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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01H
管理番号 1345403
審判番号 不服2017-13682  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-28 
確定日 2018-10-22 
事件の表示 特願2015-116127「磁力地震センサー」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-219390〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年5月21日の出願であって、平成29年1月20日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月24日付けで意見書が提出されたが、平成29年7月31日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成29年8月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりである(以下、この請求項1に記載された発明を「本願発明」といい、本願に係る明細書を「本願明細書」という。)。
「【請求項1】
磁力地震センサー1を、市販スイッチ2の上に乗せ、地震6?7ガル時にセンサーが落下し、電気開閉器を作動させ電気をすばやく遮断する」
第5の「1」にて後述するように、当該請求項1の記載では、本願発明が「物の発明」であるのか「方法の発明」であるのかが明確でなく、そのため、特許請求の対象が何であるかが不明確であって、本願は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
かかる事情が存するものの、本審決では予備的に進歩性に関する判断も行うことから、本願発明に関し、可能性として、次の3通りの認定を行う(それぞれ、「本願発明1」?「本願発明3」という。)。

1 本願発明1
本願明細書には、次のとおり記載されている。
「【技術分野】
本発明は、大地震時に電気を自動的に遮断し、地震後の電気が原因となる火災をすくなくする事を、目的とした装置である。」
この点に鑑み、本願発明1としては、本願発明を次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
磁力地震センサー1を、市販スイッチ2の上に乗せ、地震6?7ガル時にセンサーが落下し、電気開閉器を作動させ電気をすばやく遮断する装置。」

2 本願発明2
本願は、発明の名称を「磁力地震センサー」としている。
この点に鑑み、本願発明2としては、本願発明を次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
磁力地震センサー1を、市販スイッチ2の上に乗せ、地震6?7ガル時にセンサーが落下し、電気開閉器を作動させ電気をすばやく遮断する磁力地震センサー。」

3 本願発明3
請求項1は、「磁力地震センサー1を、市販スイッチ2の上に乗せ」、「地震6?7ガル時にセンサーが落下し」、「電気開閉器を作動させ電気をすばやく遮断する」という、経時的な要素を含む記載から成っている。しかも、請求項1は、文章の最後が体言止めではなく、「遮断する」という、作用を表す用言で終わっている。
この点に鑑み、本願発明3としては、本願発明を次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
磁力地震センサー1を、市販スイッチ2の上に乗せ、地震6?7ガル時にセンサーが落下し、電気開閉器を作動させ電気をすばやく遮断する方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

理由1(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由3(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

●理由1(進歩性)について
・請求項1
1.実願昭53-161340号(実開昭55-77344号)
のマイクロフィルム
2.実願昭56-52266号(実開昭57-163637号)
のマイクロフィルム

●理由2(実施可能要件)、理由3(明確性)について
・請求項1
「磁力地震センサー1」が、磁力とどのような関係を有するものなのか、明細書及び請求項1に何ら記載がないため、「磁力地震センサー1」がどのようなものなのかを理解することができない。

●理由3(明確性)について
・請求項1
請求項1に係る発明が、「?電気をすばやく遮断する磁力地震センサー。」の発明であるのか、「?電気をすばやく遮断する方法。」の発明であるのか、それともその他の物又は方法の発明であるのか理解できない。

第4 各刊行物の記載及び引用発明
1 刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭53-161340号(実開昭55-77344号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、「しや断器」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「しや断器本体、重錘ボール、該重錘ボールを載置するための窪みを形成した載置台及び前記配線用しや断器本体の把手端部と前記重錘ボールを連結する紐とからなり、地震発生時に前記重錘ボールの落下により前記操作把手をしや断方向に操作することを特徴とするしや断器。」(明細書1ページ4行?9行)

(2)「本考案は地震の発生を初期段階にて検出する配線用しや断器(以下MCBと略す)の構造にかんする。」(明細書1ページ11行?13行)

(3)「第1図及び第2図は、本考案の一実施例を示すもので、1はMCB本体、2は開開操作把手、3は把手の上位にある正面段部であつて、その上面には球状の重錘ボール5を載置する球面の窪み10を有する載置台4が形成されている。6は重錘ボール5と把手2の先端に夫々固定された紐、7及び8はMCBの端子、9はMCB本体lの取付盤である。
このように構成されたMCBにおいて、平常時は重錘5が載置台4上の窪み10に静止状態で載置されており、地震発生時には、その振動により重錘ボール5が載置台4から外れて落下し、その重力により紐6を介して、把手2をしや断方向(下方向)に操作するものである。
第3図及び第4図は本考案の他の実施例で、既設のMCBに応用せる場合を示す
図において11は正面段部3に着設される弾性材料よりなる別置形載置台で、第4図に示す如く略逆U字形に形成され、その左右両端にある係合部12によりMCB本体1の側面に着脱自在に嵌合される、13は把手2の端部に嵌着されたキヤツプで、固定ねじ14によりキヤツプ13を介し紐6の一端が把手2に固定される。」(明細書2ページ4行?3ページ6行)

(4)「上記説明の通り、本考案によれば簡単な構成で確実な動作を期待することができると共に既設置のMCBに対しても簡単かつ容易に追加できる地震感知用しや断器を得ることができる。」(明細書3ページ11行?14行)

(5)第3図及び第4図を参照すると、重錘ボール5、及び窪み10を形成した別置形載置台11を、MCB本体1の上に乗せたものが看取される。

上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、刊行物1には、しや断器に関して第3図及び第4図に示された実施例として、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「別置形載置台11の窪み10に載置された重錘ボール5を、MCB本体1の上に乗せ、地震発生時に重錘ボール5が落下し、MCB本体1の開閉操作把手2をしや断方向に操作するしや断器。」

また、同じく上記の記載事項(特に、上記(3)に摘記した記載事項のうち、作用に関する説明の部分)及び図面の記載を総合すると、刊行物1には、同様に、次の発明(以下、「引用発明2」という。)も記載されている。
「別置形載置台11の窪み10に載置された重錘ボール5を、MCB本体1の上に乗せ、地震発生時に重錘ボール5が落下し、MCB本体1の開閉操作把手2をしや断方向に操作する方法。」

2 刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭56-52266号(実開昭57-163637号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、「感震ブレーカー装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「上下摺動自在の垂直軸に支持された受皿上に磁性帯有の鋼球載置台を突設し、同台上に、一定の振動を受けて受皿上に転落すべき鋼球を載置し、同受皿の上下変位個所に所要の燃料遮断手段を連動連結してなる感震ブレーカー装置。」(明細書1ページ4行?8行)

(2)「垂直軸(3)の上端には受皿(7)が支持されており、同受皿(7)は、その中央部に鋼球載置台(8)を突設しており、鋼球載置台(8)は、中央に吸磁孔(9)を穿設し、同吸磁孔(9)の下端には永久磁石体(c)が設けられているものであり、吸磁孔(9)を透過して、鋼球載置台(8)上端に永久磁石体の吸磁力が及ぶように構成されている。なお、吸磁孔(9)は、その開口端縁部を一定の大きさとして鋼球(10)が同開口部に載置されるように構成しているものであり、吸磁孔(9)の大きさを変化させることにより、鋼球載置台(8)の上方へ及ぶ永久磁石体の吸磁力を変化できるものである。」(明細書2ページ13行?3ページ6行)

(3)「この発明の実施例は上記のように構成されているものであり、地震が発生した場合に設定震度以上のものであると、鋼球(10)は鋼球載置台(8)中の吸磁力から離脱して受皿(7)上に転落し、その転落時の衝激により、受皿(7)は、上方磁石体(a)と下方磁石体(b)との吸着状態に抗して降下し、降下時に受皿(7)がリミットスイッチ(19)等を作動せしめて給油停止等を行うことになるものであり、鋼球(10)の衝激の程度と、受皿(7)の降下作動との関連は、垂直軸(3)の下端の調節ボルト(5)により行うものであり、すなわち、垂直軸(3)の上昇限度を設定して、上下方磁石体(a)、(b)との間隙を一定に保持して、鋼球(10)の転落衝激の強さに応じた受皿の降下作動を可能にするものである。」(明細書4ページ3行?16行)

上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、刊行物2には、次の事項が記載されている。
「地震が発生し、設定震度以上のものであると、鋼球(10)が鋼球載置台(8)中の永久磁石体(c)の吸磁力から離脱して転落することによりリミットスイッチ(19)を作動させる感震ブレーカー装置。」

第5 当審の判断
1 明確性について(原査定の拒絶の理由における理由3)
特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項2号の規定に適合するためには、特許を受けようとする発明の種類(「物の発明」、「方法の発明」、「物を生産する方法の発明」)が明確であることを要する(知財高判平26.9.24(平25(行ケ)10335号)を参照)。
本願発明については、本願明細書の【技術分野】に、「本発明は、大地震時に電気を自動的に遮断し、地震後の電気が原因となる火災をすくなくする事を、目的とした装置である。」と記載され、また発明の名称が「磁力地震センサー」とされていることから、「物の発明」である「装置」又は「磁力地震センサー」に係る発明であるとも考えられる。しかし他方で、本願の請求項1は、前記第2に記載のとおりであって、「磁力地震センサー1を、市販スイッチ2の上に乗せ」、「地震6?7ガル時にセンサーが落下し」、「電気開閉器を作動させ電気をすばやく遮断する」という、経時的な要素を含む記載から成っており、しかも、当該請求項1は、文章の最後が体言止めではなく、「遮断する」という、作用を表す用言で終わっていることから、「方法の発明」である「遮断する方法」とも解釈することができるものである。
したがって、本願発明に係る特許請求の範囲の記載は、「物の発明」であるのか「方法の発明」であるのかが明確でなく、そのため、特許請求の対象が何であるかが不明確なものである。
よって、本願は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
また、本願の請求項1には、「磁力地震センサー1」との記載があるが、明細書及び図面の記載並びに本願出願時の技術常識を考慮しても、当業者は、当該用語の意味内容を理解できない。すなわち、当該請求項1には「磁力地震センサー1」の構成に関する記載はなく、明細書及び図面の記載についても次項「2」に説示のとおりであるので、この「磁力地震センサー1」が「磁力」とどのような関係を有するものであるのかが、不明である(「磁力地震センサー1」が地震を検知して「落下」するものであることは理解しうるとしても、その「磁力地震センサー1」とは「磁力」が地震の検知にあたってどのような作用をするものを意味しているかといった点は、不明である)。しかも、当該「磁力地震センサー1」は、本願出願時の技術常識に基づけば当業者がその構成を理解することができるものともいえない。
よって、当該「磁力地震センサー1」との記載の不明確性によっても、本願は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

2 実施可能要件について(原査定の拒絶の理由における理由2)
本願の請求項1には、上記の「1」に記載したとおり、「磁力地震センサー1」との記載がある(当該請求項1には、「磁力地震センサー1」の構成に関する記載はない)。
そして、【図1】を参照すると、矩形で表された市販スイッチ2の上側に磁力地震センサー1が設けられており、この磁力地震センサー1は、当該図面上、矩形状の部分と、その上側の円形状の部分とから成っており、この円形状の部分と市販スイッチ2とは、落下防止ロープ3により接続されていることが看取される。
しかしながら、この「磁力地震センサー1」に関する説明、特に、「磁力」と具体的にどのような関係を有するものであるのか(「磁力地震センサー1」とは「磁力」が地震の検知にあたってどのような作用をするものを意味しているか)についての説明は、明細書及び図面のいずれにも、何ら記載されていない。しかも、当該「磁力地震センサー1」は、本願出願時の技術常識に基づけば当業者がその構成を理解することができるものともいえない。
したがって、当業者は、明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、請求項1に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解することができない、といわざるを得ない。
よって、本願は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

3 進歩性について(原査定の拒絶の理由における理由1)
上記1にて説示したとおり、本願発明に係る特許請求の範囲の記載は不明確なものであることから、第2に記載した事項に従い、本願発明が本願発明1である場合、本願発明2である場合、及び本願発明3である場合のそれぞれについて、進歩性に関する判断を行う。

3-1 本願発明1
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「別置形載置台11の窪み10に載置された重錘ボール5」と、本願発明1の「磁力地震センサー1」とは、「地震の発生を検知するセンサー」という限りにおいて共通する。
引用発明1の「MCB本体1」と、本願発明1の「市販スイッチ2」とは、「電気開閉器のスイッチ」という限りにおいて共通する。

引用発明1の「重錘ボール5が落下」することは、本願発明1の「センサーが落下」することに相当する。
引用発明1の「MCB本体1の開閉操作把手2をしや断方向に操作する」ことは、本願発明1の「電気開閉器を作動させ電気を遮断する」ことに相当する。
引用発明1の「しや断器」は、本願発明1の「装置」に相当する。

以上のことから、本願発明1と引用発明1とは次の点で一致する。
「地震の発生を検知するセンサーを、電気開閉器のスイッチの上に乗せ、地震時にセンサーが落下し、電気開閉器を作動させ電気を遮断する装置。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
「地震の発生を検知するセンサー」に関して、本願発明1においては、「磁力地震センサー1」であるのに対して、
引用発明1においては、「別置形載置台11の窪み10に載置された重錘ボール5」であり、磁力に関する特定がない点。

[相違点2]
「電気開閉器のスイッチ」に関して、本願発明1においては、「市販スイッチ2」であるのに対して、
引用発明1においては、市販のものか否かは明らかでなく、「MCB本体1」である点。

[相違点3]
センサーが落下する時に関して、本願発明1においては、「地震6?7ガル時」であるのに対して、
引用発明1においては、「地震発生時」ではあるものの、地震の揺れの程度に関する特定がない点。

[相違点4]
「電気を遮断する」に関して、本願発明1においては、「電気をすばやく遮断する」のに対して、
引用発明1においては、「すばやく」との特定はなされていない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
本願発明1の「磁力地震センサー1」については、上記の「1 明確性について」及び「2 実施可能要件について」に記載したように、磁力と具体的にどのような関係を有するものであるのか(「磁力地震センサー1」とは「磁力」が地震の検知にあたってどのような作用をするものを意味しているか)、請求項1のみならず明細書及び図面にも何ら記載がない。しかし、本願発明1の「磁力地震センサー1」は、地震を検知するとセンサーが落下するようにした際に、何らかの形で磁力が作用するようにしているものと解される。

ところで、地震発生時に錘の落下を利用する装置においては、比較的小さい振動(例えば、小さい震度や加速度の地震、あるいは地震以外の原因による振動)で錘が落下しないようにする必要があること、及び引用発明1おける別置形載置台11の窪み10は、このような比較的小さい振動が生じた場合に、重錘ボール5が落下しないようにするために設けられていることは、上記「第4」の「1 刊行物1」の(3)に摘記した刊行物1の記載にも鑑みれば、当業者であれば明らかである。

そして、刊行物2に記載された事項(上記「第4」の「2 刊行物2」を参照。)において、永久磁石体(c)の吸磁力は、地震が設定震度未満の場合に、鋼球(10)が落下しないようにするものであり、その点で、この吸磁力は、引用発明1の窪み10と同様の機能を果たすものである。

そうすると、引用発明1において、比較的小さい振動が生じた場合に重錘ボール5が落下しないようにするための構成として、窪み10に代えて刊行物2に記載された永久磁石体の吸磁力を用いるようにすることにより、本願発明1でいうところの「磁力地震センサー1」とし、本願発明1の上記相違点1に係る構成とすることは、刊行物2に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2]について
MCB(配線用しや断器)として、多くの市販スイッチが存在していることは当業者であれば明らかであるから、引用発明1において、MCB本体1として市販スイッチを採用することにより、本願発明1の上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点3]について
引用発明1において、地震発生時に重錘ボール5が落下する揺れとして、安全性と、一時的にせよ電気が遮断されることによる不便とを勘案して適切な値を設定することは、当業者が適宜行い得たことであり、その具体的な数値を「地震6?7ガル時」と特定することについても、本願明細書に当該特定に関する作用効果の説明が一切なされていないことから、当業者が適宜なし得た設計的事項であるというほかはない。

[相違点4]について
本願明細書を参照しても、請求項1にいう「すばやく」がどの程度のものであるのかについての説明は一切なく、また、引用発明1においても、地震発生時には重錘ボール5の落下により、直ちにMCB本体1の開閉操作把手2のしや断方向の操作がなされるものと認められる以上、相違点4は、実質的な相違点とはいえない。

そして、本願発明1が奏する作用効果は、引用発明1及び刊行物2に記載された事項から当業者であれば予測できた程度のものであって、格別のものとはいえない。
以上のことから、本願発明1は、引用発明1及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3-2 本願発明2
(1)対比
本願発明2と引用発明1とを対比する。
上記3-1の(1)にて説示した事項に照らすと、本願発明2と引用発明1とは、当該(1)に記載した一致点で一致し、相違点1?4及び次の相違点5において相違する。

[相違点5]
「電気を遮断する装置」に関して、本願発明2においては、「磁力地震センサー」であるのに対して、
引用発明1においては、「しや断器」である点。

(2)判断
相違点1?4についての判断は、上記3-1の(2)にて説示したとおりである。

[相違点5]について
本願発明2においては、「磁力地震センサー1」及び「市販スイッチ2」を含む装置全体を「磁力地震センサー」としている。
他方、上記3-1の(2)において相違点1に関して説示したとおり、引用発明1に刊行物2に記載された事項を適用し、引用発明1における窪み10に代えて永久磁石体の吸磁力を用いるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
このようにして引用発明1に刊行物2に記載された事項を適用したものは、永久磁石体の吸磁力が作用する重錘ボール5及びMCB本体1を含む「しや断器」となるが、それは本願発明2における「磁力地震センサー」に相当するものである。
よって、本願発明2の相違点5に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明2が奏する作用効果は、引用発明1及び刊行物2に記載された事項から当業者であれば予測できた程度のものであって、格別のものとはいえない。
以上のことから、本願発明2は、引用発明1及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3-3 本願発明3
(1)対比
本願発明3と引用発明2とを対比する。
上記3-1の(1)にて説示した事項に照らすと、本願発明3と引用発明2とは、次の点で一致し、上記相違点1?4において相違する。
「地震の発生を検知するセンサーを、電気開閉器のスイッチの上に乗せ、地震時にセンサーが落下し、電気開閉器を作動させ電気を遮断する方法。」

(2)判断
相違点1?4についての判断は、上記3-1の(2)にて説示したとおりである。

そして、本願発明3が奏する作用効果は、引用発明2及び刊行物2に記載された事項から当業者であれば予測できた程度のものであって、格別のものとはいえない。
以上のことから、本願発明3は、引用発明2及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3-4 小括
以上、本願発明に係る特許請求の範囲の記載は不明確なものであることから、第2に記載した事項に従い、本願発明が本願発明1である場合、本願発明2である場合、及び本願発明3である場合について、進歩性に関する判断を行ったが、それぞれ、引用発明1及び刊行物2に記載された事項、同じく引用発明1及び刊行物2に記載された事項、並びに引用発明2及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明はいずれの場合であったとしても、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4 請求人の主張について
請求人は、平成29年2月24日付け意見書において、「理由1、磁力地震センサーを、市販スイッチ2の上に乗せ地震6-7ガル時に、磁力地震センサーが落下し電気開閉器を作動させ電気をすばやく遮断する配線は、知事認定電気工事士でないと、配線できない。 適用条文:第29条第2項第36条すべて知事認定電気工事士でないとできない。」及び「理由2、前記重錘ボール5が、落下する揺れ。 6?7ガルです。6?7ガルでは人間が立っていられない。(大阪市消防局にて確認)」と主張し、更に、審判請求書において、「請求の理由1 MCB鉄製 市販のもの」、「理由2 磁力地震センサー(小さい揺れ落下しない。4?5ガル) 磁力地震センサー(大きい揺れ落下する。6?7ガル)」及び「理由3 磁力のすきまにて磁力の強弱を測る」と主張しているが、当該主張を参酌しても、上記1?3にて説示した判断を覆す根拠を見出すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、また、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、更に、本願発明は、引用発明1又は2及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-07 
結審通知日 2018-08-14 
審決日 2018-08-28 
出願番号 特願2015-116127(P2015-116127)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H01H)
P 1 8・ 536- Z (H01H)
P 1 8・ 121- Z (H01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤崎 雅彦田合 弘幸  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 尾崎 和寛
小関 峰夫
発明の名称 磁力地震センサー  

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