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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1344815
異議申立番号 異議2017-701032  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-02 
確定日 2018-08-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6125058号発明「燃料電池スタック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6125058号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7〕、〔8〕について訂正することを認める。 特許第6125058号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6125058号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年1月26日に出願されたものであって、平成29年4月14日にその特許権の設定登録がされ、同年5月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月2日に特許異議申立人 亀崎伸宏(以下、「申立人」という。)により特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が差出され、平成30年1月4日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月6日に意見書の提出及び訂正の請求があり、この訂正の請求に対して申立人から同年4月9日に意見書が差出され、同年4月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月25日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、同年6月1日付けで当審から申立人に対し訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をするとともに期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人から意見書は提出されなかったものである。
なお、本件訂正請求がされたため、平成30年3月6日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1?5のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
請求項1に「前記複数の集電部は、前記燃料電池セルに接合される第1集電部と、前記第1集電部と比べてより小さい力で前記燃料電池セルから離間する第2集電部と、
を有し、」とあるのを、「前記複数の集電部は、前記燃料電池セルの一方面側に配置され且つ前記燃料電池セルに接合される第1集電部と、前記燃料電池セルの前記一方面側に配置され且つ前記第1集電部と比べてより小さい力で前記燃料電池セルから離間する第2集電部と、
を有し、」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する。)。

(2) 訂正事項2
請求項5に「前記各第1集電部は、外周部に配置され」とあるのを、「前記各第1集電部は、前記燃料電池セルの外周部に配置され」と訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)。

(3) 訂正事項3
請求項6に「前記燃料電池セルは、長手方向と、幅方向とを有し」とあるのを、「前記燃料電池セルは、筒状平板型であって、長手方向と、幅方向とを有し」と訂正する。

(4) 訂正事項4
請求項7に「前記各第1集電部は、外周部に配置され」とあるのを、「前記各第1集電部は、前記燃料電池セルの外周部に配置され」と訂正する。

(5) 訂正事項5
請求項8に「前記燃料電池セルは、長手方向と、幅方向とを有し」とあるのを、「前記燃料電池セルは、筒状平板型であって、長手方向と、幅方向とを有し」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に記載された「第1集電部」及び「第2集電部」が、いずれも「燃料電池セルの一方面側に配置され」ることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件明細書」という。)【0032】には、「第1集電部2aは、燃料電池セル1の空気極13に接合されている。」と記載されており、同【0033】には、「これに対して、第2集電部2bは、燃料電池セル1の空気極13に接合されていない。すなわち、第2集電部2bは、第1集電部2aに比べてより小さい力で燃料電池セル1の空気極13から離間する。」と記載されているから、本件明細書には、第1集電部及び第2集電部が、いずれも燃料電池セルの空気極側、すなわち、燃料電池セルの一方面側に配置されることが記載されているといえる。
したがって、訂正事項1による訂正は、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項5に記載された「第1集電部」が燃料電池セルの外周部に配置されることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2に関連する記載として、本件明細書【0013】の「各第1集電部は、外周部に配置されていてもよい。各第2集電部は、第1集電部に囲まれるように配置される。従来、燃料電池セルの中央部は、外周部に比べて高温になりやすいため、外周部に比べて電気抵抗が下がる。この結果、燃料電池セルの中央部に電流が集中し、燃料電池の中央部がさらに高温となる可能性がある。これに対して、第1集電部よりも小さい力で燃料電池セルから離間する第2集電部を中央部に配置することで、電流集中を外周部に分散して中央部の温度が高くなることを抑制することができる。」との記載によれば、第1集電部が燃料電池セルの外周部に配置されることは本件明細書に記載されているといえるから、訂正事項2による訂正は新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項6に記載された「燃料電池セル」が筒状平板型であることを特定することによって、「長手方向と、幅方向」を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3に関連する記載として、本件明細書【0051】の「上記実施形態では、いわゆる平板型の燃料電池スタックについて説明したが、本発明は、円筒型、筒状平板縦縞型、及び筒状平板横縞型など、他のタイプの燃料電池スタックにも適用可能である。」と記載されていることから、燃料電池セルが筒状平板型であることは本件明細書に記載されているといえるから、訂正事項3による訂正は新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、実質的に訂正事項2と同じ内容であるから、前記(2)で検討したのと同様の理由により、訂正事項4による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5) 訂正事項5について
訂正事項5は、実質的に訂正事項3と同じ内容であるから、前記(3)で検討したのと同様の理由により、訂正事項5による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6) 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項2?6は、それぞれ請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1?6は、一群の請求項である。

(7) なお、本件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕、7、8について訂正を認める。

第3 訂正後の請求項1?8に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
電解質、空気極、及び燃料極を有する燃料電池セルと、
前記燃料電池セルに電気的に接続される複数の集電部と、
を備え、
前記複数の集電部は、前記燃料電池セルの一方面側に配置され且つ前記燃料電池セルに接合される第1集電部と、前記燃料電池セルの前記一方面側に配置され且つ前記第1集電部と比べてより小さい力で前記燃料電池セルから離間する第2集電部と、
を有し、
前記第2集電部は、前記燃料電池セルに非接合である、
燃料電池スタック。
【請求項2】
前記第2集電部は、前記燃料電池セルと接触する、
請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記第2集電部は、前記第1集電部に比べて、気孔率が大きい、
請求項1又は2に記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
複数の前記第2集電部を含む第2領域における第2集電部の形成密度は、少なくとも1つの前記第1集電部を含む第1領域における第1集電部の形成密度よりも低い、
請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記各第1集電部は、前記燃料電池セルの外周部に配置され、
前記各第2集電部は、前記第1集電部に囲まれるように配置される、
請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記燃料電池セルは、筒状平板型であって、長手方向と、幅方向とを有し、
前記第1及び第2集電部は、前記幅方向に沿って配置され、
前記第1集電部は、幅方向の外側に配置され、
前記第2集電部は、幅方向の内側に配置される、
請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
電解質、空気極、及び燃料極を有する燃料電池セルと、
前記燃料電池セルに電気的に接続される複数の集電部と、
を備え、
前記複数の集電部は、前記燃料電池セルに接合される第1集電部と、前記第1集電部と比べてより小さい力で前記燃料電池セルから離間する第2集電部と、
を有し、
前記各第1集電部は、前記燃料電池セルの外周部に配置され、
前記各第2集電部は、前記第1集電部に囲まれるように配置される、
燃料電池スタック。
【請求項8】
電解質、空気極、及び燃料極を有する燃料電池セルと、
前記燃料電池セルに電気的に接続される複数の集電部と、
を備え、
前記複数の集電部は、前記燃料電池セルに接合される第1集電部と、前記第1集電部と比べてより小さい力で前記燃料電池セルから離間する第2集電部と、
を有し、
前記燃料電池セルは、筒状平板型であって、長手方向と、幅方向とを有し、
前記第1及び第2集電部は、前記幅方向に沿って配置され、
前記第1集電部は、幅方向の外側に配置され、
前記第2集電部は、幅方向の内側に配置される、
燃料電池スタック。」

第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証?甲第2号証を提出し、以下の申立理由1-1?申立理由3-2により、請求項1?8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1-1) 申立理由1-1(申立書16頁16行?21頁17行)
本件発明1、2、7、8は、本件発明の課題を解決できない態様(離間態様及び非離間態様)が含まれており、本件出願時の技術常識を考慮しても、本件発明1、2、7、8の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないし、また、第2集電部が燃料電池セルに対して更に強い力で押圧するような形状に燃料電池セルが変形する場合、何ら燃料電池セルの変形に対する拘束は軽減されず、燃料電池セルに生じた熱応力を逃がすことはできず、本件の課題を解決できないから、請求項1、2、7、8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(1-2) 申立理由1-2(申立書21頁18行?23頁10行)
本件発明1、2、7、8には、第1集電部2aと第2集電部2bとの配置関係について詳しく記載されていないため、本件発明の課題を解決できない態様が含まれており、本件出願時の技術常識を考慮しても、本件発明1、2、7、8の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、請求項1、2、7、8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(1-3) 申立理由1-3(申立書23頁11行?24頁下から2行)
本件発明3は、請求項1を引用するから、「第2集電部2bは、第1集電部2aよりも容易に燃料電池セル1から離間することができ、この結果、燃料電池セル1の破損の抑制することができる」という作用・効果を奏しない態様が含まれており、本件出願時の技術常識を考慮しても、本件発明3の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、請求項3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(1-4) 申立理由1-4(申立書24頁最下行?26頁下から5行)
本件発明4は、請求項1を引用するから、「第2集電部2bは、第1集電部2aよりも容易に燃料電池セル1から離間することができ、この結果、燃料電池セル1の破損の抑制することができる」という作用・効果を奏しない態様が含まれており、本件出願時の技術常識を考慮しても、本件発明4の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、請求項4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2-1) 申立理由2-1(申立書27頁1行?28頁12行)
本件発明1の「前記第2集電部は、前記燃料電池セルに非接合である」との記載は、技術的な意味が理解できないため、本件発明1は明確でないから、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2-2) 申立理由2-2(申立書28頁13行?29頁3行)
本件発明2の「前記第2集電部は、前記燃料電池セルと接触する」との記載は明確でないため、本件発明2は明確でないから、請求項2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2-3) 申立理由2-3(申立書29頁4行?最下行)
本件発明1の「接合」と「非接合」との記載は、両者の技術的な関係が理解できないため、本件発明1は明確でないから、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2-4) 申立理由2-4(申立書30頁1?13行)
本件発明5、7の「前記各第1集電部は、外周部に配置され」との記載は明確でないため、本件発明5、7は明確でないから、請求項5、7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3-1) 申立理由3-1(申立書30頁15行?38頁8行)
本件発明1?8は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1?8に係る特許は特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものである。

(3-2) 申立理由3-2(申立書38頁9行?40頁15行)
本件発明1、2は、甲第2号証に記載された発明であるから、請求項1、2に係る特許は特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2015-204219号公報
甲第2号証:特開2015-191693号公報

第5 取消理由の概要
1 平成30年1月4日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1) 取消理由1-1
ア 取消理由1-1a
(前記申立理由1-1を採用した。また、前記申立理由1-3、1-4も実質的に採用した。)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?8に係る特許は、取り消されるべきものである。

イ 取消理由1-1b
(前記申立理由1-2を採用した。また、前記申立理由1-3、1-4も実質的に採用した。)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?8に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2) 取消理由1-2
ア 取消理由1-2a
本件特許の請求項1、3?8に係る発明は、第2集電部が、燃料電池セルと接触している態様のみを含み得るのか、この態様のみならず、第2集電部が、燃料電池セルと接触していない態様をも含み得るのか不明であるから、明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1、3?8に係る特許は、取り消されるべきものである。

イ 取消理由1-2b(前記申立理由2-2を採用した。)
本件特許の請求項2に係る発明は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2に係る特許は、取り消されるべきものである。

ウ 取消理由1-2c(前記申立理由2-4を採用した。)
本件特許の請求項5、7に係る発明は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項5、7に係る特許は、取り消されるべきものである。

エ 取消理由1-2d
本件特許の請求項6、8に係る発明は、燃料電池セルの形状が特定されていないから、「長手方向」及び「幅方向」は、どの方向を意味するのか不明であるから、明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項6、8に係る特許は、取り消されるべきものである。

2 平成30年4月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1) 取消理由2
請求項1?3に係る発明は、引用例1に記載された発明又は引用例2に記載された発明である。その理由は、申立人から平成30年4月9日に差出された意見書の13頁下から8行?17頁最下行に記載のとおりである(ただし、同意見書の「参考資料1」は「引用例1」と読み替え、「参考資料2」は「引用例2」と読み替える。また、同意見書の17頁下から6行の「本件特許発明1」は「本件特許発明1?3」と読み替える。)。
したがって、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

引用例1:特開2013-4466号公報
引用例2:特開2015-43292号公報

第6 引用例及び甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願日前に頒布された引用例1には、「平板型燃料電池装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(引1a) 「【0013】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1について図1?図5を参照して説明する。図1に示す燃料電池装置は平板型の固体酸化物形燃料電池であり、多数のセルを厚み方向に積層した平板型のセル積層体1と、セル積層体1を厚み方向つまり積層方向において挟む平板型の第1エンドプレート11および第2エンドプレート12と、セル積層体1、第1エンドプレート11および第2エンドプレート12を締結するボルトを備える締結具13とを有する。第1エンドプレート11は、燃料ガス入口14、燃料オフガス出口15と、空気であるカソードガスが供給されるカソードガス入口16、空気オフガスであるカソードオフガスが排出されるカソードオフガス出口17とをもつ。オフガスとは発電反応を経たガスを意味する。セル2は四角形をなし、X方向およびY方向の双方に延びる。
【0014】
図2はセル積層体1を構成する一つのセル構造を示す。図2に示すように、セル構造は、固体酸化物形の電解質膜21と電解質膜21をこれの厚み方向に挟むアノード22(燃料極)およびカソード23(酸化剤極)を有する平板型のセル2と、セル2をこれの厚み方向に挟む位置に設けられたセパレータ3(材質:鉄-クロム系合金等の金属)と、セパレータ3とアノード22との間に設けられた多孔質体4と、セパレータ3とカソード23との間に設けられた導電材料で形成されたインターコネクタとも呼ばれる接続導体5とを備えている。セパレータ3は、燃料ガスを分配させる流路3xをもつ。
・・・
【0016】
図2に示すように、互いに対向するセパレータ3間の周縁には、ガスケット60が介在しており、シールされている。セル構造は、厚み方向に貫通するように形成されたカソードガスマニホルド通路61と、カソードガスマニホルド通路61のカソードガスをカソード23に向けて供給させるカソードガス連通孔62と、発電反応に使用されたカソードオフガスをカソード23から排出させるカソードオフガス連通孔63と、厚み方向に貫通するように形成されたカソードオフガスマニホルド通路64とをもつ。同様に、セル構造は、図示しないものの、厚み方向に貫通するように形成された燃料ガスマニホルド通路と、燃料ガスマニホルド通路の燃料ガスをアノード22に向けて供給させる燃料ガス連通孔と、発電反応に使用された燃料オフガスであるアノードオフガスをアノード22から排出させるアノードオフガス連通孔と、厚み方向に貫通するように形成されたアノードオフガスマニホルド通路とをもつ。多孔質体4は連続的な細孔をもつ導電材料で形成されており、集電性機能と、燃料ガスをアノード22に分配させて供給させる機能を有する。
・・・
【0018】
図3は接続導体5の平面を示し、接続導体5の表面5sに対して垂直方向から透視した状態を示す。図4は図3のIV-IV線に沿った断面を示す。図3および図4に示すように、一枚の接続導体5は、互いに対向するようにX方向に延びる辺5aと、互いに対向するようにY方向に延びる辺5bとを有する。一枚の接続導体5は、板状の導板部材50と、導板部材50に保持された断面板状をなす複数の導片51からなる導片群59を備えている。
・・・
【0020】
図4および図5によれば、各導片51は、板状の接続導体5の厚み方向に延びるように第1曲成部52を介して曲成されて立起された立起部53と、立起部53の先端に第2曲成部54を介して板状の接続導体5の面方向(表面5sの面方向)とほぼ平行に延びる受けフランジ部55とを有する。図4に示すように、中心域5cの一方側(矢印A1側)においては、導片51の受けフランジ部55の先端面55eは中心域5cに向けて指向する。中心域5cの他方側(矢印A2側)においては、導片51の受けフランジ部55の先端面55eは中心域5cに向けて指向しており、中心域5cの一方側(矢印A1側)における導片51の受けフランジ部55の指向方向と反対方向に指向する。図3に示すように、接続導体5の表面5sにおける中心域5cは、接続導体5の表面5sにおけるX方向における中心域とY方向の中心域とが交差する領域である。
【0021】
図2に示すように、各導片51の先端の受けフランジ部55は、導電性接着剤56を介してカソード23の表面23sに接着されており、導片51の受けフランジ部55は導電性接着剤56を介してカソード23と電気的に導通可能とされている。導電性接着剤56としては、白金ペースト、銀パラジウム合金などが例示される。なお、導片51がセル積層方向におけるバネ性を有するときには、導片51の受けフランジ部55をカソード23の表面23sに電気的に導通可能に圧着させることにしても良い。」

(引1b) 「【0027】
なお図2から理解できるように、アノード22と多孔質体4との界面、多孔質体4とセパレータ3との界面については、接合されていないため、滑りが期待できる。よって、アノード22と多孔質体4との界面における熱膨張差を吸収できる。同様に、多孔質体4とセパレータ3との界面における熱膨張差を吸収できる。セル2の積層の締結加重により多孔質体4の厚み方向に圧縮されるため、アノード22と多孔質体4との界面における接触抵抗、多孔質体4とセパレータ3との界面における接触抵抗も抑制できる。」

(引1c) 「【図1】



(引1d) 「【図2】



2 本件特許に係る出願日前に頒布された引用例2には、「固体酸化物形燃料電池及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(引2a) 「【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示されるように、本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、単セル1を有する。単セル1は、固体電解質層2と、固体電解質層2の一方の面に形成された燃料極層3と、固体電解質層2の他方の面に形成された空気極4とを有する。尚、単セルは、非特許文献1にも記載されているように、固体酸化物形燃料電池の基本構成単位のことであり、燃料電池セルとも称される。
・・・
【0024】
インターコネクタ5は、直列に並べられた単セル1と単セル1との間に設けられる。言い換えると、固体酸化物形燃料電池では、単セル1とインターコネクタ5とが交互に積層される。インターコネクタ5は、縦断面形状において櫛形の構造を有しており、櫛形の凸部が、導電性接合剤8を介して、空気極4と接する。また、櫛形の凹部は、燃料極3に供給される燃料ガス又は、空気極4に供給される支燃性ガスの流通路として機能する。
インターコネクタ5は、電気導電性を有する金属によって形成され、通常は、ステンレス鋼によって形成される。より詳しくは、インターコネクタ5は、SUS430からなる板材を打ち抜いて形成することができる。
・・・
【0026】
インターコネクタ5のうち、燃料極3との接点には、燃料極集電体9が配される。燃料極集電体9は、通気性を有する柔軟な導電性物質であり、インターコネクタ5と燃料極3とを電気的に接続するとともに、インターコネクタ5の熱膨張等による変形を吸収し、単セル1を構成する各部材の負荷を抑える機能を有する。燃料極集電体9として、例えばニッケルを有する多孔質体を用いることができる。インターコネクタ5のうち、燃料極集電体9が設けられるのは、例えば、櫛形構造とは反対側の面における平面部である。
【0027】
導電性接合剤8は、空気極4とインターコネクタ5とを接合させる。言い換えると、導電性接合剤8は、空気極4とインターコネクタ5との間に介在して空気極4とインターコネクタ5とを電気的に接続させる。
・・・」

(引2b) 「【0036】
固体酸化物形燃料電池21は、複数個の単セル1が上下に積層された固体酸化物形燃料電池スタック22を有し、ボルト23?30によって一体化される。・・・」

(引2c) 「【図1】



(引2d) 「【図3】



3 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第1号証には、「燃料電池及び燃料電池スタック」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(甲1a) 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
・・・発電時の発熱によって単セルを構成する金属部材やセラミック部材などが膨張し、それら部材の熱膨張差によって部材が反ってしまうことが考えられる。これら部材の反りによって、下記2点の課題(1),(2)が生じる。(1)集電体と単セルとの密着力が強いと電極内部で剥離が起こり、当該剥離部分は電極としての機能を失うため、発電特性が低下する。(2)単セルには常に集電体接触部による外力が作用しているため、反ろうとする単セルに残留応力が発生し、単セルに割れが生じやすくなり、発電機能を失う恐れがある。」

(甲1b) 「【0029】
図2に示されるように、燃料電池スタック12を構成する単セル11は、空気極21、燃料極22及び固体電解質層23を有する平板状部材として構成され、発電反応により電力を発生する。また、燃料電池スタック12には、単セル11に加えて、インタコネクタ24、セパレータ25、空気極側集電体27及び燃料極側集電体28等が設けられ、それらが複数個ずつ積層されている。
【0030】
より詳しくは、インタコネクタ24は、ステンレスなどの導電性材料によって形成されており、単セル11の厚み方向の両側に一対配置される。各インタコネクタ24により板厚方向での単セル11間の導通が確保される。・・・」

(甲1c) 「【0035】
空気極21は、空気極側集電体27によってインタコネクタ24に電気的に接続され、燃料極22は、燃料極側集電体28によってインタコネクタ24に電気的に接続されている。本実施の形態において、空気極側集電体27は、インタコネクタ24と一体的に形成されている。・・・
【0036】
図2及び図3に示されるように、空気極側集電体27は、集電のための複数の突起35を有している。・・・」

(甲1d) 「【0040】
図2及び図3に示されるように、空気極側集電体27において当接パッド部39に対向する複数の突起35のうちの少なくとも一部の突起35(本実施の形態では最外周に位置する複数の突起35)の当接面36に、耐熱性を有する無機絶縁層42(絶縁体)が形成されている。この無機絶縁層42が設けられている各突起35は、空気極21において電極外縁部21aに位置する当接パッド部39に対向する突起である。
【0041】
・・・無機絶縁層42は、金属酸化物であるアルミナを主体として含むアルミナペーストを用いて形成された絶縁層であり、その厚さは40μm程度である。・・・」

(甲1e) 「【0047】
・・・燃料電池10の運転温度には、導電層38(当接パッド部39)の銀パラジウム合金が軟化して空気極21と空気極側集電体27とが密着する。・・・」

(甲1f) 「【0050】
・・・図5に示されるように、空気極21において電極外縁部21aの反りが大きくなる場合、空気極側集電体27の突起35の当接面36に形成されている無機絶縁層42が優先的に剥離し、電極外縁部21aに位置する当接パッド部39から突起35が離間する。」

(甲1g) 「【0067】
・・・図13に示されるように、空気極側集電体27において、電極中央部21bに位置する当接パッド部71に対向した突起35の当接面36に、無機絶縁層42が設けられている。なおここでは、空気極側集電体27の中央部に位置する3行×3列(合計で9個)の突起35の当接面36に、無機絶縁層42が設けられている。このように導電層70及び絶縁層42を形成した場合、空気極21における電極中央部21bの反りが大きくなると、突起35の当接面36に設けた無機絶縁層42が電極中央部21bに位置する当接パッド部71から剥離し、空気極21の表面から突起35が離間する。・・・」

(甲1h) 「【0069】
・・・図14の空気極74においても、空気極側集電体の突起が接触する複数の集電体接触部位79が散点状に設けられている。また、空気極74において、直径の異なる2つの円周上となる位置に複数の集電体接触部位79がそれぞれ配設されている。・・・空気極側集電体も円形状に形成され、空気極側集電体の複数の突起において、特定部位(例えば電極外縁部74a)に位置する当接パッド部76に対向した突起の当接面に、無機絶縁層が形成される。・・・」

(甲1i) 「【図2】



(甲1j) 「【図5】



(甲1k) 「【図13】



(甲1l) 「【図14】



(4) 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第2号証には、「セルスタックおよび電解モジュールならびに電解装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(甲2a) 「【0012】
・・・この燃料電池セル3は、内部にガス流路12を有し、一対の対向する主面をもつ全体的に見て柱状の導電性支持体7と、この導電性支持体7の一方の主面上に内側電極層である燃料極層8と、固体電解質層9と、外側電極層である酸素極層10とをこの順に配置してなる発電部を備えている。導電性支持体7の他方の主面には、インターコネクタ11を配置し、柱状(中空平板状)の燃料電池セル3が構成されている。
【0013】
そして、燃料電池セル3の複数個を1列に配列し、隣接する燃料電池セル3間に、導電部材の一種である集電部材4が配置されている。燃料電池セル3と集電部材4とは、詳しくは後述するが、導電性接合材13を介して接合されており、それにより、複数個の燃料電池セル3を、集電部材4を介して電気的および機械的に接合して、セルスタック2が構成されている。」

(甲2b) 「【0031】
次に、集電部材4について図2、3を用いて説明する。図2に示す集電部材4は、隣接する一方の燃料電池セル3と接合される複数の第1集電片4aと、隣接する他方の燃料電池セル3と接合される複数の第2集電片4bと、複数の第1集電片4aおよび複数の第2集電片4bの一端同士を連結する第1連結部4cと、複数の第1集電片4aおよび複数の第2集電片4bの他端同士を連結する第2連結部4dとを一組のユニットとしている。・・・」

(甲2c) 「【0039】
すなわち、図4では、導電性接合材13は、燃料電池セル3と集電部材4とを接合するために配置されており、燃料電池セル3の酸素極層10側には、酸素極層10の全面にわたり設けられている。燃料電池セル3のインターコネクタ11側には、導電性接合材13がインターコネクタ11の全面にわたり設けられている。なお、酸素極層10やインターコネクタ11の一部にのみ導電性接合材13を設けて、集電部材4と燃料電池セル3とを接合してもよい。」

(甲2d) 「【図2】



(甲2e) 「【図3】



(甲2f) 「【図4】


第7 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1) 取消理由1-1(特許法第36条第6項第1号)について
前記第5において記載したように、前記申立理由1-1?1-4は、取消理由1において採用しているから、以下、申立理由1-1?1-4について検討する。
ア 取消理由1-1a
(ア)本件明細書の【0005】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「燃料電池セルの破損を抑制すること」である。
そして、同【0004】?【0007】の記載によれば、本件発明は、運転前や運転中、停止中など、どの時点かによらず、第2集電部が、燃料電池セルに接合される第1集電部と比べて小さい力で燃料電池セルから離間するものであり、燃料電池スタックが運転と停止とを繰り返して、熱膨張と収縮との繰り返しによって燃料電池セルに熱応力が生じた場合に、第2集電部が燃料電池セルから離間して、燃料電池セルに生じる熱応力を逃がすことができ、燃料電池セルの破損を抑制することができるという効果を奏するものであることが理解できる。
よって、本件発明1?8は、課題を解決するものであるといえる。

(イ)申立理由1-1の離間態様、非離間態様について
申立人は、燃料電池スタックの運転と停止との繰り返しの開始前において、第2集電部2bが燃料電池セルから離間している態様(離間態様)は、課題を解決し得ないと主張している。
しかしながら、第2集電部は、「集電部」であるから、燃料電池スタックと、常時離間している態様を含まず、少なくともいずれかの時点において燃料電池セルと接触していることは自明であり、熱膨張と収縮との繰り返しによって燃料電池セルに熱応力が生じた場合に、第2集電部が燃料電池セルから離間して、燃料電池セルに生じる熱応力を逃がすことができるから、燃料電池セルの破損を抑制するという課題を解決し得るものであるといえる。
また、申立人は、燃料電池スタックの運転と停止との繰り返しの前後において、第2集電部が燃料電池セルから一切離間しない態様(非離間態様)は、課題を解決し得ないと主張している。
しかしながら、燃料電池セルが破損する程度の熱応力が生じた場合、すなわち、燃料電池セルが第2集電部から離間するような形状に変形した場合には、第2集電部は、燃料電池セルから離間し、課題を解決し得るし、仮に、燃料電池スタックの運転と停止との繰り返しの前後において燃料電池セルに破損する程度の変形(第2集電部が離間する程度の変形)が生じない場合において、第2集電部が燃料電池セルから離間せず、燃料電池セルが破損することがなかったとしても、それは、本件発明1?8が、「燃料電池セルの破損を抑制する」ことにほかならないから、いずれにしても、課題を解決し得ないとはいえない。

(ウ)申立理由1-1の第2集電部が燃料電池セルに対して更に強い力で押圧するような形状に燃料電池セルが変形した場合について
申立人は、第2集電部が燃料電池セルに対して更に強い力で押圧するような形状に燃料電池セルが変形した場合は、課題を解決し得ないと主張している。
しかしながら、第2集電部が燃料電池セルに対して更に強い力で押圧するような形状に燃料電池セルが変形した場合に、燃料電池セルが破損するとしても、少なくとも、燃料電池セルが第2集電部から離間するような形状に変形した場合においては、第2集電部が燃料電池セルから離間することによって、「燃料電池セルの破損を抑制する」という本件発明1?8の課題を解決し得るといえる。

(エ)したがって、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしている。

イ 取消理由1-1b
本件訂正請求により、第1集電部、第2集電部は、ともに、「燃料電池セルの一方面側に配置され」ていることが明確となり、第1集電部、第2集電部の配置関係が明確となり、本件発明1?8は、上記アのとおり、課題を解決し得るものである。
したがって、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(2) 取消理由1-2(特許法第36条第6項第2号)について
ア 取消理由1-2a
第2集電部は、「集電部」であるから、燃料電池セルと接触している時点が存在することは自明である。そして、第2集電部は、「第1集電部と比べてより小さい力で前記燃料電池セルから離間する」ものであるから、燃料電池スタックが運転と停止とを繰り返して、熱膨張と収縮との繰り返しによって燃料電池セルに、第2集電部が燃料電池から離間する程度の熱応力が生じた場合には、第2集電部は、燃料電池セルから離間する。
つまり、本件発明1は、第2集電部が、燃料電池セルと、接触している態様と、接触していない態様のいずれをも含むと解することができ、明確である。

イ 取消理由1-2b
上記ア 取消理由1-2aの検討のとおり、本件発明1は、第2集電部が、燃料電池セルと、接触している態様と、接触していない態様のいずれをも含むと解することができるところ、本件発明2は、第2集電部が、燃料電池セルと接触している状態の燃料電池スタックを特定していると解することができ、明確である。

ウ 取消理由1-2c
本件訂正請求により、訂正前の請求項5、7の「前記各第1集電部は、外周部に配置され」は、いずれも「前記各第1集電部は、前記燃料電池セルの外周部に配置され」に訂正されたため、各第1集電部が配置される外周部は、燃料電池セルの外周部であることが明確となった。
したがって、取消理由1-2cは解消している。

エ 取消理由1-2d
本件訂正請求により、訂正前の請求項6、8の「前記燃料電池セルは、長手方向と、幅方向とを有し」は、いずれも「前記燃料電池セルは、筒状平板型であって、長手方向と、幅方向とを有し」に訂正されたため、燃料電池セルの形状は筒状平板型であることが特定され、「長手方向」及び「幅方向」は、筒状平板型の燃料電池セルの「長手方向」及び「幅方向」であることが明確となった。
したがって、取消理由1-2dは解消している。

(3) 取消理由2
ア 引用例1に記載された発明
引用例1の前記(引1a)?(引1d)の記載によれば、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「固体酸化物形の電解質膜と前記電解質膜をこれの厚み方向に挟むアノード及びカソードを有する平板型のセルと、
板状の導板部材と、前記導板部材に保持された断面板状をなす複数の導片からなる導片群を備えている接続導体と、
多孔質体と、
を有するセル構造を備え、
前記各導片の先端の受けフランジ部は、導電性接着剤を介して前記カソードの表面に接着されており、
前記アノードと前記多孔質体との界面は、接合されていない、
前記セル構造を多数積層した平板型のセル積層体を備える燃料電池装置。」

イ 引用例2に記載された発明
引用例2の前記(引2a)?(引2d)の記載によれば、引用例2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に形成された燃料極と、前記固体電解質層の他方の面に形成された空気極とを有する単セルと、
縦断面形状において櫛形の構造を有するインターコネクタと、
前記燃料極との接点に配される燃料極集電体と、
を備え、
前記櫛形の凸部が、導電性接合剤を介して、前記空気極に接合され、
前記単セルが、複数上下に積層された固体酸化物形燃料電池スタック22を有する固体酸化物形燃料電池。」

ウ 対比・判断
本件発明1と引用発明1又は引用発明2を対比すると、本件発明1は、本件訂正請求による訂正により、「第1集電部」及び「第2集電部」が、いずれも「燃料電池セルの一方面側に配置され」ているとの事項を有することとなったのに対して、引用発明1及び引用発明2のいずれも、そのような事項を有していない。
したがって、本件発明1?3は、引用例1に記載された発明又は引用例2に記載された発明であるとはいえない。
よって、取消理由2は解消している。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1) 申立理由2-1、2-3(特許法第36条第6項第2号)について
申立人は、申立書の27頁1行?12行、29頁4行?最下行において、本件発明1の「前記第2集電部は、前記燃料電池セルに非接合である」は、技術的意味が不明確であり、また、本件発明1、2の「接合」と「非接合」との境界が不明確であり、両者の技術的関連が理解できないから、本件発明1、2は不明確である旨主張している。
そこで、本件明細書の記載を参酌する。
本件明細書には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。)。
「【0032】
各集電部2は、第1集電部2aと、第2集電部2bとを有している。第1集電部2aは、燃料電池セル1の空気極13に接合されている。例えば、第1集電部2aは、導電性の接合材によって空気極13に接合されている。より具体的には、第1集電部2aは、メタル系材料(例えば、銀系材料など)、又は導電性セラミック材料(例えば、LSCFなど)などを用いて、空気極13に接合される。導電性セラミック材料には、遷移金属酸化物が含まれていてもよい。
【0033】
これに対して、第2集電部2bは、燃料電池セル1の空気極13に接合されていない。すなわち、第2集電部2bは、第1集電部2aに比べてより小さい力で燃料電池セル1の空気極13から離間する。このように燃料電池セル1は第2集電部2bによって拘束されていないため、燃料電池スタック100の運転中において、燃料電池セル1が熱膨張及び収縮しても熱応力の発生を抑制することができる。この結果、燃料電池セル1の破損を抑制することができる。」

本件明細書の上記記載によれば、本件発明1、2の「接合」とは、第1集電部と燃料電池セルが、例えば、導電性の接合材によって接合されている、すなわち、燃料電池セルが第1集電部によって拘束されていることを意味するものであるのに対し、本件発明1、2の「非接合」とは、第2集電部が燃料電池セルに接合されておらず、燃料電池セルが第2集電部によって拘束されていないことを意味するものであるといえる。
そうすると、本件発明1、2の「接合」と「非接合」の境界は明確であり、両者の技術的関連を理解できないとはいえず、また、「接合」の技術的意義も明確である。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(2) 申立理由3-1(甲第1号証を主引例とする新規性)について
申立人は、申立書の30頁16行?36頁18行、37頁下から2行?38頁8行において、甲第1号証の無機絶縁層42が形成されている突起35(以下、「絶縁層有り突起35」という。)は、本件発明1、7、8の「第2の集電部」に相当する旨主張している。
しかし、甲第1号証の前記(甲1d)の【0040】には、「この無機絶縁層42が設けられている各突起35は、空気極21において電極外縁部21aに位置する当接パッド部39に対向する突起である。」と記載されていることからすると、絶縁層有り突起35の突起は、無機絶縁層42を介して空気極21と接触するものであるから、当該突起は、空気極と直接電気的に接続されるものではないため、集電の機能を有するものとはいえない。
そうすると、甲第1号証の「絶縁層有り突起35」は、本件発明1、7、8のいずれの「第2の集電部」にも相当しないし、他に「第2の集電部」に相当する部材が存在しないから、本件発明1、7、8に記載された発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(3) 申立理由3-2(甲第2号証を主引例とする新規性)について
申立人は、申立書の39頁4行?40頁5行において、甲第2号証の集電片4a,4bについて、【0039】(前記(甲2c))の記載を根拠として、インターコネクタ11の一部にのみ導電性接合材13が設けられた構成では、集電部材14の複数の集電片4a,4bのうち、一部の集電片4a,4bだけが導電性接合材13によって燃料電池セル3に接合され、残りの集電片4a,4bは燃料電池セル3から離間し、このとき、残りの集電片4a,4bが燃料電池セル3に接触することになると考えられるから、甲第2号証には、「前記複数の集電片(4a,4b)は、前記燃料電池セル(3)に接合される一部の集電片(4a,4b)と、前記一部の集電片(4a,4b)と比べて小さい力で前記燃料電池セル(3)から離間する残りの集電片(4a,4b)と、を有」すること、及び、「前記残りの集電片(4a,4b)は、前記燃料電池セル(3)に非接合であり、かつ、接触する」こと(以下、まとめて「本件発明特定事項A」という。)が記載されている旨主張している。
しかし、申立人が根拠としている甲第2号証の前記(甲2c)には、まず、「図4では、導電性接合材13は、燃料電池セル3と集電部材4とを接合するために配置されており、・・・燃料電池セル3のインターコネクタ11側には、導電性接合材13がインターコネクタ11の全面にわたり設けられている。」と記載されていることから、集電片4a,4bのインターコネクタ11に対向する面は、全て導電性接合材13によって燃料電池セル3に接合されているものと認められる。
そして、この記載の後に、「なお、酸素極層10やインターコネクタ11の一部にのみ導電性接合材13を設けて、集電部材4と燃料電池セル3とを接合してもよい。」と記載されていることからすると、当該記載は、その前に記載されている、集電片4a,4bのインターコネクタ11に対向する面は、全て導電性接合材13によって燃料電池セル3に接合されていることを前提とするものであって、上記「インターコネクタ11の一部にのみ導電性接合材13を設けて」とは、インターコネクタ11が集電片4a,4bと対向する部分にのみ導電性接合材13を設けることであると解釈するのが妥当である。
そうすると、上記(甲2c)の記載から、甲第2号証には、上記本件発明特定事項Aが記載されているとはいえないから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質、空気極、及び燃料極を有する燃料電池セルと、
前記燃料電池セルに電気的に接続される複数の集電部と、
を備え、
前記複数の集電部は、前記燃料電池セルの一方面側に配置され且つ前記燃料電池セルに接合される第1集電部と、前記燃料電池セルの前記一方面側に配置され且つ前記第1集電部と比べてより小さい力で前記燃料電池セルから離間する第2集電部と、
を有し、
前記第2集電部は、前記燃料電池セルに非接合である、
燃料電池スタック。
【請求項2】
前記第2集電部は、前記燃料電池セルと接触する、
請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記第2集電部は、前記第1集電部に比べて、気孔率が大きい、
請求項1又は2に記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
複数の前記第2集電部を含む第2領域における第2集電部の形成密度は、少なくとも1つの前記第1集電部を含む第1領域における第1集電部の形成密度よりも低い、
請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記各第1集電部は、前記燃料電池セルの外周部に配置され、
前記各第2集電部は、前記第1集電部に囲まれるように配置される、
請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記燃料電池セルは、筒状平板型であって、長手方向と、幅方向とを有し、
前記第1及び第2集電部は、前記幅方向に沿って配置され、
前記第1集電部は、幅方向の外側に配置され、
前記第2集電部は、幅方向の内側に配置される、
請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
電解質、空気極、及び燃料極を有する燃料電池セルと、
前記燃料電池セルに電気的に接続される複数の集電部と、
を備え、
前記複数の集電部は、前記燃料電池セルに接合される第1集電部と、前記第1集電部と比べてより小さい力で前記燃料電池セルから離間する第2集電部と、
を有し、
前記各第1集電部は、前記燃料電池セルの外周部に配置され、
前記各第2集電部は、前記第1集電部に囲まれるように配置される、
燃料電池スタック。
【請求項8】
電解質、空気極、及び燃料極を有する燃料電池セルと、
前記燃料電池セルに電気的に接続される複数の集電部と、
を備え、
前記複数の集電部は、前記燃料電池セルに接合される第1集電部と、前記第1集電部と比べてより小さい力で前記燃料電池セルから離間する第2集電部と、
を有し、
前記燃料電池セルは、筒状平板型であって、長手方向と、幅方向とを有し、
前記第1及び第2集電部は、前記幅方向に沿って配置され、
前記第1集電部は、幅方向の外側に配置され、
前記第2集電部は、幅方向の内側に配置される、
燃料電池スタック。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-08-20 
出願番号 特願2016-12128(P2016-12128)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 結城 佐織
土屋 知久
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6125058号(P6125058)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 燃料電池スタック  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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