ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F |
---|---|
管理番号 | 1344755 |
審判番号 | 不服2017-17818 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-12-01 |
確定日 | 2018-10-23 |
事件の表示 | 特願2016-113599「積層膜、表示装置及び入力装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日出願公開、特開2017-220011、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年6月7日の出願であって、平成29年7月5日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年8月23日付けで手続補正がされ、平成29年9月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成29年12月1日に審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成29年9月12日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1-3に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(なお、「引用文献2」が主引用例として引用された。) 引用文献等一覧 1.特開2016-58055号公報 2.特表2016-500853号公報 3.特表2014-513335号公報 第3 本願発明 本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、平成29年12月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-3は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 第1層、第2層及び第3層がこの順に積層された積層膜であって、 第1層が、電気抵抗率が15μΩ・cm以下である金属薄膜であり、 第2層が40原子%以上61原子%以下の窒素を含むアルミニウム窒化膜又は40原子%以上61原子%以下の窒素と、酸素(O)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ネオジム(Nd)うち少なくとも1つを含むアルミニウム合金窒化膜であり、 第3層が50原子%以上60原子%以下の酸素と、ネオジム(Nd)を含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸化膜、又は50原子%以上60原子%以下の酸素及び1原子%以上10原子%以下の窒素と、ネオジム(Nd)と含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸窒化膜であり、 前記第2層の膜厚が20nm?200nm、かつ、前記第3層の膜厚が15nm?200nmである積層膜。 【請求項2】 請求項1に記載の積層膜を備えた表示装置。 【請求項3】 請求項1に記載の積層膜を備えた入力装置。」 第4 引用文献、引用発明等 1.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特表2016-500853号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審付与。以下同様。)。 (1) 【請求項20】-【請求項22】 「【請求項20】 前記中間層の厚さは5nm?50nmである請求項1から請求項19のいずれか一項に記載の伝導性構造体。 【請求項21】 前記暗色化層の厚さは20nm?150nmである請求項1から請求項20のいずれか一項に記載の伝導性構造体。」 (2) 段落【0019】 「【0019】 そこで、本出願の一実現例は、従来のITOに基づいた透明伝導性薄膜層を用いたタッチスクリーンパネルと差別化することができ、金属微細パターン電極の隠蔽性および外部光に対する反射および回折特性が改善されたタッチスクリーンパネルに適用できる伝導性構造体を提供しようとする。」 (3) 段落【0022】 「【0022】 本出願の一実現例による伝導性構造体は、伝導性層と暗色化層との間に少なくとも1つの中間層を含む。前記中間層は1層であっても良く、2層以上であっても良い。前記中間層は、伝導性層の反射率を一次的に低減するようにする役割をする。このため、最終伝導性構造体が全波長領域で均一に20%以下、15%以下、10%以下の優れた反射率を得ることができるようにする効果がある。中間層が含まれていない伝導性構造体は、600nm以上の可視光線波長領域においては20%以上の反射率が測定される。中間層を含むことにより、600nm以上の可視光線波長領域で中間層が含まれていない場合に比べて反射率を70%以上低減できるという効果がある。または中間層を含む伝導性構造体は、500nm以下の可視光線波長領域で伝導性層の反射率を一次的に低減するようにすることもできる。」 (4) 段落【0031】 「【0031】 具体的には、前記暗色化層は吸光性を有するため、伝導性層自体へ入射する光と伝導性層から反射する光の量を減少させることによって伝導性層による反射率を下げることができる。また、前記暗色化層は伝導性層に比べて低い反射率を有することができる。これにより、使用者が直接伝導性層を見る場合に比べて光の反射率を下げることができるため、伝導性層の視認性を大幅に改善させることができる。」 (5) 段落【0065】-【0067】 「【0065】 例えば、前記暗色化層は、金属の酸化物、金属の窒化物、金属の酸窒化物および金属の炭化物からなる群から選択される1つまたは2つ以上を含んで用いることができる。前記金属の酸化物、窒化物、酸窒化物または炭化物は、当業者が設定した蒸着条件などによって形成することができる。前記金属は、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)および銅(Cu)からなる群から選択される1つまたは2つ以上であっても良い。具体的には、前記暗色化層は、銅の酸化物、銅の窒化物、銅の酸窒化物、アルミニウムの酸化物、アルミニウムの窒化物またはアルミニウムの酸窒化物を含むことができる。 【0066】 本出願の一実現例において、前記中間層は、金属の酸化物、金属の窒化物、金属の酸窒化物および金属の炭化物からなる群から選択される1つまたは2つ以上を含んで用いることができる。前記金属の酸化物、窒化物、酸窒化物または炭化物は、当業者が設定した蒸着条件などによって形成することができる。前記金属は、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)および銅(Cu)からなる群から選択される1つまたは2つ以上であっても良い。具体的には、前記暗色化層(当審注:「前記中間層」の誤記と認める。)は、銅の酸化物、銅の窒化物、銅の酸窒化物、アルミニウムの酸化物、アルミニウムの窒化物またはアルミニウムの酸窒化物を含むことができる。 【0067】 本出願の一実現例において、前記中間層または暗色化層は、誘電性物質および金属のうち少なくとも1つを含むことができる。前記金属は金属または金属の合金であっても良い。前記誘電性物質としてはTiO2-x、SiO2-x、MgF2-xおよびSiN1.3-x(-1≦x≦1)などが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。前記金属としては鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、金(Au)および銀(Ag)のうちから選択される金属を含むことができ、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、金(Au)および銀(Ag)のうちから選択される2以上の金属の合金であっても良いが、これらのみに限定されるものではない。」 (6) 段落【0075】 「【0075】 本出願の一実現例において、前記伝導性層の材料は比抵抗1×10^(-6)Ω・cm?30×10^(-6)Ω・cmの物質が好適であり、好ましくは1×10^(-6)Ω・cm?7×10^(-6)Ω・cmであっても良い。」 (7) 段落【0077】-【0078】 「【0077】 本出願の一実現例において、前記伝導性層の材料の具体的な例としては、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、ネオジム(Nd)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、その酸化物およびその窒化物からなる群から選択される1つまたは2つ以上を含むことができる。例えば、前記金属のうちから選択される2つ以上の合金であっても良い。より具体的には、モリブデン、アルミニウムまたは銅を含むことができる。前記伝導性層は単一膜または多層膜であっても良い。 【0078】 本出願の一実現例において、前記伝導性層、中間層および暗色化層は同一の金属を含むことができる。同一の金属を含む場合、同一のエッチャントを用いて工程作業が可能であるので工程上の利点があり、生産速度面にも有利であるので製造過程で有利な効果がある。」 (8) 段落【0086】 「【0086】 本出願の一実現例において、前記伝導性層はアルミニウムを含み、前記中間層および暗色化層はアルミニウムの酸化物、アルミニウムの窒化物またはアルミニウムの酸窒化物を含むことができる。具体的には、前記伝導性層はアルミニウムを含み、前記中間層は全体組成のうち窒素の原子百分率(Aomic percent)が0%超過20%未満であるアルミニウムの酸窒化物を含み、前記暗色化層は全体組成のうち窒素の原子百分率(Aomic percent)が20%以上45%以下であるアルミニウムの酸窒化物を含むことができる。」 (9) 段落【0090】-【0091】 「【0090】 中間層がアルミニウムの酸窒化物を含む場合、前記中間層の厚さは具体的には10nm?40nmであっても良く、より具体的には20nm?30nmであっても良い。10nm?40nmの厚さである時、500nm以下の可視光線波長領域で伝導性層の反射率において10%?40%の1次反射率の低減効果があるため、伝導性層、中間層および暗色化層を含む伝導性構造体の反射率を300?800nm可視光線の全体波長領域で均一に20%以下に下げるようにする効果がある。また、20nm?30nm範囲の厚さである時、500nm以下の可視光線波長領域で伝導性層の反射率において30?40%の1次反射率の低減効果があってより優れた効果があるため、伝導性層、中間層および暗色化層を含む伝導性構造体の反射率を300?800nm可視光線の全体波長領域でより反射率を下げるようにする効果がある。 【0091】 本出願の一実現例において、前記暗色化層の厚さは20nm?150nmであっても良い。具体的には20nm?100nm、より具体的には40nm?80nmまたは40nm?60nmであっても良い。前記暗色化層は用いる材料の屈折率および製造工程に応じて好ましい厚さが異なるが、エッチング(etching)特性を考慮すれば、厚さが20nm以上であれば工程調節が比較的に容易であり、150nm以下であれば生産速度の面で比較的に有利である。前記厚さ範囲で、工程の調節が容易であり、生産速度が改善されるため、製造工程でより有利である。20nm?100nm範囲においては、300?800nmの全体可視光線波長領域内で平均反射率が15%?20%以下であっても良い。40nm?80nmまたは40nm?60nm範囲においては、300?800nmの全体可視光線波長領域内で平均反射率が10?15%以下であることができるため、暗色化層の形成により有利である。」 (10) 段落【0108】 「【0108】 図2によれば、基材100、伝導性層300、中間層400、暗色化層200の順に配置された場合を例示したものである。これは、使用者が基材側の反対面からタッチスクリーンパネルを見る場合に伝導性層による反射率を大幅に減少させることができる。」 (11) 段落【0125】 「【0125】 例えば、中間層と暗色化層の形成時にAlOxNy(xおよびyはAl1原子に対する各々のOおよびNの原子数の比)のようにAl金属ターゲットを用いて反応性スパッタリング(reactive sputtering)方法を利用すれば、O_(2)および/またはN_(2)のような反応性ガスの分圧調節で工程を行うことができる。」 (12) 段落【0158】-【0159】 「【0158】 <実施例8?12> 伝導性層である厚さ80nmのAl電極上に反応性スパッタリング法(reactive sputtering)によってAlOxNy(0<x、0<y<0.3)を30nm厚さで中間層を蒸着した後、中間層上にAlOxNy(0<x、0.3≦y<1)を厚さ40nm(実施例8)、50nm(実施例9)、60nm(実施例10)、70nm(実施例11)、80nm(実施例12)で暗色化層を蒸着して伝導性構造体を製造した。 【0159】 実施例8?12の可視光線領域波長の反射率を測定して図12に示す。図12から、実施例8?12は300?800nm可視光線の全体波長領域で平均反射率が20%以下であることを確認することができ、実施例8?10は300?800nm可視光線の全体波長領域で平均反射率10%以下であることを確認することができる。」 したがって、関連図面に照らし、引用文献2には、特に「実施例8?12」に着目すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「タッチスクリーンパネルに適用できる伝導性構造体であって、 伝導性構造体は、伝導性層と暗色化層との間に少なくとも1つの中間層を含むものであり、 前記伝導性層の材料は比抵抗1×10^(-6)Ω・cm?30×10^(-6)Ω・cmの物質が好適であり、好ましくは1×10^(-6)Ω・cm?7×10^(-6)Ω・cmであって、 基材100、伝導性層300、中間層400、暗色化層200の順に配置され、 伝導性層である厚さ80nmのAl電極上に、 AlOxNy(0<x、0<y<0.3)を30nm厚さで中間層を蒸着した後、中間層上に、 AlOxNy(0<x、0.3≦y<1)を厚さ40nm、50nm、60nm、70nm、80nmで暗色化層を蒸着して製造した、 伝導性構造体。」 2.引用文献1について また、原査定の拒絶の理由に引用された、上記引用文献1(特開2016-58055号公報)には、以下の記載がある。 (1) 段落【0037】 「【0037】 実施の態様1A:第1層と第2層の二層構造からなる電極 図4は、本発明の電極の一構造例を示す概略断面図である。図4の電極構造20Aにおいて、透明基板24は、ガラスやプラスチック等からなる基板を用いることができる。透明基板24上には、Al膜またはAl合金膜からなる第1層21、一部が窒化しているAl合金からなる第2層22が少なくとも形成されている。積層構造において、第1層21は電極に用いられる配線用膜として作用し、第2層22は光学調整層として作用する。」 (2) 段落【0052】 「【0052】 例えば、上記Al-X合金の窒化物をAl-X-Nyで表した場合、Al原子とX群元素原子と窒素原子との総和を分母としたときの、窒素原子の含有比率yは、14原子%以上57原子%以下の範囲内とすることが挙げられる。以下、この「窒素原子の含有比率y」を「窒素原子比率」ということがある。後述する実施例の表1のNo.D、10およびWに示す通り、窒素原子比率が58原子%の場合は、所望とする消衰係数が得られない場合があるが、窒素原子比率を57原子%以下とすることによって所望とする消衰係数が得られやすくなる。所望とする消衰係数をより確実に得るには、前記窒素原子比率の下限を20原子%以上とすることが好ましく、また上限を好ましくは56原子%以下、より好ましくは50原子%以下、更に好ましくは40原子%以下とするのがよい。Alは窒化によってAlと窒素原子が1対1で化合したAlNを形成する。そのため、化学量論組成まで窒化されるには50原子%以上の窒素原子が必要になる。本発明では、化学量論組成に達しない程度の窒素原子を含むことがより好ましく、つまりは、膜中に金属AlまたはX群元素が金属として分散し、金属状態のAlやX群元素と;AlやX群元素の窒化物と;が混在している状態であることがより好ましい。」 これらの記載から、引用文献1には、第1層と第2層の二層構造からなる電極において、光の吸収率を示す「消衰係数」を所望の値とするために、アルミニウム合金窒化膜を第2層として用いる場合に、窒素原子の含有比率を14-57原子%とすることが記載されていると認定できる。 3.引用文献3について また、原査定の拒絶の理由に引用された、上記引用文献3(特表2014-513335号公報)には、以下の記載がある。 (1) 【請求項1】 「【請求項1】 基材と、 導電性パターン層と、 AlOxNy(0≦x≦1.5、0≦y≦1)を含む暗色化パターン層とを含む導電性構造体。 前記AlOxNyにおいて、xおよびyは、Al1原子に対するそれぞれのOおよびNの原子数の比を意味する。」 (2) 段落【0016】 「【0016】 本発明の一実施形態にかかる導電性構造体は、AlOxNy(0≦x≦1.5、0≦y≦1)を含む暗色化パターン層を含むことができる。前記xとyは、互いに独立である。前記xとyは、具体的にはx+y>0であり得、より具体的にはx>0、y>0であり得る。さらに具体的には、AlOxNy(0≦x≦0.6、0.3≦y≦0.8)の場合、暗色化パターン層の形成により効果的である。前記AlOxNyにおいて、xおよびyは、Al1原子に対するそれぞれのOおよびNの原子数の比を意味する。前記暗色化パターン層は、元素比率が下記数式1で表されるAlOxNy(x>0、y>0)を含むことができる。」 (3) 段落【0049】 「【0049】 本発明の一実施形態において、前記導電性パターン層の材料の具体例としては、銀、アルミニウム、銅、ネオジム、モリブデン、ニッケル、これらの合金、これらの酸化物、これらの窒化物などを1種以上含む単一膜または多層膜であり得、より具体的にはアルミニウムであり得るが、これらにのみ限定されるものではない。」 これらの記載から、引用文献3には、導電性パターン層と暗色化パターン層の二層構造からなる電極において、導電性パターン層の反射度を下げるために積層する暗色化パターン層の組成として、AlOxNy(0≦x≦1.5,0≦y≦1)を用いること(上記(1)、(2))、及び、導電性パターン層の材料として、アルミニウム、ネオジムの合金を用いること(上記(3))が記載されていると認定できる。 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1) 対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明の「伝導性層300、中間層400、暗色化層200の順に配置され」た「伝導性構造体」は、本願発明1の「第1層、第2層及び第3層がこの順に積層された積層膜」に相当する。 イ 「第1層」(「伝導性層」)について、引用発明の「前記伝導性層の材料は比抵抗1×10^(-6)Ω・cm?30×10^(-6)Ω・cmの物質が好適であり、好ましくは1×10^(-6)Ω・cm?7×10^(-6)Ω・cmであって」、「厚さ80nmのAl電極」である「伝導性層」は、本願発明1の「第1層が、電気抵抗率が15μΩ・cm以下である金属薄膜であ」ることに相当する。 ウ 「第2層」(「中間層」)について、引用発明の「AlOxNy(0<x、0<y<0.3)を30nm厚さで」蒸着した「中間層」は、本願発明1の「第2層が40原子%以上61原子%以下の窒素を含むアルミニウム窒化膜又は40原子%以上61原子%以下の窒素と、酸素(O)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ネオジム(Nd)うち少なくとも1つを含むアルミニウム合金窒化膜であ」ることと、「第2層が所定量の窒素と、酸素(O)を含むアルミニウムを含む窒化膜であ」る点で共通するといえる。 エ 「第3層」(「暗色化層」)について、引用発明の「AlOxNy(0<x、0.3≦y<1)を厚さ40nm、50nm、60nm、70nm、80nmで」蒸着した「暗色化層」は、本願発明1の「第3層が50原子%以上60原子%以下の酸素と、ネオジム(Nd)を含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸化膜、又は50原子%以上60原子%以下の酸素及び1原子%以上10原子%以下の窒素と、ネオジム(Nd)と含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸窒化膜であ」ることと、「第3層が所定量の酸素及び所定量の窒素を含むアルミニウムを含む酸窒化膜であ」る点で共通するといえる。 オ 引用発明の「中間層」が「30nm厚さで」、「暗色化層」が「厚さ40nm、50nm、60nm、70nm、80nmで」あることは、本願発明1の「前記第2層の膜厚が20nm?200nm、かつ、前記第3層の膜厚が15nm?200nmである」ことに相当する。 したがって、本願発明1と、引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 [一致点] 「第1層、第2層及び第3層がこの順に積層された積層膜であって、 第1層が、電気抵抗率が15μΩ・cm以下である金属薄膜であり、 第2層が所定量の窒素と、酸素(O)を含むアルミニウムを含む窒化膜であり、 第3層が所定量の酸素及び所定量の窒素を含むアルミニウムを含む酸窒化膜であり、 前記第2層の膜厚が20nm?200nm、かつ、前記第3層の膜厚が15nm?200nmである積層膜。」 [相違点1] 「第2層」(「中間層」)の組成について、本願発明1では、「第2層が40原子%以上61原子%以下の窒素を含むアルミニウム窒化膜又は40原子%以上61原子%以下の窒素と、酸素(O)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ネオジム(Nd)うち少なくとも1つを含むアルミニウム合金窒化膜であ」るのに対して、引用発明の「AlOxNy(0<x、0<y<0.3)」は、(窒素の比率が、計算上、Al=1、x≒0,y≒0.3のとき最大約23原子%にとどまるものであって)、「40原子%以上61原子%以下の窒素」の範囲外であり、また、アルミニウム「合金」窒化膜ではない点。 [相違点2] 「第3層」(「暗色化層」)の組成について、本願発明1では、「第3層が50原子%以上60原子%以下の酸素と、ネオジム(Nd)を含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸化膜、又は50原子%以上60原子%以下の酸素及び1原子%以上10原子%以下の窒素と、ネオジム(Nd)と含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸窒化膜であ」るのに対して、引用発明の「AlOxNy(0<x、0.3≦y<1)」は、(例えばAl=1、x=1.95、y≒0.3のケースを想定すれば、計算上、「60原子%の酸素」と「9原子%の窒素」となって、酸素と窒素の含有率が、本願発明1の数値範囲と重なる部分はあるものの)、「50原子%以上60原子%以下の酸素」と「1原子%以上10原子%以下の窒素」を含むことは特定されておらず、また、「ネオジム(Nd)」は含まれず、アルミニウム「合金」酸窒化膜ではない点。 (2) [相違点1]についての判断 ア 主引用例である「引用文献2」には、「第2層」(「中間層」)の組成に関する他の記載として、段落【0086】に、「前記中間層は全体組成のうち窒素の原子百分率(Aomic percent)が0%超過20%未満であるアルミニウムの酸窒化物を含」むことが記載され、段落【0066】には、「前記中間層または暗色化層は、誘電性物質および金属のうち少なくとも1つを含むことができる。前記金属は金属または金属の合金であっても良い」ことが記載されている(上記第4、1を参照。)。 しかし、引用発明の「中間層」として、「40原子%以上61原子%以下の窒素」を含む、アルミニウム「合金」窒化膜を採用する点は、引用文献2には記載されておらず、示唆されているともいえない。 イ 「引用文献1」には、第1層と第2層の二層構造からなる電極において、光の吸収率を示す「消衰係数」を所望の値とするために、アルミニウム合金窒化膜を第2層として用いる場合に、窒素原子の含有比率を14-57原子%とすることが記載されている(上記第4、2を参照。)。 しかし、そもそも、引用発明の伝導性層、中間層、暗色化層の三層構造における「中間層」の構成として、引用文献1の二層構造の「第2層」の構成を採用することの動機付けや起因は見いだし難い。 仮に、引用文献1の「第2層」の構成を引用発明の「中間層」の構成として採用することが想定できたとしても、「40原子%以上61原子%以下の窒素」を含むような、本願発明の[相違点1]に係る構成は必ずしも得られないことが明らかである。 ウ 「引用文献3」には、導電性パターン層と暗色化パターン層の二層構造からなる電極において、導電性パターン層の反射度を下げるために積層する暗色化パターン層の組成として、AlOxNy(0≦x≦1.5,0≦y≦1)を用いることが記載されている(上記第4、3を参照。)。 しかし、そもそも、引用発明の伝導性層、中間層、暗色化層の三層構造における「中間層」の構成として、引用文献3の二層構造の「暗色化パターン層」の構成を採用することの動機付けや起因は見いだし難い。 仮に、引用文献3の「暗色化パターン層」を引用発明の「中間層」として採用することが想定できたとしても、「40原子%以上61原子%以下の窒素」を含むような、本願発明の[相違点1]に係る構成は必ずしも得られないことが明らかである。 エ また、「第2層が40原子%以上61原子%以下の窒素を含むアルミニウム窒化膜又は40原子%以上61原子%以下の窒素と、酸素(O)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ネオジム(Nd)うち少なくとも1つを含むアルミニウム合金窒化膜であ」る構成が、周知技術であるともいえない。 よって、当業者といえども、引用発明及び引用文献1、引用文献3に記載された技術的事項、周知技術から、本願発明の上記[相違点1]に係る、「第2層が40原子%以上61原子%以下の窒素を含むアルミニウム窒化膜又は40原子%以上61原子%以下の窒素と、酸素(O)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ネオジム(Nd)うち少なくとも1つを含むアルミニウム合金窒化膜であ」るという構成を容易に想到することはできない。 (3) [相違点2]についての判断 主引用例である「引用文献2」には、「第3層」(「暗色化層」)の組成に関する他の記載として、段落【0086】に、「前記暗色化層は全体組成のうち窒素の原子百分率(Aomic percent)が20%以上45%以下であるアルミニウムの酸窒化物を含む」ことが記載され、段落【0066】には、「前記中間層または暗色化層は、誘電性物質および金属のうち少なくとも1つを含むことができる。前記金属は金属または金属の合金であっても良い」ことが記載されている。 また、段落【0077】-【0078】に、伝導性層の材料として、「銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、ネオジム(Nd)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、その酸化物およびその窒化物からなる群から選択される1つまたは2つ以上を含む」材料が例示されるとともに、同一のエッチャント(エッチング液)を用いる工程上の利点と生産速度面の効果のために、伝導性層、中間層および暗色化層は同一の金属を含むことができることが記載されている(上記第4、1を参照。)。 しかし、引用発明の「暗色化層」として、「50原子%以上60原子%以下の酸素」と「1原子%以上10原子%以下の窒素」を含み、「ネオジム(Nd)」を必須の要素として含む、アルミニウム「合金」酸窒化膜を採用する点は、引用文献2には記載されておらず、示唆されているともいえない。 また、「第3層」(「暗色化層」)の組成として、「50原子%以上60原子%以下の酸素」と「1原子%以上10原子%以下の窒素」を含み、「ネオジム(Nd)」を必須の要素として含む、アルミニウム「合金」酸窒化膜という構成は、「引用文献1」(上記第4、2を参照。)、「引用文献3」(上記第4、3を参照。)に記載されておらず、周知技術であるともいえない。 よって、当業者といえども、引用発明及び引用文献1、引用文献3に記載された技術的事項、周知技術から、本願発明の上記[相違点2]に係る、「第3層が50原子%以上60原子%以下の酸素と、ネオジム(Nd)を含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸化膜、又は50原子%以上60原子%以下の酸素及び1原子%以上10原子%以下の窒素と、ネオジム(Nd)と含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸窒化膜であ」るという構成を容易に想到することはできない。 (4) まとめ したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献1、引用文献3に記載された技術的事項、周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2-3について 本願発明2-3は、いずれも、本願発明1の上記[相違点1]の、「第2層が40原子%以上61原子%以下の窒素を含むアルミニウム窒化膜又は40原子%以上61原子%以下の窒素と、酸素(O)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ネオジム(Nd)うち少なくとも1つを含むアルミニウム合金窒化膜であ」るという構成、及び、上記[相違点2]の、「第3層が50原子%以上60原子%以下の酸素と、ネオジム(Nd)を含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸化膜、又は50原子%以上60原子%以下の酸素及び1原子%以上10原子%以下の窒素と、ネオジム(Nd)と含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸窒化膜であ」るという構成と同一の構成を備えるものである。 よって、本願発明1と同じ理由により、本願発明2-3も、当業者であっても、引用発明及び引用文献1、引用文献3に記載された技術的事項、周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第6 原査定について 審判請求時の補正により補正された、本願発明1-3は、「第2層が40原子%以上61原子%以下の窒素を含むアルミニウム窒化膜又は40原子%以上61原子%以下の窒素と、酸素(O)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ネオジム(Nd)うち少なくとも1つを含むアルミニウム合金窒化膜であ」るという事項、及び、上記[相違点2]の、「第3層が50原子%以上60原子%以下の酸素と、ネオジム(Nd)を含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸化膜、又は50原子%以上60原子%以下の酸素及び1原子%以上10原子%以下の窒素と、ネオジム(Nd)と含み、かつ、銅(Cu)、鉄(Fe)、炭素(C)の少なくとも1つを含むアルミニウム合金酸窒化膜であ」るという事項を有するものであり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-10-09 |
出願番号 | 特願2016-113599(P2016-113599) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06F)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 萩島 豪 |
特許庁審判長 |
▲吉▼田 耕一 |
特許庁審判官 |
稲葉 和生 山田 正文 |
発明の名称 | 積層膜、表示装置及び入力装置 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |