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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
管理番号 1344381
審判番号 不服2017-4509  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-31 
確定日 2018-09-13 
事件の表示 特願2015-525177「コンプレッサインペラ,遠心圧縮機,コンプレッサインペラの加工方法,および,コンプレッサインペラの加工装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 8日国際公開、WO2015/002066〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2014年(平成26年) 6月26日(優先権主張 2013年 7月 4日)を国際出願日とする特許出願であって,平成29年 1月25日付けで拒絶査定がなされ,この査定を不服として,平成29年 3月31日に本件審判が請求されると同時に,手続補正がなされた。
そして,平成30年 2月 7日付けで当審において拒絶理由が通知され,その応答期間内である平成30年 4月 9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところである。

第2 本願発明
この出願の請求項1に係る発明は,平成30年 4月 9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「シャフトと一体回転して,遠心圧縮機本体に形成された吸入口から吸入される流体を該シャフトの径方向外側に圧縮して送出するコンプレッサインペラであって,
前記シャフトの一端に固定されるハブと,
前記ハブの外周に配された複数の羽根と,
を備え,
各前記羽根は,
流体の流れ方向における上流側の端部であるリーディングエッジ,及び,流体の流れ方向における下流側の端部であるトレーリングエッジを有し,直線の母線を移動させた軌跡が描く曲面の線織面である翼面を備え,
前記母線は,前記リーディングエッジにおいて前記リーディングエッジと平行であり,前記トレーリングエッジ側において,該トレーリングエッジと交点を有するとともに,該トレーリングエッジと交点を有する母線は,前記シャフトの軸方向の一端側から他端側へ向かうにしたがって,該シャフトの径方向内側に近づく向きに傾斜しており,
前記交点よりも前記シャフトの軸方向の他端側に位置する前記トレーリングエッジと,該交点よりも該シャフトの軸方向の他端側に位置する前記母線とが成す角は,20度以上且つ40度以下である,コンプレッサインペラ。」

第3 拒絶の理由
平成30年 2月 7日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は,次のとおりのものである。
本件出願の請求項1に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:唐津武弘他3名著,「遠心圧縮機インペラ加工技術」,R-D神戸製鋼技報,日本,1999年4月,Vol.49 No.1,p.28-31
引用文献2:特開昭62-213913号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1の記載
引用文献1には,以下の事項が記載されている(下線は,当審で付した。以下同じ。)。
(1)「まえがき=遠心圧縮機にもちいられるインペラの製造方法は(1)[審決注:○に1]溶接,(2)[審決注:○に2]精密鋳造,(3)[審決注:○に3]機械加工による方法に大別され,従来は溶接型,精密鋳造型のインペラが主流であった。近年インペラは高効率・高性能化か進み,形状の複雑化・多様化および高精度化とともに,短納期化が要求されるようになった。これらの要求を満たすためには,溶接,精密鋳造では対応しきれなくなってきており,機械加工での製造技術の確立が急務となってきている。
インペラの翼形状は,高圧力比・高効率をえるため,三次元的にねじれた複雑な形状となっている。また,隣接する翼が覆い被さっているため,一般的な金型加工に適用される同時3,4軸制御マシニングセンタでは加工が困難であり,同時5軸制御マシニングセンタによる加工が必要となる。」(28ページ左欄1?14行)
(2)「1.インペラ翼の形状
インペラの翼形状は,仕様に基づき性能面,応力・振動面,構造面のすべての条件を満たすように流体性能解析,強度振動解析などを繰り返しおこない,最適な形状が決定される。典型的なインペラ形状のソリッドモデルを第1図に示す。また,インペラ各部の名称を第2図に示す。
翼形状には大きく分けて,(1)[審決注:○に1]シュラウド面,ハブ面の二つの曲線間に直線線素を持つ面で定義される母線型インペラと,(2)[審決注:○に2]点群により定義されている三次元自由曲面形状の点群型インペラとがある。
上記(1)[審決注:○に1]の母線型インペラの翼は,工具(エンドミル)側面切削が可能で,点切削を必要とする点群型インペラにくらべて,短時間での加工が可能である。また工具側面切削により,高品質の加工面をえることができ,手仕上げは通常必要とせず,図面に記載された面粗度・寸法公差を短時間で満足することができる。」(28ページ左欄22行?右欄1行)
(3)「2.5軸制御マシニングセンタの特徴
インペラのような自由曲面形状をもった部品の加工には,X,Y,Zの直交3軸の並進駆動系に旋回傾斜2軸を付加した構造をもつ5軸制御マシニングセンタが必要である。加工中のインペラを写真1に示す。5軸制御マシニングセンタの概念図を第3図に示す。
同時5軸マシニングセンタでは,回転傾斜構造を機械のどの部分にもつかによって,テーブルティルト型,スピンドルティルト型などの種類があり,ワークの特性にあった機械を選択することが重要である。当社では,インペラのサイズ・重量,ワークへの機械の接近性,高速切削などを考慮し,Y軸,Z軸まわりに回転自由度をもつB軸,C軸タイプで,主軸回転数が10000rpmの高速切削対応の5軸制御マシニングセンタを採用している。
5軸制御マシニングセンタは,工具姿勢を任意に制御できるので,三次元形状部品などの複雑な加工が可能であるが,その反面,工具(主軸)とワーク・治具との干渉,ボールエンドミルのデッドポイントでの加工を回避した工具軌跡を生成する必要があり,NCプログラム作成が格段に難しくなる。」(29ページ左上欄1?20行)
(4)「当初,翼間加工は,第5図に示すようにリーディングエッジ側からトレーリングエッジ側への一方向の工具軌跡でおこなっていた。」(30ページ右欄下から5行?下から3行)
(5)第1図は「インペラソリッドモデル」に関する図で,ハブとハブの外側に配された複数の翼が看て取れる。
(6)第2図は「インペラ各部名称」に関する図で,各複数の翼(Blade)はリーディングエッジ(Leading Edge)及びトレーリングエッジ(Trailing Edge)を有することが看て取れる。

2.引用発明
上記1.からみて,引用文献1には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「遠心圧縮機にもちいられるインペラであって,ハブと,ハブの外側に配された複数の翼とを備え,各前記翼はリーディングエッジ及びトレーリングエッジを有し,シュラウド面,ハブ面の2つの曲線間に直線要素を持つ面で定義される母線型インペラの翼形状を備えた,遠心圧縮機にもちいられるインペラ。」

3.引用文献2の記載
引用文献2には,以下の事項が記載されている。
(1)「<従来の技術>
例えば,排気タービン過給機のラジアルタービン動翼は第3図及び第4図に示すようにエクスデューサ部aとタービンホイール部bとで構成され,その殆んどが精密鋳造法に製作されていた。尚,第3図はラジアルタービン動翼の半截断面図,第4図は同タービン動翼の部分正面図である。
ところで,近年,材料及びNC同時5軸加工法の開発等の技術レベルの向上に伴って,鍛造品一体形の削り出しによる製作の要求が高まってきている。
一方,小中型ガスタービンや過給機等に用いられている遠心圧縮機のインペラの製造法には精密鋳造法と削り出し法とがあり,削り出し法には更に倣い加工法とNC加工法とがあるが,近年はNC加工法が採用されている。そして,最近では技術レベルの向上によって鍛造品一体形のNC同時5軸加工法が確立されたが,該加工法は製品の納期及びコストの面で他の加工法より優れている。」(1ページ左下欄17行?右下欄17行)
(2)「<発明が解決しようとする問題点>
ところで,第5図に示すような子午面形状を有するラジアルタービン動翼の鍛造一体形形状を,第6図に示す如き同時5軸制御マシニングセンタ機を用いて,テーパボールエンドミルカッターCにてNC同時5軸加工することによって得る翼型創成において,ハブ(翼根)とシュラウド(翼端)の結合ラインに変曲点(第5図のB部参照)を持つ子午面形状を有するタービン動翼の翼型創成は理論上は成り立つ。尚,第5図中,Hはハブ(翼根)側,Sはシュラウド(翼端側)を示し,鎖線lはハブとシュラウドの結合ラインを示す。 しかしながら,第5図に示す如き子午面形状を有するラジアルタービン動翼において,変曲点を有する入口部Bの近傍では翼型点列データの乱れによって翼面が乱れる現象が起こる。これは変曲点近傍の微小ハブ面長さを削るのに,理論上の翼面を成立させようとして第6図に示すマシニングセンタ機のC軸回転角が大きくなり(90°以上),当該マシニングセンタ機が急激な変化をするために起こるものである。」(1ページ右下欄18行?2ページ左上欄20行)
(3)「<問題点を解決するための手段>
上記目的を達成すべく本発明では,タービン動翼の鍛造一体形形状をテーパボールエンドミルカッターにてNC同時5軸加工する翼型の加工方法において,ハブとシュラウドとの結合ラインに変曲点を持つ子午面形状を延長して架空の子午面形状にて翼型創成計算し,翼型点列データが乱れる部分を正規の仕上り形状よりも外に出して加工するようにしたのである。」(2ページ右上欄15行?左下欄4行)
(4)「<実施例>
以下に本発明の一実施例を添付図面に基づいて説明する。
第1図は本発明方法を示すタービン動翼の架空子午面形状を示す展開図,第2図は同正面図である。
ラジアルタービン動翼の鍛造一体形形状を得るために同時5軸制御マシニングセンタ機を用い,テーパボールエンドミルカッターにてNC同時5軸加工する翼型創成において,第1図に示すようなハブとシュラウドの結合ラインlに変曲点を持つ子午面形状を第1図中,Aで示す如くそのラジアルタービン入口側を正規仕上り形状Dに対し延長し,架空の子午面形状にて翼型創成計画を行なう。即ち,これでハブとシュラウドとの結合ラインlの変曲点が正規の仕上り形状Dよりも外に出るように計画する。
次に,工具軌跡,即ち工具側面が翼面母線に接し,且つその先端がハブ面に接する状態での工具の位置と方向を求めるため,大型コンピュータによって翼型創成を計算する。ここで,工具軌跡の翼型点列データが求まる。そして,この翼型点列データをAPT処理して正規仕上り形状よりも外の翼型点列データで工具が抜けるまでに必要な点列データ以外は捨ててしまい,ポスト処理,即ち工具位置,送り速度,主軸回転等に関するデータから特定の機械に合ったNCテープを作るための処理によってNCテープを作成する。これで作成したNCテープによって鍛造一体形のラジアルタービン動翼材を第6図に示すNC同時5軸制御マシニングセンタ機に載せこれを5軸同時加工によって仕上げれば,所望の三次元形状を成すラジアルタービン動翼が得られる。
<発明の効果>
以上の説明で明らかな如く本発明によれば,ハブとシュラウドの結合ラインの変曲点を正規仕上り形状よりも外に出して翼型創成点列データを作成するようにしたため,タービン動翼入口部の加工の際の翼面の乱れを防ぐことができるとともに,翼面を圧力面側から負圧力面側へ加工する際のマシンロック領域での加工を回避することができる。」
」(2ページ左下欄5行?3ページ左上欄9行)

(5)引用文献2に記載された事項
上記(4)の記載事項及び第1図を参照すると,引用文献2には以下の事項が記載されていると認められる。
「ラジアルタービン動翼であって,工具軌跡が,ラジアルタービン出口側で出口端部の線に対して平行となるとともに,ラジアルタービン入口側において,正規仕上り形状Dと交点を有するとともに,該正規仕上り形状Dと交点を有する工具軌跡は,シャフト(第1図のハブ(翼根)側の一点鎖線を参照)の軸方向の一端側から他端側へ向かうにしたがって,該シャフトの径方向内側に近づく向きに傾斜していること。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると,後者の「遠心圧縮機にもちいられるインペラ」は,遠心圧縮機に用いられることから,前者の「遠心圧縮機本体に形成された吸入口から吸入される流体を該シャフトの径方向外側に圧縮して送出するコンプレッサインペラ」及び「コンプレッサインペラ」に相当することは明らかである。以下同様に,「翼」は「羽根」に,相当する。
後者の「ハブの外側に配された複数の翼」は前者の「ハブの外周に配された複数の羽根」に相当する。
後者の「リーディングエッジ」は前者の「流体の流れ方向における上流側の端部であるリーディングエッジ」に相当し,後者の「トレーリングエッジ」は前者の「流体の流れ方向における下流側の端部であるトレーリングエッジ」に相当する。
後者の「シュラウド面,ハブ面の2つの曲線間に直線要素を持つ面で定義される母線型インペラの翼形状を備えた」ことは前者の「直線の母線を移動させた軌跡が描く曲面の線織面である翼面を備え」たことに相当する。
そうすると,両者は,
「遠心圧縮機本体に形成された吸入口から吸入される流体を該シャフトの径方向外側に圧縮して送出するコンプレッサインペラであって,
ハブと,
前記ハブの外周に配された複数の羽根と,
を備え,
各前記羽根は,
流体の流れ方向における上流側の端部であるリーディングエッジ,及び,流体の流れ方向における下流側の端部であるトレーリングエッジを有し,直線の母線を移動させた軌跡が描く曲面の線織面である翼面を備えた,
コンプレッサインペラ。」
で一致し,以下の各点で相違する。
<相違点1>
本願発明では,コンプレッサインペラが,「シャフトと一体回転」するものであって,ハブが,「シャフトの一端に固定される」のに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない点。
<相違点2>
母線が,本願発明では,「前記リーディングエッジにおいて前記リーディングエッジと平行であり,前記トレーリングエッジ側において,該トレーリングエッジと交点を有するとともに,該トレーリングエッジと交点を有する母線は,前記シャフトの軸方向の一端側から他端側へ向かうにしたがって,該シャフトの径方向内側に近づく向きに傾斜しており,
前記交点よりも前記シャフトの軸方向の他端側に位置する前記トレーリングエッジと,該交点よりも該シャフトの軸方向の他端側に位置する前記母線とが成す角は,20度以上且つ40度以下である」のに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない点。

第6 判断
上記相違点について判断する。
<相違点1について>
遠心圧縮機において,インペラをシャフトと一体回転するものとし,そのハブがシャフトの一端に固定して用いられることは周知の事項である。
そして,引用発明に上記周知の事項に適用して,相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

<相違点2について>
引用文献1には,加工において,リーデイングエッジ側からトレーリングエッジ側への一方向の工具軌跡で行うことが示唆されている(特に,30ページ右欄下から5行?下から3行を参照のこと。)。
引用文献2の摘記事項(2),(3)の記載,さらに,第2ページ右下欄8?10行の「そして,この翼型点列データをAPT処理して正規仕上り形状よりも外の翼型点列データで工具が抜けるまでに」という記載及び第1図の図示内容からみて,引用文献2には,正規仕上り形状Dのあるラジアルタービン入口側で工具が抜ける旨の記載があるから,C軸回転角が90°以上にならないように,ラジアルタービン出口側からラジアルタービン入口側へと加工することが示唆されているといえる。
また,引用文献1の第3図,写真1,引用文献2の第6図を参照すると,一点鎖線の中心軸に対するハブ(翼根)側からみて,引用文献2の第1図のものは,引用文献1の第2図のものとワークの工作機械に対する取付(チャッキング)の仕方は同じであるといえる。
さらに,例えば,引用文献2の摘記事項(1)に記載されるように,遠心圧縮機のインペラとラジアルタービン動翼とは技術的に関連性が深いことは,当業者にとって自明である上に,引用文献1と引用文献2は共にNC同時5軸加工が用いられる加工技術に関するものであるから,遠心圧縮機のインペラの加工技術にラジアルタービンの加工技術を適用することは当業者が適宜なし得るものである。
そして,その適用の際に,前述したように引用文献1と引用文献2とは,ワークの工作機械に対するチャッキングの仕方が同じであるから,加工の方向として工具が抜ける方向を合わせて,「ラジアルタービン出口側」の技術を「リーデングエッジ」に対応させ,「ラジアルタービン入口側」の技術を「トレーリングエッジ」に対応させて,「母線は,リーディングエッジにおいて前記リーディングエッジと平行であり,前記トレーリングエッジ側において,該トレーリングエッジと交点を有するとともに,該トレーリングエッジと交点を有する母線は,前記シャフトの軸方向の一端側から他端側へ向かうにしたがって,該シャフトの径方向内側に近づく向きに傾斜していること」とすることは,当業者が適宜なし得たものである。
また,引用文献2に記載された事項が,引用文献2の第5図のBで示される部分における問題の解決を目的とする以上,当該角を相応の角度以上とすることは当然のことであるといえ,引用文献2に記載された事項を引用発明の遠心圧縮機のインペラ(コンプレッサインペラ)に適用する際に,「交点よりも前記シャフトの軸方向の他端側に位置する前記トレーリングエッジと,該交点よりも該シャフトの軸方向の他端側に位置する前記母線とが成す角」がどの程度となるかは不明であるものの,その角度は,加工工具の性能等,諸条件を勘案して,当業者の通常の創作能力の発揮により設定されるものであるといえる。
また,本願発明において特定される「20度以上且つ40度以下」という角度の上下において,その効果に顕著な差,いわゆる臨界的意義が認められるともいえない。
したがって,引用発明に引用文献2に記載された事項を適用して相違点2における本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
そして,本願発明の効果を検討しても,引用文献1及び引用文献2に記載された事項から予測される以上のものではない。

請求人は,平成30年4月9日付け意見書にて,
「平成29年3月31日に提出した審判請求書でも申し上げた通り,コンプレッサインペラを通過する空気の流れを想定した場合,一般的に,空気の流れにおける上流側の変化は,コンプレッサ効率に影響を及ぼしやすい傾向があります。本願発明では,母線はリーディングエッジに対して平行でありながら,トレーリングエッジに対しては傾斜します。このため,流れにおける上流側での変化が抑制され,流れの変化によるコンプレッサ効率への影響を小さくすることができ,解析結果が示す通り,母線がトレーリングエッジと平行な従来のコンプレッサインペラと同程度のコンプレッサ効率が得られます(段落[0059],[0060])。しかも,このようなコンプレッサインペラの翼面として実用的な水準を得たまま(段落[0058]),図6(b)に示す状態からも離隔による押し加工の発生が抑えられ,加工性の向上や加工時間の短縮が可能になります(段落[0052],[0053])。」
「本願明細書の段落[0060]で述べているように,CFD解析によれば,上記の角度が20度の場合及び40度であるときのコンプレッサ効率は,当該角度が0度のとき(即ち,トレーリングエッジにおける母線が傾きを持たない場合)と比べて遜色なく,その差は1%未満の変化に抑えられています。つまり,本願発明では,加工性の向上や加工時間の短縮に寄与するだけでなく,母線がトレーリングエッジと平行な従来のコンプレッサインペラと同程度のコンプレッサ効率を得ることが可能という新たな知見を見出したからこそ生み出されたものです。このような知見を引用文献1及び2は何ら示唆しておりません。」旨主張する。
しかしながら,従来の母線がリーディングエッジと平行で,トレーリングエッジと平行な従来のコンプレッサインペラに対してコンプレッサ効率が遜色がない(その差が1%未満)ということでは,コンプレッサ効率としては,従来のものの方が効率が良いということであり,この点をもって,臨界的な意義があるものとは認められない。
また,引用文献2に記載された事項も加工性の向上を図るものであり,一方,前述したように,本願発明において,加工性の向上や加工時間の短縮についても,「20度以上且つ40度以下」にすることにより,その角度の上下において臨界的な意義があるものとも認められない。
よって,請求人の上記主張は採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-07-11 
結審通知日 2018-07-17 
審決日 2018-07-30 
出願番号 特願2015-525177(P2015-525177)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 貴雄  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 中川 真一
藤井 昇
発明の名称 コンプレッサインペラ、遠心圧縮機、コンプレッサインペラの加工方法、および、コンプレッサインペラの加工装置  
代理人 三好 秀和  

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