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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1345364
審判番号 不服2017-12387  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-22 
確定日 2018-10-18 
事件の表示 特願2013-197861「レンズアレイおよびその製造方法,固体撮像装置,並びに電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 9日出願公開,特開2015- 65268〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年9月25日に出願された特願2013-197861号であり,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成28年 2月 9日:手続補正書
平成28年 9月20日:拒絶理由通知(起案日)
平成28年10月27日:意見書,手続補正書
平成29年 3月 2日:最後の拒絶理由通知(起案日)
平成29年 4月28日:意見書,手続補正書
平成29年 5月17日:補正の却下の決定,拒絶査定(起案日)
平成29年 8月22日:審判請求,手続補正書
平成30年 4月 6日:拒絶理由通知(起案日)
平成30年 5月30日:意見書
平成30年 5月30日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。

「【請求項1】
撮像画素に混在して設けられる位相差検出画素に対応して形成されるマイクロレンズ
を備え,
前記マイクロレンズは,
そのレンズ面が実質的に球面をなし,
平面視において正方形形状に形成されるとともに,四隅の角が,対角方向に隣接する前記マイクロレンズの角同士の間隔が可視光領域の光の波長より小さくなるように形成され,
断面視において画素境界部の対辺中央部を含む対辺境界部近傍の底面が,対角境界部を含む対角境界部近傍の底面よりも高くなるように形成され,
前記レンズ面の曲率半径rが,前記レンズ面の頂点を通る断面での底面の幅dと,前記底面を基準とした前記レンズ面の頂点の高さtとを用いて,r=(d^(2)+4t^(2))/8tで表される場合,前記対辺中央部の断面における前記レンズ面の曲率半径である第1の曲率半径r1と,前記対角境界部の断面における前記レンズ面の曲率半径である第2の曲率半径r2との比である曲率半径比r1/r2が,0.98乃至1.20の範囲に含まれる値となるように形成されてなる
レンズアレイ。」

第3 拒絶の理由
平成30年4月6日の当審が通知した拒絶理由のうちの理由2は,次のとおりのものである。
この出願の請求項1?7に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献1?12に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2009-109965号公報
2.特開2000-206310号公報
3.特開2008-52004号公報
4.特開2010-129783号公報
5.特開2010-181485号公報
6.特開2013-21168号公報
7.特開2007-101661号公報
8.特開2003-258224号公報
9.特開2011-13411号公報
10.特開2006-73605号公報
11.特開2008-9079号公報
12.国際公開第2004/006336号

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)当審が通知した拒絶理由で引用した,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2009-109965号公報(以下「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同じ。)
「【請求項1】
集光用の第1のマイクロレンズが各々設けられた複数の撮像用画素と,集光用の第2のマイクロレンズが各々設けられて焦点検出に用いる複数の焦点検出用画素とを,2次元的に配置した固体撮像素子において,
前記第2のマイクロレンズによる集光位置が前記第1のマイクロレンズによる集光位置よりもマイクロレンズ側となるように,前記第1および第2のマイクロレンズを形成したことを特徴とする固体撮像素子。」

「【請求項12】
請求項1?11のいずれか一つに記載の固体撮像素子と,
前記複数の撮像用画素の出力に基づいて画像情報を形成する画像形成手段と,
前記複数の焦点検出用画素の出力に基づいて瞳分割位相差方式の焦点検出を行う焦点検出手段とを備えたことを特徴とする撮像装置。」

「【0018】
図4は,図3に示す焦点検出領域32,33の交差部付近を拡大して示す図であり,画素配置を模式的に示したものである。固体撮像素子3は,1種類の撮像用画素20Aと,右,左,上,下にそれぞれ入射光を受光する領域が規定されている4種類のAF用画素20Bとを有しているが,以下の説明では,特に断らない場合には,AF用画素の種類を区別しないで説明する。
【0019】
各画素20には,光電変換部42と,光電変換部42に入射光を導くマイクロレンズ41とが配置されている。」

「【0041】
なお,上述した実施の形態では,撮像用画素20Aのマイクロレンズ41の平面形状を画素形状と同じ矩形とし,AF用画素20Bのマイクロレンズ形状を丸形としたがこれらの形状に限定されない。すなわち,レンズ厚さが同一である場合には,レンズ平面形状の面積を大きくすることで,AF用画素20Bの場合の集光位置P2を撮像用画素20Aの場合の集光位置P1よりもマイクロレンズ側に設定することができる。例えば,AF用画素20Bのマクロレンズ41の平面形状を8角形以上に設定してほぼ円形に近い形状となるようにし,撮像用画素20Aのマクロレンズ41の平面形状を8角形よりも画数の少ない多角形に設定するようにしても良い。」

「【0043】
一方,図8に示すAF用画素20Aの場合には,マイクロレンズ材を円形状にパターニングしてリフローすることで,円形状のマイクロレンズ41が得られる。なお,マイクロレンズ材を熱変形させてマイクロレンズ41を形成しているので,矩形状のマイクロレンズ41であっても厳密には矩形とならず,角部分が丸みを帯びた形状となる。すなわち,マイクロレンズ41の平面形状が矩形状であると称する場合,このような丸みを帯びたものや,角部を面取りしたものも矩形状に含むものとする。その他の多角形の場合も同様である。」

「【0044】
上述した実施の形態では,レンズ平面形状を変えることで異なる集光位置P1,P2としたが,集光位置を異ならせる方法としてはこのような形態に限らない。例えば,レンズ平面形状を同一形状および同一大きさとし,レンズ厚さを変えることで集光位置を変える。また,レンズ平面形状およびレンズ厚さは同一形状(例えば,円形)であるが,その口径を変えることで集光位置を変える。レンズ形状を変える代わりに,屈折率の異なるマイクロレンズ材を用いることで集光位置を変えるようにしても良い。さらに,屈折率の異なるマイクロレンズ材としては,ナフトキノンジアジドを感光基とするフェノール系のポジ型レジスト(リフロー法の場合),酸化シリコンや窒化シリコン(エッチバック法の場合)などが上げられる。」

「【0054】
図16に示す計算結果では,L2/L1が3.72以上で3.98以下である場合に位相差AF信号有効係数比が1以上となり,適正なオートフォーカス性能が得られる。すなわち,マイクロレンズ41の形状を撮像用画素20Aのマイクロレンズと同様とした場合,L2/L1が3.72以上で3.98以下となるように設定すれば良い。図16は,所定レンズ形状のマイクロレンズに関してのシミュレーション結果であるが,他のレンズ形状であっても同様のL2/L1依存性を有し,ほぼ同様の位相差AF信号有効係数比が得られる。なお,AF感度を高めるためには,マイクロレンズ41の径は大きい方が好ましく,画素サイズ近傍まで大きくしたものを配置するのが良い。」

(2)上記(1)から,引用文献1には,引用文献1の請求項に記載された発明の一つの実施の形態として,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「集光用の第1のマイクロレンズが各々設けられた複数の撮像用画素と,集光用の第2のマイクロレンズが各々設けられて焦点検出に用いる複数の焦点検出用画素とを,2次元的に配置した固体撮像素子において,前記第2のマイクロレンズによる集光位置が前記第1のマイクロレンズによる集光位置よりもマイクロレンズ側となるように,前記第1および第2のマイクロレンズを形成した固体撮像素子が備える,前記第1および第2のマイクロレンズであって,
前記固体撮像素子は,焦点検出用画素の出力に基づいて瞳分割位相差方式の焦点検出を行うものであり,
前記焦点検出に用いる複数の焦点検出用画素に設けられている第2のマイクロレンズは,平面形状が8角形である,
固体撮像素子が備える,第1および第2のマイクロレンズ。」

(3)さらに,上記記載(1)から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 上述した実施の形態では,レンズ平面形状を変えることで異なる集光位置P1,P2としたが,集光位置を異ならせる方法としてはこのような形態に限られず,例えば,レンズ平面形状を同一形状および同一大きさとし,レンズ厚さを変えることで集光位置を変えるようにすること,あるいは,レンズ平面形状およびレンズ厚さは同一形状(例えば,円形)であるが,その口径を変えることで集光位置を変えること,もしくは,レンズ形状を変える代わりに,屈折率の異なるマイクロレンズ材を用いることで集光位置を変えるようにしても良いこと。(【0044】)

イ AF感度を高めるためには,マイクロレンズの径は大きい方が好ましいこと。(【0054】)

2 引用文献2
(1)当審が通知した拒絶理由で引用した,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2000-206310号公報(以下「引用文献2」という。)には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 縦横方向に集光レンズが複数個配列されてなり,個々の前記集光レンズは2次元平面に配列された各画素に1対1に対応するように設置して使用されるレンズアレイであって,
前記集光レンズの配列面と垂直な方向より見た前記集光レンズの平面形状は,4つ直線状の辺と,前記直線状の各辺を順に結ぶ4つの略円弧とを有し,前記4つの略円弧の中心は前記画素に対応する領域の中心と略一致することを特徴とするレンズアレイ。
<途中省略>
【請求項3】 前記画素に対応する領域が矩形状であり,前記集光レンズは,前記領域の対角線方向のレンズの曲率と,前記領域の辺方向のレンズ曲率とが略等しい請求項1に記載のレンズアレイ」

「【0005】 一般的な固体撮像素子では,光は受光部310のみで受け,それ以外にあたった光線は感度に寄与しない。そのため,高感度化の技術のひとつとして,レンズアレイ301を受光部310上の透明表面層に形成し,受光部310により多く光を集めることが知られている。
<途中省略>
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記レンズアレイでは,各レンズはレンズ形状が略円形または略楕円形のため,レンズ直径が画素に対応する領域の1辺を越えることがない。したがって,各レンズの整列方向には,製造プロセス上発生する隙間353の空間が存在する。更に,四角い画素領域のうち,レンズ301が形成されていない角部にも隙間が生じる。これらの部分に入射する光についてはほとんど受光素子に入ることがなく,感度に寄与しないという問題があった。
<途中省略>
【0011】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために,本発明のレンズアレイは以下の構成とする。
【0012】すなわち,本発明の第1の構成にかかるレンズアレイは,縦横方向に集光レンズが複数個配列されてなり,個々の前記集光レンズは2次元平面に配列された各画素に1対1に対応するように設置して使用されるレンズアレイであって,前記集光レンズの配列面と垂直な方向より見た前記集光レンズの平面形状は,4つ直線状の辺と,前記直線状の各辺を順に結ぶ4つの略円弧とを有し,前記4つの略円弧の中心は前記画素に対応する領域の中心と略一致することを特徴とする。
【0013】かかる第1の構成にかかるレンズアレイによれば,画素領域を有効に使用できるので,集光レンズの開口が拡大し,画素領域を通る光線の無駄を少なくすることができる。この結果,例えば固体撮像装置に使用した場合には感度を向上させることができ,また液晶表示素子に使用した場合には画面の輝度を向上させることができる。更に,このようなレンズ形状は製造が比較的容易である。」

「【0015】また,上記の第1の構成において,前記画素に対応する領域が矩形状(長方形又は正方形)であり,前記集光レンズは,前記領域の対角線方向のレンズの曲率と,前記領域の辺方向のレンズ曲率とが略等しいことが好ましい。かかる好ましい構成によれば,縦横方向に集光レンズが多数配列されたレンズアレイを後述する簡易な方法で形成することができる。」

「【0027】
【発明の実施の形態】以下,本発明のレンズアレイについて,図面を参照しつつさらに具体的に説明する。
【0028】(実施の形態1)図1は本発明の実施の形態1にかかるレンズアレイの概念図であって,図1(a)は平面図,図1(b)は図1(a)のIb-Ib線での矢印方向から見た断面図,図1(c)は図1(a)のIc-Ic線での矢印方向から見た断面図である。
【0029】なお,図1では,図面を簡素化するために4画素のみを示したが,実際には図1(a)に示した各画素が縦横方向にそれぞれ所定個数配列されている。
【0030】本実施の形態のレンズアレイは,縦横方向に配列された矩形状の画素領域に凸レンズ形状を有する集光レンズ111が,一つの画素領域に一つの集光レンズが対応するように配置されている。
【0031】ここで,集光レンズの配列面と垂直な方向より見た集光レンズ111の平面形状は図1(a)に示すように略八角形であり,画素領域の境界の4辺と平行な隣り合わない4つの辺は直線であり,該4辺の間を順に連結する他の4つの辺は,前記略八角形の略中心(これは,画素領域の中心とほぼ一致する)を中心点とする略円の1部である。該略円の直径は,画素領域の対角線の長さより短く,前記画素領域の一辺(画素領域が長方形の場合はその短辺)よりも長い。
【0032】本実施の形態のレンズアレイは,このような構成により,従来レンズに比べて,画素領域における集光レンズ111で覆われている部分の面積が増加する。また,同時に,集光に必要な集光レンズ111の曲率を,画素領域の対角線の長さなどに制限されることなく自由に選択することができる。」

・図1は,引用文献2に記載された発明の,実施の形態1にかかるレンズアレイの概念図であって,図1(a)は平面図,図1(b)は図1(a)のIb-Ib線での矢印方向から見た断面図,図1(c)は図1(a)のIc-Ic線での矢印方向から見た断面図であり,上記摘記した引用文献2の記載を参酌すれば,これらの図から,
画素領域の境界の4辺と平行な隣り合わない4つの辺は直線であり,該4辺の間を順に連結する他の4つの辺が略円の1部であって,前記領域の対角線方向のレンズの曲率と,前記領域の辺方向のレンズ曲率とが略等しい集光レンズは,
断面視において画素境界部の対辺中央部を含む対辺境界部近傍の底面が,対角境界部を含む対角境界部近傍の底面よりも高くなるように形成された構造を有することを見て取ることができる。

(2)上記記載(1)から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 一般的な固体撮像素子において,レンズ形状が略円形または略楕円形である場合,各レンズの整列方向には,及び,四角い画素領域のうち,レンズが形成されていない角部に隙間が生じ,これらの部分に入射する光についてはほとんど受光素子に入ることがなく,感度に寄与しないという問題があったこと。(【0005】,【0008】)

イ 集光レンズの平面形状を,4つ直線状の辺と,前記直線状の各辺を順に結ぶ4つの略円弧とを有するものとすると,画素領域が有効に使用できるので,集光レンズの開口が拡大し,画素領域を通る光線の無駄が少なくなり,固体撮像装置の感度を向上させることができること,更に,このようなレンズ形状は製造が比較的容易であること。(【0012】,【0013】)
また,このような構成に係る集光レンズにおいては,前記領域の対角線方向のレンズの曲率と,前記領域の辺方向のレンズ曲率とが略等しいことが好ましく,かかる好ましい構成によれば,縦横方向に集光レンズが多数配列されたレンズアレイを簡易な方法で形成することができること。(【0015】)

ウ 画素領域の境界の4辺と平行な隣り合わない4つの辺は直線であり,該4辺の間を順に連結する他の4つの辺が略円の1部である構成を有する集光レンズの配列面と垂直な方向より見た平面形状は,略八角形と見なされること。(【0031】)

エ 画素領域の境界の4辺と平行な隣り合わない4つの辺は直線であり,該4辺の間を順に連結する他の4つの辺が略円の1部であって,前記領域の対角線方向のレンズの曲率と,前記領域の辺方向のレンズ曲率とが略等しい集光レンズは,
断面視において画素境界部の対辺中央部を含む対辺境界部近傍の底面が,対角境界部を含む対角境界部近傍の底面よりも高くなるように形成された構造を有すること。(【図1】)

3 引用文献3
(1)当審が通知した拒絶理由で引用した,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2008-52004号公報(以下「引用文献3」という。)には,以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,マイクロレンズを有する固体撮像素子の製造方法に関し,特にマイクロレンズのレンズ形状を最適化できるレンズアレイ及び固体撮像素子の製造方法に関する。」

「【0004】
そして,このような各種固体撮像素子におけるマイクロレンズとして,エッチバック法を用いて隣接画素間のギャップ(非レンズ部分)をなくした,いわゆるギャップレスマイクロレンズが実用化されている。
図5は従来のギャップレスマイクロレンズの製造方法を示している。
まず,図5(A)に示すように,レンズ材による下地平面上に各画素に対応した正方形の凸平面10で構成されるレジストパターンを形成する。そして,このレジストパターンに熱溶融処理を施すことにより,正方形の凸平面10を略球面レンズ状に変形させた後,全面エッチバック処理を行い,レジストパターンを下地のレンズ材に転写する。これにより,図5(B)に示すように,ギャップレスのマイクロレンズ12を形成する。
【0005】
また,レンズ形状の提案として,隣接するレンズ同士を互いに接する状態で配置し,各レンズの曲率がどの方向から見ても同一な球面となるように形成することにより,感度の向上を達成したものが知られている(例えば特許文献1,2参照)。
図6は,このような提案に基づいて形成されたレンズアレイの例を示している。
図示のように,この例では,隣接する画素のレンズ14が縦方向及び横方向(図中E-F線)で互いに接触する状態で形成されているが,対角線方向(図中G-H線)では若干のギャップ(非レンズ部分)が形成されている。そして,各レンズの曲率は,どの方向から見てもほぼ同一な球面となっている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,図5に示した従来例では,熱処理によって正方形の凸平面10を変形させているため,完成後のレンズ面を完全な球面とすることは困難である。また,ギャップが縮小していくエッチバックにより,図7に示すように,隣接したレンズが接した形状ができるが,縦方向及び横方向(図中I-J線)と,対角線方向(図中K-M線)とで,レンズの曲率が異なるため,焦点が光軸方向にずれて分布し,効率の良い集光特性が得られない。」

「【0008】
そこで本発明は,隣接レンズ間のギャップ(非レンズ部分)をできるだけ縮小して感度等の向上を図るとともに,2次元方向から見て均一な曲率形状によって集光特性等の向上を図ることが可能なレンズアレイ及び固体撮像素子の製造方法を提供することを目的とする。」

「【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば,下地膜上に形成した円形または近似円形の凸平面で構成されるレジストパターンに熱溶融処理を施すことにより,球面レンズ状のレジストパターンを作製し,これを隣接する球面レンズ間のギャップを縮小させる条件でエッチバックして下地膜に転写することにより,レンズを形成するようにしたことから,2次元方向のどの角度から見ても均一な曲率を有する複数のレンズをギャップレス状態またはギャップレスに近い状態で容易に作製することができる。」

・図6は,ギャップレスレンズアレイの製造方法の他の例を示す平面図及び断面図であって,引用文献3の上記摘記の記載を参酌すれば,同図から,隣接するレンズ同士を互いに接する状態で配置し,各レンズの曲率がどの方向から見ても同一な球面となるように形成することにより,感度の向上を達成したレンズアレイは,
断面視において画素境界部の対辺中央部を含む対辺境界部近傍の底面が,対角境界部を含む対角境界部近傍の底面よりも高くなるように形成された構造を有することを見て取ることができる。

(2)上記記載(1)から,引用文献3には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 引用文献3の出願時点(平成18年8月24日)において,固体撮像素子におけるマイクロレンズとして,隣接画素間のギャップ(非レンズ部分)をなくした,いわゆるギャップレスマイクロレンズが実用化されており,また,レンズ形状の提案として,隣接するレンズ同士を互いに接する状態で配置し,各レンズの曲率がどの方向から見ても同一な球面となるように形成することにより,感度の向上を達成したものが知られたこと。(【0004】,【0005】)

イ 縦方向及び横方向(図中I-J線)と,対角線方向(図中K-M線)とで,レンズの曲率が異なると,焦点が光軸方向にずれて分布し,効率の良い集光特性が得られないこと。(【0006】)

ウ 引用文献3に記載された発明によって,2次元方向のどの角度から見ても均一な曲率を有する複数のレンズをギャップレス状態またはギャップレスに近い状態で容易に作製することができること。(【0012】)

エ 隣接するレンズ同士を互いに接する状態で配置し,各レンズの曲率がどの方向から見ても同一な球面となるように形成することにより,感度の向上を達成したレンズアレイは,
断面視において画素境界部の対辺中央部を含む対辺境界部近傍の底面が,対角境界部を含む対角境界部近傍の底面よりも高くなるように形成された構造を有すること。(【図6】)

4 引用文献8
(1)当審が通知した拒絶理由で引用した,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2003-258224号公報(以下「引用文献8」という。)には,以下の事項が記載されている。
「【0009】 図5は,固体撮像素子上面からみたマイクロレンズアレイの一例を示す平面図である。マイクロレンズ(51)間の非開口部であるギャップ(E),特に,対角方向のギャップ(C)が,かなり大きい比重を占めることが理解される。この非開口部からの反射光が,上記ノイズ発生の大きな原因となっている。」

「【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,高精細な固体撮像素子において,光電変換に寄与する領域(開口部)を補う集光用のマイクロレンズのレンズ間ギャップが0.3μm以下のレンズ間ギャップ(挟ギャップ)を有するマイクロレンズを備えた,すなわち,感度低下のない,またマイクロレンズからの,特にマイクロレンズ間の非開口部からの反射光を抑制し,ノイズを低減させた固体撮像素子を提供することを課題とするものである。
また,上記固体撮像素子の製造方法を提供することを課題とする。」

(2)上記記載(1)から,引用文献8には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 固体撮像素子において,マイクロレンズ間の非開口部であるギャップ,特に,対角方向のギャップからの反射光が,ノイズ発生の大きな原因となっていること。(【0009】)

イ 高精細な固体撮像素子において,光電変換に寄与する領域(開口部)を補う集光用のマイクロレンズのレンズ間ギャップを,0.3μm以下のレンズ間ギャップ(挟ギャップ)とすることで,感度低下のない,またマイクロレンズからの,特にマイクロレンズ間の非開口部からの反射光を抑制し,ノイズを低減させた固体撮像素子が得られること。(【0012】)

5 引用文献9
(1)当審が通知した拒絶理由で引用した,本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2011-13411号公報(以下「引用文献9」という。)には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
斜め方向でのレンズ間ギャップが0.2μm以下のマイクロレンズアレイの製造方法において,市松状に配置した第1のマイクロレンズを,第1のフォトマスクのパターンを感光性レンズ材料層に露光し現像することにより形成する第1の工程と,前記第1の工程において選択されなかった第2のマイクロレンズを市松状に配置した第2のマイクロレンズを,第2のフォトマスクのパターンを感光性レンズ材料層に露光し現像することにより形成する第2の工程とを有し,前記第1のフォトマスクが,八角形の遮光パターンと,前記遮光パターンの斜め方向の間の間隔に位置する光透過率が100%の帯状の間隙パターンと,前記遮光パターンと前記帯状の間隙パターン以外の領域であって半透過性を有する半透光部とを有するフォトマスクであることを特徴とするマイクロレンズアレイの製造方法。」

「【0006】
特許文献2の技術では,第1の工程と第2の工程で用いるマイクロレンズ形成用のフォトマスクは,それぞれ,市松状のマイクロレンズのパターンを有する。そのフォトマスクは,マイクロレンズにより集光した光の撮像デバイスの受光量を大きくするために,マイクロレンズが撮像デバイスの受光素子を覆う面積を可能な限り大きくすることが重要である。そのために,マイクロレンズの斜め方向で間隔が開いてマイクロレンズが覆わない領域ができないようにしている。その第1の工程と第2の工程で用いる各フォトマスクは,マイクロレンズを市松状に配置するが,そのマイクロレンズの集光光量を大きくするために,マイクロレンズの斜め方向での間隔をできるだけ小さく形成する必要がある。そうすると,マイクロレンズの斜め方向でのレンズ間ギャップを0.2μm以下に非常に狭くする必要がある。」

「【0007】
マイクロレンズのサイズ(平面視でのマイクロレンズの大きさ)は,光の波長の3?4倍あれば光の集光や光拡散に有効である。従って,例えば緑(Green)光の波長550nmを基準とすれば,平面視での大きさを1.5μmから2.2μmとし,マイクロレンズの曲率(あるいはレンズの厚み)や,傾き(断面視での斜面部の形状)を適宜調整することによって最適な集光性を得ることができる。」

(2)上記記載(1)から,引用文献9には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 斜め方向でのレンズ間ギャップが0.2μm以下のマイクロレンズアレイを製造する方法。(【請求項1】)

イ マイクロレンズの集光光量を大きくするためには,マイクロレンズの斜め方向での間隔をできるだけ小さく形成する必要があり,そのためには,マイクロレンズの斜め方向でのレンズ間ギャップを0.2μm以下に非常に狭くする必要があること。(【0006】)

ウ 緑(Green)光の波長が550nm(0.55μm)であること。(【0007】)

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
引用発明の「『焦点検出に用いる』『焦点検出用画素』」は,当該「焦点検出用画素」が,「瞳分割位相差方式の焦点検出を行う」ものであることから,本願発明の「位相差検出画素」に相当する。
そうすると,引用発明の「撮像用画素」と「焦点検出用画素」とが,「2次元的に配置」されているという態様は,本願発明の「撮像画素に混在して設けられる位相差検出画素」という構成を満たす。
また,「『焦点検出に用いる』『焦点検出用画素』」に設けられた「第2のマイクロレンズ」は,「集光用」のものであることから,当該「第2のマイクロレンズ」は,前記「集光用」という機能を果たすために,「そのレンズ面」は「実質的に球面」をなすものといえる。
さらに,引用発明の「撮像用画素」と「焦点検出用画素」とが,「2次元的に配置」されていることから,これらの「撮像用画素」及び「焦点検出用画素」にそれぞれ設けられた「第1のマイクロレンズ」及び「第2のマイクロレンズ」も「2次元的に配置」されているといえるから,引用発明の「『第1のマイクロレンズ』及び『第2のマイクロレンズ』」は,以下の相違点を除き,本願発明の「レンズアレイ」に相当する。

したがって,本願発明と引用発明とは,以下の<一致点>で一致し,以下の<相違点>で相違する。
<一致点>
「撮像画素に混在して設けられる位相差検出画素に対応して形成されるマイクロレンズ
を備え,
前記マイクロレンズは,
そのレンズ面が実質的に球面をなす
レンズアレイ。」

<相違点>
本願発明の位相差検出画素に対応して形成されるマイクロレンズは,
「平面視において正方形形状に形成されるとともに,四隅の角が,対角方向に隣接する前記マイクロレンズの角同士の間隔が可視光領域の光の波長より小さくなるように形成され,
断面視において画素境界部の対辺中央部を含む対辺境界部近傍の底面が,対角境界部を含む対角境界部近傍の底面よりも高くなるように形成され,
前記レンズ面の曲率半径rが,前記レンズ面の頂点を通る断面での底面の幅dと,前記底面を基準とした前記レンズ面の頂点の高さtとを用いて,r=(d^(2)+4t^(2))/8tで表される場合,前記対辺中央部の断面における前記レンズ面の曲率半径である第1の曲率半径r1と,前記対角境界部の断面における前記レンズ面の曲率半径である第2の曲率半径r2との比である曲率半径比r1/r2が,0.98乃至1.20の範囲に含まれる値となるように形成されてなる」ものであるのに対して,
引用発明の焦点検出に用いる焦点検出用画素に設けられた集光用の第2のマイクロレンズは,「平面形状が8角形である」ものである点。

第6 判断
上記相違点について,判断する。
1 引用文献1には,上記第4の1(3)イのとおり,「AF感度を高めるためには,マイクロレンズの径は大きい方が好ましい」とする示唆が記載されている。

2 一方,引用文献2には,上記第4の2(2)ア及びイのとおり,「一般的な固体撮像素子において,レンズ形状が略円形または略楕円形である場合,各レンズの整列方向には,及び,四角い画素領域のうち,レンズが形成されていない角部に隙間が生じ,これらの部分に入射する光についてはほとんど受光素子に入ることがなく,感度に寄与しないという問題があったこと」及び「集光レンズの平面形状を,4つ直線状の辺と,前記直線状の各辺を順に結ぶ4つの略円弧とを有するものとすると,画素領域が有効に使用できるので,集光レンズの開口が拡大し,画素領域を通る光線の無駄が少なくなり,固体撮像装置の感度を向上させることができる」とする技術的な知見が記載されている。

3 さらに,引用文献3には,上記第4の3(2)アのとおり,「引用文献3の出願時点(平成18年8月24日)において,固体撮像素子におけるマイクロレンズとして,隣接画素間のギャップ(非レンズ部分)をなくした,いわゆるギャップレスマイクロレンズが実用化されており,また,レンズ形状の提案として,隣接するレンズ同士を互いに接する状態で配置し,各レンズの曲率がどの方向から見ても同一な球面となるように形成することにより,感度の向上を達成したものが知られた」とする技術的な知見が,また,引用文献8には,上記第4の4(2)アのとおり,「固体撮像素子において,マイクロレンズ間の非開口部であるギャップ,特に,対角方向のギャップからの反射光が,ノイズ発生の大きな原因となっている」とする技術的な知見が記載されている。

4 そうすると,引用文献2,3,8の上記の記載に接した当業者であれば,引用文献1の上記示唆を前提とした上で,それを具体的な課題としてとらえることで,引用発明において,画素領域のうち,レンズが形成されていない角部に隙間が生じ,これらの部分に入射する光についてはほとんど受光素子に入ることがなく,感度に寄与しないという問題があり,感度が不足し,さらに,マイクロレンズ間の非開口部である対角方向のギャップからの反射光が,ノイズ発生の大きな原因となるという問題を生じ,よってAF感度が高められないことを理解するといえる。

5 してみれば,引用発明において,上記4の問題に対処するために,引用発明に引用文献2に記載された技術的知見を適用すること,すなわち,引用発明において「平面形状が8角形である第2のマイクロレンズ」として,引用文献2に記載された,「略八角形と見なされる」「画素領域の境界の4辺と平行な隣り合わない4つの辺は直線であり,該4辺の間を順に連結する他の4つの辺が略円の1部である構成を有する集光レンズ」であって,「前記領域の対角線方向のレンズの曲率と,前記領域の辺方向のレンズ曲率とが略等し」く,「断面視において画素境界部の対辺中央部を含む対辺境界部近傍の底面が,対角境界部を含む対角境界部近傍の底面よりも高くなるように形成された構造を有する」ものとすることは,当業者が直ちになし得たことといえる。

6 一方,本願明細書の【0058】には,「一方,本技術のCMOSイメージセンサ10において,画素アレイ部12に配置される画素に対応して形成されることでレンズアレイを構成するマイクロレンズ47は,そのレンズ面が実質的に球面をなし,図6に示されるように,平面視において,単位画素の境界部に対応して,矩形形状(正方形形状)に形成されるとともに,四隅の角が略角取りされることなく形成される。具体的には,マイクロレンズ47の四隅の角は,図6に示されるように,対角方向に隣接するマイクロレンズ47の角同士の間隔cが,およそ可視光領域の光の波長である0.4μmより小さくなるように形成される。」と記載され,当該記載で引用する図6には,「平面視において,単位画素の境界部に対応して,矩形形状(正方形形状)に形成されるとともに,四隅の角が略角取りされることなく形成される」マイクロレンズの具体的な形状として,画素領域の境界の4辺と平行な隣り合わない4つの辺は直線であり,該4辺の間を順に連結する他の4つの辺が略円の1部であるものが図示されている。
そうすると,本願発明の「正方形形状」は,「四つの辺の長さと四つの内角の大きさがすべて相等しい四角形」である「正方形」のみを意味するのではなく,本願の図6に記載されているような,画素領域の境界の4辺と平行な隣り合わない4つの辺は直線であり,該4辺の間を順に連結する他の4つの辺が略円の1部である,例えば略八角形とも見なされ得る形状をも含む意味で用いられている用語として理解される。
このような理解が,本願明細書の記載に整合するものであることは,本願の請求項1において,平面視において正方形形状に形成されるマイクロレンズが,「四隅の角が,対角方向に隣接する前記マイクロレンズの角同士の間隔が可視光領域の光の波長より小さくなるように形成され」と特定されており,「四隅の角が,対角方向に隣接する前記マイクロレンズの角同士の間隔」が,ゼロよりも大きい場合をも許容することからも明らかである。
してみれば,引用文献2に記載された「『略八角形と見なされる』『画素領域の境界の4辺と平行な隣り合わない4つの辺は直線であり,該4辺の間を順に連結する他の4つの辺が略円の1部である構成』」は,本願発明の「平面視において正方形形状」に相当するから,上記5は,引用発明に引用文献2に記載された技術的知見を適用することで,引用発明の第2のマイクロレンズを,「平面視において正方形形状に形成される」とともに,「断面視において画素境界部の対辺中央部を含む対辺境界部近傍の底面が,対角境界部を含む対角境界部近傍の底面よりも高くなるように形成され」たものとすることは,当業者が直ちになし得たことであると言い換えることができる。

7 しかも,引用発明への引用文献2に記載された技術的知見の適用は,上記4のとおり,四角い画素領域のうち,レンズが形成されていない角部に隙間が生じ,これらの部分に入射する光についてはほとんど受光素子に入ることがなく,感度に寄与しないという問題があり,感度が不足し,さらに,マイクロレンズ間の非開口部である対角方向のギャップからの反射光が,ノイズ発生の大きな原因となるという問題を解決することを課題としているのであるから,引用発明に引用文献2に記載された技術的知見を適用するにあたり,対角方向に隣接する前記マイクロレンズの角同士の間隔をできるだけ小さくすることは当然といえる。
そして,引用文献8の上記第4の4(2)イのとおり,高精細な固体撮像素子において,光電変換に寄与する領域(開口部)を補う集光用のマイクロレンズのレンズ間ギャップを,0.3μm以下とすることで,感度低下がなく,また,マイクロレンズ間の非開口部からの反射光が抑制されて,ノイズが低減した固体撮像素子を得ることができ,さらに,引用文献9の上記第4の5(2)ア,イのとおり,マイクロレンズの集光光量を大きくするためには,マイクロレンズの斜め方向での間隔をできるだけ小さく形成する必要があり,そのためには,マイクロレンズの斜め方向でのレンズ間ギャップを0.2μm以下に非常に狭くする必要があり,加えて,斜め方向でのレンズ間ギャップが0.2μm以下のマイクロレンズアレイを製造する方法が知られていたことに照らして,上記対角方向に隣接する前記マイクロレンズの角同士の間隔を,これら,「0.3μm」以下,あるいは,「0.2μm」以下とすること,すなわち,可視光である緑(Green)光の波長である550nm(0.55μm)以下であり,また,可視光領域の光の波長である,約0.4?0.8μmより小さくなるように形成することは適宜なし得たことである。

8 なお,レンズ面の曲率半径rが,前記レンズ面の頂点を通る断面での底面の幅dと,前記底面を基準とした前記レンズ面の頂点の高さtとを用いて,r=(d^(2)+4t^(2))/8tで表されることは,円弧の弦の長さと,矢高(円弧の弦を基準とした円弧の頂点の高さ)と,半径との幾何学的な関係から容易に導かれる事項である。
してみれば,引用文献2に記載された,「前記領域の対角線方向のレンズの曲率と,前記領域の辺方向のレンズ曲率とが略等し」いという技術的事項は,「前記レンズ面の曲率半径rが,前記レンズ面の頂点を通る断面での底面の幅dと,前記底面を基準とした前記レンズ面の頂点の高さtとを用いて,r=(d^(2)+4t^(2))/8tで表される場合,前記対辺中央部の断面における前記レンズ面の曲率半径である第1の曲率半径r1と,前記対角境界部の断面における前記レンズ面の曲率半径である第2の曲率半径r2と」が,「略等し」いこと,すなわち,第1の曲率半径r1と第2の曲率半径r2との比である曲率半径比r1/r2が,略「1」であることを示唆しているものと認められる。

9 他方,本願の発明の詳細な説明には,曲率半径比r1/r2が「0.98」の前後,及び「1.20」の前後において,臨界的な効果を奏することを示す具体的な記載を見いだすことはできない。

10 してみれば,「曲率半径比r1/r2」を,略「1」にすることが示唆されている引用文献2の記載に照らして,「前記レンズ面の曲率半径rが,前記レンズ面の頂点を通る断面での底面の幅dと,前記底面を基準とした前記レンズ面の頂点の高さtとを用いて,r=(d^(2)+4t^(2))/8tで表される場合」「曲率半径比r1/r2」として,「0.98乃至1.20の範囲に含まれる値」を選択することは当業者が適宜なし得た設計事項である。

11 そうすると,上記5,6,7及び10から,引用発明において,上記相違点について,本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。
また,その効果も当業者が予測する範囲内のものである。

12 審判請求人は,平成30年5月30日に提出した意見書において,以下のように主張する。
「引用文献1乃至12において,“マイクロレンズが,そのレンズ面の曲率半径rが,レンズ面の頂点を通る断面での底面の幅dと,底面を基準としたレンズ面の頂点の高さtとを用いて,r=(d2+4t2)/8tで表される場合,対辺中央部の断面におけるレンズ面の曲率半径である第1の曲率半径r1と,対角境界部の断面におけるレンズ面の曲率半径である第2の曲率半径r2との比である曲率半径比r1/r2が,0.98乃至1.20の範囲に含まれる値となるように形成されてなる”ことについては,開示も示唆もされていません。
これに対して,請求項1に記載の本願発明は,“マイクロレンズが,そのレンズ面の曲率半径rが,レンズ面の頂点を通る断面での底面の幅dと,底面を基準としたレンズ面の頂点の高さtとを用いて,r=(d2+4t2)/8tで表される場合,対辺中央部の断面におけるレンズ面の曲率半径である第1の曲率半径r1と,対角境界部の断面におけるレンズ面の曲率半径である第2の曲率半径r2との比である曲率半径比r1/r2が,0.98乃至1.20の範囲に含まれる値となるように形成されてなる”という技術的特徴を有しています。
これにより,請求項1に記載の本願発明によれば,画素サイズが5.0μmであっても,曲率半径比を,望ましい値とされる1.2以下の値とすることができ,特に,APS-Cサイズや35mmフルサイズ等の,撮像画素に混在して設けられる位相差検出画素に対応して形成されるマイクロレンズを備えた固体撮像装置のAF特性の向上を図ることが可能となるという顕著な作用効果を奏することができます。」
しかしながら,上記で検討したように,引用文献2には,「曲率半径比r1/r2が,0.98乃至1.20の範囲に含まれる値となるように形成されてなる」ことについて示唆があるものと認められる。
また,「画素サイズが5.0μmであっても・・・」との主張は,本願発明が,画素サイズを特定していないことから,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって採用することはできない。
したがって,審判請求人の前記主張は理由がない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献1?3,8,9に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-16 
結審通知日 2018-08-21 
審決日 2018-09-04 
出願番号 特願2013-197861(P2013-197861)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梶尾 誠哉今井 聖和  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 河合 俊英
加藤 浩一
発明の名称 レンズアレイおよびその製造方法、固体撮像装置、並びに電子機器  
代理人 西川 孝  
代理人 稲本 義雄  

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