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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1344800
審判番号 不服2017-266  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-10 
確定日 2018-10-01 
事件の表示 特願2015-510631「固定化脂環式ペプチドアシルトランスフェラーゼ及びその製造方法と用途」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日国際公開、WO2013/166993、平成27年 7月 9日国内公表、特表2015-519049〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成25年5月10日(パリ条約による優先権主張 平成24年5月11日 中国)を国際出願日とする出願であって、 平成28年8月22日付けで拒絶査定がなされ、平成29年1月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年10月10日付けで当審より拒絶理由が通知され、これに対して平成30年4月11日に意見書および同日付の手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1?16に係る発明は、平成30年4月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載の事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
固定化環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼであって、ここで、
固定化環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼが、式Iaで表される化合物におけるアシル基の脱アシル化を触媒し、式IIで表される化合物を生成することに使用され、
【化1】

(式中において、R^(2)はヒドロキシ基で、R^(3)はヒドロキシ基で、R^(4)はヒドロキシ基で、R^(5)はヒドロキシスルホニルオキシ基で、R^(6)はアミノホルミル基である)、
環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼが担体に固定化され、該担体の材料が、無機担体であり、および
無機担体の全重量に対して、SiO_(2)の含有量が50wt%超で、Al_(2)O_(3)の含有量が1wt%超であり、ここで、環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼは、アクチノプラネス・ウタヘンシス(Actinoplanes utahensis)のIFO-13244菌株、(A. utahensis)NRRL-12052菌株、またはストレプトマイセス菌(Streptomyces sp.)6907号菌株で生産される、
前記固定化環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼ。」


第2 平成29年10月10日付け拒絶理由通知
平成29年10月10日付け拒絶理由通知は、この出願の請求項に係る発明は、引用例7に記載された発明及び引用例2?6、8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由([理由2]の(2))を含むものである。


第3 当審の判断
1.引用例、引用発明
(1)引用例7
平成29年10月10日付け拒絶理由通知で引用例7として示された国際公開第97/32975号には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。(以下も同様。)
ア 「請求の範囲
1. Streptomyces属に属する菌由来の環状リポペプチドアシラーゼ。

2. ?般式[I] :


[式中、R^(1) はアシル基、
R^(2) はヒドロキシ基またはアシルオキシ基、
R^(3) は水素またはヒドロキシ基、
R^(4) は水素またはヒドロキシ基、
R^(5) は水素またはヒドロキシスルホニオキシ基、 および
R^(6) は水素またはカルバモイル基
を意味する]
で示される環状リポペプチド物質またはその塩のR^(1)のアシル基の脱アシル化を触媒し、 一般式[II] :



[式中、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)およびR^(6)は前記と同じ基を意味する]で示される環状ペプチド物質またはその塩を生産させる請求の範囲第1項のアシラーゼ。
・・・・
8. 次の性質を有する請求の範囲第1項のアシラーゼ
1 ) 作用 :
FR901379及び Echinocandin B, Aculeacin A等の FR901379物質類似体に代表される請求の範囲第1項の環状リポベプチド物質の脂質アシル部分の脱アシル化を触媒する。
2 ) 至適 pH: pH8? 9
3 ) 作用適温の範囲 : 50℃付近
4 ) 阻害、活性化及び安定化:
メタノール:反応液中の含量が10%までは濃度依存的に活性化され、
それ以上は阻害される。
5 ) 分子量:
ラージペプチド ; 61kD
スモールぺプチド ; 19kD
6 ) アミノ酸分析:
N末端アミノ酸配列
ラージペプチド ;
Ser-Asn-Ala-Val-Ala-Phe-Asp-Gly-Ser-Thr-Thr-Val-Asn-Gly-Arg-G1y-Leu-Leu-Leu-Gly-・・・
スモールぺプチド ;
Gly-Ser-Gly-Leu-Ser-A1a-Va1-Ile-Arg-Tyr-Thr-G1u-Tyr-Gly-Ile-Pro-His-His-Val-A1a-・・・
7 ) 基質特異性:
FR901379, Echinocandin B 及び Aculeacin Aに対しては触媒作用を持っている。しかしFR901469に対しては作用を持たない。」(特許請求の範囲)

イ 「発明の開示
本発明の発明者らは、FR901379物質及びEchinocandin B , Aculeacin A等のFR901379物質類似体に代表される環状リポぺプチド物質のアシル側鎖を脱アシル化する新規なアシラーゼを求めて鋭意研究を行った。その結果、微生物Streptomyces anulatusが生産するアシラーゼを新たに見出し、目的とする脱アシル化を効果的に行うことに成功した。
この新規環状リポぺプチドアシラーゼならびに、これを用いた脱アシル化法の特徴を以下の説明で、明らかにする。

まず、本発明の環状リポぺプチドアシラーゼ生産菌につき説明する。
新規環状リポぺプチドアシラーゼ生産菌は具体的には、例えばStreptomyce属に属するStreptomyces anulatus No. 4811株、Streptomyces anulatus No. 8703かあるいはStreptomyces sp. 6907株である。」(第1頁14?末行)

(2)引用例2
上記拒絶理由通知で引用例2として示された米国特許第3892580号明細書には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから、当審による翻訳文を記載する。
ア 「無機多孔質体を製造する方法
少なくとも部分的に固有の高い多孔度による高い表面積を有する粒子の有用性は、触媒支持体、フィルター媒体、およびクロマトグラフィーカラム中の担体などの多様な用途において、近年絶え間なく増加している。 ここ数年の間にほとんど爆発的な活動を経験したさらに別の分野は、広範囲の固定化酵素複合体の開発である。本発明は、その分野において特に有用な多孔質体を提供する。」(第1欄1?12行)

イ 「1. Al_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZrO_(2)、SiO_(2)およびその混合物から、約100Å-1000Åの孔径を有する多孔質体を製造する方法であって、・・・」(特許請求の範囲)

(3)引用例3
上記拒絶理由通知で引用例3として示された特表2006-521787号公報には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0191】
別の実施形態においては、リパーゼアシルトランスフェラーゼは、食品加工中に使用することができるが、食料品には残らなくすることができる。例えば、リパーゼアシルトランスフェラーゼを固定化し、再使用することができる。」

イ 「【実施例15】
【0691】
アエロモナス サルモニシダ由来の脂質アシルトランスフェラーゼの固定化、及びステロールエステルの合成における使用
A.サルモニシダ由来の脂質アシルトランスフェラーゼ(この場合はGCAT)をアセトン沈殿によってセライト上に固定した。20mM TEA緩衝剤pH7中の酵素溶液10mlをセライト535 535(Fluka製)0.1グラムとともに室温で2時間ゆっくり撹拌した。
連続撹拌しながら冷アセトン50mlを添加した。
5000gで1分間遠心分離することによって沈殿物を単離した。
沈殿物を冷アセトン20mlで2回洗浄した。
セライトを周囲温度で約1時間試みた。
【0692】
この固定化トランスフェラーゼを、ホスファチジルコリン13%及び植物ステロール7%を含む油混合物において試験した。(表27)」

(4)引用例4
上記拒絶理由通知で引用例4として示された特開平10-136994号公報には、以下の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 式(I)
【化1】(化学式は省略)
で表わされるN-アセチル-(DL)-ベラトリルグリシンを、アミダーゼが固定化された不溶性担体と接触させることにより、式(II)
【化2】(化学式は省略)
で表わされる(L)-ベラトリルグリシンを生成させ、次いで、(L)-ベラトリルグリシンを分離・回収することを特徴とする(L)-ベラトリルグリシンの製造方法。
・・・・
【請求項3】 不溶性担体がキトサン樹脂、イオン交換樹脂、ポリビニルアルコール、光架橋樹脂、セライト、ケイソウ土およびセラミックスからなる群より選択されるものであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
・・・・
【請求項6】 アミダーゼがアミノアシラーゼ(EC3.5.1.14)またはペニシリンアミダーゼ(EC3.5.1.11)であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。」(特許請求の範囲)

イ 「【0057】参考例の反応系では濾液中の各アミノ酸値が高く、反応液中にアミノアシラーゼが多量に残留していることが明らかである。一方本発明の反応系では、アミノアシラーゼ固定化キトサン樹脂を繰り返し再利用した場合でも、濾液中にグリシンのピーク以外はほとんど検出されなかった。グリシン以外のアミノ酸がほとんど検出されなかったことから、本発明の反応系の濾液中で高値を示すグリシンのピークは少なくともアミノアシラーゼ由来のものではないことが明らかであり、反応液中にアミノアシラーゼが遊離していないことが判明した。」

(5)引用例5
上記拒絶理由通知で引用例5として示された特開2009-268414号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、固定化酵素を充填した充填層を用いた脂肪酸類の製造方法に関する。
・・・・
【0011】
本発明で用いる固定化酵素は、固定化担体に酵素を吸着等により担持させたものである。固定化担体としては、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等が挙げられるが、特に保水力が高い点からイオン交換樹脂が好ましい。また、イオン交換樹脂の中でも、大きな表面積を有することにより酵素の吸着量を高くできるという点から、多孔質であることが好ましい。」

(6)引用例6
上記拒絶理由通知で引用例6として示された特表2008-520197号公報には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、アルコールデヒドロゲナーゼの存在下でブタン-2-オンを還元することによる(S)-ブタン-2-オールの製造方法に関する。」

イ 「【0020】
本発明に従って使用されるADHは、遊離の形態または固定化された形態で使用することができる。固定化酵素とは、不活性支持体に固定化された酵素を意味する。好適な支持体材料およびそれに固定化される酵素は、EP-A-1149849号、EP-A-1 069 183号およびDE-A 100193773号、およびこれらに引用された参考文献中に開示されている。この事項については、これらの刊行物の開示の全体をそのまま参照するものとする。好適な支持体材料の例は、クレー、クレー鉱物、例えばカオリナイト、珪藻土、パーライト、二酸化珪素、酸化アルミニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、セルロース粉末、陰イオン交換体、合成ポリマー、例えばポリスチレン、アクリル樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタン類、ならびにポリオレフィン類、例えばポリエチレンおよびポリプロピレンである。支持体材料は通常、支持体に固定化された酵素を調製するのに適した微細な粒子状の形態で使用され、多孔質の形態が好ましい。」

(7)引用例8
上記拒絶理由通知で引用例8として示された特開平4-228072号公報には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】本発明は、酵素技術に関するものである。
具体的には、本発明は、微生物、Actinoplanes utahensisによって産生される、抗真菌性代謝物質、エキノカンジンB(echinocandinB,ECB)、アクレアシン(aculeacin)、およびECBの類似体の脂質親和性アシル側鎖を脱アシル化するリポペプチドデアシラーゼの精製に関するものである。」

イ 「【0033】本発明の方法は、式AまたはB:【化2】


[式Aにおいて、Rはリノレオイル、ミリストイルまたはパルミトイルであり、式Bにおいて、R’はデカノイル、8-メチルデカノイル、10-メチルウンデカノイルまたは10-メチルドデカノイルである]で示される環状ペプチドを、pH約5?約7の水性媒質中、約25℃?約75℃の温度でエキノカンジンBデアシラーゼと混合し、RおよびR’が水素である式AまたはBの化合物を得ることからなる。
・・・・
【0038】固定化された酵素で本方法を行なうこともできる。適当な不活性樹脂支持体に酵素を結合させ、カラムに充填することができる。」

(8)引用発明
上記(1)の摘記事項ア、イより、引用例7には、
「FR901379及び Echinocandin B, Aculeacin A等の FR901379物質類似体に代表される一般式[I]

[式中、R^(1) はアシル基、
R^(2) はヒドロキシ基またはアシルオキシ基、
R^(3) は水素またはヒドロキシ基、
R^(4) は水素またはヒドロキシ基、
R^(5) は水素またはヒドロキシスルホニオキシ基、 および
R^(6) は水素またはカルバモイル基
を意味する]
で示される環状リポベプチド物質の脂質アシル部分の脱アシル化を触媒し、一般式[II]

[式中、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)およびR^(6)は前記と同じ基を意味する]で示される環状ペプチド化合物を生産させる、
Streptomyces sp. 6907株由来の環状リポペプチドアシラーゼ。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2.対比
本願発明と引用発明を対比する。
本願明細書の【表1】には、Iaの欄に「(FR901379)」と記載されており、FR901379と呼ばれる化合物は、本願発明の式Iaで表される化合物であると認められる。
したがって、引用発明の一般式[I]に該当するFR901379は、本願発明の固定化環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼが脱アシル化反応を触媒する、式Iaで表される化合物と同じ化合物であり、引用発明においてFR901379が脱アシル化されれば、引用発明の一般式[II]において、R^(2)がヒドロキシ基、R^(3)がヒドロキシ基、R^(4)がヒドロキシ基、R^(5)がヒドロキシスルホニオキシ基、R^(6)がカルバモイル基である、本願発明の式IIで表される化合物に相当する化合物が生成すると認められる。
また、本願発明では、「環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼ」として「アクチノプラネス・ウタヘンシス(Actinoplanes utahensis)のIFO-13244菌株、(A. utahensis)NRRL-12052菌株、またはストレプトマイセス菌(Streptomyces sp.)6907号菌株」という3種類の菌株のいずれかにより生産されるものが特定されており、本願発明において「環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼ」がストレプトマイセス菌(Streptomyces sp.)6907号菌株で生産されるものである場合において、両者は、
「環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼであって、ここで、
環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼが、式Iaで表される化合物におけるアシル基の脱アシル化を触媒し、式IIで表される化合物を生成することに使用され、
【化1】

(式中において、R^(2)はヒドロキシ基で、R^(3)はヒドロキシ基で、R^(4)はヒドロキシ基で、R^(5)はヒドロキシスルホニルオキシ基で、R^(6)はアミノホルミル基である)、
ここで、環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼは、ストレプトマイセス菌(Streptomyces sp.)6907号菌株で生産される、
前記環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼ。」である点において一致し、以下の点で相違していると認められる。

(相違点)
環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼについて、本願発明では「担体に固定化され、該担体の材料が、無機担体であり、および無機担体の全重量に対して、SiO_(2)の含有量が50wt%超で、Al_(2)O_(3)の含有量が1wt%超」であることが特定されているのに対して、引用発明では担体に固定化されたものではない点。

3.判断
上記引用例3、4には、酵素を固定化することによって再利用可能となることが記載され、また、上記引用例2?6には、酵素を固定化する際に、Al2O_(3)、TiO_(2)、ZrO_(2)、SiO_(2)およびその混合物から製造される多孔質体や、セライト、パーライト、カオリナイト(カオリン)などを含む各種の担体が使用されることが記載されていると認められる。さらに、引用例8には、リポペプチドデアシラーゼを担体に固定化することが記載されており、この酵素は引用発明と同じく環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼに該当すると認められる。したがって、引用例8には、環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼを固定化することが示されていると認められる。
そうすると、引用発明の環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼを再利用可能な酵素とする目的で、引用例2?6に記載される担体に固定化して固定化環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼとすることは当業者が容易になし得ることである。そして、本願発明には、担体について「該担体の材料が、無機担体であり、および無機担体の全重量に対して、SiO_(2)の含有量が50wt%超で、Al_(2)O_(3)の含有量が1wt%超」の要件が特定されているが、引用例2?6に記載されるAl2O_(3)、TiO_(2)、ZrO_(2)、SiO_(2)およびその混合物から製造される多孔質体、セライト、パーライト、カオリナイト(カオリン)、多孔質ガラスは、この要件を満足していると認められる。
したがって、上記当業者が容易になし得る固定化環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼには、本願発明で特定されるものが包含されると認められる。
本願明細書の実施例11の【表11】(表7)には、担体として「膨張パーライト」と「セライト」を使用した例は、担体として「活性炭」、「分子篩」、「多孔質ガラス」を使用した例と比較して、吸着率、転化率に優れていたことが示されていると認められる。
しかし、「膨張パーライト」、「セライト」という特定の担体を用いた場合に格別の効果が奏されたとしても、本願発明は、「無機担体の全重量に対して、SiO_(2)の含有量が50wt%超で、Al_(2)O_(3)の含有量が1wt%超」という広範な「無機担体」を特定するものであって、無機担体の種類を特定するものではないから、無機担体として「膨張パーライト」、「セライト」を用いた場合の効果を本願発明全体の効果として参酌することはできない。
したがって、本願発明において、固定化担体について「該担体の材料が、無機担体であり、および無機担体の全重量に対して、SiO_(2)の含有量が50wt%超で、Al_(2)O_(3)の含有量が1wt%超」であることが特定されたことによって、格別の効果が奏されたとは認められず、本願発明において、引用例2?8の記載から予測できない効果が奏されたとは認められない。
よって、本願発明は、引用例7に記載された発明及び引用例2?6、8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は平成30年4月11日意見書において、概ね以下の点を主張している。
(1)固定化が酵素の反応性に影響し、固定化後の酵素の活性に影響を及ぼすから、遊離体の酵素の活性は固定化体の酵素の活性よりも一般に高いことが当業者に周知である。これに対し、本願発明の固定化酵素の反応性は、遊離体の酵素の反応性よりも格別顕著に優れている(本願の実施例および比較例1)。
(2)酵素を固定化酵素へと調製できるかどうかや、酵素の活性が固定化により悪影響を受けるかどうかは予測不可能であり、環状リポペチドアシルトランスフェラーゼの固定化酵素が所望の活性を有し得るかどうかは、当業者といえども予測できない。
(3)引用例2?5に記載されている固定化酵素の酵素成分は、本願発明の環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼとは異なるものである。

審判請求人の主張について、以下に検討する。
(1)について
本願明細書には、固定化されてない遊離酵素を用いる比較例1が示され、固定化担体として「膨張パーライト」、「セライト」を用いた固定化酵素は、遊離酵素よりも転化率や生成物の純度において優れた効果を奏すること(実施例8;膨張パーライト、実施例11;膨張パーライト、セライト、実施例12;セライト)が示されていると認められるが、本願発明は、「無機担体の全重量に対して、SiO_(2)の含有量が50wt%超で、Al_(2)O_(3)の含有量が1wt%超」という広範な「無機担体」を特定するものであるから、「膨張パーライト」、「セライト」を用いた固定化酵素の効果を本願発明全体のものとすることはできない。
また、比較例1は引用例7に記載される方法に従った実験である旨記載されているが、比較例1に記載される実験条件は、引用例7の実施例、特に、Streptomyces sp. 6907株由来の環状リポペプチドアシラーゼを用いてFR901379の脱アシル化反応を行う、「実施例2-3」に示される反応条件と異なっていると認められる。例えば、「実施例2-3」では、pH6.0、30℃で30分間の酵素反応を行っているのに対して、比較例1ではpH6.0、40℃で7時間の酵素反応を行っており、比較例1の反応条件が適切なものであるかどうかには疑義がある。したがって、比較例1の記載から、遊離酵素を用いた場合の転化率や生成物の純度が固定化酵素の場合よりも劣っていると一概にはいえない。
さらに、審判請求人が意見書において「酵素の活性は担体および固定化条件に大いに影響され、その活性が固定化中に失われることがあるものであり、また例えば引用文献1に記載のとおり、異なる担体を用いると、著しく異なる比活性が得られるものであります」と述べているとおり、固定化酵素の活性には、固定化担体の種類だけでなく固定化条件も影響すると考えられるから、仮に、「膨張パーライト」、「セライト」を用い、特定の固定化条件で酵素を固定化した場合に格別の効果が奏されるとしても、その効果を固定化条件を特定しない本願発明全体のものとすることはできない。
そして、審判請求人が「水溶性酵素と比較して、固定化酵素が例えば再利用性、良好な安定性など、工業的使用などの多くの利点を有することは周知であります。」と主張するとおり、固定化された酵素が何度も繰り返して使用できることや、酵素が失活しやすい環境を避けて使用できることなどは、当業者にとって周知であると認められるから、酵素を何度も安定して使用できることは、当業者が予測することである。

(2)について
本願明細書の実施例11の【表11】(表7)には、固定化担体として「膨張パーライト」と「セライト」を使用した固定化酵素は、「活性炭」、「分子篩」、「多孔質ガラス」を使用した例と比較して、吸着率、転化率に優れていたことが示されているが、上記3で述べたとおり、本願発明は、「無機担体の全重量に対して、SiO_(2)の含有量が50wt%超で、Al_(2)O_(3)の含有量が1wt%超」という広範な「無機担体」を特定するものであって、無機担体の種類を特定するものではないから、無機担体として「膨張パーライト」、「セライト」を用いた場合の効果を本願発明全体の効果として参酌することはできない。
また、実施例11の【表11】に示される、担体が「活性炭」、「分子篩」、「多孔質ガラス」の例では、吸着率が極端に低いことから、このような例が適切に固定化酵素を製造する例に該当するとはいえず、このような例と比較しても、固定化担体として「膨張パーライト」と「セライト」を用いた場合に格別の効果が奏されたことは認められない。
なお、【表11】には「多孔質ガラス」を固定化担体とする固定化酵素の転化率が低いことが示されているが、本願明細書の段落【0028】に、「膨張パーライト」、「セライト」と並んでこの「多孔質ガラス」が「SiO_(2)の含有量が50wt%超で、Al_(2)O_(3)の含有量が1wt%超」の無機担体として示されていることを考慮すると、無機担体についての「SiO_(2)の含有量が50wt%超で、Al_(2)O_(3)の含有量が1wt%超」という特定に、格別の技術的な意義があるとは認められない。

(3)について
引用例2?5は、固定化酵素の担体として各種のものが知られていることを示す証拠であるから、そこに具体的に記載されている酵素が環状リポペプチドアシルトランスフェラーゼとは異なるものであることに何ら問題はない。

5.小括
本願発明は、引用例7に記載された発明及び引用例2?6、8に記載され
た発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-08 
結審通知日 2018-05-09 
審決日 2018-05-22 
出願番号 特願2015-510631(P2015-510631)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 高堀 栄二
中島 庸子
発明の名称 固定化脂環式ペプチドアシルトランスフェラーゼ及びその製造方法と用途  
代理人 葛和 清司  

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