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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1344818
異議申立番号 異議2017-701220  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-21 
確定日 2018-09-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6150910号発明「ケイ素、アルミニウム及びクロムを有するニッケル基合金」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6150910号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。 特許第6150910号の請求項1-16及び18-20に係る特許を維持する。 特許第6150910号の請求項17に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6150910号の請求項1?20に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2014年(平成26年)1月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年3月14日 ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であって、平成29年6月2日に特許権の設定登録がされ、同年6月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月21日に特許異議申立人 飯島秀子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年2月8日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月14日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がなされたが、本件訂正請求に対して特許異議申立人からは意見書の提出がなされなかったものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?5のとおりである(当審注:下線は訂正により訂正前後で相違が生じた箇所を示すため当審が付与した。)。

(1)訂正事項1
請求項1に「Si 1.5?3.0%
Al 1.5?3.0%
Cr 0.1超3.0%、ここで、%で示すSi、Al及びCrの含有率は、4.0≦Al+Si+Cr≦8.0を満たし、
Fe 0.005?0.20%
Y 0.01?0.20%、Hf、Zr、La、Ce、Tiの元素の1つ以上 0.001?0.20%、ここで、%で示すY、Hf、Zr、La、Ce、Tiの含有率は、0.02≦Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)≦0.30を満たし、
C 0.001?0.10%
N 0.0005?0.10%
Mn 0.001?0.20%
Mg 0.0001?0.08%
O 0.0001?0.010%
S 最大0.015%
Cu 最大0.80%
Ni 残り及び通常の製造に由来する不純物
(質量%で示す)からなる、ニッケル基合金。」とあるのを、「Si 1.5?3.0%
Al 1.5?3.0%
Cr 0.1超3.0%、ここで、%で示すSi、Al及びCrの含有率は、4.0≦Al+Si+Cr≦8.0を満たし、
Fe 0.005?0.20%
Y 0.01?0.20%、Hf、Zr、La、Ce、Tiの元素の1つ以上 0.001?0.20%、ここで、%で示すY、Hf、Zr、La、Ce、Tiの含有率は、0.02≦Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)≦0.30を満たし、
C 0.001?0.10%
N 0.0005?0.10%
Mn 0.001?0.20%
Mg 0.0001?0.08%
Ca 0.0001?0.06%
O 0.0001?0.010%
S 最大0.015%
Cu 最大0.80%
Ni 残り及び通常の製造に由来する不純物」と訂正する。

(2)訂正事項2
請求項17を削除する。

(3)訂正事項3
請求項18に「最大0.50%のCo含有率、最大0.20%のW含有率、最大0.20%のMo含有率、最大0.20%のNb含有率、最大0.20%のV含有率、最大0.20%のTa含有率、最大0.005%のPb含有率、最大0.005%のZn含有率、最大0.005%のSn含有率、最大0.005%のBi含有率、最大0.050%のP含有率及び最大0.020%のB含有率を有する、請求項1から17までのいずれか1項に記載の合金。」とあるのを、「前記不純物として、最大0.50%のCo含有率、最大0.20%のW含有率、最大0.20%のMo含有率、最大0.20%のNb含有率、最大0.20%のV含有率、最大0.20%のTa含有率、最大0.005%のPb含有率、最大0.005%のZn含有率、最大0.005%のSn含有率、最大0.005%のBi含有率、最大0.050%のP含有率及び最大0.020%のB含有率を有する、請求項1から16までのいずれか1項に記載の合金。」と訂正する(請求項18の記載を引用する請求項19、20も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
請求項19に「請求項1から18までのいずれか1項に記載のニッケル基合金の、内燃機関の点火エレメント用の電極材料としての使用。」とあるのを、「請求項1から16まで、および18までのいずれか1項に記載のニッケル基合金の、内燃機関の点火エレメント用の電極材料としての使用。」に訂正する。


2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項17に記載された「0.0001?0.06%のCa含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から16までのいずれか1項に記載の合金。」のうち、請求項1を引用する請求項17について、他の請求項を引用しない形式に書き換えて、当該請求項17を新たな請求項1として請求項番号を整理するとともに、訂正前の請求項1を削除するものであって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、明瞭でない記載の釈明及び請求項の削除を目的とするものである。
そして、訂正事項1による訂正は、以上のとおりのものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
なお、請求項2?16については、形式的な訂正はされていないが、訂正事項1の訂正に伴って、例えば本件訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項17を、新たに訂正後の請求項2とする等の実体的な訂正が行われているものであり、これらの実体的な訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正事項1の訂正に伴って、請求項17を削除するものであるから、請求項の削除を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3において「前記不純物として、」を追加する訂正(以下「訂正事項3-1」という。)は、請求項18に記載されている各元素について、いずれも「前記不純物」、すなわち、本件訂正前の請求項1に記載されており、本件訂正後の請求項1にも記載されている「通常の製造に由来する不純物」であることを明瞭にするものであるから、訂正事項3-1による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3-1に関連する記載として、本件明細書等の【0031】には、「最終的に、不純物について次のような元素が次のように存在してもよい:
Co 最大0.50%
W 最大0.02%(最大0.10%)
Mo 最大0.02%(最大0.10%)
Nb 最大0.02%(最大0.10%)
V 最大0.02%(最大0.10%)
Ta 最大0.02%(最大0.10%)
Pb 最大0.005%
Zn 最大0.005%
Sn 最大0.005%
Bi 最大0.005%
P 最大0.050%(最大0.020%)
B 最大0.020%(最大0.010%)。」と記載されているから、訂正事項3-1による訂正は、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項3-1による訂正は、以上のとおりのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正事項3において「請求項1から16までのいずれか1項」とする訂正(以下「訂正事項3-2」という。)は、訂正事項1、2に伴い、請求項18における引用請求項から請求項17を削除する訂正であるから、訂正事項3-2による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、訂正事項1、2に伴い、請求項19における引用請求項から請求項17を削除する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?20は、それぞれ請求項1を引用するものであり、請求項1の訂正に連動して訂正されるから、本件訂正後の請求項1?20は、一群の請求項である。

(6)なお、本件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?20〕について訂正を認める。


第3 訂正後の請求項1?20に係る発明
上記第2のとおり訂正することを認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?20に係る発明(以下「本件発明1?20」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?20に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
Si 1.5?3.0%
Al 1.5?3.0%
Cr 0.1超3.0%、ここで、%で示すSi、Al及びCrの含有率は、4.0≦Al+Si+Cr≦8.0を満たし、
Fe 0.005?0.20%
Y 0.01?0.20%、Hf、Zr、La、Ce、Tiの元素の1つ以上 0.001?0.20%、ここで、%で示すY、Hf、Zr、La、Ce、Tiの含有率は、0.02≦Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)≦0.30を満たし、
C 0.001?0.10%
N 0.0005?0.10%
Mn 0.001?0.20%
Mg 0.0001?0.08%
Ca 0.0001?0.06%
O 0.0001?0.010%
S 最大0.015%
Cu 最大0.80%
Ni 残り及び通常の製造に由来する不純物
(質量%で示す)からなる、ニッケル基合金。

【請求項2】
1.8?3.0%のSi含有率(質量%で示す)を有する、請求項1に記載の合金。

【請求項3】
1.9?2.5%のSi含有率(質量%で示す)を有する、請求項1又は2に記載の合金。

【請求項4】
1.5?2.5%のAl含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項5】
1.6?2.5%のAl含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項6】
1.6?2.2%のAl含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項7】
0.8?3.0%のCr含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項8】
1.2?3.0%のCr含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項9】
1.9?3.0%のCr含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項10】
%で示すSi、Al及びCrの含有率が、式4.5≦Al+Si+Cr≦7.5を満たす、請求項1から9までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項11】
0.005?0.10%のFe含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項12】
0.01?0.15%のY含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項13】
0.01?0.15%のY含有率(質量%で示す)及びHf、Zr、La、Ce、Tiの元素の1つ以上 0.001?0.15%を有し、ここで、%で示すY、Hf、Zr、La、Ce、Tiの含有率は、0.02≦Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)≦0.25を満たす、請求項1から12までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項14】
0.001?0.05%のC含有率(質量%で示す)及び0.001?0.05%のN含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から13までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項15】
0.001?0.10%のMn含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から14までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項16】
0.001?0.08%のMg含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から15までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項17】
(削除)

【請求項18】
前記不純物として、最大0.50%のCo含有率、最大0.20%のW含有率、最大0.20%のMo含有率、最大0.20%のNb含有率、最大0.20%のV含有率、最大0.20%のTa含有率、最大0.005%のPb含有率、最大0.005%のZn含有率、最大0.005%のSn含有率、最大0.005%のBi含有率、最大0.050%のP含有率及び最大0.020%のB含有率を有する、請求項1から16までのいずれか1項に記載の合金。

【請求項19】
請求項1から16まで、および18までのいずれか1項に記載のニッケル基合金の、内燃機関の点火エレメント用の電極材料としての使用。

【請求項20】
ガソリンエンジンの点火エレメント用の電極材料としての、請求項19に記載の使用。」


第4 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第5号証を提出し、以下の理由により、請求項1?20に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(不採用)
本件発明1?20は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び甲第3?5号証に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?20に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2 申立理由2(不採用)
発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?20の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1?20に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3-1 申立理由3-1(不採用)
本件明細書には本件発明1?20の具体的な実施例が全くなく、発明の開示が何ら存在しないから、発明の課題を解決できるか否かを当業者が認識できないため、本件発明1?20は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
したがって、請求項1?20に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3-2 申立理由3-2(採用)
本件明細書には、「Caについては0.0001%の最低含有率が必要である」(【0050】)と記載されているにもかかわらず、本件発明1?16、18?20には、Ca成分が必須の成分として特定されていないから、本件発明1?16、18?20は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
したがって、請求項1?16、18?20に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 申立理由4(採用)
本件発明17、18は不明確であるから、請求項17、18に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特表2009-544855号公報
甲第2号証:特開平4-45239号公報
甲第3号証:特開平3-236434号公報
甲第4号証:特開昭62-83435号公報
甲第5号証:特開平3-223414号公報


第5 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?20に係る特許に対して平成30年2月8日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

1 取消理由1(前記申立理由3-2を採用。)
請求項1?16、18?20に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、請求項1?16、18?20に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

2 取消理由2(前記申立理由4を実質的に採用。)
請求項17?18の記載は不明確であるため、請求項17?18に係る発明は明確でなく、請求項17又は18を引用する請求項19?20に係る発明も同様の理由により明確でない。
よって、請求項17?20に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その特許は取り消されるべきものである。


第6 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る国際出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、「ニッケルベース合金」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。

(1a) 「【請求項1】
Al 1.2?<2.0%
Si 1.2?<1.8%
C 0.001?0.1%
S 0.001?0.1%
Cr 0.03?0.1%
Mn 0.03?0.1%
Cu 最大0.1%
Fe 0.02?0.2%
Mg 0.005?0.06%
Pb 最大0.005%
Y 0.05?0.15%及びHf 0.05?0.10%又は
Y 0.05?0.15%及びLa 0.05?0.10%又は
Y 0.05?0.15%及びHf 0.05?0.10%及びLa 0.05?0.10%(質量%で)
Ni残分及び製造に条件付けられた汚染物質
からなるニッケルベース合金。」

(1b) 「【0009】
本発明による主題の目的は、スパークエロージョン-及び酸化抵抗性の向上により、同時に良好な成形性及び溶接性をで、製造される部材の使用期間の向上をもたらすニッケルベース合金を提供することである。」

(1c) 「【0016】
本発明によるニッケルベース合金は有利には、ガソリンエンジンのための点火プラグの電極のための原料として使用可能である。」

(1d) 「【0017】
一方では元素Al、Si、Cr、Mn、Mgの、そして他方では反応性元素Y、Hf、Laの狙いを定めた調整により、このそれぞれの組み合わせにおいて、電極材料の使用期間の改善を、同時に良好な成形性及び溶接性で、スパークエロージョン-及び酸化抵抗性の向上により引き起こすことができる。」

2 本件特許に係る国際出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、「点火プラグ用合金」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(2a) 「2.特許請求の範囲
1.重量比で、Si:1.0?2.5%、Cr:0.5?2.5%、Mn:0.5?2.0%、Al:0.6?2.0%を含有し、残部が実質的にNiと不可避的不純物からなることを特徴とする、点火プラグ用合金。」(1頁左下欄4?9行)

(2b) 「また、本発明においては、このクロムの添加量範囲は、後述するAlの添加量範囲との相関関係において厳格に制御することが、耐酸化性と加工性の双方の向上を図る上において肝要である。すなわち、Al含有量が1.3?2.0重量%の範囲の場合にCr含有量を1.8?2.5重量%に制限し、Al含有量が0.6?1.3重量%の範囲の場合にCr含有量を0.5?1.8重量%に制限することが好ましい。」(2頁右上欄最下行?左下欄8行)

(2c) 「〔発明の効果〕
上記試験結果からも明らかなように、本発明による点火プラグ用合金は、Niを基材として、これにSi、Cr、MnならびにAlを特定の範囲で添加するようにしたので、耐酸化性と加工性の双方において調和的な向上効果を有し、特に耐酸化性においてすぐれた特性を有している。」(3頁左下欄下から8行?2行)

3 本件特許に係る国際出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、「硫黄、酸素及び窒素の各含有量が極めて低いニッケル基合金」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(3a) 「2.特許請求の範囲
1.アルミニウム0.005?7.0%、ケイ素0.005?7.0%、マグネシウム0.0001?0.005%、カルシウム0.0001?0.005%、酸素0.0001?0.002%、硫黄0.0001?0.002%、窒素0.0005?0.003%より成るニッケル基合金。」(1頁左下欄4?9行)

4 本件特許に係る国際出願の優先日前に頒布された甲第4号証には、「硫黄、酸素及び窒素の各含有量が極めて低い鉄-、ニッケル-、及びコバルト-基合金の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(4a) 「2.特許請求の範囲
1.(a)15?75重量%のMgO及び15?85重量%のCaOを含む塩基性耐火物から成る石灰坩堝、石灰坩堝炉、前記耐火物で裏付けされたコンバータ及びレードルから成る群から選ばれた1つの容器内に実質上、鉄-、コバルト-及びニッケル基合金から成る群から選ばれた少なくとも1種の主成分から成る溶融合金を保持する工程と、
(b)前記溶融合金に対し非酸化性雰囲気及び真空から成る群から選ばれた1つの雰囲気下で、アルミニウム及びアルミニウム合金及びケイ素及びケイ素合金から選ばれた少なくとも1種の添加剤を添加する工程と、非酸化性雰囲気及び真空から成る群から選ばれた1つの雰囲気中で、脱酸、脱硫、脱窒し、残留アルミニウム0.005?7.0%、残留ケイ素0.005?7.0%、残留カルシウム0.0001?0.02%、残留マグネシウム0.0005?0.03%よりなる溶融合金を得る工程と、
(c)得られた前記溶融合金を造塊する工程とから成る硫黄0.002%以下、酸素0.002%以下及び窒素0.03%以下の各含有量が極めて低い鉄-、ニッケル-、及びコバルト-基合金の製造方法。」(1頁左下欄6行?右下欄12行)

5 本件特許に係る国際出願の優先日前に頒布された甲第5号証には、「硫黄、酸素及び窒素の各含有量が極めて低い鉄-、ニッケル-、及びコバルト-基合金の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(5a) 「2.特許請求の範囲
1.(a)15?75重量%のMgO及び15?85重量%のCaOを含む塩基性耐火物から成る坩堝、坩堝炉、前記耐火物で裏付けされた坩堝、坩堝炉、熔解炉(VOD、AOD)コンバータ及びレードルから成る群から選ばれた1つの容器内で実質上、Fe、Co及びNiから成る群から選ばれた少なくとも1種の主成分から成る溶融合金を装入する工程と、
(b)非酸化性雰囲気及び真空から成る群から選ばれた1つの雰囲気の下で、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、の何れかよりなる第1の添加剤と、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオビウム(Nb)、及び稀土類元素よりなる群から選ばれた第2の添加剤を添加する工程と、
(c)前記溶融合金を、非酸化性雰囲気又は真空から成る群から選ばれた何れかの雰囲気の下で、脱酸、脱硫、脱窒し、残留アルミニウム0.005?7.0%、残留カルシウム0.0001?0.005%、残留マグネシウム0.0001?0.03%よりなる溶融合金を得る工程と、
(d)得られた前記溶融合金を造塊する工程とから成る酸素0.003%以下、硫黄0.010%以下、窒素0.03%以下の各含有量が極めて低い鉄-、ニッケル-、及びコバルト-基合金の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)


第7 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由1について
取消理由1は、特許異議申立書13頁7?10行に記載されているとおり、本件明細書には「Caについては0.0001%の最低含有率が必要である」(【0050】)と記載されているにもかかわらず、請求項1?16、18?20には、Caの成分が必須の成分として特定されていないから、本件発明1?16、18?20は、発明の詳細な説明に記載したものでないというものである。
しかし、上記第3に示したとおり、本件訂正によって、本件発明1の「ニッケル基合金」は、「Ca 0.0001?0.06%」が必須の成分として特定されたから、取消理由1によって取消すことができないものとなった。
また、本件発明2?16、18?20についても、本件発明1についての検討と同様にして、取消理由1によって取消すことができないものとなった。

(2)取消理由2について
取消理由2は、請求項17、18の記載では、これらの請求項に記載された各元素が、請求項1の「通常の製造に由来する不純物」に相当するのか、積極的に添加する元素に相当するのか不明確であり、特に、請求項18に記載された各元素については、発明の詳細な説明の【0031】の記載によれば、請求項1の「通常の製造に由来する不純物」に該当すると考えられるが、請求項18の記載では、当該請求項に記載された各元素と、請求項1の「通常の製造に由来する不純物」との関係が不明確であるから、請求項17、18に係る発明は明確でなく、請求項17又は18を引用する請求項19、20に係る発明も同様の理由により明確でないというものである。
しかし、上記第3に示したとおり、本件訂正によって、本件発明18における各元素は、いずれも「前記不純物」、すなわち、「通常の製造に由来する不純物」であることが特定されたから、取消理由2によって取消すことができないものとなった。
また、本件発明19?20についても、本件発明18についての検討と同様にして、取消理由2によって取消すことができないものとなった。
なお、上記第3に示すとおり、本件訂正によって、本件発明17は存在しないものとなった。

ここで、特許異議申立人は、特許異議申立書の13頁15?20行において、請求項18につき、Co、W、Mo等は「不純物」(【0031】)と明確に記載されているにもかかわらず、これらの元素の合計が1.5%を超えるから、到底「通常の製造に由来する不純物」に相当するとはいえず、双方が矛盾し、不明確である旨主張している。
しかし、特許異議申立人の前記主張がどのような客観的かつ具体的な証拠に基づく主張であるのか明らかではなく、ニッケル基合金において、所定の元素の合計が一定の値を超えると、これらの元素は不純物でないとするとの事項が、本件特許の出願時に技術常識であったとはいえないから、請求項18のCo、W、Mo等の元素の合計が1.5%を超えているからといって、これらの元素が直ちに「通常の製造に由来する不純物」に相当しないとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記(1a)の記載によれば、Y、Hf及びLaを含有するニッケルベース合金に注目すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「Al 1.2?<2.0%
Si 1.2?<1.8%
C 0.001?0.1%
S 0.001?0.1%
Cr 0.03?0.1%
Mn 0.03?0.1%
Cu 最大0.1%
Fe 0.02?0.2%
Mg 0.005?0.06%
Pb 最大0.005%
Y 0.05?0.15%及びHf 0.05?0.10%及びLa 0.05?0.10%(質量%で)
Ni残分及び製造に条件付けられた汚染物質
からなるニッケルベース合金。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「ニッケルベース合金」と、本件発明1の「ニッケル基合金」とは、Si、Al、Fe、Y、Hf、La、C、Mn、Mg、S及びCuの各含有率の範囲が、Si 1.5?<1.8%、Al 1.5?<2.0%、Fe 0.02?0.2%、Y 0.05?0.15%、Hf 0.05?0.10%、La 0.05?0.10%、C 0.001?0.10%、Mn 0.03?0.1、Mg 0.005?0.06%、S 0.001?0.015%、Cu 最大0.1%との範囲で重複し、また、%で示すY、Hf、Zr、La、Ce、Tiの含有率は、0.105≦Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)≦0.26の範囲で重複し、さらに、甲1発明の「Ni残分」、「製造に条件付けられた汚染物質」、「ニッケルベース合金」は、それぞれ、本件発明1の「Ni 残り」、「通常の製造に由来する不純物」、「ニッケル基合金」に相当する。
そして、甲1発明において、N、Ca及びOは、いずれも含有率が明らかではない。

b 甲1発明において、「Si 1.2?<1.8%」、「Al 1.2?<2.0%」、「Cr 0.03?0.1%」であるから、%で示すSi、Al及びCrの含有率は、2.43≦Al+Si+Cr<3.9を満たしていると認められる。

c 前記a、bの検討から、本件発明1と甲1発明とは、「Si 1.5?<1.8%
Al 1.5?<2.0%、
Fe 0.02?0.2%
Y 0.05?0.15%、
Hf、Laの元素の一つ以上 0.05?0.1%
ここで、%で示す、Hf、Zr、La、Ce、Tiの含有率は、上記Hfを選択した場合、0.075≦Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)≦0.20を満たし、上記Laを選択した場合、0.08≦Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)≦0.21、上記Hf及びLaを選択した場合、0.105≦Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)≦0.26を満たし、
C 0.001?0.1%
Mn 0.03?0.1
Mg 0.005?0.06%
S 0.001?0.015%
Cu 最大0.1%
Ni 残り及び通常の製造に由来する不純物
(質量%で示す)からなる、ニッケル基合金。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1は、「Cr」の含有率が「0.1超3.0%」であり、かつ、「%で示すSi、Al及びCrの含有率」が「4.0≦Al+Si+Cr≦8.0を満たし」ているのに対し、甲1発明は、「Cr」の含有率が「0.03?0.1%」であり、かつ、%で示すSi、Al及びCrの含有率が「2.43≦Al+Si+Cr<3.9を満たし」ているため、「Cr」の含有率が「0.1超3.0%」ではないし、「%で示すSi、Al及びCrの含有率」が「4.0≦Al+Si+Cr≦8.0を満たし」ていない点

相違点2:「ニッケル基合金」中の「N」について、本件発明1は「0.0005?0.10%」の含有率であるのに対し、甲1発明は、N含有率が特定されておらず、明らかでない点

相違点3:「ニッケル基合金」中の「Ca」について、本件発明1は「0.0001?0.06%」の含有率であるのに対し、甲1発明は、Ca含有率が特定されておらず、明らかでない点

相違点4:「ニッケル基合金」中の「O」について、本件発明1は「0.0001?0.010%」であるのに対し、甲1発明は、O含有率が特定されておらず、明らかでない点

(イ)相違点についての判断
a 相違点1について
(a)甲第1号証の前記(1b)の記載によれば、甲1発明が解決しようとする課題は、「スパークエロージョン-及び酸化抵抗性の向上により、同時に良好な成形性及び溶接性を」提供し、「製造される部材の使用期間の向上をもたらすニッケルベース合金を提供すること」であると認められるところ、甲第1号証の前記(1d)には、「一方では元素Al、Si、Cr、Mn、Mgの、そして他方では反応性元素Y、Hf、Laの狙いを定めた調整により、このそれぞれの組み合わせにおいて、電極材料の使用期間の改善を、同時に良好な成形性及び溶接性で、スパークエロージョン-及び酸化抵抗性の向上により引き起こすことができる。」と記載されていることからすると、甲1発明において、各元素の含有率を特定された範囲の外に変更すると、上記課題を解決できなくなる可能性があるから、甲1発明において、各元素の含有率を特定された範囲の外に変更することには阻害要因がある。
したがって、例えば、甲1発明において「Cr」の含有率を「0.03?0.1%」なる範囲から、その範囲の外の「0.1超3.0%」に変更することは、当業者にとって容易になし得るものであるとはいえない。

(b)特許異議申立人は、特許異議申立書の7頁下から2行?8頁11行において、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲第1号証には本件構成のうち、C,D,J,Mを除く全てが記載され、甲第2号証には構成A?Dが記載されており、甲第2号証と甲第1号証とは、いずれもSi、Al及びCrをNi基合金の主要元素とし、技術分野及び解決しようとする課題、目的及び効果を同じくするものであるから、甲第1号証の構成A,B,C’に代えて、甲第2号証の構成A?Cを採用する動機付けが存在し、かかる置換は当業者にとって容易である旨主張している。
しかし、前記(a)で検討したように、甲1発明において、各元素の含有率を特定された範囲の外に変更することには阻害要因があるから、甲第2号証に本件発明1の構成A?C、すなわち、「Si 1.5?3.0%」、「Al 1.5?3.0%」及び「Cr 0.1超3.0%、」との事項が記載されているとしても、甲1発明のCrの含有率の範囲を、その範囲の外である、甲第2号証に記載のCrの含有率に置換することは、当業者にとって容易であるとはいえない。
また、仮に、甲1発明において、各元素の含有率を特定された範囲の外に変更することには阻害要因がないとして、甲1発明の各元素の含有率を、甲第2号証に記載された各元素の含有率に変更することを検討するに、甲第2号証の前記(2c)の記載によれば、甲第2号証のNiを基材とする点火プラグ用合金は、Si、Cr、MnならびにAlを特定の範囲で添加するようにしたものであるから、甲1発明の各元素の含有率を甲第2号証に記載された各元素の含有率に変更する際には、Si、Cr及びAlの含有率のみならず、Mnの含有率も一緒に変更することとなる。
そうすると、甲第2号証の前記(2a)によれば、Mnの含有量、すなわち、Mnの含有率は0.5?2.0%であるから、甲1発明のSi、Cr、Al及びMnの含有率を甲第2号証におけるSi、Cr、Al及びMnの含有率に変更すると、Mnの含有率は0.5?2.0%となり、本件発明1のMnの含有率である「0.001?0.20%」の範囲から外れることになる。
したがって、仮に、甲1発明の各元素の含有率を甲第2号証に記載された各元素の含有率に変更し得たとしても、本件発明1のニッケル基合金は得られない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

b 以上のとおりであるから、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。

ウ 本件発明2?16、18?20について
本件発明2?16、18?20は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2?16、18?20は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(2) 申立理由2について
特許異議申立人は、特許異議申立書12頁13?17行において、本件明細書には、発明の課題、作用効果である「火花浸食耐性及び浸食性」の評価方法が存在しないから、従来技術と比べた「耐食性」の程度、指標が認識できず、請求項1の組成範囲の中で、実際にどの値の範囲で上記効果が発揮されるのか不明で、当業者が実施できず、実施可能要件違反である旨主張している。
そこで検討するに、本件発明1は物の発明であるところ、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そうすると、本件発明1が従来技術と比べた「耐食性」の程度、指標が認識できないことや、本件発明1の組成範囲の中で、実際にどの値の範囲で効果が発揮されるのか不明であることは、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないとの根拠とはなり得ない。
そして、本件明細書の【0032】には、「本発明による合金は、好ましくは開放環境で精錬され、続いてVOD又はVLF装置中で処理される。しかしながら真空中での精錬及び注型も可能である。その後、この合金をインゴットの形又は連続鋳造物として鋳造する。」と記載されており、当該記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づけば、ニッケル基合金の各元素の含有率を本件発明1?16、18に特定されている範囲に調整して製造し、使用することは、当業者であれば、過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
したがって、本件発明1?16、18は、物の発明について実施可能要件を充足するものといえるし、それらの物の発明を引用する本件発明19?20も、実施可能要件を充足するものといえるため、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(3) 申立理由3-1について
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書12頁19行?13頁6行において、本件明細書には請求項1?20に係る発明の具体的な実施例が全くなく、発明の開示が何ら存在しないから、発明の課題を解決できるか否かを当業者が認識できず、サポート要件違反である旨主張している。
そこで検討するに、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?16、18?20についての実施例は記載されていないものの、以下の事項が記載されている。

「【0006】
2つの損傷メカニズム、つまり高温腐食と火花浸食について、酸化膜形成の種類が特に重要である。」
「【0007】
具体的な適用の場合にとって最適な酸化膜形成を達成するために、ニッケル基合金の場合には多様な合金元素が公知である。」
「【0014】
本発明の主題の課題は、製造する部材の寿命を向上させ、十分な変形性及び溶接性(加工性)と同時に、火花浸食耐性及び耐食性の向上をもたらす、ニッケル基合金を提供することである。・・・」
「【0035】
本発明によるニッケル基合金は、好ましくは、ガソリンエンジン用の点火プラグの電極用の材料として使用可能である。
【0036】
この合金についての請求された限界範囲は、従って個別に次のように理由付けられる:
耐酸化性はSi含有率の増加と共に向上する。十分に大きな耐酸化性を得るためにはSi1.5%の最低含有率が必要である。Si含有率が高い場合には加工性が悪化する。従って、上限はSi3.0%である。
【0037】
十分に高いSi含有率では、少なくとも1.5%のアルミニウム含有率が耐酸化性を更に向上させる。Al含有率が高い場合には加工性が悪化する。従って、上限はSi3.0%である。
【0038】
十分に高いSi含有率及びAl含有率では、少なくとも0.1%のクロム含有率が耐酸化性を更に向上させる。Cr含有率が高い場合には加工性が悪化する。従って、上限はCr3.0%である。
【0039】
良好な耐酸化性にとって、十分に良好な耐酸化性を保証するために、Al+Si+Crの合計が4.0%より大である必要がある。Al+Si+Crの合計が8.0%より大の場合、加工性は悪化する。
【0040】
鉄は、0.20%に制限される、というのもこの元素は耐酸化性を低下させるためである。低すぎるFe含有率は、合金の製造の際のコストを高める。従ってFe含有率は、0.005%以上である。
【0041】
Yの耐酸化性を向上させる作用を得るために、Y0.01%の最低含有率が必要である。この上限は、コストの理由で0.20%である。
【0042】
耐酸化性は、Hf、Zr、La、Ce、Tiの元素の1つ又はそれ以上を少なくとも0.001%添加する場合に更に高められ、その際、所望の耐酸化性を得るために、Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)は0.02以上でなければならない。Hf、Zr、La、Ce、Tiの元素の少なくとも1つ又はそれ以上の0.20%を越える添加はコストを高め、この場合、Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)は更に0.30以下に制限される(%で示すY、Hf、Zr、La、Ce、Tiの含有率で)。
【0043】
炭素含有率は、加工性を保証するために0.10%未満であるのが好ましい。低すぎるC含有率は、合金の製造時のコストを高める要因となる。従って、炭素含有率は0.001%より大であるのが好ましい。
【0044】
窒素は、0.10%に制限される、というのもこの元素は耐酸化性を低下させるためである。低すぎるN含有率は、合金の製造時のコストを高める要因となる。従って、窒素含有率は0.0005%より大であるのが好ましい。
【0045】
マンガンは、0.20%に制限される、というのもこの元素は耐酸化性を低下させるためである。低すぎるMn含有率は、合金の製造時のコストを高める要因となる。従って、マンガン含有率は0.001%より大であるのが好ましい。
【0046】
極めて低いMg含有率でも、硫黄の固定(Abbinden)により加工性を改善し、それにより低温で溶融するNiS共融混合物の出現は回避される。従って、Mgについては0.0001%の最低含有率が必要である。含有率が高すぎる場合、金属間Ni-Mg相が出現することがあり、この相は加工性をまた明らかに悪化させる。従って、Mg含有率は0.08%に制限される。
【0047】
酸素含有率は、合金の生産性を保証するために、0.010%未満でなければならない。少なすぎる酸素含有率は、コストを高める要因となる。従って、酸素含有率は0.0001%より大であるのが好ましい。
【0048】
硫黄の含有率は可能な限り低く保つのが好ましい、というのもこの界面活性元素は、耐酸化性を損なうためである。従ってSは最大0.015%に規定される。
【0049】
銅は、0.80%に制限される、というのもこの元素は耐酸化性を低下させるためである。
【0050】
Mgと同様に、極めて低いCa含有率も硫黄の固定(Abbinden)により加工性を改善し、それにより低温で溶融するNiS共沸混合物の出現は回避される。従って、Caについては0.0001%の最低含有率が必要である。含有率が高すぎる場合、金属間Ni-Ca相が出現することがあり、この相は加工性をまた明らかに悪化させる。従って、Ca含有率は0.06%に制限される。
【0051】
コバルトは、最大0.50%に制限される、というのもこの元素は耐酸化性を低下させるためである。
【0052】
モリブデンは、最大0.20%に制限される、というのもこの元素は耐酸化性を低下させるためである。同様のことが、タングステン、ニオブ及びバナジウムにも当てはまる。
【0053】
リンの含有率は、0.050%未満であるのが好ましい、というのもこの界面活性元素は耐酸化性を損なうためである。
【0054】
ホウ素の含有率は可能な限り低く保つのが好ましい、というのもこの界面活性元素は、耐酸化性を損なうためである。従ってBは最大0.020%に規定される。
【0055】
Pbは、最大0.005%に制限される、というのもこの元素は耐酸化性を低下させるためである。同様のことが、Zn、Sn及びBiに当てはまる。」

前記【0014】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「製造する部材の寿命を向上させ、十分な変形性及び溶接性(加工性)と同時に、火花浸食耐性及び耐食性の向上をもたらす、ニッケル基合金を提供すること」であると理解できる。
ここで、前記【0035】?【0055】の記載によれば、各元素の含有率の特定は、ガソリンエンジン用の点火プラグの電極用の材料として好ましいニッケル基合金のために行われたものであるところ、前記【0036】?【0055】には、各元素の含有率の特定が、加工性や耐酸化性の観点から行われたことが記載されており、ガソリンエンジン用の点火プラグの電極用の材料としてのニッケル基合金のための特定であることを踏まえれば、観点の1つである前記加工性は、十分な変形性及び溶接性の向上をもたらすことを意味しており、もう1つの観点である前記耐酸化性は、火花浸食耐性及び耐食性の向上をもたらすことを意味していることは、当業者にとって自明な事項であると認められる。
さらに、前記各元素の含有率の特定は、前記【0006】?【0007】の記載を考慮すると、ガソリンエンジン用の点火プラグの電極への適用という具体的な適用にとって最適な酸化膜形成を達成するために行われたことであって、それにより、製造する部材の寿命の向上がもたらされることになることも、当業者にとって自明な事項であると認められる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?16、18?20についての実施例は記載されていないものの、各元素の含有率が、本件発明1?16、18に記載された範囲内であれば、前記課題を解決できると当業者が認識できる程度に説明が記載されているということができる。
また、請求項1?16、18のいずれかを引用する本件発明19、20についても同様である。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

第9 むすび
したがって、取消理由、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?16、18?20に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?16、18?20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項17に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項17に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si 1.5?3.0%
Al 1.5?3.0%
Cr 0.1超3.0%、ここで、%で示すSi、Al及びCrの含有率は、4.0≦Al+Si+Cr≦8.0を満たし、
Fe 0.005?0.20%
Y 0.01?0.20%、Hf、Zr、La、Ce、Tiの元素の1つ以上 0.001?0.20%、ここで、%で示すY、Hf、Zr、La、Ce、Tiの含有率は、0.02≦Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)≦0.30を満たし、
C 0.001?0.10%
N 0.0005?0.10%
Mn 0.001?0.20%
Mg 0.0001?0.08%
Ca 0.0001?0.06%
O 0.0001?0.010%
S 最大0.015%
Cu 最大0.80%
Ni 残り及び通常の製造に由来する不純物
(質量%で示す)からなる、ニッケル基合金。
【請求項2】
1.8?3.0%のSi含有率(質量%で示す)を有する、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
1.9?2.5%のSi含有率(質量%で示す)を有する、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項4】
1.5?2.5%のAl含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項5】
1.6?2.5%のAl含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項6】
1.6?2.2%のAl含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項7】
0.8?3.0%のCr含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項8】
1.2?3.0%のCr含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項9】
1.9?3.0%のCr含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項10】
%で示すSi、Al及びCrの含有率が、式4.5≦Al+Si+Cr≦7.5を満たす、請求項1から9までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項11】
0.005?0.10%のFe含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項12】
0.01?0.15%のY含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項13】
0.01?0.15%のY含有率(質量%で示す)及びHf、Zr、La、Ce、Tiの元素の1つ以上 0.001?0.15%を有し、ここで、%で示すY、Hf、Zr、La、Ce、Tiの含有率は、0.02≦Y+0.5・Hf+Zr+1.8・Ti+0.6・(La+Ce)≦0.25を満たす、請求項1から12までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項14】
0.001?0.05%のC含有率(質量%で示す)及び0.001?0.05%のN含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から13までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項15】
0.001?0.10%のMn含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から14までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項16】
0.001?0.08%のMg含有率(質量%で示す)を有する、請求項1から15までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項17】
(削除)
【請求項18】
前記不純物として、最大0.50%のCo含有率、最大0.20%のW含有率、最大0.20%のMo含有率、最大0.20%のNb含有率、最大0.20%のV含有率、最大0.20%のTa含有率、最大0.005%のPb含有率、最大0.005%のZn含有率、最大0.005%のSn含有率、最大0.005%のBi含有率、最大0.050%のP含有率及び最大0.020%のB含有率を有する、請求項1から16までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項19】
請求項1から16まで、および18のいずれか1項に記載のニッケル基合金の、内燃機関の点火エレメント用の電極材料としての使用。
【請求項20】
ガソリンエンジンの点火エレメント用の電極材料としての、請求項19に記載の使用。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-08-24 
出願番号 特願2015-560547(P2015-560547)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C)
P 1 651・ 537- YAA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 静野 朋季河野 一夫  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 小川 進
亀ヶ谷 明久
登録日 2017-06-02 
登録番号 特許第6150910号(P6150910)
権利者 ファオデーエム メタルズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
発明の名称 ケイ素、アルミニウム及びクロムを有するニッケル基合金  
代理人 神谷 雪恵  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  
代理人 神谷 雪恵  
代理人 久野 琢也  
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