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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B62D 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B62D |
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管理番号 | 1344243 |
審判番号 | 不服2017-15132 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-10-11 |
確定日 | 2018-10-09 |
事件の表示 | 特願2016-539591号「ドライブラインの動作に基づいて車両パワーステアリングの構成を制御するシステムおよびその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年3月19日国際公開、WO2015/036424、平成28年9月29日国内公表、特表2016-530158号公報、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2014年9月10日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年9月10日 (GB)英国)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月3日付けで拒絶理由が通知され、同年6月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成29年6月23日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年10月11日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の概要 本願の請求項1、3-9、12及び14-20に係る発明は、引用文献1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、引用文献1又は2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 本願の請求項2、10、11及び13に係る発明は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 引用文献1:特開2013-151207号公報 引用文献2:米国特許出願公開第2011/0048840号明細書 引用文献3:特開2009-292286号公報 第3 本願発明 本願の請求項1?20に係る発明(以下「本願発明1?20」という。)は、平成29年6月13日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 車両のパワー・アシスト・ステアリング・システム(PASシステム)の構成を制御する方法であって、 車両の2輪駆動のドライブライン動作と4輪駆動のドライブライン動作との間の変更を検出するステップと、 検出された変更に基づいて、車両に記憶された事前設定のパワー・アシスト・ステアリング・プロファイル(PASプロファイル)にアクセスするステップと、 PASプロファイルに含まれる複数の変数を用いて、車両のPASシステムを動作させるステップとを有し、 事前設定のPASプロファイルは、複数のバスケットを含み、各バスケットは、複数の異なる変数を含み、バスケットの選択は、車両速度に依存することを特徴とする方法。 【請求項2】 前記バスケットに含まれる前記複数の異なる変数は、PAS支援力レベル、PAS減衰力レベル、及び操舵ハンドル復帰力レベルを含む変数のグループの中から選択される請求項1に記載の方法。 【請求項3】 2輪駆動のドライブライン動作と4輪駆動のドライブライン動作との間の変更を車両制御ユニットで検出するステップを有することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 ドライブラインサブシステムから車両制御ユニットにメッセージを送信するステップを有することを特徴とする請求項3に記載の方法。 【請求項5】 事前設定のPASプロファイルは、2輪駆動のPASプロファイルまたは4輪駆動のPASプロファイルを有することを特徴とする請求項1?4のいずれか1に記載の方法。 【請求項6】 事前設定のPASプロファイルは、4輪駆動のドライブライン動作に適用され、第1の速度範囲にあるときに用いられる第1の変数および値を含む第1のバスケットと、第2の速度範囲にあるときに用いられる第2の変数および値を含む第2のバスケットとを有することを特徴とする請求項1?5のいずれか1に記載の方法。 【請求項7】 別の事前設定のPASプロファイルは、2輪駆動のドライブライン動作に適用され、第1の速度範囲にあるときに用いられる第1の変数および値を含む第1のバスケットと、第2の速度範囲にあるときに用いられる第2の変数および値を含む第2のバスケットとを有することを特徴とする請求項6に記載の方法。 【請求項8】 変数は、PAS支援力レベル、PAS減衰力レベル、または操舵ハンドル復帰力レベルを含むことを特徴とする請求項1?7のいずれか1に記載の方法。 【請求項9】 PASシステムは、電気式PASシステムであることを特徴とする請求項1?8のいずれか1に記載の方法。 【請求項10】 PASシステムは、油圧式PASシステムであることを特徴とする請求項1?8のいずれか1に記載の方法。 【請求項11】 PASシステムは、ロータリポンプに動力供給する電気モータを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。 【請求項12】 車両のパワー・アシスト・ステアリング・システム(PASシステム)コントローラであって、 PASシステムのコントローラは、電気式の車両制御ユニット(VCU)を備え、 車両制御ユニットは、プロセッサ、データを記憶するための非一時的コンピュータ可読媒体、2輪駆動のドライブライン動作と4輪駆動のドライブライン動作との間の変更を車両制御ユニットに警告するインジケータを受信するための通信入力部とを有する車両制御ユニットとを有し、 車両制御ユニットは、 通信入力部を用いて、車両の2輪駆動のドライブライン動作と4輪駆動のドライブライン動作との間の変更を検出し、 非一時的コンピュータ可読媒体に記憶された事前設定のパワー・アシスト・ステアリング・プロファイル(PASプロファイル)にアクセスし、 ドライブライン動作の検出された変更に応じて、PASプロファイルに含まれる複数の変数を変更するように車両のPASシステムに指令し、 事前設定のPASプロファイルは、複数のバスケットを含み、各バスケットは、複数の異なる変数を含み、 バスケットの選択は、車両速度に依存することを特徴とするPASシステムコントローラ。 【請求項13】 前記バスケットに含まれる前記複数の異なる変数は、PAS支援力レベル、PAS減衰力レベル、及び操舵ハンドル復帰力レベルを含む変数のグループの中から選択される請求項12に記載のPASシステムコントローラ。 【請求項14】 車両のPASシステムコントローラを搭載した車両を備えたことを特徴とする請求項12または13に記載のPASシステムコントローラ。 【請求項15】 請求項1?11のいずれか1に記載の方法を実行する車両を制御するためのコンピュータ可読コードを担持する担持媒体。 【請求項16】 請求項1?11のいずれか1に記載の方法を実行するための、プロセッサ上で実行可能なコンピュータプログラム製品。 【請求項17】 請求16に記載のコンピュータプログラム製品が格納されたコンピュータ可読記憶媒体。 【請求項18】 1つまたはそれ以上の電子プロセッサにより実行されたとき、1つまたはそれ以上の電子プロセッサにより請求項1?11のいずれか1に記載の方法を実行させるような指令を記憶する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。 【請求項19】 請求項1?11のいずれか1に記載の方法を実行するように構成されたプロセッサ、または請求項16に記載のコンピュータプログラム製品。 【請求項20】 請求項12?14のいずれか1に記載のPASシステムコントローラを備えた車両。」 第4 当審の判断 1 引用文献の記載事項等 (1) 引用文献1の記載事項等 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)は、以下のとおりである。 (1a) 「【請求項1】 前輪を駆動する前輪駆動装置と、 前記前輪駆動装置とは別個独立に後輪を駆動する後輪駆動装置と、 前記前輪駆動装置及び前記後輪駆動装置を制御して、前記前輪及び前記後輪の駆動状態を制御する駆動状態制御装置と、 前記前輪及び前記後輪の少なくとも一方である操舵輪の操舵に用いる操舵装置と を備える車両であって、 前記駆動状態制御装置は、 前記前輪のみを駆動させる前輪単独駆動状態と前記後輪のみを駆動させる後輪単独駆動状態とを切り替える第1切替え、 前記前輪及び前記後輪の両方を駆動させる複合駆動状態と前記後輪単独駆動状態とを切り替える第2切替え並びに 前記複合駆動状態と前記前輪単独駆動状態とを切り替える第3切替え のうち少なくとも1つの切替えを行い、 前記操舵装置は、 前記操舵輪を手動により転舵する手動操舵手段と、 前記手動操舵手段に加えられた操舵力に対して同一方向又は反対方向に働いて前記手動操舵手段を用いての操舵を補助する操舵アシスト力を発生するアシスト力生成手段と、 前記操舵アシスト力を制御するアシスト力制御手段と を有し、 前記駆動状態制御装置が前記第1切替え乃至前記第3切替えのいずれかを行うとき、前記アシスト力制御手段は前記操舵アシスト力の制御を変化させる ことを特徴とする車両。」 上記(1a)の記載は、「前輪を駆動する前輪駆動装置と、前記前輪駆動装置とは別個独立に後輪を駆動する後輪駆動装置と、前記前輪駆動装置及び前記後輪駆動装置を制御して、前記前輪及び前記後輪の駆動状態を制御する駆動状態制御装置と、前記前輪及び前記後輪の少なくとも一方である操舵輪の操舵に用いる操舵装置とを備える車両」の「操舵アシスト力の制御を変化させる」方法として把握することもできることから、引用文献1には、以下の引用発明1が記載されていると認められる。 「前輪を駆動する前輪駆動装置と、 前記前輪駆動装置とは別個独立に後輪を駆動する後輪駆動装置と、 前記前輪駆動装置及び前記後輪駆動装置を制御して、前記前輪及び前記後輪の駆動状態を制御する駆動状態制御装置と、 前記前輪及び前記後輪の少なくとも一方である操舵輪の操舵に用いる操舵装置と を備える車両の操舵アシスト力の制御を変化させる方法であって、 前記駆動状態制御装置は、 前記前輪のみを駆動させる前輪単独駆動状態と前記後輪のみを駆動させる後輪単独駆動状態とを切り替える第1切替え、 前記前輪及び前記後輪の両方を駆動させる複合駆動状態と前記後輪単独駆動状態とを切り替える第2切替え並びに 前記複合駆動状態と前記前輪単独駆動状態とを切り替える第3切替え のうち少なくとも1つの切替えを行い、 前記操舵装置は、 前記操舵輪を手動により転舵する手動操舵手段と、 前記手動操舵手段に加えられた操舵力に対して同一方向又は反対方向に働いて前記手動操舵手段を用いての操舵を補助する操舵アシスト力を発生するアシスト力生成手段と、 前記操舵アシスト力を制御するアシスト力制御手段と を有し、 前記駆動状態制御装置が前記第1切替え乃至前記第3切替えのいずれかを行うとき、前記アシスト力制御手段は前記操舵アシスト力の制御を変化させる 車両の前記操舵アシスト力の制御を変化させる方法。」 (2) 引用文献2の記載事項等 引用文献2の記載事項及び引用文献2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)の翻訳は、以下のとおりである。なお、翻訳は当審が作成した。 (2a)明細書9頁左欄「13」の項 「13.車両のパワーステアリング組立体の制御方法であって、 前記パワーステアリング組立体は、該パワーステアリング組立体に動作可能に接続された電気モータを備え、前記方法は、以下の構成を有する。 前記車両が全輪駆動(AWD)モードまたは2輪駆動(2WD)モードで動作しているかを判定する。 第1操舵モードおよび第2操舵モードの一方を選択する。 前記車両がAWDモードで動作し、前記第1操舵モードが選択された場合、第1操舵マップを選択する。 前記車両がAWDモードで動作し、前記第2操舵モードが選択された場合、第2操舵マップを選択する。 前記車両が2WDモードで動作し、前記第1操舵モードが選択された場合に第3操舵マップを選択する。 前記車両が2WDモードで動作し、前記第2操舵モードが選択されると、第4のステアリング・マップを選択する。 前記車両の運転者が前記パワーステアリング組立体に加えるトルクを検出する。 前記第1、第2、 第3、及び第4操舵マップの選択された1つを使用して、前記車両の運転者が前記パワーステアリング組立体に加えたトルクに応じた出力トルクを決定する。 前記電動モータは、前記パワーステアリング組立体に対応する出力トルクを印加するように制御する。」 (2b) 「[0064]簡素化のため図8Aにおいてのみ示されているが、各操舵マップは、複数の曲線を含み、それぞれの曲線は異なる車両速度に対応している。SCU98は、車速センサ104によって検出された速度から、どの速度曲線が使用されるべきかを決定し、その速度曲線上の感知された入力トルクに対応して印加されるべき電力の割合を決定する。速度曲線が、車速センサ104によって検出された速度に対応していない場合には、SCU98は、検出された速度が間に位置する2つの速度曲線に適用される電力の割合を決定し、そして電力の割合を補間し、これらの値を適用することになる。・・・」 (2c) 引用文献2には、以下の図が記載されている。 (2d) 上記Fig.3から、前輪2輪、後輪2輪の4輪の車両が看取される。 上記(2a)?(2d)を総合すると、引用文献2には、以下の引用発明2が記載されていると認められる。 「前輪2輪、後輪2輪の4輪の車両のパワーステアリング組立体の制御方法であって、 前記パワーステアリング組立体は、該パワーステアリング組立体に動作可能に接続された電気モータを備え、前記方法は、 前記車両が全輪駆動(AWD)モードまたは2輪駆動(2WD)モードで動作しているかを判定する、 第1操舵モードおよび第2操舵モードの一方を選択する。 前記車両がAWDモードで動作し、前記第1操舵モードが選択された場合、第1操舵マップを選択する、 前記車両がAWDモードで動作し、前記第2操舵モードが選択された場合、第2操舵マップを選択する、 前記車両が2WDモードで動作し、前記第1操舵モードが選択された場合に第3操舵マップを選択する、 前記車両が2WDモードで動作し、前記第2操舵モードが選択された場合に第4操舵マップを選択する、 前記車両の運転者が前記パワーステアリング組立体に加えるトルクを検出する、 前記第1、第2、 第3、及び第4操舵マップの選択された1つを使用して、前記車両の運転者が前記パワーステアリング組立体に加えたトルクに応じた出力トルクを決定する、 各操舵マップは、複数の曲線を含み、それぞれの曲線は異なる車両速度に対応し、前記決定は、車速センサによって検出された速度から、どの速度曲線が使用されるべきかを決定し、その速度曲線上の感知された入力トルクに対応して印加されるべき電力の割合を決定することにより行われ、 前記電動モータは、前記パワーステアリング組立体に対応する出力トルクを印加するように制御する、車両のパワーステアリング組立体の制御方法。」 2 対比・判断 2-1 本件発明1について 原査定は、「本願の請求項1に係る発明は、引用文献1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、引用文献1又は2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由を含むものであるから、引用発明1及び引用発明2について、それぞれ対比・判断を行う。 (1) 本願発明1と引用発明1との対比・判断について 本願発明1と引用発明1とを対比する。 ア 引用発明1の「車両」が、本願発明1の「車両」に相当する。 イ 引用発明1の「手動操舵手段に加えられた操舵力に対して同一方向又は反対方向に働いて前記手動操舵手段を用いての操舵を補助する操舵アシスト力を発生するアシスト力生成手段」が、本願発明1の「パワー・アシスト・ステアリング・システム(PASシステム)」に相当する。 ウ 引用発明1は、「アシスト力制御手段」により、「車両」の「アシスト力生成手段」が「発生」した「操舵アシスト力」の「制御を変化させ」ていることから、上記ア及びイの相当関係を踏まえると、引用発明1の「操舵アシスト力の制御を変化させる方法」は、本願発明1の「車両のパワー・アシスト・ステアリング・システム(PASシステム)の構成を制御する方法」に相当するといえる。 エ 引用発明1の「前記駆動状態制御装置が前記第1切替え乃至前記第3切替えのいずれかを行うとき、前記アシスト力制御手段は前記操舵アシスト力の制御を変化させる」構成の「前記第1切替え乃至前記第3切替え」は、「前輪のみを駆動させる前輪単独駆動状態」と「前記後輪のみを駆動させる後輪単独駆動状態」と「前記前輪及び前記後輪の両方を駆動させる複合駆動状態」とを切り替えており、それらの切替えが行われた時に「前記操舵アシスト力の制御を変化させる」ものであるから、引用発明1においても、2輪駆動の駆動状態から4輪駆動の駆動状態に変更されたときに、その変更を検出しているといえる。 そうすると、上記アの相当関係も踏まえれば、引用発明1の「前記駆動状態制御装置が前記第1切替え乃至前記第3切替えのいずれかを行うとき、前記アシスト力制御手段は前記操舵アシスト力の制御を変化させる」構成は、本願発明1の「車両の2輪駆動のドライブライン動作と4輪駆動のドライブライン動作との間の変更を検出するステップ」を含んでいるといえる。 オ 引用発明1の「操舵アシスト力の制御を変化させる方法」は、「手動操舵手段に加えられた操舵力に対して同一方向又は反対方向に働いて前記手動操舵手段を用いての操舵を補助する操舵アシスト力を発生するアシスト力生成手段」に、「操舵アシスト力を発生」させる構成、すなわち、「動作」させるステップを有しているといえることから、上記ア?ウの相当関係を踏まえれば、引用発明1の「操舵アシスト力の制御を変化させる方法」は、「車両のPASシステムを動作させるステップ」を有しているといえる。 上記ア?オを踏まえると、本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点A> 車両のパワー・アシスト・ステアリング・システム(PASシステム)の構成を制御する方法であって、 車両の2輪駆動のドライブライン動作と4輪駆動のドライブライン動作との間の変更を検出するステップと、 車両のPASシステムを動作させるステップとを有する方法。 <相違点A> 本願発明1は、「事前設定のPASプロファイル」を備えており、「検出された変更に基づいて、車両に記憶された事前設定のパワー・アシスト・ステアリング・プロファイル(PASプロファイル)にアクセスするステップと、PASプロファイルに含まれる複数の変数を用いて、車両のPASシステムを動作させるステップとを有し、事前設定のPASプロファイルは、複数のバスケットを含み、各バスケットは、複数の異なる変数を含み、バスケットの選択は、車両速度に依存する」のに対し、引用発明1は、「事前設定のPASプロファイル」を備えておらず、本願発明1のような特定がされていない点。 上記相違点Aについて検討する。引用文献1には、上記相違点Aに係る構成は記載も示唆もされておらず、当業者といえども、引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項から、上記相違点Aに係る本願発明1の「検出された変更に基づいて、車両に記憶された事前設定のパワー・アシスト・ステアリング・プロファイル(PASプロファイル)にアクセスするステップと、PASプロファイルに含まれる複数の変数を用いて、車両のPASシステムを動作させるステップとを有し、事前設定のPASプロファイルは、複数のバスケットを含み、各バスケットは、複数の異なる変数を含み、バスケットの選択は、車両速度に依存する」という構成を容易に想到することはできない。 したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明とはいえず、また、当業者であれば引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえない。 (2) 本願発明1と引用発明2との対比・判断について 本願発明1と引用発明2とを対比する。 ア 引用発明2の「車両」が、本願発明1の「車両」に相当する。 イ 引用発明2の「パワーステアリング組立体の制御方法」が、本願発明1の「パワー・アシスト・ステアリング・システム(PASシステム)の構成を制御する方法」に相当する。 ウ 引用発明2の「車両」は「前輪2輪、後輪2輪の4輪」のものであるから、引用発明2の「全輪駆動(AWD)」は、4輪駆動である。 そうすると、引用発明2の「車両が全輪駆動(AWD)モードまたは2輪駆動(2WD)モードで動作しているかを判定する。」のステップが、本願発明1の「車両の2輪駆動のドライブライン動作と4輪駆動のドライブライン動作との間の変更を検出するステップ」に相当する。 エ 引用発明2の「第1操舵マップ」、「第2操舵マップ」、「第3操舵マップ」及び「第4操舵マップ」は、それぞれ「前記車両がAWDモードで動作し、前記第1操舵モードが選択された場合」、「前記車両がAWDモードで動作し、前記第2操舵モードが選択された場合」、「前記車両が2WDモードで動作し、前記第1操舵モードが選択された場合」及び「前記車両が2WDモードで動作し、前記第2操舵モードが選択された場合」にそれぞれ選択されるものであることから、車両に記憶され、事前設定されているものであることは明らかであり、AWDモードと2WDモードの変更に基づいて、選択されるものである。 そうすると、引用発明2の「第1操舵マップ」、「第2操舵マップ」、「第3操舵マップ」及び「第4操舵マップ」は、本願発明1の「車両に記憶された事前設定のパワー・アシスト・ステアリング・プロファイル(PASプロファイル)」に相当し、引用発明2の「前記車両がAWDモードで動作し、前記第1操舵モードが選択された場合、第1操舵マップを選択する。前記車両がAWDモードで動作し、前記第2操舵モードが選択された場合、第2操舵マップを選択する、前記車両が2WDモードで動作し、前記第1操舵モードが選択された場合に第3操舵マップを選択する、前記車両が2WDモードで動作し、前記第2操舵モードが選択された場合に第4操舵マップを選択する」ことは、本願発明1の「検出された変更に基づいて、車両に記憶された事前設定のパワー・アシスト・ステアリング・プロファイル(PASプロファイル)にアクセスするステップ」に相当する。 オ 引用発明2の「第1操舵マップ」、「第2操舵マップ」、「第3操舵マップ」及び「第4操舵マップ」は、「選択された1つを使用して、車両の運転者がステアリング組立体に加えたトルクに応じた出力トルクを決定」していることから、「パワーステアリング組立体」を動作させているといえるものの、その変数は「出力トルク」の1つである。 そうすると、上記エの相当関係も踏まえれば、引用発明2の「前記第1、第2、 第3、及び第4操舵マップの選択された1つを使用して、前記車両の運転者がステアリング組立体に加えたトルクに応じた出力トルクを決定する」ことと、本願発明1の「PASプロファイルに含まれる複数の変数を用いて、車両のPASシステムを動作させるステップ」とは、「PASプロファイルに含まれる変数を用いて、車両のPASシステムを動作させるステップ」の限度で共通する。 カ 引用発明2の「各操舵マップは、複数の曲線を含み、それぞれの曲線は異なる車両速度に対応し、前記決定は、車速センサによって検出された速度から、どの速度曲線が使用されるべきかを決定」しているものであり、「複数の曲線」の選択は、車両速度に依存している。 そして、上記オの相当関係を踏まえれば、引用発明2の「複数の曲線」は、本願発明1の「複数のバスケット」に相当するとともに、引用発明2の「車速センサによって検出された速度から、どの速度曲線が使用されるべきかを決定」する構成は、本願発明1の「事前設定のPASプロファイルは、複数のバスケットを含み、バスケットの選択は、車両速度に依存する」に相当する。 上記ア?カを踏まえると、本願発明1と引用発明2との一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点B> 車両のパワー・アシスト・ステアリング・システム(PASシステム)の構成を制御する方法であって、 車両の2輪駆動のドライブライン動作と4輪駆動のドライブライン動作との間の変更を検出するステップと、 検出された変更に基づいて、車両に記憶された事前設定のパワー・アシスト・ステアリング・プロファイル(PASプロファイル)にアクセスするステップと、 PASプロファイルに含まれる変数を用いて、車両のPASシステムを動作させるステップとを有し、 事前設定のPASプロファイルは、複数のバスケットを含み、バスケットの選択は、車両速度に依存する方法。 <相違点B> 本願発明1の「複数のバスケット」の「各バスケットは、複数の異なる変数を含」むのに対し、引用発明2の「複数のバスケット」は、変数は「出力トルク」のみである点。 上記相違点Bについて検討する。引用文献2には、上記相違点Bに係る構成は記載も示唆もされておらず、当業者といえども、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項から、上記相違点Bに係る本願発明1の「各バスケットは、複数の異なる変数を含む」という構成を容易に想到することはできない。 そして、本願発明1は、少なくとも上記相違点Bに係る本願発明1の構成により、「車両ドライブラインが2つの車輪を駆動している(たとえば2輪駆動モードである)場合と、車両ドライブラインが4つの車輪を駆動している(たとえば4輪駆動モードである)場合」において、「PASシステムが提供するパワーアシスト」を「常に最適なもの」とし、「PASシステム」が、「ドライバが操舵ハンドルを回すために過剰な負荷を要することなく、十分なパワーアシストを提供する」という(本願明細書の翻訳文段落【0003】)という格別の効果を奏するものである。 したがって、本願発明1は、引用文献2に記載された発明とはいえず、また、当業者であれば引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえない。 2-2 本願発明2、10及び11について 本願発明2、10及び11は、本願発明1の構成を全て含んで発明を特定するものであって、上記2-1のとおり、本願発明1が引用文献1又は2に記載された発明とはいえず、また、当業者であれば引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項、又は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえないし、引用文献3にも、上記相違点A又はBにかかる本願発明2、10及び11の構成は記載も示唆もされていない。 したがって、本願発明2、10及び11は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 2-3 本願発明3?9及び15?19について 本願発明3?9、15?19は、本願発明1の構成を全て含んで発明を特定するものであって、上記2-1のとおり、本願発明1が引用文献1又は2に記載された発明とはいえず、また、当業者であれば引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項、又は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえないから、同様に、本願発明3?9、15?19は、引用文献1又は2に記載された発明とはいえず、また、当業者であれば引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項、又は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえない。 2-4 本願発明12について 原査定は、「本願の請求項12に係る発明は、引用文献1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、引用文献1又は2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由を含むものであるから、引用発明1及び引用発明2について、それぞれ対比・判断を行う。 (1) 本願発明12と引用発明1との対比・判断について 本願発明12は、上記「2-1(1)」において検討した相違点Aに係る構成を実質的に有することから、上記「2-1(1)」の理由と同様に、引用文献1に記載された発明とはいえず、また、当業者であれば引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえない。 (2) 本願発明12と引用発明2との対比・判断について 本願発明12は、上記「2-1(2)」において検討した相違点Bに係る構成を実質的に有することから、上記「2-1(2)」の理由と同様に、引用文献2に記載された発明とはいえず、また、当業者であれば引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえない。 2-5 本願発明13について 本願発明13は、本願発明12の構成を全て含んで発明を特定するものであって、上記2-4のとおり、本願発明12が引用文献1又は2に記載された発明とはいえず、また、当業者であれば引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項、又は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえないし、引用文献3にも、上記相違点A又はBにかかる本願発明13の構成は記載も示唆もされていない。 したがって、本願発明13は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 2-6 本願発明14及び20について 本願発明14、20は、本願発明12の構成を全て含んで発明を特定するものであって、上記2-4のとおり、本願発明12が引用文献1又は2に記載された発明とはいえず、また、当業者であれば引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項、又は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえないから、同様に、本願発明14及び20は、引用文献1又は2に記載された発明とはいえず、また、当業者であれば引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項、又は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-09-26 |
出願番号 | 特願2016-539591(P2016-539591) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(B62D)
P 1 8・ 121- WY (B62D) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 粟倉 裕二 |
特許庁審判長 |
和田 雄二 |
特許庁審判官 |
氏原 康宏 仁木 学 |
発明の名称 | ドライブラインの動作に基づいて車両パワーステアリングの構成を制御するシステムおよびその方法 |
代理人 | 鮫島 睦 |
代理人 | 中野 晴夫 |