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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
管理番号 1345829
異議申立番号 異議2018-700162  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-23 
確定日 2018-09-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6184962号発明「研磨用組成物及び基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6184962号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6184962号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6184962号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成25年8月12日(優先権主張 平成24年8月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年8月4日にその特許権の設定登録がされ、平成30年2月23日に、その特許について、特許異議申立人三上早織により、特許異議の申立てがされ(以下、特許異議申立人を単に「申立人」ということもある。)、同年4月16日付けで取消理由が通知され、同年6月18日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、同年8月3日に申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1(以下、単に「請求項1」などという。)に
「重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満である水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有し、
前記水溶性高分子は、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種であり、
シリコン基板を最終研磨する用途に用いられることを特徴とする研磨用組成物。」
と記載されているのを、
「セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種である水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有し、シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物であって、
前記セルロース誘導体は、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満であり、
前記ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種は、重量平均分子量が100000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.0以下であり、
前記オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体は、重量平均分子量が250000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が2.0以下であり、
前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体は、重量平均分子量が200000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.5以下であることを特徴とする研磨用組成物。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?9も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
請求項2に
「前記水溶性高分子は、セルロース誘導体及びデンプン誘導体から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。」
と記載されているのを、
「前記水溶性高分子は、セルロース誘導体である、請求項1に記載の研磨用組成物。」に訂正する(請求項2の記載を直接的に引用する請求項9も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
請求項3に
「前記水溶性高分子は、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコ-ル構造を有する重合体から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。」
と記載されているのを、
「前記水溶性高分子は、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、9も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
請求項4に
「前記ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体が、部分ケン化ポリビニルアルコールである、請求項3に記載の研磨用組成物。」
と記載されているのを、
「前記ポリビニルアルコール構造を有する重合体が、部分ケン化ポリビニルアルコールである、請求項3に記載の研磨用組成物。」に訂正する(請求項4の記載を直接的に引用する請求項9も同様に訂正する)。

(5)訂正事項5
請求項5に
「前記水溶性高分子は、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。」
と記載されているのを、
「前記水溶性高分子は、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。」に訂正する(請求項5の記載を直接的に引用する請求項9も同様に訂正する)。

(6)訂正事項6
請求項8に、
「前記水溶性高分子は、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体から選ばれる少なくとも一種と、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも一種とを含む、請求項1に記載の研磨用組成物。」
と記載されているのを、
「前記水溶性高分子は、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種と、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも一種とを含む、請求項1に記載の研磨用組成物。」に訂正する(請求項8の記載を直接的に引用する請求項9も同様に訂正する)。

(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0006】に記載された
「上記の目的を達成するために、本発明の研磨用組成物は、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満である水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有し、前記水溶性高分子は、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種であり、シリコン基板を最終研磨する用途に用いられることを特徴とする。」
と記載されているのを、
「上記の目的を達成するために、本発明の研磨用組成物は、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種である水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有し、シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物であって、
前記セルロース誘導体は、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満であり、
前記ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種は、重量平均分子量が100000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.0以下であり、
前記オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体は、重量平均分子量が250000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が2.0以下であり、
前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体は、重量平均分子量が200000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.5以下であることを特徴とする。」に訂正する。

(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0007】に記載された
「前記ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体が、部分ケン化ポリビニルアルコールであることが好ましい。
前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体が、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、及びポリ(N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート)から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。」
と記載されているのを、
「前記ポリビニルアルコール構造を有する重合体が、部分ケン化ポリビニルアルコールであることが好ましい。
前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体が、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、及びポリ(N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート)から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。」に訂正する。

(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0008】に記載された
「水溶性高分子は、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体から選ばれる少なくとも一種と、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも一種とを含むことが好ましい。」
と記載されているのを、
「水溶性高分子は、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種と、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも一種とを含むことが好ましい。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項について
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、
(ア)「水溶性高分子」について、択一的記載の要素である「デンプン誘導体」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、
(イ)該「水溶性高分子」が「ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体から選ばれる少なくとも一種」の場合、「オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体」の場合、及び、「側鎖官能基に窒素原子を有する重合体」の場合について、それぞれ重量平均分子量と重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布を、本件明細書の【0025】?【0027】、【0030】?【0032】等の記載に基いて、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、さらに、
(ウ)「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」について「ポリビニルアルコールの場合を除く」ことを規定するものであり、「ポリビニルアルコール」と「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」との相違点を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

そうすると、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1に係る請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?9の訂正についても同様である。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2において、「水溶性高分子」について、択一的記載の要素である「デンプン誘導体」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項2に係る請求項2の記載を引用する請求項9の訂正についても同様である。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3において、「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」について「ポリビニルアルコールの場合を除く」ことを規定するものであり、「ポリビニルアルコール」と「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」との相違点を明確にするものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項3に係る請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、9の訂正についても同様である。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1及び3の「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」について「ポリビニルアルコールの場合を除く」ことを規定する訂正に伴い、訂正前の請求項3を引用する訂正前の請求項4において、「部分ケン化ポリビニルアルコールである」ものが、「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」であることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項4に係る請求項3の記載を引用する請求項9の訂正についても同様である。

オ 訂正事項5について
訂正前の請求項5は、「前記水溶性高分子は、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。」と記載されているところ、「水溶性高分子」は、「オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体」しか記載されておらず、「選ばれる少なくとも一種」という記載は誤記であり、訂正事項5は、その誤記を削除するものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の「誤記の訂正」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項5に係る請求項5の記載を引用する請求項9の訂正についても同様である。

カ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項8において、
(ア)「水溶性高分子」について、択一的記載の要素である「デンプン誘導体」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、
(イ)「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」について「ポリビニルアルコールの場合を除く」ことを規定するものであって、「ポリビニルアルコール」と「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」との相違点を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

そうすると、上記訂正事項6は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項6に係る請求項8の記載を引用する請求項9の訂正についても同様である。

キ 訂正事項7について
訂正事項7は、訂正事項1の請求項1の訂正に伴って、対応する明細書の【0006】の記載を訂正し、請求項1の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ク 訂正事項8について
訂正事項8は、訂正事項4の請求項4の訂正に伴って、対応する明細書の【0007】の記載を訂正し、請求項4の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ケ 訂正事項9について
訂正事項9は、訂正事項6の請求項8の訂正に伴って、対応する明細書の【0008】の記載を訂正し、請求項8の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1?5について、請求項2、3、5、6及び8が請求項1を引用し、請求項4が請求項3を引用し、請求項9が請求項1?8を引用することから、請求項1?9は一群の請求項をなし、訂正事項7?9は、該一群の請求項に関係する訂正であるから、本件訂正の請求は一群の請求項ごとにされたものである。

(3)まとめ
上記(1)、(2)より、訂正事項1?9は、特許法第120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件特許の明細書の特許請求の範囲について、上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1?9に係る発明(以下、項番に応じて、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種である水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有し、シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物であって、
前記セルロース誘導体は、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満であり、
前記ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種は、重量平均分子量が100000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.0以下であり、
前記オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体は、重量平均分子量が250000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が2.0以下であり、
前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体は、重量平均分子量が200000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.5以下であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子は、セルロース誘導体である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子は、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール構造を有する重合体が、部分ケン化ポリビニルアルコールである、請求項3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子は、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記水溶性高分子は、側鎖官能基に窒素原子を有する重合体を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体が、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、及びポリ(N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート)から選ばれる少なくとも一種である、請求項6に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記水溶性高分子は、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種と、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも一種とを含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて基板を研磨する研磨工程を含むことを特徴とする基板の製造方法。」

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1?9に係る特許に対して平成30年4月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)特許法第29条第1項第3号について(同法第113条第2号)
請求項1?9に係る発明は、下記の引用例1?5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1?9に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)特許法第29条第2項について(同法第113条第2号)
請求項1?9に係る発明は、下記の引用例1?5に記載された発明(さらには下記の引用例6?10に記載された事項)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?9に係る特許は、取り消されるべきものである。
(3)特許法第36条第6項第1号及び同項第2号について(同法第113条第4号)
請求項1?9の記載には不備があるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



引用例1:特開2004-128070号公報(甲第1号証。以下、「甲1」などという。)
引用例2:特開2008-53414号公報(甲2)
引用例3:特開平11-116942号公報(甲3)
引用例4:特許第4772156号公報(甲4)
引用例5:特開2008-53415号公報(甲5)
引用例6:特開2002-338609号公報(甲6)
引用例7:特開2007-308665号公報(甲7)
引用例8:国際公開第2011/158795号(甲8)
引用例9:特開昭53-24340号公報(甲9)
引用例10:特開2000-204118号公報(甲11)

3.判断
(1)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
ア 引用例の記載
(ア)引用例1
引用例1には、次の記載がある。
「【請求項1】
半導体ウエハの表面を精密研磨する際に使用される研磨用組成物であって、二酸化ケイ素、アルカリ化合物、水溶性高分子化合物及び水を含有し、前記二酸化ケイ素は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が5?30nmであるとともにレーザー散乱法で測定される平均二次粒子径が5?120nmであるコロイダルシリカ、あるいは前記平均一次粒子径が5?30nmであるとともに前記平均二次粒子径が5?200nmであるヒュームドシリカであることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の研磨用組成物を用いて半導体ウエハの表面を精密研磨することを特徴とする研磨方法。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ウエハ加工の過程で半導体ウエハの表面に生じるヘイズ(曇り)は、半導体デバイスの電気特性及び歩留まりに影響するだけでなく、ウエハ表面に付着したパーティクルをパーティクルカウンタで計測する際にその検出限界を低下させる要因にもなる。従来の研磨用組成物を用いて精密研磨して得られる半導体ウエハの表面のヘイズレベルは、半導体デバイスの高性能化及び高集積密度化に伴い半導体ウエハに要求される品質がますます厳しくなっている現在にあっては不十分なものとなりつつある。
【0005】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、半導体ウエハ表面のヘイズレベルを顕著に低減することができる研磨用組成物及びそれを用いた研磨方法を提供することにある。」
「【0015】
次に、水溶性高分子化合物について説明する。
水溶性高分子化合物としては、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール又はポリエチレンオキサイドが好ましく、その中でもヒドロキシエチルセルロースがより好ましい。なお、本実施形態の研磨用組成物は、水溶性高分子化合物を一種類のみ含有するものであっても、二種類以上含有するものであってもよい。
【0016】
ヒドロキシエチルセルロースの平均分子量は、300,000?3,000,000が好ましく、600,000?2,000,000がより好ましく、900,000?1,500,000が最も好ましい。ポリビニルアルコールの平均分子量は、1,000?1,000,000が好ましく、5,000?500,000がより好ましく、10,000?300,000が最も好ましい。ポリビニルアルコールは、平均分子量が上記範囲内であって、なおかつ、平均重合度が200?3,000、ケン化度が70?100%であることが好ましい。ポリエチレンオキサイドの平均分子量は、20,000?50,000,000が好ましく、20,000?30,000,000がより好ましく、20,000?10,000,000が最も好ましい。」
「【0019】
続いて、上記の研磨用組成物を用いて半導体ウエハの表面を精密研磨する工程(ポリッシュ工程)を含む半導体ウエハの製造プロセスについて説明する。
半導体ウエハの製造プロセスにおいてインゴットからポリッシュドウエハが作製されるまでのウエハ加工には、スライス工程、ベベル工程、ラップ工程、エッチ工程、エッヂポリッシュ工程及びポリッシュ工程が具備されている。前記ウエハ加工は、スライス工程でインゴットからウエハが切り出されるのに始まり、続くベベル工程ではウエハの縁部の面取りがなされる。続くラップ工程ではウエハ表面が粗研磨され、続くエッチ工程ではウエハの加工変質層が除去される。そして、続くエッヂポリッシュ工程では前記ベベル工程で面取りされた縁部を含むウエハ端面が研磨され、続くポリッシュ工程ではウエハ表面が精密研磨される。
【0020】
上記の研磨用組成物は、この一連の工程のうちポリッシュ工程において使用されるものである。ポリッシュ工程では、ウエハの表面と研磨部材を接触させて、その接触部分に研磨用組成物を供給しながらウエハ表面と研磨部材を相対摺動させることにより、ウエハの表面を研磨する。」
「【0032】
・ 本実施形態の研磨用組成物に含まれる水溶性高分子化合物の平均分子量を、ヒドロキシエチルセルロースなら300,000以上、ポリビニルアルコールなら1,000以上、ポリエチレンオキサイドなら20,000以上とすれば、半導体ウエハ表面のヘイズレベルを顕著に低減する本実施形態の研磨用組成物の効果が、前記平均分子量が過小なことに起因して低下するのを防止することができる。また、前記平均分子量を、ヒドロキシエチルセルロースなら600,000以上、ポリビニルアルコールなら5,000以上とすれば、上記の効果を一段と高めることができる。さらに、前記平均分子量を、ヒドロキシエチルセルロースなら900,000以上、ポリビニルアルコールなら10,000以上とすれば、上記の効果をさらに高めることができる。
【0033】
・ 本実施形態の研磨用組成物に含まれる水溶性高分子化合物の平均分子量を、ヒドロキシエチルセルロースなら3,000,000以下、ポリビニルアルコールなら1,000,000以下、ポリエチレンオキサイドなら50,000,000以下とすれば、該平均分子量が過大なことに起因して研磨用組成物の粘度が過度に増大するのを防止することができる。また、前記平均分子量を、ヒドロキシエチルセルロースなら2,000,000以下、ポリビニルアルコールなら500,000以下、ポリエチレンオキサイドなら30,000,000以下とすれば、上記の効果を一段と高めることができる。さらに、前記平均分子量を、ヒドロキシエチルセルロースなら1,500,000以下、ポリビニルアルコールなら300,000以下、ポリエチレンオキサイドなら10,000,000以下とすれば、上記の効果をさらに高めることができる。」
「【0036】
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
表1に示す二酸化ケイ素、アルカリ化合物及び水溶性高分子化合物をイオン交換水に混合して実施例1?15及び比較例1?7の研磨用組成物を調製し、各例の研磨用組成物を用いて下記の研磨条件で半導体ウエハの表面を精密研磨した。このときに、以下に示す「ヘイズ」、「スクラッチ」及び「HFT(Haze Free Time)」について評価した結果を表1に示す。」
「【0040】
【表1】

なお、上記表1の「被研磨物」欄に示した「P++」は抵抗率が0.01Ω・cm未満のシリコンウエハ、「P+」は抵抗率が0.01Ω・cm以上0.1Ω・cm未満のシリコンウエハ、「P-」は抵抗率が0.1Ω・cm以上のシリコンウエハをそれぞれ表わす。「二酸化ケイ素」欄に示した「A1」はD_(SA)が7nmでD_(N4)が15nmのコロイダルシリカ、「A2」はD_(SA)が13nmでD_(N4)が32nmのコロイダルシリカ、「A3」はD_(SA)が26nmでD_(N4)が90nmのコロイダルシリカ、「A4」はD_(SA)が14nmでD_(N4)が35nmのコロイダルシリカ、「A5」はD_(SA)が35nmでD_(N4)が70nmのコロイダルシリカ、「A6」はD_(SA)が90nmでD_(N4)が200nmのコロイダルシリカ、「B1」はD_(SA)が20nmでD_(N4)が100nmのヒュームドシリカ、「B2」はD_(SA)が40nmでD_(N4)が250nmのヒュームドシリカを表わす。「アルカリ化合物」欄に示した「A」はアンモニア(29重量%水溶液)、「PHA」は水酸化カリウム、「TMAH」は水酸化テトラメチルアンモニウム(25重量%水溶液)、「PIZ」は無水ピペラジンの略である。「水溶性高分子化合物」欄に示した「HEC」は平均分子量1,200,000のヒドロキシエチルセルロース、「PVA」は平均分子量62,000、平均重合度1400、ケン化度95%のポリビニルアルコール、「PEO」は平均分子量150,000?400,000のポリエチレンオキサイドを表わす。」

(イ)引用例2
引用例2には、次の記載がある。
「【請求項1】
研磨用組成物中のナトリウムイオン及び酢酸イオンのいずれか一方の濃度が10ppb以下であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
研磨用組成物中のナトリウムイオン及び酢酸イオンの濃度がそれぞれ10ppb以下であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項3】
水溶性高分子とアルカリと砥粒とを含有する請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて半導体ウエハの表面を研磨することを特徴とする研磨方法。」
「【0008】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、所定量の水溶性高分子とアルカリと砥粒を水と混合することにより製造される。従って、本実施形態の研磨用組成物は、水溶性高分子、アルカリ、砥粒及び水から実質的になる。この研磨用組成物は、シリコンウエハ等の半導体ウエハを研磨する用途で使用されるものであり、特にウエハの仕上げ研磨で使用されるものである。」
「【0011】
本実施形態の研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、研磨用組成物を用いて研磨した後のウエハ表面で観察される欠陥の一種であるヘイズを低減するという観点からすると、水溶性セルロース又はビニルポリマーであることが好ましい。水溶性セルロースの具体例としては、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。ビニルポリマーの具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。これらの水溶性高分子は、ウエハ表面に親水膜を形成し、この親水膜の作用によりヘイズを低減するものと推測される。
【0012】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子がヒドロキシエチルセルロース又はポリビニルアルコールである場合、さらに言えばヒドロキシエチルセルロースである場合には、それ以外の水溶性高分子を用いた場合に比べて、研磨後のウエハ表面で観察されるヘイズがより大きく低減する。従って、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、ヒドロキシエチルセルロース又はポリビニルアルコールであることが好ましく、より好ましくはヒドロキシエチルセルロースである。」
「【0015】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子が水溶性セルロースである場合、使用される水溶性セルロースの平均分子量は300,000以上であることが好ましく、より好ましくは600,000以上、最も好ましくは900,000以上である。一方、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子がビニルポリマーである場合には、使用されるビニルポリマーの平均分子量は1,000以上であることが好ましく、より好ましくは5,000以上、最も好ましくは10,000以上である。水溶性高分子の平均分子量が大きくなるにつれて、ヘイズの低減に有効な親水膜がウエハ表面に形成されやすくなるために、研磨後のウエハ表面で観察されるヘイズはより大きく低減される。この点において、研磨用組成物に含まれる水溶性セルロースの平均分子量が300,000以上、さらに言えば600,000以上、もっと言えば900,000以上であれば、研磨後のウエハ表面で観察されるヘイズを大きく低減することができる。また、研磨用組成物に含まれるビニルポリマーの平均分子量が1,000以上、さらに言えば5,000以上、もっと言えば10,000以上であれば、同じく研磨後のウエハ表面で観察されるヘイズを大きく低減することができる。
【0016】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子が水溶性セルロースである場合、使用される水溶性セルロースの平均分子量はまた3,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは2,000,000以下、最も好ましくは1,500,000以下である。一方、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子がビニルポリマーである場合には、使用されるビニルポリマーの平均分子量はまた1,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは500,000以下、最も好ましくは300,000以下である。水溶性高分子の平均分子量が小さくなるにつれて、親水膜によるウエハの研磨速度の低下はより強く抑制される。この点において、研磨用組成物に含まれる水溶性セルロースの平均分子量が3,000,000以下、さらに言えば2,000,000以下、もっと言えば1,500,000以下であれば、親水膜による研磨速度の低下を強く抑制することができる。また、研磨用組成物に含まれるビニルポリマーの平均分子量が1,000,000以下、さらに言えば500,000以下、もっと言えば300,000以下であれば、同じく親水膜による研磨速度の低下を強く抑制することができる。
【0017】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子がポリビニルアルコールである場合、使用されるポリビニルアルコールのケン化度は75%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上である。ケン化度が高くなるにつれて、親水膜によるウエハの研磨速度の低下はより強く抑制される。この点において、研磨用組成物に含まれるポリビニルアルコールのケン化度が75%以上、さらに言えば95%以上であれば、親水膜による研磨速度の低下を強く抑制することができる。
【0018】
本実施形態の研磨用組成物に含まれるアルカリは、例えば、アンモニア及びアミンのいずれであってもよい。これらのアルカリは、ウエハを化学的に研磨する作用を有し、研磨用組成物によるウエハの研磨速度を向上させる働きをする。」
「【0022】
本実施形態の研磨用組成物に含まれる砥粒は、例えば、焼成粉砕シリカやフュームドシリカ、コロイダルシリカのようなシリカであってもよい。これらの砥粒は、ウエハを機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物によるウエハの研磨速度を向上させる働きをする。」
「【0033】
表1の“水溶性高分子”欄中、HEC^(*1)は陽イオン交換処理及び陰イオン交換処理したヒドロキシエチルセルロースを表し、HEC^(*2)は陽イオン交換処理したヒドロキシエチルセルロースを表し、HEC^(*3)は陰イオン交換処理したヒドロキシエチルセルロースを表し、HEC^(*4)は陽イオン交換処理及び陰イオン交換処理していないヒドロキシエチルセルロースを表し、PVA^(*1)は陽イオン交換処理及び陰イオン交換処理したポリビニルアルコールを表し、PVA^(*2)は陽イオン交換処理及び陰イオン交換処理していないポリビニルアルコールす。」

(ウ)引用例3
引用例3には、次の記載がある。
「【請求項1】下記の(a)?(e)を含んでなることを特徴とするシリコン半導体ウェーハの研磨用組成物。
(a)二酸化ケイ素、(b)水、(c)水溶性高分子化合物、(d)塩基性化合物、および(e)アルコール性水酸基を1?10個有する化合物。
【請求項2】二酸化ケイ素が、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、および沈澱法シリカからなる群から選ばれるものの少なくとも1種類である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】塩基性化合物が、含窒素塩基性化合物から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項1?2のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項4】含窒素塩基性化合物が、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、および水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項3に記載の研磨用組成物
【請求項5】塩基性化合物が、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩、および炭酸水素塩からなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項1?2のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】塩基性化合物が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項5に記載の研磨用組成物
【請求項7】水溶性高分子化合物が、セルロース誘導体およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項1?6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。」
「【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、シリコン半導体ウェーハの鏡面研磨において、Hazeレベルおよび表面粗さ改善特性を低下させることなく、ウェーハ表面に付着するパーティクルを低減させることができると同時に、優れた研磨表面を形成させることが可能な研磨用組成物を提供することを目的とするものである。」
「【0016】
【発明の具体的説明】
<研磨材>本発明の研磨用組成物の成分の中で主研磨材として用いるのに適当な研磨材は、二酸化ケイ素であり、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈澱法シリカ、およびその他の、製造法や性状の異なるものが多種存在する。これらのうち、本発明の研磨用組成物に用いる二酸化ケイ素はコロイダルシリカ、フュームドシリカ、または沈澱法シリカであることが好ましい。」
「【0025】用いる水溶性高分子化合物は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されないが、一般に、分子量が100,000以上、好ましくは1,000,000以上、の水溶性基を有する高分子化合物である。ここでいう水溶性基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、スルホン酸基、およびその他が挙げられる。このような水溶性高分子化合物は、具体的には、セルロース誘導体およびポリビニルアルコールの少なくとも1種類であることが好ましい。また、セルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロ-ス、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、およびカルボキシメチルエチルセルロースからなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種類であることが好ましい。一方、ポリビニルアルコールは、平均重合度が200?3,000、けん化度70?100%、の水溶性高分子化合物であることが好ましい。これらの水溶性高分子化合物は任意の割合で併用することもできる。」
「【0055】
【発明の効果】本発明の研磨用組成物は、シリコン半導体ウェーハの鏡面研磨において、Hazeレベルおよび表面粗さ改善特性を低下させることなく、ウェーハ表面に付着するパーティクルを低減させることができることは、[発明の概要]の項に前記したとおりである。」

(エ)引用例4
引用例4には、次の記載がある。
「【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位(a1)、下記一般式(2)で表される構成単位(a2)、及び下記一般式(3)で表される構成単位(a3)を有し、構成単位(a3)の合計が高分子化合物の構成単位中0.001?1.5モル%である高分子化合物、研磨材及び水系媒体を含有するシリコンウエハ用研磨液組成物。
【化1】

〔式中、Rは炭素数1?3のアルキル基であり、Xは分子中にカチオン基を有し且つビニルアルコール低級脂肪酸エステルと共重合可能な不飽和化合物に由来する構成単位である。〕
【請求項2】
前記高分子化合物の構成単位中、構成単位(a1)、構成単位(a2)及び構成単位(a3)の合計が50?100モル%である請求項1に記載のシリコンウエハ用研磨液組成物。
【請求項3】
構成単位(a3)が下記一般式(3-1)で表される化合物及び下記一般式(3-2)で表される化合物から選ばれる化合物に由来するものである請求項1又は2に記載のシリコンウエハ用研磨液組成物。
【化2】

〔式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(7)、R^(8)、R^(9)は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1?3のアルキル基である。X^(1)、Yは、それぞれ独立して、炭素数1?12のアルキレン基、-COOR^(12)-、-CONHR^(12)-、-OCOR^(12)-、および-R^(13)-OCO-R^(12)-から選ばれる基である。ここで、R^(12)、R^(13)は、それぞれ独立して、炭素数1?5のアルキレン基である。R^(4)は水素原子、炭素数1?3のアルキル基、炭素数1?3のヒドロキシアルキル基、又はR^(1)R^(2)C=C(R^(3))-X^(1)-である。R^(5)は水素原子、炭素数1?3のアルキル基、又は炭素数1?3のヒドロキシアルキル基であり、R^(6)は水素原子、炭素数1?3のアルキル基、炭素数1?3のヒドロキシアルキル基、又はベンジル基であり、Z^(-)は陰イオンを示す。R^(10)は水素原子、炭素数1?3のアルキル基、炭素数1?3のヒドロキシアルキル基、又はR^(7)R^(8)C=C(R^(9))-Y-である。R^(11)は水素原子、炭素数1?3のアルキル基、又は炭素数1?3のヒドロキシアルキル基である。〕
【請求項4】
ポリビニルピロリドン、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)及びヒドロキシエチルセルロースから選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、請求項1?3のいずれか1項に記載のシリコンウエハ用研磨液組成物。
【請求項5】
非イオン性界面活性剤をさらに含有する、請求項1?4のいずれか1項に記載のシリコンウエハ用研磨液組成物。
【請求項6】
前記研磨材の平均一次粒子径が、5?50nmである、請求項1?5のいずれか1項に記載のシリコンウエハ用研磨液組成物。
【請求項7】
前記研磨材がコロイダルシリカである、請求項1?6のいずれか1項に記載のシリコンウエハ用研磨液組成物。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載のシリコンウエハ用研磨液組成物を用いてシリコンウエハを研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1?7のいずれか1項に記載のシリコンウエハ用研磨液組成物を用いてシリコンウエハを研磨する工程を含む、シリコンウエハの研磨方法。」
「【背景技術】
【0002】
半導体基板の製造に用いられるシリコンウエハの研磨に用いられる研磨液組成物として、シリカ粒子を含有する研磨液組成物が知られている。この種の研磨液組成物においては、シリカ粒子の凝集に起因するシリコンウエハの表面欠陥(LPD:Light point defects)の発生や、凝集物を除去するために研磨液組成物をろ過する場合のフィルター目詰まりが問題となっている(例えば、特許文献1および特許文献2等参照)。また、研磨速度を向上させる目的で、窒素含有基を含む水溶性高分子化合物を含む研磨液組成物が知られている(特許文献3参照)。」
「【0007】
特許文献4では、研磨速度の向上及び研磨対象物の表面の濡れ性向上のために、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)を含む研磨液組成物が提案されている。しかし、HECを用いるとシリカ粒子の凝集物を生じやすく、研磨液組成物をろ過しても直ちにフィルター目詰まりを起こすため、研磨直前に研磨液組成物をろ過できないという問題がある。」
「【0048】
(水溶性高分子化合物)
本発明の研磨液組成物は、研磨速度向上の観点から、さらに上記カチオン基を有する高分子化合物以外の水溶性高分子化合物を含有することが好ましい。ここで水溶性高分子化合物とは、重量平均分子量が10,000以上、好ましくは100,000以上の水溶性基を有する高分子化合物であって、本発明で使用される上記カチオン基を有する高分子化合物以外のものをいう。上記水溶性基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、スルホン酸基等が挙げられる。このような水溶性高分子化合物としては、ポリビニルピロリドン、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド等が例示できる。ポリ(N-アシルアルキレンイミン)としては、ポリ(N-アセチルエチレンイミン)、ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)、ポリ(N-カプロイルエチレンイミン)、ポリ(N-ベンゾイルエチレンイミン)、ポリ(N-ノナデゾイルエチレンイミン)、ポリ(N-アセチルプロピレンイミン)、ポリ(N-ブチオニルエチレンイミン)等があげられる。セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロ-ス、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、およびカルボキシメチルエチルセルロース等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は任意の割合で2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
本発明の研磨液組成物に含まれる水溶性高分子化合物としては、研磨速度の向上、シリコンウエハの表面の濡れ性向上、及び研磨された面へのパーティクル付着低減の観点から、ポリビニルピロリドン、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)及びヒドロキシエチルセルロースから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリビニルピロリドン及びポリ(N-アシルアルキレンイミン)から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0050】
ポリビニルピロリドンの粘度平均分子量としては、研磨速度の向上、シリコンウエハの表面の濡れ性向上、及び研磨された面へのパーティクル付着低減の観点から、1万?300万が好ましく、4万?200万がより好ましく、10万?150万がさらに好ましく、30万?150万がさらにより好ましく、40万?150万がよりいっそう好ましい。ここで粘度平均分子量Mvは、以下の式から計算される値である。固有粘度ηは、ポリビニルピロリドンの濃度に対して(η_(rel)-1)をプロットして得られる切片の値と、ポリビニルピロリドンの濃度に対して(Lnη_(rel))をプロットして得られる切片の値との平均値である。η_(rel)は、30℃における動粘度であり、JIS Z 8803の方法に従い、キャノンフェンスケの細管式動粘度計(粘度計番号75番)を用いて測定される値である。
[η]=KMv^(a)
η:固有粘度
Mv:粘度平均分子量
K=1.4×10^(-4)
a=0.7
【0051】
ポリ(N-アシルアルキレンイミン)の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、研磨速度の向上、シリコンウエハの表面の濡れ性向上、及び研磨された面へのパーティクル付着低減の観点から、1万?400万が好ましく、1万?200万がより好ましく、1万?150万がさらに好ましく、1万?100万がさらにより好ましく、5万?100万がよりいっそう好ましく、10万?100万がさらに好ましい。尚、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)の重量平均分子量の測定方法は、標準物質がポリスチレンであること以外は、カチオン基を有する高分子化合物の重量平均分子量の測定方法と同じである。
【0052】
ヒドロキシエチルセルロースの重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)としては、研磨速度の向上、シリコンウエハの表面の濡れ性向上、及び研磨された面へのパーティクル付着低減の観点から、300,000?4,000,000が好ましく、600,000?3,000,000がより好ましく、900,000?2,500,000がさらに好ましい。尚、ヒドロキシエチルセルロースの重量平均分子量の測定方法は、標準物質がポリエチレングリコールであること以外は、カチオン基を有する高分子化合物の重量平均分子量の測定方法と同じである。
【0053】
本実施形態の研磨液組成物における水溶性高分子化合物の含有量は、研磨速度の向上の観点から、好ましくは0.0001重量%(1重量ppm)以上、より好ましくは0.0005重量%(5重量ppm)以上、さらに好ましくは0.001重量%(10重量ppm)以上であり、さらにより好ましくは0.002重量%(20重量ppm)以上である。また、シリコンウエハの表面の濡れ性向上の観点から、好ましくは5重量%(50000重量ppm)以下、より好ましくは1重量%(10000重量ppm)以下、さらに好ましくは0.5重量%(5000重量ppm)以下、さらにより好ましくは0.1重量%(1000重量ppm)以下であり、よりいっそう好ましくは0.05重量%以下(500重量ppm)である。よって、水溶性高分子化合物の含有量は、好ましくは0.0001?5重量%(1?50000重量ppm)、より好ましくは0.0005?1重量%(5?10000重量ppm)、さらに好ましくは0.001?0.5重量%(10?5000重量ppm)、さらにより好ましくは0.001?0.1重量%(10?1000重量ppm)であり、よりいっそう好ましくは0.002?0.05重量%(20?500重量ppm)である。
【0054】
(塩基性化合物)
本発明の研磨液組成物は、研磨速度向上の観点から、塩基性化合物を含有することが好ましい。塩基性化合物としては、含窒素塩基性化合物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩、および炭酸水素塩等が挙げられる。含窒素塩基性化合物としては、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N一メチルエタノールアミン、N-メチル-N,N一ジエタノ-ルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノ-ルアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、およびトリイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、および水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられ;アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩、および炭酸水素塩としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムが挙げられる。これらの塩基性化合物は2種以上を混合して用いてもよい。本発明の研磨液組成物に含まれ得る塩基性化合物としては、研磨速度向上の観点から、含窒素塩基性化合物が好ましく、アンモニア、メチルアミンがより好ましい。」
「【0084】
(1)研磨液組成物の調製
研磨材(コロイダルシリカ)、カチオン基を有する高分子化合物、28%アンモニア水(キシダ化学(株)試薬特級)、イオン交換水、および必要に応じてその他の高分子化合物又は非イオン性界面活性剤を攪拌混合して、研磨液組成物の濃縮液(pH10.0?11.0(25℃))を得た。各濃縮液中のアンモニアの含有量は0.4重量%である。下記実施例1?43で使用したカチオン基を有する高分子化合物1?11の重合度及び組成は下記表1に示している。」
「【0087】
(注)表1中の高分子化合物10?11において、各高分子化合物の全構成単位中の、構成単位(a1)、構成単位(a2)および構成単位(a3)の合計は100モル%である。RはCH_(3)であり、構成単位(a2)の供給源である単量体化合物は酢酸ビニルである。構成単位(a3)は、上記一般式(3-1)で表される化合物に由来するものであり、Z-はCl-、X^(1)は-CONHR^(12)-、R^(12)は-(CH_(2))_(3)、R^(1)は-H、R^(2)は-H、R^(3)は-CH_(3)、R^(4)はH、R^(5)はH、R^(6)はHである。ここで、-CONHR^(12)-のCO側が、R3が結合した炭素に結合している。
【0088】
表1中の高分子化合物1?9において、各高分子化合物の全構成単位中の、構成単位(a1)、構成単位(a2)および構成単位(a3)の合計は100モル%である。RはCH_(3)であり、構成単位(a2)の供給源である単量体化合物は酢酸ビニルである。構成単位(a3)は、上記一般式(3-1)で表される化合物に由来するものであり、Z-はCl-、X^(1)は-CH_(2)-、R^(1)は-H、R^(2)は-H、R^(3)は-Hである。R^(4)はR^(1)R^(2)C=C(R^(3))?X^(1)?、R^(5)はH、R^(6)はHである。
【0089】
表1に記載の(a3)のモル%は下記のカチオン化変性率測定方法により測定した窒素量および塩素濃度を用いて算出した。」
「【0092】
(2)研磨方法
得られた研磨液組成物を用いて、下記の研磨条件で下記シリコンウエハを15分間研磨した。
【0093】
<シリコンウエハ>
8インチシリコン片面鏡面ウエハ(二段研磨終了後のもの、厚さ0.7mm)を4cm×4cmに切断して使用。」
「【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
(注)表2および表3中の高分子化合物(1)の欄に記載された高分子化合物1?11の各々は、本発明におけるカチオン基を有する高分子化合物の例であり、高分子化合物(2)は、カチオン基を有する高分子化合物以外の水溶性高分子化合物の例である。表2および表3中の研磨材及び成分*1?*9の詳細は下記のとおりである。
シリカ1:平均一次粒子径:26nm、平均二次粒子径:58nm、会合度:2.2
シリカ2:平均一次粒子径:38nm、平均二次粒子径:78nm、会合度:2.1
成分*1:完全鹸化ポリビニルアルコール、クラレ社製、PVA-124
成分*2:カチオン性ポリビニルアルコール、クラレ社製、CM-318
成分*3:ポリエチレンイミン、日本触媒社製、SP-006
成分*4:HEC、住友精化社製、CF-V、重量平均分子量160万
成分*5:ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)、花王社製、重量平均分子量77万
成分*6:ポリビニルピロリドン、和光純薬社製、K90、粘度平均分子量59万
成分*7:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王社製、エマルゲン3140S-90、HLB=19)
成分*8:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王社製、エマルゲン350、HLB=18)
成分*9:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王社製、エマルゲン409PV、HLB=14)」

(オ)引用例5
引用例5には、次の記載がある。
「【請求項1】
ポリビニルピロリドン及びポリN-ビニルホルムアミドから選ばれる少なくとも一種類の水溶性高分子と、
アルカリと
を含有することを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子の重量平均分子量が6,000?4,000,000である請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
キレート剤をさらに含有する請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて半導体ウエハの表面を研磨することを特徴とする研磨方法。」
「【0002】
従来、シリコンウエハ等の半導体ウエハの研磨は予備研磨と仕上げ研磨の少なくとも二段階に分けて行われる。そのうち予備研磨は、更なる高品位化及び効率化を目的としてさらに二段階以上に分けて行われることがある。仕上げ研磨で使用可能な研磨用組成物として、例えば特許文献1に記載の研磨用組成物が知られている。特許文献1の研磨用組成物は、水、コロイダルシリカ、ポリアクリルアミドやシゾフィランのような水溶性高分子、及び塩化カリウムのような水溶性塩類を含有している。」
「【0004】
本発明の目的は、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物表面における研磨加工に起因するLPDの数を低減することが可能な研磨用組成物及びその研磨用組成物を用いた研磨方法を提供することにある。」
「【0014】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子の重量平均分子量は6,000以上であることが好ましい。水溶性高分子の重量平均分子量が大きくなるにつれて、欠陥の発生を抑制するのに十分な親水膜がウエハ表面に形成されやすくなるために、研磨加工に起因するLPDの数はより大きく低減する。この点において、研磨用組成物中の水溶性高分子の重量平均分子量が6,000以上であれば、研磨加工に起因するLPDの数を大きく低減することができる。
【0015】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子の重量平均分子量はまた、4,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは3,000,000以下である。水溶性高分子の重量平均分子量が小さくなるにつれて、親水膜によるウエハの研磨速度の低下はより強く抑制される。この点において、研磨用組成物中の水溶性高分子の重量平均分子量が4,000,000以下、さらに言えば3,000,000以下であれば、親水膜による研磨速度の低下を強く抑制することができる。
【0016】
本実施形態の研磨用組成物に含まれるアルカリは、例えば、アルカリ金属水酸化物、アンモニア、アミン、第4級アンモニウム塩のいずれであってもよい。これらのアルカリは、ウエハを化学的に研磨する作用を有し、研磨用組成物によるウエハの研磨速度を向上させる働きをする。」
「【0020】
本実施形態の研磨用組成物に含まれる砥粒は、例えば、コロイダルシリカ及びフュームドシリカのいずれであってもよい。これらの砥粒は、ウエハを機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物によるウエハの研磨速度を向上させる働きをする。
【0021】
研磨用組成物に含まれる砥粒がコロイダルシリカである場合には、その他の砥粒を用いた場合に比べて、研磨用組成物の安定性が向上し、その結果、研磨後のウエハの表面のスクラッチが低減する。従って、研磨用組成物に含まれる砥粒はコロイダルシリカであることが好ましい。」
「【0026】
本実施形態によれば以下の利点が得られる。
・ 本実施形態の研磨用組成物は、ポリビニルピロリドン及びポリN-ビニルホルムアミドから選ばれる少なくとも一種類の水溶性高分子を含有しており、この水溶性高分子によりウエハ表面に形成される親水膜は、研磨加工に起因するLPDの数を低減する働きをする。そのため、本実施形態の研磨用組成物によれば、研磨用組成物を用いて研磨した後のウエハ表面における研磨加工に起因するLPDの数を低減することができる。」
「【0030】
水溶性高分子、アルカリ、砥粒及びキレート剤を適宜に水と混合することにより実施例1?53及び比較例1?26の研磨用組成物を調製した。各研磨用組成物中の水溶性高分子、アルカリ、砥粒及びキレート剤の詳細は表1に示すとおりである。
【0031】
表1及び表2の“水溶性高分子”欄中、PVP^(*1)は重量平均分子量が10,000であるポリビニルピロリドンを表し、PVP^(*2)は重量平均分子量が3,500,000であるポリビニルピロリドンを表し、PVP^(*3)は重量平均分子量が1,600,000であるポリビニルピロリドンを表し、PVP^(*4)は重量平均分子量が67,000であるポリビニルピロリドンを表し、PNVFは重量平均分子量が100,000であるポリN-ビニルホルムアミドを表し、PVAは重量平均分子量が62,000であるケン化度95%のポリビニルアルコールを表し、PVMEは重量平均分子量が10,000であるポリビニルメチルエーテルを表し、PEGは重量平均分子量が26,000であるポリエチレングリコールを表し、PEOは重量平均分子量が200,000であるポリエチレンオキサイドを表し、PPPは重量平均分子量が9,000であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体を表し、PEIは重量平均分子量が10,000であるポリエチレンイミンを表し、PAAは重量平均分子量が25,000であるポリアクリル酸を表し、PAA-NH_(4)は重量平均分子量が20,000であるポリアクリル酸アンモニウムを表し、PAA-Naは重量平均分子量が20,000であるポリアクリル酸ナトリウムを表し、PAAMは重量平均分子量が1,000,000であるポリアクリルアミドを表し、PSS-Naは重量平均分子量が100,000であるポリスチレンスルホン酸ナトリウムを表し、HECは重量平均分子量が1,000,000であるヒドロキシエチルセルロースを表し、CMC-Na^(*1)は重量平均分子量が10,000であるカルボキシメチルセルロースナトリウムを表し、CMC-Na^(*2)は重量平均分子量が330,000であるカルボキシメチルセルロースナトリウムを表し、CMC-Na^(*3)は重量平均分子量が90,000であるカルボキシメチルセルロースナトリウムを表し、CMC-Na^(*4)は重量平均分子量が20,000であるカルボキシメチルセルロースナトリウムを表す。
【0032】
表1及び表2の“アルカリ”欄中、TMAHは水酸化テトラメチルアンモニウムを表し、KOHは水酸化カリウムを表し、NaOHは水酸化ナトリウムを表し、NH_(3)はアンモニアを表し、PIZは無水ピペラジンを表し、IMZはイミダゾールを表す。
【0033】
表1及び表2の“砥粒”欄中、CS^(*1)は平均一次粒子径が35nmであるコロイダルシリカを表し、CS^(*2)は平均一次粒子径が200nmであるコロイダルシリカを表し、CS^(*3)は平均一次粒子径が150nmであるコロイダルシリカを表し、CS^(*4)は平均一次粒子径が100nmであるコロイダルシリカを表し、CS^(*5)は平均一次粒子径が55nmであるコロイダルシリカを表し、CS^(*6)は平均一次粒子径が15nmであるコロイダルシリカを表し、CS^(*7)は平均一次粒子径が10nmであるコロイダルシリカを表し、CS^(*8)は平均一次粒子径が5nmであるコロイダルシリカを表す。」
「【0039】
【表1】

【0040】
【表2】



(カ)引用例6
引用例6には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 酢酸ビニル系重合体を製造するに当たり、反応缶中で酢酸ビニル系モノマーを重合した後重合禁止剤を添加して該重合を停止させる際に、反応液中にアルコールを導入することを特徴とする酢酸ビニル系重合体の製造方法。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の方法において、重合禁止剤を添加するだけでは後重合を充分に抑制することができず、分子量分布のよりシャープな重合体を得ることは容易ではなかった。又、重合禁止剤の種類や添加条件等により、得られる重合体に着色が生じることがあり、十分な配慮が必要であった。
【0006】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者等は上記の現況に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、酢酸ビニル系重合体を製造するに当たり、反応缶中で酢酸ビニル系モノマーを重合した後重合禁止剤を添加して該重合を停止させる際に、反応液中にアルコールを導入することにより、後重合の禁止効果が大きく、分子量分布がよりシャープな酢酸ビニル系重合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【0026】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。尚、実施例中、「部」、「%」とあるのは、特に断りのない限り重量基準である。
【0027】実施例1
コンデンサー及び撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニルモノマー7000kg及びメタノール3000kgを仕込んだ後、撹拌しながら加熱して1時間還流させた後、重合触媒としてアセチルパーオキシド1.5%メタノール溶液180kgを添加し、還流下で6時間重合を行った。その後、冷却し還流がおさまったところで、重合禁止剤としてハイドロキノン0.1%メタノール溶液100kgを反応缶の上部より添加すると同時に、メタノール3800kgを反応缶の下部より導入し、撹拌し、均一な溶液(酢酸ビニルの重合率90%、固形分濃度44.8%)を得た。
【0028】得られた溶液を蒸留し未反応モノマーを取り除き、固形分濃度45%に調整した。かかる酢酸ビニル系重合体溶液中のポリ酢酸ビニルの分子量分布(Mw/Mn、Mw:重量平均分子量,Mn:数平均分子量)をGPCで測定したところ、Mw/Mn=2.3であった。
【0029】更に、該酢酸ビニル系重合体溶液(固形分45%)2000kgに水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液83kgを加えて40℃でケン化し、105℃で乾燥して、ケン化度99.1モル%、重合度1100、4%水溶液とした場合の粘度13.5mPa・s(20℃)のポリビニルアルコールを得た。又、得られたポリビニルアルコールの分子量分布(Mw/Mn、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)を、再酢化して、GPCで測定したところ、Mw/Mn=2.1であった。
【0030】実施例2
コンデンサー及び撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニルモノマー8000kg及びメタノール2000kgを仕込んだ後、撹拌しながら加熱して1時間還流させた後、重合触媒としてアセチルパーオキシド1.5%メタノール溶液87kgを添加し、還流下で6時間重合を行った。その後、冷却し還流がおさまったところで、重合禁止剤としてハイドロキノン0.1%メタノール溶液80kgを反応缶の上部より添加すると同時に、メタノール5200kgを反応缶の下部より導入し、撹拌し、均一な溶液(酢酸ビニルの重合率80%、固形分濃度41.7%)を得た。
【0031】得られた溶液を蒸留し未反応モノマーを取り除き、固形分濃度45%に調整した。かかる酢酸ビニル系重合体溶液中のポリ酢酸ビニルの分子量分布(Mw/Mn、Mw:重量平均分子量,Mn:数平均分子量)をGPCで測定したところ、Mw/Mn=2.3であった。
【0032】更に、該酢酸ビニル系重合体溶液(固形分45%)2000kgに水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液56kgを加えて35℃でケン化し、105℃で乾燥して、ケン化度87モル%、重合度1400、4%水溶液とした場合の粘度22mPa・s(20℃)のポリビニルアルコールを得た。又、得られたポリビニルアルコールの分子量分布(Mw/Mn、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)を、再酢化して、GPCで測定したところ、Mw/Mn=2.1であった。
【0033】実施例3
コンデンサー及び撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニルモノマー6000kg及びメタノール750kgを仕込んだ後、撹拌しながら加熱して1時間還流させた後、重合触媒としてアセチルパーオキシド1.5%メタノール溶液16kgを添加し、還流下で6時間重合を行った。その後、冷却し還流がおさまったところで、重合禁止剤としてハイドロキノン0.1%メタノール溶液80kgを反応缶の上部より添加すると同時に、メタノール4970kgを反応缶の下部より導入し、撹拌し、均一な溶液(酢酸ビニルの重合率65%、固形分濃度33%)を得た。
【0034】得られた溶液を蒸留し未反応モノマーを取り除き、固形分濃度32%に調整した。かかる酢酸ビニル系重合体溶液中のポリ酢酸ビニルの分子量分布(Mw/Mn、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)をGPCで測定したところ、Mw/Mn=2.2であった。
【0035】更に、該酢酸ビニル系重合体溶液(固形分45%)2000kgに水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液28kgを加えて40℃でケン化し、105℃で乾燥して、ケン化度87モル%、重合度2200、4%水溶液とした場合の粘度52mPa・s(20℃)のポリビニルアルコールを得た。又、得られたポリビニルアルコールの分子量分布(Mw/Mn、Mw:重量平均分子量,Mn:数平均分子量)を、再酢化して、GPCで測定したところ、Mw/Mn=2.1であった。
【0036】比較例1
実施例1において、重合終了後に重合禁止剤とメタノールを共に反応缶の上部より投入した以外は同様に行った(酢酸ビニルの重合率93%、固形分濃度46.2%)。
【0037】得られた溶液を蒸留し未反応モノマーを取り除き、固形分濃度45%に調整した。かかる酢酸ビニル系重合体溶液中のポリ酢酸ビニルの分子量分布(Mw/Mn、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)をGPCで測定したところ、Mw/Mn=2.6であった。
【0038】更に、該酢酸ビニル系重合体溶液(固形分45%)2000kgに水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液83kgを加えて40℃でケン化し、105℃で乾燥して、ケン化度99.2モル%、重合度1050、4%水溶液とした場合の粘度12.2mPa・s(20℃)のポリビニルアルコールを得た。又、得られたポリビニルアルコールの分子量分布(Mw/Mn、Mw:重量平均分子量,Mn:数平均分子量)を、再酢化して、GPCで測定したところ、Mw/Mn=2.5であった。」

(キ)引用例7
引用例7には、次の記載がある。
「【請求項1】
ビニルエステル系単量体を重合させることによりポリビニルエステルを製造する方法であって、可視光または紫外光照射下、
(A)遷移金属錯体;
(B)有機ヨウ素化物;および
(C)ルイス塩基;
からなるリビングラジカル重合開始剤系の存在下で、ビニルエステル系単量体(D)を重合させ、ポリビニルエステルを得る、前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法によって得られたポリビニルエステルを鹸化する、ポリビニルアルコールを製造する方法。
【請求項3】
得られる重合体の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが1.05?1.90の範囲内にある、請求項1または2に記載の方法。」
「【背景技術】
【0002】
ラジカル重合を用いたビニル系重合体の製造は、ポリ酢酸ビニル等の各種重合体の製造方法として、古くから工業的規模で実施されている。従来の製造方法による場合、一連のラジカル重合反応における生長ラジカルは、再結合、不均化等の停止反応や連鎖移動等の副反応により不活性化してしまうため、得られるビニル系重合体はその分子量分布が広く、また、重合体の分子量制御、重合体の分子末端の制御、ブロックポリマーの合成等は困難であった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来の技術的課題を解決し、ポリビニルエステルの一次構造を精密に制御しながら、すなわち、その分子量および分子量分布を精密に制御しながら工業的に容易にポリビニルエステルおよびポリビニルアルコールを製造する方法を提供することにある。」
「【0035】
本発明の製造方法により得られるポリビニルエステルの分子量は、小さすぎると重合体としての機能が発現しにくく、大きすぎると取扱いが困難になるので、500?500000(数平均分子量)が好ましく、1000?200000(数平均分子量)がより好ましい。ここで、ポリビニルエステルの分子量の調整は、上記リビングラジカル重合開始剤系に含有される成分(B)の有機ヨウ素化物の濃度を調整することにより行うことができる。具体的には、有機ヨウ素化物の濃度を増大させることにより、ポリビニルエステルの分子量を小さくすることができ、逆に、有機ヨウ素化物の濃度を低下させることにより、ポリビニルエステルの分子量を大きくすることができる。」
「【0048】
実施例1
溶媒を用いずに、(ペンタカルボニルマンガン)ダイマー(Aldrich社製)が24mmol/l、ヨード酢酸エチル(Aldrich社製)が48mmol/l、トリ(n-ブチル)アミン(和光純薬工業(株)製)が24mmol/l、酢酸ビニルモノマー(和光純薬工業(株)製)が9.6mol/l、n-オクタン(内部標準;和光純薬工業(株)製)が0.31mol/lになるように均一に混合して重合反応液を調製し、その重合反応溶液を0.6mlずつ3本の試験管に分注・溶封し、可視光照射下、40℃に加温して重合を開始させた。それぞれ20分、40分および80分間反応させた後、重合溶液を-78℃に冷却して重合を停止させた。
【0049】
得られた反応液中の酢酸ビニルモノマーを、n-オクタンを内部標準としてガスクロマトグラフィーにより分析したところ、酢酸ビニルの重合率は、それぞれ26%、66%および91%であった。また、得られた反応溶液をアニソールで希釈した後、n-へキサン中に投入して重合体を沈殿させ、n-へキサンで数回洗浄した後、室温で減圧乾燥することによりポリ酢酸ビニルを得た。得られたポリ酢酸ビニルの分子量および分子量分布をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定したところ、Mnはそれぞれ、6700、13100および16900、Mw/Mnはそれぞれ1.22、1.68および1.82であった。
【0050】
実施例2
可視光照射下、溶媒に1,3-ビス(ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼンを用い、(ペンタカルボニルマンガン)ダイマーが13mmol/l、ヨード酢酸エチルが26mmol/l、トリ(n-ブチル)アミンが13mmol/l、酢酸ビニルモノマーが5.1mol/l、n-オクタンが0.15mol/lになるように均一に混合して重合反応液を調製し、その重合反応溶液を0.6mlずつ3本の試験管に分注・溶封し、40℃に加温して重合を開始させた。それぞれ20分、40分および100分間反応させた後、重合溶液を-78℃に冷却して重合を停止させた。
【0051】
得られた反応液中の酢酸ビニルモノマーを、n-オクタンを内部標準としてガスクロマトグラフィーにより分析したところ、酢酸ビニルの重合率は、それぞれ57%、71%および87%であった。また、得られた反応溶液をアニソールで希釈した後、n-へキサン中に投入して重合体を沈殿させ、n-へキサンで数回洗浄した後、室温で減圧乾燥することによりポリ酢酸ビニルを得た。得られたポリ酢酸ビニルの分子量および分子量分布をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定したところ、Mnはそれぞれ14500、17200および21600、Mw/Mnはそれぞれ1.66、1.75および1.79であった。
【0052】
実施例3
溶媒を用いずに、(ペンタカルボニルマンガン)ダイマー(Aldrich社製)が12mmol/l、ヨード酢酸エチル(Aldrich社製)が48mmol/l、トリ(n-ブチル)アミン(和光純薬工業(株)製)が12mmol/l、酢酸ビニルモノマー(和光純薬工業社製)が9.7mol/l、n-オクタン(内部標準;和光純薬工業(株)製)が0.31mol/lになるように均一に混合して重合反応液を調製し、その重合反応溶液を0.6mlずつ3本の試験管に分注・溶封し、可視光照射下、40℃に加温して重合を開始させた。それぞれ20分、40分および100分間反応させた後、重合溶液を-78℃に冷却して重合を停止させた。
【0053】
得られた反応液中の酢酸ビニルモノマーを、n-オクタンを内部標準としてガスクロマトグラフィーにより分析したところ、酢酸ビニルの重合率はそれぞれ、28%、57%および92%であった。また、得られた反応溶液をアニソールで希釈した後、n-へキサン中に投入して重合体を沈殿させ、n-へキサンで数回洗浄した後、室温で減圧乾燥することによりポリ酢酸ビニルを得た。得られたポリ酢酸ビニルの分子量および分子量分布をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定したところ、Mnはそれぞれ、5800、9800および16500、Mw/Mnはそれぞれ1.29、1.35および1.75であった。
【0054】
比較例1
溶媒を用いずに、(ペンタカルボニルマンガン)ダイマーが24mmol/l、ヨード酢酸エチル(Aldrich社製)が48mmol/l、トリ(n-ブチル)アミンが24mmol/l、酢酸ビニルモノマーが9.6mol/l、n-オクタンが0.31mol/lになるように均一に混合して重合反応液を調製し、その重合反応溶液を0.6mlずつ2本の試験管に分注・溶封し、遮光下、40℃に加温して重合を開始させた。それぞれ24時間および96時間反応させた後、重合溶液を-78℃に冷却して重合を停止させた。得られた反応液中の酢酸ビニルモノマーを、n-オクタンを内部標準としてガスクロマトグラフィーにより分析したところ、酢酸ビニルの重合率は、それぞれ3%および5%であった。
【0055】
比較例2
溶媒を用いずに、ヨード酢酸エチル(Aldrich社製)が48mmol/l、トリ(n-ブチル)アミンが24mmol/l、酢酸ビニルモノマーが9.6mol/l、n-オクタンが0.31mol/lになるように均一に混合して、試験管に移した後に溶封し、可視光照射下、40℃に加温した。96時間後、溶液を-78℃に冷却し、得られた反応液中の酢酸ビニルモノマーを、n-オクタンを内部標準としてガスクロマトグラフィーにより分析したところ、重合は全く進行していなかった。
【0056】
比較例3
溶媒を用いずに、(ペンタカルボニルマンガン)ダイマーが24mmol/l、トリ(n-ブチル)アミンが24mmol/l、酢酸ビニルモノマーが9.6mol/l、n-オクタンが0.31mol/lになるように均一に混合して、試験管に移した後に溶封し、可視光照射下、40℃に加温した。96時間後、溶液を-78℃に冷却し、得られた反応液中の酢酸ビニルモノマーを、n-オクタンを内部標準としてガスクロマトグラフィーにより分析したところ、重合は全く進行していなかった。
【0057】
比較例4
溶媒を用いずに、(ペンタカルボニルマンガン)ダイマーが24mmol/l、ヨード酢酸エチル(Aldrich社製)が48mmol/l、酢酸ビニルモノマーが9.6mol/l、n-オクタンが0.31mol/lになるように均一に混合して重合反応液を調製し、その重合反応溶液を0.6mlずつ2本の試験管に分注・溶封し、可視光照射下、40℃に加温して重合を開始させた。それぞれ100分および200分間反応させた後、重合溶液を-78℃に冷却して重合を停止させた。得られた反応液中の酢酸ビニルモノマーを、n-オクタンを内部標準としてガスクロマトグラフィーにより分析したところ、酢酸ビニルの重合率は、それぞれ70%および93%であった。また、得られた反応溶液をアニソールで希釈した後、n-ヘキサン中に投入して重合体を沈殿させ、n-ヘキサンで数回洗浄した後、室温で減圧乾燥することによりポリ酢酸ビニルを得た。得られたポリ酢酸ビニルの分子量および分子量分布をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定したところ、Mnはそれぞれ10900および15700、Mw/Mnはそれぞれ2.16および1.95であった。
【0058】
実施例1?3と比較例1?4との比較から分かるように、光を遮断した比較例1の場合は重合が非常に遅くなり、リビングラジカル重合開始剤系のうち、成分(A)の遷移金属錯体を欠いている比較例2の場合には、全く重合反応が起こらなかった。また、リビングラジカル重合開始剤系のうち、成分(B)の有機ヨウ素化物を欠いている比較例3の場合にも、全く重合反応が起こらなかった。リビングラジカル重合開始剤系のうち、成分(C)のルイス塩基を欠いている比較例4の場合には、重合速度が遅く、分子量分布も広くなった。」

(ク)引用例8
引用例8には、次の記載がある。
「[請求項1]
セルロース系バイオマスを原料とした加水分解性セルロースの製造に用いられるポリビニルアルコール系重合体であって、
平均重合度が200以上5,000以下、
ケン化度が70モル%以上99.9モル%以下、
分子量分布が2.2以上であることを特徴とするポリビニルアルコール系重合体。」
「[0028] 本発明のPVA系重合体は、セルロース系バイオマスを原料とした加水分解性セルロースの製造に用いられるものである。具体的には、後に詳述するように、PVA系重合体の水溶液と、セルロース系バイオマスとを混合して混合物とし、この混合物を練り混ぜることなどにより剪断力を付加し、セルロース系バイオマスを分子レベル(準結晶構造レベル)で細かく分断するために用いることができる。この際、当該PVA系重合体の水溶液を用いることで上記混合物の粘性を好適な状態に保つことができる。その結果、当該PVA系重合体によれば、混合物の混練等の際、粘り気のある水溶液によってセルロースポリマー鎖を容易に引き剥がし、また、準結晶構造を有するポリマー鎖の内部に水及びポリビニルアルコール系重合体が効率的に進入することでポリマー鎖間の水素結合を弱めていくことができる。さらには、このように引き裂かれたポリマー鎖間にポリビニルアルコール系重合体が進入することで、この構造の再結晶化を防ぐことができる。なお、このように分子レベルで分断されたセルロースは、加水分解酵素等によって容易に分解される。
[0029] 当該PVA系重合体の平均重合度は、200以上5,000以下であり、600以上4,000以下が好ましく、1,000以上3,700以下がより好ましく、1,800以上3,500以下がさらに好ましく、2,000以上3,000以下が特に好ましい。当該PVA系重合体の平均重合度を上記範囲とすることで、このPVA系重合体を水溶液として用い、セルロース系バイオマスと混合した際に、好適な粘性で効率よく、かつ均一に混ぜ合わせることができ、その結果、セルロースポリマー鎖を効率的に分断し、加水分解を容易に行うことができる状態とすることができる。また、このように平均重合度の高いPVA系重合体を用いることで、少ない量のホウ酸等でゲル化させることができる。
[0030] 当該PVA系重合体の平均重合度が200未満の場合は、分子量が小さすぎるため、ある程度濃度を調整しても十分な粘性を水溶液に付与することができず、混練の際にセルロースポリマー鎖同士を物理的に引き離す力が弱くなる。逆に、この平均重合度が5,000を超えると粘性が高すぎて分断工程における作業性やハンドリング性が低下すると共に、分子量が大きすぎることでセルロースポリマー鎖間に進入し難くなり、水素結合を弱める作用が低下するおそれがある。」
「[0033] 当該PVA系重合体の分子量分布の下限は2.2であり、2.25が好ましい。一方、この分子量分布の上限は、特に限定されないが、5が好ましく、4がより好ましく、3.5がさらに好ましく、3が特に好ましい。当該PVA系重合体の分子量分布を上記範囲とすることで、このPVA系重合体を水溶液として用い、セルロース系バイオマスと混合した際に、好適な粘性で効率よく、かつ均一に混ぜ合わせることができると共に、様々なサイズを有するセルロースの準結晶構造の隙間に効果的に進入することができ、その結果、セルロースポリマー鎖を効果的に分断し、加水分解を容易に行うことができる状態とすることができる。
[0034] 当該PVA系重合体の分子量分布が上記下限未満の場合は、分子量のバラツキが小さく様々なサイズの準結晶構造の隙間に対応して進入することができず、水素結合を弱める機能が十分に発揮されないおそれがある。逆に、PVA系重合体の分子量分布が上記上限を超える場合も、分子量のバラツキが大きすぎるため、準結晶構造の隙間に対応せず、進入できないPVA系重合体の割合が高まり、セルロースポリマー鎖間の水素結合を弱める機能が十分に発揮されないおそれがある。」
「[0075] [調製例1](PVA8)
50質量部のPVA-217(株式会社クラレ製)と50質量部のPVA-205(株式会社クラレ製)とを混合してPVA8を得た。このPVA8の平均重合度は1,090、ケン化度は88.2モル%、分子量分布(Mw/Mn)は2.85であった。
[0076] [比較合成例1?3](PVA9?11)
重合条件及びケン化条件を変えた以外はPVA1と同様にしてPVA9?11を得た。これらの平均重合度、ケン化度及び分子量分布は以下の表1に示す。
[0077] また、株式会社クラレ製のPVA系重合体であるPVA-217及びPVA-205についての平均重合度、ケン化度及び分子量分布を併せて以下の表1に示す。
[0078][表1]



(ケ)引用例9
引用例9には、次の記載がある。
「実施例1
PVA217((株)クラレ製PVAで重合度1750,鹸化度88モル%)」(3頁左上欄11?13行)
「実施例5
PVA205((株)クラレ製PVAで重合度550,鹸化度88モル%)」(4頁左下欄12?14行)

(コ)引用例10
引用例10には、次の記載がある。
「【請求項1】 水性媒体中ラジカル形成化合物としてジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレートの存在下で、ラジカルにより開始される溶液重合によりビニルピロリドンモノマーからポリビニルピロリドンを製造する方法において、原料のビニルピロリドンモノマー中の塩基性不純物を吸着剤で除去したビニルピロリドンモノマーを使用することを特徴とするポリビニルピロリドンの製造方法。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、ラジカル形成剤として分解生成物も安全なジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレートを使用し、高分子量で分子量分布の狭い、電子材料や化粧品等にも使用できる不純物の少ないポリビニルピロリドンの製造方法を提供することである。」
「【0030】
【表1】

【0031】表1に示した結果から明らかなように、吸着剤で処理したビニルピロリドンモノマーを使用してジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレートの存在下で重合させることにより、残存モノマーが低く、高分子量で、分子量分布がシャープなポリビニルピロリドンを得ることがでた。」

引用発明の認定
(ア)引用例1に記載された発明(引用発明1)
引用例1には、その請求項1の記載からみて、二酸化ケイ素がコロイダルシリカである場合に着目すれば、
「半導体ウエハの表面を精密研磨する際に使用される研磨用組成物であって、二酸化ケイ素、アルカリ化合物、水溶性高分子化合物及び水を含有し、前記二酸化ケイ素は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が5?30nmであるとともにレーザー散乱法で測定される平均二次粒子径が5?120nmであるコロイダルシリカである研磨用組成物。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(イ)引用例2に記載された発明(引用発明2)
引用例2には、【0008】から、半導体ウエハの仕上げ研磨で使用される、研磨用組成物について、【0022】の砥粒がコロイダルシリカであるものに着目すると、請求項1を引用する請求項3の記載からみて、
「研磨用組成物中のナトリウムイオン及び酢酸イオンのいずれか一方の濃度が10ppb以下であって、水溶性高分子とアルカリとコロイダルシリカである砥粒とを含有する半導体ウエハの仕上げ研磨で使用される研磨用組成物。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

(ウ)引用例3に記載された発明(引用発明3)
引用例3には、その請求項1を引用する請求項2のうち、「二酸化ケイ素が、コロイダルシリカ」であるものに着目し、【0012】から、該請求項2の「シリコン半導体ウェーハの研磨用組成物」は、シリコン半導体ウェーハを鏡面研磨する用途に用いられるものであるといえ、さらに、【0016】の「二酸化ケイ素」が「研磨材」であるという記載を参照すると、引用例3には、
「下記の(a)?(e)を含んでなる、シリコン半導体ウェーハを鏡面研磨する用途に用いられるシリコン半導体ウェーハの研磨用組成物。
(a)コロイダルシリカである二酸化ケイ素である研磨材、(b)水、(c)水溶性高分子化合物、(d)塩基性化合物、および(e)アルコール性水酸基を1?10個有する化合物。」(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

(エ)引用例4に記載された発明(引用発明4)
引用例4において、請求項1を引用する請求項7の記載と、【0054】の「本発明の研磨液組成物は、研磨速度向上の観点から、塩基性化合物を含有することが好ましい。」及び【0092】?【0093】の「(2)研磨方法・・・得られた研磨液組成物を用いて、下記の研磨条件で下記シリコンウエハを15分間研磨した。・・・ <シリコンウエハ>・・・8インチシリコン片面鏡面ウエハ(二段研磨終了後のもの、厚さ0.7mm)を4cm×4cmに切断して使用。」という記載から、引用例4には、
「下記一般式(1)で表される構成単位(a1)、下記一般式(2)で表される構成単位(a2)、及び下記一般式(3)で表される構成単位(a3)を有し、構成単位(a3)の合計が高分子化合物の構成単位中0.001?1.5モル%である高分子化合物(【0030】から、以下、単に、「カチオン基を有する高分子化合物」という。)、コロイダルシリカである研磨材、塩基性化合物及び水系媒体を含有する、二段研磨終了後のシリコンウエハを研磨するシリコンウエハ用研磨液組成物。
【化1】

〔式中、Rは炭素数1?3のアルキル基であり、Xは分子中にカチオン基を有し且つビニルアルコール低級脂肪酸エステルと共重合可能な不飽和化合物に由来する構成単位である。〕」(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

(オ)引用例5に記載された発明(引用発明5)
引用例5には、請求項4の「請求項1?3のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて半導体ウエハの表面を研磨する」という記載からみて、請求項1の「研磨用組成物」は、半導体ウエハの表面を研磨する用途に用いられるものであるといえる。
また、【0004】から、該研磨用組成物は、「研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物表面における研磨加工に起因するLPDの数を低減することが可能な」ものといえる。
そして、【0020】の「本実施形態の研磨用組成物に含まれる砥粒は、例えば、コロイダルシリカ及びフュームドシリカのいずれであってもよい。」という記載からみて、請求項1の「研磨用組成物」には、コロイダルシリカの砥粒が含まれるといえる。

そうすると、引用例5には、
「ポリビニルピロリドン及びポリN-ビニルホルムアミドから選ばれる少なくとも一種類の水溶性高分子と、
アルカリと、
コロイダルシリカの砥粒と、
を含有する半導体ウエハの表面を研磨する用途に用いられる、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物表面における研磨加工に起因するLPDの数を低減することが可能な研磨用組成物。」(以下、「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。

ウ 本件発明と引用発明との対比・判断
(ア)本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」などという。)について
a 引用発明1を主引用発明とした場合
本件発明1と引用発明1とを対比する。
本件発明1の「セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種である水溶性高分子」と引用発明1の「水溶性高分子」とは、「水溶性高分子」である点で共通する。
また、引用例1には、「半導体ウエハの製造プロセスにおいてインゴットからポリッシュドウエハが作製されるまでのウエハ加工には、スライス工程、ベベル工程、ラップ工程、エッチ工程、エッヂポリッシュ工程及びポリッシュ工程が具備されている。・・・続くポリッシュ工程ではウエハ表面が精密研磨される。」(【0019】)、「上記の研磨用組成物は、この一連の工程のうちポリッシュ工程において使用されるものである。」(【0020】)と記載されていることから、引用発明1の「半導体ウエハの表面を精密研磨する際に使用される研磨用組成物」は、半導体ウエハの表面を最終研磨する際に使用される研磨用組成物といえることから、本件発明1の「シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物」に相当する。
そして、引用発明1の「アルカリ化合物」は、本件発明1の「塩基性化合物」に相当し、引用発明1の「BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が5?30nmであるとともにレーザー散乱法で測定される平均二次粒子径が5?120nmであるコロイダルシリカである」「二酸化ケイ素」は、本件発明1の「砥粒としてコロイダルシリカ」に相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明1とは、
「水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有する、
シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1-1)
水溶性高分子について、本件発明1は、「セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種であ」って、「前記セルロース誘導体は、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満であり、前記ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種は、重量平均分子量が100000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.0以下であり、前記オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体は、重量平均分子量が250000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が2.0以下であり、前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体は、重量平均分子量が200000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.5以下であること」(以下、この重量平均分子量及び分子量分布についての規定を、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」ということもある。また、「重量平均分子量(Mw)」は、単に、「重量平均分子量」又は「Mw」、「数平均分子量(Mn)」は、単に、「数平均分子量」又は「Mn」、「重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布」は、単に、「分子量分布」ということがある。)であるのに対し、引用発明1はこのような規定はされていない点。

ここで、上記相違点1-1について検討する。
引用例1には、引用発明1の「水溶性高分子化合物」について、「ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール又はポリエチレンオキサイドが好ましく、その中でもヒドロキシエチルセルロースがより好ましい。」(【0015】)と記載されている。
また、引用例1には、「本実施形態の研磨用組成物に含まれる水溶性高分子化合物の平均分子量を、ヒドロキシエチルセルロースなら300,000以上、ポリビニルアルコールなら1,000以上、ポリエチレンオキサイドなら20,000以上とすれば、半導体ウエハ表面のヘイズレベルを顕著に低減する本実施形態の研磨用組成物の効果が、前記平均分子量が過小なことに起因して低下するのを防止することができる。」(【0030】)、「本実施形態の研磨用組成物に含まれる水溶性高分子化合物の平均分子量を、ヒドロキシエチルセルロースなら3,000,000以下、ポリビニルアルコールなら1,000,000以下、ポリエチレンオキサイドなら50,000,000以下とすれば、該平均分子量が過大なことに起因して研磨用組成物の粘度が過度に増大するのを防止することができる。」(【0033】)等の記載があり、「水溶性高分子化合物」の「平均分子量」についての記載は認められるものの、その分子量分布についての記載は見当たらない。

そして、引用例1に記載された上記「ヒドロキシエチルセルロース」及び「ポリビニルアルコール」が、本件発明1の「セルロース誘導体」及び「ポリビニルアルコール」にそれぞれ相当し、引用発明1の「平均分子量」と、本件発明1の「重量平均分子量」との関係は判然としないものの、仮に、本件発明1の「セルロース誘導体」及び「ポリビニルアルコール」と、引用例1の上記「ヒドロキシエチルセルロース」及び「ポリビニルアルコール」とに「重量平均分子量」について重複するものがあるとしても、引用例1の記載からは、引用例1の「ヒドロキシエチルセルロース」及び「ポリビニルアルコール」の分子量分布は不明というほかない。

一方、引用例6の比較例1、引用例7の比較例4、引用例8の実施例7等に、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」を有する「ポリビニルアルコール」が示されているとしても、いずれの「ポリビニルアルコール」も、引用発明1のような半導体ウエハの表面を精密研磨の際の研磨用組成物において用いられるものではなく、引用例1の上記「ポリビニルアルコール」と、上記引用例6の比較例1、引用例7の比較例4、引用例8の実施例7等に記載された「ポリビニルアルコール」との関連は見出すことができない。

そうすると、引用例6?8に基いて、引用例1の上記「ポリビニルアルコール」の分子量分布が、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布のものであるということはできない。

また、引用例1の上記「ポリビニルアルコール」の分子量分布が、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布のものであるという技術常識も見当たらない。

そうすると、上記相違点1-1は、実質的な相違点であり、本件発明1は、引用発明1と同一であるということはできない。

そして、引用例6の比較例1、引用例7の比較例4、引用例8の実施例7等に開示された、「本件発明の重量平均分子量及び分子量分布」を有する「ポリビニルアルコール」が、本件の出願前に公知だからといって、引用発明1の「水溶性高分子化合物」や引用例1に記載された上記「ヒドロキシエチルセルロース」及び「ポリビニルアルコール」について、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」のものとする、動機付けは見当たらない。

そして、本件発明1は、上記相違点1-1に係る発明特定事項を備えることで、本件明細書の【0004】、【0012】、【0016】等に記載されるように、シリコン基板の最終研磨後の表面のLPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥を低減することが容易になるという、引用発明1からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるから、本件発明1を引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

b 引用発明2を主引用発明とした場合
本件発明1と引用発明2とを対比する。
本件発明1の「セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種である水溶性高分子」と引用発明2の「水溶性高分子」とは、「水溶性高分子」である点で共通する。
また、引用発明2の「半導体ウエハの仕上げ研磨で使用される研磨用組成物」は、半導体ウエハの表面を最終研磨する際に使用される研磨用組成物といえることから、本件発明1の「シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物」に相当する。
そして、引用発明2の「アルカリ」は、本件発明1の「塩基性化合物」に相当し、引用発明2の「コロイダルシリカである砥粒」は、本件発明1の「砥粒としてコロイダルシリカ」に相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明2とは、
「水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有する、
シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2-1)
水溶性高分子について、本件発明1は、「セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種であ」って、上記「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」であるのに対し、引用発明2の「水溶性高分子」は、このような規定はされていない点。

ここで、相違点2-1について検討する。
引用例2には、「本実施形態の研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、・・・、水溶性セルロース又はビニルポリマーであることが好ましい。水溶性セルロースの具体例としては、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。ビニルポリマーの具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。」(【0011】)と記載されるように、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等が例示されている。
また、水溶性高分子の平均分子量の上限について、「研磨用組成物に含まれるビニルポリマーの平均分子量が1,000,000以下、さらに言えば500,000以下、もっと言えば300,000以下であれば、同じく親水膜による研磨速度の低下を強く抑制することができる。」(【0016】)と記載され、ポリビニルアルコールの平均分子量が1,000,000以下であることが記載されている。

そうすると、引用例2には、引用発明2の「水溶性高分子化合物」の「平均分子量」についての記載は認められるものの、その分子量分布についての記載は見当たらない。

そして、引用例2の上記「ポリビニルアルコール(PVA)」が、本件発明1の「ポリビニルアルコール」に相当し、引用発明2の「平均分子量」と、本件発明1の「重量平均分子量」との関係は判然としないものの、仮に、本件発明1の「ポリビニルアルコール」と、引用例2の上記「ポリビニルアルコール(PVA)」とに「重量平均分子量」について重複するものがあるとしても、引用例2の記載からは、引用例2の「ポリビニルアルコール(PVA)」の分子量分布は不明というほかない。

一方、引用例6の比較例1、引用例7の比較例4、引用例8の実施例7等に、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」を有する「ポリビニルアルコール」が示されているとしても、上記aで述べたように、引用例2の上記「ポリビニルアルコール(PVA)」と、上記引用例6の比較例1、引用例7の比較例4、引用例8の実施例7等に記載された「ポリビニルアルコール」との関連は見出すことができない。

そうすると、引用例2の上記「ポリビニルアルコール(PVA)」の分子量分布が、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布のものであるということはできない。

また、引用例2の上記「ポリビニルアルコール(PVA)」の分子量分布が、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布のものであるという技術常識も見当たらない。

そうすると、上記相違点2-1は、実質的な相違点であり、本件発明1は、引用発明2と同一であるということはできない。

また、引用発明2の「水溶性高分子」や引用例2に記載された上記「ポリビニルアルコール(PVA)」について、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」のものとする、動機付けは見当たらない。

そして、上記aで述べたように、本件発明1は、上記相違点2-1に係る発明特定事項を備えることで、本件明細書の【0004】、【0012】、【0016】等に記載されるように、シリコン基板の最終研磨後の表面のLPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥を低減することが容易になるという、引用発明2からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるから、本件発明1を引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

c 引用発明3を主引用発明とした場合
本件発明1と引用発明3とを対比する。
本件発明1の「セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種である水溶性高分子」と引用発明3の「(c)水溶性高分子化合物」とは、「水溶性高分子」である点で共通する。
また、引用発明3の「シリコン半導体ウェーハを鏡面研磨する用途に用いられるシリコン半導体ウェーハの研磨用組成物」は、鏡面研磨が最終研磨であって、半導体ウエハの表面を最終研磨する際に使用される研磨用組成物といえるものであり、本件発明1の「シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物」に相当する。
そして、引用発明3の「(d)塩基性化合物」は、本件発明1の「塩基性化合物」に相当し、引用発明3の「(a)コロイダルシリカである二酸化ケイ素である研磨材」は、本件発明1の「砥粒としてコロイダルシリカ」に相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明3とは、
「水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有する、
シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点3-1)
水溶性高分子について、本件発明1は、「セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種であ」って、上記「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」であるのに対し、引用発明3の「(c)水溶性高分子化合物」は、このような規定はされていない点。

ここで、相違点3-1について検討する。
引用例3には、「このような水溶性高分子化合物は、具体的には、セルロース誘導体およびポリビニルアルコールの少なくとも1種類であることが好ましい。また、セルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロ-ス、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、およびカルボキシメチルエチルセルロースからなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種類であることが好ましい。」(【0025】)と記載されるように、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等が例示されている。
また、ポリビニルアルコール(PVA)の平均分子量について、「ポリビニルアルコールは、平均重合度が200?3,000、けん化度70?100%、の水溶性高分子化合物であることが好ましい。」(【0025】)と記載され、ビニルアルコール単位の分子量44に、平均重合度を乗算し、平均分子量は、8800?132000程度と計算できる。

そうすると、引用例3には、引用発明3の「(c)水溶性高分子化合物」の「平均分子量」についての記載は認められるものの、その分子量分布についての記載は見当たらない。

そして、引用例3の上記「ポリビニルアルコール(PVA)」が、本件発明1の「ポリビニルアルコール」に相当し、引用発明3の「平均分子量」と、本件発明1の「重量平均分子量」との関係は判然としないものの、仮に、本件発明1の「ポリビニルアルコール」と、引用例3の上記「ポリビニルアルコール(PVA)」とに「重量平均分子量」について重複するものがあるとしても、引用例3の記載からは、引用例3の「ポリビニルアルコール(PVA)」の分子量分布は不明というほかない。

一方、引用例6の比較例1、引用例7の比較例4、引用例8の実施例7等に、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」を有する「ポリビニルアルコール」が示されているとしても、上記aで述べたように、引用例3の上記「ポリビニルアルコール(PVA)」と、上記引用例6の比較例1、引用例7の比較例4、引用例8の実施例7等に記載された「ポリビニルアルコール」との関連は見出すことができない。

そうすると、引用例3の上記「ポリビニルアルコール(PVA)」の分子量分布が、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布のものであるということはできない。

また、引用例3の上記「ポリビニルアルコール(PVA)」の分子量分布が、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布のものであるという技術常識も見当たらない。

そうすると、上記相違点3-1は、実質的な相違点であり、本件発明1は、引用発明3と同一であるということはできない。

また、引用発明3の「(c)水溶性高分子化合物」や引用例3に記載された上記「ポリビニルアルコール(PVA)」について、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」のものとする、動機付けは見当たらない。

そして、上記aで述べたように、本件発明1は、上記相違点3-1に係る発明特定事項を備えることで、本件明細書の【0004】、【0012】、【0016】等に記載されるように、シリコン基板の最終研磨後の表面のLPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥を低減することが容易になるという、引用発明3からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるから、本件発明1を引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

d 引用発明4を主引用発明とした場合
本件発明1と引用発明4とを対比する。
本件発明1の「セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種である水溶性高分子」と引用発明4の「カチオン基を有する高分子化合物」とは、引用発明4の「カチオン基を有する高分子化合物」が水溶性であることは明らかであるから、「水溶性高分子」である点で共通する。
また、引用発明4の「二段研磨終了後のシリコンウエハを研磨するシリコンウエハ用研磨液組成物」は、二段研磨終了後の研磨が最終研磨であって、半導体ウエハの表面を最終研磨する際に使用される研磨用組成物といえるものであり、本件発明1の「シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物」に相当する。
そして、引用発明4の「塩基性化合物」は、本件発明1の「塩基性化合物」に相当し、引用発明4の「コロイダルシリカである研磨材」は、本件発明1の「砥粒としてコロイダルシリカ」に相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明4とは、
「水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有する、
シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点4-1)
水溶性高分子について、本件発明1は、「セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種であ」って、上記「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」であるのに対し、引用発明4の「カチオン基を有する高分子化合物」は、このような規定はされていない点。

ここで、相違点4-1について検討する。
引用例4には、「カチオン基を有する高分子化合物」の具体例として、「カチオン性ポリビニルアルコール」(【0102】?【0103】)が示されるように、ポリビニルアルコールが例示されている。また、【0048】には、研磨液組成物に、「カチオン基を有する高分子化合物」の水溶性高分子化合物を含有されることが記載され、ヒドロキシエチルセルロース等が例示されている。
また、「カチオン基を有する高分子化合物」の重量平均分子量について、「10,000?1,000,000」(【0030】)であることが記載されている。

そうすると、引用例4には、引用発明4の「カチオン基を有する高分子化合物」の「重量平均分子量」についての記載は認められるものの、その分子量分布についての記載は見当たらない。

そして、仮に、本件発明1の「ポリビニルアルコール」と、引用例4の上記「ポリビニルアルコール」とに「重量平均分子量」について重複するものがあるとしても、引用例4の記載からは、引用例4の「ポリビニルアルコール」の分子量分布は不明というほかない。

一方、引用例6の比較例1、引用例7の比較例4、引用例8の実施例7等に、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」を有する「ポリビニルアルコール」が示されているとしても、上記aで述べたように、引用例4の上記「ポリビニルアルコール」と、上記引用例6の比較例1、引用例7の比較例4、引用例8の実施例7等に記載された「ポリビニルアルコール」との関連は見出すことができない。

そうすると、引用例4の上記「ポリビニルアルコール」の分子量分布は、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布であるということはできない。

また、引用例4の上記「ポリビニルアルコール」の分子量分布は、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布のものであるという技術常識も見当たらない。

そうすると、上記相違点4-1は、実質的な相違点であり、本件発明1は、引用発明4と同一であるということはできない。

また、引用発明4の「カチオン基を有する高分子化合物」や引用例4に記載された上記「ポリビニルアルコール」について、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布のものとする、動機付けは見当たらない。

そして、上記aで述べたように、本件発明1は、上記相違点4-1に係る発明特定事項を備えることで、本件明細書の【0004】、【0012】、【0016】等に記載されるように、シリコン基板の最終研磨後の表面のLPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥を低減することが容易になるという、引用発明4からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるから、本件発明1を引用発明4に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

e 引用発明5を主引用発明とした場合
本件発明1と引用発明5とを対比する。
本件発明1の「セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種である水溶性高分子」と、引用発明5の「ポリビニルピロリドン及びポリN-ビニルホルムアミドから選ばれる少なくとも一種類の水溶性高分子」とは、「水溶性高分子」であって、「側鎖官能基に窒素原子を有する重合体」である点で共通する。
また、引用発明5の「半導体ウエハの表面を研磨する用途に用いられる、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物表面における研磨加工に起因するLPDの数を低減することが可能な研磨用組成物」は、LPDの数を低減するものであるから、半導体ウエハの表面を最終研磨する際に使用される研磨用組成物といえるものであり、しかも、【0002】に記載されるように、半導体ウエハには、シリコンウエハが含まれることから、本件発明1の「シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物」に相当する。
そして、引用発明5の「アルカリ」は、本件発明1の「塩基性化合物」に相当し、引用発明5の「コロイダルシリカの砥粒」は、本件発明1の「砥粒としてコロイダルシリカ」に相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明5とは、
「水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有し、
前記水溶性高分子は、側鎖官能基に窒素原子を有する重合体であり、
シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点5-1)
「側鎖官能基に窒素原子を有する重合体である水溶性高分子」について、本件発明1は、「重量平均分子量が200000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.5以下である」るのに対し、引用発明5の「ポリビニルピロリドン及びポリN-ビニルホルムアミドから選ばれる少なくとも一種類の水溶性高分子」について、このような規定はされていない点。

ここで、相違点5-1について検討する。
引用例5の【0031】には、「PVP^(*1)は重量平均分子量が10,000であるポリビニルピロリドンを表し」と記載され、ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が200000以下のものが示されている。

しかしながら、引用例5には、引用発明5の「ポリビニルピロリドン及びポリN-ビニルホルムアミドから選ばれる少なくとも一種類の水溶性高分子」の分子量分布についての記載は見当たらない。

そして、仮に、本件発明1の「側鎖官能基に窒素原子を有する重合体である水溶性高分子」と、引用例5の上記「ポリビニルピロリドン」とに「重量平均分子量」について重複するものがあるとしても、引用例5の記載からは、引用例5の「ポリビニルピロリドン」の分子量分布は不明というほかない。

そうすると、引用例5の上記「ポリビニルピロリドン」の分子量分布は、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布であるということはできない。

また、引用例5の上記「ポリビニルピロリドン」の分子量分布は、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布のものであるという技術常識も見当たらない。

そうすると、上記相違点5-1は、実質的な相違点であり、本件発明1は、引用発明5と同一であるということはできない。

また、引用発明5の「側鎖官能基に窒素原子を有する重合体である水溶性高分子」や引用例5に記載された上記「ポリビニルピロリドン」について、「本件発明の水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布」に係る分子量分布のものとする、動機付けは見当たらない。

そして、上記aで述べたように、本件発明1は、上記相違点5-1に係る発明特定事項を備えることで、本件明細書の【0004】、【0012】、【0016】等に記載されるように、シリコン基板の最終研磨後の表面のLPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥を低減することが容易になるという、引用発明5からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるから、本件発明1を引用発明5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(イ)本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、本件発明2?9は、引用発明1?5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

エ 申立人の主張について
申立人は、平成30年8月3日付けの意見書において、甲12(特開2001-214155号公報)を引用し、「本件発明のような研磨用組成物において、小さい重量平均分子量や分子量分布のものを使用するのが好ましいことは周知」である旨主張している。

そこで、甲12の記載を検討する(下線は、当審が付与した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体基板、フォトマスク、各種メモリーハードディスク用基板等の電子機器部品を含む電子機器材料の表面の研磨に使用される研磨剤組成物に関し、特に半導体産業等におけるディバイスウェハーの表面平坦化加工に好適で、高精度の仕上げ面を得られ、ピッチングの発生が少なく、効率的に研磨を行なうことができる研磨剤組成物に関するものである。」
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、半導体製造における配線層形成などの高精度面を得るための研磨において、研磨速度が速く、研磨均一性が良好で、ピッチを形成しない研磨能力に優れた研磨剤組成物を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、カルボキシル基を有する重合体を含有する研磨剤組成物が、高精度面を必要とする電子機器材料の表面の研磨において、研磨速度が速く、研磨均一性が良好で、ピッチを形成しない化学的機械的研磨を可能にすることを見出して本発明を完成したのである。すなわち、本発明はカルボキシル基を有する重合体、特にアクリル酸を必須構成単量体とするカルボキシル基を有する重合体を含有することを特徴とする電子機器材料用研磨剤組成物に関するものである。」
「【0006】本発明にとり好ましい重合体は、不飽和カルボン酸の重合体であり、具体的にはポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリクロトン酸、アクリル酸/マレイン酸コポリマー、アクリル酸/メタクリル酸コポリマー、アクリル酸/フマル酸コポリマー、マレイン酸/フマル酸コポリマー等が挙げられる。本発明にとりさらに好ましい重合体はアクリル酸を必須構成単量体とするものであり、特に好ましいものはポリアクリル酸である。上記の様なポリ不飽和カルボン酸は不飽和カルボン酸の単独重合体であるのが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の重合性単量体、例えば、上記不飽和カルボン酸エステルやスチレン等のビニル単量体が共重合されているものも使用され得る。ビニル単量体の具体例としては、(メタ)アクリルアミド等のアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、パーフロロアルキルエチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(ヒドロキシ)アルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキサイド付加(メタ)アクリレート等のノニオン基付加(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、α-メチルスチレン等の香族ビニル単量体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ等のスルホン酸系単量体等が挙げられ、これらは2種以上を併用することも可能である。これらの重合体は常法のラジカル重合、アニオン重合、リビングラジカル重合などで得られるものであり、それらの重合体は、その平均分子量が、GPCによる重量平均分子量で300,000以下であることが好ましく、より好ましくは50,000以下、さらに好ましくは10,000以下、特に好ましくは500?5,000の範囲にあることである。これらの分子量は研磨剤組成物の組成や被研磨物質により最適値が変化するが、低い方が研磨剤粒子を均一に分散する効果がより良好になり、研磨の効率が向上する傾向にある。また、分子量分布の幅は、重量平均分子量(MW)と数平均分子量(MN)の比から推測されるものであり、その比が小さいほど研磨粒子を均一に分散する効果が良好になり、研磨の効率が向上する傾向にあり、本発明における重合体のGPCにより得られる重量平均分子量/数平均分子量の比は小さいほど研磨剤粒子を均一に分散する効果が良好になり、その比が2.0以下で研磨の効率がより向上するので好ましく、より好ましくは1.8以下で、特に好ましくは1.7以下のものである。なお、GPCの測定には東ソー社製HLC8020システム、使用カラムはG4000PWxl+G3000PWxl+G2500PWxl(東ソー社製)、溶離液は0.1MNaCl+リン酸バッファー(pH7)、検量線はポリアクリル酸Na(創和科学)を用いた。」
「【0009】
【作用】本発明の研磨剤組成物が電子機器材料の表面の研磨において、研磨速度が速く、研磨均一性が良好で、ピッチを形成しないという理由は明らかでないが、カルボキシル基含有重合体のカルボキシル基により、ピッチ等の腐食を抑制し、研磨剤組成物への溶解性を良好にしているものと思われる。」
「【0017】以上の試験結果より、比較例に示された不飽和カルボン酸ポリマーが添加されないものや不飽和カルボン酸ポリマーの代りにカルボン酸を添加した研磨剤に比べ、実施例で示される本発明による研磨剤が、平均研磨速度が大きく、且つピットが無いことが判る。
【0018】
【発明の効果】本発明の研磨剤組成物は、研磨加工において、ピットの発生を少なく、研磨速度の向上による効率的な研磨を行える研磨剤を可能とするものであり、半導体産業等におけるディバイスウェハーの表面平坦化加工などで高精度の仕上げ面を得ることを可能とし、研磨速度が高いことによる、研磨加工時間の短縮、研磨剤消費量の低減、装置の運転コストダウンによる加工コストメリットが得られるという優れた効果を奏するものである。」

これらの記載において、一般に、「デバイスウェハー」に関し、「ピッチ」というのは配線等の間隔を意味し、「ピット」というのは、腐食孔を意味することが技術常識であるところ、【0009】の「ピッチを形成しない」、「ピッチ等の腐食を抑制し」という記載における「ピッチ」は、間隔という意味ではなく、腐食孔である「ピット」を意味するというべきであり、これは、【0018】に「ピットの発生を少なく」という記載からも明らかである。
そうすると、該「ピッチ」は腐食孔である「ピット」を誤記したものと認められる。

そうすると、甲12には、
「半導体産業等におけるディバイスウェハーの表面平坦化加工に用いられる研磨材組成物であって(【0001】)、
研磨速度が速く、研磨均一性が良好で、ピットを形成しない研磨能力に優れたものであり(【0003】、【0018】)、
カルボキシル基を有する重合体を含有し(【0004】)、
該重合体のGPCによる重量平均分子量は300,000以下であり、
該重合体の分子量分布(重量平均分子量(MW)と数平均分子量(MN)の比)の幅の好ましい値は、2.0以下である(【0006】)研磨材組成物」が記載されていると認められる。

また、甲12には、該重合体の平均分子量は、低い方が研磨剤粒子を均一に分散する効果がより良好になり、研磨の効率が向上する傾向があること、また、該重合体の分子量分布の幅は、小さいほど研磨粒子を均一に分散する効果が良好になり、研磨の効率が向上する傾向があること(【0006】)が記載されていると認められる。

これに対し、本件発明1は、上述したように、「シリコン基板の最終研磨後の表面のLPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥を低減することが容易になる」という作用効果を奏するものであるところ、「LPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥」について、本件明細書には、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。
「【0004】
研磨用組成物を用いて研磨された基板の表面には、LPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥が生じることがある。本発明は、研磨用組成物に含有される水溶性高分子の重量平均分子量、及び、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が、LPDの低減レベルと相関があることを見出したことに基づくものである。」
「【0120】
<LPDの測定>
LPDは、ウエハ検査装置(商品名:Surfscan SP2、ケーエルエー・テンコール社製)を用いて、研磨後のシリコン基板の表面に存在する0.037μm以上の大きさのパーティクルの個数をカウントすることにより測定した。表1の“LPD”欄において、“A”はパーティクルの個数が100個未満、“B”は100個以上150個未満、“C”は150個以上200個未満、“D”は200個以上300個未満、“E”は300個以上であったことを表す。」

そうすると、上述した本件発明1の「シリコン基板の最終研磨後の表面のLPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥を低減する」という作用効果は、研磨用組成物を用いて研磨された基板の表面のパーティクルの数で示される表面欠陥を低減することであって、甲12における「ピットを形成しない」という作用効果とは異質のものというべきである。

したがって、引用発明1に係る「研磨用組成物」に含有される「水溶性高分子化合物」、引用発明2に係る「研磨用組成物」に含有される「水溶性高分子」、引用発明3に係る「研磨用組成物」に含有される「(c)水溶性高分子」、引用発明4に係る「研磨液組成物」に含有される「カチオン基を有する高分子化合物」、及び、引用発明5に係る「研磨用組成物」に含有される「水溶性高分子」に対し、仮に、甲12に記載された、重合体に関する平均分子量と分子量分布に関する知見が適用できたとしても、引用発明1?5に該知見を適用したものは、研磨の効率が向上し、研磨速度が速く、研磨均一性が良好で、ピットを形成しない研磨能力に優れたものとなる程度のことがいえるだけで、本件発明1の上述した「シリコン基板の最終研磨後の表面のLPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥を低減する」という作用効果を当然に奏するものとなる、とまではいえないことから、本件発明の上記作用効果は、当業者に予測不能な顕著なものというべきである。

よって、甲12を参酌したとしても、本件発明1を引用発明1?5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできず、申立人の上記主張は採用できない。

(2)特許法第36条第6項第1号及び同項第2号について
ア 特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項第1号に関する取消理由通知の概要は、本件発明が、本件発明の課題を解決できることを認識できない、というものである。

本件発明の課題は、「研磨後の表面のLPDを低減することの容易な研磨用組成物及び基板の製造方法を提供すること」(本件明細書【0005】)であると認められるところ、本件発明は、「研磨用組成物に含有される水溶性高分子の重量平均分子量、及び、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が、LPDの低減レベルと相関があることを見出」し(同【0004】)、「水溶性高分子は、研磨面の濡れ性を高める働きをする」ものであり、「分子量分布が小さい水溶性高分子を用いることで、LPDの低減が容易とな」り、「使用される水溶性高分子の分子量分布が大きくなるにつれて、研磨された面の濡れ性が高ま」り(同【0016】)、「水溶性高分子の重量平均分子量が小さくなるにつれて、研磨用組成物の安定性はより向上」し、「研磨面の濡れ性は、水溶性高分子の重量平均分子量が大きくなるにつれて高まる」(同【0028】)という知見に基づき、水溶性高分子の種類に応じて、重量平均分子量及び分子量分布の上限を定めることでなされたものということができる。

そして、本件明細書【0122】の【表1】には、「研磨用組成物に含有される水溶性高分子の重量平均分子量、及び、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布」について、本件発明に含まれる「研磨材組成物」について、LPDが低減されることが確認されている。

そうすると、本件発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるということができ、本件請求項の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

(申立人の意見について)
申立人は、平成30年8月3日付けの意見書において、「訂正後の本件発明においても、規定された重量平均分子量及び分子量分布の少なくとも全領域において、課題を解決できるとは考えられません。」(12頁下から2行?末行)と主張している。

しかしながら、上述したように、本件発明は、「使用される水溶性高分子の分子量分布が大きくなるにつれて、研磨された面の濡れ性が高ま」り、「水溶性高分子の重量平均分子量が小さくなるにつれて、研磨用組成物の安定性はより向上」し、「研磨面の濡れ性は、水溶性高分子の重量平均分子量が大きくなるにつれて高まる」という知見に基づくものであって、水溶性高分子の重量平均分子量や分子量分布によって、研磨後の表面のLPDを低減する度合いが急激に変化するものとはいえないことから、「訂正後の本件発明においても、規定された重量平均分子量及び分子量分布の少なくとも全領域において、課題を解決できる」蓋然性が高いというべきである。

したがって、申立人の上記主張は理由がない。

イ 特許法第36条第6項第2号について
特許法第36条第6項第2号に関する取消理由通知の概要は、請求項1における「ポリビニルアルコール」と「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」との相違が明らかではなく、また、請求項5の「選ばれる少なくとも一種」という記載は明確ではない、というものである。

しかしながら、請求項1に係る訂正(訂正事項1)によって、「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」は「ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)」と訂正され、「ポリビニルアルコール」と「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」との相違が明確となった。
また、請求項5に係る訂正(訂正事項5)によって、請求項5において、「選ばれる少なくとも一種」という語句が削除され、請求項5の記載は明確となった。

以上のことから、本件請求項の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

(申立人の意見について)
申立人は、平成30年8月3日付けの意見書において、「訂正により、『ポリビニルアルコール構造を有する重合体』は、PVAでないことが規定されましたが、明細書に当該重合体としてどのようなものが含まれるのか記載がないことに変わりはなく、依然として、記載事項『ポリビニルアルコール構造を有する重合体』は不明確です。」と主張している(13頁19?22行)。

しかしながら、「ポリビニルアルコール構造を有する重合体」には、例えば、請求項4に記載されるように、「部分ケン化ポリビニルアルコール」が含まれ、当該記載が不明確とはいえない。

したがって、申立人の上記主張は理由がない。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
研磨用組成物及び基板の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物及びそれを用いる基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子を含有する研磨用組成物は、例えばシリコン基板等の基板の研磨に用いられる。水溶性高分子は、基板の表面の濡れ性を高める働きをし、これによって、基板の表面における異物の残留が低減する。特許文献1には、研磨速度を高め、ヘイズレベルを低減する水溶性高分子等を含有する研磨用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2003/072669号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
研磨用組成物を用いて研磨された基板の表面には、LPD(Light Point Defect)と呼ばれる表面欠陥が生じることがある。本発明は、研磨用組成物に含有される水溶性高分子の重量平均分子量、及び、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が、LPDの低減レベルと相関があることを見出したことに基づくものである。なお、こうした相関性について特許文献1は何ら教示していない。
【0005】
本発明の目的は、研磨後の表面のLPDを低減することの容易な研磨用組成物及び基板の製造方法を提供することにある。ここで、「LPDを低減する」とは、LPDの数を削減すること又はサイズを縮小すること等を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の研磨用組成物は、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種である水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有し、シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物であって、
前記セルロース誘導体は、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満であり、
前記ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種は、重量平均分子量が100000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.0以下であり、
前記オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体は、重量平均分子量が250000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が2.0以下であり、
前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体は、重量平均分子量が200000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.5以下であることを特徴とする。
【0007】
前記ポリビニルアルコール構造を有する重合体が、部分ケン化ポリビニルアルコールであることが好ましい。
前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体が、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、及びポリ(N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート)から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0008】
水溶性高分子は、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種と、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも一種とを含むことが好ましい。
【0009】
【0010】
【0011】
本発明の基板の製造方法は、上記研磨用組成物を用いて基板を研磨する研磨工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、研磨後の表面のLPDを低減することが容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されず、発明の内容を損なわない程度に適宜設計変更が可能である。
【0014】
研磨用組成物は、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満である水溶性高分子を含有する。本実施形態の研磨用組成物は、例えばシリコン基板、化合物半導体基板等の基板を研磨する用途に用いられる。ここで、基板の研磨工程には、例えば、単結晶インゴットからスライスされた円盤状の基板の表面を平坦化する予備研磨工程(例えば、一次研磨又は二次研磨)と、予備研磨工程後の基板の表面に存在する微細な凹凸を除去して鏡面化する最終研磨工程とが含まれる。研磨用組成物は基板を予備研磨する用途にも、最終研磨する用途にも好適に使用することができる。本実施形態の研磨用組成物は、基板を最終研磨する用途に一層好適に用いられる。
【0015】
本実施形態の研磨用組成物は、水溶性高分子以外の成分として、砥粒、塩基性化合物、及び水を含有することができる。
【0016】
<水溶性高分子>
水溶性高分子は、研磨面の濡れ性を高める働きをする。分子量分布が小さい水溶性高分子を用いることで、LPDの低減が容易となる。上述したように、研磨用組成物に使用される水溶性高分子の分子量分布は5.0未満であり、好ましくは4.9以下であり、より好ましくは4.8以下であり、更に好ましくは4.7以下であり、最も好ましくは4.6以下である。水溶性高分子の分子量分布は、理論上、1.0以上である。使用される水溶性高分子の分子量分布が大きくなるにつれて、研磨された面の濡れ性が高まる。
【0017】
水溶性高分子の分子量分布は、多分散度(Polydispersity Index,PDI)とも呼ばれる。重量平均分子量(Mw)は、ポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量を示す。重量平均分子量及び数平均分子量、並びに分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography,GPC)によって測定される値を示す。
【0018】
水溶性高分子としては、分子中に、カチオン基、アニオン基及びノニオン基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するものを使用することができる。水溶性高分子は、例えば、分子中に水酸基、カルボキシル基、アシルオキシ基、スルホ基、アミド構造、第四級窒素構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造等を有する。
【0019】
水溶性高分子としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、プルランまたはシクロデキストリン等のデンプン誘導体、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)等のイミン誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールを構造の一部に含む共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンを構造の一部に含む共重合体、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルカプロラクタムを構造の一部に含む共重合体、ポリアルキルアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリアクリロイルモルホリンを構造の一部に含む共重合体、ポリオキシエチレン、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体、これらのジブロック型やトリブロック型、ランダム型、交互型等の複数種の構造を有する重合体等が挙げられる。
【0020】
分子量分布(Mw/Mn)の小さい水溶性高分子を得る方法として、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合及びリビングラジカル重合が挙げられる。多数の種類のモノマーを重合可能であり、且つ工業的製法における制約が少ない点で、リビングラジカル重合法が好適である。
【0021】
リビングラジカル重合法としては、ニトロキシド化合物等を用いる重合法、原子移動ラジカル重合法、及びジチオエステル化合物等の連鎖移動剤(RAFT剤)を用いる重合法が挙げられる。
【0022】
リビングラジカル重合法に適用可能なモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン誘導体、環状アミドを含むアクリルアミド誘導体、酢酸ビニル、オレフィン類、及び、水酸基、アルコキシシリル基、アミノ基、エポキシ基等を含む各種官能性モノマー等が挙げられ、これらを一種以上用いて得られる水溶性(親水性)ポリマーは、すべて本発明の対象となり得る。
【0023】
水溶性高分子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
水溶性高分子としてセルロース誘導体及びデンプン誘導体から選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子(以降“水溶性高分子A”という)を用いる場合、水溶性高分子Aの分子量分布は、好ましくは4.7以下であり、より好ましくは4.5以下である。水溶性高分子Aの分子量分布は、濡れ性向上の観点より、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは3.0以上であり、更に好ましくは4.0以上である。
【0025】
水溶性高分子としてポリオキシアルキレン構造を有する重合体(以降“水溶性高分子B”という)を用いる場合、水溶性高分子Bの分子量分布は、好ましくは2.0以下であり、より好ましくは1.5以下である。水溶性高分子Bの分子量分布は、好ましくは1.05以上である。
【0026】
水溶性高分子としてポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体から選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子(以降“水溶性高分子C”という)を用いる場合、水溶性高分子Cの分子量分布は、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2.3以下である。水溶性高分子Cの分子量分布は、好ましくは1.05以上であり、濡れ性向上や合成容易性の観点より1.3以上が好ましい。
【0027】
水溶性高分子として主鎖又は側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有する重合体(以降“水溶性高分子D”という)を用いる場合、水溶性高分子Dの分子量分布は、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.5以下であり、更に好ましくは3.0以下である。水溶性高分子Dの分子量分布は、好ましくは1.05以上であり、濡れ性向上や合成容易性の観点より1.3以上が好ましい。
【0028】
水溶性高分子の重量平均分子量は1000000以下であるため、LPDがより低減され易くなる。水溶性高分子の重量平均分子量が小さくなるにつれて、研磨用組成物の安定性はより向上する。一方、研磨面の濡れ性は、水溶性高分子の重量平均分子量が大きくなるにつれて高まる。
【0029】
水溶性高分子Aの重量平均分子量は、好ましくは750000以下であり、より好ましくは700000以下であり、更に好ましくは500000以下であり、最も好ましくは300000以下である。水溶性高分子Aの重量平均分子量は、好ましくは50000以上であり、より好ましくは80000以上であり、更に好ましくは100000以上である。
【0030】
水溶性高分子Bの重量平均分子量は、好ましくは500000以下であり、より好ましくは300000以下であり、更に好ましくは250000以下(例えば、100000以下)である。水溶性高分子Bの重量平均分子量は、好ましくは1000以上であり、より好ましくは2000以上であり、更に好ましくは5000以上(例えば10000以上)である。
【0031】
水溶性高分子Cの重量平均分子量は、好ましくは300000以下であり、より好ましくは250000以下であり、更に好ましくは200000以下であり、最も好ましくは100000以下(例えば、50000以下、更には20000以下)である。水溶性高分子Cの重量平均分子量は、好ましくは1000以上であり、より好ましくは2000以上であり、更に好ましくは5000以上(例えば7000以上)である。
【0032】
水溶性高分子Dの重量平均分子量は、好ましくは300000以下であり、より好ましくは250000以下であり、更に好ましくは200000以下(例えば、100000以下、更には70000以下)である。水溶性高分子Dの重量平均分子量は、好ましくは1000以上であり、より好ましくは3000以上であり、更に好ましくは5000以上であり、最も好ましくは10000以上(例えば、20000以上、更には30000以上)である。
【0033】
研磨用組成物は、LPDの低減の観点から、水溶性高分子A及びCから選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましく、水溶性高分子A及びCから選ばれる少なくとも一種と、水溶性高分子B及びDから選ばれる少なくとも一種とを含有することがより好ましい。
【0034】
水溶性高分子Aとしては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、及びプルランまたはシクロデキストリン等のデンプン誘導体が挙げられる。セルロース誘導体及びデンプン誘導体の中では、研磨面に濡れ性を与える能力が高く、かつ研磨後の洗浄工程で除去されやすい(すなわち良好な洗浄性を有する)という観点から、ヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。
【0035】
水溶性高分子Bは、好ましくはオキシエチレンブロックとオキシプロピレンブロックとを含むブロック構造を有する重合体であり、より好ましくはオキシエチレンブロックとオキシプロピレンブロックとオキシエチレンブロックとを含むトリブロック構造を有する重合体であり、更に好ましくは下記一般式(1)で表される重合体である。
【0036】
HO-(EO)_(a)-(PO)_(b)-(EO)_(c)-H ・・・(1)
一般式(1)中、EOはオキシエチレン基を示すとともにPOはオキシプロピレン基を示し、a、b及びcはそれぞれ1以上の整数を示す。
【0037】
一般式(1)において、a及びcはEOの重合度を示し、aとcとの合計は2?1000の範囲であることが好ましく、より好ましくは5?500の範囲であり、更に好ましくは10?200の範囲である。一般式(1)において、bはPOの重合度を示し、bは2?200の範囲であることが好ましく、より好ましくは5?100の範囲であり、更に好ましくは10?50の範囲である。
【0038】
水溶性高分子Cとしては、ポリビニルアルコール及び少なくともビニルアルコール単位を含むポリマーが挙げられる。少なくともビニルアルコール単位を含むポリマーとして、例えば、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位とを少なくとも含む重合体を用いることができる。水溶性高分子Cの一例として、酢酸ビニルの単独重合体または共重合体を部分的にけん化して形成される水溶性高分子が挙げられる。例えば、酢酸ビニルの単独重合体を部分的にけん化して形成される部分けん化ポリビニルアルコールを好ましく使用し得る。上記部分けん化ポリビニルアルコールは、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位とからなる水溶性高分子であり、そのけん化度は50モル%以上が好ましく、より好ましくは60モル%以上、例えば65モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは80モル%以上である。ポリビニルアルコールのけん化度は、理論上、100モル%以下となる。また、水溶性高分子Cとしてポリビニルアルコール構造を有する共重合体を用いる場合、当該共重合体を構成するビニルアルコール単位の構成割合(モル比)は、65モル%以上が好ましく、より好ましくは75モル%である。本明細書中において「共重合体」とは、特記しない場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の各種の共重合体を含む包括的な用語である。
【0039】
水溶性高分子Dとしては、主鎖に窒素原子を含有するポリマーおよび側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーのいずれも使用可能である。
【0040】
主鎖に窒素原子を含有するポリマーの例としては、N-アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの具体例としては、N-アセチルエチレンイミン、N-プロピオニルエチレンイミン、N-カプロイルエチレンイミン、N-ベンゾイルエチレンイミン、N-アセチルプロピレンイミン、N-ブチリルエチレンイミン等が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体としては、ポリ(N-アセチルエチレンイミン)、ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)、ポリ(N-カプロイルエチレンイミン)、ポリ(N-ベンゾイルエチレンイミン)、ポリ(N-アセチルプロピレンイミン)、ポリ(N-ブチリルエチレンイミン)等が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの共重合体の例には、2種以上のN-アシルアルキレンイミン型モノマーの共重合体、及び1種または2種以上のN-アシルアルキレンイミン型モノマーと他のモノマーとの共重合体が含まれる。
【0041】
ペンダント基に窒素原子を有するポリマーとしては、例えばN-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー、N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー等が挙げられる。ここで「(メタ)アクリロイル」とは、アクリルおよびメタクリルを意味する包括的な用語である。
【0042】
N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体(典型的には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの割合が50質量%を超える共重合体)が含まれる。N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。
【0043】
N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-イソプロピルアクリルアミドの単独重合体およびN-イソプロピルアクリルアミドの共重合体(例えば、N-イソプロピルアクリルアミドの割合が50質量%を超える共重合体)が挙げられる。
【0044】
N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-アクリロイルモルホリンの単独重合体およびN-アクリロイルモルホリンの共重合体(例えば、N-アクリロイルモルホリンの割合が50質量%を超える共重合体)が挙げられる。
【0045】
N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、N-ビニルラクタム型モノマーの単独重合体および共重合体(例えば、N-ビニルラクタム型モノマーの割合が50質量%を超える共重合体)、N-ビニル鎖状アミドの単独重合体および共重合体(例えば、N-ビニル鎖状アミドの割合が50質量%を超える共重合体)が含まれる。
【0046】
N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン(VP)、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム(VC)、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニルラクタム型のモノマー単位を含むポリマーの具体例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルカプロラクタム、VPとVCとのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方と他のビニルモノマー(例えば、アクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマー等)とのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方を含むポリマーセグメントを含むブロック共重合体やグラフト共重合体(例えば、ポリビニルアルコールにポリビニルピロリドンがグラフトしたグラフト共重合体)等が挙げられる。
【0047】
N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。
【0048】
ペンダント基に窒素原子を有するポリマーの他の例として、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の、アミノ基を有するビニルモノマー(例えば、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)の単独重合体および共重合体が挙げられる。
【0049】
研磨用組成物が、水溶性高分子Aと、水溶性高分子B及びDから選ばれる少なくとも一種とを含有する場合には、LPDの低減の観点から、研磨用組成物はヒドロキシエチルセルロースと、上記一般式(1)で表される重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアルキルアクリルアミド、及びポリアクリロイルモルホリンから選ばれる少なくとも一種とを含有することが最も好ましい。
【0050】
研磨用組成物が、水溶性高分子Cと、水溶性高分子B及びDから選ばれる少なくとも一種とを含有する場合には、LPDの低減の観点から、研磨用組成物はポリビニルアルコール又は部分けん化ポリビニルアルコールと、上記一般式(1)で表される重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアルキルアクリルアミド、及びポリアクリロイルモルホリンから選ばれる少なくとも一種とを含有することが最も好ましい。
【0051】
研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量は、0.002質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.004質量%以上であり、更に好ましくは0.006質量%以上であり、最も好ましくは0.01質量%以上である。研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量の増大につれて、研磨面の濡れ性がより向上する。研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下であり、最も好ましくは0.05質量%以下である。研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量の減少につれて、研磨用組成物の安定性がより向上する。
【0052】
<砥粒>
研磨用組成物は、砥粒を含有することができる。砥粒は、研磨面を物理的に研磨する働きをする。
【0053】
砥粒としては、例えば、無機粒子、有機粒子、及び有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、並びに窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子及び窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。
【0054】
砥粒の平均一次粒子径は5nm以上であることが好ましく、より好ましくは15nm以上であり、更に好ましくは25nm以上である。砥粒の平均一次粒子径の増大につれて、高い研磨速度が得られる。砥粒の平均一次粒子径は100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは40nm以下である。砥粒の平均一次粒子径の減少につれて、研磨用組成物の安定性が向上する。
【0055】
砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法により測定される比表面積から算出される。砥粒の比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて行うことができる。
【0056】
砥粒の平均二次粒子径は10nm以上であることが好ましく、より好ましくは30nm以上であり、更に好ましくは40nm以上である。砥粒の平均二次粒子径の増大につれて、高い研磨速度が得られる。砥粒の平均二次粒子径は200nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは80nm以下である。砥粒の平均二次粒子径の減少につれて、研磨用組成物の安定性が向上する。砥粒の平均二次粒子径は、大塚電子株式会社製、FPAR-1000を用いて測定される値である。
【0057】
砥粒の長径/短径比の平均値は、理論上1.0以上であり、好ましくは1.05以上であり、より好ましくは1.1以上である。上記長径/短径比の平均値の増大につれて、高い研磨速度が得られる。砥粒の長径/短径比の平均値は3.0以下であることが好ましく、より好ましくは2.0以下であり、更に好ましくは1.5以下である。上記長径/短径比の平均値の減少につれて、研磨面に生じるスクラッチが減少する。
【0058】
研磨用組成物に含有される砥粒の総数に対し、上記長径/短径比が1.5以上の粒子の数は、10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。上記長径/短径比が1.5以上の粒子の割合の増大につれて、LPDを低減することが更に容易となる。また、上記長径/短径比が1.5以上の粒子の割合の増大につれて、高い研磨速度が得られる。上記長径/短径比が1.5以上の粒子の割合は、90%以下であることが好ましく、より好ましくは80%以下である。上記長径/短径比が1.5以上である砥粒の割合の減少につれて、研磨面のヘイズレベルが低減され易くなる。
【0059】
上記長径/短径比は、砥粒の形状に関する値であり、例えば、砥粒の電子顕微鏡画像を用いて求めることができる。具体的には、所定個数(例えば200個)の砥粒の走査型電子顕微鏡画像において、各々の砥粒に対し最小外接矩形を描く。次に、各最小外接矩形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比として算出する。それらの平均値を算出することにより、長径/短径比の平均値を求めることができる。上記長径/短径比の算出は、例えば、日立製作所製の走査型電子顕微鏡“S-4700”を用いて得られた画像に基づいて行うことができる。
【0060】
研磨用組成物中における砥粒の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、更に好ましくは0.2質量%以上である。砥粒の含有量の増大につれて、高い研磨速度が得られる。研磨用組成物中における砥粒の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。砥粒の含有量の減少につれて、研磨用組成物の安定性がより向上する。
【0061】
砥粒としてのシリカは、例えばシリコン基板の研磨に好適に用いられる。シリカの具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、及びゾルゲル法シリカが挙げられる。これらシリカの中でも、研磨面に生じるスクラッチを減少させるという観点において、コロイダルシリカ及びフュームドシリカが好ましく、特にコロイダルシリカが好ましい。これらのシリカは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
シリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上であり、更に好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大につれて、高い研磨速度が得られる。シリカの真比重は、2.2以下であることが好ましく、より好ましくは2.0以下であり、更に好ましくは1.9以下である。シリカの真比重の減少につれて、研磨面に生じるスクラッチが減少する。シリカの真比重は、乾燥させたシリカ粒子の重量と、このシリカ粒子を体積既知のエタノールに浸漬した際の総重量とから算出される。
【0063】
<塩基性化合物>
研磨用組成物は塩基性化合物を含有することができる。塩基性化合物は、研磨面を化学的に研磨する働きをする(ケミカルエッチング)。これにより、研磨速度を向上させることが容易となる。
【0064】
塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、水酸化第四級アンモニウム又はその塩、アンモニア、及びアミンが挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウムが挙げられる。水酸化第四級アンモニウム又はその塩としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、及び水酸化テトラブチルアンモニウムが挙げられる。アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、及びグアニジンが挙げられる。
【0065】
塩基性化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
塩基性化合物の中でも、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、及び第四級アンモニウム水酸化物から選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0067】
塩基性化合物の中でも、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、及び水酸化テトラエチルアンモニウムから選ばれる少なくとも一種がより好ましく、更に好ましくはアンモニア及び水酸化テトラメチルアンモニウムの少なくとも一方であり、最も好ましくはアンモニアである。
【0068】
研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.002質量%以上であり、更に好ましくは0.003質量%以上であり、最も好ましくは0.005質量%以上である。研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量の増大につれて、高い研磨速度が得られる。研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量は、1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下であり、最も好ましくは0.05質量%以下である。研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量の減少につれて、研磨面の荒れが抑制され、基板の形状が維持され易くなる。
【0069】
<水>
研磨用組成物中の水は、他の成分を溶解または分散させる働きをする。水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きを阻害しないことが好ましい。このような水の例として、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下の水が挙げられる。水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルターによる異物の除去、蒸留等によって高めることができる。具体的には、例えば、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を用いることが好ましい。
【0070】
<pH>
研磨用組成物のpHは、8.0以上が好ましく、より好ましくは8.5以上であり、更に好ましくは9.0以上である。研磨用組成物のpHの増大につれて、高い研磨速度が得られる。研磨用組成物のpHは12.5以下であることが好ましく、より好ましくは11.5以下であり、最も好ましくは11以下である。研磨用組成物のpHの減少につれて、研磨面の荒れが抑制され、基板の形状が維持され易くなる。
【0071】
<キレート剤>
研磨用組成物はキレート剤を含有することができる。キレート剤は、研磨系中の金属不純物を捕捉して錯体を形成することによって、基板における金属不純物の残留レベルを低減する。研磨系中の金属不純物には、例えば、研磨用組成物の原料に由来するもの、研磨中に研磨面や研磨装置から生じるもの、および外部からの混入物が含まれる。特に、基板が半導体基板である場合、金属不純物の残留レベルを低減することで半導体基板の金属汚染が防止され、半導体基板の品質低下が抑制される。
【0072】
キレート剤としては、例えば、アミノカルボン酸系キレート剤、及び有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、及びトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが挙げられる。有機ホスホン酸系キレート剤としては、例えば、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、及びα-メチルホスホノコハク酸が挙げられる。
【0073】
<界面活性剤>
研磨用組成物は界面活性剤を含有することができる。界面活性剤は、研磨面の荒れを抑制する。これにより、研磨面のヘイズレベルを低減することが容易となる。特に、研磨用組成物が塩基性化合物を含有する場合には、塩基性化合物によるケミカルエッチングによって研磨面に荒れが生じ易くなる。このため、塩基性化合物と界面活性剤との併用は特に有効である。
【0074】
界面活性剤としては、重量平均分子量が1000未満のものが好ましく、アニオン性又はノニオン性の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の中でも、ノニオン性界面活性剤が好適に用いられる。ノニオン性界面活性剤は、起泡性が低いため、研磨用組成物の調製時や使用時の取り扱いが容易となる。また、ノニオン性界面活性剤を用いた場合、研磨用組成物のpH調整が容易となる。
【0075】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシアルキレン重合体や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン付加物や、複数種のオキシアルキレンの共重合体(ジブロック型、トリブロック型、ランダム型、交互型)が挙げられる。
【0076】
具体的には、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミド、ポリオキシエチレンオレイルアミド、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。これらの界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、特にポリオキシエチレンデシルエーテルが好適に用いられる。
【0077】
界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
<上記成分以外の成分>
研磨用組成物は、必要に応じて研磨用組成物に一般に含有されている公知の添加剤、例えば有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等を更に含有してもよい。
【0079】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、有機スルホン酸、及び有機ホスホン酸が挙げられる。有機酸塩としては、例えば、有機酸のナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、又はアンモニウム塩が挙げられる。
【0080】
無機酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、及び炭酸が挙げられる。無機酸塩としては、無機酸のナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、又はアンモニウム塩が挙げられる。
【0081】
有機酸及びその塩、並びに無機酸及びその塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
防腐剤及び防カビ剤としては、例えば、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、及びフェノキシエタノールが挙げられる。
【0083】
<研磨用組成物の調製>
研磨用組成物は、例えばプロペラ攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて調製することができる。研磨用組成物の各原料は、同時に混合されてもよいし、任意の順序で混合されてもよい。
【0084】
研磨用組成物は、例えば輸送や保管を容易にするという観点から、研磨用組成物の原液を水で希釈する希釈工程を経て得られることが好ましい。すなわち、水溶性高分子を含有する原液を予め調製しておき、その原液を希釈して研磨用組成物を得ることが好ましい。
【0085】
本実施形態の研磨用組成物は、砥粒と、上記の重量平均分子量及び分子量分布を有する水溶性高分子とを含有する原液から得ることもできる。この場合であっても、水溶性高分子の重量平均分子量及び分子量分布に基づき、LPDの低減が容易となる。
【0086】
原液が砥粒と上記の重量平均分子量及び分子量分布を有する水溶性高分子とを含有する場合、希釈工程を経て調製された研磨用組成物中の粒子は好適な分散性を有する。本粒子には、砥粒単体から成るものや、砥粒と水溶性高分子との凝集体が含まれる。研磨用組成物中の粒子の分散性は、研磨用組成物に含有される粒子の体積平均粒子径の測定値に基づいて評価することができる。体積平均粒子径は、例えば、日機装株式会社製の粒度分布測定装置(型式「UPA-UT151」)を用いた動的光散乱法により測定することができる。研磨用組成物中の粒子の分散性は、LPDの低減においても重要であると考えられる。上述した水溶性高分子は、粒子の分散性を高めるという観点においても有利であり、上述した水溶性高分子を用いることで、LPDの低減が更に容易となる。
【0087】
原液を希釈して得られた研磨用組成物中の粒子の体積平均粒子径は10nm以上であることが好ましく、より好ましくは30nm以上であり、更に好ましくは40nm以上である。粒子の体積平均粒子径の増大につれて、高い研磨速度が得られる。原液を希釈して得られた研磨用組成物中の粒子の体積平均粒子径は200nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは80nm以下である。粒子の体積平均粒子径の減少につれて、LPDの低減が容易となる。
【0088】
希釈工程における希釈率Dは、体積換算において、2倍以上であることが好ましく、より好ましくは5倍以上、更に好ましくは10倍以上である。希釈工程における希釈率Dを高めることによって、研磨用組成物の原液の輸送コストを削減することができ、また、原液の保管に必要なスペースを減らすことができる。
【0089】
希釈工程における希釈率Dは、体積換算において、100倍以下であることが好ましく、より好ましくは50倍以下、更に好ましくは40倍以下である。希釈工程における希釈率Dを低めることによって、原液や研磨用組成物の安定性を確保することが容易となる。
【0090】
研磨用組成物の原液は、例えばプロペラ攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて調製することができる。研磨用組成物の原液の各原料は、同時に混合されてもよいし、任意の順序で混合されてもよい。
【0091】
希釈工程において、研磨用組成物の原液は、好ましくは上述した混合装置で原液を撹拌しながら水を徐々に添加する方法によって希釈されることが好ましい。なお、希釈工程において、研磨用組成物の原液は、原液に水を添加した後に、上述した混合装置で撹拌する方法によって希釈されてもよい。
【0092】
次に、基板の製造方法について研磨用組成物の作用とともに説明する。
【0093】
基板は、研磨用組成物を用いた研磨工程を含む製造方法により製造される。研磨工程では、基板の表面に研磨用組成物を供給しながら、基板の表面に研磨パッドを押し付けて基板及び研磨パッドを回転させる。このとき、研磨用組成物は、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ分子量分布が5.0未満である水溶性高分子を含有するため、水溶性高分子の溶解性又は分散性が高まると推測される。これにより、半導体基板の研磨後の表面で検出されるLPDが低減され易くなると推測される。研磨工程を完了した基板は、続いて基板の表面を洗浄する洗浄工程に供される。
【0094】
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
【0095】
(1)研磨用組成物は、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ分子量分布が5.0未満である水溶性高分子を含有することで、研磨面のLPDを低減することが容易となる。
【0096】
(2)研磨用組成物は、砥粒及び上記水溶性高分子を含有する原液の形態で調製されることにより、保管や輸送が容易となる。
【0097】
(3)研磨用組成物は、基板を研磨する用途に用いられることで、研磨後の表面のLPDが低減された基板を提供することが容易となる。
【0098】
(4)研磨用組成物は、基板の最終研磨に用いられることで、高い品質が要求される最終研磨後の基板において、LPDを低減する点で品質向上に貢献する。
【0099】
(5)基板の製造方法は、分子量分布が5.0未満の水溶性高分子を含有する研磨用組成物を用いて基板を研磨する研磨工程を含むため、LPDが低減された基板を製造することが容易となる。
【0100】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
【0101】
・研磨用組成物中の水溶性高分子の分子量分布(Mw/Mn)は、例えば重量平均分子量の異なる複数種の水溶性高分子を混合することで調整されてもよい。すなわち、研磨用組成物中の水溶性高分子が複数種の水溶性高分子から構成される場合、その水溶性高分子全体の重量平均分子量Mwにおける分子量分布(Mw/Mn)が5.0未満であればよい。
【0102】
・研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤以上の多剤型であってもよい。
【0103】
・研磨用組成物又はその原液に含有される各成分は、製造の直前にフィルターによりろ過処理されたものであってもよい。また、研磨用組成物は、使用の直前にフィルターによりろ過処理して使用されるものであってもよい。ろ過処理が施されることによって、研磨用組成物中の粗大異物が取り除かれて品質が向上する。研磨用組成物は、分子量分布が5.0未満の水溶性高分子を含有するため、ろ過処理においてフィルターの目詰まりが抑制され、良好なろ過性が得られ易い。
【0104】
上記ろ過処理に用いるフィルターの材質及び構造は特に限定されるものではない。フィルターの材質としては、例えば、セルロース、ナイロン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリカーボネート、ガラス等が挙げられる。フィルターの構造としては、例えばデプスフィルター、プリーツフィルター、メンブレンフィルター等が挙げられる。
【0105】
・研磨用組成物を用いた研磨工程で使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもののいずれを用いてもよい。
【0106】
・研磨用組成物を用いて基板を研磨する際に、一度研磨に使用された研磨用組成物を回収して、基板の研磨に再び使用してもよい。研磨用組成物を再使用する方法としては、例えば、研磨装置から排出される使用済みの研磨用組成物をタンク内にいったん回収し、タンク内から再び研磨装置内へ循環させて使用する方法が挙げられる。研磨用組成物を再使用することで、廃液となる研磨用組成物の排出量を削減し、研磨用組成物の使用量を減らすことができる。このことは、環境負荷を低減できる点、及び基板の研磨にかかるコストを抑制できる点において有用である。
【0107】
研磨用組成物を再使用すると、砥粒等の成分が研磨により消費され又は損失する。このため、砥粒等の各成分の減少分を研磨用組成物に補充することが好ましい。補充する成分は、個別に研磨用組成物に添加されてもよいし、タンクの大きさや研磨条件等に応じて、二以上の成分を任意の濃度で含んだ混合物として研磨用組成物に添加されてもよい。再使用される研磨用組成物に対して各成分の減少分を補充することにより、研磨用組成物の組成が維持されて、研磨用組成物の機能を持続的に発揮させることができる。
【0108】
・研磨用組成物の研磨対象となる化合物半導体基板の材料としては、炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等が挙げられる。研磨用組成物は、半導体基板に限らず、ステンレス鋼等の金属、プラスチック、ガラス、サファイア等からなる基板を研磨する用途、及びそのような基板の製造方法に用いられてもよい。この場合も、研磨面のLPDを容易に低減することができる。更に、研磨用組成物は、基板に限らず、各種材料からなる研磨製品を得るために用いることもできる。
【0109】
上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0110】
(a)希釈することで研磨用組成物を得るための原液であって、砥粒と、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満である水溶性高分子とを含有する原液。
【0111】
(b)前記原液を水で希釈する希釈工程を通じて研磨用組成物を製造する研磨用組成物の製造方法。
【0112】
(c)研磨用組成物を用いて基板を研磨する研磨方法。
【実施例】
【0113】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
【0114】
(実施例1?10及び比較例1?6)
砥粒としてのコロイダルシリカ、1種または2種の水溶性高分子、及び塩基性化合物をイオン交換水に混合することで研磨用組成物の原液を調製した。その後、原液に含まれる粗大異物を取り除くために原液をろ過した。砥粒としては平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカ、塩基性化合物としてはアンモニアを用いた。次に、原液を純水で20倍に希釈し、表1に示す水溶性高分子を含有する研磨用組成物を得た。希釈工程では、ホモジナイザーを用いて撹拌及び分散を行った後に、研磨用組成物中に含まれる粗大異物を取り除くために、研磨用組成物をろ過した。
【0115】
各実施例及び比較例の研磨用組成物中の砥粒の含有量は0.5質量%であり、塩基性化合物の含有量は0.01質量%であった。
【0116】
表1中の“水溶性高分子”欄において、“Mw”は重量平均分子量、“Mn”は数平均分子量、“Mw/Mn”は分子量分布を示し、分子量分布を測定するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の条件は以下のとおりである。
【0117】
<GPCの条件>
カラム:東ソー株式会社製の商品名TSKgel GMPW_(XL)×2+G2500PW_(XL)(φ7.8mm×300mm×3本)
カラム温度:40℃
溶離液:200mM 硝酸ナトリウム水溶液
試料濃度:0.05質量%
流速:1.0mL/min
注入量:200μL
検出器:RI(示差屈折計)
標準物質:ポリエチレンオキサイド
表1中の“水溶性高分子”欄において“種類”欄に記載された“HEC”はヒドロキシエチルセルロースを示し、“PVP”はポリビニルピロリドンを示し、“PEO-PPO-PEO”はポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイドトリブロック共重合体を示す。なお、“PEO-PPO-PEO”は、一般式(1)で表されるものであり、一般式(1)中のaとcとの合計が164であり、bが31のものである。また“PVA1”はけん化度80mol%のポリビニルアルコールを示し、“PVA2”はけん化度98mol%以上のポリビニルアルコールを示す。
【0118】
<研磨工程>
得られた研磨用組成物を用いて、表2に示す条件でシリコン基板を最終研磨した。この最終研磨に供されたシリコン基板は、市販の研磨剤(商品名:GLANZOX-1103、株式会社フジミインコーポレーテッド製)を用いて予備研磨されたものであった。シリコン基板は、直径が300mm、伝導型がP型、結晶方位が<100>、抵抗率が0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満であった。
【0119】
<洗浄工程>
研磨後のシリコン基板を、NH_(4)OH(29%):H_(2)O_(2)(31%):脱イオン水(DIW)=1:3:30(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。より具体的には、それぞれ周波数300kHzの超音波発振器を取り付けた第1の洗浄槽、第2の洗浄槽、およびリンス槽を用意した。第1および第2の洗浄槽の各々に上記洗浄液を入れ、60℃に保持した。リンス槽には超純水を入れた。研磨後のシリコン基板を第1の洗浄槽内の洗浄液に浸漬し、6分間超音波を適用した。続いてリンス槽内の超純水にシリコン基板を浸漬し、超音波を適用しながらリンスした。その後、シリコン基板を第2の洗浄槽内の洗浄液に浸漬し、6分間超音波を適用した。
【0120】
<LPDの測定>
LPDは、ウエハ検査装置(商品名:Surfscan SP2、ケーエルエー・テンコール社製)を用いて、研磨後のシリコン基板の表面に存在する0.037μm以上の大きさのパーティクルの個数をカウントすることにより測定した。表1の“LPD”欄において、“A”はパーティクルの個数が100個未満、“B”は100個以上150個未満、“C”は150個以上200個未満、“D”は200個以上300個未満、“E”は300個以上であったことを表す。
【0121】
<ヘイズレベルの判定>
ウエハ検査装置(商品名:Surfscan SP2、ケーエルエー・テンコール社製)を用いて、同装置のDWOモードで研磨工程後の研磨面を測定して得た測定値に基づき、シリコン基板のヘイズレベルの判定を行った。その測定値が0.110ppm未満の場合を“A”、0.110ppm以上0.120ppm未満の場合を“B”、0.120ppm以上0.130ppm未満の場合を“C”、0.130ppm以上0.140ppm未満の場合を“D”、0.140ppm以上である場合を“E”と判定した。その判定結果を表1の“ヘイズ”欄に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

表1に示すように、各実施例では、LPDの測定結果がA又はBであった。比較例1及び6では、水溶性高分子の分子量分布が5.0以上であったため、LPDの測定結果が各実施例よりも劣っていた。比較例2及び3では、水溶性高分子の重量平均分子量が1000000を超え、かつ、分子量分布が5.0以上であったため、LPDの測定結果が各実施例よりも劣っていた。比較例4及び5では、水溶性高分子の分子量分布は5.0未満であったものの、重量平均分子量が1000000を超えたため、LPDの測定結果が各実施例よりも劣っていた。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体、及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも1種である水溶性高分子、砥粒としてコロイダルシリカ、及び塩基性化合物を含有し、シリコン基板を最終研磨する用途に用いられる研磨用組成物であって、
前記セルロース誘導体は、重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満であり、
前記ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種は、重量平均分子量が100000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.0以下であり、
前記オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体は、重量平均分子量が250000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が2.0以下であり、
前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体は、重量平均分子量が200000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が3.5以下であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子は、セルロース誘導体である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子は、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール構造を有する重合体が、部分ケン化ポリビニルアルコールである、請求項3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子は、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記水溶性高分子は、側鎖官能基に窒素原子を有する重合体を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記側鎖官能基に窒素原子を有する重合体が、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、及びポリ(N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート)から選ばれる少なくとも一種である、請求項6に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記水溶性高分子は、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体(但し、ポリビニルアルコールの場合を除く)から選ばれる少なくとも一種と、オキシエチレン構造とオキシプロピレン構造とを含む共重合体及び側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも一種とを含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて基板を研磨する研磨工程を含むことを特徴とする基板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-12 
出願番号 特願2014-532916(P2014-532916)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 113- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 井上 能宏
川端 修
登録日 2017-08-04 
登録番号 特許第6184962号(P6184962)
権利者 東亞合成株式会社 株式会社フジミインコーポレーテッド
発明の名称 研磨用組成物及び基板の製造方法  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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