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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E21B
管理番号 1344796
審判番号 無効2016-800133  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-12-08 
確定日 2018-10-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第4553629号発明「掘削土飛散防止装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4553629号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1、5及び6に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成16年 5月12日 本件出願(特願2004-142869号)
平成22年 7月23日 設定登録(特許第4553629号)
平成28年12月 8日 本件無効審判請求
請求人より証人尋問申出書、尋問事項書提出
平成29年 2月20日 審判事件答弁書提出
平成29年 3月30日 審尋(起案日)
平成29年 5月 8日 請求人より審尋回答書、鑑定証人尋問事項書提出
平成29年 6月 6日 審理事項通知(起案日)
平成29年 7月 3日 請求人より口頭審理陳述要領書、鑑定の申出書、鑑定事項書提出
平成29年 7月18日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成29年 7月19日 審理事項通知(起案日)
平成29年 7月24日 請求人より上申書提出
平成29年 7月31日 口頭審理

請求人より、当初証人尋問(鑑定証人を含む)の申し出がなされたが、平成29年6月6日付け審理事項通知により、合議体として必要はないとの判断を示した。その後、請求人より、鑑定の申し出がなされたが、合議体として、鑑定の必要性がないものと判断し、平成29年7月19日付け審理事項通知により却下した。

第2 本件発明
本件特許は、本件特許を対象とした無効2013-800233号の審決で、平成27年6月12日に訂正請求され、平成27年7月8日、平成27年10月20日に手続補正された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することが認められ、その審決取消請求事件(知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第10011号)の請求棄却判決(乙第1号証)が確定したので、本件特許の請求項1、5及び6に係る発明(以下「本件発明1」などといい、これらの発明をまとめて「本件発明」という。)は、上記訂正請求書に添付され、補正された特許請求の範囲1、5及び6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(A?Wの分説は、請求人の主張に基づいて審決において付した。)。
「【請求項1】
A 地盤を掘削するための掘削ビットをハンマシャフトの先端に備えたダウンザホールハンマと、
B 前記ハンマシャフトの一端が連結され、前記ダウンザホールハンマを回転駆動するための回転駆動装置と、
C 前記回転駆動装置から垂下し、前記ダウンザホールハンマを囲繞するように設けられ、下端側から前記ダウンザホールハンマの掘削ビットが突き出るように形成されたケーシングと、
D 前記ダウンザホールハンマの掘削ビットによって削り出される掘削土が吹き上げられた際に通過するようになっており、前記ケーシングの内壁と前記ダウンザホールハンマとの間に形成された通路と、
E 前記ケーシングに形成され、前記通路を通り抜けて吹き上げられた掘削土を前記ケーシングの外側に排出するための排土口と、を有する掘削装置を用いた掘削施工において排出される前記掘削土が、当該掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための掘削土飛散防止装置であって、
I J 前記掘削土飛散防止装置は前記ケーシングの少なくとも一部を囲繞するように、前記回転駆動装置から前記ハンマシャフトに沿って垂下した状態で取り付け可能に構成された筒状部を含んでおり、筒状部は蛇腹状の側壁を有するように形成され、自在に伸縮できるように構成され、
F また、前記掘削土飛散防止装置は前記排土口を介して前記ケーシングの外側へ排出された前記掘削土が衝突するようになっている衝突部を含んでおり、
G 前記排土口から所定距離離隔した状態で、前記衝突部が前記ケーシングの外側から前記排土口を臨むように設けられ、
M 前記掘削土飛散防止装置は、さらに、
蛇腹状の側壁を有する前記筒状部の下端近傍に、その一端が連結されたワイヤーと、
N 少なくとも掘削作業中において、垂下された状態の前記筒状部の上端から下端までの長さを調整するために、前記ワイヤーを自在に巻き取りまたは繰り出すことができるように構成されており、前記ワイヤーの他端が連結されている巻き取り装置と、を有しており、
O 前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが巻き取られた際には、巻き取りに伴って前記筒状部が縮退し、
前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが繰り出された際には、繰り出しに伴って前記筒状部が排土口のみならずケーシングを取り囲むことができる筒状部が伸展するようになっていて、
サイレンサーとして機能するようにもした、
H 前記衝突部に衝突した前記掘削土は、当該掘削装置の周囲に飛散することなく、前記衝突部と前記排土口との間の間隙を介して、自重によって前記衝突部の下方へ向かって落下するようになっていることを特徴とする掘削土飛散防止装置。
【請求項5】
P 前記掘削土飛散防止装置は、さらに、前記筒状部の下端に、当該筒状部を被固定体に対して着脱自在に固定するための固定用フランジを有しており、
Q 前記被固定体は、地表部に設置されるようになっており、前記掘削土飛散防止装置の固定用フランジに対して固定されるようになっている固定部と、前記ケーシングの一部を囲繞する筒状部と、を含んでいることを特徴とする請求項1記載の掘削土飛散防止装置。
【請求項6】
R 上記請求項1記載の掘削土飛散防止装置と、請求項5記載の掘削装置とを併用して掘削を行う方法であって、
S 前記掘削土飛散防止装置の衝突部がケーシングの外側から排土口を臨むように、当該掘削土飛散防止装置の筒状部を回転駆動装置からハンマシャフトに沿って垂下する状態で取り付け、
T 前記ケーシング内を挿通するダウンザホールハンマによって、所定位置の地盤を掘削し、
U 掘削作業の間に前記ケーシングの排土口から排出される掘削土を、前記掘削土飛散防止装置の衝突部に衝突させることによって、当該掘削土が自重によって衝突部の下方へ向かって落下するようにし、
V 前記ダウンザホールハンマの掘進に伴って、垂下された状態の前記筒状部を縮退させ、
W 掘削の間および/または掘削の終了後において、前記衝突部の下方の地表部に堆積した前記掘削土を排土処理することを特徴とする掘削方法。」

第3 請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1、5及び6に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、概ね以下のとおり主張している(審判請求書、平成29年5月8日付け審尋回答書、同年7月3日付け口頭審理陳述要領書、同年7月24日付け上申書を参照。)。また、証拠方法として甲第1号証ないし甲第18号証を提出している。

1 無効理由の概要
本件発明1、5及び6は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1、5及び6に係る特許は、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
(第1回口頭審理調書参照)

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証の1:基礎工9月号(第29巻第9号通巻338号)、(株)総合土木研究所、平成13年9月15日、表紙(原)
甲第1号証の2:同上、奥付(原)
甲第2号証の1:基礎工7月号(第30巻第7号通巻348号)、(株)総合土木研究所、平成14年7月15日、表紙(原)
甲第2号証の2:同上、表紙裏(原)
甲第2号証の3:同上、奥付(原)
甲第3号証:特許3468724号公報(写)
甲第4号証の1:木村亮、鑑定書、平成28年9月17日(原)
甲第4号証の2:木村亮、鑑定補充書、平成29年6月21日(原)
甲第5号証:特公昭57-7275号公報(写)
甲第6号証:特開平11-294055号公報(写)
甲第7号証の1:基礎工6月号(第29巻第6号通巻335号)、(株)総合土木研究所、平成13年6月15日、表紙(原)
甲第7号証の2:同上、表紙裏(原)
甲第7号証の3:同上、奥付(原)
甲第8号証:特許3211673号公報(写)
甲第9号証:特開平9-302654号公報(写)
甲第10号証:無効2013-800233号の審決の予告(写)
甲第11号証:PRD-Reach工法(吊下げ式高速地盤掘削工法)<特許工法>と題する書面、発行年月日不明(写)
甲第12号証の1?3:「PAL-SYSTEM7」と題するパンフレット、株式会社横山基礎工事、平成14年6月(写)
甲第13号証の1?3:「スクリュードライバー工法」と題するパンフレット、株式会社横山基礎工事、平成14年8月(写)
甲第14号証の1?3:「鋼管矢板圧入・引抜機、STILL WORKER」と題するパンフレット、株式会社横山基礎工事、平成15年2月(写)
甲第15号証の1、2:「PRD ROSE工法」と題するパンフレット、株式会社横山基礎工事、平成12年5月、表紙、p.1-22、背表紙(写)
甲第16号証:「橘湾変電所貯炭サイロ工事」の現場を撮影した写真、撮影者不明、1997年4月1日撮影(写)
甲第17号証:LIBRA工法施工実績表、作成年月日不明、p.1-3(写)
甲第18号証:工事現場を撮影した写真○1?○17(審決注;原文は「○の中に数字」)、日本テクノ株式会社撮影、1987年2月5日?1997年5月5日撮影(写)

2 具体的な理由
(1)無効理由について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲第1号証に記載された発明(以下「甲1発明」という。)との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
構成A?Cについて、甲1発明は備えている。
構成Dについて、甲1発明は、ケーシングの内壁とダウンザホールハンマとの間に形成された通路を有していることが明確でない点で、本件発明1と相違する。
構成Eについて、甲1発明の掘削装置が掘削土を前記ケーシングの外側に排出するための排土口を有することが明確でない点で、本件発明1と相違する。
構成IJについて、甲1発明は、筒状部が伸縮することが明確でない点で、本件発明1と相違する。
構成Fについて、甲1発明の掘削土飛散防止装置が、掘削土が衝突するようになっている衝突部を含んでいることが明確でない点で、本件発明1と相違する。
構成Gについて、甲1発明が、排土口から所定距離離隔した状態でケーシングの外側から排土口を臨むように設けられた衝突部を有していることが明確でない点で、本件発明1と相違する。
構成Mについて、甲1発明は、本件発明1の構成Mを有している。
構成Nについて、甲1発明は、巻き取り装置を有していることが明確でない点で、本件発明1と相違する。
構成Oについて、甲1発明は、ワイヤーの巻き取りによって筒状部が縮退することが明確でない点で、本件発明1と相違する。
構成Hについて、甲1発明が、排土口と衝突部とを有していることが明確でなく、衝突部に衝突した掘削土が周囲に飛散することなく、衝突部と排土口との間の間隙を介して自重によって衝突部の下方へ向かって落下することが明確でない点で本件発明1と相違する。
(陳述要領書5頁5?7頁4行)

(イ)本件発明1と甲1発明の相違点について
前述したことから、本件発明1と、甲1発明との間に下記の相違点がある。
<相違点1-1>(通路)
本件発明1では、掘削装置がケーシングの内壁とダウンザホールハンマとの間に形成された通路を有するのに対し、甲1発明がそのような通路を有することが明確でない点。
<相違点1-2>(排土口)
本件発明1では、通路を通り抜けて吹き上げられた掘削土をケーシングの外側に排出するための排土口がケーシングに形成されているのに対し、甲1発明がそのような排土口を有することが明確でない点。
<相違点1-3>(衝突部)
本件発明1では、排土口を介してケーシングの外側へ排出された掘削土が衝突するようになっている衝突部が、排土口から所定距離離隔した状態で、ケーシングの外側から排土口を臨むように設けられているのに対し、甲1発明がそのような衝突部を有することが明確でない点。
<相違点1-4>(巻き取り装置)
本件発明1では、筒状部が伸縮し、筒状部の下端近傍に連結されたワイヤーの巻き取り装置を有しており、巻き取り装置によってワイヤーを巻き取ると、筒状部が縮退するが、甲1発明では筒状部が縮退することと、ワイヤーの巻き取り装置を有することが明確でない点。
<相違点1-5>(掘削土)
本件発明1では、衝突部に衝突した掘削土が周囲に飛散することなく、衝突部と排土口との間の間隙を介して自重によって衝突部の下方へ向かって落下するのに対し、甲1発明では、掘削土がどのようになるかが明確でない点。
(陳述要領書7頁5行?8頁7行)

(ウ)相違点に関する容易想到性について
a 相違点1-1について(通路)
甲第3号証には、「更に、本体部(20a)から上向きに開口している分岐孔(22b)は、分岐孔(22c)からの圧縮空気(18)によって上方に押し上げられた土砂(17)を掘削装置(A)及びドリルロッド(11)と、中空コンクリート杭(1)との間の間隙(7)を通って更に上方に押し上げる作用をする。そして前記間隙(7)を通って中空コンクリート杭(1)の最上部まで押し上げられた土砂(17)は、チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出し、カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下し、中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積する。」(段落【0047】)と記載されている。当該記載並びに図1及び図3から、甲第3号証の「間隙(7)」が本件発明1の「通路」に相当することは明らかである。
従って、甲1発明に甲第3号証の構成を適用すれば相違点1-1(通路)は解消する。
(陳述要領書8頁9行?20行)

b 相違点1-2について(排土口)
甲第3号証の段落【0047】に記載の「チャック部(54)の図示しない空間」は、通路(間隙(7))を通り抜けて吹き上げられた掘削土(土砂(17))をケーシングの外側に排出する点で本件発明1の「排土口」と作用・機能が共通する。したがって、甲第3号証の「チャック部(54)の図示しない空間」は、本件発明1の「排土口」に相当する。
従って、甲1発明に甲第3号証の構成を適用すれば相違点1-2は解消する。
(陳述要領書8頁21行?9頁3行)

c 相違点1-3について(衝突部)
甲第3号証の「そして前記間隙(7)を通って中空コンクリート杭(1)の最上部まで押し上げられた土砂(17)は、チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出し、カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下」との段落【0047】の記載並びに図1より、中空コンクリート杭(1)(ケーシング)から溢出した土砂がカバー(34)の上方部内面に衝突して落下することは明らかである。
また、甲第3号証の図1より、カバー(34)の上方部内面(衝突部)が、チャック部(54)の土砂が排出されている部分から所定距離離隔して当該部分の周囲を被覆していることが看取できる。
従って、甲1発明に甲第3号証の構成を適用すれば相違点1-3は解消する。
(陳述要領書9頁4行?15行)

d 相違点1-4について(巻き取り装置)
甲第3号証には「また、中空コンクリート杭(1)の外周は蛇腹状の伸縮カバー(34)にて覆われており、」(段落【0042】)と記載されており、当該記載及び図1から、甲第3号証における「伸縮カバー(34)」が本件発明1の「筒状部」に相当することは明らかである。
また、甲第3号証の段落【0042】の記載及び図1から、「伸縮カバー(34)(筒状部)が、中空コンクリート杭(1)(ケーシング)の少なくとも一部を囲繞するように、駆動モータ(53)(回転駆動装置)からドリルロッド(11)とハンマ機構(B)(ハンマシャフト)に沿って垂下した状態で取り付け可能に構成されている」ことは明らかである。
また、甲第3号証には、「中空コンクリート杭(1)の外周は蛇腹状の伸縮カバー(34)にて覆われており、」(段落【0042】)と記載されていることから、「伸縮カバー(34)(筒状部)が蛇腹状の側壁を有するように形成され、自在に伸縮できるように構成されている」ことは明らかである。
したがって、甲第3号証には、本件発明1のように筒状部が伸縮することが記載されている。
また、甲第2号証の2は、巻き取り装置を有しており、筒状部が縮退している。よって、巻き取り装置によるワイヤーの巻き取り、繰り出しによって筒状部の縮退、伸展が行われていることが明白である。
従って、甲1発明に甲第2号証の2及び甲第3号証の構成を適用すれば相違点1-4(巻き取り装置)は解消する。
(陳述要領書9頁16行?10頁10行)

e 相違点1-5について(掘削土)
甲第3号証の上記段落【0047】の記載及び図1から、「カバー(34)の上方部内面に衝突した掘削土が、掘削装置の周囲に飛散することなく、前記上方部内面とチャック部(54)の図示しない空間との間の間隙を介して、自重によって前記上方部内面の下方へ向かって落下するようになっている」ことは明らかである。
従って、甲第3号証には本件発明1のように衝突部に衝突した掘削土が周囲に飛散することなく、衝突部と排土口との間の間隙を介して自重によって衝突部の下方へ向かって落下することが記載されている。
従って、甲1発明に甲第3号証の構成を適用すれば相違点1-5(掘削土)は解消する。
(陳述要領書10頁11行?20行)

f 相違点1-1?1-5に関する副引例の適用
甲1発明または甲第2号証の2の掘削システムは、甲第3号証に係る発明の実施例であるから、甲第2号証の2、甲第3号証に記載された構成を、甲1発明に適用することには十分な動機付けがあり、甲第2号証の2、甲第3号証に記載された構成を甲1発明に適用して相違点1-1(通路)、1-2(排土口)、1-3(衝突部)、1-4(巻き取り装置)、1-5(掘削土)に係る構成とすることは当業者にとって極めて容易になし得ることであり、何の阻害要因もない。
(陳述要領書10頁21行?11頁3行)

イ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲1発明との対比
本件発明5と、甲1発明とを対比する。
構成P、Qについて、甲1発明が、筒状部を被固定体に対して着脱自在に固定するための固定用フランジを有さない点で本件発明5と相違する。
(陳述要領書11頁5行?9行)

(イ)本件発明5と甲1発明の相違点について
本件発明5と、甲1発明との間には、前述した相違点1-1(通路)、1-2(排土口)、1-3(衝突部)、1-4(巻き取り装置)、1-5(掘削土)以外に下記の相違点がある。
<相違点1-6>(固定用フランジ)
本件発明1では、筒状部の下端に筒状部を被固定体に対して着脱自在に固定するための固定用フランジを有するが、甲1発明がそのような固定用フランジを有さない点。
(陳述要領書11頁10行?17行)

(ウ)相違点に関する想到容易性
a 相違点1-6について(固定用フランジ)
甲第3号証には、「中空コンクリート杭(1)の外周は蛇腹状の伸縮カバー(34)にて覆われており、その上端はチャック部(54)に、下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている。」(段落【0042】)と記載されている。この記載及び図1より、甲第3号証には、「蛇腹状の伸縮カバー(34)(筒状部)の下端を地表部に設置する」構成が記載されていると言える。
また、甲第5号証(特公昭57-7275号公報)には「カバー12下端は、下部のアウターフランジ16を介して、オーガスクリュー7に軽く嵌合された取付部材26の上端に取付け固定されており」(3頁左欄32?35行)、「カバーにより泥土、石等の周囲への飛散が防止され」(3頁右欄5?6行)と記載されている。これらの記載及び第2図より、甲第5号証には「掘削土飛散防止装置が、カバー12(筒状部)の下端に、当該カバー12(筒状部)を取付部材26(被固定体)に対して着脱自在に固定するためのアウターフランジ16(固定用フランジ)を有している」構成が記載されていると言える。
従って、甲1発明に甲第3号証と甲第5号証の構成を適用すれば相違点1-6(固定用フランジ)は解消する。
(陳述要領書12頁1行?16行)

b 相違点に関する副引例の適用
(a)相違点1-1(通路)、1-2(排土口)、1-3(衝突部)、1-4(巻き取り装置)、1-5(掘削土)
甲1発明、甲第2号証の2の掘削システムは、甲第3号証に係る発明の実施例であるから、甲1発明に甲第2号証の2、甲第3号証に記載された構成を適用して、相違点1-1(通路)、1-2(排土口)、1-3(衝突部)、1-4(巻き取り装置)、1-5(掘削土)に係る構成とすることは当業者にとって極めて容易になし得ることであり、何の阻害要因もない。
(陳述要領書12頁18行?24行)

(b)相違点1-6(固定用フランジ)
甲1発明は、甲第3号証に係る発明の実施例であるから、甲1発明に甲第3号証に記載された事項を適用することは当業者にとって極めて容易になし得ることであり、何の阻害要因もない。
また、甲第5号証には、「こうして引き上げられた泥土等は上方部において泥土等の自重あるいは風力によりスクリューから離脱して周囲に飛散し、この泥土に砕石を含む場合には作業者にとって危険であるのは当然のこと、特に風が強いときには泥土等が塵粉となって広範囲に飛散し、環境公害の一因ともなっていた。本発明は、従来のアースオーガにおける上述のような問題を解消することを主たる目的としたもので」(第1頁右欄21?30行)と記載されている。
この記載から明らかな如く、甲第5号証に記載の発明は、削孔機の土砂飛散を防止することを解決課題とするものであり、本件発明5と共通の解決課題を有するものである。
そうすると、主引例において土砂飛散防止のために甲第5号証に記載された構成を適用して本件発明5の如く構成することには十分な動機付けがあり、当業者にとって容易になし得ることである。
(陳述要領書12頁末行?13頁15行)

ウ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲1発明との対比、及び相違点
本件発明6の構成Rに、「請求項5記載の掘削装置」と記載されているが、請求項5に掘削装置の記載はない。ここでは、構成Rの「請求項5記載の掘削装置」を「請求項1記載の掘削装置」と解する。
本件発明6は、請求項1に記載の掘削土飛散防止装置と、請求項1記載の掘削装置とを併用して掘削を行う方法であるので、本件発明6と、甲1発明との間には、前述した相違点1-1(通路)、1-2(排土口)、1-3(衝突部)、1-4(巻き取り装置)、1-5(掘削土)がある。
さらに、本件発明6と、甲1発明との間には、下記の相違点がある。
<相違点1-7>(掘削)
本件発明6では、構成Tで「所定位置の地盤を掘削し」とあるが、甲1発明では、所定位置の地盤を掘削することが明確でない点。
<相違点1-8>(排土処理)
本件発明6では、構成Vで「前記ダウンザホールハンマの掘進に伴って、垂下された状態の前記筒状部を縮退させ、」とあり、構成Wで「掘削の間および/または掘削の終了後において、前記衝突部の下方の地表部に堆積した前記掘削土を排土処理する」とあるが、甲1発明ではそれらが明確でない点。
(陳述要領書13頁17行?14頁8行)

(イ)相違点に関する容易想到性
a 相違点1-7について(掘削)
甲第3号証には、「コンクリート杭(1)は中空杭であるから、ドリルロッド(11)並びに駆動部(D)がその内部に挿通され、」(段落【0042】)、「この状態で、駆動部(D)の駆動モータ(53)を回転させ且つ圧縮空気を供給してハンマ機構(B)を作動させる。駆動モータ(53)の回転によって掘削装置(A)が回転し、これによって拡大羽根(10)は収納凹所(12)から出、その先端の軌跡が中空コンクリート杭(1)の外径(d)とほぼ同径に開き掘削を開始する。」(段落【0043】)と記載されている。これらの記載並びに図1より、甲第3号証には、「コンクリート杭(1)(ケーシング)内を挿通するドリルロッド(11)(ダウンザホールハンマ)によって、所定位置の地盤を掘削する」構成が記載されていると言える。
従って、甲1発明に甲第3号証の構成を適用すれば相違点1-7(掘削)は解消する。
(陳述要領書14頁10行?15行)

b 相違点1-8について(排土処理)
ケーシングを筒状部で囲繞し、ダウンザホールハンマを用いて地上で掘削した場合、筒状部を伸展させて筒状部の下端を地表に接しさせた状態で掘削を続けると、ダウンザホールハンマの下降に従って筒状部の下端側が折り重なり、その折り重なった筒状部の近傍の地表面に土砂が積もるので、掘削土砂を杭打ち作業中に現場外へ排出することが困難であり、又、筒状部を引き上げるのが困難になる。
このために、掘削中には、筒状部の下端を所定高さに維持し、地表に堆積する土砂を除去する必然性がある。このように、筒状部を縮退、伸展させる必要がある。
甲第1号証の1の写真では筒状部が伸展して、排土口に相当するチャック部(54)のみならずケーシングを取り囲んでいる。また、甲第2号証の2の写真では筒状部が上方に縮退している。
従って、甲1発明に甲第2号証の2の構成を適用すれば相違点1-8(排土処理)は解消する。
(陳述要領書15頁3行?16行)

c 相違点に関する副引例の適用
(a)相違点1-1(通路)、1-2(排土口)、1-3(衝突部)、1-4(巻き取り装置)、1-5(掘削土)
甲1発明、甲第2号証の2の掘削システムは、甲第3号証に係る発明の実施例であるから、甲1発明に甲第2号証の2、甲第3号証に記載された構成を適用して、相違点1-1(通路)、1-2(排土口)、1-3(衝突部)、1-4(巻き取り装置)、1-5(掘削土)に係る構成とすることは当業者にとって極めて容易になし得ることであり、何の阻害要因もない。
(陳述要領書15頁18行?24行)

(b)相違点1-7(掘削)
甲1発明は、甲第3号証に係る発明の実施例であるから、前述したように、甲1発明に甲第3号証に記載された構成を適用することは当業者にとって極めて容易になし得ることであり、何の阻害要因もない。
(陳述要領書15頁末行?16頁4行)

(c)相違点1-8(排土処理)
甲1発明、甲第2号証の2の掘削システムは、甲第3号証に係る発明の実施例であるから、甲1発明及び甲第2号証の2の構成を組み合わせることは当業者にとって極めて容易になし得ることであり、何の阻害要因もない。
(陳述要領書16頁5行?8行)

(2)補充的理由
a 甲第6号証について
甲第6号証(特開平11-294055号公報)には、「掘削ずりは、ダウンザホールハンマドリルのヘッド9aから排出されるエアーとともに円筒ケーシング内を吹き上げられ、円筒ケーシング6の上部にあけられた窓穴16から外に排出される。」(段落【0028】)と記載されている。当該記載及び図1より、甲第6号証には、ダウンザホールハンマ掘削装置において、「掘削土がケーシングに形成された排土口(窓穴16)から排出される」構成が記載されていると言うことができる。
甲1発明、甲第2号証の2の掘削システムと甲第6号証に記載の発明は、共にダウンザホールハンマ掘削装置という同一の技術分野に属する発明であるから、甲第6号証に記載された構成を甲1発明、甲第2号証の2の掘削システムに適用することには十分な動機付けがあり、甲第6号証に記載された構成を甲1発明、甲第2号証の2の掘削システムに適用することは当業者にとって容易になし得ることである。
また、甲第3号証には、本件発明1の構成Eの排土口の図示がなく、文言上の特定もないことに照らし、本件特許発明出願時のダウンザホールハンマ工法での排土口が如何なる形状、構造であるかを甲第6号証の図1の窓穴16を用いて補充するものである。
(審判請求書22頁15行?23頁1行、陳述要領書3頁3行?6行)

b 甲第4号証、甲第7?9号証について
本件発明1の構成M,N,Oのワイヤーについては、甲第1号証の1、あるいは甲第2号証の2において明らかに観察できるが、念の為に甲第4号証の1、甲第4号証の2、甲第7号証の1、甲第7号証の2によって、ワイヤー、巻き取り装置の公知性を補充するものである。
また、甲第7号証の1の写真は、「特許第3211673号公報」(甲第8号証)に係る発明の実施例の写真である。甲第7号証の2の写真は、「特開平9-302654号公報」(甲第9号証)に係る発明の実施形態の写真である。
(陳述要領書3頁7行?11行、審判請求書23頁9行、10行、24頁14行、15行)

c 甲第11号証?甲第18号証について
甲第11号証?甲第14号証:構成M、N、Oに関し、主引例の「ワイヤー」、「巻き取り装置」の補充
甲第15号証?甲第17号証:構成IJに関し、主引例の「筒状部」の補充
甲第18号証:構成M、N、Oに関し、主引例の「ワイヤー」、「巻き取り装置」の補充
(陳述要領書4頁9行?21行)

(a)甲第11号証
同書面の左側の写真中の中央部にダウンザホールハンマを囲繞するように筒状部が蛇腹状の側壁を有するように形成された蛇腹がワイヤーによって降ろされ伸展している状態(中央のダウンザホールハンマの写真)と,同写真中の右部に蛇腹がワイヤーによって吊り上げられ縮退している状態(右側のダウンザホールハンマの写真)が撮されている。
同書面の右側の写真にダウンザホールハンマを囲繞するように筒状部が蛇腹状の側壁を有するように形成された蛇腹がワイヤーによって吊り上げられ縮退している状態が撮されている。
同書面の下部に「PRD‐Reach工法[吊下げ式高速地盤掘削工法]〈特許工法〉」とある記載は,被請求人自身が実施する工法であることを示す。

(b)甲第12号証
末尾の「今日も日本のどこかで“大地と格闘・大地と握手”しています。」とある頁(甲12の3)の右上に上記1と同じ「PRD‐Reach工法(φ1.440mm)」の写真が掲載されている。
これは,上記1と同じ「PRD‐Reach工法」であり,上記写真には,ダウンザホールハンマを囲繞するように筒状部が蛇腹状の側壁を有するように形成された蛇腹がワイヤーによって吊り上げられ縮退している状態が撮されている。
すでに本件特許の出願前に工事現場において実施されていることを示している。

(c)甲第13号証
末尾の「今日も日本のどこかで”大地と格闘・大地と握手”しています。」とある頁(甲13の3)の右上に上記(a)と同じ「PRD‐Reach工法(φ1.440mm)」の写真が掲載されている。
これは,上記(a)と同じ「PRD‐Reach工法」であり,上記写真には,ダウンザホールハンマを囲繞するように筒状部が蛇腹状の側壁を有するように形成された蛇腹がワイヤーによって吊り上げられ縮退している状態が撮されている。
すでに本件特許の出願前に工事現場において実施されていることを示している。

(d)甲第14号証
2葉目の「硬質地盤掘削のエキスパート」とある頁(甲14の2)の右上に前記(a)と同じ「PRD-Reach工法」(φ1.440 mm)特許工法!」の写真が掲載されている。
これは,上記(a)と同じ「PRD-Reach工法」であり,上記写真には,ダウンザホールハンマを囲繞するように筒状部が蛇腹状の側壁を有するように形成された蛇腹がワイヤーによって吊り上げられ縮退している状態が撮されている。
すでに本件特許の出願前に工事現場において実施されていることを示している。

(e)甲第15号証
同パンフレット本文(甲15の2)4頁の「PRD工法施工例」とある中央の写真には,ダウンザホールハンマを囲繞するように筒状部が蛇腹状の側壁を有するように形成された蛇腹が設けられている状態の写真が掲載されている。
前記の「PRD-Reach工法」は,「PRD」を冠した工法であり,この被請求人の「PRD工法」の中の一工法として実施されていたものと思料される。
PRD工法には,平成12年5月発行の甲15パンフレット発行時には,PRD-ROSE工法として5種類の工法があると説明されている(同号証5頁の上部説明分)。
この工法は,○1(審決注;原文は「○の中に数字」。以下同じ)ケーシングを使用し,○2ダウンザホールハンマを使用し,○3アースオーガを使用する構成と明記されている。
本件発明の構成も○1ケーシングを使用し,○2ダウンザホールハンマを使用し,○3アースオーガは掘削装置であり,同じ構成を採る。
そこで使用されるダウンザホールハンマは,同パンフレット本文(甲15の2の9頁)にあるとおりの構成であることも明白である。
PRDケーシング同時圧入(6頁上)及びPRDドーナツオーガ併用工法(6頁下)は,その内の各々1種類の工法である。
「PRD工法」中のPRDドーナツオーガ併用工法(特許工法)について(甲15の2の6頁下,同14頁左図,同16頁左図「PRD ドーナツオーガ併用工法」及び右側「PRD素掘工法」の上図)、6頁下の特徴4には,前記のPRD工法の構成に加えて,「必要に応じてケーシングの脱着が簡単にでき,土地に在置もできる」構成であることが明記されている。また、 同6頁上図、同14頁左図及び同16頁左図には,前記のPRD工法の構成に加えて,外側ケーシングと内側ケーシングからなり,上部のオーガとの着脱式のジョイント部に長方形状の開口(本件特許の「排土口」に当る)が設けられているダウンザホールハンマが図示されている。
「PRD工法」中の「PRDケーシング同時圧入工法」(甲15の2の6頁上)について、同6頁上には,前記のPRD工法の構成に加えて,「圧入シリンダーを伸縮さす事によりケーシングの位置が変化」する構成であり,「ケーシングを土中に在置して中空状態を保ち杭の建込みが出来る」構成であることが明記されている。
「PRD工法」のスライム処理について、甲15の2の8頁下の「スライム処理について」の欄には下記の記載があり,「PRD工法」におけるエアブローによる孔外排出方法によるスライムの処理方法の課題が明示されている。

「ダウンホールドリル工法のスライムの処理方法は,通常,エアブローによる孔外排出方法です。排出されるスライムの形状は岩質によって異なるが,一般に硬岩になるほど細粉状態となり,飛散しやすい形状となります。
空気中に出たスライムは急激に流速が落ち,削孔穴の周囲に蓄積される。ほとんどのスライムの飛散距離は,堀進機の周囲1?1.5m以内にとどまるが,民家や施設の付近で作業する場合粉塵の飛散に対しては,特殊液の使用により完全に対処することができます。」

(f)甲第16号証?甲第18号証
ダウンザホールハンマ?を囲繞するように筒状部の蛇腹を使用することは,周知・慣用の技術となっていた。当業者であれば,当業者の知識の認定の基礎として既述のような周知・慣用技術を用いることができる。
例えば,甲16は,1997年(平成9年)4月1日に撮影された被請求人のLIBRA工法と称する工法による「橘湾発電所貯炭サイロ工事」の施工現場での写真である(同現場であることは,甲号証右側の黒板の工事名と施工時期から甲17のLIBRA工法施工実績表1頁目3行目の施工期間の照合から明らかである)。
また例えば,掘削装置であるが,三軸の構成を含め掘削装置全体を囲繞するように筒状で蛇腹状の側壁を有する構成で,筒状部下端の一端がワイヤーと連結され,同ワイヤーによって巻き取られて筒状部が縮退する構成も,本件出願前には,ありふれた構成であった(甲18の本件特許の出願前における各工事現場の写真)。
さらに,甲15号証の2の20頁上部の「福井県発電所φ1200×15?27m岩盤削孔」の右側の写真の奥の掘削装置においても,明瞭に筒状部の蛇腹がダウンザホールハンマーを囲繞して使用されていることがわかる。
このように本件特許出願前において,筒状部の蛇腹をダウンザホールハンマーに囲繞し,蛇腹をワイヤーによって降ろされ伸展し,あるいはワイヤーによって吊り上げられて縮退して使用することは周知・慣用のありふれた技術であった。
(審尋回答書13頁25行?17頁末行)

(3)証人尋問(鑑定証人を含む)、鑑定の申し出
本件発明が、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができないものであることを、<証拠方法>の書証と共に、以下の証人によって明らかにする。また、土木工学の重鎮であって掘削工法についても現場作業も含めて専門家である前記証人尋問を取り下げ、同氏を鑑定証人とする。さらに、同氏を鑑定人とした鑑定を申し出る。同氏による鑑定書(甲第4号証の1)、鑑定補充書(甲第4号証の2)を提出する。
<証人> 氏名 木村 亮
職業 京都大学大学院 工学研究科 教授
(審判請求書25頁末行?26頁6行、審尋回答書3頁29行?4頁3行、陳述要領書32頁2行?3行)

第4 被請求人の主張
本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成29年2月20日付け審判事件答弁書、同年7月18日付け口頭審理陳述要領書を参照。)。また、証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証を提出している。

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証:知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第10011号事件判決(写)
乙第2号証:特開平11-350529号公報(写)
乙第3号証:SqCピア工法のパンフレット、SqCピア研究会事務局、発行年月日不明(写)
乙第4号証:SqCピア工法に係る書類、SqCピア工法研究会、発行年月日不明(写)
乙第5号証:特許4478348号公報(写)
乙第6号証:知的財産高等裁判所平成27年(行ケ)第10260号事件判決(写)

1 一事不再理について
本審判請求は特許無効審判における一事不再理を規定した特許法167条の規定に違反するものである。確定した前件(無効2013-800233事件)審決と主引用例が同一であり、まして、多数の副引用例も共通し、証拠を一部追加したにすぎない本件審判の請求は、「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものと解する。
本件の証拠の「(3)甲第3号証:特許第3468724号<写し>、(5)甲第5号証:特公昭57-7275号公報<写し>、(6)甲第6号証:特開平11-294055号公報<写し>」は、それぞれ確定審決の証拠の「(2)甲第2号証:特開2001-32274号公報(特許第3468724号の公開公報)(7)甲第7号証:特公昭57-7275号公報(3)甲第3号証:特開平11-294055号公報」に対応している。
甲第1号証、甲第2号証は、特許第3468724号(甲第3号証)に係る発明の実施形態を示すものであり、確定審決の証拠で引用例2:特開2001-32274号公報(特許第3468724号の公開公報)と実質同一である。
(答弁書5頁9行?6頁末行)

2 無効理由について
(1)本件発明と甲第1号証、甲第2号証との対比
甲第1号証は、筒状部が伸展している写真、甲第2号証は筒状部が上方に縮退している写真であり、ともに筒状部の存在を示すだけのものである。甲第1号証では、筒状部が伸展していることは看取できても、筒状部が伸展して、排土口に相当するチャック部を取り囲んでいることは看取できない。また、甲第2号証でも同様に筒状部が排土口に相当するチャック部を取り囲んでいることは看取できない。
甲第1号証と甲第2号証はともに「既製コンクリート中掘り根固め工法」とあるように、本件発明のようなケーシングを用いるものではなく、甲第3号証と同じく、中空コンクリート杭の建て込みを示すもので、特許第3468724号(甲第3号証)に係る発明の実施形態を示すものに過ぎない。
甲第2号証の2では巻き取り装置によって前記ワイヤーが繰り出された際のことは示されておらず、ワイヤーの繰り出しに伴って筒状部が排土口のみならずケーシングを取り囲むことができるという点を特定することはできない。
甲第1号証の1には本件発明の前記構成要件のうち、構成D,F,G,H,Q,S,T,Uを読み取ることができない。
甲第2号証の2には本件発明の前記構成要件のうち、構成D,F,G,M,H,Q,S,T,Uを読み取ることができない。
なお、甲第1号証の1や甲第2号証の2では「排土口」の存在も看取できず、構成要件のうち、構成要件Eも確認できないものである。
なお、甲第1号証の1は装置の外観が遠景で写されている不鮮明なもので動作の状態が不明であり、また甲第2号証の2は掘進(杭打設)を行っていない状態(従って掘削軸部材の一部が見える状態)であることからすれば、甲第1号証と甲第2号証に本件発明が用いられている証拠とすることはできない。
(陳述要領書3頁16行?5頁3行)

(2)本件発明と甲第3号証との対比
甲第3号証は特許無効審判「無効2013-800233」における甲第2号証と実質同一であり、本件発明との相違点は、本件発明に関する平成28年(行ケ)第10011号(知的財産高等裁判所平成28年12月7日判決)における判決(乙第1号証)で以下のとおり認定されている。相違点1は「衝突部」に関してであり、相違点2は「巻き取り装置」に関してであり、相違点3は「サイレンサーとしての機能」に関してである。

ア 相違点1
本件発明1は、掘削装置の掘削土排出部が「ケーシングに形成され」た「排土口」であり、/掘削土が掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための装置が「排土口を介して前記ケーシングの外側へ排出された前記掘削土が衝突するようになっている衝突部を含んでおり、」「排土口」から所定距離離隔した状態で、「衝突部」がケーシングの外側から「排土口を臨むように設けられ」た「掘削土飛散防止装置」であって、/掘削土の落下が「衝突部に衝突した」掘削土は、当該掘削装置の周囲に飛散することなく「衝突部と前記排土口との間」の間隙を介して、自重によって「衝突部」の下方へ向かって落下するようになっているのに対して、/引用発明(本件甲第3号証)は、掘削土排出部が「チャック部(54)の空間」であり、/掘削土が掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための装置が「駆動部(D)のチャック部(54)上端から地表部に至り、カバー(34)の上方部内面が、チャック部(54)の土砂が排出されている部分から所定距離離隔してチャック部(54)の土砂が排出されている部分の周囲、及び、チャック部(54)の外周を被覆し、中間部及び下方部が、中空コンクリート杭(1)を囲繞するように設けられ、下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている蛇腹状の筒状部」であり、/掘削土の落下が「チャック部(54)の空間を通って中空コンクリート杭(1)か溢出し、カバー(34)と中空コンクリート(1)との間を通って」落下である点。

イ 相違点2
本件発明1は、装置が「さらに、/蛇腹状の側壁を有する前記筒状部の下端近傍に、その一端が連結されたワイヤーと、/少なくとも掘削作業中において、垂下された状態の前記筒状部の上端から下端までの長さを調節するために、前記ワイヤーを自在に巻き取りまたは繰り出すことができるように構成されており、前記ワイヤーの他端が連結されている巻き取り装置と、を有しており、/前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが巻き取られた際には、巻き取りに伴って前記筒状部が縮退し、/前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが繰り出された際には、繰り出しに伴って前記筒状部が排土口のみならずケーシングを取り囲むことができる筒状部が伸展するようになって」いるのに対し、引用発明(本件甲第3号証)はその特定がない点。

ウ 相違点3
本件発明1は、装置が「サイレンサーとして機能する」のに対し、引用発明(本件甲第3号証)はその特定がない点。

エ 各相違点について
相違点1に関して、請求人は、甲第1号証の1、甲第2号証の2によって本件発明が公知となっている旨主張するが、請求人の提出する甲各号証からは、飛散防止装置の内部構造は読み取れず、「排土口」や「衝突部」の存否は不明なままである。
相違点2に関して、甲第1号証の1、甲第2号証の2の写真からは、「ダウンザホールハンマを囲繞するように筒状部が蛇腹状の側壁を有するように形成されたジャバラがワイヤーによって降ろされ伸展している状態」なのかも全く分からない。また、甲第7号証の写真から「ワイヤー」や「巻き取り装置」を読み取ることなど不可能である。
相違点3に関して、当然のことながら、写真から飛散防止装置がサイレンサーとして機能するのかなど理解しようがなく、甲各号証の各写真から相違点3は読み取れない。本件発明は、ダウンザホールハンマによる掘削によって排出されるくり粉状の掘削土が施工現場の周囲に飛散することを防止するとともに、特許明細書の段落番号【0010】にあるように、従来と比較してダウンザホールハンマ使用時における騒音を緩和することを可能にする装置を提供することによって、優れた掘削能力を備えたダウンザホールハンマの適用範囲を拡大するものであり、特に、従来と比較してダウンザホールハンマ使用時における騒音を緩和することができ周辺の環境に配慮した施工を実施することができる。このような騒音を緩和の目的・効果を反映させるものとして、請求項1において「排土口のみならずケーシングを取り囲むことができる筒状部が一種のサイレンサーとしても機能する」ことを明示した。かかる騒音緩和の目的・効果は、甲各号証にない本件特許発明独自のものである。
(答弁書7頁11行?17頁5行、陳述要領書5頁10行?14行)

オ 甲第3号証の適用について
甲第3号証は掘削土を中空コンクリート杭から溢出し、カバーと中空コンクリート杭との間を通って落下し、中空コンクリート杭の周囲に堆積するものであり、「排出」「衝突」と「溢出」という言葉の違いが示すように、甲第3号証ではケーシングの外側に排出する点で本件発明1と共通するというようなものではない。
また、甲第3号証のカバー(34)の上方部内面が衝突部であることの記載はなく、看取もできるものではない。甲第3号証には本件発明1の衝突部に該当する構成はなく、「溢出」という語句を使用していることからも、甲第3号証では土砂がカバー(34)の上方部内面に衝突して落下することを看取することはできない。
本件発明の「衝突部」の独自性について述べると、「衝突部」を設けることは、単に掘進中に噴き出した掘削土に衝突されることとは異なる。「衝突部」とは、掘進中に積極的に掘削土と衝突することを、ダウンザホールハンマ施工特有の掘削土の飛散防止の目的のために、担う独自の場所である。本件発明はこのような「衝突部」という特殊な構成を用いることにより、掘進中に掘削土を「衝突部に衝突させ」、掘削装置の周囲に飛散することなく「衝突部と前記排土口との間」の間隙を介して、自重によって「衝突部」の下方へ向かって落下させることができるものである。そもそも、飛散防止を発明の目的としない装置・方法の発明である甲第3号証では、これら本件発明の構成は確認できないものである。
(陳述要領書5頁10行?7頁12行)

(3)本件発明と甲第5号証の対比
甲第5号証はアースオーガに関するものであり、本件発明のようにダウンザホールハンマに関するものではない。甲第5号証には蛇腹状の側壁を有する前記筒状部の下端近傍に、その一端が連結されたワイヤーの存在は認められるが、ワイヤーを巻き取る巻き取り装置に関する記載はない。筒状部の縮小は甲第5号証の第2図に示すようにオーガ駆動装置6を下降させることによるものであり、ワイヤーにより引き上げるものでない。
(陳述要領書7頁14行?8頁下から2行)

(4)本件発明1の構成M、N、Oについて
本件発明1の構成M、N、Oは、甲第1号証、甲第2号証、甲第7号証の1、甲第7号証の2、甲第7号証の3からは当業者が容易に考えられるものではない。甲第1号証の写真では、蛇腹が下方に伸びた状態でケーシングの下部までを囲んでいることを把握できない。また、蛇腹の側面に沿って上下方向にワイヤーが延びているとしても、ワイヤーの端を蛇腹の下端近傍に取り付けていることを把握できない。甲第2号証、甲第7号証の1、甲第7号証の2の写真では蛇腹が上方に収縮しているものであり、これから巻き取り機でワイヤーを巻き取ることによって蛇腹の下端を所定高さに維持するために、蛇腹の下端をワイヤーで引き揚げることに当業者が容易に考えが及ぶものではない。
(答弁書17頁6行?20行)

(5)甲第4号証及び証人尋問(鑑定証人を含む)、鑑定の申し出について
請求人は、甲第4号証(木村亮氏の鑑定書)の添付資料1乃至4等から、当業者において本件発明は公知であったという証言を得るとしている。
一方、甲第4号証の内容は、すべて「当業者は容易に考えが及ぶと鑑定する」とするもので、本件発明が公知であることの鑑定ではない。しかも、鑑定の内容には、「容易に考えが及ぶとすること」の理由がすべての項目で示されていないので、何故このような鑑定結果になるかその判断根拠が不明である。
木村亮氏は学会では著名かも知れないが、特許法の専門家ではなく、特許法第29条第2項進歩性判断枠組みに精通しているものでないので、鑑定人としては適切なものではない。
(陳述要領書10頁3行?15行)

(6)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の構成を限定するものであるところ、本件発明1は当業者が引用発明に基づき容易に発明をすることができたものではないから、本件発明5も、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、甲第5号証に記載された「取付部材26」(被固定体)は、地表部に設置されるようになっているものではない。
従って、土砂飛散防止のために甲第5号証に記載された構成を適用して本件発明5の如く構成することは当業者にとって容易になし得るものではない。
(答弁書17頁21行?30行)

(7)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1の装置を用いるものであり、本件発明1が進歩性を有すればこれも当然に進歩性を有するものである。
甲第1号証の1の写真では筒状部が伸展して、排土口に相当するチャック部(54)のみならずケーシングを取り囲んでいる。また、甲第2号証の2の写真では筒状部が上方に縮退しているとしてもそれをもって当業者が容易に発明することができたものとは言えない。
(答弁書17頁31行?18頁12行)

第5 証拠
1 甲第1号証
(1)甲第1号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同様。)
ア 甲第1号証の1の写真(以下「甲1写真」という。)上部には、「硬質岩盤対応 既製コンクリート杭中掘り根固め工法」(以下「甲1表題」という。)と記載されている。

イ 甲1写真から、2台のクレーンの各々のそばに、それぞれ2本の傾斜した棒状部材により支持された長尺部材が直立していることが看て取れる。また、左側の長尺部材に沿って、上部が黄色の柱状部材が設置されており、当該柱状部材の下部は灰色の蛇腹状筒状部材で覆われていることが看て取れる。さらに、灰色の蛇腹状筒状部材の表面には縦方向に一本の線部材が看て取れる。

ウ 甲1写真の中央上に切り抜かれて掲載された写真(以下「甲1切抜写真」という。)から、甲1表題を踏まえると、コンクリート柱部材の下部構造が看て取れる。そして、該コンクリート柱部材は、中空コンクリート杭であることは明らかであり、該中空コンクリート杭の下端内部から突出した複数の爪状部材が看て取れる。

エ 上記ア?ウの記載事項、及び掘削作業の技術常識を踏まえると、甲第1号証で開示されているものは「既製コンクリート杭中掘り根固め工法」の掘削装置に関するものであって、「柱状部材」は掘削装置の一部であり、「柱状部材の黄色の上部部分」はアースオーガ(回転駆動装置)であり、「柱状部材」の一部は「中空コンクリート杭」の内側を通り、掘削は「柱状部材」の下端において「中空コンクリート杭の下端内部から突出した複数の爪状部材(掘削ビット)」によって行われるものであるということができる。

オ 上記イの記載事項からは「柱状部材の下部は灰色の蛇腹状筒状部材で覆われて」おり、上記エの認定事項から「柱状部材」は「中空コンクリート杭」の内側を通っているのであるから、甲1写真からは看て取れないものの、内側から外側へ「柱状部材」、「中空コンクリート杭」、「蛇腹状筒状部材」の順で位置しており、「中空コンクリート杭」は「蛇腹状筒状部材」に覆われていることは明らかである。

(2)甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証には、上記(1)で記載した事項を踏まえると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「既製コンクリート杭中掘り根固め工法の掘削装置に関するものであって、
直立した長尺部材に沿って柱状部材が設置されており、柱状部材は掘削装置の一部であり、柱状部材の上部は回転駆動装置であり、柱状部材の一部は中空コンクリート杭の内側を通り、掘削は柱状部材の下端において、中空コンクリート杭の下端内部から突出した掘削ビットによって行われ、
柱状部材の下部及び中空コンクリート杭は蛇腹状筒状部材で覆われており、蛇腹状筒状部材の表面には縦方向に一本の線部材が配されている、
掘削装置」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
ア 甲第2号証の2の写真(以下「甲2写真」という。)には、「硬質岩盤・転石・玉石・硬質地盤対応 既製コンクリート杭中堀り根固め工法」、「ダウンザホールハンマ併用による杭打設により、掘削工程と打設工程を・・実現」、「ダウンザホールハンマ使用により、転石・玉石が介在する・・・実現」、「確実な支持層根入れが可能となり、最終打撃時に発生する振動・騒音を低減できる。」と記載されている(以下「甲2記載」という。)。

イ 甲2写真のうち、左側の写真(以下「甲2左写真」という。)の中央に、上部が黄色の柱状部材が看て取れる。当該柱状部材の中間部には、シート状物が上下方向に畳まれた形状の筒状部材が看て取れる。

ウ 甲2写真のうち、右側の写真(以下「甲2右写真」という。)から、甲2記載を踏まえると、コンクリート柱部材の下部構造が看て取れる。そして、該コンクリート柱部材は、中空コンクリート杭であることは明らかであり、該中空コンクリート杭の下端内部から突出した複数の爪状部材が看て取れる。

エ 上記ア?ウの記載事項、及び掘削作業の技術常識を踏まえると、「柱状部材」は掘削装置の一部であり、「柱状部材の黄色の上部部分」はアースオーガ(回転駆動装置)であり、「柱状部材」の地面側では掘削作業が行われ、掘削は「中空コンクリート杭の下端内部から突出した複数の爪状部材(掘削ビット)」によって行われるものであるということができる。

3 甲第3号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)甲第3号証に記載された事項
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、既製の中空コンクリート杭の埋込み工法並びに該工法に使用される打設装置及び前記打設装置の拡大ヘッドの改良に関するものである。」

イ 「【0025】杭打ち機(Ku)は、クレーン車(50)、これに取りつけられて掘削部位に立設されるガイドタワー部(51)並びにガイドタワー部(51)に取りつけられ、駆動部(D)をガイドタワー部(51)に沿って移動させる移動台(52)とで構成されている。
【0026】駆動部(D)は、ドリルロッド(11)を介して掘削装置(A)を回転させる駆動モータ(53)、中空コンクリート杭(1)の先端をチャックするチャック部(54)、チャック部(54)を昇降させる油圧シリンダ機構(55)、油圧シリンダ機構(55)に合わせて伸縮する伸縮ロッド部(56)とで構成されている。
【0027】掘削装置(A)は、拡大ヘッド(H)及び拡大ヘッド(H)の直上に配置され、拡大ヘッド(H)に撃力を与えるハンマ機構(B)とで構成されている。
【0028】ハンマ機構(B)は円筒状のウェアスリーブ(60)、ウェアスリーブ(60)内に配設されたシリンダ(61)に沿って昇降するピストン(62)、バルブ(63)を始めとする機構部で構成されており、圧縮空気(18)でピストン(62)を昇降作動させ、拡大ヘッド(H)にピストン(62)を打ち付けて打撃力を拡大ヘッド(H)に与えるものである。」

ウ 「【0041】次に、本発明の作用に付いて説明する。まず、クレーン車(50)を掘削場所に移動させ、掘削場所に合わせてガイドタワー部(51)に立設する。ガイドタワー部(51)の移動台(52)には駆動部(D)が取付けられており、最上位置に上昇して停止している。この状態で駆動部(D)にはドリルロッド(11)を介して1段拡大式の掘削装置(A)がその下端に取付けられている。そして、チャック部(54)には中空コンクリート杭(1)の上端がチャックされている。
【0042】コンクリート杭(1)は中空杭であるから、ドリルロッド(11)並びに駆動部(D)がその内部に挿通され、掘削装置(A)の下端が中空コンクリート杭(1)の下端から覗いており、拡大羽根(10)が中空コンクリート杭(1)の下端に掛る事なく拡縮出来るようになっている。また、中空コンクリート杭(1)の外周は蛇腹状の伸縮カバー(34)にて覆われており、その上端はチャック部(54)に、下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている。
【0043】この状態で、駆動部(D)の駆動モータ(53)を回転させ且つ圧縮空気を供給してハンマ機構(B)を作動させる。駆動モータ(53)の回転によって掘削装置(A)が回転し、これによって拡大羽根(10)は収納凹所(12)から出、その先端の軌跡が中空コンクリート杭(1)の外径(d)とほぼ同径に開き掘削を開始する。ここで、掘削孔(3)の内径(D1)が中空コンクリート杭(1)の外径より少し大きい場合はセメントミルクを両者の間隙に充填し、逆に間隙がない場合は中空コンクリート杭(1)を圧入していく。この時中空コンクリート杭(1)を回転させると圧入がより容易となる。」

エ 「【0046】固定ドリル部(20b)の分岐孔(22c)からは孔底に向かって前記圧縮空気(18)が噴出されて粉砕された土砂(17)を上方に押し上げる。一方、本体部(20a)から下向きに開口している分岐孔(22a)は、拡開している拡大羽根(10)に向かって圧縮空気(18)を噴射して、拡大羽根(10)に付着しようとしている土砂(17)の付着を妨げ、軸受孔(13)と回動軸(14)との間や収納凹所(12)内に土砂(17)が入るのを防止している。
【0047】更に、本体部(20a)から上向きに開口している分岐孔(22b)は、分岐孔(22c)からの圧縮空気(18)によって上方に押し上げられた土砂(17)を掘削装置(A)及びドリルロッド(11)と、中空コンクリート杭(1)との間の間隙(7)を通って更に上方に押し上げる作用をする。そして前記間隙(7)を通って中空コンクリート杭(1)の最上部まで押し上げられた土砂(17)は、チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出し、カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下し、中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積する。
【0048】このようにして掘削を行っていくのであるが、掘削の進展と同時に中空コンクリート杭(1)の掘削孔(3)への圧入が同時進行する。即ち、掘削孔(3)の孔底が掘削されると、油圧シリンダ機構(55)が作動してシリンダロッドを伸長させる。これによりチャック部(54)は押し下げられ、チャック部(54)に固定されている中空コンクリート杭(1)は掘削孔(3)内に圧入されていく。」

4 甲第5号証
(1)甲第5号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、図面ともに次の事項が記載されている。
ア 「本発明は、基礎杭の造成、地下連続壁体の造成等所謂中掘工法及び基礎杭の圧入に使用されるアースオーガに関するものである。」(2欄7行?9行)

イ 「この場合、オーガスクリユーで引き出された泥土等が全て地上下方部(例えば人の背丈の範囲)で除去できれば問題はないのであるが、実際には泥土等の一部はスクリユーに付着したまま上方部(例えば背丈以上の高さ)へ引き上げられ、また粘性の大きい泥土(例えばヘドロ等)は下方部で除去され難くそのほとんどがスクリユーに沿つて上方部へ引き上げられ、こうして引き上げられた泥土等は上方部において泥土等の自重あるいは風力によりスクリユーから脱離して周囲に飛散し、この泥土に砕石を含む場合には作業者にとって危険であるのは当然のこと、特に風が強いときには泥土等が塵粉となって広範囲に飛散し、環境公害の一因ともなつていた。
本発明は、従来のアースオース(審決注:「アースオーガ」の誤記である。)における上述のような問題を解消することを主たる目的としたもので、この目的達成のために、オーガスクリユーに伸縮自在のべローズ形防護カバーを被嵌したアースオーガを提供し、更には防護カバーに泥土等が詰まった場合に該カバーの破損ならびに駆動装置等の損傷を防止するための開口部を設けた防護カバーを提供せんとするものである。」(2欄14行?35行)

ウ 「図中24は、カバー伸長制限用のロープで、防護カバー12の周囲に、該カバー12の適当な伸長時の長さに相当する長さを有し、カバー12の長さ方向に沿い且つカバー12の円周方向に間隔をおいて複数本配設してあり、各ロープ24の上下両端はカバー12の上端側、下端側にそれぞれ固定してある。・・・すなわち、各パーツ12aにおいて各ロープ24は一連のものであつて、その上端を上部のインナーフランジ15に設けたU字形金具20に固着し、・・・ロープ下端を、下部のインナーフランジ15に設けたU字形金具20に固着している。このようなロープ24を設けた理由は、防護カバー12の自重が下方部に集中してカバー12下方部が破損するのを防止するためである。」(4欄38行?5欄12行)

エ 「第2図に示すように、防護カバー12の上端は、上部のアウターフランジ16を介してオーガ駆動装置6の下端に連結固定され、カバー12下端は、下部のアウターフランジ16を介して、オーガスクリユー7に軽く嵌合された取付部材26の上端に取付け固定されており、取付部材26はガイドレール5に摺動可能に嵌合されたガイド部材27によりガイドレール5に沿って昇降自在となつている。」(5欄30行?38行)

5 甲第6号証
(1)甲第6号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、ダウンザホールハンマードリル(空気ハンマードリル)を使用する掘削工法に関する。」

イ 「【0028】ダウンザホールハンマードリル9がこのようにゆっくり回ると、ヘッド9aの表面に散在しているピット9bが岩盤の同じところを叩かずに少しずつ違ったところを叩くことになり、岩盤を効率よく破砕することができる。また、掘削ずりは、ダウンザホールハンマードドリルのヘッド9aから排出されるエアーとともに円筒ケーシング内を吹き上げられ、円筒ケーシング6の上部にあけられた窓穴16から外に排出される。」

6 甲第7号証
(1)甲第7号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。
ア 甲第7号証の1の写真(以下「甲7の1写真」という。)には、「仮橋・仮桟橋鋼製パネル斜張式架設工法、LIBRA工法」と記載されている(以下「甲7の1記載」という)。

イ 甲第7号証の2の写真(以下「甲7の2写真」という。)には、「ダイレクトパイリング工法、硬質岩盤対応鋼管矢板連続施工法」、「本工法は、・・・ダウンザホールハンマによる硬質岩盤対応ドリリングシステムです。鋼管内部にダウンザホールハンマを挿入、セットすることで・・・工法です。」と記載されている(以下「甲7の2記載」という。)。

ウ 甲7の1写真から、中央にクレーンにより吊下げられた柱状部材が看て取れる。当該柱状部材の中間部には、緑色のシート状物が上下方向に畳まれた形状の筒状部材が看て取れる。

エ 甲7の2写真のうち、左側の写真(以下「甲7の2左写真」という。)から、水上に設置された作業場の左手前隅部に長尺部材が直立していることが看て取れる。また、当該長尺部材に沿って、黄色の柱状部材が設置されており、当該柱状部材の下部は黄緑色の蛇腹状筒状部材で覆われていることが看て取れる。さらに、黄緑色の蛇腹状筒状部材の表面には縦方向に一本の線部材が看て取れる。

7 甲第8号証
(1)甲第8号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0022】次いで、図4の(ヘ),(ト)に示す如く、エアーハンマーを削孔機構とした、図示しないコンプレッサーが生成送出する圧搾空気を供給する高圧エアホース15が連結された上部のオーガマシン16に、先端部に拡縮自在な先端ビット17をデバイス18を介し装着したドリルロッド19が一体的に連結された削孔機20の該ドリルロッド19を先端ビット17を縮径した状態で仮セットした鋼管10に対して位置出し、心合わせしてクレーン本体12´ により該鋼管10を導材として挿入する。」

8 甲第9号証
(1)甲第9号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0013】先に本発明の鋼管矢板の打設装置について説明すると、図2、図3中1はエアー駆動の打撃機であるダウンザホールハンマーで、これはクローラ式の杭打機2に装着した駆動装置(オーガーマシン)3から吊り下げる。
【0014】そして図2に示すようにダウンザホールハンマー1は削孔ロッド4の先端に配設され、図10?図12に示すようにビット部1aは掘削ビット5を多数植設した三枚の水平な羽根状体が写真機の絞りを構成するように相重ねる中心部に隙間を設けるか否かで、縮径状態から拡径可能なものとした。」

9 甲第11号証
(1)甲第11号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、甲第11号証には、次の事項が記載されている。
ア 甲第11号証の写真(以下「甲11写真」という。)には、「PRD-Reach工法 吊下げ式高速地盤掘削工法 特許工法」と記載されている。

イ 甲11写真のうち、左側の写真(以下「甲11左写真」という。)の中央下部に上部が黄色の柱状部材が看て取れる。当該柱状部材の下部は、灰色の蛇腹状筒状部材で覆われており、当該蛇腹状筒状部材の表面には縦方向に一本の線部材が看て取れる。

ウ 甲11写真のうち、右側の写真(以下「甲11右写真」という。)の中央に黄色の柱状部材が看て取れる。当該柱状部材の上部にはシート状物が上下方向に畳まれた形状の筒状部材が看て取れる。

10 甲第12号証
(1)甲第12号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、次の事項が記載されている。
ア 甲第12号証の1には「軟質・硬質地盤対応低空間掘削工法 PAL-SYSTEM7」と記載されており、甲第12号証の3の右上の切り抜き写真(以下「甲12写真」という。)から、クレーンに隣接して、柱状部材が看て取れる。当該柱状部材の上部は、灰色の筒状部材で覆われていることが看て取れる。

11 甲第13号証
(1)甲第13号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第13号証には、次の事項が記載されている。
ア 甲第13号証の1には「スクリュードライバー工法」と記載されており、甲第13号証の3の右上の切り抜き写真(以下「甲13写真」という。)から、クレーンに隣接して、柱状部材が看て取れる。当該柱状部材の上部は、灰色の筒状部材で覆われていることが看て取れる。

12 甲第14号証
(1)甲第14号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第14号証には、次の事項が記載されている。
ア 甲第14号証の1には「鋼管矢板注入・引抜機 STILL WORKER」と記載されており、甲第14号証の2の右上の切り抜き写真(以下「甲14写真」という。)から、クレーンに隣接して、柱状部材が看て取れる。当該柱状部材の上部は、灰色の筒状部材で覆われていることが看て取れる。

13 甲第15号証
(1)甲第15号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第15号証には、次の事項が記載されている。
ア 甲第15号証の1には「大口径高速岩盤削孔システム PRD ROSE工法」と記載されており、甲第15号証の2の4頁の上部の切り抜き写真(以下「甲15写真」という。)から、それぞれ左右手前側に長尺部材が直立していることが看て取れる。また、それぞれ長尺部材に沿って、柱状部材が設置されており、当該柱状部材の中上部は蛇腹状筒状部材で覆われていることが看て取れる。

14 甲第16号証
(1)甲第16号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、甲第16号証には、次の事項が記載されている。
ア 甲第16号証の左側及び中央の写真(以下「甲16写真」という。)から、それぞれクレーンに隣接して柱状部材が看て取れる。当該柱状部材の上部は、灰色の蛇腹状筒状部材で覆われていることが看て取れる。

15 甲第18号証
(1)甲第18号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、甲第18号証には、次の事項が記載されている。
ア 甲第18号証の各写真(○13は除く。審決注;原文は○の中に数字)から、蛇腹状筒状部材、あるいは上下方向に畳まれた形状の筒状部材が看て取れる。

第6 無効理由についての判断
一事不再理に関して、被請求人は、確定した前件(無効2013-800233事件)審決と主引用例が同一であり、まして、多数の副引用例も共通し、証拠を一部追加したにすぎない本件審判の請求は、「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものと主張している(上記第4の1参照)。
しかしながら、本件審判の主引用例である甲第1号証、及び副引用例である甲第2号証は、先の無効審判では提示されていない証拠である。
さらに、甲第1号証、甲第2号証は、前件審決における主引例(甲第3号証)に開示されていないとされた本件発明の構成M、N、Oを充足する証拠として提示されたものであるから、新たな証拠であるということができ、先の無効審判と同一の証拠に基づくものと解することはできない。
よって、本件の審判請求は、特許法第167条の規定に違反するとはいえない。

1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
まず、本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「回転駆動装置」、「掘削ビット」は、それぞれ本件発明1の「回転駆動装置」、「掘削ビット」に相当する。

イ 甲1発明の「中空コンクリート杭」は掘削装置である「柱状部材」を囲んでいるので、本件発明1の「ケーシング」に相当する。

ウ 甲1発明の「(回転駆動装置を除いた)柱状部材」は掘削装置の一部であり、下端に掘削のための「掘削ビット」を有しているから、本件発明1の「ハンマシャフト、ダウンザホールハンマ」と「掘削部材」である点で共通する。そして、甲1発明は、本件発明1と「掘削ビットを先端に備えた掘削部材」、及び「掘削部材の一端が(回転駆動装置に)連結され」る点でも共通する。

エ 甲1発明の「蛇腹状筒状部材」は「中空コンクリート杭」を覆っているので、本件発明1の「筒状部」に相当し、「蛇腹状の側壁を有するように形成され」ている点で一致する。

オ 甲1発明は「掘削装置」に関するものであり、本件発明1は「掘削土飛散防止装置」に関するものであるが、掘削装置の構成も含んでいるため、甲1発明と本件発明1は「掘削装置」の点で共通する。

カ したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点1?7で相違する。
(一致点)
「地盤を掘削するための掘削ビットを先端に備えた掘削部材と、
掘削部材の一端が連結され、掘削部材を回転駆動するための回転駆動装置と、
掘削部材を囲繞するように設けられ、下端側から掘削ビットが突き出るように形成されたケーシングと、
前記ケーシングの少なくとも一部を囲繞するように、筒状部を含んでおり、筒状部は蛇腹状の側壁を有するように形成された、
掘削装置。」

(相違点1)
本件発明1は、掘削部材として「ハンマシャフト」、「ダウンザホールハンマ」を有しているのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(相違点2)
本件発明1はケーシングを「回転駆動装置から垂下し」ているのに対し、甲1発明は中空コンクリート杭を回転駆動装置から垂下しているのか否か特定されていない点。
(相違点3)
本件発明1は、
「ダウンザホールハンマの掘削ビットによって削り出される掘削土が吹き上げられた際に通過するようになっており、前記ケーシングの内壁と前記ダウンザホールハンマとの間に形成された通路と、
前記ケーシングに形成され、前記通路を通り抜けて吹き上げられた掘削土を前記ケーシングの外側に排出するための排土口と、を有する掘削装置」
を用いているのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(相違点4)
本件発明1は、
「掘削施工において排出される前記掘削土が、当該掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための掘削土飛散防止装置であって」、筒状部を「回転駆動装置から前記ハンマシャフトに沿って垂下した状態で取り付け可能に構成され」、「自在に伸縮できるように構成」し、「サイレンサーとして機能するようにもし」ているのに対し、甲1発明は、掘削土飛散防止装置であるのか否か、蛇腹状筒状部材を回転駆動装置から垂下しているのか否か、自在に伸縮可能にしているのか否か、サイレンサーとして機能しているのか否かが特定されていない点。
(相違点5)
本件発明1は
「前記掘削土飛散防止装置は前記排土口を介して前記ケーシングの外側へ排出された前記掘削土が衝突するようになっている衝突部を含んでおり、
前記排土口から所定距離離隔した状態で、前記衝突部が前記ケーシングの外側から前記排土口を臨むように設けられ」
ているのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(相違点6)
本件発明1は
「蛇腹状の側壁を有する前記筒状部の下端近傍に、その一端が連結されたワイヤーと、
少なくとも掘削作業中において、垂下された状態の前記筒状部の上端から下端までの長さを調整するために、前記ワイヤーを自在に巻き取りまたは繰り出すことができるように構成されており、前記ワイヤーの他端が連結されている巻き取り装置と、を有しており、
前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが巻き取られた際には、巻き取りに伴って前記筒状部が縮退し、
前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが繰り出された際には、繰り出しに伴って前記筒状部が排土口のみならずケーシングを取り囲むことができる筒状部が伸展するようになってい」
のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(相違点7)
本件発明1は
「前記衝突部に衝突した前記掘削土は、当該掘削装置の周囲に飛散することなく、前記衝突部と前記排土口との間の間隙を介して、自重によって前記衝突部の下方へ向かって落下するようになっている」
のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1
(ア)当審の判断
甲第3号証には「円筒状のウェアスリーブ(60)、ウェアスリーブ(60)内に配設されたシリンダ(61)に沿って昇降するピストン(62)、バルブ(63)を始めとする機構部で構成されており、圧縮空気(18)でピストン(62)を昇降作動させ、拡大ヘッド(H)にピストン(62)を打ち付けて打撃力を拡大ヘッド(H)に与える」ハンマ機構が記載されおり(上記第5の3(1)イ参照)、当該「ハンマ機構(B)」が、本件発明1の「ダウンザホールハンマ」に相当する。
そして、甲第1号証、甲第3号証に記載されたものは、共に中空コンクリート杭の打設技術に関するものであるから、甲1発明の掘削部材として「地盤を掘削するための掘削ビットをハンマシャフトの先端に備えたダウンザホールハンマ」を用いるようにすることは、当業者が適宜なしうる程度のことにすぎない。
なお、甲第1号証が甲第3号証の実施形態を示していることについて、請求人、被請求人間に争いはない(上記第3の2(1)ア(ウ)f、第4の1参照)。

(イ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明に甲第3号証に記載された事項を適用して、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2
(ア)当審の判断
甲第3号証には「【0026】駆動部(D)は、ドリルロッド(11)を介して掘削装置(A)を回転させる駆動モータ(53)、中空コンクリート杭(1)の先端をチャックするチャック部(54)・・・で構成されている。」と記載されており(上記第5の3(1)イ参照)、中空コンクリート杭(ケーシング)がチャック部(回転駆動装置の一部)から垂下する態様が開示されている。
そして、甲第1号証、甲第3号証に記載されたものは、共に中空コンクリート杭の打設技術に関するものであるから、甲1発明において、中空コンクリート杭を回転駆動装置から垂下するようにすることは当業者が適宜なしうる程度のことにすぎない。
なお、甲第1号証が甲第3号証の実施形態を示していることについて、請求人、被請求人間に争いはない(上記第3の2(1)ア(ウ)f、第4の1参照)。

(イ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3、相違点5、相違点7
相違点3、相違点5、相違点7は関連した構成であるため、まとめて判断を行う。
(ア)当審の判断
甲第3号証には「【0042】・・・また、中空コンクリート杭(1)の外周は蛇腹状の伸縮カバー(34)にて覆われており、その上端はチャック部(54)に、下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている。」「【0047】更に、本体部(20a)から上向きに開口している分岐孔(22b)は、分岐孔(22c)からの圧縮空気(18)によって上方に押し上げられた土砂(17)を掘削装置(A)及びドリルロッド(11)と、中空コンクリート杭(1)との間の間隙(7)を通って更に上方に押し上げる作用をする。そして前記間隙(7)を通って中空コンクリート杭(1)の最上部まで押し上げられた土砂(17)は、チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出し、カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下し、中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積する。」と記載されており(上記第5の3(1)ウ、エ参照)、甲第3号証の「中空コンクリート杭」、「土砂」、「間隙」が、それぞれ本件発明1の「ケーシング」、「掘削土」、「通路」に相当する。
甲第3号証において「前記間隙(7)を通って中空コンクリート杭(1)の最上部まで押し上げられた土砂(17)は、チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出」するのであるから、「チャック部(54)の図示しない空間」は何らかの開口部を構成していることは明らかであり、当該「チャック部(54)の図示しない空間」は、本件発明1の「排土口」に相当する。
さらに、「チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出」した土砂は「カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下し、中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積する」のであるから、「チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出」した土砂は、「蛇腹状の伸縮カバー」側のいずれかの箇所に衝突することは自明のことであり、本件発明1の「衝突部」に相当する構成を有していることは明らかである。また、甲第3号証においても、本件発明1と同様に「衝突部に衝突した前記掘削土は、当該掘削装置の周囲に飛散することなく、前記衝突部と前記排土口との間の間隙を介して、自重によって前記衝突部の下方へ向かって落下するようになっている」ことは明らかである。
以上のことから、甲第3号証には、「蛇腹状の伸縮カバー」からなる掘削土飛散防止装置が記載されていることも明らかである。
よって、相違点3、相違点5、相違点7については、甲第3号証に記載されているということができる。
そして、甲第1号証、甲第3号証に記載されたものは、共に中空コンクリート杭の打設技術に関するものであるから、甲1発明に、甲第3号証の【0047】に記載の構成を採用し、相違点3、5、7に係る本件発明1のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
なお、甲第1号証が甲第3号証の実施形態を示していることについて、請求人、被請求人間に争いはない(上記第3の2(1)ア(ウ)f、第4の1参照)。

(イ)被請求人の主張について
被請求人は、「甲第3号証は・・・「排出」「衝突」と「溢出」という言葉の違いが示すように、甲第3号証ではケーシングの外側に排出する点で本件発明1と共通するというようなものではない。また、甲第3号証のカバー(34)の上方部内面が衝突部であることの記載はなく、看取もできるものではない。甲第3号証には・・・「溢出」という語句を使用していることからも、甲第3号証では土砂がカバー(34)の上方部内面に衝突して落下することを看取することはできない。本発明の「衝突部」の独自性について述べると、「衝突部」を設けることは、単に掘進中に噴き出した掘削土に衝突されることとは異なる。「衝突部」とは、掘進中に積極的に掘削土と衝突することを、ダウンザホールハンマ施工特有の掘削土の飛散防止の目的のために、担う独自の場所である。本発明はこのような「衝突部」という特殊な構成を用いることにより、掘進中に掘削土を「衝突部に衝突させ」、掘削装置の周囲に飛散することなく「衝突部と前記排土口との間」の間隙を介して、自重によって「衝突部」の下方へ向かって落下させることができるものである。そもそも、飛散防止を発明の目的としない装置・方法の発明である甲第3号証では、これら本件特許発明の構成は確認できないものである」(上記第4の2(2)オ参照)と主張している。
被請求人が主張するとおり、甲第3号証には「衝突部」は明記されていないが、上記ウ(ア)において示したように「チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出」した土砂は、「カバー」側のいずれかの箇所に衝突することは自明な事項である。また、「衝突部」については、「掘削土が衝突するようになっている」、「排土口から所定距離離隔した状態で・・・ケーシングの外側から前記排土口を臨むように設けられ」との限定がなされているが、これらの限定が衝突する部分であること以上の特殊な構成を示しているとはいえない。また、「排出」「衝突」と「溢出」の表現の違いについては、「衝突」については先に述べたとおり、甲第3号証において自明な事項であるから、「排出」と「溢出」の表現が異なるとしても、そのことをもって「衝突」することに影響を与えるものではない。
よって、被請求人の上記主張は採用できない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明に甲第3号証に記載された事項を適用して、相違点3、5、7に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ 相違点4
(ア)当審の判断
甲第3号証には「【0042】・・・また、中空コンクリート杭(1)の外周は蛇腹状の伸縮カバー(34)にて覆われており、その上端はチャック部(54)に、下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている。」(上記第5の3(1)ウ参照)と記載されており、上端がチャック部に設置され、自在に伸縮できる「蛇腹状の伸縮カバー」が、本件発明1の「筒状部」に相当する。また、甲第3号証において、「蛇腹状の伸縮カバー」で掘削装置が覆われているのであるから、サイレンサーの機能を有していることは明らかである。
そして、甲第1号証、甲第3号証に記載されたものは、共に中空コンクリート杭の打設技術に関するものであるから、甲1発明において、甲第3号証に記載された事項を採用して、本件発明1のようにすることは当業者が適宜なしうる程度のことにすぎない。
なお、甲第1号証が甲第3号証の実施形態を示していることについて、請求人、被請求人間に争いはない(上記第3の2(1)ア(ウ)f、第4の1参照)。

(イ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明に甲第3号証に記載された事項を適用し、相違点4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

オ 相違点6
(ア)当審の判断
本件発明1は、相違点6に係る構成を有することにより「【0044】
・・・ワイヤー19の巻き取り・繰り出し操作を通じて蛇腹部分(円筒部11)の伸縮を繰り返すことによって、落下して来る途中で円筒部11の内壁に付着した掘削土を効率的に払い落とすことが可能になる。また、ダウンザホールハンマ50の掘進に伴って円筒部11の長さを調整することができるので、蛇腹部分(円筒部11)の下端側が地表上で重なり積もることを防止することが可能になる」との効果を奏するものである。
相違点6に関して、甲1発明には「蛇腹状筒状部材の表面には縦方向に一本の線部材が配されている」ものの、この「線部材」がワイヤーであるとまではいえず、仮にワイヤーであるとしても、当該「線部材」の一端が「蛇腹状筒状部材」に連結されているとはいえず、また、「線部材」が「蛇腹状筒状部材」を巻き取るものであるともいえない。
甲第2号証には、上記第5の2のとおり、掘削装置にシート状物が上下方向に畳まれた形状の筒状部材が設けられていることは看て取れるが、ワイヤーに相当する構成は看て取れない。
甲第3号証には、上記ウで述べたとおり、蛇腹状の伸縮カバーが開示されているが、ワイヤーに関する記載はない。
甲第5号証には「ロープ24」が記載されているものの、「ロープ24」はカバー伸長制限用のロープであり、カバーの自重が下方部に集中してカバー下方部が破損するのを防止するためのものである(上記第5の4(1)ウ参照)。よって、当該「ロープ24」は、カバーを巻き取りまたは繰り出すようにしたものではなく、また、巻き取り装置についても開示されていないので、本件発明1の「ワイヤー」に相当せず、当該構成を甲1発明に適用できたとしても、本件発明1の構成とはならない。
また、その他の証拠である甲第6号証?甲第9号証、甲第11号証?甲第16号証、甲第18号証においても、相違点6に相当する構成は開示されていない。

(イ)請求人の主張について
a 請求人は、ワイヤーの巻き取り装置に関して「甲第2号証の2は、巻き取り装置を有しており、筒状部が縮退している。よって、巻き取り装置によるワイヤーの巻き取り、繰り出しによって筒状部の縮退、伸展が行われていることが明白である。」と主張している(上記第3の2(1)ア(ウ)d参照)。
しかしながら、甲2左写真からは、まず、ワイヤーそのものが看て取れない。また、請求人は参考資料7における符号iの装置を巻き取り装置として認定しているが、甲2左写真からは、符号iの装置が何のための部材であるのか理解できる情報はなく、巻き取り装置であるとは認めることができない。

b 請求人は「・・・念の為に甲第4号証の1、甲第4号証の2・・・によって、ワイヤー、巻き取り装置の公知性を補充するものである。」(上記第3の2(2)b参照)と主張しているが、甲第4号証の1、2の記載を勘案しても、甲第1号証の1及び甲第2号証の2において、ワイヤーをワイヤー巻き取り機によって巻き取ったり、繰り出したりしていることに根拠が認められず、相違点6に係る当審の判断に影響を与えるものではない。

c よって、請求人の上記主張は採用できない。

(ウ)小括
以上のことから、甲1発明において、相違点6に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明1は、上記(2)オのとおり、相違点6に係る本件発明1の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2 本件発明5について
(1)本件発明5と甲1発明との対比
本件発明5と甲1発明とを対比すると、両者は、上記1(1)カの一致点、相違点1?7に加えて、次の相違点8で相違する。

(相違点8)
本件発明5は
「筒状部の下端に、当該筒状部を被固定体に対して着脱自在に固定するための固定用フランジを有しており、
前記被固定体は、地表部に設置されるようになっており、前記掘削土飛散防止装置の固定用フランジに対して固定されるようになっている固定部と、前記ケーシングの一部を囲繞する筒状部と、を含んでいる」
のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1?7
相違点1?7については、上記1(2)で検討したとおりである。

イ 相違点8
(ア)当審の判断
甲第5号証には「カバー12の下端は、下部のアウターフランジ16を介して、オーガスクリュー7に軽く嵌合された取付部材26の上端に取付け固定されており」と記載されており(上記第5の4(1)エ参照)、「カバー12」の下端を「オーガスクリュー7」近傍の「取付部材26」に固定することが開示されているが、「取付部材26」は「オーガスクリュー7」に固定されていることから、地表部に設置されておらず、当該構成を甲1発明に適用できたとしても、本件発明5の構成とはならない。
また、その他の証拠である甲第6号証?甲第9号証、甲第11号証?甲第16号証、甲第18号証においても、相違点8に相当する構成は開示されていない。

(イ)請求人の主張について
請求人は、「甲第3号証には、「中空コンクリート杭(1)の外周は蛇腹状の伸縮カバー(34)にて覆われており、その上端はチャック部(54)に、下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている。」(段落【0042】)と記載されている。この記載及び図1より、甲第3号証には、「蛇腹状の伸縮カバー(34)(筒状部)の下端を地表部に設置する」構成が記載されていると言える。また、甲第5号証(特公昭57-7275号公報)には「カバー12下端は、下部のアウターフランジ16を介して、オーガスクリュー7に軽く嵌合された取付部材26の上端に取付け固定されており」(3頁左欄32?35行)、「カバーにより泥土、石等の周囲への飛散が防止され」(3頁右欄5?6行)と記載されている。これらの記載及び第2図より、甲第5号証には「掘削土飛散防止装置が、カバー12(筒状部)の下端に、当該カバー12(筒状部)を取付部材26(被固定体)に対して着脱自在に固定するためのアウターフランジ16(固定用フランジ)を有している」構成が記載されていると言える。」と主張している(上記第3の2(1)イ(ウ)b参照)。
請求人が主張するように、甲第3号証において「蛇腹状の伸縮カバー」の「下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている」が、甲1発明において「蛇腹状筒状部材」の下端がどのような構成であるのか明らかでないことから、甲第5号証の「カバー12」の下端を「取付部材26」に固定する構成を採用したものを、甲1発明に適用する動機付けはなく、仮に適用したとしても、本件発明5のように「被固定体は、地表部に設置」する構成となる必然性はない。
よって、甲第5号証における上記各構成を部分的に採用し、本件発明5のようにすることは、当業者が容易に想到しうる程度のこととはいえない。

(ウ)小括
以上のことから、甲1発明において、相違点8に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明5は、上記1(2)オ、上記(2)イのとおり、相違点6、8に係る本件発明5の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3 本件発明6
(1)本件発明6と甲1発明との対比
ア 本件発明6は、請求項1記載の掘削土飛散防止装置と、請求項5記載の掘削装置(審決注;請求項5の記載自体には「掘削装置」なる記載は存在しないので、「請求項5記載の掘削装置」は、請求項5で引用されている「請求項1記載の掘削装置」と同義とした。)とを引用した掘削方法であるので、結果的に本件発明1の構成を全て含み、さらに請求項6の限定を加えたものであるので、本件発明6と甲1発明とは、少なくとも上記1(1)ア?オの相当関係を有している。

イ 甲1発明は、掘削装置に関するものであり、掘削作業に使われるものであるから、実質的に掘削方法を開示しており、所定位置の地盤を掘削していることは明らかである。

ウ したがって、両者は、上記1(1)カの一致点、相違点1?7でそれぞれ一致、相違し、さらに、以下の一致点で一致し、相違点9?12で相違する。
(一致点)
「掘削を行う方法であって、
筒状部を取り付け、
前記ケーシング部材内を挿通する掘削部材によって、所定位置の地盤を掘削する、
掘削方法。」

(相違点9)
本件発明6が「掘削土飛散防止装置の衝突部がケーシングの外側から排土口を臨むように」「筒状部を回転駆動装置からハンマシャフトに沿って垂下する状態で取り付け」ているのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(相違点10)
本件発明6が「ダウンザホールハンマによって、所定位置の地盤を掘削し」ているのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(相違点11)
本件発明6が「掘削作業の間に前記ケーシングの排土口から排出される掘削土を、前記掘削土飛散防止装置の衝突部に衝突させることによって、当該掘削土が自重によって衝突部の下方へ向かって落下するようにし」ているのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(相違点12)
本件発明6が「ダウンザホールハンマの掘進に伴って、垂下された状態の前記筒状部を縮退させ、
掘削の間および/または掘削の終了後において、前記衝突部の下方の地表部に堆積した前記掘削土を排土処理する」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1?7
相違点1?7については、上記1(2)で検討したとおりである。

イ 相違点9
(ア)当審の判断
相違点9は「衝突部」、「排土口」、「筒状部」に関するものであり、上記相違点4、5の判断(上記1(2)ウ(ア)、1(2)エ(ア)参照)と同様の理由により、甲1発明において、甲第3号証に記載された事項を採用し、相違点9に係る本件発明6のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

(イ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明に甲第3号証に記載された事項を適用し、相違点9に係る本件発明6の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点10
(ア)当審の判断
相違点10は「ダウンザホールハンマ」に関するものであり、上記相違点1の判断(上記1(2)ア(ア)参照)と同様の理由により、甲1発明において、甲第3号証に記載された事項を採用し、相違点10に係る本件発明6のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

(イ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明に甲第3号証に記載された事項を適用し、相違点10に係る本件発明6の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点11
(ア)当審の判断
相違点11は「衝突部」に関するものであり、上記相違点7の判断(上記1(2)ウ(ア)参照)と同様の理由により、甲1発明において、甲第3号証に記載された事項を採用し、相違点11に係る本件発明6のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

(イ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明に甲第3号証に記載された事項を適用し、相違点11に係る本件発明6の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ 相違点12
(ア)当審の判断
甲第3号証には「【0042】・・・また、中空コンクリート杭(1)の外周は蛇腹状の伸縮カバー(34)にて覆われており、その上端はチャック部(54)に、下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている。」、「【0048】このようにして掘削を行っていくのであるが、掘削の進展と同時に中空コンクリート杭(1)の掘削孔(3)への圧入が同時進行する。即ち、掘削孔(3)の孔底が掘削されると、油圧シリンダ機構(55)が作動してシリンダロッドを伸長させる。これによりチャック部(54)は押し下げられ、チャック部(54)に固定されている中空コンクリート杭(1)は掘削孔(3)内に圧入されていく。」と記載されており(上記第5の3(1)ウ、エ参照)、当該記載から、「伸縮カバー」は「チャック部」と共に押し下げられ、掘進に伴って縮退していくことは明らかである。
さらに、甲第3号証において「【0047】・・・そして前記間隙(7)を通って中空コンクリート杭(1)の最上部まで押し上げられた土砂(17)は、チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出し、カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下し、中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積する。」と記載されており(上記第5の3(1)エ参照)、「中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積した」土砂を掘削の間の適宜タイミングか、あるいは掘削の終了後に排土処理することは、掘削工事を支障なく行っていく上で当然採用される手段にすぎず、排土処理を行うことは甲第3号証に記載されているに等しい事項であるか、仮にそうでないとしても、当然採用される技術手段である。
そして、甲第1号証、甲第3号証に記載されたものは、共に中空コンクリート杭の打設技術に関するものであるから、甲1発明に、甲第3号証に記載の構成を採用し、相違点12に係る本件発明6のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
なお、甲第1号証が甲第3号証の実施形態を示していることについて、請求人、被請求人間に争いはない(上記第3の2(1)ア(ウ)f、第4の1参照)。

(イ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明に甲第3号証に記載された事項を適用し、相違点12に係る本件発明6の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明6は、上記1(2)オのとおり、相違点6に係る本件発明6の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

4 無効理由のまとめ
以上のとおり、本件発明1、5、6は、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、その特許は、無効とすべきものではない。

第7 むすび
上記第6で検討したとおり、本件発明1、5、6について、請求人の主張する無効理由には無効とする理由がないから、その特許は無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-01 
結審通知日 2017-09-05 
審決日 2017-09-21 
出願番号 特願2004-142869(P2004-142869)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 住田 秀弘  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 前川 慎喜
井上 博之
登録日 2010-07-23 
登録番号 特許第4553629号(P4553629)
発明の名称 掘削土飛散防止装置  
代理人 清原 義博  
代理人 今岡 大明  
代理人 清原 直己  
代理人 久保 司  
代理人 尾関 眞里子  
代理人 三山 峻司  
代理人 幅 敦司  
代理人 北本 友彦  

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