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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 A63B
管理番号 1344670
審判番号 不服2017-19369  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-27 
確定日 2018-10-26 
事件の表示 特願2013-238951「カラオケ装置,ダンス採点方法,およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年5月28日出願公開,特開2015-97639,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年11月19日の出願であって,平成29年5月15日付けで拒絶理由通知がされ,同年7月18日付けで手続補正がされ,さらに,同年7月20日付けで拒絶理由通知がされ,同年9月8日付けで手続補正がされ,同年9月26日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,平成30年7月13日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,同年8月28日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年9月26日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1乃至8(平成29年9月8日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載のもの)に係る発明は,以下の引用文献1乃至4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1 特開平11-212582号公報
2 特開2000-200088号公報
3 国際公開第2012/039467号
4 特開2008-86638号公報

第3 当審拒絶理由通知における拒絶の理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1
本願請求項1乃至5及び7に係る発明は,以下の引用文献1乃至3に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1 特開平11-212582号公報(拒絶査定時の引用文献1)
2 特開2013-111449号公報(当審において新たに引用した文献)
3 特開2008-86638号公報(拒絶査定時の引用文献4)

理由2
請求項1,請求項1を引用する請求項2乃至6,及び請求項1と実質的に同じ記載がある請求項7における「歌唱者領域の中から各ジョイントを検知」に関して,発明の詳細な説明において,どのようにして「歌唱者領域の中から各ジョイントを検知」するかについては何ら記載がなく,「歌唱者領域の中から各ジョイントを検知」することが技術常識であると認める根拠もない。
したがって,本願の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

第4 本願発明
本願請求項1乃至6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」,「本願発明2」などという。)は,平成30年8月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1乃至6は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
歌唱者の動きを判定するための情報である動き判定情報が格納される動き判定情報格納部と,
歌唱者を撮影し,当該歌唱者が写された距離画像である歌唱者画像を取得する撮影部と,
前記歌唱者画像に含まれる情報を用いて,前記歌唱者の動きを示す情報であるスケルトン情報を取得するスケルトン情報取得部と,
前記動き判定情報と前記スケルトン情報とを用いて,当該スケルトン情報が示す歌唱者の動きを判定し,当該判定の結果を用いてスコアを算出するスコア算出部と,
前記スコア算出部が算出したスコアを出力するスコア出力部とを備え,
前記スケルトン情報取得部は,
前記歌唱者画像が有する距離情報を用いて,当該距離情報が示す距離が予め決められた条件を満たす1以上の画素によって形成される歌唱者領域を検出し,当該歌唱者領域の中から各ジョイントを検知し,当該各ジョイントの3次元の座標の集合であるスケルトン情報を取得し,
前記スコア算出部は,
前記動き判定情報格納部に格納されている動き判定情報と前記スケルトン情報取得部が取得したスケルトン情報とを用いて,当該動き判定情報が示す手本の動きに対する,当該スケルトン情報が示す歌唱者の動きの遅延の度合いを示す遅延度を取得し,当該遅延度に応じてスコアを算出し,
前記歌唱者画像に含まれる情報を用いて,歌唱者の形状または歌唱者の色を含む歌唱者の1以上の属性値を取得し,少なくとも一部は当該歌唱者の1以上の属性値を用いてモデルを示す画像であるモデル画像を構成するモデル画像構成部と,
前記モデル画像構成部が構成したモデル画像を出力する画像出力部とをさらに備え,
前記1以上の属性値は,
前記歌唱者の形状の情報,歌唱者の色の情報,および歌唱者の動きの情報を含み,
前記モデル画像構成部は,
前記歌唱者領域の各画素に対応する3次元の座標を取得し,当該3次元の座標の集合である形状の情報と,前記歌唱者の色の情報と,前記歌唱者の動きの情報とを用いて,前記歌唱者の形状と色と動きとを模した3次元の前記歌唱者のモデル画像を構成し,
前記画像出力部は,
前記3次元の歌唱者のモデル画像,または前記3次元の歌唱者のモデル画像と手本画像とが背景画像上に配置された合成画像,または前記3次元の歌唱者のモデル画像と手本画像を出力するカラオケ装置。
【請求項2】
前記動き判定情報格納部には,
動画を構成する予め決められたフレームの区間ごとの歌唱者の動きを判定するための2以上の動き判定情報が格納され,
前記スケルトン情報取得部は,
前記歌唱者画像に含まれる情報を用いて,前記区間ごとの歌唱者の動きを示す2以上のスケルトン情報を取得し,
前記スコア算出部は,
動画を構成する予め決められたフレームの区間ごとの歌唱者の動きを採点し,当該区間ごとの採点の結果である2以上のスコアを算出し,当該2以上のスコアの加重平均であるスコアを算出する請求項1記載のカラオケ装置。
【請求項3】
前記動き判定情報は,歌唱者の1以上の各関節の角度に関する条件である1以上の関節角度条件であり,
前記スコア算出部は,
前記スケルトン情報取得部が取得したスケルトン情報を用いて,歌唱者の1以上の各関節の角度を取得し,当該1以上の各関節に対応する前記関節角度条件を用いて,当該1以上の各関節の角度を判定し,当該判定の結果を用いて前記スコアを算出する請求項1または請求項2記載のカラオケ装置。
【請求項4】
前記動き判定情報は,歌唱者の1以上の各ジョイント間の角度に関する条件である1以上のジョイント間角度条件であり,
前記スコア算出部は,
前記スケルトン情報取得部が取得したスケルトン情報を用いて,歌唱者の1以上の各ジョイント間の角度を取得し,当該1以上の各ジョイント間に対応する前記ジョイント間角度条件を用いて,当該1以上の各ジョイント間の角度を判定し,当該判定の結果を用いて前記スコアを算出する請求項1または請求項2記載のカラオケ装置。
【請求項5】
前記動き判定情報は,歌唱者の1以上の各ジョイントの移動量に関する条件である1以上のジョイント移動量条件であり,
前記スコア算出部は,
前記スケルトン情報取得部が取得したスケルトン情報を用いて,歌唱者の1以上の各ジョイントの移動量を取得し,当該1以上の各ジョイントに対応する前記ジョイント移動量条件を用いて,当該1以上の各ジョイントの移動量を判定し,当該判定の結果を用いて前記スコアを算出する請求項1または請求項2記載のカラオケ装置。
【請求項6】
歌唱者の動きを判定するための情報である動き判定情報が格納される動き判定情報格納部にアクセス可能なコンピュータを,
歌唱者を撮影し,当該歌唱者が写された距離画像である歌唱者画像を取得する撮影部と,
前記歌唱者画像に含まれる情報を用いて,前記歌唱者の動きを示す情報であるスケルトン情報を取得するスケルトン情報取得部と,
前記動き判定情報と前記スケルトン情報とを用いて,当該スケルトン情報が示す歌唱者の動きを判定し,当該判定の結果を用いてスコアを算出するスコア算出部と,
前記スコア算出部が算出したスコアを出力するスコア出力部として機能させ,
前記スケルトン情報取得部は,
前記歌唱者画像が有する距離情報を用いて,当該距離情報が示す距離が予め決められた条件を満たす1以上の画素によって形成される歌唱者領域を検出し,当該歌唱者領域の中から各ジョイントを検知し,当該各ジョイントの3次元の座標の集合であるスケルトン情報を取得し,
前記スコア算出部は,
前記動き判定情報格納部に格納されている動き判定情報と前記スケルトン情報取得部が取得したスケルトン情報とを用いて,当該動き判定情報が示す手本の動きに対する,当該スケルトン情報が示す歌唱者の動きの遅延の度合いを示す遅延度を取得し,当該遅延度に応じてスコアを算出するものとして,コンピュータを機能させるためのプログラムであって,
コンピュータを,
前記歌唱者画像に含まれる情報を用いて,歌唱者の形状または歌唱者の色を含む歌唱者の1以上の属性値を取得し,少なくとも一部は当該歌唱者の1以上の属性値を用いてモデルを示す画像であるモデル画像を構成するモデル画像構成部と,
前記モデル画像構成部が構成したモデル画像を出力する画像出力部としてさらに機能させ,
前記1以上の属性値は,
前記歌唱者の形状の情報,歌唱者の色の情報,および歌唱者の動きの情報を含み,
前記モデル画像構成部は,
前記歌唱者領域の各画素に対応する3次元の座標を取得し,当該3次元の座標の集合である形状の情報と,前記歌唱者の色の情報と,前記歌唱者の動きの情報とを用いて,前記歌唱者の形状と色と動きとを模した3次元の前記歌唱者のモデル画像を構成し,
前記画像出力部は,
前記3次元の歌唱者のモデル画像,または前記3次元の歌唱者のモデル画像と手本画像とが背景画像上に配置された合成画像,または前記3次元の歌唱者のモデル画像と手本画像を出力するものとして,コンピュータを機能させるためのプログラム。」

第5 理由1について
1 引用文献,引用発明等
(1)引用文献1について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は,当審で付与した。他の下線についても同じ。)
ア「【0013】カラオケ装置1は,上述した基本機能のほかに,カラオケ楽曲に合わせて踊る模範演技者の所作と利用者の所作とを比較し,振り付けにどれだけ似ているかを採点する振り付け採点機能を備えている。以下,この振り付け採点機能について説明する。」

イ「【0014】===振り付け採点機能===
振り付け採点機能を達成するために,カラオケ装置1はモーション検出部40とそれに付随したセンサ41と2台のCCDカメラ42,および採点部50とを備えている。さらに,カラオケ楽曲に合わせて踊る利用者(舞踊者)の所作を採点するに当たり,基準となる各カラオケ楽曲専用の振り付けデータがハードディスク装置12に格納されている。以下に振り付け採点機能の概略について説明する。」

ウ「【0015】1(当審注:引用文献1においては丸囲み数字の1)モーションキャプチャ技術
模範演技者および舞踊者の所作を比較するために,所作をデータ化する必要がある。所作をデータ化するためにはモーションキャプチャ技術が利用される。この技術は,人の頭や関節などの人体部位にそれぞれセンサを取付け,このセンサが位置や移動に応じて出力する信号を解析することで各センサの3次元的な座標位置を検出する。そして,各センサの位置と各人体部位とを人体構造に合わせて対応づけることで所作をデータ化する。なお,センサを使用したモーションキャプチャ技術にはセンサの種類に応じて光学式,磁気式などの各種方式がある。
【0016】また,センサに代えて光や電波などによる標識信号を発信するマーカを用い,各マーカからの標識信号を受信してその強度や方向から各マーカの位置を特定する方法もある。もちろん,ビデオカメラなどが捕らえた映像を順次画像処理することで各人体部位の座標変化を検出することもできる。」

エ「【0017】2(当審注:引用文献1においては丸囲み数字の2)振り付けデータ
振り付けデータは,模範演技者がカラオケ楽曲に合わせて踊ったときの所作を記述しており,模範演技者の各人体部位の座標位置をカラオケ楽曲の演奏時系列に対応させたものである。図2は振り付けデータの概略構造を示している。カラオケ楽曲の演奏開始時点から所定の時間間隔で経過時間(t0,t1,・・・)を設定し,各経過時間毎に関節や頭などの各人体部位の3次元座標位置を対応付けしている。また,本実施例では,人体部位として頭,両肘,両手,腰,両膝,両足を設定している。」

オ「【0018】3(当審注:引用文献1においては丸囲み数字の3)舞踊者所作データの作成
この振り付けデータを基準として舞踊者の所作を採点するために,モーション検出部40は舞踊者の所作を先述の振り付けデータにおける演奏経過時間(t0,t1,・・・)毎に検出して適宜な形式の舞踊者所作データとして出力する。
【0019】実際にカラオケ会場で舞踊者所作データを作成するために,本実施例では光学式のモーションキャプチャ技術を採用している。この方式は,特殊な照明光を選択的に反射する球状のミラーをセンサとして用い,そのミラーからの反射光を複数台のビデオカメラで捕らえ,三角測量の要領で各ミラーの位置を検出する。モーション検出部40は2台のCCDカメラ42からの映像信号を演奏経過時間毎にサンプリングして画像処理し,各ミラー41の座標位置を検出する。そして,その座標位置を振り付けデータと同じ座標系に変換して舞踊者所作データを作成する。作成された舞踊者所作データは舞踊者の所作に従ってほぼリアルタイムで逐次出力される。」

カ「【0020】4(当審注:引用文献1においては丸囲み数字の4)採点情報の出力
採点部50は,モーション検出部40が逐次出力する舞踊者所作データと振り付けデータとを演奏時系列順に逐次比較していく。具体的には,それぞれのデータにおいて,各人体部位についてある演奏時点(tn)とその次の時点(tn+1)での座標位置の変化分(ベクトル)を計算し,各人体部位が所定の方向に移動しているか,あるいは所定時間停止しているかなどを比較することで,模範演技者の所作と舞踊者の所作とを比較している。
【0021】そして,2つのデータにおける各人体部位についてベクトルの差分を演奏時系列順に逐次取得するとともにその差分に応じて所定の点を加算していく。演奏終了を認知すると,最終的な集計結果を100点満点に換算した得点にして採点情報を出力する。次に,採点機能におけるユーザインタフェース環境とカラオケ装置1における動作について説明する。」

キ「【0025】中央制御部11は該当のカラオケ楽曲の演奏処理に連動してモーション検出部40と採点部50を作動させる。演奏中,モーション検出部40は舞踊者所作データを順次出力し,採点部50はこの舞踊者所作データと振り付けデータとを逐次比較していく。採点部50は,演奏が終了した旨を中央制御部11から受け取ると,採点情報を返送する。中央制御部11は取得した採点情報を得点表示としてディスプレイに出力するための処理と制御を行う。」

ク「【0028】振り付けデータを利用してコンピュータグラフィクスによるアニメーション表示をすることも可能である。これによって,舞踊者が前もって振り付けを覚えておく必要がなくなる。」

引用文献1の上記記載事項を含め,引用文献1には以下の事項(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「カラオケ楽曲に合わせて踊る模範演技者の所作と利用者の所作とを比較し,振り付けにどれだけ似ているかを採点する振り付け採点機能を備えているカラオケ装置であって,
カラオケ装置はモーション検出部と,採点部とを備え,カラオケ楽曲に合わせて踊る利用者(舞踊者)の所作を採点するに当たり,基準となる各カラオケ楽曲専用の振り付けデータがハードディスク装置に格納されており,
モーション検出部においてビデオカメラが捕らえた映像を順次画像処理して各人体部位の座標変化を検出することで,模範演技者および舞踊者の所作のデータ化が行われ,
振り付けデータは,模範演技者がカラオケ楽曲に合わせて踊ったときの所作を記述しており,模範演技者の各人体部位として設定された頭,両肘,両手,腰,両膝,両足の座標位置をカラオケ楽曲の演奏時系列に対応させたものであって,カラオケ楽曲の演奏開始時点から所定の時間間隔で経過時間(t0,t1,・・・)毎に各人体部位の3次元座標位置を対応付けられており,
モーション検出部は舞踊者の所作を先述の振り付けデータにおける演奏経過時間(t0,t1,・・・)毎に検出して適宜な形式の舞踊者所作データとして舞踊者の所作に従ってほぼリアルタイムで逐次出力し,
採点部は,モーション検出部が逐次出力する舞踊者所作データと振り付けデータとを演奏時系列順に逐次比較するものであって,それぞれのデータにおいて,各人体部位についてある演奏時点(tn)とその次の時点(tn+1)での座標位置の変化分(ベクトル)を計算し,各人体部位が所定の方向に移動しているか,あるいは所定時間停止しているかなどを比較することで,模範演技者の所作と舞踊者の所作とを比較して,2つのデータにおける各人体部位についてベクトルの差分を演奏時系列順に逐次取得するとともにその差分に応じて所定の点を加算して,演奏終了を認知すると,最終的な集計結果を100点満点に換算した得点にして採点情報を出力し,採点情報を得点表示としてディスプレイに出力し,振り付けデータを利用してコンピュータグラフィクスによるアニメーション表示をすることも可能なカラオケ装置。」

(2)引用文献2について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア「【0023】
人体認識部104は,画像撮影部103から送られる画像に映る人物の人体パーツの位置を認識する。人体パーツの位置は,画像面上の位置として2次元的に認識してもよいし,現実空間での位置として3次元的に認識してもよい。人体パーツの位置を2次元的に認識する場合は,例えば画像撮影部103より受け取る画像(2次元の可視画像)から,あらかじめ用意した人体パーツに起因する画像特徴を探索する。
【0024】
人体パーツとは,例えば,顔,頭,手,腕,足,膝,肩,腰,胸,臍,背中などである。それぞれは,撮影される向きによって映像特徴が異なるので,例えば顔に関しては,正面顔パーツ,横顔パーツ,下向き顔パーツ,などと,方向別に複数の画像特徴を用意し,それらを探索する。画像特徴としては,局所領域における勾配方向をヒストグラム化した特徴量であるHOG(Histograms of Oriented Gradients)特徴量などを利用する。各人体パーツに起因する画像特徴は,それらが映る画像を多量に集めて,それらに含まれる特徴量に共通するものを,例えばBoostingと呼ばれるアルゴリズムを用いて,統計的に学習することによって決定する。そのようにして決定される各人体パーツに起因する画像特徴が,画像撮影部103より受け取る画像から探索されると,特徴が探索された位置にその人体パーツがあると認識する。なお,これ以外の公知の方法で人体パーツの位置の認識を行ってもよい。
【0025】
人体パーツの位置を3次元的に認識する場合は,まず,画像撮影部103より受け取る画像(3次元の距離画像)にセグメンテーションを施して人物領域を特定する。例えばハーフミラー101から距離1m?2m程度離れた位置にある人体程度の大きさの領域を切り出す。そして,あらかじめ用意した人体モデルを,そのパーツ位置を変更しながら特定した人体領域にあてはめる。人体領域に適切に人体モデルがあてはめることができた場合は,その人体モデルにおける各人体パーツの位置が認識結果となる。なお,これ以外の公知の方法で認識を行ってよい。
【0026】
ここで,画像撮影部103から2次元の可視画像と3次元の距離画像との両方を受け取る場合には,人体認識部104は上記2つの人体パーツ位置の認識を両方で行ってもよい。その際は,前者の2次元的な人体パーツ位置認識結果と矛盾しないように,後者の3次元的な人体パーツ位置認識結果を補正して,より正しい3次元的な人体パーツ位置を認識するようにする。」

引用文献2の上記記載事項を含め,引用文献2には以下の事項(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「画像撮影部から送られる画像に映る人物の人体パーツの位置を認識する人体認識部であって,
人体パーツとは,例えば,顔,頭,手,腕,足,膝,肩,腰,胸,臍,背中などであり,画像撮影部より受け取る3次元の距離画像に,例えばハーフミラーから距離1m?2m程度離れた位置にある人体程度の大きさの領域を切り出すことで,セグメンテーションを施して人物領域を特定し,
2次元の可視画像と3次元の距離画像との両方を受け取る場合には,2次元的な人体パーツ位置認識結果と矛盾しないように,3次元的な人体パーツ位置認識結果を補正して,より正しい3次元的な人体パーツ位置を認識するようにする人体認識部。」

(3)引用文献3について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア「【0039】
(1-1)基準動作データ
図6は,基準動作データの概念説明図である。基準動作データは,楽曲の長さやリズム,メロディーなどに合わせて,楽曲毎に作成されている。従って,図示していないが,基準動作データは楽曲と対応付けられて記憶されている。基準動作データは,任意の運動者を所定の動作に誘導する誘導体の動き情報と,時刻情報と,を対応させている。この例では,動き情報は,動きフラグと方向フラグとを含む。「動きフラグ」の値“0”,“1”は動きの有無を示す。すなわち,値が“1”であれば,所定の時刻においてセンサ53が“1”を出力すべきであることを示す。逆に動き情報の値“0”であれば,センサ53の出力が“0”であるべきことを示す。「方向フラグ」は,ガイド画像に表示する誘導体の種類を示す。本例では,誘導体は左右前後方向を示す4種の矢印状誘導体を含む。「時刻情報」は,楽曲の始まりからの相対経過時間を示す。時刻情報の時間間隔,すなわち時刻情報t_(i)とt_(i+1)との差は,センサ53の検出時間間隔と同じである。
【0040】
(1-2)動き履歴データ
図7は,動き履歴データの概念説明図である。動き履歴データは,時刻情報と,第1動きフラグ,第2動きフラグ・・・第N動きフラグ(Nは自然数)とを対応づけている。ここで「時刻情報」は,楽曲の始まりからの相対経過時間を示す。時刻情報t_(i)とt_(i+1)とは,センサ53が信号の有無を検出するのと同じ時間間隔,例えば0.06秒間隔を有している。「第j動きフラグ」(jはN以下の自然数)は,第j運動者が装着している第j端末装置50からの検出信号の値である。このように,第1?第N運動者が装着する第1?第N端末装置50からの検出信号の値が,時刻情報と対応づけて記憶される。」

イ「【0047】
図10は,基準動作データ及び動き履歴データの動きフラグの値の変化を示すグラフである。実線は基準動作データの動きフラグの値の変化を示す。破線は動き履歴データの動きフラグの値の変化を示す。時刻t3で基準動作データは“1”→“0”に変化するが,動き履歴データはΔt秒遅れて変化している。また,時刻t5で基準動作データは“0”→“1”に変化するが,動き履歴データはΔ2t秒遅れて変化している。
【0048】
図11は,トレーニング制御部30aがRAM33に作成する一時的評価テーブルの説明図である。このテーブルは,前記図10で示す基準動作データ及び動き履歴データの動きフラグの値の変化が生じた場合を示す。一時的評価テーブルには,時刻情報,基準動作データにおける動作フラグ,動き履歴データにおける動作フラグ及び評価結果が,対応付けて書き込まれる。トレーニング制御部30aは,例えば動きフラグの値が変化する時刻情報のずれが,Δt以下であれば「青」,Δtを超えてΔ2t以下であれば「黄」,Δ2tを超えていれば「赤」と評価する。この例では,“1”→“0”の変化は,Δtのずれなので「青」と評価される。“0”→“1”の変化は,時刻t6においてはΔtのずれなので「青」と評価されるが,時刻t7においてはΔ2tのずれなので「黄」と評価される。
【0049】
すなわちトレーニング制御部30aは,基準動作データと動き履歴データとで動きフラグの値が連続して異なるエントリ数がNb以下であれば,そのエントリの評価結果に「青」を書き込む。本例では「Nb=1」である。またトレーニング制御部30aは,基準動作データと動き履歴データとで動きフラグの値が連続して異なるエントリ数がNy以下かつNbを超えていれば,動きフラグの値が異なっているエントリの評価結果に「黄」を書き込む。本例では「Ny=2」である。さらにトレーニング制御部30aは,基準動作データと動き履歴データとで動きフラグの値が連続して異なるエントリ数がNr以上であれば,動きフラグの値が異なっているエントリの評価結果に「赤」を書き込む。本例では「Nr=3」である。」

引用文献3の上記記載事項を含め,引用文献3には以下の事項(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「楽曲毎に作成され,任意の運動者を所定の動作に誘導する誘導体の動き情報と,時刻情報と,を対応させた基準動作データと,楽曲の始まりからの相対経過時間を示す時刻情報と,第1動きフラグ,第2動きフラグ・・・第N動きフラグ(Nは自然数)とを対応づけた動き履歴データとで,動きフラグの値が連続して異なるエントリ数が,例えば,1以下であれば,そのエントリの評価結果に「青」を書き込み,2以下かつ1を超えていれば,エントリの評価結果に「黄」を書き込み,3以上であれば,エントリの評価結果に「赤」を書き込むトレーニング制御部。」

2 対比・判断
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「カラオケ楽曲に合わせて踊る利用者(舞踊者)」は,本願発明1の「歌唱者」に相当する。
引用発明1の「振り付けデータ」は,「模範演技者がカラオケ楽曲に合わせて踊ったときの所作」を記述したものであり,模範演技者の所作と舞踊者の所作とを比較する際の基準となるものであるから、舞踊者の所作を判定するための情報であり,該振り付けデータを格納する「ハードディスク装置」は、舞踊者の所作を判定するための情報の格納部であるといえる。
してみると,本願発明と引用発明1とは,「歌唱者の動きを判定するための情報である動き判定情報が格納される動き判定情報格納部」を有している点で共通している。
引用発明1の「ビデオカメラ」は,ビデオカメラが捕らえた映像を順次画像処理して各人体部位の座標変化を検出することで,舞踊者の所作のデータ化が行うものである。
してみると,本願発明と引用発明1とは,「歌唱者を撮影し,当該歌唱者が写された歌唱者画像を取得する撮影部」を有している点で共通している。
引用発明1の「舞踊者所作データ」は,モーション検出部が,ビデオカメラが捕らえた映像を順次画像処理して各人体部位の座標変化を検出することで舞踊者の所作のデータ化が行われ,舞踊者の所作に従ってほぼリアルタイムで,逐次出力されものであるから,舞踊者の動きを示す情報であるといえる。
そして,本願発明1において「歌唱者の動きを示す情報」のことを「スケルトン情報」と定義していることを踏まえると,本願発明と引用発明1とは,「歌唱者画像に含まれる情報を用いて,歌唱者の動きを示す情報であるスケルトン情報を取得するスケルトン情報取得部」を有している点で共通している。
引用発明1の「採点部」は,モーション検出部が逐次出力する舞踊者所作データと振り付けデータとを演奏時系列順に逐次比較するものであって,2つのデータにおける各人体部位についてベクトルの差分を演奏時系列順に逐次取得するとともにその差分に応じて所定の点を加算して,演奏終了を認知すると,最終的な集計結果を100点満点に換算した得点にして採点情報を出力するものである。
してみると,本願発明と引用発明1とは,「動き判定情報とスケルトン情報とを用いて,当該スケルトン情報が示す歌唱者の動きを判定し,当該判定の結果を用いてスコアを算出するスコア算出部」を有している点で共通している。
引用発明1の「ディスプレイ」は,模範演技者の所作と舞踊者の所作とを比較して,演奏終了を認知すると,最終的な集計結果を100点満点に換算した得点にしたものである採点情報を得点表示としてディスプレイに出力している。
してみると,本願発明と引用発明1とは,「スコア算出部が算出したスコアを出力するスコア出力部」を有している点で共通している。
引用発明1の「(コンピュータグラフィクスによる)アニメーション表示」は,振り付けデータを利用していることから,模範演技者の所作を画像として表示していることは明らかである。
してみると,本願発明と引用発明1とは,「画像出力部」を有し,「(画像出力部が)手本画像を出力するカラオケ装置」を有している点で共通している。
以上のことより,両者は,
〈一致点〉
「歌唱者の動きを判定するための情報である動き判定情報が格納される動き判定情報格納部と,
歌唱者を撮影し,当該歌唱者が写された歌唱者画像を取得する撮影部と,
前記歌唱者画像に含まれる情報を用いて,前記歌唱者の動きを示す情報であるスケルトン情報を取得するスケルトン情報取得部と,
前記動き判定情報と前記スケルトン情報とを用いて,当該スケルトン情報が示す歌唱者の動きを判定し,当該判定の結果を用いてスコアを算出するスコア算出部と,
前記スコア算出部が算出したスコアを出力するスコア出力部と,
手本画像を出力する画像出力部を備えるカラオケ装置。」
である点で一致し,以下の点で相違している。
<相違点>
相違点1
本願発明1の「歌唱者画像」は,「距離画像」であるのに対して,引用発明1は,ビデオカメラが捕らえた映像であるものの,距離情報を有する「距離画像」であるか否かが不明な点。

相違点2
本願発明1の「スケルトン情報取得部」は,「歌唱者画像が有する距離情報を用いて,当該距離情報が示す距離が予め決められた条件を満たす1以上の画素によって形成される歌唱者領域を検出し,当該歌唱者領域の中から各ジョイントを検知」しているのに対して,引用発明1の「モーション検出部」は,各人体部位の3次元座標位置を対応付けしているものの,距離情報を用いて,歌唱者領域を検出し,当該歌唱者領域の中から各ジョイントを検知するものではない点。

相違点3
本願発明1の「スコア算出部」は,「動き判定情報とスケルトン情報とを用いて,当該動き判定情報が示す手本の動きに対する,当該スケルトン情報が示す歌唱者の動きの遅延の度合いを示す遅延度を取得し,当該遅延度に応じてスコアを算出」しているのに対して,引用発明1の「採点部」は,そのような算出を行うものではない点。

相違点4
本願発明1は「歌唱者画像に含まれる情報を用いて,歌唱者の形状または歌唱者の色を含む歌唱者の1以上の属性値を取得し,少なくとも一部は当該歌唱者の1以上の属性値を用いてモデルを示す画像であるモデル画像を構成するモデル画像構成部」を有し,さらに「モデル画像構成部」は,「歌唱者領域の各画素に対応する3次元の座標を取得し,当該3次元の座標の集合である形状の情報と,前記歌唱者の色の情報と,前記歌唱者の動きの情報とを用いて,前記歌唱者の形状と色と動きとを模した3次元の前記歌唱者のモデル画像を構成」するものであるが,引用発明1は,「モデル画像構成部」を有するものではない点。

相違点5
本願発明1の画像出力部は「3次元の歌唱者のモデル画像,または前記3次元の歌唱者のモデル画像と手本画像とが背景画像上に配置された合成画像,または前記3次元の歌唱者のモデル画像と手本画像を出力」を出力するものであるが,引用発明1の画像出力部は,歌唱者のモデル画像を出力するものではない点。

3 相違点についての判断
事案に鑑みて,上記相違点4及び5について先に検討する。
上記引用発明2及び3には,引用発明1と同様に本願発明1における「手本画像」に相当する画像を出力する点については記載されているものの,実際に歌を歌っている者の画像であって,「歌唱者の形状または歌唱者の色を含む歌唱者の1以上の属性値を取得し,少なくとも一部は当該歌唱者の1以上の属性値を用いてモデルを示す画像」である「3次元の歌唱者のモデル画像」を「モデル画像構成部」によって構成して出力する点については記載も示唆もない。
また,「手本画像」に相当する画像を出力することから,「歌唱者の画像」を出力することを当業者が容易に想到し得たとしても,本願発明1のような「3次元の歌唱者のモデル画像」を出力することが,当業者にとって容易容易に想到し得たとも,本願出願日前において周知技術であるともいえない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用発明1乃至3に基づいて容易に発明できたものではない。

4 本願発明2乃至5について
請求項2乃至5はいずれも,本願発明1である請求項1に係る発明を引用しており,本願発明1が引用発明1乃至3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,請求項2乃至5に係る発明も,引用発明1乃至3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本願発明6について
請求項6に記載される本願発明6は,本願発明1と末尾が異なるものの実質的に同じ発明特定事項を有するものであって,本願発明1が引用発明1乃至3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,請求項6に係る発明も,引用発明1乃至3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 理由2について
当審では,請求項1,請求項1を引用する請求項2乃至6,及び請求項1と実質的に同じ記載がある請求項7において「どのようにして「歌唱者領域の中から各ジョイントを検知」するかについては何ら記載がなく,「歌唱者領域の中から各ジョイントを検知」することが技術常識であると認める根拠もない。したがって,本願の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」との拒絶の理由を通知しているが,平成30年8月28日付けの意見書において,「明細書の段落[0070]-[0075]等に2つの具体例が記載されています」,「歌唱者領域から人体部位の座標の情報を得ることは周知技術である,と言えます」と釈明がなされ,当該釈明により,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められ,この拒絶の理由は解消した。

第7 原査定についての判断
平成30年8月28日付けの補正により,補正後の請求項1乃至6は,「カラオケ楽曲に合わせて踊る利用者(舞踊者)の画像を出力する」という技術的事項を有するものとなった。
当該「少なくとも,カラオケ楽曲に合わせて踊る利用者(舞踊者)の画像を出力する」は,原査定における引用文献1乃至4には記載されておらず,本願優先日前における周知技術でもないので,本願発明1乃至6は,当業者であっても,原査定における引用文献1乃至4に基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-10-12 
出願番号 特願2013-238951(P2013-238951)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A63B)
P 1 8・ 536- WY (A63B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 英一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 吉村 尚
荒井 隆一
発明の名称 カラオケ装置、ダンス採点方法、およびプログラム  
代理人 谷川 英和  

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