• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G08B
管理番号 1345280
審判番号 不服2017-13634  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-13 
確定日 2018-11-07 
事件の表示 特願2015-235324「トンネル火災告知設備」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月12日出願公開,特開2016- 76245,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由
1.手続の経緯

本願は,平成22年3月29日に出願した特願2010-074280号の一部を平成26年3月13日に分割した特願2014-049594号の一部を平成27年12月2日に分割した出願であって,平成28年11月22日付けで拒絶理由が通知され,平成29年1月20日に手続補正がなされ,平成29年6月6日付けで拒絶査定がされ,平成29年9月13日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明

本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成29年1月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された火災検出器と,
前記火災検出器が接続される防災受信盤と,
トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された消火栓装置内に,又は当該消火栓装置の近傍に設置され,複数の発煙材を備えた発煙装置と,
火災が発生したときに放水を行う水噴霧ヘッドと,
前記発煙装置の発煙動作及び前記水噴霧ヘッドの放水動作を制御する制御装置と,
を備えたトンネル火災告知設備であって,
前記防災受信盤は,前記火災検出器による火災検出信号を受信したときに,火災発生場所を示す区画信号を前記制御装置に送信し,
前記制御装置は,前記区画信号を受信したときに,前記発煙動作として火災発生場所を含む区画に設置された前記発煙装置に点火信号を送って前記発煙材に点火させ,当該発煙作動後に前記水噴霧ヘッドからの放水を行わせる,
ことを特徴とするトンネル火災告知設備。」

また,本願発明2は以下のとおりの発明である。

「トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された火災検出器と、
前記火災検出器が接続される防災受信盤と、
トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された消火栓装置内に、又は当該消火栓装置の近傍に設置され、複数の発煙材を備えた発煙装置と、
火災が発生したときに放水を行う水噴霧ヘッドと、
前記発煙装置の発煙動作及び前記水噴霧ヘッドの放水動作を制御する制御装置と、
を備えたトンネル火災告知設備であって、
前記防災受信盤は、前記火災検出器による火災検出信号を受信したときに、火災発生場所を示す区画信号を前記制御装置に送信し、
前記制御装置は、前記区画信号を受信したときに、前記発煙動作として火災発生場所よりも手前の進入側の複数区画に設置された前記発煙装置に点火信号を送って前記発煙材に点火させ、当該発煙作動後に前記水噴霧ヘッドからの放水を行わせる、
ことを特徴とするトンネル火災告知設備。」

さらに,本願発明3は,本願発明1または2において,制御装置の特徴を記載した発明であり,本願発明4-6は,本願発明1または2において,発煙装置の特徴を記載した発明である。


3.原査定の理由

原査定の理由の概要は,

この出願の請求項1-3に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2002-291918号公報
2.特開2008-197926号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2002-355324号公報
4.特開2009-142419号公報(周知技術を示す文献)
5.特開昭57-157391号公報(周知技術を示す文献)

というものである。


4.引用文献の記載及び引用発明

原査定の拒絶の理由で引用された特開2002-291918号公報(以下,「引用文献1」という。下線は当審で付与。)には,

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,トンネル用防災設備に関するもので,特に空間防護範囲を広くすることができ,トンネル内で火災が発生した際に火災を確実に消火できるトンネル用防災設備に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図6は従来のトンネル内防災設備を示すトンネルの断面図である。トンネル100内には,建築限界面100a(設備設置に対しての設置限界面)が設けられている。そして,車両の通行を妨げないように,この建築限界面100aの車道側には,通常如何なる設備も設置が出来ないこととされている。
【0003】一方,建築限界面100aの設備側(天井及び側壁側)には,ジェットファン20や照明設備21,さらには防災設備22等が多数設置されている。そして,散水手段としての噴霧ヘッド23の設置位置も建築限界面の100aの設備側に限定されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような構成の従来のトンネル内防災設備においては,噴霧ヘッド23から散水された消火液は,トンネル100内の空間に充分に散水されることなく散水障害となる恐れがあった。図6中実線23aは,噴霧ヘッド23から散水される消火液の上限を示し,図6中斜線は,散水されない空間を示す。このように,従来のトンネル内防災設備においては,本来の噴霧ヘッド23の能力が十分に発揮できなく,一つの噴霧ヘッド23での空間防護範囲(建築限界面100aの車両側の防護範囲)が狭くなるので問題であった。
【0005】この発明は,上記のような課題を解決するためになされたもので,空間防護範囲を広くすることができ,トンネル内の所定の範囲に対して隙間なく散水することで火災を確実に消火することができるトンネル内防災設備を得ることを目的とする。」

「【0016】
【発明の実施の形態】実施形態1.図1はトンネル内防災設備の配置状態を説明する図である。図1において,トンネル100内には,火災を感知する感知手段としての感知器1と,トンネル100内の幅方向一側(図1の上側)にトンネルの長手方向に整列して複数設けられた散水手段としての水噴霧ヘッド2と,給水源Wの水を水噴霧ヘッド2に供給するポンプPとが設けられている。水噴霧ヘッド2は,1つの散水区画毎に4個設けられて,散水区画内の火災に対して十分に放水されるように4個が同時に作動する。そして,各散水区画毎に設けられた水噴霧ヘッド2群に対して,水を供給する選択弁3が1個設けられている。
【0017】感知器1は,一つの散水区画に対して2個が設けられている。感知器1が,火災を感知するとその信号は制御盤CPに伝達される。そして,制御盤CPはこの信号に基づいて,対象となる散水区画と該散水区画の風下に隣接する散水区画の2つの散水区画に散水が行われるように選択弁3を開く動作をする。
【0018】図2は本実施の形態のトンネル内防災設備を示すトンネルの断面図である。散水手段としての水噴霧ヘッド2は,建築限界面100aの設備側に後退した図示しない待機位置と建築限界面100aの車道側に突出した散水位置(図2に記載の位置)との間で進退動可能に支持されている。制御手段としての制御盤CPは,水噴霧ヘッド2を,常時は待機位置に位置させると共に,感知器1の出力信号に基づき,火災発生時には,対象となる散水区画と隣接する散水区画の水噴霧ヘッド2とを共に散水位置に移動させ消火液を放水させる。」

【図1】

【図2】


「【0021】尚,基本的に火災発生時には車両の通行は止まるが,緊急車両の通行や内部に残された一般車両がトンネル内を通行する恐れがあるため,噴霧ヘッド2が飛び出てくる車線には感知器1との連動により事前にそのことを表示・音声等で警告する警告手段を設け,トンネル内部の通行規制を行って水噴霧ヘッド2の飛び出ていない車線を通行させる様にしても良い。そして,警告発令の後,時間差でトンネル自動弁を起動させ,水噴霧ヘッド2が飛び出して放水を開始するようにしてもよい。」

「【0023】実施の形態2.図3は本発明のトンネル内防災設備の他の例を示す散水手段近傍の斜視図である。本実施の形態の散水手段としての水噴霧ヘッド4は,建築限界面の設備側に設けられた回動軸としての回転ジョイント5を支点とする腕6を有し,水噴霧ヘッド4は,腕6の先端に設けられている。腕6は,常時は水平に近い状態で水噴霧ヘッド4bに位置させ,火災発生時には回動し鉛直に近い状態なり,水噴霧ヘッド4を建築限界面の車道側に吐出した散水位置4aに位置させる。」

【図3】


「【0030】尚,本実施の形態においては,上述のように水噴霧ヘッド4の腕6に緩衝環8を設けて運転手に対する警告手段としたが,水噴霧ヘッド4が散水位置に位置するときに周囲に警告を発令する警告手段を別に設けてもよい。この警告手段としては,電光掲示板による表示,音声による警告,発煙筒による煙などが考えられる。
【0031】また,この警告手段においては,感知器の出力をトリガーにして警告を発令するようにし,また,制御手段は,この警告の発令から所定の時間の後,散水手段を散水位置に移動させ消火液を散水するようにしてもよい。このような動作とすることにより,散水を行う所定の時間前に警告の発令をすることができ,いきなり散水することがないので,車両や運転者が確実に避難することができ安全性が向上する。
【0032】さらに,警告手段としては,散水手段の車両進行方向手前側に,弾性材料で作成された垂れ幕を,常時は建築限界面の設備側に後退した待機位置から散水位置に降ろすことでされても良い。このような構造とすることにより,散水の開始すなわち火災の発生を,火災発生地点の手前側で運転者に警告することができ,車両通行規制をする事ができるので安全性が向上する。
【0033】また,警告手段が,警告として,散水位置に移動した散水手段の車両進行方向手前側で運転者に散水手段のある車線から他の車線に車線変更を促す表示を出現させるようにしても良い。このような構造とすることにより,散水地点すなわち火災の発生地点の手前側で,車両が他の車線に車線変更することとなり,安全性が向上する。」

の記載がある。

【0016】に,「トンネル100内の幅方向一側(図1の上側)にトンネルの長手方向に整列して複数設けられた散水手段としての水噴霧ヘッド2」が設けられることが記載されているから,「水噴霧ヘッド2」は「トンネルの長手方向に整列して設けられ」ているといえる。
さらに,【0016】に,「水噴霧ヘッド2は,1つの散水区画毎に4個設けられ」ることが記載されているから,「水噴霧ヘッド2」は,「散水区画毎に4個設置されている」といえる。
上記によれば,「水噴霧ヘッド2」は「トンネルの長手方向に整列して散水区画毎に設置されている」といえる。

【0016】に,水噴霧ヘッド2が,「散水区画内の火災に対して十分に放水されるように4個が同時に作動する。」ことが記載されているから,「水噴霧ヘッド2」は「散水区画内の火災に対して放水される」といえる。

【0017】に,「感知器1は,一つの散水区画に対して2個が設けられ」ることが記載されており,図1を参照すれば,4個の水噴霧ヘッド2の下部に2個の感知器1が対応して設けられていることが明らかである。
上記のように,水噴霧ヘッド2はトンネルの長手方向に整列して設置されているから,「感知器1」も「トンネルの長手方向に整列して設置されている」といえる。

【0017】に「感知器1が,火災を感知するとその信号は制御盤CPに伝達され」ることが記載されており,【図1】を参照すれば「感知器1」は「制御盤CPに接続され」ていることが明らかである。

【0017】に「感知器1は,一つの散水区画に対して2個が設けられている。感知器1が,火災を感知するとその信号は制御盤CPに伝達される。そして,制御盤CPはこの信号に基づいて,対象となる散水区画と該散水区画の風下に隣接する散水区画の2つの散水区画に散水が行われるように選択弁3を開く動作をする。」と記載されているから,「感知器1」は,「散水区画に設けられ」ている。
ここで,「火災を感知する」ことは,「火災が発生しているのを感知する」ことであるから,「感知器1が,火災を感知する」とは,「散水区画内で火災が発生しているのを感知する」ことといえる。
また,「制御盤CP」は「散水が行われるよう」な動作をするのであって,「散水」は「水噴霧ヘッド2」が散水するから,「制御盤CP」は,「水噴霧ヘッド2の散水が行われるよう」な動作をするといえ,該動作を「水噴霧ヘッドの散水動作制御」と呼ぶことは任意である。
ここで,【0017】には,「散水が行われる」対象の「2つの散水区画」が,「対象となる散水区画」と「該散水区画の風下に隣接する散水区画」であることが記載されている。
そして,該2つの散水区画のうちの「対象となる散水区画」がどの区画であるかについては,制御盤CPが,火災を感知した感知器1から伝達された信号に基づいて散水が行われるようにする散水区画であって,上記に記載したように,水噴霧ヘッド2は散水区画内の火災に対して放水が行われるから,少なくとも「火災を感知した感知器の散水区画」に対して散水が行われることは明らかである。
さらに,「対象となる散水区画」と「該散水区画の風下に隣接する散水区画」は隣接する散水区画であって,火災が風下側に延焼しやすいことは技術常識であるから,「対象となる散水区画」とは,「火災を感知した散水区画」であるといえる。
つまり,【0017】において,制御盤CPが散水が行われるようにする「対象となる散水区画と該散水区画の風下に隣接する散水区画の2つの散水区画」とは,「火災を感知した散水区画と火災を感知した散水区画の風下に隣接する散水区画の2つの散水区画」であるといえる。
上記によれば,火災が発生したことを感知した時に,制御盤CPは火災が発生した散水区画を含む散水区画を複数特定し,特定した散水区画に対して散水動作制御を行うといえる。

【図1】はトンネル内防災設備の配置状態を説明する図であって,【0023】以降に記載される「実施の形態2」は,「本発明のトンネル内防災設備」の「散水手段としての水噴霧ヘッド4」の実施の形態であるから,「散水手段としての水噴霧ヘッド4」がトンネルにおいてどのように配置されているかという,「トンネル内防災設備の配置状態」は,図1と同じであると解される。
ここで,図1のトンネル内防災設備の配置状態における「水噴霧ヘッド」は,「水噴霧ヘッド2」であるから,【0023】に記載される「水噴霧ヘッド4」は,図1の「水噴霧ヘッド2」に代えて用いられる水噴霧ヘッドであって,トンネル内の同じ位置に配置されるものであり,その動作についても「水噴霧ヘッド2」と同じ動作を行うものであると解される。

そうすると,上記したように,「水噴霧ヘッド2」が「トンネルの長手方向に整列して散水区画毎に接地されている」から,「水噴霧ヘッド4」も「トンネルの長手方向に整列して散水区画毎に設置されている」といえる。
また,「水噴霧ヘッド2」は「散水区画内の火災に対して放水する」から,「水噴霧ヘッド4」も「散水区画内の火災に対して放水する」といえ,火災が発生しているのを感知した時に,制御盤CPは火災が発生した散水区画を含む散水区画を複数特定し,特定した散水区画の水噴霧ヘッド4の散水動作制御を行うといえる。

【0030】に,「水噴霧ヘッド4が散水位置に位置するときに周囲に警告を発令する警告手段を別に設けてもよい。」ことが記載されており,「周囲」とは,「水噴霧ヘッド4の周囲」であるから,警告を発令する警告手段は水噴霧ヘッド4の周囲に設けられるといえる。
そして,上記したように,水噴霧ヘッド4はトンネルの長手方向に整列して散水区画毎に設置されているから,警告を発令する警告手段はトンネルの長手方向に散水区画毎に設置されているといえる。
さらに,【0030】に,「この警告手段としては,電光掲示板による表示,音声による警告,発煙筒による煙などが考えられる。」と記載されているから,「警告を発令する警告手段」は「発煙筒による煙」であり,「発煙筒による煙」の警告手段とは,発煙筒が煙を発することによる警告手段のことであるから,「警告手段」により「発煙筒が煙を発する」といえる。
したがって,トンネルの長手方向に散水区画毎に別に設けた発煙筒が煙を発することにより水噴霧ヘッドの周囲に警告を発令しているといえる。

【0031】には,「散水を行う所定の時間前に警告の発令をすることができ,いきなり散水することがない」と記載され,「散水」とは「水噴霧ヘッド4による散水」であって,「警告」は「発煙筒による煙」であるから,「散水を行う所定の時間前に警告の発令をする」とは,「水噴霧ヘッド4による散水」を行う所定の時間前に「発煙筒による煙の発令」を行うことである。
これは,「発煙筒による煙の発令」の所定の時間後に「水噴霧ヘッド4による散水」を行うといえる。

そして,【0031】に,「この警告手段においては,感知器の出力をトリガーにして警告を発令するようにし」ていることが記載されており,「感知器の出力」をトリガーとして「警告を発令する」のであるから,「感知器の出力」の後に「警告を発令する」ことは明らかである。
ここで,前記したように,図1のトンネル内防災設備の配置状態を前提としているから,該「感知器」は,「感知器1」である。
そして,【0017】に「感知器1が,火災を感知するとその信号は制御盤CPに伝達される」の記載があるから,感知器1は制御盤CPと接続されており,感知器1の信号が制御盤CPで受信されるから,該「感知器1の信号」とは,感知器1が出力する信号,すなわち「感知器1の出力」である。
そして,該「感知器1の出力」を制御盤CPが受信していることが明らかであり,「警告の発令」は「感知器の出力をトリガー」にするのであるから,「警告の発令」は制御盤CPが行うことが明らかである。
さらに,感知器1は火災が発生したことを感知するものであるから,「感知器1の信号」とは,「火災が発生したことを感知した信号」であるといえる。
したがって,制御盤CPは感知器1による火災が発生したことを感知した信号を受信し,制御盤CPから「警告の発令」すなわち「発煙筒による煙の発令」が行われるといえる。

上記したように,火災が発生しているのを感知した時に,制御盤CPは火災が発生した散水区画を含む散水区画を複数特定し,特定した散水区画の水噴霧ヘッド4の散水動作制御を行っており,さらに上記したように,「発煙筒による煙の発令」の所定の時間後に「水噴霧ヘッド4による散水」が行われることから,特定した散水区画で発煙筒による煙の発令が行われるといえる。
したがって,「火災が発生した散水区画を含む散水区画」に設けられた発煙筒を特定して煙の発令をするのは制御盤CPであり,「煙の発令」は制御であるから,制御盤CPから「煙の発令」の制御信号が送られているといえる。

上記によれば,引用文献1には,以下の発明が記載されていると認める。

「トンネルの長手方向に整列して散水区画毎に設置されている火災を感知する感知器1と,
感知器1が接続される制御盤CPと,
トンネルの長手方向に整列して散水区画毎に設置されている水噴霧ヘッド4の周囲に設けられる煙を発する発煙筒と,
散水区画内の火災に対して放水する水噴霧ヘッド4と,
火災が発生した散水区画を含む散水区画を複数特定し,特定した散水区画の水噴霧ヘッド4の散水動作制御を行う制御盤CPと
を備えたトンネル内防災設備であって,
制御盤CPは感知器1による火災が発生したことを感知した信号を受信し,制御盤CPは火災が発生した散水区画を含む散水区画を複数特定し,
制御盤CPは火災が発生した散水区画を含む散水区画に設けられた発煙筒を特定し,発煙筒による煙の発令の制御信号が送られ,発煙筒による煙の発令の所定時間後に水噴霧ヘッド4による散水を行うことにより,いきなり散水することがない
トンネル内防災設備」(以下,「引用発明」という。)

(2)引用文献2の記載

原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-197926号公報(以下,「引用文献2」という。)には,以下の事項が記載されている。

「【0015】
また本発明によれば,前記効果に加え,警報部に着色炎を発する発煙筒を使用することにより,優れた視認性を有することが可能となる。また従来の電光表示を用いた警報表示板による警報と比較して,炎および煙による警報であることから装置構成,動作機構が簡素化可能である。加えて,優れた高度が発揮されるため,昼夜,天候を問わず,遥か前方から運転者や周囲の者が視認可能であり,判断するための時間的猶予を与えることが可能である。また発煙筒の炎が発する不規則な閃光のちらつきにより,優れた視認性を有するとともに注意喚起効果が増大することになる。さらに,規格品である発煙筒を使用すれば,使用済の発煙筒のみを交換するだけで直ちに使用可能となり,装置全体を回収するなどの場合と比較して著しくメンテナンス性を向上させることができる。」

「【0023】
次に,動作を説明すると,例えばトンネル2内において事故や火災が発生したことを道路管理事務所モニターで見た係員が前記トンネル2付近に設置されている道路用緊急警報装置6に駆動信号を出力すると,制御回路31により通電コネクタ23に通電される。通電コネクタ23に接続された発煙筒22は,一定値以上の電流が流れると着火するように設計されており,その結果,入力された駆動信号により発煙筒22が着火する。さらに,図示しないが制御部31にはタイマー回路が内蔵されており,これと連動させることにより,複数個の警報部2内の発煙筒22が順次着火していく仕組みが完成する。なお,本発明においては災害発生に応答して出力される駆動信号により作動し前記発煙筒に着火するための着火機構が備えられていればよく,前記の通電による着火機構に限定されるものでない。」

の記載がある。

【0023】には,「トンネル2内において」事故や火災が発生したことを道路管理事務所モニターで見た係員」が「駆動信号」を出力すると,「入力された駆動信号により発煙筒22が着火する。」「複数個の警報部2内の発煙筒22が順次着火」と記載されている。
つまり,「トンネル内において火災が発生したこと」を係員が認識すると「駆動信号」を出力するのであるから,該「駆動信号」は「トンネル内において火災が発生した場合」に出力される信号であるといえる。
また,駆動信号により「発煙筒が着火する」とは,駆動信号が「発煙筒を点火する」ことであるから,駆動信号は発煙筒を点火するための信号であり,該駆動信号により「複数個の警報部内の発煙筒が順次点火」するといえる。

したがって,引用文献2によれば,

「トンネル内において火災が発生した場合に,出力される駆動信号により,複数個の警報部内の発煙筒が順次点火すること。」

は,周知である。(以下,「周知技術」という。)

5.対比と判断

(1)本願発明1と引用発明の対比

本願発明1と引用発明を対比する。

引用発明は,「トンネル内防災設備」であって,「火災が発生したことを感知」すると「発煙筒による煙の発令」が行われるから,「トンネル火災告知」を行う設備,すなわち「トンネル火災告知設備」であるといえる。

引用発明の「火災を感知する感知器1」は,火災を感知するものであって,「火災の感知」とは「火災を検出」することであるから,本願発明1の「火災検出器」に相当する。
さらに,引用発明の「トンネルの長手方向」は,本願発明1の「トンネル内の走行方向」に相当する。
そして,引用発明の「散水区画」は,「散水する区画」であって所定の長さを有しているから,各々の「散水区間」は「所定の長さ」毎に設けられているといえる。これは「散水区間」が「所定間隔」で設けられていることを意味している。したがって,「散水区画毎」に設けられている「火災を関知する感知器1」も,「所定間隔」で配置されているといえる。
上記によれば,引用発明の「トンネルの長手方向に整列して散水区画毎に設置されている火災を関知する感知器1」は「トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された火災検出器」であるといえる。

引用発明の「感知器1」は,本願発明1の「火災検出器」に相当するから,引用発明の「感知器1が接続される制御盤CP」と,本願発明1の「火災検出器が接続される防災受信盤」とは,「火災検出器が接続される制御部」である点で共通する。

本願発明1の「発煙装置」は,「トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された消火栓装置内」又は「当該消火栓装置の近傍」に配置されているから,「トンネル内の走行方向に所定間隔」で設置されている一方,引用発明の「煙を発する発煙筒」は,「トンネルの長手方向に整列して散水区画毎に設置されている水噴霧ヘッド4の周囲に設けられ」ている。
したがって,本願発明1の「トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された消火栓装置内に,又は当該消火栓装置の近傍に配置され,複数の発煙材を備えた発煙装置」と引用発明の「トンネルの長手方向に整列して散水区画毎に設置されている水噴霧ヘッド4の周囲に設けられる煙を発する発煙筒」は,「トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された発煙装置」である点で共通する。

引用発明の「散水区画内の火災に対して放水する水噴霧ヘッド4」について,「散水区画内の火災」は散水区画内において発生した火災であり,「放水する」は「放水を行う」ことであり,「放水を行う」のは「散水区画内において火災が発生したとき」であることは自明であるから,引用発明の「散水区画内の火災に対して放水する水噴霧ヘッド4」は,本願発明1の「火災が発生したときに放水を行う水噴霧ヘッド」に含まれる。

引用発明の「火災が発生した散水区画を含む散水区画を複数特定し,特定した散水区画の水噴霧ヘッド4の散水動作を行う制御盤CP」について,「水噴霧ヘッド4の散水動作を行う」ことは,「水噴霧ヘッドの放水動作」であるから,引用発明の「制御盤CP」は,「水噴霧ヘッドの放水動作を制御」しているといえる。
また,引用発明において,制御盤CPは,「発煙筒による煙の発令の制御信号」を送っており,「発煙筒による煙の発令の制御信号を送」ることは,「発煙装置の発煙動作を制御」していることである。
上記によれば,引用発明の「制御盤CP」は「発煙装置の発煙動作を制御」し,「火災が発生した散水区画を含む散水区画を複数特定し,特定した散水区画の水噴霧ヘッド4の散水動作を行」っているから,本願発明1の「前記発煙装置の発煙動作および前記水噴霧ヘッドの放水動作を制御する制御装置」とは,「前記発煙装置の発煙動作および前記水噴霧ヘッドの放水動作を制御する制御部」である点で共通する。

引用発明の「制御盤CP」は,「感知器1による火災が発生したことを感知した信号を受信」して,「火災が発生した散水区画を含む散水区画を複数特定」しており,「火災が発生したことを感知した信号」は「火災が発生した散水区画」の「感知器1」から出力されているから,制御盤CPが「火災が発生した散水区画」を特定できることは明らかであり,該特定した「火災が発生した散水区画」を含む「散水区画」の発煙筒に対して「発煙筒による煙の発令の制御信号」を送っており,該制御信号により「発煙筒による煙」が発生することは明らかである。ここで,「発煙筒による煙」を発生させることは,「発煙動作」といえる。
さらに,引用発明の制御盤CPから,「煙の発令の制御信号」が送られることにより,「発煙筒による煙の発令の所定時間後に水噴霧ヘッド4による散水」が行われることにより「いきなり散水することが無い」のであるから,「警告の発令」による「警告」が「散水」の前に行われることは明らかである。つまり,「発煙作動後」に「水噴霧ヘッドからの放水」が行われるといえる。
上記によれば,引用発明の「制御盤CP」と,本願発明1の「防災受信版」「制御装置」とは,「火災検出器による火災検出信号を受信したとき」に,「前記発煙動作として火災発生場所を含む区画に設置された発煙装置に信号を送って,発煙作動後に水噴霧ヘッドからの放水を行」わせる「制御部」である点で一致する。

したがって,本願発明1と引用発明は,

「トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された火災検出器と,
前記火災検出器が接続される制御部と,
発煙装置と,
火災が発生したときに放水を行う水噴霧ヘッドと,
前記発煙装置の発煙動作及び水噴霧ヘッドの放水動作を制御する制御部と,
を備えたトンネル火災告知設備であって,
前記制御部は,前記火災検出器による火災検出信号を受信したときに,前記発煙動作として火災発生場所を含む区画に設置された発煙装置に信号を送って,発煙作動後に水噴霧ヘッドからの放水を行わせる,
ことを特徴とするトンネル火災告知設備。」

で一致し,下記の点で相違する。

相違点1

一致点の発煙装置について,本願発明1の発煙装置は「トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された消火栓装置内に,又は当該消火栓装置の近傍に設置され」ていて「複数の発煙材を備え」ているのに対し,引用発明の発煙装置は,「トンネル内の車両の走行方向に整列して散水区画毎に設置されている水噴霧ヘッド4の周囲に設けられ」ており,「発煙筒」が「複数の発煙材を備え」ている記載は無い点。

相違点2

一致点の「制御部」に関し,引用発明は「制御盤CP」であるのに対し,本願発明1は,「火災検出器が接続される防災受信盤」と「発煙装置の発煙動作および水噴霧ヘッドの放水動作を制御する制御装置」で構成され,「防災受信盤」が,「前記火災検出器による火災検出信号を受信したときに,火災発生場所を示す区画信号を前記制御装置に送信」し,「制御装置」が「前記区画信号を受信したときに,前記発煙動作として火災発生場所を含む区画に設置された前記発煙装置に点火信号 を送って発煙材に点火させ,当該発煙作動後に前記水噴霧ヘッドからの放水を行わせる」点。

相違点3

発煙装置および制御装置による発煙装置の発煙動作について,本願発明1は,発煙装置に「点火信号」を送って発煙材へ点火させているのに対し,引用発明は,制御盤CPが発煙筒へ「信号」を送って発煙動作させている点。

(2)相違点についての判断

相違点1について

引用発明における「警告」は,第1実施例においては,「基本的に火災発生時には車両の通行は止まる」ことを前提とし,「緊急車両や内部に残された一般車両がトンネル内を通行」する場合に備えて「噴霧ヘッド2が飛び出てくる車線」に対して,「事前」にそのことを「表示・音声等で警告」することにより,「水噴霧ヘッド2の飛び出ていない車線を通行させる様」にするものである。
そして,第2実施例は上記(1)において記載したように,「散水手段としての水噴霧ヘッド4」について記載した実施例であって,その他の構成については,実施例1と同じであると解されるから,第2実施例の「警告」についても,第1実施例と同様であると解される。
第2実施例における「警告手段」として,「別に設け」てもよく,「電光掲示板による表示,音声による警告,発煙筒による煙など」が含まれることは記載されているものの,上記のように,第2実施例の「警告」についても第1実施例と同様であることを考慮すれば,第1実施例の「表示・音声等で警告」の具体的な手段として「電光掲示板による表示,音声による警告,発煙筒による煙など」が記載されているのであって,「発煙筒による煙」も「水噴霧ヘッド2の飛び出ていない車線を通行させる様」にするための警告であると解される。

一方,本願発明1は,「火災に気付いてもトンネル内での火災の発生場所が分からないため,車両を停止しないまま火災現場に向かっていく可能性」を防止することをその目的の1つとしており,そのために「複数の発煙材を備えた発煙装置」を「消火栓装置内」あるいは「近傍」に設けたものである。

ここで,都市局長と道路局長による昭和56年4月21日の「道路トンネル非常用施設設置基準について」の4頁と6頁(下記参照)において記載されるように,トンネルの防災設備として消火栓装置が50mを標準として設置され,水噴霧ヘッドによる放水区間が50m以上であること,水噴霧ヘッドがトンネル等級AAに対しては原則,トンネル等級Aに対しては必要に応じて,それぞれ設置される一方,消火栓装置はトンネル等級AAとトンネル等級Aに対して原則として設置するから,「水噴霧ヘッドを有するトンネルには消火栓装置が必ず設置されている」ことは技術常識である。

1頁


4頁


6頁


「消火栓装置」がトンネル内の地表近くに設置されることは,「初期消火」の目的からみて自明であるから,本願発明1の「発煙装置」は地表近くに設置されていると解される。

本願発明1の警報手段は「複数の発煙材を備え」ているから,「大量の発煙」を可能とするものであり,煙が上方に広がることは技術常識であることを考慮すれば,地表近くに設置されている「消火栓装置」に発煙装置を設けることで,トンネルの地表近くから上部にわたる部分が煙で充満されることは自明であって,トンネルの地表近くから上部にわたる部分が煙で充満されることによって,本願明細書の段落【0023】に記載されるように「火災発生現場に侵入する前に,その手前で確実に停止」させることを可能としている。

一方,引用発明の警告手段は,「水噴霧ヘッドの飛び出ていない車線を通行させる」ための警告を行う手段であるから,「発煙筒による煙」は,通行させる車線を判別可能な構成とする必要があり,「通行させる車線」を判別可能とするためには,「通行させる車線」と「通行させない車線」を判別できるような「煙」とする必要があり,トンネルの地表近くから上部にわたる部分を「煙」で充満させてはならないから,引用発明の「発煙筒による煙」を「消火栓装置内」あるいは「消火栓装置の近傍」に設けた「複数の発煙材を備え」た発煙装置による煙とすることはできない。

したがって,当業者といえども,容易に発明をすることができたとはいえない。

相違点1について,当業者といえども容易に発明をすることができたとはいえないから,その他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明から容易に発明をすることができたとはいえない。


(3)本願発明2について

本願発明2は,「2.本願発明」に記載したとおりであり,引用発明は,「4.引用文献の記載及び引用発明」に記載したとおりである。

したがって,本願発明2と引用発明は,

「トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された火災検出器と,
前記火災検出器が接続される制御部と,
発煙装置と,
火災が発生したときに放水を行う水噴霧ヘッドと,
前記発煙装置の発煙動作及び水噴霧ヘッドの放水動作を制御する制御部と,
を備えたトンネル火災告知設備であって,
前記制御部は,前記火災検出器による火災検出信号を受信したときに,前記発煙動作として所定の区画に設置された発煙装置に信号を送って,発煙作動後に水噴霧ヘッドからの放水を行わせる,
ことを特徴とするトンネル火災告知設備。」

で一致し,下記の点で相違する。

相違点1

一致点の発煙装置について,本願発明1の発煙装置は「トンネル内の走行方向に所定間隔で配置された消火栓装置内に,又は当該消火栓装置の近傍に設置され」ていて「複数の発煙材を備え」ているのに対し,引用発明の発煙装置は,「トンネル内の車両の走行方向に整列して散水区画毎に設置されている水噴霧ヘッド4の周囲に設けられ」ており,「発煙筒」が「複数の発煙材を備え」ている記載は無いである点。

相違点3

発煙装置および制御装置による発煙装置の発煙動作について,本願発明1は,発煙装置に「点火信号」を送って発煙材へ点火させているのに対し,引用発明は,制御盤CPが発煙筒へ「信号」を送って発煙動作させている点。

相違点4

一致点の「制御部」に関し,引用発明は「制御盤CP」であるのに対し,本願発明1は,「火災検出器が接続される防災受信盤」と「発煙装置の発煙動作および水噴霧ヘッドの放水動作を制御する制御装置」で構成され,「防災受信盤」が,「前記火災検出器による火災検出信号を受信したときに,火災発生場所を示す区画信号を前記制御装置に送信」し,「制御装置」が「前記区画信号を受信したときに,前記発煙動作として火災発生場所よりも手前の進入側の複数区画に設置された前記発煙装置に点火信号を送って発煙材に点火させ,当該発煙作動後に前記水噴霧ヘッドからの放水を行わせる」点。

そうすると,(1)で記載した相違点1を含むから,(2)で記載したのと同様の理由により,引用発明から容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本願発明3-6について

本願発明3-6は,本願発明1または2において,制御装置あるいは発煙装置の特徴を記載した発明であるから,引用発明と比較すると,上記相違点1を有している。
したがって,同様の理由により,引用発明から容易に発明をすることができたとはいえない。


6.まとめ

以上のとおり、本願発明1-6は、当業者が引用発明1及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-10-23 
出願番号 特願2015-235324(P2015-235324)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G08B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山岸 登  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 中野 浩昌
吉田 隆之
発明の名称 トンネル火災告知設備  
代理人 竹内 進  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ