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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1344524
審判番号 不服2017-14803  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-04 
確定日 2018-09-20 
事件の表示 特願2016-17553「ショベル」拒絶査定不服審判事件〔平成28年7月21日出願公開、特開2016-130518〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年2月2日に出願された特願2012-21274号の一部を平成28年2月1日に新たな出願としたものであって、平成28年2月1日に上申書が提出され、平成28年11月11日付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月23日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年4月11日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成29年6月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年6月28日付けで平成29年6月16日にされた手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成29年10月4日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成29年10月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年10月4日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「油圧ポンプにより駆動されるブーム及びアームと、
燃料タンクから供給される燃料により駆動するディーゼルエンジンと、
前記ディーゼルエンジンからの排気ガスを大気中に排出する前に浄化するためにターボチャージャの下流に設けられたディーゼルパティキュレートフィルタと、
前記ディーゼルパティキュレートフィルタの下流に設けられた選択還元触媒と、
液体還元剤タンクに貯留された液体還元剤の残量を検出する残量検出装置と、
前記残量検出装置の検出結果に基づき前記液体還元剤が既定残量となったときに表示装置に前記液体還元剤の減少を示す警報表示を行う警報表示手段と、
前記残量検出装置の検出結果に基づき、前記ディーゼルエンジンの運転条件制限を行うエンジン運転条件制限手段と、
前記エンジン運転条件制限手段による運転条件制限の実行時期を、前記残量検出装置の検出結果に基づき、運転者に告知する実行時期告知手段と、を有し、
前記表示装置には前記液体還元剤の減少を示す前記警報表示が表示されるとともに、前記運転条件制限の実行時期が告知として表示される、
ショベル。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年1月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「油圧ポンプにより駆動されるブーム及びアームと、
ディーゼルエンジンと、
前記ディーゼルエンジンからの排気ガスを大気中に排出する前に浄化するためにターボチャージャの下流に設けられたディーゼルパティキュレートフィルタと、
前記ディーゼルパティキュレートフィルタの下流に設けられた選択還元触媒と、
液体還元剤タンクに貯留された液体還元剤の残量を検出する残量検出装置と、
前記残量検出装置の検出結果に基づき前記液体還元剤が既定残量となったときに表示装置に警報表示を行う警報表示手段と、
前記残量検出装置の検出結果に基づき、前記ディーゼルエンジンの運転条件制限を行うエンジン運転条件制限手段と、
前記エンジン運転条件制限手段による運転条件制限の実行時期を、前記残量検出装置の検出結果に基づき、運転者に告知する実行時期告知手段と、を有する、
ショベル。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ディーゼルエンジン」、「警報表示」及び「表示装置」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
(2)-1 引用文献1
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願のもとの出願の出願前に頒布された引用文献である、特開2009-127521号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。
(ア)「【0001】
本発明は作業車両の排ガス後処理装置に係わり、特に、油圧ショベル等の建設機械やホイールローダ等の積み荷機械等の作業車両において、還元剤を用いて排ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元浄化する排ガス後処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるエンジンの排ガス中に含まれるNOxを除去する排ガス後処理装置として、特許文献1に記載のものが知られている。この排ガス後処理装置は、還元剤噴射制御により、エンジンの排気管に配設された還元触媒の排気上流側に、エンジンの運転状態に応じて還元剤(アンモニア)の前駆体である尿素水溶液を噴射供給し、還元触媒上で排ガス中のNOxと還元剤とを還元反応させて、NOxを無害成分に浄化処理するものである。
【0003】
また、特許文献1記載の排ガス後処理装置では、還元剤の前駆体である尿素水溶液の残量が少なくなった際には、警告制御によりユーザに対して警告を行うとともに、運転制限制御によりエンジン制御を制限して排ガス中のNOx濃度を低減する処理を行い、尿素水溶液の減少度合いを抑制している。
【0004】
【特許文献1】特開2006-226171号公報」

(イ)「【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0023】
図1は本発明の第1の実施の形態に係わる作業車両の排ガス後処理装置の全体構成を示す図である。
【0024】
図1において、本実施の形態に係わる作業車両は例えば建設機械の一例である油圧ショベルであり、この油圧ショベルは、電子ガバナ1a(電子制御式の燃料噴射制御装置)を備えたディーゼルエンジン(以下単にエンジンという)1を有している。エンジン1の目標回転数はエンジンコントロールダイヤル2により指令され、エンジン1の実回転数は回転数検出装置3により検出される。エンジンコントロールダイヤル2の指令信号及び回転数検出装置3の検出信号はコントローラ4に入力され、コントローラ4はその指令信号(目標回転数)と検出信号(実回転数)とに基づいて電子ガバナ1aを制御し、エンジン1の回転数とトルクを制御する。また、エンジン1の始動停止指令装置としてキースイッチ5が設けられ、キースイッチ5の指令信号もコントローラ4に入力され、コントローラ4はその指令信号に基づいてスタータ(始動装置)6と電子ガバナ1aを制御し、エンジン1の始動及び停止を制御する。
【0025】
また、油圧ショベルには作業用の駆動装置として油圧システムが搭載されており、この油圧システムは、エンジン1により駆動されるメインの油圧ポンプ10,11及びパイロットポンプ12と、メインの油圧ポンプ10,11から吐出される圧油によって駆動される複数のアクチュエータ13,14(図示の便宜上2つのみ図示し他は省略)と、油圧ポンプ10,11から複数のアクチュエータ13,14に供給される圧油の流れ(流量と方向)を制御するパイロット操作式の複数の流量制御弁15,16(同)と、パイロットポンプ12の油圧を元圧として流量制御弁15,16を操作するための制御パイロット圧を生成するリモコン弁17,18(同)とを備えている。リモコン弁17,18は運転席の左右に設けられた左右のコントロールレバー19,20により操作される。
【0026】
図2は、油圧ショベルの外観を示す図である。油圧ショベルは下部走行体100と上部旋回体101とフロント作業機102を備えている。下部走行体100は左右のクローラ式走行装置103a,103bを有し、左右の走行モータ104a,104bにより駆動される。上部旋回体101は旋回モータ105により下部走行体100上に旋回可能に搭載され、フロント作業機102は上部旋回体101の前部に俯仰可能に取り付けられている。上部旋回体101にはエンジンルーム106、キャビン(運転室)107が備えられ、エンジンルーム106にエンジン1が配置され、キャビン107内の運転席の左右にリモコン弁17,18を操作するためのコントロールレバー19,20が配置されている。また、キャビン107内の適所にエンジンコントロールダイヤル2、キースイッチ5が設置されている。
【0027】
フロント作業機102はブーム111、アーム112、バケット113を有する多関節構造であり、ブーム111はブームシリンダ114の伸縮により上下方向に回動し、アーム112はアームシリンダ115の伸縮により上下、前後方向に回動し、バケット113はバケットシリンダ116の伸縮により上下、前後方向に回動する。
【0028】
図1において、油圧アクチュエータ13は、ブームシリンダ114、アームシリンダ115、バケットシリンダ116を代表したものであり、油圧アクチュエータ14は左右の走行モータ104a,104b及び旋回モータ105を代表したものである。
【0029】
本実施の形態の排ガス後処理装置は上記のような作業車両(油圧ショベル)に設けられるものであり、その排ガス後処理装置は、エンジン1の排気系を構成する排気管31に配置され、アンモニアを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を還元浄化する還元触媒32と、還元剤の前駆体である尿素水溶液を貯蔵するタンク33と、タンク33内に貯蔵された尿素水溶液を還元触媒32に供給する還元剤噴射供給装置34と、タンク33内に貯蔵された尿素水溶液の残量を検出する還元剤残量検出装置37と、タンク33内に貯蔵された尿素水溶液の成分を検出する還元剤成分検出装置38と、車体の状況(還元剤残量、還元剤成分、運転制限制御の有り無し等)をオペレータに知らせるための車体モニタ39と、リモコン弁17で生成した制御パイロット圧を流量制御弁15に伝達する油圧ラインに設けられた電磁開閉弁40と、コントローラ42とを備えている。還元剤噴射供給装置34はポンプを内蔵する還元剤供給装置35と還元剤噴射弁36とを有し、還元剤供給装置35はタンク33からの尿素水溶液を圧縮空気と共に還元剤噴射弁36に供給し、還元剤噴射弁36は、その尿素水溶液を排気管31内を流れる排ガス中に噴霧する。また、還元剤供給装置35は余剰流量をタンク33に戻す。車体モニタ39は、エンジンコントロールダイヤル2、キースイッチ5、コントロールレバー19,20とともに、キャビン(運転室)107に配置されている。電磁開閉弁40は、通常は開位置にあり、コントローラ42から制御信号が出力されると閉位置に切り換わる。
【0030】
また、本実施の形態の排ガス後処理装置は、その特徴的構成として、油圧ショベルの車体(下部走行体100と上部旋回体101)の位置を検出するGPS装置43を備えている。還元剤残量検出装置37、還元剤成分検出装置38、GPS装置43からの信号はコントローラ42に入力され、コントローラ42は所定の演算処理を行い、還元剤噴射供給装置34(還元剤供給装置35と還元剤噴射弁36)、車体モニタ39、電磁開閉弁40に制御信号を出力する。
【0031】
図3はコントローラ42の演算処理内容を示すフローチャートであり、図4は図3のフローチャートに示す動作内容を表形式で示す図である。
【0032】
図3において、コントローラ42は、まず、ステップS100において、GPS装置43により検出した油圧ショベルの車体の位置情報に基づいて、当該車体が排ガス規制地域にあるか否かを判定し、車体が排ガス規制地域にあり場合はステップS110に進み、車体が排ガス規制地域にない場合はステップS170に進む。コントローラ42の記憶部には、地球上の全ての国について、排ガス規制国か否かの情報とGPS位置情報とを含む国別データが記憶されており、コントローラはGPS装置43によって検出した位置情報をそれらの国別データに参照し、油圧ショベルの車体が排ガス規制地域にあるか否かを判定する。
【0033】
ステップS110では、還元剤成分検出装置38の検出結果に基づいて、タンク33内の液体が所定の濃度の尿素水溶液であるか否かを判定し、所定の濃度の尿素水溶液であればステップS120に進み、所定の濃度の尿素水溶液でなければステップS160に進む。
【0034】
ステップS120では、還元剤残量検出装置37により検出したタンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量以上であるか否かを判定し、第2所定量以上であればステップS140に進み、第2所定量以上でなければステップS130に進む。ここで、タンク33が例えば容量50Lのタンクであるとした場合、第2所定量は例えば5Lである。
【0035】
ステップS130では、還元剤残量検出装置37により検出したタンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量よりも少ない第3所定量以上であるか否かを判定し、第3所定量以上であればステップS150に進み、第3所定量以上でなければステップS160に進む。ここで、タンク33が例えば上記のように容量50Lのタンクであるとした場合、第3所定量は例えば3Lである。
【0036】
ステップS140では動作Iの処理を選択し、ステップS150では動作IIの処理を選択し、ステップS160では動作IIIの処理を選択し、ステップS170では動作IVの処理を選択する。動作Iの処理では図4の(A)-(a)に示される制御を行い、動作IIの処理では図4の(B)-(a)に示される制御を行い、動作IIIの処理では図4の(C)-(a)に示される制御を行い、動作IVの処理では図4の(A)-(b)、(B)-(b)、(C)-(b)に示される制御を行う。
【0037】
図4の(A)-(a)に示す制御(動作Iの処理)では、尿素水噴射制御を通常作動とし、かつエンジン及び油圧システムを通常作動とし、モニタ警告を無しとする。尿素噴射制御の通常動作では、エンジン1の運転状態(例えば回転速度及び燃料噴射量等)に応じて排ガス中のNOxを還元浄化するのに必要な尿素量を求め、その尿素量が供給されるよう還元剤噴射供給装置34の還元剤供給装置35と還元剤噴射弁36とを作動させる。
【0038】
図4の(B)-(a)に示す制御(動作IIの処理)では、尿素水噴射制御を通常作動とし、かつエンジン及び油圧システムを通常作動とし、モニタ警告を有りとする。モニタ警告有りの動作では、車体モニタ39に、タンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告を表示する。また、そのまま油圧ショベルの運転を継続し、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨の警告を表示する。その後、タンク33内に尿素水溶液が補充され、尿素水溶液の残量が第1所定量(>第2所定量)以上になると、モニタ警告を解除する。ここで、タンク33が例えば容量50Lのタンクであるとした場合、第2所定量は例えば45Lである。
【0039】
図4の(C)-(a)に示す制御(動作IIIの処理)では、尿素水噴射制御を不作動とし、かつエンジン1及び油圧システムの運転制限制御を行い、モニタ警告を有りとする。本実施の形態では、エンジン1の運転制限制御として、エンジン1を再始動を不可(エンジン1を一旦停止した後の再始動禁止)とし、油圧システムの運転制限制御として、油圧システムのフロント動作禁止(移動及び避難のため走行/旋回は動作可)とする。エンジン1の再始動不可の運転制限制御では、キースイッチ5の指令信号に基づくスタータ(始動装置)6と電子ガバナ1aの制御を不能とする。油圧システムのフロント動作禁止の運転制限制御では、電磁開閉弁40に制御信号を送り、電磁開閉弁40を開位置から閉位置に切り換える。前述したように、油圧アクチュエータ13は、ブームシリンダ114、アームシリンダ115、バケットシリンダ116を代表したものであり、電磁開閉弁40を閉位置に切り換えることによりリモコン弁17からの制御パイロット圧は流量制御弁15には伝達されず、ブームシリンダ114、アームシリンダ115、バケットシリンダ116の動作(すなわちフロント作業機102の動作)が不可となる。モニタ警告有りの動作では、車体モニタ39に、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告を表示する。また、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなったため、エンジン1及び油圧システムが運転制限制御状態である旨の警告を表示する。その後、タンク33内に尿素水溶液が補充され、尿素水溶液の残量が第1所定量(例えば45L)以上になると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御とモニタ警告を解除する。」

(ウ)「【0042】
以上において、コントローラ42のステップS110?S130の処理機能及びステップS140の(A)-(a)及びステップS150の(B)-(a)の処理機能は、エンジン1の運転状態に応じて還元剤噴射供給装置34を作動させる還元剤噴射制御と、還元剤残量検出装置37により検出した還元剤の前駆体(尿素水溶液)の残量が所定量以下になると警報を発する警告制御とを実行する第1制御装置を構成し、コントローラ42のステップS100の処理機能及びステップS170の(A)-(b)及び(B)-(b)の処理機能は、GPS装置43により検出した車体の位置情報に基づいて、車体が排ガス規制地域にあるか否かを判定し、車体が排ガス規制地域にない場合は、上記第1制御装置による還元剤噴射制御及び前記警告制御を無効にする第2制御装置を構成する。
【0043】
また、コントローラ42のステップS130の処理機能及びステップS160の(C)-(a)の処理機能は上記第1制御装置の一部を構成し、還元剤残量検出装置37により検出した還元剤の前駆体の残量が所定量以下になると作業車両の運転を制限する運転制限制御を更に実行する。コントローラ42のステップS100の処理機能及びステップS170の(C)-(b)の処理機能は上記第2制御装置の一部を構成し、車体が排ガス規制地域にない場合は、上記第1制御装置による還元剤噴射制御及び警告制御と運転制限制御を無効にする。」

(エ)「【0044】
次に、以上のように構成した本実施の形態の動作を説明する。
【0045】
まず、油圧ショベルが日本、米国等の排ガス規制地域で稼動する場合について説明する。油圧ショベルが日本、米国等の排ガス規制地域にありかつタンク33内の液体が所定の濃度の尿素水溶液である場合は、コントローラ42はGPS装置43により検出した油圧ショベルの車体の位置情報に基づいて、油圧ショベルの車体が排ガス規制地域にあると判定し、かつ還元剤成分検出装置38の検出結果に基づいて、タンク33内の液体が所定の濃度の尿素水溶液であると判定し、更に、還元剤残量検出装置37により検出したタンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量以上或いは第3所定量以上であるか否かを判定する。
【0046】
ここで、もし、タンク33内に尿素水溶液が十分にある場合は、コントローラ42はタンク33内の尿素水溶液の残量は第2所定量以上であると判定し、動作Iの処理を選択する。この動作Iの処理では、コントローラ42は尿素水噴射制御を通常作動とし、かつエンジン及び油圧システムを通常作動とし、モニタ警告を無しとする。これにより還元剤噴射供給装置34により排気管31内に尿素水溶液が噴射され、この尿素水溶液は排気ガスによって加熱され、加水分解し、アンモニアを発生する。そして、このアンモニアを還元剤として還元触媒32により排ガス中の窒素酸化物(NOx)が還元浄化される。
【0047】
タンク33内の尿素水溶液の消費が進み、タンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量より少なくなると、コントローラ42は、動作IIの処理を選択する。この動作IIの処理では、コントローラ42は尿素水噴射制御を通常作動とし、かつエンジン及び油圧システムを通常作動とし、モニタ警告を有りとする。これにより車体モニタ39に、タンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告、及びそのまま油圧ショベルの運転を継続し、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨の警告が表示される。オペレータは、車体モニタ39にそのような警告が表示されると、直ちに油圧ショベルの運転を中断し、タンク33内に尿素水溶液を補充する作業を行う必要がある。この場合、補充用の尿素水溶液が作業現場にない場合は、最寄りの尿素水ステーションのある場所まで油圧ショベルを移動させる。タンク33内に尿素水溶液が補充され、尿素水溶液の残量が第1所定量(>第2所定量)以上になると、モニタ警告は解除される。
【0048】
タンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなり、車体モニタ39に警告が表示された後、タンク33内の尿素水溶液の消費が更に進み、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量より少なくなると、コントローラ42は、動作IIIの処理を選択する。この動作IIIの処理では、コントローラ42は尿素水噴射制御を不作動とし、かつエンジン1及び油圧システムの運転制限制御を行い、モニタ警告を有りとする。これにより油圧ショベルは、エンジン1の再始動不可(エンジン1を一旦停止した後は再始動禁止)の状態でかつ油圧システムのフロント動作禁止の状態となる。また、車体モニタ39に、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告、及びタンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなったため、エンジン1及び油圧システムが運転制限制御状態である旨を表示する。このようにエンジン1及び油圧システムの運転制限制御を行うことにより、オペレータに尿素水溶液の補充を強く促し、排ガス浄化に関するオペレータの怠慢を回避することができる。また、油圧ショベルの油圧システムに関する動作制限はフロント動作だけであり、走行は動作可能であるため、オペレータは油圧ショベルを最寄りの尿素水溶液ステーションのある場所まで移動させ、タンク33内に尿素水溶液を補充することができる。タンク33内に尿素水溶液が補充され、尿素水溶液の残量が第1所定量(例えば45L)以上になると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御とモニタ警告制御は解除される。

(オ)上記(イ)の段落【0026】の「油圧ショベルは下部走行体100と上部旋回体101とフロント作業機102を備えている。」、【0027】の「フロント作業機102はブーム111、アーム112、バケット113を有する多関節構造であり、ブーム111はブームシリンダ114の伸縮により上下方向に回動し、アーム112はアームシリンダ115の伸縮により上下、前後方向に回動し、バケット113はバケットシリンダ116の伸縮により上下、前後方向に回動する。」及び【0028】の「図1において、油圧アクチュエータ13は、ブームシリンダ114、アームシリンダ115、バケットシリンダ116を代表したものであり、油圧アクチュエータ14は左右の走行モータ104a,104b及び旋回モータ105を代表したものである。」という記載から、引用文献1に記載された油圧ショベルは、油圧アクチュエータ13及びポンプ10により駆動されるブーム111及びアーム112を有することが分かる。

(カ)上記(イ)の段落【0024】の「この油圧ショベルは、電子ガバナ1a(電子制御式の燃料噴射制御装置)を備えたディーゼルエンジン(以下単にエンジンという)1を有している。」という記載から、引用文献1に記載された油圧ショベルは、ディーゼルエンジンを有することが分かる。また、ディーゼルエンジンを燃料タンクから供給される燃料により駆動することは技術常識である。

(キ)上記(ア)の段落【0001】の「本発明は作業車両の排ガス後処理装置に係わり、特に、油圧ショベル等の建設機械やホイールローダ等の積み荷機械等の作業車両において、還元剤を用いて排ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元浄化する排ガス後処理装置に関する。」及び上記(イ)の段落【0029】の「本実施の形態の排ガス後処理装置は上記のような作業車両(油圧ショベル)に設けられるものであり、その排ガス後処理装置は、エンジン1の排気系を構成する排気管31に配置され、アンモニアを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を還元浄化する還元触媒32と、還元剤の前駆体である尿素水溶液を貯蔵するタンク33と、タンク33内に貯蔵された尿素水溶液を還元触媒32に供給する還元剤噴射供給装置34と、タンク33内に貯蔵された尿素水溶液の残量を検出する還元剤残量検出装置37と、タンク33内に貯蔵された尿素水溶液の成分を検出する還元剤成分検出装置38と、車体の状況(還元剤残量、還元剤成分、運転制限制御の有り無し等)をオペレータに知らせるための車体モニタ39と、リモコン弁17で生成した制御パイロット圧を流量制御弁15に伝達する油圧ラインに設けられた電磁開閉弁40と、コントローラ42とを備えている。」という記載から、引用文献1に記載された油圧ショベルは、エンジン1の排気系を構成する排気管31に配置され、アンモニアを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を還元浄化する還元触媒32と、還元剤の前駆体である尿素水溶液を貯蔵するタンク33と、タンク33内に貯蔵された尿素水溶液の残量を検出する還元剤残量検出装置37と、車体の状況(還元剤残量、還元剤成分、運転制限制御の有り無し等)をオペレータに知らせるための車体モニタ39とを有することが分かる。

(ク)上記(ウ)の段落【0047】の「タンク33内の尿素水溶液の消費が進み、タンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量より少なくなると、コントローラ42は、動作IIの処理を選択する。この動作IIの処理では、コントローラ42は尿素水噴射制御を通常作動とし、かつエンジン及び油圧システムを通常作動とし、モニタ警告を有りとする。これにより車体モニタ39に、タンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告、及びそのまま油圧ショベルの運転を継続し、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨の警告が表示される。」という記載及び図4の記載から、引用文献1に記載された油圧ショベルは、タンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったときに、車体モニタ39に、タンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告、及びそのまま油圧ショベルの運転を継続し、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨の警告が表示されることが分かる。

(ケ)上記(ウ)の段落【0048】の「タンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなり、車体モニタ39に警告が表示された後、タンク33内の尿素水溶液の消費が更に進み、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量より少なくなると、コントローラ42は、動作IIIの処理を選択する。この動作IIIの処理では、コントローラ42は尿素水噴射制御を不作動とし、かつエンジン1及び油圧システムの運転制限制御を行い、モニタ警告を有りとする。これにより油圧ショベルは、エンジン1の再始動不可(エンジン1を一旦停止した後は再始動禁止)の状態でかつ油圧システムのフロント動作禁止の状態となる。また、車体モニタ39に、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告、及びタンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなったため、エンジン1及び油圧システムが運転制限制御状態である旨を表示する。」という記載及び図4の記載から、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御を行い、車体モニタ39に、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告、及びタンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなったため、エンジン1及び油圧システムが運転制限制御状態である旨を表示することが分かる。

イ 引用発明
上記アの記載及び図面の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

<引用発明>
「油圧アクチュエータ13及び油圧ポンプ10により駆動されるブーム111及びアーム112と、
燃料タンクから供給される燃料により駆動するディーゼルエンジン1と、
前記ディーゼルエンジン1の排気系を構成する排気管31に配置された還元触媒32と、
タンク33内に貯蔵された尿素水溶液の残量を検出する還元剤残量検出装置37と、
前記還元剤残量検出装置37の検出結果に基づき前記尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったときに、車体モニタ39にタンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告を表示するコントローラ42と、
前記還元剤残量検出装置37の検出結果に基づき前記尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなったときに、ディーゼルエンジン1及び油圧システムの運転制限制御を行うコントローラ42と、
前記コントローラ42による運転制限制御の実行時期を、前記還元剤残量検出装置37の検出結果に基づき、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨の警告を運転者に知らせる車体モニタ39及びコントローラ42と、を有し、
前記車体モニタ39には尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告が表示されるとともに、そのまま油圧ショベルの運転を継続し、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨が警告として表示される、
油圧ショベル。」

(2)-2 引用文献2
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願のもとの出願の出願前に頒布された引用文献である、特開2011-220213号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。

(ア)「【0001】
本発明は、建設機械の内燃機関における排気ガス浄化システム及び排気ガス浄化方法に係り、さらに詳しくは、ディーゼルエンジン等の排気ガス中のNOxを浄化する選択的接触還元触媒(SCR触媒)を備えた建設機械の内燃機関における排気ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排気ガスには、煤やSOF(Soluble Organic Fraction)などの粒子状物質(以下、PMという)や窒素酸化物(以下、NOxという)が含まれているため、これらを除去した後に大気中に排出する必要がある。この要求に対して、ディーゼルエンジン(以下、エンジンという)の排気管の途中にPM捕集用のDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)とNOxを浄化するNOx還元触媒とを、上流側から下流側に順次直列に配置した排気ガスの浄化装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。」

(イ)「【0016】
以下に、本発明の建設機械の内燃機関における排気ガス浄化システムの一実施の形態を図面を用いて説明する。図1は本発明の建設機械の内燃機関における排気ガス浄化システムの一実施の形態を示すシステム構成図である。
【0017】
図1において、1はエンジン、2はエンジンの排気通路に連設された排気ガス浄化装置を示している。エンジン1は各気筒共通のコモンレール3を備えている。コモンレール3に蓄えられた高圧の燃料(軽油)は、各気筒に設けられたインジェクタ4に供給され、各インジェクタ4からそれぞれの気筒内に噴射されている。
【0018】
吸気通路5にはターボチャージャ6が装備されていて、図示しないエアクリーナから吸入された吸気は、吸気通路5からターボチャージャ6のコンプレッサ6aへと流入し、コンプレッサ6aで過給された吸気はインタークーラ7及び吸気制御弁8を介して吸気マニホールド9に導入されている。
【0019】
一方、エンジン1からの排気は、排気マニホールド10及びターボチャージャ6のタービン6bを介して排気管11に流入している。排気マニホールド10と吸気マニホールド9との間には、EGR弁12を介して連通するEGR通路13が設けられている。排気管11の一端側はターボチャージャ6のタービン6bの吐出側に接続され、排気管11の他端側は排気ガス浄化装置2の一端側に接続されている。また、タービン6bの回転軸はコンプレッサ6aの回転軸と連結されている。排気管11に流入する排気が、タービン6bの図示しないタービン翼に衝突し、タービン6bとコンプレッサ6aとを駆動している。
【0020】
排気ガス浄化装置2は、排気通路の上流から順に前段酸化触媒20、排気ガスに含まれるPMを捕集するDPF21、NOx浄化触媒22、SCR触媒23、後段酸化触媒24より構成される。
【0021】
前段酸化触媒20は、排気中のNOを酸化させてNO_(2)を生成し、このNO_(2)を酸化剤としてDPF21に供給するものである。また、DPF21は、ハニカム型のコージェライト担体からなる。
【0022】
このように前段酸化触媒20とDPF21とを配置することにより、DPF21に捕集され堆積しているPMは、前段酸化触媒20から供給されたNO_(2)と反応して酸化し、DPF21の連続再生が行われるようになっている。このNO_(2)は、O_(2)よりエネルギー障壁が小さいため、低い温度でDPF21に捕集されたPMを酸化除去できるという特徴がある。
【0023】
前段酸化触媒20とDPF21との間には、DPF21の入口側の排気温度を検出する排気温度センサ(DPF入口)40と、DPF21前後の排気差圧を検出する排気差圧センサ42とが設けられている。排気差圧センサ42によって検出された排気差圧は、DPF21の詰まり具合を判断するデータとして用いられている。
【0024】
NOx浄化触媒22は排気ガスの一酸化炭素(CO)を還元剤に用いて、排気ガスのNOxを還元浄化する触媒である。排気ガスに含まれるCOを利用するため、還元剤コストがかからないというメリットがある。例えば、イリジウムを酸化タングステン及びシリカからなる複合体に担持したことからなることを特徴とする一酸化炭素による窒素酸化物を選択的に還元する還元用触媒などが知られている。本実施の形態において、NOx浄化触媒22の上流側と下流側には、NOxの濃度を検出するNOxセンサ(NOx浄化触媒上流)43とNOxセンサ(SCR触媒上流)44とが設けられている。
【0025】
SCR触媒23の上流には、後述する尿素水溶液を噴射供給する噴射ノズル55と入口側の排気温度を検出する排気温度センサ(SCR触媒入口)45とが設けられている。噴射ノズル55は還元剤噴射装置54に接続されている。噴射ノズル55から噴射された尿素水溶液は、排気熱により熱分解又は加水分解してアンモニアとなり、SCR触媒23に供給される。また、SCR触媒23の下流には、下流側のNOxの濃度を検出するNOxセンサ(SCR触媒下流)46が設けられている。
【0026】
SCR触媒23は供給されたアンモニアを吸着し、吸着したアンモニアと排気中のNOxとの脱硝反応を促進することにより、NOxを浄化して無害なN_(2)とする。」

(ウ)上記(ア)及び(イ)から、引用文献2には、ディーゼルエンジン1から排出される排気ガスを大気中に排出する前に浄化するための排気ガス浄化システムとして、ターボチャージャ6のタービン6bの下流に設けられたPM(粒子状物質)捕集用のDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)21と、前記DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)21の下流に設けられ、NOxを浄化するSCR触媒(選択的接触還元触媒)23とを有する排気ガス浄化システムが記載されていることが分かる。

イ 引用文献2技術
上記アの記載及び図面の記載を総合すると、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2技術」という。)が記載されていると認める。

「ディーゼルエンジン1から排出される排気ガスを大気中に排出する前に浄化するためにターボチャージャ6のタービン6bの下流に設けられたDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)21と、
前記DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)21の下流に設けられたSCR触媒(選択的接触還元触媒)23とを有する排気ガス浄化システム。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「油圧アクチュエータ13及び油圧ポンプ10」は、その機能、構造、又は技術的意義からみて、本件補正発明における「油圧ポンプ」に相当し、以下同様に、「ブーム111」は「ブーム」に、「アーム112」は「アーム」に、「ディーゼルエンジン1」は「ディーゼルエンジン1」に、「還元触媒32」は「選択還元触媒」に、「タンク33」は「液体還元剤タンク」に、「貯蔵された」は「貯留された」に、「尿素水溶液」は「液体還元剤」に、「還元剤残量検出装置37」は「残量検出装置」に、「尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったとき」は「液体還元剤が既定残量となったとき」に、「車体モニタ39」は「表示装置」に、「タンク33内の尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告」は「液体還元剤の減少を示す警報表示」に、「コントローラ42」は「警報表示手段」及び「エンジン運転条件制限手段」に、「ディーゼルエンジン1及び油圧システムの運転制限制御」は「ディーゼルエンジンの運転条件制限」に、「油圧ショベル」は「ショベル」に、それぞれ相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、
「油圧ポンプにより駆動されるブーム及びアームと、
燃料タンクから供給される燃料により駆動するディーゼルエンジンと、
選択還元触媒と、
液体還元剤タンクに貯留された液体還元剤の残量を検出する残量検出装置と、
前記残量検出装置の検出結果に基づき前記液体還元剤が既定残量となったときに表示装置に前記液体還元剤の減少を示す警報表示を行う警報表示手段と、
前記残量検出装置の検出結果に基づき、前記ディーゼルエンジンの運転条件制限を行うエンジン運転条件制限手段と、を有し、
前記表示装置には前記液体還元剤の減少を示す前記警報表示が表示される、
ショベル。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件補正発明においては、「前記ディーゼルエンジンからの排気ガスを大気中に排出する前に浄化するためにターボチャージャの下流に設けられたディーゼルパティキュレートフィルタと、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの下流に設けられた選択還元触媒」を有するのに対し、引用発明においては、「前記ディーゼルエンジン1の排気系を構成する排気管31に配置された還元触媒32」を有するものの、ターボチャージャ及びディーゼルパティキュレートフィルタを有するか否か並びにターボチャージャ及びディーゼルパティキュレートフィルタと選択還元触媒との位置関係が明らかでない点。

<相違点2>
本件補正発明においては、「前記エンジン運転条件制限手段による運転条件制限の実行時期を、前記残量検出装置の検出結果に基づき、運転者に告知する実行時期告知手段と、を有し」、表示装置には「前記運転条件制限の実行時期が告知として表示される」のに対し、引用発明においては、「前記コントローラ42による運転制限制御の実行時期を、前記還元剤残量検出装置37の検出結果に基づき、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨の警告を運転者に知らせる車体モニタ39及びコントローラ42と、を有し」、車体モニタ39には「そのまま油圧ショベルの運転を継続し、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨が警告として表示される」点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献2には、「ディーゼルエンジン1から排出される排気ガスを大気中に排出する前に浄化するためにターボチャージャ6のタービン6bの下流に設けられたDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)21と、前記DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)21の下流に設けられたSCR触媒(選択的接触還元触媒)23とを有する排気ガス浄化システム。」(上記「引用文献2技術」)が記載されている。
引用発明と、引用文献2技術とは、ともに、ディーゼルエンジンの排気浄化の技術分野において、SCR触媒(選択的接触還元触媒)を利用するものである。
したがって、引用発明と、引用文献2技術とは、技術分野の共通性及び課題の共通性を有するから、組み合わせの動機付けが存在する。
してみると、引用発明において、引用文献2技術を適用することにより、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
本件補正発明における「前記エンジン運転条件制限手段による運転条件制限の実行時期を、前記残量検出装置の検出結果に基づき、運転者に告知する実行時期告知手段と、を有し」、表示装置には「前記運転条件制限の実行時期が告知として表示される」という事項の技術的意義を知るために、本願の明細書を参照する。
本願明細書の段落【0008】には、「液体還元剤の残量が少なくなり、これに伴いエンジンの運転条件制限を行うことが必要となった際、運転条件制限の実行前にこれを運転者に告知しうるショベルを提供することを目的とする。」と記載されている。また、段落【0040】には、「これに対し、本実施形態では、ステップ13による警報の表示と同時又は後で、ステップ15による動作(II)の実行前に、ステップ14においてカウントダウンを実施する構成としている。このカウントダウンは、運転条件制限の実行時期を運転者に告知するために実施されるものである。」と記載され、段落【0043】には「同図に示すように、モニター7にはステップ13による警報表示M1と共に、ステップ14によるカウントダウン表示M2及びカウントダウン終了後に実行される運転条件制限の表示M3が表示されている。本実施形態に係るカウントダウン表示M2は、10本の長さの異なるバー表示が時間経過と共に色変化(例えば、白から黒に変化)する構成とされている。よって、運転者はカウントダウン表示M2により、後どの位で運転条件制限が実行されるのかを判断することができる。」と記載されている。これらの記載からみて、本件補正発明における「実行時期」とは、具体的な時刻や正確な時間と特定されるものではなく、「後どの位で運転条件制限が実行されるのかを判断することができる」程度のものであれば良いことが分かる。
一方、引用発明は、「前記コントローラによる運転制限制御の実行時期を、前記還元剤残量検出装置37の検出結果に基づき、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨の警告を運転者に知らせる車体モニタ39及びコントローラ42と、を有し」、「前記車体モニタ39には尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったことと、尿素水溶液の補充を促す旨の警告が表示されるとともに、そのまま油圧ショベルの運転を継続し、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨が警告として表示される」ものである。すなわち、尿素水溶液の残量が第2所定量(例えば5L)より少なくなったときに、尿素水溶液の残量が少なくなったことを知らせ、さらに、そのまま油圧ショベルの運転を継続し、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨が警告として表示されるものであるから、運転者は、「あと尿素水溶液2L」で運転制限制御が実行されることを知ることができるものである。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、運転制限制御の実行時期を事前に知ることができるという点で共通しており、「後どの位で運転条件制限が実行されるのかを判断することができる」点でも一致している。
そして、引用発明における「タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなる」時期は、「コントローラによる運転制限制御の実行時期」であるから、本件補正発明における「運転条件制限の実行時期」に相当し、引用発明の「前記還元剤残量検出装置37の検出結果に基づき、タンク33内の尿素水溶液の残量が第3所定量(例えば3L)より少なくなると、エンジン1及び油圧システムの運転制限制御が実行される旨の警告を運転者に知らせる車体モニタ39及びコントローラ42」は本件補正発明の「前記残量検出装置の検出結果に基づき、運転者に告知する実行時期告知手段」に相当するといえる。
以上のことから、上記相違点2は、実質的な相違点ではないといえる。

補足的に、仮に、本件補正発明における「運転条件制限の実行時期」が「何分後」というような具体的な時間と特定される場合について検討する。
引用発明においては、車体モニタ39に、還元剤である尿素水溶液の残量を表示するものである(引用文献1の段落【0029】を参照。)から、熟練した運転者であれば、「尿素水溶液の残量が何Lなので、運転制限制御開始まであと何分」と判断できるものである。また、尿素水溶液の残量が棒グラフ等のインジケーターにより表示されるのであれば、それは、尿素水溶液の残量と同時に、運転制限制御開始までの時間も表示しているといえる。そうすると、「運転条件制限の実行時期」を還元剤である尿素水溶液の残量により表示するか、何分後という具体的な時間で表示するかは、設計事項にすぎない。
また、建設機械のエンジンの技術分野において、燃料等の残量から稼働可能時間を計算して表示する技術は周知技術(例えば、平成29年4月11日付け拒絶理由通知書において引用された特開平10-83467号公報の段落【0003】、【0019】及び図2、特開平10-288058号公報の段落【0007】、【0042】、【0043】及び図11等の記載を参照。)である。ここで、引用発明における尿素水溶液は燃料の消費に伴って消費されるものであるから、両者は密接な関連があるものである。
そうすると、仮に、本件補正発明における「運転条件制限の実行時期」が「何分後」というような具体的な時間と特定されるとしても、引用発明において、上記周知技術における「残量から稼働可能時間を計算して表示する技術」を適用することにより、上記相違点2に係る発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 作用効果について
そして、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2技術から、又は引用発明、引用文献2技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

エ まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2技術に基づいて、又は引用発明、引用文献2技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年10月4日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年1月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1ないし8に係る発明は、本願のもとの出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2009-127521号公報
引用文献2:特開2011-220213号公報
引用文献3:特開平10-83467号公報
引用文献4:特開平10-288058号公報
引用文献5:特開2011-196264号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2並びにその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「ディーゼルエンジン」、「警報表示」及び「表示装置」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2技術に基づいて、又は引用発明、引用文献2技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2技術に基づいて、又は、引用発明、引用文献2技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-07-17 
結審通知日 2018-07-24 
審決日 2018-08-07 
出願番号 特願2016-17553(P2016-17553)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
P 1 8・ 575- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴菅家 裕輔  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 金澤 俊郎
水野 治彦
発明の名称 ショベル  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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