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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1345284
審判番号 不服2017-13723  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-14 
確定日 2018-11-09 
事件の表示 特願2016- 17071「音声翻訳システム、音声翻訳方法、及び音声翻訳プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月10日出願公開、特開2017-138650、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年2月1日の出願であって、平成28年9月28日付けで拒絶理由通知がなされ、平成28年11月24日に手続補正がなされ、平成29年2月10日付けで拒絶理由通知がなされ、平成29年4月4日に手続補正がなされたが、平成29年6月15日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対し、平成29年9月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、当審において、平成30年7月19日付けで拒絶理由通知がなされ、平成30年9月10日付けで手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成29年6月15日付けで拒絶査定)の概要は次のとおりである。

請求項1-7に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公告又は出願公開がされた下記1の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特願2015-125675号(特開2017-10311号)
2.特開昭63-106866号公報
3.特開平1-230177号公報
4.特開昭62-286172号公報
5.特開平7-105220号公報

第3 本願発明

本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、平成30年9月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ユーザの音声を入力する情報端末と、
前記情報端末に入力された音声の内容を翻訳するサーバ装置と、
前記情報端末との間の通話処理をする通訳者端末と、を備える音声翻訳システムであって、
前記サーバ装置は、
前記情報端末に入力された音声の内容を認識する音声認識部と、
前記音声認識部で認識された内容を異なる言語の内容に翻訳する翻訳部と、
翻訳精度に関するスコアを算出するスコア算出部と、を備え、
前記情報端末は、
前記サーバ装置の前記翻訳部で翻訳された内容を音声で出力する音声出力部と、
前記入力された音声の内容の第1テキストを画面における第1領域に表示し、且つ、前記翻訳された内容の第2テキストを前記画面における前記第1領域とは異なる第2領域に表示する処理を制御する第1表示処理制御部であって、前記スコア算出部により算出された前記スコアが所定の閾値以下である場合に、前記第1テキスト及び前記第2テキストに加え、前記通訳者端末との間の通話処理を開始するための通話処理開始リクエストを前記通訳者端末に送信するための第1画像を、前記画面において選択的に表示する処理を制御する第1表示処理制御部と、
前記第1画像が選択されたとき、前記通話処理開始リクエストを前記通訳者端末に送信する通話処理制御部と、を備える、
音声翻訳システム。」

なお、本願発明2-7の概要は以下のとおりである。

本願発明2-5は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明6は、本願発明1の情報端末の各部に対応する方法の発明である。
本願発明7は、本願発明1の情報端末の各部に対応するプログラムの発明である。

第4 先願の当初明細書等、先願発明

原査定の拒絶の理由に引用された、特願2015-125675号(特開2017-10311号)の、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願の当初明細書等」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。)。

ア.「【0018】
1.構成
図1は、一実施形態に係る翻訳支援システム1の概要を示す図である。翻訳支援システム1は、第1言語を話す第1話者U1と第2言語を話す第2話者U2との会話を支援するシステムである。」

イ.「【0019】
翻訳支援システム1は、ユーザ端末10、サーバ20、およびオペレータ端末30を有する。ユーザ端末10は、店舗において用いられる端末であり、第1話者U1と第2話者U2とのインターフェースとして機能する。オペレータ端末30は翻訳オペレータO(すなわち人間の通訳)により用いられる端末である。」

ウ.『【0038】
再び図6を参照する。ステップS101において、ユーザ端末10のCPU100は、第1言語および第2言語、並びにユーザ端末10を特定する情報を、通信IF104を介してサーバ20に送信する。この情報により、サーバは、翻訳元の言語および翻訳先の言語を特定することができる。
【0039】
ステップS102において、CPU100は、マイクロフォン107を介して入力された音声をデータ化し、音声データを得る。CPU100は、この音声データに、話者が話している言語の識別子を付加する。ステップS103において、CPU100は、音声データを、通信IF104を介してサーバ20に送信する。
【0040】
ステップS104において、サーバ20のCPU200は、ユーザ端末10から受信した音声データに対し、音声認識処理を行う。この音声データには、言語を特定する識別子が付加されている。CPU200は、この識別子を参照し、識別子により示される言語に適した辞書およびアルゴリズムを用いて音声認識処理を行う。音声認識処理により、話者の話し言葉から変換された文字列のデータが得られる。以下、音声認識処理により得られた文字列を「対象原文」という。このデータには、対象原文の言語を特定する識別子が含まれる。
【0041】
ステップS105において、CPU200は、対象原文を翻訳する。対象原文の言語はデータに含まれる識別子により示され、また、翻訳先の言語はステップS101で送信された情報により示される。CPU200は、これらの情報により示される言語に適した辞書およびアルゴリズムを用いて翻訳を行う。翻訳により、対象原文を翻訳した文字列が得られる。以下、翻訳により得られた文字列を対象翻訳文という。
【0042】
ステップS106において、CPU200は、翻訳精度の判定を行う。この例で、翻訳精度の判定は、以下のとおり行われる。まず、CPU200は、対象翻訳文を対象原文の言語に再翻訳する。再翻訳により得られた文字列を「対象再翻訳文」という。CPU200は、対象再翻訳文と対象原文とを対比し、両者の近似度に基づいて翻訳精度を判定する。具体的には、CPU200は、所定のアルゴリズムにより対象再翻訳文と対象原文との近似度を数値として算出する。CPU200は、算出された近似度をしきい値と比較し、近似度がしきい値よりも低い(対象再翻訳文と対象原文とが近似していない)場合に、翻訳精度が不良範囲にあると判定する。この例で、このしきい値は、翻訳支援システム1および2人の話者の少なくともいずれかの状況に応じて動的に決定される。しきい値の決定方法の詳細は後述する。翻訳精度が不良範囲にないと判断された場合、CPU200は、処理をステップS107に移行する。翻訳精度が不良範囲にあると判断された場合、CPU200は、処理をステップS110に移行する。
【0043】
ステップS107において、CPU200は、対象翻訳文を用いて音声合成処理を行う。音声合成処理により、対象翻訳文の音声データが得られる。ステップS108において、CPU200は、対象原文の文字データ、対象翻訳文の文字データ、および対象翻訳文の音声データを、対象原文の音声データの送信元であるユーザ端末10に送信する。
【0044】
ステップS109において、ユーザ端末10のCPU100は、サーバ20から受信したデータに基づき、翻訳文を出力する。翻訳文の出力は、対象翻訳文の文字列の表示および対象翻訳文の音声の出力を含む。この例では、さらに、対象原文の文字列の表示も行われる。
【0045】
図9は、翻訳文が表示されているUI画面を例示する図である。このUI画面においては、第1話者U1の話し言葉と第2話者U2の話し言葉とを区別可能なように、第1話者U1と第2話者U2とで、例えば、文字の書体、色、大きさ、および表示位置の少なくとも1つが異なっている。また、原文と翻訳文とにおいても、文字の書体、色、大きさ、および表示位置の少なくとも1つが異なっている。
【0046】
この例では、客の「How much is this?」という話し言葉に対して、音声認識により得られた「How much is this?」という原文、および「これはいくらですか?」という翻訳文が表示されている。さらに、これに対する店員の「20,000円です」という話し言葉に対して「20,000円です」という原文、および「20,000 JPY」という翻訳文が表示されている。』

エ.「【0047】
再び図6を参照する。ステップS110において、CPU200は、話者と翻訳オペレータO(通訳)とを通話させるため、翻訳オペレータOを選択する。サーバ20は、翻訳支援システム1においてサービス提供可能な翻訳オペレータOの一覧を含むデータベースをストレージ203に記憶している。このデータベースには、各翻訳オペレータOが対応可能な言語を示す情報、その翻訳オペレータOが現在稼働中かどうかを示す情報、およびその翻訳オペレータOが使用しているオペレータ端末30の識別子が含まれている。CPU200は、現在稼働中の翻訳オペレータOの中から、第1言語および第2言語に対応可能な翻訳オペレータOを選択する。
【0048】
ステップS111において、CPU200は、選択された翻訳オペレータOが使用しているオペレータ端末30の識別子、およびオペレータへの接続指令を、ユーザ端末10に送信する。
【0049】
サーバ20からオペレータへの接続指令を受信すると、ユーザ端末10のCPU100は、接続指令と共に受信した識別子により特定されるオペレータ端末30に対し、呼接続を要求する(ステップS112)。ここでいう呼接続は、音声通信回線を介したものであってもよいし、データ通信回線を介したものであってもよい。ユーザ端末10およびオペレータ端末30は、周知の技術により呼接続を確立する(ステップS113)。すなわち通信回線を接続する。呼接続されると、話者と翻訳オペレータOとは、通常の電話と同じように話をすることができる。」

オ.『【0065】
3.変形例
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0066】
3-1.変形例1
翻訳精度が不良範囲にあると判断された場合の処理は、実施形態で説明した、自動的に(強制的に)オペレータ端末30に呼接続を行うものに限定されない。翻訳精度が不良範囲にあると判断された場合、CPU100は、オペレータ端末30への呼接続を話者に促す処理を行ってもよい。呼接続を促す処理は、例えば、呼接続を促す音声の出力および呼接続を促す画像の表示の少なくとも一方を含む。
【0067】
図11は、呼接続を促す画像を例示する図である。この例では、図9で説明したUI画面上にポップアップウインドウ60が表示されている。ポップアップウインドウ60は、呼接続を促すメッセージ61および呼接続を開始するためのボタン62を含んでいる。この例で、メッセージ61は、「翻訳精度が悪いのでオペレータへの接続をお薦めします」という文字列を含んでいる。話者がボタン62を押すと、CPU100は、オペレータ端末30との呼接続を行う。』

カ.「【0073】
3-7.変形例7
翻訳精度が不良範囲にあると判断された場合、サーバ20による翻訳の結果をユーザ端末10において出力したうえで、ユーザ端末10とオペレータ端末30との呼接続が行われてもよい。すなわち、図6のフローにおいて、ステップS106において翻訳精度が不良範囲にあると判断された場合、CPU200は、ステップS107およびS108に相当する処理を行ってから、ステップS110の処理を行ってもよい。」

キ.図9には、「How much is this?」という対象原文と、その下に「これはいくらですか?」という対象翻訳文を表示し、この表示の下に、「20,000円です」という対象原文と、その下に「20,000 JPY」という対象翻訳文を表示し、さらにこの表示の下に、「It's too expensive」という対象原文と、その下に「高いですね。」という対象翻訳文を表示する画面が記載されている。すなわち、対象原文とその対象翻訳文とを上下に並べて表示することが記載されている。

したがって、先願の当初明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。

<先願発明>
「(A) 第1言語を話す第1話者U1と第2言語を話す第2話者U2との会話を支援する翻訳支援システム1であって(【0018】)、
(B) 第1話者U1と第2話者U2とのインターフェースとして機能するユーザ端末10と、サーバ20と、翻訳オペレータにより用いられるオペレータ端末30とを有し(【0019】)、
(C) ユーザ端末10は、第1言語および第2言語を特定する情報をサーバ20に送信し、サーバ20は、この情報により翻訳元の言語および翻訳先の言語を特定し(【0038】)、
(D) ユーザ端末10は、マイクロフォン107を介して入力された音声をデータ化して音声データを得て、当該音声データをサーバ20に送信し(【0039】)、
(E) サーバ20は、受信した音声データに対し音声認識処理を行って、話者の話し言葉から変換された文字列すなわち対象原文を取得し(【0040】)、
(F) サーバ20は、前記対象原文を翻訳して、対象原文を翻訳した文字列すなわち対象翻訳文を取得し(【0041】)、
(G) サーバ20は、対象翻訳文を対象原文の言語に再翻訳し、再翻訳により得られた対象再翻訳文と対象原文との近似度を数値として算出し、当該近似度をしきい値と比較し、近似度がしきい値よりも低い場合に、翻訳精度が不良範囲にあると判定し(【0042】)、
(H) 前記判定において、翻訳精度が不良範囲にないと判定された場合(【0042】)、
(I) サーバ20は、音声合成処理を行って対象翻訳文の音声データを取得し、当該音声データと、対象原文の文字データ、対象翻訳文の文字データを、ユーザ端末10に送信し(【0043】)、
(J) ユーザ端末10は、サーバ20から受信したデータに基づき、対象翻訳文の音声を出力するとともに、画面に対象原文とその対象翻訳文とを上下に並べて表示し(図9、【0044】【0046】)、
(K) 前記判定において、翻訳精度が不良範囲にあると判定された場合(【0042】)、
(L) サーバ20は、翻訳オペレータを選択し(【0047】)、選択された翻訳オペレータが使用しているオペレータ端末30の識別子、およびオペレータへの接続指令を、ユーザ端末10に送信し(【0048】)、
(M) ユーザ端末10は、前記接続指令を受信すると、接続指令と共に受信した識別子により特定されるオペレータ端末30に対し呼接続を要求し、呼接続されると、話者と翻訳オペレータとは、通常の電話と同じように話をすることができ(【0049】)、
(N) 翻訳精度が不良範囲にあると判定された場合の処理は、自動的にオペレータ端末30に呼接続を行うものに限定されず、ユーザ端末が、話者に当該呼接続を促す処理を行ってもよく(【0066】)、その呼接続を促す処理は、該呼接続を促すメッセージ61および呼接続を開始するためのボタン62を含んだポップアップウインドウ60を画面に表示し、話者がボタン62を押すと、オペレータ端末30との呼接続を行うものであり(【0067】)、
(O) また、翻訳精度が不良範囲にあると判定された場合、サーバ20が、音声合成処理により対象翻訳文の音声データを取得し、当該音声データと、対象原文の文字データ、対象翻訳文の文字データを、ユーザ端末10に送信する処理を行い、ユーザ端末10において翻訳の結果を出力したうえで、ユーザ端末10とオペレータ端末30との呼接続を行ってもよい(【0073】)、
(P) 翻訳支援システム1。」

第5 対比・判断

1.本願発明1について

(1)対比

本願発明1と先願発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア.先願発明のユーザ端末は、(D)「マイクロフォン107を介して入力された音声をデータ化して音声データを得て、当該音声データをサーバ20に送信」することから、本願発明1の「ユーザの音声を入力する情報端末」に相当する。

イ.先願発明のサーバは、(E)「受信した音声データに対し音声認識処理を行って、話者の話し言葉から変換された文字列すなわち対象原文を取得し」、(F)「前記対象原文を翻訳して、対象原文を翻訳した文字列すなわち対象翻訳文を取得」することから、本願発明1の「前記情報端末に入力された音声の内容を翻訳するサーバ装置」に相当する。

ウ.先願発明は、(M)「ユーザ端末10は、前記接続指令を受信すると、接続指令と共に受信した識別子により特定されるオペレータ端末30に対し呼接続を要求し、呼接続されると、話者と翻訳オペレータとは、通常の電話と同じように話をすることができ」ることから、当該オペレータ端末は、本願発明1の「前記情報端末との間の通話処理をする通訳者端末」に相当する。

エ.先願発明のサーバは、(E)「受信した音声データに対し音声認識処理を行って、話者の話し言葉から変換された文字列すなわち対象原文を取得」することから、当該音声認識処理に係る手段は、本願発明1におけるサーバ装置の「前記情報端末に入力された音声の内容を認識する音声認識部」に相当する。

オ.先願発明のサーバは、(F)「前記対象原文を翻訳して、対象原文を翻訳した文字列すなわち対象翻訳文を取得」することから、当該翻訳のための手段は、本願発明1におけるサーバ装置の「前記音声認識部で認識された内容を異なる言語の内容に翻訳する翻訳部」に相当する。

カ.先願発明のサーバは、(G)「対象翻訳文を対象原文の言語に再翻訳し、再翻訳により得られた対象再翻訳文と対象原文との近似度を数値として算出し、当該近似度をしきい値と比較し、近似度がしきい値よりも低い場合に、翻訳精度が不良範囲にあると判定」することから、当該近似度を数値として算出する手段は、本願発明1におけるサーバ装置の「翻訳精度に関するスコアを算出するスコア算出部」に相当する。

キ.先願発明のユーザ端末は、(J)「サーバ20から受信したデータに基づき、対象翻訳文の音声を出力する」ことから、当該対象翻訳文の音声を出力する手段は、本願発明1における情報端末の「前記サーバ装置の前記翻訳部で翻訳された内容を音声で出力する音声出力部」に相当する。

ク.先願発明の対象原文は、(E)「受信した音声データに対し音声認識処理を行って、話者の話し言葉から変換された文字列」であることから、本願発明1の「前記入力された音声の内容の第1テキスト」に相当する。

ケ.先願発明の対象翻訳文は、(F)「対象原文を翻訳した文字列」であることから、本願発明1の「前記翻訳された内容の第2テキスト」に相当する。

コ.先願発明のユーザ端末は、(J)「画面に対象原文とその対象翻訳文とを上下に並べて表示」するが、当該表示処理に係る制御と、本願発明1の「前記入力された音声の内容の第1テキストを画面における第1領域に表示し、且つ、前記翻訳された内容の第2テキストを前記画面における前記第1領域とは異なる第2領域に表示する処理を制御する」は、「前記入力された音声の内容の第1テキストを画面に表示し、且つ、前記翻訳された内容の第2テキストを前記画面に表示する処理を制御する」の点で共通する。

サ.先願発明は、(G)「サーバ20は、対象翻訳文を対象原文の言語に再翻訳し、再翻訳により得られた対象再翻訳文と対象原文との近似度を数値として算出し、当該近似度をしきい値と比較し、近似度がしきい値よりも低い場合に、翻訳精度が不良範囲にあると判定」する。ここで、「近似度がしきい値よりも低い場合」すなわち「翻訳精度が不良範囲にあると判定」する場合は、本願発明1の「前記スコア算出部により算出された前記スコアが所定の閾値以下である場合」に相当する。

シ.先願発明は、(O)「翻訳精度が不良範囲にあると判定された場合、サーバ20が、音声合成処理により対象翻訳文の音声データを取得し、当該音声データと、対象原文の文字データ、対象翻訳文の文字データを、ユーザ端末10に送信する処理を行い、ユーザ端末10において翻訳の結果を出力」する。ここで、当該判定の場合に、ユーザ端末が対象原文と対象翻訳文とを表示することは、本願発明1の「前記スコア算出部により算出された前記スコアが所定の閾値以下である場合」に、「前記第1テキスト及び前記第2テキスト」を表示する処理を制御することに相当する。

ス.先願発明は、(N)「翻訳精度が不良範囲にあると判定された場合の処理は、自動的にオペレータ端末30に呼接続を行うものに限定されず、ユーザ端末が、話者に当該呼接続を促す処理を行ってもよく、その呼接続を促す処理は、該呼接続を促すメッセージ61および呼接続を開始するためのボタン62を含んだポップアップウインドウ60を画面に表示し、話者がボタン62を押すと、オペレータ端末30との呼接続を行う」ものである。ここで、オペレータ端末への呼接続のためのボタン62を有したポップアップウインドウ60を画面に表示することは、本願発明1の「前記通訳者端末との間の通話処理を開始するための通話処理開始リクエストを前記通訳者端末に送信するための第1画像を、前記画面において選択的に表示する処理を制御する」ことに相当する。

セ.前記ク.?ス.を総合すると、先願発明のユーザ端末において、画面に対象原文とその対象翻訳文とを上下に並べて表示し、翻訳精度が不良範囲にあると判定された場合に、当該対象原文とその対象翻訳文を表示するとともに、ポップアップウインドウを画面に表示する手段と、本願発明1の「前記入力された音声の内容の第1テキストを画面における第1領域に表示し、且つ、前記翻訳された内容の第2テキストを前記画面における前記第1領域とは異なる第2領域に表示する処理を制御する第1表示処理制御部であって、前記スコア算出部により算出された前記スコアが所定の閾値以下である場合に、前記第1テキスト及び前記第2テキストに加え、前記通訳者端末との間の通話処理を開始するための通話処理開始リクエストを前記通訳者端末に送信するための第1画像を、前記画面において選択的に表示する処理を制御する第1表示処理制御部」は、「前記入力された音声の内容の第1テキストを画面に表示し、且つ、前記翻訳された内容の第2テキストを前記画面に表示する処理を制御する第1表示処理制御部であって、前記スコア算出部により算出された前記スコアが所定の閾値以下である場合に、前記第1テキスト及び前記第2テキストに加え、前記通訳者端末との間の通話処理を開始するための通話処理開始リクエストを前記通訳者端末に送信するための第1画像を、前記画面において選択的に表示する処理を制御する第1表示処理制御部」の点で共通する。

ソ.先願発明のユーザ端末は、(N)「話者がボタン62を押すと、オペレータ端末30との呼接続を行」い、また(M)「呼接続されると、話者と翻訳オペレータとは、通常の電話と同じように話をすることができ」るものである。
したがって、先願発明の(N)「話者がボタン62を押すと、オペレータ端末30との呼接続を行う」に係る手段は、本願発明1の「前記第1画像が選択されたとき、前記通話処理開始リクエストを前記通訳者端末に送信する通話処理制御部」に相当する。

タ.先願発明の「翻訳支援システム」は、音声を翻訳するシステムであるから、本願発明1の「音声翻訳システム」に相当する。

したがって、本願発明1と先願発明との、一致点、相違点は次のとおりである。

<一致点>
「ユーザの音声を入力する情報端末と、
前記情報端末に入力された音声の内容を翻訳するサーバ装置と、
前記情報端末との間の通話処理をする通訳者端末と、を備える音声翻訳システムであって、
前記サーバ装置は、
前記情報端末に入力された音声の内容を認識する音声認識部と、
前記音声認識部で認識された内容を異なる言語の内容に翻訳する翻訳部と、
翻訳精度に関するスコアを算出するスコア算出部と、を備え、
前記情報端末は、
前記サーバ装置の前記翻訳部で翻訳された内容を音声で出力する音声出力部と、
前記入力された音声の内容の第1テキストを画面に表示し、且つ、前記翻訳された内容の第2テキストを前記画面に表示する処理を制御する第1表示処理制御部であって、前記スコア算出部により算出された前記スコアが所定の閾値以下である場合に、前記第1テキスト及び前記第2テキストに加え、前記通訳者端末との間の通話処理を開始するための通話処理開始リクエストを前記通訳者端末に送信するための第1画像を、前記画面において選択的に表示する処理を制御する第1表示処理制御部と、
前記第1画像が選択されたとき、前記通話処理開始リクエストを前記通訳者端末に送信する通話処理制御部と、を備える、
音声翻訳システム。」

<相違点>
本願発明1は、第1テキストを画面における第1領域に表示し、第2テキストを画面における第1領域とは異なる第2領域に表示するのに対し、先願発明は、対象原文(第1テキスト)とその対象翻訳文(第2テキスト)とを上下に並べて表示するものであり、第1領域と第2領域とを有していない点。

(2)判断

上記相違点のとおり、先願発明は、第1テキストと第2テキストの画面表示について、本願発明1と異なる表示処理制御を行うものであり、本願発明1の表示処理制御については開示も示唆もしていない。
また、本願発明1は、相違点に係る表示処理制御を採用することにより、「区分けして表示されるので、両者を明別して更に視認し易くなる利点がある」(本願明細書(【0069】)という、新たな効果を奏するものであるから、当該相違点は、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
したがって、本願発明1は、先願の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

2.本願発明2-5について

本願発明2-5も、本願発明1の「前記入力された音声の内容の第1テキストを画面における第1領域に表示し、且つ、前記翻訳された内容の第2テキストを前記画面における前記第1領域とは異なる第2領域に表示する処理を制御する第1表示処理制御部」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、先願の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

3.本願発明6について

本願発明6は、本願発明1の情報端末の各部に対応する方法の発明であり、本願発明1の「前記入力された音声の内容の第1テキストを画面における第1領域に表示し、且つ、前記翻訳された内容の第2テキストを前記画面における前記第1領域とは異なる第2領域に表示する処理を制御する第1表示処理制御部」に対応するステップを備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、先願の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

4.本願発明7について

本願発明7は、本願発明1の情報端末の各部に対応するプログラムの発明であり、本願発明1の「前記入力された音声の内容の第1テキストを画面における第1領域に表示し、且つ、前記翻訳された内容の第2テキストを前記画面における前記第1領域とは異なる第2領域に表示する処理を制御する第1表示処理制御部」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、先願の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

第6 原査定の概要及び原査定についての判断

原査定は、請求項1-7について、上記先願の当初明細書等に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、平成30年9月10日付け手続補正により補正された請求項1-7は、それぞれ「前記入力された音声の内容の第1テキストを画面における第1領域に表示し、且つ、前記翻訳された内容の第2テキストを前記画面における前記第1領域とは異なる第2領域に表示する処理を制御する第1表示処理制御部」という事項、または、当該事項に対応する構成を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1-7は、上記先願の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。
なお、原査定では、先願の当初明細書等のほか、周知技術を示す文献として上記引用文献2-5を引用しているが、当該引用文献2-5の内容を検討するまでもなく、上記のとおり、本願発明1は、先願の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第7 当審拒絶理由について

当審では、請求項1、6、7の「第1画像を、前記第1テキスト及び前記第2テキストとは異なる位置に選択的に表示する」という点は、発明の詳細な説明に記載されていないとの拒絶の理由を通知しているが、平成30年9月10日付けの補正において、「第1画像を、前記画面において選択的に表示する」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第8 むすび

以上のとおり、本願発明1-7は、先願の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-10-30 
出願番号 特願2016-17071(P2016-17071)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 16- WY (G06F)
P 1 8・ 537- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 成瀬 博之  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 金子 幸一
石川 正二
発明の名称 音声翻訳システム、音声翻訳方法、及び音声翻訳プログラム  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 江口 昭彦  

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