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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1344547
審判番号 不服2017-10975  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-24 
確定日 2018-09-27 
事件の表示 特願2015-214406「光学素子」拒絶査定不服審判事件〔平成29年5月18日出願公開,特開2017-83761〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-214406号(以下「本件出願」という。)は,平成27年10月30日を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年 2月 8日付け:拒絶理由通知書
平成29年 4月10日付け:意見書
平成29年 4月10日付け:手続補正書
平成29年 4月18日付け:拒絶査定
平成29年 7月24日付け:審判請求書
平成30年 5月10日付け:拒絶理由通知書
平成30年 6月20日付け:意見書(以下「本件意見書」という。)
平成30年 6月20日付け:手続補正書
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。)

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 二色性染料を材料として含み,入射した光を偏光させる偏光子を備える偏光フィルムと,前記偏光フィルムの一方の面のみに積層された樹脂基材と,を備える光学素子であって,
前記偏光フィルムと前記樹脂基材との間に非晶系ポリエステル樹脂からなるアンカー層を備えることを特徴とする光学素子。」

3 当合議体の拒絶の理由
平成30年5月10日付けで通知した当合議体の拒絶の理由は,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開平10-170707号公報
引用文献2:特開2010-262112号公報

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明等
(1) 引用文献1の記載
当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものである(以下同じ。)。
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,光の指向性が小さく,反射輝度の高い,かつ大型化にも対応できる液晶表示装置の偏光板用反射シートに関する。
…(省略)…
【0011】
【発明の実施の形態】図1は本発明の偏光板用反射シートの構成を示し,プラスチックフィルム9の片面にマット層10,金属蒸着層12およびオーバーコート層13を順次積層したものである。このように構成された偏光板用反射シート8は,粘着層15に保護フィルム16の付けられた偏光板7に粘着層14で取り付けられている。
(当合議体注:図1は以下の図である。

)
…(省略)…
【0024】本発明においては,前記マット層10に金属蒸着層12を設け,マット層10と金属蒸着層12との接着性およびそれに伴う耐久性を向上するために,マット層10と金属蒸着層12との間にアンカー層11を設けることが好ましい。アンカー層11は例えばポリエステル系樹脂やエポキシ樹脂等と,イソシアネート系等の架橋剤との混合物を用いて形成される。
…(省略)…
【0027】
【実施例】
…(省略)…
【0032】プラスチックフィルム9として厚さ38μmの二軸延伸のポリエステルフィルムを用い,二軸延伸のポリエステルフィルムの片面に,前記フィラーと樹脂との混合溶液を5g/m^(2)(wet)となるようにグラビア印刷にてコーティングした。次いで乾燥温度170℃,滞留時間30秒で硬化反応を行い,乾燥膜厚が約1.5μmのマット層10を得た。
…(省略)…
【0036】次いで,得られたマット層10の表面に,ポリエステルポリオール(東洋紡社製,商品名:バイロン200)とイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製,商品名:コロネートL)との混合物からなる膜厚0.03μmのアンカー層11を設けた。
【0037】このアンカー層11の表面に,銀を真空蒸着により厚さ600?1000Åに積層して金属蒸着層12を設けた。この銀蒸着面を保護するために,前記アンカー層11と同様のポリエステルポリオールとイソシアネート系架橋剤との混合物を用いて,膜厚0.3μmのオーバーコート層13を設け,偏光板用反射シート8を作成した。
…(省略)…
【0040】次に,得られた偏光板用反射シート8のオーバーコート層13の表面に,粘着層14を形成した。この粘着層14は,アクリル酸エステルを主成分とする粘着剤100重量部に対してエポキシ系架橋剤1.2重量部(各固形分比)を加えて得た粘着層用塗液(固形分濃度30重量%)を30g/m^(2)に塗布乾燥して形成したものである。
【0041】また,厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる保護フィルム17の片面に前記と同様の粘着層用塗液30g/m^(2) 塗布乾燥して粘着層15を形成した。その後,ポリビニルアルコールフィルムの両面にセルローストリアセテート層を形成してなる偏光板7の片面には,ドライラミネーション法にて前記反射シート8を貼り合わせ,他方の面には,前記粘着層15の付いた保護フィルム16を貼り合わせた。
【0042】得られた反射シート付き偏光板の光の指向性を,図3に示す。
(当合議体注:図3は以下の図である。

)」

(2) 引用発明1
引用文献1の【0032】?【0042】には,次の発明が記載されている(以下「引用発明1」という。)。
「 プラスチックフィルム9として厚さ38μmの二軸延伸のポリエステルフィルムを用い,二軸延伸のポリエステルフィルムの片面に,乾燥膜厚が約1.5μmのマット層10を設け,
マット層10の表面に,ポリエステルポリオール(東洋紡社製,商品名:バイロン200)とイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製,商品名:コロネートL)との混合物からなる膜厚0.03μmのアンカー層11を設け,
このアンカー層11の表面に,銀を真空蒸着により厚さ600?1000Åに積層して金属蒸着層12を設け,この銀蒸着面を保護するために,前記アンカー層11と同様のポリエステルポリオールとイソシアネート系架橋剤との混合物を用いて,膜厚0.3μmのオーバーコート層13を設け,偏光板用反射シート8を作成し,
得られた偏光板用反射シート8のオーバーコート層13の表面に,粘着層14を形成し,
ポリビニルアルコールフィルムの両面にセルローストリアセテート層を形成してなる偏光板7の片面に反射シート8を貼り合わせ,他方の面に粘着層15の付いた保護フィルム16を貼り合わせてなる,
反射シート付き偏光板。」

(3) 引用文献2の記載
当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2には,以下の記載がある。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,高い耐水性,高い耐衝撃性および高い偏光度を有する偏光光学物品,例えば,偏光ゴーグル,偏光サングラス,偏光度付きゴーグル,偏光度付きサングラス,偏光シールドなどの偏光光学物品を提供する技術に関する。」

イ 「【背景技術】
【0002】
太陽光やライトの反射光による眩しさを防止する目的で,偏光性能を有する眼鏡やサングラスやゴーグルなどの偏光光学物品が使用されている。
…(省略)…
【0004】
…(省略)…セルローストリアセテート系偏光板の1つの面にプラスチックフィルムを貼付,積層し,得られた積層体を射出成形機の金型にインサートし,プラスチックフィルム面にバックアップ樹脂を射出成形する光学用積層成形品の製造方法が提案されている(特許文献2)。
…(省略)…
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示された方法は,貼付するプラスチックフィルムがバックアップ樹脂と熱接合するように,バックアップ樹脂側に配置されるために,この方法で製造する偏光光学物品の少なくとも1面は,耐水性の劣るセルローストリアセテートフィルムとなる。そのため,この方法で製造した偏光レンズや偏光サングラスは,水や汗にさらされると,表面から浸透した水分によって,偏光子シートとセルローストリアセテートフィルムの間の接着剤による接着力が弱まり,ついには,その界面で剥離するという問題があった。
…(省略)…
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題に鑑み,本発明者らは,アシルセルロース系偏光板を含み,耐水性をも付与された偏光光学物品について鋭意検討した結果,アシルセルロース系偏光板を包埋して外部に露出しない技術を確立することによってかかる課題を解決することに成功し,本発明を完成するに至った。
…(省略)…
【発明の効果】
【0025】
安価なアシルセルロース系偏光板,なかでもトリアセチルセルロース系偏光板(以下,本明細書中において「TAC偏光板」という)を用い,高い耐水性,高い耐衝撃性,高い偏光度の偏光光学物品(例えば,偏光ゴーグル,偏光サングラス,偏光度付きゴーグル,偏光度付きサングラス,偏光シールド)を安価に提供できる。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は,第1の態様において,アシルセルロース系偏光板を包埋して含む偏光光学物品を提供する。
本発明の偏光光学物品に用いるアシルセルロース系偏光板は,1の偏光子シートの両方の面を2のアシルセルロースシートで挟持および保護する積層構造体である。
偏光子シートの主成分は,通常,ポリビニルアルコールまたはその変性体である。
…(省略)…
【0028】
高い偏光度を得るために,1軸延伸する前の段階,あるいは1軸延伸中または1軸延伸した後の段階で,ヨウ素または二色性染料を偏光子シートにドープすることができる。
本発明で用いる偏光子シートには,ヨウ素ドーピング法または染料ドーピング法のいずれの方法をも適用できる。
…(省略)…
【0029】
一方,染料ドーピング法によりドーピングした偏光子シートは,ヨウ素ドーピング法による偏光子シートよりも高い耐熱性を有するが,染料によって偏光度が異なるので,色相によっては,偏光度が異なることがある。
…(省略)…
【0037】
本発明で用いるバックアップ樹脂層は,好ましくはポリカーボネート系樹脂,ポリ(メタ)アクリレート系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリウレタン系樹脂またはポリエステル系樹脂からなる。
…(省略)…
【0064】
本発明は,第2の態様において,上記した偏光光学物品の製造方法を提供する。
本発明の偏光光学物品の製造方法は,
1)偏光子シートの両方の面にアシルセルロースシートを貼付してアシルセルロース系偏光板を製造する工程,および
2)該アシルセルロース系偏光板の両方の面および外周面にバックアップ樹脂,樹脂シートおよび/または耐水性被覆材を成形,貼付および/または被覆して該アシルセルロース系偏光板を包埋する工程
を含む。
【0065】
パックアップ樹脂の射出成形または樹脂シートの貼付工程は,曲げ加工する前後に,アシルセルロース系偏光板のいずれかまたは両方の面に行うことができる。
【0066】
また,アシルセルロース系偏光板にキズが付くのを防止するために,曲げ加工する前に,アシルセルロース系偏光板のいずれかまたは両方の面に保護シートを貼付することもできる。
【0067】
アシルセルロース系偏光板を本発明の偏光光学物品に適用する態様として,次の3ケースが考えられる。
すなわち,アシルセルロース系偏光板をそのまま用いる場合(ケース1)と,アシルセルロース系偏光板の1つの面に,予めアシルセルロース以外の第1の樹脂シートを貼付する場合(ケース2)と,アシルセルロース系偏光板の両方の面に,予めアシルセルロース以外の第1の樹脂シートおよび第2の樹脂シートをそれぞれ貼付する場合(ケース3)である。
【0068】
ケース1では,アシルセルロース系偏光板の1つの面または両方の面に,バックアップ樹脂やキャスト成形樹脂との熱接合性または親和性を増す目的で,接着剤または粘着剤を塗布することがある。
…(省略)…
【0081】
ケース1では,アシルセルロース系偏光板のいずれの面が凸面になってもよい。ケース2とケース3では,一般に,第1の樹脂シートが凸面側にくるようにする。
…(省略)…
【0083】
第1の製造方法
金型直径よりも小さな径のアシルセルロース系偏光板を用意し,球面形状に曲げ加工する。「金型直径よりも小さな径のアシルセルロース系偏光板」とは,曲げ加工した後の見かけの直径が金型直径よりも小さいことを意味する(以下同じ)。
【0084】
曲げ加工した該アシルセルロース系偏光板を,凸面を下にして,縦型射出成形機の金型の中央に,水平にセットする(横型射出成形機の場合は,垂直にセットする。以下同じ)。金型を閉じ,後面にバックアップ樹脂を射出成形する。出来上がったものは,凸面が偏光板,凹面がバックアップ樹脂のレンズ状物であり,かつ,アシルセルロース系偏光板径よりもバックアップ樹脂部の径が大きいので,偏光板の外縁部にバックアップ樹脂がリング状に延在する。
上記成形体を射出成形機の金型にセットし,今度は凸面側にバックアップ樹脂を射出成形する。
【0085】
その結果,アシルセルロース系偏光板の外縁部のリング状部分において,レンズ後面のバックアップ樹脂と前面のバックアップ樹脂が接合されることになり,内部にアシルセルロース系偏光板を包埋する偏光光学物品が製造される。水や湿度に弱いアシルセルロース系偏光板をバックアップ樹脂に包埋することによって,雨や汗などの外部環境から守ることができる。
…(省略)…
【0091】
第2-2の製造方法
金型直径とほぼ等しい径のアシルセルロース系偏光板を用意し(該アシルセルロース系偏光板に,事前に該第1の樹脂シートを貼付しておき,打ち抜き加工すれば,該アシルセルロース系偏光板と該第1の樹脂シートの直径が同じにできる),該アシルセルロース系偏光板の直径とほぼ同等の第1の樹脂シートを,該アシルセルロース偏光板の中央に貼付して積層体にする。「金型直径とほぼ等しい径のアシルセルロース系偏光板」とは,曲げ加工した後の見かけの直径が金型直径とほぼ等しいことを意味する。
【0092】
該積層体を,第1の樹脂シートが凸面にくるように球面またはシリンダー形状に曲げ加工する。曲げ加工した該積層体の凸面を下にして,縦型射出成形機の金型の中央に,水平にセットする。金型を閉じ,後面にバックアップ樹脂を射出成形する。
【0093】
偏光板の径とバックアップする樹脂の径がほぼ等しいので,出来上がったものは,アシルセルロース系偏光板の外周面が露出した偏光光学物品になる。
この状態では,アシルセルロース系偏光板の露出面が水に弱いので,アシルセルロース系偏光板の少なくとも外周面だけは耐水性被覆材で被覆することが好ましい。被覆材がプライマーコートやハードコートの場合であって,該偏光光学物品の全体をディッピング法によって被覆する場合は,本発明の好ましい実施態様の1つである。
その結果,アシルセルロース系偏光板の外周面を,第1の樹脂シートとバックアップ樹脂と被覆材とで包埋する偏光光学物品が製造される。
【0094】
この場合の包埋は,アシルセルロース系偏光板がバックアップ樹脂と第1の樹脂シートと耐水性被覆材との中に閉じ込められた状態を意味し,水や湿度に弱いアシルセルロース系偏光板を,雨や汗などの外部環境から守ることができる。
…(省略)…
【実施例】
【0111】
実施例1 第1の製造法例
1軸延伸法と染料ドーピング法で調製された厚さ約30μmのポリビニルアルコールシート(3)の両方の面を2枚のセルローストリアセテートシート(1aおよび1b)(厚さ約100μm。キャスト製膜法で調製)で侠持(当合議体注:「侠持」は「挟持」の誤記)し,接着剤(2aおよび2b)で貼付した,全体の厚さ約450μmのアシルセルロース系偏光板(4a)(住友化学製。以下TAC偏光板と呼称する)を用意した。
【0112】
TAC偏光板の両方の面に,ポリエステル系ポリウレタン接着剤を約20μmの厚さで塗布し,リリース機能のあるポリプロピレン保護シートを貼付した。
つづいて,このTAC偏光板を直径78mmの円形に切り取り,約125℃の条件で8カーブの球面形状に曲げ加工した。つづいて,凹面側のポリプロピレン保護シートを剥離除去した。
つづいて,直径83mm,かつ8カーブの球面形状を有する金型をそなえた縦型射出成形機の凹面金型の中央に,該曲げ加工したTAC偏光板をインサートとして,水平にセットした。
凹面金型と凸面金型を重ね合わせて金型を閉じ,TAC偏光板の凹面側に,高い耐衝撃性で知られるポリカーボネート樹脂をバックアップ樹脂として射出成形した。出来上がったものは,凸面がTAC偏光板,凹面が厚さ約1mmのポリカーボネート樹脂のレンズ状物であり,かつ,偏光板の外縁部に,約4mm幅のポリカーボネート樹脂のリングが延在した。
つづいて,該レンズ状物の凸面側のポリプロピレン保護シートを剥離,除去する。該レンズ状物を縦型成形機の凸面金型の中央に吸引固定し,凸面側にポリカーボネート樹脂をバックアップ樹脂として射出成形した。
出来上がったものは,TAC偏光板が偏光光学物品の中央にあり,TAC偏光板の凸面側と凹面側とが,それぞれ厚さ約1mmのポリカーボネート樹脂で覆われ,かつ,TAC偏光板の外縁部を,約4mm幅でポリカーボネート樹脂に隈取された偏光光学物品である。
出来上がった偏光光学物品の偏光度は96.1%であった。また,該光学物品を室温の水に72時間浸漬したところ,TAC偏光板が剥離することはなく,雨や汗などの外部環境からTAC偏光板をよく保護していることが分かった。
…(省略)…
【符号の説明】
【0137】
…(省略)…
4a TAC偏光板
4b 第2-1と第2-2の製造法で用いた第1の樹脂シートを貼付したTAC偏光板
…(省略)…
6 第1の樹脂シート
…(省略)…
9a,9b バックアップ樹脂
10 バックアップ樹脂の接合面
11 実施例1の偏光光学物品の断面
…(省略)…
13 接着剤
14 バックアップ樹脂
…(省略)…
16 プライマーコートとハードコート
17 実施例8の偏光光学物品」

エ 図4


オ 図7


(4) 引用発明2
引用文献2には,実施例1として,次の発明が記載されている(以下「引用発明2」という。)。
「 TAC偏光板の両方の面に,ポリエステル系ポリウレタン接着剤を約20μmの厚さで塗布し,高い耐衝撃性で知られるポリカーボネート樹脂をバックアップ樹脂として射出成形してなり,
TAC偏光板が偏光光学物品の中央にあり,TAC偏光板の凸面側と凹面側とが,それぞれ厚さ約1mmのポリカーボネート樹脂で覆われ,かつ,TAC偏光板の外縁部を,約4mm幅でポリカーボネート樹脂に隈取された偏光光学物品であって,
TAC偏光板は,1軸延伸法と染料ドーピング法で調製された厚さ約30μmのポリビニルアルコールシートの両方の面を2枚のセルローストリアセテートシートで挟持し,接着剤で貼付した,全体の厚さ約450μmのアシルセルロース系偏光板である,
偏光光学物品。」

2 対比及び判断
(1) 対比
事案に鑑みて,まず,本願発明と引用発明2を対比すると以下のとおりとなる。
ア 偏光フィルム
引用発明2の「TAC偏光板」は,「1軸延伸法と染料ドーピング法で調製された厚さ約30μmのポリビニルアルコールシートの両方の面を2枚のセルローストリアセテートシートで挟持し,接着剤で貼付した,全体の厚さ約450μmのアシルセルロース系偏光板である」。
ここで,偏光子に関する技術常識を勘案すると,引用発明2の「1軸延伸法と染料ドーピング法で調製された厚さ約30μmのポリビニルアルコールシート」は,二色性染料を材料として含み,入射した光を偏光させる偏光子といえる。また,引用発明2の「アシルセルロース系偏光板」は,「ポリビニルアルコールシートの両方の面を2枚のセルローストリアセテートシートで挟持し,接着剤で貼付した,全体の厚さ約450μmの」ものであるから,偏光子としてのポリビニルアルコールシートを備えるフィルム形状のもの,すなわち,偏光フィルムということができる。
したがって,引用発明2の「ポリビニルアルコールシート」は,本願発明の「偏光子」に相当するとともに,引用発明2の「TAC偏光板」及び「アシルセルロース系偏光板」は,ともに本願発明の「偏光フィルム」に相当する。また,引用発明2の「TAC偏光板」は,本願発明の「二色性染料を材料として含み,入射した光を偏光させる偏光子を備える偏光フィルム」の要件を満たす。

イ 光学素子
引用発明2の「偏光光学物品」は,「TAC偏光板が偏光光学物品の中央にあり,TAC偏光板の凸面側と凹面側とが,それぞれ厚さ約1mmのポリカーボネート樹脂で覆われ,かつ,TAC偏光板の外縁部を,約4mm幅でポリカーボネート樹脂に隈取された」,「高い耐衝撃性で知られるポリカーボネート樹脂をバックアップ樹脂として射出成形して」なるものである。
そうしてみると,引用発明2の「厚さ約1mmのポリカーボネート樹脂」は,TAC偏光板の凸面側及び凹面側に積層された樹脂基材ということができる。また,引用発明2の「偏光光学物品」は,TAC偏光板と厚さ約1mmのポリカーボネート樹脂とを備えるものといえる。加えて,引用発明2の「偏光光学物品」は,その機能及び形状からみて,光学素子ということができる。
したがって,引用発明2の「偏光光学物品」と本願発明の「光学素子」は,「偏光フィルムと,前記偏光フィルムの一方の面」「に積層された樹脂基材と,を備える光学素子」の点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明2は,次の構成で一致する。
「 二色性染料を材料として含み,入射した光を偏光させる偏光子を備える偏光フィルムと,前記偏光フィルムの一方の面に積層された樹脂基材と,を備える光学素子。」

イ 相違点
本願発明と引用発明2は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「樹脂基材」が,本願発明は,前記偏光フィルムの一方の面「のみ」に積層されたものであるのに対して,引用発明2は,「TAC偏光板の凸面側と凹面側」,すなわち,偏光フィルムの一方の面「及び他方」の面に積層されたものである点。

(相違点2)
本願発明は,「前記偏光フィルムと前記樹脂基材との間に非晶系ポリエステル樹脂からなるアンカー層を備える」のに対して,引用発明は,これが明らかではない点。

(3) 判断
ア 相違点1について
引用文献2の【0067】には,「アシルセルロース系偏光板を本発明の偏光光学物品に適用する態様」として,「アシルセルロース系偏光板をそのまま用いる場合(ケース1)」に加えて,「アシルセルロース系偏光板の1つの面に,予めアシルセルロース以外の第1の樹脂シートを貼付する場合(ケース2)」が示唆されている。また,引用文献2の【0081】には,「ケース2とケース3では,一般に,第1の樹脂シートが凸面側にくるようにする。」と記載されている。そして,この場合のポリカーボネート樹脂は,TAC偏光板の凹面側のみに射出成型されることとなる(引用文献2の【0091】?【0094】の記載からも,確認することができる。)。
そうしてみると,引用発明2を,相違点1に係る本願発明の要件を満たすものとすることは,引用文献2において明示的に示唆された設計変更ということができる。

なお,本件出願の明細書の【0019】の記載からみて,本願発明は,偏光フィルムの他方の面に保護フィルムを設けてもよいものである。

イ 相違点2について
引用文献2の【0068】の記載を勘案すると,引用発明2の「ポリエステル系ポリウレタン接着剤」は,TAC偏光板とポリカーボネート樹脂との熱接合性又は親和性を増す目的で塗布された接着剤,すなわち,アンカー層をなすものといえる。また,引用発明2の「ポリエステル系ポリウレタン接着剤」は,「約20μmの厚さで塗布され」るものであるから,有機溶媒に易溶であることが望ましいといえる。
そうしてみると,引用発明2の「ポリエステル系ポリウレタン接着剤」を,非晶性ポリエステル樹脂を主材としウレタン結合により硬化が進む硬化剤を含む接着剤とすることは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項といえる。また,そのようにしてなる引用発明2は,相違点2に係る本願発明の構成を具備することとなる。

なお,本願発明のアンカー層は,「非晶系ポリエステル樹脂からなるアンカー層」である。しかしながら,本件出願の【0029】には,「アンカー層16は,以下の工程により形成することができる。まず,主剤を非晶系ポリエステル樹脂として,希釈剤としてシクロヘキサノン及び硬化剤としてイソシアネートを添加する。」と記載されている。したがって,本願発明の「アンカー層」には,「非晶性ポリエステル樹脂を主材としウレタン結合により硬化が進む硬化剤を含む接着剤」が含まれるというべきである。

(4) 本願発明の効果について
本願発明の効果に関して,本願の【0014】には,「本発明によれば,耐衝撃性や耐久性に優れ,偏光特性を有する光学素子を提供することができる。」と記載されている。
このような効果は,引用発明2も奏する効果である。

なお,本願発明の効果に関して,請求人は,本件意見書において,「本願請求項1に係る発明では,樹脂基材を偏光フィルムに設けることで光学素子の耐衝撃性を高めている。このとき,樹脂基材を偏光フィルムの一方の面のみに設けることで,両面に設けた構成に比べて光学素子を透過する際の光の減衰を抑えている。特に,光学素子を液晶表示装置の前面板に適用する場合,前面板を透過することによる表示装置からの光の減衰は装置の表示性能に大きく影響を及ぼすものであり,本願請求項1に係る発明によれば表示光の減少を抑制することができる。さらに,樹脂基材は光学異方性を有するため,偏光光を乱す要因となる。樹脂基材を両面に設けた場合,これを介して偏光光を偏光フィルムに入射させると,偏光フィルムの偏光軸に対して収率よく偏光光が吸収又は透過することができなくなり,偏光フィルムとしての効果が低下するおそれがある。これに対して,本願請求項1に係る発明によれば当該効果の低下を抑制することができる。」と主張する。
しかしながら,このような効果は,本件出願の明細書に記載された効果ではない。そもそも,本件出願の明細書には,偏光フィルムの一方の面のみに樹脂基材を積層することに関して,効果も含めて具体的な記載が一切存在しない(【0017】の記載とともに,図面から看取される程度のものにすぎない。)。したがって,請求人の主張は,参酌できない。
仮に参酌するとしても,そのような効果は,引用発明2を前記(3)アのごとく設計変更したものが奏する効果にすぎないから,引用文献2の記載から予測可能な効果にすぎない。

(5) 小括
本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である引用文献2に記載された引用発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

(6) 引用発明1について
引用発明2に替えて,引用発明1に基づいて検討しても,結論は同じである。
ア 相違点
本願発明と引用発明1を対比すると,両者は以下の点で相違する。
(相違点1)
「偏光子」に関して,本願発明は「二色性染料を材料として含み」という構成を具備するのに対して,引用発明1は,これが特定されていない点。

(相違点2)
「アンカー層」に関して,本願発明1は「非晶系ポリエステル樹脂からなる」という構成を具備するのに対して,引用発明1は,「ポリエステルポリオール(東洋紡社製,商品名:バイロン200)とイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製,商品名:コロネートL)との混合物からなる」点。

イ 判断
(相違点1について)
偏光子としての「ポリビニルアルコールフィルム」に含まれる二色性色素としては,「ヨウ素」とともに「二色性染料」が例示するまでもなく周知である。
相違点1に係る本願発明の構成は,当業者が引用発明1を具体化するに際しての,一選択肢にすぎない。

(相違点2について)
バイロン200が非晶性ポリエステル樹脂であること,及び本件出願の明細書の【0029】の記載を考慮すると,相違点2は,相違点ではない。

ウ 請求人の主張について
請求人は,本件意見書において「本願請求項1に係る発明は,二色性染料を用いた偏光子とすることと,樹脂基材との間に非晶系ポリエステルからなるアンカー層を適用すること,を組み合わせることによって生ずる新たな効果,すなわち高温プロセスに耐えられるようにすることで樹脂基材との剥がれを抑制すると共に光学特性を低下させないという効果が得られることを初めて見出したものであり,このような効果は引用文献1に開示されておらず,さらに示唆もされていない。また,他の引用文献においても開示及び示唆のいずれもされていない。なお,引用文献1に記載のアンカー層は,マット層のフィラー分散された樹脂層と金属の蒸着層(実施例では銀を使用)との間の接着性と耐久性を向上するために設けられている(段落0024を参照)に過ぎず,偏光フィルムの樹脂素材と樹脂基材との間の剥がれ等を抑制するものではない。さらに,引用文献1に記載のマット層は,プラスチックフィルムと金属蒸着層との接着性を向上させるために設けられている(段落0013を参照)ことからすると,アンカー層のみではプラスチックフィルムとの接合が不十分となることが想定される。したがって,引用文献1に記載のアンカー層によって偏光フィルムと樹脂基材の剥がれを抑制できるのか不明である。さらに,引用文献1に記載の発明は,液晶表示装置のような平面でかつ備え置き用途に用いられるものであって,本願発明のようなサングラスや前面板などの曲面を有する光学素子に関し,機械的な衝撃や熱サイクルによる偏光フィルムと樹脂基材との間に生ずる応力の影響による剥がれを抑制することが要求される技術分野とは大きく異なる。この違いからも,引用文献1に記載のアンカー層を用いることにより,当該剥がれを抑制できるのか不明である。」と主張する。
しかしながら,本願発明の「アンカー層」は,「前記偏光フィルムと前記樹脂基材との間に」備えられていれば良いものである。したがって,本願発明の「アンカー層」を,偏光フィルムと樹脂基材を接着する手段として限定的に解釈し,その効果を認めることはできない。仮に,本願発明の「アンカー層」が偏光フィルム及び樹脂基材を接着するためのものと理解しても,当業者ならば,ヨウ素に比して二色性色素の耐熱性が良いこと,及びアンカー層を設ければ接合性が改善することを心得ているから,請求人が主張する効果は,予測される範囲内のものである。

エ 小括
本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である引用文献1に記載された引用発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-07-26 
結審通知日 2018-07-31 
審決日 2018-08-14 
出願番号 特願2015-214406(P2015-214406)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
樋口 信宏
発明の名称 光学素子  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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