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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C07C
管理番号 1344303
審判番号 不服2018-1665  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-06 
確定日 2018-10-03 
事件の表示 特願2013-272836「脂環式テトラカルボン酸の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 9日出願公開、特開2015-127302、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成25年12月27日の出願であって、平成29年8月3日付けで拒絶理由が通知され、同年10月11日に意見書が提出され、同年11月6日付けで拒絶査定がされ、平成30年2月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、平成29年8月3日付け拒絶理由通知における理由1であり、その理由1の概要は、この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1:E.R.HANNA 外3名,Synthesis of Bicyclo[3.3.0]octane Derivatives,Journal of American Chemical Society,1960年,Vol.82,p.6342-6347
引用文献2:社団法人日本化学会編 第4版 実験化学講座23 有機合成V-酸化反応-,丸善,平成3年10月7日,p.1-21(上記拒絶理由通知時に引用された周知文献)
引用文献3:特開2000-355569号公報(上記拒絶査定時に引用された周知文献)
引用文献4:特開2004-141694号公報(前置報告書に引用された周知文献)

なお、引用文献2?4は、本願出願時の技術常識を示すために引用された文献である。

第3 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成30年2月6日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)に記載された事項によって特定された以下のとおりのものである。

【請求項1】
下記式[A]で表される化合物を過マンガン酸カリウム水溶液に添加して反応させたあと、カチオン系高分子凝集剤を添加した後に廃マンガンをろ別する工程を含むことを特徴とする下記式[B]で表される脂環式テトラカルボン酸の製造方法。
【化1】

【請求項2】
式[B]で表される化合物が式[2]で表されるビシクロ[3.3.0]オクタン-2-エキソ-4-エキソ-6-エンド-8-エンド-テトラカルボン酸である請求項1に記載の脂環式テトラカルボン酸の製造方法。
【化2】

【請求項3】
式[A]で表される化合物が、式[1]で表されるエキソ-エンド-テトラシクロ[4.4.1^(2,5).1^(7,10).0^(1,6)]ドデカ-3,8-ジエンである請求項1又は2に記載の脂環式テトラカルボン酸の製造方法。
【化3】


第4 引用文献の記載
1 引用文献1について
本願出願前頒布された刊行物である原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。
訳文にて示す。
(1a)「シクロペンタジエンとビシクロ[2.2.1]ヘプタジエンのジールス-アルダー付加は170℃で即座に進行し、付加物IIIが生じた。IIIaあるいはIIIbは幾何異性体であると思われる^(12)。IIIを過マンガン酸カリウムとともに酸化することで、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸(IV)が46%の収率で単結晶異性体が単離された。

」(6343頁右欄3?10行及び右欄スキーム図)

(1b)「実験の項目

ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸(IV)-
1lの水中の10gの1,4,4a,5,8,8a-ヘプタヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン(IIIa)の懸濁液は、細かく粉砕された過マンガン酸カリウム54.0gを2時間にわたって少量ずつ添加する間、急速に攪拌された。
その溶液の温度は添加している間50℃を超えなかった。さらに2時間の強制的に攪拌後、溶液は過マンガン酸の色ではなくなった。沈殿した二酸化マンガンはろ過分離され、熱水200mlで洗浄された。ろ過物と洗浄水を併せて減圧下60mlに濃縮され、30mlの濃塩酸を注意深く添加することで酸性化された。混合物は一晩そのままにし、沈殿が集められ、空気にさらして乾燥され、8.3g(46%)の粗酸を得た。水からの再結晶により白色針状の融点263-264℃(評価管)^(28)。
IVの二無水物は、IVを沸騰した酢酸無水物と処理することで調製された。アセトニトリルからの再結晶後、融点236-239.5℃の白色結晶が得られた。」(6345頁右欄6?26行)

2 引用文献2について
本願出願前頒布された刊行物である原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。
(2a)「1.1.2 実験法
a 一般的注意
一般に、酸化しようとする物質を水、アルカリ、酸、あるいはその他の適当な溶媒に溶かしておき、過マンガン酸塩の1?10%水溶液を加えるか、または粉末のまま少量ずつ加えていくかする。逆に酸化剤とアルカリを溶かしておき、これに試料溶液を滴下する方法、酸性酸化などのように酸化剤および試料を溶解したものに酸を加えてゆく方法などもある。」(14頁9?14行)

(2b)「b.反応後の処理について
反応が終わったところで、残っている過マンガン酸カリウムは、メタノール、エタノール、ホルマリン、希過酸化水素水などを加えて分解する。未反応の過マンガン酸カリウムの存在は、溶液を毛管で吸い上げ、その一滴をろ紙(審決注:「ろ」は原文ではさんずいに戸、以下同様。)の上につけて液の広がったその外輪に赤紫色が現われるかどうかによって見分けることができる(スポットテスト)。
アルカリ性および中性で酸化を行うと、反応中に褐色の二酸化マンガンが沈殿してくる。酸性酸化でも、酸が薄い場合にはこれが沈殿してくることがあり、この二酸化マンガンはしばしば微粒子となるためにろ過が困難になる場合が多い。このときは、液を温めると二酸化マンガンが凝集してろ過しやすくなる。微粒子の二酸化マンガンはろ紙を通ることがあるので注意しなければならない。酸性生成物や未反応物質などが二酸化マンガンに吸着される可能性もあるので、熱水または有機溶媒で抽出する必要がある。」(14頁下から2行?15頁11行)

3 引用文献3について
本願出願前頒布された刊行物である原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ジアルキルナフタレンを、低級脂肪族カルボン酸を含む溶媒中で重金属化合物および臭素化合物からなる触媒の存在下に、酸素含有ガスを用いて酸化してナフタレンジカルボン酸を製造するに際し、高分子凝集剤を添加することを特徴とするナフタレンジカルボン酸の製造法。
【請求項2】酸化反応生成物スラリーに高分子凝集剤を添加・混合した後、固液分離を行う請求項1に記載のナフタレンジカルボン酸の製造法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はナフタレンジカルボン酸を製造する方法に関し、詳しくはジアルキルナフタレンの酸化により生成したナフタレンジカルボン酸結晶を分離回収する方法に関する。」

(3b)「【0011】本発明は、上記の酸化反応によりナフタレンジカルボン酸を製造するに際し、高分子凝集剤を添加することを特徴とするものである。高分子凝集剤の種類によっては酸化反応器に直接添加することもできるが、酸化反応で生成したナフタレンジカルボン酸結晶を含むスラリーに、高分子凝集剤を添加・混合することが好ましい。高分子凝集剤は通常、用水・廃水中に懸濁した固体粒子に吸着、架橋してこれらを凝集させる目的で使用される水溶性高分子である。本発明で用いられる高分子凝集剤としては、公知のアニオン性、ノニオン性、カチオン性、両性高分子凝集剤を挙げることができる。例えば、アニオン性高分子凝集剤として、ポリアクリル酸ソーダ、アクリルアミド/アクリル酸ソーダ共重合物等、ノニオン性高分子凝集剤としてポリアクリルアミド、でんぷん、ゼラチン等、カチオン性高分子凝集剤としてポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物、ポリアルキルアミノアクリレートおよびメタクリレート、キトサン等、両性高分子凝集剤としてアクリルアミド/アミノアルキルアクリレート四級塩/アクリル酸共重合物等を挙げることができる。これらは、一種類を用いても良いし、二種類以上を混合して用いても良い。また、硫酸バン土やポリ塩化アルミニウム等の無機凝集剤と併用してもよい。」

(3c)「【0014】
【実施例】次に実施例によって本発明を具体的に説明する。なお本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0015】製造例
以下に示す方法により2,6-ナフタレンジカルボン酸結晶を含む酸化反応生成物スラリーを製造し、実施例および比較例に使用した。氷酢酸7kgに、酢酸コバルト・四水塩、酢酸マンガン・四水塩、47重量%臭化水素酸水溶液および水を混合し溶解させ、コバルト濃度0.40重量% 、マンガン濃度0.10重量%、臭素濃度0.40重量%、水分濃度2重量%の触媒液を調合した。撹拌機、環流冷却器を備えた内容積約3Lのチタン製反応器に、前記の触媒液1200gを仕込んだ。また、触媒液とは別の槽に純度99.7重量%の2,6-ジメチルナフタレンを仕込み、120℃以上の温度に加熱して溶融させた。窒素で反応器内の圧力を14 kg/cm^(2) G に調節し、撹拌しながら温度200℃に加熱した。温度、圧力が安定した後、2,6-ジメチルナフタレンを反応器に100g/hrの流量で供給し同時に圧縮空気を約0.2Nm^(3) /hr の流量で反応器に供給して酸化反応を開始した。2,6-ジメチルナフタレンを150g供給した時点(反応開始より90分後)より、前記の触媒液の供給を800g/hrの流量で開始し、続いて反応器内の液面が一定になるように反応生成物を常圧下にある受槽へ抜き出した。約8時間反応を継続した後、2,6-ジメチルナフタレン、触媒液、空気の供給を停止し反応を終了した。反応器内のスラリーも受槽に抜き出し、8.2kgの酸化反応生成物スラリーを得た。スラリー中の2,6-ナフタレンジカルボン酸結晶の含有量は14.6重量%であった。
【0016】実施例1
製造例で得られた酸化反応生成物スラリー140gをビーカーに採り、室温(24℃)において、160rpmで撹拌しながらアニオン性高分子凝集剤(栗田工業製 クリファームPA404)の0.1重量%水溶液7.15gを添加した(2,6-ナフタレンジカルボン酸結晶に対する凝集剤添加量0.035重量%)。160rpmで10分間撹拌し、さらに撹拌速度80rpmで15分間撹拌して凝集処理を行った。スラリー中の凝集粒子の平均粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した。凝集処理後のスラリーを5種B濾紙(直径70mm)とブフナーロートを用い、50mmHgの減圧度で吸引濾過した。20mlの濾液が得られた時点から計測を開始し、70mlの濾液が得られるまでの時間を測定した。結果を表1に示す。
【0017】実施例2?3
凝集剤にノニオン性高分子凝集剤(三井サイテック製 アコフロックN100)またはカチオン性高分子凝集剤(三洋化成製 サンフロックCE-683P)を用いた以外は、実施例1と同様にして凝集処理を行い、凝集粒子の平均粒子径および濾過時間の測定を行った。結果を表1に示す。
【0018】実施例4
アニオン性高分子凝集剤の0.4重量%水溶液15.3gを添加し、2,6-ナフタレンジカルボン酸結晶に対する凝集剤添加量を0.30重量%とした以外は、実施例1と同様にして凝集処理を行い、凝集粒子の平均粒子径および濾過時間の測定を行った。結果を表1に示す。
【0019】実施例5
アニオン性高分子凝集剤の0.4重量%水溶液20.4gを添加し、2,6-ナフタレンジカルボン酸結晶に対する凝集剤添加量を0.40重量%とした以外は、実施例1と同様にして凝集処理を行い、凝集粒子の平均粒子径および濾過時間の測定を行った。結果を表1に示す。
【0020】実施例6
製造例で得られた酸化反応生成物スラリー140gを三口フラスコに採り、環流冷却下、100℃に加熱した。160rpmで撹拌しながらアニオン性高分子凝集剤(栗田工業製 クリファームPA404)の0.1重量%水溶液7.15gを添加した(2,6-ナフタレンジカルボン酸結晶に対する凝集剤添加量0.035重量%)。160rpmで10分間撹拌し、さらに撹拌速度110rpmで15分間撹拌して凝集処理を行った。実施例1と同様の方法で凝集粒子の平均粒子径および濾過時間の測定を行った。なお、濾過は、100℃に加熱した凝集反応後のスラリーを冷却せずに100℃のままブフナーロートに流し込んで行った。結果を表1に示す。
【0021】実施例7?8
凝集剤にノニオン性高分子凝集剤(三井サイテック製 アコフロックN100)またはカチオン性高分子凝集剤(三洋化成製 サンフロックCE-683P)を用いた以外は、実施例6と同様にして100℃において凝集処理を行い、凝集粒子の平均粒子径および濾過時間の測定を行った。結果を表1に示す。
【0022】比較例1
実施例1において、凝集剤を用いた凝集処理を行わずに、スラリー中の粒子の平均粒子径および濾過時間の測定を行った。結果を表1に示す。
【0023】比較例2
製造例で得られた酸化反応生成物スラリー140gを三口フラスコに採り、環流冷却下、100℃に加熱した。凝集剤を添加せずに、実施例5と同様にスラリー中の粒子の平均粒子径および濾過時間の測定を行った。結果を表1に示す。
【0024】
(表1)
凝集剤 添加量 凝集処理 凝集体平均 濾過時間
(重量%) 温度 (℃) 粒径 (μm) (秒)
実施例1 アニオン 0.035 24 89 104
実施例2 ノニオン 0.035 24 80 149
実施例3 カチオン 0.035 24 77 154
実施例4 アニオン 0.30 24 113 87
実施例5 アニオン 0.40 24 111 90
実施例6 アニオン 0.035 100 82 17
実施例7 ノニオン 0.035 100 77 22
実施例8 カチオン 0.035 100 74 26
比較例1 - - 24 14 403
比較例2 - - 100 15 70」

4 引用文献4について
本願出願前頒布された刊行物である上記引用文献4には、次の事項が記載されている。
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素含有水素化触媒存在下における水素化反応で得られた水素化反応混合物を水と接触させる工程(1)、水素化物と水とを分離する工程(2)、及び前記工程(2)で分離された水に凝集剤を加えることにより、該水中に存在する白金族元素含有水素化触媒を析出又は凝集させて回収する工程(3)、を含む水素化触媒回収方法。
【請求項2】
前記工程(2)で分離された水中の白金族元素含有水素化触媒の含有量が、白金族元素の濃度に換算した値で10ppm以下である請求項1記載の水素化触媒回収方法。
【請求項3】
前記水素化反応の対象物が、共役ジエン系重合体である請求項1又は2記載の水素化触媒回収方法。
【請求項4】
凝集剤が硫酸金属塩である請求項1乃至3のいずれかに記載の水素化触媒回収方法。
【請求項5】
凝集剤が、硫酸アルミニウム、含鉄硫酸アルミニウム及び硫酸鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至4のいずれかに記載の水素化触媒回収方法。
【請求項6】
硫酸金属塩を加えた後、さらに高分子凝集剤を加えて白金族元素含有水素化触媒を析出又は凝集させる請求項4又は5記載の水素化触媒回収方法。
【請求項7】
凝集剤を加えた水のpHを5?9に調整して白金族元素含有水素化触媒を析出又は凝集させる請求項1乃至6いずれかに記載の水素化触媒回収方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機化合物の水素化反応に使用した水素化触媒の回収方法に関し、さらに詳しくは、白金族元素含有水素化触媒の存在下における有機化合物の水素化反応に使用した水素化触媒回収方法に関する。」

(4b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、有機化合物、特に重合体の炭素-炭素不飽和結合の水
素化反応を行った後、使用した白金族元素含有水素化触媒を反応混合物から効率よく分離回収する方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、共役ジエン系重合体の有機溶媒溶液での水素化反応につき鋭意研究を重ねた結果、水素化反応混合物を凝固剤を含む水と接触させて得られる、白金族元素含有水素化触媒を数ppmレベルの微量含む排水(セラム水)に、硫酸第一鉄などの凝集剤を加えると、該触媒が析出又は凝集して沈降し、沈降分離や遠心分離で容易に回収できることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。」

(4c)「【0032】
有機凝集剤としては、高分子凝集剤が通常用いられる。高分子凝集剤としては、陰イオン性ポリマー、陽イオン性ポリマー、非イオン性ポリマーなどが挙げられる。陰イオン性ポリマーとしては、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミドの部分加水分解塩、ポリアクリル酸のマレイン酸共重合物などが挙げられる。陽イオン性ポリマーとしては、水溶性アニリン樹脂、ポリチオ尿素、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジンなどが挙げられる。非イオン性ポリマーとしては、ポリアクリルアミド、ポリオキシエチレンなどが挙げられる。」

第5 引用文献1に記載された発明
前記摘記(1a)には、スキーム図とともに、シクロペンタジエンとビシクロ[2.2.1]ヘプタジエンのジールス-アルダー付加は170℃で即座に進行し、幾何異性体であるIIIaあるいはIIIb付加物のIIIが生じたこと、IIIを過マンガン酸カリウムとともに酸化することで、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸(IV)を生じることが記載され、前記摘記(1b)には、実験項に、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸(IV)の製造方法として、1lの水中の10gの1,4,4a,5,8,8a-ヘプタヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン(IIIa)の懸濁液に、細かく粉砕された過マンガン酸カリウム54.0gを2時間にわたって少量ずつ添加する間、急速に攪拌し、さらに2時間の強制的に攪拌後、沈殿した二酸化マンガンをろ過分離し、熱水200mlで洗浄し、ろ過物と洗浄水を併せて減圧下60mlに濃縮し、30mlの濃塩酸を注意深く添加することで酸性し、混合物を一晩そのままにし、沈殿を集め、空気にさらして乾燥し、8.3g(46%)の粗酸を得、水からの再結晶により白色針状の融点263-264℃のビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸(IV)を得たことが記載されているので、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「1,4,4a,5,8,8a-ヘプタヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン(IIIa)の水懸濁液に、細かく粉砕された過マンガン酸カリウムを少量ずつ添加する間、急速に攪拌し、さらに強制的に攪拌後、沈殿した二酸化マンガンをろ過分離し、熱水で洗浄し、ろ過物と洗浄水を併せて減圧下濃縮し、濃塩酸を注意深く添加することで酸性し、混合物を一晩そのままにし、沈殿を厚め、空気にさらして乾燥し、粗酸を得、水からの再結晶により白色針状のビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸(IV)を得る方法」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比・判断
ア 対比
引用発明の「1,4,4a,5,8,8a-ヘプタヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン(IIIa)」は、本願発明1の「下記式[A]で表される化合物」に該当することは明らかであり、引用発明の「ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸(IV)」は本願発明1の「下記式[B]で表される脂環式テトラカルボン酸」である。
また、引用発明の「ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸(IV)を得る方法」は、本願発明1の「下記式[B]で表される脂環式テトラカルボン酸の製造方法」に相当し、引用発明の「1,4,4a,5,8,8a-ヘプタヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン(IIIa)の水懸濁液に、細かく粉砕された過マンガン酸カリウムを少量ずつ添加する間、急速に攪拌し、さらに強制的に攪拌後、沈殿した二酸化マンガンをろ過分離」する工程は、本願発明1の「下記式[A]で表される化合物を過マンガン酸カリウム水溶液に添加して反応させたあと、カチオン系高分子凝集剤を添加した後に廃マンガンをろ別する工程」と、「過マンガン酸カリウム」を用いて「反応させたあと、」「廃マンガンをろ別する工程」である限りにおいて一致している。
したがって、本願発明1と引用発明とは、

「下記式[A]で表される化合物を過マンガン酸カリウムを用いて反応させたあと、廃マンガンをろ別する工程を含む下記式[B]で表される脂環式テトラカルボン酸の製造方法。

」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:式[A]で表される化合物を過マンガン酸カリウムと反応させる態様として、本願発明1では、下記式[A]で表される化合物を過マンガン酸カリウム水溶液に添加して反応させているのに対して、引用発明では、1,4,4a,5,8,8a-ヘプタヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン(IIIa)の水懸濁液に、細かく粉砕された過マンガン酸カリウムを少量ずつ添加する間、急速に攪拌し、さらに強制的に攪拌して反応させている点

相違点2:本願発明1では、反応させたあと、カチオン系高分子凝集剤を添加した後に廃マンガンをろ別しているのに対して、引用発明では、反応させたあと、沈殿した二酸化マンガンをろ過分離する前に、カチオン系高分子凝集剤を添加していない点

イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、相違点2から検討する。

a 引用文献1には、ビシクロ[3.3.0]オクタン誘導体の合成というタイトルの論文であって、上述のとおり、シクロペンタジエンとビシクロ[2.2.1]ヘプタジエンのジールス-アルダー付加反応によって付加物IIIaあるいはIIIbを生じたこと、および、IIIを過マンガン酸カリウムとともに酸化することで、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸(IV)を生じたこともスキームとして示されている(前記摘記(1a))。
そして、具体的実験項においては、1,4,4a,5,8,8a-ヘプタヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン(IIIa)を過マンガン酸カリウムを用いてビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸(IV)を合成したことが記載されている(前記摘記(1b))。
しかしながら、引用文献1には、相違点2に係る酸化反応後の廃マンガン、つまり二酸化マンガンのろ過に関して、特段の前工程を設けたことは記載されておらず、本願発明1のように、カチオン系高分子凝集剤を添加した後に廃マンガンをろ別することに関しては、記載も示唆もされていない。ビシクロ[3.3.0]オクタン誘導体の合成に関して合成の経路等を検討している論文中に記載された引用発明において、廃マンガンをろ別の前にカチオン系高分子凝集剤を添加する工程を設ける特段の動機付けはなく、引用発明において、カチオン系高分子凝集剤を添加した後に廃マンガンをろ別するように方法を変更して相違点2の構成をなすことは当業者といえども容易に想到することはできないといえる。

b また、引用文献2は、前記摘記(2b)の「反応後の処理について
反応が終わったところで、残っている過マンガン酸カリウムは、メタノール、エタノール、ホルマリン、希過酸化水素水などを加えて分解する。未反応の過マンガン酸カリウムの存在は、溶液を毛管で吸い上げ、その一滴をろ紙の上につけて液の広がったその外輪に赤紫色が現われるかどうかによって見分けることができる(スポットテスト)。
アルカリ性および中性で酸化を行うと、反応中に褐色の二酸化マンガンが沈殿してくる。酸性酸化でも、酸が薄い場合にはこれが沈殿してくることがあり、この二酸化マンガンはしばしば微粒子となるためにろ過が困難になる場合が多い。このときは、液を温めると二酸化マンガンが凝集してろ過しやすくなる。微粒子の二酸化マンガンはろ紙を通ることがあるので注意しなければならない。酸性生成物や未反応物質などが二酸化マンガンに吸着される可能性もあるので、熱水または有機溶媒で抽出する必要がある。」(下線は当審にて追加。以下同様。)のとおり、過マンガン酸カリウムの酸化反応後の処理として、メタノール等による分解や、液を温めることや、二酸化マンガンに吸着した酸性生成物や未反応物質などを熱水または有機溶媒で抽出することが記載されているだけで、カチオン系高分子凝集剤を添加することに関して記載も示唆もされてはいない。

c さらに、引用文献3には、前記摘記(3a)?(3c)に記載されるとおり、カチオン系のものも含めて高分子凝集剤を用いるナフタレンジカルボン酸の製造法に関する技術的事項が開示されているが、あくまでも、「【請求項1】ジアルキルナフタレンを、低級脂肪族カルボン酸を含む溶媒中で重金属化合物および臭素化合物からなる触媒の存在下に、酸素含有ガスを用いて酸化してナフタレンジカルボン酸を製造するに際し、高分子凝集剤を添加することを特徴とするナフタレンジカルボン酸の製造法。」(摘記(3a))と記載されるとおり、反応対象物も、酸化剤自体も異なる反応に関するものであり、「【0001】【産業上の利用分野】本発明はナフタレンジカルボン酸を製造する方法に関し、詳しくはジアルキルナフタレンの酸化により生成したナフタレンジカルボン酸結晶を分離回収する方法に関する。」(摘記(3a))と記載されるとおり、分離の対象も廃マンガンではなく、反応生成物を分離するものである。
したがって、たまたま、反応対象物、反応生成物、酸化剤、分離対象物が異なる反応において、高分子凝集剤を添加して分離回収することが記載されているからといって、引用発明の1,4,4a,5,8,8a-ヘプタヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン(IIIa)の水懸濁液に、細かく粉砕された過マンガン酸カリウムを少量ずつ添加し、沈殿した二酸化マンガンをろ過分離する前に、カチオン系高分子凝集剤を使用することの動機付けとはならない。

d そして、引用文献4は、前記摘記(4a)?(4c)のとおり、カチオン系のものも含めて高分子凝集剤を用いる技術が開示されてはいるが、そもそも、「有機化合物の水素化反応に使用した水素化触媒の回収方法に関し、さらに詳しくは、白金族元素含有水素化触媒の存在下における有機化合物の水素化反応に使用した水素化触媒回収方法に関する」((4a))と記載されるように、対象反応も回収対象も回収態様も異なるものであり、このような技術に、高分子凝集剤が使用されているからといって、引用発明の1,4,4a,5,8,8a-ヘプタヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン(IIIa)の水懸濁液に、細かく粉砕された過マンガン酸カリウムを少量ずつ添加し、沈殿した二酸化マンガンをろ過分離する前に、カチオン系高分子凝集剤を使用することの動機付けとはならない。

e したがって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者といえども、引用発明1及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?3について

本願発明2は、本願発明1を引用して、式[B]で表される化合物の幾何異性体構造をさらに特定した発明であり、本願発明3は、本願発明1を引用して、式[A]で表される化合物の幾何異性体構造をさらに特定した発明である。

このように、本願発明2、3は本願発明1を引用した上で、さらに技術的に限定した発明であるから、本願発明1の下記式[B]で表される脂環式テトラカルボン酸の製造方法の発明の発明特定事項を備えており、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1?3は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-20 
出願番号 特願2013-272836(P2013-272836)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C07C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 瀬良 聡機
瀬下 浩一
発明の名称 脂環式テトラカルボン酸の製造方法  
代理人 栗原 浩之  
代理人 山▲崎▼ 雄一郎  

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