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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  E21D
管理番号 1344854
異議申立番号 異議2018-700512  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-20 
確定日 2018-10-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6253630号発明「合成セグメント、リング及び沈設構造物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6253630号の請求項1ないし3、11ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6253630号の請求項1?16に係る特許についての出願は、平成27年12月3日の出願であって、平成29年12月8日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成30年6月20日付けで特許異議申立人出川栄一郎(以下「申立人」という。)より請求項1?3及び11?13に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許異議の申立てについて
1 請求項1?3及び11?13に係る発明
請求項1?3及び11?13に係る発明(以下、「本件発明1」等、あるいはまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3及び11?13に記載された、以下のとおりのものである。

本件発明1
【請求項1】
地中に埋設される沈設構造物を構成する合成セグメントであって、
前記沈設構造物の外壁を形成するプレートと、前記沈設構造物の軸線方向における前記プレートの両端部に立設された主桁とを備える外側ピースと、
前記沈設構造物の内壁を形成するプレートと、前記沈設構造物の軸線方向における前記プレートの両端部に立設された主桁とを備える内側ピースと、
前記外側ピースと前記内側ピースとを互いに離間した状態において連結する連結ピースと、
前記外側ピースと前記内側ピースとの間に設けられた中詰材と、
を備え、
前記外側ピースは、該外側ピースの前記主桁間に設けられた補剛材を備え、
前記外側ピース及び前記内側ピースそれぞれの長手方向における両端部間において、前記外側ピース及び前記内側ピースを連結する中間連結部材は、前記補剛材に固定されている、
ことを特徴とする合成セグメント。

本件発明2
【請求項2】
地中に埋設される沈設構造物を構成する合成セグメントであって、
前記沈設構造物の外壁を形成するプレートと、前記沈設構造物の軸線方向における前記プレートの両端部に立設された主桁とを備える外側ピースと、
前記沈設構造物の内壁を形成するプレートと、前記沈設構造物の軸線方向における前記プレートの両端部に立設された主桁とを備える内側ピースと、
前記外側ピースと前記内側ピースとを互いに離間した状態において連結する連結ピースと、
前記外側ピースと前記内側ピースとの間に設けられた中詰材と、
を備え、
前記内側ピースは、該内側ピースの前記主桁間に設けられた補剛材を備え、
前記外側ピース及び前記内側ピースそれぞれの長手方向における両端部間において、前記外側ピース及び前記内側ピースを連結する中間連結部材は、前記補剛材に固定されている、
ことを特徴とする合成セグメント。

本件発明3
【請求項3】
前記内側ピースは、該内側ピースの前記主桁間に設けられた補剛材を備えることを特徴とする請求項1に記載の合成セグメント。

本件発明11
【請求項11】
地中に沈設される沈設構造物を構成する合成セグメントを複数連結してなるリングであって、
前記合成セグメントは、
前記沈設構造物の外壁を形成するプレート、及び前記沈設構造物の軸線方向における前記プレートの両端部に立設された主桁を備える外側ピースと、
前記沈設構造物の内壁を形成するプレート、及び前記沈設構造物の軸線方向における前記プレートの両端部に立設された主桁を備える内側ピースと、
前記外側ピースと前記内側ピースとを互いに離間した状態において連結する複数の連結ピースと、
前記外側ピースと前記内側ピースの間に設けられている中詰材と、
を備え、
前記外側ピースは、該外側ピースの前記主桁間に設けられた補剛材を備え、
前記外側ピース及び前記内側ピースそれぞれの長手方向における両端部間において、前記外側ピース及び前記内側ピースを連結する中間連結部材は、前記補剛材に固定されている、
ことを特徴とするリング。

本件発明12
【請求項12】
地中に沈設される沈設構造物を構成する合成セグメントを複数連結してなるリングであって、
前記合成セグメントは、
前記沈設構造物の外壁を形成するプレート、及び前記沈設構造物の軸線方向における前記プレートの両端部に立設された主桁を備える外側ピースと、
前記沈設構造物の内壁を形成するプレート、及び前記沈設構造物の軸線方向における前記プレートの両端部に立設された主桁を備える内側ピースと、
前記外側ピースと前記内側ピースとを互いに離間した状態において連結する複数の連結ピースと、
前記外側ピースと前記内側ピースの間に設けられている中詰材と、
を備え、
前記内側ピースは、該内側ピースの前記主桁間に設けられた補剛材を備え、
前記外側ピース及び前記内側ピースそれぞれの長手方向における両端部間において、前記外側ピース及び前記内側ピースを連結する中間連結部材は、前記補剛材に固定されている、
ことを特徴とするリング。

本件発明13
【請求項13】
前記内側ピースは、該内側ピースの前記主桁間に設けられた補剛材を備えることを特徴とする請求項11に記載のリング。


2 特許異議申立て理由の概要
請求項1?3及び11?13に係る特許に対しての特許異議申立て理由の要旨は、次のとおりである。
(1)本件特許の請求項1?3及び11?13に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。


3 甲各号証の記載
甲第1号証:榊利博他3名、「MMST工法における合成構造のせん断補強効果」、土木学会年次学術講演会講演概要集、1997年、第52回、第5部門、第472-473頁
甲第2号証:特開2004-11327号公報

(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「MMST(Multi-Micro Shield Tunneling)工法とは、トンネル外殻部を複数の小断面矩形シールドにより先行掘削し、これらを相互に連結して外殻部躯体を構築した後、内部土砂を掘削して大断面トンネルとする工法である。MMST鋼殻は形鋼を用いた主桁とスキンプレートとしての鋼板から構成され、小断面矩形シールド掘進時にはシールドの覆工体として働き、外殻部躯体構築後には鋼殻内部に打設されるコンクリートと一体化してSC構造部材となる。」(472頁8行?12行)

(イ)「実験に用いた試験体はトンネル外殻部躯体の1リング分を取り出した1/2縮尺で、図-1に示すような長さ11m、高さ1.25m、幅0.6m、せん断スパン比3.5のSC梁である。中柱はコンクリート打設前にシールド掘削による土圧等を支持する目的で主桁とのボルト接合によって設置されるものであるが、コンクリート打設後にはせん断補強鋼材としての効果が期待される。しかし、その間隔が比較的大きいためどの程度の効果があるかは明確でない。また、向いあった縦リブ同士を利用してせん断補強鉄筋を配置すれば、せん断耐力が向上するとともにその配置がより分散される。この方法によればせん断補強鉄筋はシールド通過後に設置することができ、シールドの掘進に影響を及ぼさないという利点もある。そこで、中柱のみの場合(ケース1)および中柱とせん断補強鉄筋を設置した場合(ケース2)の2ケースについて2点載荷実験を実施し、中柱およびせん断補強鉄筋のせん断補強効果について検討した。」(472頁19行?27行)

(ウ)図-1のうち、「側面図」の部分、及び「断面拡大図」の部分には、それぞれ以下の図示および注記がある。


イ 上記記載から、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)上記ア(ア)より、甲第1号証には、「トンネル外殻部を複数の小断面矩形シールドにより先行掘削し、これらを相互に連結して外殻部躯体を構築した後、内部土砂を掘削して大断面トンネルとする、MMST工法に用いるMMST鋼殻」なる技術的事項が記載されている。

(イ)上記ア(ア)より、甲第1号証には、「MMST鋼殻」と、「MMST鋼殻内部に打設されるコンクリート」とからなる「SC構造部材」なる技術的事項が記載されている。

(ウ)上記ア(イ)より、甲第1号証には、SC構造部材は「長さ11m、高さ1.25m、幅0.6m」であるという技術的事項が記載されている。
(エ)上記ア(ウ)の断面拡大図より、甲第1号証には、MMST鋼殻及びSC構造部材は、サイズ「1,250」である高さ方向上側に「スキンプレート」を有するという技術的事項が記載されている。

(オ)上記ア(ア)「形鋼を用いた主桁」なる記載、上記ア(ウ)の側面図において「主桁」の矢印が高さ方向上側の部材に示されている点、同「主桁」がサイズ「11,000」である長さ方向に延在している点、及び同図中の「主桁;H_150*75*5*7 C_150*40*5*7」の注記、並びに上記ア(ウ)の断面拡大図において高さ方向上側の「スキンプレート」のサイズ「600」の幅方向の両端部に「C」形の主桁が、同幅方向の中央部に「H」形の主桁が図示されている点から、甲第1号証には、「高さ方向上側のスキンプレート」、「高さ方向上側のスキンプレートの幅方向両端部に設けられ、長さ方向に延在するC形鋼の主桁」、「高さ方向上側のスキンプレートの幅方向中央部に設けられ、長さ方向に延在するH形鋼の主桁」という技術的事項が記載されている。

(カ)上記ア(ウ)の断面拡大図における「縦リブ L_90*90*6」の注記、及び同図中で高さ方向上側の「C」「H」の主桁間及び「H」「C」の主桁間に「縦リブ」が幅方向に延在している様子より、甲第1号証には、「高さ方向上側のC形鋼主桁-H形鋼主桁間及びH形鋼主桁-C形鋼主桁間に設けられ、幅方向に延在する、L形の縦リブ」という技術的事項が記載されている。

(キ)上記ア(ウ)の断面拡大図では、高さ方向上側の部分にしか「スキンプレート」及び「縦リブ」の注記の矢印が示されておらず、高さ方向下側の部分にしか「主桁」の矢印が示されていない。しかし、側面図では「主桁」の矢印が高さ方向上側の部分に示されている点、側面図及び断面図において高さ方向上側と下側の図示が同様である点、また上記ア(ア)のとおり「主桁とスキンプレートとしての鋼板」からなる「MMST鋼殻」は「小断面矩形シールド」として「掘削」を行う機能を担う点を考慮すると、MMST鋼殻は高さ方向下側にも、高さ方向上側と同様の「スキンプレート」及び各「主桁」を備えることが明らかである。
すなわち、甲第1号証には、「高さ方向下側のスキンプレート」、「高さ方向下側のスキンプレートの幅方向両端部に設けられ、長さ方向に延在するC形鋼の主桁」、「高さ方向下側のスキンプレートの幅方向中央部に設けられ、長さ方向に延在するH形鋼の主桁」という技術的事項が、記載されている。

(ク)上記ア(ウ)の断面拡大図において、高さ方向の下側にも、高さ方向上側の「縦リブ」と同様の部材が図示されている点から、甲第1号証のMMST鋼殻において、高さ方向下側にも、高さ方向上側と同様の「縦リブ」が存在することは明らかである。すなわち、甲第1号証には、「高さ方向下側のC形鋼主桁-H形鋼主桁間及びH形鋼主桁-C形鋼主桁間に設けられ、幅方向に延在する、L形の縦リブ」という技術的事項が記載されている。

(ケ)上記ア(イ)より、「中柱」は「主桁とのボルト接合」により設置され、「コンクリート打設前」には「シールド掘削による土圧」等を支持するとともに、「コンクリート打設後」には「せん断補強材」となるものである。また上記ア(ウ)の断面拡大図で、「中柱」は高さ方向上側かつ幅方向中央の「H」形の「主桁」と、高さ方向下側かつ幅方向中央の「H」形の「主桁」との間で、接合されている。すなわち、甲第1号証には、「高さ方向上側のスキンプレートの幅方向中央部のH形鋼主桁、及び、高さ方向下側のスキンプレートの幅方向中央部のH形鋼主桁の両者とボルト接合され、コンクリート打設前にシールド掘削による土圧を支持し、コンクリート打設後にはせん断補強鋼材となる中柱」という技術的事項が記載されている。

(コ)上記ア(イ)より、「せん断補強鉄筋」は、「向い合った縦リブ同士を利用して」設けられるものである。また上記ア(ウ)の断面拡大図において、「せん断補強鉄筋」は高さ方向に向い合った「縦リブ」同士を利用して配置されており、同側面図によれば「せん断補強鉄筋」は長さ方向の複数箇所に設けられている。すなわち、甲第1号証には、「高さ方向に向かい合った縦リブ同士を利用して、長さ方向の複数箇所に設けられた、せん断補強鉄筋」という技術的事項が記載されている。

ウ 甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証には、上記ア及びイを踏まえると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「トンネル外殻部を複数の小断面矩形シールドにより先行掘削し、これらを相互に連結して外殻部躯体を構築した後、内部土砂を掘削して大断面トンネルとする、MMST工法に用いるMMST鋼殻と、MMST鋼殻内部に打設されるコンクリートと、からなるSC構造部材であって、
長さ11m、高さ1.25m、幅0.6mであり、
高さ方向上側のスキンプレートと、
高さ方向上側のスキンプレートの幅方向両端部に設けられ、長さ方向に延在するC形鋼の主桁と、
高さ方向上側のスキンプレートの幅方向中央部に設けられ、長さ方向に延在するH形鋼の主桁と、
高さ方向上側のC形鋼主桁-H形鋼主桁間及びH形鋼主桁-C形鋼主桁間に設けられ、幅方向に延在する、L形の縦リブと、
高さ方向下側のスキンプレートと、
高さ方向下側のスキンプレートの幅方向両端部に設けられ、長さ方向に延在するC形鋼の主桁と、
高さ方向下側のスキンプレートの幅方向中央部に設けられ、長さ方向に延在するH形鋼の主桁と、
高さ方向下側のC形鋼主桁-H形鋼主桁間及びH形鋼主桁-C形鋼主桁間に設けられ、幅方向に延在する、L形の縦リブと、
高さ方向上側のスキンプレートの幅方向中央部のH形鋼主桁、及び、高さ方向下側のスキンプレートの幅方向中央部のH形鋼主桁の両者とボルト接合され、コンクリート打設前にシールド掘削による土圧を支持し、コンクリート打設後にはせん断補強鋼材となる中柱と、
高さ方向に向かい合った縦リブ同士を利用して、長さ方向の複数箇所に設けられた、せん断補強鉄筋と、
MMST鋼殻内部に打設されるコンクリートと、
を備える、SC構造部材。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)段落【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、地下構造物として使用する立坑や橋梁基礎等に用いられるニューマチックケーソン工法によるケーソンに関するものである。」

(イ)段落【0007】
「【0007】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を達成するため、請求項1に記載の発明は、下側に作業室を有する作業室スラブと該作業室スラブの上側に設けられたケーソン躯体とを有するケーソンにおいて、前記ケーソン躯体は、コンクリート等を充填する複数の甲枠が配設され、該隣接する甲枠同士が接合されて構成されており、前記甲枠は、複数の補強材が設けられたフレームと、該フレームの外側面又は内側面を覆う側壁板とを有していることを特徴としている。」

(ウ)段落【0015】
「【0015】
まず、構成を説明すると、図1中符号20はケーソンで、このケーソン20は作業室スラブ23の上側に、複数の甲枠40で構成されたケーソン躯体21が設けられている。また、作業室スラブ23の下側には、刃口23aと地山Gで囲まれた作業室25が設けられている。そして、そのケーソン躯体21の内側には、作業室25上方に作業員が昇降するマンシャフト26が立設され、このマンシャフト26の上部には作業員が出入りするマンロック27が設けられている。さらにマンシャフト26とは別にマテリアルシャフト28が立設され、このマテリアルシャフト28の上部にはマテリアルロック29が設けられている。」

(エ)段落【0021】-【0022】
「【0021】
なお、この実施の形態1においては、ケーソン躯体21の環状形は円形に構築したが、形状には限定されず、環状の止水性のある形状であれば正方形、長方形、または楕円形でも適用できる。
【0022】
さらに、甲枠40は、鋼板部材で形成されているがこれに限定されず、合成樹脂板も適用できる。そして、フレーム41は、鋼板部材を用いて形成されているが、これに限定されず、アングル、チャンネル又はH鋼部材等を用いることもできる。また、側壁板42をフレーム41の外側面に設けているが、フレーム41の内側面に設けても良い。そして、側壁板42をフレーム41の外側面に設ける場合には、後述する沈下堀削行程によりケーソン20が沈下すると側壁板42は地山G中に沈下され酸化され難い状態となり酸化を防止するための塗装等の表面処理を行う必要がない。また、側壁板42をフレーム41の内側面に設ける場合には酸化を防止するために塗装等の表面処理が行われている。」

(オ)段落【0030】
「【0030】
なお、ケーソン躯体21において周囲の土圧や水圧が大きく、ケーソン躯体21の剛性を確保することが難しい場合には、甲枠40のフレーム41や内部空間40aに鉄筋や鉄骨等の補強体を配置してから充填材34を打設して剛性を高めても良い。」

(カ)段落【0034】
「【0034】
以上のケーソン躯体21を形成する甲枠接合行程およびケーソン躯体構築行程と沈下堀削行程とを繰り返して、所定の深さまでケーソン20を沈下させていく。」

(キ)段落【0041】-【0042】
「【0041】
この実施の形態2は、図8及び図9に示すように、ケーソン躯体21を構築している甲枠40のフレーム41の外側面と内側面全体を覆う一対の側壁板42が設けられている。
【0042】
また、この複数の甲枠40が隣接して環状に連結された甲枠40の両側壁板42の間の内部空間40aには、砕石、砂、土砂、処理土、コンクリート等の充填材34が打設されて環状に配設された甲枠40を一体に形成してケーソン躯体21を構築している。」

イ 甲第2号証に記載された発明の認定
甲第2号証には、上記アを踏まえると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「地下に沈下されるケーソン20は、ケーソン躯体21と作業室スラブ23とにより構成される地下構造物であり、
作業室スラブ23の上側に、複数の甲枠40で構成されたケーソン躯体21が設けられ、作業室スラブ23の下側に、刃口23aと地山Gで囲まれた作業室25が設けられており、
ケーソン20を構成するケーソン躯体21は、土圧が作用される外側面と内側面を有し、甲枠40を複数連結してなる環状をなし、
ケーソン躯体21を構成する甲枠40は、鋼板部材よりなり、フレーム41の外側面と内側面全体を覆う一対の側壁板42とを備え、コンクリート等の充填材34が充填される、
ケーソン躯体21を形成する甲枠接合行程およびケーソン躯体構築行程と沈下掘削行程とを繰り返して、所定の深さまでケーソン20を沈下させていく、
ケーソン20。」


4 特許法第29条第2項(進歩性欠如違反)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明とを、対比する。
甲1発明が、「MMST鋼殻」と「内部に打設されるコンクリート」とからなる「SC構造部材」である点は、本件発明1における「合成セグメント」に相当する。甲1発明において、SC構造部材が相互に連結して構築するトンネル外殻部の躯体は、本件発明1における「構造物」に相当する。
甲1発明において、高さ方向上側のスキンプレートと高さ方向下側のスキンプレートとの間の中柱がシールド掘削中の土圧を支持し、シールド掘削後にこれらを相互に連結して外殻部躯体を構築した後、内部土砂を掘削して大断面トンネルとすることから、少なくともトンネルの上側では、高さ方向上側のスキンプレートが、本件発明1における「構造物の外壁を構成するプレート」に相当し、高さ方向下側のスキンプレートが、本件発明1における「構造物の内壁を構成するプレート」に相当する。また、各スキンプレートの幅方向両端部に延在するC形鋼の主桁は、本件発明1における「プレートの両端部に立設された主桁」に相当する。そして、甲1発明における高さ方向上側の、スキンプレート及びC形鋼の主桁との組合せは、本件発明1における「外側ピース」に相当し、甲1発明における高さ方向下側の、スキンプレート及びC形鋼の主桁との組合せは、本件発明1における「内側ピース」に相当する。
甲1発明において、中柱及びせん断補強鉄筋は、これらを介して高さ方向上下側のスキンプレート及び主桁が接続されているから、本件発明1における「外側ピースと内側ピースとを互いに離間した状態において連結する連結ピース」に相当する。
甲1発明において、MMST鋼殻の内部に打設されるコンクリートは、高さ方向上側及び下側のスキンプレート及び主桁の間の空間に充填されているから、本件発明1における「外側ピースと内側ピースとの間に設けられた中詰材」に相当する。
甲1発明において、高さ方向上側のスキンプレートのC形鋼主桁-H形鋼主桁間及びH形鋼主桁-C形鋼主桁間に設けられたL形の縦リブは、結局のところ幅方向両端部の2つのC形鋼主桁の間に存在するから、本件発明1における「外側ピースの主桁間に設けられた補剛材」に相当する。
甲1発明において、せん断補強鉄筋は、スキンプレートの長さ方向の複数箇所に、高さ方向に向かい合った縦リブ同士を利用して設けられているから、本件発明1における「外側ピース及び内側ピースそれぞれの長手方向における両端部間において、外側ピース及び内側ピースを連結」し、かつ「補剛材に固定」されている「中間連結部材」に相当する。

すなわち、甲1発明と本件発明1とは、以下の点で一致する。

「 構造物を構成する合成セグメントであって、
構造物の外壁を形成するプレートと、前記プレートの両端部に立設された主桁とを備える外側ピースと、
前記構造物の内壁を形成するプレートと、前記プレートの両端部に立設された主桁とを備える内側ピースと、
前記外側ピースと前記内側ピースとを互いに離間した状態において連結する連結ピースと、
前記外側ピースと前記内側ピースとの間に設けられた中詰材と、
を備え、
前記外側ピースは、該外側ピースの前記主桁間に設けられた補剛材を備え、
前記外側ピース及び前記内側ピースそれぞれの長手方向における両端部間において、前記外側ピース及び前記内側ピースを連結する中間連結部材は、前記補剛材に固定されている、
合成セグメント。」

本件発明1と甲1発明は、以下の相違点1で相違する。

<相違点1>
本件発明1では、合成セグメントが「地中に埋設される沈設構造物」を構成するものであり、外側ピース及び内側ピースにおける「主桁」が「沈設構造物の軸線方向におけるプレートの両端部」に立設されているのに対し、甲1発明のSC構造部材は、小断面矩形シールドで掘削するトンネルの外殻部躯体を構成するものであり、C形鋼主桁はスキンプレートの「幅方向」の両端に位置しており、MMST鋼殻の長さ方向に延在している点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)「構造物の軸線方向」に関する甲第1号証自体の開示と示唆
相違点1に関して、トンネルが「沈設構造物」かという点はひとまず措くとして、まずは甲1発明の「主桁」について、トンネルという「構造物」との関係で見れば、「軸線方向におけるプレートの両端部に立設」されていると甲第1号証から読み取ることができるか否か、あるいは、そうすることが甲第1号証自体に示唆されているか否かを、検討することとする。
甲第1号証のMMST工法は、MMST鋼殻を小断面矩形シールドとして掘削するものであり、C形鋼主桁及びH形鋼主桁はいずれもMMST鋼殻の「断面」に垂直に、「長さ」方向に延在している。このことからすると、MMST鋼殻による掘削方向、及びMMST鋼殻を相互に連結して構築したトンネル外殻部躯体が延在する軸線の方向は、いずれもMMST鋼殻の「長さ」方向であると解される。これに反して、甲第1号証中に、MMST鋼殻の長さ方向と直交する「幅方向」を軸線方向としてトンネル外殻部躯体を延在させることは、記載されていない。そのため、甲1発明における「主桁」を、「トンネル」という構造物の「軸線方向におけるスキンプレートの両端部に立設」する構成は、甲第1号証に記載されているということができない。
次に、甲1発明のMMST鋼殻は、MMST工法により小断面矩形シールドでトンネルを掘削していくためのものであるから、当業者にとって、当該MMST鋼殻を用いたトンネルの掘削方向を変更し、トンネルが延在する軸線の方向をMMST鋼殻の幅方向とする動機付けはない。また甲1発明における、MMST鋼殻の内部で主桁が鋼殻の長さ方向に延在する構造も、小断面矩形シールドで掘削を進めるために必要な剛性等を考慮して選択された構成と理解することが妥当であるから、当業者にとって、甲1発明のMMST鋼殻内部の主桁の配置を変更し、主桁をMMST鋼殻の「長さ」方向の両端部に立設する動機付けもない。すなわち当業者にとって、甲1発明のMMST鋼殻による掘削方向、あるいはMMST鋼殻の内部構造を変更し、「主桁」を「トンネル構造物の軸線方向」における「両端部」に立設させる動機付けは、存在しない。そして、そのような改変を示唆する記載も、甲第1号証中には見いだすことができない。
したがって、甲1発明において、主桁が「トンネル構造物の軸線方向におけるスキンプレートの両端部に立設」されているということはできず、またそうすることが甲第1号証自体に基いて、当業者にとって容易ということもできない。
すなわち相違点1に関して、「主桁」を構造物の「軸線方向におけるプレートの両端部に立設」するという部分について、まずは甲第1号証自体に開示あるいは示唆されているということができない。

(イ)甲2発明を考慮した場合
次に、上記相違点1が、甲2発明を考慮すれば、「沈設構造物の軸線方向」という点も含めて、当業者にとって容易に想到できたか否かを検討する。
甲2発明のケーソン20は、沈下掘削工程により所定の深さまで沈下される地下構造物であるから、本件発明1における「沈設構造物」に相当する。また甲2発明のケーソン20は、トンネル外殻部躯体を構成する甲1発明のSC構造物と、地下の構造物を構成するという点では共通している。
しかし、甲1発明はMMST工法により、トンネル外殻部を複数の小断面矩形シールドで先行掘削するためのMMST鋼殻構造を採用しているのに対し、甲2発明は、ケーソン20の下部の作業室スラブ23の下において、作業室25で掘削を行い、ケーソン20の全体を沈下させて行くものであるから、両者は前提とする掘削の工法と態様とが大きく異なる。そのため、当業者にとって、甲1発明のMMST鋼殻を含むSC構造物の構造を、甲2発明のケーソン20に採用する動機付けがあるということはできない。
また、仮に甲1発明のMMST工法を、甲2発明の如く所定の深さまで下方に向かって掘削する際に用いるとしても、掘削する方向すなわちトンネル構造物が延在する軸線方向が下方となるのみで、主桁の延在する方向が長さ方向すなわちトンネル構造物が延在する軸線方向と一致する点に変わりはないと考えられる。すなわち、仮に甲1発明のMMST工法を、甲2発明の如く下方に向かう掘削に用いるとしても、当業者にとって、小断面矩形シールドにより掘削する長さ方向に延在するC形鋼の主桁を、掘削する方向の両端部に配置するよう変更して、「主桁」を「沈設構造物の軸線方向におけるプレートの両端部」に立設し、もって相違点1に係る本件発明1の構成へと至る動機付けは存在しない。
そして、その他の甲第1号証及び甲第2号証の記載を検討しても、相違点1に係る構成に至る示唆は、見いだすことができない。
よって、甲1発明において相違点1に係る本件発明1の構成にすることは、甲2発明を考慮しても、当業者が容易に想到し得ることではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は異議申立書において、甲1発明の主桁は、「トンネル構造物の軸線方向におけるスキンプレートの両端部に立設」されていると主張している。すなわち、甲1発明におけるスキンプレートの「幅方向」は、「トンネル構造物の軸線方向」である旨を主張している。しかしながら、この点については上記イ(ア)に検討したとおりであるから、申立人の主張は妥当なものとして採用することができない。
また、申立人は異議申立書において、甲1号証記載の発明と甲2号証記載事項から、本件発明1は容易想到である旨を主張している。しかしこの点についても、上記イ(イ)に検討したとおりであるから、申立人の主張は妥当なものとして採用することができない。

エ 小括
したがって、本件発明1は甲第1号証、甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(2)本件発明2ないし3について
ア 本件発明2ないし3と甲1発明の対比
本件発明2は、本件発明1において「外側ピース」が備える「補剛材」を、「内側ピース」が備えるものである。
本件発明3は、本件発明1において「外側ピース」が備える「補剛材」を、「外側ピース」及び「内側ピース」の両者が備えるものである。
甲1発明において、本件発明1ないし3の「外側ピース」及び「内側ピース」に相当する、高さ方向上側、及び高さ方向下側のスキンプレート及びC形鋼の主桁の組合せは、いずれも「L形の縦リブ」を備えている。そのため甲1発明は、本件発明2ないし3において、本件発明1から変更または追加された「補剛材」の構成に、相当する構成を有している。
すなわち、甲1発明は、上記(1)アで示した相違点1において本件発明2ないし3と相違し、その余の点では一致する。

イ 判断
相違点1については、上記(1)イで検討したとおりである。
すなわち、甲1発明において相違点1に係る本件発明2または3の構成にすることは、甲2発明を考慮しても、当業者が容易に想到し得ることではない。

ウ 小括
したがって、本件発明2ないし3は、甲第1号証、甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明11ないし13について
ア 本件発明11ないし13と甲1発明の対比
本件発明11ないし13は、それぞれ本件発明1ないし3の「合成セグメント」が、外側ピースと内側ピースとを連結する「連結ピース」を「複数」備えたうえで、該「合成セグメント」を「複数連結」してなる「リング」である。
そのため、本件発明11ないし13と甲1発明とを比較すると、両者は少なくとも「合成セグメント」の部分で、上記(1)アで示した相違点1において相違する。

イ 判断
相違点1については、上記(1)イで検討したとおりである。
すなわち、甲1発明において相違点1に係る本件発明11ないし13の構成にすることは、甲2発明を考慮しても、当業者が容易に想到し得ることではない。

ウ 小括
したがって、本件発明11ないし13は、相違点1以外の点の検討を要することなく、甲第1号証、甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
したがって、本件発明1?3及び11?13は、甲第1号証、甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。


第3 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項1?3及び11?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3及び11?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-09-19 
出願番号 特願2015-236826(P2015-236826)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (E21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西田 光宏  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 有家 秀郎
西田 秀彦
登録日 2017-12-08 
登録番号 特許第6253630号(P6253630)
権利者 JFE建材株式会社 株式会社加藤建設 JFEスチール株式会社
発明の名称 合成セグメント、リング及び沈設構造物  
代理人 二宮 浩康  
代理人 上島 類  
代理人 前川 純一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  
代理人 前川 純一  
代理人 前川 純一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 上島 類  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  

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