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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1345313
審判番号 不服2017-8318  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-07 
確定日 2018-10-17 
事件の表示 特願2015-543992「偏光板及びディスプレイ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月30日国際公開,WO2014/081260,平成28年 1月18日国内公表,特表2016-501384〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,2013年11月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年11月23日 韓国,2013年11月25日 韓国)を国際出願日とする外国語特許出願であって,平成27年5月26日に国際出願日における明細書,請求の範囲及び図面の中の説明の翻訳文が提出され,平成28年4月21日付けで拒絶理由が通知され,同年9月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成29年2月1日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。
本件査定不服審判事件は,これを不服として,同年6月7日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出された。
なお,請求人より,同年10月19日及び平成30年5月10日に上申書が提出されている。


第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成29年6月7日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 平成29年6月7日提出の手続補正書による手続補正の内容
(1)補正前後の記載
平成29年6月7日提出の手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ,本件補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
ア 本件補正前の請求項1
「直線偏光子と,光学フィルムとを含む偏光板であって,
前記光学フィルムは,
積層されている,下記一般式1を満足して面内位相差値が正数である正の一軸性位相差フィルムと,下記一般式1を満足して面内位相差値が負数である負の一軸性位相差フィルムと,を含み,
前記正の一軸性位相差フィルムの面内位相差と,前記負の一軸性位相差フィルムの面内位相差とは,下記数式1?数式3を満足し,
前記正の一軸性位相差フィルムが550nmの波長の光に対して95nm?145nmの範囲の面内位相差を有するとともに前記負の一軸性位相差フィルムが550nmの波長の光に対して-200nm?-290nmの範囲の面内位相差を有するか,または,前記正の一軸性位相差フィルムが550nmの波長の光に対して200nm?290nmの範囲の面内位相差を有するとともに前記負の一軸性位相差フィルムが550nmの波長の光に対して-95nm?-145nmの範囲の面内位相差を有し,
前記正の一軸性位相差フィルムの光軸と前記負の一軸性位相差フィルムの光軸が成す角度は,-5度?5度になるように配置されており,
前記直線偏光子の光吸収軸と前記正の一軸性位相差フィルムの光軸は,40度?45度を成す。
[一般式1]
n_(x)≠n_(y)≒n_(z)
[数式1]
│R_(1)(λ)│ > │R_(2)(λ)│
[数式2]
R_(1)(450)/R_(1)(550) < R_(2)(450)/R_(2)(550)
[数式3]
│R(450)│ < │R(650)│
一般式1で,n_(x),n_(y)及びn_(z)は,各々位相差フィルムのx,y及びz方向の屈折率であり,数式1で,│R_(1)(λ)│は,前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうちいずれか一つのフィルムのλnmの波長の光に対する面内位相差の絶対値であり,│R_(2)(λ)│は,前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうち他の一つのフィルムのλnmの波長の光に対する面内位相差の絶対値であり,λは,450,550または650であり,数式2で,R_(1)(450)及びR_(1)(550)は,各々前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうち面内位相差の絶対値が大きいフィルムの450nm及び550nmの波長の光に対する面内位相差値であり,R_(2)(450)及びR_(2)(550)は,各々前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうち面内位相差の絶対値が小さいフィルムの450nm及び550nmの波長の光に対する面内位相差値であり,数式3で,│R(450)│は,R_(1)(450)とR_(2)(450)の和の絶対値であり,│R(650)│は,R_(1)(650)とR_(2)(650)の和の絶対値である。」

イ 本件補正後の請求項1
「直線偏光子と,光学フィルムとを含む偏光板であって,
前記光学フィルムは,
積層されている,下記一般式1を満足して面内位相差値が正数である正の一軸性位相差フィルムと,下記一般式1を満足して面内位相差値が負数である負の一軸性位相差フィルムと,を含み,
前記正の一軸性位相差フィルムの面内位相差と,前記負の一軸性位相差フィルムの面内位相差とは,下記数式1?数式3を満足し,
前記正の一軸性位相差フィルムが550nmの波長の光に対して95nm?145nmの範囲の面内位相差を有するとともに前記負の一軸性位相差フィルムが550nmの波長の光に対して-200nm?-290nmの範囲の面内位相差を有し,
前記正の一軸性位相差フィルムの光軸と前記負の一軸性位相差フィルムの光軸が成す角度は,-5度?5度になるように配置されており,
前記直線偏光子の光吸収軸と前記正の一軸性位相差フィルムの光軸は,40度?45度を成し,
前記正の一軸性位相差フィルムは,下記一般式3を満足する正常波長分散特性を有し,前記負の一軸性位相差フィルムは,下記一般式3を満足する正常波長分散特性を有する。
[一般式1]
n_(x)≠n_(y)≒n_(z)
[数式1]
│R_(1)(λ)│ > │R_(2)(λ)│
[数式2]
R_(1)(450)/R_(1)(550) < R_(2)(450)/R_(2)(550)
[数式3]
│R(450)│ < │R(650)│
[一般式3]
R(450)/R(550)>R(650)/R(550)
一般式1で,n_(x),n_(y)及びn_(z)は,各々位相差フィルムのx,y及びz方向の屈折率であり,数式1で,│R_(1)(λ)│は,前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうちいずれか一つのフィルムのλnmの波長の光に対する面内位相差の絶対値であり,│R_(2)(λ)│は,前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうち他の一つのフィルムのλnmの波長の光に対する面内位相差の絶対値であり,λは,450,550または650であり,数式2で,R_(1)(450)及びR_(1)(550)は,各々前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうち面内位相差の絶対値が大きいフィルムの450nm及び550nmの波長の光に対する面内位相差値であり,R_(2)(450)及びR_(2)(550)は,各々前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうち面内位相差の絶対値が小さいフィルムの450nm及び550nmの波長の光に対する面内位相差値であり,数式3で,│R(450)│は,R_(1)(450)とR_(2)(450)の和の絶対値であり,│R(650)│は,R_(1)(650)とR_(2)(650)の和の絶対値であり,一般式3で,R(450)は,該当位相差フィルムが示す450nm波長の光に対する面内位相差であり,R(550)は,該当位相差フィルムが示す550nm波長の光に対する面内位相差であり,R(650)は,該当位相差フィルムが示す650nm波長の光に対する面内位相差である。」

(2)本件補正のうち請求項1に係る補正の内容
本件補正のうち請求項1に係る補正は,次の補正事項からなる。
補正事項1:本件補正前の「40度?45度を成す。」という記載を「40度?45度を成し,前記正の一軸性位相差フィルムは,下記一般式3を満足する正常波長分散特性を有し,前記負の一軸性位相差フィルムは,下記一般式3を満足する正常波長分散特性を有する。」に補正する。
補正事項2:本件補正前の「[数式3] │R(450)│ < │R(650)│」という記載の後に「[一般式3] R(450)/R(550)>R(650)/R(550)」という記載を挿入する。
補正事項3:本件補正前の「R_(1)(650)とR_(2)(650)の和の絶対値である。」という記載を「R_(1)(650)とR_(2)(650)の和の絶対値であり,一般式3で,R(450)は,該当位相差フィルムが示す450nm波長の光に対する面内位相差であり,R(550)は,該当位相差フィルムが示す550nm波長の光に対する面内位相差であり,R(650)は,該当位相差フィルムが示す650nm波長の光に対する面内位相差である。」に補正する。

2 補正の目的について
補正事項1は,本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「正の一軸性位相差フィルム」及び「負の一軸性位相差フィルム」のそれぞれについて,「一般式3」を満足する正常波長分散特性を有するものに限定しようとする補正であり,補正事項2及び3は,補正事項1に係る「一般式3」及び式中の各パラメータを定義しようとする補正であって,当該補正の前後で請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 新規事項の追加の有無について
補正事項1による限定事項,並びに補正事項2及び3による「一般式3」及び式中の各パラメータの定義は,国際出願日における請求の範囲の翻訳文の請求項5,並びに国際出願日における明細書の翻訳文の【0016】及び【0019】等に記載された事項であるから,本件補正のうち請求項1に係る補正は,国際出願日における明細書,請求の範囲若しくは図面の中の説明の翻訳文又は国際出願日における図面(図面の中の説明を除く。)に記載した事項の範囲内においてするものであって,特許法184条の12第2項による読替え後の同法17条の2第3項の規定に適合する。

4 独立特許要件について
前記2で述べたとおり,本件補正のうち請求項1に係る補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するのか否か(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否か)について検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は,前記1(1)イに示したとおりのものである。

(2)引用例
ア 国際公開第2008/001582号の記載
原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用された国際公開第2008/001582号(以下,原査定と同様に「引用文献1」という。)は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「技術分野
[0001]本発明は,複合複屈折媒体,偏光板及び液晶表示装置に関する。より詳しくは,逆波長分散性を示す複合複屈折媒体,それを用いた偏光板及び液晶表示装置に関するものである。
背景技術
[0002]複屈折媒体は,入射光の偏光状態(直線偏光,円偏光,楕円偏光)を変換することができる光学素子である。このような複屈折媒体は,入射光波長λの1/4に相当する位相差(複屈折位相差,リタデーション)を有するλ/4板や,入射光波長λの1/2に相当する位相差を有するλ/2板に代表される位相差フィルムとして,自然光から直線偏光を得る直線偏光子とともに,液晶表示装置等において広く工業的に用いられている。・・・(中略)・・・
[0003]λ/4板には,直線偏光を円偏光に変換する光学的機能があり,円偏光板等に応用がなされている。円偏光は,ミラー等で反射したときに左右の掌性(キラリティ)が入れ替わる性質を持つため,例えばミラー上に左円偏光板を配置して光を入射させると,左円偏光板を透過して左円偏光に変換された光はミラーで反射されることで右円偏光に変換され,その右円偏光は左円偏光板を透過できない。すなわち,円偏光板には反射防止の光学的機能がある。このような円偏光板の反射防止の光学的機能は,有機ELの内部電極による反射防止等にも応用がなされている。・・・(中略)・・・
[0004]これらの位相差フィルムは,特定波長の光(単色光)に対して必要な光学的機能を示すように設計されることが一般的である。例えば,λ/4板は一般に特定の設計中心波長においてのみ波長の1/4に相当する位相差に調整されており,その他の波長では位相差フィルムの材料に起因する固有複屈折の波長分散の影響で,波長の1/4に相当する位相差に調整されていない。すなわち,上述の従来の位相差フィルムにおいては,その材料が示す固有複屈折の絶対値は通常短波長ほど大きく,長波長ほど小さい,いわゆる正波長分散性であることが一般的であるため,例えば設計中心波長550nmにおいてその1/4である137.5nmに位相差を調整した場合,波長450nmにおける位相差は137.5nmよりも大きい例えば148.5nmとなり,450nmの1/4である112.5nmよりも大きい。仮に,波長450nmにおける位相差が波長550nmにおける位相差137.5nmと同じだとしても,112.5nmに比べて大きい。また,波長650nmにおける位相差は137.5nmよりも小さい例えば132nmとなり,650nmの1/4である162.5nmよりも小さい。仮に,波長650nmにおける位相差が波長550nmにおける位相差137.5nmと同じだとしても,162.5nmに比べて小さい。このような位相差フィルムに白色光を入射させると,波長毎に偏光状態の変換のされ方が異なるために出射光が着色してしまう。
・・・(中略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0010]・・・(中略)・・・
[0014]本発明は,上記現状に鑑みてなされたものであり,広い可視波長域の光に対して最適な位相差を与え得る波長分散性,いわゆる逆波長分散性を有し,広視野角であり,簡便な方法で製造することができ,かつ,逆波長分散性の調整自由度及び量産性に優れた複合複屈折媒体,偏光板及び液晶表示装置を提供することを目的とするものである。」

(イ) 「課題を解決するための手段
[0015]本発明者らは,製造プロセスの簡略化及び波長分散性の制御が容易であり,かつ広帯域化及び広視野角化を実現することができる複合複屈折媒体の構成について種々検討したところ,まず複合複屈折媒体を構成する複屈折層の枚数に着目した。そして,複数の複屈折層を積層した構成とすることにより,一枚の複屈折層からなる構成と比較して,逆波長分散性を実現するための材料選択の自由度がより大きくなることから,波長分散性の制御を容易化することができるとともに,製造プロセスの簡略化及び量産化を図ることができることを見いだした。
[0016]しかしながら,複数の複屈折層を積層した構成によれば,一枚の複屈折層からなる構成と比較して,視野角が狭くなることを見いだした。この原因について検討したところ,波長λ(nm)における三つの主屈折率のうち,それらの平均値との差の絶対値が最大である主屈折率を第一主屈折率n1(λ)としたときに,斜め方向では,各複屈折層の第一主屈折率n1(550)に対応する主軸同士のなす角度が法線方向での設計値から大きくずれるためであることを見いだした。
[0017]そこで,複屈折層の法線及び第一主屈折率n1(550)に対応する主軸が同平面内にある構成とすることにより,(1)正面方向では,各複屈折層の第一主屈折率n1(550)に対応する主軸を見かけ上一致させることができるため,表示品位の低下を抑制することができ,(2)斜め方向では,各複屈折層の第一主屈折率n1(550)に対応する主軸同士のなす角度が法線方向での設計値からずれ量を低減することができるため,広視野角化を実現することができることを見いだした。また,このような構成は,光学的に一軸性の複屈折層を積層する構成に限定されず,光学的に一軸性の複屈折層と光学的に二軸性の複屈折層とを積層する構成,光学的に二軸性の複屈折層を積層する構成,光学的に一軸性又は二軸性の複屈折層といわゆるハイブリッド配向とよばれる配向状態をとる複屈折層とを積層する構成等,幅広い構成に対して画一的に適用可能であることから,複屈折層の材料及び延伸方法の選択肢の自由度が高い点で量産化にも適していること,及び,逆波長分散性の調整自由度を向上させることができること等を見いだし,上記課題をみごとに解決することができることに想到し,本発明に到達したものである。
[0018]すなわち,本発明は,複数の複屈折層を積層した構造を有する複合複屈折媒体であって,上記複合複屈折媒体は,全体として位相差が逆波長分散性を示し,かつ波長λ(nm)における三つの主屈折率のうち,それらの平均値との差の絶対値が最大である主屈折率を第一主屈折率n1(λ)としたときに,複屈折層の法線及び第一主屈折率n1(550)に対応する主軸が同平面内にある複合複屈折媒体である。
以下に,本発明を詳述する。
[0019]本発明の複合複屈折媒体は,複数の複屈折層を積層した構造を有する。この構成によれば,各複屈折層の位相差R(λ)及びその波長分散性を制御することにより,複合複屈折媒体の位相差及びその波長分散性を制御することができる。したがって,一枚の複屈折層からなる構成と異なり,分子構造レベルでの配向複屈折の制御を行う必要がなく,材料選択の自由度を高めることができることから,複合複屈折媒体の位相差及びその波長分散性の制御を容易化することができる。また,一枚の複屈折層からなる構成と異なり,各複屈折層を構成する材料として,製造工程上適したものや安価なものを選択することができることから,製造プロセスの簡略化及び量産化を図ることもできる。
[0020]なお,複屈折層の位相差は,下記式(1)で定義される。
R(λ)=〔n1(λ)-n2(λ)〕×d (1)
式中,R(λ)は,波長λ(nm)における位相差を表す。n1(λ)は,波長λ(nm)における三つの主屈折率のうち,それらの平均値との差の絶対値が最大の主屈折率を表し,本明細書では,特に,波長550nmにおけるn1(λ)を「第一主屈折率n1(550)」ともいう。なお,光学的に一軸性の複屈折層では,第一主屈折率n1(550)は,異常光屈折率ne(550)に相当する。n2(λ)は,波長λ(nm)における三つの主屈折率のうち,それらの平均値との差の絶対値が二番目に大きい主屈折率を表し,特に,波長550nmにおけるn2(λ)を「第二主屈折率n2(550)」ともいう。また,残りの主屈折率は,該絶対値が最小の主屈折率n3(λ)である。特に,波長550nmにおけるn3(λ)を「第三主屈折率n3(550)」ともいう。光学的に一軸性の複屈折層では,第二主屈折率n2(550)と第三主屈折率n3(550)とは同一であり,ともに常光屈折率no(550)に相当する。なお,本発明においては,n2(550)=n3(550)の関係を満たす場合には,適宜,いずれか一方を第二主屈折率n2(550)とし,残りを第三主屈折率n3(550)とすればよい。dは,厚みを表す。
・・・(中略)・・・
[0022]本発明の複合複屈折媒体は,全体として位相差が逆波長分散性を示す。「逆波長分散性」とは,一般的には,可視光波長域(400nm≦λ≦700nm)で,位相差の絶対値が短波長ほど小さく長波長ほど大きい波長特性をいうところ,本明細書においては,「複合複屈折媒体の位相差が逆波長分散性を示す」とは,下記式(A)及び(B)の少なくとも一方を満たすことをいうものとする。
1>〔N1(450)-N2(450)〕/〔N1(550)-N2(550)〕 (A)
1<〔N1(650)-N2(650)〕/〔N1(550)-N2(550)〕 (B)
式中,N1(λ)及びN2(λ)はそれぞれ,複合複屈折媒体中を各複屈折層の第一主屈折率n1(λ)に対応する主軸のいずれとも平行ではない任意の方向に伝播する波長λ(nm)の光の2つの固有モードに対応する屈折率を表す。ただし,N1(λ)≧N2(λ)とする。なお,ここで言う固有モードとは,固有偏光モードを意味し,媒質中を,振幅の変化は受けたとしても,偏光状態を不変に保ったまま伝播する偏光状態のことを指す。・・・(中略)・・・
[0023]本発明の複合複屈折媒体は,全体として逆波長分散性を示すことにより,設計中心波長である550nm以外の波長においても理想的な値に近い位相差を示すことができるため,広帯域化を実現することができる。更に,このとき,各複屈折層を構成する材料としてそれぞれ,位相差R(550)の絶対値が大きいものを用いた場合には,広帯域性を向上させることができる。なお,広帯域化をより確実に実現するためには,本発明の複合複屈折媒体は,式(A)及び(B)の両方を満たすことが好ましい。
[0024]本発明の複合複屈折媒体は,複屈折層の法線及び波長550nmにおける第一主屈折率n1(550)に対応する主軸が同平面内にある。本明細書において,「同平面内」とは,同平面内である状態だけでなく,本発明の作用効果に鑑みて同平面内である状態と同視し得るような状態をも含むものである。各複屈折層の第一主屈折率n1に対応する主軸が各複屈折層の法線と同平面内にあることにより,正面方向では,各複屈折層の第一主屈折率n1(550)に対応する主軸を見かけ上交差させずに一本に重ねることができるため,正面方向での表示品位の低下を抑制することができる。・・・(中略)・・・
[0025]本発明において用いられる複数の複屈折層は,通常は全て平板状であることから,各複屈折層の法線は,通常は一致している。また,複屈折層の第一主屈折率n1(550)に対応する主軸については,次のように説明される。複屈折層が光学的に一軸性の位相差フィルムである場合,第二主屈折率n2(550)及び第三主屈折率n3(550)は常光屈折率no(550)となり,第一主屈折率n1(550)は異常光屈折率ne(550)となることから,第一主屈折率n1(550)に対応する主軸は,光学軸に一致する。・・・(中略)・・・
[0026]本発明の複合複屈折媒体は,上記複数の複屈折層を構成要素として有するものである限り,その他の構成要素を含んでいても含んでいなくてもよく,特に限定されるものではない。なお,本明細書で「複屈折層」とは,光学的異方性を有する媒質のうち,|R(550)|≧20nmの関係を満たし,かつ第一主屈折率n1(550)に対応する主軸の向きが変化しないものをいう。|R(550)|≧20nmの関係を満たす全ての複屈折層の法線及び第一主屈折率n1(550)に対応する主軸が同平面内にあることで,本発明の作用効果を充分に得ることができる。なお,本発明の作用効果をより効果的に得るためには,光学的異方性を有する媒質のうち,|R(550)|≧10nmの関係を満たし,かつ第一主屈折率n1(550)に対応する主軸が変化しない全ての層(複屈折層を含む)の法線及び第一主屈折率n1(550)に対応する主軸が同平面内にあることが好ましい。
[0027]上記複屈折層としては,材料やその他の光学的性能について特に限定されず,例えば,無機材料から構成される薄板,ポリマーフィルムを延伸したもの,液晶性分子の配向を固定したもの等,いずれのものも用いることができる。上記複屈折層を構成する材料の具体例としては,例えば,ポリカーボネート樹脂からなるフィルム,ポリサルフォン樹脂からなるフィルム,ポリエーテルサルフォン樹脂からなるフィルム,ポリエチレンテレフタレート樹脂からなるフィルム,ポリエチレン樹脂からなるフィルム,ポリビニルアルコール樹脂からなるフィルム,ノルボルネン樹脂からなるフィルム,トリアセチルセルロース樹脂からなるフィルム,ジアセチルセルロース樹脂からなるフィルム,ポリスチレン樹脂からなるフィルム,ポリビニルナフタレン樹脂からなるフィルム,ポリビニルビフェニル樹脂からなるフィルム,ポリビニルピリジン樹脂からなるフィルム,ポリメチルメタクリレート樹脂からなるフィルム,ポリメチルアクリレート樹脂からなるフィルム,ネマチック液晶性分子を含む液晶化合物,ディスコチック液晶性分子を含む液晶化合物,ポリアミドを含む非液晶化合物,ポリイミドを含む非液晶化合物等が挙げられる。
・・・(中略)・・・
[0029]本発明の複合複屈折媒体における好ましい形態について以下に詳しく説明する。上記複数の複屈折層は,第一主屈折率n1(550)に対応する主軸同士のなす角度θが25°以下であることが好ましい。角度θが25°を超えると,斜め方向から観察したときに,角度θが法線方向での設計値からずれる量が大きくなり,広視野角化の効果を充分に得ることができなくなるおそれがある。すなわち,角度θを25°以下とすることにより,広視野角化の効果をより確実に得ることができる。・・・(中略)・・・
[0030]上記複数の複屈折層は,第一主屈折率n1(550)に対応する主軸同士が平行であることが特に好ましい。本明細書において,「平行」とは,平行である状態だけでなく,本発明の作用効果に鑑みて平行である状態と同視し得るような状態をも含むものである。これによれば,どの方向から観察したとしても,本発明の複合複屈折媒体は,各複屈折層の第一主屈折率n1(550)に対応する主軸が重なっているために,一枚タイプの複屈折層(一枚の複屈折層からなる構成)と同様な視野角特性を示し,広視野角化の効果を最も確実に得ることができる。
[0031]本発明の複合複屈折媒体の好ましい形態としては,上記式(1)で定義される波長550nmにおける位相差R(550)が正の値を持つ第一種の複屈折層と,R(550)が負の値を持つ第二種の複屈折層とを有する形態が挙げられる。これによれば,位相差R(550)の正負が同一の複屈折層同士を積層した構成と比較して,位相差の波長分散制御が容易になるため,位相差の逆波長分散性を容易に実現することができるとともに,逆波長分散性の調整自由度を高めることができる。以下,本明細書で「第一種の複屈折層」とは,上記式(1)で定義される波長550nmにおける位相差R(550)が正の値を持つ複屈折層をいい,「第二種の複屈折層」とは,位相差R(550)が負の値を持つ複屈折層をいう。・・・(中略)・・・
[0032]本発明において,第一種の複屈折層と第二種の複屈折層とが設けられる場合,第一種及び第二種の複屈折層の位相差の波長分散性が互いに異なる形態が好ましい。本明細書で「位相差の波長分散性が互いに異なる」とは,下記式(C)及び(D)で示す位相差の波長分散性α及びβの少なくとも一方が互いに異なることをいう。
α=R(450)/R(550) (C)
β=R(650)/R(550) (D)
上記形態によれば,複合複屈折媒体の位相差の波長分散制御がより容易となり,広帯域化の必須条件である位相差の逆波長分散性をより容易に実現することができる。
[0033]本発明の作用効果の観点からは,第一種及び第二種の複屈折層は,位相差の波長分散性α及びβの両方が異なることが好ましい。・・・(中略)・・・
[0034]また,第一種の複屈折層と第二種の複屈折層とが設けられる場合,上記第一種及び第二種の複屈折層は,それぞれ位相差が正波長分散性を示すことが好ましい。これによれば,材料選択の余地の大きい正波長分散性の複屈折層を用いて,位相差が逆波長分散性を示す複合複屈折媒体を作製することができる。本明細書において,「位相差が正波長分散性を示す」とは,(a)上記式(C)で示される波長分散性αが1より大きく,|R(450)|>|R(550)|の関係を満たす場合,又は,(b)上記式(D)で示される波長分散性βが1より小さく,|R(650)|<|R(550)|の関係を満たす場合をいい,好ましくは,(c)|R(450)|>|R(550)|>|R(650)|の関係を満たす場合であり,より好ましくは,(d)可視光波長域(400nm≦λ≦700nm)で,位相差R(λ)の絶対値が短波長ほど大きく長波長ほど小さいことをいう。
・・・(中略)・・・
[0036]本発明の複合複屈折媒体の好ましい形態としては,(1)第一種の複屈折層は,位相差R(550)の絶対値が第二種の複屈折層よりも大きい形態,(2)第一種の複屈折層は,位相差R(550)の絶対値が第二種の複屈折層よりも小さい形態が挙げられる。上記(1)の形態によれば,本発明の複合複屈折媒体を第一種の複屈折層と同様に機能させるのに好適である。また,上記(2)の形態によれば,本発明の複合複屈折媒体を第二種の複屈折層と同様に機能させるのに好適である。
[0037]本発明の複合複屈折媒体の位相差を逆波長分散性とする観点から,上記(1)の場合,第一種の複屈折層は,位相差の波長分散性が第二種の複屈折層よりも小さい形態が好適であり,上記(2)の場合,第一種の複屈折層は,位相差の波長分散性が第二種の複屈折層よりも大きい形態が好適である。これらの形態は,言い換えれば,下記式(E1)及び(F1)の少なくとも一方の関係を満たすもの,又は,下記式(E2)及び(F2)の少なくとも一方の関係を満たすものである。なお,位相差の波長分散性の大小は,位相差の波長分散性α及び/又はβと1との差の絶対値を基準に判定する。
〔R1(550)+R2(550)〕/(α1-α2)<0 (E1)
〔R1(550)+R2(550)〕/(β1-β2)>0 (F1)
〔R1(550)+R2(550)〕/(|1-α1|-|1-α2|)<0 (E2)
〔R1(550)+R2(550)〕/(|1-β1|-|1-β2|)<0 (F2)
式中,R1(550)は,第一種の複屈折層の位相差R(550)を表し,第一種の複屈折層が複数ある場合には,その総和を表す。R2(550)は,第二種の複屈折層の位相差R(550)を表し,第二種の複屈折層が複数ある場合には,その総和を表す。α1は,第一種の複屈折層の位相差の波長分散性αを表し,第一種の複屈折層が複数ある場合には,その平均値を表す。α2は,第二種の複屈折層の位相差の波長分散性αを表し,第二種の複屈折層が複数ある場合には,その平均値を表す。β1は,第一種の複屈折層の位相差の波長分散性βを表し,第一種の複屈折層が複数ある場合には,その平均値を表す。β2は,第二種の複屈折層の位相差の波長分散性βを表し,第二種の複屈折層が複数ある場合には,その平均値を表す。
・・・(中略)・・・
[0047]・・・(中略)・・・
η=|n2(550)-n3(550)|/|n1(550)-n2(550)| (2)
式中,n3(550)は,波長550nmにおける三つの主屈折率のうち,それらの平均値との差の絶対値が最小の主屈折率を表す。・・・(中略)・・・
[0048]上記複屈折層の少なくとも一つは,上記式(2)で定義される二軸性パラメータηが1/2以下であることが好ましい。これによれば,複合複屈折媒体をより広視野角化することができるとともに,光学的に二軸性の複屈折層を積層した場合においても,視野角の悪化を効果的に抑えることができる。なお,複合複屈折媒体が第一種及び第二種の複屈折層のいずれか又は両方を複数有する場合には,視野角の悪化をより効果的に抑える観点から,全ての複屈折層の二軸性パラメータηが1/2以下であることが好ましい。また,視野角の悪化をより効果的に抑える観点から,複屈折層は,二軸性パラメータηが1/4以下であることがより好ましい。なお,光学的に一軸性の複屈折層は,n2(550)=n3(550)の関係を満たすので,二軸性パラメータηはゼロとなる。
・・・(中略)・・・
[0050]本発明はまた,上記複合複屈折媒体と偏光子とを有する偏光板でもある。本発明の複合複屈折媒体によれば,広帯域かつ広視野角の複合複屈折媒体を提供することができることから,広帯域かつ広視野角の偏光板を提供することができる。本明細書で「偏光子」とは,直線偏光子のことである。上記偏光板は,直線偏光板であってもよく,円偏光板であってもよく,楕円偏光板であってもよい。」

(ウ) 「発明の効果
[0058]本発明の複合複屈折媒体によれば,広い可視波長域の光に対して最適な位相差を与え得ることができる波長特性,すなわち逆波長分散性を発現することができるとともに,広視野角であり,簡便な方法で製造することができ,かつ,逆波長分散性の調整自由度及び量産性に優れた位相差フィルムを提供することができる。」

(エ) 「発明を実施するための最良の形態
[0059]<第一種の複屈折層及び第二種の複屈折層について>
図1-1?1-4は,第一種の複屈折層の代表的な屈折率楕円体を示す模式図である。図2-1?2-3は,第二種の複屈折層の代表的な屈折率楕円体を示す模式図である。図中,両矢印は,第一主屈折率n(550)(審決注:「n(550)」は誤記であり,正しくは「n1(550)」と解される。)に対応する主軸(以下「P1軸」ともいう。)を表す。また,□内には,複屈折層又は実験室に固定した座標系を表し,○内には,誘電主軸に一致する座標系を表す。なお,屈折率楕円体とは,誘電主軸に一致する座標系における三つの主屈折率の大きさをそれぞれ三本の主軸の長さに対応させた回転楕円体のことである。この屈折率楕円体の中心を通り,光の伝播方向に垂直な平面の交線は一般に楕円となり,この楕円の二本の主軸の方向が二つの固有モードの電気変位ベクトルDの方向と一致する。更に,主軸の長さが固有モードの屈折率を与える。
[0060]例えば,図1-1の第一種の複屈折層11においては,nx1とnx3とは等しいように図示されているが,これに限定されるものではない。nx1とnx3とが等しい場合には,複屈折層11は光学的に一軸性となり,P1軸11pは光学軸と完全に一致する。本発明で定義されるP1軸は,一般的には光学的に二軸性の複屈折層を擬似的に一軸性の複屈折層とみなして考えたときの光学軸のことを表しているので,当然の結果である。なお,図1-2?1-4の第一種の複屈折層12?14,及び,図2-1?2-3の第二種の複屈折層21?23についても同様である。すなわち,複屈折層12?14及び21?23についても,光学的に一軸性の場合には,P1軸12p?14p及び21p?23pは光学軸と完全に一致し,光学的に二軸性の場合には,P1軸12p?14p及び21p?23pは擬似的に一軸性の複屈折層とみなして考えたときの光学軸を表す。
・・・(中略)・・・
[0062]図1-1,1-4及び2-1は,P1軸が複屈折層の面内方向にある例である。なお,各複屈折層が光学的に一軸性の場合,図1-1及び1-4の第一種の複屈折層11及び14は,いわゆるポジティブAプレートとなり,図2-1の第二種の複屈折層21は,いわゆるネガティブAプレートとなる。
・・・(中略)・・・
[0065]<複合複屈折媒体について>
図3-1?3-9は,上記第一種及び第二種の複屈折層を積層した構造を有する本発明の複合複屈折媒体の代表例を示す模式図である。なお,これらの図は,第一種及び第二種の複屈折層をそれぞれ一層ずつ含むものを選んで示したものであり,積層数や積層順序等は,特に限定されるものではない。
[0066]図3-1?3-3は,各複屈折層のP1軸が各複屈折層の法線方向を含む同平面内にあり,かつ平行となるように積層した例である。図3-1は,Aプレート又はそれに類似の機能を有する複合複屈折媒体を構成したい場合の積層方法である。図3-1の複合複屈折媒体41においては,第一種の複屈折層11aのP1軸11ap,第二種の複屈折層21aのP1軸21ap,及び,各複屈折層11a,21aの法線方向が同平面30a内にある。また,第一種の複屈折層11aのP1軸11apと第二種の複屈折層21aのP1軸21apとは,平行である。
・・・(中略)・・・
[0073]<円偏光板について>
以下,本発明の内容を,円偏光板を用いて説明する。なお,シミュレーションには,市販の液晶シミュレーターである「LCDマスター(シンテック社製)」を用いた。また,光学計算アルゴリズムは2×2ジョーンズマトリクス法とした。
・・・(中略)・・・
[0080]2.偏光状態の計算
第1?第5円偏光板について,可視波長域の各波長で出射光のストークスパラメータS_(0),S_(1),S_(2)及びS_(3)を計算し,出射光の偏光状態を調べた。この目的では,出射光の強度に興味がなく,偏光状態にのみ興味があるので,ストークスパラメータS_(3)だけに着目し,下記式(G)で規格化したストークスパラメータS_(3)を計算した。したがって,ストークスパラメータS_(3)の絶対値が1に近いほど,出射光はより理想的な円偏光に変換されていると読み取ることができる。また,S_(3)=0は,直線偏光を表す。
S_(0)=S_(1)^(2)+S_(2)^(2)+S_(3)^(2) (G)
・・・(中略)・・・
[0087]3.本発明の円偏光板の構成
本発明者らは,第1?第5円偏光板の計算結果及びその考察から,次の2点を見いだした。すなわち,広帯域な位相差フィルムを実現するためには,複数の複屈折層を積層することが有効であること,及び,広視野角な位相差フィルムを実現するためには,積層することなく一枚の位相差フィルムとする,又は,複数を積層する場合は,一軸性の位相差フィルムの光学軸が互いに平行となるように積層することが有効であることである。
[0088]更に,これらの知見を参考にして鋭意検討したところ,2以上の複屈折層を,波長分散性,位相差及び誘電主軸に関して所定の相対関係を満たすように積層することにより,広帯域かつ広視野角な位相差フィルム(複合複屈折媒体)を提供することができることを見いだした。
[0089]以下,本発明の設計指針の有効性を示すために,これに従って複合複屈折媒体を設計し,それを用いた下記の11種の円偏光板を構成した。各円偏光板の構成は,それぞれ図6-6?6-16に示す。図中,直線偏光子内の両矢印は,吸収軸を表し。複屈折層内の両矢印は,P1軸を表す。なお,図6-13?6-16における複屈折層内の両矢印は,複屈折層の面内方向になく,傾斜している(極角が90°未満である)ことを示している。点線は,方位角0°の方位を表す。
[0090](1)本発明の円偏光板1
図6-6に示すように,この円偏光板(以下「第6円偏光板」ともいう。)106は,直線偏光子5f,第一種の複屈折層81及び第二種の複屈折層91を積層した構成を有する。各複屈折層の光学特性を下記表1に示す。第一種の複屈折層81は,ノルボルネン樹脂からなるフィルムを一軸延伸したものを想定した。第二種の複屈折層91は,ポリメチルメタクリレート樹脂からなるフィルムを一軸延伸したものを想定した。
[0091][表1]

[0092](2)本発明の円偏光板2
図6-7に示すように,この円偏光板(以下「第7円偏光板」ともいう。)107は,直線偏光子5g,第一種の複屈折層82及び第二種の複屈折層92を積層した構成を有する。各複屈折層の光学特性を下記表2に示す。第一種の複屈折層82は,ノルボルネン樹脂からなるフィルムを一軸延伸したものを想定した。第二種の複屈折層92は,ポリメチルメタクリレート樹脂からなるフィルムを一軸延伸したものを想定した。第7円偏光板は,第一種及び第二種の複屈折層の位相差R(550)の絶対値が大きいこと以外は,第6円偏光板の構成と同一である。
[0093][表2]

・・・(中略)・・・
[0112]4.偏光状態の測定
図7-6?7-16はそれぞれ,本発明の第6?第12円偏光板及び第13-1?第13-4円偏光板のストークスパラメータS_(3)の計算結果を示す図である。図中の太実線,細実線及び点線はそれぞれ,円偏光板の法線方向,方位角22.5°極角60°の斜め方向,及び,方位角45°極角60°の斜め方向におけるストークスパラメータS_(3)を表す。
[0113]図7-6に示すように,本発明の第6円偏光板においては,法線方向及び斜め方向ともに,広い波長域でS_(3)≒1が得られており,二枚直交積層タイプである第2円偏光板や二枚交差積層タイプである第3円偏光板よりも,視野角が広い。
[0114]また,図7-7に示すように,第6円偏光板よりも各複屈折層の位相差が大きい本発明の第7円偏光板においては,更に広い波長領域でS_(3)≒1が得られている。」

(オ) 「[0124]<実施例>
以下に実施例を掲げ,本発明を更に詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
[0125]1.実施例1?8の複合複屈折媒体,比較例1の位相差フィルム,及び,比較例2の複合複屈折媒体の構成
実施例1?8の複合複屈折媒体,比較例1の位相差フィルム,及び,比較例2の複合複屈折媒体について,各複屈折層の種類,材料,位相差R(550),波長分散性α及びβ,二軸性パラメータη,並びに,P1軸の方向を表13に示す。
[0126][表13]

・・・(中略)・・・
[0136](実施例8)
ポリカーボネート樹脂(PC)フィルムを一軸延伸した第1複屈折層(第一種の複屈折層)と,ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)フィルムを一軸延伸した第2複屈折層(第二種の複屈折層)とを,透明で複屈折のないアクリル系粘着剤を介して積層し,実施例8の複合複屈折媒体とした。
・・・(中略)・・・
[0138]2.実施例1?8の複合複屈折媒体,比較例1の位相差フィルム,及び,比較例2の複合複屈折媒体の波長分散性の評価試験
実施例1?8の複合複屈折媒体,比較例1の位相差フィルム,及び,比較例2の複合複屈折媒体の波長分散性α’及びβ’を,複合複屈折媒体又は位相差フィルムの法線方向,方位角22.5°極角60°の斜め方向,及び,方位角45°極角60°の斜め方向の三方向について測定し,三方向における波長分散性α’及びβ’の平均値を算出した。なお,測定には,分光エリプソメータ(商品名:M-220,日本分光社製)を用いた。また,波長分散性α’及びβ’の定義は,下記式(H)及び(I)に示すように定義される。
α’=〔N1(450)-N2(450)〕/〔N1(550)-N2(550)〕 (H)
β’=〔N1(650)-N2(650)〕/〔N1(550)-N2(550)〕 (I)
式中,N1(λ)及びN2(λ)は,所定の測定方向から入射した波長λ(nm)の光が複合複屈折媒体又は位相差フィルム中を伝播する場合の2つの固有モードに対応する屈折率を表す。ただし,N1(λ)≧N2(λ)とする。・・・(中略)・・・
[0188]本明細書において,直線偏光子,偏光子,偏光素子,(「円」の付かない)偏光板,偏光フィルムはいずれも同義とする。その材料や形成方法に特に限定はないが,特に断りのない限り,本発明においては例えば2色性をもつヨウ素錯体等をポリビニルアルコール系フィルムに吸着させて,ある一定方向に延伸,配向させたOタイプ偏光素子を前提としている。また,特に断りのない限り,TAC等の保護フィルムを含まないものとする。更に,「可視波長域」とは,400?700nmを指す。そして,「二軸性」を付していないλ/4板及びλ/2板はそれぞれ,光学的に一軸性のλ/4板,λ/2板を指す。
[0189]また,位相差フィルム,位相差板,複屈折層及び光学異方性層はいずれも(「複合」の付かない)複屈折媒体と同義である。更に,本明細書において,偏光子の偏光軸や複屈折層のP1軸の方向は,偏光子や複屈折層の面内で測る方位角と,法線方向から測る極角とで定義する。ただし,軸が面内にある場合,極角が90°となるが,この場合は極角表示を省略し,方位だけで方向を表す場合もある。」

(カ)「図面の簡単な説明
[0192][図1-1]第一種の複屈折層(nx2>>nx1,nx3)の代表的な屈折率楕円体を示す模式図である。
・・・(中略)・・・
[図2-1]第二種の複屈折層(nx2<<nx1,nx3)の代表的な屈折率楕円体を示す模式図である。
・・・(中略)・・・
[図3-1]本発明の複合複屈折媒体の代表的な構成を示す模式図である。
・・・(中略)・・・
[図6-6]本発明の第6円偏光板の構成を示す模式図である。
[図6-7]本発明の第7円偏光板の構成を示す模式図である。
・・・(中略)・・・
[図7-6]本発明の第6円偏光板のストークスパラメータS_(3)を示す図である。
[図7-7]本発明の第7円偏光板のストークスパラメータS_(3)を示す図である。
・・・(中略)・・・
[図1-1]

・・・(中略)・・・
[図2-1]

・・・(中略)・・・
[図3-1]

・・・(中略)・・・
[図6-6]

[図6-7]

・・・(中略)・・・
[図7-6]

[図7-7]



イ 引用文献1に記載された発明
前記ア(イ)の[0050]には,「複合複屈折媒体」と「直線偏光子」とを有する「円偏光板」が記載されているところ,当該「複合複屈折媒体」が[0018]に記載された「複合複屈折媒体」を指していることは,文脈上明らかである。しかるに,当該[0050]記載の「円偏光板」を円偏光板として機能させるには,前記「複合複屈折媒体」として,1/4波長板(位相差が可視光の波長のおよそ1/4となる位相差板)を用いる必要があることは,当業者における技術常識である。
一方,前記ア(オ)の[0136]には,「[0018]に記載された複合複屈折媒体」の実施例として「実施例8」が記載されているところ,当該「実施例8」が,波長550nmでの位相差が-145(=(300)+(-445))nmとなる位相差板であり,1/4波長板として機能すること,したがって,前述した[0050]記載の「円偏光板」における「複合複屈折媒体」として用いることができることは,当業者に自明である。
よって,前記ア(ア)ないし(カ)で摘記した引用文献1の記載から,「複合複屈折媒体」として「実施例8」を用いた[0050]記載の「円偏光板」についての発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。(なお,引用文献1の記載中では,第一主屈折率,第二主屈折率及び第三主屈折率なる文言が,それぞれn1(λ),n2(λ)及びn3(λ)を表すのか,それとも,それらの中のn1(550),n2(550)及びn3(550)のみを表すのかが統一されていないが,後述の発明の構成においては,それぞれをn1(λ),n2(λ)及びn3(λ)を表す文言として表現した。)

「複数の複屈折層を積層した構造を有する複合複屈折媒体であって,全体として位相差が逆波長分散性を示し,かつ波長λ(nm)における三つの主屈折率のうち,それらの平均値との差の絶対値が最大である主屈折率,二番目に大きい主屈折率及び最小の主屈折率をそれぞれ第一主屈折率n1(λ),第二主屈折率n2(λ)及び第三主屈折率n3(λ)としたときに,前記複屈折層の法線及び第一主屈折率n1(550)に対応する主軸が同平面内にある複合複屈折媒体と,
直線偏光子と,
を有する円偏光板であって,
前記複合複屈折媒体は,ポリカーボネート樹脂フィルムを一軸延伸した第1複屈折層と,ポリメチルメタクリレート樹脂フィルムを一軸延伸した第2複屈折層とを,透明で複屈折のないアクリル系粘着剤を介して積層したものであり,
前記第1複屈折層は,位相差R(550)が300nmであり,波長分散性αが1.08であり,波長分散性βが0.96であり,二軸性パラメータηがゼロであり,
前記第2複屈折層は,位相差R(550)が-445nmであり,波長分散性αが1.05であり,波長分散性βが0.98であり,二軸性パラメータηがゼロであり,
前記第1複屈折層及び前記第2複屈折層におけるP1軸の方向は,いずれも,方位角が45°で極角が90°であり,
前記複合複屈折媒体の波長分散性α’及びβ’がそれぞれ0.98及び1.02となる,
円偏光板。
(ただし,
位相差R(550)とは,波長550nmにおける位相差R(λ)を指し,当該位相差R(λ)は,厚みをdとしたときに,
R(λ)=〔n1(λ)-n2(λ)〕×d
で示される波長λnmにおける位相差のことであり,
波長分散性αとは,R(450)/R(550)で示される位相差の波長分散性を指し,
波長分散性βとは,R(650)/R(550)で示される位相差の波長分散性を指し,
二軸性パラメータηとは,
η=|n2(550)-n3(550)|/|n1(550)-
n2(550)|
で示されるパラメータを指し,
P1軸とは,第一主屈折率n1(550)に対応する主軸を指し,
波長分散性α’及び波長分散性β’とは,複合複屈折媒体中を各複屈折層の第一主屈折率n1(λ)に対応する主軸のいずれとも平行ではない任意の方向に伝播する波長λ(nm)の光の2つの固有モードに対応する屈折率をそれぞれN1(λ)及びN2(λ)としたときに(ただし,N1(λ)≧N2(λ)),
α’=〔N1(450)-N2(450)〕/〔N1(550)-
N2(550)〕
β’=〔N1(650)-N2(650)〕/〔N1(550)-
N2(550)〕
で定義されるパラメータを指す。)」(以下,「引用発明」という。)

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「位相差R(λ)」は,その定義からみて,本件補正発明の「面内位相差」や,数式1,2における「R_(1)(λ)」及び「R_(2)(λ)」に相当する。
また,引用発明の「波長分散α」は,その定義からみて,本件補正発明の数式2における「R_(1)(450)/R_(1)(550)」及び「R_(2)(450)/R_(2)(550)」や,一般式3における「R(450)/R(550)」に相当する。
さらに,引用発明の「波長分散β」は,その定義からみて,本件補正発明の一般式3における「R(650)/R(550)」に相当する。

イ 引用発明は,「複合複屈折媒体」と「直線偏光子」とを有する「円偏光板」であるところ,引用発明の「複合複屈折媒体」は全体として位相差が逆波長分散性を示すものであって,一軸延伸した「第1複屈折層」と一軸延伸した前記「第2複屈折層」とをアクリル系粘着剤を介して積層したものであるから,「光学フィルム」ということができ,引用発明の「直線偏光子」は本件補正発明の「直線偏光子」に相当し,引用発明の「円偏光板」は本件補正発明の「偏光板」の一態様であるから,引用発明は,「直線偏光子と,光学フィルムとを含む偏光板であ」るとの本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明の「第1複屈折層」は,ポリカーボネート樹脂フィルムを一軸延伸したものであって,位相差R(550)が300nmであり,二軸性パラメータηがゼロであるから,「面内位相差値が正数である正の一軸性位相差フィルム」である。また,当該第1複屈折層のP1軸の方向は,その極角が90°であるから,フィルム面内に第一主屈折率n1(550)に対応する主軸を有しており,その3次元屈折率n_(x),n_(y),n_(z)がn_(x)>n_(y)=n_(z)なる関係を有しており,本件補正発明の一般式1「n_(x)≠n_(y)≒n_(z)」を満足することは,当業者に自明である。
さらに,引用発明の「第2複屈折層」は,ポリメチルメタクリレート樹脂フィルムを一軸延伸したものであって,位相差R(550)が-445nmであり,二軸性パラメータηがゼロであるから,「面内位相差値が負数である負の一軸性位相差フィルム」である。また,当該第2複屈折層のP1軸の方向は,その極角が90°であるから,フィルム面内に第一主屈折率n1(550)に対応する主軸を有しており,その3次元屈折率n_(x),n_(y),n_(z)がn_(x)<n_(y)=n_(z)なる関係を有しており,本件補正発明の一般式1「n_(x)≠n_(y)≒n_(z)」を満足することは,当業者に自明である。
そして,引用発明の「複合複屈折媒体」は,前記「第1複屈折層」と前記「第2複屈折層」とをアクリル系粘着剤を介して積層したものである。
したがって,引用発明は,「光学フィルムは,積層されている,一般式1を満足して面内位相差値が正数である正の一軸性位相差フィルムと,一般式1を満足して面内位相差値が負数である負の一軸性位相差フィルムと,を含」むとの本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 引用発明の「第1複屈折層」及び「第2複屈折層」の「位相差R(550)」はそれぞれ300nm及び-445nmであり,「波長分散α」はそれぞれ1.08及び1.05であって,
│第1複屈折層の位相差R(550)│<│第2複屈折層の位相差R(550)│
及び
第1複屈折層の波長分散α > 第2複屈折層の波長分散α
なる関係が成り立つから,「第1複屈折層」の位相差R(λ)を「R_(2)(λ)」とし,「第2複屈折層」の位相差R(λ)を「R_(1)(λ)」とすれば,本件補正発明の数式1「│R_(1)(λ)│ > │R_(2)(λ)│」及び数式2「R_(1)(450)/R_(1)(550) < R_(2)(450)/R_(2)(550)」のいずれをも満足する。
また,引用発明の「第1複屈折層」の位相差R(550)は300nmであり,「波長分散α」及び「波長分散β」はそれぞれ1.08及び0.96であるから,「第1複屈折層」の位相差R(450)及び位相差R(650),すなわち,「R_(2)(450)」及び「R_(2)(650)」はそれぞれ324nm及び288nmである。一方,引用発明の「第2複屈折層」の位相差R(550)は-445nmであり,「波長分散α」及び「波長分散β」はそれぞれ1.05及び0.98であるから,「第2複屈折層」の位相差R(450)及び位相差R(650),すなわち,「R_(1)(450)」及び「R_(1)(650)」はそれぞれ約-467nm及び約-436nmである。そうすると,引用発明におけるR(450)及びR(650)の値は,それぞれ約-143(≒324-467)nm及び約-148(≒288-436)nmであるから,本件補正発明の数式3「│R(450)│ < │R(650)│」を満足する。
したがって,引用発明の「第1複屈折層」及び「第2複屈折層」は,「正の一軸性位相差フィルムの面内位相差と,負の一軸性位相差フィルムの面内位相差とは,数式1?数式3を満足」するとの本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

オ 引用発明の「第1複屈折層」及び「第2複屈折層」はそれぞれ正の一軸性位相差フィルム及び負の一軸性位相差フィルムであるから,それらの光軸は,第一主屈折率n1(550)に対応する主軸であるP1軸となるところ,「第1複屈折層」及び「第2複屈折層」のP1軸の方向は,いずれも,方位角が45°で極角が90°であるから,「第1複屈折層」の光軸と「第2複屈折層」の光軸がなす角度は,0°である。
したがって,引用発明の「第1複屈折層」及び「第2複屈折層」は,「正の一軸性位相差フィルムの光軸と負の一軸性位相差フィルムの光軸が成す角度は,-5度?5度になるように配置されて」いるとの本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

カ 引用発明の「第1複屈折層」の「波長分散α」及び「波長分散β」はそれぞれ1.08及び0.96であって,
波長分散α > 波長分散β
なる関係が成り立つから,本件補正発明の一般式3「R(450)/R(550)>R(650)/R(550)」を満足する。
また,引用発明の「第2複屈折層」の「波長分散α」及び「波長分散β」はそれぞれ1.05及び0.98であって,
波長分散α > 波長分散β
なる関係が成り立つから,本件補正発明の一般式3「R(450)/R(550)>R(650)/R(550)」を満足する。
したがって,引用発明の「第1複屈折層」及び「第2複屈折層」は,「正の一軸性位相差フィルムは,一般式3を満足する正常波長分散特性を有し,負の一軸性位相差フィルムは,一般式3を満足する正常波長分散特性を有する」との本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

キ 前記アないしカから,本件補正発明と引用発明とは,
「直線偏光子と,光学フィルムとを含む偏光板であって,
前記光学フィルムは,
積層されている,下記一般式1を満足して面内位相差値が正数である正の一軸性位相差フィルムと,下記一般式1を満足して面内位相差値が負数である負の一軸性位相差フィルムと,を含み,
前記正の一軸性位相差フィルムの面内位相差と,前記負の一軸性位相差フィルムの面内位相差とは,下記数式1?数式3を満足し,
前記正の一軸性位相差フィルムの光軸と前記負の一軸性位相差フィルムの光軸が成す角度は,-5度?5度になるように配置されており,
前記正の一軸性位相差フィルムは,下記一般式3を満足する正常波長分散特性を有し,前記負の一軸性位相差フィルムは,下記一般式3を満足する正常波長分散特性を有する。
[一般式1]
n_(x)≠n_(y)≒n_(z)
[数式1]
│R_(1)(λ)│ > │R_(2)(λ)│
[数式2]
R_(1)(450)/R_(1)(550) < R_(2)(450)/R_(2)(550)
[数式3]
│R(450)│ < │R(650)│
[一般式3]
R(450)/R(550)>R(650)/R(550)
一般式1で,n_(x),n_(y)及びn_(z)は,各々位相差フィルムのx,y及びz方向の屈折率であり,数式1で,│R_(1)(λ)│は,前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうちいずれか一つのフィルムのλnmの波長の光に対する面内位相差の絶対値であり,│R_(2)(λ)│は,前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうち他の一つのフィルムのλnmの波長の光に対する面内位相差の絶対値であり,λは,450,550または650であり,数式2で,R_(1)(450)及びR_(1)(550)は,各々前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうち面内位相差の絶対値が大きいフィルムの450nm及び550nmの波長の光に対する面内位相差値であり,R_(2)(450)及びR_(2)(550)は,各々前記正の一軸性位相差フィルム及び前記負の一軸性位相差フィルムのうち面内位相差の絶対値が小さいフィルムの450nm及び550nmの波長の光に対する面内位相差値であり,数式3で,│R(450)│は,R_(1)(450)とR_(2)(450)の和の絶対値であり,│R(650)│は,R_(1)(650)とR_(2)(650)の和の絶対値であり,一般式3で,R(450)は,該当位相差フィルムが示す450nm波長の光に対する面内位相差であり,R(550)は,該当位相差フィルムが示す550nm波長の光に対する面内位相差であり,R(650)は,該当位相差フィルムが示す650nm波長の光に対する面内位相差である。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点1:
本件補正発明では,「正の一軸性位相差フィルム」が550nmの波長の光に対して95nm?145nmの範囲の面内位相差を有し,「負の一軸性位相差フィルム」が550nmの波長の光に対して-200nm?-290nmの範囲の面内位相差を有するのに対して,
引用発明では,「第1複屈折層」が550nmの波長の光に対して330nmの面内位相差を有し,「第2複屈折層」が550nmの波長の光に対して-445nmの面内位相差を有していて,いずれの面内位相差も本件補正発明の範囲にはない点。

相違点2:
本件補正発明では,「直線偏光子」の光吸収軸と「正の一軸性位相差フィルム」の「光軸」は,40度?45度を成すのに対して,
引用発明では,「直線偏光子」の光吸収軸と「第1複屈折層」の光軸であるP1軸とのなす角度は明らかでない点。

(4)相違点1の容易想到性
ア 引用文献1の[0090]ないし[0093]には,二軸性パラメータηがゼロ,すなわち,光学的に一軸性の複屈折層であって,位相差R(550)が275nmであり,波長分散性α及び波長分散性βがともに1.00である第一種の複屈折層と,二軸性パラメータηがゼロ,すなわち,光学的に一軸性の複屈折層であって,位相差R(550)が-137.5nmであり,波長分散性αが1.05で波長分散性βが0.98である第二種の複屈折層とを,それぞれのP1軸の方向がいずれも直線偏光子の吸収軸の方向に対して方位角45°,極角90°となるように積層した「本発明の円偏光板1」(第6円偏光板)と,第一種の複屈折層の位相差R(550)が987.5nmであり,第二種の複屈折層の位相差R(550)が-850nmであること以外は,前記「第6円偏光板」と同様の構成の「本発明の円偏光板2」(第7円偏光板)とが記載されているところ,当該「第6円偏光板」の第一種の複屈折層及び第二種の複屈折層からなる複合複屈折媒体,並びに「第7円偏光板」の第一種の複屈折層及び第二種の複屈折層からなる複合複屈折媒体は,いずれも,[0050]に記載された「複合複屈折媒体」に該当し,かつ,全体としての位相差R(550)が137.5nmであって,1/4波長板として機能するものである。
そして,引用文献1の図7-6及び図7-7には,シミュレーションにより算出した「第6円偏光板」及び「第7円偏光板」の波長範囲400ないし700nmにおけるストークスパラメータS_(3)/S_(0)(ストークスパラメータS_(3)/S_(0)は,それが1に近いほど理想的な円偏光に変換されることを示す。なお,引用文献1の[0080]等では「S_(3)」として説明されているが,「S_(3)/S_(0)」を指していることは明らかである。)の値を表したグラフが示されているところ,当該図7-6及び図7-7からは,概ね約475ないし700nmの波長範囲では,「第7円偏光板」のほうが「第6円偏光板」よりも円偏光板としてより優れた特性を有しており,400ないし約450nmの範囲では,「第6円偏光板」のほうが「第7円偏光板」よりも円偏光板としてより優れた特性を有しているものの,両者とも広い波長域でストークスパラメータS_(3)/S_(0)≒1になっていることが看取される([0113]及び[0114]の記載をも参照。)。
これらの引用文献1の記載に接した当業者は,[0050]記載の「円偏光板」(「[0018]に記載された複合複屈折媒体」と「直線偏光子」とを有する「円偏光板」)において,「[0018]に記載された複合複屈折媒体」として1/4波長板を用いる限りは,すなわち,全体としての位相差値(各複屈折層の光軸が平行ならば,各複屈折層の位相差の合計値)が可視光の波長のおよそ1/4となる「[0018]に記載された複合複屈折媒体」を用いる限りは,各複屈折層の位相差値を変更しても,「[0018]に記載された複合複屈折媒体」が広い波長域の光に対して所望の位相差を与えることができ,[0050]記載の「円偏光板」が,円偏光板として優れた特性を有することとなることを把握できる。

イ 引用発明は[0050]記載の「円偏光板」の一態様であるから,前記アで述べた事項に照らせば,当業者は,引用発明において,第1複屈折層及び第2複屈折層の位相差R(550)の合計値が-145(=300-445)nmとなる限りは,それぞれの位相差値を変更しても,広い波長域の光に対して所望の位相差を与えることができ,円偏光板として優れた特性を有するものとなると認識するものと認められるところ,薄型化等を目的として,第1複屈折層及び第2複屈折層の位相差R(550)を,それぞれ絶対値が小さくなるような値,例えば,第1複屈折層の位相差R(550)を95ないし145nmという範囲内の値に,第2複屈折層の位相差R(550)を「-第1複屈折層の位相差R(550)-145」nmという値(-290ないし-240nmという範囲内の値)に変更することは,当業者が適宜なし得た設計変更というほかない。
しかるに,当該構成の変更により,引用発明は,相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備することとなる。
また,当該構成の変更により,本件補正発明と引用発明との間に新たな相違点が生じることはない。

ウ 以上のとおりであるから,引用発明を,相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(5)相違点2について
「円偏光板」とは,直線偏光子の光吸収軸と1/4波長板の光軸とのなす角度が45°になるように,直線偏光子と1/4波長板とを積層したものであることが技術常識である。
そうすると,たとえ引用文献1に明記がなくとも,「円偏光板」である引用発明において,「直線偏光子」の光吸収軸と1/4波長板として機能する「第1複屈折層」の光軸であるP1軸とのなす角度は45°であると解するのが相当である。
このことは,引用発明とは異なる複合複屈折媒体を用いたものではあるものの,前記(4)で述べた引用文献1記載の「第6円偏光板」及び「第7円偏光板」において,直線偏光子の光吸収軸と複合複屈折媒体の光軸とのなす角度が45°に設定されていることからも確認できることである。
以上によれば,引用発明は,相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を具備していると解するのが相当であって,相違点2は実質的な相違点ではない。

(6)効果について
本件補正発明が有する効果は,引用発明に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(7)請求人の主張について
平成30年5月10日提出の上申書において,請求人は,複合複屈折媒体に関して,第1び第2複屈折層の位相差値の合計を維持したまま,それぞれの複屈折層の位相差の値を変更するような操作について,引用文献1は示唆していないなどと主張するが,引用発明において,第1複屈折層及び第2複屈折層の位相差R(550)を,第1複屈折層の位相差R(550)を95ないし145nmという範囲内の値に,第2複屈折層の位相差R(550)を「-第1複屈折層の位相差R(550)-145」nmという値(-290ないし-230nmという範囲内の値)に変更することが,当業者が適宜なし得た設計変更であることは,前記(5)ア及びイで述べたとおりである。

(8)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本件補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものであるから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記〔補正却下の決定の結論〕のとおり決定する。


第3 請求項1に係る発明について
1 請求項1に係る発明
本件補正は前記のとおり却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,前記第2〔理由〕1(1)アに示したとおりのものと認められる。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項及び引用発明については,前記第2〔理由〕4(2)ア及びイのとおりである。

3 対比・判断
本件補正発明は,上記第2〔理由〕2のとおり,本件発明を限定したものである。
そうすると,本件発明の発明特定事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する本件補正発明が,上記第2〔理由〕4(8)に記載したとおり,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上,本件発明も同様の理由により,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本件発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-16 
結審通知日 2018-05-22 
審決日 2018-06-04 
出願番号 特願2015-543992(P2015-543992)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 関根 洋之
清水 康司
発明の名称 偏光板及びディスプレイ装置  
代理人 龍華国際特許業務法人  
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