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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1345848
異議申立番号 異議2017-700882  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-15 
確定日 2018-09-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6097132号発明「透明粘着シート用光硬化性組成物、それを用いた粘着シートおよびその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6097132号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6097132号の請求項1、3?7に係る特許を維持する。 特許第6097132号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6097132号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成25年4月22日になされた出願であって、平成29年2月24日にその特許権の設定登録がされ、同年9月15日に、その特許について、特許異議申立人森田隼明(以下「申立人」という。)により、特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、同年12月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年2月16日に特許権者より意見書及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、同年3月27日に申立人より意見書が提出されたものである。
その後、平成30年4月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月22日に特許権者より意見書及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、同年8月3日に申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

平成30年6月22日付け訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「重量平均分子量が1万?30万のポリウレタン(A)」とあるのを、「重量平均分子量が2万?10万のポリウレタン(A)」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?7も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「その他の光重合性単量体(C)を30?74.8質量%および」とあるのを、「その他の光重合性単量体(C)を40?65質量%および」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?7も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「(メタ)アクリロイル基が80?100mol%導入されていることを特徴とする透明粘着シート用光硬化性組成物。」とあるのを、「(メタ)アクリロイル基が80?100mol%導入されており、前記その他の光重合性単量体(C)は、そのホモポリマーの理論ガラス転移温度(Tg)が-5℃を下回り、n-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、及びイソステアリルアクリレートから選ばれる単量体(C-1)と、そのホモポリマーの理論Tgが-5℃以上である炭素数が6?18の炭化水素モノアルコールの(メタ)アクリル酸エステルである単量体(C-2)と、を含有するものであり、その他の光重合性単量体(C)全量に占める単量体(C-2)の割合が30?50質量%である、ことを特徴とする透明粘着シート用光硬化性組成物。」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?7も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項について

(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

ア 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1において、願書に最初に添付した明細書の段落【0027】の記載に基づき、ポリウレタン(A)の重量平均分子量の範囲を特定し、請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであって、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
また、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?7も同様である。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、請求項1において、願書に最初に添付した明細書の段落【0036】の記載に基づき、その他の光重合性単量体(C)の含有量の範囲を特定し、請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであって、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
また、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?7も同様である。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は、請求項1において、訂正前の請求項2及び願書に最初に添付した明細書の段落【0037】の記載に基づき、その他の光重合性単量体(C)を、「そのホモポリマーの理論ガラス転移温度(Tg)が-5℃を下回り、n-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、及びイソステアリルアクリレートから選ばれる単量体(C-1)と、そのホモポリマーの理論Tgが-5℃以上である炭素数が6?18の炭化水素モノアルコールの(メタ)アクリル酸エステル(C-2)と、を含有するものであり、その他の光重合性単量体(C)全量に占める単量体(C-2)の割合が30?50質量%である」その他の光重合性単量体(C)に限定し、請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであって、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項3は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
また、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?7も同様である。

エ 訂正事項4
訂正事項4は、請求項2を削除するのみであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

オ 訂正事項5
訂正事項5は、請求項3において、引用する請求項数を減少し、請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものである。
また、訂正事項5は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。


(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1?7について、請求項2、3が請求項1を引用し、請求項3が請求項2を引用し、請求項4が請求項3を引用し、請求項5が請求項4を引用し、請求項6が請求項5を引用し、請求項7が請求項6を引用することから、請求項1?7は一群の請求項をなし、本件訂正の請求は一群の請求項ごとにされたものである。

(3)まとめ
上記(1)、(2)より、訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

上記のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1?7に係る発明(以下、請求項1?7に係る発明を、項番に対応して「本件発明1」?「本件発明7」といい、これらを併せて「本件発明」ということがある。)は、次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

「【請求項1】
ポリオキシアルキレンポリオールを骨格とし、且つ末端に(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が2万?10万のポリウレタン(A)を20?50質量%、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)を5?20質量%、その他の光重合性単量体(C)を40?65質量%および光重合開始剤(D)を0.2?5質量%の割合で含み、酸価が0?5mgKOH/gである透明粘着シート用光硬化性組成物であって、
前記ポリウレタン(A)が、その両末端に有するイソシアナト基又はヒドロキシ基に対し、(メタ)アクリロイル基が80?100mol%導入されており、
前記その他の光重合性単量体(C)は、そのホモポリマーの理論ガラス転移温度(Tg)が-5℃を下回り、n-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、及びイソステアリルアクリレートから選ばれる単量体(C-1)と、そのホモポリマーの理論Tgが-5℃以上である炭素数が6?18の炭化水素モノアルコールの(メタ)アクリル酸エステルである単量体(C-2)と、を含有するものであり、
その他の光重合性単量体(C)全量に占める単量体(C-2)の割合が30?50質量%である、ことを特徴とする透明粘着シート用光硬化性組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の透明粘着シート用光硬化性組成物を硬化させて得られる光学用粘着シート。
【請求項4】
透明導電膜の導電層面に貼り合わせるための透明導電膜固定用シートである請求項3記載の光学用粘着シート。
【請求項5】
請求項4記載の光学用粘着シートを透明導電膜の導電層面に貼り合わせた透明導電膜積層体。
【請求項6】
請求項5記載の透明導電膜積層体を有するタッチパネル。
【請求項7】
請求項6記載のタッチパネルを備えた画像表示装置。」

2 取消理由の概要

(1)訂正前の請求項1、3?7に係る特許に対して平成30年4月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア 特許法第29条第2項について(同法第113条第2号)
請求項1、3?7に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明、引用文献1、2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?7に係る特許は、取り消されるべきものである。

イ 特許法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
請求項1、3?7の記載には不備があるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。

(2)特許設定登録時の請求項1?7に対して平成29年12月13日付で特許権者に通知した取消理由のうち、上記(1)の取消理由通知で採用しなかった取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア 特許法第29条第1項第3号について(同法第113条第2号)
請求項1、3に係る発明は、下記の引用文献3に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1?7に係る特許は、取り消されるべきものである。

イ 特許法第29条第2項について(同法第113条第2号)
請求項1、3に係る発明は、下記の引用文献3に記載された発明、引用文献3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?7に係る特許は、取り消されるべきものである。



引用文献1:国際公開第2012/035958号(甲第1号証)
引用文献2:特開2012-251030号公報(甲第2号証)
引用文献3:国際公開第2012/077727号(甲第3号証)

3 平成30年4月19日付けで通知した取消理由に対する判断

(1)特許法第29条第2項について

ア 引用文献の記載事項

(ア)引用文献1には以下の記載がある(下線は当審で付与した。)。

「[請求項1] (A)重量平均分子量が1万?30万である(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物、(B)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(C)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体、及び(D)光重合開始剤を含有してなる光硬化性透明粘着シート用組成物であって、(C)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体に含まれるカルボキシル基含有単量体が(C)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体の全量に対して、0.1質量%以下であることを特徴とする光硬化性透明粘着シート用組成物。
[請求項2] 光硬化性透明粘着シート用組成物の全量に対して、(A)重量平均分子量が1万?30万である(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物10?50質量%、(B)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル1?30質量%、(C)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体20?88質量%、及び(D)光重合開始剤0.2?5質量%を含有してなることを特徴とする請求項1記載の光硬化性透明粘着シート用組成物。
[請求項3] (C)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体がカルボキシル基含有単量体を含まないことを特徴とする請求項1又は2記載の光硬化性透明粘着シート用組成物。
[請求項4] (B)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、及び(C)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体を重合して得られるポリマーの理論ガラス転移温度が0℃?50℃であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の光硬化性透明粘着シート用組成物。
[請求項5] (C)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体が単官能アルキル(メタ)アクリレート、及び/又は環状アルキル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の光硬化性透明粘着シート用組成物
[請求項6] (A)重量平均分子量が1万?30万である(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物が、ポリオレフィンポリオール化合物、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート、及び1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物を反応させて得られる(メタ)アクリル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の光硬化性透明粘着シート用組成物。
[請求項7] 酸価が0.5mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の光硬化性透明粘着シート用組成物。
[請求項8] 請求項1?7のいずれか記載の光硬化性透明粘着シート用組成物を硬化させて得られる光硬化性透明粘着シートが透明導電膜の貼り合せに使用されることを特徴とする透明導電膜固定用透明粘着シート用組成物。
[請求項9] 請求項8記載の透明導電膜固定用透明粘着シート用組成物を硬化させて得られることを特徴とする透明導電膜固定用透明粘着シート。
[請求項10] ゲル分率が80?100%であることを特徴とする請求項9記載の透明導電膜固定用透明粘着シート。
[請求項11] 請求項9又は10記載の透明導電膜固定用透明粘着シートが、透明導電膜の導電層面に接着されていることを特徴とする積層体。」

「[0002] 近年、携帯電話、ゲーム機器などの分野にタッチパネルが搭載され始めている。タッチパネルは、ITO(酸化インジウムスズ)などの透明導電膜を表層に有する透明基材やガラスとそれを保護する透明保護シート、さらには液晶ディスプレイなどの表示装置といった光学部材を、光学用の透明粘着シートを用いて貼り合せた積層体である。」

「[0007] 本発明が解決しようとする課題は、硬化させて得られる透明粘着シートが、透明導電膜の導電層面に対して直接貼り合わせても導電層を腐食させず、粘着剤層の凝集力、透明性、及び打ち抜き加工性に優れる光硬化性透明粘着シート用組成物を提供することにある。さらには、該透明粘着シートを提供することにある。」

「[0008] 本発明者らは、タッチパネル用光硬化性透明粘着シートが抱える前記の問題点を背景にして、鋭意検討を重ねた結果、高分子量の(メタ)アクリル基(化学式:-COCH=CH_(2) 、-COC(CH_(3))=CH_(2))含有ポリオレフィン化合物、ヒドロキシル基(化学式:-OH)を有する(メタ)アクリル酸エステル、光重合性単量体、及び光重合開始剤を配合した光硬化性透明粘着シート用組成物であって、光重合性単量体に含まれるカルボキシル基単量体が所定量以下である光硬化性透明粘着シート用組成物が、該光硬化性透明粘着シート用組成物を硬化させて得られる光硬化性透明粘着シートの透明性、粘着性、及び透明導電膜の金属腐食防止性が良好であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。」

「[0011] 本発明の光硬化性透明粘着シート用組成物は、組成物中に高分子量の(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物が含まれるため、硬化させて得られる粘着シートの柔軟性、耐透湿性に優れており、さらに組成物中にカルボキシル基が微量しか含まれないため、得られる透明粘着シートの酸成分による透明導電膜の導電層面の腐食を抑制でき、組成物中にヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが含まれるため、得られる粘着シートの凝集力と基材への密着性が優れている。」

「[0021] 本発明の光硬化性透明粘着シート用組成物は、組成物中に高分子量の(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物が含まれるため、硬化させて得られる粘着シートの柔軟性、耐透湿性に優れており、さらに組成物中にカルボキシル基が微量しか含まれないため、得られる透明粘着シートの酸成分による透明導電膜の導電層面の腐食を抑制でき、組成物中にヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが含まれるため、得られる粘着シートの凝集力と基材への密着性が優れている。」

「[0024] ((A)(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物)
(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物としては、ポリオレフィン骨格を有し、さらに(メタ)アクリル基が導入されているもので有れば使用することが出来る。ポリオレフィン骨格としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、ブタジエン、イソプレン、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン、シクロオレフィン等の骨格が挙げられる。耐光性、透明性(非結晶性)、作業性(液状)の点で、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン骨格が好ましい。なお、(メタ)アクリル基とはCH_(2)=CH-CO-またはCH_(2)=C(CH_(3))-CO-を意味する。
[0025] ポリオレフィンへの(メタ)アクリル基の導入方法は、特に限定されるものではないが、反応性の水酸基を分子末端等に有するポリオレフィンを(メタ)アクリル酸を用いてエステル化するか、または、まず、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物をポリオレフィンの水酸基に付加し、イソシアネート基とヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートを反応させることで(メタ)アクリル化する方法を例示できる。
[0026] 中でも、ポリオレフィンポリオール化合物に対して、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物を反応させ、次いでヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートをウレタン化反応させて得られる(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物は、得られる粘着シートの凝集力が高い点で好ましい。」

「[0030] 本発明の(A)(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物の(メタ)アクリル基の導入数としては、1分子中に(メタ)アクリル基が1個以上あれば良く、好ましくは1分子中1?2個である。」

「[0036] 本発明の(B)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、及び(C)の光重合性単量体からなるポリマーの理論ガラス転移温度は、粘着シートの強度、接着力の観点から0?50℃であることが好ましく、5?45℃であることがより好ましく、10?40℃であることがさらに好ましい。0℃より低い場合には、得られる粘着シートが(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物の影響により柔らかくなりすぎるために粘着シートの接着力が低くなり好ましくない。また、50℃より高い場合には、得られる粘着シートが硬くなりすぎ、十分な粘着性が得られないので好ましくない。ここで、理論ガラス転移温度(Tg)は、モノマー原料を構成する各モノマーの単独重合体(ホモポリマー)のTgおよび該モノマーの質量分率(共重合割合)に基づいて下記のフォックス(FOX)の式(1)から算出することができる。(数式省略)」

「[0046] 本発明の光硬化性透明粘着シート用組成物の酸価は、好ましくは0?0.5mgKOH/g、より好ましくは0?0.1mgKOH/g、さらに好ましくは0?0.05mgKOH/gである。酸価が0.5mgKOH/gより高いと、透明導電膜の導電層面の腐食の抑制が困難となる。なお、組成物の酸価はJIS K0070に準拠して測定した値である。例えば、以下のように測定する。」

「[0050] (透明導電膜固定用透明粘着シート)
本発明の透明導電膜固定用透明粘着シートは、上記の透明導電膜固定用透明粘着シート用組成物を硬化させてなる透明導電膜固定用透明粘着シートであって、透明導電膜の導電層面と好適に接着でき、かつ導電層の腐食が生じ難いものである。したがって、透明導電膜固定用透明粘着シートを透明導電膜の導電層面と接着させた積層体はタッチパネルとして好適に用いることができる。また、本発明の透明導電膜固定用透明粘着シートは、基材を有するものであっても、基材を有さず粘着剤層のみからなる両面粘着シートであってもよい。また、粘着剤層は単一層からなるものであっても複数層が積層されていてもよい。なかでも、透明性の確保や、形状追従性の観点からは、基材を有さず、粘着剤層のみからなる両面粘着シートであることが好ましい。
[0051] 本発明の透明導電膜固定用透明粘着シートは、離型PETフィルムに透明導電膜固定用透明粘着シート用組成物を塗布し、塗布した組成物に紫外線照射装置等を用いて紫外線を照射して光硬化させることで、得ることができる。透明導電膜固定用粘着シートの膜厚は、5?500μmとすることが好ましく、10?300μmとすることがより好ましい。透明導電膜固定用粘着シートの膜厚が5μmより薄くなると、粘着シートの貼り合わせが困難となり、500μmより厚くなると、膜厚の制御が困難となる傾向にある。」

「[0054] <(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物(A-1)>
温度計、撹拌器、滴下ロート、乾燥管付き冷却管を備えた四つ口フラスコにイソホロンジイソシアネート101.2g及び水酸基末端水素添加ポリブタジエン(日本曹達株式会社製、製品名:GI‐3000、重量平均分子量14,000)を844.3g仕込み、60℃で反応させ、残存イソシアネート基が1%以下となった時点で、2-ヒドロキシエチルアクリレート53.9gを仕込み70℃まで昇温して2時間反応をさせ、IR測定によりイソシアネート基が消失したことを確認した後、反応を終了し、(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物(A-1)(重量平均分子量50,000)を得た。」

「[0066]

[0067] 表1の結果から明らかなように、実施例で得られた本発明の光硬化性透明粘着シート用組成物は、比較例と比べて電気抵抗値上昇率、全光線透過率、粘着力に優れていることがわかる。」

「[0068] 本発明の光硬化性透明粘着シート用組成物は、高い透明性、金属腐食防止性を有し、且つ粘着性に優れることから透明導電膜固定用の粘着シートとして有用であり、特に静電容量方式のタッチパネルに使用される透明導電膜の固定用に有用である。」

(イ)引用文献2には以下の記載がある。

「【請求項1】
静電容量式タッチパネルと表面保護層との間に配置される粘着シートであって、比誘電率が5.0以上であることを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記粘着シートがウレタン系粘着剤からなる粘着剤層を含む、請求項1の粘着シート。
【請求項3】
前記ウレタン系粘着剤が活性エネルギー線硬化型粘着剤である、請求項2の粘着シート。
【請求項4】
厚みが50?1000μmである、請求項1?3のいずれかの粘着シート。
【請求項5】
静電容量式タッチパネルと表面保護層とが請求項1?4のいずれかの粘着シートを介して密着されてなる、表面保護層付きタッチパネル。
【請求項6】
請求項5の表面保護層付きタッチパネルを備えた表示装置。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
静電容量式タッチパネルでは、指で入力するときの指とタッチパネル電極との間に、前述したように表面保護層、空気層、あるいは粘着剤等の絶縁体が介在すると静電容量が小さくなり、入力時の検出感度が低下し、操作性が低下することがあった。
【0008】
また、表面保護層をガラス板からアクリル樹脂板やポリカーボネート樹脂板等の樹脂板に変更すると、さらに検出感度が低下し、操作性が低下するという問題があった。
【0009】
従って、本発明の目的は、上記課題に鑑み、静電容量式タッチパネルにおいて検出感度の低下を抑制することができる静電容量式タッチパネル用の粘着シートを提供することにある。また、本発明の他の目的は、本発明の粘着シートを用いて静電容量式タッチパネルと表面保護層とが密着された表面保護層付き静電容量式タッチパネルおよびこれを用いた表示装置を提供することにある。」

「【0013】
本発明の粘着シートは、静電容量式タッチパネルと表面保護層との間に配置される粘着シートである。さらに本発明の粘着シートは静電容量式タッチパネルと表面保護層とを密着させるために用いられることが好ましい。つまり、静電容量式タッチパネルと表面保護層との間に空気層が介在しないように、本発明の粘着シートを用いて両者を密着することが好ましい。以下の説明において、静電容量式タッチパネルを単にタッチパネルと言うことがある。」

「【0021】
また、表面保護層には加飾層が設けられていることが好ましい。加飾層は、例えば、表示パネルの画像表示領域に相当する領域を縁取りするための着色層であり、表面保護層の外周に印刷等によって直接設けることができる。あるいは、加飾層を設けたフィルム等を表面保護層に密着させてもよい。」

「【0041】
活性エネルギー線硬化型粘着剤は、電子線や紫外線等の活性エネルギー線によって硬化されて形成された粘着剤である。以下、本発明に好ましく用いられる活性エネルギー線硬化型ウレタン系粘着剤について、詳細に説明する。」

「【0043】
活性エネルギー線硬化性組成物に含有するウレタンポリマーとしては、重合性ウレタンポリマーを少なくとも含むことが好ましい。かかる重合性ウレタンポリマーとしては、分子中にエチレン性不飽和基を有するものが好ましい。ここでエチレン性不飽和基としては、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基等が挙げられる。」

「【0062】
分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(a)は、ポリオールとイソシアネート化合物とを反応させて合成することができる。ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられるが、これらの中でもポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、およびポリカプロラクトンポリオールが好ましい。
【0063】
上記ポリエステルポリオールは、多価カルボン酸と多価アルコールをエステル化反応させて得ることができる。かかる多価カルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、乳酸、ダイマー酸等が挙げられ、中でもアジピン酸、セバシン酸、ピロリメット酸、ダイマー酸が好ましい。
【0064】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル1,5-ペンタンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等を用いることができ、中でもエチレングリコール、1,4-ブタンジオール等の2官能アルコールが好ましい。
【0065】
上記ポリエーテルポリオールは多価アルコールをエーテル化反応させて得ることができる。ここで用いる多価アルコールとしては、上記ポリエステルポリオールの製造に用いる多価アルコールと同様のものを用いることができる。」

「【0084】
本発明の活性エネルギー線硬化剤組成物を硬化せしめてなる本発明の粘着シートは、カルボキシル基を有する成分を実質的に含まないことが好ましい。粘着シートがカルボキシル基を有する成分を含むと、タッチパネルを構成する透明導電層が腐食するという問題が発生することがある。」

「【0114】
上記観点から、本発明の粘着シートの厚みは50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、さらに120μm以上であることが好ましく、特に150μm以上であることが好ましい。厚みの上限は1000μm程度である。粘着シートの厚みが小さすぎる場合は、タッチパネルと表面保護層の空隙を十分に埋めることができずに空気層が存在するという問題、あるいは表面保護層の加飾層の段差が十分に埋めることができずに段差部に気泡が発生するという問題が生じることがある。一方、粘着シートの厚みが大きすぎる場合は、タッチパネルの検出感度が低下したり、最終製品の総厚みが厚くなるなどの不都合が生じる場合がある。」

「【0138】
<重合性ウレタンポリマー1の合成>
撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を装備したフラスコに、ポリプロピレングリコール(旭硝子ウレタン(株)製「エクセノール3020」、数平均分子量3200)97.98質量部、ジラウリル酸ジブチルすず0.11質量部を仕込んだ。次に窒素ガスを吹き込みながら系内を70℃まで昇温し、均一に溶解した後、イソホロンジイソシアネート7.38質量部を加え、3時間攪拌しながら保温した。こうして分子の両末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(a1)を合成した。引き続き、酸素ガス、窒素ガスを吹き込みながら、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.551質量部、グリセリンジアクリレート0.153質量部、1,3-ブタンジオール0.047質量部を順次加えて、3時間攪拌しながら保温して30分ごとの分子量測定の結果、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnが1.5で一定であることを確認し反応を終了し、重合性ウレタンポリマー1(重量平均分子量41500)を得た。この重合性ウレタンポリマー1は、分子の両末端にそれぞれ1個のエチレン性不飽和基を有する重合性ウレタンポリマー(A1)と、分子の一方の末端に1個のエチレン性不飽和基を有しかつ他方の末端に2個のエチレン性不飽和基を有する重合性ウレタンポリマー(A2)と、分子の一方の末端にヒドロキシル基を有しかつ他方の末端に1個のエチレン性不飽和基を有する重合性ウレタンポリマー(B)とを、50:30:20(モル比)の割合で含む。」

「【0142】
(実施例1)
以下の要領で粘着シートを作製した。
<無溶剤型の活性エネルギー線硬化型組成物の調製>
前記重合性ウレタンポリマー1を90質量部、重合性モノマーとして4-ヒドロキシブチルアクリレートを14質量部、フェノキシエチルアクリレートを10質量部、重合開始剤としてヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤(チバスペシャリティーケミカルズ(株)「イルガキュアー184」)を0.7質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を1質量部、リン系酸化防止剤としてトリフェニルホスファイトを0.5質量部、立体障害ピペリジル基とエチレン性不飽和基とを有する単量体として4-(メタ)アクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンを0.5質量部加えて均一に混合することにより、無溶剤型の活性エネルギー線硬化性組成物(紫外線硬化性組成物)を調製した。
<粘着シートの作製>
上記の活性エネルギー線硬化型組成物を、離型PETフィルム(東レフィルム加工(株)製のセラピール(登録商標))上に、スリットダイコーターで塗工した後、窒素ガスの吹き付けによって酸素濃度が300ppmの状態で、メタルハライドランプを用いて紫外線照射(積算光量1500mJ/cm^(2))して粘着剤層を形成し、さらに粘着剤層上に離型PETフィルム(東レフィルム加工(株)製のセラピール(登録商標))を積層して粘着シートを作製した。得られた粘着シートの厚みは175μm(離型PETフィルムは含まない)であった。」

「【0154】
初期密着力が8N/25mm以上である実施例1、2、4、5、6は、表面保護層に設けられた加飾層(黒色印刷層)の段差部での気泡の発生がなかった。実施例3は、初期密着力が8N/25mm未満であり、気泡の発生が僅かに認められた。」

(ウ)引用文献3には以下の記載がある。

「[0043] ポリオール(i)としては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレンジオール等のポリオキシアルキレンポリオールや、ポリエステルポリオール、ポリカードネートポリオール等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレンポリオールが好ましく、特にポリオキシプロピレンポリオールが好ましい。また、ポリオキシプロピレンポリオールのオキシプロピレン基の一部をオキシエチレン基で置換すると、堰状部形成用光硬化性樹脂組成物の他の成分との相溶性を高めることができ、さらに好ましい。 ジイソシアネート(ii)としては、脂肪族ジイソシアネート、脂環式のジイソシアネートおよび無黄変性芳香族ジイソシアネートから選ばれるジイソシアネートが好ましい。そのうち、脂肪族ポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチル-ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ポリイソシアネートの例としては、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)等が挙げられる。無黄変性芳香族ジイソシアネートとしてはキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。」

イ 引用文献1に記載された発明(引用発明)の認定

引用文献1には、「光硬化性透明粘着シート用組成物の全量に対して、(A)重量平均分子量が1万?30万である(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物10?50質量%、(B)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル1?30質量%、(C)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体20?88質量%、及び(D)光重合開始剤0.2?5質量%を含有してなること」(請求項2)、「(C)ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体が単官能アルキル(メタ)アクリレート、及び/又は環状アルキル(メタ)アクリレートである」こと(請求項5)、「酸価が0.5mgKOH/g以下であること」(請求項7)、「(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物としては、ポリオレフィン骨格を有」すること([0024])、「(C)の光重合性単量体からなるポリマーの理論ガラス転移温度は、粘着シートの強度、接着力の観点から0?50℃であることが好まし」いこと([0036])が記載されている。
また、引用文献1には、「ポリオレフィンポリオール化合物に対して、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物を反応させ、次いでヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートをウレタン化反応させて得られる(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物は、得られる粘着シートの凝集力が高い点で好ましい。」([0026])、「本発明の(A)(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物の(メタ)アクリル基の導入数としては、1分子中に(メタ)アクリル基が1個以上あれば良く、好ましくは1分子中1?2個である」([0030])と記載されており、また、ポリオレフィンポリオール化合物と、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物との反応は、ポリウレタン化反応であることを考慮すると、引用文献1の(A)成分は、結局、「ポリオレフィンを骨格とし、且つ末端に(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が1万?30万のポリウレタン」であるといえ、また、このポリウレタンは、その両末端に有するイソシアネート基に対し、(メタ)アクリル基が50?100mol%導入されていることが記載されているといえる。

以上からすると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリオレフィンを骨格とし、且つ末端に(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が1万?30万のポリウレタン(A)を10?50質量%、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)を1?30質量%、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体(C)を20?88質量%、及び、光重合開始剤(D)を0.2?5質量%を含み、酸価が0.5mgKOH/g以下である光硬化性透明粘着シート用組成物であって、
前記ポリウレタン(A)が、その両末端に有するイソシアネート基に対し、(メタ)アクリル基が50?100mol%導入されており、
前記ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体(C)は、理論ガラス転移温度(Tg)が0?50℃であり、単官能アルキル(メタ)アクリレート、及び/又は環状アルキル(メタ)アクリレートである、透明粘着シート用光硬化性組成物。」

ウ 本件発明と引用発明との対比・判断

(ア)本件発明1と引用発明との対比・判断

引用発明における「末端に(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が1万?30万のポリウレタン(A)を10?50質量%」、「ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)を1?30質量%」、「ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体(C)を20?88質量%」、「光重合開始剤(D)を0.2?5質量%」はそれぞれ、本件発明の「末端に(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が2万?10万のポリウレタン(A)を20?50質量%」、「ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)を5?20質量%」、「その他の光重合性単量体(C)を40?65質量%」、「光重合開始剤(D)を0.2?5質量%」に相当しており、両者の重量平均分子量、及び、含有量の範囲は重複している((A)成分の重量平均分子量は「2?10万」の範囲で一致し、(A)?(D)成分の含有量はそれぞれ、「20?50質量%」、「5?20質量%」、「40?65質量%」、「0.2?5質量%」の範囲で一致している。)。
また、引用発明における「酸価が0.5mgKOH/g以下である光硬化性透明粘着シート用組成物」は、本件発明1における「酸価が0?5mgKOH/gである透明粘着シート用光硬化性組成物」に相当している。
また、引用発明における「前記ポリウレタン(A)が、その両末端に有するイソシアネート基に対し、(メタ)アクリル基が50?100mol%導入されており」は、本件発明1における「前記ポリウレタン(A)が、その両末端に有するイソシアナト基又はヒドロキシ基に対し、(メタ)アクリロイル基が80?100mol%導入されており」に相当している。
また、引用発明における「ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体(C)は、理論ガラス転移温度(Tg)が0?50℃であり、単官能アルキル(メタ)アクリレート、及び/又は環状アルキル(メタ)アクリレートである」と、本件発明1の「前記その他の光重合性単量体(C)は、そのホモポリマーの理論ガラス転移温度(Tg)が-5℃を下回り、n-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、及びイソステアリルアクリレートから選ばれる単量体(C-1)と、そのホモポリマーの理論Tgが-5℃以上である炭素数が6?18の炭化水素モノアルコールの(メタ)アクリル酸エステルである単量体(C-2)と、を含有するもの」とを対比すると、両者は、(C)成分として、(メタ)アクリル酸エステルを含む点で共通している。

したがって、本件発明1と引用発明とを対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「末端に(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が2万?10万のポリウレタン(A)を20?50質量%、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)を5?20質量%、その他の光重合性単量体(C)を40?65質量%および光重合開始剤(D)を0.2?5質量%の割合で含み、酸価が0?5mgKOH/gである透明粘着シート用光硬化性組成物であって、
前記ポリウレタン(A)が、その両末端に有するイソシアナト基に対し、(メタ)アクリロイル基が80?100mol%導入されており、
前記その他の光の重合性単量体(C)は、(メタ)アクリル酸エステルを含有するものであることを特徴とする透明粘着シート用光硬化性組成物」である点

<相違点1>
ポリウレタン(A)の成分に関し、本件発明1は、「ポリオキシアルキレンポリオールを骨格」としているのに対し、引用発明は、「ポリオレフィンを骨格」としている点

<相違点2>
その他の光重合性単量体(C)の成分に関し、本件発明1は、「前記その他の光重合性単量体(C)は、そのホモポリマーの理論ガラス転移温度(Tg)が-5℃を下回り、n-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、及びイソステアリルアクリレートから選ばれる単量体(C-1)と、そのホモポリマーの理論Tgが-5℃以上である炭素数が6?18の炭化水素モノアルコールの(メタ)アクリル酸エステルである単量体(C-2)と、を含有するもの」であるのに対し、引用発明は、単に、「(メタ)アクリル酸エステルを含有するもの」であって、(C-1)と(C-2)とをTg(-5℃)で分けて、それぞれを特定していない点。

上記相違点1について検討する(下線は当審が付した。)。

(a)引用文献1及び引用文献2の課題の共通性について
引用文献1には、「本発明が解決しようとする課題は、硬化させて得られる透明粘着シートが、透明導電膜の導電層面に対して直接貼り合わせても導電層を腐食させず、粘着剤層の凝集力、透明性、及び打ち抜き加工性に優れる光硬化性透明粘着シート用組成物を提供することにある。さらには、該透明粘着シートを提供することにある。」([0007])、「また、本発明の透明導電膜固定用透明粘着シートは、基材を有するものであっても、基材を有さず粘着剤層のみからなる両面粘着シートであってもよい。また、粘着剤層は単一層からなるものであっても複数層が積層されていてもよい。粘着剤層は単一層からなるものであっても複数層が積層されていてもよい。なかでも、透明性の確保や、形状追従性の観点からは、基材を有さず、粘着剤層のみからなる両面粘着シートであることが好ましい。」([0050])と記載されている。
他方、引用文献2には、「本発明の目的は、上記課題に鑑み、静電容量式タッチパネルにおいて検出感度の低下を抑制することができる静電容量式タッチパネル用の粘着シートを提供することにある。また、本発明の他の目的は、本発明の粘着シートを用いて静電容量式タッチパネルと表面保護層とが密着された表面保護層付き静電容量式タッチパネルおよびこれを用いた表示装置を提供することにある。」(【0009】)、「静電容量式タッチパネルと表面保護層との間に空気層が介在しないように、本発明の粘着シートを用いて両者を密着することが好ましい。」(【0013】)、「粘着シートがカルボキシル基を有する成分を含むと、タッチパネルを構成する透明導電層が腐食するという問題が発生することがある。」(【0084】)、「初期密着力が8N/25mm以上である実施例1、2、4、5、6は、表面保護層に設けられた加飾層(黒色印刷層)の段差部での気泡の発生がなかった。実施例3は、初期密着力が8N/25mm未満であり、気泡の発生が僅かに認められた。」(【0154】)と記載されている。
以上の記載からすれば、引用文献1には、確かに「形状追随性の観点」が記載され、他方、引用文献2には、「段差部での気泡の発生がなかった」、すなわち、段差吸収性に優れることが記載されているともいえ、両者は、「形状追随性」または「段差吸収性」に優れた粘着シートを得るという類似の課題を有しているともいえる。
しかしながら、引用文献1における「形状追随性の観点」とは、単に、粘着シートが基材を有するものであるか基材を有さず粘着剤層のみからなる両面粘着シートであるかを選択する際の基準のことであって、「基材を有さず、粘着剤層のみからなる両面粘着シートであることが好ましい。」([0050])と示されているように、引用文献1には、粘着剤層のみからなる方が柔軟性があるために、基材を有するよりも好ましい旨記載されているに過ぎず、引用発明の課題は、あくまで「硬化させて得られる透明粘着シートが、透明導電膜の導電層面に対して直接貼り合わせても導電層を腐食させず、粘着剤層の凝集力、透明性、及び打ち抜き加工性に優れる光硬化性透明粘着シート用組成物を提供すること」([0007])であるといえる。
また、引用文献2における「段差吸収性」といっても、引用文献2に記載された発明は、タッチパネルと表面保護層とを空気が入らないように密着させて検出感度の低下を抑制することを課題としており(【0009】、【0013】)、気泡の発生を抑制するために、粘着シートの初期密着力を8N/25mm以上として密着力を高めれば、段差吸収性が改善されるというものであるから(【0154】)、引用文献2には、柔軟性を有するという意味ではなく、密着性を有するという意味で、「段差吸収性」に優れた粘着シートが記載されているに過ぎないといえる。
したがって、引用発明と引用文献2に記載された発明は、課題が共通しているとはいえず、また、引用文献1における「形状追随性」と引用文献2における「段差吸収性」とは異なる概念であるといえる。

(b)ポリウレタン(A)の成分を変更することについて
ポリウレタン(A)の成分に関し、引用発明における「ポリオキシアルキレンポリオール骨格」を、本件発明1における「ポリオレフィン骨格」に変更することについて以下検討する。
引用発明のポリウレタン(A)は、[0021]の記載によれば、「組成物中に高分子量の(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物が含まれるため、硬化させて得られる粘着シートの柔軟性、耐透湿性に優れ」るのであるから、「(メタ)アクリル基含有ポリオレフィン化合物」は上記課題を達成する上で必須の構成であるといえる。
一方、引用文献2(甲第2号証)には、本件発明1と同じく、ポリウレタン(A)、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)、その他の光重合性単量体(C)、および、光重合開始剤(D)成分を含有し、酸価も重複する透明粘着シート用活性エネルギー線硬化性組成物を紫外線照射等によって硬化させた粘着シートが記載され、前記ポリウレタン(A)の成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコールをエーテル化反応させてポリエーテルポリオールとしたもの、すなわち、「ポリオキシアルキレンポリオール」を骨格としたポリウレタンを用いることができると記載され(【0062】?【0065】)、実施例にも「ポリオキシアルキレンポリオール」の一種である「ポリオキシプロピレングリコール」を骨格としたポリウレタンを用いることが記載されている(【0138】)。
しかしながら、引用文献2には、ポリオキシアルキレンポリオールを骨格としたポリウレタンに関し、それを選択した場合の有利な効果や機能について何ら記載はなく、引用発明のポリウレタン(A)の機能の全てを引用文献2のポリオキシアルキレンポリオールを骨格としたポリウレタンで代替できるものではないから、引用発明のポリウレタン(A)の成分を検討する際に、引用文献2に列挙された成分の中から、引用文献2のポリオキシアルキレンポリオールを骨格としたポリウレタンを採用する動機付けがあるとはいえない。
仮に、引用文献2のポリオキシアルキレンポリオールを骨格としたポリウレタンが上記(a)で述べた「段差吸収性」をその作用とするものであるとしても、この作用が柔軟性を有するということには直ちにつながらないことは上記(a)で述べたとおりであるから、やはり引用発明における柔軟性を有するという作用を代替できるものとはいえない。
よって、上記相違点1は実質的な相違点であるし、当業者が容易に想到し得るものでもない。
また、引用文献3をみても、ポリオキシアルキレンポリオールを骨格としたポリウレタンに関する記載はあるものの([0043])、それを選択した場合の有利な効果や機能について何ら記載はなく、引用発明のポリウレタン(A)の機能の全てを引用文献3のポリオキシアルキレンポリオールを骨格としたポリウレタンで代替できるものではないから、引用発明のポリウレタン(A)の成分を検討する際に、引用文献3に列挙された成分の中から、引用文献3に記載されたポリオキシアルキレンポリオールを骨格としたポリウレタンを採用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、相違点2については検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明、及び、引用文献1?3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである、とはいえない。

(イ)本件発明3?7と引用発明との対比・判断
本件発明3?7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用しているから、本件発明3?7についても同様に、引用発明、及び、引用文献1?3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである、とはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、平成30年8月3日付け意見書において、「形状追随性」に関し、引用文献1の【0050】には、本件明細書の【0051】と同一内容の文章が記載されており、「本件出願と引用文献1とは出願人がいずれも本件特許権者であり同一であること等からすれば、「形状追随性(即ち段差吸収性)」ということは、特許権者自身が自認していることが明らかである」(第9頁)と主張している。
しかしながら、「形状追随性」の解釈として、本件発明と引用発明が同一であるとしても、上記(ア)(a)で示したとおり、引用発明と引用文献2に記載された発明との間において課題が共通するとはいえないことに変わりはないから、本件発明1は、引用発明、及び、引用文献1、2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるとする根拠とはならず、上記主張は採用できない。
また、申立人は、同意見書において、「引用文献2で段差吸収性が改善されているのは、ポリウレタン(A)成分に関し、引用文献2において、本件発明1と同様に、「ポリオキシアルキレンポリオール」を骨格としていることによるのであって、段差吸収性の指標としての初期密着力とは全く無関係である。」(第10頁)と主張している。
しかしながら、引用文献2の【0013】に、「静電容量式タッチパネルと表面保護層との間に空気層が介在しないように、本発明の粘着シートを用いて両者を密着することが好ましい。」と示され、【0154】に、「初期密着力が8N/25mm以上である実施例1、2、4、5、6は、表面保護層に設けられた加飾層(黒色印刷層)の段差部での気泡の発生はなかった。」と示されているように、引用文献2に記載された発明は、上記課題(タッチパネルと表面保護層とを空気が入らないように密着させて検出感度の低下を抑制すること)に対し、タッチパネルと表面保護層との間の初期密着度を上げることによって、段差部での気泡の発生を抑制する、すなわち、段差吸収性を改善することが示されているといえる。
したがって、引用文献2に記載された発明において段差吸収性が改善しているのは、段差吸収性の指標としての初期密着力と全く無関係であるとはいえない。
また、引用文献2の【0026】に「比誘電率が5.0以上の粘着シートを用いることによって検出感度の低下が抑制されることを見いだした。」と示されているように、引用文献2に記載された発明は、粘着シートの比誘電率を特定することによって発明の課題を解決するものであって、比誘電率を特定するために、重合性ウレタンポリマーの種類、分子量等を変化させて検討しているものであって、上記(ア)(b)で述べたとおり、引用文献2には、ポリオキシアルキレンポリオールを骨格としたポリウレタンに関し、それを選択した場合の有利な効果や機能について何ら記載はないのであるから、ポリオキシアルキレンポリオールを骨格としたポリウレタンを採用するという手段で段差吸収性を改善したものとはいえない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。

エ 理由1についてのまとめ

以上のとおり、本件発明1、3?7は、いずれも、引用発明、引用文献1?3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、とはいえない。

(2)特許法第36条第6項第1号について

ア 平成30年4月19日付けで特許権者に通知した取消理由においては、実施例に記載されている(C-1)成分と(C-2)成分との配合比が特定された場合以外を含む請求項1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである、というものである。
しかしながら、本件訂正により、その他の光重合性単量体(C)の含有量が「40?65質量%」に訂正され(訂正事項2)、さらに、その他の光重合性単量体(C)について、「そのホモポリマーの理論ガラス転移温度(Tg)が-5℃を下回り、n-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、及びイソステアリルアクリレートから選ばれる単量体(C-1)と、そのホモポリマーの理論Tgが-5℃以上である炭素数が6?18の炭化水素モノアルコールの(メタ)アクリル酸エステル(C-2)と、を含有するものであり、その他の光重合性単量体(C)全量に占める単量体(C-2)の割合が30?50質量%」に訂正された(訂正事項3)。
そして、本件明細書によると、本件発明が解決しようとする課題は、「透明導電膜の導電層面に対して直接貼り合わせても導電層を腐食させず、粘着剤層の透明性、粘着力に優れ、且つ段差吸収性に優れる一液型の透明粘着シート用光硬化性組成物・・・(略)・・・を提供すること」(【0009】)であると認められるところ、本件発明は、「特定範囲の分子量を有し、且つ、末端に(メタ)アクリロイル基が導入されたポリオキシアルキレン系ウレタンアクリレート化合物を、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルおよび該ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル以外の光重合性単量体と組み合わせて使用すると、光重合開始剤を配合して透明粘着シート用光硬化性組成物としたときに、優れた透明性、粘着性、透明導電膜の金属腐食防止性および段差吸収性において優れた性能を示すことを見出し」(【0010】)たものである。

確かに、その他の光重合性単量体(C)に占める単量体(C-2)の割合に関し、本件発明の具体的な実施例をみると、(C)成分に占める(C-1)成分であるEHA(2-エチルヘキシルアクリレート)の配合割合は、40質量%(実施例1?5、9、10)、50質量%(実施例6)等の場合しか記載されていない。
しかしながら、本件明細書における発明の詳細な説明をみると、【0037】には、「単量体(C-1)と単量体(C-2)の使用比率は適宜選択できるが、単量体(C)全量に占める単量体(C-2)の割合は30?60質量%、さらには35?50質量%であることが好ましく、この範囲であると粘着性および柔軟性に富んだ粘着シートを得ることができる。」と記載されており、この記載は、単量体(C)全量に占める単量体(C-2)の割合を30?50質量%とすれば上記課題を解決し得るものとして、実施例1?7、9、10に対応付けられるものである。
また、(C-1)成分と(C-2)成分の種類に関し、実施例には、確かに、(C-1)成分として、EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)の1種のみ、(C-2)成分として、CHA(シクロヘキシルアクリレート)、IBA(イソボロニルアクリレート)、LA(ラウリルアクリレート)、STA(ステアリルアクリレート)の4種のみしか開示されていない。
しかしながら、(C)成分について、本件明細書における発明の詳細な説明をみると、【0032】には、「単量体としては特に限定はなく、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などの光重合可能な官能基を有するものであれば、単官能性又は多官能性のいずれであってもよい。光重合性単量体は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。」と記載され、【0036】には、「光重合性単量体(C)の含有量は、光硬化性組成物を硬化して得られる硬化物のガラス転移温度が所望の範囲に入るように適宜選択することができる。」と記載され、また、【0037】には、「光重合性単量体(C)として、ホモポリマーの理論ガラス転移温度(Tg)が-5℃を下回る単量体(C-1)とホモポリマーの理論Tgが-5℃以上の単量体(C-2)とを組み合わせて使用することができる。単量体(C-1)の具体例としては、n-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソステアリルアクリレートなどが挙げられ、単量体(C-2)の具体例としては、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレートなどのような炭素数6?18の炭化水素基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、即ち、炭化水素(メタ)アクリレートが挙げられる。」と記載されている。
すなわち、(C)成分としては、「単量体としては特に限定はなく」、「光重合可能な官能基を有するものであれば、単官能性又は多官能性のいずれであっても」よく、「単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができ」、その含有量は「ガラス転移温度が所望の範囲に入るように適宜選択することができる。」ことが記載されているといえる。
よって、上記課題を解決するにあたり、実際に実施例で使用されている上記成分が必須であるとまではいえないから、本件発明の(C-1)成分及び(C-2)成分も実施例に対応付けられるものである。
そうすると、本件発明1も実施例と同様の効果を示すものであるということができるから、本件発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである、とはいえない。

イ 申立人の主張について

申立人は、平成30年8月3日付け意見書において、「今回訂正された本件発明1は、例えば、単量体(C)の内、実に69質量%もの部分がどのようなものであるか不明である場合も包含しているのであり、このような特許権者の主張は、明らかに誤りであり、失当である。また、このような場合には、当然ながら、得られる透明粘着シートのTgも不明であり、従って本発明の課題を解決できない場合を含むことは明白である。」と主張している。
しかしながら、(C)成分は、全体の組成物からすれば40?65質量%であることが特定されているので、単量体(C)の全てが特定されていないとしても、それが発明の課題を解決することができないほどの透明粘着シートに対して大きな影響を及ぼすとまではいうことはできない。しかも、上記アで述べたとおり、本件明細書には、(C)成分は、「単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。」(【0032】)と記載され、「単量体(C-1)と単量体(C-2)の使用比率は適宜選択できる」(【0036】)との記載があることからすれば、単量体(C-1)と単量体(C-2)として具体的に示されている化合物は(C)成分のうちの主成分であるといえる。そして、発明の詳細な説明には、「硬化して得られる粘着シートのガラス転移温度を-10?-60℃の範囲に調整する」(【0036】)ことを前提として、その他の例えば(C-3)成分を【0033】、【0034】に列挙された中から適宜選択することができることが記載されているといえる。
よって、実質的にみれば、「実に69質量%もの部分がどのようなものであるか不明」ということはできない。
そうすると、本件発明1が、本発明の課題を解決できない場合を含むことは明白であるとまではいえない。

4 平成29年12月13日付けで通知した取消理由(特許法第29条第1項及び同法同条2項)に対する判断

(1)引用文献3の記載事項

「[0008] 本発明は、他の面材(表示パネル等)との貼合が簡便であり、他の面材と貼合した際に、他の面材と粘着層との界面に空隙が残存しにくい粘着層付き透明面材;透明面材と粘着層との界面における空隙の発生が充分に抑えられ、かつ他の面材との貼合が簡便であり、他の面材と貼り合わせた際にも、他の面材と粘着層との界面に空隙が残存しにくい、粘着層付き透明面材を製造する方法;表示パネルと粘着層との界面における空隙の発生が充分に抑えられた表示装置;および表示パネルと透明面材(保護板)との貼合が簡便であり、表示パネルと粘着層との界面に空隙が残存しにくい表示装置の製造方法を提供する。」

「[0014] 本発明の粘着層付き透明面材は、他の面材(表示パネル等)との貼合が簡便であり、他の面材と貼合した際に、他の面材と粘着層との界面に空隙が残存しにくい。
本発明の粘着層付き透明面材の製造方法によれば、透明面材と粘着層との界面における空隙の発生が充分に抑えられ、かつ他の面材との貼合が簡便であり、他の面材と貼り合わせた際にも、他の面材と粘着層との界面に空隙が残存しにくい粘着層付き透明面材を製造できる。
本発明の表示装置は、表示パネルと粘着層との界面における空隙の発生が充分に抑えられたものとなる。
本発明の表示装置の製造方法によれば、表示パネルと透明面材(保護板)との貼合が簡便であり、表示パネルと粘着層との界面に空隙が残存しにくい。」

「[0017]<粘着層付き透明面材>
図1は、本発明の粘着層付き透明面材の一例を示す断面図である。
粘着層付き透明面材1は、保護板10(透明面材)と、保護板10の表面の周縁部に形成された遮光印刷部12と、遮光印刷部12が形成された側の保護板10の表面に形成された粘着層14と、粘着層14の表面を覆う、剥離可能な保護フィルム16とを有する。
[0018](保護板)
保護板10は、後述する表示パネルの画像表示側に設けられて表示パネルを保護するものである。
保護板10としては、ガラス板、または透明樹脂板が挙げられ、表示パネルからの出射光や反射光に対して透明性が高い点はもちろん、耐光性、低複屈折性、高い平面精度、耐表面傷付性、高い機械的強度を有する点からも、ガラス板が最も好ましい。光硬化性樹脂組成物の硬化のための光を充分に透過させる点でも、ガラス板が好ましい。」

「[0064] モノマー(B’)は、下記のモノマー(B4)を含むことが好ましい。モノマー(B4)は、減圧雰囲気下にて表示パネルと粘着層付き透明面材とを貼合した後、これを大気圧雰囲気下に戻した際の、粘着層に生じた空隙が消失するまでの時間の短縮化に寄与する。
一方、モノマー(B4)を含有させると、層状部形成用光硬化性樹脂組成物の硬化に要する時間が長くなる傾向にある。
モノマー(B4):炭素数8?22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートから選ばれる1種以上。
モノマー(B4)としては、n-ドデシルメタクリレート、n-オクタデシルメタクリレート、n-ベヘニルメタクリレート等が挙げられ、n-ドデシルメタクリレート、n-オクタデシルメタクリレートが好ましい。
モノマー(B4)の含有割合は、硬化性化合物(II)の全体(100質量%)、すなわちオリゴマー(A’)とモノマー(B’)との合計(100質量%)のうち、5?50質量%が好ましく、15?40質量%がより好ましい。該モノマー(B4)の含有割合が5質量%以上であると、モノマー(B4)の充分な添加効果が得られやすい。」

「[0113]〔例1?7〕
(層状部形成用光硬化性樹脂組成物)
分子末端をエチレンオキシドで変性した2官能のポリプロピレングリコール(水酸基価より算出した数平均分子量:4000)と、イソホロンジイソシアネートとを、4対5となるモル比で混合し、錫化合物の触媒存在下で、70℃で反応させて得られたプレポリマーに、2-ヒドロキシエチルアクリレートをほぼ1対2となるモル比で加えて70℃で反応させることによって、ウレタンアクリレートオリゴマー(以下、UA-1と記す。)を得た。UA-1の硬化性基数は2であり、数平均分子量は約24000であり、25℃における粘度は約830Pa・sであった。
[0114] UA-1の40質量部、2-ヒドロキシブチルメタクリレート(共栄社化学社製、ライトエステル HOB)の30質量部、n-ドデシルメタクリレートの30質量部を均一に混合し、該混合物の100質量部に、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(光重合開始剤、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、IRGACURE 819)の0.5質量部、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン(重合禁止剤、東京化成社製)の0.01質量部を均一に溶解させて、組成物PDを得た。」

「[0116](工程(a))
保護板Aの遮光印刷部の内縁から約5mmの位置の全周にわたって、幅約0.7mm、塗布厚さ約0.6mmとなるように堰状部形成用光硬化性樹脂組成物Cをディスペンサにて塗布し、未硬化の堰状部を形成した。
次に、ケミカルランプ(日本電気社製、FL15BL、ピーク波長:365nm、照射強度:2mW/cm2)からの紫外線および450nm以下の可視光を30秒間、保護板A上に形成した未硬化の堰状部に均一に照射した。これにより未硬化の堰状部が増粘した。
(工程(b))
保護板Aに形成された堰状部の内側の領域に、層状部形成用光硬化性樹脂組成物Dを、ディスペンサを用いて総質量が2.4gとなるように複数個所に供給した。
層状部形成用光硬化性樹脂組成物Dを供給する間、未硬化の堰状部の形状は維持されていた。
[0117](工程(c))
保護板Aを、一対の定盤の昇降装置が設置されている減圧装置内の下定盤の上に、層状部形成用光硬化性樹脂組成物Dの面が上になるように平置した。
保護フィルムが貼着された支持面材Bを、減圧装置内の昇降装置の上定盤の下面に静電チャックを用いて、垂直方向では保護板Bとの距離が10mmとなるように保持させた。
減圧装置を密封状態として減圧装置内の圧力が約40Paとなるまで排気した。減圧装置内の昇降装置にて上下の定盤を接近させ、保護板Aと、保護フィルムが貼着された支持面材Bとを、層状部形成用光硬化性樹脂組成物Dを介して2kPaの圧力で圧着し、10秒間保持させた。静電チャックを除電して上定盤から支持面材を離間させ、約15秒で減圧装置内を大気圧雰囲気に戻し、保護板A、保護フィルムおよび未硬化の堰状部で層状部形成用光硬化性樹脂組成物Dからなる未硬化の層状部が密封された積層物Eを得た。
積層物Eにおいて未硬化の堰状部の形状は、ほぼ初期の状態のまま維持されていた。
[0118](工程(d))
積層物Eの未硬化の堰状部および未硬化の層状部に、支持面材の側から、ケミカルランプ(日本電気社製、FL15BL、ピーク波長:365nm、照射強度:2mW/cm^(2))からの紫外線および450nm以下の可視光を10分間、均一に照射し、未硬化の堰状部および未硬化の層状部を硬化させることによって、粘着層を形成した。
照射強度は、照度計(ウシオ電機社製、紫外線強度計ユニメーターUIT-101)を用いて測定した。
従来の注入法による製造時に要する空隙除去の工程が不要であるにもかかわらず、例1?7のいずれにおいても、粘着層中に残留する空隙等の欠陥は確認されなかった。また、堰状部からの層状部形成用光硬化性樹脂組成物の漏れ出し等の欠陥も確認されなかった。硬化後の層状部の厚さは、0.4mmでほぼ均一であった。
[0119](工程(e))
支持面材を保護フィルムから剥離することによって、保護フィルムが貼設された粘着層付き透明面材Fを得た。
粘着層の層状部のせん断弾性率を測定した結果を表1に示す。なお、例7は粘着層の硬化が不十分であったため、せん断弾性率の測定は行わなかった。」

「[0129]〔例12?18〕
UA-1の40質量部、2-ヒドロキシブチルメタクリレート(共栄社化学社製、ライトエステル HOB)の20質量部、n-ドデシルメタクリレートの40質量部を均一に混合し、該混合物の100質量部に、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(光重合開始剤、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、IRGACURE 819)の0.3質量部、2,5-ジ-tert-ブチルハイドロキノン(重合禁止剤、東京化成社製)の0.04質量部、紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、TINUVIN 109)の0.3質量部、およびn-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤、花王社製、チオカルコール20)の0.5質量部を均一に溶解させて、組成物PD-cを得た。
次に、表2に示す割合(単位:質量部)で、組成物PD-cと、非硬化性オリゴマー(d1)とを均一に溶解させて層状部形成用光硬化性樹脂組成物D-cを得た。」

[表2]


[図1]


(2)引用文献3に記載された発明

上記[0113]によれば、「UA-1」の数平均分子量は約24000であるが、単一の分子量を示す物質の分子量分布[Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)]は、1又はそれ以上であることが当業者の技術常識であるから、「UA-1」の重量平均分子量は、24000以上であるといえる。
また、[0113]によれば、分子末端をエチレンオキシドで変性した2官能のポリプロピレングリコールと、イソホロンジイソシアネートとを反応させて得られたプレポリマーに、2-ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得た「UA-1」の硬化性基数は2であるから、両末端に有するイソシアネート基(「イソシアナト基」と同義)に対し、アクリロイル基を有していることは明らかであり、また、プレポリマーに、2-ヒドロキシエチルアクリレートをほぼ1対2となるモル比で加えているのであるから、「UA-1」は、その両末端にアクリロイル基が100mol%導入されているものであるといえる。
さらに、[0113]、[0129]によれば、組成物PD-cは、カルボキシル基を有する成分を実質的に含まないから、組成物PD-cの酸価は、0mgKOH/gであるといえる。
そして、[表2]によれば、例12においては、層状部形成用硬化性樹脂組成物D-cは、組成物PD-cのほかに非硬化性オリゴマーd1など、他の成分を含まないのであるから、組成物PD-cは、層状部形成用硬化性樹脂組成物D-cと同一のものである。
また、[0118]によれば、該層状部形成用硬化性樹脂組成物D-cを硬化させることで粘着層を形成することが記載されている。

したがって、引用文献3には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明3」という。)

<引用発明3>
「2官能のポリプロピレングリコールと、イソホロンジイソシアネートとを反応させて得られたプレポリマーに、2-ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得た、重量平均分子量24,000以上で末端にアクリロイル基を有する「UA-1」を40質量部、2-ヒドロキシブチルメタクリレートを20質量部、n-ドデシルメタクリレートを40質量部、及び、光重合開始剤を0.3質量部、重合禁止剤を0.04質量部、紫外線吸収剤を0.3質量部、連鎖移動剤を0.5質量部の割合で含み、酸価が0mgKOH/gである層状部形成用光硬化性樹脂組成物であって、前記「UA-1」が、その両末端に有するイソシアナト基に対し、アクリロイル基が100mol%導入されている、層状部形成用光硬化性樹脂組成物。」

(3)引用発明3と本件発明との対比

ア 引用発明3と本件発明1との対比
引用発明3における『2官能のポリプロピレングリコールと、イソホロンジイソシアネートとを反応させて得られたプレポリマーに、2-ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得た、重量平均分子量24,000以上で末端にアクリロイル基を有する「UA-1」』、「2-ヒドロキシブチルメタクリレート」、「n-ドデシルメタクリレート」、及び、「光重合開始剤」は、それぞれ、本件発明1の「ポリオキシアルキレンポリオールを骨格とし、且つ末端に(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が2万?10万のポリウレタン(A)」、「ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)」、「その他の光重合性単量体(C)」、及び、「光重合開始剤(D)」に相当する。
そして、引用発明3における上記4成分の配合比は、記載した順に、それぞれ、40質量部、20質量部、40質量部、及び、0.3質量部であり、重合禁止剤等の他の成分が0.84質量部であることを踏まえると、組成物全体を100%にした場合、上記4成分の配合比は、約39.5質量%、約19.8質量%、約39.5質量%、及び、約0.3質量%と換算される。そうすると、(A)、(B)及び(D)の配合比は、本件発明1における配合比の範囲、すなわち、20?50質量%、5?20質量%、及び、0.2?5質量%の範囲内にある。
また、引用発明3における「層状部形成用光硬化性樹脂組成物」は、上記[0017]によれば、透明面材に粘着層として積層されるものであるから、本件発明1における「透明粘着シート用光硬化性組成物」に相当しているといえる。
そうすると、引用発明3と本件発明1を対比すると、一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「ポリオキシアルキレンポリオールを骨格とし、且つ末端に(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が2万?10万のポリウレタン(A)を20?50質量%、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)を5?20質量%、その他の光重合性単量体(C)および光重合開始剤(D)を0.2?5質量%の割合で含み、酸価が0?5mgKOH/gである透明粘着シート用光硬化性組成物であって、
前記ポリウレタン(A)が、その両末端に有するイソシアナト基又はヒドロキシ基に対し、(メタ)アクリロイル基が80?100mol%導入されていることを特徴とする透明粘着シート用光硬化性組成物。」

<相違点1>
その他の光重合性単量体(C)について、引用発明3は、「n-ドデシルメタクリレート」であるのに対し、本件発明1は、「そのホモポリマーの理論ガラス転移温度(Tg)が-5℃を下回り、n-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、及びイソステアリルアクリレートから選ばれる単量体(C-1)と、そのホモポリマーの理論Tgが-5℃以上である炭素数が6?18の炭化水素モノアルコールの(メタ)アクリル酸エステルである単量体(C-2)と、を含有するものであり、その他の光重合性単量体(C)全量に占める単量体(C-2)の割合が30?50質量%である」である点

<相違点2>
その他の光重合性単量体(C)の含有量に関し、引用発明3は、「約39.5質量%」であるのに対し、本件発明1は、「40?65質量%」である点

イ 相違点についての検討
相違点1について検討するに、引用文献3には、その他の光重合性単量体(C)に相当する成分として、炭素数8?22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートから選ばれる1種以上のモノマー(B4)が記載されているものの([0064])、本件発明1のような、Tgが-5℃を下回る(メタ)アクリル酸エステルと、Tgが-5℃以上で、特定の炭素数を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステルとの両者を組み合わせて用いることについては記載も示唆もない。
したがって、相違点1は実質的な相違点であるから、相違点2については検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
また、本件発明1を引用する本件発明3?7も同様に、引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)小括

以上のとおり、本件発明1、3?7は、いずれも、引用発明3と同一であるとはいえず、または、引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第4 平成29年12月13日付け取消理由通知において採用せず、かつ、平成30年4月19日付取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 特許法第36条第6項第1号について

(1)(A)成分について
申立人は、申立書において、(A)成分について、実施例はアクリロイル基を100モル%導入した重量平均分子量7万又は3万のポリウレタンを用いた場合に限って記載されているのみであるから、本件発明1で特定されている、(メタ)アクリロイル基を80?100モル%導入した重量平均分子量1万?30万のポリウレタン(A)の全ての範囲について、発明の課題が解決できると当業者が認識できるようには記載されておらず、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している(なお、本件訂正により「(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が2万?10万のポリウレタン(A)」と訂正された。)。
しかしながら、(A)成分について、本件発明の詳細な説明には、「(メタ)アクリロイル基の導入量は、通常、ヒドロキシ基に対して、50?100mol%であり、より好ましくは80?100mol%であり、さらに好ましくは100mol%である。(メタ)アクリロイル基の導入量が、ヒドロキシ基に対して、50mol%未満であると、透明粘着シートの凝集力が低下することがある。」(【0024】)と記載され、さらに、「本発明で用いるポリウレタン(A)の重量平均分子量は、10,000?300,000であり、好ましくは20,000?200,000であり、さらに好ましくは30,000?100,000である。ポリウレタン(A)の重量平均分子量が10,000未満であると、透明粘着シートの粘着力が低下し、逆に重量平均分子量が300,000を超えると、取り扱いが困難となり、作業性が低下する。」と記載されている。これらの記載を参照すれば、透明粘着シートの凝集力の観点からアクリロイル基の導入量を「80?100mol%」に特定すれば発明の課題を解決できること、また、透明粘着シートの粘着力や取り扱いやすさの観点からポリウレタン(A)の重量平均分子量を「2万?10万」に特定すれば発明の課題を解決できることが記載されているといえる。
したがって、(A)成分について「(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が2万?10万のポリウレタン(A)」と特定された請求項1に係る発明まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない、とはいえない。

(2)(B)成分について
申立人は、申立書において、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)成分について、実施例は10質量%に限って記載されているのみであるから、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している。
しかしながら、本件発明の詳細な説明には、「ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)の含有量は、透明粘着シート用光硬化性組成物中、通常、5?20質量%」(【0031】)であることが示されており、含有量について「(B)の含有量が過度に小さいと得られる粘着シートの基材への密着性が不十分となることがあり、逆に過度に多くなると粘着シートの耐水性が悪くなる可能性がある。」と記載されていることからすれば、密着性や耐水性の観点から、通常、5?20質量%であれば、本件発明の課題を解決しうることが示されているといえる。
したがって、(B)成分について「5?20質量%」と特定された請求項1に係る発明まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない、とはいえない。

2 特許法第36条第4項第1号について

申立人は、異議申立書において、「発明の詳細な説明中には、(A)成分として、アクリロイル基を100モル%導入した重量平均分子量7万又は3万のポリウレタンを用いた実施例に限って記載されているのみであり、これ以外の分子量及び(メタ)アクリロイル基導入量の範囲についての実施例の記載は無いので、本件特許発明1は効果を奏しない態様を含んでいる。」とし、また、「(B)成分として、ヒドロキシエチルアクリレートを10質量%用いた実施例に限って記載されているのみであり、これ以外のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを5?20質量%含有した実施例の記載は無いので、本件特許発明1は効果を奏しない態様を含んでいる。」とし、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨主張している。

しかしながら、申立人の主張は、実施例ではない部分の本件発明の範囲がなぜ効果を奏しないのか、その根拠が明らかでないから、実施例にしか記載がないからといって、実施例以外について効果を奏しないとはいいきれない。
また、上記1で述べたとおり、「(メタ)アクリロイル基の導入量は、通常、ヒドロキシ基に対して、50?100mol%であり、より好ましくは80?100mol%であり、さらに好ましくは100mol%である。(メタ)アクリロイル基の導入量が、ヒドロキシ基に対して、50mol%未満であると、透明粘着シートの凝集力が低下することがある。」(【0024】)と記載され、さらに、「本発明で用いるポリウレタン(A)の重量平均分子量は、10,000?300,000であり、好ましくは20,000?200,000であり、さらに好ましくは30,000?100,000である。ポリウレタン(A)の重量平均分子量が10,000未満であると、透明粘着シートの粘着力が低下し、逆に重量平均分子量が300,000を超えると、取り扱いが困難となり、作業性が低下する。」と記載されている。これらの記載を参照すれば、透明粘着シートの凝集力の観点からアクリロイル基の導入量を「80?100mol%」とすること、また、透明粘着シートの粘着力や取り扱いやすさの観点からポリウレタン(A)の重量平均分子量を「2万?10万」とすることが記載されているといえるから、当業者であれば、「(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が2万?10万のポリウレタン(A)」と特定された本件発明1を実施することは可能であるといえる。
同様に、上記1で述べたとおり、(B)成分について、本件発明の詳細な説明には、「ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)の含有量は、透明粘着シート用光硬化性組成物中、通常、5?20質量%」(【0031】)であることが示されており、含有量について「(B)の含有量が過度に小さいと得られる粘着シートの基材への密着性が不十分となることがあり、逆に過度に多くなると粘着シートの耐水性が悪くなる可能性がある。」と記載されていることからすれば、本件発明1において特定された(B)成分についても、当業者であれば、密着性や耐水性の観点から、発明の実施をすることができるといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明3?7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、平成29年12月13日付け取消理由通知に記載した取消理由、平成30年4月19日付け取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレンポリオールを骨格とし、且つ末端に(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量が2万?10万のポリウレタン(A)を20?50質量%、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B)を5?20質量%、その他の光重合性単量体(C)を40?65質量%および光重合開始剤(D)を0.2?5質量%の割合で含み、酸価が0?5mgKOH/gである透明粘着シート用光硬化性組成物であって、
前記ポリウレタン(A)が、その両末端に有するイソシアナト基又はヒドロキシ基に対し、(メタ)アクリロイル基が80?100mol%導入されており、
前記その他の光重合性単量体(C)は、そのホモポリマーの理論ガラス転移温度(Tg)が-5℃を下回り、n-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、及びイソステアリルアクリレートから選ばれる単量体(C-1)と、そのホモポリマーの理論Tgが-5℃以上である炭素数が6?18の炭化水素モノアルコールの(メタ)アクリル酸エステルである単量体(C-2)と、を含有するものであり、
その他の光重合性単量体(C)全量に占める単量体(C-2)の割合が30?50質量%である、ことを特徴とする透明粘着シート用光硬化性組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の透明粘着シート用光硬化性組成物を硬化させて得られる光学用粘着シート。
【請求項4】
透明導電膜の導電層面に貼り合わせるための透明導電膜固定用シートである請求項3記載の光学用粘着シート。
【請求項5】
請求項4記載の光学用粘着シートを透明導電膜の導電層面に貼り合わせた透明導電膜積層体。
【請求項6】
請求項5記載の透明導電膜積層体を有するタッチパネル。
【請求項7】
請求項6記載のタッチパネルを備えた画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-20 
出願番号 特願2013-89070(P2013-89070)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 櫛引 智子  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 井上 能宏
原 賢一
登録日 2017-02-24 
登録番号 特許第6097132号(P6097132)
権利者 昭和電工株式会社
発明の名称 透明粘着シート用光硬化性組成物、それを用いた粘着シートおよびその用途  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  

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