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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1344627
審判番号 不服2017-17761  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-30 
確定日 2018-10-16 
事件の表示 特願2015-544059「全プラットフォーム電力制御」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 3日国際公開、WO2014/105140、平成28年 2月12日国内公表、特表2016-504669、請求項の数(30)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年6月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年12月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年7月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成29年11月30日に審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年7月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1-30に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2008-257578号公報
2.国際公開第93/07557号
3.特開2009-118441号公報
4.特開2003-295986号公報

第3 本願発明
本願請求項1-30に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明30」という。)は、平成29年11月30日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-30に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
全プラットフォーム電力消費値に基づいて、プロセッサの一つまたは複数のプロセッサ・コアおよび前記プロセッサに結合された一つまたは複数のコンポーネントによる電力消費に修正を引き起こす、少なくとも一部がハードウェアである論理ユニットを有する装置であって、
前記全プラットフォーム電力消費値は、測定された、プラットフォームの全体によって消費される電力の値であり、前記プラットフォームは、前記プロセッサおよび前記一つまたは複数のコンポーネントを含むものであり、
前記全プラットフォーム電力消費値は、ブリックに結合された第一のアナログからデジタルへの変換器(ADC)およびバッテリーに結合された第二のADCからの信号に基づいて決定され、前記第一のADCまたは前記第二のADCは前記第一のADCまたは前記第二のADCによる電力測定に基づいて前記信号を生成するものである、
装置。」

本願発明2-10は、概略、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明11、14、19は、それぞれ、本願発明1に対応する、カテゴリ表現が異なる「方法」、「コンピュータ・プログラム」、「システム」の発明である。
本願発明12-13、本願発明15-18及び30、本願発明20-29は、それぞれ、概略、本願発明11、14、19を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審付与。以下同様。)。

(1) 段落【0010】-【0018】
「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、この発明の一実施形態を説明する。図1には、本実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成例が示されている。この情報処理装置は、例えばバッテリ駆動可能で携行容易なノートブックタイプのパーソナルコンピュータ1として実現されている。
【0011】
本コンピュータ1は、図1に示すように、コア(1)11a,コア(2)11b,コア(3)11c,コア(4)11dの4つの命令処理部(コア)を内蔵したCPU11を搭載するマルチコアCPU搭載システムである。なお、本実施形態で説明する本発明の省電力制御手法は、コアを2つ内蔵するいわゆるデュアルコアCPUを搭載するデュアルコアCPU搭載システムや、4つ以外の複数のコアを内蔵するいずれのタイプのマルチコアCPU搭載システムにおいても適用可能である。
【0012】
そして、図1に示すように、本コンピュータ1は、このCPU11をはじめとして、ホストコントローラ12、メインメモリ13、表示コントローラ14、表示装置15、表示用メモリ16、I/Oコントローラ17、記憶装置18、エンベデッドコントローラ/キーボードコントローラ(EC/KBC)19、電源コントローラ20、バッテリ21、キーボード22、クロックジェネレータ23等を備えている。
【0013】
CPU11は、本コンピュータ1内の各部の動作を統合的に管理・制御するためのプロセッサであり、記憶装置18からメインメモリ13にロードされるオペレーティングシステム(OS)101や、このOS101の制御下で動作する、後述する省電力制御ユーティリティ102を含む各種アプリケーションプログラムを実行する。OS101は、CPU11に対するタスク(プロセスまたはスレッド)の割り当てを制御するスケジューラ101aを含んでいる。これらOS101や省電力制御ユーティリティ102を含む種々のプログラムは、予め記憶装置18にインストールされている。

・・・(中略)・・・

【0017】
EC/KBC19は、電力管理のための組み込みコントローラと、キーボード22を制御するためのキーボードコントローラとが集積された1チップマイクロコンピュータである。EC/KBC19は、電源コントローラ20と協働して、バッテリ21または外部AC電源からの電力を各部に供給制御する。電源コントローラ20は、CPU11に対する動作用電力の供給をコア単位に行うことができる。CPU11の動作クロックを生成するクロックジェネレータ23も、その供給をコア単位に行うことができる。この電源コントローラ20によるCPU11に対する動作用電力の供給およびクロックジェネレータ23によるCPU11に対する動作クロックの供給は、I/Oコントローラ17から出力される動作コマンドによって制御される。即ち、本コンピュータ1では、この動作コマンドの出力指示をI/Oコントローラ17に与えることで、CPU11に対する動作用電力および動作クロックの供給を制御できる。
【0018】
このようなハードウェア構成の本コンピュータ1上で動作する省電力制御ユーティリティ102は、外部AC電源からの電力の入力有無やバッテリ21の残量に関わる情報をEC/KBC19から定期的に収集することにより、本コンピュータ1の動作用電力の供給環境を監視する。そして、例えば外部AC電源からの入力が無く、バッテリ21からの電力で本コンピュータ1が動作しており、かつ、当該バッテリ21の残量が予め設定された値以下となっている状況等を検知すると、省電力制御ユーティリティ102は、予め設定された数のコアを非稼働状態にする(省電力モードに移行する)旨をOS101に要求する。そのためのインタフェースとして、省電力制御ユーティリティ102は、例えば図2に示すような設定画面をユーザ向けに提示する。」

(2) 段落【0036】
「【0036】
また、前述したように、外部AC電源からの電力供給が開始されると、アイドル状態または停止状態にあったコアは稼働状態に復帰する。この際、スケジューラ101aは、そのコアのスケジューリングキュー152をロックフラグを使ってロックし、コア状態フラグを稼働状態に更新した後、同じくロックフラグを使って当該スケジューリングキュー152をアンロックするのみでも良い。なお、OS101は、必要ならば、電源コントローラ20およびクロックジェネレータ23に対する動作コマンドの出力指示をI/Oコントローラ17に与える。」

したがって、関連図面に照らし、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「バッテリ駆動可能で携行容易なノートブックタイプのパーソナルコンピュータ1は、4つの命令処理部(コア)を内蔵したCPU11を搭載するマルチコアCPU搭載システムであり、
ホストコントローラ12、メインメモリ13、表示コントローラ14、表示装置15、表示用メモリ16、I/Oコントローラ17、記憶装置18、エンベデッドコントローラ/キーボードコントローラ(EC/KBC)19、電源コントローラ20、バッテリ21、キーボード22、クロックジェネレータ23等を備え、
CPU11は、省電力制御ユーティリティ102を含む各種アプリケーションプログラムを実行し、
EC/KBC19は、電力管理のための組み込みコントローラと、キーボード22を制御するためのキーボードコントローラとが集積された1チップマイクロコンピュータであって、電源コントローラ20と協働して、バッテリ21または外部AC電源からの電力を各部に供給制御し、
電源コントローラ20は、CPU11に対する動作用電力の供給をコア単位に行うことができ、この電源コントローラ20によるCPU11に対する動作用電力の供給およびクロックジェネレータ23によるCPU11に対する動作クロックの供給は、I/Oコントローラ17から出力される動作コマンドによって制御され、即ち、本コンピュータ1では、この動作コマンドの出力指示をI/Oコントローラ17に与えることで、CPU11に対する動作用電力および動作クロックの供給を制御でき、
このようなハードウェア構成の本コンピュータ1上で動作する省電力制御ユーティリティ102は、外部AC電源からの電力の入力有無やバッテリ21の残量に関わる情報をEC/KBC19から定期的に収集することにより、本コンピュータ1の動作用電力の供給環境を監視し、外部AC電源からの入力が無く、バッテリ21からの電力で本コンピュータ1が動作しており、かつ、当該バッテリ21の残量が予め設定された値以下となっている状況等を検知すると、省電力制御ユーティリティ102は、予め設定された数のコアを非稼働状態にする(省電力モードに移行する)旨をOS101に要求し、
また、外部AC電源からの電力供給が開始されると、アイドル状態または停止状態にあったコアは稼働状態に復帰する、
バッテリ駆動可能で携行容易なノートブックタイプのパーソナルコンピュータ1。」

2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された、上記引用文献2には、以下の記載がある。

(1) 2ページ3-12行
「しかし、従来のパワーセーブ機能では、ユーザが任意の時間だけコンピュー夕を使用したいと考えても、その時間に合わせた消費電力の設定はできなかった。すなわち、従来では、各パワーセーブ機能を設定することによりコンピュータシステムの動作時間が延びることをユーザは認識できるが、特定時間まで使用するために各パワーセーブ機能をどのように設定すればよいかはユーザは判断できなかった。
本発明の目的は、ユーザが指定した動作時間に応じて、コンポ一ネントの消費電力を自動的に制御する電子機器を提供することにある。」

(2) 6ページ5-20行
「電源コン卜ローラ(PSC)37は電源(PS)39を制御する。PSC37は電源ィンタフェース回路(PS?IF)41を介してCPU15とデータ通信を行う。PSC37はフィルタ回路43にパルス信号を送る。フィルタ回路43はPSC37から供給されるパルス信号をアナログ信号に変換する。
ACアダプタ11はコンピュータシステムに取り外し自在に接続される。ACアダプタ11は外部AC電源を整流平滑し、PS39にDC電源を出力する。PS39はACアダプタ11がコンピュータシステムに接続されているとき、ACアダプタ11を介して供給されるDC電源からコンビユータシステムの駆動電源を生成する。PS39はACアダプタ11がコンピュータシステムに接続されていないとき、電池13から供給されるDC電源からコンピュータシステムの駆動電源を生成する。コンピュータシステムの駆動電源は+5V,+12V、-9V等がある。」

(3) 8ページ3-7行
「PSC37は例えば東芝TMP47C660Fから構成される。PSC37はマイクロプロセッサユニット(MPU)51、RAM53、ROM55、タイマー57、出力ポート59、入力ポート61、アナログ-デジタル(A/D)コンバータ63を有する。」

(4) 11ページ22行-12ページ15行
「第1電圧計75は第1抵抗85の両端の電位差を測定する差動増幅器である。第1電圧計75の検出信号はA/Dコンバータ63の第1アナログ入力端に入力される。第1抵抗の抵抗値はあらかじめ定められている。第1アナログ入力端に入力される検出信号と第1抵抗の抵抗値とによって、PSC37は電池13の消費電流値を判断できる。第2電圧計77は電池13の出力電圧を測定する差動増幅器である。第2電圧計77の検出信号はA/Dコンバータ63の第2アナログ入力端に入力される。PSC37は第2アナログ入力端に入力される検出信号から電池13がコンピュータシステムに接続されているか否かおよび電池13の満充電状態、ローバッテリ状態、電池異常等を判断できる。第3電圧計79はACアダプタ11の出力電圧を測定する差動増幅器である。第3電圧計79の検出信号はA/Dコンバータ63の第3アナ口グ入力端に入力される。PSC37は第3アナ口グ入力端に入力される検出信号からACアダプタ11の接続の有無や電源異常等を判断できる。」

(5) 20ページ1-25行
「図7は消費電力の自動制御をディスプレイオートオフ機能、CPUスリープ機能、HDDオートオフ機能を対象に行う方法を示すフローチャートである。図4においてユーザにより設定された設定時間データが適正値であると判断ざれると、BIOSは各コンポーネントが最大性能を発揮し続けたときの単位時間あたりのシステム全体の最大消費電力量を計算する。(ステップ701)最大性能を発揮し続けたときの各コンポ一ネントの消費電力量はあらかじめ定められており、BI0Sは各コンポーネン卜の消費電力量を累計してシステム全体の最大消費電力量を計算する。最大消費電力量の計算後、BI0SはPSC37に現在の電池13の残存容量を動作時間項目に設定された設定時間データで除算し、単位時間あたりの使用可能電力量を算出させる。(ステップ703)使用可能電力量の計算後、BI0Sは各コンポーネントへの電力割当量を計算する。まず、BIOSは常時一定レベルの電力が必要なコンポーネン卜の電力量(以下、固定電力量と称する)を累計する。(ステップ705)本実施例において、固定電力が供給されるコンポーネントはCPU15、HDD31およびバックライト装置47以外のコンポーネントである。固定電力量の累計後、BIOSは最大消費電力量から累計した固定電力量を減算し、電力可変コンポーネントへの電力割当て量を計算する。(ステップ707)電力割当て量の計算後、BI0Sは各電力可変コンポーネント(CPU15、HDD31、ノックライト装置47)へ供給される電力量をそれぞれ設定する。(ステップ709)」

(6) 22ページ12-17行
「供給電力量の計算後、BI0Sは固定電力量とステップ709にて求めた各電力可変コンポーネン卜への供給電力量を加算する。(ステップ711)加算電力量の計算後、BIOSは電池13の残存容量を加算電力量で除算して、除算値がユーザの設定時間以上であるか否かを判断する。(ステップ713)」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「4つの命令処理部(コア)を内蔵したCPU11」は、本願発明1の「一つまたは複数のプロセッサ・コア」を備える「プロセッサ」に相当する。
引用発明の「このようなハードウェア構成の本コンピュータ1上で動作する省電力制御ユーティリティ102」及び「省電力制御ユーティリティ102」「を実行」する「CPU11」は、本願発明1の「少なくとも一部がハードウェアである論理ユニット」に相当する。
引用発明の「バッテリ駆動可能で携行容易なノートブックタイプのパーソナルコンピュータ1」は、本願発明1の「装置」に相当する。
よって、引用発明の「このようなハードウェア構成の本コンピュータ1上で動作する省電力制御ユーティリティ102は、外部AC電源からの電力の入力有無やバッテリ21の残量に関わる情報をEC/KBC19から定期的に収集することにより、本コンピュータ1の動作用電力の供給環境を監視し、外部AC電源からの入力が無く、バッテリ21からの電力で本コンピュータ1が動作しており、かつ、当該バッテリ21の残量が予め設定された値以下となっている状況等を検知すると、省電力制御ユーティリティ102は、予め設定された数のコアを非稼働状態にする(省電力モードに移行する)旨をOS101に要求し、また、外部AC電源からの電力供給が開始されると、アイドル状態または停止状態にあったコアは稼働状態に復帰する」「バッテリ駆動可能で携行容易なノートブックタイプのパーソナルコンピュータ1」は、本願発明1の「全プラットフォーム電力消費値に基づいて、プロセッサの一つまたは複数のプロセッサ・コアおよび前記プロセッサに結合された一つまたは複数のコンポーネントによる電力消費に修正を引き起こす、少なくとも一部がハードウェアである論理ユニットを有する装置」と、「プロセッサの一つまたは複数のプロセッサ・コアによる電力消費に修正を引き起こす、少なくとも一部がハードウェアである論理ユニットを有する装置」である点で共通するといえる。

イ 引用発明の「バッテリ駆動可能で携行容易なノートブックタイプのパーソナルコンピュータ1」のうちのハードウエア部分は、ソフトウエアを動作させる「基盤」となる部分であるから、全体として、本願発明1の「プラットフォーム」に相当するといえる。
よって、引用発明の「バッテリ駆動可能で携行容易なノートブックタイプのパーソナルコンピュータ1」が、「4つの命令処理部(コア)を内蔵したCPU11を搭載するマルチコアCPU搭載システムであり、ホストコントローラ12、メインメモリ13、表示コントローラ14、表示装置15、表示用メモリ16、I/Oコントローラ17、記憶装置18、エンベデッドコントローラ/キーボードコントローラ(EC/KBC)19、電源コントローラ20、バッテリ21、キーボード22、クロックジェネレータ23等を備え」ることは、本願発明1の「前記全プラットフォーム電力消費値は、測定された、プラットフォームの全体によって消費される電力の値であり、前記プラットフォームは、前記プロセッサおよび前記一つまたは複数のコンポーネントを含むものであ」ることと、「プラットフォームは、前記プロセッサおよび前記一つまたは複数のコンポーネントを含むものであ」る点で共通するといえる。

したがって、本願発明1と、引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「プロセッサの一つまたは複数のプロセッサ・コアによる電力消費に修正を引き起こす、少なくとも一部がハードウェアである論理ユニットを有する装置であって、
プラットフォームは、前記プロセッサおよび一つまたは複数のコンポーネントを含むものである、
装置。」

[相違点1]
本願発明1では、「全プラットフォーム電力消費値に基づいて」制御を行うものであって、「前記全プラットフォーム電力消費値は、測定された、プラットフォームの全体によって消費される電力の値であり」、かつ、「前記全プラットフォーム電力消費値は、ブリックに結合された第一のアナログからデジタルへの変換器(ADC)およびバッテリーに結合された第二のADCからの信号に基づいて決定され、前記第一のADCまたは前記第二のADCは前記第一のADCまたは前記第二のADCによる電力測定に基づいて前記信号を生成するものである」のに対して、引用発明は、「本コンピュータ1の動作用電力の供給環境を監視」して電力制御を行うものであって、「全プラットフォーム電力消費値」に基づいて制御を行うものではない点。

[相違点2]
消費電力を制御する対象について、本願発明1では、プロセッサの一つまたは複数のプロセッサ・コア「および前記プロセッサに結合された一つまたは複数のコンポーネント」による電力消費に修正を引き起こすのに対して、引用発明では、CPU11の4つのコアの消費電力は制御するものであるが、「プロセッサに結合された一つまたは複数のコンポーネント」の消費電力を制御することは特定されていない点。

(2) 相違点についての判断
上記[相違点1]について検討する。
引用文献1は、「本コンピュータ1の動作用電力の供給環境を監視」するもの、より具体的には、「外部AC電源からの電力供給」の有無と「バッテリ21の残量」を監視するものであって、「プラットフォームの全体によって消費される電力の値であ」る「全プラットフォーム電力消費値」を、「ブリック」と「バッテリ」に結合された2つの「ADC」による電力測定に基づいて測定する構成は記載も示唆もない。
この点について、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、
「ユーザが指定した動作時間に応じて、コンポ一ネントの消費電力を自動的に制御する」ことを目的として(上記第4、2.(1)を参照。)、
「ACアダプタ11」または「電池13」からDC電源が供給される「電源(PS)39」を制御する「電源コントローラ(PSC)37」が「アナログ-デジタル(A/D)コンバータ63」を備える構成(上記第4、2.(2)-(3)を参照。)、
「アナログ-デジタル(A/D)コンバータ63」の「第1アナログ入力端」により「電池13の消費電流値を判断」すること、「電池13の出力電圧を測定する」「第2アナログ入力端」により「電池13がコンピュータシステムに接続されているか否かおよび電池13の満充電状態、ローバッテリ状態、電池異常等を判断できる」こと、「ACアダプタ11の出力電圧を測定する」「第3アナログ入力端」により「ACアダプタ11の接続の有無や電源異常等を判断できる」こと(上記第4、2.(4)を参照。)が記載されている。
ここで、引用文献2の「アナログ-デジタル(A/D)コンバータ63」の「第1アナログ入力端」と「第2アナログ入力値」で「電池13の消費電流値」と「電池13の出力電圧」を測定している点に着目して、本願発明1の「バッテリーに結合された第二のADC」「による電力測定」と対比しても、引用文献2の「第1アナログ入力端」と「第2アナログ入力値」の測定対象は「電池13の消費電流値」等であって、「プラットフォームの全体によって消費される電力の値であ」る「全プラットフォーム電力消費値」ではない。
また、引用文献2の「第3アナログ入力端」で(本願発明1の「ブリック」に相当する。)「ACアダプタ11の出力電圧」を測定している点に着目しても、「ACアダプタ11の接続の有無や電源異常等を判断」するものであって、本願発明1の「ブリックに結合された第一のADC」「による電力測定」とは異なる。
結局、引用文献2には、「プラットフォームの全体によって消費される電力の値であ」る「全プラットフォーム電力消費値」を、「ブリック」と「バッテリ」に結合された2つの「ADC」による電力測定に基づいて測定する構成は記載されていない。
なお、引用文献2には、上記「第4、2.(5)-(6)」を参照すると、
「(ステップ701)」で、「あらかじめ定められて」いる値である「最大性能を発揮し続けたときの各コンポーネントの消費電力量を累計してシステム全体の最大消費電力量を計算する」こと、
「(ステップ705)」で、「CPU15、HDD31およびバックライト装置47以外のコンポーネント」である「常時一定レベルの電力が必要なコンポーネン卜の電力量(以下、固定電力量と称する)を累計する」こと、
「(ステップ709)」で、「最大消費電力量から累計した固定電力量を減算し」、「常時一定レベルの電力が必要なコンポーネン卜の電力量(以下、固定電力量と称する)を累計する」こと、
「(ステップ709)」で「各電力可変コンポーネント(CPU15、HDD31、ノックライト装置47)へ供給される電力量をそれぞれ設定する」こと、
「(ステップ711)」で「固定電力量とステップ709にて求めた各電力可変コンポーネン卜への供給電力量を加算する」ことで「加算電力量」を計算することも記載されている。
しかし、これらのステップは、消費電力を「計算」するためのステップであって、「プラットフォームの全体によって消費される電力の値であ」る「全プラットフォーム電力消費値」を、「ブリック」と「バッテリ」に結合された2つの「ADC」による電力測定に基づいて測定する構成は記載されていない。
また、「プラットフォームの全体によって消費される電力の値であ」る「全プラットフォーム電力消費値」を、「ブリック」と「バッテリ」に結合された2つの「ADC」による電力測定に基づいて測定する構成は、原査定の拒絶の理由で、従属請求項に対して周知技術を示す文献として引用された引用文献3(請求項7、26の「スマートバッテリ」について引用。)、引用文献4(請求項22、23の「外部AC電源」、「バッテリ」の消費電力のセンシングに基づく電源制御について引用。)にも記載されておらず、周知技術であるともいえない。
よって、当業者といえども、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項、引用文献3、引用文献4に記載された周知技術から、本願発明の上記[相違点1]に係る、「全プラットフォーム電力消費値に基づいて」制御を行うものであって、「前記全プラットフォーム電力消費値は、測定された、プラットフォームの全体によって消費される電力の値であり」、かつ、「前記全プラットフォーム電力消費値は、ブリックに結合された第一のアナログからデジタルへの変換器(ADC)およびバッテリーに結合された第二のADCからの信号に基づいて決定され、前記第一のADCまたは前記第二のADCは前記第一のADCまたは前記第二のADCによる電力測定に基づいて前記信号を生成するものである」という構成を容易に想到することはできない。

したがって、上記[相違点2]について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項、引用文献3、引用文献4に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-30について
本願発明2-30は、いずれも、本願発明1の上記[相違点1]の、「全プラットフォーム電力消費値に基づいて」制御を行うものであって、「前記全プラットフォーム電力消費値は、測定された、プラットフォームの全体によって消費される電力の値であり」、かつ、「前記全プラットフォーム電力消費値は、ブリックに結合された第一のアナログからデジタルへの変換器(ADC)およびバッテリーに結合された第二のADCからの信号に基づいて決定され、前記第一のADCまたは前記第二のADCは前記第一のADCまたは前記第二のADCによる電力測定に基づいて前記信号を生成するものである」という構成と同一の構成を備えるものである。
よって、本願発明1と同じ理由により、本願発明2-30も、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項、引用文献3、引用文献4に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により補正された、本願発明1-30は、「全プラットフォーム電力消費値に基づいて」制御を行うものであって、「前記全プラットフォーム電力消費値は、測定された、プラットフォームの全体によって消費される電力の値であり」、かつ、「前記全プラットフォーム電力消費値は、ブリックに結合された第一のアナログからデジタルへの変換器(ADC)およびバッテリーに結合された第二のADCからの信号に基づいて決定され、前記第一のADCまたは前記第二のADCは前記第一のADCまたは前記第二のADCによる電力測定に基づいて前記信号を生成するものである」という事項を有するものであり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-10-01 
出願番号 特願2015-544059(P2015-544059)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 境 周一片岡 利延  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 松田 岳士
稲葉 和生
発明の名称 全プラットフォーム電力制御  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  

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