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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01R
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R
管理番号 1344208
審判番号 不服2018-770  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-19 
確定日 2018-10-05 
事件の表示 特願2016-512930「外部の磁気の影響に対する耐性を有する磁場センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月13日国際公開、WO2014/182476、平成28年 6月30日国内公表、特表2016-519310、請求項の数(27)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年4月28日(パリ条約による優先権主張 2013年5月10日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年1月16日付けで拒絶理由が通知され、平成29年4月18日付けで手続補正がなされたが、平成29年9月14日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ(謄本送達日 平成29年9月28日)、これに対し、平成30年1月19日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次の通りである。

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-33
・引用文献等 1-6

●理由2(特許法第36条第6項第2号)について
・請求項 1-33
復調器に関し、復調の結果として第3の周波数バンドから第1の周波数バンドにシフトするとの作用効果のみを記載しているが、復調器をどのように構成することで前記シフトすることができるのか明確ではない。

<引用文献等一覧>
1.特開平3-35182号公報
2.特開昭57-71504号公報
3.特開昭60-182503号公報
4.特表2003-515743号公報
5.特開2006-284466号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
6.米国特許第7816772号明細書(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)

第3 本願発明
本願の請求項1-27に係る発明(以下、「本願発明1」-「本願発明27」という。)は、平成30年1月19日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-27に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1、21は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
磁場センサであって、
ACバイアスコイルに対するターゲットパターンを有する強磁性ターゲットの移動によって変調されるACバイアス磁場を発生させるためのACバイアスコイルと、
前記変調されたACバイアス磁場を感知することにより、前記強磁性ターゲットの移動を示す磁場信号を生成するための少なくとも1つの感知素子を備える磁場信号発生器であって、前記磁場信号は、前記感知した変調されたACバイアス磁場に基づく第1の周波数バンドにおける変調信号部分および外部磁気干渉を感知することに基づく第2の周波数バンドにおける望ましくない信号部分を有する、磁場信号発生器と、
前記磁場信号とローカルに導出された搬送信号との積をとることによって前記磁場信号の復調を実行するための復調器を含む回路と
を備え、
前記磁場信号発生器および前記回路は半導体ダイ上に設けられ、前記磁場センサは、前記半導体ダイに結合され前記半導体ダイと前記ACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージをさらに備え、前記半導体ダイ、前記リードフレームの少なくとも一部分、および前記ACバイアスコイルを一緒に封入するためのパッケージ本体をさらに備え、
前記復調の結果として、前記変調信号部分が、前記第1の周波数バンドから第3の周波数バンドにシフトされ、前記望ましくない信号部分が、前記第2の周波数バンドから前記第1の周波数バンドにシフトされる、磁場センサ。」

「【請求項21】
磁場センサにおいて使用される方法であって、
ACバイアスコイルにより、前記ACバイアスコイルに対するターゲットプロファイルパターンを有する強磁性ターゲットの移動によって変調されるACバイアス磁場を発生させるステップと、
磁場信号発生器が、前記変調されたACバイアス磁場を感知することにより、前記ターゲットプロファイルパターンを有する強磁性ターゲットの移動を示す磁場信号を生成するステップであって、前記磁場信号は、前記変調されたACバイアス磁場を感知することに基づく第1の周波数バンドにおける変調信号部分、および外部磁気干渉を感知することに基づく第2の周波数バンドにおける望ましくない信号部分を含む、ステップと、
前記変調信号部分を前記第1の周波数バンドから第3の周波数バンドにシフトし、前記望ましくない信号部分を前記第2の周波数バンドから前記第1の周波数バンドにシフトするために、回路によって、前記磁場信号とローカルに導出された搬送信号との積をとることにより前記磁場信号の復調を実行するステップと
を含み、前記磁場信号発生器および前記回路は半導体ダイ上に設けられ、前記磁場センサは、前記半導体ダイに結合され前記半導体ダイと前記ACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージをさらに備え、前記半導体ダイ、前記リードフレームの少なくとも一部分、および前記ACバイアスコイルを一緒に封入するためのパッケージ本体をさらに備える、方法。」

本願発明2-20は、本願発明1を減縮した発明である。

本願発明22-27は、本願発明21を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開平3-35182号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
a 「2.特許請求の範囲
1.弱結合粒界を有する超電導体からなる磁気抵抗素子を用いた磁界測定装置において、前記磁気抵抗素子に交流バイアス磁界を印加する手段を設け、該磁気抵抗素子からの前記交流バイアス磁界印加により発生した出力信号により外部磁界の測定を行なうことを特徴とする超電導磁界測定装置。」(2.特許請求の範囲 1.)

b 「第2図に示した超電導磁気抵抗素子14は本実施例で使用した素子14を詳細に説明するものである。第2図は、非磁性の基板1上に、微小な酸化物超電導体粒子が極く薄い絶縁膜を介するか、ポイント状で結合する弱結合の集合体からなる超電導膜2を形成し、膜2を機械的加工でミアンダ状にした上、チタン(Ti)を蒸着法で、電流電極3a,3bと電圧電極4a,4bを形成し、超電導磁気抵抗素子14を形成している。第2図(a)は素子14の正面図で、この素子を使用するとき電流電極3a,3bに定電流電源5を接続し、電圧電極に出力電圧測定器を接続することを示している。第2図(b)は素子の断面図である。」(第2頁左下欄第5-17行)

c 「以上のようにして、第2図のような構成にした超電導磁気抵抗素子14は、第1図に示したように、同一方向にバイアス磁界を印加する2つのコイル14と15の中央部にセットし、磁気ノイズのない磁気シールド室内で測定した。
コイル15には交流電源に接続し、コイル16は直流電源に接続して、それぞれ交流磁界と直流磁界を素子14に印加できる状態にしてある。」(第2頁右下欄第14行-第3頁左上欄第1行)

d 「以上の出力信号と交流磁界発生信号とをロックインアンプに入力し、1KHz成分のみを狭帯域で抽出するため、ノイズの実効値を低く押えることが可能になる。
上記のロックインアンプの概要を、第8図のブロック図で示した。素子14の電圧電極4からの出力は差動増幅器で20倍に増幅され、ロックインアンプに入力される。一方参照入力として、前記正弦波発生器の1KHz信号が用いられる。
ロックインアンプの原理は次のようになっている。入力信号Vs,参照信号Vrを次のように表わす。
Vr=Acos(ωrt+θ)・・・(1)
Vs=cos(ωst)・・・(2)
ここでA:定数,ωr:参照信号の角速度,θ:位相角,ωs:入力信号の角速度である,上の2つの信号をPhase Sensitive Detector(位相比較器)で乗算すると、次の信号Vpsdになる。
Vpsd=Acos(ωrt+θ)・cos(ωst)
=1/2・Acos〔(ωr+ωs)t+θ〕+1/2・Acos(ωr-ωs)t+θ〕・・・(3)
ここでωrとωsが等しいから(3)式の第2項が直流成分になる。又、ローパスフィルターで(3)式の第1項の交流成分を除くので、ローパスフィルターからの出力VLPは次のようになる。
VLP=1/2・A・cosθ
こゝでVLPを最大にするには、参照信号と入力信号の位相差を零にするようロックインアンプを調整すればよいことになる。以上のようにして交流印加磁界による周波数成分のみを直流電圧として取出すことができる。」(第3頁右上欄第15行-右下欄第7行)

e 「又、素子やコイルの小型化が可能であり微小磁界の空間的分布も測定可能であり医療や非破壊検査など種々の分野に利用することができる。」(第4頁左上欄第20行-右上欄第2行)

第2図


第8図


上記記載より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用文献1の記載箇所を示す。以下同様)。
「非磁性の基板1上に、超電導膜2を形成し、膜2を機械的加工でミアンダ状にした上、チタン(Ti)を蒸着法で、電流電極3a,3bと電圧電極4a,4bを形成した、超電導磁気抵抗素子14を備え(上記b)、
超電導磁気抵抗素子14は、バイアス磁界を印加するコイル15の中央部にセットされ、
コイル15は交流電源に接続し、交流磁界を素子14に印加でき(上記c)、
素子14からの出力は差動増幅器で20倍に増幅しロックインアンプに入力され、参照入力として、交流磁界発生信号である正弦波発生器の1KHz信号が用いられ、
ロックインアンプの原理は次のようになっており、
入力信号Vs,参照信号Vrを次のように表わし、
Vr=Acos(ωrt+θ)・・・(1)
Vs=cos(ωst)・・・(2)
ここでA:定数,ωr:参照信号の角速度,θ:位相角,ωs:入力信号の角速度である,上の2つの信号を位相比較器で乗算すると、次の信号Vpsdになり、
Vpsd=Acos(ωrt+θ)・cos(ωst)
=1/2・Acos〔(ωr+ωs)t+θ〕+1/2・Acos(ωr-ωs)t+θ〕・・・(3)
ここでωrとωsが等しいから(3)式の第2項が直流成分になり、又、ローパスフィルターで(3)式の第1項の交流成分を除くので、ローパスフィルターからの出力VLPは次のようになり、
VLP=1/2・A・cosθ
交流印加磁界による周波数成分のみを直流電圧として取出すことができる(上記d)、
磁気抵抗素子からの交流バイアス磁界印加により発生した出力信号により外部磁界の測定を行なう、超電導磁界測定装置(上記a)。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(特開昭57-71504号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
a 「2.特許請求の範囲
磁気抵抗素子を用いて記録媒体の磁気記録情報を読出す方式において、前記磁気抵抗素子に交流磁場を印加することにより前記磁気抵抗素子から読出される磁気記録情報を変調するとともに、該磁気記録情報を復調する際に該交流磁場信号を参照して同期検波することにより復調するようにしたことを特徴とする磁気抵抗素子の読出し方式。」(2.特許請求の範囲)

b 「従来、磁気ディスクまたは磁気テープ等の記録媒体から磁気記録情報を読出すためのヘッド素子として磁気抵抗素子(以下MR素子という)が用いられる。MR素子は磁場の強さにより抵抗を変化するパーマロイ等の金属素子より成り、記録媒体と磁気ヘッドの相対速度に無関係であるという利点がある反面、MR出力は雑音に弱いという欠点がある。とくに、磁気ディスク,磁気テープ等に磁気ヘッドが摺動するとき発生するスパイク・ノイズは非常に大きいものとなり、その対策としてMR素子をヘッド浮上面よりさらに上方に配置する等効率上望ましくない方法が採られている。」(第1頁左下欄第16行-右下欄第8行)

第2図


上記記載より、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「磁気ヘッドのヘッド素子として磁気抵抗素子を用いて(上記b)、記録媒体の磁気記録情報を読出す方式において、
前記磁気抵抗素子に交流磁場を印加することにより前記磁気抵抗素子から読出される磁気記録情報を変調するとともに、該磁気記録情報を復調する際に該交流磁場信号を参照して同期検波することにより復調するようにしたことを特徴とする磁気抵抗素子の読出し方式(上記a)。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3(特開昭60-182503号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
a 「磁気抵抗効果(以下MRという)型磁気ヘッド装置のヘッド部hは、例えば第1図に示すように、例えばNi-Zn系フェライト、Mn-Zn系フェライト等より成る磁性基板(1)上に、この基板(1)が導電性を有する場合には、これの上にSiO2等の絶縁層(2)を介して後述するMR感磁部に対してバイアス磁界を与えるバイアス磁界発生用の電流通路となる帯状の導電膜より成るバイアス導体(3)が被着され、このバイアス導体(3)上に、絶縁層(4)を介して例えば、Ni-Fe系合金、或いはNi-Co系合金等のMR磁性薄膜によるMR感磁部(5)が配される。そして、このMR感磁部(5)上に薄い絶縁層(6)を介して各一端が跨り、バイアス導体(3)及びMR感磁部(5)を横切る方向に延長して夫々、例えばMoパーマロイより成り、夫々磁気回路の一部の磁気コアとなる対の磁性層(7)及び(8)が被着される。基板(1)上には、非磁性の性保護層(9)を介して、保護基板(10)が接合される。一方の磁性層(7)と基板(1)の前方端との間には、例えば絶縁層(6)より成る所要の厚さを有する非磁性ギャップスペーサ層(11)が介在されて前方の磁気ギャップgが形成される。そしてこの磁気ギャップgが臨むように、基板(1)、ギャップスペーサ層(11)、磁性層(7)、保護層(9)及び保護基板(10)の前方面が研磨されて磁気記録媒体との対接面(12)が形成される。また、磁気ギャップgを構成する磁性層(7)の後方端と、他方の磁性層(8)の前方端とは、夫々MR感磁部(5)上に絶縁層(6)を介して跨るように形成されるも、両端間には互いに離間する不連続部(13)が形成される。両磁性層(7)及び(8)の後方端及び前方端は、MR感磁部(5)の両側に夫々絶縁層(6)の介存によって電気的には絶縁されるも、磁気的には結合するようになされ、両磁性層(7)及び(8)間の不連続部(13)がMR感磁部(5)によって磁気的に連結されて、基板(1)-磁気ギャップg-磁性層(7)-MR感磁部(5)-磁性層(8)-基板(1)の閉磁路を形成する磁気回路が形成される。」(第1頁右下欄第1行-第2頁左上欄第20行)

b 「第7図は他の本発明によるMR型磁気ヘッド装置の構成図で、第7図において第4図と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。この場合、バイアス導体(3)には、直流バイアス電流は印加せずに交流バイアス電流iAのみを印加する。この動作を模式的に示したのが第8図である。この図において、実線曲線が、実際のR-H動作特性曲線であるが、この特性の2次曲線部分を外挿すると破線図示のようになり、これによる最小抵抗値Rminを示す磁界が+Ho及び-Hoである。第8図に示したように、この例では信号磁界HSに重畳して交流バイアス磁界HAが与えられる。この時、極性と信号磁界の大きさとに対応して交流バイアス磁界に応じたMR感磁部(5)の抵抗変化が得られる。」(第4頁右下欄第2-17行)

c 「この場合MR動作特性曲線は2次曲線で、このMR感磁部の抵抗値Rmrは、次のように表される。
Rmr=Rmax-ΔRmax・H^(2)/Ho・・・(4)
ここに、ΔRmax=Rmax-Rminである。ここでMR感磁部(5)に、磁界Hが与えられる。この磁界Hはバイアス磁界HA(t)と、信号磁界HS(t)との和で表される。すなわち
H(t)=HA(t)+HS(t)・・(5)
ここにHA(t)は、バイアス導体(3)によって作り出され
H(t)=HA・sin(ωct)・・・(6)
(当審注:HA(t)=HAo・sin(ωct)の誤記)
に設定される。ここに
ωc=2πfc・・・(7)
MR感磁部(5)の出力V(t)は、MR検出電流をIとすると、
V(t)=I・Rmr・・・(8)
であり、上記(4)、(5)、(6)式から次のように表される。
V(t)=I・Rmax-I・ΔRmax/Ho^(2)×{HAo^(2)・sin^(2)ωt+2HAo・HS(t)×sin(ωt)+(HS(t))^(2)}・・・(9)
次に、このV(t)と、交流バイアス磁界HAと同相同周波数の信号、例えばsin(ωt)を乗算器(20)によって乗算する。その出力Vz(t)は、
Vz(t)=I・Rmax・sin(ωt)-I・ΔRmax/Ho^(2)×{HAo^(2)・sin^(2)ωt+2HAo・HS(t)×sin(ωt)+(HS(t))^(2)}・sin(ωt)・・(10)
そして、これを低域通過フィルタ(21)に通ずると、式(10)においてω成分を有する項は、排除される。すなわち
I・Rmax・sin(ωt)→0・・・(11)
HAo^(2)・sin^(2)(ωt)=HAo/2・{sin(ωt)-cos(2ωt)×sin(ωt)}→0・・・(12)
(当審注:HAo^(2)・sin^(3)(ωt)=HAo/2・{sin(ωt)-cos(2ωt)×sin(ωt)}の誤記)
2HAo・HS(t)・sin^(2)(ωt)=HAo・HS(t)・{1-cos(2ωt)}→HAo・HS(t)・・・(13)
{HS(t)}^(2)・sin(ωt)→0・・・(14)
したがって、端子(15)で得られる出力電圧Vo(t)は、
Vo(t)=-I・ΔRmax×HAo・HS(t)/Ho^(2) ・・・(15)
となり、信号磁界HS(t)に比例する電圧が得られる。尚、この場合、乗算器(20)への入力に、信号磁界成分HS(t)が含まれていても出力には出てこないので高域通過フィルタ(19)は必ずしも要らないものである。」(第4頁右下欄第18行-第5頁左下欄下から2行)

第1図


第7図


上記記載より、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。
「MR型磁気ヘッド装置であって、
ヘッド部hは、Ni-Zn系フェライトより成る磁性基板(1)上に、MR感磁部に対してバイアス磁界を与えるバイアス磁界発生用の電流通路となる帯状の導電膜より成るバイアス導体(3)が被着され、このバイアス導体(3)上にNi-Fe系合金のMR磁性薄膜によるMR感磁部(5)が配され、基板(1)上には、非磁性の性保護層(9)を介して、保護基板(10)が接合され(上記a)、
バイアス導体(3)には、直交流バイアス電流iAを印加し、
信号磁界HSに重畳して交流バイアス磁界HAが与えられ、信号磁界の大きさに対応して交流バイアス磁界に応じたMR感磁部(5)の抵抗変化が得られ(上記b)、
バイアス磁界HA(t)は、
HA(t)=HAo・sin(ωct)・・・(6)、
MR感磁部(5)に与えられる磁界Hはバイアス磁界HA(t)と、信号磁界HS(t)との和で表され、
H(t)=HA(t)+HS(t)・・(5)
であり、
MR感磁部(5)の出力V(t)は、MR検出電流をIとすると、
V(t)=I・Rmax-I・ΔRmax/Ho^(2)×{HAo^(2)・sin^(2)ωt+2HAo・HS(t)×sin(ωt)+(HS(t))^(2)}・・・(9)であり、
このV(t)と、交流バイアス磁界HAと同相同周波数の信号、sin(ωt)を乗算器(20)によって乗算すると、その出力Vz(t)は、
Vz(t)=I・Rmax・sin(ωt)-I・ΔRmax/Ho^(2)×{HAo^(2)・sin^(2)ωt+2HAo・HS(t)×sin(ωt)+(HS(t))^(2)}・sin(ωt)・・(10)
となり、
これを低域通過フィルタ(21)に通ずると、式(10)においてω成分を有する項は、排除され、
2HAo・HS(t)・sin^(2)(ωt)=HAo・HS(t)・{1-cos(2ωt)}→HAo・HS(t)・・・(13)
だけが残り、出力電圧Vo(t)は、
Vo(t)=-I・ΔRmax×HAo・HS(t)/Ho^(2) ・・・(15)
となり、信号磁界HS(t)に比例する電圧が得られる(上記c)、
MR型磁気ヘッド装置。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4(特表2003-515743号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 検体粒子及び磁気感応性粒子の組み合わせを含むサブナノグラム試料の定量的磁気測定が可能で、規定のパターンに配置され、複数の試料を含みうる試料ホルダに試料が配置されている装置であって:
該試料に交流磁場をかける磁場源、該磁場源は試料ホルダを配置することができる間隙を規定しており;
試料からの誘導された磁気モーメントを検出するための実質的に平坦な磁場センサ、該センサに対する磁場源の関与を実質的に排除できるように形成され、かつ配置されており、該磁場センサは出力シグナルを伝達する出力口を有し、該磁場センサは磁場源の間隙中に実質的に配置されており;及び
磁場センサからの出力シグナルを処理し、該パターンにおいてサンプルの量のシグナル表示を提供する電子シグナル処理装置を有する前記装置。」

「【請求項24】 該シグナルプロセッサが下記の構成を含み、該センサの該出力口と結合した増幅器;該出力シグナルを条件化する該増幅器と結合した位相敏感検出器;該出力シグナルをデジタル型に変換するデジタルコンバータのアナログ装置;及び該デジタルシグナルを受け、かつ該装置にコントロールシグナルを提供するコンピュータを含む、請求項1の装置。」

「【0002】
【従来の技術】
(従来の技術の考察)
より大きな混合物又は溶液における微小粒子の存在、及び可能ならばその濃度レベルを測定する技術に多くの注意が払われてきた。特定の環境において、非常に濃度の低いある種の有機化合物を測定することが望ましい。例えば、医療分野において、通常溶液中にある特定の種類の分子の濃度を測定することは非常に有用であり、この化合物は、生理学的な液体(例えば、血液又は尿)に天然に存在するか、又は、生体システムに導入されたもの(例えば、薬剤、又は汚染物質)のいずれかである。」

図1


上記記載より、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されている。
「検体粒子及び磁気感応性粒子の組み合わせを含むサブナノグラム試料の定量的磁気測定が可能で、規定のパターンに配置され、複数の試料を含みうる試料ホルダに試料が配置されている装置であって:
該試料に交流磁場をかける磁場源、該磁場源は試料ホルダを配置することができる間隙を規定しており;
試料からの誘導された磁気モーメントを検出するための実質的に平坦な磁場センサ、該センサに対する磁場源の関与を実質的に排除できるように形成され、かつ配置されており、該磁場センサは出力シグナルを伝達する出力口を有し、該磁場センサは磁場源の間隙中に実質的に配置されており;及び
磁場センサからの出力シグナルを処理し、該パターンにおいてサンプルの量のシグナル表示を提供する電子シグナル処理装置を有し(【請求項1】)、
電子シグナル処理装置が下記の構成を含み、該センサの該出力口と結合した増幅器;該出力シグナルを条件化する該増幅器と結合した位相敏感検出器;該出力シグナルをデジタル型に変換するデジタルコンバータのアナログ装置;及び該デジタルシグナルを受け、かつ該装置にコントロールシグナルを提供するコンピュータを含む(【請求項24】)、前記装置。」

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献5(特開2006-284466号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0003】
図3は、磁気印刷パターンを読み取る半導体磁気抵抗素子を用いた磁気センサ30の従来例1の断面図である。単結晶インジウムアンチモン(InSb)製の磁気抵抗素子31がケース35中に設置され、図3のケース上面39で磁気パターンの読み取りを行う。磁気抵抗素子31の背面に永久磁石32が設置され磁気抵抗素子31にバイアス磁界を印加している。磁気センサ30においては、磁気抵抗素子31の感磁パターンの幅は約0.5mmであるため、印刷された0.5mm以下の磁気パターンを読み取る場合には感磁パターンの幅が相対的に大きく、印刷された磁気パターン通りに素子の出力を得ることは困難であり、磁気パターンの平均化された信号が得られる。」

6 引用文献6について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献6(米国特許第7816772号明細書)には、図面とともに、次の事項が記載されている(訳文は、日本語ファミリー文献である特表2010-522994号公報に拠った。)。
「FIG. 1 shows an exemplary integrated circuit (IC) 100 provided as a sensor fabricated with a multi-step molding process in accordance with exemplary embodiments of the invention. In the illustrative embodiment, the sensor 100 is a gear tooth sensor (GTS) to detect motion of teeth 10 on a gear 12 . In general, a first molding step is performed to protect wirebonds. After the first molding process is complete, a second molding step is performed to provide the final package configuration.
In an exemplary embodiment, the sensor 100 includes a Hall IC 102 having first and second Hall elements 104 , 106 disposed on a leadframe 108 . A concentrator 110 , shown as a pole piece concentrator, is disposed on a backside of the assembly with a magnet 112 secured to the concentrator. As described more fully below, in an exemplary embodiment the assembly is molded in a first step to protect wirebonds from the IC 102 to the leadframe 108 prior to overmolding the assembly having the concentrator 110 and magnet 112 .」(第2欄第39-56行)
(特表2010-522994号公報の記載:
【0011】
図1は、本発明の例示の実施形態による多段成形プロセスで製作されたセンサとして提供された例示の集積回路(IC)100を示す。図示の実施形態において、センサ100は、歯車12上の歯10の運動を検出する歯車センサ(GTS)である。一般に、第1の成形ステップは、ワイヤボンドを保護するために実施される。第1の成形ステップが完了した後、第2の成形ステップが、最終的なパッケージ構成をもたらすように実施される。
【0012】
例示の一実施形態において、センサ100は、リードフレーム108上に配置された第1および第2のホール素子104、106を有するホールIC102を含む。磁極片集束器として示された集束器110は、磁石112が集束器に固定された状態で、組立体の裏面に配置される。以下でより完全に説明するように、例示の実施形態において、IC102からリードフレーム108へのワイヤボンドを保護するために第1のステップで組立体が成形された後に、集束器110と磁石112とを有する組立体が被覆成形される。)

図1


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明3を主たる引用発明とした場合
ア 対比
本願発明1と引用発明3を対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明3の「MR型磁気ヘッド装置」、「MR感磁部(5)」は、それぞれ、本願発明1の「磁場センサ」、「感知素子」に相当する。

(イ)引用発明3は「MR型磁気ヘッド装置」であるから、「ヘッド部h」に対し、磁気ディスクが移動しているといえ、また、磁気ディスクは、ターゲットパターンを有する強磁性ターゲットであるといえる。
そして、引用発明3の「バイアス導体(3)」は、「ヘッド部h」に「被着され」るので、「バイアス導体(3)」に対し、ターゲットパターンを有する強磁性ターゲットが移動しているといえる。
また、引用発明3は「信号磁界HSに重畳して交流バイアス磁界HAが与えられ」、「バイアス磁界HA(t)と、信号磁界HS(t)との和で表され」た「H(t)=HA(t)+HS(t)」となる「磁界H」を生成しているので、「交流バイアス磁界HA」に、「信号磁界HS」が加算されている。
そして、引用発明3は「MR型磁気ヘッド装置」であるから、「信号磁界HS」は、磁気ディスクの移動によって発生するものであるから、引用発明3は、強磁性ターゲットである磁気ディスクの移動による「信号磁界HS」が、「交流バイアス磁界HA」に加算されている。ここで、本願発明1の「ACバイアス磁場」の変調は「強磁性ターゲットの移動」によるものであることを鑑みると、引用発明3についても、強磁性ターゲットである磁気ディスクの移動によって「交流バイアス磁界HA」が、変調されているといえる。
したがって、引用発明3の「ヘッド部h」の「MR感磁部に対してバイアス磁界を与えるバイアス磁界発生用の電流通路となる帯状の導電膜より成るバイアス導体(3)」と、本願発明1の「ACバイアスコイルに対するターゲットパターンを有する強磁性ターゲットの移動によって変調されるACバイアス磁場を発生させるためのACバイアスコイル」とは、「ACバイアス導体に対するターゲットパターンを有する強磁性ターゲットの移動によって変調されるACバイアス磁場を発生させるためのACバイアス導体」である点で共通する。

(ウ)上記(イ)を踏まえると、引用発明3の「信号磁界HS」は、磁気ディスクの移動によって発生するものであり、引用発明3の「信号磁界HSに重畳して交流バイアス磁界HAが与えられ、信号磁界の大きさに対応して交流バイアス磁界に応じた」「抵抗変化が得られ」「出力V(t)」を生成する「MR感磁部(5)」は、本願発明1の「前記変調されたACバイアス磁場を感知することにより、前記強磁性ターゲットの移動を示す磁場信号を生成するための少なくとも1つの感知素子を備える磁場信号発生器」に相当する。

(エ)引用発明3の「バイアス磁界HA(t)は、HA(t)=HAo・sin(ωct)」であるので、引用発明3の「出力V(t)」の「-I・ΔRmax/Ho^(2)×{2HAo・HS(t)×sin(ωt)}」の部分は、本願発明1の「前記感知した変調されたACバイアス磁場に基づく第1の周波数バンドにおける変調信号部分」に相当する。
そうすると、引用発明3の「MR感磁部(5)の出力V(t)」と、本願発明1の「前記磁場信号は、前記感知した変調されたACバイアス磁場に基づく第1の周波数バンドにおける変調信号部分および外部磁気干渉を感知することに基づく第2の周波数バンドにおける望ましくない信号部分を有する」こととは、「前記磁場信号は、前記感知した変調されたACバイアス磁場に基づく第1の周波数バンドにおける変調信号部分を有する」点で共通する。

(オ)引用文献3の「このV(t)と、交流バイアス磁界HAと同相同周波数の信号、sin(ωt)を」「乗算」する「乗算器(20)」及び「低域通過フィルタ(21)」は、本願発明1の「前記磁場信号とローカルに導出された搬送信号との積をとることによって前記磁場信号の復調を実行するための復調器を含む回路」に相当する。

(カ)引用発明3は、「交流バイアス磁界HAと同相同周波数の信号、sin(ωt)を乗算器(20)によって乗算すると」、「出力V(t)」の「-I・ΔRmax/Ho^(2)×{2HAo・HS(t)×sin(ωt)}」の部分は、「Vz(t)」の「-I・ΔRmax/Ho^(2)×{2HAo・HS(t)×sin(ωt)}・sin(ωt)」となり、「2HAo・HS(t)・sin^(2)(ωt)=HAo・HS(t)・{1-cos(2ωt)}」となり、「低域通過フィルタ(21)」により、「ω成分を有する項は、排除され」るので、「2HAo・HS(t)×sin(ωt)」が「HAo・HS(t)・{1}」へバンドシフトしている。
したがって、引用発明3の「このV(t)と、交流バイアス磁界HAと同相同周波数の信号、sin(ωt)を乗算器(20)によって乗算すると、その出力Vz(t)は、Vz(t)=I・Rmax・sin(ωt)-I・ΔRmax/Ho^(2)×{HAo^(2)・sin^(2)ωt+2HAo・HS(t)×sin(ωt)+(HS(t))^(2)}・sin(ωt)・・(10)となり、これを低域通過フィルタ(21)に通ずると、式(10)においてω成分を有する項は、排除され、2HAo・HS(t)・sin^(2)(ωt)=HAo・HS(t)・{1-cos(2ωt)}→HAo・HS(t)・・・(13)だけが残」ることと、本願発明1の「前記復調の結果として、前記変調信号部分が、前記第1の周波数バンドから第3の周波数バンドにシフトされ、前記望ましくない信号部分が、前記第2の周波数バンドから前記第1の周波数バンドにシフトされる」こととは、「前記復調の結果として、前記変調信号部分が、前記第1の周波数バンドから第3の周波数バンドにシフトされる」点で共通する。

すると、本願発明1と引用発明3とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「磁場センサであって、
ACバイアス導体に対するターゲットパターンを有する強磁性ターゲットの移動によって変調されるACバイアス磁場を発生させるためのACバイアス導体と、
前記変調されたACバイアス磁場を感知することにより、前記強磁性ターゲットの移動を示す磁場信号を生成するための少なくとも1つの感知素子を備える磁場信号発生器であって、前記磁場信号は、前記感知した変調されたACバイアス磁場に基づく第1の周波数バンドにおける変調信号部分を有する、磁場信号発生器と、
前記磁場信号とローカルに導出された搬送信号との積をとることによって前記磁場信号の復調を実行するための復調器を含む回路と
を備え、
前記復調の結果として、前記変調信号部分が、前記第1の周波数バンドから第3の周波数バンドにシフトされる、磁場センサ。」

(相違点1)
ACバイアス磁場を発生させるためのACバイアス導体が、本願発明1は、「ACバイアスコイル」であるのに対して、引用発明3は、「バイアス導体(3)」である点。
(相違点2)
本願発明1は、「磁場信号」が、「外部磁気干渉を感知することに基づく第2の周波数バンドにおける望ましくない信号部分を有する」のに対して、引用発明3は、「信号磁界HS(t)」が、外部磁気干渉を受けるような特定がなく、「MR感磁部(5)の出力V(t)」に、そのような特定がない点。
(相違点3)
本願発明1は、「前記磁場信号発生器および前記回路は半導体ダイ上に設けられ、前記磁場センサは、前記半導体ダイに結合され前記半導体ダイと前記ACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージをさらに備え、前記半導体ダイ、前記リードフレームの少なくとも一部分、および前記ACバイアスコイルを一緒に封入するためのパッケージ本体をさらに備え」るのに対し、引用発明3は、「基板(1)上には、非磁性の性保護層(9)を介して、保護基板(10)が接合され」る点。
(相違点4)
本願発明1は、「復調の結果として、」「前記望ましくない信号部分が、前記第2の周波数バンドから前記第1の周波数バンドにシフトされる」のに対して、引用発明3は、そもそも、「磁場信号」が、「外部磁気干渉を感知することに基づく第2の周波数バンドにおける望ましくない信号部分を有する」ことの特定がない点。

イ 判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
引用文献6には、歯車12上の歯10の運動を検出する歯車センサ(GTS)において、リードフレーム108上に配置された第1および第2のホール素子104、106を有するホールIC102、磁石112とを有する組立体が被覆成形される技術が記載されている(上記「第4 6」)。
しかしながら、引用発明3は、「ヘッド部h」に、「Ni-Zn系フェライトより成る磁性基板(1)上に、MR感磁部に対してバイアス磁界を与えるバイアス磁界発生用の電流通路となる帯状の導電膜より成るバイアス導体(3)が被着され、このバイアス導体(3)上にNi-Fe系合金のMR磁性薄膜によるMR感磁部(5)が配され、基板(1)上には、非磁性の性保護層(9)を介して、保護基板(10)が接合され」た「MR型磁気ヘッド装置」であって、前記バイアス磁界として「交流バイアス磁界」を与えるものである。
そうすると、引用発明3の「MR型磁気ヘッド装置」と、引用文献6に記載された「歯車12上の歯10の運動を検出する歯車センサ(GTS)」とは、装置の構造が大きく異なり、かつ装置を使用する場所や環境、バイアス磁界の種類(交流、直流)も異なっているので、引用発明3の「MR型磁気ヘッド装置」の「ヘッド部h」に、引用文献6に記載された「歯車センサ(GTS)」における「被覆成形」に関する技術を適用することは、当業者であっても、容易に想到し得たことではない。

また、引用文献1、2、4、5には、磁場信号発生器および復調器を含む回路を半導体ダイ上に設け、磁場センサは半導体ダイに結合され、半導体ダイとACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージを備え、半導体ダイ、リードフレームの少なくとも一部分、およびACバイアスコイルを一緒に封入するパッケージ本体は記載されていない。

したがって、引用発明3、引用文献1、2、4-6に記載された技術に基づいて、上記相違点3に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、本願発明1は、上記相違点1、2、4について検討するまでもなく、引用発明3、引用文献1、2、4-6に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)引用発明1を主たる引用発明とした場合
ア 対比
本願発明1と引用発明1を対比すると、少なくとも、上記相違点3と同様な次の相違点を有する。

(相違点5)
本願発明1は、「前記磁場信号発生器および前記回路は半導体ダイ上に設けられ、前記磁場センサは、前記半導体ダイに結合され前記半導体ダイと前記ACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージをさらに備え、前記半導体ダイ、前記リードフレームの少なくとも一部分、および前記ACバイアスコイルを一緒に封入するためのパッケージ本体をさらに備え」るのに対し、引用発明1は、「非磁性の基板1上に、超電導膜2を形成し、膜2を機械的加工でミアンダ状にした上、チタン(Ti)を蒸着法で、電流電極3a,3bと電圧電極4a,4bを形成した、超電導磁気抵抗素子14」である点。

イ 判断
上記相違点5について検討する。
引用文献6には、歯車12上の歯10の運動を検出する歯車センサ(GTS)において、リードフレーム108上に配置された第1および第2のホール素子104、106を有するホールIC102、磁石112とを有する組立体が被覆成形される技術が記載されている(上記「第4 6」)。
しかしながら、引用発明1は、「非磁性の基板1上に、超電導膜2を形成し、膜2を機械的加工でミアンダ状にした上、チタン(Ti)を蒸着法で、電流電極3a,3bと電圧電極4a,4bを形成した、超電導磁気抵抗素子14を備えた」「超電導磁界測定装置」であり、医療や非破壊検査などの分野に利用することができ(上記「第4 1 e」)、また、バイアス磁界として、「交流磁界」を印加するものである。
そうすると、引用発明1の「超電導磁界測定装置」と、引用文献6に記載された「歯車12上の歯10の運動を検出する歯車センサ(GTS)」は、装置の構造や、磁気感知素子(引用発明1における「超電導磁気抵抗素子14」、引用文献6における「ホール素子」。)の原理、構造及び材料が大きく異なり、かつ使用する場所や環境、バイアス磁界の種類(交流、直流)も異なっているので、引用発明1の「超電導磁界測定装置」の「超電導磁気抵抗素子14」に、引用文献6に記載された「歯車センサ(GTS)」における「被覆成形」に関する技術を適用することは、当業者であっても、容易に想到し得たことではない。

また、引用文献2-5には、磁場信号発生器および復調器を含む回路を半導体ダイ上に設け、磁場センサは半導体ダイに結合され、半導体ダイとACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージを備え、半導体ダイ、リードフレームの少なくとも一部分、およびACバイアスコイルを一緒に封入するパッケージ本体は記載されていない。

したがって、引用発明1、引用文献2-6に記載された技術に基づいて、上記相違点5に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、本願発明1は、引用発明1、引用文献2-6に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)引用発明2を主たる引用発明とした場合
ア 対比
本願発明1と引用発明2を対比すると、少なくとも、上記相違点3と同様な次の相違点を有する。

(相違点6)
本願発明1は、「前記磁場信号発生器および前記回路は半導体ダイ上に設けられ、前記磁場センサは、前記半導体ダイに結合され前記半導体ダイと前記ACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージをさらに備え、前記半導体ダイ、前記リードフレームの少なくとも一部分、および前記ACバイアスコイルを一緒に封入するためのパッケージ本体をさらに備え」るのに対し、引用発明2は、「磁気ヘッドのヘッド素子として磁気抵抗素子を用いて」いる点。

イ 判断
上記相違点6について検討する。
引用文献6には、歯車12上の歯10の運動を検出する歯車センサ(GTS)において、リードフレーム108上に配置された第1および第2のホール素子104、106を有するホールIC102、磁石112とを有する組立体が被覆成形される技術が記載されている(上記「第4 6」)。
しかしながら、引用発明2において、「記録媒体の磁気記録情報」を読出すものは、「磁気抵抗素子を用い」た「磁気ヘッド」であり、また、バイアス磁界として、「交流磁場」を印加するものである。
そうすると、引用発明2の「磁気ヘッド」と、引用文献6に記載された「歯車12上の歯10の運動を検出する歯車センサ(GTS)」は、装置の構造が大きく異なり、かつ装置を使用する場所や環境、バイアス磁界の種類(交流、直流)も異なっているので、引用発明2の「磁気ヘッド」に、引用文献6に記載された「歯車センサ(GTS)」における「被覆成形」に関する技術を適用することは、当業者であっても、容易に想到し得たことではない。

また、引用文献1、3-5には、磁場信号発生器および復調器を含む回路を半導体ダイ上に設け、磁場センサは半導体ダイに結合され、半導体ダイとACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージを備え、半導体ダイ、リードフレームの少なくとも一部分、およびACバイアスコイルを一緒に封入するパッケージ本体は記載されていない。

したがって、引用発明2、引用文献1、3-6に記載された技術に基づいて、上記相違点6に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、本願発明1は、引用発明2、引用文献1、3-6に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)引用発明4を主たる引用発明とした場合
ア 対比
本願発明1と引用発明4を対比すると、少なくとも、上記相違点3と同様な次の相違点を有する。

(相違点7)
本願発明1は、「前記磁場信号発生器および前記回路は半導体ダイ上に設けられ、前記磁場センサは、前記半導体ダイに結合され前記半導体ダイと前記ACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージをさらに備え、前記半導体ダイ、前記リードフレームの少なくとも一部分、および前記ACバイアスコイルを一緒に封入するためのパッケージ本体をさらに備え」るのに対し、引用発明4は、磁場センサについての具体的な構成が示されていない点。

イ 判断
上記相違点7について検討する。
引用文献6には、歯車12上の歯10の運動を検出する歯車センサ(GTS)において、リードフレーム108上に配置された第1および第2のホール素子104、106を有するホールIC102、磁石112とを有する組立体が被覆成形される技術が記載されている(上記「第4 6」)。
しかしながら、引用発明4は、「検体粒子及び磁気感応性粒子の組み合わせを含むサブナノグラム試料の定量的磁気測定が可能」な「装置」に関するものであり、医療分野において、通常溶液中にある特定の種類の分子の濃度を測定することが想定されているものであり(上記「第4 4 【0002】」)、また、バイアス磁界として、「交流磁場」を印加するものである。
そうすると、引用発明4の「サブナノグラム試料の定量的磁気測定が可能」な「装置」と、引用文献6に記載された「歯車12上の歯10の運動を検出する歯車センサ(GTS)」は、装置の構造が大きく異なり、かつ装置を使用する場所や環境、バイアス磁界の種類(交流、直流)も異なっているので、引用発明4の「装置」の「実質的に平坦な磁場センサ」に、引用文献6に記載された「歯車センサ(GTS)」における「被覆成形」に関する技術を適用することは、当業者であっても、容易に想到し得たことではない。

また、引用文献1-3、5には、磁場信号発生器および復調器を含む回路を半導体ダイ上に設け、磁場センサは半導体ダイに結合され、半導体ダイとACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージを備え、半導体ダイ、リードフレームの少なくとも一部分、およびACバイアスコイルを一緒に封入するパッケージ本体は記載されていない。

したがって、引用発明4、引用文献1-3、5、6に記載された技術に基づいて、上記相違点7に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、本願発明1は、引用発明4、引用文献1-3、5、6に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2-20について
本願発明2-20も、上記相違点3、5-7に係る本願発明1の「前記磁場信号発生器および前記回路は半導体ダイ上に設けられ、前記磁場センサは、前記半導体ダイに結合され前記半導体ダイと前記ACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージをさらに備え、前記半導体ダイ、前記リードフレームの少なくとも一部分、および前記ACバイアスコイルを一緒に封入するためのパッケージ本体をさらに備え」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明1-4、引用文献1-6に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本願発明21について
本願発明21は、本願発明1に対応する方法の発明であり、上記相違点3、5-7に係る本願発明1の「前記磁場信号発生器および前記回路は半導体ダイ上に設けられ、前記磁場センサは、前記半導体ダイに結合され前記半導体ダイと前記ACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージをさらに備え、前記半導体ダイ、前記リードフレームの少なくとも一部分、および前記ACバイアスコイルを一緒に封入するためのパッケージ本体をさらに備え」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明1-4、引用文献1-6に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4 本願発明22-27について
本願発明22-27は、本願発明21を引用する発明であり、上記相違点3、5-7に係る本願発明1の「前記磁場信号発生器および前記回路は半導体ダイ上に設けられ、前記磁場センサは、前記半導体ダイに結合され前記半導体ダイと前記ACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージをさらに備え、前記半導体ダイ、前記リードフレームの少なくとも一部分、および前記ACバイアスコイルを一緒に封入するためのパッケージ本体をさらに備え」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明1-4、引用文献1-6に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 原査定について
1.理由1(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1-27は「前記磁場信号発生器および前記回路は半導体ダイ上に設けられ、前記磁場センサは、前記半導体ダイに結合され前記半導体ダイと前記ACバイアスコイルとの間に配置されたリードフレームを含むパッケージをさらに備え、前記半導体ダイ、前記リードフレームの少なくとも一部分、および前記ACバイアスコイルを一緒に封入するためのパッケージ本体をさらに備え」という構成、又は対応する構成を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-6に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

2.理由2(特許法第36条第6項第2号)について
審判請求時の補正により、請求項1の「前記磁場信号の復調を実行するための復調器を含む回路」という記載は、「前記磁場信号とローカルに導出された搬送信号との積をとることによって前記磁場信号の復調を実行するための復調器を含む回路」に、請求項27の「前記磁場信号の復調を実行するステップ」という記載は、請求項21の「回路によって、前記磁場信号とローカルに導出された搬送信号との積をとることにより前記磁場信号の復調を実行するステップ」に補正されており、原査定の理由2は解消している。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-25 
出願番号 特願2016-512930(P2016-512930)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01R)
P 1 8・ 537- WY (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 須原 宏光
▲うし▼田 真悟
発明の名称 外部の磁気の影響に対する耐性を有する磁場センサ  
代理人 鳥居 健一  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 宮前 徹  
代理人 中西 基晴  

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