• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1344478
審判番号 不服2017-10611  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-14 
確定日 2018-09-19 
事件の表示 特願2015- 42250「ユーザ手動のハンドオフに基づく、セッション開始プロトコルSIP(SessionInitiationProtocol)」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月10日出願公開、特開2015-164301〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年(平成16年)11月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年12月1日 米国)を国際出願日とする特願2006-542674号の一部を、平成19年9月27日に新たな特許出願とした特願2007-252312号の一部を、平成23年4月19日に新たな特許出願とした特願2011-093285号の一部を、平成24年5月16日に新たな特許出願とした特願2012-112603号の一部を、平成26年2月13日に新たな特許出願とした特願2014-025656号の一部を、平成27年3月4日に更に新たな特許出願としたものであり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成28年 3月30日付け:拒絶理由通知書
平成28年10月19日: 意見書、手続補正書の提出
平成29年 3月10日付け:拒絶査定
平成29年 7月14日: 拒絶査定不服審判の請求
平成29年 9月27日付け:拒絶理由通知書
平成30年 4月 3日: 意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
平成30年4月3日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「 無線通信の方法であって、
第1の無線装置から第1のネットワークを介してサービスサーバへ、第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを送るステップであって、前記第1のSIPメッセージは、第2の無線装置から前記第1の無線装置への通信セッションのハンドオーバのための要求を示し、前記第1のSIPメッセージは、前記第2の無線装置の識別を示し、前記通信セッションは、前記第2の無線装置およびリモート装置に関連付けられる、ステップと、
第2のメッセージ内の前記通信セッションの前記ハンドオーバの受諾の表示に応答して、前記第1の無線装置で前記リモート装置の前記通信セッションを受信するステップと
を含むことを特徴とする方法。」

第3 拒絶の理由
平成29年 9月27日付けの当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうち理由4(進歩性)の概要は、次のとおりのものである。
「4.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」であるところ、請求項1に対して、下記引用例1、3-5が引用されている。

引用例1.後藤泰隆、中西孝夫、セッション継続におけるユーザ認証方式に関する一考察、電子情報通信学会2003年通信ソサイエティ大会講演論文集2、日本、2003.09.10発行、123ページ
引用例3.特開2003-304251号公報
引用例4.生崎文彦、ケーブルいらずで楽々インターネット 必ずできる無線LAN導入術、日経PC21、日本、2002.11.01発行、第7巻 第21号、83?96ページ
引用例5.中村一貴、水田栄一、四方涼子、TCP/IPの現在とVoIP技術の全貌 第3章 VoIPのシグナリングプロトコル SIPを用いたシグナリングの実際、Interface、日本、2003.06.01発行、第29巻 第6号、79?89ページ


第4 引用例の記載及び引用発明
1 引用例1の記載
当審拒絶理由において引用した「1.後藤泰隆、中西孝夫、セッション継続におけるユーザ認証方式に関する一考察、電子情報通信学会2003年通信ソサイエティ大会講演論文集2、日本、2003.09.10発行、123ページ 」(以下「引用例1」という。)には次の記載がある。(下線は当審が付与した。)
(1) 「1.はじめに
ADSLやFTTH、公衆無線LANなどのブロードバンド環境の拡大に伴い、いつでも、どこでも、ネットワークアクセスが行える環境が構築され、本格的なユビキタスサービス[1]が提供されようとしている。またユーザは、環境に合わせてPDAやPCなどの複数のデバイスで各種サービスを利用できることを望んでいる。
本稿では、1人のユーザが、複数のデバイスを用いてセッションを継続したままユビキタスサービスを利用する場合のユーザ認証方式を検討し、考察する。
2.ユビキタス環境でのサービス継続
ユビキタス環境では、1人のユーザが、同一サービスを利用するときにADSL環境ではデスクトップPCで、外出先の無線LAN配下では、PDAでアクセスする可能性がある。
またストリーミング中や、VoIPで通信中の場合は、セッション継続中にユーザ環境に合わせてデバイスを切り替える(ハンドオーバ[2])必要がでてくる。(図1)
そのときService Provider(SP)では、ハンドオーバ先が、同一のユーザのデバイスであるかを確認するユーザ認証が必要になってくる。」

(2)



(3) 「3.ユーザ認証における前提条件
本稿では、SIP(Session Initiation Protocol)を用いたVoIP通信中におけるデバイス間のハンドオーバをケーススタディとしてユーザ認証を検討する。
<前提条件>
(1)SPは、デバイスとのセッション接続時に任意のユーザ認証を行う。
(2)SPからユーザに付与されたSIP-URIは1つとする。
(複数のデバイスでSIP-URIを共用)
(3)SPが各デバイスからREGISTERを受信すると位置情報を上書きする。
(4)デバイスAは、デバイスBをローカル手順(例:Bluetooth)で検出し、暗号化した情報の送受信ができる。
(5)ハンドオーバの要求は、デバイスBからのREGISTER契機にSPで認識しSPからデバイスBに着信要求する。
(6)ハンドオーバ時一時的にデバイスAとデバイスBは、二重ログイン状態になる(セッションを継続させるため)。
(7)アクセス網のログイン認証は検討の対象外とする。」(当審注:丸付き数字は括弧付き数字で表記した。)

(4) 「4.実現方式
実現方式の各案の接続シーケンスは、全て同一と仮定する。
案1:デバイス毎に同一のユーザIDとパスワードによる認証
(SPで異なるデバイスの二重ログインを許容)
案2:ユーザIDと端末ID(例:MACアドレス)による認証
(ユーザが利用できるデバイスをSPで管理)
案3:SP/デバイスA/デバイスBの連携による共通鍵認証
案3の共通鍵認証方法を図2のシーケンスにそって説明する。
(1)デバイスAは、セッション起動時にSPが生成した乱数kと共通鍵から演算結果f(k)を生成し、SPに送信し、その演算結果を保持
(2)SPは、ユーザ認証を行い、同じく演算結果f(k)を保持
(3)デバイスAがデバイスBにサービス切替指示を行うときに演算結果f(k)を通知
(4)デバイスBは、共通鍵で再演算した演算結果f(f(k))をSPに通知
(5)SPは、デバイスBから受信した演算結果f(f(k))とSPで保持していた演算結果f(k)に再演算した値が同一値であることを確認」(当審注:丸付き数字は括弧付き数字で表した。)

(5)



2 引用発明
(1) 上記1(3)の記載から明らかなように、引用例1には、「SIP(Session Initiation Protocol)を用いたVoIP通信中におけるデバイス間のハンドオーバを行う方法」が記載されているといえる。
また、上記1(1)の「VoIPで通信中の場合は、セッション継続中にユーザ環境に合わせてデバイスを切り替える(ハンドオーバ[2])必要がでてくる。(図1)」との記載から、引用例1において、ハンドオーバは、「セッション継続中にユーザ環境に合わせてデバイスを切り替える」ことを意味しているといえる。

(2) Service Provider(SP)は上記1(5)図2にSIPサーバとして示されているから、上記1(2)図1には、ハンドオーバが、アクセス網xを介してSIPサーバに接続されたデバイスAから、アクセス網yを介してSIPサーバに接続されたデバイスBへ行われる事項が示されているといえる。
また、上記1(1)の「ユビキタス環境では、1人のユーザが、同一サービスを利用するときにADSL環境ではデスクトップPCで、外出先の無線LAN配下では、PDAでアクセスする可能性がある。」との記載を踏まえると、引用例1記載の方法において、「ハンドオーバは、アクセス網x(ADSL)を介してSIPサーバに接続されたデバイスA(デスクトップPC)から、アクセス網y(無線LAN)を介してSIPサーバに接続されたデバイスB(PDA)へ行われる」といえる。

(3) 上記1(5)図2には、「ハンドオーバ要求」と示された、デバイスBからSIPサーバへ送られる「REGISTER f(f(k))」との情報が示されているといえる。
また、上記1(3)の「(5)ハンドオーバの要求は、デバイスBからのREGISTER契機にSPで認識しSPからデバイスBに着信要求する。」との記載を踏まえると、引用例1記載の方法は「ハンドオーバの要求として、デバイスBからSIPサーバへ「REGISTER f(f(k))」との情報を送る」第1のステップを含むといえる。

(4) 上記1(5)図2、及び上記1(4)の(1)?(5)の記載によると、引用例1記載の「REGISTER f(f(k))」との情報に含まれる「f(f(k))」は、
セッション起動時にSIPサーバが生成した乱数kを「401(k)」との情報としてデバイスAが受け取り、デバイスAにおいて乱数kと共通鍵から演算結果f(k)を生成し、サービス切替指示を行うときに演算結果f(k)がデバイスAからデバイスBに通知され、デバイスBにおいて演算結果f(k)を共通鍵で再演算した演算結果であり、
デバイスBからREGISTER f(f(k))との情報が通知された際に、SIPサーバにおいて、デバイスAからSIPサーバに「INVITE f(k)」との情報として予め送信され、保持された演算結果f(k)に再演算を行った結果と照合されユーザ認証が行われるパラメータといえる。

(5) 引用例1記載の方法は、上記1(5)図2に示された、「SPで保持していたf(k)に再演算を行い受信した演算結果と照合しユーザ認証」との処理の後の、「SIPサーバからデバイスBに対して「200OK」及び「INVITE」との情報が送られ、その後デバイスBからSIPサーバに対して「200OK」との情報が送られることにより「端末切り替え」が行われる第2のステップ」を含むといえる。
また、上記1(3)の「(5)ハンドオーバの要求は、デバイスBからのREGISTER契機にSPで認識しSPからデバイスBに着信要求する。」との記載から、上記第2のステップは、「デバイスBからSIPサーバへ「REGISTER f(f(k))」との情報を送る第1のステップ」を契機として行われるといえる。

以上を踏まえると、引用例1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)と認める。
「SIP(Session Initiation Protocol)を用いたVoIP通信中におけるデバイス間のハンドオーバを行う方法であって、
ハンドオーバは、セッション継続中にユーザ環境に合わせてデバイスを切り替え、
ハンドオーバは、アクセス網x(ADSL)を介してSIPサーバに接続されたデバイスA(デスクトップPC)から、アクセス網y(無線LAN)を介してSIPサーバに接続されたデバイスB(PDA)へ行われ、
ハンドオーバの要求として、デバイスBからSIPサーバへ「REGISTER f(f(k))」との情報を送る第1のステップであって
前記「REGISTER f(f(k))」との情報に含まれるf(f(k))は、
セッション起動時にSIPサーバが生成した乱数kを「401(k)」との情報としてデバイスAが受け取り、デバイスAにおいて乱数kと共通鍵から演算結果f(k)を生成し、サービス切替指示を行うときに演算結果f(k)がデバイスAからデバイスBに通知され、デバイスBにおいて演算結果f(k)を共通鍵で再演算した演算結果であり、
デバイスBからREGISTER f(f(k))との情報が通知された際に、SIPサーバにおいて、デバイスAからSIPサーバに「INVITE f(k)」との情報として予め送信され、保持された演算結果f(k)に再演算を行った結果と照合されユーザ認証が行われるパラメータである、
第1のステップと、
前記第1のステップを契機として、SIPサーバからデバイスBに対して「200OK」及び「INVITE」との情報が送られ、その後デバイスBからSIPサーバに対して「200OK」との情報が送られることにより「端末切り替え」が行われる第2のステップと
を含む方法」

3 引用例3の記載
(1) 当審拒絶理由において引用した「特開2003-304251号公報」(以下「引用例3」という。)には次の記載がある。(下線は当審が付与した。)
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アドレス情報を自動的に取得することで、通信中のアプリケーションのセッションを別の通信端末に転送することができるセッション転送システムおよびその方法に関する。
【0002】
【従来の技術】今日、パーソナルコンピュータ(以下、PCと称す)の普及に加え、PDA(Personal Digital Assistants)などの情報携帯端末が普及し、その場や用途に応じて、有線または無線の様々な通信手段でインターネットなどの通信網に接続できるようになっている。このように複数の通信端末を使い分ける状況下においては、例えば、作業をPDAよりもより操作性の良いPCに移行するなど、PDAにおける通信接続は維持したままそのセッションをPCに転送することで、その作業を終わらせることなく継続できる。このような処理は、ホームページの閲覧など処理はもちろんのこと、ビデオ電話などのマルチメディア通信の場合にも効果的である。
【0003】このようなセッションの転送は、例えば、ビデオ電話などのマルチメディアセッションを他装置に転送する方法として、ITU-T(国際電気通信連合 電気通信標準化部)勧告のH.450.2(Call transfer supplementary servicefor H.323)や、IETF(Internet Engineering Task Force)のdraft(SIP(Session Initiation Protocol) Call Control .Transfer)などで示されている。」
イ 「【0063】また、上述の第1?6の実施形態では、特に、有線接続されたPCと、PHS網などで無線接続されたPDAとの相互のセッション転送を説明したが、これに限るものではなく、無線接続されたPCと無線接続されたPDAや、有線接続されたPCと優先接続されたPCなど、その接続形態はいずれか一方が有線接続であるか無線接続であるかにかかわりなく、かつ、その無線接続はIEEE802.11bに基づくLAN(Local Area Network)などの形態であっても同様の効果を奏することができる。」

(2) 上記(1)ア?イによると、引用例3には、「SIPを利用して、セッションを別の端末に転送するセッション転送方法を、有線接続されたPCと、PHS網などで接続されたPDAとの形態に限らず、無線接続されたPCと無線接続されたPDAとの形態に適用し得る事項。」(以下、「公知事項」という。)が記載されていると認める。

4 引用例4の記載
(1)当審拒絶理由において引用した「4.生崎文彦、ケーブルいらずで楽々インターネット 必ずできる無線LAN導入術、日経PC21、日本、2002.11.01発行、第7巻 第21号、83?96ページ」(以下「引用例4」という。)には次の記載がある。(下線は当審が付与した。)
ア 「ADSLやCATVで一般的になってきた、ブロードバンド(高速大容量)回線。利用料金が定額制で、いつでもインターネットを自由に利用できるのが魅力だ。
しかしADSLやCATVでは、パソコンを設置する場所に制約を受けやすい。通信に必要な「ADSLモデム」や「CATVモデム」(ケーブルモデム)を、LANケーブルでパソコンに接続するからだ(図1上)。LANケーブルは普通の電話線と比べて太く、部屋の中を引き回すのには不向き。そこで、お薦めなのが「無線LAN」だ。
無線LANとは、文字通りLANケーブルを無線化するもの。「無線LAN親機」と「無線LAN子機」という通信機器をセットで設置して利用する。具体的には親機をモデムに、子機をパソコンにつなぐ(図1下)。これでモデムの設置場所に関係なく、パソコンを使いたい部屋に置ける。ノートパソコンなら、ソファーに座って使うなど、家のどこにいてもインターネットを楽しむことができる。
また、二台目以降のパソコンが使いやすいのも無線LANのメリットの一つ。一台目のデスクトップは書斎に置き、二台目のノートパソコンをリビングルームに置く、ということも簡単だ。」(84ページ最上欄1行から第3欄20行)





(2) 上記(1)ア?イから、引用例4には、「LANケーブルによる有線接続に替えて、デスクトップパソコンを無線LANを介してADSL回線に接続する」技術(以下、「慣用技術」という。)が記載されていると認める。

5 引用例5の記載
(1) 当審拒絶理由において引用した「 5.中村一貴、水田栄一、四方涼子、TCP/IPの現在とVoIP技術の全貌 第3章 VoIPのシグナリングプロトコル SIPを用いたシグナリングの実際、Interface、日本、2003.06.01発行、第29巻 第6号、79?89ページ」(以下「引用例5」という。)には次の記載がある。(下線は当審が付与した。)
ア 「VoIPのシグナリングにはいくつかの方式があるが,ここでは最近注目されているSIP(Session Initiation Protocol)についての説明を行う.」(79ページ左欄1?3行)
イ 「2 SIPシグナリング
●SIPシグナリング
セッション確立のために,制御情報のやり取りを示したもので、RFC3261(SIP),RFC2327(SDP:Session Description Protocol)などに規定されている.ここでは,SIPメッセージの構成要素であるメソッド,ヘッダ,SDPの各部,リクエストメッセージに対する応答(レスポンスメッセージ)について説明する.(中略)
●SIPメソッド
リクエストの種別を表したもので,メッセージの最初の行に示されている.リクエストの最初の行は,リクエストライン(Request-Line)と呼ばれ,メソッド,Request-URI,プロトコルバージョンの順で構成される(リスト1).Request-URIには,次のエレメントのURIが入る.メソッドによりその役割は異なる(表1).RFC3261では,INVITE/ACK/BYE/CANCEL/REGISTER/OPTIONSの六つが規定され,それ以外のメソッドについては,拡張仕様として他のRFC(RFC3262,RFC3265など)に規定されている.
(中略)
●レスポンス
受信したメッセージ(たとえば、INVETEメッセージ)に対する応答を示すもので,3桁の数字からなるステータスコードが付加されている.ステータスコードの大まかな種類については,六つのクラスで構成され(表3),はじめの5クラスについては,HTTPから引用したものである.SIPレスポンスは,SIPリクエストとは異なり,先頭の行にステータスライン(Status-Line)が付き,プロトコルバージョン,ステータスコード,レスポンスフレーズの順で構成される(リスト3).とくに,ステータスコードが100番台のものは暫定レスポンスと呼ばれ,リクエスト処理が継続中(試行中/呼出中など)であることを示し,200番台以降のものは最終レスポンスと呼ばれ,リクエスト処理の終了を示す.」(80ページ右欄8行?82ページ左欄2行)

ウ 表3(82ページ左欄)



エ 「4 代表的なSIPコールシーケンス
(中略)
●発呼から正常接続および切断まで(INVITE,BYE)
代表的な接続として下記の4種類がある.
・端末間を直接接続する場合での呼の確立と切断(図6)
(中略)
・リダイレクトサーバが存在する場合での呼の確立と切断(図7)
(中略)
・ステートレスプロキシサーバが存在する場合での呼の確立と切断(図8)
(1)ユーザーA(sip:usera@skywave.ne.jp)がユーザーB(sip:userb@skywave.ne.jp)に話したいとする.ユーザーAはユーザーAの端末のSDPを含んだINVITEリクエストメッセージを自分のドメインのプロキシサーバに送る
(2)プロキシサーバはユーザーBのcontact addressをロケーションサーバから取得すると,そのcontact addressにINVITEリクエストメッセージを転送する.転送の際,プロキシサーバはViaヘッダに自分のアドレスを追加する.また,ユーザーAに対して処理中であることを知らせるために,100 Tryingを送る
(3)ユーザーBの端末はINVITEリクエストメッセージを受け,180 Ringingを返すとともに,着信処理を行う.この180 RingingはViaヘッダにプロキシサーバのアドレスが追加されているため,プロキシサーバに返される
(4)プロキシサーバは180 Ringingを受け,Viaヘッダから自分のアドレスを削除するとユーザーAに転送する
(5)ユーザーAの端末は180 Ringingを受け,呼び出し音を鳴らす
(6)ユーザーBが通話を許可するとユーザーBの端末のSDPを含んだ200 OKが返される.この200 OKはViaヘッダにプロキシサーバのアドレスが追加されているため,プロキシサーバに返される
(7)プロキシサーバは200 OKを受け,Viaヘッダから自分のアドレスを削除するとユーザAに転送する
(8)ユーザーAの端末は200 OKを受けると,ユーザーBのcontact addressをメッセージのContactヘッダから取得し,ACKメッセージを直接ユーザーBに返す
(9)以上の結果,ユーザーAとユーザーBの端末間で双方向のRTPセッションが確立される
(中略)
・ステートフルプロキシサーバが存在する場合での呼の確立と切断(図9)
(省略)
」(83ページ右欄10行?87ページ左欄26行)(当審注:丸付き数字は括弧付き数字として表記した。)







(2) RFC3261、RFC2327などの通信規格に規定された上記ア?カに記載された事項から、下記の事項は技術常識と認める。
ア 上記(1)イ記載の「INVITE」、「REGISTER」と示されるSIPシグナリング、及び、上記(1)ウの表3下に「代表的なステータスコード」として例示された「200: OK」と示されるSIPシグナリングが、それぞれ、リクエストメッセージ、及び、レスポンスメッセージであるSIPメッセージを意味する事項。
イ 上記(1)ア、エ?カから、VoIPが、ユーザーAとユーザーBの端末間での通話を行う技術を意味する事項。


第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
1 SIPサーバはSIPに基づきサービスを提供するサーバであるから、引用発明の「アクセス網y(無線LAN)を介してSIPサーバに接続されたデバイスB(PDA)」における「デバイスB(PDA)」、「アクセス網y(無線LAN)」、及び「SIPサーバ」は、本願発明の「第1の無線装置」、「第1のネットワーク」、及び「サービスサーバ」にそれぞれ相当し、一方、引用発明の「アクセス網x(ADSL)を介してSIPサーバに接続されたデバイスA(デスクトップPC)」は、無線装置とはいえないものの、「第2の通信装置」といえる点で本願発明の「第2の無線装置」と共通する。
そして、上記「アクセス網x(ADSL)を介してSIPサーバに接続されたデバイスA(デスクトップPC)」に関する通信については無線通信とはいえないが、「SIP(Session Initiation Protocol)を用いたVoIP通信中におけるデバイス間のハンドオーバを行う方法」に係る引用発明は、「通信の方法」に係る発明といえる点で「無線通信の方法」である本願発明と共通する。

2 第1のステップについて
(1) 上記第4 5(2)アで認めたように、「REGISTER」とのSIPシグナリングがSIPメッセージといえることは技術常識であり、引用発明の「REGISTER」との情報は、本願発明の「第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージ」に相当するから、アクセス網y(無線LAN)を介してSIPサーバに接続されたデバイスB(PDA)による引用発明の「ハンドオーバの要求として、デバイスBからSIPサーバへ「REGISTER f(f(k))」との情報を送る第1のステップ」は、「第1の無線装置から第1のネットワークを介してサービスサーバへ、第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを送るステップ」といえる点で本願発明と一致する。
(2) 通信の方法に係る引用発明の「セッション」は、本願発明の「通信セッション」に相当するから、「ハンドオーバは、セッション継続中にユーザ環境に合わせてデバイスを切り替え、
ハンドオーバは、アクセス網x(ADSL)を介してSIPサーバに接続されたデバイスA(デスクトップPC)から、アクセス網y(無線LAN)を介してSIPサーバに接続されたデバイスB(PDA)へ行われ」る引用発明のハンドオーバの要求として送られる「REGISTER f(f(k))」との情報は、上記「1」に記載したように「第2の通信装置」が無線装置とはいえないものの、「第2の通信装置から第1の無線装置への通信セッションのハンドオーバのための要求を示し」ているといえる点で本願発明と共通する。

(3) 上記第4 5(2)イで認めたように、VoIPが、端末間の通話技術を意味することは技術常識であり、「SIP(Session Initiation Protocol)を用いたVoIP通信中におけるデバイス間のハンドオーバを行う方法であって、
ハンドオーバは、セッション継続中にユーザ環境に合わせてデバイスを切り替え、
ハンドオーバは、アクセス網x(ADSL)を介してSIPサーバに接続されたデバイスA(デスクトップPC)から、アクセス網y(無線LAN)を介してSIPサーバに接続されたデバイスB(PDL)へ行われ」る引用発明において、ハンドオーバの対象となるハンドオーバ前のセッションが、一方の端末であるデバイスAと、通話相手となる他方のリモート端末といえる端末との間の通信セッションを意味することは明らかである。
したがって、引用発明のハンドオーバの対象となるセッションは、上記「1」に記載したように、第2の通信装置が無線装置といえないものの、「第2の通信装置およびリモート装置に関連付けられる」通信セッションといえる点で本願発明と共通する。

3 上記第4 5(2)アで認めたように、SIPにおいて「200OK」及び「INVITE」との情報がメッセージといえることは技術常識であるから、第1のステップを契機として行われる引用発明の「SIPサーバからデバイスBに対して「200OK」及び「INVITE」との情報が送られ、その後デバイスBからSIPサーバに対して「200OK」との情報が送られることにより「端末切り替え」が行われる第2のステップ」において、SIPサーバからデバイスBに対して送られる「200OK」及び「INVITE」との情報は、通信セッションのハンドオーバの受諾を表示する第2のメッセージといえる。
また、その後デバイスBからSIPサーバに対して「200OK」との情報が送られることにより行われる「端末切り替え」処理は、SIPサーバからデバイスBに対して送られる「200OK」及び「INVITE」との情報に応答して行われる処理といえる。
そして、「端末切り替え」処理は、ハンドオーバ前のデバイスAと通話相手となるリモート端末とのセッションを、デバイスAに替えてデバイスBで受信する処理といえるから、引用発明の「前記第1のステップを契機として、SIPサーバからデバイスBに対して「200OK」及び「INVITE」との情報が送られ、「端末切り替え」が行われる第2のステップ」は、「第2のメッセージ内の通信セッションのハンドオーバの受諾の表示に応答して、第1の無線装置でリモート装置の前記通信セッションを受信するステップ」といえる点で本願発明と一致する。

以上を踏まえると、本願発明と引用発明とは、
「通信の方法であって、
第1の無線装置から第1のネットワークを介してサービスサーバへ、第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを送るステップであって、前記第1のSIPメッセージは、第2の通信装置から前記第1の無線装置への通信セッションのハンドオーバのための要求を示し、前記通信セッションは、前記第2の通信装置およびリモート装置に関連付けられる、ステップと、
第2のメッセージ内の前記通信セッションの前記ハンドオーバの受諾の表示に応答して、前記第1の無線装置で前記リモート装置の前記通信セッションを受信するステップと
を含む方法。 」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
一致点である「第2の通信装置」が、本願発明では「無線装置」であるのに対し、引用発明では無線装置ではなく、「アクセス網x(ADSL)を介してSIPサーバに接続されたデバイスA(デスクトップPC)」であり、これに伴い、本願発明が「無線通信の方法」であるのに対し、引用発明が「無線通信の方法」とはいえない点。

相違点2
本願発明の第1のSIPメッセージが「第2の無線装置の識別を示し」ているのに対し、第1のSIPメッセージに相当する引用発明の「REGISTER f(f(k))」との情報が、第2の通信装置といえるデバイスAの識別を示すことが明示されていない点。

第6 判断
1 相違点1について
上記第4 3(2)で認めたように、SIPを利用して、セッションを別の端末に転送するセッション転送方法を、有線接続されたPCと、PHS網などで接続されたPDAとの形態に限らず、無線接続されたPCと無線接続されたPDAとの形態に適用し得ることは公知事項であり、また、デスクトップPCを無線LANを介してADSL回線に接続することも、上記第4 4(2)で認めたように慣用技術であるから、引用発明の「アクセス網x(ADSL)を介してSIPサーバに接続されたデバイスA(デスクトップPC)」を、無線装置といえる無線接続されたデスクトップPCに替え、引用発明を無線通信の方法とすることは、当業者が容易に想到し得る事項といえる。

2 相違点2について
第1のSIPメッセージに相当する引用発明の「REGISTER f(f(k))」との情報におけるf(f(k))は、
「セッション起動時にSIPサーバが生成した乱数kを「401(k)」との情報としてデバイスAが受け取り、デバイスAにおいて乱数kと共通鍵から演算結果f(k)を生成し、サービス切替指示を行うときに演算結果f(k)がデバイスAからデバイスBに通知され、デバイスBにおいて演算結果f(k)を共通鍵で再演算した演算結果であり、
デバイスBからREGISTER f(f(k))との情報が通知された際に、SIPサーバにおいて、デバイスAからSIPサーバに「INVITE f(k)」との情報として予め送信され、保持された演算結果f(k)に再演算を行った結果と照合されユーザ認証が行われるパラメータ」である。
してみると、前記f(f(k))の乱数kは、セッション起動時にデバイスAに割り振られたデバイスAに関する値といえ、また、前記乱数kに対し、共通鍵で演算及び再演算を行い、SIPサーバで照合されユーザ認証が行われるパラメータであるf(f(k))も、前記乱数kと同様にデバイスAを識別し得るパラメータといえるから、第1のSIPメッセージに相当する引用発明の「REGISTER f(f(k))」のf(f(k))は、第2の通信装置といえるデバイスAの識別を示すパラメータといえる。
したがって、相違点2は実質的な相違とはいえない。
また、仮にそうといえないとしても、上記第4 1(1)に記載されているように、SIPサーバで、ハンドオーバ先が同一のユーザのデバイスであるかを確認する引用発明において、セッションが行われているハンドオーバ元のデバイスAを識別する装置IDのようなパラメータを、ハンドオーバ先からのハンドオーバの要求としてのメッセージに含めることは格別困難なことではなく、当業者が適宜なし得ることである。

したがって、本願発明は、引用例1に記載された引用発明、及び引用例3-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1に記載された発明、及び引用例3-5に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-04-23 
結審通知日 2018-04-24 
審決日 2018-05-08 
出願番号 特願2015-42250(P2015-42250)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久慈 渉  
特許庁審判長 中木 努
特許庁審判官 松永 稔
倉本 敦史
発明の名称 ユーザ手動のハンドオフに基づく、セッション開始プロトコルSIP(SessionInitiationProtocol)  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ