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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B63H
管理番号 1344417
審判番号 不服2017-7873  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-31 
確定日 2018-09-12 
事件の表示 特願2014- 59887号「エネルギー効率を改善するためのウォータークラフトの駆動システム用プレノズル」拒絶査定不服審判事件〔平成26年6月19日出願公開、特開2014-111458号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成24年2月27日(パリ条約による優先権主張2011年2月25日、ドイツ(DE)、2011年7月12日、欧州特許庁(EP))に出願した特願2012-39530号の一部を平成26年3月24日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年2月 5日付け:拒絶理由通知書
平成28年8月 9日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年1月27日付け:拒絶査定
平成29年5月31日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成29年7月 7日 :手続補正書(方式)の提出

第2.平成29年5月31日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年5月31日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は補正箇所である。)
「ウォータークラフトの駆動システム用プレノズル(10a、10b、10c)であって、前記プレノズル(10a、10b、10c)は水入口開口(12)および水出口開口(13)を備え、フィンシステム(14)が前記プレノズル(10a、10b、10c)の内側に配置され、前記フィンシステム(14)は前記プレノズル(10a、10b、10c)の入口領域には配置されず、プロペラは前記プレノズル(10a、10b、10c)の内側に配置されず、前記プレノズル(10a、10b、10c)は回転非対称になるように構成され、断面で見たときの前記プレノズル(10a、10b、10c)の被覆は前記プレノズル(10a、10b、10c)の全長にわたって2つの直線部(37、38)を備え、断面図における前記直線部(37、38)は2つの弓形部(39、40)を相互接続し、前記直線部(37、38)は前記プレノズル(10)の側部領域において互いに向い合って配置されることを特徴とする、ウォータークラフトの駆動システム用プレノズル(10a、10b、10c)。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成28年8月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「ウォータークラフトの駆動システム用プレノズル(10a、10b、10c)であって、前記プレノズル(10a、10b、10c)は水入口開口(12)および水出口開口(13)を備え、フィンシステム(14)が前記プレノズル(10a、10b、10c)の内側に配置され、前記フィンシステム(14)は前記プレノズル(10a、10b、10c)の入口領域には配置されず、プロペラは前記プレノズル(10a、10b、10c)の内側に配置されず、前記プレノズル(10a、10b、10c)は回転非対称になるように構成され、断面で見たときの前記プレノズル(10a、10b、10c)の被覆は前記プレノズル(10a、10b、10c)の全長にわたって2つの直線部(37、38)を備えることを特徴とする、ウォータークラフトの駆動システム用プレノズル(10a、10b、10c)。」

2.補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「2つの直線部(37、38)を備え」た「断面で見たときの前記プレノズル(10a、10b、10c)の被覆」の構成に関し、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア.引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開昭53-7096号公報(昭和53年1月23日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。)
a.特許請求の範囲
「1.船舶の船尾部近傍の両舷に、船体に直接接合された、伴流をプロペラに案内するためのリング状の構造物を有し、該構造物の後方でその後端部との間に間隔を持つてプロペラを設けたことを特徴とする船舶」

b.2ページ左下欄18行?同右下欄5行
「本発明は船舶が肥大化することによつてひき起こされる船尾付近の水の乱れ、流場の不均一性に伴う推進に必要な馬力の増加あるいは振動、騒音の増大をもたらす要因を防止できる船舶に関するものである。
そして本発明は、船舶の船尾部近傍の両舷であつて、プロペラの前方に、船体にリング状の構造物を直接取り付けた船舶を提供するものである。」

c.5ページ左上欄1?12行
「第1図は、本発明の好適な実施例を示すもので、船舶の船尾部付近の船体1にリング状構造物2が装備されている。・・・
前記リング状構造物2の後方には回転直径がDpのプロペラ3が設けられ、さらにその後方には舵4が設けられている。」

d.8ページ左上欄12行?同右下欄4行
「(4)本発明のリング状構造物は基本的には第2図に示すように円形のリング状であることが好ましい。しかし、船型や流場の状況に応じて各種の変形を与える必要がある。第8図は上方に膨しみを持たせ、下方に向かうにしたがつて曲りを少なくした楕円状あるいはこれに類似のものであつて、この形は船底が比較的尖つている場合に適する。
(5)円形あるいは楕円形のリング状構造物は、一般に加工が困難になり易いが、かかる場合には、第9図のように直線を組合せたもの、あるいは直線と曲線を組合わせたものを採用することができる。」

e.5ページ右上欄4行?同7行
「この船尾部の流場の状態は第18図に示されるように一方では船底より巻き上げてくる流れS_(1)があり、これは肥大船型では三次元剥離渦S_(2)を伴つている。」

f.5ページ左下欄3行?同7行
「同図に示すようにその前端が上述の流場の乱れの範囲に位置するようにリング状構造物2を装備した場合、リング状構造物前方において上方へ向かう三次元剥離渦S_(3)(審決注:S_(2)の誤記)を伴う流れS_(1)を平行な流れに整流し均一化することが出来る。」

(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(イ-1)記載事項c.の「リング状構造物2」は、記載事項d.によれば、「船型や流場の状況に応じて各種の変形を与える必要がある」ものであるところ、その例示として、「楕円形のリング状構造物」が記載されている。 また、該「楕円形のリング状構造物」は、「リング状構造物2」と同様に、「船舶の船尾部付近の船体1に装備されて」、「プロペラ3」は「楕円形のリング状構造物」の後方に設けられるといえること。

(イ-2)記載事項a.の「伴流をプロペラに案内するためのリング状の構造物」との記載及び第19図を参酌すると、「リング状構造物」は、水入口開口および水出口開口を備えているものであり、これと同様に「楕円形のリング状構造物」も、水入口開口および水出口開口を備えているものといえること。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「船舶の船尾部付近の船体1に装備され、伴流をプロペラ3に案内するための楕円形のリング状構造物であって、前記楕円形のリング状構造物は水入口開口および水出口開口を備え、プロペラ3は前記楕円形のリング状構造物の後方に設けられる楕円形のリング状構造物。」

イ.引用文献2
(ア)同じく原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2009-214866号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【請求項1】
単一或いは複数のプロペラ船の駆動出力要件を減少させる装置において、プロペラの前で船体(100)に固定的に据え付けられる装置(10)が前ノズル(20)と前ノズルの内部に置かれたフィン或いは水中翼(30;30a,30b,30c,30d)とから成ることを特徴とする装置。」

「【0001】
この発明は、単一或いは複数のプロペラ船の駆動出力要件を減少させる装置に関する。」

「【0003】
この発明の課題は、船の駆動出力要件を減少させるのに役立つ装置を創作することである。」

「【0006】
そのように構成された装置により、船の駆動出力要件を減少させることが可能である。起こり得る利得はプロペラの推力負荷率の増加により高まる。この装置は特にタンカー、ブルカー( Bulker )やタグボートやすべてのタイプの非常に高速ではない船のような緩速で完全に組立てた船に適している。この装置自体は船のプロペラの前で船体に固定的に据え付けられ、二つの機能要素、即ち前ノズルとフィン或いは水中翼から成る。
【0007】
これは、前ノズルの作業原理が非常に高い並流をもつ領域におけるプロペラ送流速度の増加と低い並流の領域におけるプロペラ送流速度の減少とから成り、前ノズル内に配置されたフィン或いは水中翼の作業原理が予旋回を発生させ、それにより両機能要素が異なった損失源を標的とし、即ち前ノズルが有効な推力負荷の減少を狙って、フィン或いは水中翼がプロペラジェットにおける旋回損失の減少を狙っていることである。両効果により、推進システムの効率が向上される。」

「【0012】
図1によると、船の駆動出力要件を減少させる装置10は、円筒状構成或いは異なった構成形状或いは横断面形状を備える前ノズル20が船本体100の図に示されていないプロペラの直前に(図には表示されていない)設けられていて、このノズルが船体に固定的に据え付けられることを特徴とする。フィン或いは水中翼30は前ノズル20の内部空間20a内に配置されている。前ノズル20が船体に配置されて上方片寄り軸21による対称回転を有する。
【0013】
図2に表示された実施例では、四つのフィン或いは水中翼30a,30b,30c,30dが前ノズル20の内部空間20a内に異なったフィン或いは水中翼長さを備えて星状に配置されている。これら四つのフィン或いは水中翼が前ノズルの内部空間に非対称的に且つプロペラ軸線PAに半径方向に配置されている。これは、フィン或いは水中翼30a,30b,30c,30dが前ノズル20を船体100と接続させ、プロペラに向けられる前ノズル20の後端に配置されて、それによりフィン或いは水中翼30a,30b,30c,30dの水中翼状やレンズ状横断面形状の彎曲された側面がプロペラの上方打撃側面で上方に且つ下方打撃側面で下方に配向される。さらに、フィン或いは水中翼30a,30b,30c,30dが左舷側で前上方に且つ右舷側で前下方に配向される(図2と図3)。プロペラの回転方向が矢印X(図1)の方向である。前ノズル20の内部空間20a内に配置されたフィン或いは水中翼30a,30b,30c,30dがその角度位置を調整でき、設定された角度位置に固定できる。」

(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。
「プロペラ船の駆動出力要件を減少させるために、プロペラの前で船体に固定的に据え付けられる前ノズルにおいて、フィンが前記前ノズルの内部に置かれ、前記フィンは前記前ノズルの後端に配置されること。」

ウ.引用文献3
同じく原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された米国特許第4327469号明細書(以下「引用文献3」という。)の第4欄44行?48行の記載内容(リング状構造物2(ring-shaped construction 2)が楕円形状(elliptical shape)であること)、並びにFIG.1の船尾にリング状構造物を取り付けた船舶の概略図、及びFIG.4の背面図を参酌すると、引用文献3には、次の技術が記載されていると認められる。
「プロペラ3の前に、垂直方向の長さが水平方向の長さよりも長く、全長lにわたって断面が楕円形のリング状構造物2を配置すること。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)後者の「船舶」は、前者の「ウォータークラフト」に相当し、後者の「伴流をプロペラに案内するための楕円形のリング状構造物」は、前者の「駆動システム用プレノズル」に相当する。そうすると、後者の「船舶の船尾部付近の船体1に装備され、伴流をプロペラに案内するための楕円形のリング状構造物」は、後者の「ウォータークラフトの駆動システム用プレノズル」に相当するといえる。
(イ)後者の「前記楕円形のリング状構造物は水入口開口および水出口開口を備え」る構成は、前者の「前記プレノズルは水入口開口および水出口開口を備え」る構成に相当する。
(ウ)後者の「プロペラ3は前記楕円形のリング状構造物の後方に設けられる」構成は、前者の「プロペラは前記プレノズルの内側に配置されず」との構成を充足する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「ウォータークラフトの駆動システム用プレノズルであって、前記プレノズルは水入口開口および水出口開口を備え、プロペラは前記プレノズルの内側に配置されていないウォータークラフトの駆動システム用プレノズル。」

【相違点1】
本件補正発明は、「フィンシステム(14)が前記プレノズル(10a、10b、10c)の内側に配置され、前記フィンシステム(14)は前記プレノズル(10a、10b、10c)の入口領域には配置されず」との構成を備えるのに対し、
引用発明は、かかるフィンシステムが特定されていない点。

【相違点2】
「ウォータークラフトの駆動システム用プレノズル」に関し、
本件補正発明は、「前記プレノズルは回転非対称になるように構成され、断面で見たときの前記プレノズル(10a、10b、10c)の被覆は前記プレノズル(10a、10b、10c)の全長にわたって2つの直線部(37、38)を備え、断面図における前記直線部(37、38)は2つの弓形部(39、40)を相互接続し、前記直線部(37、38)は前記プレノズル(10)の側部領域において互いに向い合って配置される」構成であるのに対し、
引用発明は、楕円形のリング状構造物である点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア.相違点1について
引用文献2には、上記「(2)イ.(イ)」で述べたとおり、「プロペラ船の駆動出力要件を減少させるために、プロペラの前で船体に固定的に据え付けられる前ノズルにおいて、フィンが前記前ノズルの内部に置かれ、前記フィンは前記前ノズルの後端に配置されること。」(以下「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されている。
引用文献2に記載された技術の「プロペラ船の駆動出力要件を減少させるために」との課題は、引用発明の、「船尾付近の水の乱れ、流場の不均一性に伴う推進に必要な馬力の増加」「をもたらす要因を防止できる」(引用文献1の記載事項b.を参照。)との課題と共通し、その基本構造においても、引用発明は「楕円形のリング状構造物」を、引用文献2に記載された技術では「前ノズル」をプロペラの前に配置するという点で両者は共通している。
また、引用文献2の段落【0006】には、「二つの機能要素、即ち前ノズルとフィン或いは水中翼から成る」と記載され、同段落【0007】には、前ノズルとフィンの両機能要素が異なった損失減を標的としていることが記載されているので、フィンが機能要素として独立であることが窺えること、同段落【0012】の「円筒状構成或いは異なった構成形状或いは横断面形状を備える前ノズル20」との記載から、円筒状構成の前ノズルだけでなく異なった構成形状の前ノズルにもフィンが適用可能であることが示唆されていることを踏まえると、引用発明の「楕円形のリング状構造物」に引用文献2に記載されている技術の「フィン」を適用する動機付けは充分にあるものといえる。
そして、引用発明に、引用文献2に記載された技術の「フィン」を適用し、引用発明の「楕円形のリング状構造物」を、フィンが前記楕円形のリング状構造物の内部に置かれ、前記フィンは前記楕円形のリング状構造物の後端に配置される構成にすることは、当業者であれば適宜になし得ることであり、そのような構成を採れば、「フィンが楕円形のリング状構造物の内側に配置され、前記フィンは前記楕円形のリング状構造物の入口領域には配置されず」との構成が得られるものである。
よって、引用発明において、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ.相違点2について
(ア)引用発明の「楕円形のリング状構造物」に関し、引用文献1の第1図及び第3図を参酌すると、リング状構造2は第2図に示されるように断面が円形である場合には、その全長にわたって断面が円形であるといえるところ、これと同様に引用発明の「楕円形のリング状構造物」も、その全長にわたって断面が楕円形であると解することもできるし、仮にそうでないとしても引用文献3の「プロペラ3の前に、垂直方向の長さが水平方向の長さよりも長く、全長lにわたって断面が楕円形のリング状構造物2を配置すること」(以下「引用文献3に記載された技術」という。)を参考にすれば、引用発明の「楕円形のリング状構造物」を全長にわたって断面が楕円形にすることに困難性はない。

(イ)引用文献1の記載事項d.の「楕円形のリング状構造物は、一般に加工が困難になり易いが、かかる場合には、第9図のように直線を組合せたもの、あるいは直線と曲線を組合わせたものを採用することができる。」との記載から、引用文献1には、「楕円形のリング状構造物として、直線と曲線を組合わせた構成を採用すること」(以下「引用文献1に記載された技術」という。)が記載されているといえる。
ここでいう「直線」と「曲線」は、「楕円形のリング状構造物」を長手方向(船舶の前後方向)から見たときの断面形状を便宜的に表現しているか、該断面形状の外郭又は内郭の線を表しているものと考えるのが自然であるところ、「加工が困難になり易い」場合の対応であることを踏まえると、引用文献1に記載された技術の「直線」は本件補正発明の「プレノズル(10a、10b、10c)の被覆」における「プレノズル(10a、10b、10c)の全長にわたって」いる「直線部」に対応するものであり、「曲線」は「弓形部(39、40)」に対応するものといえる。

(ウ)そして、引用発明の「楕円形のリング状構造物」に引用文献1に記載された技術を適用して、直線(直線部)と曲線(弓形部)を組合わせたものを採用する際には、楕円形のうち曲率の少ない(曲率半径が大きい)領域である互いに向い合って配置される2つの領域を直線(直線部)に置き換えるとともに、該直線(直線部)を上記(ア)を踏まえて、楕円形のリング状構造物の全長にわたるようにし、曲率の大きい(曲率半径が小さい)2つのの領域を曲線(弓形部)に置き換え、2つの直線(直線部)と2つの曲線(弓形部)の相互に接続する手法を採ることが合理的かつ自然な発想であり、当業者が考える通常の設計手法といえる。

(エ)また、引用発明の「楕円形のリング状構造物」は、引用文献1の記載事項e.f.に記載されているように、船底より巻き上げてくる流れS_(1)を平行な流れに整流し均一化するものであるから、上記引用文献3に記載された技術を参考にして、垂直方向の長さが水平方向の長さよりも長い楕円形にすることに困難性はなく、その様な構成をとれば、上記直線部は楕円形のリング状構造物の側部領域となるものである。

(オ)そうすると、引用発明の「楕円形のリング状構造物」を当該引用文献1に記載された技術に基づき作製すれば、断面で見たときの楕円形のリング状構造物の被覆は前記楕円形のリング状構造物の全長にわたって2つの直線部を備え、断面図における前記直線部は2つの弓形部を相互接続し、前記直線(直線部)は前記楕円形のリング状構造物の側部領域において互いに向い合って配置される構成となり、本件補正発明でいうところの「回転非対称の構成」が得られることになる。
よって、引用発明において、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ.そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献1ないし3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
なお、請求人は審判請求書(平成29年7月7日の手続補正書(方式))の3.(d)において「本発明のプレノズルに基づいて、下方及び/又は上方に、より少なくまたはより大きく膨張する被覆を提供することが可能です。直線部は、特定の要件に基づいて異なる寸法で構築することができ、プレノズルの被覆の2つの弓形部を相互接続するために使用することができます。従って、幅方向(水平方向の開口距離)を非常に効率的に保つことにより、直線部はプレノズルの開口面積を垂直方向に長くすることができます。プレノズルの開口面積が垂直方向に長くなることで、出願当初明細書の段落(0017)に記載がありますように、『水入口開口の拡大によって、より大量の水がプレノズルの水入口開口に流入することが可能になり、それによって、拡大されない水入口開口の場合のノズル本体の外部領域に部分的に達して船体によって偏向される水流に起因する損失が減少される。効率は、流入の改善によって高められる』という効果を発揮します。」旨主張しているが、
引用発明に引用文献1に記載された技術を適用する際に、直線(直線部)の長さを適宜設定し得るということは、引用文献1の記載事項d.に記載されている「船型や流場の状況に応じて各種の変形を与える必要がある。」との技術思想に基づいて、当業者が当然考慮に入れることであるから、請求人が主張する効果は、当業者が予測しうる程度のものであり、格別でない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

エ.したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献1ないし3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成29年5月31日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年8月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2.[理由]1.(2)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された下記の引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。なお、引用文献1ないし3は、原査定の拒絶の理由の引用文献3ないし5である。

引用文献1:特開昭53-7096号公報
引用文献2:特開2009-214866号公報
引用文献3:米国特許第4327469号明細書

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3の記載事項は、前記第2.の[理由]2.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]2.で検討した本件補正発明から、「2つの直線部(37、38)を備え」た「断面で見たときの前記プレノズル(10a、10b、10c)の被覆」の構成に関し、「断面図における前記直線部(37、38)は2つの弓形部(39、40)を相互接続し、前記直線部(37、38)は前記プレノズル(10)の側部領域において互いに向い合って配置される」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2.[理由]2.(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献1ないし3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献1ないし3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-04-16 
結審通知日 2018-04-17 
審決日 2018-05-01 
出願番号 特願2014-59887(P2014-59887)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 泰二郎  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 中田 善邦
島田 信一
発明の名称 エネルギー効率を改善するためのウォータークラフトの駆動システム用プレノズル  
代理人 大川 宏  

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