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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 F01M 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F01M 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01M |
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管理番号 | 1344688 |
審判番号 | 不服2017-11027 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-07-25 |
確定日 | 2018-10-29 |
事件の表示 | 特願2015-557351「シリンダ潤滑のための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔2014年8月28日国際公開、WO2014/127895、平成28年3月22日国内公表、特表2016-508565、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2014年2月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年2月19日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月20日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年9月14日に手続補正され、同年10月31日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成29年2月2日に手続補正されたが、同年4月10日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。発送日:同年4月17日)され、これに対し、同年7月25日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成30年4月16日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年7月4日に手続補正されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし20に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明20」という。)は、平成30年7月4日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 酸を生じさせる燃料を燃焼させる内燃機関における、シリンダ潤滑のための装置であって、少なくとも二つの潤滑剤を提供するための手段を備え、前記潤滑剤のうち少なくとも一つの潤滑剤は、想定されるいかなる適用事例においても必要とされる中和の要求を超えない中和能を有し、少なくとも一つの潤滑剤は、想定されるいかなる適用事例においても必要とされる中和の要求より小さくない中和能を有し、中和および潤滑の要求に応じて行われる、量に応じた前記潤滑剤の測定と、前記シリンダの内側への前記潤滑剤の供給を行うための手段を備え、 前記潤滑剤は、個別の潤滑ノズル(3)を介して前記シリンダの内側へ供給され、 前記潤滑ノズル(3)のノズル開口部は少なくとも部分的に、異なる潤滑剤によって形成される噴流(25,26)が、互いに向き合うように向けられている、装置。 【請求項2】 他の有用な特性を有する少なくとも一つのさらなる材料を提供し、かつ計量するとともに、前記少なくとも一つのさらなる材料を前記シリンダの内側へ供給するための手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項3】 シリンダ壁内に円周にわたって配分され、用いられる潤滑剤、少なくとも用いられる前記潤滑剤に対応した潤滑ノズル(3)が設けられており、異なる潤滑剤に対して設けられている前記潤滑ノズル(3)は異なる高さに配分されていることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。 【請求項4】 上下に配置されるとともに、前記異なる潤滑剤に対応する、前記潤滑ノズル(3)の少なくとも二つの列が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の装置。 【請求項5】 前記潤滑ノズル(3)はフィールド(18)において、複数の潤滑ノズル列で設けられており、前記要求と一致する配分パターンに応じて配分されており、および/または作動可能であることを特徴とする請求項3に記載の装置。 【請求項6】 前記シリンダの内側のうち側方におけるピストン圧縮が行われる円周領域には、低い中和能を有する前記潤滑剤に対応する前記潤滑ノズル(3)がより多く設けられ、および/または前記シリンダの内側のうち酸の蓄積が増大される円周領域には、高い中和能を有する前記潤滑剤に対応する前記潤滑ノズル(3)がより多く設けられていることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の装置。 【請求項7】 前記潤滑ノズル(3)のノズル開口部は少なくとも部分的に、噴射円錐が生じるように形成されており、異なる潤滑剤によって形成される噴射円錐は重なり合うことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。 【請求項8】 前記潤滑ノズル(3)は少なくとも部分的に、異なる潤滑剤に対して設けられた少なくとも二つの入口(21,22)と、前記入口に対して設けられたノズルヘッド(23,24)とを有する複式ノズル(20)として形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。 【請求項9】 同じ潤滑剤を供給可能である前記潤滑ノズル(3)もしくはシリンダのノズル側入り口(21,22)は少なくとも部分的に、該当する潤滑剤を供給可能である共通の圧力導管(7)と接続されており、前記圧力導管は制御可能な弁装置(9)を用いて作動化および非作動化可能であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。 【請求項10】 同じ潤滑剤を供給可能である前記潤滑ノズル(3)もしくはシリンダ(1)のノズル側入り口(21,22)は少なくとも部分的に、該当する潤滑剤を供給可能である共通の多室型定量ポンプ(12)の室(13)とそれぞれ接続されており、前記多室型定量ポンプは制御可能な駆動装置を備えていることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。 【請求項11】 エンジンの少なくとも一つの作動パラメータのための少なくとも一つの入力部(17)を有する制御装置(11)が設けられており、前記制御装置を用いて個々のシリンダ(1)または個々のシリンダグループへの異なる潤滑剤のそれぞれの供給は、別箇に制御可能であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。 【請求項12】 潤滑ノズル(3)もしくはノズル側入り口には少なくとも部分的に、流体柱を供給可能である少なくとも一つの供給導管(27)が配設されており、前記流体柱は使用される前記異なる潤滑剤から成る一連の部分(28)から形成され、前記部分の容積は既存の中和および潤滑の要求および/またはその他の要求に応じて算定されていることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。 【請求項13】 複数の供給導管(27)に対して、前記用いられる潤滑剤の数に相当する数の入口(30)を有する共通の定量ポンプ(29)が配設されていることを特徴とする請求項12に記載の装置。 【請求項14】 前記内燃機関は、クランク軸におけるベアリングのために別箇の潤滑を行う型式のピストン型内燃機関であることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の装置。 【請求項15】 前記内燃機関は、2ストローククロスヘッド式大型ディーゼルエンジンとして形成されていることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の装置。 【請求項16】 前記内燃機関の少なくとも一つの要素はマーキング(33)を有しており、前記マーキングから、取り付け日、整備、寿命などのパラメータによる前記シリンダ潤滑の分類が読み取れることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の装置。 【請求項17】 前記マーキング(33)は外部から読み取り可能であることを特徴とする請求項16に記載の装置。 【請求項18】 前記マーキング(33)はエンジンの運転中に読み取り可能であることを特徴とする請求項16または17に記載の装置。 【請求項19】 前記マーキング(33)は非接触式に読み取り可能なメモリーチップに受容されていることを特徴とする請求項16から18のいずれか一項に記載の装置。 【請求項20】 エンジンの少なくとも一つのシリンダ(1)、好ましくは全てのシリンダ(1)にマーキング(33)が配設されていることを特徴とする請求項16から19のいずれか一項に記載の装置。」 第3 引用文献 1 引用文献1 原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された実願昭61-79945号(実開昭62-190814号)のマイクロフィルム(以下「引用文献1」という。)には、「ガス焚き内燃機関のシリンダ油供給装置」に関して、図面(特に、第1図参照)とともに、次の事項が記載されている。 (1)明細書1ページ16行?2ページ18行 「〔従来の技術〕 内燃機関のシリンダ油は、通常使用される燃料油の硫黄分の多少に応じて最も適したアルカリ価のものを選択して使用している。即ち、硫黄分の多い燃料油の場合にはアルカリ価の高いシリンダ油を、また硫黄分の少ない燃料油の場合にはアルカリ価の低いシリンダ油を夫々シリンダ注油装置へ供給する装置と切替え、燃焼生成物が中性となるようにしている。 〔考案が解決しようとする問題点〕 ところが、ガス焚き内燃機関の場合には、ガス燃料には硫黄分が殆ど含まれないのに対し、燃料油には産地、油種により異なるが一般的には硫黄分が含まれており、これら二種の燃料が機関負荷に応じて異なる割合で混焼されるため、シリンダ油のアルカリ価も燃料の混焼割合に応じて変える必要がある。 かかる事情に鑑み、本考案は使用燃料中の硫黄分に応じて異種のシリンダ油を最適にシリンダライナに供給することにより、燃焼生成物を中性とし、シリンダライナ及びピストンリング等の摩耗防止を図ったガス焚き内燃機関のシリンダ油供給装置を課題とするものである。」 (2)明細書3ページ15行?6ページ1行 「〔実施例〕 第1図は本考案の一実施例になるシリンダ油供給装置の制御系統図であり、第2図はそのシリンダライナにおける注油孔の配置を示す図である。図示のように、各シリンダライナ1にはシンリンダ油を供給する注油金物2,3が、供給する油の種類に応じて取付けられている。これらのシリンダライナは、夫々の注油器6,7を介してシリンダ油タンク4,5に連結されている。この二つのシリンダタンク6,7には異なった油種のシリンダ油が貯蔵されており、前記注油器6,7により注油金物2,3を経てシリンダライナ1に供給される。注油器6,からの吐出量は、夫々の注油器6,7の油圧モータ8,9の回転数により変化し、それらの回転数は油圧モータ制御レバー10,11により調整される。更に、これら油圧モータ制御レバー10,11は夫々リンク機構を介して油燃料制御レバー12,及びガス燃料制御レバー13に接続されている。そして、油圧モータ制御レバー10,11は燃料レバー12,13の動きに応じて調整され、各シリンダへ供給されるシリダ油の供給割合を最適のものとして燃焼生成物を中性に保持するようにコントロールされている。 シリンダライナ1には、第2図に示すように注油孔15,16及び分散溝17,18が設けられている。この分散溝17,18は、シリンダライナ1の内面に供給された油種の異なったシリンダ油の混合を容易にするためにできるだけ近接して配列されている。 上記実施例の作用について説明すれば次の通りである。 通常のガス焚き機関における燃料の使用形態は、第3図に示すように後進時、入港および出港時、並びに約35%未満の軽負荷時に油燃料専焼となるが、高負荷領域では混焼となり、その際の油とガスとの割合はLNGタンクの気化率により決定される。そこで、上記実施例のシリンダ油供給装置を用いることにより、第4図に示すように、油燃料用シリンダ油(A種シリンダ油)とガス燃料用シリンダ油(B種シリンダ油)とを燃料の混焼割合に応じてシリンダライナに供給すれば燃料油専焼時はもとより、油燃料/ガス燃料の混焼時にも常に燃料中の硫黄分に応じたアルカリ価のシリンダ油が供給され、燃焼生成物を中性に保持できることになる。その結果、シリンダ油の消費量を最少限に抑制すると共に、ピストンリングの摩耗量を最低に抑えることができる。」 上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「硫黄分を含む燃料を燃焼させるガス焚き内燃機関における、シリンダライナ1及びピストンリング等の摩耗防止を図ったガス焚き内燃機関のシリンダ油供給装置であって、油燃料用シリンダ油及びガス燃料用シリンダ油を提供するための注油器6,7及び油燃料制御レバー12及びガス燃料制御レバー13に夫々リンク機構を介して接続されている油圧モータ8,9を備え、前記シリンダ油のうちガス燃料用シリンダ油は、アルカリ価の低いシリンダ油であり、油燃料用シリンダ油は、アルカリ価の高いシリンダ油であり、燃焼生成物を中性に保持できると共に、ピストンリングの摩耗量を最低に抑えるよう、燃料の混焼割合に応じて前記シリンダ油をシリンダライナ1に供給する前記注油器6,7及び前記油圧モータ8,9を備え、 前記シリンダ油は、注油孔15,16を介して前記シリンダライナ1の内側へ供給され、 分散溝17,18がシリンダライナ1の内面に設けられる、ガス焚き内燃機関のシリンダ油供給装置。」 2 引用文献2 原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された特表2005-518942号公報(以下「引用文献2」という。)には、「ダイキャスト鋳造機用の潤滑装置」に関して、図面(特に、図1参照)とともに、次の事項が記載されている。 「【0008】 鋳造休止の間、ピストン19はそのピストンリング20と共に鋳造シリンダ18の端部において停止している。直前の鋳造サイクル中に鋳造シリンダ18の外側で停止している噴霧ノズル15と16は、制御装置3により操作される圧縮空気導管6によってのみ作動する。その際圧縮空気シリンダ13は、噴霧ノズル15と16と共に供給パイプ14を、噴霧ノズル16が鋳造シリンダ18の長手方向軸線内へ位置する用に前方に押し出す。引き続いて、制御装置3から移送空気を圧縮空気導管7を通って射出し、移送空気は噴霧ノズル16を通って流出する。それに対して、制御装置3は図には示していない配量ポンプを作動させ、調節可能な量の潤滑剤を一回かあるいは多数回の配量送り出しにより導管9を通って搬送するが、その際このポンプを圧縮空気により噴霧ノズル16へ向けて駆動する。噴霧ノズル16から、鋳造シリンダ18の長手方向軸線方向で円錐状噴射体21が流出し、この円錐状噴射体は圧縮空気により飛散して鋳造シリンダ18の内側表面を湿潤させる。潤滑剤の噴霧後、圧縮空気導管7を介して他の空気を噴霧ノズル16により放出する。それに次いで、空気を圧縮空気導管8により制御し、空気は噴霧ノズル15を通って鋳造シリンダ18の長手方向軸線に対して垂直に噴出する。再度潤滑剤が導管9を通って移送されるとすぐに、圧縮空気により噴霧可能な小さい円錐状噴射体22を、円錐状噴射体21によっては噴霧されない鋳造シリンダ18の内側表面を湿潤させるために発生させる。鋳造シリンダ18の内側表面が加熱されたために蒸気が発生し、この蒸気が噴霧ノズル15と16によりさらに供給される圧縮空気によって、鋳造シリンダ18から放出される。鋳造シリンダの内側表面に付着している不燃性の潤滑剤粒子は、鋳造シリンダ18内においてピストン19あるいはピストンリング20の潤滑に役立つ。蒸気の放出後、制御装置3は圧縮空気導管7と8による空気の供給を差し止め、逆方向における圧縮空気シリンダ13の作動により、噴霧ノズル15と16を鋳造シリンダ18から取り除き、そのうえで後に続く鋳造サイクルを行うことができる。潤滑剤が噴霧前に適温であるために、導管9は有利な方法でその端部において電気的加熱装置23を備えている。」 上記記載事項及び図面の図示内容を総合し整理すると、引用文献2には、次の事項が記載されている。 「噴霧ノズル15,16から潤滑剤を円錐状噴射体21,22として噴霧すること。」 3 引用文献3 原査定に引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて利用可能となった国際公開第2010/113948号(以下「引用文献3」という。)には、「鋼管のねじ部への潤滑剤塗布装置および塗布方法」に関して、図面(特に、図1及び図3(b)参照)とともに、次の事項が記載されている。 (1)「[0040] 第1の潤滑剤噴霧装置5aは、第1の定量ポンプ4aから定量供給される潤滑剤9を送るための潤滑剤供給路15a、16aと、潤滑剤から独立して噴霧用のエアーを送るためのエアー供給路17a、18aと、ピン8aに向けられたノズル19a、20aを先端に有する2つのスプレーガン19、20とから構成される。潤滑剤供給路15a、16aとエアー供給路17a、18aはスプレーガン19、20の先端ノズル19a、20a近傍に位置しているとの合流部(図示しない)で合流し、それによって潤滑剤9は霧化され、霧化された潤滑剤9は先端のノズル19a、20aから鋼管Pのピン8aへ向けてスプレーされる。 同様に、第2の潤滑剤噴霧装置5bは、第2の定量ポンプ4bから定量供給される潤滑剤9を送るための潤滑剤供給路21aと、潤滑剤供給路21aから独立して噴霧用のエアーを送るためのエアー供給路22aと、噴霧用のエアーにより霧化された潤滑剤9を先端のノズル23aから鋼管Pのボックス8bへ向けてスプレーするスプレーガン23とを有する。潤滑剤供給路21aとエアー供給路22aと先端ノズル23aの近傍に位置する合流部(図示しない)で合流して潤滑剤が霧化され、霧化された潤滑剤がノズルからスプレーされる。」 (2)「[0051] 図3(a)はスプレーガン19、20をねじ山面8dに対して直角に向けて潤滑剤9を噴霧する状況を模式的に示す説明図であり、図3(b)はスプレーガン19、20をねじ面に対して傾斜させて潤滑剤9を噴霧する状況を模式的に示す説明図である。なお、図3(a)および図3(b)における左方向きの矢印は、スプレーガン19、20の軸方向移動方向を示す。ねじ山形状は、図2に示すものと同様である。」 (3)図3(b)には、スプレーガン19、20のノズル19a、20aのノズル開口部は少なくとも部分的に、スプレーが互いに向き合うように向けられていることが示されている。 上記記載事項及び図面の図示内容を総合し整理すると、引用文献3には、次の事項が記載されている。 「スプレーガン19、20のノズル19a、20aのノズル開口部は少なくとも部分的に、潤滑剤9によって形成されるスプレーが互いに向き合うように向けられていること。」 第4 対比・判断 1 本願発明1について 本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「硫黄分を含む燃料」は前者の「酸を生じさせる燃料」に相当し、以下同様に、「ガス焚き内燃機関」は「内燃機関」に、「シリンダライナ1及びピストンリング等の摩耗防止を図ったガス焚き内燃機関のシリンダ油供給装置」は「シリンダ潤滑のための装置」に、「油燃料用シリンダ油及びガス燃料用シリンダ油」は「少なくとも二つの潤滑剤」に、「油燃料用シリンダ油及びガス燃料用シリンダ油を提供するための注油器6,7及び油燃料制御レバー12及びガス燃料制御レバー13に夫々リンク機構を介して接続されている油圧モータ8,9」は「少なくとも二つの潤滑剤を提供するための手段」に、「シリンダライナ1」は「シリンダ」に、「燃焼生成物を中性に保持できると共に、ピストンリングの摩耗量を最低に抑える」ことは「中和および潤滑の要求に応じて行われる」ことに、「燃料の混焼割合に応じて前記シリンダ油をシリンダライナ1に供給する前記注油器6,7及び前記油圧モータ8,9」はシリンダ油量の測定を伴うことが明らかであるから「量に応じた前記潤滑剤の測定と、前記シリンダの内側への前記潤滑剤の供給を行うための手段」に、「注油孔15,16」は「個別の潤滑ノズル(3)」にそれぞれ相当する。 また、後者の「ガス燃料用シリンダ油は、アルカリ価の低いシリンダ油であり、油燃料用シリンダ油は、アルカリ価の高いシリンダ油であり」と前者の「少なくとも一つの潤滑剤は、想定されるいかなる適用事例においても必要とされる中和の要求を超えない中和能を有し、少なくとも一つの潤滑剤は、想定されるいかなる適用事例においても必要とされる中和の要求より小さくない中和能を有し」とは、「少なくとも一つの潤滑剤は、相対的に低い中和能を有し、少なくとも一つの潤滑剤は、相対的に高い中和能を有し」という限りで一致する。 したがって、両者は、 「酸を生じさせる燃料を燃焼させる内燃機関における、シリンダ潤滑のための装置であって、少なくとも二つの潤滑剤を提供するための手段を備え、前記潤滑剤のうち少なくとも一つの潤滑剤は、相対的に低い中和能を有し、少なくとも一つの潤滑剤は、相対的に高い中和能を有し、中和および潤滑の要求に応じて行われる、量に応じた前記潤滑剤の測定と、前記シリンダの内側への前記潤滑剤の供給を行うための手段を備え、 前記潤滑剤は、個別の潤滑ノズルを介して前記シリンダの内側へ供給される、装置。」 で一致し、次の点で相違する。 〔相違点1〕 「少なくとも一つの潤滑剤は、相対的に低い中和能を有し、少なくとも一つの潤滑剤は、相対的に高い中和能を有し」に関して、本願発明1は、「少なくとも一つの潤滑剤は、想定されるいかなる適用事例においても必要とされる中和の要求を超えない中和能を有し、少なくとも一つの潤滑剤は、想定されるいかなる適用事例においても必要とされる中和の要求より小さくない中和能を有し」であるのに対し、 引用発明は、「ガス燃料用シリンダ油は、アルカリ価の低いシリンダ油であり、油燃料用シリンダ油は、アルカリ価の高いシリンダ油であり」である点。 〔相違点2〕 本願発明1は、「前記潤滑ノズル(3)のノズル開口部は少なくとも部分的に、異なる潤滑剤によって形成される噴流(25,26)が、互いに向き合うように向けられている」のに対し、 引用発明は、「分散溝17,18がシリンダライナ1の内面に設けられる」点。 そこで、事案に鑑み、相違点2について検討する。 引用文献2に記載された事項は、「噴霧ノズル15,16から潤滑剤を円錐状噴射体21,22として噴霧すること」である。 そうすると、引用文献2に記載された事項は、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とは相違するものである。 また、引用文献3に記載された事項は、「スプレーガン19、20のノズル19a、20aのノズル開口部は少なくとも部分的に、潤滑剤9によって形成されるスプレーが、互いに向き合うように向けられていること」である。 そうすると、引用文献3に記載された事項は、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項の「異なる潤滑剤」によって形成される噴流が互いに向き合う点において相違する。そして、引用文献3には、潤滑油9を異なるものとしてスプレーすることについての記載はない。 また、原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された特開昭58-165515号公報(以下「引用文献4」という。)、同特開2003-187011号公報(以下「引用文献5」という。)、及び電気通信回線を通じて利用可能となった国際公開第2004/071856号(以下「引用文献6」という。)には、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項に関する記載はない。 したがって、引用発明において、当業者が引用文献2ないし引用文献6に記載された事項を適用して、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとはいえない。 よって、本願発明1は、相違点1を検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本願発明2ないし20について 本願発明2ないし20は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は、平成29年2月2日の手続補正により補正された請求項1ないし29に係る発明について、上記引用文献1ないし6に基いて当業者が容易に発明をすることができたから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら、平成30年7月4日の手続補正により補正された請求項1は、前記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を有するものとなっており、前記のとおり、本願発明1ないし20は、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由の概要及び当審拒絶理由についての判断 (1)当審では、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知した。 しかしながら、平成30年7月4日の手続補正により拒絶の理由の対象であった請求項1ないし9が削除されたため、この拒絶の理由は解消した。 (2)当審では、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知した。 しかしながら、平成30年7月4日の手続補正により請求項1ないし20の記載は、前記「第2」のとおり補正されたので、この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1ないし20は、いずれも、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-10-15 |
出願番号 | 特願2015-557351(P2015-557351) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WY
(F01M)
P 1 8・ 121- WY (F01M) P 1 8・ 537- WY (F01M) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 北村 亮 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
水野 治彦 冨岡 和人 |
発明の名称 | シリンダ潤滑のための方法および装置 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |