• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
管理番号 1344849
異議申立番号 異議2016-701145  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-14 
確定日 2018-08-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5989492号発明「抹茶入り緑茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5989492号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第5989492号の請求項1、3、4に係る特許を取り消す。 特許第5989492号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯の概略
特許第5989492号の請求項1?4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は、概ね、以下のとおりである。
平成24年10月 1日 特許出願
平成28年 8月19日 設定登録
平成28年 9月 7日 特許掲載公報発行
平成28年12月14日 特許異議申立書(特許異議申立人:天笠 勝)
平成29年 7月11日 取消理由通知書
平成29年 9月 8日 意見書(特許権者)
平成29年12月22日 取消理由通知書(決定の予告)
平成30年 2月26日 意見書(特許権者)及び訂正請求書
平成30年 4月 5日 意見書(特許異議申立人)

第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、特許第5989492号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1) 請求項1?4について
ア 訂正事項1
本件訂正前の請求項1の「(ロ) 粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数に対する、粒子径2μm以下の粒子(B)の数の割合[(B)/(A)]が0.03?0.3である、前記飲料。」を「(ロ) 粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数に対する、粒子径2μm以下の粒子(B)の数の割合[(B)/(A)]が0.04?0.25であり、2つのピークに分かれる粒度分布を有する、前記飲料。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3及び4も同様に訂正する)。
イ 訂正事項2
本件訂正前の請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
本件訂正前の請求項3の「請求項1または2記載の飲料。」を「請求項1記載の飲料。」に訂正する。
エ 訂正事項4
本件訂正前の請求項4の「請求項1?3のいずれか一項記載の飲料。」を「請求項1または3記載の飲料。」に訂正する。
2 本件訂正の適否について
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載の粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数に対する、粒子径2μm以下の粒子(B)の数の割合[(B)/(A)]の範囲を「0.03?0.3」から「0.04?0.25」とより狭く限定するとともに、粉末茶飲料が「2つのピークに分かれる粒度分布を有する」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書には、「抹茶(B)の数の抹茶(A)の数に対する割合[(A)/(B)]は、0.04?0.25であることが好まし」いことが記載され(【0012】)、「3)2つのピークに分かれる粒度分布を有する、1)又は2)に記載の飲料。」(【0006】)及び「本発明は、粒子数を特定割合に制御することで、敢えて2つのピークに分かれた粒度分布を有する抹茶飲料を調製することに最大の特徴がある。」(【0015】)、「本発明の抹茶入り緑茶飲料は、7μm以上20μm以下の粒度帯と2μm以下の粒度帯の2つに、ピークを有していた。」(【0031】)と記載されていることから、訂正事項1に係る本件訂正は、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であることは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4は、訂正事項2により、訂正前の請求項2が削除されたことにともない、訂正後の請求項3及び請求項4が、請求項2を引用しないものとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3及び4は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であることは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない
(4) さらに、本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。
(5) 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであって、同条4項、並びに同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1、3及び4に記載された事項により特定される次のとおりである。以下、本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい、総称して「本件発明」という。

【請求項1】
粉末抹茶を含有する粉末茶飲料であって、
(イ)粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数が、飲料10mL当たり150000個以上であり、
(ロ)粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数に対する、粒子径2μm以下の粒子(B)の数の割合[(B)/(A)]が0.04?0.25であり、
2つのピークに分かれる粒度分布を有する、前記飲料。
【請求項3】
粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)が乾式粉砕で得られたものである、請求項1記載の飲料。
【請求項4】
粒子径2μm以下の粒子(B)が湿式粉砕で得られたものである、請求項1または3記載の飲料。

第4 取消理由の概要
本件特許の請求項1、3及び4に係る特許に対する、取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の(1)及び(2)の点で不備のため、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない(実施可能要件違反)。
(1) 本件発明について、発明の詳細な説明の記載では、本件発明の原料の製造条件が不明であり、また、原料の粒度分布及び配合量が不明であるため、当業者は本件発明を実施することができない。
(2) 本件発明について、発明の詳細な説明の記載では、粒子径2μm以下の粒子(B)の数を測定することができないため、当業者は本件発明を実施することができない。
2 本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の(1)の点で不備のため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない(サポート要件違反)。
(1) 本件発明について、発明の詳細な説明には、「ざらつきを低減する」という本件発明の課題を解決したことについての記載はなされておらず、また、一つの実施例のみでは、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
3 本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の(1)及び(2)の点で不備のため、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない(明確性要件違反)。
(1) 本件発明において、粒子(A)の数の上限が特定されておらず、また、「粒子径」の定義が不明確である。
(2) 本件発明3及び4は、「飲料」という物についての発明であるところ、本件発明3の「粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)が乾式粉砕で得られたものである」及び本件発明4の「粒子径2μm以下の粒子(B)が湿式粉砕で得られたものである」との記載は、その物の製造方法が記載されている場合に該当するため、本件発明3及び4は不明確である。

なお、特許異議申立人は、以下の甲1?9の証拠方法を提出している。
甲1:特許第5989492号公報
甲2:Particle Measuring Systems社のウエブページの「液中パーティクルカウンター」のプリントアウト
甲3:株式会社島津製作所のウエブページの「粉博士のやさしい粉講座:実践コース 17粒度分布における体積基準と個数基準について」のプリントアウト
甲4:特願2012-219811号の拒絶査定
甲5:特開2007-53913号公報
甲6:特開2011-72321号公報
甲7:特開平8-116881号公報
甲8:特開平8-163958号公報
甲9:特願2012-219805号の拒絶査定

第4 取消理由についての判断
事案に鑑み、まず、「理由2 特許法36条6項1号」について検討する。
1 理由2(サポート要件違反)について
(1) 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高裁平成17年11月11日判決、平成17年(行ケ)第10042号)。
以下、上記の観点に立って、本件について検討する。

(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、10μm程度の粉末抹茶が有する香り立ちを保持しながら、苦渋味やざらつきを低減した粉末茶飲料を提供することにある。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、乾式粉砕で得られる10μm程度の粉末抹茶に、湿式粉砕で得られる2μm以下の微細粉末抹茶を特定の割合で配合した茶飲料が、香り立ちがよく、過剰な苦渋味が抑えられ、ざらつきが低減された優れた風味を有する茶飲料であることを見出し、本発明を完成するに至った。」
ウ 「【0017】
本発明の抹茶入り緑茶飲料中の(i)モノガラクトシルジグリセリド(MGDG)及び(ii)ジガラクトシルジグリセリド(DGDG)含量[(i)+(ii)]が、飲料1L当たり1.3?12.0mgとなるように調整すると、抹茶の深みのコクを相加的又は相乗的に増強することができる。(i)+(ii)は、1.5?10.0mgであるとより好ましく、2.0?8.0mgであるとさらに好ましく、2.5?7.0mgであると特に好ましい。【0018】
MGDGはDGDGよりも抹茶の苦渋味を抑え、コクを増強する作用が強いことから、上記範囲の中でも、特にMGDGの含量が、飲料1L当たり0.5?8.0mgとなるように調整すると効果的に本発明の効果を発揮することができる。MGDGの含量が、飲料1L当たり0.8?8.0mgであると好ましく、0.9?7.0mgであるとより好ましく、1.0?6.0mgであるとさらに好ましく、1.5?6.5mgであると特に好ましく、2.0?5.0mgであるとなお更好ましい。
【0019】
また、飲料中のMDGDとDGDGの含量比[(i)/(ii)]が、0.90?3.0、好ましくは1.0?2.8、より好ましくは1.3?2.5となるように調整するとよい。尚、MGDG量およびDGDG量は、当業者に周知の方法で測定することができる。例えば、サンプルよりグリセロ糖脂質を分離する処置を行い、分離液を逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーに供することにより測定・定量することができる。」
エ 「【0020】
抹茶(A)及び(B)を配合する茶抽出液は、特に制限されないが、非重合カテキン類やカフェインの含量が多すぎると、茶飲料の苦味・渋味成分が強くなり、抹茶の深いコクを知覚しにくくなる。したがって、本発明の抹茶入り緑茶飲料における非重合カテキン量は、飲料1L当たり100?1000mg(好ましくは100?800mg、より好ましくは120?700mg、さらに好ましくは150?600mg)とするのがよく、非重合カテキン類のうち、(iii)ガレート型カテキン、(iv)遊離型カテキンの割合が(iv)>(iii)となるように調整するのが、なおよい。具体的には、非重合カテキン類全量に対する遊離型カテキン類の割合[(iv)/((iii)+(iv))]が0.55?0.85、好ましくは0.60?0.80の比率となるように調整する。ガレート型カテキン及び遊離型カテキンは、それぞれ質の異なる苦味や渋味を有するが、上記範囲となるように調整することで、抹茶の香り立ちやコクがより一層知覚できる飲料となる。」
オ 「【0022】
さらに、本発明の抹茶入り緑茶飲料におけるカフェイン量は、飲料1L当たり100?300mg(好ましくは110?280mg、より好ましくは130?250mg、さらに好ましくは140?200mg)とするのがよい。カフェイン量も非重合カテキンと同時にHPLCを用いた方法によって、測定・定量される。」
カ 「【0023】
本発明の抹茶入り緑茶飲料は、pHが4?7、更に5?7、特に5.5?6.5であることが好ましい。pHが上記範囲内であると、MGDGやDGDGが安定的に作用する。
本発明の容器詰め飲料には、上記成分の他に、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤などの添加剤を単独、あるいは併用して配合してもよい。」
キ 「【実施例】
【0025】
以下、実験例及び実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1
(1)粉末抹茶の製造
遮光処理を施した茶葉の覆下茶を蒸したのち、冷却し、その茶葉を揉捻せずに乾燥用の碾茶機内でそのまま乾燥して得られる乾燥葉を、小片にし、茎を除いて、更に乾燥して製造した碾茶を、D90が20μm以下となるように石臼挽きし、平均粒子径が10μmとなる粉末抹茶を得た(抹茶A)。
【0026】
(2)微細化粉末抹茶の製造
碾茶を石臼で挽いて製造された抹茶を約20倍量の水に懸濁させ、この懸濁液を高圧ホモジナイザーにより10MPaの圧力で処理し、平均粒子径が2μmとなる微細化粉末抹茶を得た(抹茶B)。
【0027】
(3)茶抽出液の調製
煎茶葉の乾燥重量に対して30重量部の水を抽出溶媒として用いた。60℃の水で5分間抽出した後、茶葉を分離し、さらに遠心分離処理(6000rpm、10分)して粗大な粉砕茶組織や茶粒子などの固形分を除去して、茶抽出液を得た。
【0028】
(4)容器詰め抹茶入り緑茶飲料の調製
上記(1)及び(2)で得られた抹茶A及び抹茶Bを、上記(3)で得られた茶抽出液に対して任意の割合となるよう、それぞれ抹茶A、抹茶Bの順に添加して、抹茶入り緑茶飲料を製造した(本発明品)。比較として、抹茶Bを添加しないこと以外は同様にして抹茶入り緑茶飲料を製造した。それぞれをペットボトル容器に充填し、加熱殺菌を行った後、冷却して各成分を定量するとともに、専門パネル(5名)で官能評価を行った。測定方法を以下に示す。」
ク 「【0029】
・・・
(5)結果
本発明品と比較例の粒度分布を図1に、そのパーティクルデータを表1に示す。また、比較例のパーティクルデータから粒子(A)7μm以上20μm以下(7-20μm)の個数(個/10mL)を算出すると196678であり、2.0μm以下の粒子(B)の個数との比率[(B)/(A)]は0.0004であった。
【0030】
【表1】


【0031】
図1より明らかなとおり、本発明の抹茶入り緑茶飲料は、7μm以上20μm以下の粒度帯と2μm以下の粒度帯の2つに、ピークを有していた。
本発明品と比較例とを比較すると、本発明品は香り立ちが強く、抹茶の深いコクを有し、苦渋味が少なく、抹茶入り茶飲料として好ましい風味であるとパネル全員が評価した。」

(3) 上記記載事項アによると、本件発明が解決しようとする課題は、「10μm程度の粉末抹茶が有する香り立ちを保持しながら、苦渋味やざらつきを低減した粉末茶飲料を提供すること」であるから、本件発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。 ア 本件特許明細書には、上記課題を解決するための手段について、「乾式粉砕で得られる10μm程度の粉末抹茶に、湿式粉砕で得られる2μm以下の微細粉末抹茶を特定の割合で配合した茶飲料が、香り立ちがよく、過剰な苦渋味が抑えられ、ざらつきが低減された優れた風味を有する茶飲料であることを見出し、本発明を完成するに至った。」(【0005】)と記載されるものの、上記課題を解決できる原理について、本件特許明細書には記載されておらず、また、技術常識を考慮しても、当該原理を理解することはできない。
さらに、本件発明が、「粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)」及び「粒子径2μm以下の粒子(B)」に着目した理由についても、本件特許明細書の記載からは、理解することはできず、不明である。
そうすると、本件発明が上記課題を解決できるといえるためには、実施例で上記課題を解決し得たと確認されないと、上記課題を解決できることを確認できない。
イ そこで実施例の記載を確認すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例として、粒子径2μm以下の粒子(B)が粒子数「16000」、粒子径7-20μmの粒子(A)が粒子数「259392」で、(B)/(A)が「0.061683」である一つのものが、比較例として、粒子(A)が「196678」であり、比率[(B)/(A)]は0.0004である一つのものが記載されている。
そして、これらを比較して、「本発明品は香り立ちが強く、抹茶の深いコクを有し、苦渋味が少なく、抹茶入り茶飲料として好ましい風味であるとパネル全員が評価した。」というものである。
しかしながら、本件発明の課題である「10μm程度の粉末抹茶が有する香り立ちを保持しながら」「ざらつきを低減し」得たことについては、何等の評価がなされていない。そして、「香り立ちが強く、抹茶の深いコクを有し、苦渋味が少な」ければ、必ず「ざらつき」が低減できるとの技術常識もない。
そうすると、この点で、本件発明が、本件発明の課題を解決したものということはできないから、発明の詳細な説明に記載された発明ということはできない。
ウ なお、特許権者は、「『ざらつきの低減』に関して、図1に記載の通り、本発明品は比較品と異なり、7μm以上20μm以下の粒度帯と2μm以下の粒度帯の2つのピークを有することが示されています。即ち、大きい粒度帯(7μm以上20μ以下)に1つのピークを有する比較例に対して、本発明品では大きい粒度帯(7μm以上20μ以下)と小さい粒度帯(2μm以下)にそれぞれピークを有します。これにより、大きい粒度帯の粒子によるざらつきを低減できることを、本件特許明細書段落0015等の記載から、当業者であれば明確に理解できるはずです。」(平成29年9月8日付け意見書14ページ下から2行?15ページ6行)と主張している。
しかしながら、本件特許明細書段落0015には、「このようにして製造される本発明の茶飲料は、その粒度分布を測定すると、2つのピーク;7μm以上20μm以下の粒度帯と2μm以下の粒度帯にそれぞれピークを有する。従来、粒度分布のピークが2以上に分かれると、飲料中で粒度帯ごとに粒子が分離しやすくなり、沈殿を生じやすくなることが指摘され敬遠されてきた。本発明は、粒子数を特定割合に制御することで、敢えて2つのピークに分かれた粒度分布を有する抹茶飲料を調製することに最大の特徴がある。」と記載されているが、粒度帯が2つのピークを有することと、ざらつきの低減との関係については記載されていない。
エ また、特許権者は、「『ざらつきを低減し』得たことが実施例において確認されていないことのみをもって、『当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではない』と判断するのは適切ではありません。上記の通り、『香り立ちが強く、抹茶の深いコクを有し、苦渋味が少なく、抹茶入り茶飲料として好ましい風味である』茶飲料を提供するという効果は、本件特許明細書の実施例で実証されているのであって、本件訂正発明の課題を解決できることは当業者が認識できるはずです。」(平成30年2月26日付け意見書5ページ21?28行)、「『苦渋味やざらつきの低減』の『苦渋味』と『ざらつき』は、並列助詞である『や』で連結されています。そのため、本件訂正発明においては、『苦渋味の低減』と『ざらつきの低減』の少なくとも一方が解決されていることが明示されていれば、本件訂正発明の課題が解決できていないと認定すべきではありません。」(同意見書6ページ11?15行)とも主張している。
しかしながら、本件特許明細書には、以下の記載がなされている。
背景技術について:「乾式粉砕した茶葉を直接添加、あるいはその懸濁液を添加することにより、緑茶本来の食感を付与することもできるが、乾式粉砕した微粒子の粒度は10μm程度であり、ざらつきのある食感で、香り立ちは強いが、苦渋味が強い結果となる場合があった。」(【0002】)
発明が解決しようとする課題について:「本発明の目的は、10μm程度の粉末抹茶が有する香り立ちを保持しながら、苦渋味やざらつきを低減した粉末茶飲料を提供することにある。」(【0004】)
課題を解決するための手段について:「乾式粉砕で得られる10μm程度の粉末抹茶に、湿式粉砕で得られる2μm以下の微細粉末抹茶を特定の割合で配合した茶飲料が、香り立ちがよく、過剰な苦渋味が抑えられ、ざらつきが低減された優れた風味を有する茶飲料であることを見出し、本発明を完成するに至った。」(【0005】)
そして、上記【0004】の「本発明の目的は、10μm程度の粉末抹茶が有する香り立ちを保持しながら、苦渋味やざらつきを低減した粉末茶飲料を提供することにある。」は、文言上、「苦渋味の低減」と「ざらつきの低減」のいずれか一方を解決課題としていると解することはできないし、上記【0002】及び【0005】を併せてみれば、ざらつき低減を課題としていることは明らかである。
オ さらに、発明の詳細な説明において、「本発明品は香り立ちが強く、抹茶の深いコクを有し、苦渋味が少なく、抹茶入り茶飲料として好ましい風味であるとパネル全員が評価した。」とされたものは、実施例として開示された抹茶A(平均粒子径10μm)と抹茶B(平均粒子径2μm)を茶抽出液に添加して製造した「本発明品」であって、粒子径2μm以下の粒子(B)が粒子数「16000」、粒子径7-20μmの粒子(A)が粒子数「259392」で、(B)/(A)が「0.061683」であるもの一例のみである。
一方、比較例は、「抹茶B」を添加しないこと以外は実施例と同様に製造したものであって、粒子(A)は、196678個(上記(2)記載事項ク)、粒子(B)は、79個(=196678×0.0004)であるもの一例のみである。
そして、本件特許明細書の上記(2)記載事項ウ?カによると、抹茶の苦渋味、深みのコク、香り立ち等にMGDG、DGDG、ガレート型カテキン、遊離型カテキン、カフェイン等の含有量が影響するところ、実施例と比較例とにおいて、MGDG等の条件がそろえられたものとはいえないから、これらの比較は、粒子(A)、(B)の数や(B)/(A)の影響を評価したものとはいえない。
そうすると、実施例の記載は、抹茶Bの有無が相違する各一例を比べたにすぎず、粒子(A)の数とか、(B)/(A)というパラメータ以外の条件をそろえた上で、これらのパラメータを変化させて、その影響をみたものではない。
よって、「(イ)粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数」や「(ロ)粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数に対する、粒子径2μm以下の粒子(B)の数の割合[(B)/(A)]」というパラメータを選択して、これらのパラメータのみを特定することで「香り立ちが強く、抹茶の深いコクを有し、苦渋味が少なく、抹茶入り茶飲料として好ましい風味である」とできる根拠が不明であり、上記一つの実施例のものから、「(イ)粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数が、飲料10mL当たり150000個以上であり、
(ロ) 粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数に対する、粒子径2μm以下の粒子(B)の数の割合[(B)/(A)]が0.04?0.25」のすべての範囲において、少なくとも「香り立ちが強く、抹茶の深いコクを有し、苦渋味が少なく、抹茶入り茶飲料として好ましい風味である」とできる根拠はなく、当該範囲に拡張ないし一般化することはできない。
カ なお、特許権者は、「MGDG等の他の成分の含有量を調整は、抹茶の苦渋味やコクをより好ましくするという点で補助的な効果を有するものであって、解決すべき課題との関係において必須の構成をなすというものではありません。」(平成30年2月26日意見書12ページ4?7行)と主張する。
しかしながら、「抹茶(A)及び(B)を配合する茶抽出液は、特に制限されないが、非重合カテキン類やカフェインの含量が多すぎると、茶飲料の苦味・渋味成分が強くなり、抹茶の深いコクを知覚しにくくなる。」(本件特許明細書【0020】)ものであることを踏まえると、(B)/(A)が0.061683とした実施例が、本件発明の課題を解決し得えたとしても、ガレート型カテキン、遊離型カテキン、カフェイン等を実施例に比べて多量に含んだ飲料が、本件発明の課題を解決し得るかは不明であるし、まして、[(B)/(A)]について0.04?0.25の全ての範囲で、本件発明の課題を解決し得たということができないことは明らかである。
また、特許権者は、「訂正後の請求項1の(B)/(A)の下限値は、本件実施例で効果の発現が確認された『0.061683』から若干低い『0.04』です。一方、本件特許明細書の実施例では、(B)/(A)が「0.0004」の茶飲料と比較例として記載されています。このような本件特許明細書の記載や実施例に接した当業者であれば、(B)/(A)が『0.061683』から若干低い『0.04』でも発明の課題が解決できると理解するはずです。」と主張している(平成30年2月26日意見書9ページ17?23行)。
しかしながら、粒子径2μm以下の粒子(B)が粒子数「16000」、粒子径7-20μmの粒子(A)が粒子数「259392」で、(B)/(A)が「0.061683」である一つの実施例が、仮に本件発明の課題を解決し、(B)/(A)が「0.0004」の比較例が本件発明の課題を解決し得ないものであるとしても、上記オで述べたとおり、本件発明の課題を解決することについて、実施例の記載は、(B)/(A)の影響をみたものとはいえないから、(B)/(A)を「0.04」とした本件発明が、本件発明の上記課題を解決し得たということはできない。
よって、上記特許権者の主張は採用できない。
キ したがって、実施例の記載によって、本件発明が、本件発明の課題を解決できると確認することはできない。
(4) 以上のとおり、特許請求の範囲に記載された本件発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
よって、本件発明1、3及び4に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。

第5 むすび
以上のとおり、請求項1、3及び4に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消されるべきである。
また、上記第2のとおり、本件訂正が認められることにより、請求項2は削除され、本件特許の請求項2に対して、特許異議申立人がした本件特許異議の申立てについては、その対象となる請求項が存在しない。
よって、本件特許の請求項2についての本件特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法120条の8で準用する同法135条の規定により、却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末抹茶を含有する粉末茶飲料であって、
(イ)粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数が、飲料10mL当たり150000個以上であり、
(ロ)粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)の数に対する、粒子径2μm以下の粒子(B)の数の割合[(B)/(A)]が0.04?0.25であり、
2つのピークに分かれる粒度分布を有する、前記飲料。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
粒子径7μm以上20μm以下の粒子(A)が乾式粉砕で得られたものである、請求項1記載の飲料。
【請求項4】
粒子径2μm以下の粒子(B)が湿式粉砕で得られたものである、請求項1または3記載の飲料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-07-18 
出願番号 特願2012-219850(P2012-219850)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (A23F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 福間 信子  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 窪田 治彦
山崎 勝司
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5989492号(P5989492)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 抹茶入り緑茶飲料  
代理人 梶田 剛  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 中村 充利  
代理人 梶田 剛  
代理人 中村 充利  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ