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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C10M
管理番号 1345844
異議申立番号 異議2018-700218  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-12 
確定日 2018-09-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6197123号発明「ガソリンエンジン用潤滑油組成物、及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6197123号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕、14について訂正することを認める。 特許第6197123号の請求項1?14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件特許異議申立に係る特許
本件特許異議申立に係る特許第6197123号は、特許権者である出光興産株式会社より、2016年(平成28年)3月31日〔優先権主張2015年(平成27年)3月31日、日本国(JP)〕に国際出願され、特願2016-547964号として審査され、平成29年8月25日に、発明の名称を「ガソリンエンジン用潤滑油組成物、及びその製造方法」、請求項の数を「14」として特許権の設定登録を受け、平成29年9月13日に、その特許掲載公報が発行されたものである(以下、請求項の項番に合わせて各請求項に係る特許を「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)。

2 手続の経緯
本件特許異議申立における手続の経緯は、おおよそ次のとおりである。
平成30年 3月12日 初貝誠より特許異議申立
同年 5月17日付 取消理由通知
同年 7月20日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
なお、上記のとおり、平成30年7月20日に訂正の請求があったので、特許法第120条の5第5項の規定により特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からの意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否

1 訂正事項
上記平成30年7月20日になされた訂正の請求は、「特許第6197123号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?14について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものであり、当該訂正の請求は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従って、請求項1?13及び請求項14を訂正の単位として、請求項ごとないし一群の請求項ごとになされたものである。
そして、当該訂正の請求による、特許請求の範囲についての訂正(以下、「本件訂正」という。)の具体的内容(訂正事項1?3)は次のとおりである。
(1) 訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1に「該ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素原子換算の含有量が100質量ppm以上1,200質量ppm未満であり」とあるのを、「該ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素原子換算の含有量が100質量ppm以上1,000質量ppm以下であり」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?13も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2:特許請求の範囲の請求項8に「前記ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素原子換算の含有量が300質量ppm以上1,200質量ppm未満である」とあるのを、「前記ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素原子換算の含有量が300質量ppm以上1,000質量ppm以下である」に訂正する(請求項8を引用する請求項9?13も同様に訂正する。)。
(3) 訂正事項3:特許請求の範囲の請求項14に「該ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素換算の含有量が100質量ppm以上1,200質量ppm未満であり」とあるのを、「該ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素換算の含有量が100質量ppm以上1,000質量ppm以下であり」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1?3はいずれも、本件特許明細書の【0038】の記載に基づいて、ホウ素非含有コハク酸イミドの含有量の数値範囲を限定するものであり、これにより、実質上特許請求の範囲が拡張又は変更されるわけではないから、当該訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められ、さらに、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない訂正であって、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。

3 小括
上記「2」のとおり、本件訂正は、適法になされたものであるから、訂正後の請求項〔1?13〕、14について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1?14の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に記載された事項により特定される発明を、項番に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
基油、モリブデンジチオカーバメート、カルシウム系清浄剤、マグネシウム系清浄剤、及びホウ素非含有コハク酸イミドを含み、
該カルシウム系清浄剤がカルシウムサリシレートを含み、
該モリブデンジチオカーバメートの組成物全量基準のモリブデン原子換算の含有量が60質量ppm以上1,200質量ppm以下であり、
カルシウムサリシレートの組成物全量基準のカルシウム原子換算の含有量が、1,000質量ppm以上2,000質量ppm以下であり、
該ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素原子換算の含有量が100質量ppm以上1,000質量ppm以下であり、
該モリブデン原子(Mo)と該マグネシウム系清浄剤のマグネシウム原子(Mg)との質量比[Mo/Mg]が0.1以上である潤滑油組成物。
【請求項2】
さらに、ホウ素含有コハク酸イミドを含み、該ホウ素含有コハク酸イミドの組成物全量基準のホウ素原子の含有量が50質量ppm以上である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
さらに、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤を含む請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
さらに、櫛形ポリマーを含有する、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記マグネシウム系清浄剤が、マグネシウムスルホネートを含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記マグネシウム系清浄剤の組成物全量基準のマグネシウム原子換算の含有量が、50?1500質量ppmである、請求項1?5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記モリブデン原子(Mo)と前記マグネシウム原子(Mg)との質量比[Mo/Mg]が1より大きい、請求項1?6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素原子換算の含有量が300質量ppm以上1000質量ppm以下である、請求項1?7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
ナトリウム系清浄剤を含まない請求項1?8のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
基油がAPI(米国石油協会)基油カテゴリーでグループ3?5に分類される鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも一種である請求項1?9のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
前記基油が、API(米国石油協会)基油カテゴリーでグループ3に分類される鉱油と、ポリα-オレフィンとを含む、請求項10に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
前記ポリα-オレフィンの含有量が、前記潤滑油組成物の全量に対して、1?50質量%である、請求項11に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
ガソリンエンジンに用いられる請求項1?12のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
基油に、
モリブデンジチオカーバメートと、
カルシウムサリシレートを含むカルシウム系清浄剤と、
マグネシウム系清浄剤と、
ホウ素非含有コハク酸イミドとを、
該カルシウムサリシレートの組成物全量基準のカルシウム原子換算の含有量が、1,000質量ppm以上2,000質量ppm以下であり、
該モリブデンジチオカーバメートの組成物全量基準のモリブデン原子換算の含有量が60質量ppm以上1,200質量ppm以下であり、
該ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素換算の含有量が100質量ppm以上1,000質量ppm以下であり、
該モリブデン原子(Mo)と該マグネシウム系清浄剤のマグネシウム原子(Mg)との質量比[Mo/Mg]が0.1以上、
となるように配合する潤滑油組成物の製造方法。」

第4 平成30年5月17日付け取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由1(サポート要件)及び取消理由2(進歩性)の概要
当審は、本件訂正前の本件特許について、次のとおり判断した。
本件訂正前の本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号及び第4号に該当するため、取り消すべきものである(なお、当該取消理由は、特許異議申立人が主張する特許異議申立理由と同旨である。)。
その理由は、おおむね以下のとおりであった。
(1) 取消理由1(サポート要件)について
本件訂正前の発明の課題は、本件特許明細書の【0005】などに記載されるように、「優れた省燃費性を有しつつ、摩擦低減効果による省燃費性を短時間で発現しうる潤滑油組成物を提供すること」にあるといえる。
一方、本件特許明細書の【0074】【表1】及び【0075】【表2】には、本件訂正前の発明に関する実施例及び比較例が記載されていると認められるところ、そのうちの比較例3をみると、当該比較例3は、分散剤A(ホウ素非含有コハク酸イミド)の含有量が1200質量ppmである点で、本件訂正前の発明の規定(当該含有量の上限は、1200質量ppm未満と規定されている。)を外れるものの、その他の点は本件訂正前の発明の規定を満足するものであるから、本件訂正前の発明に極めて近い具体例であることが分かる。そして、当該比較例3のHFRR測定時間は713秒となっており、また、上記本件訂正前の発明の課題に関連する省燃費性発現の即効性の評価はCとなっていることが見て取れる。
また、同表に記載された実施例1は、上記含有量を600質量ppmとしたもの(その他の組成は比較例3と概略同じ。)であるところ、そのHFRR測定時間は180秒であり、上記本件訂正前の発明の課題に関連する省燃費性発現の即効性の評価はAとなっていることが分かる。
そうすると、上記ホウ素非含有コハク酸イミドの含有量は、省燃費性発現の即効性に影響を与えるものであって、その数値が600質量ppm程度である場合には、本件訂正前の発明の課題を解決することができることを理解することができる。
しかしながら、技術常識に照らすと、本件訂正前の発明のうち、比較例3に極めて近い具体例(例えば、上記含有量が1200質量ppmをわずかに下回る態様)の省燃費性発現の即効性が、比較例3よりも大きく改善されたものとなり、もって、本件訂正前の発明の課題を解決することができるとは直ちには考え難い。そして、本件特許明細書をみても、その点を首肯するに足りる合理的な説明は見当たらない。
以上を踏まえると、本件訂正前の発明は、本件訂正前の発明の課題を解決することができない態様(例えば、比較例3に極めて近い、上記含有量が1200質量ppmをわずかに下回る態様)を含むものと考えるのが合理的であるから、このような態様までを包含している本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満足しないというべきである。
(2) 取消理由2(進歩性)について
上記「(1)」のとおり、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の発明の課題を解決することができない範囲を包含していることから、本件特許明細書の【0008】に記載された効果(上記課題を解決することができる旨の効果)は、本件訂正前の発明全般にわたって奏されるものとはいえない(当該効果を引用発明に対する有利な効果あるいは引用刊行物には記載のない異質な効果と解して、本件訂正前の発明の進歩性を認めることはしない。)点を前提に、本件訂正前の発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(証拠)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
<刊行物(証拠)>
上記取消理由において採用した刊行物(特許異議申立人が提出した証拠)は、以下のとおりである(以下、甲第1号証などを単に「甲1」などと呼称する。)。
甲1:特開2000-192068号公報
甲2:特開2006-97027号公報
甲3:特開2008-106199号公報
甲4:特開2003-41283号公報
甲5:特開2014-210844号公報
甲6:特表2007-505168号公報
甲7:特開2012-36344号公報
甲8:特開2014-31515号公報

2 取消理由1(サポート要件)についての当審の判断
標記サポート要件に関する取消理由1について再度検討するに、当審は、当該取消理由1は本件訂正後の特許請求の範囲の記載については当てはまらないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
本件発明(本件訂正後の発明)の課題は、上記本件訂正前の発明の課題と変わるところはなく、本件特許明細書の【0005】などに記載されるように、「優れた省燃費性を有しつつ、摩擦低減効果による省燃費性を短時間で発現しうる潤滑油組成物を提供すること」にあるといえる。
そして、上記取消理由1は、要するに、本件訂正前の発明は、ホウ素非含有コハク酸イミドの含有量の上限を1200質量ppmと規定していたところ、これをわずかに下回る態様は、本件特許明細書の【0074】【表1】及び【0075】【表2】に記載された実施例及び比較例(特に比較例3)の結果からみて、上記課題を解決することができない態様であると考えるのが合理的であるから、このような態様までを包含している本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満足しないというものであった。
しかしながら、本件訂正により、上記上限値は、1000質量ppmとなったことから、当該実施例及び比較例、さらには技術常識を参酌しても、当該上限値(1000質量ppm)近傍の態様が、上記課題を解決することができない態様であるとまでは言い切れないことになり、加えて、特許権者が平成30年7月20日に提出した意見書に記載された実験結果(特に4頁の表1(下記参照)に記載された実験例Aの「HFRR測定時間(秒)」の数値を参照した。)には、当該含有量が1000質量ppmである態様においても、上記課題を解決することができることが示されているから、本件発明が規定する当該含有量の数値範囲全体にわたって、上記課題を解決することができると解するのが相当である。
そうすると、本件訂正により、上記取消理由1として指摘したサポート要件に係る記載不備は解消したものと認められるから、当該取消理由1により、本件特許を取り消すことはできない。


3 取消理由2(進歩性)についての当審の判断
上記「2」のとおり、本件訂正後の特許請求の範囲の記載にサポート要件に係る記載不備は認められないから、本件特許明細書の【0008】に記載された効果(上記課題を解決することができる旨の効果)は、本件発明全般にわたって奏されるものと認めることができる(標記取消理由2において前提とした事項は存在しない。)。
これを踏まえて、標記進歩性に関する取消理由2について再度検討するに、当審は、当該取消理由2は本件発明(本件訂正後の発明)については当てはまらないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
(1) 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の【請求項1】には、次の潤滑性組成物が記載されている。
「潤滑性基材に、(A1)成分として、下記の一般式(1)
【化1】

(式中、R^(1)?R^(4)は炭化水素基を表わすが、R^(1)?R^(4)は全てが同一の基であることは無い。X^(1)?X^(4)は硫黄原子又は酸素原子を表わす。)で表わされる非対称型硫化オキシモリブデンジチオカーバメート;(A2)成分として、下記の一般式(2)
【化2】

(式中、R^(5)は炭化水素基を表わし、X^(5)?X^(8)は硫黄原子又は酸素原子を表わす。)で表わされる対称型硫化オキシモリブデンジチオカーバメート;及び、(B)成分として、フェノール系酸化防止剤又はアミン系酸化防止剤を含有する潤滑性組成物。」
そして、その具体例として、甲1の【0147】【表7】には、次に示す潤滑性組成物が記載されている。また、当然のことながら、甲1には、同表の各成分を配合・調製して当該潤滑性組成物を得ること(製造方法)についても記載されているといえる(【0141】参照)。
以下、同表に記載された潤滑性組成物の発明、及び、同表の成分を配合する潤滑性組成物の製造方法の発明を、まとめて「甲1発明」という。

なお、同表に記載された「本発明品1」とは、下記【0132】【0133】記載の基油1、並びに、下記【0134】?【0137】記載の(A1-1)、(A2-1)、(B-1)、及び(C-1)から構成されるものである(配合割合については下記【0139】【表1】を、(C-1)については下記【0031】を参照のこと。)。
・「【0132】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中、部及び%は特に記載が無い限り重量基準である。
実施例1
以下に示す基油に下記の(A1)、(A2)、(B)、(C)の各成分を表に示す割合で加えて潤滑性組成物を調製した。これらの潤滑性組成物について、低温安定性及びロングドレイン性の評価を以下に記載する方法によって行った。尚、使用した基油は以下のとおりである。
本発明品1?16:基油1
・・・
【0133】
(i)潤滑油基油
基油1:鉱油系高VI油。
動粘度 4.1mm^(2)/s(100℃)、
18.3mm^(2)/s(40℃)、
粘度指数(VI)=126
・・・
【0134】(ii)(A1)成分
(A1-1):一般式(1)において、R^(1)=R^(2)=2-エチルヘキシル基、R^(3)=R^(4)=イソトリデシル基、X^(1)?X^(4)のS/O=2.0/2.0
【0135】(iii)(A2)成分
(A2-1):一般式(2)において、R^(5)=2-エチルヘキシル基、X^(5)?X^(8)のS/O=2.0/2.0
・・・
【0136】(iv)(B)成分
(B-1):4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert.-ブチルフェノール)
・・・
【0137】
(v)(C)成分
(C-1):R^(6)=R^(7)=2-エチルヘキシル基、
a=0/a=(1/3)=95/5
・・・
【0139】


・「【0031】
【化9】


(2) 本件発明1の進歩性について
ア 対比
本件発明1は、「モリブデンジチオカーバメートの組成物全量基準のモリブデン原子換算の含有量」、「カルシウムサリシレートの組成物全量基準のカルシウム原子換算の含有量」、及び「該モリブデン原子(Mo)と該マグネシウム系清浄剤のマグネシウム原子(Mg)との質量比[Mo/Mg]」を規定するものであるところ、甲1発明は、これらの数値について明示するものではないが、甲1発明の「本発明品1」の「Mo ppm」の値(【0139】【表1】参照)、並びに甲1発明の「Caサリシレート」及び「Mgサリシレート」の各配合量及び各TBN(全塩基価)の値からみて(数値の計算については特許異議申立書第20、21頁を参酌した。)、甲1発明における上記数値は、順に、700ppm、1500ppm、1300ppm、及び0.538程度と認められる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違し、その余の点では一致しているといえる。
相違点:本件発明1は、ホウ素非含有コハク酸イミドを含み、該ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素原子換算の含有量が100質量ppm以上1,000質量ppm以下であるのに対して、甲1発明は、当該ホウ素非含有コハク酸イミドを含んでいない点
イ 相違点の検討
上記相違点について検討する。
甲1の【0055】、【0069】には、「(D2)成分である無灰分散剤としては、例えば、コハク酸イミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル又はこれらのホウ素変性物等が挙げられる。」、「上記の無灰分散剤中の窒素含量は、通常0.5?2.0重量%程度である。これらの無灰分散剤のうちで、好ましいものはコハク酸イミド又はそのホウ素変性物である。(D2)成分の好ましい配合量は、潤滑性基材に対して0.5?10重量%程度である。」との記載がある。また、実際に、ホウ素非含有コハク酸イミドを用いた具体例(【0148】【表8】)なども存在する。
さらに、一般に、潤滑油組成物(エンジンオイル)に使用する無灰系分散剤として、ホウ素非含有コハク酸イミドは、よく知られているところ(上記刊行物のうち、特に甲2?4を参照した。なお、甲5?8は、本件発明4、5、7、10?12に係る技術的事項が周知であることを示すための証拠であり、当該相違点に係る技術的事項の容易想到性を立証するために提出された証拠ではない。)、その配合割合に関連するものとして、甲2の【0026】には、潤滑油組成物に0.07wt%(700質量ppm)の窒素を提供するポリイソブテニルスクシンイミド分散剤を含有する、オイルAなる潤滑油組成物が記載されている。
しかしながら、本件発明1は、特定の成分組成からなる潤滑油組成物において、添加剤としてホウ素非含有コハク酸イミドを採用し、かつ、その含有量を、上記のとおり、「100質量ppm以上1,000質量ppm以下」に特定することによりはじめて、本件特許明細書記載の効果(特に、ホウ素非含有コハク酸イミドを組み合わせて使用することによる省燃費性発現の即効性についての効果)を奏するものであって、当該効果は、甲1発明及び甲1?8の記載からは当業者が予測し得えない有利な効果であることを踏まえると、ホウ素非含有コハク酸イミドが無灰分散剤として周知の添加剤であるとしても、これを、甲1に記載された、既に所期の目的を達成し得るものとして調製された実施例の潤滑性組成物(すなわち甲1発明)において、その成分である「ポリブテニルコハク酸ビスイミドホウ素変性物」に代えて、あるいは、さらなる添加剤として、加えることは、当業者にとって容易なこととは認められない。また、甲1発明は既に「ポリブテニルコハク酸ビスイミドホウ素変性物」を有しているのに、わざわざ周知の無灰分散剤であるホウ素非含有コハク酸イミドを添加することを動機付けるに足りる記載を、甲1?8から見いだすこともできない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲1?8の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件発明2?14の進歩性について
本件発明2?13は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備する潤滑油組成物に係る発明であるし、本件発明14は、実質的に、本件発明1の潤滑油組成物の製造方法に係る発明に当たるものであるから、これらの発明についても、本件発明1と同様の理由により、進歩性を有するものと認められる。

第5 結び

以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえず、同法第113条第2号又は第4号に該当するとは認められないから、上記取消理由通知に記載した取消理由(特許異議申立書に記載された特許異議申立理由と同旨)によっては、取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油、モリブデンジチオカーバメート、カルシウム系清浄剤、マグネシウム系清浄剤、及びホウ素非含有コハク酸イミドを含み、
該カルシウム系清浄剤がカルシウムサリシレートを含み、
該モリブデンジチオカーバメートの組成物全量基準のモリブデン原子換算の含有量が60質量ppm以上1,200質量ppm以下であり、
カルシウムサリシレートの組成物全量基準のカルシウム原子換算の含有量が、1,000質量ppm以上2,000質量ppm以下であり、
該ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素原子換算の含有量が100質量ppm以上1,000質量ppm以下であり、
該モリブデン原子(Mo)と該マグネシウム系清浄剤のマグネシウム原子(Mg)との質量比[Mo/Mg]が0.1以上である潤滑油組成物。
【請求項2】
さらに、ホウ素含有コハク酸イミドを含み、該ホウ素含有コハク酸イミドの組成物全量基準のホウ素原子の含有量が50質量ppm以上である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
さらに、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤を含む請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
さらに、櫛形ポリマーを含有する、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記マグネシウム系清浄剤が、マグネシウムスルホネートを含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記マグネシウム系清浄剤の組成物全量基準のマグネシウム原子換算の含有量が、50?1500質量ppmである、請求項1?5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記モリブデン原子(Mo)と前記マグネシウム原子(Mg)との質量比[Mo/Mg]が1より大きい、請求項1?6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素原子換算の含有量が300質量ppm以上1,000質量ppm以下である、請求項1?7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
ナトリウム系清浄剤を含まない請求項1?8のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
基油がAPI(米国石油協会)基油カテゴリーでグループ3?5に分類される鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも一種である請求項1?9のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
前記基油が、API(米国石油協会)基油カテゴリーでグループ3に分類される鉱油と、ポリα-オレフィンとを含む、請求項10に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
前記ポリα-オレフィンの含有量が、前記潤滑油組成物の全量に対して、1?50質量%である、請求項11に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
ガソリンエンジンに用いられる請求項1?12のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
基油に、
モリブデンジチオカーバメートと、
カルシウムサリシレートを含むカルシウム系清浄剤と、
マグネシウム系清浄剤と、
ホウ素非含有コハク酸イミドとを、
該カルシウムサリシレートの組成物全量基準のカルシウム原子換算の含有量が、1,000質量ppm以上2,000質量ppm以下であり、
該モリブデンジチオカーバメートの組成物全量基準のモリブデン原子換算の含有量が60質量ppm以上1,200質量ppm以下であり、
該ホウ素非含有コハク酸イミドの組成物全量基準の窒素換算の含有量が100質量ppm以上1,000質量ppm以下であり、
該モリブデン原子(Mo)と該マグネシウム系清浄剤のマグネシウム原子(Mg)との質量比[Mo/Mg]が0.1以上、
となるように配合する潤滑油組成物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-18 
出願番号 特願2016-547964(P2016-547964)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C10M)
P 1 651・ 537- YAA (C10M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 磯貝 香苗林 建二  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 井上 能宏
日比野 隆治
登録日 2017-08-25 
登録番号 特許第6197123号(P6197123)
権利者 出光興産株式会社
発明の名称 ガソリンエンジン用潤滑油組成物、及びその製造方法  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  
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