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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M |
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管理番号 | 1344851 |
異議申立番号 | 異議2018-700146 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-02-22 |
確定日 | 2018-09-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6187664号発明「リチウムイオン電池用外装材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6187664号の請求項1?4に係る特許を取り消す。 |
理由 |
特許第6187664号(平成24年 3月21日に出願した特願2012-63713号の一部を平成28年10月 5日に新たな特許出願としたもの)の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?4に記載された以下の事項により特定されるとおりのものであると認める。 「【請求項1】 基材層の一方の面側に、第1接着層を介して少なくとも金属箔層、腐食防止処理層、第2接着層及びシーラント層が順次積層されたリチウムイオン電池用外装材であって、 前記基材層が、JIS K 7209:2000で規定される吸水率が0.1%以上3%以下で、下記引張試験における10%延伸時の応力値がMD方向及びTD方向共に110MPa以下で、かつMD方向及びTD方向の少なくとも一方で70MPa以上であるナイロンフィルムからなることを特徴とするリチウムイオン電池用外装材。 (引張試験) 23℃、40%RHの環境下で試料を24時間保管した後、23℃、40%RHの環境下、試料幅6mm、標点間距離35mm、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行い、10%延伸時(変位量3.5mm)の応力値を測定する。 【請求項2】 前記ナイロンフィルムの前記引張試験による10%延伸時の応力値がMD方向及びTD方向共に70MPa以上110MPa以下である請求項1に記載のリチウムイオン電池用外装材。 【請求項3】 前記ナイロンフィルムの厚さが10?40μmである請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用外装材。 【請求項4】 前記ナイロンフィルムに熱可塑性ポリエステルエラストマーが2質量%以上30質量%以下含有されている請求項1?3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用外装材。」 これに対して、平成30年 4月26日付けで当審より以下の取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。 1 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 発明の詳細な説明は、本件発明1?4を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 その理由は、特許異議申立書第8頁第21行?第10頁第12行及び第10頁第23行左から第17文字目?第10頁最終行に記載のとおりである。ただし、第10頁第23行の「上記課題を解決できる」という記載を除く。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。 その理由は、特許異議申立書第11頁第1行?第12頁第18行に記載のとおりである。 そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件請求項1?4に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 なお、上記取消理由において引用した特許異議申立書の引用箇所の記載は以下のとおりである。 1 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (特許異議申立書第8頁第21行?第10頁第12行及び第10頁第23行左から第17文字目?第10頁最終行。ただし、第10頁第23行の「上記課題を解決できる」という記載を除く。) 「ウ ナイロンフィルムなどのポリアミド樹脂は、水がアミド基を配位するために吸水性であることがその大きな特徴であることは、当業者に広く知られた周知の事項である。 例えば、甲第1号証には、以下のように記載されている。 甲第1号証:「包装技術便覧」社団法人日本包装技術協会(1995年7月1日)483?484頁及び奥付の写し ・「ポリアミドのもう一つの特徴は、水がアミド基と配位するため親水性であることである。」(484頁18?21行) これに対して、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムは吸水率が低く、湿度環境によるフィルム特性の変化が小さいことが、本件明細書【0019】段落にも記載されているとおり、当業者に周知のことである。これらのことは、例えば、甲第2号証の記載の以下の記載によっても確認することができる。 甲第2号証:「プラスチックフィルム・レジン材料総覧‘93」加工技術研究会(1992年12月10日)299頁、308頁、311?312頁、321頁、341頁及び奥付 ・「ポリエステルフィルム(輸入フィルム)SKYROL 吸水率 0.6%以下)」(299頁) ・「ポリエステルフィルム ダイアホイル ダイアホイルは、テレフタル酸とエチレングリコールとの縮重合によって得られるポリエチレンテレフタレートを原料とした二軸延伸フィルムである。 吸水率 0.3%」(308頁) ・「ポリエステルフィルム テイジンテトロンフィルム 表2 代表的プラスチックフィルムの特性値 項目 単位 ポリエステルPET 吸水率 % 0.3」(311?312頁) ・「ポリエステルフィルム ダイアラミー ポリエステルフィルム(PET)は、機械的、電気的、熱的に優れた特徴を持ったフィルム・・・ 吸水率 % 0.7」(321頁) ・「二軸延伸ナイロンフィルム ボニール ナイロン6を原料としたチューヴラー方式による同時二軸延伸フィルム。 吸水率 重量% 20℃水中 10」(341頁) (なお、本件特許で特定する「JIS K 7209:2000」は、プラスチック吸水率の求め方に関する規格であり、ISO 62:1999,Plastics-Determination of water absorption を翻訳し、技術的内容及び規格、票の様式を変更することなく作成した日本工業規格であり、国際規格に整合したものであるから(甲第3号証:「JIS K 7209:2000、プラスチック-吸水率の求め方」の写し、http://kikakurui.com/k7/k7209-2000-02.htm)、上記のデータと同様な数値が得られると考えられる。) 以上の記載によれば、ポリエステルフィルムは、0.3?0.7%と吸水率が低いのに対して、ナイロンフィルムは10%のような高い吸水率を示すことが容易に理解できる。そして、上に述べたとおり、このことは本件出願前に、当業者には周知のことであった。 そして、一般にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとナイロンフィルムでは、湿度環境によるフィルム特性の変化の程度を含め、そのフィルム特性が大きく相違するものであること、湿度環境によるフィルム特性の変化にはフィルムの吸水性が大きく影響することも当業者に周知の事項である。」 「本件明細書には、」「ナイロンフィルムを使用した基材層については、当業者が過度の負担なく実施できるような記載を見出すことができない。 したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (特許異議申立書第11頁第1行?第12頁第18行) 「(2)特許法第36条第6項第1号(特許法第113条第4号) ア 上記(1)アでも述べたとおり、本件発明が解決しようとする課題は、「湿度環境に関わらず優れた成型性が得られるリチウムイオン電池用外装材の提供」である(本件明細書【0007】?【0008】段落)。 しかしながら、上記課題を解決することができることを当業者が認識できるように記載されているのは、本件発明の範囲外であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用した基材層を有するリチウムイオン電池用外装材だけである。 本件明細書には、ナイロンフィルムを使用した実施例は、一切記載されておらず、ナイロンフィルムについて本件明細書から確認できることは、比較例4において、本件発明の課題を解決できないということだけである。これは、単に従来技術の課題(解決すべき課題)を提示しているだけに過ぎない。 イ 本件明細書の【0010】段落には、以下のように記載されている。 【0010】 前記ナイロンフィルムは、前記引張試験による10%延伸時の応力値がMD方向及びTD方向共に70MPa以上110MPa以下であることが好ましい。 また、前記ナイロンフィルムの厚さは10?40μmであることが好ましい。 また、前記ナイロンフィルムは、熱可塑性ポリエステルエラストマーが2質量%以上30質量%以下含有されていることが好ましい。 しかし、分割出願である本件特許の原出願である特願2012-63713の出願当初の明細書における対応する記載は、以下のとおりである(甲第4号証:特開2013-196947号公報)。 【0010】 前記樹脂フィルムは、前記引張試験による10%延伸時の応力値がMD方向及びTD方向共に70MPa以上110MPa以下であることが好ましい。 また、前記樹脂フィルムは、厚さ10?40μmのポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。 また、前記樹脂フィルムは、熱可塑性ポリエステルエラストマーが2質量%以上30質量%以下含有されていることが好ましい。 すなわち、本件明細書の【0010】段落の記載は、原出願の出願当初の明細書における「樹脂フィルム」という記載を、分割出願するにあたって、「ナイロンフィルム」に単に置き換えただけである、原出願において発明の課題を解決できることが示されていた「樹脂フィルム」は、「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム」であるから、明細書の【0010】段落の記載は、本件発明が課題を解決できることを何ら示すものではない。同様に【0009】段落も、原出願の「樹脂フィルム」を単に置き換えただけもののであり、ナイロンフィルムによって、本件発明の課題を解決できることを示す根拠にはなり得ない。 ウ 以上のとおり、本件明細書にはナイロンフィルムを使用した実施例は、一切なく、ナイロンフィルムについて本件明細書から確認できることは、比較例4において本件発明の課題を解決できなかったということだけである。 本件明細書には、本件発明が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていない。 したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えているので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」 |
異議決定日 | 2018-08-02 |
出願番号 | 特願2016-197385(P2016-197385) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Z
(H01M)
P 1 651・ 536- Z (H01M) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 守安 太郎 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
結城 佐織 長谷山 健 |
登録日 | 2017-08-10 |
登録番号 | 特許第6187664号(P6187664) |
権利者 | 凸版印刷株式会社 |
発明の名称 | リチウムイオン電池用外装材 |
代理人 | 伏見 俊介 |
代理人 | 鈴木 史朗 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 高橋 詔男 |