本件明細書全体の記載、特に【0092】及び実施例1-8の記載からみれば、請求項1の「2種以上」とは、別途ポリマーを混合したものを意味することは明らかあり、当該「2種以上」なる語が不明確であるとはいえないから、上記主張は採用できない。
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし10に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものではない。

第5 まとめ
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論の通り決定する。
 
異議決定日 2018-08-21 
出願番号 特願2016-228146(P2016-228146)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 海老原 えい子
岡崎 美穂
登録日 2017-11-24 
登録番号 特許第6247373号(P6247373)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 メタクリル系樹脂組成物、光学フィルム、光学部品  
代理人 神 紘一郎  
代理人 杉村 憲司  

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