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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1344258
審判番号 不服2017-4701  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-04 
確定日 2018-10-09 
事件の表示 特願2014-548488「給電システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月30日国際公開,WO2014/080688,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年9月24日(優先権主張 平成24年11月22日)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年11月17日 拒絶理由通知
平成28年12月26日 意見書提出・手続補正
平成29年 1月23日 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成29年 4月 4日 審判請求
平成30年 5月23日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)
平成30年 7月12日 意見書提出・手続補正

第2 原査定の概要
本願請求項1-2,8-9に係る発明は,本願優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1,2に記載された発明に基づき本願優先権主張日前に当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2007-305938号公報
2.特開2011-103762号公報

第3 当審拒絶理由通知の概要
本願請求項1-3,6-9に係る発明は,本願優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1-5に記載された発明に基づき本願優先権主張日前に当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2006-303156号公報
2.特開2007-305938号公報
3.特開2011-103762号公報
4.特開平8-153766号公報
5.特開2011-71294号公報

第4 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,平成30年7月12日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりである。
「 【請求項1】
真空チャンバ内の搬送機構によって搬送される静電チャックであって,且つ,表面を被加工板体の吸着面とする誘電体及びこの誘電体内部に配置された吸着電極を有する静電吸着層と,この静電吸着層が上面に配設された基材と,外部電源からの低電圧を入力するための低電圧用入力端子及び当該低電圧を昇圧して得た高電圧を上記吸着電極に供給するための高電圧用出力端子を有する昇圧回路とを備え,上記昇圧回路の本体と上記低電圧用入力端子とを上記基材の下面に露出させて装着し,上記吸着電極から上記誘電体内及び上記基材内を通って非露出状態で引き出された配線の端部と上記高電圧用出力端子との電気的接続部分を,上記基材内に納めて非露出状態にした静電チャックと,
上記真空チャンバ内に固定された固定電極が上記外部電源に接続されると共に,静電チャックと共に動く可動電極が上記昇圧回路の低電圧用入力端子に接続され,これら固定電極と可動電極との接触によって,上記外部電源からの低電圧を上記昇圧回路の低電圧用入力端子に入力する電気的接触機構と
を備える給電システムにおいて,
上記電気的接触機構の固定電極を,静電チャックに近接した状態で搬送方向に平行に配設された導電性のレールで形成し,可動電極を,当該レールに接触した状態で静電チャックに取り付けられた導体性の可撓性接触子で形成した,
ことを特徴とする給電システム。
【請求項2】
真空チャンバ内の搬送機構によって搬送される静電チャックであって,且つ,表面を被加工板体の吸着面とする誘電体及びこの誘電体内部に配置された吸着電極を有する静電吸着層と,この静電吸着層が上面に配設された基材と,外部電源からの低電圧を入力するための低電圧用入力端子及び当該低電圧を昇圧して得た高電圧を上記吸着電極に供給するための高電圧用出力端子を有する昇圧回路とを備え,上記昇圧回路の本体と上記低電圧用入力端子とを上記基材の下面に露出させて装着し,上記吸着電極から上記誘電体内及び上記基材内を通って非露出状態で引き出された配線の端部と上記高電圧用出力端子との電気的接続部分を,上記基材内に納めて非露出状態にした静電チャックと,
上記真空チャンバ内に固定された固定電極が上記外部電源に接続されると共に,静電チャックと共に動く可動電極が上記昇圧回路の低電圧用入力端子に接続され,これら固定電極と可動電極との接触によって,上記外部電源からの低電圧を上記昇圧回路の低電圧用入力端子に入力する電気的接触機構と
を備える給電システムにおいて,
上記搬送機構を,搬送方向に並べられた複数の導電性のローラと,これらのローラを回転可能に支持する平行な1対のレーンとで構成し,
上記電気的接触機構の固定電極を,上記複数の導電性のローラで形成し,可動電極を,ローラと接触した状態で静電チャックと共に動く電極板で形成した,
ことを特徴とする給電システム。
【請求項3】
真空チャンバ内の搬送機構によって搬送される静電チャックであって,且つ,表面を被加工板体の吸着面とする誘電体及びこの誘電体内部に配置された吸着電極を有する静電吸着層と,この静電吸着層が上面に配設された基材と,外部電源からの低電圧を入力するための低電圧用入力端子及び当該低電圧を昇圧して得た高電圧を上記吸着電極に供給するための高電圧用出力端子を有する昇圧回路とを備え,上記昇圧回路の本体と上記低電圧用入力端子とを上記基材の下面に露出させて装着し,上記吸着電極から上記誘電体内及び上記基材内を通って非露出状態で引き出された配線の端部と上記高電圧用出力端子との電気的接続部分を,上記基材内に納めて非露出状態にした静電チャックと,
真空チャンバ内に固定された固定コイルが上記外部電源に接続されると共に,当該固定コイルと非接触状態で静電チャックと共に動く可動コイルが上記昇圧回路の低電圧用入力端子に接続され,固定コイルから可動コイルへの電磁誘導によって,外部電源からの低電圧を上記昇圧回路の低電圧用入力端子に入力する電磁誘導装置と
を備える給電システムであって,
上記固定コイルの長さを,上記静電チャックの搬送範囲にほぼ等しく設定すると共に,可動コイルを,この固定コイルに近接した状態で静電チャック基材上に取り付けた,
ことを特徴とする給電システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の給電システムにおいて,
上記静電チャックの昇圧回路の低電圧用入力端子は,5ボルト?100ボルトの範囲内の電圧を入力し,高電圧用出力端子は,300ボルト?10000ボルトの範囲内の電圧を出力するものである,
ことを特徴とする給電システム。」

第5 引用文献及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
当審拒絶理由通知に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,ウエハ等の基板を吸着するための静電チャック装置およびこの静電チャック装置を備えた露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,露光装置では,ウエハステージのテーブルに,ウエハを吸着する静電チャックが配置されている。このような静電チャックでは,ウエハの吸着面に付着物(パーティクル)が付着すると露光精度の低下に繋がる。特に,EUV露光装置では,焦点深度が浅く,面内変形精度が厳しいため,付着物の付着を極力防止する必要がある。
そして,従来,静電チャックに付着した付着物の除去は,テーブルに固定される静電チャックを所定の布等により手で拭き取ることにより行われている。
【特許文献1】特開2004-165198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら,上述したように,テーブルに固定される静電チャックを所定の布等により手で拭き取る方法を,真空雰囲気で使用されるEUV露光装置等に適用する場合には,真空環境を破る必要があり,装置の復帰に多大な時間が必要になるという問題があった。
一方,テーブルから静電チャックを離脱した状態で,静電チャックを所定の位置に搬送し静電チャックの付着物を除去することが可能になれば,真空環境を破る必要がなくなり,平均故障間隔(MTBF)を長くすることができる。そして,そのためには,テーブルへの静電チャックの着脱を容易,確実に行うことが必要になる。
【0004】
本発明は,かかる従来の問題を解決するためになされたもので,テーブルへの静電チャックの着脱を容易,確実に行うことができる静電チャック装置,およびこの静電チャック装置を備えた露光装置を提供することを目的とする。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下,本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。
(静電チャック装置の実施形態)
図1および図2は本発明の静電チャック装置の一実施形態を示している。
この実施形態では,静電チャック装置11がEUV露光装置のウエハステージ13に配置されている。
【0011】
ウエハステージ13は,テーブル15を有している。このテーブル15は,図2のX方向およびY方向にnmレベルの位置決め精度で移動可能とされている。テーブル15には,X方向の位置をレーザ干渉計(不図示)により測定するためのX座標測定用移動鏡17およびY方向の位置をレーザ干渉計(不図示)により測定するためのY座標測定用移動鏡19が直交して固定されている。
【0012】
テーブル15には,ウエハ21を吸着する静電チャック装置11が配置されている。静電チャック装置11は円形状の静電チャック23を有している。この静電チャック23はテーブル15の略中心に位置されている。静電チャック23の上面には,ウエハ21を吸着する吸着面23aが形成されている。吸着面23aの内側には電極23bが配置されている。この電極23bに電圧を印加することにより吸着面23aに静電気が発生しウエハ21が吸着される。
【0013】
静電チャック装置11は,静電チャック23をテーブル15に着脱自在に固定するテーブル側連結部25およびチャック側連結部27を有している。
テーブル側連結部25は,テーブル15の上面に形成される円形状の凹部15aに固定されている。そして,図3に示すように,凹部15aの中心から120度の角度を置いて3個配置されている。
【0014】
図4の(a)および(b)はテーブル側連結部25の詳細を示している。テーブル側連結部25は取付部材29およびコア(鉄心)部材31を有している。取付部材29は矩形環状をしており長手方向の外側には取付穴29aが形成されている。この取付穴29aにボルト(不図示)を挿入して取付部材29がテーブル15の凹部15aの底面に固定される。取付部材29には支持部材33を介してコア部材31が固定されている。コア部材31は3個の突出部31aを有している。中央の突出部31aの先端には永久磁石35が固定されている。そして,この中央の突出部31aに1次コイル37が巻回されている。この1次コイル37には電源供給部39(図1に示す)からの電圧が印加される。
【0015】
チャック側連結部27は,静電チャック23の下面(吸着面23aと反対側)に固定されている。そして,図5に示すように,静電チャック23の中心から120度の角度を置いて3個配置されている。このチャック側連結部27の位置はテーブル側連結部25の位置に対応する位置とされている。
図6の(a)および(b)はチャック側連結部27の詳細を示している。チャック側連結部27はコア(鉄心)部材41を有している。コア部材41は取付部材(不図示)により静電チャック23の下面に固定されている。コア部材41は3個の突出部41aを有している。中央の突出部41aには2次コイル45が巻回されている。
【0016】
静電チャック23の下面の中央には,図5に示したように,集電変圧部47が配置されている。この集電変圧部47は静電チャック23内に配置される電極23bに配線23c(図1に示す)を介して接続されている。また,集電変圧部47にはチャック側連結部27に配置される2次コイル45が配線45aを介して接続されている。集電変圧部47は1次コイル37への交流電圧の印加により2次コイル45に電磁誘導された交流を直流に変換するAC/DC変換手段を有している。すなわち,テーブル側連結部25の1次コイル37に電源供給部39から交流電圧を印加すると,電磁誘導によりチャック側連結部27の2次コイル45に交流が発生するが,この交流が直流に変換される。この直流は集電変圧部47において所定の電圧に変圧され電極23bに印加される。
【0017】
また,集電変圧部47は,静電チャック23からのウエハ21の離脱時に,ウエハ21の吸着時に電極23bに印加される電圧と逆の逆電圧を電極23bに印加する。この逆電圧の印加は電源供給部39から1次コイル37への交流電圧の印加が停止したこと,すなわち,2次コイル45に交流が発生していないことを検出して行われる。この逆電圧の印加により静電チャック23からウエハ21を確実に離脱することが可能になる。
【0018】
上述した静電チャック装置11では,テーブル15への静電チャック23の固定が以下述べるようにして行われる。先ず,図7に示すように,静電チャック23を搬送アーム49により把持した状態でテーブル15の上方に位置させる。そして,搬送アーム49により静電チャック23を下降させて,図1に示したように,テーブル15に固定されるテーブル側連結部25に,静電チャック23のチャック側連結部27を載置する。
【0019】
この時には,テーブル側連結部25の1次コイル37に電源供給部39から直流電圧が印加されており,テーブル側連結部25のコア部材31に配置される永久磁石35が消磁されている。すなわち,1次コイル37に,1次コイル37に発生する磁束が永久磁石35の磁束と反対で同一になるように直流電圧が印加され,永久磁石35の磁束が消去されている。従って,この時には,静電チャック23を自由に移動することが可能であり,搬送アーム49により静電チャック23が位置決めされ,テーブル側連結部25の所定の位置に静電チャック23のチャック側連結部27が載置される。
【0020】
そして,この状態から,1次コイル37への直流電圧の印加をオフすることにより,テーブル側連結部25のコア部材31の永久磁石35の消磁が解除される。これにより,チャック側連結部27のコア部材41の中央の突出部41aが,テーブル側連結部25のコア部材31の中央の永久磁石35に吸着され固定される。
そして,この状態から静電チャック23の吸着面23aにウエハ21を載置し,テーブル側連結部25の1次コイル37に電源供給部39から交流電圧を印加すると,静電チャック23の吸着面23aにウエハ21が吸着される。すなわち,テーブル側連結部25の1次コイル37に電源供給部39から交流電圧を印加すると,電磁誘導によりチャック側連結部27の2次コイル45に交流が発生する。そして,2次コイル45に発生した交流が集電変圧部47により直流に変換される。この直流は集電変圧部47において所定の電圧に変圧され電極23bに印加される。この電極23bへの電圧の印加により吸着面23aに静電気が発生しウエハ21が吸着面23aに吸着される。
【0021】
一方,静電チャック23へのウエハ21の吸着の解除は,電源供給部39からの1次コイル37への交流電圧の印加をオフにすることにより行われる。すなわち,1次コイル37への交流電圧の印加をオフにすると,電磁誘導による2次コイル45の交流の発生が停止する。集電変圧部47はこの停止を検出し電極23bへの直流電圧の印加を停止する。これにより吸着面23aへの静電気の発生が無くなりウエハ21の吸着面23aへの吸着が解除される。この実施形態では,電極23bへの直流電圧の印加の停止時に,集電変圧部47により,ウエハ21の吸着時に電極23bに印加される電圧と逆の逆電圧を印加する。この逆電圧の印加により吸着面23aに残留していた静電気が除去され,吸着面23aからウエハ21を確実に離脱することが可能になる。なお,逆電圧の印加はコンデンサ,蓄電池等に貯蔵された電気を用いて行われる。
【0022】
また,テーブル15からの静電チャック23の離脱は,テーブル側連結部25の1次コイル37に電源供給部39から直流電圧を印加することにより行われる。すなわち,1次コイル37に,1次コイル37に発生する磁束が永久磁石35の磁束と反対で同一になるように直流電圧が印加され,永久磁石35の磁束が消去される。そして,この状態から,搬送アーム49により静電チャック23を上昇させて,図7に示したように,テーブル15から静電チャック23が離脱される。
【0023】
上述した静電チャック装置11では,テーブル15に固定されるテーブル側連結部25に静電チャック23に固定されるチャック側連結部27を磁力により固定するようにしたので,静電チャック23をテーブル15に着脱自在に固定することができる。そして,テーブル側連結部25の1次コイル37に交流電圧を印加し,チャック側連結部27の2次コイル45に電磁誘導により交流電圧を発生させるようにしたので,テーブル15側から静電チャック23側に非接触で給電することが可能になる。従って,テーブル15への静電チャック23の着脱を容易,確実に行うことができる。」

(2)引用発明
前記(1)より,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「真空雰囲気で使用されるEUV露光装置の静電チャックであって,静電チャックは,搬送アームにより位置決めされ,静電チャックの上面には,ウエハを吸着する吸着面が配置されており,吸着面の内側には電極が配置されており,電源供給部から1次コイルに交流電圧を印加すると電磁誘導で交流が発生し,2次コイルに配線を介して接続され,また,静電チャックの内側に配置される電極に配線を介して接続される集電変圧部を有し,静電チャックの下面の中央には,集電変圧部が配置されており,集電変圧部は吸着面の内側の電極に配線を介して接続されている静電チャックを有し,
EUV露光装置のウエハステージのテーブルのテーブル側連結部の1次コイルに電源供給部から交流電流を印加すると,電磁誘導によりチャック側連結部の2次コイルに交流が発生することでテーブル側から静電チャック側に非接触で給電し,
静電チャックをテーブルに着脱自在に固定するテーブル側連結部およびチャック側連結部を有する静電チャック装置。」

2 引用文献2について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,さまざまな圧力環境においても放電することなく使用できる静電吸着装置に関する。」

「【0003】
このような静電吸着装置は,電源装置から10^(2)?10^(4)ボルト程度の高電圧を印加されることにより,装置の吸着面に被着物を静電吸着するものである。静電吸着装置は減圧可能な耐圧力容器(チャンバー)の内部に組み込まれ使用する。一方,高い電圧を供給する昇圧回路を含む電源装置は,チャンバーの外部に設置され大気圧下に置かれている。静電吸着装置と電源装置とは高耐電圧ケーブル(以下,単に高圧ケーブルという)で配線されている。チャンバー内の圧力は,被着物を吸着する過程で大気圧から減圧あるいは加圧されて連続的に変化する。この際,前記高圧ケーブルと静電吸着装置とを導通させる高電圧配線部分もチャンバー内に設置されているため,その圧力変化にさらされることになる。ところで,低い圧力の雰囲気下で高電圧を印加した場合,グロー放電現象を起こすことが知られている。このグロー放電を起こす低い圧力雰囲気の範囲はパッシェン領域といわれ,電圧が高いほどこの領域は広くなる。」

3 引用文献3について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体製造装置の基板保持用に使われる静電チャックや,静電チャック機能を利用した展示・掲示装置などに用いられる静電チャック用の高電圧発生装置に係り,特に,太陽電池や二次電池(蓄電池)などの低電圧電源を入力電源としてkVオーダーの高電圧を発生することが可能であり,しかも小型かつ軽量で消費電力の非常に少ない直流-直流変換型の静電チャック用の高電圧発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電チャックは,例えば,一対の吸着電極を有し,これら一対の吸着電極にそれぞれ正極性及び負極性の電荷を蓄積して静電気を発生させることにより,ガラスやプラスチックなどの誘電体基板,シリコンウエハなどの半導体基板,鉄,銅,アルミ,ステンレス鋼などの金属基板等の種々の基板を吸着,保持させるために使用される。
【0003】
また,静電チャックは,吸着電極間の距離を調整することにより,1×10^(7)V/m程度の非常に強い電界を容易に作り出すことができることを利用して,上述した種々の基板を吸着保持する機能だけではなく,除菌や滅菌装置,空気中の塵や埃を集める集塵装置,あるいは植物やキノコなどの植生の成長を促進する成育装置などの機器にも応用が可能である。以下,これらの静電チャック応用機器も含めて単に「静電チャック」と称する。
【0004】
静電チャックには,一般に,直流や交流の高電圧電源が使用されるが,半導体製造装置などの比較的大型の装置では,スペースを比較的大きくとれることと,信頼性を確保するため,外装は頑丈な筐体で覆われるなど,メンテナンス時の不意な物理的損傷を避けることが容易であり,高電圧電源の大きさや電源自身の消費電力には特に制約がなかった。静電チャック用の高電圧電源の消費電力は,例えば,±1kV(電位差2kV)の両極電圧発生タイプで,出力電流をそれぞれ最大10mAとすると,この高電圧電源の入力に必要とする電力は,少なくとも30W程度となる。」

4 引用文献4について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明はたとえば半導体ウエハなどのワークを静電力によって吸着保持するための静電チャックおよびそのチャックがアーム先端に設けられるロボット装置に関する。」

「【0047】図6乃至図8はこの発明の第3の実施例を示し,この実施例は静電チャック41が設けられたロボット装置40である。つまり,ロボット装置40は駆動部43を有する。この駆動部43の駆動軸43aには第1のアーム54の一端が連結され,その他端には第2のアーム55の一端が関節接続されている。
【0048】上記第2のアーム45の他端には上記静電チャック41が設けられている。この静電チャック41は比抵抗の大きな絶縁材からなるチャック本体42に一対の電極43が埋設された双極型のものであって,上記チャック本体42には各電極43の一部を露出させる充放電孔44が下面側に開口して形成されている。
【0049】上記静電チャック41がワークとしての半導体ウエハUを受けとるポジションには充電器45が設けられ,受け渡すポジッションには放電器46が設けられている。上記充電器45は直流電源47と,この直流電源47に接続された一対の給電ピン48を有する第1のプッシャ49とからなり,この第1のプッシャ49は図示しない駆動源によって図6に矢印で示す垂直方向に駆動されるようになっている。
【0050】上記放電器46はコイルなどの放電素子51と,この放電素子51に接続された一対の放電ピン52を有する第2のプッシャ53とからなり,この第2のプッシャ53は図示しない駆動源によって図6に矢印で示す垂直方向に駆動されるようになっている。」

5 引用文献5について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献5には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,基板を静電吸着する静電吸着部材,静電吸着部材を保持する静電吸着部材保持機構,基板を搬送する搬送モジュール,その搬送モジュールを備える半導体製造装置,及び基板を搬送する搬送方法に関する。」

「【0074】
次に,図4を参照し,静電吸着部材及び給電部について説明する。図4は,静電吸着部材及び給電部の構成を模式的に示す図である。また,図4は,図3A(b)におけるB-B線に沿う断面図である。
【0075】
静電吸着部材60は,前述したように,逆円錐台形状を有する主部61と,その上側の上面部62とを有する。主部61の下面には,給電部71の給電ピン71aが挿入され電気的に接続するための挿入孔61aが設けられる。挿入孔61aの先端には正電極61b及び負電極61cが設けられ,正電極61bと負電極61cとは,静電吸着部材60の内部を引き回される配線61dにより接続される。配線61dは,正電極61bから上方に延び,上面部62中を引き回され,再び下方に延び,負電極61cまで引き回される。主部61の材質は,アルミニウム等の金属を用いることができる。また,上面部62の材質は,ポリイミド等の誘電体62aを用いることができる。従って,配線61dは,上面部62において誘電体62a中を引き回される。
【0076】
一方,給電部71における回路構成は,次のようになる。給電部71は,電源71b,抵抗71c,第1のスイッチ71d,第2のスイッチ71eを有し,図4に示すように,電源の両端が,少なくとも一方が抵抗及び第1のスイッチ71dを介して,給電ピン71aの静電吸着部材60と電気的に接続される正電極71f及び負電極71gに接続される。第1のスイッチ71dを閉じることにより,電源71bから静電吸着部材60に給電することができる。
【0077】
上記した構成により,静電吸着部材60は,ジョンセン・ラーベック力により静電吸着する。ジョンセン・ラーベック力は,誘電体とウェハとの界面の小さなギャップに微少電流が流れ,帯電分極して誘起させことによって生じる力であり,誘電体の体積固有抵抗率が約10^(12)?10^(13)Ω・cm程度になると発生するものである。本実施の形態では,誘電体として上述したポリイミドを誘電体として用いている。
【0078】
また,給電部71には,給電ピン71aの正電極71f及び負電極71gを短絡するための第2のスイッチ71eを設けることができる。第1のスイッチ71dを開いた状態で第2のスイッチ71eを閉じることにより,静電吸着部材60の正電極61b及び負電極61cを短絡することができ,静電吸着部材60をウェハWから脱離させることができる。
【0079】
また,静電吸着部材60及び給電部71の構造は,特に限定されず,クーロン力を用いる方式の静電吸着部材及び給電部の構造であってもよい。」

第6 対比及び判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明との対比
ア 引用発明の「真空雰囲気で使用されるEUV露光装置」は,「真空チャンバ」を有するものである。
イ 引用発明の「搬送アーム」は,「搬送機構」といえ,引用発明の静電チャックは「搬送アームにより位置決めされ」ているから,「搬送機構によって搬送される」といえる。
ウ 引用発明の「ウエハ」は,本願発明1の「被加工板体」に相当し,また,静電チャックの表面の吸着面が誘電体で構成されることは,技術常識であるから,引用発明の「ウエハを吸着する吸着面」は,「表面を被加工板体の吸着面とする誘電体」といえる。
エ 引用発明の「吸着面の内側」の「電極」は,層状であり(【図1】の23b),また,静電チャックの電極は導通しないように誘電体内部に配置されることは技術常識であるから,引用発明の「吸着面の内側」の「電極」は,「この誘電体内部に配置された吸着電極を有する静電吸着層」といえる。
オ 引用発明の「吸着面の内側」の「電極」より下側の静電チャックの部分は,「この静電吸着層が上面に配設された基材」といえる。
カ 引用発明の「集電変圧部」は,集電,変圧するための「回路」を有するものである。
キ 引用発明の「集電変圧部」は,静電チャックの下面の中央に配置されており,「回路の本体」を「基材の下面に露出されて装着し」ているといえる。
ク 引用発明には,静電チャックの下面と集電変圧部の間に,特に空間を設けることは記載されていないから,引用発明の静電チャックの内側に配置される電極と静電チャックの下面の集電変圧部との間にある配線,及び,集電変圧部と配線との接続部も非露出状態である。
よって,引用発明の「吸着面の内側の電極」に接続される「配線」は,「吸着電極から誘電体内及び基材内を通って非露出状態で引き出された」状態であるといえるし,引用発明の「吸着面の内側の電極」に接続される「配線」と「集電変圧部」とは,「吸着電極から誘電体内及び基材内を通って非露出状態で引き出された配線の端部と」回路「との電気的接続部分を基材内に納めて非露出状態にした」状態であるといえる。
ケ 引用発明の「1次コイル」は,EUV露光装置のウエハステージのテーブルのテーブル側連結部に固定されており,本願発明1の「真空チャンバー内に固定された固定電極」に相当する。
コ 引用発明の「電源供給部」は,本願発明1の「外部電源」に相当し,引用発明の「電源供給部から交流電流を印加される」1次コイルは,「外部電源に接続される」状態であるといえる。
サ 引用発明の「2次コイル」は,着脱自在な静電チャックに固定されており,本願発明1の「静電チャックと共に動く可動電極」に相当する。
シ 引用発明の「電源供給部」から「1次コイル」,「2次コイル」,「集電変換部」,「吸着面の内側の電極」に至る電気的機構は,「給電システム」といえる。
ス すると,本願発明1と引用発明とは,下記セの点で一致し,下記ソの点で相違する。

セ 一致点
「真空チャンバ内の搬送機構によって搬送される静電チャックであって,且つ,表面を被加工板体の吸着面とする誘電体及びこの誘電体内部に配置された吸着電極を有する静電吸着層と,この静電吸着層が上面に配設された基材と,回路とを備え,回路の本体を上記基材の下面に露出させて装着し,上記吸着電極から上記誘電体内及び上記基材内を通って非露出状態で引き出された配線の端部と回路との電気的接続部分を,上記基材内に納めて非露出状態にした静電チャックと,
上記真空チャンバ内に固定された固定電極が上記外部電源に接続されると共に,静電チャックと共に動く可動電極を備える給電システム。」

ソ 相違点
(ア)相違点1
本願発明1は,「外部電源からの低電圧を入力するための低電圧用入力端子及び当該低電圧を昇圧して得た高電圧を上記吸着電極に供給するための高電圧用出力端子を有する昇圧回路」を有するのに対し,引用発明は,電源供給部から1次コイルに交流電圧を印加すると電磁誘導で交流が発生し,2次コイルに配線を介して接続され,また,静電チャックの内側に配置される電極に配線を介して接続される集電変圧部を有する点。
(イ)相違点2
本願発明1は,「これら固定電極と可動電極との接触によって,上記外部電源からの低電圧を上記昇圧回路の低電圧用入力端子に入力する電気的接触機構」を有するのに対し,引用発明は,テーブル側連結部の1次コイルに電源供給部から交流電流を印加すると,電磁誘導によりチャック側連結部の2次コイルに交流が発生することでテーブル側から静電チャック側に非接触で給電している点。
(ウ)相違点3
本願発明1は,「上記電気的接触機構の固定電極を,静電チャックに近接した状態で搬送方向に平行に配設された導電性のレールで形成し,可動電極を,当該レールに接触した状態で静電チャックに取り付けられた導体性の可撓性接触子で形成した」のに対し,引用発明は,静電チャックをテーブルに着脱自在に固定するテーブル側連結部およびチャック側連結部を有するが,導電性のレールと導体性の可撓性接触子による電気的接触機構を有していない点。

(2)相違点についての判断
相違点3について
相違点3に係る構成である電気的接触機構を「上記電気的接触機構の固定電極を,静電チャックに近接した状態で搬送方向に平行に配設された導電性のレールで形成し,可動電極を,当該レールに接触した状態で静電チャックに取り付けられた導体性の可撓性接触子で形成した」ことについて,引用文献1-5のいずれにも記載も示唆もない。

(3)まとめ
したがって,本願発明1は,引用文献1-5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2について
ア 引用発明の「真空雰囲気で使用されるEUV露光装置」は,「真空チャンバ」を有するものである。
イ 引用発明の「搬送アーム」は,「搬送機構」といえ,引用発明の静電チャックは「搬送アームにより位置決めされ」ているから,「搬送機構によって搬送される」といえる。
ウ 引用発明の「ウエハ」は,本願発明2の「被加工板体」に相当し,また,静電チャックの表面の吸着面が誘電体で構成されることは,技術常識であるから,引用発明の「ウエハを吸着する吸着面」は,「表面を被加工板体の吸着面とする誘電体」といえる。
エ 引用発明の「吸着面の内側」の「電極」は,層状であり(【図1】の23b),また,静電チャックの電極は導通しないように誘電体内部に配置されることは技術常識であるから,引用発明の「吸着面の内側」の「電極」は,「この誘電体内部に配置された吸着電極を有する静電吸着層」といえる。
オ 引用発明の「吸着面の内側」の「電極」より下側の静電チャックの部分は,「この静電吸着層が上面に配設された基材」といえる。
カ 引用発明の「集電変圧部」は,集電,変圧するための「回路」を有するものである。
キ 引用発明の「集電変圧部」は,静電チャックの下面の中央に配置されており,「回路の本体」を「基材の下面に露出されて装着し」ているといえる。
ク 引用発明には,静電チャックの下面と集電変圧部の間に,特に空間を設けることは記載されていないから,引用発明の静電チャックの内側に配置される電極と静電チャックの下面の集電変圧部との間にある配線,及び,集電変圧部と配線との接続部も非露出状態である。
よって,引用発明の「吸着面の内側の電極」に接続される「配線」は,「吸着電極から誘電体内及び基材内を通って非露出状態で引き出された」状態であるといえるし,引用発明の「吸着面の内側の電極」に接続される「配線」と「集電変圧部」とは,「吸着電極から誘電体内及び基材内を通って非露出状態で引き出された配線の端部と」回路「との電気的接続部分を基材内に納めて非露出状態にした」状態であるといえる。
ケ 引用発明の「1次コイル」は,EUV露光装置のウエハステージのテーブルのテーブル側連結部に固定されており,本願発明2の「真空チャンバー内に固定された固定電極」に相当する。
コ 引用発明の「電源供給部」は,本願発明2の「外部電源」に相当し,引用発明の「電源供給部から交流電流を印加される」1次コイルは,「外部電源に接続される」状態であるといえる。
サ 引用発明の「2次コイル」は,着脱自在な静電チャックに固定されており,本願発明2の「静電チャックと共に動く可動電極」に相当する。
シ 引用発明の「電源供給部」から「1次コイル」,「2次コイル」,「集電変換部」,「吸着面の内側の電極」に至る電気的機構は,「給電システム」といえる。
ス すると,本願発明2と引用発明とは,下記セの点で一致し,下記ソの点で相違する。

セ 一致点
「真空チャンバ内の搬送機構によって搬送される静電チャックであって,且つ,表面を被加工板体の吸着面とする誘電体及びこの誘電体内部に配置された吸着電極を有する静電吸着層と,この静電吸着層が上面に配設された基材と,回路とを備え,回路の本体を上記基材の下面に露出させて装着し,上記吸着電極から上記誘電体内及び上記基材内を通って非露出状態で引き出された配線の端部と回路との電気的接続部分を,上記基材内に納めて非露出状態にした静電チャックと,
上記真空チャンバ内に固定された固定電極が上記外部電源に接続されると共に,静電チャックと共に動く可動電極を備える給電システム。」

ソ 相違点
(ア)相違点1
本願発明2は,「外部電源からの低電圧を入力するための低電圧用入力端子及び当該低電圧を昇圧して得た高電圧を上記吸着電極に供給するための高電圧用出力端子を有する昇圧回路」を有するのに対し,引用発明は,電源供給部から1次コイルに交流電圧を印加すると電磁誘導で交流が発生し,2次コイルに配線を介して接続され,また,静電チャックの内側に配置される電極に配線を介して接続される集電変圧部を有する点。
(イ)相違点2
本願発明2は,「これら固定電極と可動電極との接触によって,上記外部電源からの低電圧を上記昇圧回路の低電圧用入力端子に入力する電気的接触機構」を有するのに対し,引用発明は,テーブル側連結部の1次コイルに電源供給部から交流電流を印加すると,電磁誘導によりチャック側連結部の2次コイルに交流が発生することでテーブル側から静電チャック側に非接触で給電している点。
(ウ)相違点3
本願発明2は,「上記搬送機構を,搬送方向に並べられた複数の導電性のローラと,これらのローラを回転可能に支持する平行な1対のレーンとで構成し,
上記電気的接触機構の固定電極を,上記複数の導電性のローラで形成し,可動電極を,ローラと接触した状態で静電チャックと共に動く電極板で形成した」のに対し,引用発明は,搬送機構を搬送アームで構成しており,導電性のローラとレーンによる搬送機構,及び,導電性のローラと電極板による電気的接触機構を有していない点

(2)相違点についての判断
相違点3について
相違点3に係る構成である搬送機構を「搬送方向に並べられた複数の導電性のローラと,これらのローラを回転可能に支持する平行な1対のレーンとで構成し電気的接触機構を「上記電気的接触機構の固定電極を,静電チャックに近接した状態で搬送方向に平行に配設された導電性のレールで形成し」たこと,及び,電気的接触機構を「上記電気的接触機構の固定電極を,上記複数の導電性のローラで形成し,可動電極を,ローラと接触した状態で静電チャックと共に動く電極板で形成した」ことについて,引用文献1-5のいずれにも記載も示唆もない。

(3)まとめ
したがって,本願発明2は,引用文献1-5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明3について
(1)本願発明3と引用発明との対比
ア 引用発明の「真空雰囲気で使用されるEUV露光装置」は,「真空チャンバ」を有するものである。
イ 引用発明の「搬送アーム」は,「搬送機構」といえ,引用発明の静電チャックは「搬送アームにより位置決めされ」ているから,「搬送機構によって搬送される」といえる。
ウ 引用発明の「ウエハ」は,本願発明3の「被加工板体」に相当し,また,静電チャックの表面の吸着面が誘電体で構成されることは,技術常識であるから,引用発明の「ウエハを吸着する吸着面」は,「表面を被加工板体の吸着面とする誘電体」といえる。
エ 引用発明の「吸着面の内側」の「電極」は,層状であり(【図1】の23b),また,静電チャックの電極は導通しないように誘電体内部に配置されることは技術常識であるから,引用発明の「吸着面の内側」の「電極」は,「この誘電体内部に配置された吸着電極を有する静電吸着層」といえる。
オ 引用発明の「吸着面の内側」の「電極」より下側の静電チャックの部分は,「この静電吸着層が上面に配設された基材」といえる。
カ 引用発明の「集電変圧部」は,集電,変圧するための「回路」を有するものである。
キ 引用発明の「集電変圧部」は,静電チャックの下面の中央に配置されており,「回路の本体」を「基材の下面に露出されて装着し」ているといえる。
ク 引用発明には,静電チャックの下面と集電変圧部の間に,特に空間を設けることは記載されていないから,引用発明の静電チャックの内側に配置される電極と静電チャックの下面の集電変圧部との間にある配線,及び,集電変圧部と配線との接続部も非露出状態である。
よって,引用発明の「吸着面の内側の電極」に接続される「配線」は,「吸着電極から誘電体内及び基材内を通って非露出状態で引き出された」状態であるといえるし,引用発明の「吸着面の内側の電極」に接続される「配線」と「集電変圧部」とは,「吸着電極から誘電体内及び基材内を通って非露出状態で引き出された配線の端部と」回路「との電気的接続部分を基材内に納めて非露出状態にした」状態であるといえる。
ケ 引用発明の「1次コイル」は,EUV露光装置のウエハステージのテーブルのテーブル側連結部に固定されており,本願発明3の「真空チャンバー内に固定された固定電極」に相当する。
コ 引用発明の「電源供給部」は,本願発明3の「外部電源」に相当し,引用発明の「電源供給部から交流電流を印加される」1次コイルは,「外部電源に接続される」状態であるといえる。
サ 引用発明の「2次コイル」は,着脱自在な静電チャックに固定されており,本願発明3の「静電チャックと共に動く可動電極」に相当する。
シ 引用発明は,「1次コイルに電源供給部から交流電流を印加すると,電磁誘導によりチャック側連結部の2次コイルに交流が発生することでテーブル側から静電チャック側に非接触で給電」しており,本願発明3の「固定コイルから可動コイルへの電磁誘導によって」「外部電源から」「電圧を」「回路に」「入力する電磁誘導装置」を有しているといえる。
ス 引用発明の「電源供給部」から「1次コイル」,「2次コイル」,「集電変圧部」,「吸着面の内側の電極」に至る電気的機構は,本願発明3の「給電システム」といえる。
セ 引用発明は,静電チャックをテーブルに固定して1次コイルと,2次コイルとで電磁誘導で給電しているから,本願発明3の「可動コイルを,この固定コイルに近接した状態で静電チャック基材上に取り付けた」といえる。
ソ すると,本願発明3と引用発明とは,下記タの点で一致し,下記チの点で相違する。
タ 一致点
「真空チャンバ内の搬送機構によって搬送される静電チャックであって,且つ,表面を被加工板体の吸着面とする誘電体及びこの誘電体内部に配置された吸着電極を有する静電吸着層と,この静電吸着層が上面に配設された基材と,回路とを備え,回路の本体を上記基材の下面に露出させて装着し,上記吸着電極から上記誘電体内及び上記基材内を通って非露出状態で引き出された配線の端部と回路との電気的接続部分を,上記基材内に納めて非露出状態にした静電チャックと,
真空チャンバー内に固定された固定コイルが外部電源に接続されると共に,当該固定コイルと非接触状態で静電チャックと共に動く可動コイルと固定コイルから可動コイルへの電磁誘導によって電圧を回路に入力する電磁誘導装置を備える給電システムであって,
可動コイルを,この固定コイルに近接した状態で静電チャック基材上に取り付けた
給電システム。」

チ 相違点
(ア)相違点1
本願発明3は,「外部電源からの低電圧を入力するための低電圧用入力端子及び当該低電圧を昇圧して得た高電圧を上記吸着電極に供給するための高電圧用出力端子を有する昇圧回路」を有するのに対し,引用発明は,電源供給部から1次コイルに交流電圧を印加すると電磁誘導で交流が発生し,2次コイルに配線を介して接続され,また,静電チャックの内側に配置される電極に配線を介して接続される集電変圧部を有する点。
(イ)相違点2
本願発明3は,可動コイルが「上記昇圧回路の低電圧用入力端子に接続され」ているのに対し,引用発明は,2次コイルが集電変圧部に接続されているが,集電変圧部の入力端子について特に記載されていない点。
(ウ)相違点3
本願発明3は,外部電源からの「低電圧を上記昇圧回路の低電圧用入力端子に」入力するのに対し,引用発明は,1次コイルに電源供給部から交流電流を印加すると,電磁誘導によりチャック側連結部の2次コイルに交流が発生することでテーブル側から静電チャック側に非接触で給電しているが,集電変圧部の入力端子について特に記載されていない点。
(ケ)相違点4
本願発明3は,「上記固定コイルの長さを,上記静電チャックの搬送範囲にほぼ等しく設定する」のに対し,引用発明は,固定コイルは点状に配置されており,静電チャックの搬送範囲と等しくない点。

(2)相違点についての判断
相違点4について
相違点4に係る構成である固定コイルの長さを,「上記静電チャックの搬送範囲にほぼ等しく設定する」ことは,引用文献1-5のいずれにも記載も示唆もない。

(3)まとめ
したがって,本願発明3は,引用文献1-5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本願発明4について
本願発明4は,本願発明1ないし3いずれかの発明特定事項をすべて含むものであるから,前記1ないし3と同様の理由により,引用文献1-5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 原査定について
1 理由(特許法第29条第2項)について
平成30年7月12日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1の「上記電気的接触機構の固定電極を,静電チャックに近接した状態で搬送方向に平行に配設された導電性のレールで形成し,可動電極を,当該レールに接触した状態で静電チャックに取り付けられた導体性の可撓性接触子で形成した,
ことを特徴とする給電システム。」,
また,請求項2の「上記搬送機構を,搬送方向に並べられた複数の導電性のローラと,これらのローラを回転可能に支持する平行な1対のレーンとで構成し,
上記電気的接触機構の固定電極を,上記複数の導電性のローラで形成し,可動電極を,ローラと接触した状態で静電チャックと共に動く電極板で形成した,
ことを特徴とする給電システム。」,
また,請求項3の「上記固定コイルの長さを,上記静電チャックの搬送範囲にほぼ等しく設定すると共に,可動コイルを,この固定コイルに近接した状態で静電チャック基材上に取り付けた,
ことを特徴とする給電システム。」は,原査定の引用文献1-2には記載されていないし,周知技術でもない。
よって,本願発明1-4は,当業者が原査定の引用文献1-2に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第8 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-25 
出願番号 特願2014-548488(P2014-548488)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 大志  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 河合 俊英
梶尾 誠哉
発明の名称 給電システム  
代理人 塚原 孝和  

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