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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F01M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01M
管理番号 1344344
審判番号 不服2017-8139  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-06 
確定日 2018-10-09 
事件の表示 特願2016-521720「構造的オイルパン」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月16日国際公開、WO2015/054401、平成28年12月22日国内公表、特表2016-540146、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)10月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年10月8日 (US)アメリカ合衆国、2013年10月8日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年6月7日 :手続補正書の提出
平成28年8月26日付け:拒絶理由通知書
平成28年12月5日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年1月27日付け:拒絶査定
平成29年6月6日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成29年9月28日 :上申書の提出
平成30年2月28日付け:拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由通知」という。)
平成30年7月3日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成29年1月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし5に係る発明は、引用文献A及びBに記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項8ないし11に係る発明は、引用文献A及びBに記載された発明及び引用文献Cに記載された周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献A:米国特許出願公開第2012/0090573号明細書(本審決における引用例1)
引用文献B:欧州特許出願公開第1498598号明細書(同引用例4)
引用文献C:特表2006-500498号公報(同引用例3)

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1 特許法第29条第2項について
本願の請求項1ないし5及び8ないし13に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、又は、引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:米国特許出願公開第2012/0090573号明細書(本審決における引用例1)
引用文献2:米国特許第8113167号明細書 (同引用例2)
引用文献3:特表2006-500498号公報(同引用例3)

2 特許法第36条第6項第1号について
(1)請求項1に記載された「単一部材のブラケット部分は構造的オイルパンの少なくとも半分を包囲して」いるとの事項は、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。

(2)ポリマ材料は第1のポリマ材料と第1のポリマ材料とは異なる第2のポリマ材料として規定され、単一部材のブラケット部分は第1のポリマ材料を含み、パン部分は第2のポリマ材料を含む、車両用の構造的オイルパンについて、構造的オイルパン全体を一回のステップで成形することは、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。

よって、請求項1ないし13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

3 特許法第36条第6項第2号について
(1)「単一部材のブラケット部分」が「構造的オイルパン」と一体化するという構成がどのような構成を意味するのかが不明瞭である。

(2)請求項1の「構造的オイルパンの少なくとも半分」の意味が不明瞭である。

(3)請求項8、9及び11に記載された「前記壁」が、何を示すのかが不明瞭である。

(4)請求項12に記載された「ステップ」が、何を意味するのかが不明瞭である。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、平成30年7月3日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
車両用の構造的オイルパンであって、該構造的オイルパンはポリマ材料から形成されており、
車両に取り付けるように構成された構造的オイルパンの単一部材のブラケット部分と、
該単一部材のブラケット部分と一体化された、オイルリザーバを形成したパン部分と、
振動を減じるために前記単一部材のブラケット部分および前記パン部分のうちの少なくとも一方の内部に1つのキャビティを形成している構造的セクションと、を備え、
単一部材のブラケット部分は構造的オイルパンを部分的に包囲しており、
前記ポリマ材料はさらに第1のポリマ材料と該第1のポリマ材料とは異なる第2のポリマ材料として規定され、前記単一部材のブラケット部分は前記第1のポリマ材料を含み、前記パン部分は前記第2のポリマ材料を含み、
前記第1のポリマ材料は、ポリアミド6および炭素繊維を含み、
前記第2のポリマ材料は、ポリアミド6およびガラス繊維を含むことを特徴とする、車両用の構造的オイルパン。
【請求項2】
前記構造的セクションは、前記キャビティが前記単一部材のブラケット部分内に形成されるように前記単一部材のブラケット部分に配置されている、請求項1記載の構造的オイルパン。
【請求項3】
前記構造的セクションは、前記キャビティが前記パン部分内に形成されるように前記パン部分に配置されている、請求項1記載の構造的オイルパン。
【請求項4】
前記構造的セクションは、矩形、三角形、卵形および円形のグループから選択された横断面形状を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の構造的オイルパン。
【請求項5】
前記ポリマ材料は、ポリアミド、および/または炭素、ガラス、およびそれらの組み合わせのグループから選択された繊維を含む補強剤を含む、請求項1から4までのいずれか1項記載の構造的オイルパン。
【請求項6】
前記第2のポリマ材料は、ISO試験方法179/1eAに従って試験されたときに、23℃において15KJ/m^(2)よりも大きく、-40℃において10KJ/m^(2)よりも大きいアイゾッドノッチ付衝撃強さを有する、請求項1記載の構造的オイルパン。
【請求項7】
前記パン部分は、
床であって、内面と、外面と、第1の床端部と、第2の床端部とを有し、該第2の床端部は前記第1の床端部とは反対側に位置する、床と、
前壁であって、内面と、外面とを有し、前記床の前記第1の床端部から外方へ延びる前壁と、
後壁であって、内面と、外面とを有し、前記前壁とほぼ同じ方向に前記床の前記第2の床端部から外方へ延びる後壁と、
一対の側壁であって、各側壁は、内面と、外面とを有し、前記前壁および前記後壁とほぼ同じ方向に前記床から外方へ延びており、前記側壁は互いに実質的に平行に延びておりかつ前記前壁および前記後壁に対して実質的に垂直に接続されている、一対の側壁と、を備え、
前記床の前記内面と、前記前壁と、前記後壁と、前記側壁とは、前記オイルリザーバを形成している、請求項1から6までのいずれか1項記載の構造的オイルパン。
【請求項8】
前記構造的セクションは、前記パン部分の前記前壁、前記後壁及び前記側壁のうちの少なくとも1つに配置されている、請求項7記載の構造的オイルパン。
【請求項9】
前記単一部材のブラケット部分は、前記パン部分の前記側壁および前記後壁と一体化されている、請求項7記載の構造的オイルパン。
【請求項10】
前記構造的セクションは、前記パン部分の前記前壁、前記後壁及び前記側壁のうちの少なくとも1つの壁の前記外面に隣接して前記単一部材のブラケット部分に配置されている、請求項9記載の構造的オイルパン。
【請求項11】
構造的オイルパン全体をポリマ材料の二回の噴射による二回のステップで成形するプロセスを利用する、請求項1から10までのいずれか1項記載の構造的オイルパンを形成する方法。
【請求項12】
前記構造的セクションは、前記パン部分の前記両側壁の前記外面および前記後壁の前記外面に隣接して前記単一部材のブラケット部分に配置されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の構造的オイルパン。」
(下線は、請求人による補正箇所を示す。)

第5 引用例、引用発明、引用技術
1 引用例1について
原査定の拒絶理由及び当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された米国特許出願公開第2012/0090573号明細書(以下「引用例1」という。)には、「オイルサンプ」に関して、図面(特に、FIGURE 1及びFIGURE 2参照。)とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

ア 「[0001] The present invention relates to an oil sump, in particular an oil sump of an internal combustion engine for driving a motor vehicle.」
(当審仮訳:[0001]本発明はオイルサンプ、特に車両を駆動する内燃機関のオイルサンプに関する。)

イ 「[0011] In a preferred embodiment, the oil sump consists of two thermoplastic parts, i.e. of the lower thermoplastic part and the upper thermoplastic part.」
(当審仮訳:[0011]好ましい実施形態では、オイルサンプは、2つの熱可塑性プラスチック部品、すなわち下部熱可塑性プラスチック部品と上部熱可塑性プラスチック部品から構成されている。)

ウ 「[0014] The oil sump is preferably produced from polyamide. The polyamide is preferably polyamide 6 or polyamide 6,6 or a blend thereof. The oil sump is preferably produced from reinforced polyamide. Reinforcing is preferably effected by using glass fibres in a reinforcing amount, e.g., in an amount of from 5 percent by weight to 60 percent by weight, based on the total weight of the oil sump.
[0015] The oil sump of the present invention is in general a part of an oil sump assembly. Preferably, the oil sump assembly further contains (a) an engine block, (b) a gearbox or a coupling, and (c) a support bracket that is attached to the gearbox or to the coupling and to the engine block. Preferably, the bracket consists of one part. As used herein, one part may also include different parts that are attached to each other thereby forming one structural part. The use of such an oil sump assembly results in that mechanical failure of the engine is reduced or even prevented. An additional advantage of the use of such oil sump assembly is that stresses in the plastic material of the oil sump are reduced or even prevented, resulting in less oil leakage and/or in reduced chance of failure of the thermoplastic oil sump.」
(当審仮訳:[0014] オイルサンプは、ポリアミドから製造されるのが好ましい。ポリアミドは、ポリアミド6またはポリアミド6,6、又はそれらの混合物であることが好ましい。オイルサンプは、強化ポリアミドから製造されるのが好ましい。補強は、例えば、オイルサンプの総重量に対して、5重量パーセントから60重量パーセントの量のガラス繊維を使用して行われる。
[0015] 本発明のオイルサンプは、オイルサンプアッセンブリーの一部である。好ましくは、オイルサンプアッセンブリーはさらに、(a)エンジンブロック、(b)ギアボックス又はカップリング、及び(c)ギヤボックス又はカップリングと、エンジンブロックに取り付けられたサポートブラケットを含む。好ましくは、ブラケットは単一部品から構成されている。本発明で使用される場合、単一部品は相互に結合された異なる部分を含み、単一構造体を形成する。このようなオイルサンプアッセンブリーの使用は、エンジンの機械的な故障の低減または防止をもたらす。このようなオイルサンプアッセンブリーの使用のさらなる利点は、オイルサンプのプラスチック材料内の応力の低減又は防止、さらには、オイル漏れが少なく、及び/又は熱可塑性オイルサンプの故障の低減をもたらすことである。)

エ 「[0017] The support bracket is attached to the gearbox or the coupling and to the engine block. Preferably, the support bracket surrounds a part of the oil sump. The oil sump is preferably attached to the support bracket prior to attaching the support bracket to the gearbox or to the coupling and to the engine block. This is advantageous as this results in easier assembling of the oil sump assembly. Preferably, the attaching is effecting by assembling. The assembling is preferably effected using screws or more preferably using snaps. The latter is advantageous as using snaps results in easier assembling and in that fewer parts are needed for assembling.」
(当審仮訳:[0017] サポートブラケットは、ギアボックス又はカップリング、及びエンジンブロックに取り付けられている。好ましくは、サポートブラケットは、オイルサンプを部分的に包囲している。オイルサンプは、サポートブラケットをギアボックス又はカップリング、及びエンジンブロックに取り付ける前に、サポートブラケットに取り付けられることが好ましい。これは、オイルサンプアッセンブリーの組み立てが容易となる点で有利である。これはアッセンブリー化によって達成される。組み立ては、ねじを用いて、又はより好ましくは、留め具を用いて行われることが好ましい。後者は、留め具を用いて組み立てが容易であり、組み立てに必要な部品数が少なく有利である。)

オ 「[0018] The thermoplastic oil sump has the function of an oil reservoir and is at the same time a structural part of the oil sump assembly.」(明細書第2ページ左欄第26行ないし第28行)
(当審仮訳:[0018] 熱可塑性プラスチックのオイルサンプは、オイルリザーバの機能を有し、オイルサンプアッセンブリーの構造的な部分である。

カ 「[0019] The support bracket may be produced from a material selected from metal, thermoset plastic material, thermoplastic material and combinations thereof. In a preferred embodiment, the support bracket is produced from metal. Metal from which the support bracket may be produced include, but are not limited to, ferrous alloys, aluminum alloys and titanium alloys. Preferably, the support bracket consists of aluminum as the use of aluminum is advantageous in view of weight and stiffness.」
(当審仮訳:[0019] サポートブラケットは、金属材料、熱硬化性プラスチック材料、熱可塑性プラスチック材料及びそれらの組合せから選択された材料から製造することができる。好ましい実施形態では、サポートブラケットは、金属材料から製造される。サポートブラケットを製造することができる金属材料は、限定されないが、鉄合金、アルミニウム合金及びチタン合金を含む。好ましくは、アルミニウムの使用は重量および剛性の点で有利であり、サポートブラケットはアルミニウムからなる。)

キ 上記エ及びFIGURE 1の図示内容からみて、サポートブラケットをギアボックス又はカップリング、及びエンジンブロックに取り付ける前に、オイルサンプ及びサポートブラケットからなる組立体が構成されることが分かる。

ク 上記イには、オイルサンプはポリマ材料である熱可塑性プラスチック材料から形成されることが記載されており、上記カには、サポートブラケットを製造する材料として、ポリマ材料である熱硬化性プラスチック材料が記載されており、オイルサンプを形成するポリマ材料である熱可塑性プラスチック材料と、サポートブラケットを製造するポリマ材料である熱硬化性プラスチック材料とは、異なる材料であることは明らかである。

上記アないしク並びにFIGURE 1及びFIGURE 2の図示内容を総合すると、引用例1には、「オイルサンプ及びサポートブラケットからなる組立体」に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「車両用のオイルサンプ及びサポートブラケットからなる組立体であって、該組立体はポリマ材料から形成されており、
ギアボックス又はカップリング、及びエンジンブロックに取り付けるように構成された前記組立体の単一構造体のサポートブラケットと、
該単一構造体のサポートブラケットにねじ又は留め具を用いて取り付けられた、オイルリザーバの機能を有したオイルサンプと、を備え
単一構造体のサポートブラケットは前記組立体を部分的に包囲しており、
前記ポリマ材料はさらに熱硬化性プラスチック材料と該熱硬化性プラスチック材料とは異なる熱可塑性プラスチック材料として規定され、前記単一構造体のサポートブラケットは前記熱硬化性プラスチック材料を含み、前記オイルサンプは前記熱可塑性プラスチック材料を含み、
前記熱可塑性プラスチック材料は、ポリアミド6およびガラス繊維を含む、車両用のオイルサンプ及びサポートブラケットからなる組立体。」

2 引用例2について
当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された米国特許第8113167号明細書(以下「引用例2」という。)には、「オイルパン」に関して、図面(特にFig.6参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「This disclosure relates to an oil pan for an internal combustion engine and, more particularly, to an oil pan of plastic material including an oil suction pipe and an oil screen that are formed as one piece.」(明細書第1欄第15行ないし第18行)
(当審仮訳:本開示は、内燃機関のオイルパンに関し、より詳細には、単一部品として形成されるオイル吸上管とオイルスクリーンを含むプラスチック材料からなるオイルパンに関する。)

イ 上記ア及びFig.6の図示内容からみて、オイルパンの壁部に空洞を設けることが分かる。

上記ア及びイ並びにFig.6の図示内容を総合すると、引用例2には、次の技術(以下「引用技術2」という。)が記載されている。

〔引用技術2〕
「オイルパンの壁部に空洞を設ける技術。」

3 引用例3について
原査定の拒絶理由及び当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特表2006-500498号公報(以下「引用例3」という。)には、「油受」に関して、図面(特に、図1ないし図3並びに図7及び図8参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0018】
支持構造体12を製造できる熱硬化性プラスチック材料及び/又は熱可塑性材料は、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ポリアミド繊維及びそれらの混合物から選択された材料により適宜に強化し得る。熟練技術者には公知のように、これらの補強用繊維、特にガラス繊維は、これらの繊維を取り入れるプラスチックに対する混和性及び/又は接着性を改善するために、それらの表面にサイジングをし得る。本発明の補強用材料としては、ガラス繊維が好ましい。使用される場合には、補強材料、例えば、ガラス繊維は、一般に、支持構造体12の熱硬化性プラスチック材料及び/又は熱可塑性材料中において、支持構造体12の総重量に基づいて、例えば、5?60重量%の補強量にて存在する。
【0019】
油受2のシェル11のプラスチック材料は、熱硬化性プラスチック材料、熱可塑性材料及びそれらの組合わせから選ぶことができる。シェル11を製造できる熱硬化性プラスチック材料としては、上述したもの、例えば、架橋ポリウレタンが挙げられる。本発明の好ましい実施態様では、シェル11のプラスチックは、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリウレア、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリカーボネート、熱可塑性ポリスルホン、熱可塑性ポリケトン、熱可塑性ポリプロピレン、熱可塑性アクリロニトリルブタジエンスチレン及びそれらの混合物又はそれらの1以上を含有した熱可塑性組成物から選ばれた熱可塑性材料である。シェル11を製造できる好ましい熱可塑性材料は、熱可塑性ポリアミド、例えば、Bayer Corporationから市販されているDURETHAN熱可塑性ポリアミドである。
【0020】
油受2のシェル11は、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ポリアミド繊維及びそれらの混合物から選択された材料により適宜に強化し得る。上述したように、補強用繊維は、補強リブのプラスチック材料中に取り入れる前に、例えば、サイジングにより表面処理を施し得る。本発明のシェル11に用いるのに好ましい補強用材料は、ガラス繊維である。使用される場合には、補強材料、例えば、ガラス繊維は、一般に、シェル11の熱硬化性プラスチック材料及び/又は熱可塑性材料中において、シェル11の総重量に基づいて、例えば、5?60重量%の補強量にて存在する。」

イ 「【0032】
シェル11は、支持シェル14中の穿孔20のうちの少なくともいくつかを通って延びるプラスチック材料によって、支持構造体12に固定して取り付けられ、該プラスチック材料が、穿孔20を通って延びるプラスチック材料中に穿孔20のエッジを埋め込む。図7では、取付要素6は、支持シェル14の底部29の外面91に接した側壁41の一部を含む。側壁41のプラスチック材料の一部は、穿孔20を通って延び、取付頭部27に続き、それを通って延びるプラスチック材料中に穿孔20のエッジ65を埋め込む。取付頭部27は、支持シェル14の底部29の内面94上に延び出ており、かつそれに接する。取付頭部27(図1?3中には図示せず)は、任意の所望の形状、例えば、円筒状、丸い形状又は平らな形状とし得る。支持シェル14の穿孔20は、任意の所望の構成、例えば、円形、正方形、長方形、楕円又はスロット形状とし得る。
【0033】
図8には、シェル11のプラスチック材料と支持シェル14の補強リブ17とに連続した取付要素7が示される。図8では、側壁41のプラスチック材料が、支持シェル14の底部29の外面91に対して接し、穿孔20を通って延び、補強リブ17に連続している。穿孔20のエッジ65は、該穿孔を通って延びるプラスチック材料中に埋め込まれている。穿孔20の周りの領域における補強リブ17の一部は、底部29の内面94に接している。
【0034】
(例えば、図7及び8に関して説明したように)シェル11を支持シェル14に取り付けるために、支持シェル14の穿孔20を通ってシェル11のプラスチック材料が延びるが、この支持シェル14の穿孔20は、適宜に変形エッジ部分を有し得る。このような変形エッジ部分は、図4及び5に関して上述したように、支持シェル14への補強リブ17の取付において適宜用いることができるものと同様のものとして説明できる。
【0035】
本発明の油受2は、支持構造体12を型の中に配置し、シェル11のプラスチック(熱可塑性及び/又は熱硬化性)材料を支持構造体12上に成形することにより形成される。上述したように、本発明の一実施態様では、シェル11のプラスチック材料が支持シェル14の外面の少なくとも一部上に成形される一方で、補強リブ17のプラスチック材料が支持シェル14の内面上に同時に成形される。」

上記ア及びイ並びに図1ないし図3、図7及び図8の図示内容を総合すると、引用例3には、次の2つの技術(以下、それぞれ「引用技術3A」、「引用技術3B」という。)が記載されている。

〔引用技術3A〕
「支持構造体12を型の中に配置し、シェル11のプラスチック(熱可塑性及び/又は熱硬化性)材料を支持構造体12上に成形することにより、油受2を形成する技術。」

〔引用技術3B〕
「油受2の支持構造体12を製造する熱硬化性プラスチック材料及び/又は熱可塑性材料を、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ポリアミド繊維及びそれらの混合物から選択された補強用材料、好ましくはガラス繊維により強化するとともに、油受2のシェル11を製造する熱硬化性プラスチック材料、熱可塑性材料及びそれらの組合わせから選択された材料を、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ポリアミド繊維及びそれらの混合物から選択された補強用材料、好ましくはガラス繊維により強化する技術。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「車両」及び「ギアボックス又はカップリング、及びエンジンブロック」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明1における「車両」に相当し、以下同様に、「オイルサンプ及びサポートブラケットからなる組立体」は「構造的オイルパン」に、「ポリマ材料」は「ポリマ材料」に、「単一構造体」は「単一部材」に、「サポートブラケット」は「ブラケット部分」に、「オイルリザーバの機能を有したオイルサンプ」は「オイルリザーバを形成したパン部分」に、「熱硬化性プラスチック材料」は「第1のポリマ材料」に、「熱可塑性プラスチック材料」は「第2のポリマ材料」に、「ポリアミド6」は「ポリアミド6」に、「ガラス繊維」は「ガラス繊維」にそれぞれ相当する。
また、引用発明における「単一構造体のサポートブラケットにねじ又は留め具を用いて取り付けられた、オイルリザーバの機能を有したオイルサンプ」と本願発明1における「単一部材のブラケット部分と一体化された、オイルリザーバを形成したパン部分」とは、「単一部材のブラケット部分と結合した、オイルリザーバを形成したパン部分」という限りで共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点がある。

〔一致点〕
「車両用の構造的オイルパンであって、該構造的オイルパンはポリマ材料から形成されており、
車両に取り付けるように構成された構造的オイルパンの単一部材のブラケット部分と、
該単一部材のブラケット部分と結合した、オイルリザーバを形成したパン部分と、を備え、
単一部材のブラケット部分は構造的オイルパンを部分的に包囲しており、
前記ポリマ材料はさらに第1のポリマ材料と該第1のポリマ材料とは異なる第2のポリマ材料として規定され、前記単一部材のブラケット部分は前記第1のポリマ材料を含み、前記パン部分は前記第2のポリマ材料を含み、
前記第2のポリマ材料は、ポリアミド6およびガラス繊維を含む、車両用の構造的オイルパン。」

〔相違点1〕
「単一部材のブラケット部分と結合した、オイルリザーバを形成したパン部分」に関して、
本願発明1においては、単一部材のブラケット部分「と一体化された」、オイルリザーバを形成したパン部分であるのに対し、
引用発明においては、単一構造体のサポートブラケット「にねじ又は留め具を用いて取り付けられた」、オイルリザーバの機能を有したオイルサンプである点。

〔相違点2〕
本願発明1においては、「振動を減じるために前記単一部材のブラケット部分および前記パン部分のうちの少なくとも一方の内部に1つのキャビティを形成している構造的セクション」を備えるのに対し、
引用発明においては、かかる事項を備えるか不明である点。

〔相違点3〕
本願発明1においては、「第1のポリマ材料は、ポリアミド6および炭素繊維を含み」、第2のポリマ材料は、ポリアミド6およびガラス繊維を含むのに対し、
引用発明においては、熱可塑性プラスチック材料は、ポリアミド6およびガラス繊維を含むものの、熱硬化性プラスチック材料が、ポリアミド6および炭素繊維を含むか不明である点。

(2)判断
事案に鑑みて、上記相違点3を先に検討する。
引用技術3Bは、「油受2の支持構造体12を製造する熱硬化性プラスチック材料及び/又は熱可塑性材料を、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ポリアミド繊維及びそれらの混合物から選択された補強用材料、好ましくはガラス繊維により強化するとともに、油受2のシェル11を製造する熱硬化性プラスチック材料、熱可塑性材料及びそれらの組合わせから選択された材料を、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ポリアミド繊維及びそれらの混合物から選択された補強用材料、好ましくはガラス繊維により強化する技術」であるものの、引用例3には、支持構造体12がポリアミド6と炭素繊維との組合わせからなることを開示又は示唆する記載はない。
そうすると、引用技術3Bは上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を開示又は示唆するものではないから、引用発明及び引用技術3Bに基いて、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
また、引用技術2、引用技術3A及び欧州特許出願公開第1498598号明細書(以下「引用例4」という。なお、原査定の拒絶理由に引用された引用文献Bである。)も、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を開示又は示唆するものではないから、引用発明に、引用技術2、引用技術3A及び引用例4に記載された事項を適用しても、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることはできない。
したがって、引用発明、引用技術2、引用技術3A、引用技術3B及び引用例4に記載された事項に基いて、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。

したがって、本願発明1は、上記相違点1及び2について検討するまでもなく、引用発明、引用技術2、引用技術3A、引用技術3B及び引用例4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2ないし12について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし12は、請求項1の記載を直接又は間接に引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし12は、本願発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
したがって、本願発明2ないし12は、本願発明1と同様の理由により、引用発明、引用技術2、引用技術3A、引用技術3B及び引用例4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第7 原査定についての判断
平成30年7月3日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし12は、「前記第1のポリマ材料は、ポリアミド6および炭素繊維を含み、前記第2のポリマ材料は、ポリアミド6およびガラス繊維を含む」という発明特定事項を有するものであるから、上記「第6」で検討したとおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献AないしCに基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第8 当審拒絶理由についての判断
1 特許法第29条第2項について
平成30年7月3日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし12は、「前記第1のポリマ材料は、ポリアミド6および炭素繊維を含み、前記第2のポリマ材料は、ポリアミド6およびガラス繊維を含む」という発明特定事項を有するものであるから、上記「第6」で検討したとおり、当業者であっても、当審拒絶理由において引用された引用文献1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 特許法第36条第6項第1号について
(1)平成30年7月3日の手続補正により、「単一部材のブラケット部分は構造的オイルパンの少なくとも半分を包囲して」を「単一部材のブラケット部分は構造的オイルパンを部分的に包囲して」と補正された結果、拒絶理由は解消した。(当審拒絶理由の概要は上記「第3」を参照。以下同様。)

(2)平成30年7月3日の手続補正により、「構造的オイルパン全体を一回のステップで成形するプロセスか、又は二回のステップで成形する」を「構造的オイルパン全体をポリマ材料の二回の噴射による二回のステップで成形する」と補正された結果、拒絶理由は解消した。

3 特許法第36条第6項第2号について
(1)平成30年7月3日の手続補正により、「構造的オイルパンと一体化された単一部材のブラケット部分」を「構造的オイルパンの単一部材のブラケット部分」と補正された結果、拒絶理由は解消した。

(2)平成30年7月3日の手続補正により、「単一部材のブラケット部分は構造的オイルパンの少なくとも半分を包囲して」を「単一部材のブラケット部分は構造的オイルパンを部分的に包囲して」と補正された結果、拒絶理由は解消した。

(3)平成30年7月3日の手続補正により、「前記壁」を「前記前壁と、前記後壁と、前記側壁」又は「前記前壁、前記後壁及び前記側壁」と補正された結果、拒絶理由は解消した。

(4)平成30年7月3日の手続補正により、「構造的オイルパン全体を一回のステップで成形するプロセスか、又は二回のステップで成形する」を「構造的オイルパン全体をポリマ材料の二回の噴射による二回のステップで成形する」と補正された結果、拒絶理由は解消した。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審が通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-21 
出願番号 特願2016-521720(P2016-521720)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F01M)
P 1 8・ 121- WY (F01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 稲葉 大紀  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 粟倉 裕二
金澤 俊郎
発明の名称 構造的オイルパン  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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