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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F28F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F28F
管理番号 1345584
審判番号 不服2017-18248  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-08 
確定日 2018-11-01 
事件の表示 特願2014- 70427号「熱交換器用アルミニウム製フィン材」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月2日出願公開,特開2015-190744号〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯の概略
本願に関する手続の経緯は,概ね以下のとおりである。
平成26年 3月28日 出願
平成29年 5月22日 拒絶理由通知書
平成29年 7月28日 意見書及び手続補正書
平成29年 9月 5日 拒絶査定
平成29年12月 8日 拒絶査定不服審判請求書及び手続補正書

第2 平成29年12月8日付けの手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の結論]
平成29年12月8日付けの手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
(1) 平成29年12月8日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる基板と,前記基板の少なくとも一方の表面に耐食性皮膜が形成され,当該耐食性皮膜上にさらに親水性皮膜が形成された熱交換器用アルミニウム製フィン材であって,
前記耐食性皮膜が,ポリエステル系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂およびウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の耐食性樹脂を含む樹脂組成物からなり,
前記親水性皮膜が,カルボン酸基,カルボン酸のアルカリ金属塩基,スルホン酸基,スルホン酸のアルカリ金属塩基,ヒドロキシル基,アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体から構成される重合体または共重合体を含む樹脂組成物からなり,
前記耐食性皮膜の付着量が0.01?8.0g/m^(2)であり,
前記耐食性皮膜が銀または銀化合物を含有し,
前記耐食性皮膜中の銀または銀化合物の含有量が,0.001?0.1質量%であることを特徴とする熱交換器用アルミニウム製フィン材。」
と補正された(なお,下線は,本件補正により補正された箇所を示す。)。

(2) 前記の請求項1に係る本件補正は,本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「親水性皮膜」に関し,「前記親水性皮膜が,カルボン酸基,カルボン酸のアルカリ金属塩基,スルホン酸基,スルホン酸のアルカリ金属塩基,ヒドロキシル基,アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体から構成される重合体または共重合体を含む樹脂組成物からな(る)」ことを特定するものである。
そして,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3) そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

2 引用文献に記載された事項
(1) 引用文献1
ア 原査定の拒絶の理由に示された引用文献1であり,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2012-76456号公報には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面に耐食皮膜層が形成され,この耐食皮膜層の表面に樹脂バインダーと多孔質微粒子とを含む樹脂組成物から得られた親水性皮膜層が形成されてなるアルミニウム製フィン材であって,
前記耐食皮膜層は,架橋ポリエステル系樹脂,架橋ポリオレフィン系樹脂,架橋エポキシ系樹脂,架橋アクリル系樹脂および架橋ウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を含む樹脂組成物からなり,
前記樹脂バインダーは,カルボン酸基,カルボン酸のアルカリ金属塩基,スルホン酸基,スルホン酸のアルカリ金属塩基,ヒドロキシ基,アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体から構成される重合体,共重合体,または,当該重合体および当該共重合体の少なくとも1種以上からなる混合物からなり,
前記多孔質微粒子は,非水溶性のアクリル系樹脂またはアルギン酸系樹脂からなるものであることを特徴とするアルミニウム製フィン材。」
・「【0001】
本発明は,親水性に優れた皮膜層が表面に形成されたアルミニウム(アルミニウム合金も含む意味である)製フィン材に関し,例えば,空調機等の熱交換器等のフィン材として使用することのできるアルミニウム製フィン材に関する。」
・「【0009】
本発明は,…空調機を使用する室内等の住環境における快適性を阻害する不快な臭気の発生を抑制し得るアルミニウム製フィン材の提供,および,地球温暖化や資源高騰問題等の顕在化によって,空調機の高効率化や小型化等の性能向上要請が高まりつつあることをも考慮して,長期間に亘って優れた親水性を維持し得るアルミニウム製フィン材の提供を解決しようとする課題として掲げた。」
・「【0027】

[アルミニウム製フィン材]
本発明に係るアルミニウム製フィン材10(以下,適宜,フィン材10とする)は,図1(a)に示すように,アルミニウム板1またはアルミニウム合金板1(以下,適宜,基板1とする)と,基板1表面に形成されている耐食皮膜層2と,耐食皮膜層2表面に形成されている親水性皮膜層3と,から構成される。」
・「【0030】
<耐食皮膜層>
本発明に係るフィン材10は,架橋性官能基を構造中に有する樹脂を含有する樹脂組成物から得られる耐食皮膜層2を有している。この架橋性の樹脂を含有する耐食皮膜層2が基板1の表面に形成されると,本発明に係るフィン材10の耐食性および,後述の親水性皮膜層3の密着性が一段と向上すると考えられるので,熱交換器の耐久性を高めることができる。また,耐食皮膜層2は疎水性であるため,基板2に水が浸透して,皮膜下腐食によって不快な臭気を発生するのを抑制することができる。
【0031】
本発明に係るフィン材10に耐食皮膜層2を形成するために用いられる樹脂は,架橋ポリエステル系樹脂,架橋ポリオレフィン系樹脂,架橋エポキシ系樹脂,架橋アクリル系樹脂および架橋ウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂から構成される。ここで,架橋ポリエステル系樹脂,架橋ポリオレフィン系樹脂,架橋エポキシ系樹脂,架橋アクリル系樹脂および架橋ウレタン系樹脂とは,それぞれ,構造中に架橋性の官能基を有するポリエステル系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂およびウレタン系樹脂である。
なお,架橋性の官能基としては,例えば,イソシアネート基,エポキシ基,オキサゾリン基,メチレン基,カルボジイミド基,アジリジン基及びメラミン等が挙げられる。
【0032】
本発明に係るフィン材10の耐食皮膜層2の樹脂組成物としては,前記樹脂以外に,塗装性や作業性等や塗膜物性等を改善するために,各種の水系溶媒や塗料添加物を添加してもよく,例えば,水溶性有機溶剤,架橋剤,界面活性剤,表面調整剤,湿潤分散剤,沈降防止剤,酸化防止剤,消泡剤,防錆剤,抗菌剤,防カビ剤等の各種の溶剤や添加剤を,単独でまたは複合して配合してもよい。
【0033】
また,耐食皮膜層2は,0.01?8.0g/m^(2)であることが好ましい。0.01g/m^(2)未満であると,フィン材10の耐食性,および,親水性皮膜層3との密着性を確保することができず,8.0g/m^(2)を超えると耐食皮膜層2が断熱層となって,熱交換の効率を悪くするからである。」
・「【0034】
<親水性皮膜層>
本発明に係るフィン材10は,特定の樹脂バインダー3aと多孔質微粒子3bとを含有する樹脂組成物から得られる親水性皮膜層3を有している。…
【0035】
本発明に係るフィン材10に親水性皮膜層3を形成するために用いられる樹脂バインダー3aは,カルボン酸基,カルボン酸のアルカリ金属塩基,スルホン酸基,スルホン酸のアルカリ金属塩基,ヒドロキシ基,アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の親水性の官能基を有する単量体から構成される重合体,共重合体,または,当該重合体および当該共重合体の少なくとも1種以上からなる混合物である。これらの官能基の存在によって,親水性皮膜層3に親水性を付与することができる。」
・「【0053】
本発明に係るアルミニウム製フィン材10は,皮膜下腐食に起因すると考えられるセメント様等の不快な臭気が感じられない。また,従来の耐食皮膜層では,皮膜付着量が少ない場合には,長期間使用後に強い臭気の発生が認められていたが,本発明では架橋性の官能基を有する樹脂を積極的に使用していることによって,上層の親水性皮膜層3との密着性の向上が図られ,親水性皮膜層3が流失しにくくなり,結果として皮膜下腐食等による不快な臭気の発生を長期間に亘って抑制することができる。
【0054】
また,本発明に係るアルミニウム製フィン材10は,親水性皮膜層3の水に対する接触角,または親水性皮膜層3の上に潤滑皮膜層4が形成された状態での水に対する接触角が小さく,初期状態では10°以下である。従来の親水性皮膜層は水と接触すると,接触角が次第に増大する(親水性が低下する)傾向にあったが,本発明では多孔質微粒子3bの存在により,この接触角の増大を抑制することができる。このため,本発明に係るアルミニウム製フィン材10を用いて製造された熱交換器は,結露水は小さい接触角のままフィン表面に存在するか,多孔質微粒子3bの開孔に保持される。その後,重力で落下して除去されるため,長期間に亘って,通風抵抗の増大やこれに伴う熱交換性能の低下を引き起こすことがなくなる。」
・「【0067】
[耐食皮膜層用塗料および潤滑皮膜層用塗料の調製]
耐食皮膜層用塗料は3種類調製した。塗料Iとしては,オキサゾリン基を有するアクリル系樹脂水分散体(「エポクロスWS700」:日本触媒社製)を用いた。塗料IIとしては,カルボジイミドおよびイソシアネート成分を含有する架橋剤とアクリル樹脂の水分散体(「カルボジライトE-02」:日清紡ケミカル社製)を用いた。塗料IIIとしては,ポリエステル系樹脂水分散体(「バイロナール(登録商標)MD-1200」:東洋紡績社製)を用いた。なお,塗料I,塗料IIは,構造中に架橋性の官能基を有する樹脂であり,塗料IIIは,構造中に架橋性の官能基を有しない樹脂である。」
イ 上記の記載及び図面の記載からみて,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(引用発明)
「アルミニウム板1またはアルミニウム合金板1よりなる基板1の表面に耐食皮膜層2が形成され,この耐食皮膜層2の表面に樹脂バインダー3aと多孔質微粒子3bとを含む樹脂組成物から得られた親水性皮膜層3が形成されてなる空調機等の熱交換器等のフィン材として使用することのできるアルミニウム製フィン材10であって,
前記耐食皮膜層2は,架橋ポリエステル系樹脂,架橋ポリオレフィン系樹脂,架橋エポキシ系樹脂,架橋アクリル系樹脂および架橋ウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を含む樹脂組成物からなり,
前記樹脂バインダー3aは,カルボン酸基,カルボン酸のアルカリ金属塩基,スルホン酸基,スルホン酸のアルカリ金属塩基,ヒドロキシ基,アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体から構成される重合体,共重合体,または,当該重合体および当該共重合体の少なくとも1種以上からなる混合物からなり,
耐食皮膜層2の付着量は,0.01?8.0g/m^(2)であり,
耐食皮膜層2の樹脂組成物は,抗菌剤,防カビ剤を含有する,
空調機等の熱交換器等のフィン材として使用することのできるアルミニウム製フィン材。」

(2) 引用文献2
原査定の拒絶の理由に示された引用文献2であり,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2011-214787号公報には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる基板と,この基板の表面に形成された少なくとも1層の樹脂塗膜層と,を備え,この樹脂塗膜層に防菌防黴剤が含有された熱交換器用アルミニウムフィン材であって,
前記防菌防黴剤はめっき粉砕片であり,
前記めっき粉砕片は,平均粒子径が前記樹脂塗膜層の膜厚以下であり,前記樹脂塗膜層中に0.1?50質量%含有されていることを特徴とする熱交換器用アルミニウムフィン材。
【請求項2】
前記めっき粉砕片がAg,Cu,Ni,Co,Sn,Znのうちの少なくとも1種で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウムフィン材。」
・「【0001】
本発明は,熱交換器のフィン材として用いられる熱交換器用アルミニウムフィン材に関する。」
・「【0010】
しかしながら,例えば,ルームエアコンなどにおいては,できるだけドレン水が生成しないように,露点付近よりやや高めでの冷房運転とする場合がある。このような場合には,フィン材表面における結露水の生成が殆どないため,フィン材表面に付着した有機物や塵芥,埃などは洗い流されることなくそのままフィン材表面に残ってしまう。そのため,有機物や塵芥,埃などが多い環境かつ高温多湿の雰囲気で使用されると,これらを栄養源として黴や細菌が繁殖し,不快臭が発生するという問題があった。
【0011】
…フィン材表面の親水性を高くした場合であっても,前記した状況が十分に改善されているとは言い難く,結露水の生成が少ない状態が続くと,黴や細菌に起因する不快臭が発生することがあった。
【0012】
また,…防菌防黴剤を使用すると,次のような問題があった。
例えば,…フィン材は,防菌防黴剤を含有する塗料をアルミニウム板の表面に塗布した後,焼付けて樹脂皮膜を形成しているが,防菌防黴剤は有機化合物や有機金属化合物が用いられることが多い。そのため,塗料の焼付け時に熱分解してしまい,成膜後の防菌防黴剤の残留率が低く,期待される防菌防黴効果を得ることができない場合がある。
【0013】
防菌防黴剤として,液体に分散できるほど十分に小さい粒子径を有する,抗菌性のある有機金属化合物の金属粉を用いることもできるが,こうした金属粉は塗料調製時の添加の際に飛散しやすく人体への吸入による有害性や電気および火気による粉塵爆発の危険が生じてしまうので好ましくない。さらに,防菌防黴効果を奏する金属粉体で粒子径が十分に小さいものを入手することは,高コストとなるため好ましくない。
【0014】
本発明は,前記問題に鑑みてなされたものであり,取扱い性に優れる防菌防黴剤を樹脂中に含有し,さらに,成膜後の防菌防黴剤の残留率が高く,黴や細菌による不快臭の発生を防止することができる熱交換器用アルミニウムフィン材を提供することを目的とする。」
・「【0019】
本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材によれば,特定の平均粒子径と特定の含有量でめっき粉砕片からなる防菌防黴剤を樹脂塗膜層に含有しているので,樹脂塗膜層を形成する樹脂種の選択を限定せず,かつ,黴や細菌による不快臭の発生を防止することができ,さらに,成膜後の防菌防黴剤の残留率を高くすることができる。」
・「【0022】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る熱交換器用アルミニウムフィン材(以下,単に「フィン材」という。)1は,図1に示すように,アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる基板2と,この基板2の表面に形成された少なくとも1層の樹脂塗膜層3と,を備えている…。
【0023】
本発明においては,この樹脂塗膜層3に防菌防黴剤が含有されている。かかる防菌防黴剤はめっき粉砕片であり,めっき粉砕片は,平均粒子径が樹脂塗膜層3の膜厚以下であり,樹脂塗膜層中に0.1?50質量%含有されている。
【0024】
樹脂塗膜層3に,防菌防黴剤としてめっき粉砕片を含有させることで,当該めっき粉砕片から生じる金属イオンによって防菌防黴効果を奏することができる。また,防菌防黴剤としてめっき粉砕片を使用すると,金属(無機物)なので結露水等の水にほとんど溶解せず,防菌防黴剤として従来使用されていたジンクピリチオンなどのZn含有有機金属化合物と比較して毒性が少ないという特長を有する。
【0025】
このように,本発明では防菌防黴剤としてめっき粉砕片を含有させているので,ドレン水と共に外部環境へ排出された場合の毒性が低く,かつ,含有される樹脂塗膜層3中の樹脂成分との反応性が低いために化学種としての変化が起こり難く,さらに,フィン材1の構成皮膜として用いられる樹脂の焼成温度よりも分解温度が高いため,樹脂塗膜層3のベースとなる樹脂種の選択は限定されない。
【0026】
本発明においては,樹脂塗膜層3のベースとなる樹脂種は,付与したい機能により適宜選択することができる。
例えば,耐食性の樹脂塗膜層3としたい場合は,ウレタン系樹脂,エポキシ系樹脂,ポリエステル系樹脂,および,ポリアクリル酸系樹脂のうちの少なくとも1種よりなる疎水性樹脂を選択することが好ましい。
また,例えば,親水性の樹脂塗膜層3としたい場合は,親水性官能基を有する有機化合物または親水性官能基誘導体を用いて形成することが好ましい。なお親水性官能基としては,スルホン酸基,スルホン酸基誘導体,カルボキシル基,カルボキシル基誘導体,水酸基,水酸基誘導体等の親水性官能基を有するモノマーの共重合体や,前記親水性官能基を有するポリマーをブレンドしたものが挙げられる。例えば,カルボキシル基を有するポリマーとしては,ポリアクリル酸等,水酸基を有するポリマーとしては,ポリビニルアルコール等が挙げられる。」
・「【0028】
また,前記したようにめっき粉砕片は,樹脂塗膜層中の含有量を0.1?50質量%とする必要がある。
めっき粉砕片の樹脂塗膜層3中の含有量が0.1質量%未満であると,防菌防黴効果を奏することができない。一方,めっき粉砕片の樹脂塗膜層3中の含有量が50質量%を超えると,コストが高くなるだけでなく,樹脂塗膜層3が脆くなるなど含有技術の限界がある。
【0029】
なお,めっき粉砕片は,Ag,Cu,Ni,Co,Sn,Znのうちの少なくとも1種で形成されているのが好ましい。これらの金属元素で形成しためっき粉砕片を用いると,これらのイオンによって防菌防黴効果を確実に奏することができる。」
・「【0037】
[第4実施形態]
第4実施形態に係るフィン材41は,図4に示すように,基板2上に樹脂塗膜層3と,表面側塗膜層6と,をこの順に形成したものである。
なお,基板2と樹脂塗膜層3は第1実施形態に係るフィン材1と同様なので説明を省略する。
【0038】
表面側塗膜層6は,親水性の樹脂塗膜層3の場合と同様に,例えば,親水性官能基を有する有機化合物または親水性官能基誘導体を用いて形成することができる。」
・「【0040】
[第5実施形態から第7実施形態]
…また,第6実施形態に係るフィン材61は,図6に示すように,基板2上に下地処理層4と,樹脂塗膜層3と,表面側塗膜層6と,をこの順に形成したものである。
そして,第7実施形態に係るフィン材71は,図7に示すように,基板2上に下地処理層4と,基板側塗膜層5と,樹脂塗膜層3と,表面側塗膜層6と,をこの順に形成したものである。」
・「【0042】
下記表1に示す実施例1?33および下記表2に示す比較例1?11を作製した。」
・「【0045】
(防菌防黴性)
黒カビ(Aspegillus niger),青カビ(Penicillium chrysogenum),クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)の3種類のカビを混合した水を用いて,ガラスリング法による試験によって評価した。…
使用開始初期として試験開始直後の防菌防黴性の評価と,試験開始から24時間後の防菌防黴性の評価と,試験開始から96時間後の防菌防黴性の評価と,を行った。
評価点および評価基準は以下のようにした。なお,5点以上を合格とし,5点未満を不合格とした。
6点:菌糸の生育が認められない。
5点:胞子は発生していないが,わずかに菌糸の生育が認められる。
4点:胞子は発生していないが,ほぼ全面に菌糸の生育が認められる。
3点:わずかに胞子の発生が認められる。
2点:1点と3点の間。
1点:胞子がほぼ全面に発生している。」
・「【0048】
【表1】


・「【0050】
表1に示すように,実施例1?33は,本発明の要件を満たしていたので,防菌防黴性と防菌防黴性評価後のめっき粉砕片の残存率に優れていた。
また,実施例1?33で用いた防菌防黴剤はめっき粉砕片であるので,例えば,ドレン水と共に外部環境へ排出された場合であっても,ヒトを含む動植物に対する毒性が低く,かつ,含有される樹脂塗膜層中の樹脂成分との反応性が低いために化学種としての変化が起こり難く,さらに,実施例1?33の構成皮膜として用いられる樹脂の焼成温度よりも分解温度が高いため,樹脂塗膜層のベースとなる樹脂種の選択は限定されないことは明らかである。また,防菌防黴剤がめっき粉砕片であるため,有機化合物または有機金属化合物の防菌防黴剤のように樹脂皮膜の樹脂成分と結合,置換等の化学反応をして変化し,防菌防黴効果が低下または亡失してしまうおそれもない。そして,めっき粉砕片は湿式粉砕にて製造することができるため飛散し難く,取扱い性に優れる。」

(3) 引用文献3
原査定の拒絶の理由に示された引用文献3であり,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2009-144949号公報には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】
アルミニウムよりなる基板と,該基板の表面に形成した親水性塗膜とからなる熱交換器用アルミニウムフィン材であって,
上記親水性塗膜は,抗菌性を有する物質(以下,抗菌剤という)を含有すると共に,膜厚が0.5?2μmであり,
上記抗菌剤の含有量は,親水性塗膜全体の重量を100重量部とすると,1?15重量部であり,
上記抗菌剤は,銀を含有すると共に,平均粒径が上記親水性塗膜の膜厚以下であることを特徴とする熱交換器用アルミニウムフィン材。」
・「【0001】
本発明は,熱交換器用アルミニウムフィン材及びそれを用いた熱交換器に関する。なお,本明細書中の「アルミニウム」は,アルミニウムを主体とする金属及び合金の総称であり,純アルミニウム及びアルミニウム合金を含む概念である。」
・「【0003】
上記プレートフィンチューブ熱交換器のフィン表面は結露状態となる。そのため,アルミニウム板よりなる上記熱交換器用フィン材の表面には,結露水を均一な水膜とし,円滑に落下,排出させ,結露水による通風抵抗(空気がフィン間を通過する際の抵抗)を低くし,熱交換器の性能を維持するために親水性塗膜が形成されている。
【0004】
また,家庭内エアコンの室内機に用いられる熱交換器において,空気中に浮遊しているホコリ,チリ等で代表される汚染物質がフィンの表面に付着すると,結露水などの影響でフィン表面が湿潤状態となり,汚染物質を栄養源とする細菌が繁殖しやすい。
そのため,エアコンの運転に伴い,細菌のコロニー等が空気中に飛散し,また,部屋に不快臭がすることもあり,衛生面において問題が生じてきた。それ故,熱交換器用フィン材には抗菌性が必要となった。
このような問題を解決するために,熱交換器用のフィン材について,有機系の抗菌性を有する物質を塗膜中に含有させた発明…が多く報告されているが,有機系抗菌剤は熱に弱いことから,焼き付けや熱交換器作製時の加熱によって一部が変質するおそれがある。
【0005】
また,最近,特に家庭用エアコンの室内機においては,使用者の熱交換器の清掃のわずらわしさを解消するために,メンテナンスが長期間不要であることの要求が高まってきた。それに伴い,フィン材の抗菌性も長期にわたって持続するよう,要求度が格段に上がってきた。従来の発明では,近年の長年に亘る持続性の要求に十分に応えるものはなく,このような特性を有したフィン材の開発が渇望されていた。

【0007】
本発明は,かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,焼き付けや熱交換器作製時の加熱によって変質することなく,優れた親水性及び抗菌性を発揮する熱交換器用アルミニウムフィン材及びそれを用いた熱交換器を提供しようとするものである。」
・「【0012】
上記抗菌剤は,銀を含有するものであるが,銀は,抗菌効果が高く,微量濃度で抗菌効果を発揮することができる金属である。そのため,親水性を阻害することがない含有量で十分な抗菌効果(抗菌効果の速効性及び持続性)を得ることができる。
また,上記銀自身の耐熱性が高いため,有機系抗菌剤のように200℃前後で分解する恐れがなく,焼き付けや熱交換器作製時の加熱によって抗菌性を失う心配がない。
【0013】
また,銀は,比較的広範囲の種類の細菌に対して抗菌効果を発揮し,少なくとも生活環境で普通に存在している細菌については確実に効果を持っている。さらに,銀は,人間等の大動物にとって非常に毒性が低く,極めて安全性が高い。そのため,家庭用エアコンの室内機にも好適に用いることができる。
このように,本発明によれば,焼き付けや熱交換器作製時の加熱によって変質することなく,優れた親水性及び抗菌性を発揮する熱交換器用アルミニウムフィン材を提供することができる。」
・「【0016】
第1の発明の熱交換器用アルミニウムフィン材の親水性塗膜は,上述したように,抗菌剤を含有すると共に,膜厚が0.5?2μmである。…
【0017】
上記親水性樹脂としては,例えば,ポリビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコールとその誘導体),ポリアクリルアミド系樹脂(ポリアクリルアミドとその誘導体),ポリアクリル酸系樹脂(ポリアクリル酸とその誘導体),セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロースナトリウム,カルボキシメチルセルロース系アンモニウム等),ポリエチレングリコール系樹脂(ポリエチレングリコール,ポリエチレンオキサイド等)等が挙げられる。…
【0019】
また,上記抗菌剤の含有量は,親水性塗膜全体の重量を100重量部とすると,1?15重量部である。
上記抗菌剤の含有量が1重量部未満の場合には,抗菌剤による抗菌効果,特に,抗菌性の持続性を得ることができない。上記抗菌剤の含有量が多いほど抗菌性の持続性が向上するが,含有量が15重量部を超える場合には,親水性塗膜の親水性を阻害するおそれがある。
【0020】
また,上記抗菌剤は,銀を含有する。
銀を含有する抗菌剤としては,例えば,銀イオンもしくは酸化銀(AgO)等の銀化合物を含有する担持体等が挙げられる。…
【0021】
また,上記銀イオンもしくは銀化合物を含有する担持体は,有機系抗菌剤と比較すると,塗膜に固定され,結露水への溶出過程で抗菌剤の粒径が小さくなって滑落することがなく,抗菌持続性を得ることができる。
また,上記担持体自身の耐熱性も高いため,焼き付けや熱交換器作製時の加熱によって抗菌性を失う心配がない。」
・「【0032】
また,上記熱交換器用アルミニウムフィン材は,上記基板と上記親水性塗膜の間に,さらに,耐食性塗膜を形成することが好ましい(請求項5)。
上記銀を含有する抗菌剤は,使用条件によってはアルミニウムフィンの腐食を促進する場合がある。そのため,上記基板と上記親水性塗膜との間に耐食性塗膜を形成することによって,アルミニウムフィンの耐食性を向上させることができる。
【0033】
上記耐食性塗膜は,ウレタン系樹脂,エポキシ系樹脂,ポリエステル系樹脂,塩化ビニル系樹脂等を用いて形成することができる。…
【0035】
また,上記耐食性塗膜は,上記抗菌剤を耐食性を阻害しない範囲で含有させても良い。
この場合には,さらに抗菌性の持続性を向上させることができる。」
・「【0042】
本例の熱交換器用アルミニウムフィン材1(試料E1?試料E4)は,図1に示すごとく,アルミニウムよりなる基板2と,該基板2の表面に形成した親水性塗膜3とからなる。
上記親水性塗膜3は,抗菌剤31を含有すると共に,膜厚が0.5?2μmである。また,上記抗菌剤31の含有量は,親水性塗膜3全体の重量を100重量部とすると,1?15重量部であり,上記抗菌剤31は,銀を含有すると共に,平均粒径が上記親水性塗膜3の膜厚以下である。」
・「【0048】
次に,得られた熱交換器用アルミニウムフィン材1(試料E1?試料E4,及び試料C1,2)を5L/の流水にさらし,流水開始から1時間後,流水開始から24時間後,流水開始から96時間後の試料について,抗菌性試験を行った。また,流水開始から96時間後の試料については,親水性試験も行った。」
・「【0050】
<抗菌性試験>
抗菌性試験は,JIS Z 2801:2000(抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果)に準拠して行った。
まず,菌として,大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)及び黄色状ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC12732)を準備した。

【0053】
培養後のシャーレにSCDLP培地10mlを加え,試験片とフィルムから試験菌をよく洗い出し,この洗い出し液の生菌数を寒天平板培養法にて測定し,その平均値を求めた。試験前の生菌数と試験後の生菌数から,抗菌活性値を求めた。
抗菌活性値は,以下の式に基づいて算出した。
抗菌活性値=Log(Y/X)・・・(I)
(上記式中,Xは,抗菌加工試験片の生菌個数平均値を,Yは,比較対照用の抗菌剤無添加の無加工試験片の生菌個数平均値を表す)
【0054】
抗菌性の評価は,抗菌活性値が2.0以上である場合は合格であるとして評価を○とし,抗菌活性値が2.0未満である場合は不合格であるとして評価を×とした。結果を表1に示す。」
・「【0058】
表1から知られるように,実施例としての試料E1?試料E4は,流水開始から1時間,24時間後,96時間後の抗菌性,親水性のいずれの評価においても良好な結果を示した。
これにより,本発明によれば,焼き付けや熱交換器作製時の加熱によって変質することなく,優れた親水性及び抗菌性を発揮する熱交換器用アルミニウムフィン材を提供することができることがわかる。」

3 対比及び判断
(1) 対比
ア 本願補正発明と引用発明とを,その有する機能に照らして対比してみるに,引用発明の「アルミニウム板1またはアルミニウム合金板1よりなる基板1」,「耐食皮膜層2」,「親水性皮膜層3」,「空調機等の熱交換器等のフィン材として使用することのできるアルミニウム製フィン材10」は,それぞれ,本願補正発明の「アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる基板」,「耐食性皮膜」,「親水性皮膜」,「熱交換器用アルミニウム製フィン材」に相当する。
イ 引用発明の「耐食皮膜層2」は,「架橋ポリエステル系樹脂,架橋ポリオレフィン系樹脂,架橋エポキシ系樹脂,架橋アクリル系樹脂および架橋ウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を含む樹脂組成物からな(る)」から,引用発明は本願補正発明と同様に,「耐食性皮膜が,ポリエステル系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂およびウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の耐食性樹脂を含む樹脂組成物からな(る)」ものである。
ウ 引用発明の「親水性皮膜層3」の「樹脂バインダー3a」は,「カルボン酸基,カルボン酸のアルカリ金属塩基,スルホン酸基,スルホン酸のアルカリ金属塩基,ヒドロキシ基,アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体から構成される重合体,共重合体,または,当該重合体および当該共重合体の少なくとも1種以上からなる混合物からな(る)」から,引用発明は本願補正発明と同様に,「親水性皮膜が,カルボン酸基,カルボン酸のアルカリ金属塩基,スルホン酸基,スルホン酸のアルカリ金属塩基,ヒドロキシル基,アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体から構成される重合体または共重合体を含む樹脂組成物からな(る)」ものである。
エ 引用発明の「耐食性皮膜層2」の付着量は,本願補正発明の「耐食性皮膜」と同様に,「0.01?8.0g/m^(2)」である。
オ 引用発明の「耐食皮膜層2の樹脂組成物」は,「抗菌剤,防カビ剤を含有する」ものであるが,本願補正発明は,「耐食性皮膜」において,「防菌防黴剤として銀または銀化合物を用いる」(本願明細書【0013】)ものであるから,引用発明は本願補正発明と,「耐食性皮膜」が防菌防黴剤を含有する点で共通する。
カ そうすると,本願補正発明と引用発明1とは,次の点で一致し,相違する。
(一致点)
「アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる基板と,前記基板の少なくとも一方の表面に耐食性皮膜が形成され,当該耐食性皮膜上にさらに親水性皮膜が形成された熱交換器用アルミニウム製フィン材であって,
前記耐食性皮膜が,ポリエステル系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂およびウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の耐食性樹脂を含む樹脂組成物からなり,
前記親水性皮膜が,カルボン酸基,カルボン酸のアルカリ金属塩基,スルホン酸基,スルホン酸のアルカリ金属塩基,ヒドロキシル基,アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体から構成される重合体または共重合体を含む樹脂組成物からなり,
前記耐食性皮膜の付着量が0.01?8.0g/m^(2)であり,
前記耐食性皮膜が防菌防黴剤を含有する熱交換器用アルミニウム製フィン材。」
(相違点)
本願補正発明は,防菌防黴剤として「銀または銀化合物を含有し」,「前記耐食性皮膜中の銀または銀化合物の含有量が,0.001?0.1質量%である」のに対し,引用発明は,「抗菌剤,防カビ剤を含有する」ものの,具体的にどのような抗菌剤,防カビ剤を用いるのかやその含有量が不明である点。

(2) 判断
ア そこで,前記相違点についてみるに,引用文献2,3に記載されているように(前記2(2),(3)),熱交換器用アルミニウム製フィン材表面には,カビや細菌が繁殖し不快臭が発生するおそれがあることは広く知られた技術的課題であり,それを解決するために熱交換器用アルミニウム製フィン材表面の塗膜層に銀や銀化合物を抗菌剤,防カビ剤として適用することは周知の技術(以下「周知の技術」という。)である。
引用発明も,このような技術的課題を解決するために,耐食性皮膜層2に抗菌剤,防カビ剤を含有させているものであるところ,具体的なものとして,周知の技術である銀や銀化合物を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
その場合,抗菌剤,防カビ剤の含有量については,層を構成する樹脂の性質,所望の抗菌,防カビ効果,コストなどを総合的に考慮し,当業者が適宜に決定できるものである。引用文献2には,樹脂塗膜層3中の含有量の下限として0.1質量%が示されている上,これを多少下回るとしても効果が劇的に減じられるものではないから,こうした数値を参考にすれば,引用発明において,耐食皮膜層2中の含有量を0.1質量%程度とすること,すなわち,前記相違点に係る含有量の上限(0.1質量%)と重複する程度にすることは,当業者にとって格別困難なことではない。
ところで,熱交換器用アルミニウム製フィン材表面の皮膜中に0.1質量%を下回る少量の銀や銀化合物を抗菌剤,防カビ剤として適用することは従前より広く知られ,当業者にとって技術常識であるといえる(例えば,特開2000-93889号公報には,銀又は銀酸化物とそれ以外の無機酸化物とからなる抗菌性コロイド粒子を0.01?5重量%含有させる点が開示され(【特許請求の範囲】,【0015】,【0018】,【0030】,【表1】),特開2000-303000号公報には,銀と防黴性有機化合物との反応生成物が,多孔質シリカ粒子の表面・内部に固着された又は多孔質シリカにより内包されている抗菌防黴剤を,0.01?10重量%含有させる点が開示され(【0014】,【0017】,【0022】,【0024】),特開2009-79889号公報には,銀系無機抗菌剤を0.001?10質量%含有させる点が開示されている(【0065】?【0067】)。)。こうした事情も踏まえれば,本願補正発明の「0.001?0.1質量%」という銀または銀化合物の含有量は,およそ採用し得ない量ではなく,引用発明において,銀や銀化合物の含有量をさらに少量とすることも,当業者が通常の創作能力の発揮の範囲内でなし得ることと認められる。
よって,引用発明に周知の技術を適用し,前記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できるものと認められる。
本願補正発明の効果をみても,引用発明及び周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別ではない。
イ この点に関し,請求人は,概ね以下のように主張している(審判請求書)。
・引用発明は,不快な臭気の発生を抑制し,長期間に亘って優れた親水性を維持することを課題としているが,対象とする臭気は,フィン材自体の皮膜下腐食によって発生するものである。引用文献1には,抗菌剤や防カビ剤についての記載があるが,耐食性皮膜層又は親水性皮膜層に対する添加剤の1つとして,多数の添加剤の羅列の中の1つとして記載されているに過ぎない。このように,引用発明が課題とする臭気は,本願補正発明が課題とする不快臭とは異なり,引用発明には,上層の親水性皮膜と下層の耐食性皮膜の機能を使い分けて,上層ではなく下層の皮膜に抗菌剤を含有させて,抗菌耐久性の向上を図るという技術的思想の開示はないから,引用発明から,黴や細菌による不快臭の発生防止とその耐久性向上のために,親水性皮膜の下層の耐食性皮膜に銀を所定の少量含有させるという本願補正発明の構成に想到することは困難である。
・引用文献2に記載された発明は,黴や細菌による不快臭の発生を防止することを課題としており,引用発明の課題とは異なっている。引用文献2に記載された発明では,防菌防黴剤はめっき粉砕片であって,金属の種類は銀に限定されるわけではない。防菌防黴剤の含有量は0.1?50質量%で,本願補正発明以上に多量に含有し,含有させる樹脂塗膜層は,耐食性の樹脂塗膜層と親水性の樹脂塗膜層のいずれであってもよいとしている。また,引用文献2の,親水性樹脂塗膜層と耐食性樹脂塗膜層とを有する実施例では,耐食性樹脂塗膜層としてエポキシ樹脂を使用しているのに対して,引用文献1では,実施例における耐食皮膜層用樹脂としてエポキシ樹脂を使用していない。そうすると,引用発明と引用文献2に記載された発明とは,その課題,実施例の構成等が異なるため,両者を組み合わせる動機付けが存在せず,組み合わせたとしても,引用文献2には下層と上層とを使い分けて抗菌性の耐久性を向上させるという技術的思想の開示はなく,抗菌耐久性の向上のために,親水性皮膜の下層の耐食性皮膜に銀を所定の少量含有させることは困難である。
・引用文献3に記載された発明は,フィン材において細菌による不快臭の発生を防止することを課題としており,引用発明の課題とは異なっている。引用文献3に記載された発明は,フィン材の親水性塗膜に銀を含む抗菌剤を含有させるものであり,抗菌剤の含有量は1?15質量%であって,本願補正発明よりも多量に含有している。そうすると,引用発明と引用文献3に記載された発明とは,その課題が異なるため,両者を組み合わせる動機付けが存在せず,引用発明と引用文献3に記載された発明とを組み合わせたとしても,抗菌耐久性の向上のために,耐食性皮膜に銀を所定の少量含有させることは困難である。
・本願補正発明は,抗菌耐久性(抗菌性の持続性)として,流水中に240時間浸漬した後においても抗菌性を保持しており,引用文献には記載のない一段と高いレベルの抗菌耐久性を有する。
しかしながら,熱交換器用アルミニウム製フィン材表面にカビや細菌が繁殖し不快臭が発生するおそれがあることは,広く知られ,引用発明においても当然存在する技術的課題であるとともに,引用文献1には,耐食性皮膜層2に抗菌剤,防カビ剤を含有させる点が記載されているのであるから,当業者であればその記載から当該課題が引用発明にも存在することを容易に理解することができる。そのような引用発明において,当該課題を解決するために,周知の抗菌剤,防カビ剤である銀や銀化合物を採用することは,当業者が容易に想到できるものであって,層を構成する樹脂の性質,所望の効果,コストなどを総合的に考慮し,前記相違点に係る含有量とすることは,当業者にとって容易に想到し得ることである。引用文献2に記載の数値を参考にすれば,少なくとも,引用発明において含有量を0.1質量%を多少下回る程度とすることは,当業者にとって格別困難なことではなく,さらに少量とすることも当業者が通常の創作能力の発揮の範囲内でなし得ることと認められる。
なお,引用文献2には,耐食性の樹脂塗膜層に防菌防黴剤である銀系めっき粉砕片を含有させたものが具体的に開示されている(実施例14,15,24,25,28?30)。引用発明は,耐食皮膜層2がエポキシ系樹脂を含む群から選択される樹脂からなるものであるとともに,引用文献2にも同旨が記載されているから(【0026】),引用文献1,2の実施例に係る耐食性樹脂の異同は,引用発明において引用文献2に記載された事項を参考にすることができないとする特段の事情とは解されない。また,引用文献3には,耐食性塗膜に抗菌剤を含有させ得る旨記載されているから(【0035】),引用文献3に記載された事項は,引用発明において耐食皮膜層2に銀や銀化合物を含有させる上で参考になるものである。
そして,銀や銀化合物の含有量が引用文献に記載された量よりも少量であることで,かえって抗菌耐久性が向上するとは解されず,耐食性皮膜層が疎水性であれば,含有する抗菌剤,防カビ剤の結露水による流失が避け得ることは,当業者であれば理解できるものであるから,本願補正発明が当業者が予測し得ないような格別の効果を奏するものとは認められない。

(3) そうすると,本願補正発明は,引用発明及び周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) 以上を総合すると,本願補正発明は,引用発明及び周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反する。

4 まとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,前記のとおり却下されたので,本願の請求項1?10に係る発明は,平成29年7月28日付けの手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるが,そのうち,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる基板と,前記基板の少なくとも一方の表面に耐食性皮膜が形成され,当該耐食性皮膜上にさらに親水性皮膜が形成された熱交換器用アルミニウム製フィン材であって,
前記耐食性皮膜が,ポリエステル系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂およびウレタン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の耐食性樹脂を含む樹脂組成物からなり,
前記耐食性皮膜の付着量が0.01?8.0g/m^(2)であり,
前記耐食性皮膜が銀または銀化合物を含有し,
前記耐食性皮膜中の銀または銀化合物の含有量が,0.001?0.1質量%であることを特徴とする熱交換器用アルミニウム製フィン材。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2,3に例示される周知の技術に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
(引用文献)
引用文献1:特開2012-76456号公報
引用文献2:特開2011-214787号公報
引用文献3:特開2009-144949号公報

3 引用文献に記載された事項
引用文献に記載された事項は,前記第2・2のとおりである。

4 対比及び判断
本願補正発明は,本願発明の「親水性皮膜」に関し「前記親水性皮膜が,カルボン酸基,カルボン酸のアルカリ金属塩基,スルホン酸基,スルホン酸のアルカリ金属塩基,ヒドロキシル基,アミド基およびエーテル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体から構成される重合体または共重合体を含む樹脂組成物からな(る)」ことを特定したものであるから,本願発明はそのような特定を省いたものである(前記第2・1)。
そうすると,本願発明を特定するために必要な事項をすべて含む本願補正発明が,前記第2・3で検討したとおり,引用発明及び周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 むすび
以上第3のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-29 
結審通知日 2018-09-04 
審決日 2018-09-18 
出願番号 特願2014-70427(P2014-70427)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F28F)
P 1 8・ 121- Z (F28F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 窪田 治彦
宮崎 賢司
発明の名称 熱交換器用アルミニウム製フィン材  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
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