• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1344441
審判番号 不服2017-10196  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-07 
確定日 2018-10-15 
事件の表示 特願2012-247754「眼科撮影装置および眼科撮影装置の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月22日出願公開、特開2014- 94183、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年11月9日の出願であって、平成27年11月6日に手続補正書が提出され、平成28年9月1日付けで拒絶理由が通知され、同年11月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年4月3日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対して、同年7月7日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成30年6月20日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年8月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成29年4月3日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1ないし13に係る発明は、以下の引用文献Aに記載された発明及び引用文献BないしFに記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A:特開2005-160549号公報
B:特開2009-66025号公報
C:特開2010-233998号公報
D:特開2010-259647号公報
E:特開2011-15844号公報
F:特開2005-95450号公報


第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1 本願の請求項1ないし13に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし6に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1:特開2006-149981号公報
2:特開2011-229757号公報
3:特開2005-95450号公報(拒絶査定時の引用文献F)
4:特開2005-160549号公報(拒絶査定時の引用文献A)
5:特開2011-15844号公報(拒絶査定時の引用文献E)
6:特開2001-327471号公報

2 本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

本願の請求項1ないし13に係る発明(以下、これらをまとめて「本願発明」という。)は、手動によってフォーカス領域を変更するとともに、フォーカス可能な領域においてオートフォーカス機能を実行可能とすることを、解決しようとする課題とするものと認められる。
しかしながら、上記課題と本願発明の発明特定事項との関係が不明瞭である。
すなわち、フォーカス領域を変更してオートフォーカス機能を実行するためには、第1のユーザ操作によりオートフォーカス機能を無効とした上でアライメントをずらし、アライメントをずらした状態で第2のユーザ操作によりオートフォーカス機能を再度有効にする必要があると認められるが、第2のユーザ操作によりオートフォーカス機能を再度有効にすると、自動遷移機能も有効となり、アライメントがずれた状態のままでは眼底観察状態へは遷移せず、オートフォーカス機能を実行することはできないものと認められる。
また、アライメントがずれた状態のままでオートフォーカス機能を実行することができたとしても、撮影のためにアライメントを行うと、オートフォーカス機能が作動してフォーカス状態が変化してしまうことになる。
そのため、本願発明により、上記課題をどのようにして解決するのかが不明である。


第4 本願発明

本願の請求項1ないし12に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、平成30年8月14日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものであり、本願発明6は以下のとおりである。

「 【請求項6】
前眼観察と眼底観察とを異なるタイミングで行うための共通の撮像素子を有し、前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移機能、眼底観察時のオートフォーカス機能、および眼底アライメント完了時の自動撮影機能を有する眼科撮影装置であって、
前眼アライメントの完了時に前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移を実行し、前記自動遷移が実行された後に眼底観察時のオートフォーカスと眼底アライメントの完了時の自動撮影とを実行するまでの一連の撮影動作の開始後の第1のユーザ操作に応じて、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を無効にする第1の制御手段と、
前記撮影動作の開始後の第2のユーザ操作に応じて、前記無効にされた、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を再度有効にする第2の制御手段と、
を備えることを特徴とする眼科撮影装置。」

なお、本願発明1ないし5、7ないし12の概要は以下のとおりである。
本願発明1ないし5、7ないし9は、本願発明6を減縮した発明である。
本願発明11及び10は、それぞれ本願発明6及び1に対応する方法の発明であり、本願発明6及び1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。
本願発明12は、本願発明10及び11に対応するプログラムの発明である。


第5 引用文献の記載事項、引用発明

1 当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2006-149981号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加した。)。

(引1-ア)「【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る無散瞳型の眼底カメラの構成図である。
【0009】
眼底カメラは、基台1と、ジョイスティック4の操作により左右(X)方向、前後(Z)方向に移動可能な移動台2と、移動台2に対して三次元移動可能に設けられた撮影部3と、被検者の顔を支持する顔支持ユニット5を備える。6は撮影部3を上下(Y)方向に移動するY駆動部であり、7は撮影部3をXZ方向に移動するXZ駆動部である。撮影部3はジョイスティック4の回転操作によりY駆動部6が作動し、上下移動する。8は観察像や撮影像を表示するモニタ8である。また、ジョイスティック4頂部には、検者の手動操作により撮影を実行する撮影開始スイッチ9が設けられている。
【0010】
図2は、本装置の光学系及び制御系の概略構成図である。照明光学系10は、観察用と撮影用を有する。撮影用は、撮影光源14、コンデンサレンズ15、リングスリット17、リレーレンズ18、ミラー19、黒点板20、リレーレンズ21、孔あきミラー22、対物レンズ25を有する。また、観察用は、光源11、赤外フィルタ12、コンデンサレンズ13、ダイクロイックミラー16、リングスリット17から対物レンズ25までの光学系を有する。ダイクロイックミラー16は、赤外光を反射し可視光を透過する特性を持つ。
【0011】
眼底観察・撮影光学系30は、対物レンズ25、孔あきミラー22の開口近傍に位置する撮影絞り31、光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズ32、結像レンズ33、赤外光及び可視光の一部を反射し、可視光の大部分を透過する特性を有するダイクロイックミラー34を備え、撮影光学系と眼底観察光学系はレンズ25?レンズ33までの光学系を共用する。撮影絞り31はレンズ25に関して瞳孔と略共役な位置に配置されている。レンズ32は移動機構39により移動される。ダイクロイックミラー34の透過側には撮影用CCDカメラ35が、反射側には赤外反射・可視光透過のダイクロイックミラー37、レンズ36、観察用CCDカメラ38が配置されている。また、24は光軸L1に挿脱可能なダイクロイックミラー24であり、アライメント光学系50及び光源58の光を反射し、観察用照明光及びフォーカス光学系40等の光源波長を透過する。なお、撮影時には、挿脱機構66により連動して跳ね上げられ光路外に退避する。
【0012】
フォーカス光学系40は、光源41、指標板42、指標板42に取り付けられた2つの偏角プリズム43、照明光学系10の光路に斜設されたハーフミラー44を備える。光源41、スリット指標板42は、レンズ32と連動して移動機構39により光軸方向に移動される。
【0013】
アライメント光学系50は、光軸L1を中心に左右対称に配置された2組の第1指標投影光学系と、第1指標投影光学系より狭い角度に配置された光軸を持ち光軸L1が通る垂直平面を挟んで左右対称に配置された2組の第2指標投影光学系を備える。第1指標投影光学系は、被検眼に無限遠の視標を投影する。一方、第2指標投影光学系は、被検眼に有限遠の視標を投影する。なお、アライメント指標投影光学系50は実際には左右方向に配置されたものである。
また、孔あきミラー22の穴周辺には、ワーキングドットを形成するための2つの赤外光源55が光軸L1を中心に左右対称に配置されており、被検眼とレンズ25との作動距離が適切になったとき、角膜曲率半径の1/2となる距離が共役位置となるように配置されている。
【0014】
前眼部観察光学系60は、ダイクロイックミラー24の反射側に、フィールドレンズ61、ミラー62、絞り63、リレーレンズ64、CCDカメラ65を備える。また、CCDカメラ65はアライメント指標の検出手段を兼ね、照明光源58により照明された前眼部とアライメント指標が撮像される。図3はCCDカメラ65で撮像された画像がモニタ8に表示された時の図である。
【0015】
固視標呈示光学系70は、赤色の光源74、開口穴が形成された8個の遮光板を持つ遮光板71、リレーレンズ75を備え、ダイクロイックミラー34?レンズ25まで観察光学系30と光路を共用する。8個の遮光板71は、図4に示すように、それぞれ開口穴71a?71hを備える。ディスク板72はモータ73により回転駆動され、各遮光板71が選択的に光源74の前に配置されると、固視標は図5(a)に示す様に、光軸L2に対し8個の位置81L、81R、82?87に呈示される。ディスク板72の初期回転位置は、遮光板76とセンサ77により検知されており、制御部90はそれぞれ開口穴71a?71hを光源74の前に配置させるためにパルスモータ73の回転角度を制御する。
【0016】
開口穴71bに対応する固視標位置81Rは、右眼の黄班、視神経乳頭をバランスよく含む眼底後極部付近を中心として撮影する(眼底中心部の撮影)ときに使用するものであり、この固視標位置81Rが右眼撮影時の基準位置とされる。一方、開口穴71aに対応する固視標位置81Lは左眼の眼底中心部の撮影に使用するものであり、左眼撮影時の基準位置とされる。開口穴71c?71hに対応する固視標位置82?87が周辺撮影用の位置とされる。図5(b)は、右眼の撮影において固視標を位置81R、位置82?87にそれぞれ変えて撮影したときの眼底像の状態を説明する図であり、領域111R、112?117がそれぞれ位置81R、位置82?87に対応する。なお、周辺撮影用の固視標位置としては、糖尿病性網膜症や緑内障等の症例に合わせて検者が所望する眼底像が撮影できる位置にしておく。
【0017】
上記の光学系において、光源58により照明された前眼部は、レンズ25、ダイクロイックミラー24及びレンズ61からレンズ64の光学系を介してカメラ65に受光される。また、光源11を発した光束は、赤外フィルタ12により赤外光束とされ、レンズ13、ダイクロイックミラー16により反射されてリングスリット17を照明する。リングスリット17を透過した光は、レンズ18、ミラー19、黒点板20、レンズ21を経て孔あきミラー22に達する。孔あきミラー22で反射された光は、ダイクロイックミラー24を透過し、レンズ25により被検眼Eの瞳孔付近で一旦収束した後、拡散して被検眼眼底部を照明する。光源14を発した光束は、レンズ15を経た後、観察用光束と同様な光路を経て眼底を照明する。また、フォーカス光学系40のスリット指標板42の光束は、偏角プリズム43を介してハーフミラー44により反射された後、レンズ21、孔あきミラー22、ダイクロイックミラー24、対物レンズ25を経て被検眼Eの眼底に投影される。眼底のフォーカスが合っていないとき、スリット指標板42の指標像は分離され、フォーカスが合っているときに一致して投影される。
観察照明光で照明された眼底からの反射光は、レンズ25、ダイクロイックミラー24、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、レンズ32、結像レンズ33、ダイクロイックミラー34、ダイクロイックミラー37、レンズ36を介してCCDカメラ38に結像する。
【0018】
図6は、CCDカメラ38で撮像される眼底画像の例であり、眼底像Rの中心にフォーカス指標投影光学系40によるフォーカス指標像S1、S2が投影されている。眼底にフォーカスが合っていないときにはフォーカス指標像S1、S2は分離され、フォーカスが合っているときに一致して投影される。
また、撮影時には、撮影用照明光による眼底反射光は、レンズ25、孔あきミラー22、撮影絞り31、レンズ32、ダイクロイックミラー34を経て、CCDカメラ35に結像する。
【0019】
カメラ65、38、35の出力は画像処理部80に接続されている。画像処理部80はCCDカメラ65に撮像された前眼部の画像からアライメント指標を検出処理し、CCDカメラ38に撮像された眼底画像からフォーカス指標を検出処理する。なお、本装置は、画像処理部80にて検出処理されたアライメント情報に基づいてXZ駆動部7及びY駆動部6を駆動制御して撮影部3を被検眼に自動的にアライメントするオートアライメント機能と、画像処理部80により検出処理されたフォーカス視標像の検出情報に基づいて移動機構39を駆動して、フォーカス指標像が一致するようにレンズ32及びスリット指標板42を光軸方向に移動させ自動的にフォーカス合わせを行うオートフォーカス機能を有する。
また、画像処理部80は表示モニタ8に接続されており、その表示画像を制御する。制御部90には画像処理部80、Y駆動部6、XZ駆動部7、ジョイスティック4、移動機構39、挿脱機構66、撮影開始スイッチ9、各種の操作スイッチを持つスイッチ部94、各光源等が接続されている。
【0020】
スイッチ部94において、スイッチ部94aは、検者の手動操作によりアライメント及びフォーカス合わせを行うとともに手動操作により撮影を実行する手動撮影モードと、前記オートアライメント及びオートフォーカス機能を動作させてそれぞれ所定の完了条件を満たしたら自動的に撮影を実行する自動撮影モードとを切換える撮影モード切換スイッチである。94bは固視標の位置を変更するための変更スイッチであり、固視標の位置を8個の位置81L、81R、82?87のいずれかに選択的に変更することが可能である。94cは、検者の操作により眼底像のフォーカス状態をマニュアル調節するための調整ダイヤルである。
【0021】
上記のような構成を持つ装置において、その動作を説明する。ここでは、右眼の眼底中央部を撮影した後、右眼の眼底周辺部を撮影する場合について説明する。
最初に、眼底中央部を撮影するステップについて説明する。検者は、撮影作業の手間を軽減するべく、切換スイッチ部94aにより自動撮影モードに設定する。また、固視標スイッチ94cにより固視標位置を81Rに設定する。
【0022】
まず、被検者の顔を顔支持ユニット5により支持する。被検眼にはこの標準位置の固視標を固視させる。検者はモニタ8に表示された前眼部像を観察し、ジョイスティック4の操作により撮影部3を被検眼に対して粗くアライメント調整する。そして、図3(a)に示したように、CCDカメラ65で撮像された4つの指標像Ma?Mdが画像処理部80により検出されるようになると、制御部90は、指標像Ma,Mbの中間位置を角膜頂点位置Moとして、XY方向のアライメント基準位置Oに対する偏位量Δdを求め、XZ駆動部7及びY駆動部6を駆動制御する。また、無限遠光源による指標像Ma,Mbの間隔と、有限遠光源による指標像Mc,Mdの間隔とを比較することにより、Z方向のアライメント状態を検出して、Z方向のアライメント基準位置に対する偏位量を求め、XZ駆動部7を駆動制御する(詳しくは、特開平6-46999号公報)。このようにして制御部90は、被検眼に対する撮影部3のXYZ方向の自動アライメントを作動させ、所定のアライメント条件を満たすよう撮影部3を移動させる。
【0023】
XYZ方向の自動アライメントが完了したら、制御部90は、画像処理部80により検出処理された眼底画像のフォーカス指標像S1,S2の分離情報を基に移動機構39を駆動し、フォーカシングレンズ32及びスリット指標板42を光軸方向に移動することにより、眼底のフォーカス調整を自動的に行う。
【0024】
制御部90は、XYZ方向のオートアライメントの完了と、オートフォーカスの完了が検出されると、モニタ8の画面をCCDカメラ38による眼底画像に切換える。また、制御部90は、オートフォーカスを一旦完了させると、その後はオートフォーカスの作動を許可する許可信号が入力されるまで、オートフォーカスの作動を停止する。
【0025】
そして、モニタ8の画面が眼底画像に切り換わった後、所定時間経過したら、制御部90は、眼底撮影の動作を自動的に実行する。制御部90は挿脱機構66を駆動することによりダイクロイックミラー24を光路から離脱させると共に、撮影光源14を発光する。撮影光源14の発光により、眼底は可視光により照明され、眼底からの反射光は対物レンズ25、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、レンズ32、結像レンズ33、ダイクロイックミラー34を経てCCDカメラ35に結像する。モニタ8の表示は画像処理部80によってCCDカメラ35で撮影されたカラーの眼底画像に切換えられる。CCDカメラ35で撮影された眼底像は、画像処理部80が持つ画像メモリに記憶される。以上、自動撮影モードにより眼底中央部の撮影が自動的に行われるため、検者の撮影作業の手間が軽減される。
【0026】
眼底中央部の撮影が終了したら、眼底周辺部の撮影に移行する。眼底周辺部の撮影を行う場合、検者は固視標スイッチ94cにより固視標を周辺撮影用の固視標位置82?87のいずれかに設定する。例えば、右眼の視神経乳頭を撮影するため、周辺領域115を選択するものとし、位置85に設定する。ここで、固視標の位置を設定するべく、固視標選択スイッチ94cからの操作信号が入力されると、制御部90は、パルスモータ73を駆動して開口穴71fを持つ遮蔽板71を光源41の前に自動的に配置する。これにより被検眼の視軸が図7(a)に示す様に固視標位置85の方向に誘導され、眼底での観察像は図7(b)に示す周辺領域115になる。なお、眼位が傾いてフォーカス指標像S1,S2が欠けたり、ボケたりする場合もあるが、オートフォーカスが一旦完了した後は、オートフォーカスの作動が停止しているため、フォーカス指標像の検出不良によるオートフォーカスの誤動作が防止される。
【0027】
また、上記のように固視標スイッチ94bから固視標位置を中心撮影用から周辺撮影用の位置に変更する操作信号が入力されると、制御部90は、固視標位置の変更に連動して、自動撮影モードから手動撮影モードへと自動的に切り換える。眼底周辺部の撮影時に手動撮影モードに切換えるのは、撮影光軸と被検眼の視軸が大きくずれるためにフォーカス指標が欠けたり、ボケたりして、自動的なフォーカス合わせは難しく、また、アライメント指標の検出も、眼底中心の撮影時と同じ条件ではフレア等が発生しやすくなるため、眼底周辺部撮影の自動アライメントは難しいためである。
【0028】
固視標選択スイッチ94bの入力により、固視標位置が変更され、手動撮影モードに切り換わると、検者は、モニタ8に表示される周辺撮影用の眼底像を観察し、フレアの無い画像が観察できるようにジョイスティック4等をマニュアル操作してアライメントの微調整を行う。また、フォーカス方向についても、調整ダイヤル94cによりレンズ32を前後に移動することにより、マニュアル操作でフォーカスの微調整を行える。ここで、所望する部位が良好に観察できていれば、スイッチ9を押すことにより撮影が実行される。
【0029】
以上、固視標スイッチ94bの入力により固視標位置が周辺撮影用に変更されるのに連動して、自動撮影モードから手動撮影モードに切換える構成としたため、切換スイッチ部94aによるモード切換(自動→手動)操作と、固視標位置選択スイッチ94cによる固視標位置切換(中心撮影用→周辺撮影用)操作の両方を行う必要がなくなるため、検者の手間が軽減される。
【0030】
次に、被検者が変更され、再度自動撮影モードで眼底中心部を撮影する場合、検者は切換スイッチ部94aを操作して手動撮影モードから自動撮影モードへと切換える。この時、撮影モードの変更に連動して、制御部90は固視標の呈示位置を周辺撮影用から中心撮影用の位置に変更する。これにより、固視標位置選択スイッチによる固視標位置切換(周辺撮影用→中心撮影用)操作を行う必要が無くなるため、検者の手間が軽減される。」

(引1-イ)「【0031】
上記では自動撮影モード及び手動撮影モードを切換えるときには、その切換えの専用スイッチとして用意されたスイッチ部94aを用いる構成としたが、既存のスイッチを兼用すると、スイッチ構成を簡略化できる。例えば、撮影開始スイッチ9を兼用する。スイッチ9が、例えば、2秒以上長く押されると、制御部90はこのスイッチ信号を撮影モード(自動撮影モードと手動撮影モード)の切換え信号とする。この場合、撮影モードを切換え可能な時期としては、誤って撮影が実行されるのを防止するべく、モニタ8の表示が眼底観察像以外に切換えられているとき、すなわち、モニタ8が前眼部像の表示や眼底撮影画像の表示とされている時としておく。眼底撮影の実行時はモニタ8に表示された眼底像を観察しながら行うので、制御部90はモニタ8に眼底像が表示されているときで、且つスイッチ9が2秒より短い時間で押されたときに、この信号を撮影開始のトリガ信号とする。2秒以上長押しされたときは、エラーとしてその旨をモニタ8に表示する。逆に、モニタ8の表示が眼底観察像以外に切換えられているときに、スイッチ9が2秒より短い時間で押されたときもエラーとする。専用スイッチを設けると、スイッチの数が増えて、検者はスイッチ操作に迷うことがあり、かえって誤操作を招く場合もある。既存のスイッチを予め約束された条件で機能を分担することにより、スイッチ構成を簡略化しつつ、誤操作の防止にもつながる。また、撮影開始スイッチ9の長押し操作により撮影モードが切換わる構成とすることで、撮影実行(スイッチ9の短時間押し)の操作と区別されるので、操作性が向上し誤操作が少なくなる。
【0032】
また、切換スイッチ部94aの入力に応じてモニタ8に自動撮影モードもしくは手動撮影モードかを示す旨の表示する構成とすれば、検者は現在の撮影モードを容易に判別することができるため都合がよい。
【0033】
なお、固視標の呈示位置を眼底中心撮影用から眼底周辺撮影用に変更する信号に連動して、自動撮影モードから手動撮影モードに切換える制御に当たって、固視標呈示光学系70の構成の一部としては、図8のような検者の手動操作により固視標位置を変更する構成としても良い。固視目標となる点光源136はレバー140の操作により、被検眼眼底と略共役な平面内で移動可能に構成されている。点光源136が取り付けられたレバー140には長穴140aが形成されており、レバー140はビス143等によって眼底カメラの筐体部145に摺動自在に保持されている。そして、レバー140の一部は筐体部245から突出しており、検者はレバー40を操作することで、被検眼の眼底(視線方向)を所望の撮影部位へ誘導できるようになっている。150は、固視標となる点光源136が眼底中心撮影用の位置にあるか否かを検知するセンサである。この場合、検者が周辺撮影を行うべくレバー140を動かしたことにより、固視標の位置が眼底中心撮影用の位置から外れたことをセンサ150が検知し、センサ150の検知による変更信号に連動して、制御部90は、自動撮影モードから周辺撮影モードに切り換わるような構成とすればよい。」

(引1-ウ)「【0034】
また、本実施例においては、眼底観察用のCCDカメラ38と前眼部観察用のCCDカメラ65を別々に備える構成としたが、観察・撮影光路へのレンズの挿脱により単一のCCDカメラで前眼部像と眼底像を撮像できる眼底カメラにおいても、本発明の適用が可能である(例えば、特開平8-275921号公報)。」

(引1-エ)【図1】




(引1-オ)【図2】




(引1-カ)【図3】




2 上記(引1-ア)、(引1-ウ)ないし(引1-オ)の記載から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 基台1と、ジョイスティック4の操作により移動可能な移動台2と、移動台2に対して三次元移動可能に設けられた撮影部3と、被検者の顔を支持する顔支持ユニット5と、観察像や撮影像を表示するモニタ8を備え、ジョイスティック4頂部には、検者の手動操作により撮影を実行する撮影開始スイッチ9が設けられている、眼底カメラであって、
眼底観察・撮影光学系30、アライメント光学系50、フォーカス光学系40、前眼部観察光学系60、固視標呈示光学系70、制御部90、画像処理部80及びスイッチ部94を備え、
眼底観察・撮影光学系30は、観察用CCDカメラ38及び撮影用CCDカメラ35を備え、前眼部観察光学系60はCCDカメラ65を備え、
画像処理部80はCCDカメラ65に撮像された前眼部の画像からアライメント指標を検出処理し、画像処理部80にて検出処理されたアライメント情報に基づいて撮影部3を被検眼に自動的にアライメントするオートアライメント機能と、画像処理部80により検出処理されたフォーカス視標像の検出情報に基づいて自動的にフォーカス合わせを行うオートフォーカス機能を有し、
スイッチ部94は、検者の手動操作によりアライメント及びフォーカス合わせを行うとともに手動操作により撮影を実行する手動撮影モードと、前記オートアライメント及びオートフォーカス機能を動作させてそれぞれ所定の完了条件を満たしたら自動的に撮影を実行する自動撮影モードとを切換える撮影モード切換スイッチ94a、固視標の位置を変更するための変更スイッチ94b、及び、検者の操作により眼底像のフォーカス状態をマニュアル調節するための調整ダイヤル94cを有し、
切換スイッチ部94aにより自動撮影モードに設定した場合、
検者はモニタ8に表示された前眼部像を観察し、ジョイスティック4の操作により撮影部3を被検眼に対して粗くアライメント調整し、CCDカメラ65で撮像された4つの指標像Ma?Mdが画像処理部80により検出されるようになると、制御部90は、指標像Ma,Mbの中間位置を角膜頂点位置Moとして、XY方向のアライメント基準位置Oに対する偏位量Δdを求め、XZ駆動部7及びY駆動部6を駆動制御し、無限遠光源による指標像Ma,Mbの間隔と、有限遠光源による指標像Mc,Mdの間隔とを比較することにより、Z方向のアライメント状態を検出して、Z方向のアライメント基準位置に対する偏位量を求め、XZ駆動部7を駆動制御することによる、被検眼に対する撮影部3のXYZ方向の自動アライメントを作動させ、所定のアライメント条件を満たすよう撮影部3を移動させ、
XYZ方向の自動アライメントが完了したら、制御部90は、眼底のフォーカス調整を自動的に行い、
制御部90は、XYZ方向のオートアライメントの完了と、オートフォーカスの完了が検出されると、モニタ8の画面をCCDカメラ38による眼底画像に切換え、
制御部90は、オートフォーカスを一旦完了させると、その後はオートフォーカスの作動を許可する許可信号が入力されるまで、オートフォーカスの作動を停止し、
モニタ8の画面が眼底画像に切り換わった後、所定時間経過したら、制御部90は、眼底撮影の動作を自動的に実行し、モニタ8の表示は画像処理部80によってCCDカメラ35で撮影されたカラーの眼底画像に切換えられるようになっており、
固視標スイッチ94bから固視標位置を中心撮影用から周辺撮影用の位置に変更する操作信号が入力されると、制御部90は、固視標位置の変更に連動して、自動撮影モードから手動撮影モードへと自動的に切り換える、
眼底カメラ。」

3 引用文献2ないし6について

(1)当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2011-229757号公報)には、次の事項が記載されている

「【0051】
・・・オートフォーカス制御において、オートフォーカスが適正に作動しなかった場合(小瞳孔眼、白内障眼などの場合)、検者によるマニュアルフォーカスに切り換えるようにしてもよい。」

(2)当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献3(特開2005-95450号公報)には、次の事項が記載されている

「【0035】
被検者の顔が大きく動いたりして、オートフォーカスのやり直しが必要な場合には、スイッチ84dを押すことにより、オートフォーカス作動の許可信号が与えられ、オートフォーカスが作動可能状態とされる。また、被検者の切換わりを入力する被検者スイッチ84eや被検眼の左右を切換えるスイッチ84bの信号があったときも、オートフォーカス作動の許可信号が与えられる。」

(3)当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献4(特開2005-160549号公報)には、次の事項が記載されている

「【0033】
制御部81は、フォーカス合わせができたら、再びアライメント状態の適否、視線方向と瞳孔状態の適否を確認する。本装置ではフォーカス指標の検出段階においても前眼部観察光学系60によりアライメント検出、視線方向と瞳孔状態の検出が可能であり、アライメント状態がり(当審注:「状態がり」は「状態が」の誤記と認める。)アライメント条件Aを満足していなければ、自動アライメントを作動させ、アライメントを完了させるように被検眼の動きに撮影部3を追尾させる。そして、アライメント状態、フォーカス状態、視線方向と瞳孔状態が適正であれば(撮影条件を満たしていれば)、制御部81は撮影開始信号を自動的に発して撮影を実行する。なお、撮影を実行するときのタイミングでは、被検眼の瞬きの有無も含めて確認する。瞬きの有無は、前眼部観察光学系60のCCDカメラ65で撮像される前眼部像から検出できる他、眼底観察光学系のCCDカメラ38の眼底像からも検出できる。」

(4)当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献5(特開2011-15844号公報)には、次の事項が記載されている

「【0024】
・・・選択手段である撮影モードスイッチ48で無散瞳撮影モードが選択されると、可視カットフィルター24は光路へ挿入され、跳ね上げミラー7は光路内に入る。そして、可動ミラー8は破線方向へ退避し、赤外カットフィルター16は光路外へ退避する。ハロゲンランプ27から発光された光束は、赤外カットフィルター16で近赤外領域の光束が抽出された近赤外光束は同様に穴明きミラー2の周辺で反射し対物レンズ1を介して被検眼Eの眼底Erを照明する。眼底Erで反射した近赤外光束は対物レンズ1、穴明きミラー2の中央部を通過し、合焦レンズ3、ダイクロミラーである跳ね上げミラー7を透過する。そいて、固定ミラー12,14で反射して、CMOSエリアセンサー43に結像する。CMOSセンサー43で撮像した眼底像はLCD44に動画像として表示されるので、撮影者は図示しない操作桿を使ってアライメントを行なう。」

(5)当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献6(特開2001-327471号公報)には、段落【0006】ないし【0010】、及び【図2】の記載から、「スプリットプリズムを介した前眼部像を用いて、眼底検眼装置と被験眼との距離調整を行うこと」という技術事項が記載されていると認められる。


第6 対比・判断

1 本願発明6について

(1)本願発明6と引用発明とを対比する。

ア 引用発明は、「検者はモニタ8に表示された前眼部像を観察し、」「制御部90は、XYZ方向のオートアライメントの完了と、オートフォーカスの完了が検出されると、モニタ8の画面をCCDカメラ38による眼底画像に切換え」るものであるから、「CCDカメラ65」による「前眼部像」と「CCDカメラ38による眼底画像」を、同時に「モニタ8に表示」するものではない。
そうすると、引用発明において、「前眼部観察光学系60」の「CCDカメラ65」による「前眼部像」の「観察」と、「眼底観察・撮影光学系30」の「観察用CCDカメラ38」による「眼底画像」の観察とは、異なるタイミングで行うものといえる。
よって、引用発明の「前眼部観察光学系60」の「CCDカメラ65」及び「眼底観察・撮影光学系30」の「観察用CCDカメラ38」と、本願発明6の「前眼観察と眼底観察とを異なるタイミングで行うための共通の撮像素子」とは、「前眼観察と眼底観察とを異なるタイミングで行うための撮像素子」の点で共通する。

イ 引用発明において、「検者はモニタ8に表示された前眼部像を観察し」、「制御部90」が、「XYZ方向の自動アライメントが完了したら、」「眼底のフォーカス調整を自動的に行い、」「XYZ方向のオートアライメントの完了と、オートフォーカスの完了が検出されると、モニタ8の画面をCCDカメラ38による眼底画像に切換え」ることは、「モニタ8」の「表示」が無操作で「前眼部像」から「眼底画像に切換」わるのであるから、本願発明6の「前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移機能」に相当する。

ウ 引用発明の「オートフォーカス機能」は、「眼底のフォーカス調整を自動的に行」うものであるが、「モニタ8の画面をCCDカメラ38による眼底画像に切換え」る前、すなわち、「モニタ8の画面」に「前眼部像」が「表示された」状態で行うものである。
そうすると、引用発明の「オートフォーカス機能」と、本願発明6の「眼底観察時のオートフォーカス機能」とは、「眼底のオートフォーカス機能」の点で共通する。

エ 引用発明において、「制御部90」が、「XYZ方向のオートアライメントの完了と、オートフォーカスの完了が検出されると、モニタ8の画面をCCDカメラ38による眼底画像に切換え、」「所定時間経過したら、」「眼底撮影の動作を自動的に実行」することと、本願発明6の「眼底アライメント完了時の自動撮影機能」とは、「撮影条件達成時の自動撮影機能」の点で共通する。

オ 引用発明の「XYZ方向の自動アライメント」は、「前眼部観察光学系60」の「CCDカメラ65で撮像された4つの指標像Ma?Md」を「画像処理部80にて検出処理されたアライメント情報に基づいて」行うものであるから、前眼部のアライメントである。
そして、上記イないしエの対比を踏まえると、引用発明の「前眼部観察光学系60」の「CCDカメラ65で撮像された4つの指標像Ma?Md」を「画像処理部80にて検出処理されたアライメント情報に基づい」た「XYZ方向の自動アライメントが完了したら、制御部90は、眼底のフォーカス調整を自動的に行い、制御部90は、XYZ方向のオートアライメントの完了と、オートフォーカスの完了が検出されると、モニタ8の画面をCCDカメラ38による眼底画像に切換え」、「モニタ8の画面が眼底画像に切り換わった後、所定時間経過したら、制御部90は、眼底撮影の動作を自動的に実行」することと、本願発明6の「前眼アライメントの完了時に前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移を実行し、前記自動遷移が実行された後に眼底観察時のオートフォーカスと眼底アライメントの完了時の自動撮影とを実行するまでの一連の撮影動作」とは、「前眼アライメントの完了後の前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移の実行と、眼底のオートフォーカスの実行とを含み、撮影条件達成時の自動撮影を実行するまでの一連の撮影動作」の点で共通する。

カ 引用発明の「手動撮影モード」は、「検者の手動操作によりアライメント及びフォーカス合わせを行うとともに手動操作により撮影を実行する」ものであるから、「オートフォーカス機能」を動作させず、「眼底撮影の動作を自動的に実行」させないようにしているといえる。
そして、「オートフォーカス機能」を動作させず、「眼底撮影の動作を自動的に実行」させないようにすることは、「オートフォーカス機能」及び「眼底撮影の動作を自動的に実行」する機能を「無効」にすることといえる。
一方、引用発明の「自動撮影モード」は、「オートアライメント及びオートフォーカス機能を動作させてそれぞれ所定の完了条件を満たしたら自動的に撮影を実行する」ものであるから、「オートフォーカス機能」を動作させ、「眼底撮影の動作を自動的に実行」させるようにしているといえる。
そして、「オートフォーカス機能」を動作させ、「眼底撮影の動作を自動的に実行」させるようにすることは、「オートフォーカス機能」及び「眼底撮影の動作を自動的に実行」する機能を「有効」にすることといえる。
ここで、引用発明は、「切換スイッチ部94a」の設定により、「手動撮影モードと」「自動撮影モードとを切換える」ものであるところ、手動撮影モードと自動撮影モードとの切り換えを、検者による「切換スイッチ部94a」の操作に応じて「制御部90」が行っていることは明らかである。
そうすると、引用発明は、「切換スイッチ部94a」により「手動撮影モード」に設定すると、「制御部90」が、「オートフォーカス機能」及び「眼底撮影の動作を自動的に実行」する機能を「無効」にし、「切換スイッチ部94a」により「自動撮影モード」に設定すると、「制御部90」が、「オートフォーカス機能」及び「眼底撮影の動作を自動的に実行」する機能を「有効」にするものといえる。
そして、「切換スイッチ部94a」による「自動撮影モード」の設定を行った状態から、「切換スイッチ部94a」による「手動撮影モード」の設定を行い、その後再度「切換スイッチ部94a」により「自動撮影モード」の設定を行うことが可能であることは明らかであり、そのような「切換スイッチ部94a」の設定を行った場合、「オートフォーカス機能」及び「眼底撮影の動作を自動的に実行」する機能は、「有効」から「無効」にされ、その後「無効」から再度「有効」にされることとなる。
よって、引用発明において、「切換スイッチ部94a」により「手動撮影モード」に設定すること、及び、「切換スイッチ部94a」により「自動撮影モード」に設定することは、それぞれ本願発明6の「第1のユーザ操作」及び「第2のユーザ操作」に相当する。
さらに、引用発明の「制御部90」は、本願発明6の「第1の制御手段」及び「第2の制御手段」に相当する。
以上のことから、引用発明は、本願発明6の「第1のユーザ操作に応じて、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を無効にする第1の制御手段」と「第2のユーザ操作に応じて、前記無効にされた、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を再度有効にする第2の制御手段」に相当する構成を備えているといえる。

キ 引用発明の「眼底カメラ」は、本願発明6の「眼科撮影装置」に相当する。

(2)よって、本願発明6と引用発明とは、

「 前眼観察と眼底観察とを異なるタイミングで行うための撮像素子を有し、前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移機能、眼底のオートフォーカス機能、および撮影条件達成時の自動撮影機能を有する眼科撮影装置であって、
前眼アライメントの完了後の前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移の実行と、眼底のオートフォーカスの実行とを含み、撮影条件達成時の自動撮影を実行するまでの一連の撮影動作を行うことができ、
第1のユーザ操作に応じて、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を無効にする第1の制御手段と、
第2のユーザ操作に応じて、前記無効にされた、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を再度有効にする第2の制御手段と、
を備える眼科撮影装置。」

の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
前眼観察と眼底観察とを異なるタイミングで行うための撮像素子が、本願発明6においては、「共通の」撮像素子であるのに対し、引用発明においては、「前眼部観察光学系60」の「CCDカメラ65」及び「眼底観察・撮影光学系30」の「観察用CCDカメラ38」であって、前眼観察と眼底観察とで使用するCCDカメラが異なる点。

(相違点2)
眼底のオートフォーカス機能が、本願発明6は「眼底観察時」に行うものであるのに対し、引用発明は「前眼部像を観察し」ている状態で行うものである点。

(相違点3)
自動撮影機能において自動撮影を実行するための撮影条件が、本願発明6においては、「眼底アライメント完了時」であるのに対し、引用発明においては、「前眼部観察光学系60」の「CCDカメラ65で撮像された4つの指標像Ma?Md」を「画像処理部80にて検出処理されたアライメント情報に基づい」た「XYZ方向のオートアライメントの完了と、オートフォーカスの完了が検出され」、「モニタ8の画面をCCDカメラ38による眼底画像に切換え」た後、「所定時間経過」することである点。

(相違点4)
前眼アライメントの完了後の前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移の実行と、眼底のオートフォーカスの実行とを含み、撮影条件達成時の自動撮影を実行するまでの一連の撮影動作が、本願発明6は、「前眼アライメントの完了時に前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移を実行し、前記自動遷移が実行された後に眼底観察時のオートフォーカスと眼底アライメントの完了時の自動撮影とを実行するまでの一連の撮影動作」であるのに対し、引用発明は、「前眼部観察光学系60」の「CCDカメラ65で撮像された4つの指標像Ma?Md」を「画像処理部80にて検出処理されたアライメント情報に基づい」た「XYZ方向の自動アライメントが完了したら、制御部90は、眼底のフォーカス調整を自動的に行い、制御部90は、XYZ方向のオートアライメントの完了と、オートフォーカスの完了が検出されると、モニタ8の画面をCCDカメラ38による眼底画像に切換え」、「モニタ8の画面が眼底画像に切り換わった後、所定時間経過したら、制御部90は、眼底撮影の動作を自動的に実行」することである点。

(相違点5)

オートフォーカス機能及び自動撮影機能を無効にする第1の制御手段が応じる第1のユーザ操作、並びに、前記無効にされた、前記オートフォーカス機能及び前記自動撮影機能を再度有効にする第2の制御手段が応じる第2のユーザ操作が、本願発明6においては、それぞれ前眼アライメントの完了時に前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移を実行し、前記自動遷移が実行された後に眼底観察時のオートフォーカスと眼底アライメントの完了時の自動撮影とを実行するまでの一連の撮影動作の開始後のものであるのに対し、引用発明においては、撮影を開始する前の「切換スイッチ部94a」の設定により、「制御部90」が「手動撮影モードと」「自動撮影モードとを切換える」ことは明らかであるものの、撮影を開始した後に「切換スイッチ部94a」の設定を変更した場合に「制御部90」が「手動撮影モードと」「自動撮影モードとを切換える」かは不明である点。

(3)相違点についての判断

ア 事案に鑑み、最初に上記相違点5について検討する。

眼底カメラに関する文献である引用文献2の段落【0051】には、「オートフォーカス制御において、オートフォーカスが適正に作動しなかった場合(小瞳孔眼、白内障眼などの場合)、検者によるマニュアルフォーカスに切り換えるようにしてもよい。」と記載されている。
引用文献2の上記記載は、眼底カメラに関して、オートフォーカス制御中、すなわち撮影動作開始後においても、オートフォーカス機能の作動状態から非作動状態に切り換えることができるようにすることが有益であることを示すものである。
オートフォーカス機能を作動状態から非作動状態に切り換えることは、オートフォーカス機能を有効から無効にすることといえるから、引用文献2の上記記載は、撮影動作開始にオートフォーカス機能を有効から無効にできるようにすることが有益であることを示唆するものである。
しかしながら、引用文献2には、オートフォーカスからマニュアルフォーカスに切り換えた後、再度オートフォーカスに切り換えることは記載されていない。
また、同じく眼底カメラに関する文献である引用文献3の段落【0032】及び【0035】には、「制御部81は、オートフォーカスを一旦完了させると、その後はオートフォーカスの作動を許可する許可信号が入力されるまで、オートフォーカスの作動を停止する。・・・被検者の顔が大きく動いたりして、オートフォーカスのやり直しが必要な場合には、スイッチ84dを押すことにより、オートフォーカス作動の許可信号が与えられ、オートフォーカスが作動可能状態とされる。」と記載されている。
引用文献3の上記記載は、眼底カメラに関して、撮影動作中、すなわち撮影動作開始後において、オートフォーカス完了により作動停止にされたオートフォーカス機能を再度作動させることができるようにすることが有益であることを示すものである。
しかしながら、オートフォーカス完了によるオートフォーカス機能の作動停止は、操作者の操作により行われるものではなく、自動的に行われるものであって、マニュアル操作への切換によるものでもない。
さらに、引用文献4ないし6の記載を見ても、撮影動作開始後に操作者の操作により、オートフォーカス機能を無効にし、別の操作により再度有効にすることは記載されておらず、示唆もない。
また、自動撮影機能についても、撮影動作開始後に操作者の操作により無効にし、別の操作により再度有効にすることは、引用文献2ないし6には記載も示唆もない。
そうすると、引用文献1ないし6に接した当業者といえども、上記相違点5に係る本願発明6の発明特定事項を、容易に想起し得たとはいえない。

イ よって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明6は、引用発明及び引用文献2ないし6に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明7ないし9について

本願発明7ないし9も、本願発明6の「前眼アライメントの完了時に前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移を実行し、前記自動遷移が実行された後に眼底観察時のオートフォーカスと眼底アライメントの完了時の自動撮影とを実行するまでの一連の撮影動作の開始後の第1のユーザ操作に応じて、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を無効にする第1の制御手段と、前記撮影動作の開始後の第2のユーザ操作に応じて、前記無効にされた、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を再度有効にする第2の制御手段」との構成を備えるものであるから、本願発明6と同じ理由により、引用発明及び引用文献2ないし6に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明1ないし5、10ないし12について

本願発明1ないし5、10ないし12は、本願発明6の「前眼アライメントの完了時に前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移を実行し、前記自動遷移が実行された後に眼底観察時のオートフォーカスと眼底アライメントの完了時の自動撮影とを実行するまでの一連の撮影動作の開始後の第1のユーザ操作に応じて、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を無効にする第1の制御手段と、前記撮影動作の開始後の第2のユーザ操作に応じて、前記無効にされた、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を再度有効にする第2の制御手段」との構成に対応する事項を有するものであるから、本願発明6と同じ理由により、引用発明及び引用文献2ないし6に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第7 原査定について

平成30年8月14日になされた手続補正により、本願発明1ないし12は、「前眼アライメントの完了時に前眼観察状態から眼底観察状態への自動遷移を実行し、前記自動遷移が実行された後に眼底観察時のオートフォーカスと眼底アライメントの完了時の自動撮影とを実行するまでの一連の撮影動作の開始後の第1のユーザ操作に応じて、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を無効にする第1の制御手段と、前記撮影動作の開始後の第2のユーザ操作に応じて、前記無効にされた、前記オートフォーカス機能および前記自動撮影機能を再度有効にする第2の制御手段」との構成又はそれ対応する事項を有するものとなっており、当該構成は、原査定における引用文献A、E及びF(当審拒絶理由における引用文献4、5及び3)に加え、引用文献B、C及びDにも記載も示唆もないから、当業者といえども、原査定において引用された上記引用文献AないしFに基づいて、容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。


第8 当審拒絶理由について

1 理由1(特許法第29条第2項)について

上記第6で述べたとおりであり、理由1は解消した。

2 理由2(特許法第36条第4項第1号)について

(1)当審では、「第2のユーザ操作によりオートフォーカス機能を再度有効にすると、自動遷移機能も有効となり、アライメントがずれた状態のままでは眼底観察状態へは遷移せず、オートフォーカス機能を実行することはできないものと認められる」点を指摘しているが、平成30年8月14日に提出された意見書における「『眼底観察時のオートフォーカス機能』を実行している際に該オートフォーカス機能を無効にしても、手動で前眼観察に戻さない限り、眼底観察状態のままであることは、技術的に明らかです。
また、フォーカス領域を変更する目的であれば、わざわざ前眼観察に戻さずに、眼底観察状態のままでアライメントをずらした方が、所望のフォーカス領域にアライメントし易いことも、技術的に明らかです。
そして、眼底観察状態のままで『眼底観察時のオートフォーカス機能』を再度有効にすると、眼底観察時のオートフォーカス機能が実行されます。このとき、仮に自動遷移機能も再度有効になったとしても、眼底観察状態のままなので、上述されておりますような『眼底観察状態へは遷移せず』という問題自体がそもそも生じ得ません。」との主張を踏まえれば、アライメントをずらした状態で第2のユーザ操作によりオートフォーカス機能を再度有効にすることで、オートフォーカス機能を実行することができるものと認められる。

(2)当審では、「撮影のためにアライメントを行うと、オートフォーカス機能が作動してフォーカス状態が変化してしまうことになる」点を指摘しているが、上記意見書の「仮に眼底アライメントがずれた状態のまま眼底撮影をしたければ、例えば、『眼底アライメント完了時の自動撮影機能』を無効にした上で、検者が手動で眼底撮影の実行を指示すれば良いことは、技術的に明らかです。
このため、眼底アライメントがずれた状態のまま、フォーカス状態が意図しない状態に変化することなく、眼底撮影することに関しましても、問題なく実行することができるものと思料致します。」との主張を踏まえれば、自動撮影機能を無効にした状態であれば、任意の位置で手動撮影が可能であると理解できることから、オートフォーカス機能及び自動撮影機能を無効にした後、アライメントをずらした状態でオートフォーカス機能及び自動撮影機能を有効とし、再度オートフォーカス機能及び自動撮影機能を無効にした上でアライメント調整をして手動撮影をすることにより、フォーカス状態を変化させずに撮影をすることが可能であることが理解できる。

(3)そうすると、手動によってフォーカス領域を変更するとともに、フォーカス可能な領域においてオートフォーカス機能を実行可能とするという本願発明が解決しようとする課題と、本願発明の発明特定事項との関係が不明瞭であるとはいえない。


第9 むすび

以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-10-01 
出願番号 特願2012-247754(P2012-247754)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (A61B)
P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 裕之  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 信田 昌男
渡戸 正義
発明の名称 眼科撮影装置および眼科撮影装置の制御方法  
代理人 下山 治  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康徳  
代理人 高柳 司郎  
代理人 永川 行光  
代理人 大塚 康弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ