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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D06F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D06F
管理番号 1345188
審判番号 不服2017-5349  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-14 
確定日 2018-10-12 
事件の表示 特願2014-503239「蒸気アイロン」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月11日国際公開、WO2012/137095、平成26年 4月24日国内公表、特表2014-509916〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯

本願は、2012年(平成24年)3月26日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2011年(平成23年)4月4日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成28年1月26日付けで拒絶理由が通知され、平成28年7月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年12月21日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成29年4月14日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2.平成29年4月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成29年4月14日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。なお、下線は、当審により付したものであり、補正箇所を示す。

「【請求項1】
本体と、蒸気生成ユニットと、底部と、を有する蒸気アイロンであって、前記底部は、蒸気空洞と、前記蒸気空洞のまわりに延在する外縁と、を有し、前記外縁は布地接触面を持ち、前記蒸気空洞は当該空洞に配置された蒸気浸透性要素を持ち、前記蒸気浸透性要素は、前記蒸気生成ユニットから前記蒸気空洞へと供給される蒸気が、前記蒸気浸透性要素を浸透し通過して、前記布地接触面が布地に置かれたときに押し付けられる前記布地に供給されるように配置された、蒸気アイロン。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲

本件補正前の、平成28年7月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
本体と、蒸気生成ユニットと、底部と、を有する蒸気アイロンであって、前記底部は、蒸気空洞と、前記蒸気空洞のまわりに延在する外縁と、を有し、前記外縁は布地接触面を持ち、前記蒸気空洞は当該空洞に配置された浸透性要素を持ち、前記蒸気生成ユニットから前記蒸気空洞へと供給される蒸気が、前記浸透性要素を通過して、前記布地接触面が布地に置かれたときに押し付けられる前記布地に供給される、蒸気アイロン。」

2.本件補正の目的

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された「浸透性要素」を「蒸気浸透性要素」とし、更に「前記蒸気生成ユニットから前記蒸気空洞へと供給される蒸気が、前記浸透性要素を通過して、前記布地接触面が布地に置かれたときに押し付けられる前記布地に供給される」を「前記蒸気浸透性要素は、前記蒸気生成ユニットから前記蒸気空洞へと供給される蒸気が、前記蒸気浸透性要素を浸透し通過して、前記布地接触面が布地に置かれたときに押し付けられる前記布地に供給されるように配置された」とするものである。そうすると、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項(以下「発明特定事項」という。)である「浸透性要素」について、蒸気が「浸透」する「蒸気浸透性要素」とし、更にその配置について、「蒸気空洞」に配置されたものであることに加えて、「前記蒸気生成ユニットから前記蒸気空洞へと供給される蒸気が、前記蒸気浸透性要素を浸透し通過して、前記布地接触面が布地に置かれたときに押し付けられる前記布地に供給されるように配置された」ものに限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。
そこで、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定された要件である、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

3.独立特許要件の判断

(1)本件補正発明

本件補正発明は、上記1.(1)において請求項1に記載されたとおりのものである。

(2)引用文献1の記載事項

原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特表2007-513723号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次のア.ないしキ.の記載がある(なお、下線は当審が付した。)。

ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、アイロンをかけられる対象に接触する接触面を有する底面を有する蒸気アイロンに係る。
【背景技術】
【0002】
一般的に、蒸気アイロンは、衣類又はカーテン等の対象に対して、該対象から皺を除去するためにアイロンをかけるよう使用される。」

イ.「【0011】
本発明に従った蒸気アイロンは、底面に対して別個に配置された蒸気生成器を有し、これは、底面の一体部分ではない別個のユニットであることを意味している。」

ウ.「【0027】
第1の底面1は、エンボス範囲11を有するシート10を有する。シート10は、アルミニウム等の軽量の金属を望ましくは有する。シート10の外周は、従来通りに形成される。エンボス範囲11は、図示される通りV字型である。
【0028】
エンボス範囲11が凹部を形成する第1の底面1の一側は、下部側と称され、エンボス範囲11が隆起を形成する第1の底面1の他側は、上部側と以下称される。下部側では、第1の底面1は、略平面である接触面12を有する。第1の底面を有する蒸気アイロン(全体としては図示せず)の作動中、接触面12は、アイロンをかけられる対象に接触し、加熱する役割を果たす。
【0029】
開口14は、エンボス範囲11中に備えられ、該開口は蒸気吸気口14を意味する。特には、蒸気吸気口14は、V字型のエンボス範囲11に備えられる。第1の底面1を有する蒸気アイロンの作動中、蒸気は、蒸気吸気口14を介してエンボス範囲11の下部側に供給される。蒸気は、蒸気生成器30によって生成され、該生成器は、図3中に図示され、第1の底面1を有する蒸気アイロンの一部分を形成もする。この蒸気アイロンにおいて、蒸気吸気口14は、蒸気生成器30の蒸気排気口(図示せず)と直接連絡する。蒸気生成器30は、水を蒸気生成器30に供給するよう配置された水タンク(図示せず)又は同様のものに対して接続されることが理解される。」

エ.「【0031】
第1の底面1及び蒸気生成器30を有する蒸気アイロンが対象をアイロン掛けするよう使用される際、蒸気生成器30及び加熱トラック20のいずれも始動される。第1の底面1は、加熱トラック20の始動の結果加熱される。蒸気は、蒸気生成器30の始動の結果生成される。生成された蒸気は、工程において蒸気吸気口14を介してエンボス範囲11の下部側に供給される。
【0032】
エンボス範囲11の一部分での第1の底面とアイロンをかけられる対象との間にある空間は、蒸気配給路として働く。アイロン掛け工程中、蒸気アイロンは、略常にユーザによって動かされ、蒸気吸気口14を有するエンボス範囲11の一部分は、エンボス範囲11の他の部分が後に続く。該他の部分は、V字型のエンボス範囲11の脚の部分として形成される。蒸気配給路における蒸気の優れた配給は、蒸気アイロンの動きの影響下でこのようにして得られる。蒸気は、蒸気吸気口14が位置決めされたV字型の蒸気配給路のベース部を充填するだけではなく、前出の流路の脚部も充填する。
【0033】
アイロン掛け工程中、ユーザは、接触面がアイロンをかけられる対象に沿って滑らせるよう蒸気アイロンを動かす。該工程中、対象は、熱い接触面12との接触によって加熱される。更には、対象は、エンボス範囲11の下部側にある蒸気と接触するようにされる。したがって、皺は対象から除去される。」

オ.「【0035】
蒸気アイロンの作動中、水は、水が加熱され蒸気へと変化される蒸気生成器30に対して連続的に供給される。水は、蒸気生成器30及び第1の底面1を有する蒸気アイロンの内部に配置された水タンクから来得るか、あるいは、外部の水タンクから来得る。」

カ.「【0043】
・・・望ましくは、製造工程はまた、エンボス範囲11を除いてシート10の下部側をコーティングする段階を有する。このようにして、滑から接触面12を有する第1の底面1が得られ、接触面12がアイロンをかけられる対象にくっつく状況は避けられ得る。」

キ.「【0045】
図4は、エンボス範囲11がワイヤメッシュ15で覆われている第1の底面1の下方部を図示する。ワイヤメッシュ15は、エンボス範囲11に対するマスクとしての役割を果たし、したがって第1の底面1の下部側の外観の良さを向上させる。メッシュの密度は、ワイヤメッシュ15が湯垢収拾器としても機能することができるよう選択され得る。図示された例においては、ワイヤメッシュ15は、ネジ16によってエンボス範囲11に対して取り付けられる。」

更に、引用文献1の上記記載及び図面の記載から、次のク.ないしシ.に示す事項が理解できる。

ク.段落【0029】及び【0035】の記載から、蒸気生成器30に対して水を供給する水タンクが蒸気アイロンの内部に配置されることが理解できる。そうすると、蒸気アイロンは水タンクが配置される部分を有するといえる。

ケ.段落【0011】及び【0031】並びに図3の記載から、蒸気アイロンは蒸気生成器30及び第1の底面1を有し、蒸気生成器30は第1の底面1とは別個のユニットとして構成されていることが理解できる。

コ.段落【0027】ないし【0029】及び【0031】ないし【0033】並びに図1ないし4の記載から、第1の底面1のシート10が、下部側に凹部を形成するV字型のエンボス範囲11を有し、蒸気は、蒸気生成器30から蒸気吸気口14を介してエンボス範囲11の下部側の凹部に供給され、このエンボス範囲11下部側の凹部において、前記V字型のベース部だけではなく、前記V字型の脚部にも充填され、当該蒸気は、アイロン掛け工程中に、アイロンをかけられる対象(当該対象は、段落【0002】に記載されているように、一般的には「衣類又はカーテン等」であるので、以下では単に「衣類」という。)に供給されることが理解できる。

サ.段落【0028】、【0033】及び【0043】並びに図1ないし4の記載から、第1の底面1の下部側においてエンボス範囲11を除いた部分にコーティングがされて、衣類への接触面12が形成されることが理解できる。更に、図1ないし4の記載から、第1の底面1の下部側においてエンボス範囲11を除いた部分とは、エンボス範囲11下部側の凹部(上記コ.参照)の外周から第1の底面1の外周まで延びる部分であるということができ、当該部分に接触面12が形成されているといえる。更に、アイロン掛け工程中で、衣類に対して蒸気が供給されるエンボス範囲11の下部側の周囲に接触面12が形成されていることから、蒸気が接触面12が衣類に沿って滑るようにユーザが蒸気アイロンを動かしたときに衣類に供給されて、その結果、当該部分から皺が除去されることが理解できる。

シ.段落【0045】及び図1ないし4の記載から、ワイヤメッシュ15はエンボス範囲11下部側の凹部(上記コ.参照)に対してその全面を覆うように取り付けられるものであって、エンボス範囲11に対するマスクとしての役割を果たし、湯垢収拾器としても機能するものであるから、アイロン掛け工程においてワイヤメッシュ15がエンボス範囲11に対して取り付けられた状態で蒸気アイロンが使用されるものであることが理解できる。そうすると、ワイヤメッシュ15は蒸気を上部側から下部側に通り抜けさせるものであるといえる。更に、ワイヤメッシュ15はメッシュであるから、網の目の構造を有するものであって、アイロン掛け工程中において蒸気が衣類に供給される際(上記コ.参照)には、エンボス範囲11下部側の凹部に充填された蒸気は、ワイヤメッシュ15の上部側からワイヤメッシュ15の網の目の中に入り、ワイヤメッシュ15の下部側に出て衣類に供給されるといえる。

したがって、上記ア.ないしシ.を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

〈引用発明〉
「水タンクが配置される部分と、ユニットとして構成された蒸気生成器30と、第1の底面1と、を有する蒸気アイロンであって、前記第1の底面1は、エンボス範囲11下部側の凹部と、前記凹部の外周から前記第1の底面1の外周まで延びる部分と、を有し、前記部分に接触面12が形成され、前記凹部にワイヤメッシュ15が取り付けられ、前記ワイヤメッシュ15は、前記蒸気生成器30から前記凹部へと供給される蒸気が、前記ワイヤメッシュ15の上部側から前記ワイヤメッシュ15の網の目の中に入り、前記ワイヤメッシュ15の下部側に出て、前記接触面12が衣類に沿って滑るようにユーザが前記蒸気アイロンを動かしたときに前記衣類に供給されるように配置された、蒸気アイロン。」

(3)対比

以下、本件補正発明と引用発明とを対比する。
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ユニットとして構成された蒸気生成器30」あるいは「蒸気生成器30」は本件補正発明における「蒸気生成ユニット」に相当し、以下同様に、「第1の底面1」は「底部」に、「接触面12」は「布地接触面」にそれぞれ相当する。
本件補正発明の「蒸気アイロン」が有する「本体」について、本願明細書では「本体2には、水受容室5が配置される。水が水受容室5に貯められ、水を蒸気に変換する蒸気生成ユニット6へと送られる。」(段落【0032】)と記載されていることから、「本体」は「蒸気生成ユニット」に水を送る水受容室5が配置される部分であることが理解できる。そうすると、引用発明の「蒸気アイロン」における「水タンクが配置される部分」は、本件補正発明の「蒸気アイロン」における「本体」に相当する。
引用発明における「エンボス範囲11下部側の凹部」は、「第1の底面1」において「蒸気生成器30」から蒸気が供給されるのであるから、本件補正発明における「蒸気空洞」に相当する。
引用発明における「前記凹部の外周から前記第1の底面1の外周まで延びる部分」あるいは「部分」は、「第1の底面1」において「凹部」の周囲に延在する部分であるので、本件補正発明における「蒸気空洞のまわりに延在する外縁」あるいは「外縁」に相当する。
引用発明においては、「前記接触面12が衣類に沿って滑るようにユーザが前記蒸気アイロンを動か」していることから、「接触面12」において「衣類」は押し付けられるものであるといえる。そうすると、「ユーザ」による「蒸気アイロン」の移動によって「前記衣類の前記蒸気が供給された部分」が「接触面12」に位置したときには、当該部分は押し付けられるものであるといえるので、引用発明において「前記衣類の前記蒸気が供給された部分は前記接触面12が衣類に沿って滑るようにユーザが前記蒸気アイロンを動かしたときに前記衣類に供給される」ことは、本件補正発明において「前記布地接触面が布地に置かれたときに押し付けられる前記布地に供給される」ことに相当する。
引用発明における「ワイヤメッシュ15」は網の目の構造を有するものであるから、複数の開口を備えたものといえるので、引用発明における「ワイヤメッシュ15」と本件補正発明における「蒸気浸透性要素」は、「複数の開口を備えた要素」という限りにおいて一致する。
引用発明において「前記凹部にワイヤメッシュ15が取り付けられ」ることは、この取り付けによって「凹部」に「ワイヤメッシュ15」が配置され、配置された「ワイヤメッシュ15」を「凹部」は有しているといえるので、本件補正発明において「前記蒸気空洞は当該空洞に配置された蒸気浸透性要素を持」つことと「前記蒸気空洞は当該空洞に配置された複数の開口を備えた要素を持つこと」という限りにおいて一致する。更に、引用発明における「前記ワイヤメッシュ15の上部側から前記ワイヤメッシュ15の網の目の中に入り、前記ワイヤメッシュ15の下部側に出」ることと、本件補正発明における「前記蒸気浸透性要素を浸透し通過」することとは、「前記複数の開口を備えた要素を通過」することという限りにおいて一致する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
「本体と、蒸気生成ユニットと、底部と、を有する蒸気アイロンであって、前記底部は、蒸気空洞と、前記蒸気空洞のまわりに延在する外縁と、を有し、前記外縁は布地接触面を持ち、前記蒸気空洞は当該空洞に配置された複数の開口を備えた要素を持ち、前記複数の開口を備えた要素は、前記蒸気生成ユニットから前記蒸気空洞へと供給される蒸気が、前記複数の開口を備えた要素を通過して、前記布地接触面が布地に置かれたときに押し付けられる前記布地に供給されるように配置された、蒸気アイロン。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。

〔相違点〕
本件補正発明においては、「複数の開口を備えた要素」に関して「蒸気浸透性要素」であり、また、「前記複数の開口を備えた要素を通過」することに関して「前記蒸気浸透性要素を浸透し通過」することであるのに対し、引用発明においては、「複数の開口を備えた要素」に関して「ワイヤメッシュ15」であり、また、「前記複数の開口を備えた要素を通過」することに関して「前記ワイヤメッシュ15の上部側から前記ワイヤメッシュ15の網の目の中に入り、前記ワイヤメッシュ15の下部側に出」ることである点。

(4)判断

そこで、上記の一応の相違点が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
本件補正発明における「蒸気浸透性」及び「蒸気が、前記蒸気浸透性要素を浸透し」の意味について検討すると、この「浸透」とは、一般的に「しみとおること。しみこむこと。」(広辞苑第六版)という意味であり、また、本願明細書には「蒸気分配室15において、浸透性要素23により形成される蒸気分配室15の下面25に亘り蒸気が分散させられる。蒸気は次いで、浸透性要素23に形成された複数の穴を通って、蒸気空洞20へと流れる。」(段落【0045】)と記載されていることから、「蒸気が、前記蒸気浸透性要素を浸透し」とは、蒸気が「蒸気浸透性要素」に形成された複数の穴の中にしみとおる又はしみこむことを意味し、「蒸気浸透性」とは蒸気が複数の穴の中にしみとおる又はしみこむ性質を意味すると解される。そうすると、引用発明においても「蒸気が、前記ワイヤメッシュ15の上部側から前記ワイヤメッシュ15の網の目の中に入」るものであるから、蒸気が前記網の目の中にしみとおる又はしみこむものであって、「ワイヤメッシュ15」は「蒸気浸透性」を持っているといえるので、引用発明における「蒸気が、前記ワイヤメッシュ15の上部側から前記ワイヤメッシュ15の網の目の中に入り、前記ワイヤメッシュ15の下部側に出」ることは、本件補正発明における「蒸気が、前記蒸気浸透性要素を浸透し通過」することに相当し、引用発明における「ワイヤメッシュ15」は本件補正発明における「蒸気浸透性要素」に相当するといえる。以上のことから、上記相違点は実質的な相違点であるとはいえない。

(5)請求人の主張

請求人は、審判請求書において、「本願請求項1に係る発明による蒸気アイロンは、蒸気が「蒸気浸透性要素」を浸透して、然る後に布地へと供給されるように、「蒸気浸透性要素」が配置されていることを、特徴のひとつとしている。この特徴により、蒸気が浸透性要素に浸透してから供給されるので、例えば蒸気の開口の近傍以外にも蒸気を行きわたらせることができ、むらのない蒸気がけを実現できるという効果を発揮するのである。」、「引用文献1には、蒸気がワイヤメッシュ15に浸透してから布地に供給されるということは何ら記載されておらず、上記したワイヤメッシュ15の目的からみても、蒸気がワイヤメッシュ15に浸透する必然性も必要性も全くない点に留意されたい。むしろ、「メッシュの密度は、ワイヤメッシュ15が湯垢収拾器としても機能することができるよう選択され」ると明記されていることから、蒸気を浸透させるに適した密度は選択されておらず、単に湯垢を収拾できるような密度が選択されることが明らかである。以上のとおりであるから、引用文献1のワイヤメッシュ15は蒸気を浸透させることができず、従って本願発明の「蒸気浸透性要素」に相当するとは、到底結論できない。」、「引用文献1の段落0045に記載されたワイヤメッシュ15は、あくまで外観の向上及び湯垢収拾が目的であるので、蒸気を浸透させるような細かさの密度を何ら持たないことは明白である。このように、単にメッシュ等の形状が共通するという理由だけで、引用文献に記載のメッシュ等が本願発明の「(蒸気)浸透性要素」に相当するとする認定は、論理が著しく飛躍した後知恵による認定であり、当然ながら承服できない。」と主張している。
しかしながら、上記(4)のとおり、「浸透」とは、一般的に「しみとおること。しみこむこと。」という意味であって、引用発明において、蒸気はワイヤメッシュ15の上部側からワイヤメッシュ15の網の目の中に入るのであるから、蒸気はワイヤメッシュ15の網の目を「浸透」するものであるといえるので、ワイヤメッシュ15が「蒸気を浸透させることができず」、「蒸気を浸透させるような細かさの密度を何ら持たない」とする請求人の主張は採用することができない。
また、本願明細書では「蒸気生成室7において生成された蒸気は高い圧力下にあり、従って蒸気は蒸気通路14に沿って蒸気分配室15へと流される。」(段落【0044】)、「蒸気分配室15において、浸透性要素23により形成される蒸気分配室15の下面25に亘り蒸気が分散させられる。蒸気は次いで、浸透性要素23に形成された複数の穴を通って、蒸気空洞20へと流れる。蒸気分配室15は、蒸気が浸透性要素23の表面全体に亘って浸透性要素23を通して均一に流れることを可能とする。」(段落【0045】)と記載されており、蒸気が蒸気通路14の近傍以外にも分散させられるのは、蒸気が浸透性要素23に形成された複数の穴に入るよりも前の段階である、蒸気分配室15においてなされることであるといえる。請求人は「蒸気が浸透性要素に浸透してから供給されるので、例えば蒸気の開口の近傍以外にも蒸気を行きわたらせることができ、むらのない蒸気がけを実現できる」と主張するが、蒸気の分散(行きわたらせること)が、蒸気が蒸気通路14の近傍から「蒸気浸透性要素」の開口に入った後に「蒸気浸透性要素」においてなされるということは、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載において何ら特定されておらず、また上記のとおり本願明細書の記載にもないことから、当該主張は特許請求の範囲及び明細書の記載に基づかないものであり、採用することができない。

(4)独立特許要件の判断のまとめ

したがって、本件補正発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.本件補正についてのまとめ

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3.本願発明について

1.本願発明

平成29年4月14日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし14に係る発明は、平成28年7月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2.[理由]1.(2)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由のうちの理由1(特許法第29条第1項第3号)であって、上記の引用文献1に係る理由の概要は以下のとおりである。
本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3.引用文献1の記載事項

引用文献1の記載事項は、上記第2.[理由]3.(2)に記載のとおりのものである。

4.対比・判断

本願発明は、上記第2.[理由]3.で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「蒸気浸透性要素」から下線部の記載を削除して「浸透性要素」とし、更に「前記蒸気浸透性要素は、前記蒸気生成ユニットから前記蒸気空洞へと供給される蒸気が、前記蒸気浸透性要素を浸透し通過して、前記布地接触面が布地に置かれたときに押し付けられる前記布地に供給されるように配置された」という事項からから下線部の記載を削除して「前記蒸気生成ユニットから前記蒸気空洞へと供給される蒸気が、前記浸透性要素を通過して、前記布地接触面が布地に置かれたときに押し付けられる前記布地に供給される」という事項にしたものであるから、本件補正発明の発明特定事項である「蒸気浸透性要素」を限定する事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明は、上記第2.[理由]3.に記載したとおり、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するのであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する。

第4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-21 
結審通知日 2018-05-22 
審決日 2018-06-04 
出願番号 特願2014-503239(P2014-503239)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (D06F)
P 1 8・ 113- Z (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 信平伊藤 秀行  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 永田 和彦
藤井 昇
発明の名称 蒸気アイロン  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 矢ヶ部 喜行  
代理人 五十嵐 貴裕  

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