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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) G02B |
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管理番号 | 1344814 |
異議申立番号 | 異議2018-700140 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-02-22 |
確定日 | 2018-08-24 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6182858号発明「液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6182858号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認める。 特許第6182858号の請求項1ないし9,11に係る特許を維持する。 同請求項10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6182858号(請求項の数11。以下,「本件特許」という。)は,平成24年12月27日(優先権主張平成23年12月28日,平成24年7月31日)に出願され,平成29年8月4日に特許権の設定登録がされたものである。 その後,同年8月23日に特許掲載公報の発行がなされたところ,平成30年2月22日に特許異議申立人により請求項1ないし11に係る特許について特許異議の申立てがされ,同年4月13日付けで特許権者に取消理由が通知され,特許権者より同年6月15日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ,同年7月24日に異議申立人より意見書が提出された。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 (1)訂正前後の記載 本件訂正請求は,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし11について訂正することを求めるものであるところ,一群の請求項〔1ないし11〕ごとに請求するものであるから,特許法120条の5第4項の規定に適合して請求されたものである。 しかるに,本件訂正前後の明細書及び特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) ア 本件訂正前の特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 リタデーションが3000?30000nmであるポリエステルフィルムの少なくとも片面に,水性ポリエステル樹脂(A)と水溶性チタンキレート化合物,水溶性チタンアシレート化合物,水溶性ジルコニウムキレート化合物,及び水溶性ジルコニウムアシレート化合物から成る群より選択される1種以上(B)とを主たる構成成分とする水系塗布液から形成される塗布層が積層された偏光子保護フィルムが偏光子の少なくとも片側に積層された偏光板,及び,連続的な発光スペクトルを有する白色光源を備えた液晶表示装置。 【請求項2】 前記(A)と(B)との混合比(A/B)が,質量換算で,10/90?95/5である,請求項1に記載の液晶表示装置。 【請求項3】 水性ポリエステル樹脂(A)が,スルホン酸金属塩基を含有する芳香族ジカルボン酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸成分に対し1?10モル%含有する共重合ポリエステル樹脂である,請求項1又は2に記載の液晶表示装置。 【請求項4】 水性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が40℃以上である,請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項5】 ポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が0.2以上である,請求項1?4のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項6】 ポリエステルフィルムが3層以上からなり,その最外層以外の層に紫外線吸収剤を含有し,380nmの光線透過率が20%以下である,請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項7】 塗布層上に電子線若しくは紫外線硬化型アクリル樹脂又はシロキサン系熱硬化性樹脂からなるハードコート層が更に積層された,請求項1?6のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項8】 塗布層上に防眩層,反射防止層,低反射層,低反射防眩層,反射防止防眩層及び帯電防止層からなる群より選択される1種以上の層を有する,請求項1?7のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項9】 偏光子保護フィルムが,紫外線硬化型,電子線硬化型又は熱硬化型の接着剤を介して偏光子に積層されている,請求項1?8のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項10】 前記偏光板が液晶に対して射出光側に配される,請求項1?9のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項11】 前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が,白色発光ダイオードである,請求項1?10のいずれかに記載の液晶表示装置。」 イ 本件訂正後の特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 リタデーションが3000?30000nmであるポリエステルフィルムの少なくとも片面に,水性ポリエステル樹脂(A)と水溶性チタンキレート化合物,水溶性チタンアシレート化合物,水溶性ジルコニウムキレート化合物,及び水溶性ジルコニウムアシレート化合物から成る群より選択される1種以上(B)とを主たる構成成分とする水系塗布液から形成される塗布層が積層された偏光子保護フィルムが偏光子の少なくとも片側に前記ポリエステルフィルムの配向主軸と偏光子の吸収軸とが垂直となるように積層された偏光板,液晶セル,及び,連続的な発光スペクトルを有する白色光源を備え,前記偏光板は液晶に対して射出光側に配され,前記ポリエステルフィルムは前記偏光子よりも出射光側に配されている,液晶表示装置。 【請求項2】 前記(A)と(B)との混合比(A/B)が,質量換算で,10/90?95/5である,請求項1に記載の液晶表示装置。 【請求項3】 水性ポリエステル樹脂(A)が,スルホン酸金属塩基を含有する芳香族ジカルボン酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸成分に対し1?10モル%含有する共重合ポリエステル樹脂である,請求項1又は2に記載の液晶表示装置。 【請求項4】 水性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が40℃以上である,請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項5】 ポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が0.2以上である,請求項1?4のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項6】 ポリエステルフィルムが3層以上からなり,その最外層以外の層に紫外線吸収剤を含有し,380nmの光線透過率が20%以下である,請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項7】 塗布層上に電子線若しくは紫外線硬化型アクリル樹脂又はシロキサン系熱硬化性樹脂からなるハードコート層が更に積層された,請求項1?6のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項8】 塗布層上に防眩層,反射防止層,低反射層,低反射防眩層,反射防止防眩層及び帯電防止層からなる群より選択される1種以上の層を有する,請求項1?7のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項9】 偏光子保護フィルムが,紫外線硬化型,電子線硬化型又は熱硬化型の接着剤を介して偏光子に積層されている,請求項1?8のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項10】 (削除) 【請求項11】 前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が,白色発光ダイオードである,請求項1?9のいずれかに記載の液晶表示装置。」 (2)訂正事項 本件訂正は,次の訂正事項からなる。 ア 訂正事項1 (ア)訂正事項1-1 請求項1の「偏光子の少なくとも片側に」という記載の後に,「前記ポリエステルフィルムの配向主軸と偏光子の吸収軸とが垂直となるように」という記載を挿入する。 (イ)訂正事項1-2 請求項1の「積層された偏光板,」という記載の後に,「液晶セル,」という記載を挿入する。 (ウ)訂正事項1-3 請求項1の「白色光源を備えた」という記載を,「白色光源を備え,前記偏光板は液晶に対して射出光側に配され,前記ポリエステルフィルムは前記偏光子よりも出射光側に配されている,」という記載に訂正する。 イ 訂正事項2 請求項10を削除する。 ウ 訂正事項3 請求項11の「請求項1?10のいずれかに記載の」という記載を,「請求項1?9のいずれかに記載の」という記載に訂正する。 2 訂正の目的の適否について 訂正事項1-1は,請求項1ないし9,11に係る発明において,本件訂正前には,ポリエステルフィルムの配向主軸と偏光子の吸収軸とのなす角度が任意であったものを,「垂直」なものに限定しようとする訂正事項であり,訂正事項1-2は,請求項1ないし9,11に係る発明において,本件訂正前には,液晶セルを備えることが特定されていなかったものを,液晶セルを備えるものに限定しようとする訂正事項であり,訂正事項1-3は,請求項1ないし9,11に係る発明において,本件訂正前には,ポリエステルフィルムを有する偏光板の位置及びポリエステルフィルムの位置が任意であったものを,ポリエステルフィルムを有する偏光板が液晶に対して射出光側に配され,ポリエステルフィルムが偏光子よりも出射光側に配されているものに限定しようとする訂正事項であるから,訂正事項1は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また,訂正事項2及び3は,請求項10を削除するとともに,当該請求項10の削除に伴って,請求項11が引用する請求項から請求項10を削除する訂正事項であるから,同号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 3 新規事項の追加の有無について 訂正事項1-1による限定事項は,本件特許明細書の【0088】に記載された事項であり,訂正事項1-2による限定事項は,同明細書の【0011】に記載された事項であり,訂正事項1-3による限定事項は,同明細書の【0021】及び【0088】や本件特許の(本件訂正前の)特許請求の範囲の請求項10に記載された事項であるから,訂正事項1は,願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(特許された時点での明細書,特許請求の範囲又は図面)に記載した事項の範囲内においてするものである。 また,訂正事項2及び3が,願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかである。 したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。 4 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について 訂正事項1ないし3が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。 5 小括 前記2ないし4のとおりであって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件特許の請求項1ないし9,11に係る発明 前記第2 5で述べたとおり,本件訂正は適法になされたものであるから,本件特許の請求項1ないし9,11に係る発明(以下,それぞれを「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明9」,「本件訂正発明11」という。)は,それぞれ,前記第2 1(1)イにおいて,本件訂正後の特許請求の範囲の記載として示した請求項1ないし9,11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。 2 平成30年4月13日付けで通知された取消理由の概要 本件訂正前の請求項1ないし11に係る特許に対して平成30年4月13日付けで通知された取消理由(以下,「本件取消理由」という。)は,概略次のとおりである。 本件特許の請求項1ないし5及び7ないし11に係る発明は,いずれも,甲1の記載から把握される発明,甲2に記載された事項,及び甲5ないし甲8等の記載から把握される周知技術に基づいて(少なくとも,甲1の記載から把握される発明,甲2に記載された事項,及び甲5ないし甲8のいずれかに記載された事項に基づいて),当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許の請求項6に係る発明は,甲1の記載から把握される発明,甲2に記載された事項,甲5ないし甲8等の記載から把握される周知技術,及び甲4,甲7,甲8等の記載から把握される周知技術に基づいて(少なくとも,甲1の記載から把握される発明,甲2に記載された事項,及び甲7又は甲8に記載された事項に基づいて),当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許はいずれも特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 甲1:特開2011-59488号公報 甲2:特開2011-107198号公報 甲4:特開2010-243630号公報 甲5:特開2005-97571号公報 甲6:特開2006-205579号公報 甲7:特開2006-205668号公報 甲8:特開2006-215107号公報 3 引用例 (1)甲1 ア 甲1の記載 甲1(特開2011-59488号公報)は,本件特許の最先の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲1発明」の認定に特に関連する箇所を示す。) (ア) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,偏光板およびそれを用いた液晶表示装置に関する。 【背景技術】 ・・・(中略)・・・ 【0003】 一方で,液晶表示装置のさらなる薄型軽量化を望む強い市場要求を受けて,液晶表示装置を構成する液晶パネル,拡散板,バックライトユニット,および駆動IC等の薄型化や小型化が進められている。このような状況下,液晶パネルを構成する部材である偏光板も10μmの単位で薄型化することが求められている。 【0004】 同時に,液晶表示装置の普及に伴って,市場からのコストダウン要求も日増しに強くなっており,偏光板においてもさらなるコストダウンや生産性の向上が必須となっている。 ・・・(中略)・・・ 【0007】 上記要求を満足できる技術として,ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする手法が提案されている。ポリエチレンテレフタレートは機械的強度に優れることから,薄膜化に適しており,偏光板の薄型化を実現できる。さらに,トリアセチルセルロースや環状オレフィン系樹脂と比較して,一般的にコストの面からも優位性を有する。加えて,トリアセチルセルロースと比較して,低透湿性で低吸水性といった特徴を有することから,耐湿熱性や耐冷熱衝撃性にも優れ,環境変化に対して高い耐久性を持つことも期待できる。 【0008】 しかしながら,一方で,ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとした偏光板を液晶表示装置に搭載した場合,トリアセチルセルロースフィルムを保護フィルムとする一般的な偏光板に比べて,その高いレタデーション値に由来する斜め方向からの色ムラ(干渉ムラ,虹ムラとも言う)が目立ち,視認性に劣るという問題を有している。・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 そこで,本発明の目的は,ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板であって,液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ,かつ薄型化を実現し,コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板を提供することにある。また,本発明のもう一つの目的は,前記の偏光板を用いた視認性に優れる液晶表示装置を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明者らは,上記色ムラ問題を解決するべく,鋭意研究を行なってきた。その結果,ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板において,面内の遅相軸方向の屈折率をn_(x),面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をn_(y),厚み方向の屈折率をn_(z)としたときに,(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y))で表されるNz係数が2.0未満の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとして用いることで,液晶表示装置の色ムラを効果的に低減でき,高い視認性と薄型化,低コスト化との両立が実現できることを見出した。 【0012】 すなわち,本発明によれば,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,該偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと,を備え,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の遅相軸方向の屈折率をn_(x),面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をn_(y),厚み方向の屈折率をn_(z)としたときに,(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y))で表されるNz係数が2.0未満であることを特徴とする偏光板が提供される。 【0013】 本発明の偏光板において,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,面内の位相差値が200?1200nmもしくは2000?7000nmの値であることが好ましい。 【0014】 上記第一の接着剤層は,脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層からなることが好ましい。 【0015】 本発明の偏光板は,偏光フィルムにおける延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されている面とは反対側の面に,第二の接着剤層を介して積層された保護フィルムまたは光学補償フィルムを備えることができる。 ・・・(中略)・・・ 【0017】 上記第二の接着剤層は,第一の接着剤層を形成する活性エネルギー硬化性組成物と同一の組成物の硬化物層からなることが好ましい。 【0018】 上記のように保護フィルムまたは光学補償フィルムを積層する場合,本発明の偏光板は,当該保護フィルムまたは光学補償フィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に積層された粘着剤層を備えることができる。 【0019】 本発明の偏光板は,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に積層された,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1層を備えることが好ましい。 【0020】 また,本発明によれば,上記粘着剤層が設けられた偏光板が,その粘着剤層を介して液晶セルに貼合された液晶パネルを備える液晶表示装置が提供される。 【発明の効果】 【0021】 本発明によれば,Nz係数が2.0未満の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとして用いることで,液晶表示装置の表示時における色ムラが少なく優れた視認性を示し,かつ薄型化を実現し,コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板を提供することができる。また,本発明によれば,前記の偏光板を用いた視認性に優れる液晶表示装置を提供することができる。」 (イ) 「【発明を実施するための形態】 【0022】 <偏光板> 本発明の偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,該偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと,を備えるものである。また,本発明の偏光板は,偏光フィルムにおける延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されている面とは反対側の面に,第二の接着剤層を介して積層された保護フィルムまたは光学補償フィルムを備えていてもよい。以下,本発明の偏光板について具体的に説明する。 【0023】 (偏光フィルム) 本発明に用いる偏光フィルムは,通常,公知の方法によってポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより,二色性色素を吸着させる工程,二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程,およびホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造されるものである。 ・・・(中略)・・・ 【0038】 (延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム) 本発明に用いる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとは,一種以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を溶融押出によって製膜し,横延伸してなる一層以上の一軸延伸フィルム,または,製膜後引き続いて縦延伸し,次いで横延伸してなる一層以上の二軸延伸フィルムである。ポリエチレンテレフタレートは,延伸により屈折率の異方性および,それらで規定される位相差値,Nz値,光軸を任意に制御することができ,本発明においては,必要な光学性能を効率よく付与できることから一軸延伸品が好ましく用いられる。 ・・・(中略)・・・ 【0072】 本発明の偏光板においては,かかる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとして,Nz係数が2.0未満であるものを用いる。このため,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,一軸延伸にて作製することが好ましい。このような光学性能の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを採用することで,かかる偏光板を搭載した液晶表示装置における色ムラを効果的に低減することが可能となる。Nz係数は,2.0未満であれば小さいほど色ムラ低減の効果を発揮し,好ましくは1.5以下,より好ましくは1.0以下である。Nz係数が2.0以上の場合は,かかる偏光板を搭載した液晶表示装置において強い色ムラが発生し,視認性に劣るものとなる。Nz係数が2.0以上4未満である場合,色ムラ低減効果を得ることができない。なお,Nz係数が4以上である場合であっても色ムラ低減効果を得ることができ,この場合,Nz係数の値が高いほど,色ムラ低減に有利である。 【0073】 また,本発明の偏光板における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,膜厚をdとしたときに,(n_(x)-n_(y))×dで定義される面内位相差値R_(0)が200?1200nmもしくは2000?7000nmのものが好適に採用できる。R_(0)がかかる範囲外,すなわちR_(0)が1200を超え,2000nm未満の範囲にある場合は,比較的目立つ色ムラが発生する傾向にある。したがって,より効果的に色ムラを低減する観点から,面内位相差値R_(0)は,1200nm以下もしくは2000nm以上であることが好ましい。また,R_(0)が200nm未満と小さい場合は,安定的にNz係数を2.0未満に制御することが困難であり,生産性やコストの面に問題を有する。一方で,R_(0)が7000nmを超える場合は,Nz係数は低減させやすいものの,機械的強度に劣るフィルムとなる傾向にある。 【0074】 本発明の偏光板においては,偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸の軸ズレ角度は目的や生産上の制約等に応じて任意に選択することができる。たとえば,本発明の偏光板を,偏光性の強いバックライト光源を備える液晶表示装置のバックライト光源側(入射側)偏光板として適用する場合,延伸ポリエチレンテレフタレートの面内位相差に由来する正面方向からの干渉色の発現を防ぐため,偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの軸ズレ角度は小さい方が好ましい。好ましくは,偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度は,0度以上15度以下の範囲とすることが好ましい。かかる場合においても,Nz係数を2.0未満とすることが,色ムラの低減に効果的である。 【0075】 偏光性の強いバックライト光源として,たとえば,バックライトユニット内に反射型偏光分離フィルムを備えるもの等が挙げられる。反射型偏光分離フィルムとは,バックライトの光を選択的に反射させ,再利用することで可視範囲の輝度を向上させる機能を有するフィルムである。反射型偏光分離フィルムに相当する市販品としては,米国の3M Company〔日本では住友スリーエム(株)〕から販売されている「DBEF」(商品名)などがある。 【0076】 一方で,上記以外の場合には,偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が大きいものも好ましく用いることができる。中でも,20度以上50度以下のズレ角度であるものがより好ましい。偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの軸ズレ角度を上記の範囲とすることで,より効果的に液晶表示装置の色ムラを低減することができる。 ・・・(中略)・・・ 【0081】 (機能層) 本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには,そのフィルムが偏光板の視認側に用いられる場合,偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を設けることが好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0084】 さらに,本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには,本発明の効果を妨げない限り,上記以外にも様々な機能層を片面または両面に積層することができる。積層される上記以外の機能層としては,たとえば,導電層,平滑化層,易滑化層,ブロッキング防止層,および易接着層等が挙げられる。中でも,この延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,偏光フィルムと接着剤層を介して積層されることから易接着層が積層されていることが好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0087】 (第一の接着剤層) 本発明の偏光板において,偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとは,通常,透明で光学的に等方性の接着剤を介して貼着される。これらの接着には,それぞれのフィルムに対する接着性を考慮して任意のものを用いることができる。たとえば,ポリビニルアルコール系接着剤,アクリル系接着剤,ウレタン系接着剤,エポキシ系接着剤などが挙げられるが,本発明においては,脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を採用することが好ましく,脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性組成物を採用することがより好ましい。かかる接着剤を採用することにより,過酷な環境下における偏光板の耐久性を向上させることが可能になるとともに,無溶剤のものを用いた場合には,接着剤を乾燥させる工程が不要になるため,生産性を向上させることができる。脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を接着剤として用いる場合,偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとを当該接着剤を介して積層させた後,活性エネルギー線を照射して当該接着剤を硬化させることにより,当該活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層からなる第一の接着剤層が形成される。 ・・・(中略)・・・ 【0147】 (保護フィルム,光学補償フィルム) 本発明の偏光板は,偏光フィルムの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されている面と反対側の面に,第二の接着剤層を介して積層された保護フィルムまたは光学補償フィルムを備えていてもよい。 【0148】 保護フィルムまたは光学補償フィルムは,光学フィルムとしての光学特性を有するものを目的に合わせて適宜使用することができ,特に限定されるものではないが,保護フィルムとしては,たとえば,トリアセチルセルロース(TAC)等からなるセルロース系樹脂フィルム,オレフィン系樹脂フィルム,アクリル系樹脂フィルム,ポリカーボネート系樹脂フィルム,およびポリエステル系樹脂フィルム等の透明樹脂フィルムから構成されるものを用いることができる。 ・・・(中略)・・・ 【0187】 (第二の接着剤層) 本発明の偏光板において,偏光フィルムと上記した保護フィルムまたは光学補償フィルムは,通常,透明で光学的に等方性の第二の接着剤を介して貼着される。これらの接着には,それぞれのフィルムに対する接着性を考慮して任意のものを用いることができる。たとえば,ポリビニルアルコール系接着剤,アクリル系接着剤,ウレタン系接着剤,エポキシ系接着剤などが挙げられるが,本発明においては,第一の接着剤層を形成する接着剤と同様に,脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を採用することが好ましく,脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性組成物を採用することがより好ましい。・・・(中略)・・・ 【0204】 (粘着剤層) 本発明の偏光板は,保護フィルムまたは光学補償フィルムの外側(保護フィルムまたは光学補償フィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面)に粘着剤層を有することができる。このような粘着剤層は,液晶セルとの貼合に用いることができる。 ・・・(中略)・・・ 【0217】 <液晶表示装置> 以上のようにしてなる偏光板,すなわち,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム/第一の接着剤層/偏光フィルム/第二の接着剤層/[保護フィルムまたは光学補償フィルム]/粘着剤層/剥離フィルムとの層構造を有する偏光板は,粘着剤層から剥離フィルムを剥離して,液晶セルの片面または両面に貼合し,液晶パネルとすることができる。この液晶パネルは,液晶表示装置に適用することができる。 【0218】 本発明の偏光板は,たとえば,液晶表示装置において,光出射側(視認側)に配置される偏光板として用いることができる。光出射側とは,液晶セルを基準に,液晶表示装置のバックライト側とは反対側を指す。光出射側の偏光板として本発明の偏光板が採用される場合,当該偏光板は,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を備えることが好ましい。また,液晶表示装置の光入射側(バックライト側)に配置される偏光板は,本発明の偏光板であってもよいし,従来公知の偏光板であってもよい。 【0219】 本発明の偏光板は,また,液晶表示装置において,光入射側に配置される偏光板として用いることもできる。この場合,液晶表示装置の光出射側に配置される偏光板は,本発明の偏光板であってもよいし,従来公知の偏光板であってもよい。 ・・・(中略)・・・ 【0222】 液晶表示装置を構成するバックライトも,一般の液晶表示装置に広く使用されているものでよい。たとえば,拡散板とその背後に配置された光源で構成され,光源からの光を拡散板で均一に拡散させたうえで前面側に出射するように構成されている直下型のバックライトや,導光板とその側方に配置された光源で構成され,光源からの光を一旦導光板の中に取り込んだうえで,その光を前面側に均一に出射するように構成されているサイドライト型のバックライトなどを挙げることができる。バックライトにおける光源としては,蛍光管を使って白色光を発光する冷陰極蛍光ランプや,発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)などを採用することができる。」 (ウ) 「【実施例】 【0223】 以下,実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが,本発明はこれらの例によって限定されるものではない。 【0224】 以下の例において,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みは,メーカー呼称値で示した。面内位相差値R_(0)およびNz係数は,位相差フィルム・光学材料検査装置RETS(大塚電子株式会社製)にて測定した。また,環状オレフィン系樹脂からなる光学補償フィルムの厚み,面内位相差値R_(0)および厚み方向位相差値R_(th)はメーカー呼称値で示した。環状オレフィン系樹脂からなる光学補償フィルムのR_(0)およびR_(th)は位相差フィルム・光学材料検査装置RETS(大塚電子株式会社製)を用いて実測もしているが,ほぼ同様の値が得られている。 【0225】 <実施例1> (a)偏光フィルムの作製 平均重合度約2400,ケン化度99.9モル%以上で厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを,30℃の純水に浸漬した後,ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後,ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き8℃の純水で洗浄した後,65℃で乾燥して,ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は,主に,ヨウ素染色およびホウ酸処理の工程で行ない,トータル延伸倍率は5.3倍であった。 【0226】 (b)粘着剤付き偏光板の作製 厚み38μmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(Nz係数:1.0,R0:2160nm)の貼合面に,コロナ処理を施した後,脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性接着剤組成物を,チャンバードクターを備える塗工装置によって厚さ2μmで塗工した。また,厚み73μmの環状オレフィン系樹脂からなる光学補償フィルム(面内位相差値R_(0):63nm,厚み方向位相差値R_(th):225nm)の貼合面に,コロナ処理を施した後,上記と同じ接着剤組成物を同様の装置にて厚さ2μmで塗工した。 【0227】 次いで,直ちに上記(a)にて得られた偏光フィルムの片面に上記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを,もう一方の面に上記光学補償フィルムを,各々接着剤組成物の塗工面を介して貼合ロールによって貼合した。この際,偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレは0度とした。その後,この積層物の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム側から,メタルハライドランプを320?400nmの波長における積算光量が600mJ/cm^(2)となるように照射し,両面の接着剤を硬化させた。さらに,得られた偏光板の光学補償フィルムの外面に,厚み25μmのアクリル系粘着剤の層(セパレートフィルム付き)を設けた。 【0228】 (c)液晶表示装置の作製 ソニー(株)製の垂直配向モードの液晶表示装置“BRAVIA”(対角寸法40インチ=約102cm)の液晶パネルから光出射側偏光板を剥がし,その代わりに,市販の偏光板(スミカランSRW842E-GL5,住友化学(株)製)を,オリジナルの偏光板と同じ軸方向で,その粘着剤層側にて貼り付けた。また,光入射側偏光板も剥がし,その代わりに,上記(b)で作製した粘着剤層付き偏光板からセパレートフィルムを剥がしたものを,オリジナルの偏光板と同じ軸方向で,その粘着剤層を用いて貼り付けた。得られた液晶表示装置について,目視にて観察したところ,斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は小さく,視認性は良好であった。 ・・・(中略)・・・ 【0230】 <実施例3> Nz係数が1.8,面内位相差値R_(0)が3950nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い,偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう接着貼合したこと以外は実施例1の(b)同様にして偏光板を作製し,さらに,実施例1の(c)と同様にして,液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について,目視にて観察したところ,斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は比較的小さく,視認性は比較的良好であった。 ・・・(中略)・・・ 【0234】 各例につき,偏光板における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの光学特性と試験結果を表1にまとめた。 【0235】 【表1】 【0236】 表1に示されるように,偏光板における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのNz係数が2.0未満である実施例1?5については,偏光板を搭載した液晶表示装置における色ムラが少なく,視認性に優れる効果が認められた。一方で,Nz係数が2.0以上である比較例1については,色ムラが強く,視認性に劣るものであった。」 イ 甲1に記載された発明 前記ア(ア)ないし(ウ)を含む甲1の全記載から,機能層が設けられた延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを有する偏光板を,液晶セルの光出射側に備える液晶表示装置に係る発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。 「偏光板を粘着剤層により液晶セルの両面に貼合してなる液晶パネルと,光源として発光ダイオードを採用したバックライトとを有する液晶表示装置であって, 前記偏光板のうち光出射側に配置される偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,当該偏光フィルムの片面に第一の接着剤層を介して積層された保護フィルムとしての延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと,前記偏光フィルムの反対側の面に第二の接着剤層を介して積層された保護フィルムまたは光学補償フィルムと,前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に設けられた機能層とを備え,前記保護フィルムまたは光学補償フィルム側を前記粘着剤層により前記液晶セルに貼合したものであり, 前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,一種以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を溶融押出によって製膜し,横延伸してなる一軸延伸フィルムであって,面内の遅相軸方向の屈折率をn_(x),面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をn_(y),厚み方向の屈折率をn_(z),膜厚をdとしたときに,(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y))で表されるNz係数が2.0未満で,(n_(x)-n_(y))×dで定義される面内位相差値R_(0)が200?1200nmもしくは2000?7000nmであり, 前記偏光フィルムの透過軸に対する前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度は,20度以上50度以下に設定され, 前記第一及び第二の接着剤層は,脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層からなり, 前記機能層は,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層である, 液晶表示装置。」(以下,「甲1発明」という。) (2)甲2 ア 甲2の記載 甲2(特開2011-107198号公報)は,本件優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲2には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲2記載技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) (ア) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時,その観察角度によらず良好な視認性を確保することができる液晶表示装置の視認性改善方法,及びそれを用いた液晶表示装置に関する。 【背景技術】 【0002】 近年,液晶表示装置(LCD)の用途が拡大しており,屋外で用いられる各種の表示物にもLCDが利用されている。例えば,車,船,飛行機などの計器盤,車載カーナビゲーション,デジタルカメラ,携帯電話やパソコンなどのモバイル機器,あるいはビル,スーパーなどで用いられるデジタルサイネージなどに利用が広がっている。 【0003】 ・・・(中略)・・・バックライト光源としては冷陰極管や熱陰極管などの蛍光管を用いることが一般的である。冷陰極管や熱陰極管などの蛍光灯の分光分布は複数のピークを有する発光スペクトルを示し,これら不連続な発光スペクトルがあわさって白色系の光源が得られる。一方,省エネルギー化の点から消費電力の小さい発光ダイオードを利用することが検討されている。特に,白色発光ダイオード(白色LED)は,蛍光管に比べ連続的で幅広い発光スペクトルを有しており発光効率に優れる。 【0004】 ところで,日差しの強い屋外等の環境では,その眩しさを解消するために,偏光特性を有するサングラスを掛けた状態でLCDを視認する場合がある。この場合,観察者はLCDから射出した直線偏光を有する光を,偏光板を通して視認することとなるため,LCDに内装される偏光板の吸収軸と,サングラスなどの偏光板の吸収軸とがなす角度によっては画面が見えなくなってしまう。 【0005】 上記問題を解決するため,例えば,特許文献1では,LCD表面に位相差(4分の1波長)板を斜めに積層して直線偏光を円偏光に変換して偏光解消する方法が提案されている。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 しかしながら,位相差(4分の1波長)板といえども,ある特定の波長領域の光に対してのみ4分の1波長を達成するに過ぎず,広い可視光領域に渡って均一に4分の1波長を達成する材料は得られていない。そのため特許文献1の方法では,十分な視認性改善効果は得られない。 ・・・(中略)・・・ 【0010】 本発明は,かかる課題を解決すべくなされたものであり,その目的は,サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時,その観察角度によらず高度に良好な視認性を確保することができる液晶表示装置を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明者らは,かかる目的を達成するために鋭意検討した結果,特定のバックライト光源と特定のリタデーションを有する高分子フィルムとを組み合せて用いることにより,上記問題を解決できることを見出し,本発明の完成に至った。 【0012】 即ち,本発明は,以下の(i)?(vi)に係る発明である。 (i)バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,バックライト光源として白色発光ダイオードを用いるとともに,前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0013】 本発明の方法では,連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオード光源において効率よく直線偏光を解消し,光源に近似したスペクトルが得られるため,サングラスなどの偏光板を通して液晶表示画面を観察する際でも,その観察角度によらず良好な視認性を確保できる。」 (イ) 「【図面の簡単な説明】 【0014】 ・・・(中略)・・・ 【図3】白色LED光源の発光スペクトルと,Re=8000nmにおいて直交ニコルを透過した光のスペクトルを計算したものである。」 (ウ) 「【発明を実施するための形態】 【0015】 ・・・(中略)・・・ 【0017】 本発明では,液晶表示装置(LCD)のバックライト光源として白色発光ダイオード(白色LED)を用いることが必要である。白色LEDとは,蛍光体方式,すなわち化合物半導体を使用した青色光,もしくは紫外光を発する発光ダイオードと蛍光体を組み合わせることにより白色を発する素子のことである。・・・(中略)・・・ 【0020】 本発明では,前記偏光板の視認側に特定範囲のリタデーションを有する高分子フィルムを配することを特徴とする。本発明者は複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目し,本発明の着想を得たものである。すなわち,光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似形となることで視認性が顕著に改善することを見出し,本発明に至ったものである。具体的に,本発明の構成により視認性が改善するという効果は以下の技術思想による。 【0021】 直交する2つの偏光板の間に複屈折性を有する高分子フィルムを配した場合,偏光板から出射した直線偏光が高分子フィルムを通過する際に乱れが生じ,光が透過する。透過した光は高分子フィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。本発明では,連続的な発光スペクトルを有する白色LEDを光源とする。このため,高分子フィルムによっても達成可能な特定のリタデーション範囲に制御することにより,干渉色を示す透過光のスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。本発明はこれにより視認性の向上を図るに至ったものである。(図3参照) 【0022】 上記効果を奏するために,本発明に用いられる高分子フィルムは,3000?30000nmのリタデーションを有していなければならない。リタデーションが3000nm未満では,サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時,強い干渉色を呈するため,包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し,良好な視認性を確保することができない。・・・(中略)・・・ 【0023】 一方,リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有する高分子フィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか,フィルムの厚みも相当に厚くなり,工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。 ・・・(中略)・・・ 【0027】 高分子フィルムを配する際は,偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるようにすることが望ましい。これによりサングラスなどの偏光板がどのような角度であっても高い透過光を得ることができる。なお,上記角度は厳密に45度である必要はなく,本発明の効果を損なわない範囲であれば,必要に応じて適宜調節しても良い。前記角度の好ましい範囲は30?60度,より好ましくは40?50度である。」 (エ) 「【図3】 」 イ 甲2の記載から把握される技術事項 前記ア(ア)ないし(エ)を含む甲2の全記載から,次の技術事項が記載されていると認められる。 「偏光特性を有するサングラスを掛けた状態で液晶表示装置を視認する場合に,液晶表示装置に内装される偏光板の吸収軸と,サングラスの偏光板の吸収軸とがなす角度によっては画面が見えなくなってしまうという問題を解決するために, 従来提案されていた,液晶表示装置表面に4分の1波長板を斜めに積層して直線偏光を円偏光に変換して偏光解消する方法では,4分の1波長板が,ある特定の波長領域の光に対してのみ4分の1波長を達成するに過ぎず,広い可視光領域に渡って均一に4分の1波長を達成することができないため,十分な視認性改善効果が得られないが, 液晶表示装置において,バックライト光源として連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを用いるとともに,液晶セルの視認側に配した偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いるという方法によって, 高分子フィルムを透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状が,バックライト光源の発光スペクトルに近似したものとなり,高分子フィルムのリタデーションに特有の干渉色を抑制することができ,偏光特性を有するサングラスを通して液晶表示画面を観察する際でも,その観察角度によらず良好な視認性を確保できること。」(以下,「甲2記載技術」という。) (3)周知の技術事項 ア 甲5の記載 甲5(特開2005-97571号公報)は,本件優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲5には次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) 「【背景技術】 【0002】 タッチパネル,コンピューター,テレビ,液晶表示装置等のディスプレイ,装飾材等の前面には,透明プラスチックフィルムからなる基材に,電子線,紫外線または熱硬化系の樹脂からなるハードコート層を積層させたハードコートフィルムが使用されている。また,基材の透明プラスチックフィルムとしては,透明な二軸配向ポリエステルフィルムが一般的に用いられ,基材のポリエステルフィルムとハードコート層との密着性を向上させるために,これらの中間層として易接着層を設けられる場合が多い。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明の目的は,蛍光灯下での虹彩状色彩を抑制し,かつ,ハードコート層との密着性,高温高湿下での密着性(耐湿熱性)に優れる光学用易接着性ポリエステルフィルム及び該フィルムに特定のハードコート層を積層してなる光学用積層ポリエステルフィルムを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 ・・・(中略)・・・ 【0012】 すなわち,本発明は,二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に,水性ポリエステル樹脂(A)と,水溶性のチタンキレート化合物,水溶性のチタンアシレート化合物,水溶性のジルコニウムキレート化合物,または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)とを主たる構成成分とし,(A)/(B)の混合比(質量比)が10/90?95/5である樹脂組成物を含む水系塗布液を塗布,乾燥した後,少なくとも一方向に延伸された塗布層を積層してなることを特徴とする光学用易接着性ポリエステルフィルムである。・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0013】 本発明の光学用易接着ポリエステルフィルムは,該フィルムの易接着層にハードコート層を積層した際に,外光の写り込み,ぎらつき,虹彩状色彩等を抑制する反射防止性に優れ,かつハードコート層との密着性及び高温高湿下での密着性(耐湿熱性)に優れる。」 イ 甲6の記載 甲6(特開2006-205579号公報)は,本件優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲6には次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) 「【背景技術】 【0002】 タッチパネル,コンピューター,テレビ,液晶表示装置等のディスプレイ,装飾材等の前面には,透明プラスチックフィルムからなる基材に,電子線,紫外線または熱硬化系の樹脂からなるハードコート層を積層させたハードコートフィルムが使用されている。また,基材の透明プラスチックフィルムとしては,透明な二軸配向ポリエステルフィルムが一般的に用いられ,基材のポリエステルフィルムとハードコート層との密着性を向上させるために,これらの中間層として易接着層を設けられる場合が多い。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明の目的は,蛍光灯下での虹彩状色彩を抑制し,かつ,ハードコート層との密着性,高温高湿下での密着性(耐湿熱性)に優れ,易接着層が高温高湿下に暴露されても密着性の低下が少ない光学用易接着性ポリエステルフィルム及び該フィルムに特定のハードコート層を積層してなる光学用積層ポリエステルフィルムを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 ・・・(中略)・・・ 【0013】 すなわち,本発明は,二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に,水性ポリエステル樹脂(A)と,水溶性のチタンキレート化合物,水溶性のチタンアシレート化合物,水溶性のジルコニウムキレート化合物,または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)とを主たる構成成分とし,(A)/(B)の質量比が10/90?95/5である樹脂組成物に,該樹脂組成物に対しフッ素系界面活性剤0.1?4.0質量%を含有させ,塗布,乾燥した後,少なくとも一方向に延伸された塗布層を積層してなることを特徴とする光学用易接着性ポリエステルフィルムである。・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0014】 本発明の光学用易接着ポリエステルフィルムは,該フィルムの易接着層にハードコート層を積層した際に,外光の写り込み,ぎらつき,虹彩状色彩等を抑制する反射防止性に優れ,かつハードコート層との密着性及び高温高湿下での密着性(耐湿熱性)および易接着層が高温高湿下に暴露されても密着性の維持性に優れる。」 ウ 甲7の記載 甲7(特開2006-205668号公報)は,本件優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲7には次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) 「【背景技術】 【0002】 表示板,ディスプレイ,電光掲示板は,外光や照明光がその表面で反射して,光源や,周囲の明るい風景が写りこみ,視認性が低下するため,それらの表面に反射防止層を有する反射防止フィルムが一般に使用されている。・・・(中略)・・・ 【0006】 前記の反射防止フィルムは,表面の傷付き防止のために,透明基材フィルムの表面にハードコート層を設け,該ハードコート層表面に反射防止層を設けることが一般に行われている。・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0013】 本発明の目的は,前記の従来技術の問題点を解決するためになされたもので,光反射防止性に優れ,蛍光灯下での虹彩状色彩を抑制し,かつハードコート層との密着性,高温高湿下での密着性(耐湿熱性)に優れ,さらに経済性に優れた反射防止フィルムを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0014】 前記の課題を解決することができる本発明の反射防止フィルムとは,塗布層を有する基材フィルムと,該基材フィルムの塗布層の表面にハードコート層と反射防止層がこの順に積層されてなる反射防止フィルムであって,前記の基材フィルムが,水性ポリエステル樹脂(A)と,水溶性のチタンキレート化合物,水溶性のチタンアシレート化合物,水溶性のジルコニウムキレート化合物,または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)とを主たる構成成分とし,(A)/(B)の混合比(質量比)が10/90?95/5である水系塗布液を塗布,乾燥した後,少なくとも一方向に延伸された塗布層を有する二軸延伸ポリエステルフィルムであり,前記の反射防止層表面の波長550nmにおける反射率が2.0%以下であることを特徴とする。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0017】 本発明の反射防止フィルムは,光反射防止性に優れ,蛍光灯下での虹彩状色彩を抑制し,かつハードコート層との密着性,高温高湿下での密着性(耐湿熱性)に優れ,さらに経済性に優れているので,タッチパネル,コンピューター,テレビ,液晶表示装置等のディスプレイ等の光学用機器に使用する部材や装飾材等として有用である。」 エ 甲8の記載 甲8(特開2006-215107号公報)は,本件優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲8には次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) 「【背景技術】 【0002】 タッチパネル,コンピューター,テレビ,液晶表示装置等のディスプレイ,装飾材等の前面には,透明プラスチックフィルムからなる基材に,電子線,紫外線または熱硬化系の樹脂からなるハードコート層,光拡散層,プリズム層,防眩層などの各種機能層を積層してなる光学機能性フィルムが使用されている。また,基材の透明プラスチックフィルムとしては,透明な二軸配向ポリエステルフィルムが一般的に用いられ,基材のポリエステルフィルムと各種機能層との初期密着性を向上させるために,これらの中間層として易接着層を設けられる場合が多い。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明の目的は,ハードコート層などの光学機能層を積層する際の蛍光灯下での虹彩状色彩を抑制し,かつ,各種光学機能層との初期密着性,高温高湿下での密着性(耐湿熱密着性)や耐光性に優れる,光学機能性フィルムの基材となる光学用易接着性ポリエステルフィルムを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 ・・・(中略)・・・ 【0013】 すなわち,本発明は,紫外線吸収剤を含有し,かつ波長380nmでの光線透過率が30%以下である二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に易接着層を積層してなる光学用易接着性ポリエステルフィルムであって,前記易接着層は,水性ポリエステル樹脂(A)と,水溶性のチタンキレート化合物,水溶性のチタンアシレート化合物,水溶性のジルコニウムキレート化合物,または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)とを主たる構成成分とし,(A)/(B)の混合比(質量比)が10/90?95/5である水系塗布液を塗布,乾燥した後,少なくとも一方向に延伸されて形成されてなる塗布層であることを特徴とする光学用易接着性ポリエステルフィルムである。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0016】 本発明の光学用易接着ポリエステルフィルムは,該フィルムの易接着層にハードコート層等の機能層を積層した際に,蛍光灯下での虹彩状色彩を抑制し,かつ,各種機能層との初期密着性及び高温高湿下での密着性(耐湿熱密着性)および耐光性に優れているので,タッチパネル,コンピューター,テレビ,液晶表示装置等のディスプレイ等の光学用機器の部材や装飾材等として有用である。」 オ 甲5ないし甲8の記載から把握される周知の技術事項 前記アないしエで摘記した甲5ないし甲8の記載から,次の技術事項が,本件優先日前に周知であったと認められる。 「液晶表示装置に使用される,ポリエステルフィルム上にハードコート層を積層したハードコートフィルムにおいて, 前記ポリエステルフィルムと前記ハードコート層の間に,水性ポリエステル樹脂(A)と,水溶性のチタンキレート化合物,水溶性のチタンアシレート化合物,水溶性のジルコニウムキレート化合物,または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)とを主たる構成成分とし,(A)/(B)の混合比(質量比)が10/90?95/5である樹脂組成物を含む塗布液を用いて形成した易接着層を設けることにより, 蛍光灯下での虹彩状色彩を抑制し,かつ,ハードコート層との密着性,高温高湿下での密着性に優れるものとする技術。」(以下,「周知技術」という。) 4 判断 (1)本件訂正発明1について ア 対比 (ア) 甲1発明の「保護フィルム」,「偏光フィルム」,「偏光板」,「液晶セル」及び「液晶表示装置」は,技術的にみて,本件訂正発明1の「偏光子保護フィルム」,「偏光子」,「偏光板」,「液晶セル」及び「液晶表示装置」にそれぞれ対応する。 (イ)a 「ポリエチレンテレフタレート」は「ポリエステル」に該当する樹脂であるから,甲1発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は,「ポリエステルフィルム」である。そして,「面内位相差値R_(0)」とは「リタデーション」のことにほかならない。したがって,甲1発明の「面内位相差値R_(0)」が200?1200nmもしくは2000?7000nmである「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は,本件訂正発明1の「リタデーションが3000?30000nmであるポリエステルフィルム」と,「リタデーションが所定の数値範囲内の値であるポリエステルフィルム」である点で共通する。 b また,甲1発明の「光出射側に配置される偏光板」において,「偏光フィルム」(本件訂正発明1の「偏光子」に対応する。以下,「ア 対比」欄において,「」で囲まれた甲1発明の構成に付された()中の文言は,当該甲1発明の構成に対応する本件訂正発明1の発明特定事項を指す。)の片面に積層された「保護フィルム」(偏光子保護フィルム)は,前記「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」(ポリエステルフィルム)により構成されている。 そうすると,甲1発明の「面内位相差値R_(0)」が200?1200nmもしくは2000?7000nmである「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」により構成された「保護フィルム」は,本件訂正発明1の「リタデーションが3000?30000nmであるポリエステルフィルムの少なくとも片面に,水性ポリエステル樹脂(A)と水溶性チタンキレート化合物,水溶性チタンアシレート化合物,水溶性ジルコニウムキレート化合物,及び水溶性ジルコニウムアシレート化合物から成る群より選択される1種以上(B)とを主たる構成成分とする水系塗布液から形成される塗布層が積層された偏光子保護フィルム」と,「リタデーションが所定の数値範囲内の値であるポリエステルフィルムを有する偏光子保護フィルム」である点で共通する。 c 甲1発明の「光出射側に配置される偏光板」においては,「偏光フィルム」(偏光子)の透過軸に対する「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」(ポリエステルフィルム)の遅相軸のズレ角度が,20度以上50度以下に設定されているところ,技術的にみて,「偏光フィルム」の透過軸とは「偏光フィルム」の吸収軸と直交するフィルム面内の方向を指し,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の遅相軸とは「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の配向主軸にほかならないから,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の配向主軸と「偏光フィルム」の吸収軸とがなす角度は,40度以上70度以下の範囲にある。 d 前記aないしcによれば,甲1発明の「光出射側に配置される偏光板」は,本件訂正発明1の「偏光板」と,「『リタデーションが所定の数値範囲内の値であるポリエステルフィルムを有する偏光子保護フィルム』が偏光子の少なくとも片側に積層された偏光板」である点で共通する。 (ウ) 甲1発明の「光源として発光ダイオードを採用したバックライト」は,本件訂正発明1の「連続的な発光スペクトルを有する白色光源」と,「光源」である点で共通する。 そして,甲1発明は,偏光板を粘着剤層により「液晶セル」(液晶セル)の両面に貼合してなる液晶パネルと,「光源として発光ダイオードを採用したバックライト」(白色光源)とを有する「液晶表示装置」(液晶表示装置)であり,前記偏光板のうちの一方が,前記(イ)で述べた「光出射側に配置される偏光板」(偏光板)である。 したがって,甲1発明は,本件訂正発明1と,「リタデーションが所定の数値範囲内の値であるポリエステルフィルムを有する偏光子保護フィルムが偏光子の少なくとも片側に積層された偏光板,液晶セル,及び,光源を備える液晶表示装置」である点で共通する。 (エ) 甲1発明の「光出射側に配置される偏光板」は,「偏光フィルム」(偏光子)の片面に「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」(ポリエステルフィルム)が積層され,反対側の面に保護フィルムまたは光学補償フィルムが積層され,当該保護フィルムまたは光学補償フィルム側を「液晶セル」(液晶セル)に貼合したものであるから,当該「光出射側に配置される偏光板」は「液晶セル」中の液晶に対して射出光側に配されたものであり,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は当該「光出射側に配置される偏光板」中の「偏光フィルム」よりも出射光側に配されているといえる。 したがって,甲1発明と本件訂正発明1とは,「偏光板は液晶に対して射出光側に配され,ポリエステルフィルムは偏光子よりも出射光側に配されている」点で一致する。 (オ) 前記(ア)ないし(エ)に照らせば,本件訂正発明1と甲1発明は, 「リタデーションが所定の数値範囲内の値であるポリエステルフィルムを有する偏光子保護フィルムが偏光子の少なくとも片側に積層された偏光板,液晶セル,及び,光源を備え,前記偏光板は液晶に対して射出光側に配され,前記ポリエステルフィルムは前記偏光子よりも出射光側に配されている,液晶表示装置。」 である点で一致し,次の点で相違する,又は一応相違する。 相違点1: 本件訂正発明1では,「ポリエステルフィルム」の「リタデーション」が,3000?30000nmであるのに対して, 甲1発明では,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の「面内位相差値R_(0)」は,200?1200nmもしくは2000?7000nmである点。 相違点2: 本件訂正発明1の「偏光子保護フィルム」は,「ポリエステルフィルム」の少なくとも片面に,水性ポリエステル樹脂(A)と水溶性チタンキレート化合物,水溶性チタンアシレート化合物,水溶性ジルコニウムキレート化合物,及び水溶性ジルコニウムアシレート化合物から成る群より選択される1種以上(B)とを主たる構成成分とする水系塗布液から形成される塗布層が積層されたものであるのに対して, 甲1発明の「保護フィルム」は,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」から構成されるものであって,本件訂正発明1のような「塗布層」が積層されたものではない点。 相違点3: 本件訂正発明1の「偏光板」は,「ポリエステルフィルム」の配向主軸と「偏光子」の吸収軸とが垂直となるように積層されたものであるのに対して, 甲1発明の「光出射側に配置される偏光板」は,偏光フィルムの透過軸に対する前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が,20度以上50度以下に設定されている,すなわち,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の配向主軸と「偏光フィルム」の吸収軸とがなす角度は,40度以上70度以下の範囲にある点。 相違点4: 本件訂正発明1の「白色光源」が,連続的な発光スペクトルを有する白色光源であるのに対して, 甲1発明では,「バックライト」がそのような構成のものであることは特定されていない点。 イ 判断 事案に鑑みて,まず,相違点3について判断する。 (ア) 甲1の【0074】及び【0076】には,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを備える偏光板を,偏光性の強いバックライト光源を備える液晶表示装置のバックライト光源側偏光板として適用する場合には,「正面方向からの干渉色」の発現を防ぐため,「偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの軸ズレ角度」は小さい方が好ましく,その範囲としては0度以上15度以下が好ましいこと,及びそれ以外の偏光板として適用する場合には,「偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの軸ズレ角度」を20度以上50度以下の範囲とすることが,「液晶表示装置の色ムラ」を低減することができるので,好ましいことが記載されている(前記3(1)ア(イ)を参照。)。 甲1の当該記載からは,甲1発明においては,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが,液晶セルの射出光側に配置された偏光板の出射光側に配される保護フィルムとして用いられているため,「正面方向からの干渉色」は発現しないか,発現するとしても,その程度はさしたるものではなく,表示品質上「液晶表示装置の色ムラ」のほうがより重要な問題となるので,「偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度」が20度以上50度以下に設定されているものと理解される。 したがって,当業者は,甲1発明においては,「偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度」を0度とする(すなわち,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸が偏光フィルムの吸収軸に対して垂直になるようにする)必要はなく,仮にそのように構成したとすれば,「液晶表示装置の色ムラ」を低減することできないと考えるのが自然である。 そうであれば,甲1の記載に接した当業者は,甲1発明において,「偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度」を0度に設定しようとはしないというべきである。 (イ) また,取消理由において引用された甲1,甲2,甲5ないし甲8を含め,異議申立人が提出したいずれの証拠からも,甲1発明において,「偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度」を平行に設定することが,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (ウ) 異議申立人は,平成30年7月24日提出の意見書において,甲9(小林大輔 外2名,「高複屈折性ポリマーの配向挙動解析とその応用」,高分子学会予稿集,高分子学会,2009年,58巻1号1362ページ),甲10(小林大輔 外2名,「高リタデーションポリマーフィルムの設計とその応用」,高分子学会予稿集,高分子学会,2009年,58巻2号4144ページ)の記載等から,偏光板の吸収軸と高分子フィルムの遅相軸との成す角度に関わらず,高分子フィルムのリタデーションが一定の値以上であれば,リタデーションに特有の干渉色を抑制し得ることが確認できるとした上で,甲3(特開昭60-26304号公報),甲11(特開昭59-77401号公報),甲12(特開2010-244059号公報),甲13(特開2009-300611号公報)にみられるように,偏光板の偏光子保護フィルムとして,リタデーションの高い高分子フィルムを用い,当該高分子フィルムの配向主軸を,偏光子の吸収軸に対して垂直に配向することは周知の事項であるから,甲1発明において,相違点3に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を採用することが容易想到である旨主張している。 異議申立人が挙げた周知例のうち,甲12及び甲13は,リタデーションの高い高分子フィルムを,光源側の偏光板における光源側の偏光子保護フィルムとして用いるものであり,甲3及び甲11は,リタデーションの高い高分子フィルムを,光源側及び射出光側の偏光板における両側の偏光子保護フィルム(すなわち,全ての偏光子保護フィルム)として用いるものであって,リタデーションの高い高分子フィルムを射出光側の偏光板における出射光側の偏光子保護フィルムとして用いる甲1発明とは,前提とする構成が異なるものである。仮に,このことを措くとして,異議申立人が主張するように,偏光板の吸収軸と高分子フィルムの遅相軸との成す角度に関わらず,高分子フィルムのリタデーションが一定の値以上とすることで,リタデーションに特有の干渉色を抑制できるのであれば,甲1発明において,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸が偏光フィルムの吸収軸に対して垂直になるように構成を変更しても,リタデーションに特有の干渉色の抑制という観点からは改善されるわけではなく,前記(イ)で述べた「液晶表示装置の色ムラ」という観点からは,かえって表示品質が悪化すると考えられるのだから,当業者がこのような構成の変更を行う動機付けはないというべきである。 したがって,当該異議申立人の主張は採用できない。 (エ) 以上のとおりであるから,本件訂正発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件訂正発明2ないし9,11について 本件訂正発明2ないし9,11は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て有し,これに他の限定事項を加えたものに相当するところ,本件訂正発明1が,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件訂正発明2ないし9,11も,同様の理由で,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)小括 前記(1)及び(2)のとおりであるから,本件取消理由によって,本件特許の請求項1ないし9,11に係る特許を取り消すことはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから,本件取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては,本件特許の請求項1ないし9,11に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1ないし9,11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項10に係る特許は,訂正により削除されたため,本件特許の請求項10に対して,特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 リタデーションが3000?30000nmであるポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水性ポリエステル樹脂(A)と水溶性チタンキレート化合物、水溶性チタンアシレート化合物、水溶性ジルコニウムキレート化合物、及び水溶性ジルコニウムアシレート化合物から成る群より選択される1種以上(B)とを主たる構成成分とする水系塗布液から形成される塗布層が積層された偏光子保護フィルムが偏光子の少なくとも片側に前記ポリエステルフィルムの配向主軸と偏光子の吸収軸とが垂直となるように積層された偏光板、液晶セル、及び、連続的な発光スペクトルを有する白色光源を備え、前記偏光板は液晶に対して射出光側に配され、前記ポリエステルフィルムは前記偏光子よりも出射光側に配されている、液晶表示装置。 【請求項2】 前記(A)と(B)との混合比(A/B)が、質量換算で、10/90?95/5である、請求項1に記載の液晶表示装置。 【請求項3】 水性ポリエステル樹脂(A)が、スルホン酸金属塩基を含有する芳香族ジカルボン酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸成分に対し1?10モル%含有する共重合ポリエステル樹脂である、請求項1又は2に記載の液晶表示装置。 【請求項4】 水性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が40℃以上である、請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項5】 ポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が0.2以上である、請求項1?4のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項6】 ポリエステルフィルムが3層以上からなり、その最外層以外の層に紫外線吸収剤を含有し、380nmの光線透過率が20%以下である、請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項7】 塗布層上に電子線若しくは紫外線硬化型アクリル樹脂又はシロキサン系熱硬化性樹脂からなるハードコート層が更に積層された、請求項1?6のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項8】 塗布層上に防眩層、反射防止層、低反射層、低反射防眩層、反射防止防眩層及び帯電防止層からなる群より選択される1種以上の層を有する、請求項1?7のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項9】 偏光子保護フィルムが、紫外線硬化型、電子線硬化型又は熱硬化型の接着剤を介して偏光子に積層されている、請求項1?8のいずれかに記載の液晶表示装置。 【請求項10】 (削除) 【請求項11】 前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードである、請求項1?9のいずれかに記載の液晶表示装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-08-13 |
出願番号 | 特願2012-284049(P2012-284049) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(G02B)
P 1 651・ 832- YAA (G02B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 後藤 亮治 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 清水 康司 |
登録日 | 2017-08-04 |
登録番号 | 特許第6182858号(P6182858) |
権利者 | 東洋紡株式会社 |
発明の名称 | 液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルム |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |