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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1345773
審判番号 不服2017-16409  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-06 
確定日 2018-11-07 
事件の表示 特願2015-506934「各種骨保護剤効率性評価用の空洞病巣補填過程確認法による骨粗鬆症診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日国際公開、WO2013/157983、平成27年 5月21日国内公表、特表2015-514499〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年8月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年4月19日、ロシア)を国際出願日とする出願であって、平成27年9月29日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年6月30日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成29年1月5日付けで意見書及び誤訳訂正書が提出され、同年1月10日に手続補足書が提出されたが、同年6月29日付けで平成29年1月5日付けの誤訳訂正書でした補正についての補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これに対して、平成29年11月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に誤訳訂正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、平成29年11月6日に提出された誤訳訂正書でした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「X線吸収測定法による骨密度の測定による骨粗鬆症診断装置であって、
海綿骨部における空洞病巣の存在と、軟部組織における過剰塩蓄積とを検出することによって、骨粗鬆症の症状の形態を評価することができるソフトを含むことを特徴とする骨粗鬆症診断装置。」


第3 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由である、平成28年6月30日付けの拒絶理由通知の理由は、概略、次のとおりのものである。

1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.(略)

3.(略)


理由1について
本願請求項1ないし3に記載された発明における「線維柱帯における空洞病巣の存在と、軟部組織における過剰塩蓄積とを検出することによって」どのようにして、「骨粗鬆症の症状の形態を評価」できるのか不明である。
特に「繊維柱帯における空洞病巣の存在」や「軟部組織における過剰塩蓄積」によって、「骨粗鬆症の症状の形態」をどのように装置が評価するのかが不明であり、この出願の詳細な説明には、本願請求項1ないし3に記載された発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

理由2について
(略)
理由3について
(略)


第4 当審の判断
1 原査定の拒絶の理由の理由1について
請求項1の記載は、平成29年11月6日に提出された誤訳訂正書でした補正により、補正前の「繊維柱帯」から補正後の「海綿骨部」に補正されているので、本願発明の発明特定事項である、「海綿骨部における空洞病巣の存在と、軟部組織における過剰塩蓄積とを検出することによって」どのようにして、「骨粗鬆症の症状の形態を評価」できるのか、特に「海綿骨部における空洞病巣の存在」や「軟部組織における過剰塩蓄積」によって、「骨粗鬆症の症状の形態」をどのように「骨粗鬆症診断装置」(なお、本願の明細書には、「骨組織密度測定装置」等との記載はあるが、「骨粗鬆症診断装置」という記載はない。)が評価するのかが不明であるとされる点について、以下、検討する。

2 明細書の記載内容
明細書には、次の内容が記載されている。

「【0011】
骨組織密度の最も精度の高いかつ情報の多い解析方法はX線吸収測定法である。「Osteometr」社は前腕遠位用の骨組織密度測定装置シリーズを開発しており、DTX-100・DTX-200の装置は年間骨組織損失量を計算できるソフトが搭載されており、骨折リスクも予測できる。近代的骨密度測定装置は、大腿骨頚や椎体を含む体の各部位における骨組織密度の測定を可能にする。全ての骨密度測定装置は2つの目盛が使用される。
【0012】
T目盛は最大骨量平均値に対する上下の標準偏差数を示すが、T基準値は、高齢化に伴う次第的骨量減少に伴い、減少し、大人の骨組織密度評価に使用される。
【0013】
Z目盛は同年齢者の平均値に対する上下の標準偏差数を示すが、骨組織密度は絶対値、患者の骨組織密度・年齢や性別が同一である健康な少年及び青年に適用する年齢標準値間の標準偏差により評価される。
【0014】
技術レベルにおいては、骨粗鬆症の重大度及び治療効率性は、世界保健機関の分類に従う骨組織密度解析結果の評価に基づき、以下のとおり定められることが知られる。
【0015】
骨組織密度標準値は、最大骨量に対する標準偏差の+1?-1の範囲にあるT基準値である。
第1度オステオペニア:骨組織密度は標準偏差の-1?-1.5の範囲にある。
第2度オステオペニア:骨組織密度は標準偏差の-1.5?-2.0の範囲にある。
第3度オステオペニア:骨組織密度は標準偏差の-2.0?-2.5の範囲にある。
第1度骨粗鬆症:骨組織密度は標準偏差の-2.5以下で、骨折無し
第2度骨粗鬆症:骨組織密度は標準偏差の-2.5以下で、骨粗鬆症性骨折あり
【0016】
現在、上記の基準を用い、診断及び特定薬剤の治療への効率性評価が実施される。
【0017】
既存方法の弱点は以下のとおりである。
【0018】
上記の方法は量的骨石灰化のみ考慮するが、それは、患者の体重・地域・性別・皮膚色によって標準値と大きく異なることがある。例えば、低体重の女性は、高体重(特に、肥満症を抱える)女性より骨組織密度が低く、骨粗鬆症時の量的変化評価を難しくする。また、地域骨組織密度標準値の地域データベースが存在せず、骨組織密度の増減による特定薬剤の骨粗鬆症治療への客観的効率性評価が不可である。
【0019】
技術レベルにおいては未知だが、申請者が調査により発見したのは骨粗鬆症の重大度・経過の特定及び特定薬剤の効率性評価は、質的基準、つまり、骨粗鬆症の症状の形態、特に、海綿骨部における空洞病巣の確定に従い、実施しなければならないことである。骨粗鬆症の形態学的症状(空洞)の考慮なくしては、疾患重大度の確定及び特定薬剤の効率性評価は難しいか不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決使用とする課題】
【0020】
本発明の課題は特定薬剤(骨保護剤)の客観的効率性評価及び海綿骨部における空洞病巣の確定である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そこで、骨粗鬆症時の空洞病巣の確定によるコンピュータ型骨組織密度測定装置の診断機能の改善並びに骨密度のみならず、海綿骨部における空洞病巣の有無による疾患重大度の確定が提案される。
【0022】
上記の課題は、実験解析方法・組織学的解析方法・放射線学的解析方法(一般的X線検査)を含む骨粗鬆症診断法及び骨組織密度測定装置の使用されるX線吸収法による骨密度の測定には同装置のX線吸収法による海綿骨部における空洞病巣の確定への特殊設定による追加診断基準、つまり、空洞病巣の確定が導入されること、骨組織密度測定装置による骨粗鬆症の診断時に検査対象の手足の先の周りには蒸留水が専用クベースに注がれることにより解決される。
【図面の簡単な説明】
(略)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、著者が観察しているかつ骨組織密度の測定結果により骨粗鬆症が診断されなかった患者の骨粗鬆症検査の数例が挙げられる(例1参照)。
【0025】
例1:患者A氏。T基準値での骨組織密度低下幅は標準偏差の-2.1?-2.3であるが、世界保健機関の分類では第3度オステオペニアの診断に相当する。しかし、当該患者の尺骨の海綿骨部においては2×4ミリの空洞が確定されており、それは、2つの基準の中、主要基準で、骨粗鬆症の兆候でもある(図1)。
【0026】
例2.患者B氏は骨組織密度が第2度オステオペニア(標準偏差の-1.8)に相当するが、骨の海綿骨部においては「空洞」との通称を持つ非石灰化の著しい部分があるため、当該疾患はオステオペニアではなく、骨粗鬆症である(図2)。
【0027】
技術レベルにおいては、骨の空洞病巣の発見及び消極的骨密度推移が骨粗鬆症の診断にとって重要であることが知られていない。しかし、全ての近代的骨密度測定装置は、骨組織密度の測定のみに設定されている以上、空洞が見えず、それは同装置の弱点でもある。骨の空洞病巣の可視化には、特定の条件に満ちる骨密度測定装置の開発が不可欠である。著者が確定したのは検査対象である四肢(手足)の骨の周りには蒸留水の流れる専用クベースが必要のことである。その場合、DTX-100型の骨密度測定装置は骨組織密度・空洞を同時に測定・確定できる。検査対象の臓器の周りには蒸留水の代わりに空気を流すと、空洞は確定できなくなる。著者の骨粗鬆症についての経験・新知識によると、同様な装置が追加で2つの項目(空洞及び軟部組織における過剰酸塩蓄積)を確定するため、現在、その需要が非常に高くなっている。DTX-200型等の骨密度測定装置による空洞の可視化は同装置の特殊設定が不可欠であるが、著者は、DTX-100型の骨密度測定装置により得てきた標準情報に従い、当該設定を実施した。
【0028】
一部の場合、上記の可視化が有効になっている装置は骨組織密度値が低下されているが(例えば、標準偏差の-2.4まで)、当該患者に空洞病巣を発見した場合、骨粗鬆症を診断しなければならず、同空洞は観察経過につれ拡大している場合、あるいは、既往歴には骨折の事項がある場合は尚更である。
【0029】
そこで、DTX-200型等の次世代装置を使い、骨組織密度値のみによる特定薬剤の治療への効率性評価が間違っていることもある。
【0030】
例えば、患者E氏には「カルシウム・D3・ナイコメッド」が処方された。例2は12ヶ月治療後の結果を示しているが、石灰化量は標準偏差の-3.4から-1.9(骨粗鬆症から第2度オステオペニアに移った)まで増えたのに、空洞病巣が大きくなった。そこで、DTX-200型の装置の採用される治療の効率性を骨組織密度で評価する場合、上記の結果はポジティブだと言えるが、同様な判断は、当該薬剤(「カルシウム・D3・ナイコメッド」)の効率性・当該薬剤の投与中止か投与量減少・治療期間短縮等についても下ろせる。
【0031】
一方、疾患経過及び「カルシウム・D3・ナイコメッド」のDTX-100型の装置(又は空洞・骨密度を同時に確定・測定できるDTX-200型の装置)が採用されている治療への効率性を評価する場合、当該診断は同数値でも全く違い、一定の骨石灰化改善に伴う骨粗鬆症の重症化となる。そこで、カルシウム・D3・ナイコメッド」は効果がなく、空洞拡大、つまり、骨組織構造の修復効果の無さを理由に、別の薬剤に変える必要がある。
【0032】
例3:患者E氏。閉経後骨粗鬆症。骨の幹端(海綿骨)部における空洞病巣、T基準値での骨組織密度は標準偏差の-3.4である(図3)。
【0033】
本発明の目的は骨粗鬆症診断改善方法及び特定薬剤(骨保護剤)の客観的効率性評価法の開発である。」

3 当審の判断
(1)「骨粗鬆症の症状の形態を評価すること」について
ア 「骨粗鬆症の症状の形態を評価すること」の直接的な記載について
「骨粗鬆症の症状の形態」という記載は、これに類似する記載を考慮しても、明細書中には、下記記載が存在するのみである。(下線は当審が付したものである。)
「技術レベルにおいては未知だが、申請者が調査により発見したのは骨粗鬆症の重大度・経過の特定及び特定薬剤の効率性評価は、質的基準、つまり、骨粗鬆症の症状の形態、特に、海綿骨部における空洞病巣の確定に従い、実施しなければならないことである。骨粗鬆症の形態学的症状(空洞)の考慮なくしては、疾患重大度の確定及び特定薬剤の効率性評価は難しいか不可能である。」(段落【0019】)

この記載からは、「骨粗鬆症の症状の形態」が、「海綿骨部における空洞病巣」を含む何らかの概念であって、この「骨粗鬆症の症状の形態」「の確定に従」って、「骨粗鬆症の重大度・経過の特定及び特定薬剤の効率性評価」を「実施しなければならない」という技術事項が把握できる。すなわち、上記明細書段落【0019】には、「骨粗鬆症の重大度・経過の特定及び特定薬剤の効率性」を「評価」することは記載されているが、「骨粗鬆症の症状の形態」を「評価する」ことが記載されているとは解されない。

すると、本願の発明の詳細な説明には、「骨粗鬆症の症状の形態を評価すること」の直接的な記載はない。

イ 「海綿骨部における空洞病巣の確定」について
上記明細書段落【0019】の「海綿骨部における空洞病巣の確定」が示す技術事項について検討する。
空洞病巣あるいは空洞の確定についての他の記載は、明細書の段落【0020】、【0021】、【0022】、【0023】、【0025】、【0027】及び【0031】に存在するところ、最も詳細に記載された段落【0027】の、
「・・骨の空洞病巣の発見及び・・が骨粗鬆症の診断にとって重要であることが知られていない。しかし、全ての近代的骨密度測定装置は、骨組織密度の測定のみに設定されている以上、空洞が見えず、・・骨の空洞病巣の可視化には、特定の条件に満ちる骨密度測定装置の開発が不可欠である。著者が確定したのは検査対象である四肢(手足)の骨の周りには蒸留水の流れる専用クベースが必要のことである。その場合、DTX-100型の骨密度測定装置は骨組織密度・空洞を同時に測定・確定できる。検査対象の臓器の周りには蒸留水の代わりに空気を流すと、空洞は確定できなくなる。・・DTX-200型等の骨密度測定装置による空洞の可視化は同装置の特殊設定が不可欠であるが、・・」
という記載からは、骨組織密度の測定のみに設定されている骨密度測定装置に、蒸留水の流れる専用クベースを使用したり、特殊設定を施すことにより、空洞病巣が可視化でき、測定・確定できるという技術事項を読み取ることができ、このことにより、空洞病巣の確定とは、骨密度測定装置において、空洞病巣の可視化、すなわち、画像上に空洞病巣が写し出され、これにより画像内の特定の部位が空洞病巣であると認定することであると認められる。

すると、空洞病巣を確定することは、空洞病巣を含む概念である「骨粗鬆症の症状の形態を評価すること」ではないことは明らかである。

ウ 小括
してみると、そもそも、明細書には「骨粗鬆症の症状の形態を評価すること」についての記載がないのであるから、「骨粗鬆症の症状の形態を評価すること」について、本願の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

(2)「海綿骨部における空洞病巣の存在と、軟部組織における過剰塩蓄積とを検出すること」について
上述のとおり、どのようにして「骨粗鬆症診断装置」が「骨粗鬆症の症状の形態を評価する」のか自体が不明であるが、さらに、本願発明の「骨粗鬆症診断装置」が、具体的にどのように「海綿骨部における空洞病巣の存在と、軟部組織における過剰塩蓄積とを検出する」のかが明らかでなく、さらに、「検出」結果が「骨粗鬆症診断装置」内で具体的にどのようなデータとして表現されるのかも明らかでないところ、このような「検出」方法や「検出」結果が不明であることも、「骨粗鬆症診断装置」が「海綿骨部における空洞病巣の存在と、軟部組織における過剰塩蓄積とを検出することによって」どのようにして「骨粗鬆症の症状の形態を評価する」のかが不明となっている理由でもある。
そこで、「海綿骨部における空洞病巣の存在と、軟部組織における過剰塩蓄積とを検出することによって」という発明特定事項についても、以下、検討しておく。

ア 「海綿骨部における空洞病巣の存在」の検出について
(ア)空洞病巣の可視化について
海綿骨部の空洞病巣の検出には、まず、海綿骨部における空洞病巣の可視化が必要であることは明らかである。

a 本願の明細書には、海綿骨部における空洞病巣の可視化については、段落【0027】に、次のような記載がある。

「・・しかし、全ての近代的骨密度測定装置は、骨組織密度の測定のみに設定されている以上、空洞が見えず、それは同装置の弱点でもある。骨の空洞病巣の可視化には、特定の条件に満ちる骨密度測定装置の開発が不可欠である。著者が確定したのは検査対象である四肢(手足)の骨の周りには蒸留水の流れる専用クベースが必要のことである。その場合、DTX-100型の骨密度測定装置は骨組織密度・空洞を同時に測定・確定できる。著者の骨粗鬆症についての経験・新知識によると、同様な装置が追加で2つの項目(空洞及び軟部組織における過剰酸塩蓄積)を確定するため、現在、その需要が非常に高くなっている。DTX-200型等の骨密度測定装置による空洞の可視化は同装置の特殊設定が不可欠であるが、著者は、DTX-100型の骨密度測定装置により得てきた標準情報に従い、当該設定を実施した。」

上記記載事項から、「DTX-100型の骨密度測定装置」では、「四肢(手足)の骨の周りには蒸留水の流れる専用クベースが必要」であり、「検査対象の臓器の周りには蒸留水の代わりに空気を流すと、空洞は確定できなくなる」と解される。しかし、DTX-100は、SXA(SEXA:Single Energy X-ray Absorptiometry(単一エネルギーX線吸収測定法))であって、骨密度(骨塩量)の測定時にも、検査対象の周りを水で満たすことが通常であって、さらに、本願の明細書には、「DTX-100型の骨密度測定装置」において、検査対象の周りを水で満たすだけで、空洞病巣の可視化ができたことを示す実例の開示もないことを考慮すると、「骨の空洞病巣の可視化には、特定の条件に満ちる骨密度測定装置の開発が不可欠である」と記載される、「特定の条件」が、検査対象の周りを水で満たすことの他に必要であると解される。
すると、「DTX-100型の骨密度測定装置」で、空洞を可視化するために、具体的にどのように「特定の条件」を設定するのかが明らかではない。

また、DTX-200は、DXA(DEXA:Double Energy X-ray Absorptiometry(二重エネルギーX線吸収測定法))であって、骨密度(骨塩量)の測定時には、検査対象の周りを水で満たす必要はないが、「DTX-200型等の骨密度測定装置による空洞の可視化は同装置の特殊設定が不可欠であるが、著者は、DTX-100型の骨密度測定装置により得てきた標準情報に従い、当該設定を実施した」との上記記載では、DTX-100と同様、検査対象の周りを水で満たす必要があるか否かも不明であり、さらに、「同装置の特殊設定が不可欠である」とする「特殊設定」が、「DTX-100型の骨密度測定装置により得てきた標準情報に従い、当該設定を実施した」という記載によっても、不明であるといわざるを得ない。
すると、「DTX-200型等の骨密度測定装置」で、空洞を可視化するために、具体的にどのように「特殊設定」を行うのかが明らかではない。

以上のように、本願の明細書の記載を参照しても、「骨密度測定装置」による、空洞を可視化するための具体的な構成が不明であって、当業者であっても、明細書の記載に基づいて、容易にその実施ができるとは認められない。

b 請求人は、平成29年1月10日に手続補足書として、甲第1号証及びその翻訳文を提出している。
そもそも、この甲第1号証の翻訳文には、「試験データ」との記載があるが、誰が、いつ、どのように行った試験のデータであるかは明らかではなく、甲第1号証が、本願発明に関して、何をどのように立証しようとして提出されたものであるのかも不明であって、何らかの証拠として検討するに値するようなものではないが、一応、その内容を検討する。
まず、「伝統的なX線密度計」を用いたことが記載されるのみで、本願の明細書に記載されたような「DTX-100型の骨密度測定装置」、「DTX-200型等の骨密度測定装置」を使用した試験であるか否か、さらには、どのような条件や設定で測定したのかも明らかでない。
次に、各実施例として、骨の画像が示されているが、画像中のどの箇所が空洞病巣であるかの記載はなく、空洞病巣が可視化されているか否かを確認することができない。文章としては、治療前は空洞病巣があり、治療後は消失した旨の記載は散見されるが、全画像を参照しても、治療前の空洞病巣が画像中のどの箇所にあるのか、また、治療後にそれが消失したのかを確認することができない。

したがって、甲第1号証を参照しても、どのような装置で、どのような条件や設定により、空洞病巣を可視化できるのかは明らかでない。

(イ)海綿骨部における空洞病巣の検出
上述のとおり、空洞病巣の可視化のための構成が不明確ではあるが、この可視化が可能であったとしても、「骨密度測定装置」が、その画像から空洞病巣の検出をどのように行い、どのようなデータとして、検出するのかも明らかでない。
さらには、「空洞病巣の存在」が単純にあるかないかであるのか、その数やサイズなどの情報も含むのかも不明であり、また、海綿骨部はそもそもスポンジ状に空洞が存在する部分であって、どのような空洞を空洞病巣とするかの定義も不明である。

したがって、甲第1号証を参照しても、「海綿骨部における空洞病巣」の検出について、当業者が、明細書の記載に基づいて、容易にその実施ができるとは認められない。

イ 「軟部組織における過剰塩蓄積」の検出について
(ア)軟部組織における過剰塩蓄積について
本願の明細書には、軟部組織における過剰塩蓄積についての記載は、段落【0027】の次の記載のみである。

「著者の骨粗鬆症についての経験・新知識によると、同様な装置が追加で2つの項目(空洞及び軟部組織における過剰酸塩蓄積)を確定するため、現在、その需要が非常に高くなっている。」

したがって、本願の明細書の記載を参照しても、「骨密度測定装置」による、「軟部組織における過剰塩蓄積」の検出の具体的な構成が不明であって、当業者であっても、明細書の記載に基づいて、容易にその実施ができるとは認められない。

(イ)甲第1号証について
甲第1号証は上記ア(ア)bの冒頭で指摘したとおりであるが、その内容を検討してみるに、
甲第1号証の翻訳文を見ると、「軟部組織内に塩蓄積を有し(橈骨と尺骨との間の青色の点)」(実施例6)等の記載があり、骨密度測定装置の画像内に白い点が認められ、該画像中で、軟部組織内の塩蓄積が可視化されているように推測される。
しかし、上記ア(ア)bで指摘したとおり、甲第1号証には、「伝統的なX線密度計」を用いたことが記載されるのみで、本願の明細書に記載されたような「DTX-100型の骨密度測定装置」、「DTX-200型等の骨密度測定装置」を使用した試験であるか否か、さらには、どのような条件や設定で、測定したのかも明らかでない。
さらに、塩蓄積が可視化されたとしても、「骨密度測定装置」が、その画像から塩蓄積の検出をどのように行い、どのようなデータとして、検出するのかも明らかでない。なお、過剰塩蓄積についても、その検出が、単純にあるかないかであるのか、その量などの情報も含むのかも不明であるし、また、過剰塩蓄積を検出する部位が橈骨と尺骨との間の軟部組織内のみの検出でよいのかも明かでない。

したがって、甲第1号証を参照しても、「軟部組織における過剰塩蓄積」の検出について、当業者が、明細書の記載に基づいて、容易にその実施ができるとは認められない。

ウ 小括
以上のようであるから、「海綿骨部における空洞病巣の存在と、軟部組織における過剰塩蓄積とを検出すること」について、本願の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

(3)まとめ
上記検討のとおり、本願発明の発明特定事項である、「海綿骨部における空洞病巣の存在と、軟部組織における過剰塩蓄積とを検出することによって骨粗鬆症の症状の形態を評価すること」について、本願の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、本願は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-05 
結審通知日 2018-06-12 
審決日 2018-06-26 
出願番号 特願2015-506934(P2015-506934)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 湯本 照基  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 渡戸 正義
伊藤 昌哉
発明の名称 各種骨保護剤効率性評価用の空洞病巣補填過程確認法による骨粗鬆症診断装置  
代理人 田中 淳二  
代理人 高橋 知之  
代理人 齋藤 麻美  
代理人 加藤 裕介  
代理人 牛木 護  
代理人 清水 聡子  

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