• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1345537
審判番号 不服2015-1616  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-28 
確定日 2018-11-15 
事件の表示 特願2013- 33702「陸上短距離走強化兼運動能力向上トレーニング用エクササイズバイク」拒絶査定不服審判事件〔平成26年9月8日出願公開、特開2014-161446〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件出願は,平成25年2月22日の出願であって,平成26年5月2日付けの拒絶理由の通知に対して同年8月6日付けで意見書が提出され,同年10月3日付けで拒絶の査定がなされ,これに対し,平成27年1月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がなさた。
当審において審理した結果,平成27年9月11日付けで,新たな拒絶の理由を通知したところ,請求人は同年12月2日付けで意見書及び手続補正書を提出し,さらに,平成28年4月12日付けで,拒絶の理由を通知したところ,請求人は同年7月14日付けで意見書及び手続補正書を提出した。

2 当審の判断
(1) 補正内容
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成28年7月14日付けで補正された特許請求の範囲における,【請求項1】に記載された事項によって特定されるべきものであり,その記載は次のとおりである。(下線は,当審で付与した。他の下線についても同じ。)
「【請求項1】
日本工業規格の分類におけるシティ車(JIS D 9011)に該当するシティサイクルといわれるもののうち,ハンドルバーを左右横に伸びたトンボ型に特化した自転車での脚力を中心とした負荷トレーニングが基礎となったもので,図1のようにトンボハンドル1やステム2といったハンドル1まわりやペダル3やトレーニングする者にあったクランク6長の可変式でないクランク6といったペダル3まわりと高さの調節が可能なサドル4及びシートポスト5などの部品でハンドル1,サドル4,ペダル3の3つの要素が,乗車した視点からの高低差の感覚を除いた実際のトンボハンドル仕様のシティサイクルと同じ乗車姿勢を構成及び運転感覚を保つ機能を持ち,且つこれにペダル3を使用した脚力による仕事を与える負荷の量を変化させることのできるモーター及びその負荷量を手動あるいは自動操作できるプログラム,本願発明のトレーニング内容と擬似的なサイクリングを行う動作をするプログラムを内蔵し,それを認識する為の画面等を搭載している電子機器8を有しているのを特徴としたエクササイズバイク。なお,電子機器8に内蔵されている擬似的なサイクリングを行う動作をするプログラムとは,擬似的な短中距離のサイクリングを行うための上り坂,下り坂,平面の道の勾配が含まれていて,タイム計測が可能な仮想的なサイクリングコース10が用意されており,上り坂では脚力に対する負荷が自動的に増大し,下り坂では減少,平面では初期の負荷量の状態に戻るといった設定及びその仮想的な道の勾配の様子をトレーニングする者が視覚的に把握するための現在位置での道の勾配状況13のように画面表示がなされ,そのサイクリングコース10の中に仮想の現在位置12を創設して,これをペダルを漕ぐことによって前進することによる擬似的な走行を実現し,且つ電子機器8に装備されているボタンスイッチ9にて手動でペダルの負荷量の変更をし,変更後の負荷量に比例した現在位置12の移動速度に変わる動作をするギアチェンジの機能を有したもの。」

(2) 刊行物に記載された事項
1 当審で通知した拒絶理由に引用し,本願の出願日前である平成21年5月22日に国際公開されたWO2009/063597(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
ア 「[0038]
図1は,本発明の実施の形態による運動支援システムの全体構成を示す図である。図1を参照して,この運動支援システムは,エクササイズバイク1,アダプタ3,カートリッジ5,テレビジョンモニタ7,及び集線装置9を備える。アダプタ3には,カートリッジ5が装着される。また,アダプタ3は,AVケーブル11により,テレビジョンモニタ7に接続される。また,アダプタ3は,ケーブル13により,集線装置9と接続される。
[0039]
エクササイズバイク1は,ボディ39を有する。ボディ39は,その前後の底部において,円筒状の脚部33及び34で支持される。そして,ボディ39の頂部付近からは,シートポスト31が略垂直に延びており,その先端に,使用者が腰掛けるシート(サドル)29が固定される。また,ボディ39の両側面には,使用者が足でこぐためのペダル35が設けられる。さらに,ボディ39からは,その脚部34の側から略垂直に延びるパイプ37が形成される。
[0040]
このパイプ37の先端部には,ハンドル部2が設けられる。ハンドル部2は,左ハンドル21L,左操作部25L,右ハンドル21R,右操作部25R,及びコンピュータボックス23を含む。コンピュータボックス23は,パイプ37の先端に取り付けられる。なお,コンピュータボックス23は,パイプ37から取り外し自在である。」

イ 「[0044]
図3は、図1の運動支援システムの電気的構成を示す図である。図3を参照して、カートリッジ5は、プロセッサ71及び外部メモリ73を含む。外部メモリ73は、ROM、RAM、及び/又はフラッシュメモリ等、システムの仕様に応じて必要なものを備える。プロセッサ71は、バスを通じて、外部メモリ73にアクセスできる。従って、プロセッサ71は、外部メモリ73に格納されたプログラムを実行でき、また、外部メモリ73に格納されたデータをリードして処理することができる。この外部メモリ73に、後述のフローチャートで示される各処理を行うプログラム、画像データ、及び音声データ等が予め格納される。プロセッサ71が生成したビデオ信号VD及びオーディオ信号AUは、AVケーブル11を介して、テレビジョンモニタ7に与えられる。したがって、テレビジョンモニタ7には、ビデオ信号VDに基づく映像が表示され、そのスピーカからはオーディオ信号AUに基づく音声が出力される。」

ウ 「[0050]
エクササイズバイク1は,コンピュータボックス23に内蔵されるコンピュータ77,MCU87を内蔵する左操作部25L,右操作部25R,コンピュータボックス23に設けられる中央操作部53及びLCD51,ハンドル21L及び21Rに設けられる体脂肪センサ78及び心拍センサ55,並びに,ボディ39の内部に設けられる回転センサ79及び負荷発生装置83を備える。なお,体脂肪センサ78は,電極27を含む。」

エ 「[0052]
体脂肪センサ78は,電極27を通じて使用者の体に微弱電流を流し,電気抵抗(インピーダンス)を測るものである。心拍センサ55は,使用者の心拍を検出するもので,血流量の変化を光学的に検出するものである。回転センサ79は,ペダル35の回転軸となるシャフトの回転を検出するロータリエンコーダにより実現される。負荷発生装置83は,電磁クラッチを含み,電磁クラッチへ供給する電力を調整して,ペダル35の負荷量をコントロールする。中央操作部53の操作信号は,コンピュータ77に入力される。」

オ 「[0055]
コンピュータ77は,算出したペダル35の回転数,消費カロリ及び心拍数の情報を,MCU87及び75を介して,プロセッサ71に送信する。また,コンピュータ77は,MCU87及び75を介して,プロセッサ71が送信した負荷情報を受け取り,その負荷情報に応じた負荷量を負荷発生装置83に発生させる。」

カ 「[0057]
プロセッサ71は,エクササイズバイク1から与えられたペダル35の回転数の情報並びに左操作部25L及び右操作部25Rの操作信号に基づいて,外部メモリ73に格納されたプログラムに従った演算,グラフィック処理,及びサウンド処理等を実行し,ビデオ信号VDおよびオーディオ信号AUを生成する。また,プロセッサ71は,プログラムに従って,エクササイズバイク1へ負荷情報を与えて,エクササイズバイク1のペダル35への負荷量をコントロールする。」

キ 「[0058]
次に,この運動支援システムの原理を説明する。この運動支援システムでは,テレビジョンモニタ7に表示される三次元空間に配置される道路上をペースメーカPM及び使用者のエクササイズバイク1の操作に応答するプレイヤバイクPB(後述)が前進していく。ペースメーカPMは,使用者の運動強度が常に一定範囲に収まるように,使用者を案内する。従って,ペースメーカPMは,画面中の道路の傾斜が急になるほどペダル35の負荷が大きくなるので遅い速度で移動し,画面中の道路の傾斜が緩やかになるほどペダル35の負荷が小さくなるので速い速度で移動する。なお,本実施の形態では,下り坂及び後退の設定はない。」

ク 「[0063]
使用者は,ペダル35の回転数に応じて移動するプレイヤバイクPBがペースメーカPMに追従するようにペダル35をこぐことによって,運動強度を設定された目標値の範囲内に常に維持できる。」

ケ 「[0070]
図7は,図1のテレビジョンモニタ7に表示されるトレーニング画面(ルート開始時)の例示図である。図7を参照して,プロセッサ71がテレビジョンモニタ7に表示するトレーニング画面(ルート開始時)は,スタートゲート95の直下に配置されるペースメーカPM及びペダル35の回転数に応じた速度で移動するプレイヤバイクPBを含む。また,トレーニング画面は,プレイヤ情報フレーム40,バイク情報フレーム43及びエリア情報フレーム47を含む。なお,プレイヤ情報フレーム40,バイク情報フレーム43及びエリア情報フレーム47を包括して情報フレームと呼ぶこともある。」

コ 「[0073]
使用者がペダル35をこいでプレイヤバイクPBが動き出すと,プレイヤ情報フレーム40及びバイク情報フレーム43に表示が開始される。プレイヤバイクPBがスタートゲート95に到達すると同時に(ルート開始),ペースメーカPMが,道路97の中心線(以下,「PM移動経路」と呼ぶ。)に沿って,位置するゾーンに設定された速度で前進する。また,これと同時に,負荷表示部49には,プレイヤバイクPBが位置するゾーンに設定された負荷量のレベルが表示され,時間表示部50では,5分からのカウントダウンが開始される。さらに,同時に,負荷グラフ48には,プレイヤバーpbとペースバーpmが表示される(図8参照)。
[0074]
図8は,図1のテレビジョンモニタ7に表示されるトレーニング画面(エリア走行中)の例示図である。図8を参照して,プレイヤバイクPBがエリアを走行中の場合,エリア内でのペースメーカPMの位置を示すためのペースバーpmとエリア内でのプレイヤバイクPBの位置を示すためのプレイヤバーpbとが負荷グラフ48中に表示される。負荷グラフ48の横軸は時間軸であり,ゾーンZ?1?Z?5でのペースメーカPMの移動時間は同一(1分)である(図4参照)。従って,ペースバーpmは,負荷グラフ48の左端から右端まで一定速度で移動する。」

サ 「[0155]
(5)上記では,表示装置はテレビジョンモニタ7であったが,これに限られない。また,カートリッジ5及びアダプタ3を一体のものとして構成することもできる。さらに,記録媒体は,カートリッジ5に限定されず,DVDやCD-ROMなどの光記録媒体や,フラッシュメモリなど,その他の記録媒体を使用できる。
[0156]
また,カートリッジ5の機能をコンピュータボックス23に搭載し,テレビジョンモニタ7に接続することもできる。さらに,カートリッジ5の機能をコンピュータボックス23に搭載すると共に,上記の画面が視認できる程度のサイズのLCD51を設け,テレビジョンモニタ7,カートリッジ5,及びアダプタ3などを省くこともできる。」

シ 「[0160]
(9)上記では,プレイヤバイクPB及びペースメーカPMは前進のみ可能とした。ただし,後退できるようにすることもできる。この場合は,ペダルの逆回転を検出して,プレイヤバイクPBを後退させる。逆回転は例えばロータリエンコーダで容易に検出可能である。上記では,道路97は平坦及び上り坂のみ用意した。ただし,下り坂を設けることもできる。この場合は,下り坂の傾斜に応じて,使用者をアシストする方向にペダル35を回転させることもできる。具体的には,下りの傾斜が大きくなるほどペダル35に加える回転力(アシスト)を大きくし,下りの傾斜が小さくなるほどペダルに加える回転力(アシスト)を小さくする。」

ス 上記ア、及び図1から、「ボデイ39の両側面から、クランクを介してペダル35が設けられていること」は当業者にとって自明である。

刊行物1の上記記載事項を含め,刊行物1の全記載を総合すると,刊行物1には,次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。
「エクササイズバイク1,アダプタ3,カートリッジ5,テレビジョンモニタ7を備える運動支援システムであって,
エクササイズバイク1は,コンピュータボックス23に内蔵されるコンピュータ77,MCU87を内蔵する左操作部25L,右操作部25R,コンピュータボックス23に設けられる中央操作部53及びLCD51,ハンドル21L及び21Rに設けられる体脂肪センサ78及び心拍センサ55,並びに,ボディ39の内部に設けられる回転センサ79及び負荷発生装置83を備え
アダプタ3には,カートリッジ5が装着され,
アダプタ3は,AVケーブル11により,テレビジョンモニタ7に接続され,
エクササイズバイク1は,ボディ39を有し,
ボディ39は,その前後の底部において,円筒状の脚部33及び34で支持され,
ボディ39の頂部付近からは,シートポスト31が略垂直に延びて,その先端に使用者が腰掛けるシート(サドル)29が固定され,
ボディ39の両側面には,使用者が足でこぐためのペダル35が設けられ,
ペダル35は,クランクに取り付けられ,
ボディ39の内部には,回転センサ79及び負荷発生装置83が設けられ,
ボディ39の脚部34の側から,略垂直に延びるパイプ37の先端部には,ハンドル部2が設けられ,
ハンドル部2は,左ハンドル21L,左操作部25L,右ハンドル21R,右操作部25R,及びコンピュータボックス23を含み,
コンピュータボックス23は,LCD51及び中央操作部53を含み,
カートリッジ5は,プロセッサ71及び外部メモリ73を含み,
プロセッサ71は,バスを通じて,外部メモリ73にアクセスでき,外部メモリ73に格納されたプログラムを実行でき,
コンピュータ77は,プロセッサ71が送信した負荷情報を受け取り,その負荷情報に応じた負荷量を負荷発生装置83に発生させることで,負荷発生装置83を制御して,ペダル35への負荷量をコントロールするものであって,
負荷発生装置83は,電磁クラッチを含み,電磁クラッチへ供給する電力を調整して,ペダル35の負荷量をコントロールし,
プロセッサ71がテレビジョンモニタ7に表示するトレーニング画面(ルート開始時)は,スタートゲート95の直下に配置されるペースメーカPM及びペダル35の回転数に応じた速度で移動するプレイヤバイクPBを含み,トレーニング画面は,プレイヤ情報フレーム40,バイク情報フレーム43及びエリア情報フレーム47を含むものであって,
テレビジョンモニタ7に表示される三次元空間に配置される道路上をペースメーカPM及び使用者のエクササイズバイク1の操作に応答するプレイヤバイクPBが前進するものであって,ペースメーカPMは,画面中の道路の傾斜が急になるほどペダル35の負荷が大きくなるので遅い速度で移動し,画面中の道路の傾斜が緩やかになるほどペダル35の負荷が小さくなるので速い速度で移動し,
道路は平坦,上り坂,及び下り坂を設けることができ,下り坂の傾斜に応じて,下りの傾斜が大きくなるほどペダル35に加える回転力(アシスト)を大きくし,下りの傾斜が小さくなるほどペダルに加える回転力(アシスト)を小さくし,
使用者がペダル35をこいでプレイヤバイクPBが動き出すと,プレイヤ情報フレーム40及びバイク情報フレーム43に表示が開始され,
プレイヤバイクPBがスタートゲート95に到達すると同時に,ペースメーカPMが,道路97の中心線に沿って,位置するゾーンに設定された速度で前進し,
これと同時に,負荷表示部49には,プレイヤバイクPBが位置するゾーンに設定された負荷量のレベルが表示され,
時間表示部50では,5分からのカウントダウンが開始され,
同時に,負荷グラフ48には,プレイヤバーpbとペースバーpmが表示され,
プレイヤバイクPBがエリアを走行中の場合,エリア内でのペースメーカPMの位置を示すためのペースバーpmとエリア内でのプレイヤバイクPBの位置を示すためのプレイヤバーpbとが負荷グラフ48中に表示され,
カートリッジ5の機能をコンピュータボックス23に搭載すると共に,上記の画面が視認できる程度のサイズのLCD51を設け,テレビジョンモニタ7,カートリッジ5,及びアダプタ3などを省くこともできる運動支援システム。」

2 当審で通知した拒絶理由に引用し,本願の出願日前である平成11年7月27日に公開された特開平11-197268号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
ア 「【0007】
【実施の形態】以下,本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1?図8は本発明の1実施の形態を示すもので,図1は自転車が載置された本発明の走行シミュレーション装置の全体図,図2はクランク軸回転検出部の拡大説明図,図3は人力検出部の拡大説明図,図4は負荷ローラ近傍の負荷出力装置における速度検出部および人力検出部の拡大説明図,図5は図4の側面図,図6は変速位置検出部の拡大説明図,図7は映像表示装置のモニター画面の説明図,図8は制御装置についてのブロック図である。図1に示すように,本発明の走行シミュレーション装置は,測定装置であるローラ台55の前部に無端ベルト54が後述の負荷ローラと同期して回転自在にに軸支され,後部に負荷出力装置5によって負荷が付与される一対の前後の負荷ローラ53,53上に自転車1の後車輪が載置されて使用されるものである。符号6はローラ台55上の自転車の両側に設置されて塔乗者を保持できるサイドサポートを示す。そして,前記負荷ローラ53上に載置された自転車1に塔乗者が搭乗しての走行時に,該自転車1の各種の走行状態を検出する負荷出力装置5等からの変速位置信号,速度信号,人力信号およびクランク回転数等の検出値を取り込み演算して前記負荷ローラ53に自転車の機能別に相当する走行負荷を付与する制御装置2を備えたことを特徴とするものである。また,前記制御装置2には,前記自転車1の走行状態および負荷ローラ53による走行負荷の状態をモニターしたり,自転車1の走行状態を指示する映像出力装置3および音声出力装置4が接続される。

イ 「【0009】図3は,後述する負荷出力装置5における負荷ローラ53に連結された人力信号検出部(図4の符号11の人力検出用センサー)の拡大説明図であり,負荷ローラ53に載置された自転車1のペダル34を搭乗者が漕ぐことにより,人力による駆動トルクの大きさに応じて負荷ローラ53を介して軟磁性箔の磁気歪材が多数貼設された磁気歪材軸43(軸そのものを磁気歪材で成形することもできる)を歪ませ,透磁率の変化によって自己インダクタンスが変化する変化量を該磁気歪材軸43の周囲に設置されたカバー45の内周コイル44によって読み取り,出力線46から取り出す。
【0010】図4および図5は,負荷ローラ53近傍の負荷出力装置5における速度検出部および人力検出部の拡大説明図であり,図5に示すように,電磁ブレーキ等より構成される負荷モータ56にベルト40,プーリ37,42,ベルト39,プーリ41および前記磁気歪材軸43を介して連結され,かつ,前記負荷ローラ53にプーリ35,ベルト38を介して連結されたプーリ36の回転数が速度検出用センサー12によって検出される。プーリ36の外周に設けた凹凸歯を速度検出用センサー12における近接スイッチの単位時間当たりのカウント数の測定等によりプーリ36の回転数を測定することで,負荷ローラ53の回転数すなわち自転車1の走行速度が演算される。」

ウ 「【0012】図7は,映像表示装置3のモニター画面の説明図であり,音声出力装置4とともに自転車の搭乗者や観察者から見易い位置に設置される。映像表示装置3のモニター画面には,ペダルの踏力推移表示部20,変速位置表示部21,速度表示部22,走行路表示部23および走行指示表示部24が設けられている。これらの表示部は専用の各表示部が区分けされて設けられてもよいし,ディスプレイ上で自由にそれらの表示位置を変更可能に表示するようにしてもよい。これらの映像表示装置3におけるモニター画面を見つつ,別途設けられた音声出力装置4の音声を聞きながら,搭乗者や観察者は自転車の走行状態および負荷ローラによる走行負荷の状態すなわち疑似走行路や自転車の機能別に相当して付加された状態を認識しながら,自転車の走行シミュレーションが行える。なお,前記映像表示装置3におけるモニター画面や音声出力装置4には,搭乗者の脈拍や体温,筋電位等の人体に関する測定値を表示したり発声させることもできる。」

エ 「【0013】図8は,制御装置2についてのブロック図であり,各センサーからの信号を得て映像出力装置,音声出力装置および負荷出力装置に制御信号を出力する状態を説明するものである。クランク軸回転数検出用センサー10(図2)の赤外線受光部31において受光された赤外線が入力されると,周波数-電圧変換回路14によってパルス信号である一周期の時間が電圧変換され,AD変換回路17においてデジタル信号に変換される。人力検出用センサー11(図3)の出力線46によって検出されたペダル踏力である人力の大きさに相当する電気的なアナログ信号である変化量を信号増幅回路15にて入力可能なレベルまで増幅し,AD変換回路17においてデジタル信号に変換される。速度検出用センサー12(図4および図5)にて検出されたパルス信号は,周波数-電圧変換回路16によって速度に比例した電圧に変換され,AD変換回路17においてデジタル信号に変換される。変速位置検出用センサー13(図6)におけるマイクロスイッチ51からの変速ワイヤの変位量信号は無線等によりAD変換回路17に送出され,該AD変換回路17においてデジタル信号に変換された後,マイコン等からなる制御部26によって変速位置信号に変換される。
【0014】制御部26にデータを渡すために,前記AD変換回路17において,検出された信号がデジタル信号に変換される。次いで,制御部26の出力により,映像出力装置3が作動して,走行速度,ペダルの踏力推移,変速位置,指示速度,平地や坂道を表現したグラフィック等の表示機能を発揮する。また同時に,制御部26の出力により,音声出力装置4が作動して,例えば「発進してください。」「停止してください。」「シフトアップしてください。」等の音声による走行上の指示を与える。一方,前記制御部26から負荷のコントロール用に出力されたデジタル信号はDA変換回路18にてアナログ信号に変換され,電流制御回路19にて実際に電磁ブレーキ等の負荷出力装置5を駆動制御するための電流を発生させる。」

オ 「【0015】図9および図10は,各走行(負荷)パターンにおける負荷信号とペダル踏力との関係を示した図である。図9において,負荷パターンにおけるAゾーンは発進から平地走行を想定し,Bゾーンは緩い坂道走行を想定し,Cゾーンは平地走行を想定し,Dゾーンは急な坂道走行を想定している。変速位置については,Aゾーンでは1→2→3→4,Bゾーンでは4→3→2,Cゾーンでは2→3,Dゾーンでは3→2→1に変速が行われる走行を想定し,ペダル踏力の値を移動平均値(所定ペダル回数または所定時間におけるペダルの踏力の合計をペダルの回数または所定時間にて除したものの移動値)で表示し,負荷信号については,Aゾーンでは停止状態から定常走行状態に至るまでの慣性による走行抵抗をシミュレーションするため漸減し,その後は装置自身が有する損失抵抗のみとする。Bゾーンでは緩い坂道をシミュレーションするため漸増させた後,一定に保ち,漸減させる。Cゾーンでは平地の定常走行状態であるため,機械的損失のみの状態とする。Dゾーンでは前記Bゾーンより急な坂道とするためBゾーンより高い値まで漸増させ,その値を保った後,漸減させる。なお,平地の部分は負荷信号をゼロにして機械的損失のみの負荷としているが,所定の信号値でもって低負荷の状態としてもよい。図10は,走行シミュレーションの後に,各ゾーンの平均踏力値を変速装置付自転車と変速装置のない自転車(または変速機を操作しない走行)との差を各走行パターン毎に比較したものである。」

カ 「【0016】図11は,制御装置2の制御部26における制御フローを示す図である。自転車に変速装置がない場合(変速操作をしない場合も含まれる),負荷ローラ53上に載置されて自転車のシミュレーション制御が開始されると,負荷パターンAに従い,各種センサーからの信号が入力・算出されると,これらの入力値が記憶され,次いで,これらの入力値に応じた自転車の走行状態および負荷ローラによる走行負荷の状態すなわち疑似走行路や自転車の機能別に相当して付加された状態に相当する負荷出力が算出されて負荷信号が出力される。速度指示が映像,音声で出力され,搭乗者はその走行指示に従う。映像画面には,現在の速度,踏力推移,変速位置等がリアルタイムで表示される。負荷パターンがAからBに変わり,速度指示が映像,音声で出力され,搭乗者は前記同様その走行指示に従う。時間的経過によって,同様の動作が繰り返されて負荷パターンDが終了したら,変速位置固定は終了する。これらの入力値に応じた自転車の走行状態や走行負荷の状態に対応して表示すべき映像情報や指示音声信号が出力され,同時に負荷出力が送出される。
【0017】自転車に変速装置が備わっている場合,負荷パターン制御に入ると,変速位置固定の場合と同様に負荷パターンAが出力される。速度,変速等の指示が映像,音声で出力され,搭乗者はその走行指示に従う。以下,変速指示が加わったことを除き,前記変速位装置がない場合と同様に制御されて走行パターンの平均トルク算出がなされ,各走行パターンによる平均踏力の違いを走行結果として出力して(図10)制御が終了する。」

キ 「【0019】
【発明の効果】以上詳細に述べてきたように,本発明の走行シミュレーション装置によれば,天候や交通事情に左右されることなく,室内にても自転車の機能別等による実走状態を正確に再現することが可能になるとともに,現在の速度,踏力推移,変速位置等の実走状態をリアルタイムで容易にモニターすることができるので,各種の負荷パターンに従い,各種センサーからの信号が入力・算出されると,これらの入力値に応じた自転車の走行状態および負荷ローラによる走行負荷の状態すなわち疑似走行路や自転車の機能別に相当して付加された状態に相当する負荷出力が算出されて負荷信号が出力されるとともに,速度指示が映像,音声で出力され,搭乗者はその走行指示に単に従うだけで,きわめて簡単に疑似走行を体感することができる。さらに,これらの映像表示装置3におけるモニター画面を見つつ,別途設けられた音声出力装置4の音声を聞きながら,搭乗者や観察者は自転車の走行状態および負荷ローラによる走行負荷の状態すなわち疑似走行路や自転車の機能別に相当して付加された状態を認識しながら,自転車の走行シミュレーションを行うことができる。しかも,本発明の走行シミュレーション装置によれば,市販の実車自体を負荷ローラに載置するだけで,各種の負荷試験およびそれに基づく各種データを採取することが可能な他,自転車の室内トレーニング機能をも付随して有し,屋外での通常走行に近い状態にて諸条件下にて自転車の種々の機能を充分に発揮させて筋力トレーニング等を行うことも可能となる。」

刊行物2の上記記載事項を含め,刊行物2の全記載を総合すると,刊行物2には,次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が開示されていると認められる。
「負荷出力装置5によって負荷が付与される一対の前後の負荷ローラ53,53上に自転車1の後車輪が載置されて使用される走行シミュレーション装置であって,
負荷ローラ53上に載置された自転車1に塔乗者が搭乗しての走行時に,該自転車1の各種の走行状態を検出する負荷出力装置5等からの変速位置信号,速度信号,人力信号およびクランク回転数等の検出値を取り込み演算して前記負荷ローラ53に自転車の機能別に相当する走行負荷を付与する制御装置2を備え,
負荷出力装置5において,電磁ブレーキ等より構成される負荷モータ56にベルト40,プーリ37,42,ベルト39,プーリ41および前記磁気歪材軸43を介して連結され,かつ,前記負荷ローラ53にプーリ35,ベルト38を介して連結されたプーリ36の回転数が速度検出用センサー12によって検出され,
制御装置2には,前記自転車1の走行状態および負荷ローラ53による走行負荷の状態をモニターしたり,自転車1の走行状態を指示する映像出力装置3および音声出力装置4が接続され,
映像表示装置3のモニター画面には,ペダルの踏力推移表示部20,変速位置表示部21,速度表示部22,走行路表示部23および走行指示表示部24が設けられ,
映像表示装置3におけるモニター画面を見つつ,別途設けられた音声出力装置4の音声を聞きながら,搭乗者や観察者は自転車の走行状態および負荷ローラによる走行負荷の状態すなわち疑似走行路や自転車の機能別に相当して付加された状態を認識しながら,自転車の走行シミュレーションが行え,
制御装置2の制御部26の出力により,映像出力装置3が作動して,走行速度,ペダルの踏力推移,変速位置,指示速度,平地や坂道を表現したグラフィック等の表示機能を有し,
負荷パターンにおけるAゾーンは発進から平地走行を想定し,Bゾーンは緩い坂道走行を想定し,Cゾーンは平地走行を想定し,Dゾーンは急な坂道走行を想定しており,
負荷信号については,Aゾーンでは停止状態から定常走行状態に至るまでの慣性による走行抵抗をシミュレーションするため漸減し,その後は装置自身が有する損失抵抗のみとするものとし,Bゾーンでは緩い坂道をシミュレーションするため漸増させた後,一定に保ち,漸減させるとするものとし,Cゾーンでは平地の定常走行状態であるため,機械的損失のみの状態ととするものとし,Dゾーンでは前記Bゾーンより急な坂道とするためBゾーンより高い値まで漸増させ,その値を保った後,漸減させるとするものとし,
負荷ローラ53上に載置されて自転車のシミュレーション制御が開始されると,負荷パターンに従い,各種センサーからの信号が入力・算出されると,これらの入力値が記憶され,次いで,これらの入力値に応じた自転車の走行状態および負荷ローラによる走行負荷の状態すなわち疑似走行路や自転車の機能別に相当して付加された状態に相当する負荷出力が算出されて負荷信号が出力され,
速度,変速等の指示が映像,音声で出力され,搭乗者はその走行指示に従い,
映像画面には,現在の速度,踏力推移,変速位置等がリアルタイムで表示される,
自転車の室内トレーニング機能をも付随して有し,屋外での通常走行に近い状態にて諸条件下にて自転車の種々の機能を充分に発揮させて筋力トレーニング等を行うことも可能となる走行シミュレーション装置。」

3 当審で通知した拒絶理由に引用し,本願の出願日前である平成18年10月26日に公開された特開2006-289022号公報(以下「刊行物3」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
ア 「【0021】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における固定式自転車トレーニング装置の側面図である。固定台1上に一対の支柱2,3を含むフレーム4が配設されている。支柱2,3およびフレーム4は金属パイプ製であり,相互に溶接により接合されている。前側支柱2は前方から見たとき逆U字形であって,その上端にはハンドル5がハンドル支持体6を介して伸縮可能,回転可能に取り付けられている。後側支柱3に接続されたフレーム4上には,サドル7が伸縮可能に取り付けられている。前側支柱2と後側支柱3を斜めに接続しているフレーム4の下方に取り付けた固定金具(図示せず)を左右に貫通してクランク軸8が取り付けられ,クランク軸8には駆動側ギヤ9がクランク軸8と共に回転するように取り付けられ,クランク軸8の両側の突出部にはクランク10および足踏みペダル11が取り付けられている。
【0022】
足踏み動作によって発生した回転力は駆動側ギヤ9からチェーン12により同軸形状に連結した複数個の歯車からなる従動側ギヤ13に伝達される。そこで,従動側ギヤ13の近傍に取り付けられた従動側ディレーラ14により変速レバー15から変速ワイヤ16を介してチェーン12に横方向の力を作用させ,チェーン12を架ける従動側ギヤ13の歯車を変更することにより変速比を変えることができる。そして,従動側ギヤ13の回転軸には足踏み動作に対して負荷機能を与えるための回転負荷装置17の回転軸が取り付けられている。回転負荷装置17の負荷の強さを調整するための制動レバー18がハンドル5の上部に取り付けられている。制動レバー18を引き込むと,その力が制動ワイヤ19を通じて回転負荷装置17に伝達されて負荷の強さが大きくなる。」

刊行物3の上記記載事項を含め,刊行物3の全記載を総合すると,刊行物3には,次の発明(以下「刊行物3発明」という。)が開示されていると認められる。
「固定台1上に一対の前側支柱2,後側支柱3を含むフレーム4が配設され,
前側支柱2の上端にはハンドル5がハンドル支持体6を介して伸縮可能,回転可能に取り付けられ,
後側支柱3に接続されたフレーム4上には,サドル7が伸縮可能に取り付けられ,
前側支柱2と後側支柱3を斜めに接続しているフレーム4の下方に取り付けた固定金具を左右に貫通してクランク軸8が取り付けられ,
クランク軸8には駆動側ギヤ9がクランク軸8と共に回転するように取り付けられ, クランク軸8の両側の突出部にはクランク10および足踏みペダル11が取り付けられ,
足踏み動作によって発生した回転力は駆動側ギヤ9からチェーン12により同軸形状に連結した複数個の歯車からなる従動側ギヤ13に伝達され,
従動側ギヤ13の近傍に取り付けられた従動側ディレーラ14により変速レバー15から変速ワイヤ16を介してチェーン12に横方向の力を作用させ,
チェーン12を架ける従動側ギヤ13の歯車を変更することにより変速比を変えることができる固定式自転車トレーニング装置。」

(3) 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
後者の「エクササイズバイク1」は,前者の「エクササイズバイク」に相当する。
以下,同様に「ハンドル部2」またはハンドル部2のうち特に「ハンドル21L及び21R」は,「ハンドル1」に,
「パイプ37」は「ステム2」に,
「ペダル35」は,「ペダル3」に,
「シート(サドル)29」は,「サドル4」に,
「シートポスト31」は,「シートポスト5」にそれぞれ相当する。
後者の「カートリッジ5」は,「プロセッサ71及び外部メモリ73を含み」,その「プロセッサ71」が,バスを通じて,外部メモリ73にアクセスすることで,外部メモリ73に格納されたプログラムを実行」するものであるから,前者の「電子機器8」に相当する。
後者は「エクササイズバイク」を用いた運動支援装置であるから,後者と同様に「自転車での脚力を中心とした負荷トレーニングが基礎となったもの」であるといえる。
後者は,トレーニング画面において,使用者がペダル35をこぐとプレイヤバイクPBが動き出し,画面中の道路の傾斜が急になるほどペダル35の負荷が大きくなり,画面中の道路の傾斜が緩やかになるほどペダル35の負荷が小さくなり,プレイヤバイクPBがエリアを走行中の場合,エリア内でのプレイヤバイクPBの位置を示すためのプレイヤバーpbが表示されるものであるから前者の「擬似的なサイクリング」に相当する画面表示を行っていることは明らかであって,該擬似的なサイクリングは「外部メモリ73に格納されたプログラム」の実行によって実現されることも明らかであるから,後者は,前者の「電子機器8に内蔵されている擬似的なサイクリングを行う動作をするプログラム」に相当する構成を有していることになる。
後者は「時間表示部50」を有し,そこでは「5分からのカウントダウン」が表示され,該画面中の道路は傾斜が急になったり,傾斜が緩やかになったりするものであるから,前者の「仮想的なサイクリングコースが用意され」に相当する構成を有していることになる。
後者は,上り坂において「道路の傾斜が急になるほどペダル35の負荷が大きくなり,画面中の道路の傾斜が緩やかになるほどペダル35の負荷が小さくなり」,下り坂において「下りの傾斜が大きくなるほどペダル35に加える回転力(アシスト)を大きくし,下りの傾斜が小さくなるほどペダルに加える回転力(アシスト)を小さく」しており,前者の「上り坂では脚力に対する負荷が自動的に増大し,下り坂では減少」に相当する構成を有していることになる。また,後者に明記されないが平坦な道路においてペダル35の負荷は,前者と同様に「初期の負荷量の状態に戻る」ように設定されていることは自明である。
後者は「画面中の道路の傾斜が急になるほどペダル35の負荷が大きくなるので遅い速度で移動し,画面中の道路の傾斜が緩やかになるほどペダル35の負荷が小さくなるので速い速度で移動」するものであるので,使用者が画面上において道路の傾斜を認識できるように画面表示をしていることは明らかであるから,前者の「仮想的な道の勾配の様子をトレーニングする者が視覚的に把握するための現在位置での道の勾配状況13のように画面表示」に相当する構成を有していることになる。
後者のトレーニング画面における「プレイヤバイクPB」は,使用者がペダル35をこいで動き出すものであり,エリアを走行中の場合,エリア内でのプレイヤバイクPBの位置を示すためのプレイヤバーpbが負荷グラフ48中に表示されるものであるから,前者の「サイクリングコース10の中に仮想の現在位置12を創設して,これをペダルを漕ぐことによって前進することによる擬似的な走行を実現」に相当する構成を有していることになる。
以上のことより,両者は,
〈一致点〉
「自転車での脚力を中心とした負荷トレーニングが基礎となったもので,ハンドルやステムといったハンドルまわりやペダルやクランクといったペダルまわりとサドル及びシートポストなどの部品と,
ペダルを使用した脚力による仕事を与える負荷の量を変化させることができ,その負荷量を自動操作できるプログラムを有し,
擬似的なサイクリングを行う動作をするプログラムを内蔵し,それを認識する為の画面等を搭載している電子機器を有するエクササイズバイク。
なお,電子機器8に内蔵されている擬似的なサイクリングを行う動作をするプログラムとは,擬似的なサイクリングを行うための上り坂,下り坂,平面の道の勾配が含まれていて,タイム計測が可能な仮想的なサイクリングコースが用意されており,上り坂では脚力に対する負荷が自動的に増大し,下り坂では減少,平面では初期の負荷量の状態に戻るといった設定及びその仮想的な道の勾配の様子をトレーニングする者が視覚的に把握するための現在位置での道の勾配状況のように画面表示がなされ,そのサイクリングコースの中に仮想の現在位置を創設して,これをペダルを漕ぐことによって前進することによる擬似的な走行を実現する機能を有したもの。」
である点で一致し,以下の点で相違している。
<相違点1>
脚力を中心とした負荷トレーニングの基礎となる自転車に関して,本願発明は「日本工業規格の分類におけるシティ車(JIS D 9011)に該当するシティサイクルといわれるもののうち,ハンドルバーを左右横に伸びたトンボ型に特化した自転車」であって、図1のように「トンボハンドル1」を有するものであるところ,刊行物1発明ではどのような自転車であるか不明な点。
<相違点2>
クランクに関して,本願発明は「トレーニングする者にあったクランク長6の可変式でないクランク6」であるところ,刊行物1発明では,クランクは存在しているもののどのような形態のクランクであるか不明な点。
<相違点3>
負荷の量を変化させる装置に関して,本願発明は「モーター」であるところ,刊行物1発明では「電磁クラッチ」である点。
<相違点4>
サドルに関して、本願発明は「高さの調節が可能なサドル4」であるところ、刊行物1発明では高さの調節が可能であるか不明な点。
<相違点5>
本願発明は「ハンドル1,サドル4,ペダル3の3つの要素が,乗車した視点からの高低差の感覚を除いた実際のトンボハンドル仕様のシティサイクルと同じ乗車姿勢を構成及び運転感覚を保つ機能」を有するものであるところ,刊行物1発明では,上記機能について不明な点。
<相違点6>
本願発明は「電子機器8に装備されているボタンスイッチ9にて手動でペダルの負荷量の変更をし,変更後の負荷量に比例した現在位置12の移動速度に変わる動作をするギアチェンジの機能」を有するものであるところ,刊行物1発明では,上記機能について不明な点。

(4) 判断
相違点1について
本願発明の発明特定事項である「日本工業規格の分類におけるシティ車(JIS D 9011)に該当するシティサイクルといわれるもののうち,ハンドルバーを左右横に伸びたトンボ型に特化した自転車」、つまり「トンボハンドルを有するシティサイクル」は,引用文献を挙げるまでもなく周知の自転車である(以下,トンボハンドルを有するシティサイクルを「周知技術1」という。)。
そして,刊行物1発明のエクササイズバイクのハンドルを,周知技術1におけるトンボハンドルとすることに,何ら技術的困難性はなく,本願発明が相違点1に係る本願発明の発明特定事項を有することで,格別の作用効果が生じたとも認められない。
したがって,相違点1に係る本願発明の発明特定事項は,刊行物1発明と周知技術1とから,当業者が容易に想到し得たものである。

相違点2について
一般にトレーニングにおいて,トレーニング機器を使用する使用者の体格や能力に合わせた寸法を有するトレーニング機器を選択することは,通常行われている常套手段であり,安全かつ効率的なトレーニングを行う上で常識でもある。
つまり,刊行物1発明のクランクも,トレーニングを目的とした運動支援装置である以上,「トレーニングする者にあったクランク長」を有しているといえる。
仮に,「トレーニングする者にあったクランク長」でないとしても,「トレーニングする者にあったクランク長」とすることに,上記常套手段や常識を踏まえると,何ら技術的困難性はなく,そのことによって,格別の作用効果が生じたとも認められない
また,クランクが「可変式である」か,「可変式でない」かについては,刊行物1発明には明記がないが,クランクに関しては「可変式である」か,「可変式でない」かの二種類しかなく,本願発明のように「可変式でない」とすることに,何ら技術的困難性はなく,そのことによって,格別の作用効果が生じたとも認められないから,当業者が適宜選択しうる程度の設計的事項にすぎない。
したがって,相違点2に係る本願発明の発明特定事項は,刊行物1発明から当業者が容易に想到し得たものである。

相違点3について
刊行物2発明において,負荷を付与する負荷出力装置において,負荷モータが用いられている。
刊行物2発明は,室内トレーニング機能を備えた走行シミュレーション装置である点で,エクササイズバイクである刊行物1発明と軌を一にしており,刊行物2発明に記載された負荷出力装置としての負荷モータを適用して,相違点3に係る本願発明の発明特定事項することに,何ら技術的困難性はなく,適用したことによって,格別の作用効果が生じたとも認められない。
したがって,相違点3に係る本願発明の発明特定事項は,刊行物1及び2発明から当業者が容易に想到し得たものである。

相違点4について
刊行物3発明において、固定式自転車トレーニング装置のサドル7は伸縮可能に構成されており、ここでの「伸縮可能」とは、サドルの高さの調節が可能であることを意味していることは自明である。
刊行物3発明は,固定式自転車トレーニング装置である点で,エクササイズバイクである刊行物1発明と同一の技術分野に属しており,刊行物1発明に、刊行物3発明に記載された高さの調節が可能なサドルを適用して,相違点4に係る本願発明の発明特定事項することに,何ら技術的困難性はなく,適用したことによって,格別の作用効果が生じたとも認められない。
したがって,相違点4に係る本願発明の発明特定事項は,刊行物1及び3発明から当業者が容易に想到し得たものである。

相違点5について
刊行物2発明は,実際の自転車を使用するものであるから,「ハンドル,サドル,ペダルの3つの要素が,乗車した視点からの高低差の感覚を除いた実際の自転車と同じ乗車姿勢を構成及び運転感覚を保つ機能」を有していることは自明である。
そして,「相違点1について」で検討したように,「トンボハンドルを有するシティサイクル」は周知技術1にすぎないし,ハンドルの仕様を特定のものに限定することによって格別な効果が生じるものでもない。
したがって,相違点5に係る本願発明の発明特定事項は,刊行物1及び2発明と周知技術1とから当業者が容易に想到し得たものである。

相違点6ついて
自転車の機能を利用したいわゆるエクササイズバイクにおいて,実際の自転車と同じ変速機構を設けることは,刊行物2及び3発明に見られるように,周知技術であり(以下,「周知技術2」という。),該変速機構を操作する操作装置を,エクササイズバイクのどこに設けるか,どのような形態にするかは当業者が適宜選択する程度の設計的事項にすぎず,本願発明のように「電子機器に装備されているボタンスイッチ」とすることに,何ら技術的困難性はなく,適用したことによって,格別の作用効果が生じたとも認められない。
したがって,相違点6に係る本願発明の発明特定事項は,刊行物1と周知技術2とから当業者が容易に想到し得たものである。

そして,本願発明における全体の発明特定事項によって奏される作用効果も,刊行物1乃至3発明と周知技術1及び2から当業者が予測し得うる範囲内のものである。
以上のように,本願発明は,刊行物1乃至3発明と周知技術1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1乃至3発明と周知技術1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-06 
結審通知日 2017-01-10 
審決日 2017-01-24 
出願番号 特願2013-33702(P2013-33702)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古屋野 浩志安藤 達哉  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
吉村 尚
発明の名称 陸上短距離走強化兼運動能力向上トレーニング用エクササイズバイク  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ