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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B66B
管理番号 1344867
異議申立番号 異議2018-700334  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-23 
確定日 2018-07-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6219337号発明「搬送設備の電源システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6219337号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6219337号の請求項1ないし4に係る特許(以下、「本件特許1」ないし「本件特許4」という。)についての出願は、平成27年5月15日の出願であって、平成29年10月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年4月23日に特許異議申立人清水馨(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第6219337号の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
巻上機に掛けられたロープの一方の側に搬送台が接続され、他方の側に錘が接続されている垂直搬送機と、前記搬送台に対して荷物の搬入及び搬出を行う複数の水平搬送機とを備え、前記垂直搬送機が力行運転又は回生運転を繰り返し行うことが可能な搬送設備において、
一次側電源からの交流電力を整流器により直流に変換した後に前記垂直搬送機の昇降に適した交流に再び変換する電力変換装置と、該電力変換装置を制御する制御装置を備える電源システムであって、
前記電力変換装置の直流中間回路には、補助電源装置を介して蓄電装置が接続されるとともに、前記垂直搬送機の電動機を駆動するための昇降インバータ及び前記水平搬送機の各電動機を駆動するための複数の横行インバータが接続され、
前記水平搬送機の横行は、前記垂直搬送機が力行運転状態又は停止状態であるときは、前記蓄電装置を放電状態として前記横行インバータに放電電力が送られ、前記垂直搬送機が回生運転状態であるときは、前記蓄電装置を充電状態として前記横行インバータに回生電力が送られ、
前記垂直搬送機の力行運転状態において、前記搬送台の昇降発進時に前記一次側電源の使用電力が最大値となることを避けるために、前記蓄電装置から必要な電力が放電されるとともに、
停電を検出する停電検出器と、停電時に前記蓄電装置からの放電電力を前記制御装置に送る停電補償装置を備えていることを特徴とする電源システム。
【請求項2】
前記搬送台の昇降発進前に前記蓄電装置の蓄電量を確認し、所定の最低値未満であれば前記一次側電源からの電力を所定の充電量まで充電した後に発進可能とし、前記最低値以上であれば直ちに発進可能とすることを特徴とする請求項1に記載の電源システム。
【請求項3】
前記蓄電装置が、停電時に、前記垂直搬送機の運転に必要な電力を放電可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電源システム。
【請求項4】
前記搬送設備が、前記垂直搬送機及び前記複数の水平搬送機を複数系列備え、前記電力変換装置の前記直流中間回路に、前記昇降インバータ及び前記複数の横行インバータが、複数系列接続されていることを特徴とする請求項1に記載の電源システム。」

3 申立理由の概要(進歩性)
異議申立人は、証拠として
特許第4856750号公報(以下、「甲第1号証」という。)、
特開2001-261246号公報(以下、「甲第2号証」という。)、
特開2011-230864号公報(以下、「甲第3号証」という。)、
YASUKAWA NEWS、株式会社安川電機、平成25年3月15日発行、No.302、第10ページ、「事例紹介 DCマルチリンクドライブ」(以下、「甲第4号証」という。)、
東芝レビュー、日本、2014年4月1日発行、Vol.69No.4(通巻778号)、第24?27ページ、「エレベーターの省エネと停電時継続運転を実現する蓄電システム」(以下、「甲第5号証」という。)
を提出し、本件発明1?4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件特許1?4を取り消すべきである旨主張している。

4 甲号証の記載
(1)甲第1号証・甲1発明
甲第1号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア「【0001】
この発明は、工場、倉庫、物流センターなどにおいて、建物の階下から階上へ、或いは階上から階下へ、それぞれ昇降かごを昇降動作させて荷を搬送するための荷昇降搬送設備に関し、特にこの発明は、停電の発生時、昇降かごへの搬入途中の荷や昇降かごからの搬出途中の荷を昇降かごから確実に搬出させるための荷搬出入制御方法と、その方法が実施された荷昇降搬送設備とに関する。」

イ「【0020】
この発明の好ましい実施態様においては、前記制御手段は昇降機構の力行運転時にキャパシタに蓄えられた電力を昇降機構のモータへ供給するようにしている。
この実施態様によると、省エネルギー化が可能であり、使用する商用電力を低減できる。また、ピーク電力の抑制をはかることができ、商用電源の設備容量を低減できる。」

ウ「【0022】
【図1】この発明の一実施例である荷昇降搬送設備の構成を示す塔体の一部を省略した斜視図である。
【図2】荷昇降搬送設備の概略構成とセンサ配置とを示す側面図である。
【図3】荷昇降搬送設備のセンサ配置を示す平面図である。
【図4】荷の搬出入動作の流れを示す平面図である。
【図5】荷昇降搬送設備の駆動系の構成を示す電気回路図である。
【図6】昇降機構のモータの消費電力を示す説明図である。
【図7】荷昇降搬送設備の制御回路の構成を示すブロック図である。
【図8】荷を1階から2階へ搬送するときの制御の流れを示すフローチャートである。
【図9】荷を2階から1階へ搬送するときの制御の流れを示すフローチャートである。
【図10】停電時の制御の流れを示すフローチャートである。
【図11】荷搬送過程を判別する方法を示すフローチャートである。
【図12】昇降かごおよび荷搬出入装置の他の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、この発明の一実施例である荷昇降搬送設備の概略構成を示している。
図示例の荷昇降搬送設備は、建物の1階のフロアF1と2階のフロアF2との間で荷を搬送するために設けられたものであり、金属フレームなどで建物内に組み立てられた塔体1と、塔体1内を塔体1に沿って昇降動作する昇降かご2と、塔体1の各階の出入り口11,12の外側にそれぞれ設置される荷搬出入装置3,4とで構成されている。なお、図示していないが、塔体1の各階の出入り口11,12にはバッテリ駆動の防煙のためのシャッターが設置されている。
【0024】
昇降かご2は、図2に示される昇降機構21に連繋され、1階のフロアF1と2階のフロアF2との間で昇降動作する。昇降機構21は、索条22の一端に昇降かご2が、他端にカウンタウェイト23が、それぞれ連結されるとともに、索条22が巻上げ機構24に巻き掛けられて成るものである。巻上げ機構24は正逆回転が可能なモータM1により駆動される。この実施例では、モータM1および後述するモータM2?M4として三相誘導電動機が用いられている。
【0025】
昇降かご2の床面上には荷を支持しかつ荷を水平方向へ搬送するためのコンベヤ20が搭載されている。図示例のコンベヤ20はローラコンベヤにより構成されているが、これに限らず、ベルトコンベヤ、チェンコンベヤなど、他の形式のコンベヤを用いることもできる。コンベヤ20はモータM2により正逆各方向へ駆動される。
【0026】
各階の荷搬出入装置3,4は、昇降かご2のコンベヤ20と連動して昇降かご2に対する荷の搬出入を行うためのコンベヤ30,40をそれぞれ備えている。図示例のコンベヤ30,40にもローラコンベヤが用いられているが、これに限らず、ベルトコンベヤを用いることも可能である。各コンベヤ30,40はモータM3,M4によりそれぞれ正逆各方向へ駆動される。」

エ「【0033】
図5は、上記した荷昇降搬送設備の駆動系の回路構成を示している。
同図において、5は三相交流の商用電源であり、商用電源5からの商用電力は整流回路および平滑コンデンサを含むコンバータ50を経て直流に変換される。この交流-直流変換により直流母線56,57間の電圧が所定の電圧(例えば290V)に昇圧され、運転が可能な状態となる。直流母線56,57には、インバータ51?54を介して、昇降機構21のモータM1と、昇降かご2のコンベヤ20を駆動するモータM2と、1階の荷搬出入装置3のコンベヤ30を駆動するモータM3と、2階の荷搬出入装置4のコンベヤ40を駆動するモータM4とがそれぞれ接続されており、各インバータ51?54で直流-交流変換された電力が各モータM1?M4へ供給される。
【0034】
直流母線56,57にはDC-DCコンバータ60を介してキャパシタ6が接続されている。図示例では、キャパシタ6として電気二重層コンデンサのような大容量コンデンサが用いられている。DC-DCコンバータ60は充電回路61と放電回路62とを含んでおり、昇降動作の停止期間中にDC-DCコンバータ60が図7に示す制御回路7より充電開始指令を受けると、商用電源5から供給される電力が充電回路61を通してキャパシタ6に蓄えられる。また、昇降機構21の回生運転時にDC-DCコンバータ60が制御回路7より充電開始指令を受けると、昇降機構21のモータM1から得られる回生電力が充電回路61を通してキャパシタ6に蓄えられる。
【0035】
なお、この実施例では、カウンタウェイト23の荷重によって昇降かご2が空状態で1階から2階へ上昇するとき、昇降機構21は回生運転を行う。また、昇降かご2が空状態で2階から1階へ降下するとき、および昇降かご2が荷を積んだ状態で1階と2階との間を昇降動作するときは力行運転を行う。
図中、55は直流母線56,57に接続された電源回生ユニットであり、制御回路7より回生開始指令を受け、直流母線56,57間の電圧が所定値以上になると、電源側に電力を回生可能な状態とする。そして、回生運転時の充電によってキャパシタ6がフル充電状態になった場合など、直流母線56,57間の電圧が所定値以上になったとき、回生エネルギーが電源回生ユニット55より商用電源5へ返される。
【0036】
力行運転時にDC-DCコンバータ60が制御回路7より放電開始指令を受けると、キャパシタ6に蓄えられた電力がDC-DCコンバータ60の放電回路62を通して昇降機構21のモータM1へ供給される。この放電により直流母線56,57間の電圧は所定値(例えば320V)まで昇圧される。力行運転時にインバータ51が制御回路7より運転開始指令を受けると、商用電源5よりコンバータ50を経てインバータ51に供給された電力がモータM1へ与えられ、これによりモータM1は駆動されるが、モータM1の駆動に必要な電力は、図6に示すように、キャパシタ6に蓄えられた電力から消費され、キャパシタ6の放電能力以上の消費電力が必要なときに商用電源5からの電力が供給される。これによって、省エネルギー化が実現され、使用する商用電力を低減でき、また、ピーク電力の抑制がはかられる。なお、図6は、モータM1の加速時、定速時、および減速時の消費電力を示しており、モータM1の消費電力は加速時が最大となる。
【0037】
他のインバータ52?54がそれぞれ制御回路7より運転開始指令を受けると、商用電源5よりコンバータ50を経て各インバータ52?54に供給された電力がモータM2?M4へそれぞれ与えられ、これによりモータM2?M4は駆動する。モータM2の駆動によって昇降かご2のコンベヤ20が駆動し、モータM3の駆動によって1階の荷搬出入装置3のコンベヤ30が駆動し、モータM4の駆動によって2階の荷搬出入装置4のコンベヤ40が駆動する。
【0038】
停電発生時にDC-DCコンバータ60が制御回路7より放電開始指令を受けると、キャパシタ6に蓄えられた電力がDC-DCコンバータ60の放電回路62を通して昇降機構21のモータM1、昇降かご2のコンベヤ20のモータM2、1階の荷搬出入装置3のコンベヤ30のモータM3、2階の荷搬出入装置4のコンベヤ40のモータM4のうちのいずれかへ供給される。停電の発生によって昇降かご2に対する荷の搬入動作または搬出動作が途中で停止したときは、昇降かご2のコンベヤ20のモータM2と停止階の荷搬出入装置のコンベヤのモータM3またはM4とにキャパシタ6に蓄えられた電力が供給される。停電の発生により昇降かご2の昇降動作が途中で停止したとき、昇降機構21のモータM1と昇降かご2のコンベヤ20のモータM2と目的階の荷搬出入装置のコンベヤのモータM3またはM4とにキャパシタ6に蓄えられた電力が供給される。
【0039】
図7は、前記した制御回路7の構成と制御回路7にバス75を介して接続される入出力各部の構成とを示している。
図示例の制御回路7はマイクロコンピュータにより構成されており、制御、演算の主体であるCPU70と、プログラムや固定データが格納されるROM71と、各種のデータの読み書きに供されるRAM72とを含んでいる。CPU70には、上記した荷検出センサS_(01),S_(02),S_(11),S_(21)、荷搬出入検知センサS_(12),S_(22)、位置検知センサS_(F1),S_(F2)、各階の操作パネル73,74、電源回生ユニット55、DC-DCコンバータ60、昇降駆動用のインバータ51、コンベヤ駆動用のインバータ52?54などの入出力各部がバス75を介して電気接続されている。操作パネル73,74は1階および2階の出入り口11,12の近傍に設置され、各種の指令を入力するためのボタン、
データを入力するためのキースイッチの他、ディスプレイや報知ランプなどが設けられている。
CPU70は、ROM71に格納されたプログラムにしたがって、RAM72に対するデータの読み書きを行いつつ入出力各部の動作を一連に制御する。
なお、上記した制御回路7や各センサには無停電電源装置8が接続されており、停電が発生しても制御回路7による制御動作や各センサによる検出動作に支障が生じることはない。
【0040】
図8は、荷を1階から2階へ搬送するときの制御回路7による制御の流れを示している。なお、図中、「ST」は「STEP」の略であり、制御の流れにおける各手順を示す。
同図のST1では、CPU70は運転可能な「スタンバイ状態」であるかどうかを判定しており、その判定が「YES」であれば、つぎのST2で1階の操作パネル73の自動運転ボタンが押されたかどうかを判定する。その判定が「NO」であれば、CPU70はDC-DCコンバータ60に対して充電開始指令を発し(ST3)、充電回路61を通してキャパシタ6に電力が蓄えられる。
【0041】
自動運転ボタンが押されると、ST2の判定が「YES」であり、つぎのST3で、CPU70は1階の荷搬出入装置3のコンベヤ30上に荷が載置されたかどうかを判定する。荷の載置が荷検出センサS_(11)により検出されると、ST4の判定は「YES」となり、CPU70はインバータ52,53へ運転開始指令を与え、昇降かご2のコンベヤ20のモータM2と1階の荷搬出入装置3のコンベヤ30のモータM3とを駆動させる(ST5)。これにより昇降かご2への荷の搬入動作が開始する。荷搬出入装置3から昇降かご2へ荷が乗り移って搬入済となったことが荷検出センサS_(02)により検出されると、ST6の判定が「YES」となり、CPU70はインバータ52,53へ運転停止指令を与え、各コンベヤ20,30のモータM2,M3を停止させる(ST7)。
【0042】
次に、CPU70はDC-DCコンバータ60に対して放電開始指令を与え(ST8)、キャパシタ6に蓄えられた電力を放電回路62を通して放電させた後、インバータ51へ運転開始指令を与え、昇降機構21のモータM1を駆動させる(ST9)。これにより荷を載せた昇降かご2が上昇動作する。昇降かご2の2階への到達が位置検知センサS_(F2)により検知されると、ST10の判定が「YES」となり、CPU70はインバータ51へ運転停止指令を与えて昇降機構21のモータM1を停止させ(ST11)、DC-DCコンバータ60へ放電停止指令を与える(ST12)。
【0043】
次にCPU70は、インバータ52,54へ運転開始指令を与え、昇降かご2のコンベヤ20のモータM2と2階の荷搬出入装置4のコンベヤ40のモータM4とを駆動させる(ST13)。これにより昇降かご2からの荷の搬出動作が開始する。昇降かご2から荷搬出入装置4へ荷の乗り移って搬出済となったことが荷検出センサS_(21)により検出されると、ST14の判定が「YES」となり、CPU70はインバータ52,54へ運転停止指令を与え、各コンベヤ20,40のモータM2,M4を停止させる(ST15)。
【0044】
次に、CPU70はDC-DCコンバータ60へ放電開始指令を与え(ST16)、キャパシタ6に蓄えられた電力を放電回路62を通して放電させた後、インバータ51へ運転開始指令を与え、昇降機構21のモータM1を駆動させる(ST17)。これにより昇降かご2が下降動作する。昇降かご2の1階への到達が位置検知センサS_(F1)により検知されると、ST18の判定が「YES」となり、CPU70はインバータ51へ運転停止指令を与えて昇降機構21のモータM1を停止させ(ST19)、DC-DCコンバータ60へ放電停止指令を与える(ST20)。」

オ 上記記載事項アの「工場、倉庫、物流センターなどにおいて、建物の階下から階上へ、或いは階上から階下へ、それぞれ昇降かごを昇降動作させて荷を搬送するための荷昇降搬送設備」という用途に関する記載及び記載事項エの段落【0035】の「カウンタウェイト23の荷重によって昇降かご2が空状態で1階から2階へ上昇するとき、昇降機構21は回生運転を行う。また、昇降かご2が空状態で2階から1階へ降下するとき、および昇降かご2が荷を積んだ状態で1階と2階との間を昇降動作するときは力行運転を行う。」との記載からみて、荷昇降運送設備の昇降機構21の力行運転又は回生運転は、繰り返し行うことが可能であると認められる。

カ 【図5】の駆動系の電気回路及び【図7】の制御回路7を含むブロック図から、荷昇降運送設備は、駆動系の電気回路及び制御回路7を備える電源システムを有すると認められる。

キ 【図8】及び【図9】のフローチャートには、昇降機構21のモータM1が駆動されるときは荷搬出入装置3,4のモータM3,M4は停止されており(各図のST7?ST11及びST15?ST19を参照。)、荷搬出入装置3,4のモータM3,M4が駆動されるときは昇降機構21のモータM1は停止されていること(各図のST11?ST15を参照。)が記載されている。

上記記載事項、認定事項及び図示内容から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明]
「巻上げ機構24に巻き掛けられた索条22の一端に昇降かご2が連結され、他端にカウンタウェイト23が連結されている昇降機構21と、前記昇降かご2に対して荷の搬出入を行う複数の荷搬出入装置3,4とを備え、前記昇降機構21が力行運転又は回生運転を繰り返し行うことが可能な荷昇降搬送設備において、
商用電源5からの三相交流の商用電力を整流回路及び平滑コンデンサを含むコンバータ50により直流に変換した後に昇降機構21のモータM1ヘ電力を供給するために直流-交流変換するインバータ51と、該インバータ51を制御する制御回路7を備える電源システムであって、
前記インバータ51の直流母線56,57には、DC-DCコンバータ60を介してキャパシタ6が接続されるとともに、前記昇降機構21のモータM1を駆動するためのインバータ51及び前記荷搬出入装置3,4のモータM3,M4を駆動するための複数のインバータ53,54が接続され、
荷搬出入装置3,4を駆動させるときは、昇降機構21のモータM1を停止し、商用電源5よりコンバータ50を経て各インバータ53,54に供給された電力がモータM3,M4へそれぞれ与えられ、
昇降機構21のモータM1の力行運転時は、荷搬出入装置3,4のモータM3,M4を停止し、DC-DCコンバータ60ヘ放電開始指令を与え、キャパシタ6に蓄えられた電力を放電回路62を通して放電させた後に昇降機構21のモータM1を駆動させることで、使用する商用電力を低減でき、ピーク電力の抑制がはかられ、
昇降機構21のモータM1の回生運転時は、荷搬出入装置3,4のモータM3,4を停止するとともにキャパシタ6に電力が蓄えられ、
停電時に電力を前記制御回路7に送る無停電電源装置8を備えている電源システム。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア「【0045】又、図1に示す如く、上記インバータ3に対して、別のエレベータを制御するためのインバータ3′を並列に接続すれば、一方のエレベータの力行運転と他方のエレベータの回生運転との間で電力を交換することが出来、これによって更にエネルギーの節減が可能である。」

イ「【0049】更に又、エレベータの停止中は充電のみを行わせる等、種々の制御が採用可能である。上記電源装置においては、エレベータの運転中に停電が発生したとしても、バッテリーからの電源供給によって電動機IMのブレーキが落ちないように構成することによって、停電発生時にエレベータを最寄りの階床に安全に停止させることが可能である。」

ウ「【0051】
【本実施例の効果】本発明によれば、従来のエレベータに上述の電源装置を新たに追加装備するだけで、大きな負荷変動に対しても、図17に示す様に、エレベータの通常の運転を通じて適宜回生電力を回収すると共に、駆動電力を補うことが出来る。従って、予め大きな電源設備を備える必要はなく、電源設備を最小限に抑えることが出来る。又、回生電力の回収によってエネルギーの有効利用が図られて、効率が向上する。例えば、定格積載量600Kg、運転速度60mm/minのエレベータにおける省電力量を試算すると、年間約1000KWhの削減が可能であり、この値は、このエレベータが消費する総電力量の概ね20%に相当する。更に、バッテリーとして、有害物質を含まない現状では最適なニッケル水素電池を用いているので、環境問題を引き起こすこともない。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア「【請求項1】
巻上機に掛けられたロープの一方の側に搬送台が接続され、他方の側に錘が接続されている工業用垂直搬送機に用いられる蓄電制御装置であって、
前記搬送台の停止前又は停止時に、蓄電装置が所定の充電量に達しているか否かを判定し、所定の充電量に達していない場合には充電し、所定の充電量に達していることを条件に次の発進が可能となるように制御するとともに、
前記搬送台の発進時に、前記蓄電装置が放電することによって一次側電源の使用電力が低減されるように制御することを特徴とする垂直搬送機の蓄電制御装置。
【請求項2】
前記一次側電源の使用電力が、前記搬送台の発進時に最大値とならないように制御することを特徴とする請求項1に記載の垂直搬送機の蓄電制御装置。」

イ「【0003】
垂直搬送機において、荷物を下から上に持ち上げる場合には、搬送台の上昇工程では、搬送台と荷物とを合わせた重量が錘の重量よりも大きくなり、搬送台の下降工程では、錘の重量が空になった搬送台の重量よりも大きくなる。このため、通常、上昇工程及び下降工程ともに、巻上機を駆動する電動機に大きな負荷が掛ることになる。すなわち、荷物を下から上に持ち上げる作業を行う場合には、搬送台の上昇工程及び下降工程において、垂直搬送機は力行運転となる。
【0004】
垂直搬送機において、荷物を上から下に降ろす場合には、搬送台の下降工程では、搬送台と荷物とを合わせた重量が錘の重量よりも大きくなり、搬送台の上昇工程では、錘の重量が空になった搬送台の重量よりも大きくなる。このため、通常、上昇工程及び下降工程ともに、巻上機を駆動する電動機には殆ど負荷が掛らないことになり、電動機で発生する電力を回収することが可能となる。すなわち、荷物を上から下に降ろす作業を行う場合には、搬送台の上昇工程及び下降工程において、垂直搬送機は回生運転を行うことができる。」

ウ「【0016】
ロープ95は、通常用いられているワイヤロープのほか、チェーン等、使用可能な他の条体を全て含む意味で用いることとする。搬送台92は、床面にローラコンベアやチェーンベルトコンベア等のコンベアを備えて、荷物の受入及び払出を自動的に行うことができるようになっている。また、搬送台92が停止する各階には、荷物の供給と排出を行う水平搬送機96が設置されている。搬送台92は、そのコンベア面と水平搬送機96のコンベア面とが、略同レベルとなるように停止する。」

(4)甲第4号証
甲第4号証(事例紹介 DCマルチリンクドライブ)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

「モータ減速時などに発生した回生電力をキャパシタに蓄え、起動時のピーク電力に再利用することで、装置の電力負荷を軽減する仕組みです。昇降運動や起動・停止を頻繁に繰り返す設備システムは回生電力が多く発生するため、起動アシストの力をより発揮することができます。」(第10ページの「キャパシタスタッカクレーンにおける適用」の「回生電力による軌動アシストの原理」の左欄の第1?5行)

(5)甲第5号証
甲第5号証(エレベーターの省エネと停電時継続運転を実現する蓄電システム)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

「回生運転では巻上機が発電機として作動する。従来システムでは,この回生電力を抵抗で熱エネルギーに変換していたが、トスムーブNEO_(TM)を適用したシステムでは蓄電池へ蓄え,力行運転時に電力供給のアシストをすることで省エネを実現する。」(第26ページ左欄第1?5行)

5 判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「巻上げ機構24」は本件発明1の「巻上機」に相当し、以下同様に、「巻き掛けられた」ことは「掛けられた」ことに、「索条22」は「ロープ」に、「索条22の一端」は「ロープの一方の側」、「昇降かご2」は「搬送台」に、「連結され」ることは「接続され」ることに、「他端」は「他方の側」に、「カウンタウェイト23」は「錘」に、「昇降機構21」は「垂直搬送機」に、「荷の搬出入を行う」ことは「荷物の搬入及び搬出を行う」ことに、「荷搬出入装置3,4」は「複数の水平搬送機」に、「荷昇降搬送設備」は「搬送設備」に、「商用電源5」は「一次側電源」に、「三相交流の商用電力」は「交流電力」に、「整流回路及び平滑コンデンサを含むコンバータ50」は「整流器」に、「制御回路7」は「制御装置」に、「直流母線56,57」は「直流中間回路」に、「DC-DCコンバータ60」は「補助電源装置」に、「キャパシタ6」は「蓄電装置」に、「昇降機構21のモータM1」は「垂直搬送機の電動機」に、「インバータ51」は「昇降インバータ」に、「荷搬出入装置3,4のモータM3,M4」は「水平搬送機の各電動機」に、「インバータ53,54」は「横行インバータ」に、それぞれ相当する。

また、インバータで直流-交流変換した後にモータに供給される電力を、当該モータに適した電力とすることは普通のことと認められるから、甲1発明の「昇降機構21のモータM1ヘ電力を供給するために直流-交流変換する」ことは、本件発明1の「垂直搬送機の昇降に適した交流に再び変換する」ことに相当するといえ、甲1発明の「インバータ51」は本件発明1の「電力変換装置」に相当する。

したがって、本件発明1と引用発明とは、
「巻上機に掛けられたロープの一方の側に搬送台が接続され、他方の側に錘が接続されている垂直搬送機と、前記搬送台に対して荷物の搬入及び搬出を行う複数の水平搬送機とを備え、前記垂直搬送機が力行運転又は回生運転を繰り返し行うことが可能な搬送設備において、
一次側電源からの交流電力を整流器により直流に変換した後に前記垂直搬送機の昇降に適した交流に再び変換する電力変換装置と、該電力変換装置を制御する制御装置を備える電源システムであって、
前記電力変換装置の直流中間回路には、補助電源装置を介して蓄電装置が接続されるとともに、前記垂直搬送機の電動機を駆動するための昇降インバータ及び前記水平搬送機の各電動機を駆動するための複数の横行インバータが接続されている電源システム。」
の点で一致し、以下の相違点1ないし3で相違する。

[相違点1]
本件発明1は「前記水平搬送機の横行は、前記垂直搬送機が力行運転状態又は停止状態であるときは、前記蓄電装置を放電状態として前記横行インバータに放電電力が送られ、前記垂直搬送機が回生運転状態であるときは、前記蓄電装置を充電状態として前記横行インバータに回生電力が送られ」るのに対し、甲1発明は、「荷搬出入装置3,4を駆動させるときは、昇降機構21のモータM1を停止し、商用電源5よりコンバータ50を経て各インバータ53,54に供給された電力がモータM3,M4へそれぞれ与えられ」る点。

[相違点2]
本件発明1は「前記垂直搬送機の力行運転状態において、前記搬送台の昇降発進時に前記一次側電源の使用電力が最大値となることを避けるために、前記蓄電装置から必要な電力が放電される」のに対し、甲1発明は「昇降機構21のモータM1の力行運転時は、荷搬出入装置3,4のモータM3,M4を停止し、キャパシタ6に蓄えられた電力を放電回路62を通して放電させた後に昇降機構21のモータM1を駆動させることで、使用する商用電力を低減でき、ピーク電力の抑制がはかられ」る点。

[相違点3]
本件発明1は「停電を検出する停電検出器と、停電時に前記蓄電装置からの放電電力を前記制御装置に送る停電補償装置を備えている」のに対し、甲1発明は「停電時に電力を前記制御回路7に送る無停電電源装置8を備えて」いるが、制御回路7に送る電力が、キャパシタ6からの放電電力か不明な点。

イ 相違点1について
上記相違点1について検討する。

甲第2号証には、2つのエレベータのうち一方のエレベータの力行運転と他方のエレベータの回生運転との間で電力を交換することが記載されている。
甲第3号証には、垂直搬送機の搬送台の力行運転での発進時に、蓄電装置が放電することによって、一次側電源の使用電力を低減し、一次側電源の使用電力が、搬送台の発進時に最大値とならないようにすることが記載されている。
また、甲第3号証には、水平搬送機96を備えることも記載されているが、その使用電力については何ら記載されていない。
甲第4号証には、モータ減速時などに発生した回生電力をキャパシタに蓄え、起動時のピーク電力に再利用することが記載されている。
甲第5号証には、エレベータの回生運転で発生した回生電力を蓄電池に蓄え、蓄えた電力を力行運転時の電力供給に使うことが記載されている。

しかしながら、甲第2?5号証のいずれにも、垂直搬送機が回生運転状態において水平搬送機の横行インバータに回生電力を送る構成は記載ないし示唆されていない。
そうすると、甲1発明に甲第2?5号証に記載された事項を付加しても、相違点1に係る本件発明1の構成にならない。

また、甲1発明は、「荷搬出入装置3,4を駆動させるときは、昇降機構21のモータM1を停止し」、「昇降機構21のモータM1の力行運転時は、荷搬出入装置3,4のモータM3,M4を停止し」、「昇降機構21のモータM1の回生運転時は、荷搬出入装置3,4のモータM3,4を停止する」構成であり、荷搬出入装置3,4は、昇降かご2に対して荷の搬出入を行うものであって、昇降機構21と同時に駆動するものではない。
そうすると、昇降機構21のモータM1の回生運転時に停止する荷搬出入装置3,4のモータM3,4に、昇降機構21のモータM1の回生電力を送る動機付けはない。

そして、本件発明1は、相違点1に係る本件発明1の構成により、水平搬送機の横行においても「垂直搬送機で発生する回生電力を有効に利用して省エネを図ることができる」(明細書段落【0016】参照。)という格別顕著な効果を奏すると認められる。

ウ 小括
したがって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、本件特許1は、特許法第29条第2号の規定に違反しない。

(2)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を更に減縮した発明である。
したがって、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2?4は、甲1発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、本件特許2?4は、特許法第29条第2号の規定に違反しない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1?4を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1?4を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-22 
出願番号 特願2015-100041(P2015-100041)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B66B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 有賀 信  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
登録日 2017-10-06 
登録番号 特許第6219337号(P6219337)
権利者 ホクショー株式会社
発明の名称 搬送設備の電源システム  
代理人 西脇 怜史  
代理人 西脇 民雄  
代理人 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所  

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