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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1345854
異議申立番号 異議2018-700137  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-20 
確定日 2018-10-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6183065号発明「多孔質炭素電極とその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6183065号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり〔1?3〕、〔4?7〕について訂正することを認める。 特許第6183065号の請求項1?3、4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6183065号の請求項1?7に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年 8月28日(優先権主張 平成24年 8月31日)に出願され、平成29年 8月 4日に特許権の設定登録がされ、同年 8月23日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?4に係る特許に対し、平成30年 2月20日に特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年 4月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年 6月12日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、本件訂正請求による訂正に対して特許異議申立人から意見書が提出されなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1?5のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
請求項4に「以下の工程[1]?[3]を有する多孔質炭素電極の製造方法。
工程[1]:撥水処理を施していない多孔質炭素電極基材上にカーボン粉と撥水剤からなる塗工液を塗布し、均一な塗工膜を形成させるとともに多孔質炭素電極基材多孔質炭素電極基材中にカーボン粉と撥水剤を染み込ませる工程。」とあるのを、「以下の工程[1’]?[3]を有する多孔質炭素電極の製造方法。
工程[1’]:多孔質炭素電極基材に界面活性剤溶液を含浸させる工程。
工程[1]:撥水処理を施していない多孔質炭素電極基材上にカーボン粉と撥水剤からなる塗工液を塗布し、均一な塗工膜を形成させるとともに多孔質炭素電極基材中にカーボン粉と撥水剤を染み込ませる工程。」と訂正する(請求項4の記載を引用する請求項6?7も同様に訂正する。)。

(2) 訂正事項2
請求項5を削除する。

(3) 訂正事項3
請求項6に「請求項5に記載の製造方法」とあるのを、「請求項4に記載の製造方法」と訂正する。

(4) 訂正事項4
請求項7に「請求項5または6に記載の製造方法」とあるのを、「請求項4または6に記載の製造方法」と訂正する。

(5) 訂正事項5
請求項1に「面直方法の透気度」とあるのを、「面直方向の透気度」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項4において、訂正前の請求項5に記載されていた、「工程[1]の前」に、「工程[1’]」すなわち「多孔質炭素電極基材に界面活性剤溶液を含浸させる工程」を行うことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、訂正前の請求項4において、重複して記載されていた「多孔質炭素電極基材多孔質炭素電極基材」との記載を「多孔質炭素電極基材」と訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とするものであり、いずれも、新規事項の追加に該当しない。
そして、以上のとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするものであり、かつ、新規事項の追加に該当しないものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正事項1による訂正に伴って、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正事項1、2による訂正によって、訂正前の請求項5が、実質的に請求項4に移動したことに伴い、訂正前の請求項6が引用する請求項を、「請求項5」から「請求項4」に変更するものであるから、不明瞭な記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、訂正事項1、2による訂正によって、訂正前の請求項5が、実質的に請求項4に移動したことに伴い、訂正前の請求項7が引用する請求項を、「請求項5または6」から「請求項4または6」に変更するものであるから、不明瞭な記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項1に記載された「面直方法の透気度」を、「面直方向の透気度」に訂正しようとするものであるところ、訂正事項5に関して、願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には以下の記載がある。
「【0084】
<面直方向の透気度>
本発明の多孔質炭素電極の面直方向における透気度は、液体に加えて気体の拡散性を良好に保つためには、後述するガーレー法で測定した際に、50?300ml/hr・cm^(2)・mmAqである。好ましくは50?130ml/hr・cm^(2)・mmAqであることが好ましい。」
上記記載によれば、「面直方向の透気度」とは、多孔質炭素電極の面に垂直な方向の透気度という意味であると解されるから、訂正前の請求項1に記載された「面直方法」が「面直方向」の誤記であることは明らかである。
したがって、「面直方法」を「面直方向」に訂正する訂正事項5は、誤記の訂正を目的とするものであり、また、訂正事項5による訂正は、段落【0084】に記載されている事項に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。
そして、以上のとおり、訂正事項5による訂正は、誤記の訂正を目的とするものであり、かつ、新規事項の追加に該当しないものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5) 一群の請求項について
訂正事項5による訂正によって、訂正前の請求項1を引用する請求項2、3が連動して訂正され、また、訂正事項1による訂正によって、訂正前の請求項4を引用する請求項5?7が連動して訂正されるから、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3と、訂正前の請求項4?7に対応する訂正後の請求項4?7は、それぞれ一群の請求項である。

(6) 独立して特許を受けることができるかについて
特許異議は請求項1?4に対して申し立てられており、請求項5?7に対しては申し立てられていないところ、削除された請求項5を除く、請求項6?7に係る訂正を含む訂正事項1は、上述のとおり、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするものであるから、訂正後の請求項6?7(削除された請求項5は除く)は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定が適用されるので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
そこで、訂正後の請求項6、7について検討するに、以下の第7で検討するとおり、訂正後の請求項4は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由のいずれによっても取り消すことができないし、他に訂正後の請求項4に係る特許を取り消すべき理由を発見しないから、訂正後の請求項4を引用してさらに限定する請求項6、7についても、同様に、特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の請求項6?7に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定を満たす。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項、第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕、〔4?7〕について訂正を認める。

第3 訂正後の請求項1?7に係る発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正請求による訂正は適法になされたものであるから、請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1?7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
多孔質炭素電極基材の一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなるコーティング層が形成された多孔質炭素電極であって、多孔質炭素電極基材内にカーボン粉と撥水剤が存在し、嵩密度が0.30?0.65g/cm^(3)、面直方向の透気度が50?300ml/hr・cm^(2)・mmAq、かつ、面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗が0.45?0.60Ω・cmである多孔質炭素電極。
【請求項2】
多孔質炭素電極の多孔質炭素電極基材において、コーティング層を有する面からもう一方のコーティング層を有さない面に向かって、カーボン粉と撥水剤の付着率が低くなっている請求項1に記載の多孔質炭素電極。
【請求項3】
多孔質炭素電極基材の表面が粗い側にカーボン粉と撥水剤からなるコーティング層が形成された請求項1または2に記載の多孔質炭素電極。
【請求項4】
以下の工程[1’]?[3]を有する多孔質炭素電極の製造方法。
工程[1’]:多孔質炭素電極基材に界面活性剤溶液を含浸させる工程。
工程[1]:撥水処理を施していない多孔質炭素電極基材上にカーボン粉と撥水剤からなる塗工液を塗布し、均一な塗工膜を形成させるとともに多孔質炭素電極基材中にカーボン粉と撥水剤を染み込ませる工程。
工程[2]:塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材を50?200℃の環境下において塗工膜を乾燥させる工程。
工程[3]:乾燥後の塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材を300?400℃の環境下において焼成させることで多孔質炭素電極を製造する工程。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
工程[1’]と工程[1]の間に、界面活性剤溶液を含浸させた多孔質炭素電極基材を50?200℃で乾燥させる工程[1”]を有する請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
工程[1’]で用いる界面活性剤がポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルであって、濃度が、0.1?5wt%以下である請求項4または6に記載の製造方法。」

第4 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第6号証を提出し、以下の理由により、請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。なお、各申立ての理由について、取消理由として採用したか否かを「()」内に示している。
1 申立理由1(採用)
本件発明4は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明であるか、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2 申立理由2(採用)
本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

3 申立理由3(実質採用)
本件発明3は、甲第1号証に記載された発明と、甲第4?6号証に記載された周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

4 申立理由4(不採用)
本件発明1、2は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

5 申立理由5(不採用)
本件発明3は、甲第2号証に記載された発明と、甲第4?6号証に記載された周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2005-100679号公報
甲第2号証:特開2006-32247号公報
甲第3号証:SIGRACET^(○R) GDL 10 Series Gas Diffusion Layer、SGL GROUP、2009年12月(当審注:Rに丸を付した文字は「○R」と表記する。)
甲第4号証:特開2008-200836号公報
甲第5号証:特開2008-156707号公報
甲第6号証:特開平11-311498号公報

第5 取消理由の概要
1 平成30年4月11日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1) 取消理由1(請求項4に係る発明について:前記申立理由1を採用。)
請求項4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。その理由は、特許異議申立書の18頁下から8行?24頁5行に記載のとおりである。
したがって、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2) 取消理由2(請求項1、2に係る発明について:前記申立理由2を採用。)
請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。その理由は、特許異議申立書の24頁6行?27頁1行に記載のとおりである。ただし、特許異議申立書の24頁7行及び10行の「進歩性欠如について」は、いずれも「新規性進歩性欠如について」と読み替え、同24頁8行の「本件特許発明1は、甲第1号証または甲第2号証に記載の発明に基づき」は、「本件特許発明1は、甲第1号証に記載の発明であるか、甲第1号証に記載の発明に基づき」と読み替え、同27頁1行の「本件特許発明1は、甲1発明に基づき」は、「本件特許発明1は、甲1発明であるか、甲1発明に基づき」と読み替える。
したがって、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3) 取消理由3(請求項3に係る発明について:前記申立理由3を実質的に採用。)
基材に塗膜を形成する際に、基材の表面が滑らかな側よりも粗い側の方がアンカー効果等によって基材に対する塗膜の接着力が高くなることは技術常識であるから、甲第1号証に記載された発明において、カーボンペーパーの表面が粗い側にカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンを固形分とするスラリーを塗布し、請求項3に係る発明の発明特定事項とすることは、当業者にとって格別困難なこととはいえない。
したがって、請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特開2005-100679号公報
甲第2号証:特開2006-32247号公報
甲第3号証:SIGRACET^(○R) GDL 10 Series Gas Diffusion Layer、SGL GROUP、2009年12月(当審注:Rに丸を付した文字は「○R」と表記する。)

第6 甲号証の記載事項
1.甲第1号証
1-1.甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、「ガス拡散電極、その作製方法及びこれを用いた固体高分子型燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
1ア 「【請求項1】
カーボンペーパーと、その片面または両面に形成されたカーボンブラック及びポリテトラフルオロエチレンからなるカーボン層とを有する固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極において、該カーボンペーパーの厚さ方向に該カーボン層が入り込む厚さが3?35μmの範囲にあることを特徴とする固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。」

1イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用のガス拡散電極、その作製方法及びこれを用いた固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・
【0006】
上記のように、溶媒可溶型のフッ素樹脂を用いてカーボンペーパー全体を撥水処理する方法とは別に、例えばポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂のディスパージョンを用い、フッ素樹脂粒子でカーボン繊維やカーボンブラック等の一部を撥水処理する方法が知られている。例えば、特許文献4や特許文献5には、ポリテトラフルオロエチレンの水分散液に、イソプロピルアルコールを添加し、カーボンペーパーを浸漬する方法が開示されている。・・・」

1ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来の技術における上記のような問題を解決することを目的としてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、長期使用においても水による閉塞現象が発生し難く、ガスを安定して供給できる固体高分子型燃料電池用のガス拡散電極及びそれを用いた固体高分子型燃料電池を提供することにある。本発明の他の目的は、カーボンペーパーの疎水・親水の程度等、その表面状態の如何にかかわらず、均一でムラのないカーボン中間層を配することができる固体高分子型燃料電池用のガス拡散電極の作製方法を提供することにある。」

1エ 「【0012】
本発明者は、固体高分子型燃料電池用のガス拡散電極において、カーボンペーパーの厚さ方向に、3?35μmの範囲でカーボン層が入り込むことによって、均一な表面平滑性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
したがって、本発明の固体高分子型燃料電池用のガス拡散電極は、カーボンペーパーと、その片面または両面に形成されたカーボンブラック及びポリテトラフルオロエチレンからなるカーボン層とを有するものであって、カーボンペーパーの厚さ方向にカーボン層が入り込む厚さ(以下、内部厚みと略す)が3?35μmであることを特徴とする。
【0014】
本発明の上記の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極は、カーボンペーパーの片面または両面に、少なくとも沸点90℃以下の低沸点アルコールを含有するアルコール系分散媒中に個数平均粒子径0.05?3μmの範囲のカーボンブラック粒子及びポリテトラフルオロエチレン粒子が分散したスラリーを塗工し、塗工層をか焼することによって作製することができる。
【0015】
また、本発明の固体高分子型燃料電池は、上記のガス拡散電極のカーボン層に触媒層を担持させたものを、それぞれ燃料極及び酸素極とし、イオン交換膜の両面に設けたことを特徴とする。」

1オ 「【発明の効果】
【0016】
本発明のガス拡散電極の作製方法は、上記の構成を有するから、カーボンペーパーの疎水・親水に関係なく、カーボンペーパーに、ガス供給性が良好であり、かつ均一なカーボン層が配されたガス拡散電極を作製することができる。したがって、本発明のガス拡散電極は、長期の連続使用においても水による閉塞現象が発生し難く、ガスを安定して供給できるという優れた効果を生じる。更には、このガス拡散電極を用いることによって、触媒の部分的な劣化が極めて少ない安定した発電性能を有する固体高分子型燃料電池を作製することができる。」

1カ 「【0024】
本発明では、カーボンブラックの凝集をアルコールで抑制しつつ、水を併用することによりポリテトラフルオロエチレンの凝集も抑制している。ポリテトラフルオロエチレンは、アルコールの混合比が多くなると凝集塊が大きくなる傾向があるが、水とアルコールの混合比が上記の範囲において、ポリテトラフルオロエチレンとカーボンブラックを上記範囲の粒径の凝集塊に調整することにより、カーボンペーパーの疎水・親水の程度に関係なく、スラリーのカーボンペーパーへの浸入を適度に調整することが可能になる。」

1キ 「【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
以下の手順によってカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンを固形分とするスラリーを調製した。すなわち、カーボンブラック(VALCAN XC72B、キャボット社製)10gを、イソプロピルアルコール(沸点82.4℃)175gとイオン交換水173gからなる分散媒に添加し、ペイントシェーカー(レッドデビル社製)にて30分間攪拌した。次に、ポリテトラフルオロエチレンのディスパージョン(30J、三井デュポンフロロケミカル社製)をポリテトラフルオロエチレンの実重量が3gとなるように上記のスラリーに添加し、次に1リットルのポリ容器を用いて、ボールミルにより30分間100rmにて回転攪拌した。この混合液における水とアルコールの重量比は、水:アルコール=50:50となった。次に、得られたスラリーを200メッシュのフルイを通してスラリーから粗大な凝集塊を取り除き、塗布液(塗料1)を得た。この塗料1に含まれる固形分(カーボンブラック及びポリテトラフルオロエチレン)の粒子径をコールターカウンターTA-2(コールターカウンター社製)で測定したところ、個数平均粒子径は1.2μmであった。次に、塗料1を疎水化処理を施していない厚さ270μmのカーボンペーパー(TGP-H-090、東レ社製)に対して、均一にスプレー噴霧により塗布し、60℃で30分間静置乾燥した。その後、380℃のオーブンにて10分間静置してガス拡散電極を得た。このガス拡散電極の厚さをマイクロメーターで測定したところ、290μmであった。塗工前のカーボンペーパーは厚さ270μmであったから、カーボンペーパー上に20μmの厚さでカーボン層が存在していることが確認された。このガス拡散電極の断面を電子顕微鏡にて観察したところ、カーボンペーパーの表面から15μmの深さまでカーボン層が存在していることが確認された。また、それより下層にはカーボンブラックは混入していないことが確認された。また、このガス拡散電極の表面を顕微鏡にて観察したところ、形成されたカーボン層には陥没孔や微小クラックは観察されず、均一な表面を有していることが確認された。」

1ク 「【0033】
実施例5
実施例1の塗布液を用いて、スプレーの代わりにアプリケーターにて塗工を実施した。アプリケーターのギャップは500μmに調整した。他の操作は実施例1と同様にして、ガス拡散電極を得た。得られたガス拡散電極には、カーボンペーパー上に20μmの厚さでカーボン層が存在していることが確認された。電子顕微鏡の断面観察によれば、カーボン層は33μmの深さでカーボンペーパーの表面内に存在していることが確認された。また、それより下層にはカーボンブラックが混入していないことが確認された。また、このガス拡散電極の表面を顕微鏡にて観察したところ、形成されたカーボン層には陥没孔や微小クラックは観察されず、均一な表面を有していることが確認された。」

1ケ 「【0037】
比較例2
実施例1の塗布液の調製において、アルコールの量を348g、イオン交換水の量は不使用とした以外は、実施例1と同様にして塗布液(塗料4)を調製し、同様に処理してガス拡散電極を得た。ここで用いた塗料4にはポリテトラフルオロエチレンのディスパージョンに含まれる水が混入するため、水:アルコール=0.6:99.4(重量比)であった。この塗料4に含まれる固形分(カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン)の粒子径をコールターカウンターTA-2(コールターカウンター社製)で測定したところ、個数平均粒子径は0.03μmであった。得られたガス拡散電極には、カーボンペーパー上に7μmの厚さでカーボン層が存在していることが確認された。電子顕微鏡の断面観察によれば、カーボン層はカーボンペーパーの表面内に65μmの深さまで存在し、さらにその下層においてもカーボンブラックがランダムに存在することが確認された。」

1-2.甲第1号証に記載された発明
ア 上記1イによれば、甲第1号証には、固体高分子型燃料電池用のガス拡散電極とその作製方法に関する発明について記載されており、この発明は、上記1ウによれば、長期使用においても水による閉塞現象が発生し難く、ガスを安定して供給できる固体高分子型燃料電池用のガス拡散電極を提供することを目的とするものである。

イ 上記1キには、ガス拡散電極の製造方法の実施例として、初めに、イソプロピルアルコールとイオン交換水からなる分散媒にカーボンブラックを添加し、さらに、ポリテトラフルオロエチレンのディスパージョンを添加することによりスラリーを調製し、次に、得られたスラリーから粗大な凝集塊を取り除いて塗布液(塗料1)を得、次に、塗料1を疎水化処理を施していない厚さ270μmのカーボンペーパー(TGP-H-090、東レ社製)に対して、均一にスプレー噴霧により塗布し、60℃で30分間静置乾燥し、その後、380℃のオーブンにて10分間静置することにより、ガス拡散電極を製造することが記載されている。

ウ また、上記1キによれば、上記イの製造方法によって製造されたガス拡散電極は、厚さ270μmのカーボンペーパー上に、塗料1によって形成された、厚さ20μmのカーボン層が存在するとともに、上記カーボンペーパーの表面から15μmの深さまでカーボン層が存在し、それより下層にはカーボンブラックは混入していないものである。そして、上記1エも参照すると、そのようにガス拡散電極においてカーボン層が入り込むことによって、カーボン層は均一な表面平滑性を有しているものである。

エ 上記イ、ウの検討によれば、甲第1号証には、次のガス拡散電極の製造方法と、当該製造方法により製造されたガス拡散電極が記載されているものと認められる。

「疎水化処理を施していないカーボンペーパー上に、イソプロピルアルコールとイオン交換水からなる分散媒にカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンのディスパージョンを順次添加して得られた塗料1を、スプレー噴霧により塗布する工程と、
塗料1を塗布したカーボンペーパーを60℃で30分間静置乾燥する工程と、
塗料1を乾燥したカーボンペーパーを380℃のオーブンにて10分間静置する工程と、
を有するガス拡散電極の製造方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)

「厚さ270μmのカーボンペーパー上に、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンを含む塗料1によって形成された、厚さ20μmで、均一な表面平滑性を有するカーボン層が存在するとともに、上記カーボンペーパーの表面から15μmの深さまでカーボンブラックが浸入し、それより下層にはカーボンブラックは浸入していない、ガス拡散電極。」(以下、「甲1発明」という。)

2.甲第2号証
2-1.甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、「燃料電池用電極」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
2ア 「【請求項1】
触媒層と導電性多孔質体とを備えた固体高分子形燃料電池用電極において、前記導電性多孔質体がカーボンと撥水性樹脂との混合物を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池用電極。」

2イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質を用いた電気化学セル、とくに固体高分子形燃料電池に関するものである。」

2ウ 「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0009】
従来の固体高分子形燃料電池の導電性多孔質体3はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などによる撥水処理が施されている。この導電性多孔体には、50?100μmの大きな空孔17があるので、カソードでの電極反応で生成した水がこの空孔17に滞留することによって、ガスの供給が阻害される。この生成した水の空孔17中への滞留によって、ガスの拡散が部分的に妨げられるので、反応界面へのガスの供給が不均一になる。
【0010】
さらに、触媒層2と導電性多孔質体3との接触は、図3に示した18のように、導電性多孔質体3のごく表層の突端部分に限られる。この接点18の間隔は、50?100μmもあるので、接点部分に電流が集中することによって触媒層表面における電流分布が不均一になる。以上のような不均一なガスの供給および電流分布によって反応過電圧が増大するので、燃料電池の出力電圧が低下するという課題があった。
【0011】
そこで本発明の目的は、導電性多孔質体中の水の滞留を防止することによって触媒層の反応界面への反応ガスの供給を均一にすることと、導電性多孔質体と触媒層表面との間の接触点を増大させることによって電流分布を均一にすることとを両立した燃料電池用電極を提供することである。さらに、その電極を用いることによって固体高分子形燃料電池の出力性能を向上させることである。」

2エ 「【発明の効果】
【0015】
本発明の固体高分子形燃料電池用電極において、導電性多孔質体がカーボンと撥水性樹脂との混合物を含むことによって、電気伝導性を有するカーボンが導電性多孔質体の空孔を適度に充填することで、導電性多孔質体の空孔部分に電子伝導チャンネルを形成して触媒層との間の電流分布を均一にすることとを可能にすると同時に、撥水性をもつ微細な空孔を形成することによって、導電性多孔体内部での水の滞留を防止して触媒層へのガスの拡散を均一にすることができる。その結果、本発明の電極を備えた固体高分子形燃料電池の出力性能の向上が可能となった。」

2オ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の固体高分子形燃料電池用電極は、触媒層と導電性多孔質体とを備え、導電性多孔質体がカーボンと撥水性樹脂との混合物を含むものである。このカーボンと撥水性樹脂との混合物は、導電性多孔質体の空孔中または、多孔質体の空孔中およびその触媒層側の表層とに備えられる。
【0017】
本発明の固体高分子形燃料電池用電極の断面の模式図を図1および図2に示す。図1および図2において、1は固体高分子形燃料電池用電極、2は触媒層、3は導電性多孔質体、4はカーボンと撥水性樹脂との混合物である。
【0018】
なお、図1は、導電性多孔質体が触媒層と接触し、カーボンと撥水性樹脂との混合物が導電性多孔質体の空孔中に含まれる例を示し、図2は、導電性多孔質体が触媒層と接触せず、カーボンと撥水性樹脂との混合物は、導電性多孔質体と触媒層との間および導電性多孔質体の空孔中に含まれる例を示したものである。
【0019】
図1および図2に示すように、本発明の固体高分子形燃料電池用電極1は、触媒層2と、カーボンと撥水性樹脂との混合物4とを含む導電性多孔質体3とで構成されている。ここで導電性多孔質体3に含まれるカーボンと撥水性樹脂との混合物4は、導電性多孔質体3の空孔中のみに分布していても良いし、空孔中および触媒層側の表層に分布していてもよい。
【0020】
本発明の固体高分子形燃料電池用電極では、導電性多孔質体の大きな空孔がカーボンと撥水性樹脂との混合物で充填することで、撥水性をもつ微細な空孔が形成され、導電性多孔体内部での水の滞留を防止することができる。」

2カ 「【0051】
本発明の固体高分子形燃料電池用電極は、カーボンと撥水性樹脂との混合物を導電性多孔質体に含ませる第1の工程と、その多孔質体に陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物の層を形成する第2の工程と、その陽イオン交換樹脂の対イオンと触媒金属の陽イオンとのイオン交換反応によりその陽イオンをプロトン伝導経路に吸着させる第3の工程と、その陽イオンを化学的に還元する第4の工程とを経て製作される。ここで、カーボンと撥水性樹脂との混合物を混合物A、陽イオン交換樹脂とカーボンとの混合物を混合物Bとする。」

2キ 「【0052】
第1の工程では、たとえば、撥水性樹脂とカーボンブラックとを分散媒に加えて混合することによって、ペーストを調製する。そのペーストを導電性多孔体の表面に塗布したのちに乾燥することによって、混合物Aが導電性多孔質体の空孔に充填、あるいはその表層に混合物Aの層が形成される。
【0053】
ここで、このペーストの粘度が低ければ、導伝性多孔質体の空孔全体に混合物Aが均一に存在し、また、このペーストの粘度が高ければ、導電性多孔質体の表層に混合物Aを遍在させることができる。ここで、撥水性樹脂としてポリテトラフルオロエチレンを用いた場合には、混合物Aの撥水性を向上させるために、混合物Aを含む導電性多孔質体を焼成することが好ましい。また、混合物Aを含むペーストを塗布する工程は、一度でもよいが、複数回くり返すことによって導電性多孔質体の表層に混合物Aの厚い層を形成することが好ましい。この層を形成することにより、電流分布を均一化し、水の滞留を抑制する効果を高めることができる。
【0054】
導電性多孔質体としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなど、多孔体であって、電子伝導性を有するものであればよい。
【0055】
本発明において使用する撥水性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン樹脂などを用いることができる。これらの撥水性樹脂の中ではフッ素樹脂を用いることが好ましく、さらに、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびフルオロエチレン-プロピレン共重合体(FEP)を使用することが好ましいが、ポリヘキサフロロプロピレンイレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフロロプロピレンイレンとの共重合体、または、これらのフッ素樹脂の混合物でもよい。」

2ク 「【0060】
第2の工程では、たとえば、陽イオン交換樹脂の溶液にカーボンブラックなどのカーボン粉末を加えたのちに混合することによって、ペーストを調製する。このペーストを、混合物Aを含む導電性多孔質体の上に塗布したのちに乾燥することによって、混合物Aを含む導電性多孔質体の上に、触媒層の前駆体となる混合物Bの層が形成される。ここで、混合物Aを含む導電性多孔質体の上に混合物Bの層が形成されたものを、電極の前駆体aとする。
・・・
【0062】
第3の工程では、まず触媒金属の陽イオンを含む溶液を調製する。つぎに、この溶液に、第2の工程で製作した電極の前駆体aを浸漬することによって、この前駆体aの混合物Bの層に含まれる陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に、触媒金属の陽イオンを吸着させる。これは、陽イオン交換樹脂の対イオンと、触媒金属の陽イオンとのイオン交換反応によるものである。
・・・
【0065】
第4の工程では、電極の前駆体bに含まれる陽イオンを化学的に還元する。この第4の工程は、量産に適した還元剤を用いる化学的な還元方法を用いることが好ましく、とくに、水素ガスまたは水素を含むガスによって気相還元する方法またはヒドラジンを含む不活性ガスによって気相還元する方法が好ましい。」

2ケ 「【0067】
第1の工程から第4の工程の一例をつぎに説明する。まず、カーボンとしてVulcan XC-72(キャボット社製)と増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学工業社製)とをブレンダーを用いて混合した。これに適量の脱イオン水を加えて、ペースト状になるまで攪拌器を用いて充分に攪拌したのちに、適量のポリテトラフルオロエチレンのディスパージョン(固形分60質量%)を徐々に添加して混合物Aを含むペーストを得た。
【0068】
つぎに、塗工機を用いて、混合物Aを含むペーストを導電性多孔質体としてのカーボンフェルト(SGL社製、GDL10AA)の上に塗布したのちに、110℃で乾燥した。カーボンフェルト上に厚い混合物Aの層を形成するために、この塗布および乾燥の工程を再度くり返した。
【0069】
さらに、このように製作した導電性多孔質体を、窒素雰囲気下、380℃の条件で焼成することによって、分散媒および増粘剤を完全に除去して、混合物Aを含む導電性多孔質体を完成させた。ここで混合物Aの重量は、2.5mg/cm^(2)以上8.5mg/cm^(2)以下であることが好ましい。これより少ないと、カーボンフェルトの空孔部分の電子伝導ネットワークが充分に形成されないので、電流集中を充分に回避することができず、8.5mg/cm^(2)より大きいと、カーボンフェルトの表層部分の混合物Aの層が厚くなりすぎるために、触媒層の反応界面へのガスの拡散性が低下するためである。
【0070】
一方で、カーボン(Vulcan XC-72、キャボット社製)と陽イオン交換樹脂溶液(Nafion溶液、アルドリッチ社製、5質量%溶液)とを含む混合物Bのペーストを調製した。つぎに、塗工機を用いて、混合物Bのペーストを、混合物Aを含むカーボンフェルトの上に塗布したのちに、室温で乾燥した。このようにして、本発明の燃料電池用電極の前駆体aを製作した。
【0071】
つづいて、触媒金属の陽イオンとして[Pt(NH_(3))_(4)]^(2+)を含むPt(NH_(3))_(4)]Cl_(2)の水溶液を調製したのちに、その溶液に前駆体aを浸漬することによって、陽イオン交換樹脂の対イオン(H^(+))と[Pt(NH_(3))_(4)]^(2+)とのイオン交換反応を用いて、触媒金属となる陽イオンを陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に吸着させて前駆体bを製作した。陽イオンが吸着したこの前駆体bを水洗することによって、余剰の[Pt(NH_(3))_(4)]^(2+)を除去したのちに乾燥した。
【0072】
最後に、その前駆体bを180℃の水素ガス雰囲気中にさらして、吸着した陽イオンを還元することによって、触媒金属としての白金を陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に選択的に形成した本発明の燃料電池用電極を得た。」

2コ 「【0073】
本発明の固体高分子形燃料電池用電極は、前述の触媒層側が高分子電解質膜に接触するように配置することによって、固体高分子形燃料電池に適用される。その高分子電解質膜には、プロトン伝導性にすぐれる陽イオン交換樹脂膜を用いることができる。たとえば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、スチレン-ビニルベンゼンスルホン酸樹脂、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂、スチレン-ビニルベンゼンカルボン酸樹脂などのプロトン伝導性の陽イオン交換樹脂を用いることができる。その膜には、化学的な安定性とプロトン伝導性とが高いパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂とで構成されるものを用いることが好ましい。たとえば、その高分子電解質膜として、デュポン社製のナフィオン膜を用いることができる。
【0074】
この工程での接合は、加熱圧着することによりおこなうことができる。その加熱温度は、陽イオン交換樹脂のガラス転移温度の近傍であることが好ましく、たとえばナフィオン膜の場合では115℃から135℃であることが好ましい。しかしながら、水の凍結がはじまる0℃以上であれば、加圧することによって、本発明の燃料電池用電極と高分子電解質膜とを接合することができる。
【0075】
ここで、加える圧力は、触媒層が多孔質体であるので、その多孔質体の空孔度を保つ範囲である0.15MPa以下であることが好ましく、さらに固体高分子膜と触媒層との間の密着性を確保するために、少なくとも0.04MPaの圧力でおこなうことが好ましい。圧力が0.15MPaより大きいと、カーボン基材の空孔度が著しく減少し、さらにカーボン基材を構成するカーボン繊維が高分子電解質膜に損傷を与える原因となり、一方で圧力が0.04MPaより小さいと、高分子電解質と触媒層との間の接触が充分でないために、これらの間でプロトン伝導性の低下によって燃料電池の反応過電圧が増大する。」

2サ 「【0096】
このセル電圧の向上は、適度な撥水性と多孔性および電子伝導性とを備えるカーボンとフッ素樹脂の混合物が導電性多孔質体の空孔および表層に均一に存在しているので、水の滞留が防止されて反応界面へのガスの拡散が均一になったことと、導電性多孔質体と反応界面との間に均一な電子伝導層が形成されたこととによって、反応界面での電子の授受が円滑に進行して電極の出力性能が向上したものと考えられる。」

2シ 「



2-2.甲第2号証に記載された発明
ア 上記2イによれば、甲第2号証には、固体高分子電解質を用いた固体高分子形燃料電池に関する発明について記載されており、この発明は、上記2ウによれば、導電性多孔質体中の水の滞留を防止することによって触媒層の反応界面への反応ガスの供給を均一にすることと、導電性多孔質体と触媒層表面との間の接触点を増大させることによって電流分布を均一にすることを両立した燃料電池用電極を提供することとを目的とするものである。

イ 上記2シの図2には、甲第2号証で開示される固体高分子形燃料電池用電極の一例の断面が示されており、上記2オの記載を参照すると、導電性多孔質体3と触媒層2とを備えた固体高分子形燃料電池用電極1であって、カーボンと撥水性樹脂との混合物4が、導電性多孔質体3の触媒層2側の空孔中に含まれるとともに、導電性多孔質体と触媒層との間、すなわち、導電性多孔質体3の触媒層2側の表層に備えられている、固体高分子形燃料電池用電極1を見て取ることができる。
また、上記2オの段落【0020】の記載によれば、カーボンと撥水性樹脂との混合物で充填された、導電性多孔質体の空孔には撥水性をもつ微細な空孔が形成されており、また、上記2コの段落【0075】によれば、触媒層2も多孔質であるので、固体高分子形燃料電池用電極1は全体として多孔質となっているといえる。

ウ 上記2カによれば、上記イで検討した甲第2号証に記載された固体高分子形燃料電池用電極は、カーボンと撥水性樹脂との混合物Aを導電性多孔質体に含ませる第1の工程と、その多孔質体に陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物Bの層を形成する第2の工程と、その陽イオン交換樹脂の対イオンと触媒金属の陽イオンとのイオン交換反応によりその陽イオンをプロトン伝導経路に吸着させる第3の工程と、その陽イオンを化学的に還元する第4の工程とを経て製作されるものである。

エ 上記2キによれば、上記第1の工程が詳細に示されており、撥水性樹脂とカーボンブラックとを分散媒に加えて混合することによって、ペーストを調製し、そのペーストを導電性多孔体の表面に塗布したのちに乾燥することによって、混合物Aが導電性多孔質体の空孔に充填され、また、その表層に混合物Aの層が形成され、上記導電性多孔質体としてカーボンペーパーやカーボンフェルト等の電子伝導性を有する多孔体が使用でき、上記撥水性樹脂としてはポリテトラフルオロエチレン等が使用できる。

オ 上記2ケによれば、上記第1の工程の具体例が示されており、第1の工程は、分散媒に、カーボンと、撥水性樹脂としてのポリテトラフルオロエチレンを混合した混合物Aを含むペーストを得る工程、塗工機を用いて混合物Aを含むペーストを、導電性多孔質体としてのカーボンフェルトの上に塗布する工程、混合物Aを含むペーストを塗布した導電性多孔質体を110℃で乾燥する工程、このように製作した導電性多孔質体を、窒素雰囲気下、380℃の条件で焼成する工程からなるものであり、これらの工程によって、混合物Aを含む導電性多孔質体が製造される。

カ 上記ウ?オの検討によれば、甲第2号証には、第1?第4の工程を含む固体高分子形燃料電池用電極の製造方法が記載されているが、特に上記オで検討した第1の工程に注目すると、次の固体高分子形燃料電池用電極の製造方法が記載されているものと認められる。

「固体高分子形燃料電池用電極の製造方法であって、
分散媒に、カーボンと、撥水性樹脂としてのポリテトラフルオロエチレンを混合した混合物Aを含むペーストを得る工程、
混合物Aを含むペーストを、導電性多孔質体としてのカーボンフェルトの上に塗布する工程、
混合物Aを含むペーストを塗布した導電性多孔質体を110℃で乾燥する工程、
乾燥後の導電性多孔質体を、窒素雰囲気下、380℃の条件で焼成する工程、
を含む固体高分子形燃料電池用電極の製造方法。」(以下、「甲2方法発明」という。)

キ また、上記イの検討によれば、第1?第4の工程を含む固体高分子形燃料電池用電極の製造方法によって、次の固体高分子形燃料電池用電極が製造されるものと認められる。

「導電性多孔質体と触媒層とを備えた固体高分子形燃料電池用電極であって、カーボンと撥水性樹脂との混合物が、導電性多孔質体の触媒層側の空孔中に含まれるとともに、導電性多孔質体の触媒層側の表層に備えられている、多孔質の固体高分子形燃料電池用電極」(以下、「甲2発明」という。)

3.甲第3号証
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、「SIGRACET^(○R) GDL 10Series Gas Diffusion Layer」(標題)(当審訳:SIGRACET^(○R) GDL 10シリーズ ガス拡散層)に関して、以下の事項が記載されている。
3ア 「


(第1頁左欄1?6行。当審訳:SIGRACETガス拡散層(GDLs)は、グラファイト化されたカーボン繊維をベースにした不織布又は抄紙であり、反応ガスをプロトン交換膜(PEM)燃料電池の電気触媒層に供給し、過剰な液体状の生成水を同電気触媒層から排出することができるように特別に設計されている。)

3イ 「


(第1頁左欄下から4行?右欄10行。当審訳:GDL10シリーズは、当社の第1世代の基礎的材料であり、SGLグループに独特の新規な技術を用いて生産されているものである。この材料は、開孔構造と、良好な機械的強さ、高い電気伝導性を備えており、適度な湿度から高い湿度まで、かつ、より高い電流密度での実施環境で使用することを狙っているものである。GDL10タイプは、低い積層温度と高い積層温度のいずれにおいても、そして、大気圧ガス条件と加圧されたガス条件のいずれにおいても使用することができる。GDL10は固定された電力システムと携帯可能な電力システムに最も適している。GDL10の製品群は、直接メタノール型燃料電池におけるカソード側ガス拡散層とアノード側液体拡散層(LDL)のいずれとしても、十分に機能することが実証されてきた。)

3ウ 「


(当審訳:GDL“AA”は、付加的な効果をもたらす後処理がなされていないプレーン基材である。
GDL“BA”は、5wt%PTFEで撥水処理した基材である。
GDL“BC”は、(5wt%PTFEで)撥水処理した基材であり、一方の面に標準マイクロポーラス(MPL)層を備える。)

3ア、3イの記載を参照すると、3ウに記載された、“AA”、“BA”、“BC”とは、燃料電池のガス拡散層(GDL)として使用されるGDL10シリーズの製品群を識別する記号であることが理解できる。
上記“BA”や“BC”は、PTFEによる撥水処理がなされていることを表すから、“AA”の記号が付与される「プレーン基材」において「付加的な効果をもたらす後処理がなされていない」とは、“BA”や“BC”のような処理がされていないもの、すなわち、PTFEによる撥水処理がなされていない基材であることを意味すると解される。

4.甲第4号証
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第4号証には、「中空孔を有する金属部材及びその加工方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
4ア 「【0039】
まず、図4(e)に示すように、ボンドコート5が内壁1aに形成される。尾筒1がニッケル基合金から成る場合は、ボンドコート5として例えば、MCrAlY(MはFe、Ni及びCoのいずれか、もしくはこれらの合金)のような合金を使用することができる。このボンドコート5は数十μm?数千μmの厚さで形成され、下地が粗い面となっているためにアンカー効果によって付着しやすくなっている。・・・」

5.甲第5号証
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第5号証には、「熱処理方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
5ア 「【0025】
まず、図3(d)に示すように、ボンドコート5が尾筒1の内壁1aに形成される。尾筒1がニッケル基合金から成る場合は、ボンドコート5として例えば、MCrAlY(MはFe、Ni及びCoのいずれか、もしくはこれらの合金)のような合金を使用することができる。このボンドコート5は数十μm?数千μmの厚さで形成され、下地が粗い面となっているためにアンカー効果によって付着しやすくなっている。また、冷却孔2aを塞いでいる樹脂4とボンドコート5とは濡れ性が悪い場合が多く、そのような場合、樹脂4上にボンドコート5が形成されないことがある。」

6.甲第6号証
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第6号証には、「熱交換器用伝熱管」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
6ア 「【0030】また、上記被覆層を形成する場合、伝熱管1の表面を比較的粗い面としておけば、アンカー効果で被覆層の接合強度を高くすることもできる。」

第7 当審の判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
1-1.甲第1号証に基づく本件発明4に対する取消理由1について
(1) 本件発明4と甲1方法発明との対比
ア 本願明細書の段落【0096】に「多孔質炭素電極基材は、市販のカーボンペーパーやカーボンクロスなどを用いることが出来る」と記載されていることから、甲1方法発明の「疎水化処理を施していないカーボンペーパー」、は、本件発明4の「撥水処理を施していない多孔質炭素電極基材」に相当する。

イ 本願明細書の段落【0078】には「撥水剤としてはフッ素樹脂やシリコン樹脂などが挙げられ、これらを水などの溶媒に分散させて用いることが出来る。撥水性の高さから特に好ましくはフッ素樹脂である。フッ素樹脂としては例えばテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体などがあげられ、特にPTFEが好ましい。」と記載されている。また、甲第1号証の上記1イには、「ポリテトラフルオロエチレンのディスパージョン」はカーボンブラックに撥水処理するために使用されるものであることが記載されている。
したがって、甲1方法発明の「ポリテトラフルオロエチレン」もしくは「ポリテトラフルオロエチレンのディスパージョン」は、本願発明1の「撥水剤」に相当し、また、甲1方法発明の「カーボンブラック」は、本件発明4の「カーボン粉」に相当する。

ウ 本願明細書の段落【0107】?【0109】に
「<8> コーティング液1の調製
デンカブラック(電気化学工業株式会社製)、イオン交換水、イソプロピルアルコールをそれぞれ5:100:80の割合で混合し、ホモミクサーMARK-II(プライミクス株式会社製)を用いて、冷却しながら15000rpmで30分間撹拌を行って、コーティング液1を得た。
<9> コーティング液2の調製
コーティング液を冷却し、液温を10℃以下にした後、冷却しながらポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンをカーボンブラック1に対し、0.3の割合で添加しディスパーによって500rpmで5分間の撹拌を行い、コーティング液2を得た。
<10> コーティング層の形成
次に、アプリケーター(テスター産業製)を用いてコーティング液2を多孔質炭素電極基材上に塗工し、ついで100℃に設定した熱風乾燥機を用いて20分間乾燥させた。」
と記載されており、「塗工液」であるコーティング液2には、デンカブラックとポリテトラフルオロエチレン以外に、イオン交換水、イソプロピルアルコールを含有するものであることが示されているから、本件発明4の「カーボン粉と撥水剤からなる塗工液」は、カーボン粉と撥水剤以外に、イオン交換水、イソプロピルアルコールを含有することを許容するものであるといえる。
したがって、上記イの検討も踏まえると、甲1方法発明の「イソプロピルアルコールとイオン交換水からなる分散媒にカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンのディスパージョンを順次添加して得られた塗料1」は、本件発明4の「カーボン粉と撥水剤からなる塗工液」に相当する。

エ 甲1方法発明によって製造された甲1発明の「ガス拡散電極」は、「カーボンペーパーの表面から15μmの深さまでカーボン層が浸入し、それより下層にはカーボンブラックは浸入していない」ものであって、「カーボン層」は「均一な表面平滑性」を有するものとなるから、甲1方法発明において、「カーボンペーパー」に「塗料1を、スプレー噴霧により塗布する」ことにより、「塗料1」に含まれる「カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン」が「カーボンペーパー」に染み込んでおり、「塗料1」によって形成された「カーボン層」は「均一な表面平滑性」を有しているものといえる。
したがって、甲1方法発明の「塗料1を、スプレー噴霧により塗布する工程」は、本件発明4の「塗工液を塗布し、均一な塗工膜を形成させるとともに多孔質炭素電極基材中にカーボン粉と撥水剤を染み込ませる工程」に相当する。

オ 甲1方法発明によって製造される「ガス拡散電極」と、本件発明4によって製造される「多孔質炭素電極」は、いずれも、固体高分子型燃料電池の電極として機能するものであって、ガスや水を透過させる多孔質な炭素物質であるといえるから、甲1方法発明の「ガス拡散電極」は、本件発明4の「多孔質炭素電極」に相当する。

カ 甲1方法発明の「塗料1を塗布したカーボンペーパーを60℃で30分間静置乾燥する工程」は、本件発明4の「塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材を50?200℃の環境下において塗工膜を乾燥させる工程」に相当する。

キ 甲1方法発明の「塗料1を乾燥したカーボンペーパーを380℃のオーブンにて10分間静置する工程」は、本件発明4の「乾燥後の塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材を300?400℃の環境下において焼成させる」工程に相当する。

ク 上記ア?キの検討を踏まえると、甲1方法発明の「疎水化処理を施していないカーボンペーパー上に、イソプロピルアルコールとイオン交換水からなる分散媒にカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンのディスパージョンを順次添加して得られた塗料1を、スプレー噴霧により塗布する工程」は、本件発明4の「工程[1]:撥水処理を施していない多孔質炭素電極基材上にカーボン粉と撥水剤からなる塗工液を塗布し、均一な塗工膜を形成させるとともに多孔質炭素電極基材中にカーボン粉と撥水剤を染み込ませる工程」に相当する。
そして、甲1方法発明は、上記「塗布する工程」の前に「界面活性剤溶液を含浸させる工程」を有するものではないが、本件発明4は、上記「工程[1]」の前に「工程[1’]:多孔質炭素電極基材に界面活性剤溶液を含浸させる工程」を行うものである。

ケ したがって、本件発明4と甲1方法発明は次の点で相違し、その余の点で一致する。
相違点1:本件発明4は、「工程[1]」の前に「工程[1’]:多孔質炭素電極基材に界面活性剤溶液を含浸させる工程」を行うものであるのに対して、甲1方法発明はそのような工程を行うものではない点。

(2) 相違点1についての判断
甲第1号証には、「疎水化処理を施していないカーボンペーパー」に対して、「塗布液(塗料1)」を塗布する工程より前に、「界面活性剤溶液を含浸」する工程については、記載も示唆もされていないし、そのような工程を採用し得ることは甲第2?6号証のいずれにも記載されておらず、当業者にとって周知の技術であるともいえない。
したがって、本件発明4と甲1方法発明は、相違点1で相違しており、また、甲1方法発明において、相違点1に係る本件発明4の構成を採用することが、当業者にとって容易になし得ることであるともいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

1-2.甲第2号証に基づく本件発明4に対する取消理由1について
(1) 本件発明4と甲2方法発明との対比
ア 本願明細書の段落【0096】に「多孔質炭素電極基材は、市販のカーボンペーパーやカーボンクロスなどを用いることが出来る」と記載されており、甲第2号証の上記2キには、「導電性多孔質体」として、「カーボンフェルト」以外にカーボンペーパーやカーボンクロスを用いることができると記載されているので、甲2方法発明の「導電性多孔質体としてのカーボンフェルト」は、本件発明4の「多孔質炭素電極基材」に相当する。

イ 甲第2号証の上記2ウには、従来の固体高分子形燃料電池の導電性多孔質体はポリテトラフルオロエチレンによる撥水処理が施されていたので、導電性多孔質体の空孔に水が滞留することによって、ガスの拡散が妨げられて、反応界面へのガスの供給が不均一になり、その結果、燃料電池の出力電圧が低下するという課題があった、と記載されており、撥水処理された導電性多孔質体を使用することには問題があると指摘されている。
そして、同上記2ケによれば、混合物Aを含むペーストを塗布するカーボンフェルトとして、「SGL社製、GDL10AA」を用いることが記載されており、このカーボンフェルト「GDL10AA」は、SGL社が製作したGDL10シリーズのパンフレットである、甲第3号証の上記3ア?3ウの記載を参照すれば、ガス拡散層として使用されるGDL10シリーズの製品群のうち、“AA”の記号が付されたものは、「付加的な効果をもたらす後処理がなされていないプレーン基材」すなわち、PTFEによる撥水処理がなされていない基材であることを意味すると解される。
以上の検討から、甲2方法発明において、「導電性多孔質体としてのカーボンフェルト」として、従来の導電性多孔質体が撥水処理されていたことにより燃料電池の出力低下を来すことを防止するために、撥水処理を施していないSGL社の「GDL10AA」が採用されているものといえる。
したがって、甲2方法発明の「導電性多孔質体としてのカーボンフェルト」は、本件発明4の「撥水処理を施していない多孔質炭素電極基材」に相当する。

ウ 本願明細書の段落【0078】には「撥水剤としてはフッ素樹脂やシリコン樹脂などが挙げられ、これらを水などの溶媒に分散させて用いることが出来る。撥水性の高さから特に好ましくはフッ素樹脂である。フッ素樹脂としては例えばテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体などがあげられ、特にPTFEが好ましい。」と記載されている。
したがって、甲2方法発明の「撥水性樹脂としてのポリテトラフルオロエチレン」は、本願発明1の「撥水剤」に相当する。

エ 甲第2号証の上記2キには、混合物Aに含まれるカーボンが、具体的にはカーボンブラックであることが示されているので、甲2方法発明の「カーボン」は、本件発明4の「カーボン粉」に相当する。

オ 上記1-1.(1)ウの検討と同様の理由によって、本件発明4の「カーボン粉と撥水剤からなる塗工液」は、カーボン粉と撥水剤以外に、イオン交換水、イソプロピルアルコールを含有することを許容するものであるといえる。
一方、甲第2号証の上記2ケによれば、「混合物Aを含むペースト」を得るために使用する「分散媒」には、脱イオン水が含まれるものである。
したがって、上記ウ、エの検討も踏まえると、甲2方法発明の「分散媒に、カーボンと、撥水性樹脂としてのポリテトラフルオロエチレンを混合した混合物Aを含むペースト」は、本件発明4の「カーボン粉と撥水剤からなる塗工液」に相当する。

カ 甲2方法発明によって製造された甲2発明の「固体高分子形燃料電池用電極」は、上記2サによれば、「適度な撥水性と多孔性および電子伝導性とを備えるカーボンとフッ素樹脂の混合物が導電性多孔質体の空孔および表層に均一に存在している」ものであるから、甲2方法発明において、「導電性多孔質体としてのカーボンフェルトの上に塗布」された、「混合物Aを含むペースト」は、均一な塗布膜であるといえる。
また、甲2方法発明によって製造された甲2発明の「固体高分子形燃料電池用電極」は、「カーボンと撥水性樹脂との混合物が、導電性多孔質体の触媒層側の空孔中に含まれる」ものであるから、甲2方法発明の「混合物Aを含むペーストを、導電性多孔質体としてのカーボンフェルトの上に塗布する工程」において、「カーボンと撥水性樹脂との混合物」は「導電性多孔質体の触媒層側の空孔中」に染み込んでいると推定される。
したがって、甲2方法発明の「混合物Aを含むペーストを、導電性多孔質体としてのカーボンフェルトの上に塗布する工程」は、本件発明4の「塗工液を塗布し、均一な塗工膜を形成させるとともに多孔質炭素電極基材中にカーボン粉と撥水剤を染み込ませる工程」に相当する。

キ 甲2方法発明によって製造される「固体高分子形燃料電池用電極」と、本件発明4によって製造される「多孔質炭素電極」は、いずれも、固体高分子型燃料電池の電極として機能するものであって、ガスや水を透過させる多孔質な炭素物質であるといえるから、甲2方法発明の「固体高分子形燃料電池用電極」は、本件発明4の「多孔質炭素電極」に相当する。

ク 甲2方法発明の「混合物Aを含むペーストを塗布した導電性多孔質体を110℃で乾燥する工程」は、本件発明4の「塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材を50?200℃の環境下において塗工膜を乾燥させる工程」に相当する。

ケ 甲2方法発明の「乾燥後の導電性多孔質体を、窒素雰囲気下、380℃の条件で焼成する工程」は、本件発明4の「乾燥後の塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材を300?400℃の環境下において焼成させる」工程に相当する。

コ 上記ア?ケの検討を踏まえると、甲2方法発明の「分散媒に、カーボンと、撥水性樹脂としてのポリテトラフルオロエチレンを混合した混合物Aを含むペーストを得る工程」の後に「混合物Aを含むペーストを、導電性多孔質体としてのカーボンフェルトの上に塗布する工程」を行うことは、本件発明4の「工程[1]:撥水処理を施していない多孔質炭素電極基材上にカーボン粉と撥水剤からなる塗工液を塗布し、均一な塗工膜を形成させるとともに多孔質炭素電極基材中にカーボン粉と撥水剤を染み込ませる工程」に相当する。
そして、甲2方法発明は、上記「ペーストを得る工程」及び「塗布する工程」の前に「界面活性剤溶液を含浸させる工程」を有するものではないが、本件発明4は、上記「工程[1]」の前に「工程[1’]:多孔質炭素電極基材に界面活性剤溶液を含浸させる工程」を行うものである。

サ したがって、本件発明4と甲2方法発明は次の点で相違し、その余の点で一致する。
相違点2:本件発明4は、「工程[1]」の前に「工程[1’]:多孔質炭素電極基材に界面活性剤溶液を含浸させる工程」を行うものであるのに対して、甲2方法発明はそのような工程を行うものではない点。

(2) 相違点2についての判断
甲第2号証には、「ペーストを得る工程」及び「塗布する工程」より前に、「界面活性剤溶液を含浸」する工程については、記載も示唆もされていないし、そのような工程を採用し得ることは、甲第2?6号証のいずれにも記載されておらず、当業者にとって周知の技術であるともいえない。
したがって、本件発明4と甲2方法発明は、相違点2で相違しており、また、甲2方法発明において、相違点2に係る本件発明4の構成を採用することが、当業者にとって容易になし得ることであるともいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明ではないし、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

1-3.甲第1号証に基づく本件発明1、2、3に対する取消理由2、3について
(1) 本件発明1と甲1発明との対比
ア 上記1-1.(1)で検討したことを参照すれば、甲1発明の「厚さ270μmのカーボンペーパー」、「カーボンブラック」、「ポリテトラフルオロエチレン」、「ガス拡散電極」はそれぞれ、本件発明1の「多孔質炭素電極基材」、「カーボン粉」、「撥水剤」、「多孔質炭素電極」に相当し、したがって、甲1発明の「厚さ270μmのカーボンペーパー上に、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンを含む塗料1によって形成された、厚さ20μmで、均一な表面平滑性を有するカーボン層」は本願発明1の「多孔質炭素電極基材の一方の面上」に「形成された」「カーボン粉と撥水剤からなるコーティング層」に相当する。

イ 甲1発明において、「カーボンペーパー」上に塗布される「塗料1」には、「カーボンブラック」のみでなく「ポリテトラフルオロエチレン」が含まれており、「塗料1」を塗布する際に、「カーボンブラック」のみでなく「ポリテトラフルオロエチレン」も「カーボンペーパー」に浸入しているといえるから、甲1発明において、「上記カーボンペーパーの表面から15μmの深さまでカーボンブラックが浸入」していることは、本件発明1において、「多孔質炭素電極基材内にカーボン粉と撥水剤が存在」することに相当する。

ウ したがって、本件発明1と甲1発明は次の点で相違し、その余の点で一致する。
相違点3:「多孔質炭素電極」について、本件発明1では、「嵩密度が0.30?0.65g/cm^(3)、面直方向の透気度が50?300ml/hr・cm^(2)・mmAq、かつ、面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗が0.45?0.60Ω・cmである」のに対して、甲1発明では、「嵩密度」、「面直方向の透気度」、「面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗」がどのような値であるか不明である点。

(2) 相違点3についての判断
ア 甲第1号証には、甲1発明の「ガス拡散電極」について、その「嵩密度」、「面直方向の透気度」、「面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗」(以下、「三つのパラメータ」という。)をどのような値に設定すべきかについて、何ら記載も示唆もされていない。
そして、甲1発明では、「ガス拡散電極」は、「カーボンペーパー上に、イソプロピルアルコールとイオン交換水からなる分散媒にカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンのディスパージョンを順次添加して得られた塗料1を、スプレー噴霧により塗布」し「乾燥」し「オーブン」で処理することにより製造されるものであるところ、上記三つのパラメータは、例えば、カーボンペーパーがどのような嵩密度であり、どのような太さのカーボン繊維によってどのような空隙が形成されているかによって、また、カーボンブラックの含有量や、カーボンペーパー上のカーボン層の厚さや、カーボンペーパー内に浸入するカーボン層の深さや、カーボン層自体の空隙の大きさなど、様々な要因によって、様々な値を取り得るものであると考えられるので、上記三つのパラメータの値がどのようなものであるか、甲第1号証の記載に基づいて、具体的に特定することはできない。

イ また、甲第1号証では、実施例1において、「カーボンペーパー」として、東レ社製の「TGP-H-090」を採用しているのに対して(段落【0029】参照。)、本件特許明細書では、実施例1において、「多孔質炭素電極基材」として、炭素短繊維(A)、炭素繊維前駆体短繊維(b)、フィブリル状繊維(b´)から製造した抄紙体に対して、結着用のフェノール樹脂ディスパージョンを含浸させ、加圧加熱成形し、炭素化処理したものを使用しているため(段落【0099】?【0106】参照。)、甲第1号証と本件特許明細書では、多孔質炭素電極の製造方法が、「多孔質炭素電極基材」を準備する工程においてそもそも全く異なっているので、甲第1号証で実施例として製造された「ガス拡散電極」が、上記三つのパラメータとして、本件特許1において特定された値のものとなっているということもできない。

ウ さらに、解決しようとする課題について、本件特許明細書の段落【0007】には、「簡便な製造方法でありながらも、面直方向における電気抵抗が低く、排水性の良い固体高分子型燃料電池用の多孔質炭素電極を提供することを目的とする」と記載されているのに対して、甲第1号証の上記1ウ、1オには、「長期使用においても水による閉塞現象が発生し難く、ガスを安定して供給できる固体高分子型燃料電池用のガス拡散電極」を提供し、また、「均一でムラのないカーボン中間層を配することができる固体高分子型燃料電池用のガス拡散電極の作製方法」提供することで「触媒の部分的な劣化が極めて少ない安定した発電性能を有する固体高分子型燃料電池を作製」しようとするものであると記載されている。
したがって、本件発明1と、甲1発明は、「排水性の良い」もしくは「水による閉塞現象が発生し難い」電極とする点では課題が一部共通するものの、本件発明1は、面直方向における電気抵抗が低い電極を提供することを別の課題としているのに対し、甲1発明は、均一でムラのないカーボン中間層とすることにより、触媒の部分的な劣化が極めて少ない安定した発電性能を有する電極を提供することを別の課題としており、解決しようとする課題が異なるので、当該課題を解決するために設定される、上記三つのパラメータの値が同様の値になるといえる蓋然性がなく、同様の値にすべきであるといえる根拠もない。

エ なお、相違点3に関して、特許異議申立人は、特許異議申立書の第25頁17?19行において、「甲1発明は、構成要件1C?1Eを具備している蓋然性が極めて高く、甲1発明は、構成要件1C?1Eを具備しているに等しいか、当業者であれば、容易に具備し得るといえる。」と主張しているが、甲第1号証の「ガス拡散電極」において、上記三つのパラメータが、いずれも、本件請求項1で特定された範囲に入っているといえる、もしくは、範囲内のものとすることが容易であるといえる、具体的で客観的な根拠は、何ら示されていないので、上記主張は採用できない。

オ したがって、本件発明1は甲1発明と、相違点3で相違しており、また、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易であるともいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)本件発明2、3について
本件発明2、3は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、甲1発明と少なくとも上記相違点3の点で相違しており、上記(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、3は、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(甲第2号証に基づく本件発明1、2、3に対する申立理由4、5)について
(1) 本件発明1と甲2発明との対比
ア 上記1-2.(1)で検討したことを参照すれば、甲2発明の「導電性多孔質体」、「カーボン」、「撥水性樹脂」、「固体高分子形燃料電池用電極」はそれぞれ、本件発明1の「多孔質炭素電極基材」、「カーボン粉」、「撥水剤」、「多孔質炭素電極」に相当し、したがって、甲2発明の「導電性多孔質体の触媒層側の表層に備えられている」「カーボンと撥水性樹脂との混合物」は本願発明1の「多孔質炭素電極基材の一方の面上」に「形成された」「カーボン粉と撥水剤からなるコーティング層」に相当する。

イ 甲2発明において、「カーボンと撥水性樹脂との混合物が、導電性多孔質体の触媒層側の空孔中に含まれる」ことは、本件発明1において、「多孔質炭素電極基材内にカーボン粉と撥水剤が存在」することに相当する。

ウ したがって、本件発明1と甲2発明は次の点で相違し、その余の点で一致する。
相違点4:「多孔質炭素電極」について、本件発明1では、「嵩密度が0.30?0.65g/cm^(3)、面直方向の透気度が50?300ml/hr・cm^(2)・mmAq、かつ、面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗が0.45?0.60Ω・cmである」のに対して、甲2発明では、「嵩密度」、「面直方向の透気度」、「面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗」がどのような値であるか不明である点。

(2) 相違点4についての判断
ア 甲第2号証には、甲2発明の「固体高分子形燃料電池用電極」について、その「嵩密度」、「面直方向の透気度」、「面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗」(以下、「三つのパラメータ」という。)をどのような値に設定すべきかについて、何ら記載も示唆もされていない。
そして、甲2発明では、「固体高分子形燃料電池用電極」は、「分散媒に、カーボンと、撥水性樹脂としてのポリテトラフルオロエチレンを混合した混合物Aを含むペーストを得」て、「混合物Aを含むペーストを、導電性多孔質体としてのカーボンフェルトの上に塗布」し「乾燥」し「焼成」で処理する、第1の工程に加えて、その多孔質体に陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物Bの層を形成する第2の工程と、その陽イオン交換樹脂の対イオンと触媒金属の陽イオンとのイオン交換反応によりその陽イオンをプロトン伝導経路に吸着させる第3の工程と、その陽イオンを化学的に還元する第4の工程とを経て製作されるものである(上記第6 2.2-2.ウを参照。)。
つまり、甲2発明の「固体高分子形燃料電池用電極」は、「導電性多孔質体」に「カーボンと撥水性樹脂との混合物」が形成されているのみでなく、さらに、その上に、陽イオン交換樹脂に触媒金属の陽イオンを吸着させ還元させた「触媒層」が形成されているものである。

イ すると、甲2発明の「固体高分子形燃料電池用電極」は、本件発明1の「多孔質炭素電極」に相当する構造に加えて、さらに、「触媒層」を備えているものであって、両者はそもそも構造が異なり、異なる機能を有するものであるから、甲2発明が、本件発明1と同様に、「嵩密度が0.30?0.65g/cm^(3)、面直方向の透気度が50?300ml/hr・cm^(2)・mmAq、かつ、面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗が0.45?0.60Ω・cm」なる特徴を備えたものであるとはいえないし、そのような特徴を備えたものにすることが容易といえる根拠もない。

ウ ここで、予備的に、本件特許明細書の段落【0095】にも記載されているように、固体高分子形燃料電池の分野の技術常識によれば、甲2発明の「触媒層」は電極側ではなく、固体高分子電解質膜側に形成することも可能であるから、仮に、甲2発明において、第2の工程?第4の工程を施すことなく、第1の工程のみによって形成された、「導電性多孔質体」に「カーボンと撥水性樹脂との混合物」が形成されているが「触媒層」が形成されていない固体高分子形燃料電池用電極(以下、「仮想甲2発明」という。)を想定して、上記三つのパラメータが本件発明1で特定される値であるかについて、以下検討する。

エ 上記アでも述べたように、甲第2号証には、仮想甲2発明の「固体高分子形燃料電池用電極」について、上記三つのパラメータをどのような値に設定すべきかについて、何ら記載も示唆もされていない。
そして、仮想甲2発明の「固体高分子形燃料電池用電極」は、「分散媒に、カーボンと、撥水性樹脂としてのポリテトラフルオロエチレンを混合した混合物Aを含むペーストを得」て、「混合物Aを含むペーストを、導電性多孔質体としてのカーボンフェルトの上に塗布」し「乾燥」し「焼成」することにより製造されるものであるところ、上記三つのパラメータは、例えば、「カーボンフェルト」がどのような嵩密度であり、どのような太さのカーボン繊維によってどのような空隙が形成されているかによって、また、「カーボン」の含有量や、「カーボンフェルト」上の「カーボンと撥水性樹脂との混合物」の厚さや、「カーボンフェルト」の「空孔」内に浸入する「カーボンと撥水性樹脂との混合物」の深さや、「カーボンと撥水性樹脂との混合物」自体の空隙の大きさなど、様々な要因によって、様々な値を取り得るものであると考えられるので、上記三つのパラメータの値がどのようなものであるか、甲第2号証の記載に基づいて、具体的に特定することはできない。

オ また、甲第2号証では、工程の一例において、「導電性多孔質体」である」「カーボンフェルト」として、SGL社製の「GDL10AA」を採用しているのに対して(段落【0068】参照。)、本件特許明細書では、実施例1において、「多孔質炭素電極基材」として、炭素短繊維(A)、炭素繊維前駆体短繊維(b)、フィブリル状繊維(b´)から製造した抄紙体に対して、結着用のフェノール樹脂ディスパージョンを含浸させ、加圧加熱成形し、炭素化処理したものを使用しているため(段落【0099】?【0106】参照。)、甲第2号証と本件特許明細書では、多孔質炭素電極の製造方法が、「多孔質炭素電極基材」を準備する工程においてそもそも全く異なっているので、上記工程の一例に従って形成された、仮想甲2発明の「固体高分子形燃料電池用電極」が、上記三つのパラメータとして、本件特許1において特定された値のものとなっているということもできない。

カ さらに、解決しようとする課題について、本件特許明細書の段落【0007】には、「簡便な製造方法でありながらも、面直方向における電気抵抗が低く、排水性の良い固体高分子型燃料電池用の多孔質炭素電極を提供することを目的とする」と記載されているのに対して、甲第2号証の上記2ウには、「導電性多孔質体中の水の滞留を防止することによって触媒層の反応界面への反応ガスの供給を均一にすることと、導電性多孔質体と触媒層表面との間の接触点を増大させることによって電流分布を均一にすることを両立した燃料電池用電極を提供することとを目的とする」ものであると記載されている。
したがって、本件発明1と、仮想甲2発明は、「排水性の良い」もしくは「水の滞留を防止する」電極とする点では課題が一部共通するものの、本件発明1は、面直方向における電気抵抗が低い電極を提供することを別の課題としているのに対し、仮想甲2発明は、導電性多孔質体と触媒層表面との間の接触点を増大させることによって電流分布を均一にすることを別の課題としており、解決しようとする課題が異なるので、当該課題を解決するために設定される、上記三つのパラメータの値が同様の値になるといえる蓋然性がなく、同様の値にすべきであるといえる根拠もない。

キ なお、相違点4に関して、特許異議申立人は、特許異議申立書の第27頁下から3?1行において、「甲2発明は、構成要件1C?1Eを具備している蓋然性が極めて高く、甲2発明は、構成要件1C?1Eを具備しているに等しいか、当業者であれば、容易に具備し得るといえる。」と主張しているが、甲2発明の「固体高分子形燃料電池用電極」において、上記三つのパラメータが、いずれも、本件請求項1で特定された範囲に入っているといえる、もしくは、範囲内のものとすることが容易であるといえる、具体的で客観的な根拠は、何ら示されていないので、上記主張は採用できない。

ク したがって、本件発明1は甲2発明と、相違点4で相違しており、また、甲2発明において、相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易であるともいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではないし、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)本件発明2、3について
本件発明2、3は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、甲2発明と少なくとも上記相違点4の点で相違しており、上記(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、3は、甲第2号証に記載された発明ではないし、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

第8 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素電極基材の一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなるコーティング層が形成された多孔質炭素電極であって、多孔質炭素電極基材内にカーボン粉と撥水剤が存在し、嵩密度が0.30?0.65g/cm^(3)、面直方向の透気度が50?300ml/hr・cm^(2)・mmAq、かつ、面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗が0.45?0.60Ω・cmである多孔質炭素電極。
【請求項2】
多孔質炭素電極の多孔質炭素電極基材において、コーティング層を有する面からもう一方のコーティング層を有さない面に向かって、カーボン粉と撥水剤の付着率が低くなっている請求項1に記載の多孔質炭素電極。
【請求項3】
多孔質炭素電極基材の表面が粗い側にカーボン粉と撥水剤からなるコーティング層が形成された請求項1または2に記載の多孔質炭素電極。
【請求項4】
以下の工程[1’]?[3]を有する多孔質炭素電極の製造方法。
工程[1’]:多孔質炭素電極基材に界面活性剤溶液を含浸させる工程。
工程[1]:撥水処理を施していない多孔質炭素電極基材上にカーボン粉と撥水剤からなる塗工液を塗布し、均一な塗工膜を形成させるとともに多孔質炭素電極基材中にカーボン粉と撥水剤を染み込ませる工程。
工程[2]:塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材を50?200℃の環境下において塗工膜を乾燥させる工程。
工程[3]:乾燥後の塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材を300?400℃の環境下において焼成させることで多孔質炭素電極を製造する工程。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
工程[1’]と工程[1]の間に、界面活性剤溶液を含浸させた多孔質炭素電極基材を50?200℃で乾燥させる工程[1”]を有する請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
工程[1’]で用いる界面活性剤がポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルであって、濃度が、0.1?5wt%以下である請求項4または6に記載の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-21 
出願番号 特願2013-177134(P2013-177134)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (H01M)
P 1 652・ 113- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 池渕 立
結城 佐織
登録日 2017-08-04 
登録番号 特許第6183065号(P6183065)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 多孔質炭素電極とその製造方法  
代理人 寺本 光生  
代理人 寺本 光生  
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