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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1344806
異議申立番号 異議2017-701101  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-22 
確定日 2018-08-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6139946号発明「ポリエステル系樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6139946号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6139946号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 特許第6139946号の請求項4に係る特許に対する本件異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6139946号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2013-78168号、以下「本願」という。)は、平成25年4月4日に出願人三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成29年5月12日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、平成29年5月31日に特許公報の発行がされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成29年11月22日付けで特許異議申立人東レ株式会社(以下「申立人」という。)により「特許第6139946号の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がされた。

3.以降の手続の経緯
平成30年 2月26日付け 取消理由通知
平成30年 4月24日 訂正請求書・意見書(特許権者)
平成30年 4月27日付け 通知書(申立人あて)
平成30年 6月21日付け 手続補正指令(方式)(特許権者あて)
平成30年 6月27日 手続補正書(方式)
平成30年 6月28日付け 手続補正書副本送付(申立人あて)

第2 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第4号証を提示し、概略、以下の取消理由1及び2が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2:本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、その解決課題を解決できるか不明な実施態様を含むものであり、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1ないし4の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2000-313792号公報
甲第2号証:特開2000-227674号公報
甲第3号証:「三井ハイワックス」及び「エクセレックス」なる商品名の機能性低分子量ポリオレフィンに係る2010年12月20日に三井化学株式会社が作成・発行したものと解される製品カタログ
甲第4号証:特開平8-283486号公報
(以下、上記甲第1号証ないし甲第4号証につき、それぞれ「甲1」ないし「甲4」と略していう。)

第3 当審が通知した取消理由の概要
当審が平成30年2月26日に通知した取消理由の概略は、以下のとおりである。

「当審は、
申立人が主張する上記取消理由1及び当審が新たに発見した下記取消理由aにより、本件発明1ないし4についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。以下、取消理由1と取消理由aにつき併せて詳述する。

取消理由a:本件発明1ないし4は、いずれも、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

・取消理由1及び取消理由aについて
・・(中略)・・
(5)取消理由1及び取消理由aに係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、いずれも甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明1ないし4は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではない。

3.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし4は、いずれも特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではないから、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、いずれも同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。」

第4 平成30年4月24日付け訂正請求の適否

1.訂正請求の内容
平成30年6月27日の手続補正書により補正された上記平成30年4月24日付け訂正請求では、本件特許に係る特許請求の範囲及び明細書を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1ないし4について訂正することを求めるものであり、以下の(1)ないし(4)の訂正事項を含むものである。(なお、下線は、当審が付したもので訂正箇所を表す。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「天然ワックス、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物、シリコーン系化合物から選ばれる少なくとも1種」と記載されているのを「酸価が1?40mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックス」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2?3も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0069】に記載された「(実施例1?14」を、「(実施例1?9、14、参考例10?13」に訂正する。

(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0074】の【表3】に記載された「実施例10?13」を、「参考例10?13」に訂正する。

2.検討
なお、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし4を「旧請求項1」ないし「旧請求項4」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし4を「新請求項1」ないし「新請求項4」という。

(1)訂正の目的要件について
上記の各訂正事項による訂正の目的につき検討する。
上記訂正事項1に係る訂正は、旧請求項1における「離型剤(B)」に係る並列的選択肢の一部を削除し、単一の「酸化ポリエチレンワックス」とした上で、当該「ワックス」について、明細書の【0033】の記載に基づき、酸価の範囲に係る事項を付加して限定して新請求項1としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
上記訂正事項2に係る訂正は、旧請求項4に記載された事項を全て削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
また、上記訂正事項3及び4に係る各訂正は、上記訂正事項1及び2に係る各訂正により特許請求の範囲が訂正されたことに伴い、特許請求の範囲に記載された事項を具備しないものとなった各「実施例」につき単に各「参考例」としたものであるから、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項1ないし4による各訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定の目的要件に適合するものである。

(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
上記(1)に示したとおり、上記訂正事項1に係る訂正により、旧請求項1に記載された並列的選択肢の一部を削除するとともに、訂正前の明細書に記載された事項を直列的に付加することにより、旧請求項1に係る特許請求の範囲を実質的に減縮して新請求項1とされていることが明らかである。
また、訂正事項2に係る訂正により、旧請求項4に記載された事項が全て削除されており、旧請求項4に係る特許請求の範囲が減縮されていることも明らかである。
さらに、訂正事項3及び4に係る各訂正は、訂正された特許請求の範囲の記載との対応関係が不明瞭となった明細書の記載につき単に正したものである。
してみると、上記訂正事項1ないし4に係る各訂正は、いずれも新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。
してみると、上記訂正事項1ないし4に係る各訂正は、いずれも特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の旧請求項2ないし4は、いずれも旧請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の旧請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、上記訂正事項3及び4に係る明細書についての各訂正は、上記訂正事項1及び2に係る各訂正により特許請求の範囲が上記一群の請求項ごとに訂正されたことに伴い、不整合となった明細書の記載を上記一群の請求項の全てについて訂正したものであるから、上記明細書についての各訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定を満たすものである。

(4)独立特許要件
なお、本件異議の申立ては、旧請求項1ないし4、すなわち全ての請求項に係る特許に対するものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定の独立特許要件につき検討すべき請求項は存しない。

(5)訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。

第5 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件訂正後の本件特許に係る請求項1ないし4には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)と、示差走査型熱量計(DSC)による融点が130℃以下である離型剤(B)及び融点が180℃以上である離型剤(C)を含有し、離型剤(B)は酸価が1?40mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックスであり、離型剤(C)がカルボン酸アミド系ワックスであることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
離型剤(B)と離型剤(C)の含有量の質量比(B)/(C)が、3/7?8/2である請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
離型剤(B)と離型剤(C)の含有量が、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、合計で0.1?3質量部である請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】(削除)」
(以下、上記請求項1ないし4に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第6 当審の判断
当審は、
当審が通知した取消理由及び申立人が主張する上記取消理由につきいずれも理由がなく、ほかに本件発明1ないし3についての特許を取り消すべき理由を発見しないから、本件発明1ないし3についての特許は取り消すことはできず、維持すべきものである、
本件の請求項4に係る特許に対する本件異議申立は、訂正により同項の記載事項が全て削除されたことにより、申立ての対象を欠く不適法なものとなり、その補正ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである、
と判断する。以下、詳述する。

I.当審が通知した取消理由について

・取消理由1及び取消理由aについて

1.甲号証に記載された事項及び記載された発明
以下、上記取消理由1及び取消理由aにつき検討するにあたり、当該両理由はいずれも特許法第29条に係るものであるから、上記甲1ないし4に記載された事項を確認・摘示するとともに、甲1に記載された発明の認定を行う。

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
甲1には、申立人が申立書第6頁第3行?第7頁第20行で主張するとおりの事項(【0012】、【0054】、【0075】及び【0079】)に加えて、以下の事項が記載されている。

(a-1)
「【0090】
【表2】


【0091】
【表3】




イ.甲1に記載された発明
上記ア.の記載事項(特に上記【表2】の「実施例20」に係る記載)からみて、甲1には、
「(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)赤リン10重量部、(C)フェノール系樹脂5重量部、(D)アミノトリアゾール系化合物1重量部及び(K)滑剤を配合してなる難燃性樹脂組成物であって、上記(K)滑剤として、『ヘキストワックスOP』なる商品名の脂肪酸エステルの一部をカルシウム塩にした滑剤、『ライトアマイドWH-255』なる商品名のエチレンジアミンとステアリン酸及びセバシン酸からなる重縮合物並びに『三井ハイワックス1105A』なる商品名の酸無水物変性ポリアルキレンワックスをそれぞれ0.3重量部併用してなる樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものといえる。

(2)甲2に記載された事項
甲2には、申立人が申立書第8頁第19行?第21行で主張するとおりの、「ヘキストワックスOP」なる商品名のモンタン酸エチレングリコールエステルの部分ケトン化物につき融点79℃であることが記載されている。

(3)甲3に記載された事項
甲3には、申立人が申立書第9頁第1行?第5行で主張するとおりの、「三井ハイワックス1105A」なる商品名の機能性ポリオレフィンワックスにつき融点104℃(DSC法)であることが記載されている。

(4)甲4に記載された事項
甲4には、申立人が申立書第9頁第8行?第10行で主張するとおりの、「ライトアマイドWH-255」なる商品名のエチレンジアミン/ステアリン酸/セバシン酸重縮合物につき融点255℃であることが記載されている。

2.検討

(1)本件発明1について

ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、
「ポリエステル樹脂(A)を含有するポリエステル系樹脂組成物。」
の点で一致し、下記の点で相違するものと認められる。

相違点1:「離型剤」につき、本件発明1では「示差走査型熱量計(DSC)による融点が130℃以下である離型剤(B)及び融点が180℃以上である離型剤(C)を含有し、離型剤(B)は酸価が1?40mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックスであり、離型剤(C)がカルボン酸アミド系ワックスである」のに対して、甲1発明では、「上記(K)滑剤として、『ヘキストワックスOP』なる商品名の脂肪酸エステルの一部をカルシウム塩にした滑剤、『ライトアマイドWH-255』なる商品名のエチレンジアミンとステアリン酸及びセバシン酸からなる重縮合物並びに『三井ハイワックス1105A』なる商品名の酸無水物変性ポリアルキレンワックスをそれぞれ0.3重量部併用してなる」点

イ.検討
上記相違点1につき検討すると、甲1発明における「(K)滑剤」は、当該剤の使用により成形加工時の樹脂組成物の器壁への付着を防止するために組成物に添加・使用するものであることが当業者に自明であり、成形型の内壁に対する樹脂組成物の付着を防止し成形物の型離れを良くするために使用する本件発明1における「離型剤」とその作用を一にするものであるから、甲1発明における「(K)滑剤」と本件発明1における「離型剤」とは、表現上の差異のみであって実質的な差異が存するものとは認められない。
そして、甲1発明における
「『ヘキストワックスOP』なる商品名の脂肪酸エステルの一部をカルシウム塩にした滑剤」、
「『ライトアマイドWH-255』なる商品名のエチレンジアミンとステアリン酸及びセバシン酸からなる重縮合物」並びに
「『三井ハイワックス1105A』なる商品名の酸無水物変性ポリアルキレンワックス」
は、甲2ないし甲4の開示に照らすと、それぞれ、本件発明1における
「示差走査型熱量計(DSC)による融点が130℃以下である離型剤(B)」としての脂肪酸エステル系化合物、
「示差走査型熱量計(DSC)による・・融点が180℃以上である離型剤(C)」としての「カルボン酸アミド系ワックス」及び
「示差走査型熱量計(DSC)による融点が130℃以下である離型剤(B)」としてのポリオレフィン系化合物、
に相当し、甲1発明では、それらを「併用して」いるのであるから、本件発明1における「示差走査型熱量計(DSC)による融点が130℃以下である離型剤(B)及び融点が180℃以上である離型剤(C)を含有し」に相当するものとはいえる。
しかしながら、甲1発明において使用される「『三井ハイワックス1105A』なる商品名の酸無水物変性ポリアルキレンワックス」は酸価が60mgKOH/gの「酸無水物変性」タイプのものであり、本件発明1における「酸価が1?40mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックス」でないことが明らかである。
また、特許権者が平成30年4月24日付け意見書に添付した乙第1号証実験証明書の内容を参酌すると、本件発明1に係る実施例2につき酸価22?28mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックスに代えて、甲1発明で使用される『三井ハイワックス1105A』を使用した場合、離型性が低下することが看取できるから、本件発明1が、甲1発明に比して、格別な効果を奏しているものと理解するのが自然である。
してみると、上記相違点1は、実質的な相違点であるとともに、本件発明1は、上記相違点1に係る事項を具備することにより、甲1発明に比して、格別な効果を奏しているものと認められる。

ウ.小括
したがって、本件発明1は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、また、本件発明1が、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(2)本件発明2及び3について
本件発明1を引用する本件発明2及び3につき検討すると、上記(1)で説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1に記載された発明であるということはできず、また、本件発明1が、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできないのであるから、本件発明1に係る事項を全て具備する本件発明2及び3についても、甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(3)取消理由1及び取消理由aに係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、いずれも甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできないから、上記取消理由1及び取消理由aはいずれも理由がない。

3.当審が通知した取消理由に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由1及び取消理由aは、いずれも理由がない。

II.申立人が主張する取消理由について
申立人が、申立書で主張する取消理由は、上記第2で示した取消理由1及び2であるところ、取消理由1は、当審が通知した上記I.で検討したものと同旨であるから、残る取消理由2につき以下検討する。

1.取消理由2について
申立人が主張する取消理由2は、申立書第12頁第5行ないし第13行の記載からみて、本件特許に係る請求項2に記載された「離型剤(B)と離型剤(C)の含有量の質量比(B)/(C)が、3/7?8/2である」との点につき、実施例で効果が実証されている場合は、5/5及び6/4の場合のみであり、それ以外の比率の場合に、同様の本件発明に係る効果を奏するか否か明らかでないから、請求項2に係る発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、請求項2及び同項を引用する請求項3並びに4の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しないというものと認められる。
しかるに、上記「離型剤(B)」及び「離型剤(C)」は、いずれも離型性を発現させる剤として、その機能などにおいて共通の傾向を示すものであり、上記2種の離型剤を併用する場合において、上記「含有量の質量比(B)/(C)」が一方に偏った(例えば、3/7又は8/2)からといって、本件発明2につき所期の離型性に係る効果が得られないであろうとすべき当業者の技術常識が存するものでもなく、(本件訂正後の)本件特許明細書の発明の詳細な説明に照らして、当該「質量比(B)/(C)」が一方に偏った場合であっても、本件発明に係る効果を奏するであろうと当業者が認識するものと理解するのが自然である。
してみると、(本件訂正後の)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件の請求項2及び3に係る発明につき、所期の課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるように記載したものということができるから、同各項に係る発明が記載したものということができる。
したがって、本件の請求項2及び3の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、上記取消理由2は、理由がない。
(なお、この点、旧請求項4についても同様であるから、先の取消理由通知において、請求項2ないし4に係る取消理由2につき通知しなかった。)

2.申立人が主張する取消理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立人が主張する取消理由1及び2は、いずれも理由がない。

第7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、当審が通知した取消理由並びに申立人が主張する取消理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、ほかに、本件の請求項1ないし3に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見できない。
さらに、本件の請求項4に係る特許に対する本件異議申立は、訂正により同項の記載事項が全て削除されたことにより、申立ての対象を欠く不適法なものとなり、その補正ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリエステル系樹脂組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂組成物に関するものであり、詳しくは、離型性に優れるポリエステル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂は、優れた耐熱性、成形性、耐薬品性及び電気絶縁性等のエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、射出成形用を中心として、電気電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品等に広く用いられている。
【0003】
ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂には、成形時における金型からの離型性を向上させ、また金型の汚染を抑制するため、さらには、成形時の熱履歴や機械的付加による樹脂の物性低下を抑制するために、一般的に離型剤を含有させる。
近年は、射出成形サイクルを短縮させて生産性を高める、すなわち、ハイサイクル性が特に重要となってきており、ハイサイクル性に優れたポリエステル系樹脂組成物が求められている。
【0004】
ポリエステル系樹脂に、離型剤として、脂肪族カルボン酸金属塩(特許文献1?2)、脂肪酸エステルや、パラフィン(特許文献3)又はポリエチレンワックス(特許文献4)などをそれぞれ配合することが提案されている。しかし、このような離型剤を含有するポリエステル系樹脂組成物では、冷却時間を長くすることが必要で、ハイサイクル化すると抜き出し段階の際に成形品が破損したり、成形品の変形や異常が生じやすく寸法均一性を達成することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭47-32435号公報
【特許文献2】特公昭48-4097号公報
【特許文献3】特開昭51-39756号公報
【特許文献4】特開平10-310689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、離型性に優れ、ハイサイクル化と成形品寸法均一性に優れるポリエステル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、離型剤として、高融点の離型剤(B)と低融点の離型剤(C)を併用することにより、上記した問題が解決され、離型性に優れ、ハイサイクル化しても成形品の寸法均一性の良好な成形品を安定して製造できることができることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下のポリエステル系樹脂組成物を提供する。
【0008】
[1]ポリエステル樹脂(A)と、示差走査型熱量計(DSC)による融点が130℃以下である離型剤(B)及び融点が180℃以上である離型剤(C)を含有することを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
[2]離型剤(B)と離型剤(C)の含有量の質量比(B)/(C)が、3/7?8/2である上記[1]に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[3]離型剤(B)と離型剤(C)の含有量が、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、合計で0.1?3質量部である上記[1]又は[2]に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[4]離型剤(B)が、酸化ポリエチレンワックスである上記[1]乃至[3]のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[5]離型剤(C)が、カルボン酸アミド系ワックスである上記[1]乃至[4]のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物によれば、特定温度以上の高い融点を有する離型剤(B)と特定温度以下の低い融点を有する離型剤(C)を併用することにより、離型性に優れ、ハイサイクル化が可能で、ハイサイクルにて成形しても、得られる成形品の寸法均一性に優れるポリエステル系樹脂材料を提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例及び比較例において離型性の評価のために用いた箱形成形品の形状を示す斜視図である。
【図2】図1に示した箱形成形品及びエジェクターピンを示す上面図である。
【図3】図3は、箱形成形品の底部におけるエジェクターピンの位置を示す説明図である。
【0011】
[発明の概要]
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と、示差走査型熱量計(DSC)による融点が130℃以下である離型剤(B)及び融点が180℃以上である離型剤(C)を含有することを特徴とする。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下に記載する説明は実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定して解釈されるものではない。
なお、本願明細書において、「?」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
[ポリエステル樹脂(A)]
本発明のポリエステル系樹脂組成物の主成分であるポリエステル樹脂(A)としては、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合、又はこれらの化合物の混合物の重縮合などによって得られる熱可塑性ポリエステル樹脂であり、ホモポリエステル、コポリエステルのいずれであってもよい。
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0014】
これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステルなどのエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。オキシカルボン酸としてはパラオキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ジフェニレンオキシカルボン酸などが挙げられる。これらは単独で重縮合させることもできるが、ジカルボン酸化合物に少量併用することが多い。
【0015】
ジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリオキシアルキレングリコールなどの脂肪族ジオールが主として用いられるが、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンなどの芳香族ジオールやシクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオールも用いることができる。
【0016】
またこのような二官能性化合物以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなどの三官能以上の多官能化合物や、分子量調節のための脂肪酸などの単官能化合物を少量併用することもできる。
【0017】
本発明の樹脂組成物に用いられるポリエステル樹脂(A)としては、通常は主としてジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物とからなる重縮合物、すなわち計算上、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物のエステルである構造単位が、樹脂全体の好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上を占めるものを用いる。ジカルボン酸化合物としては芳香族ジカルボン酸が好ましく、ジヒドロキシ化合物としては脂肪族ジオールが好ましい。
【0018】
ポリエステル樹脂(A)として、このなかでも好ましいのは、酸性分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95モル%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートである。その代表的なものはポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレートであり、これらはホモエステルに近いもの、すなわち樹脂全体の95質量%以上がテレフタル酸成分および1,4-ブタンジオール又はエチレングリコール成分からなるものであるのが好ましい。本発明では、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0019】
ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を含んでいてもよいが、他のジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4,4’-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、および、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類等が挙げられる。
【0020】
ジオール単位としては、1,4-ブタンジオールの外に他のジオール単位を含んでいてもよいが、他のジオール単位の具体例としては、炭素原子数2?20の脂肪族または脂環族ジオール類、ビスフェノール誘導体類等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノ一ル、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノ一ルAのエチレンオキシド付加ジオール等が挙げられる。更に、グリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオールも挙げられる。
【0021】
ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとを重縮合させたポリブチレンテレフタレート単独重合体が好ましいが、また、カルボン酸単位として、前記のテレフタル酸以外のジカルボン酸一種以上および/またはジオール単位として、前記1,4-ブタンジオール以外のジオール一種以上を含むポリブチレンテレフタレート共重合体であってもよい。ポリブチレンテレフタレートは、機械的性質、耐熱性の観点から、ジカルボン酸単位中のテレフタル酸の割合が、好ましくは70モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上である。同様に、ジオール単位中の1,4-ブタンジオールの割合が、好ましくは70モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上である。
【0022】
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0023】
ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分またはこれらのエステル誘導体と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、回分式または通続式で溶融重合させて製造することができる。また、溶融重合で低分子量のポリブチレンテレクタレート樹脂を製造した後、さらに窒素気流下または減圧下固相重合させることにより、重合度(または分子量)を所望の値まで高めることができる。
ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、連続式で溶融重縮合する製造法が好ましい。
【0024】
エステル化反応を遂行する際に使用される触媒は、従来から知られているものであってよく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等を挙げることができる。これらの中で特に好適なものは、チタン化合物である。エステル化触媒としてのチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等を挙げることができる。
【0025】
ポリブチレンテレフタレートは、共重合により変性したポリブチレンテレフタレート樹脂であってもよいが、その具体的な好ましい共重合体としては、ポリアルキレングリコール類(特にはポリテトラメチレングリコール(PTMG))を共重合したポリエステルエーテル樹脂や、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、特にはイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリブチレンテレフタレート全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものをいう。中でも、共重合量が好ましくは2?50モル%、より好ましくは3?40モル%、さらに好ましくは4?30モル%、特に好ましくは5?20モル%である。
そして、これら共重合体の好ましい含有量は、ポリエステル樹脂(A)の総量100質量%中に、1?40質量%、更には3?30質量%、特には5?20質量%である。
【0026】
また、本発明に用いられるポリエステル樹脂(A)として、ポリブチレンテレフタレートに、ポリエチレンテレフタレートを添加したものを用いることも好ましい。
【0027】
ポリエステル樹脂(A)の固有粘度([η])は、適宜選択して決定すればよいが、通常0.5?2dl/gであることが好ましく、中でも樹脂組成物の成形性および機械的特性の観点から0.6?1.5dl/gであることが好ましい。固有粘度が0.5dl/g以上のものを用いると、樹脂組成物から得られる成形品の機械的強度が十分高くなる傾向にあり、2dl/g以下であると樹脂組成物の流動性が向上し、成形性が向上する傾向にある。
【0028】
なお、本明細書中において、ポリエステル樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定した値である。
【0029】
[離型剤(B)]
離型剤(B)は、示差走査型熱量測定(DSC)による融点が130℃以下である離型剤である。
本明細書において、融点とは、示差走査型熱量測定(DSC)による融点をいい、融解のメインピークのピーク温度(℃)をいう。具体的には、30℃から予想される融点+40℃まで20℃/分で昇温した際に検出される発熱メインピークのピークトップの温度(℃)をいう。
離型剤(B)は、ポリエステル樹脂(A)に配合されて、成形品が金型から容易に剥離できるように、離型性を高める機能を有する。具体的には、金型内に充填された溶融樹脂が固化した後の突き出し時において、成形品が変形したり、突き破ったり等の不具合を生じず、安定的、且つ、円滑な突き出し工程が可能となるものである。
【0030】
離型剤(B)としては、天然ワックス、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物、シリコーン系化合物が好ましく挙げられる。
【0031】
天然ワックスとしては、カルナバワックス、蜜蝋精製ワックス等が挙げられる。
【0032】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、ポリオレフィン系化合物の分散が良好であるという点から、質量平均分子量が、700?10000、更には900?8000のポリエチレンワックスが好ましい。
【0033】
また、ポリオレフィン系化合物は、カルボキシル基(カルボン酸(無水物)基、即ちカルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基を表す。以下同様。)、ハロホルミル基、エステル基、カルボン酸金属塩基、水酸基、アルコシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基等のポリエステル樹脂と親和性のある官能基を付与することが好ましい。この濃度は、ポリオレフィン系化合物の酸価として、1?40mgKOH/gであることが好ましく、10?35mgKOH/gがより好ましく、18?30mgKOH/gがさらに好ましい。
また、揮発分が少なく、同時に離型性の改良効果も著しい点で、ポリオレフィン系化合物としては、酸化ポリエチレンワックスが好ましい。
なお、酸価は、0.5mol KOHエタノール溶液による電位差滴定法(ASTM D1386)に従って測定することができる。
【0034】
脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和の脂肪族1価又は2価のカルボン酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられる。中でも、炭素数11?28、好ましくは炭素数17?21の脂肪酸とアルコールで構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。
【0035】
脂肪族カルボン酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。また、脂肪族カルボン酸は、脂環式のカルボン酸であってもよい。
アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0036】
脂肪酸エステル系化合物の具体例としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン-12-ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリストールジステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0037】
また、シリコーン系化合物としては、ポリエステル樹脂との相溶性等の点から、変性されている化合物が好ましい。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖に有機基を導入したシリコーンオイル、ポリシロキサンの両末端および/または片末端に有機基を導入したシリコーンオイル等が挙げられる。導入される有機基としては、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基等が挙げられ、好ましくはエポキシ基が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖にエポキシ基を導入したシリコーンオイルが特に好ましい。
【0038】
但し、上記のとおり、離型剤(B)の融点は130℃以下であることが必要であり、好ましくは120℃、より好ましくは110℃以下、更に好ましくは105℃以下である。離型剤(B)の融点の下限については制限はないが、好ましくは-10℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上である。
離型剤(B)の融点が130℃を超えると、表面に離型剤が析出しにくくなり、離型効果が低下し、また離型剤(C)の融点に至るものでは、両者を併用する本発明の意味がなくなる。
【0039】
[離型剤(C)]
離型剤(C)は、示差走査型熱量計(DSC)による融点が180℃以上である離型剤である。離型剤(C)は、離型剤(B)と併用することで、離型効果が得られにくい金型温度が高い状況においても、また、複雑な形状の成形品においても、離型剤(C)が効果的に働き、成形品全体に渡り均一に優れた離型効果が得られ、離型剤(B)の単独使用に較べて離型性が高まり、冷却時間を短縮することが可能となる。特に、局部的に高温となり蓄熱しやすいボスやコアピン等を有する金型を使用する場合に、より広範囲な金型温度での成形が可能となる。
【0040】
離型剤(C)としては、融点が180℃以上であれば制限はないが、高融点のワックス等が好ましく挙げられる。
高融点のワックスとしては、カルボン酸アミド系ワックスが挙げられ、特に高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸とジアミンの縮合物からなるものが好ましい。
【0041】
高級脂肪族モノカルボン酸としては、好ましくは炭素数12?22の飽和脂肪族モノカルボン酸であり、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸が挙げられる。ヒドロキシ基含有脂肪族モノカルボン酸であってもよい。ヒドロキシ基含有脂肪族モノカルボン酸として、12-ヒドロキシステアリン酸が挙げられる。これらの飽和脂肪族モノカルボン酸及びヒドロキシ基含有脂肪族モノカルボン酸は単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。
【0042】
多塩基酸は、二塩基酸以上のカルボン酸が好ましく、脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。脂肪族ジカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸として、フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
これらの多塩基酸は単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。
【0043】
ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4-ジアミノジフェニルメタンが好ましく挙げられる。
これらのジアミンは単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。
【0044】
このような成分からなる高融点のワックスの製造方法はよく知られており、例えば、飽和脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸及び脂肪族ジアミンを、無溶媒で160?300℃に加熱しながら2?10時間、脱水縮合反応させ、脂肪族ジアミンと、脂肪族モノカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸とが縮合し、アミド化合物として高融点のワックスが得られる。
【0045】
離型剤(C)の融点は、180℃以上であるが、好ましくは190℃、より好ましくは200℃以上である。融点の上限は、制限はないが、通常は300℃以下、好ましくは280℃以下である。
なお、離型剤(C)の融点は、離型剤(B)の融点測定と同様の手法による求めることができる。
【0046】
また、離型剤(C)の酸価は、1?30mgKOH/gであることが好ましく、5?25mgKOH/gであることがより好ましく、10?20mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0047】
[離型剤(B)及び離型剤(C)の含有量]
離型剤(B)と離型剤(C)の含有量の割合は、(B)と(C)の質量比(B)/(C)で、3/7?8/2であることが好ましい。(B)の質量比が3を下回ると、十分に冷却された場合の金型滑り性が低下するため、その条件での離型性が悪化しやすくなり、8を超えると、冷却時間が短い場合等のハイサイクル成形条件下での離型性が悪化しやすい傾向となり好ましくない。質量比(B)/(C)は、より好ましくは4/6?7/3であり、さらに好ましくは5/5?6/4である。
また、離型剤(B)と離型剤(C)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、(B)及び(C)の合計で、0.1?3質量部であることが好ましく、より好ましくは0.15質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上である。また2.5質量部以下であることがより好ましく、さらに好ましくは2質量部以下、特に好ましくは1.5質量部以下である。
0.1質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下する傾向があり、一方、3質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下し、また成形品表面に曇りが見られる場合がある。
【0048】
[その他含有成分]
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、安定剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、タルク、ワラストナイト、マイカ等の強化充填材、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、着色剤等が挙げられる。また、成形加工時の計量安定性改善を目的として、滑剤等を外添してもよい。
【0049】
<安定剤>
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、安定剤を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、透明性や色相の悪化を防止する効果を有するという点で好ましい。安定剤としては、リン系安定剤、イオウ系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。
【0050】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物又は有機ホスホナイト化合物が好ましい。
【0051】
有機ホスフェート化合物としては、好ましくは、下記一般式:
(R^(1)O)_(3-n)P(=O)OH_(n)
(式中、R^(1)は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0?2の整数を示す。)
で表される化合物である。より好ましくは、R^(1)が炭素原子数8?30の長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。炭素原子数8?30のアルキル基の具体例としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。
【0052】
長鎖アルキルアシッドホスフェートとしては、例えば、オクチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、オクタデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。これらの中でも、オクタデシルアシッドホスフェートが好ましく、このものはADEKA社の商品名「アデカスタブ AX-71」として、市販されている。
【0053】
有機ホスファイト化合物としては、好ましくは、好ましくは、下記一般式:
R^(2)O-P(OR^(3))(OR^(4))
(式中、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ水素原子、炭素原子数1?30のアルキル基または炭素原子数6?30のアリール基であり、R^(2)、R^(3)及びR^(4)のうちの少なくとも1つは炭素原子数6?30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0054】
有機ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0055】
有機ホスホナイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R^(5)-P(OR^(6))(OR^(7))
(式中、R^(5)、R^(6)及びR^(7)は、それぞれ水素原子、炭素原子数1?30のアルキル基又は炭素原子数6?30のアリール基であり、R^(5)、R^(6)及びR^(7)のうちの少なくとも1つは炭素原子数6?30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0056】
有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0057】
イオウ系安定剤としては、従来公知の任意のイオウ原子含有化合物を用いることが出来、中でもチオエーテル類が好ましい。具体的には例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N-フェニル-β-ナフチルアミン)、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイトが挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)が好ましい。
【0058】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-ネオペンチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリト-ルテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0059】
安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0060】
安定剤の含有量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.001?1質量部である。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。安定剤の含有量は、より好ましくは0.001?0.7質量部であり、更に好ましくは、0.005?0.5質量部である。
【0061】
<他の熱可塑性樹脂>
また、本発明のポリエステル系樹脂組成物には、ポリエステル樹脂(A)以外の他の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損わない範囲で含有することができる。その他の熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイドエチレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン等が挙げられる。
【0062】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法としては、樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸又は二軸押出機で溶融混練する。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。さらには、ポリエステル樹脂(A)の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りの他の成分を配合して溶融混練してもよい。
なお、ガラス繊維等の繊維状の強化充填材を用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
【0063】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220?300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、不透明化の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練り時や、後行程の成形時の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0064】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、温度270℃、せん断速度91.2sec^(-1)における3分後の溶融粘度に対する60分後の溶融粘度の比(60min/3min)が2.7以下であることが好ましい。溶融粘度の比(60min/3min)が2.7より大きくなると、熱安定性が低下するため樹脂劣化が生じやすく、得られる成形品が所望の物性を有さない場合がある。溶融粘度の比(60min/3min)は、より好ましくは2.65以下であり、2.6以下であることがさらに好ましく、下限は好ましくは2.5である。
【0065】
[成形体]
本発明のポリエステル系樹脂組成物を用いて成形体を製造する方法は、特に限定されず、ポリエステル樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられる。中でも射出成形が好ましい。
【0066】
成形体の形状、大きさ、厚み等は任意であり、その用途としては、電気電子機器部品、OA機器部品、自動車等の輸送機器用部品、産業機械用部品、その他民生用部品等に好適である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
以下の実施例および比較例において、使用した成分は、以下の表1の通りである。
【0068】
【表1】

【0069】
(実施例1?9、14、参考例10?13、比較例1?7)
表1に示す各成分を表2?表4に示す割合(質量部)にて、タンブラーミキサーで均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30XCT」、L/D=42)を使用し、シリンダー設定温度270℃、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練した樹脂組成物を、水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。
【0070】
[離型性の評価]
得られたペレットを用い、ファナック製「α100iA型」射出成形機を使用して、シリンダー温度250℃、金型温調機設定温度80℃にて、図1に示すような中央部に仕切りを有する箱形成形品(タテ30mm、ヨコ54mm、奥行き34mm、肉厚1.5mm)を、図1の箱形成形品の矢印で示す左側壁の最前面中央付近に設けたサイドゲート(ゲート厚み1.5mm×ゲート幅3mm)より、樹脂を注入して成形した。
【0071】
図2は、図1に示した箱形成形品及びエジェクターピンを上方から見た上面図であり、図3は、箱形成形品の底部にエジェクターピンが当たる位置を示す説明図である。成形品の抜き出しは、図2に示す圧力センサー付きエジェクターピン大小合計4本を、図3に示すような箱形成形品の底板にそれぞれを当接させ突き出すことにより行った。
【0072】
冷却時間を30秒からスタートし、冷却時間を20秒、10秒、8秒、6秒、5秒、4秒、3秒と次第に短縮して成形を行い、金型から箱形成形品を、エジェクターピンにて突き出して抜き出した。
得られた箱形成形品の底板の変形と突き出し時に発生した音により、以下の三段階の基準で判定を行った。
「○:底板の変形無し、かつ、突き出し時の音発生無し」
「△:底板の変形有り、かつ、突き出し時に異音発生有り」
「×:底板の突き破り有り」
評価結果を、以下の表2?4に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、離型性に優れるので、各種の成形品をハイサイクルで製造でき、産業上の利用性は非常に高いものがある。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)と、示差走査型熱量計(DSC)による融点が130℃以下である離型剤(B)及び融点が180℃以上である離型剤(C)を含有し、離型剤(B)は酸価が1?40mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックスであり、離型剤(C)がカルボン酸アミド系ワックスであることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
離型剤(B)と離型剤(C)の含有量の質量比(B)/(C)が、3/7?8/2である請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
離型剤(B)と離型剤(C)の含有量が、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、合計で0.1?3質量部である請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-08-10 
出願番号 特願2013-78168(P2013-78168)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 近野 光知
橋本 栄和
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6139946号(P6139946)
権利者 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
発明の名称 ポリエステル系樹脂組成物  
代理人 小野 尚純  
代理人 平川 さやか  
代理人 小野 尚純  
代理人 平川 さやか  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 奥貫 佐知子  

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