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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1345291
審判番号 不服2018-254  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-10 
確定日 2018-10-15 
事件の表示 特願2015-560912「摺動機構」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月13日国際公開、WO2015/118924〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)1月16日(優先権主張2014年(平成26年)2月10日、日本国)を国際出願とする出願であって、平成29年7月13日付け(発送日:同年7月19日)で拒絶理由が通知され、同年9月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月10日付け(発送日:同年10月12日)で拒絶査定がされ、これに対して平成30年1月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。


第2 平成30年1月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成30年1月10日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本願補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成29年9月19日の手続補正書)の請求項1に、
「【請求項1】
第1摺動部材と、該第1摺動部材と相対的に摺動する相手部材である第2摺動部材と、を備え、
上記第1摺動部材が、母材相と該母材相より硬質である硬質相のみからなり、該母材相が該硬質相を分散した状態で含み、
上記母材相が、銅又は銅合金(ニッケルを含む銅合金を除き、亜鉛を20質量%より多く含む黄銅系合金及びスズを含む青銅系合金を除く。)からなり、
上記硬質相が、鉄合金からなり、
上記第2摺動部材が、上記母材相より硬質である
ことを特徴とする摺動機構。」
とあったものを、
「【請求項1】
第1摺動部材と、該第1摺動部材と相対的に摺動する相手部材である第2摺動部材と、を備え、
上記第1摺動部材が、母材相と該母材相より硬質である硬質相のみからなり、該母材相が該硬質相を分散した状態で含み、
上記母材相が、銅のみ又は銅合金(ニッケルを含む銅合金を除き、かつ、亜鉛を20質量%より多く含む黄銅系合金及びスズを含む青銅系合金を除く。)のみからなり、
上記硬質相が、鉄合金からなり、
上記第2摺動部材が、上記母材相より硬質である
ことを特徴とする摺動機構。」
と補正することを含むものである(下線は補正箇所を示すために請求人が付した。)。

上記補正は、母材相について「銅又は銅合金(ニッケルを含む銅合金を除き、亜鉛を20質量%より多く含む黄銅系合金及びスズを含む青銅系合金を除く。)からなり」とあったものを、「銅のみ又は銅合金(ニッケルを含む銅合金を除き、かつ、亜鉛を20質量%より多く含む黄銅系合金及びスズを含む青銅系合金を除く。)のみからなり」との限定を付したものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2 引用文献、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開昭50-148207号公報(以下「引用文献」という。)には、「弁座用に適する銅系焼結合金」に関して、次の事項が記載されている。下線は当審で付した。以下同様。

ア 「この発明は特に弁座として使用するに適した耐熱、耐摩耗性の銅系焼結合金に関する。」(第1ページ左下欄第18及び19行)

イ 「本発明者等は種々実験の結果より、相手材の摩耗に対しては硬質物質を相手材となじみ性の秀れた素地中に分散させることによつて、相手材の摩耗を減少せしめ、かつ、自らも摩耗を減少することの可能であることを見出し本発明をなすに到つた。弁座材料の素地としては現在、鉄、鉄-炭素、鉄-ニッケル-炭素によるものが既に行われているが、本発明は素地を銅とし所定組成の硬質合金を含ましめたことによつて弁および弁座の摩耗耐久性を一層向上し、しかも被削性をも著しく改善させたものである。なお、本発明合金は弁座のみに限らず類似な耐熱、耐摩耗性の要求される用途にも利用できる。
本発明は
Cr・・・1?5%(重量%、以下同じ)
Mo・・・1?15%
W ・・・6?20%
V ・・・0.5?2%
のうちの1種又は2種以上の金属元素と
C ・・・0.2?1.5%
を含有した鉄系合金を硬質相とし、その合金粉末10?60%と、
素地として、
C ・・・0.1?0.5%
Cu・・・残り
とからなる混合粉末を成形焼結することを特徴として得られるもので、特にエンジンの弁座として使用するのに適した強靱な耐熱、耐摩耗性を有し被削性にも優れた特性を発揮する銅系焼結合金である。」(第1ページ右下欄第10行ないし第2ページ左上欄第19行)

ウ 上記イ(特に、「素地を銅とし所定組成の硬質合金を含ましめた」及び「鉄系合金を硬質相とし」の記載。)及び銅と鉄の硬度関係に関する技術常識から、硬質相は素地よりも硬質であるといえる。

エ 上記イ(特に、「硬質物質を相手材となじみ性の秀れた素地中に分散させることによつて」の記載。)から、素地が硬質相を分散した状態で含んでいるといえる。

上記記載事項及び認定事項を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「エンジンの弁座と、該エンジンの弁座の相手材である弁と、を備え、
上記エンジンの弁座が、素地と該素地より硬質である硬質相からなり、該素地が該硬質相を分散した状態で含み、
上記素地が、0.1?0.5%の炭素と残りが銅からなり、
上記硬質相が、鉄系合金からなる弁座及び弁。」

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、本願補正発明の「摺動機構」に関して、本願明細書の段落【0002】に「内燃機関のバルブガイドやバルブシートなどに適用される高温摺動部材として、・・・」との記載があり、この記載からみて、引用発明の「エンジンの弁座」は本願補正発明の「第1摺動部材」に相当し、以下同様に、「エンジンの弁座の相手材である弁」は「第1摺動部材と相対的に摺動する相手部材である第2摺動部材」に、「素地」は「母材相」に、「硬質相」は「硬質相」に、「素地と該素地より硬質である硬質相からなり」は「母材相と該母材相より硬質である硬質相のみからなり」に、「鉄系合金」は「鉄合金」に、「弁座及び弁」は「摺動機構」にそれぞれ相当する。
また、合金とは、金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたもので金属的性質をもっているものの総称であるとの技術常識からすれば、引用発明の「0.1?0.5%の炭素と残りが銅」からなるものは、「銅合金」といえる。そして、これは、炭素と銅以外のものは含まないことから、引用発明の「0.1?0.5%の炭素と残りが銅からなり」は本願補正発明の「銅のみ又は銅合金(ニッケルを含む銅合金を除き、かつ、亜鉛を20質量%より多く含む黄銅系合金及びスズを含む青銅系合金を除く。)のみからなり」に相当する。

したがって、両者は、
「第1摺動部材と、該第1摺動部材と相対的に摺動する相手部材である第2摺動部材と、を備え、
上記第1摺動部材が、母材相と該母材相より硬質である硬質相のみからなり、該母材相が該硬質相を分散した状態で含み、
上記母材相が、銅のみ又は銅合金(ニッケルを含む銅合金を除き、かつ、亜鉛を20質量%より多く含む黄銅系合金及びスズを含む青銅系合金を除く。)のみからなり、
上記硬質相が、鉄合金からなる摺動機構。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願補正発明においては、第2摺動部材が、「母材相より硬質である」のに対して、引用発明においては、第2摺動部材(弁)が、母材相(素地)よりも硬質であるのか不明である点。

4 判断
上記相違点について検討する。
エンジンの弁をSUH鋼で構成したり、エンジンの弁の弁フェースに窒化層を形成したりすることは、本願優先日前に周知の技術である(前者については、例えば、特開2012-225203号公報の段落【0017】及び特開平9-256821号公報の段落【0003】を、後者については、例えば、特開平9-256821号公報の【0005】、【0017】、【0018】及び図1,2を参照。)。そして、SUH鋼や窒化層が、銅を主成分とする材料よりも硬質であることは、技術常識である。
そうしてみると、引用発明の弁において、上記周知の技術を踏まえ、弁をSUH鋼で構成したり、弁フェースに窒化層を形成すること、すなわち、弁を、銅合金の素地より硬質にすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願補正発明が奏する効果は、全体としてみても、引用発明及び上記周知の技術から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成29年9月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1
・引用文献等2、4、5
・備考
引用文献2に記載の発明における「硬質相」は、本願の請求項1に係る発明における「硬質相」に相当し、同様に「母材相」は「素地」に相当する。また、引用文献2には、硬質相が鉄系合金からなる点、母材相がCとCuからなる点、エンジンの弁座に用いられる点が開示されている(第2頁左上欄第3-19行参照)。
また、引用文献2に記載の発明において、硬質相は母材相に分散しているので、)、硬質相は表面にも露出しているといえる。
ここで、本願の請求項1に係る発明と引用文献2に記載の発明とを対比すると、前者は、第2摺動部材が第1摺動部材の母部材より硬質であることが特定されており、第2摺動部材に表面処理層を備えるものであるのに対し、後者は、弁(本願発明の「第2摺動部材」に相当)が弁座(本願発明の「第1摺動部材」に相当)の素地(本願発明の「母材」に相当)より硬質であることが特定されておらず、弁が表面処理層を備えるのか定かでない点で相違する。
上記相違点について検討するに、引用文献2に記載の「素地」は銅を主成分(C:0.1?0.5%、Cu:残り)とするものであり、弁を構成する材料をこのような材料よりも硬質なSUH等で構成することや、弁に窒化層などの表面処理層を設けることは、例えば引用文献4(段落【0017】、【0018】参照)、引用文献5(段落【0003】、【0005】参照)にも開示されているように周知である。
よって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献2に記載の発明及び周知技術(例えば引用文献4、5参照)から当業者が容易に想到し得るものである。

<引用文献等一覧>
2.特開昭50-148207号公報(本審決の引用文献)
4.特開2012-225203号公報(周知技術を示す文献)
5.特開平9-256821号公報(周知技術を示す文献)


3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用した引用文献(原査定における引用文献2)、その記載事項、及び引用発明は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

4 対比及び当審の判断
本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本願補正発明における母材相について、「銅のみ又は銅合金(ニッケルを含む銅合金を除き、かつ、亜鉛を20質量%より多く含む黄銅系合金及びスズを含む青銅系合金を除く。)のみからなり」との限定を省き 「銅又は銅合金(ニッケルを含む銅合金を除き、亜鉛を20質量%より多く含む黄銅系合金及びスズを含む青銅系合金を除く。)からなり」としたものである。
そうしてみると、本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕3及び4」に記載したとおり、引用発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-21 
結審通知日 2018-08-22 
審決日 2018-09-04 
出願番号 特願2015-560912(P2015-560912)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C22C)
P 1 8・ 121- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅家 裕輔  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 鈴木 充
粟倉 裕二
発明の名称 摺動機構  
代理人 的場 基憲  

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