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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1345652
審判番号 不服2017-3055  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-01 
確定日 2018-10-31 
事件の表示 特願2015- 52268「電池及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 4日出願公開、特開2016- 46244〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月16日(パリ条約による優先権主張 2014年8月26日 中国(CN))の出願であって、平成28年3月14日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年6月22日付けで意見書が提出されたが、同年10月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年3月1日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
その後、平成29年9月1日付けで上申書が提出され、同年10月31日付けで当審から拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成30年2月7日付けで意見書及び誤訳訂正書が提出され、同年3月26日付けで上申書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?13に係る発明は、平成30年2月7日付けの誤訳訂正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
正極材料が各々充填されている小孔を複数含む正極多孔金属板と、
負極材料が各々充填されている小孔を複数含む負極多孔金属板と、
前記正極多孔金属板と前記負極多孔金属板との間に設けられる第1のセパレータと、
前記負極多孔金属板の、前記第1のセパレータに接触しない面である下面を覆う第2のセパレータとを含み、
前記第1のセパレータは、前記正極多孔金属板の多孔部分および前記負極多孔金属板の多孔部分と直接接触することを特徴とする二次電池。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の一つは、この出願の請求項1?13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

・引用文献1:国際公開第2013/140941号
・引用文献2:米国特許出願公開第2006/0115718号明細書
・引用文献3:特開2002-151159号公報

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1について
本願の優先日前に公知となった引用文献1には、「集電体用三次元網状金属多孔体及び電極並びに非水電解質二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
(1a) 「[0002] 近年、携帯電話、スマートフォン等の携帯電子機器やモーターを動力源とする電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の電源として用いられる電池に対して、高エネルギー密度化が望まれている。」

(1b) 「[0020] 本発明の集電体を用いた二次電池は内部抵抗が小さいため高い出力を有し、また、製造コストも低減できるという効果を奏する。」

(1c) 「[0022] 図1は非水電解液を用いる二次電池の基本的構成を示す模式図である。なお、以下においては、二次電池10としてリチウムイオン二次電池を例としてあげて説明する。図1に示される二次電池10は、正極1と、負極2と、両電極1,2間に挟まれるセパレータ(イオン伝導層)3とを有する。二次電池10においては、正極1には、リチウム-コバルト複合酸化物などの正極活物質粉末5を導電性粉末6及びバインダ樹脂と混合して正極集電体7に担持させて板状とした電極が用いられている。また、負極2には、炭素化合物の負極活物質粉末8をバインダ樹脂と混合して負極集電体9に担持させて板状とした電極が用いられている。セパレータ3として、ポリエチレン、ポリプロピレン等の微多孔膜が用いられている。本実施形態においては、セパレータ3には、リチウムイオンを含む非水電解液(非水電解質)が含浸されている。図示していないが、正極集電体及び負極集電体は、それぞれ、正極端子及び負極端子にリード線で接続されている。 なお、本発明においては、非水電解液の代わりに非水電解質として固体電解質を用いることもできる。この場合には、上記の非水電解液を保持するセパレータ3に代えて固体電解質膜を用いることができる。この固体電解質膜を正極1と負極2とで挟むことによって全固体リチウムイオン二次電池を製造することができる。
[0023] 本発明においては、正極1は、正極集電体7である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された正極活物質粉末5と、導電性粉末6である導電助剤とからなる。
また、負極2は、負極集電体9である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された負極活物質粉末8からなる。
場合によっては、前記三次元網状金属多孔体の気孔には、更に導電助剤を充填することができる。」

(1d) 「[0024] 図2は、全固体二次電池の基本的構成を説明する模式図である。なお、以下においては、全固体二次電池として、全固体リチウムイオン二次電池を例として挙げて説明する。
図2に示される全固体リチウムイオン二次電池60は、正極61と、負極62と、両電極61,62間に配置される固体電解質層(SE層)63とを備えている。正極61は、正極層(正極体)64と正極集電体65とからなる。また、負極62は、負極層66と負極集電体67とからなる。」

(1e) 「[0062] なお、従来のリチウムイオン二次電池の電極は、金属箔の表面に活物質が塗布されたものであり、単位面積当たりの電池容量を向上させるために、活物質の塗布厚みが厚くなるように設定されている。また、従来のリチウムイオン二次電池において、活物質を有効に利用するためには金属箔と活物質とが電気的に接触している必要があるため、活物質は、導電助剤と混合して用いられている。これに対し、本発明の集電体用三次元網状金属多孔体は、気孔率が高く、単位面積当たりの表面積が大きいため、集電体と活物質の接触面積が大きくなるため活物質を有効に利用でき、電池の容量を向上できるとともに、導電助剤の混合量を少なくすることができる。」

(1f) 「[図1]



(1g) 「[図2]



2 引用文献2について
本願の優先日前に公知となった引用文献2には、「Lithium ion polymer multi-cell and method of making」(当審訳:リチウムイオンポリマーマルチセル及びその製造方法)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「[0027] Referring now to the drawings, wherein like reference numerals designate identical or corresponding parts throughout the several views, FIG.4A depicts in cross-section a single cell unit 60 according to an embodiment of the present invention. A negative electrode 20 is adhered to an external negative electrode current collector 10, a positive electrode 40 is adhered to an external positive electrode 50, and the positive electrode 40 and negative electrode 20 are laminated together with a first electrolyte-impregnated separator 30a therebetween. A second electrolyte-impregnated separator 30b is adhered externally to the negative electrode current collector 10. Thus, the single cell unit 60 comprises, in sequence, a second separator, a negative electrode current collector, a negative electrode, a first separator, a positive electrode, and a positive electrode current collector, all laminated together.
[0028] As shown in FIG.4B, a multi-cell 65 of the present invention may then be formed by stacking together two or more of the single cell units 60 of FIG.4A, in sequence. Thus, multi-cell 65 includes N single cell units 60, N positive electrodes 40, and N negative electrodes 20, with each negative electrode current collector 10/negative electrode 20 separated from a preceding positive electrode 40/positive electrode current collector 50 by the second separator 30b adhered to the negative electrode current collector 10. The second separator 30b is not laminated to the positive electrode current collector 50 of the preceding cell unit 60. In the particular embodiment shown in FIG.4B, the multi-cell 65 includes 6 laminated single cell units 60, 6 negative electrodes 20, 6 positive electrodes 40, 6 first electrolyte-impregnated separators 30a, and 6 second electrolyte-impregnated separators 30b.」
(当審訳:[0027] 図面を参照すると、いくつかの図面を通じて同一の参照番号は同一又は対応する部分を示し、図4Aは本発明の一実施形態による単一セルユニット60の断面を示す。負極20を外部負極集電体10に接着し、正極40を外部正極50に接着し、正極40と負極20とを第1電解質含浸セパレータ30aと共に積層する。負極集電体10には、第2電解質含浸セパレータ30bが外付けされている。したがって、単セルユニット60は、第2セパレータ、負極集電体、負極、第1セパレータ、正極及び正極集電体を順に積層してなる。
[0028] 図4Bに示されるように、本発明のマルチセル65は、次に、図4Aの単一セルユニット60の2以上を順次積層することによって形成され得る。したがって、マルチセル65は、N個の単セルユニット60、N個の正電極40、及びN個の負電極20を含み、負極集電体10に接着された第2セパレータ30bによって前の正極40/正極集電体50から分離された負極集電体10/負極20を有する。なお、第2セパレータ30bは、前セルユニット60の正極集電体20に積層されていない。特定の実施形態では、本発明の実施形態は、以下のとおりである。図4Bに示す特定の実施形態では、マルチセル65は、6つの積層単セルユニット60と、6つの負電極20と、6つの正電極40 6と、第1電解質含浸セパレータ30aと、6つの第2電解質含浸セパレータ30bとを含む。」

(2b) 「



(2c) 「



3 引用文献3について
本願の優先日前に公知となった引用文献3には、「リチウム系電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「【0014】ここで、単位電池Tを構成する正負極としては、図2に示したような、正負極集電体の両面に電極を設けた両面塗りタイプの正負極、図3の8に示したような正負極集電体1a,2aの片面側に電極を設けた片面塗りタイプの正負極体を用いることができる。この第1実施例では、図3に示したように、単位電池Tを3個積層し、その最上部及び最下部に片面塗りタイプの電極体8,8を配置して電池構造体群Mを形成している。この場合、正極と負極との配置は逆であってもよく、また、図1,3では単位電池Tを3個積層した例を示しているが、単位電池Tの積層数は1個以上であれば特に制限されない。なお、図示を省略しているが、折畳型に形成することも可能である。」

(3b) 「【図2】



(3c) 「【図3】



第5 引用文献1に記載された発明
1 引用文献1の前記(1c)の[0022]及び(1f)の図1の記載によれば、非水電解液を用いる二次電池の基本的構成は、正極1と、負極2と、両電極1,2間に挟まれるセパレータ(イオン伝導層)3とを有し、正極1には、リチウム-コバルト複合酸化物などの正極活物質粉末5を導電性粉末6及びバインダ樹脂と混合して正極集電体7に担持させて板状とした電極が用いられ、また、負極2には、炭素化合物の負極活物質粉末8をバインダ樹脂と混合して負極集電体9に担持させて板状とした電極が用いられるものである。
そして、上記[0022]の次の段落である[0023](前記(1c)参照。)には、本発明においては、正極1は、正極集電体7である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された正極活物質粉末5と、導電性粉末6である導電助剤とからなり、また、負極2は、負極集電体9である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された負極活物質粉末8からなることが記載されている。
そうすると、引用文献1には、上記[0022]及び図1に記載された非水電解液を用いる二次電池の基本的構成における正極1及び負極2の構成に代えて、上記[0023]に記載された正極1及び負極2の構成を用いたものが記載されているといえる。

2 ここで、前記1に示した、引用文献1の[0022]及び図1に記載されている非水電解液を用いる二次電池の基本的構成を確認すると、正極1は、正極活物質粉末5を導電性粉末6及びバインダ樹脂と混合して正極集電体7に担持させて板状とした電極からなり、負極2は、負極活物質粉末8をバインダ樹脂と混合して負極集電体9に担持させて板状とした電極からなるものであって、前記正極1における、正極活物質粉末5、導電性粉末6及びバインダ樹脂の混合層がセパレータ3に一方の面に直接接触し、上記負極における、負極活物質粉末8及びバインダ樹脂との混合層がセパレータ3の他方の面に直接接触している。
次に、前記1に示した、引用文献1の[0023]に記載されている正極及び負極の構成を確認すると、当該正極は、正極集電体である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された正極活物質粉末と、導電性粉末である導電助剤とからなる正極(以下、「引用発明正極」という。)であり、負極は、負極集電体である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された負極活物質粉末からなる負極(以下、「引用発明負極」という。)である。

3 そして、前記1で検討したように、引用文献1には、[0022]及び図1に記載された非水電解液を用いる二次電池の基本的構成における正極1及び負極2の構成に代えて、[0023]に記載された正極1及び負極2の構成を用いたものが記載されているといえるから、引用文献1には、上記二次電池の基本的構成における正極1及び負極1に代えて、上記引用発明正極及び引用発明負極の構成を用いた二次電池が記載されているといえる。
ここで、当該二次電池において、セパレータが、引用発明正極及び引用発明負極のいずれとも直接接触することは自明の事項である。

4 前記1?3によれば、引用文献1には、正極及び負極として、正極集電体である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された正極活物質粉末からなる正極、及び、負極集電体である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された負極活物質粉末から負極を用い、セパレータが、前記正極及び負極のいずれとも直接接触する二次電池が記載されているといえる。
そして、当該二次電池において、セパレータが、正極集電体である三次元網状金属多孔体と負極集電体である三次元網状金属多孔体との間に設けられており、かつ、正極集電体である三次元網状金属多孔体及び負極集電体である三次元網状金属多孔体のいずれとも直接接触することは自明の事項である。

5 以上から、引用文献1には、「正極集電体である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された正極活物質粉末を含む正極と、
負極集電体である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された負極活物質粉末とを含む負極と、
前記正極集電体である三次元網状金属多孔体と前記負極集電体である三次元網状金属多孔体との間に設けられるセパレータとを含み、
前記セパレータは、前記正極集電体である三次元網状金属多孔体及び前記負極集電体である三次元網状金属多孔体と直接接触する二次電池。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「正極活物質粉末」、「負極活物質粉末」、「気孔」、「正極集電体である三次元網状金属多孔体」「負極集電体である三次元網状金属多孔体」、「セパレータ」、「二次電池」は、それぞれ、本願発明の「正極材料」「負極材料」、「小孔」、「正極多孔金属板」、「負極多孔金属板」、「第1のセパレータ」、「二次電池」に相当する。

(2) 引用発明において、「正極集電体である三次元網状金属多孔体」及び「負極集電体である三次元網状金属多孔体」は、いずれも三次元網状の多孔体であるから、これら金属多孔体は、それぞれ「気孔」を多数含んでおり、「正極集電体である三次元網状金属多孔体・・・の気孔に充填された正極活物質粉末」(当審注:「・・・」は省略を表す。以下同様である。)及び「負極集電体である三次元網状金属多孔体・・・の気孔に充填された負極活物質粉末」は、上記多数の「気孔」を含んでいる各金属多孔体に、それぞれ充填されているものと認められる。
そして、上記多数の「気孔」を含んでいる各金属多孔体に、上記正極活物質粉末及び負極活物質粉末がそれぞれ充填されているということは、「気孔」が金属多孔体表面に開孔していることを意味しているといえるから、引用発明の「正極集電体である三次元網状金属多孔体」及び「負極集電体である三次元網状金属多孔体」は、いずれもその表面に、外部に露出する多数の「気孔」を有しており、各金属多孔体における当該多数の「気孔」を有している表面の部分は、「セパレータ」と「直接接触」しているものと認められる。
一方、本願発明における「多孔金属板の多孔部分」とは、「多孔金属板」のうち、「第1のセパレータ」と「直接接触」する表面を含む部分を意味すると解される。
そうすると、引用発明において、「金属多孔体」における、表面の「気孔」を有する部分は、本願発明において、「多孔金属板の多孔部分」に相当するものと認められ、したがって、引用発明の「前記セパレータは、前記正極集電体である三次元網状金属多孔体及び前記負極集電体である三次元網状金属多孔体と直接接触する」ことは、本願発明の「前記第1のセパレータは、前記正極多孔金属板の多孔部分および前記負極多孔金属板の多孔部分と直接接触する」ことに相当する。

(3) 以上から、本願発明と引用発明とは、「正極材料が各々充填されている小孔を複数含む正極多孔金属板と、
負極材料が各々充填されている小孔を複数含む負極多孔金属板と、
前記正極多孔金属板と前記負極多孔金属板との間に設けられる第1のセパレータと、
前記第1のセパレータは、前記正極多孔金属板の多孔部分および前記負極多孔金属板の多孔部分と直接接触する二次電池。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本願発明は、「前記負極多孔金属体の、前記第1のセパレータに接触しない面である下面を覆う第2のセパレータ」を含むのに対して、引用発明はそのようなセパレータを含まない点。

2 上記相違点について検討する。
引用発明の二次電池は、携帯電子機器や電気自動車等などの電源として使用されるものであって(引用文献1の前記(1a)参照。)、必要な電圧や電流容量を得るために、これを積層して使用することが通常の態様である。
そして、引用文献2の前記(2a)の[0027]、(2b)には、積層順に正極集電体50、正極40、第1のセパレータ30a、負極20、負極集電体10及び第2のセパレータ30bからなる単位セルユニット60が記載されており、また、前記(2a)の[0028]、(2c)には、上記単位セルユニット60を複数積層したマルチセル65が記載されており、引用文献3の前記(3a)、(3b)には、積層順に、両面に負極2が塗布された負極集電体2a、セパレータ3、両面に正極1が塗布された正極集電体1a及びセパレータ3からなる単位電池Tが記載されており、また、前記(3a)、(3c)には、上記単位電池Tを複数積層した電池構造体群が記載されている。
ここで、引用文献2の第2のセパレータ30b及び引用文献3の正極集電体1aのみに接触するセパレータ3は、いずれも、隣接して積層される一方の単位電池の正極集電体と、他方の単位電池の負極集電体とを絶縁するためのものであると認められる。
以上から、単位電池を複数積層する際に、隣接して積層される一方の単位セルの正極集電体と、他方の単位セルの負極集電体とを絶縁するために、あらかじめ、第1のセパレータを挟んだ正極及び負極のいずれか一方の外側に第2のセパレータを配置しておき、これを積層して積層電池とすることは、周知の技術であるといえる。
そうすると、引用発明の二次電池において、複数積層して積層電池とすることを想定して、上記周知の技術を採用すること、すなわち、負極集電体である三次元網状金属多孔体の、セパレータとは接触しない面を、第2のセパレータで覆うことは、当業者にとって格別の困難なこととはいえない。
そして、本願発明の効果は、「電池の正極と負極の内部抵抗を低減させ、この電池は急速充放電を実現することができる。」(【0015】)というものであるところ、引用文献1の前記(1b)、(1e)の記載によれば、引用発明の集電体用三次元網状は、気孔率が高く、単位面積当たりの表面積が大きいため、集電体と活物質の接触面積が大きくなるため活物質を有効に利用できることから、引用発明の二次電池は内部抵抗を小さくできるとの効果を奏するものといえ、二次電池の内部抵抗を小さくできれば、急速充放電を実現できることは、当業者であれば予測し得る効果にすぎない。
したがって、本願発明の奏する効果は格別なものともいえない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

第7 請求人の主張
1 意見書の主張について
(1) 請求人は、平成30年2月7日付け意見書の「(6) 補正後の請求項に係る本願発明と引用文献1?3との対比(理由3)」において、以下のように主張している。

審判官の認定によれば、本願請求項1に記載の「正極多孔金属板」および「負極多孔金属板」は、引用文献1の「正極集電体65」および「負極集電体67」(図2および第0024段落等)にそれぞれ対応させていると思われる。
しかしながら、引用文献1の図2に見られるように、正極61における正極集電体65および負極62における負極集電体67は、いずれも、固体電解質層(SE層)63と直接接していない。固体電解質層(SE層)63は、本願請求項1の「第1のセパレータ」に対応するとされている。代わりに、多孔構造を有しない正極層64および負極層66が、固体電解質層(SE層)63と接している。したがって、引用文献1は、補正後の独立請求項1に係る本願発明の上記特徴を開示していない。
さらに、仮に審判官が、本願請求項1に記載の「正極多孔金属板」および「負極多孔金属板」を、引用文献1の「正極61」および「負極62」にそれぞれ対応させたとしても、引用文献1は、補正後の独立請求項1に記載された上記特徴を開示していない。
引用文献2および3も、引用文献1の上記開示の不備を補えていない。
以上のように、引用文献1?3はいずれも、補正後の独立請求項1に係る本願発明の特徴について教示していない。したがって、平成29年9月1日付けで提出した上申書における議論と合わせて、補正後の独立請求項1に係る本願発明は、引用文献1?3に対して進歩性を有するものと確信する。

(2) そこで検討するに、請求人は、引用文献1の図2を参照して、引用文献1に記載された発明と本願発明との対比をしている。
しかし、引用文献1の前記(1d)の[0024]の記載によれば、引用文献1の図2(前記(1g)参照。)は、全固体二次電池の基本的構成を説明する模式図であって、正極61は、正極層(正極体)64と正極集電体65とからなり、また、負極62は、負極層66と負極集電体67とからなるものである。
一方、当審拒絶理由及び前記第5で認定した引用発明において、「正極」は、「正極集電体である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された正極活物質粉末を含む」ものであり、「負極」は、「負極集電体である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された負極活物質粉末とを含む」ものである。
そうすると、引用文献1の図2は、当審拒絶理由及び前記第5で認定した引用発明の構成を示す模式図ではない。
したがって、請求人の上記主張は、当審拒絶理由及び前記第6で論じた、本願発明と引用発明との対比及び判断についての反論の前提において誤っている。
したがって、請求人の上記意見書における主張は採用できない。

2 上申書の主張について
(1) 請求人は、平成30年3月26日付け上申書の「(3) 補正後の請求項に係る本願発明と引用発明1?3との対比(理由3)」において、以下のように主張している。

審判官の引用発明の認定は、引用文献1の第0022段落および第0023段落が本願請求項1の記載を開示していると単に述べているだけであり、本願請求項1に記載された構成要素と、引用文献1の第0022段落および第0023段落(図1)に記載された構成要素との厳密な対応関係については何ら説明されていない。
出願人が、本願請求項1に記載された構成要素と、引用文献1の第0022段落および第0023段落(図1)に記載された構成要素とを比較したところ、可能性のある対応関係として次の2つの場合が考えられるが、いずれの対応関係も審判官の進歩性の議論を正当化するものではない。
(第1の可能な対応関係)
引用文献1の正極集電体7である三次元網状金属多孔体および負極集電体9である三次元網状金属多孔体が、本願請求項1に記載の正極多孔金属板および負極多孔金属板にそれぞれ対応していると考えられるかもしれない。
しかしながら、この場合、引用文献1の図1を参照して、正極1における正極集電体7および負極2における負極集電体9は、いずれも、セパレータ3(本願請求項1に記載の第1のセパレータに対応)と直接接触していない。したがって、この場合、引用文献1は、本願請求項1に記載の上記特徴を開示していない。
引用文献2および3もまた、引用文献1の上記開示の不備を補えていない。
(第2の可能な対応関係)
引用文献1の正極1および負極2が、本願請求項1に記載の正極多孔金属板および負極多孔金属板にそれぞれ対応していると考えられるかもしれない。
しかしながら、この場合、引用文献1の図1を参照して、正極1の多孔部分である正極集電体7および負極2の多孔部分である負極集電体9は、いずれも、セパレータ3(本願請求項1に記載の第1のセパレータに対応)と直接接触していない。代わりに、正極活物質粉末5を導電性粉末6およびバインダ樹脂と混合することによって得られる混合物、および、負極活物質粉末8をバインダ樹脂と混合することによって得られる混合物が、セパレータ3とそれぞれ直接接触している。
しかしながら、そのような混合物は多孔ではないため、本願請求項1に記載の多孔部分とは対応し得ない。したがって、引用文献1は、本願請求項1に記載の特徴事項について開示していない。
引用文献2および3もまた、引用文献1の上記開示の不備を補えていない。
(まとめ)
以上のように、引用文献1?3はいずれも、補正後の独立請求項1に係る本願発明の特徴について教示していない。したがって、平成30年2月7日付けで提出した意見書における議論と合わせて、補正後の独立請求項1に係る本願発明は、引用文献1?3に対して進歩性を有するものと確信する。

(2) そこで検討するに、前記第5において検討したように、引用発明は、引用文献1の図1(前記(1f)参照。)に示されている、非水電解液を用いる二次電池の基本的構成において、正極1及び負極2として、正極集電体7である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された正極活物質粉末5と、導電性粉末6である導電助剤とからなる正極1、及び、負極集電体9である三次元網状金属多孔体と、この三次元網状金属多孔体の気孔に充填された負極活物質粉末8からなる負極2を用いたものであり、上記図1は、非水電解液を用いる二次電池の基本的構成を示す模式図であって、引用発明の構成を示す模式図ではない。
それに対し、請求人は、上記(第1の可能な対応関係)では、「引用文献1の図1を参照して、正極1の多孔部分である正極集電体7および負極2の多孔部分である負極集電体9は、いずれも、セパレータ3(本願請求項1に記載の第1のセパレータに対応)と直接接触していない。」と主張しているが、この主張は、引用文献1の図1に示されている二次電池の基本的構成についての主張であって、当審拒絶理由及び前記第5で認定した引用発明における二次電池の構成についての主張ではない。
また、請求人は、上記(第2の可能な対応関係)では、「引用文献1の図1を参照して、正極1の多孔部分である正極集電体7および負極2の多孔部分である負極集電体9は、いずれも、セパレータ3(本願請求項1に記載の第1のセパレータに対応)と直接接触していない。」と主張しているが、この主張は、引用文献1の図1において、正極集電体7及び負極集電体9をそれぞれ三次元網状金属多孔体とした二次電池の構成についての主張であって、当審拒絶理由及び前記第5で認定した引用発明における二次電池の構成についての主張ではない。
したがって、請求人の上記(第1の可能な対応関係)及び(第2の可能な対応関係)における主張は、本願発明と、当審拒絶理由及び前記第5で認定した引用発明との対比についてなされたものではなく、反論の前提において誤っている。
したがって、請求人の上記上申書における主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとの当審拒絶理由は妥当である。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-30 
結審通知日 2018-06-05 
審決日 2018-06-18 
出願番号 特願2015-52268(P2015-52268)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神野 将志  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 結城 佐織
河本 充雄
発明の名称 電池及び電子機器  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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